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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】木質構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240604BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20240604BHJP
   E04B 2/56 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
E04H9/02 321F
F16F15/04 A
E04H9/02 351
E04B2/56 643A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023011169
(22)【出願日】2023-01-27
(62)【分割の表示】P 2019053166の分割
【原出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2023052702
(43)【公開日】2023-04-11
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 昌之
(72)【発明者】
【氏名】榎本 浩之
(72)【発明者】
【氏名】野口 悌子
(72)【発明者】
【氏名】木村 直弘
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第98/030771(WO,A1)
【文献】特開2007-255128(JP,A)
【文献】特開2015-090182(JP,A)
【文献】特開2009-293658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/04
E04B 2/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する一対の木質横材と、互いに対向する一対の木質縦材とを有する木質架構と、
前記一対の木質横材と前記一対の木質縦材とによって囲まれた構面内に設けられた面材と、
前記一対の木質横材の少なくとも一方と前記面材との間に設けられた制振部材であって、所定値未満の荷重に対しては一次剛性を有し、前記所定値以上の荷重に対しては前記一次剛性よりも低い二次剛性を有する制振部材と、
を備え、
水平外力によって前記一対の木質横材が相対変位する際に前記一対の木質縦材が各々前記面材と接触しないように、前記一対の木質縦材と前記面材との間にそれぞれ隙間が設けられており、
前記面材は、フロート板ガラスである、
ことを特徴とする木質構造。
【請求項2】
請求項1に記載の木質構造であって、
前記制振部材は、
せん断歪γが0.50≦γ≦3.0の領域において、等価粘性減衰定数heqがheq≧0.20であり、
測定振動数0.1Hzにおいて、前記せん断歪γがγ≦3.0であり、かつ、等価せん断弾性係数GepがGep≧ 0.2(N/mm2)である、
ことを特徴とする木質構造。
【請求項3】
請求項2に記載の木質構造であって、
前記制振部材は、
前記測定振動数0.1Hzにおいて、前記せん断歪γが0.50≦γ≦3.0の領域において、切片荷重時平均せん断応力度CdがCd≧0.1(N/mm2)である、
ことを特徴とする木質構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の木質構造であって、
前記一対の木質横材の間隔をLとし、前記隙間をδとしたとき、
L/δ≦30
であることを特徴とする木質構造。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の木質構造であって、
前記面材は、前記一対の木質横材の一方に固定されており、
前記制振部材は、前記一対の木質横材の他方と前記面材との間に設けられている、
ことを特徴とする木質構造。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の木質構造であって、
前記制振部材は、前記面材に対して固定された第1板状部材と、前記木質横材に対して固定された第2板状部材と、前記第1板状部材と前記第2板状部材の間に設けられたゴム部材と、を有し、
前記ゴム部材の厚さをdとし、前記ゴム部材の水平方向への変形量をxとしたとき、x≦d×300%である
ことを特徴とする木質構造。
【請求項7】
請求項6に記載の木質構造であって、
前記面材はガラス製であり、
前記ゴム部材及び前記第2板状部材は、前記第1板状部材の両側にそれぞれ設けられており、
前記第1板状部材の一方の面側には、前記面材の一方の面に接着された板材が固定されており、
前記第1板状部材の他方の面側には、前記面材の他方の面と接触した緩衝材が固定されている、
ことを特徴とする木質構造。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れかに記載の木質構造であって、
前記一対の木質横材のうちの下側の木質横材と、前記一対の木質縦材とによって開口部が形成されている、
ことを特徴とする木質構造。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れかに記載の木質構造であって、
前記木質縦材は、150mm×150mm~300mm×300mmの角材であり、
前記制振部材は、厚さ15mmの高減衰ゴムを有し、
前記高減衰ゴムの総面積は、150cm2~5000cm2である、
ことを特徴とする木質構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一対の梁と一対の柱で構成される架構の構面内に、粘弾性体を介して板材(面材)を設け、粘弾性体によって振動エネルギーを吸収させるようにした制振構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-309798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
木質の梁と柱で構成される木質構造に上記技術を適用した場合、粘弾性体の初期剛性が低いため、建物としての水平剛性を向上させる効果が低く、荷重が小さいとき(例えば、小地震や中地震時、風荷重時など)に揺れを抑制することが困難である。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、地震時のエネルギー吸収に加えて、小地震時、中地震時及び風荷重時の揺れを効果的に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、本発明の木質構造は、互いに対向する一対の木質横材と、互いに対向する一対の木質縦材とを有する木質架構と、前記一対の木質横材と前記一対の木質縦材とによって囲まれた構面内に設けられた面材と、前記一対の木質横材の少なくとも一方と前記面材との間に設けられた制振部材であって、所定値未満の荷重に対しては一次剛性を有し、前記所定値以上の荷重に対しては前記一次剛性よりも低い二次剛性を有する制振部材と、を備え、水平外力によって前記一対の木質横材が相対変位する際に前記一対の木質縦材が各々前記面材と接触しないように、前記一対の木質縦材と前記面材との間にそれぞれ隙間が設けられており、前記面材は、フロート板ガラスである、ことを特徴とする。
このような木質構造によれば、水平外力による荷重が小さいとき(例えば、小地震や中地震時、風荷重時など)には、制振部材の剛性が高いので揺れを抑えることができる(耐力壁としての効果が期待できる)。また、水平外力による荷重が大きいとき(例えば大地震時)には制振部材の剛性が低いので振動エネルギー吸収効果が得られる。また、一対の木質縦材と面材との間にそれぞれ隙間が設けられているので、一対の木質縦材が各々前記面材と接触しない。よって、地震時のエネルギー吸収に加えて、小地震時、中地震時及び風荷重時の揺れを効果的に抑制することができる。
【0007】
かかる木質構造であって、前記制振部材は、せん断歪γが0.50≦γ≦3.0の領域において、等価粘性減衰定数heqがheq≧0.20であり、測定振動数0.1Hzにおいて、前記せん断歪γがγ≦3.0であり、かつ、等価せん断弾性係数GepがGep≧ 0.2(N/mm2)であることが望ましい。
このような木質構造によれば、荷重が大きいときのエネルギー吸収に大きな効果を発揮することができる。
【0008】
かかる木質構造であって、前記制振部材は、前記測定振動数0.1Hzにおいて、前記せん断歪γが0.50≦γ≦3.0の領域において、切片荷重時平均せん断応力度CdがCd≧0.1(N/mm2)であることが望ましい。
このような木質構造によれば、荷重が小さいときの揺れをより抑制することができ耐力壁を実現できる。
【0009】
かかる木質構造であって、前記一対の木質横材の間隔をLとし、前記隙間をδとしたとき、L/δ≦30であることが望ましい。
このような木質構造によれば、木質構造の倒壊を抑制することができる。
【0010】
かかる木質構造であって、前記面材は、前記一対の木質横材の一方に固定されており、前記制振部材は、前記一対の木質横材の他方と前記面材との間に設けられていることが望ましい。
このような木質構造によれば、変形を集中させることができ、効率化を図ることができる。
【0011】
かかる木質構造であって、前記制振部材は、前記面材に対して固定された第1板状部材と、前記木質横材に対して固定された第2板状部材と、前記第1板状部材と前記第2板状部材の間に設けられたゴム部材と、を有し、前記ゴム部材の厚さをdとし、前記ゴム部材の水平方向への変形量をxとしたとき、x≦d×300%であることが望ましい。
このような木質構造によれば、ゴム部材の性能を担保できる。
【0012】
かかる木質構造であって、前記面材はガラス製であり、前記ゴム部材及び前記第2板状部材は、前記第1板状部材の両側にそれぞれ設けられており、前記第1板状部材の一方の面側には、前記面材の一方の面に接着された板材が固定されており、前記第1板状部材の他方の面側には、前記面材の他方の面と接触した緩衝材が固定されていることが望ましい。
このような木質構造によれば、面材と板材との接着部分が剥離しても面材が倒れないようにすることができる。
【0013】
かかる木質構造であって、前記一対の木質横材のうちの下側の木質横材と、前記一対の木質縦材とによって開口部が形成されていてもよい。
このような木質構造によれば、制振部材が設けられていない耐力壁と比較して、下側の木質横材と一対の木質縦材との交点部分が破損することを抑制でき、エネルギー吸収もより効果的である。
【0014】
かかる木質構造であって、前記木質縦材は、150mm×150mm~300mm×300mmの角材であり、前記制振部材は、厚さ15mmの高減衰ゴムを有し、前記高減衰ゴムの総面積は、150cm2~5000cm2であることが望ましい。
【0015】
このような木質構造によれば、伝統木造建築物の倒壊を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、地震時のエネルギー吸収に加えて、小地震時、中地震時及び風荷重時の揺れを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1Aは、本実施形態の木質構造1の正面図である。図1Bは、図1AのA-A矢視図である。
図2図1Bの一対の木質梁14の間の拡大図である。
図3図3Aは高減衰ゴムダンパー30の正面図であり、図3Bは、図3Aの高減衰ゴムダンパー30をAから見た側面図であり、図3Cは、図3Aの高減衰ゴムダンパー30をBから見た側面図である。
図4】内部ゴム32a(高減衰ゴム)の履歴特性を示す図である。
図5】ゴム部材32の許容変形についての説明図である。
図6】本実施形態の木質構造1に水平方向の外力Pが加えられた場合の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
===実施形態===
<<木質構造の構成について>>
図1Aは、本実施形態の木質構造1の正面図である。また、図1Bは、図1AのA-A矢視図である。また、図2は、図1Bの一対の木質梁14の間の拡大図である。
【0019】
本実施形態の木質構造1は、木質架構10と、板ガラス20と、高減衰ゴムダンパー30と、上側固定部40と、下側固定部50とを備えている。
【0020】
木質架構10は、一対の木質柱12と一対の木質梁14を有している。
【0021】
木質柱12(木質縦材に相当)は、木質梁14や床(不図示)などの鉛直荷重を支える木質の構造部材であり、上下方向(鉛直方向)に沿って立設されている。一対の木質柱12は、互いに対向するように水平方向に間隔を空けて設けられている。
【0022】
木質梁14(木質横材に相当)は、木質柱12同士を水平方向につなぐ木質の構造部材である。一対の木質梁14は、互いに対向するように、上下方向に間隔を空けて設けられている。また、木質架構10には、一対の木質柱12と一対の木質梁14によって囲まれた構面が形成されている。なお、下側の木質梁14は、上下方向において、一対の木質柱12のほぼ中央に設けられている。このため、下側の木質梁14より下側には、当該木質梁14と一対の木質柱12とによって開口部100が形成されている。
【0023】
板ガラス20(面材に相当)は、ガラス製の板状部材であり、木質架構10の構面内(より詳しくは、木質架構10の奥行寸法内)に設けられている。板状の板ガラス20の面のうち一方の面を表面20aとし、他方の面を裏面20bとする。なお、本実施形態では、板ガラス20として、フロート板ガラスが用いられている。板ガラス20は、地震等による木質架構10の変形を許容すべく、構面の面積よりも小さく形成されており、一対の木質柱12と板ガラス20との間には隙間が設けられている。また、板ガラス20は、一対の木質梁14の一方(ここでは上側の木質梁14)に固定されるとともに、一対の木質梁14の他方(ここでは下側の木質梁14)には高減衰ゴムダンパー30を介して接続されている。
【0024】
高減衰ゴムダンパー30(制振部材に相当)は、外力(ここでは水平外力)を受けた場合に変形することにより振動エネルギーを吸収する部材である。高減衰ゴムダンパー30は、板ガラス20と下側の木質梁14との間に2つ(2箇所)設けられている。
【0025】
仮に、高減衰ゴムダンパー30を設けずに板ガラス20を一対の木質梁14にそれぞれ完全に固定すると、大きい水平外力を受けた場合(大地震時など)に、例えば、板ガラス20が破損したり、下側の木質梁14と一対の木質柱12との接続部分などが破損したりするおそれがある。また、仮に板ガラス20と木質梁14との間に通常の粘弾性体を設けると、粘弾性体の初期剛性が低いため、建物としての水平剛性を向上させる効果が低く、例えば、小地震や中地震などの地震時や風荷重時の揺れに対して揺れを抑制することが困難である。
【0026】
これに対し本実施形態では、板ガラス20と木質梁14との間に高減衰ゴムダンパー30を設けている。高減衰ゴムダンパー30は、加えられた荷重が大きいときには剛性が低い(後述する二次剛性)。これにより、振動エネルギーを吸収でき破損を防止できる。また、加えられた荷重が小さい時には剛性が高い(後述する一次剛性)。これにより、振動を抑制できる。なお、高減衰ゴムダンパー30の詳細については後述する。
【0027】
上側固定部40は、上側の木質梁14と板ガラス20を固定するための部位であり、L型アングル41とL型アングル42と、緩衝材43とを有している。
【0028】
L型アングル41は、断面がL字状の金属(例えばステンレス鋼)製の部材であり、板ガラス20の表面20a側に設けられている。L型アングル41は、図2に示すように、木質梁14の下面にビス(不図示)などで固定されるとともに、板ガラス20の表面20aに接着剤で接着されている。
【0029】
L型アングル42は、L型アングル41よりも小さい金属製の部材であり、板ガラス20の裏面20b側に設けられている。L型アングル41は、図2に示すように、木質梁14の下面にビス(不図示)などで固定されている。
【0030】
緩衝材43は、L型アングル42と板ガラス20の裏面20bとの間に設けられている。緩衝材43は、高硬度のゴム部材(例えばネオプレンゴム)である。緩衝材43は、L型アングル42に接着されているが、板ガラス20の裏面20bとは接着されていない。すなわち、L型アングル42は、緩衝材43を板ガラス20の裏面20bに接触した状態で保持している。
【0031】
このように、L型アングル42及び緩衝材43を設けていることにより、万が一、板ガラス20の表面20a側の接着部分(L型アングル41と板ガラス20との接着部分)が剥離した場合に、板ガラス20が倒れることを抑制できる。
【0032】
下側固定部50は、下側の木質梁14と高減衰ゴムダンパー30の側板33(後述)を固定する第1固定部50Aと、高減衰ゴムダンパー30の中板31(後述)と板ガラス20とを固定する第2固定部50Bとを有している。
【0033】
第1固定部50Aは、固定部材51と、ボルト52と、ナット53とを有している。
【0034】
固定部材51は、断面矩形の金属製の部材であり、ビス(不図示)などにより下側の木質梁14の上面に固定されている。また、固定部材51には、ボルト52を通すためのボルト穴(不図示)が水平方向に間隔を空けて複数(本実施形態では3つ)設けられている。図2に示すように、固定部材51の両面には、高減衰ゴムダンパー30の一対の側板33(後述)がそれぞれ配置されている。
【0035】
ボルト52は、固定部材51のボルト穴(不図示)、及び、一対の側板33のボルト穴33aに挿通されている。これにより、ボルト52は、固定部材51及び一対の側板33を貫通している。
【0036】
ナット53は、ボルト52に螺合する部材である。このボルト52とナット53との螺合によって、高減衰ゴムダンパー30の一対の側板33が、それぞれ、固定部材51に固定されている。換言すると、高減衰ゴムダンパー30の一対の側板33は、固定部材51を介して、下側の木質梁14に固定されている。
【0037】
第2固定部50Bは、固定板54と、固定板55と、緩衝材56と、ボルト57と、ナット58とを有している。
【0038】
固定板54(板材に相当)及び固定板55は、金属製の板状部材(例えば、ステンレス鋼)である。固定板54は、板ガラス20の表面20a側に配置されており、板ガラス20(表面20a)と接着剤で接着されている。固定板55は、板ガラス20の裏面20b側に配置されている。なお、固定板54及び固定板55には、ボルト穴(不図示)が水平方向に間隔を空けて複数(本実施形態では3つ)設けられている。
【0039】
緩衝材56は、固定板55と板ガラス20の裏面20bとの間に設けられている。緩衝材56は、緩衝材43と同様の高硬度のゴム部材(例えばネオプレンゴム)である。緩衝材56は、固定板55に接着されているが、板ガラス20の裏面20bとは接着されていない。すなわち、固定板55は、緩衝材46を板ガラス20の裏面20bに接触した状態で保持している。このように、固定板55と緩衝材56を設けていることにより、万が一、板ガラス20の表面20a側の接着部分(固定板54と板ガラス20との接着部分)が剥離した場合に、板ガラス20が倒れることを抑制できる。
【0040】
ボルト57は、固定板54と固定板55のボルト穴(不図示)及び高減衰ゴムダンパー30の中板31のボルト穴31a(後述)に挿通されている。これにより、ボルト57は、固定板54と中板31と固定板55を貫通している。
【0041】
ナット58は、ボルト57に螺合する部材である。ボルト57とナット58との螺合によって、固定板54及び固定板55が、高減衰ゴムダンパー30の中板31に固定されている。換言すると、高減衰ゴムダンパー30の中板31は、固定板54及び固定板55(及び緩衝材56)を介して、板ガラス20に固定されている。
【0042】
<<高減衰ゴムダンパーについて>>
図3Aは高減衰ゴムダンパー30の正面図であり、図3Bは、図3Aの高減衰ゴムダンパー30をAから見た側面図であり、図3Cは、図3Aの高減衰ゴムダンパー30をBから見た側面図である。
【0043】
高減衰ゴムダンパー30は、中板31と、ゴム部材32と、一対の側板33とを備えている。
【0044】
中板31(第1板状部材に相当)は、高減衰ゴムダンパー30の厚さ方向の中央部に設けられた金属製の板状部材(鋼板)である。中板31は、ゴム部材32よりも上側に突出しており、その部分にボルト穴31aが複数(ここでは3つ)設けられている。ボルト穴31aには、第2固定部50Bのボルト57が挿通される。
【0045】
側板33(第2板状部材に相当)は、高減衰ゴムダンパー30の厚さ方向の両端部に設けられた金属製の板状部材(鋼板)である。側板33は、ゴム部材32よりも下側に突出しており、その部分にボルト穴33aが複数(ここでは3つ)設けられている。ボルト穴33aには、第1固定部50Aのボルト52が挿通される。
【0046】
ゴム部材32は、中板31と一対の側板33の間にそれぞれ設けられており、内部ゴム32aと外被ゴム32bを有している。
【0047】
内部ゴム32aは、粘弾性体の天然ゴム系(例えば、イソプレンゴム系)の高減衰ゴムであり、中板31及び側板33にそれぞれ加硫接着されている。
【0048】
外被ゴム32bは、内部ゴム32aを保護するゴムであり、内部ゴム32aの外側に設けられている。また、外被ゴム32bは難燃性を有している。
【0049】
本実施形態の高減衰ゴムダンパー30の各部位の材質を表1に示す。また、ゴム材料の物性規格を表2に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
<<板ガラス20と木質柱12との隙間について>>
本実施形態の木質構造1は、伝統木造建築物を対象としており、特に伝統木造建築物の改修を対象としている。伝統木造建築物を対象とする場合、木質柱12(木質縦材)として150mm×150mm~300mm×300mmの角材が用いられる。本実施形態では、一対の木質柱12に150mm×150mmの角材を用いている。また、上側の木質梁14には180mm×180mmの角材、下側の木質梁14には150mm×150mmの角材を用いている。
【0053】
また、図1A中のH1で示す部分の長さ(高さ)は1515mmであり、図1A中のH2で示す部分の長さ(高さ)は1245mmである。つまり、木質架構10の高さは約2760mmである。また、木質架構10のスパン(図1中Sで示す部分の長さ)は1800mmである。
【0054】
また、図1A中のLで示す部分の長さ(一対の木質梁14の間隔)は1080mmであり、板ガラス20のサイズは、1570mm×880mm、厚さ12mmである。つまり、木質柱12と板ガラス20(面材)との隙間δは、
δ=(1800-150-1570)/2=40(mm)
となる。
【0055】
ここで、大地震時に倒壊しない木造建築の目安として、「大地震時の層間変形角1/30以下」が知られている(重要文化財(建造物)耐震基礎診断実施要領のP.5参照)。この目安によれば、以下の式(1)を満たせばよい。
【0056】
L/δ≦30 ・・・・(1)
本実施形態の木質構造1では、前述したように、Lが1080(mm)、δが40(mm)である。この場合L/δ=1080/40=27であり、式(1)を満たしている。これにより、大地震時においても木質構造1の倒壊を抑制することができる。
【0057】
<<ゴム部材32(主に内部ゴム32a)について>>
本実施形態の内部ゴム32aには、所要の性能を有するゴムが用いられる。例えば、制振部材として種々採用されている公知の高減衰ゴムを採用することができる。
【0058】
図4は、内部ゴム32a(高減衰ゴム)の履歴特性の一例を示す図である。図において、横軸は変形量(せん断歪)であり、縦軸は、水平外力の大きさ(せん断応力度)である。
【0059】
本実施形態の内部ゴム32a(高減衰ゴム)に力(水平外力)を加えた時の荷重と変位の関係は、荷重が所定値よりも小さいときはほぼ比例関係にあり、弾性挙動を示す。このときの荷重と変位の関係(傾き)のことを一次剛性(Ku)という。また、荷重が大きくなると比例関係が崩れ(降伏し)、変形の度合いが増す塑性状態になる。このときの荷重と変位の関係(傾き)のことを二次剛性(Kd)という。このように本実施形態の内部ゴム32a(高減衰ゴム)は、一次剛性と二次剛性を有する。なお、図4の履歴特性で囲まれた部分の面積は減衰性能を示しており、この面積が大きいほど減衰性能が大きい。本実施形態の内部ゴム32aは、一次剛性と二次剛性を有しているため、この面積(すなわち減衰性能)が大きくなっている。これにより、内部ゴム32aは、大地震時における大変形に追従可能であり、大きな減衰性能を有するため、振動エネルギーの吸収に大きな効果を発揮する。また、高い剛性(一次剛性)を有しているため、風揺れ等の微小変形において、揺れを抑制する効果を発揮する。
【0060】
また、高減衰ゴムとしては、せん断歪γが0.50≦γ≦3.0の領域において等価粘性減衰定数heqがheq≧0.20であるとよい。また、測定振動数0.1Hzにおいて、上記せん断歪γがγ≦3.0であり、かつ、等価せん断弾性係数GepがGep≧0.2(N/mm2)であるとよい。これにより、荷重が大きい時のエネルギー吸収に大きな効果を発揮することができる。
【0061】
さらに、測定振動数0.1Hzにおいて、せん断歪γが0.50≦γ≦3.0の領域において、切片荷重時平均せん断応力度CdがCd≧0.1(N/mm2)であるとよい。これにより、荷重が小さいときの揺れをより抑制することができ耐力壁を実現できる。
【0062】
以下、これらの各パラメータ(heq、Gep、Cd)について説明する。
【0063】
<等価粘性減衰定数heq>
粘弾性体の非線形復元力特性を、等価な線形の復元力と減衰力に置換えたときの減衰を等価粘性減衰定数heqという。等価粘性減衰定数heqは、以下の式(2)に基づき、吸収エネルギーと歪エネルギーの面積比で表される。
【0064】
heq=(1/4π)×(ΔW/W)・・・・・(2)
ここで、ΔWは吸収エネルギー(N・m)であり、履歴ループの面積である。
【0065】
また、Wは歪エネルギー(N・m)であり、履歴ループの最大変位と最大荷重と等価剛性Keqで囲まれる部分の面積である。なお、等価剛性Keqとは、粘弾性体の非線形復元力特性を、等価な線形の復元力と減衰力に置き換えた時の剛性のことであり、変位最大点における履歴ループの傾きである。
【0066】
<等価せん断弾性係数Gep>
粘弾性体の形状に関わらず、材料の特性を示す係数であり、最大変位と最大荷重より得られる等価剛性(Keq)をS/d(粘弾性体の断面積/粘弾性体の厚さ)で除したもの(換言するとd/Sを乗じたもの)を等価せん断弾性係数Gep(N/mm2)という。すなわち、等価せん断弾性係数Gepは以下の式(4)にて求められる。
【0067】
Gep=Keq×(d/S)・・・・・(4)
ここで、Keq:等価剛性
d:粘弾性体の厚さ(mm)
S:粘弾性体の断面積(mm2)
【0068】
<切片荷重時平均せん断応力度Cd>
粘弾性体の形状に関わらず、材料の特性を示す係数であり、切片荷重を粘弾性体の断面積で除したものを切片荷重時平均せん断応力度Cd(N/mm2)という。すなわち、切片荷重時平均せん断応力度Cdは、以下の式(6)にて求められる。
【0069】
Cd=Qd/S・・・・・(6)
ここで、Qd:切片荷重
S:粘弾性体の断面積(mm2)
なお切片荷重Qdとは、横軸に水平変位、縦軸に水平力をとった履歴曲線から得られる縦軸(y軸)との交点である。例えば、履歴ループの+y切片と-y切片の絶対値の平均で求められる。
【0070】
図5は、ゴム部材32の許容変形についての説明図である。
図5に示すようにゴム部材32の厚さをd(本実施形態では15mm)とし、変形量をxとする。
【0071】
大地震時(層間変形角が1/30のとき)のゴム部材32の変形量x(最大値)は、1080/30=36(mm)となる。
【0072】
本実施形態ではゴム部材32の厚さdが15mmであるので、上記の変形量xの値は、ゴム厚dの240%(=36/15×100)となる。
【0073】
ゴム部材32の特性により、ゴム厚dに対して300%以下(x≦d×300%)まではゴム部材32の性能を担保できる、よって、本実施形態では、ゴム部材32の性能を担保できる領域にある。
【0074】
次に、ゴム部材32に必要な面積(断面積S)の算定方法について説明する。
図6は、本実施形態の木質構造1に水平方向の外力Pが加えられた場合の概略図である。なお、図5に示したように高減衰ゴムダンパー30のゴム部材32(高減衰ゴム)は2枚1組で用いられている。
【0075】
図においてPは外力、CQUは木質柱12の上部にかかるせん断力、CQLは木質柱12の下部にかかるせん断力、Qはゴム部材32にかかるせん断力である。CQU、CQL、Qはそれぞれ以下の式(7)、(8)、(9)で示される。
【0076】
CQU=P/2(本)×1515/1245=0.608P・・・(7)
CQL=P/2(本)=0.5P・・・(8)
Q=(CQU+CQL)/2(枚)=(0.5+0.608)P/2
=0.554P・・・・(9)
また、前述したように、本実施形態では、伝統木造建築物を対象とした場合を想定しており、木質柱12(木質縦材)は150mm×150mm~300mm×300mmの角材である。
【0077】
<木質柱12が300mm×300mmの角材の場合>
木質柱12の曲げ強度40N/mm2を想定し、CQL=(柱の断面係数)×(曲げ強度)/H1より、
CQL=300×3002/6×40(N/mm2)/1515=118.8(kN)
式(8)より、P=CQL×2=237.6(kN)
式(9)より、Q=0.554×P=132(kN)
ゴム部材32の必要面積(断面積S)は、式(4)より、
S=Keq/Gep×d
ここで、等価剛性Keq=Q/xであり、200%変形時(ゴム厚dが15mmを想定)の変形量x=30(mm)である。また、等価せん断弾性係数Gep=0.30(N/mm2)とすると、
S=(Q/x)/Gep×d
=(132×1000/30)/0.30×15
=2.22×105(mm2)≒2200(cm2)
となる。よって、ゴム部材32として、例えば、200mm×1100mm(面積2200cm2)で厚さ15mmのものを用いればよい。なお、適正なゴム部材32(高減衰ゴム)の面積としてはこれよりもやや大きくてもよく、例えば、片側で300mm×830mm=2490cm2程度(合計5000cm2程度)であってもよい。
【0078】
<木質柱12が150mm×150mmの角材の場合>
木質柱12の曲げ強度20N/mm2を想定し、CQL=(柱の断面係数)×(曲げ強度)/H1より、
CQL=150×1502/6×20(N/mm2)/1515=7.5(kN)
式(8)より、P=CQL×2=15(kN)
式(9)より、Q=0.554×P=8.31(kN)
上記と同様に、ゴム部材32の必要面積(断面積S)は、式(4)より、
S=Keq/Gep×d=(Q/x)/Gep×d
=(8.31×1000/30)/0.30×15
=13.85×103(mm2)≒138(cm2)
となる。よって、ゴム材32として、例えば、80mm×180mm(面積144cm2)で厚さ15mmのサイズのものを用いればよい。なお、適正なゴム部材32(高減衰ゴム)の面積としてはこれよりもやや小さくてもよく、例えば、片側で80mm×100mm=80cm2程度(合計150cm2程度)であってもよい。
【0079】
このように、木質柱12(木質縦材)として150mm×150mm~300mm×300mmの角材を用いる場合、ゴム部材32の総面積(合計面積)は150cm2~5000cm2であるとよい。これにより、木質構造1(伝統木造建築物)の倒壊を抑制することができる。
【0080】
以上説明したように、本実施形態の木質構造1は、木質架構10と、板ガラス20と、高減衰ゴムダンパー30とを備えている。木質架構10は、互いに対向する一対の木質梁14と、互いに対向する一対の木質柱12とを有している。板ガラス20は、一対の木質梁14と一対の木質柱12とによって囲まれた構面内に設けられている。高減衰ゴムダンパー30は、下側の木質梁14と板ガラス20との間に設けられており、所定値未満の荷重に対しては一次剛性を有し、所定値以上の荷重に対しては一次剛性よりも低い二次剛性を有している。そして、水平外力によって一対の木質梁14が相対変位する際に一対の木質柱12が各々板ガラス20と接触しないように、一対の木質柱12と板ガラス20との間にそれぞれ隙間δが設けられている。
【0081】
これにより、水平外力を受けることによる荷重が所定値未満のときには、高減衰ゴムダンパー30(内部ゴム32a)が一次剛性である(剛性が高い)ので、揺れを抑えることができ、荷重が所定値以上のときには、高減衰ゴムダンパー30が二次剛性である(剛性が低い)ので、変形して振動エネルギーを吸収できる。また、一対の木質柱12と板ガラス20との間にそれぞれ隙間δが設けられているので、一対の木質柱12が各々板ガラス20と接触しない。よって、地震時のエネルギー吸収に加えて、小地震時、中地震時及び風荷重時の揺れを効果的に抑制することができる。
【0082】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0083】
前述の実施形態では、木質架構10に設けられる板ガラス20(面材)としてフロート板ガラスが用いられていたが、これには限られない。例えば、強化ガラスや防音ガラスなどであってもよい。なお、フロート板ガラスを用いると、コストの低減を図ることができる。また、ガラス製以外の部材(例えば、木質板、鋼板など)であってもよい。この場合、接着剤を用いずに(例えば、ボルトとナット、溶接などにより)、上側固定部40や第2固定部50Bと接合するようにしてもよい。
【0084】
また、前述の実施形態では、板ガラス20の下側のみに高減衰ゴムダンパー30(制振部材)を設けていたが、これには限られない。例えば、板ガラス20を下側の木質梁14に固定して、板ガラス20と上側の木質梁14との間に高減衰ゴムダンパー30を設けてもよい。本実施形態では、木質架構10に開口部100が設けられているので、高減衰ゴムダンパー30を設けることにより、高減衰ゴムダンパー30が設けられていない耐力壁と比較して、下側の木質梁14と一対の木質柱12との交点部分が破損することを抑制でき、エネルギー吸収もより効果的である。
【0085】
また、例えば、下側の木質梁14を木質柱12の下端部に設けた場合(すなわち木質架構10に開口部100を設けない場合)、Lが大きくなるので前述した内部ゴム32a(高減衰ゴム)の許容変形を満たすことが出来なくなるおそれがある。このような場合、板ガラス20の上下両側に高減衰ゴムダンパー30を設けてもよい。なお、高減衰ゴムダンパー30の配置を板ガラス20の上下何れか一方にすると、その部分に変形を集中させることができ、効率化を図ることができる。
【0086】
また、前述の実施形態では、制振部材として内部ゴム32a(高減衰ゴム)を有する高減衰ゴムダンパー30を用いていたが、これには限られず、他の制振部材(但し、一次剛性と二次剛性を有するもの)を用いても良い。
【符号の説明】
【0087】
1 木質構造
10 木質架構
12 木質柱(木質縦材)
14 木質梁(木質横材)
20 板ガラス(面材)
20a 表面
20b 裏面
30 高減衰ゴムダンパー(制振部材)
31 中板(第1板状部材)
32 ゴム部材
32a 内部ゴム
32b 外被ゴム
33 側板(第2板状部材)
40 上側固定部
41 L型アングル
42 L型アングル
43 緩衝材
50 下側固定部
50A 第1固定部
50B 第2固定部
51 固定部材
52 ボルト
53 ナット
54 固定板(板材)
55 固定板
56 緩衝材
57 ボルト
58 ナット
100 開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6