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特許7497783抄紙フェルトおよび抄紙フェルトの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】抄紙フェルトおよび抄紙フェルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21F 7/08 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
D21F7/08 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2024042689
(22)【出願日】2024-03-18
【審査請求日】2024-03-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000180597
【氏名又は名称】イチカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168572
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】鬼久保 明
(72)【発明者】
【氏名】戸田 丈士
(72)【発明者】
【氏名】山崎 新太郎
(72)【発明者】
【氏名】王 強
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/066697(WO,A1)
【文献】特開2022-003186(JP,A)
【文献】特開2003-239170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 1/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿紙を担持する湿紙担持面を有する抄紙フェルトであって、
基材と、
前記基材の前記湿紙担持面側に配置され、短繊維を含んで構成されるバット層と、
前記基材の前記湿紙担持面側に前記バット層と隣接して配置される、不織布とを含み、
前記不織布は、目付100g/m・ニードル針1本あたりの貫通抵抗が2.0N/(100g/m・本)以下である、抄紙フェルト。
【請求項2】
前記不織布は、連続糸を含む、請求項1に記載の抄紙フェルト。
【請求項3】
前記不織布が、公定水分率が10.0%以上の親水性繊維を含む、請求項1に記載の抄紙フェルト。
【請求項4】
前記親水性繊維は、キュプラ、レイヨン、リヨセル、絹、麻およびウールからなる群から選択される1種以上を含む、請求項3に記載の抄紙フェルト。
【請求項5】
前記不織布を構成する繊維の繊維径が5.0μm以上30μm以下である、請求項1に記載の抄紙フェルト。
【請求項6】
前記不織布は、スパンボンド不織布である、請求項1に記載の抄紙フェルト。
【請求項7】
前記バット層は、前記不織布と接しており、前記不織布よりも前記基材側に配置される、請求項1に記載の抄紙フェルト。
【請求項8】
さらに、前記基材の前記湿紙担持面側に配置され、第2の短繊維を含んで構成される第2のバット層を含み、
前記バット層と前記第2のバット層とは、前記不織布を挟んで配置される、請求項1に記載の抄紙フェルト。
【請求項9】
前記不織布を構成する繊維の公定水分率と前記短繊維の公定水分率との差は2.0%以上12%以下である、請求項1に記載の抄紙フェルト。
【請求項10】
前記不織布を構成する繊維の公定水分率と前記第2の短繊維の公定水分率との差は、2.0%以上12%以下である、請求項8に記載の抄紙フェルト。
【請求項11】
前記短繊維の繊度が2.0dtex以上70dtex以下である、請求項1に記載の抄紙フェルト。
【請求項12】
前記第2の短繊維の繊度が2.0dtex以上70dtex以下である、請求項8に記載の抄紙フェルト。
【請求項13】
基材の一方の面に不織布と、短繊維とを積層してニードルパンチ処理を行い、前記基材の前記一方の面に前記不織布と前記短繊維からなるバット層とを形成する工程を有し、
前記不織布は、目付100g/m・ニードル針1本あたりの貫通抵抗が2.0N/(100g/m・本)以下である、抄紙フェルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙フェルトおよび抄紙フェルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙の原料から水分を除去する抄紙機は、一般的にワイヤーパートとプレスパートとドライヤーパートを備える。これらワイヤーパート、プレスパート、及びドライヤーパートは、湿紙の搬送方向に沿ってこの順番に配置されている。
【0003】
湿紙は、ワイヤーパート、プレスパート、及びドライヤーパートそれぞれに備えられた抄紙用具に次々と受け渡されながら搬送されると共に水分が除去され、最終的にはドライヤーパートで乾燥される。これら各々のパートでは、湿紙を脱水し(ワイヤーパート)、搾水し(プレスパート)、そして乾燥する(ドライヤーパート)といった各機能に対応した抄紙用具が使用されている。
【0004】
プレスパートでは、湿紙の搬送方向に沿って直列に並設された1つ以上のプレス装置を具備することが一般的である。各プレス装置には、無端状の抄紙フェルトが配置され、あるいは有端状の抄紙フェルトを抄紙機上で連結し無端状に形成した抄紙フェルトが配置される。そして各プレス装置は、対向する一対のロールからなるロールプレス機構、あるいはロールに対向する凹型形状のシューとの間に無端状のシュープレスベルトを介在させたシュープレス機構を有している。湿紙を載置した抄紙フェルトは、湿紙の搬送方向に沿って移動しつつ、ロールプレス機構あるいはシュープレス機構を通過し、加圧されることにより、抄紙フェルトにその水分を連続的に吸収させるか、あるいは抄紙フェルト内において水分を通過させて外部へ排出させることで、湿紙から水分を搾水している。
【0005】
しかしながら、プレス装置の加圧部の中央から出口にかけての部分では、湿紙と抄紙フェルトに掛けられた圧力が急激に解放されるため、この部分において抄紙フェルトおよび湿紙の体積が急激に膨張する。その結果、抄紙フェルトおよび湿紙に負圧が生じ、更には、湿紙が細繊維からなるために毛細管現象も加わって、抄紙フェルトに吸収されていた水分が再び湿紙へ移行するいわゆる再湿現象が生じる。
【0006】
ここで、プレスパート出口での湿紙の水分量(含水率)は、後段のドライヤーパートでの乾燥のためのエネルギー消費量に直接的に関係している。例えば、湿紙の含水率が少しでも大きくなると、乾燥に要するエネルギーは少なからず増大する(例えば、湿紙の含水率が1%増加した場合、エネルギー増加は約4%である)。したがって、プレスパートにおいて湿紙の含水率をできる限り低減させることが好ましい。
【0007】
特許文献1には、基層と、前記基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、前記基層のロール側またはシュー側の表面に形成された第2バット層と、親水性繊維を含み且つ、前記湿紙と直接接触するように前記第1バット層の湿紙側の表面に形成された湿紙接触繊維層と、を備え、前記親水性繊維が、前記ロールおよび前記シューにより加圧されることによりフィブリル化されることを特徴とするシュープレス用の抄紙搬送フェルトが提案されている。
【0008】
また、特許文献2には、基体と、湿紙側層とプレス側層とを具えたバット層により構成される抄紙用プレスフェルトにおいて、前記バット層の湿紙側層内に親水性不織布が配置されていることを特徴とする、抄紙用プレスフェルトが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-100277号公報
【文献】特開2004-143627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したようにプレスパート出口での湿紙の水分量(含水率)は、後段のドライヤーパートでの乾燥のためのエネルギー消費量に直接的に関係している。したがって、より一層再湿現象を防止して、プレスパート出口での湿紙の水分量をより一層低減できることが好ましい。
【0011】
したがって、本発明の目的は、湿紙の再湿現象を抑制し、プレス後の湿紙の含水量を十分に低減可能な抄紙フェルトおよび抄紙フェルトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討し、バット層と不織布とを基布に配置する構成に着目した。そして、再湿現象と不織布のニードルパンチ処理時の針の貫通抵抗との間に相関があることを見出し、さらに鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0013】
本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 湿紙を担持する湿紙担持面を有する抄紙フェルトであって、
基材と、
前記基材の前記湿紙担持面側に配置され、短繊維を含んで構成されるバット層と、
前記基材の前記湿紙担持面側に前記バット層と隣接して配置される、不織布とを含み、
前記不織布は、目付100g/m・ニードル針1本あたりの貫通抵抗が2.0N/(100g/m・本)以下である、抄紙フェルト。
[2] 前記不織布は、連続糸を含む、[1]に記載の抄紙フェルト。
[3] 前記不織布が、公定水分率が10.0%以上の親水性繊維を含む、[1]に記載の抄紙フェルト。
[4] 前記親水性繊維は、キュプラ、レイヨン、リヨセル、絹、麻およびウールからなる群から選択される1種以上を含む、[3]に記載の抄紙フェルト。
[5] 前記不織布を構成する繊維径が5.0μm以上30μm以下である、[1]に記載の抄紙フェルト。
[6] 前記不織布は、スパンボンド不織布である、[1]に記載の抄紙フェルト。
[7] 前記バット層は、前記不織布と接しており、前記不織布よりも前記基材側に配置される、[1]に記載の抄紙フェルト。
[8] さらに、前記基材の前記湿紙担持面側に配置され、第2の短繊維を含んで構成される第2のバット層を含み、
前記バット層と前記第2のバット層とは、前記不織布を挟んで配置される、[1]に記載の抄紙フェルト。
[9] 前記不織布を構成する繊維の公定水分率と前記短繊維の公定水分率との差は2.0%以上12%以下である、[1]に記載の抄紙フェルト。
[10] 前記不織布を構成する繊維の公定水分率と前記第2の短繊維の公定水分率との差は、2.0%以上12%以下である、[8]に記載の抄紙フェルト。
[11] 前記短繊維の繊度が2.0dtex以上70dtex以下である、[1]に記載の抄紙フェルト。
[12] 前記第2の短繊維の繊度が2.0dtex以上70dtex以下である、[8]に記載の抄紙フェルト。
[13] 基材の一方の面に不織布と、短繊維とを積層してニードルパンチ処理を行い、前記基材の前記一方の面に前記不織布と前記短繊維からなるバット層とを形成する工程を有し、
前記不織布は、目付100g/m・ニードル針1本あたりの貫通抵抗が2.0N/(100g/m・本)以下である、抄紙フェルトの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
以上の構成により、湿紙の再湿現象を抑制し、プレス後の湿紙の含水量を十分に低減可能な抄紙フェルトおよび抄紙フェルトの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る抄紙フェルトを示す機械横断方向断面図である。
図2図2は、不織布のニードル針の貫通抵抗の測定方法を説明するための概要図である。
図3図3は、本発明の一実施形態におけるプレス前後の抄紙フェルトおよび湿紙の挙動を説明するための概要図である。
図4図4、本発明の一変形例に係る抄紙フェルトを示す機械方向断面図である。
図5図5は、搾水性試験の方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る抄紙フェルトおよび抄紙フェルトの製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
<1.抄紙フェルト>
まず、本発明の好適な実施形態に係る抄紙フェルトについて説明する。
図1は、本発明の好適な実施形態に係る抄紙フェルトの一例を示す機械横断方向断面図である。なお、図中、各部材は、説明の容易化のため適宜大きさが強調されており、実際の各部材の比率及び大きさが示されているものではない。ここで、上記機械横断方向(Cross Machine Direction)については、「CMD」ともいい、また、機械方向(Machine Direction)については、「MD」ともいう。
【0018】
図1に示す抄紙フェルト1は、抄紙機のプレスパートにおいて、湿紙を担持して搬送し、湿紙から水分を搾水するために用いられる。抄紙フェルト1は、無端状の帯状体をなしている。即ち、抄紙フェルト1は環状のベルトである。そして、抄紙フェルト1は、通常、その周方向が抄紙機の機械方向(MD)に沿うようにして配置される。また、抄紙フェルト1は、通常、一方の面側が湿紙と接触する湿紙担持面41側となり、他方の面側が抄紙フェルト1を支持するロール接触面51側となる。
【0019】
抄紙フェルト1は、基材10と、基材10の湿紙担持面41側に配置される第1のバット層20と不織布30と第2のバット層40と、ロール接触面側に配置される第3のバット層50とを含む。また、第1のバット層20と不織布30と第2のバット層40とは、基材10から湿紙担持面41側に向けてこの順で配置されている。また、抄紙フェルト1のこれらの層は、全てニードルパンチ処理により互いに接合されている。
【0020】
基材10は、抄紙フェルト1の引張強度等の物理的強度を担保する補強繊維基材である。
基材10としては、特に限定されないが、例えば、経糸と緯糸とを織機等により製織した織物が一般的に使用される。また、製織せずに、経糸列と緯糸列の重ね合わせによる格子状素材を使用することもできる。あるいは、織物および格子状素材等を2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
基材10の素材としては、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、脂肪族ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612等)、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、羊毛、綿、金属等を1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
基材10を構成する繊維の繊度は、特に限定されないが、例えば300~10000dtex、好ましくは、500~6000dtexとすることができる。
また、基材10を構成する繊維の繊度は、その繊維を用いる部位によって異なっていてもよい。例えば、基材10の経糸と緯糸とでそれらの繊度が異なっていてもよい。
【0023】
上述した基材10の厚さは、特に限定されず、例えば、0.2mm以上3.5mm以下、好ましくは0.5mm以上3.0mm以下とすることができる。また、基材10の目付は、特に限定されず、例えば、150g/m以上1,200g/m以下、好ましくは300g/m以上1,000g/m以下とすることができる。
【0024】
第1のバット層20は、基材10の湿紙担持面41側に基材10に隣接して設けられた短繊維層である。第1のバット層20の湿紙担持面41側には、不織布30が隣接して配置される。
【0025】
第1のバット層20を構成する短繊維の材料は、特に限定されず、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、脂肪族ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612等)、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、羊毛、綿、金属等を1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。上述したもののうち、耐摩耗性、圧縮回復性、耐衝撃性、親水性、耐加水分解性、耐薬品性等の観点から、ポリアミドが、短繊維の材料として好ましい。
【0026】
第1のバット層20を構成する短繊維の繊度は、特に限定されないが、例えば、0.1dtex以上200dtex以下である。
【0027】
第1のバット層20を構成する第1の短繊維の繊度は、特に限定されないが、例えば、0.1dtex以上200dtex以下、好ましくは2.0dtex以上70dtex以下、より好ましくは6.0dtex以上70dtex以下である。これにより、第1のバット層20の強度を十分なものとしつつ、微細な短繊維による毛管現象により湿紙から十分に水分を吸収することができる。
【0028】
第1のバット層20の目付は、特に限定されないが、例えば、50g/m以上800g/m以下、好ましくは50g/m以上700g/m以下、より好ましくは50g/m以上600g/m以下とすることができる。これにより、加圧下における水を吸収するための適度な空間を保つことができる。
【0029】
不織布30は、第1のバット層20の湿紙担持面41側に第1のバット層20に隣接して設けられた層である。不織布30の湿紙担持面41側には、第2のバット層40が隣接して配置される。
【0030】
不織布30は、プレス直後に抄紙フェルト1および湿紙に負圧が生じた際に、第1のバット層20側から湿紙担持面側への水分の移行を抑制するバリア層として機能し、プレス後の湿紙の再湿現象を抑制する。
【0031】
ここで、本発明者は、不織布30のこのバリア層としての再湿現象の抑制機能に着目し、機能が向上するための条件を検討した。この結果、不織布30のニードル針の貫通抵抗と、再湿現象との間に大きな相関があることを見出し、本発明に至った。具体的には、不織布30について、目付100g/m・ニードル針1本あたりの貫通抵抗が 2.0N/(100g/m・本)以下であると、再湿現象を好適に抑制でき、プレス後の湿紙の含水量を十分に低減可能であることを本発明者は、見出した。
【0032】
このようなニードル針の貫通抵抗と再湿現象の抑制効果との相関の原理については明らかではないが、本発明者は、以下のように考えている。すなわち、抄紙フェルト1を製造する際には、各層を接合するために、ニードルパンチ処理を行うことが必要となる。この場合において、ニードル針の不織布30についての貫通抵抗が大きいことは、不織布30中の多くの繊維がニードル針と衝突し、隣接する層、例えば、第1のバット層20、第2のバット層40中の繊維と絡合することを意味する。
【0033】
不織布30中の多くの繊維が隣接する層の繊維と絡合すると、不織布30は厚み方向に繊維が分散し、その分ニードルパンチ処理後の不織布30の実質的な密度が減少してしまう。このため、不織布30の実質的な密度が減少してしまうと、上述したようなバリア層としての機能が低下してしまうと考えられる。したがって、ニードル針の貫通抵抗が比較的小さい不織布30を使用することにより、不織布30の実質的な密度の減少を抑制し、この結果、不織布30が十分にバリア層として機能するものと考えられる。
【0034】
不織部30の目付100g/m・ニードル針1本あたりの貫通抵抗は、上述した範囲内にあればよいが、好ましくは1.8N/(100g/m・本)以下、さらに好ましくは1.5N/(100g/m・本)以下、特に好ましくは、1.2N/(100g/m・本)以下である。これにより、不織布30がその機能を十分に発揮でき、プレス後の湿紙の再湿現象をより一層抑制することができる。
【0035】
また、不織布30の目付100g/m・ニードル針1本あたりの貫通抵抗の下限値は特に限定されないが、貫通抵抗は、例えば0.10N/(100g/m・本)以上、好ましくは0.30N/(100g/m・本)以上、さらに好ましくは、0.50N/(100g/m・本)以上である。これにより、製造時のニードルパンチによる第1のバット層20と不織布30の接触が維持され、第2のバット層40の積層が容易となり、また不織布30自体のニードルパンチ処理前の密度を十分に高めることができ、プレス後の湿紙の再湿現象をより一層抑制することができる。
【0036】
また、上記の不織布30の目付100g/m・ニードル針1本あたりの貫通抵抗は、以下に説明するようにして測定することができる。図2は、不織布のニードル針の貫通抵抗の測定方法を説明するための概要図である。
【0037】
不織布のニードル針の貫通抵抗は、引張試験機を用いて測定することができる。まず、図2に示す引張試験機の治具101A、101Bは、垂直方向に相対するようにして配置される。上方の治具101Aには、ニードル針103を複数配置したホルダ105を取り付けられている。ニードル針103の本数は特に限定されないが、例えば、10本以上100本以下とすることができる。また、針植え密度も特に限定されないが、例えば、0.030本/cm以上0.20本/cm以下であることができる。
【0038】
下方の治具101Bは、中央に空間を設けた台座であり、この上に2枚の固定板109に挟んだ不織布30が配置される。ここで、不織布30は、その目付が100g/m近くとなるように、必要に応じて複数重ねて配置される。なお、重ねた不織布30の目付は、厳密に100g/mでなくてもよく、例えば、70g/m以上150g/m以下の間で適宜調節されてもよい。
【0039】
また、固定板109には、ニードル針103の位置に対応して貫通孔1091が設けられており、固定板109は、貫通孔1091とニードル針103とが測定時において干渉しないような相対位置に配置される。
【0040】
このように、不織布30を固定した状態で、引張試験機を用いてニードル針103を不織布30側へ移動させてニードル針103の第1バーブを不織布30に貫通させる。この際のニードル針103に負荷される抵抗力の最大値を貫通抵抗とすることができる。また、ニードル針103の移動速度は、例えば、50mm/min以上400mm/min以下であることができる。
【0041】
以上のようにして得られた貫通抵抗を不織布30の目付100g/mあたり・ニードル針103が1本あたりとなるように換算して、上述した不織布30の目付100g/m・ニードル針1本あたりの貫通抵抗を得る。具体的には、以下の式(1)のように表される。
【0042】
R=R÷WNWF×100÷NNDL (式1)
ここで、Rは、不織布30の目付100g/m・ニードル針1本あたりの貫通抵抗[N/(100g/m・本)]、Rは、不織布30のニードル針103貫通時の最大の抵抗力[N]、WNWFは、不織布30の合計目付(g/m)、NNDLは、ニードル針103の本数である。
【0043】
上述したような不織布30の貫通抵抗は、不織布を構成する繊維の材料・繊度、不織布の密度、不織布の形態、製造方法等を変更することにより適宜変更することができる。
【0044】
不織布30を構成する繊維の材料は、特に限定されず、第1のバット層20の短繊維の材料として挙げた材料の他、レイヨン、ポリノジック、リヨセル、キュプラ、セルロースナノファイバー、綿、麻等のセルロース系繊維や絹、ウール等の親水性繊維が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
上述した中でも不織布30を構成する繊維は、親水性繊維を含むことが好ましい。不織布30が親水性繊維を含むことにより、不織布30が水分を保持しやすくなり、この結果プレス後の再湿現象をより好適に抑制することができる。
【0046】
親水性繊維としては、例えば公定水分率が4.0%以上、好ましくは5.0%以上の繊維であることができる。例えば、ナイロン4.5%、レイヨン11.0%、ポリノジック11.0%、リヨセル13.0%、キュプラ11.0%、綿8.5%、麻12.0%、絹12.0%、ウール13.0%である。
【0047】
親水性繊維の公定水分率は、より好ましくは8.0%以上、特に好ましくは10.0%以上である。これにより、不織布30がより一層水分を保持しやすくなり、この結果プレス後の再湿現象をより一層抑制することができる。
【0048】
また、不織布30を構成する繊維の公定水分率と、第1のバット層20を構成する短繊維の公定水分率との差は、特に限定されないが、例えば2.0%以上12%以下好ましくは4.0%以上10%以下である。このように、不織布30を構成する繊維と第1のバット層20を構成する短繊維との間に適度の公定水分率の差が存在することにより、プレス時において不織布30を介して第1のバット層20側に移送された水分が、好適に基材10そして、抄紙フェルト1外へ排出される。
【0049】
また、不織布30を構成する繊維の公定水分率と、第2のバット層40を構成する短繊維の公定水分率との差は、特に限定されないが、例えば2.0%以上12%以下好ましくは4.0%以上10%以下である。このように、不織布30を構成する繊維と第2のバット層40を構成する短繊維との間に適度の公定水分率の差が存在することにより、プレス直後に抄紙フェルト1に負圧が生じた際に、不織布30が水分を保持しやすくなり、再湿現象がより確実に抑制される。
【0050】
上述した中でも不織布30を構成する繊維は、好ましくは、ナイロン、キュプラ、キュプラ、レイヨン、リヨセル、絹、麻およびウールから選択される1種以上を、より好ましくはキュプラ、キュプラ、レイヨン、リヨセル、絹、麻およびウールから選択される1種以上の繊維を含む。ナイロンは適度な親水性を有する上、強度にも優れている。また、他の好ましい繊維は、適度の強度を有し、さらに優れた親水性を有している。
【0051】
また、不織布30を構成する繊維は、短繊維糸(200mm以下)、長繊維糸(200mm超15,000mm以下)、連続糸であることができる。上述した中でも不織布30を構成する繊維は、好ましくは長繊維糸および/または連続糸を、より好ましくは連続糸を含む。不織布30を構成する繊維が比較的長く、かつ貫通抵抗が小さい場合、ニードルパンチ処理時において不織布30の繊維移動が少なく、不織布30の密度を高く維持できる。また、ここでいう連続糸は、製法上連続的に製造されて理想的には端部を有しない糸を言い、例えば不織布30の裁断等の工程上の理由により端部が形成されている、いわゆるフィラメントである。
【0052】
また、不織布30を構成する繊維の繊維径、特に連続糸の繊維径は、特に限定されないが、例えば5.0μm以上30μm以下、好ましくは10μm以上25μm以下である。不織布30を構成する繊維の繊度が上記下限値以上であると、不織布30の強度を十分なものとしつつ、プレス時の適度な透水性を確保することができる。不織布30を構成する繊維の繊度が上記上限値以下であると、毛管現象による不織布30の保水力を十分なものとし、プレス時における第2のバット層40から不織布30への水分の移行を円滑に行うことができるとともに、プレス直後の不織布30から第2のバット層40への水分の移行を抑制することができる。
【0053】
また、不織布30は、例えば、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブローン法等により製造できる。上述した中でも、不織布30は、スパンボンド法により製造されたスパンボンド不織布であることが好ましい。スパンボンド法では、連続糸により不織布30を製造することが可能である。
【0054】
また、不織布30は、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、水流絡合法(スパンレース)等の加工方法によって加工されていてもよい。これらの方法により加工されることにより、不織布30の貫通抵抗を調節することができる。
【0055】
不織布30の目付は、特に限定されないが、例えば10g/m以上100g/m以下、好ましくは15g/m以上60g/m以下、より好ましくは20g/m以上50g/m以下とすることができる。これにより、不織布30は、適切な透気度を確保しつつ、再湿現象を抑制するためのバリア層として十分に機能することが可能となる。なお、不織布30の目付を調節するには、例えば、目的となる目付となるように複数の不織布を用意し、積層して、一層の不織布30としてもよい。
【0056】
第2のバット層40は、不織布30の湿紙担持面41側に不織布30に隣接して設けられた短繊維で構成される層である。第2のバット層40は、第1のバット層20とともに、不織布30を挟んで配置される。また、第2のバット層40は、抄紙フェルト1の最外層に位置し、湿紙を担持するための湿紙担持面41を形成する。
【0057】
第2のバット層40を構成する短繊維(第2の短繊維)の材料としては、特に限定されず、第1のバット層40を構成する材料が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。耐摩耗性、圧縮回復性、耐衝撃性、親水性、耐加水分解性、耐薬品性等の観点から、ポリアミドが、短繊維の材料として好ましい。
【0058】
第2のバット層40を構成する第2の短繊維の繊度は、特に限定されないが、例えば、
0.1dtex以上200dtex以下、好ましくは2.0dtex以上70dtex以下、より好ましくは2.0dtex以上30dtex以下である。これにより、第2のバット層40の強度を十分なものとしつつ、湿紙担持面41の平滑性を十分なものとし、かつ、微細な第2の短繊維による毛管現象により湿紙から十分に水分を吸収することができる。
【0059】
第2のバット層40の目付は、特に限定されないが、例えば、50g/m以上800g/m以下、好ましくは50g/m以上700g/m以下、より好ましくは50g/m以上600g/m以下とすることができる。これにより、加圧下における水を吸収するための適度な空間を保つことができる。
【0060】
また、第1のバット層20と第2のバット層40との合計の目付は、100g/m以上1,600g/m以下、好ましくは100g/m以上1,400g/m以下、より好ましくは100g/m以上1,200g/m以下とすることができる。第1のバット層20と第2のバット層40との合計の目付は、抄紙フェルト1の強度、空隙率及び通気性等の目的とする特性に応じて適宜設定される。
【0061】
第3のバット層50は、基材10のロール接触面51側に基材10に隣接して設けられた短繊維で構成される層である。また、第3のバット層50は、抄紙フェルト1の最外層に位置し、ロールと接触するロール接触面51を形成する。なお、図示の態様に限定されず、抄紙フェルト1は、第3のバット層50を有さない構成とすることもできる。
【0062】
第3のバット層50を構成する短繊維(第3の短繊維)の材料としては、特に限定されず、第1のバット層20を構成する材料が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。耐摩耗性、圧縮回復性、耐衝撃性、親水性、耐加水分解性、耐薬品性等の観点から、ポリアミドが、短繊維の材料として好ましい。
【0063】
第3のバット層50を構成する第3の短繊維の繊度は、特に限定されないが、例えば、3.0dtex以上150dtex以下、好ましくは6.0dtex以上100dtex以下、より好ましくは10dtex以上70dtex以下である。これにより、第3のバット層50の強度および耐摩耗性を十分なものとすることができる。
【0064】
第3のバット層50の目付は、特に限定されないが、例えば、50g/m以上200g/m以下とすることができる。これにより、加圧下における水を吸収するための適度な空間を保つことができる。
【0065】
抄紙フェルト1の目付は、特に限定されないが、例えば、全体として、250g/m以上3000g/m以下、好ましくは、400g/m以上2000g/m以下である。また、抄紙フェルト1の厚さは、特に限定されないが、例えば、1.0mm以上6.0mm以下、好ましくは2.0mm以上4.0mm以下である。
【0066】
以上、抄紙フェルト1の構成について説明した。以上、本実施形態に係る抄紙フェルト1は、湿紙の再湿現象を抑制し、プレス後の湿紙の含水量を十分に低減することが可能である。具体的には図3を参照しつつ、以下のように説明できる。図3は、本実施形態に係るプレス前後の抄紙フェルトおよび湿紙の挙動を説明するための概要図である。なお、図中では、プレス装置としてシングルフェルトのプレスロール機構を例示したが、シングルフェルトまたはダブルフェルトのシュープレス機構、あるいはダブルフェルトのプレスロール機構においても同様の説明が可能である。
【0067】
図3に示すように、プレスパートにおいては、抄紙フェルト1は、その湿紙担持面41に湿紙Wを担持して、機械方向MDに沿って走行し、プレスロール200A、200Bで構成されるプレス機構を通過する。この際に、プレス機構に進入する前の領域201においては、湿紙Wおよび抄紙フェルト1は、厚み方向に圧力を受けていない。
【0068】
次に、湿紙Wおよび抄紙フェルト1がプレス機構に進入した領域であるプレス領域203においては、湿紙Wおよび抄紙フェルト1は、プレスロール200A、200Bにより厚み方向に圧力を受け、図中黒い矢印の方向に圧縮される。ここで、湿紙Wに含まれる水分の一部は、湿紙Wの厚み方向の圧縮に伴い、湿紙担持面41から抄紙フェルト1へ移行して、そのうち大部分は抄紙フェルト1から、202Bがサクションロールの場合プレスロール200Bにより排出され、202Bがプレーンロールの場合、領域205側のロール接触面51側からスプラッシュSPとして排出される。あるいは、領域201側のロール接触面51側から排出される。他方で、抄紙フェルト1に移行した水分のうち、排出されなかった分については、抄紙フェルト1に残存する。
【0069】
次に、湿紙Wおよび抄紙フェルト1がプレス機構から脱した領域である領域205においては、湿紙Wおよび抄紙フェルト1は、プレスロール200A、200Bによる圧力から解放され、急激に膨張する。この際において、湿紙Wおよび抄紙フェルト1には負圧が発生し、周囲の空気や水分を吸収し始める。
【0070】
ここで、湿紙Wと抄紙フェルト1との関係に着目すると、湿紙Wに負圧が生じると、湿紙Wは、抄紙フェルト1中の空気や水分を吸収し始める(再湿現象)。しかしながら、本実施形態に係る抄紙フェルト1においては、第1のバット層20と第2のバット層40との間に不織布30が配置されている。不織布30は、ニードル針の貫通抵抗が十分に低いことにより、厚み方向に繊維が分散しておらず、不織布30自体の密度が大きくなっている。この結果、抄紙フェルト1の不織布30よりロール接触面51側にある水分Mは、不織布30により湿紙担持面41側への移動が抑制されて、その一部の水分mのみが第2のバット層40に移行する。このように、不織布30により水分Mの移行が抑制されて湿紙Wの再湿現象が抑制される。
【0071】
特に、不織布30が親水性繊維を含むことにより、不織布30は水分Mを保持する力が大きくなり、より一層水分Mの第2のバット層40側への移行を抑制する。
また、本実施形態においては、不織布30よりも湿紙担持面41側に第2のバット層40が配置されている。これにより、第2のバット層40に湿紙担持面41の平滑性や湿紙Wとの密着性等の機能を持たせ、一方で、不織布30は、水分Mの移行抑制機能に特化した構成とすることができる。これにより、抄紙フェルト1の各機能が十分に発揮され、抄紙フェルト1の再湿現象の抑制効果がより一層高まる。
【0072】
また、本実施形態においては、基材10の湿紙担持面41側において、第1のバット層20と第2のバット層40との間に、すなわち、基材10の湿紙担持面41側のバット層の間に、不織布30が配置されている。これにより、不織布30よりもロール接触面51側にある抄紙フェルト1の体積を比較的大きくすることができ、不織布30は、当該部分にあるより多くの水分のバリア層として機能することができる。この結果、抄紙フェルト1の再湿現象の抑制効果がより一層高まる。
以上、抄紙フェルト1は、湿紙の再湿現象を抑制し、プレス後の湿紙の含水量を十分に低減することができる。
【0073】
<3.変形例>
次に、上述した実施形態に係る抄紙フェルトのいくつかの変形例について説明する。以下、上述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については説明を省略する。また、以下に説明する変形例や上述した実施形態の特徴は、それぞれ単独で適用されるものであってもよいが、技術的に許容可能である限り2以上組み合わせて適用されるものであってもよい。
【0074】
(3.1. 第1の変形例)
【0075】
図4は、本発明の一変形例に係る抄紙フェルトを示す機械方向断面図である。図4に示す抄紙フェルト1Aは、基材10と、第1のバット層20Aと、不織布30Aと、第3のバット層50とを有し、第2のバット層40が省略されている。さらに、不織布30Aは、第1のバット層20Aと基材10との間に配置されている。このような抄紙フェルト1Aも、再湿現象を好適に抑制できる。
【0076】
(3.2. 第2の変形例)
【0077】
上述した実施形態においては、抄紙フェルト1が無端状をなしているものとして説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明に係る抄紙フェルトは有端状の帯状フェルトであってもよい。この場合において、抄紙フェルトの機械方向両端部には、シームループが設けられる。そして、両端のシームループ同士を噛み合わせてシームループに芯線を挿入して環状(無端状)の抄紙フェルトを形成して、抄紙機に実装される。
【0078】
<4.抄紙フェルトの製造方法>
最後に、本発明の好適な実施形態に係る抄紙フェルトの製造方法について説明する。本発明に係る抄紙フェルトの製造方法は、基材の一方の面に不織布と、短繊維とを積層してニードルパンチ処理を行い、前記基材の前記一方の面に前記不織布と前記短繊維からなるバット層とを形成する工程を有し、前記不織布は、目付100g/m・ニードル針1本あたりの貫通抵抗が2.0N/(100g/m・本)以下である。以下、図1に記載の抄紙フェルト1の製造方法を一例に説明する。
【0079】
まず、基材10を用意する。次に、第1のバット層20となる短繊維のカード、不織布30、第2のバット層40となる第2の短繊維のカードおよび第3のバット層50となる短繊維のカードを用意する。次に、これらのカードおよび不織布30を基材10とともに積層する。この場合において、第3のバット層50、基材10、第1のバット層20、不織布30、第2のバット層40の順で抄紙フェルト1の各層が形成されるように、カード、基材10および不織布30を積層する。また、この場合において、必要な目付となるようにカードや不織布30の枚数を調節してもよい。
【0080】
次に、ニードルパンチ処理を行って、各カード、不織布30、基材10を絡合一体化させ、抄紙フェルト1の前駆体を得る。なお、本実施形態においては、全てのカード、不織布30、基材10を同時に積層して一括してニードルパンチ処理を行うものとして説明したが、基材10に対して層毎にカードを積層してニードルパンチ処理を行い、これを繰り返すことにより各層を積層、一体化してもよい。
【0081】
ここで、不織布30は、上述したように、比較的小さい貫通抵抗を有している。したがって、ニードルパンチ処理において不織布30の繊維が厚み方向に分散することが抑制されており、不織布30の密度が比較的高い状態で維持される。この結果、不織布30は、抄紙フェルト1においても湿紙の再湿現象を好適に抑制できる。
【0082】
最後に、抄紙フェルト1の前駆体に、必要に応じて化学処理、熱セット、プレス加工等を行い、抄紙フェルト1を得る。
【0083】
以上、本発明について好適な実施形態に基づき詳細に説明したが、本発明はこれに限定
されず、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは
、任意の構成を付加することもできる。
【実施例
【0084】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0085】
<1.抄紙フェルトの製造>
まず、基材として以下の構成の織布を用意した。
・経糸:330dtexのナイロンモノフィラメントを2本撚り合わせたものを
更に2本撚り合わせた撚糸
・緯糸:330dtexのナイロンモノフィラメントを2本撚り合わせたものを
更に3本撚り合わせた撚糸
・組織:31崩し(綾織、四つ綾(3/1))、経糸44本/5cm、緯糸40本/5cm
・目付:400g/m
【0086】
次に、以下の各層に対応する短繊維のカードおよび不織布を用意した。
第1のバット層:ナイロン6のステープルファイバー、繊度22dtex、目付400g/m、公定水分率 4.5%
第2のバット層:ナイロン6のステープルファイバー、繊度22dtex、目付100g/m、公定水分率 4.5%
第3のバット層:ナイロン6のステープルファイバー、繊度22dtex、目付100g/m、公定水分率 4.5%
【0087】
実施例1~4では、キュプラの不織布(公定水分率11%、目付20g/m、繊維径20μm、スパンボンド不織布をウオータージェット(水流絡合法)により加工したもの)を用い必要となる目付に応じて枚数を調節した。
実施例4~8では、レイヨンの不織布(公定水分率11%、目付20g/m、繊維径20μm、スパンボンド不織布)を用い必要となる目付に応じて枚数を調節した。
実施例9~12では、リヨセルの不織布(公定水分率13%、目付20g/m、繊維径16μm、スパンレース不織布)を用い必要となる目付に応じて枚数を調節した。
実施例13~15では、ナイロンの不織布(公定水分率4.5%、目付20g/m、繊維径18μm、スパンボンド不織布)を用い必要となる目付に応じて枚数を調節した。
【0088】
次に、第3のバット層のカード、基材、第1のバット層、第2のバット層の順で積層し、これに対してニードルパンチ処理を行い、実施例1~15、比較例の抄紙フェルトを製造した。なお、針打ち密度は4000回/inchであった(表面3000回/inch、裏面1000回/inch)。
【0089】
<2.評価>
(1)不織布の貫通抵抗
実施例1~15に用いた各不織布について、ニードル針の貫通抵抗を測定した。貫通抵抗は、図2に示す引張試験機を用いて圧縮試験を行うことにより行った。具体的には、治具101Bに、固定板109で挟んだ数枚の不織布30を固定した。ここで、不織布30は、その目付が100g/m付近となるように積層する枚数を調節した。
【0090】
このように、不織布30を固定した状態で、引張試験機を用いてニードル針103を不織布30側へ移動させてニードル針の第1バーブを不織布30に貫通させた。この際のニードル針103に負荷される抵抗力の最大値を貫通抵抗とした。また、ニードル針の本数は54本、針植え面積は602cm、針植え密度は0.090本/cm、ニードル針103の移動速度は、200mm/minであった。また、ニードル針としては、針番手32番手、ポイント径0.08mm、ポイント-第1バーブ間距離6.35mm、バーブデプス0.09mm、キックアップ0.01mm、バーブレングス0.5mmのものを用いた。
【0091】
以上のようにして得られた貫通抵抗を不織布30の目付100g/mあたり・ニードル針103が1本あたりとなるように換算して、不織布30の目付100g/m・ニードル針1本あたりの貫通抵抗を得た。具体的には、以下の式(1)に基づいて算出した。
【0092】
R=R÷WNWF×100÷NNDL (式1)
ここで、Rは、不織布30の目付100g/m・ニードル針1本あたりの貫通抵抗[N/(100g/m・本)]、Rは、不織布30のニードル針103貫通時の最大の抵抗力[N]、WNWFは、不織布30の合計目付(g/m)、NNDLは、ニードル針103の本数である。
【0093】
(2)搾水性
実施例1~15および比較例に係る抄紙フェルトについて、以下に示す方法で搾水性を評価した。図5は、搾水性試験の方法を説明するための模式図である。
【0094】
図5に示すように、まず、金属製の台座301上に、直径7cmに切り出した実施例1~15、比較例に係る抄紙フェルトFを配置し、抄紙フェルトFの含水率を30%に調節した。ここで、含水率は、抄紙フェルトと水との合計の質量で、水の質量を除したものをいう。
【0095】
次に、湿紙のモデルとしてのトイレットペーパーを3枚重ね、水で濡らして含水率を80%に調節した。含水率は、トイレットペーパーと水との合計の質量で、水の質量を除したものをいう。これを直径6cmに切り出して湿紙Wとし、抄紙フェルトF上に配置した。ここで、湿紙Wの乾燥重量は0.136g、湿紙W中の水分量は、0.544gであった。
【0096】
次に、金属製のトッププレート302(6kg)を湿紙Wの20cm上方から自由落下させプレスを行った。この時のプレス圧は50kg/cmとなるように調節されていた。なお、自由落下させたトッププレート302は、湿紙Wに衝突した後に反発して上方に移動する。したがって、1回目のプレス後にトッププレート302が上方に移動した時点でトッププレート302を固定し2回目のプレスが行われないように試験を行った。
【0097】
プレス後の湿紙Wの質量、湿紙Wの重量から湿紙Wの乾燥重量を減じた湿紙W中の水分量、湿紙Wの乾燥重量からプレス後の湿紙Wの含水率を求め、100からプレス後の湿紙Wの含水率を減じて得られた値をドライネスΔK(%)として求めた。本評価においてドライネスΔK(%)は、プレスにより減少した含水率の程度を表す。一般に、プレスパートにおける湿紙の含水率が1%減少すると、後段のドライヤーパートにおける乾燥に要するエネルギーが約4%削減できることが知られている。得られたドライネスΔK(%)とこれに基づく比較例からの推定の削減可能な乾燥エネルギーを表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1に示すように、実施例1~15に係る抄紙フェルトは、比較例に係る抄紙フェルトと比較して、プレス時における搾水性に大幅に優れており、実施例1~15に係る抄紙フェルトを用いた場合、好適に再湿現象が抑制されていることが示された。そして、実施例1~15に係る抄紙フェルトを用いることにより、プレスパートの後段のドライヤーパートにおいて、大幅な乾燥エネルギーの削減が可能であることが示唆された。
【0100】
また、実施例13~15と実施例5~8とを比較すると、これらに用いた不織布の貫通抵抗は同程度であるものの、同程度の目付で比較すると実施例5~8の抄紙フェルトの方が大幅に搾水性に優れていた。これは、不織布を構成する繊維の公定水分率が、実施例5~8のレイヨン繊維の方が大幅に大きく、このため、抄紙フェルト中の不織布が水分を保持して再湿現象を抑制したものと考えられる。
【0101】
なお、不織布の目付が大きくなるとドライネスが向上する傾向が観察された。一方で、不織布の目付を大きくしすぎると湿紙の種類や坪量によっては湿紙が破断する恐れがあるため、実機の抄紙機においては、適切な目付の不織布を選択することが必要である。
【符号の説明】
【0102】
1、1A、1B 抄紙フェルト
10 基材
20、20A、20B 第1のバット層
30、30A、30B 不織布
40 第2のバット層
41 湿紙担持面
50 第3のバット層
51 ロール接触面
【要約】
【課題】
湿紙の再湿現象を抑制し、プレス後の湿紙の含水量を十分に低減可能な抄紙フェルトおよび抄紙フェルトの製造方法を提供する。
【解決手段】
抄紙フェルトは、湿紙を担持する湿紙担持面を有する抄紙フェルトであって、基材と、前記基材の前記湿紙担持面側に配置され、短繊維を含んで構成されるバット層と、前記基材の前記湿紙担持面側に前記バット層と隣接して配置される、不織布とを含み、前記不織布は、目付100g/m・ニードル針1本あたりの貫通抵抗が2.0N/(100g/m・本)以下である。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5