(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ガス分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/22 20060101AFI20240604BHJP
B01D 53/26 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G01N1/22 P
B01D53/26 100
(21)【出願番号】P 2023517049
(86)(22)【出願日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2022003388
(87)【国際公開番号】W WO2022230269
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2021074001
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千田 温子
(72)【発明者】
【氏名】板橋 亨久
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-015028(JP,A)
【文献】特開2007-183137(JP,A)
【文献】実開平02-037350(JP,U)
【文献】特開2014-145625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 - 1/44
B01D 53/26 - 53/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象ガスが流れるガス流路と、該ガス流路に設けられ該分析対象ガスを分析する分析部よりも上流側に配置され、該ガス流路において該分析対象ガスを冷却することにより発生した液体が導入されるドレンポットとを備え、
該ドレンポットが、
前記ガス流路において発生した液体が排出される第1ドレン流路の終端を受け、該第1ドレン流路の終端よりも鉛直方向上方に連通口を有する第1液体容器と、
前記連通口から前記第1液体容器の外方且つ鉛直方向下方に向かうように設けられた第2ドレン流路と、
前記第2ドレン流路の終端を受け、前記第1ドレン流路の終端及び該第2ドレン流路の終端よりも鉛直方向上方であって前記連通口よりも鉛直方向下方に設けられた排出口を有する第2液体容器と
を備えるガス分析装置。
【請求項2】
さらに、
3から3以上の自然数であるNまでのいずれか1つの自然数nを用いて表される(N-2)個の液体容器である、第(n-1)排出口を有する第n液体容器と、
(N-2)個のドレン流路であって、第(n-2)排出口から第(n-1)液体容器の外方且つ下方に向かうように設けられ、終端が前記第n液体容器の内部に配置された第nドレン流路と
を備え、
前記第(n-1)排出口が、前記第(n-1)ドレン流路の終端及び前記第nドレン流路の終端よりも上であって前記第(n-2)排出口よりも下に設けられている、
請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記第2液体容器と前記第2ドレン流路の組み合わせ、及び前記第n液体容器と前記第nドレン流路の組み合わせのうちの少なくとも2組が同じ構造を有する、請求項2に記載のガス分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドレンポットを備えるガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所やごみ焼却場等の施設では、燃焼により生じた高温の排ガスが排出される。この排ガスに含まれる特定の成分の量が法令で定められた基準値を超えていないことを確認するために、これらの施設ではガス分析装置が用いられている。
【0003】
上述した施設で生じる排ガスには一般に水蒸気が含まれており、このような排ガスをそのまま分析計に導入すると正確な測定ができない。そのため、排ガスのサンプリング地点と分析計を結ぶガス流路の途中には、分析対象ガスを冷却する冷却器が設けられる。冷却器で排ガスを冷却すると、冷却器内では水蒸気が液化し、分析対象ガスから水蒸気が除去される。液化した水(ドレン水)は、ドレン流路(排水管)を通してドレンポットに導入される(例えば特許文献1)。
【0004】
ドレンポットは、外気がドレン流路を通ってガス流路に流入して分析対象ガスに混入することを防ぐために設けられる。ドレンポットには密閉式とオーバーフロー式の2つの形式のものがある。
【0005】
密閉式のドレンポットは、開閉弁を有する排液口が設けられた密閉容器であり、冷却器から延びるドレン流路の終端が容器内に挿入されている。密閉式のドレンポットでは、通常は開閉弁が閉鎖されることにより容器が密閉され、それによって外気がガス流路に流入することが防止される。冷却器からドレン水が流入することでドレンポット内の液量が増加してゆくことから、施設の管理者は定期的に、ガス分析装置の動作を停止させたうえで排液口の開閉弁を開放し、溜まったドレン水をドレンポットの外に排出する操作を行う。
【0006】
オーバーフロー式のドレンポットは、常時大気開放されている排液口が側面に設けられた容器であり、冷却器から延びるドレン流路の終端が排液口よりも下側に配置されている。オーバーフロー式のドレンポットでは常時、排液口(すなわち、ドレン流路の終端よりも上側)まで水を貯留しておくことにより、外気がドレン流路及び冷却器を通してガス流路に流入することが防止される(水封)。冷却器からドレン水が流入することでドレンポット内の水量が増加してゆくと、ドレン水が排液口からドレンポットの外に自然に排出され、液面の高さは排液口の高さ(すなわち、ドレン流路の終端よりも上)に保たれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
オーバーフロー式のドレンポットは、ドレン水をドレンポットの外に排出する操作を行う必要がないため管理の手間を抑えることができるという点で密閉式のドレンポットよりも優れているが、以下の問題を有する。ドレン流路内には、ガス流路から分析対象ガスが侵入する一方、ドレン流路の終端からドレンポット内の液体が侵入する。ドレン流路内の液面の高さは、分析対象ガスの圧力とドレンポットから侵入するドレン水の水圧が均衡する位置となる。分析対象ガスのゲージ圧力(絶対圧から大気圧を差し引いた圧力)がxである場合には、ドレンポット内の液面の高さとドレン流路内の液面の高さの差δhは、x=δh・ρ・gより、δh=x/ρ・g(ρはドレンポット内の液体の密度、gは重力加速度)となる。そのため、分析対象ガスのゲージ圧力が最大でxmax(>0、すなわち絶対圧が大気圧よりも高い)になることが想定される場合には、水封の状態を維持するために、排液口(ドレンポット内の液面の高さ)とドレン流路の終端の高さの差ΔHをxmax/ρ・g以上にすることが求められる。例えば、分析対象ガスのゲージ圧力が最大で10kPa=104Pa(約0.1気圧)になることが想定される場合には、ΔHは約980mmあるいはそれ以上(ρは水の密度として計算)にすることが好ましい。このように、分析対象ガスの想定ゲージ圧力によっては、ドレンポットの寸法が大きくなってしまう
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、管理の手間を抑えることができるオーバーフロー式であって、小型化が可能なドレンポットを備えるガス分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係るガス分析装置は、分析対象ガスが流れるガス流路と、該ガス流路に設けられ該分析対象ガスを分析する分析部よりも上流側に配置され、該ガス流路において該分析対象ガスを冷却することにより発生した液体が導入されるドレンポットとを備え、
該ドレンポットが、
前記ガス流路において発生した液体が排出される第1ドレン流路の終端を受け、該第1ドレン流路の終端よりも鉛直方向上方に連通口を有する第1液体容器と、
前記連通口から前記第1液体容器の外方且つ鉛直方向下方に向かうように設けられた第2ドレン流路と、
前記第2ドレン流路の終端を受け、前記第1ドレン流路の終端及び該第2ドレン流路の終端よりも鉛直方向上方であって前記連通口よりも鉛直方向下方に設けられた排出口を有する第2液体容器と
を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るガス分析装置では、分析対象ガスを冷却することにより発生した液体(ドレン水)は、第1ドレン流路を通って第1液体容器に導入される。第1液体容器では、ドレン水は連通口の高さまで貯留され、該連通口から排出される。第1液体容器から排出されたドレン水は、第2ドレン流路を通って第2液体容器に導入される。第2液体容器では、ドレン水は排出口の高さまで貯留され、該排出口から第2液体容器の外部に排出される。
【0012】
第1ドレン流路内のドレン水の液面は、分析対象ガスのゲージ圧力が負(絶対圧が大気圧未満)であるときには連通口の高さ(第1液体容器内の液面の高さ)よりも上側に位置し、該ゲージ圧力が正である(絶対圧が大気圧を超える)ものの比較的低いときには連通口と第1ドレン流路の終端の間に位置する。さらに分析対象ガスの圧力が高くなってゆくと、第1ドレン流路内のドレン水の液面が終端まで押し下げられ、分析対象ガスが第1ドレン流路の終端から第1液体容器内に侵入し、連通口を通って第2ドレン流路内に流入する。これにより、第2ドレン流路内のドレン水の液面は押し下げられ、排出口の高さ(第2液体容器内の液面の高さ)よりも低くなる。その結果、連通口と第1ドレン流路の終端の高さの差ΔH1と、排出口と第2ドレン流路の終端の高さの差ΔH2との和である(ΔH1+ΔH2)に、ドレン水の密度ρ及び重力加速度gを乗じた(ΔH1+ΔH2)・ρ・gで表される最大ゲージ圧力の分析対象ガスが水封される。
【0013】
従来の、ドレン水を貯留する容器を1つのみ有するドレンポットを用いて本発明と同様に最大ゲージ圧力が(ΔH1+ΔH2)・ρ・gである分析対象ガスを水封するには、該容器に設けられた排出口とドレン流路の終端の高さの差ΔHを(ΔH1+ΔH2)以上にする必要があるため、ドレンポット全体の高さは(ΔH1+ΔH2)よりも高くしなければならない。それに対して本発明では、ドレンポット全体の高さは、(排出口よりも上側にある)連通口と第2ドレン流路の終端の高さの差よりも高くなるが、排出口が第1ドレン流路の終端よりも上に設けられていることにより、この高さの差は(ΔH1+ΔH2-Δm)で表される。ここでΔmは排出口と第1ドレン流路の終端の高さの差である。(ΔH1+ΔH2-Δm)<(ΔH1+ΔH2)であることから、本発明によればドレンポット全体の高さを従来のドレンポット全体の高さよりも抑えることができ、ドレンポットを小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るガス分析装置の一実施形態を示す概略構成図及びドレンポットの部分の拡大図。
【
図2】本実施形態のガス分析装置におけるドレンポットの分解図。
【
図3】本発明に係るガス分析装置におけるドレンポットの変形例を示す概略構成図。
【
図4】本発明に係るガス分析装置におけるドレンポットの他の変形例を示す概略構成図。
【
図5A】本実施形態のガス分析装置におけるドレンポットの動作を説明するための図であって、分析対象ガスのゲージ圧力が正の場合の状態を示す図。
【
図5B】本実施形態のガス分析装置におけるドレンポットの動作を説明するための図であって、
図5Aに示した状態よりも分析対象ガスの圧力が高い場合の状態を示す図。
【
図5C】本実施形態のガス分析装置におけるドレンポットの動作を説明するための図であって、
図5Bに示した状態よりも分析対象ガスの圧力が高い場合の状態を示す図。
【
図6】本実施形態のガス分析装置におけるドレンポットの動作を説明するための図であって、分析対象ガスのゲージ圧力が負の場合の状態の一例を示す図。
【
図7】本実施形態のガス分析装置におけるドレンポットの変形例を示す概略構成図。
【
図8】本実施形態のガス分析装置におけるドレンポットの他の変形例を示す概略構成図。
【
図9】本実施形態のガス分析装置におけるドレンポットの他の変形例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1~
図9を用いて、本発明に係るガス分析装置の実施形態を説明する。
【0016】
(1) 本実施形態のガス分析装置の構成
本実施形態のガス分析装置10は、火力発電所、ごみ焼却場、工場等の排ガス発生施設90のガス排出部に取り付けられたガス採取プローブ91で採取され、パイプライン92を通じて導入された排ガスに含まれる所定の物質(例えば窒素酸化物、硫黄酸化物、一酸化炭素、二酸化炭素、酸素)の濃度を測定するために用いられる。
【0017】
ガス分析装置10は、ガス取込口11とガス分析部12を備えており、これらは分析対象ガス流路13で接続されている。ガス分析部12には、例えば非分散型赤外(NDIR: Non-Dispersive Infrared)分光計が用いられる。また、分析対象ガス流路13には分析対象ガス用ポンプ15が接続されている。
【0018】
分析装置の校正後に水蒸気を含んだ分析対象ガスを分析装置に導入すると、校正時と測定時で分析装置内の水蒸気の量が異なり測定結果の信頼性が低下する。そのためガス分析装置10は、ガス取込口11からガス分析部12に至る分析対象ガス流路13の途中に冷却部(冷却器)14を備える。分析対象ガスは、冷却部14によって所定の温度まで冷却してからガス分析部12に導入する。本実施形態では冷却部14を1つ備えた構成としたが、複数の冷却部を配置して段階的に分析対象ガスを冷却するようにしてもよい。
【0019】
冷却部14内では、分析対象ガス流路13に第1ドレン流路221が接続されている。第1ドレン流路221は鉛直下方に向かって伸びている。冷却部14における分析対象ガスの冷却によって生じた水等の液体(ドレン水)は、第1ドレン流路221を通じてドレンポット20に排出される。
【0020】
本実施形態では、ドレンポット20は、第1液体容器211と、第2液体容器212と、第3液体容器213を備える。第1液体容器211は第1蓋241を、第2液体容器212は第2蓋242を、第3液体容器213は第3蓋243を、それぞれ有する。なお、第1蓋241、第2蓋242及び第3蓋243のうちのいずれか1つ又は複数(3つ共の場合を含む)は省略してもよい。
【0021】
第1液体容器211の内部には第1ドレン流路221の終端2201が配置されている。また、第1液体容器211は、第1ドレン流路221の終端2201よりも上に連通口231を有する。連通口231には、第1液体容器211の外側方に延びる第1接続管251が接続されている。連通口231と第1接続管251を合わせたものを、本発明における連通口とみなすことができる。
【0022】
連通口(の第1接続管251)から第1液体容器211の外方且つ下方に向かうように、第2ドレン流路222が設けられている。第2ドレン流路222の終端2202は第2液体容器212の内部に配置されている。
【0023】
また、第2液体容器212は、第1ドレン流路221の終端2201及び第2ドレン流路222の終端2202よりも上であって連通口231よりも下に、第1排出口232を有する。第1排出口232には、第2液体容器212の外側方に延びる第2接続管252が接続されている。第1排出口232と第2接続管252を合わせたものを、本発明における排出口とみなすことができる。
【0024】
排出口(の第2接続管252)から第2液体容器212の外方且つ下方に向かうように、第3ドレン流路223が設けられている。第3ドレン流路223の終端2203は第3液体容器213の内部に配置されている。これにより、第2液体容器212と第3液体容器213は第1排出口232及び第3ドレン流路223を介して連通している。
【0025】
また、第3液体容器213は、第2ドレン流路222の終端2202及び第3ドレン流路223の終端2203よりも上であって第1排出口232よりも下に、第2排出口233を有する。第2排出口233には第3液体容器213の外側方に延びる第3接続管253が接続され、第3接続管253には下方に延びる排出管29が接続されている。
【0026】
図2にドレンポット20の分解図を示す。第1液体容器211と第2液体容器212と第3液体容器213は互いに分離することが可能である。
【0027】
第2液体容器212の側面には第1接続管挿通口262が設けられており、この第1接続管挿通口262に第1接続管251が挿入されることにより第1液体容器211と第2液体容器212が一体化されている。第1接続管挿通口262に第1接続管251を挿入した後に、第1接続管251に第2ドレン流路222を接続し、その後、第2蓋242を装着する。
【0028】
同様に、第3液体容器213の側面には第2接続管挿通口263が設けられており、この第2接続管挿通口263に第2接続管252が挿入されることにより第2液体容器212と第3液体容器213が一体化されている。第2接続管挿通口263に第2接続管252を挿入した後に、第2接続管252に第3ドレン流路223を接続し、その後、第3蓋243を装着する。
【0029】
第2液体容器212(第2蓋242、第2接続管252を含む)と第2ドレン流路222を組み合わせた容器セット202と、第3液体容器213(第3蓋243、第3接続管253を含む)
と第3ドレン流路223を組み合わせた容器セット203は、同じ構造を有している。これら容器セット202、203と同じ構造を有する、第4液体容器214(第4蓋244、第4接続管254を含む)と第4ドレン流路224を組み合わせた容器セット204を第3液体容器213に接続することにより、
図3に示すように4個の液体容器を備えるドレンポットを構成することができる。同様にして、5個以上の液体容器を備えるドレンポットを構成することができる。あるいは、容器セット203を省略して、
図4に示すように2個の液体容器を備えるドレンポットを構成してもよい。後述のように、液体容器の個数を多くするほど、水封することができる分析対象ガスの圧力を高くすることができる。
【0030】
排ガス発生施設90にガス分析装置10を設置する際には、排ガス発生施設90から発生する分析対象ガスの最大圧力に応じて、ドレンポット20が有する液体容器の個数を定める。この設置作業の際には、上記のように同じ構成を有する複数個の容器セットを予め用意しておき、実際の分析対象ガスの最大圧力に応じて、用意した容器セットのうち必要な個数のもののみを使用すればよい。これにより、必要以上に多くの液体容器を接続することがないため、ドレンポット20が占有するスペースを抑えることができる。また、使用せずに残った容器セットを作業者が持ち帰って他のガス分析装置で使用することができるため、無駄が生じることなく且つ分析対象ガスの最大圧力に応じて柔軟にドレンポット20の設定を行うことができる。
【0031】
(2) 本実施形態のガス分析装置におけるドレンポット20の動作
本実施形態のガス分析装置の動作は、ドレンポット20の動作を除いて、従来のガス分析装置の動作と同様である。以下ではドレンポット20の動作を説明する。
【0032】
予め、第1液体容器211、第2液体容器212及び第3液体容器213にはそれぞれ、連通口231、第1排出口232及び第2排出口233の高さまで水を貯留しておく。
【0033】
第1液体容器211には、冷却部14における分析対象ガスの冷却によって生じたドレン水が、第1ドレン流路221を通って流入する。これにより、第1液体容器211内の水が溢れ、連通口231から第2ドレン流路222を通って第2液体容器212に流入する。これによってさらに第2液体容器212内の水が溢れ、第1排出口232から第3ドレン流路223を通って第3液体容器213に流入する。そして、第3液体容器213内の水が溢れ、第2排出口233から排出管29を通ってドレンポット20の外に排出される。排出された水は回収し、該水に含まれる分析対象ガス(排ガス)の成分を除去する等の処理を行う。
【0034】
第1ドレン流路221内のドレン水の液面の高さは、分析対象ガス流路13を流れる分析対象ガスのゲージ圧力P
Gが0(絶対圧が大気圧)である場合には第1液体容器211内の液面の高さ(すなわち連通口231の高さ)と同じになるが、分析対象ガスのゲージ圧力P
Gが正の(絶対圧が大気圧よりも高い)場合にはそれよりも押し下げられる。分析対象ガスのゲージ圧力P
Gがδh1・ρ・g(ここでρはドレン水の密度、gは重力加速度)であるときには、第1液体容器211内の液面と第1ドレン流路221内の液面の高さの差はδh1となる(
図5A)。ここで、連通口231と第1ドレン流路221の終端2201との高さの差をΔH1とすると、δh1≦ΔH1である。
【0035】
分析対象ガスのゲージ圧力P
GがΔH1・ρ・gよりも高くなると、第1ドレン流路221内の液面は第1ドレン流路221の終端2201まで押し下げられる。さらに、分析対象ガスが連通口231を通って第2ドレン流路222内に流入し、第2ドレン流路222内の液面の高さが第2液体容器212内の液面の高さ(すなわち第1排出口232の高さ)よりも押し下げられる。分析対象ガスのゲージ圧力P
Gが(ΔH1+δh2)・ρ・gであるときには、第2液体容器212内の液面と第2ドレン流路222内の液面の高さの差はδh2となる(
図5B)。ここで、第1排出口232と第2ドレン流路222の終端2202との高さの差をΔH2とすると、δh2≦ΔH2である。
【0036】
分析対象ガスのゲージ圧力P
Gが(ΔH1+ΔH2)・ρ・gよりも高くなると、第2ドレン流路222内の液面は第2ドレン流路222の終端2202まで押し下げられる。さらに、分析対象ガスが第1排出口232を通って第3ドレン流路223内に流入し、第3ドレン流路223内の液面の高さが第3液体容器213内の液面の高さ(すなわち第2排出口233の高さ)よりも押し下げられる。分析対象ガスのゲージ圧力P
Gが(ΔH1+ΔH2+δh3)・ρ・gであるときには、第3液体容器213内の液面と第3ドレン流路223内の液面の高さの差はδh3となる(
図5C)。ここで、第2排出口233と第3ドレン流路223の終端2203との高さの差をΔH3とすると、δh3≦ΔH3である。
【0037】
さらに分析対象ガスのゲージ圧力P
Gが高くなり、第3ドレン流路223内の液面が第3ドレン流路223の終端2203まで押し下げられると、このときのゲージ圧力P
Gは(ΔH1+ΔH2+ΔH3)・ρ・gであり、
図1及び
図5A~Cに示した3個の液体容器を有するドレンポット20で水封することが可能な最大ゲージ圧力P
Gmaxとなる。
【0038】
仮に、このような最大ゲージ圧力PGmax=(ΔH1+ΔH2+ΔH3)・ρ・gを有する分析対象ガスを、液体容器を1個のみ有するドレンポットで水封するならば、当該液体容器の排出口とドレン流路の終端との高さの差を(ΔH1+ΔH2+ΔH3)としなければならない。それに対して本実施形態では、位置が最も高い排出口である連通口231と、位置が最も低いドレン流路の終端である第3ドレン流路223の終端2203の高さの差は(ΔH1+ΔH2+ΔH3-Δm1-Δm2)となる。ここでΔm1は第1排出口232と第1ドレン流路221の終端2201との高さの差、Δm2は第2排出口233と第2ドレン流路222の終端2202との高さの差である。Δm1及びΔm2が(ΔH1+ΔH2+ΔH3)から差し引かれるのは、第1排出口232が第1ドレン流路221の終端2201よりも上側に、第2排出口233が第2ドレン流路222の終端2202よりも上側に、それぞれ配置されていることによる。(ΔH1+ΔH2+ΔH3-Δm1-Δm2)<(ΔH1+ΔH2+ΔH3)であることから、本実施形態におけるドレンポット20の全体の高さは、液体容器を1個のみ有するドレンポットよりも低くすることができる。
【0039】
一方、ドレンポットの横断面積の大きさは、水封することができる分析対象ガスの圧力には影響を及ぼさない。従って、本実施形態のように液体容器を複数用いる場合にも、液体容器1個当たりの横断面積を小さくすることにより、横方向のドレンポットの占有スペースを従来と同等又はそれ以下とすることができる。
【0040】
以上のように、本実施形態のガス分析装置によれば、ドレンポット20を従来よりも小型化することができる。
【0041】
図3に示した4個の液体容器を有するドレンポットでは、最大ゲージ圧力P
Gmaxは(ΔH1+ΔH2+ΔH3+ΔH4)・ρ・g(ここでΔH4は第3排出口234と第4ドレン流路224の終端2204との高さの差)となり、
図1及び
図5A~Cに示した3個の液体容器を有するドレンポット20よりも最大ゲージ圧力が高くなる。ドレンポットの個数をさらに増加させると、最大ゲージ圧力をさらに高くすることができる。また、
図4に示した2個の液体容器を有するドレンポットは、最大ゲージ圧力P
Gmaxが(ΔH1+ΔH2)・ρ・gと、
図1及び
図5A~Cに示したドレンポット20における最大ゲージ圧力よりも低くなるが、ドレンポット全体の高さを当該ドレンポット20よりも抑えることができる。
【0042】
ここまでは分析対象ガスのゲージ圧力P
Gが正である、すなわち分析対象ガスの絶対圧が大気圧を超えている場合について説明したが、
図6に示すように、分析対象ガスのゲージ圧力P
Gが負である、すなわち分析対象ガスの絶対圧が大気圧未満である場合にも、ドレンポット20により水封することが可能である。この場合、分析対象ガスのゲージ圧力P
Gが比較的大気圧に近いときには、第1ドレン流路221及び第2ドレン流路222の液面はそれぞれ第1液体容器211及び第2液体容器212の液面と同じ高さとなり、第3ドレン流路223の液面が第3液体容器213の液面よりも高くなる。それよりもゲージ圧力P
Gが低下すると、第3ドレン流路223の液面は第2液体容器212の液面の高さまで達し、第2ドレン流路222の液面が第2液体容器212の液面よりも高くなる。さらにゲージ圧力P
Gが低下すると、第2ドレン流路222の液面が第1液体容器211の液面の高さまで達し、第1ドレン流路221の液面が第1液体容器211の液面よりも高くなる(
図6)。
【0043】
(3) 変形例
本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では第2ドレン流路222の全体が第2液体容器212の内部に配置されている(
図1参照)が、第2ドレン流路222の終端2202さえ第2液体容器212の内部に配置されていれば、第2ドレン流路222の一部が第2液体容器212の外に配置されていてもよい。同様に、第3ドレン流路223の終端2203さえ第3液体容器213の内部に配置されていれば、第3ドレン流路223の一部が第3液体容器213の外に配置されていてもよい。
【0044】
上記実施形態では各容器(第1液体容器~第3液体容器211~213)にそれぞれ1つずつ蓋(第1蓋~第3蓋241~243)を設けたが、
図7に示すように、複数の液体容器に共通の蓋24を設けてもよい。
【0045】
上記実施形態では第3液体容器213の側面から外側方に延びる第3接続管253に排出管29を接続しているが、その代わりに、
図8に示すように、第3液体容器213の底面を貫いて上方に延びる排出管291を用いてもよい。この例では、第3液体容器213内の液面が排出管291の上端2911の高さまで上昇したときに、第3液体容器213内の液体が第3液体容器213の外に排出される。
【0046】
上記実施形態では互いに分離可能な複数の容器(第1液体容器~第3液体容器211~213)を用いたが、その代わりに、
図9に示すように1個の液体容器内の空間を仕切り2101、2102によって複数の部分空間2111、2112、2113に分け、これら複数の部分空間2111~2113をそれぞれ本発明における第1液体容器、第2液体容器等として用いてもよい。
【0047】
さらに、これら実施形態及び変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0048】
[態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0049】
(第1項)
第1項に係るガス分析装置は、分析対象ガスが流れるガス流路と、該ガス流路に設けられ該分析対象ガスを分析する分析部よりも上流側に配置され、該ガス流路において該分析対象ガスを冷却することにより発生した液体が導入されるドレンポットとを備え、
該ドレンポットが、
前記ガス流路において発生した液体が排出される第1ドレン流路の終端を受け、該第1ドレン流路の終端よりも鉛直方向上方に連通口を有する第1液体容器と、
前記連通口から前記第1液体容器の外方且つ鉛直方向下方に向かうように設けられた第2ドレン流路と、
前記第2ドレン流路の終端を受け、前記第1ドレン流路の終端及び該第2ドレン流路の終端よりも鉛直方向上方であって前記連通口よりも鉛直方向下方に設けられた排出口を有する第2液体容器と
を備える。
【0050】
第1項に係るガス分析装置によれば、ドレンポット全体の高さを従来のドレンポット全体の高さよりも抑えることができ、ドレンポットを小型化することができる。
【0051】
(第2項)
第2項に係るガス分析装置は、第1項に係るガス分析装置において、
さらに、
3から3以上の自然数であるNまでのいずれか1つの自然数nを用いて表される(N-2)個の液体容器である、第(n-1)排出口を有する第n液体容器と、
(N-2)個のドレン流路であって、第(n-2)排出口から第(n-1)液体容器の外方且つ下方に向かうように設けられ、終端が前記第n液体容器の内部に配置された第nドレン流路と
を備え、
前記第(n-1)排出口が、前記第(n-1)ドレン流路の終端及び前記第nドレン流路の終端よりも上であって前記第(n-2)排出口よりも下に設けられている。
【0052】
第2項に係るガス分析装置によれば、第2液体容器と同様の構成を有する第n液体容器を(N-2)個(少なくとも1個:N≧3)備える。そのため、分析対象ガスの圧力がより高くなっても、分析対象ガスを水封することができる。
【0053】
(第3項)
第3項に係るガス分析装置は、第2項に係るガス分析装置において、
前記第2液体容器と前記第2ドレン流路の組み合わせ、及び前記第n液体容器と前記第nドレン流路の組み合わせのうちの少なくとも2組が同じ構造を有する。
【0054】
第3項に係るガス分析装置では、同じ構造を有する2組以上の液体容器とドレン流路の組み合わせ(容器セット)を接続する。これにより、第2液体容器及び1若しくは複数個の第n液体容器並びに第2ドレン流路及び1若しくは複数個の第nドレン流路、又は、複数個の第n液体容器(第2液体容器は含まない)及び複数個の第nドレン流路(第2ドレン流路は含まない)を構成する。第3項に係るガス分析装置によれば、分析対象ガスの最大圧力に応じて、液体容器の個数を容易に増減することができる。そのため、最大圧力の分析対象ガスを確実に水封しつつ、必要以上に多くの液体容器を接続することがないためドレンポットが占有するスペースを抑えることができる。
【符号の説明】
【0055】
10…ガス分析装置
11…ガス取込口
12…ガス分析部
13…分析対象ガス流路
14…冷却部
15…分析対象ガス用ポンプ
20…ドレンポット
202、203、204…容器セット
21…液体容器
2101、2102…仕切り
2111、2112、2113…部分空間
211…第1液体容器
212…第2液体容器
213…第3液体容器
214…第4液体容器
2201…第1ドレン流路の終端
2202…第2ドレン流路の終端
2203…第3ドレン流路の終端
2204…第4ドレン流路の終端
221…第1ドレン流路
222…第2ドレン流路
223…第3ドレン流路
224…第4ドレン流路
231…連通口
232…第1排出口
233…第2排出口
234…第3排出口
24…蓋
241…第1蓋
242…第2蓋
243…第3蓋
244…第4蓋
251…第1接続管
252…第2接続管
253…第3接続管
254…第4接続管
262…第1接続管挿通口
263…第2接続管挿通口
29、291…排出管
2911…排出管の上端
90…排ガス発生施設
91…ガス採取プローブ
92…パイプライン