(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】筋弛緩監視装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/395 20210101AFI20240604BHJP
【FI】
A61B5/395
(21)【出願番号】P 2023512936
(86)(22)【出願日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2022014069
(87)【国際公開番号】W WO2022215546
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2021064510
(32)【優先日】2021-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】521145026
【氏名又は名称】株式会社Medical Strings
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】杉 恭之
(72)【発明者】
【氏名】川上 由基人
(72)【発明者】
【氏名】太郎丸 眞
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0076982(US,A1)
【文献】特表2019-530528(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0245482(US,A1)
【文献】特開2000-342690(JP,A)
【文献】特開2015-066401(JP,A)
【文献】特表2015-506246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/395
A61B 5/11
A61N 1/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の筋に対し
複数回連続した刺激電流を供給する電流刺激手段と、
前記電流刺激手段によって刺激された筋の刺激反応を検出する反応検出手段と、
前記電流刺激手段から筋弛緩剤
投与前における患者の筋に対して段階的に増大させて供給される刺激電流
と当該刺激電流
の値に対応する刺激反応とを記録する記憶手段と、
各刺激電流の少なくとも一に対する刺激反応が飽和した
とする値を所定値とし、当該所定値に筋弛緩剤投与前において刺激反応が達した場合に、所定値に達する直前の
刺激反応に対応する前記記憶手段に記憶された刺激電流値を
、筋弛緩剤投与後の患者に供給する最適電流値として決定する制御手段とを備えることを特徴とする筋弛緩監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の筋弛緩監視装置において、
前記反応検出手段が、加速度センサ及び筋電センサであることを特徴とする筋弛緩監視装置。
【請求項3】
請求項2に記載の筋弛緩監視装置において、
前記制御手段が、刺激電流に関する供給当初近傍と飽和近傍とそれらの中間とにおける筋弛緩剤投与前の前記刺激電流に対する前記刺激反応の変化量をそれぞれ算出し、当該
変化量に基づいて患者が監視対象として適切か否かを判定することを特徴とする筋弛緩監視装置。
【請求項4】
請求項3に記載の筋弛緩監視装置において、
前記制御手段が、患者が監視対象として不適切であると判定した場合に、前記反応検出手段として前記加速度センサから前記筋電センサへの移行を決定することを特徴とする筋弛緩監視装置。
【請求項5】
患者の筋に対し刺激電流を供給する電流刺激手段と、
前記電流刺激手段によって刺激された筋の刺激反応を検出する反応検出手段と、
筋弛緩剤投与前における患者の筋に対して段階的に増大させて供給される刺激電流と、当該刺激電流値に対応する刺激反応とを記録する記憶手段と、
前記刺激反応が飽和した場合に飽和直前の刺激電流値を筋弛緩剤投与後の患者に供給する最適電流値として決定する制御手段とを備え、
前記反応検出手段が、加速度センサ及び筋電センサであり、
前記制御手段が、刺激電流に関する供給当初近傍と飽和近傍とそれらの中間とにおける筋弛緩剤投与前の前記刺激電流に対する前記刺激反応の変化量をそれぞれ算出し、当該変化量に基づいて患者が監視対象として適切か否かを判定することを特徴とする筋弛緩監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋弛緩状態を患者に過度の負担をかけることなく監視することができる筋弛緩監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の筋を十分に弛緩させることは、全身麻酔を行う上で欠くことのできない重要な条件である。筋を弛緩させる方法としては、中枢神経の抑制、抹消神経の遮断、神経筋接合部の遮断、筋自体の抑制などが挙げられ、筋弛緩剤は神経筋接合部の遮断によって骨格筋を可逆的に弛緩させるためのものである。
【0003】
また、手術中及び手術後における患者の筋弛緩状態を把握することも重要である。特に、手術後において、筋弛緩剤による残存弛緩が消失し、神経筋が回復したことを正確に監視・検出することは、拮抗薬の投与量を決定する要因であり、患者に挿管された人工呼吸器を取り外す指標となるためである。
【0004】
神経筋の回復を検出する手法として、医師の手感覚により、患者の握力から判断することも行われているが、定量的・客観的ではなく、患者の負担が大きくなってしまう懸念がある。
【0005】
そこで、神経筋の回復を定量的・客観的に評価するために、種々の検出装置が開発されている(例えば、特許文献1又は2)。
【0006】
従来の装置では、50mA程度の電気刺激を患者の手に与えて患者の筋肉を不随意に収縮させ、その動きの程度を加速度センサにより測定する。測定された刺激反応を見て、残存弛緩の消失と神経筋の回復状況とを判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-113085号公報
【文献】特開平10-57320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、刺激に対する筋の反応には個人差があり、すべての患者に同一の電気刺激を与える従来の手法では、患者にとって過剰な刺激となることがある。すなわち、患者によっては、覚醒後に電気刺激による痛みを感じてしまうという課題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、筋弛緩状態を患者に過度の負担をかけることなく監視することができる筋弛緩監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る筋弛緩監視装置は、患者の筋に対し刺激電流を供給する電流刺激手段と、電流刺激手段によって刺激された筋の刺激反応を検出する反応検出手段と、筋弛緩剤投入前における患者の筋に対して段階的に増大させて供給される刺激電流と、刺激電流値に対応する刺激反応とを記録する記憶手段と、刺激反応が飽和した場合に飽和直前の刺激電流値を筋弛緩剤投与後の患者に供給する最適電流値として決定する制御手段とを備える。
【0011】
このように本発明においては、記憶手段に、筋弛緩剤投入前における患者の筋に対して段階的に増大させて供給される刺激電流と、刺激電流値に対応する刺激反応とが記録され、制御手段が、飽和直前の刺激電流値を筋弛緩剤投与後の患者に供給する最適電流値として決定することから、個々の患者に応じて、供給する刺激電流を決定することができるとともに、電気刺激に対する患者の負担が小さく、筋弛緩状態を正確に検出できる飽和直前の刺激電流値を最適電流値とすることとなり、患者に過度の負担をかけることなく、かつ正確に筋弛緩状態を監視することができるという効果を有する。
【0012】
本発明に係る筋弛緩監視装置は、必要に応じて、反応検出手段が、筋電センサ及び加速度センサである。
【0013】
このように本発明においては、筋電センサ及び加速度センサを反応検出手段として利用することから、母指から加えられる力の強さをストレンゲージによって検出する場合に必要となる腕や手先を固定する固定台などが不要になることとなり、装置を小型化できるという効果を有する。
【0014】
本発明に係る筋弛緩監視装置は、必要に応じて、制御手段が、刺激電流に関する供給当初近傍と飽和近傍とそれらの中間とにおける筋弛緩剤投入前の刺激電流に対する刺激反応の変化量をそれぞれ算出し、変化量に基づいて患者が監視対象として適切か否かを判定する。
【0015】
このように本発明においては、患者が監視対象として適切か否かを刺激電流に対する刺激反応の変化量に基づいて判定することから、異なる刺激電流-刺激反応曲線を描く、筋や関節、神経系の疾患を患う患者と、これらの疾患を患っていない患者(健常者)とを区別することができることとなり、装置でのモニタリングに適した健常者のみを選択的に監視できるという効果を有する。
【0016】
本発明に係る筋弛緩監視装置は、必要に応じて、制御手段が、患者が監視対象として不適切であると判定した場合に、反応検出手段として加速度センサから筋電センサへの移行を決定する。
【0017】
このように本発明においては、患者が監視対象として不適切であると判定した場合に、反応検出手段として筋電センサへの移行を決定する制御手段を有していることから、患者由来の疾患ではなく、加速度センサの故障等による監視対象として不適切との判定を受けた場合に、筋の加速度変化によらない筋電センサでの筋弛緩状態の監視を促すこととなり、より確実に患者の筋弛緩状態を把握することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る筋弛緩監視装置の概略構成を示す全体構成図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る筋弛緩監視装置の本体部における装置ブロック図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る筋弛緩監視装置における最適電流値の決定処理動作を示すフローチャートである。
【
図4】健常者の刺激電流に対する刺激反応の変化を示すグラフである。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る筋弛緩監視装置において測定された健常者等の刺激電流に対する刺激反応の変化を示すグラフである。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る筋弛緩監視装置における監視対象としての適否の判定処理動作を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る筋弛緩監視装置における監視対象としての適否の判定処理動作の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。また、本実施形態の全体を通して、同じ要素には同じ符号を付している。
【0020】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る筋弛緩監視装置を
図1ないし
図3を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る筋弛緩監視装置の概略構成を示す全体構成図であり、
図2は、本実施形態に係る筋弛緩監視装置の本体部における装置ブロック図であり、
図3は、本実施形態に係る筋弛緩監視装置における最適電流値の決定処理動作を示すフローチャートである。
【0021】
図1に示すように、筋弛緩監視装置1は、バンド50等を介して、患者100の前腕部分に固定・支持される本体部10と、患者100の前腕の尺骨神経近傍に装着され、配線40、41を介して尺骨神経に刺激電流を供給する、電流刺激部に対応した電極クリップ20及び21と、配線42を介して患者100の母指内転筋近傍となる母指末節及び母指球に装着されて筋電位を測定する、反応検出部に対応した筋電センサ30と、患者100の母指末節に筋電センサ30と一体的に構成されて装着され、筋の加速度変化を測定する、反応検出部に対応した加速度センサ31とを備える。筋弛緩監視装置1は、無線又は有線で図示しない医療用テレメータなどに接続される。
【0022】
本体部10は、医療従事者からの各種指示が入力される操作部としての操作ボタン10aと、設定メニューや操作メニュー等を表示するディスプレイ10bとを備える。ディスプレイ10bは、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro Luminescence)等のカラーディスプレイ又はモノクロのディスプレイである。
なお、操作ボタン10aとディスプレイ10bとは、いわゆるタッチパネルのように一体的に構成されていてもよい。
【0023】
電極クリップ20及び21は、電極パッド22及び23を介して、患者100の手の尺骨神経近傍となる前腕(手首側)に装着される。患者100への装着を確実にするために、電極パッド22及び23の表面には、粘着剤が塗布されていてもよい。
【0024】
筋電センサ30は、母指内転筋近傍となる母指末節及び母指球に装着される、電極パッド30a及び30bと、アース電極30cから構成される。
【0025】
加速度センサ31は、患者100の母指末節に、筋電センサ30の電極パッド30aと一体的に構成されて装着される。
加速度センサ31としては、特に制限されるものではないが、例えば、3軸加速度センサを用いることができる。加速度センサ31として3軸加速度センサを使用した場合、3Dセンサの直交する3方向ベクトルの総和を運動量として検出する。
【0026】
このように、加速度センサ31(又は筋電センサ30)を反応検出部として利用することから、母指から加えられる力の強さをストレンゲージによって検出する場合に必要となる腕や手先を固定する固定台などが不要となることとなり、装置を小型化できる。
【0027】
電極クリップ20及び21、並びに筋電センサ30及び加速度センサ31の装着位置の組み合わせとしては、尺骨神経/母指内転筋の他、尺骨神経/小指外転筋、尺骨神経/第一背側骨間筋、後脛骨神経/短母趾屈筋、顔面神経/眼輪筋、顔面神経/皺眉筋などの筋の直接刺激を避けられ、単収縮をより明瞭に検出できる神経筋部位に装着するようにしてもよい。
【0028】
配線40ないし42は、絶縁された状態で配線束として収束され、コンパクト化が図られて、本体部10に接続される。
【0029】
なお、刺激電極(電極パッド22及び23に相当)、並びに筋電センサ30及び加速度センサ31は、本体部10と無線で接続されるように構成してもよい。また、刺激電極、並びに筋電センサ30及び加速度センサ31すべてを一体的に備えた構成としてもよい。
【0030】
次に、筋弛緩監視装置1における本体部10の内部構成について説明する。
【0031】
筋弛緩監視装置1は、
図2に示すように、患者100の筋に対し刺激電流を供給する電流刺激部11と、電流刺激部11によって刺激された筋の刺激反応を検出する反応検出部12と、筋弛緩剤投入前における患者100の筋に対して段階的に増大させて供給される刺激電流と、当該刺激電流値に対応する刺激反応とを記録する記憶部13と、刺激反応が飽和した場合に飽和直前の刺激電流値を筋弛緩剤投与後の患者100に供給する最適電流値として決定する制御部14とを備える。
筋弛緩監視装置1は、更に、操作部15、表示部16、入出力部17等を備える。
【0032】
電極クリップ20及び21に対応する電流刺激部11は、制御部14からの命令に基づいて、患者100の筋に対して、所定の刺激電流(詳細は後述する)を所定の刺激パターンで供給する。
【0033】
刺激パターンとしては、単収縮刺激、四連(TOF:Train Of Four)刺激、ダブルバースト刺激、テタヌス刺激、ポストテタニックカウント(PTC)などから適宜選択可能である。
【0034】
このうち、TOF刺激とは、例えば、0.5秒ごとの4連続刺激を1セットとして、これを繰り返しながら対象とする神経を刺激するものである。この場合、刺激頻度は2回/秒となり、2Hzに相当する。各セット間は、神経の刺激に対する反応性が再生するように、適切な時間間隔(例えば、10ないし20秒間)をあけて設定される。
【0035】
筋電センサ30及び加速度センサ31に対応する反応検出部12は、電流刺激部11によって刺激された筋の刺激反応を検出する。例えば、電流刺激部11において、刺激パターンとしてTOF刺激を選択した場合には、1回目の筋の収縮(T1)から4回目の筋の収縮(T4)までの刺激反応(刺激強度)を患者100の母指末節に配設された筋電センサ30及び加速度センサ31からの電気信号として検出する。筋電センサ30からの電気信号は、図示しない増幅器によって増幅されて、反応検出部12に刺激反応を送信する。
反応検出部12は、検出したT1ないしT4の刺激反応を制御部14に送信する。
【0036】
制御部14は、筋弛緩監視装置1の各種制御を行うCPU(central processing unit)や、CPUが筋弛緩監視装置1を制御するために実行する各種プログラム、各種データが記憶された内部メモリなどを備える。制御部14は、内部メモリに格納されたデータ及びプログラムを読み出して種々の演算処理を行い、各種の機能を実現する。
【0037】
制御部14は、電流刺激部11を介して患者100の筋に供給する刺激電流値を記憶部13に格納するとともに、反応検出部12から送信された、供給した刺激電流値に対応する刺激反応を記憶部13に格納する。また、後述するように、記憶部13に格納されている測定データのうち、刺激反応が飽和する直前の刺激電流値を筋弛緩剤投与後の患者100に供給する最適電流値として決定する。
【0038】
操作ボタン10aに対応する操作部15は、筋弛緩監視装置1に各種入力を行うためのインターフェイスである。
【0039】
ディスプレイ10bに対応する表示部16は、筋弛緩監視装置1が患者100に行っている実行プログラムや、患者100に供給している刺激電流値、刺激パターン、筋電センサ30及び加速度センサ31により検出された刺激反応などを表示する。
【0040】
入出力部17は、無線又はケーブル線を介して、医療用テレメータとのデータ送受信を行う。入出力部17は、アンテナや電気コネクタ等から構成される。例えば、入出力部17は、患者100に供給した刺激電流値や反応検出部12が検出する刺激反応等を医療用テレメータに送信する。
【0041】
次に、本実施形態に係る筋弛緩監視装置1における最適電流値の決定処理動作について説明する。反応検出部12に対応するセンサとしては、筋電センサ30及び加速度センサ31のいずれを用いてもよいが、以下では、加速度センサ31を用いた場合を例にとって説明する。
【0042】
まず、医療従事者が、筋弛緩剤投与前の患者100に装着された筋弛緩監視装置1の本体部10における操作ボタン10aを操作して患者100の最適電流値の測定メニューを選択すると、操作部15から制御部14へ入力信号が送信される。すると、制御部14が、患者100に対して、所定の刺激パターンで刺激電流初期値を供給するように電流刺激部11に命令を送信する(ステップS100)。
【0043】
具体的には、例えば、患者100に対して、刺激パターンとしてTOF刺激、刺激電流初期値として10mAで神経刺激する。
【0044】
次に、反応検出部12が患者100の筋の収縮による加速度センサ31からの電気信号(刺激反応)を受信すると、当該刺激反応を制御部14へ送信する(ステップS110)。制御部14は、電流刺激部11に送信した刺激電流値と当該刺激電流値に応じた刺激反応とを、少なくとも最適電流値の決定処理動作が終了するまで一時的に記憶部13に格納する(ステップS120)。
【0045】
具体的には、例えば、刺激パターンとしてTOF刺激を選択した場合には、1回目の筋の収縮(T1)における刺激反応を刺激電流値に応じた刺激反応として、制御部14が記憶部13に格納する。
【0046】
次に、制御部14は、反応検出部12から送信された刺激反応があらかじめ設定された所定値を超えたか否かを判定する(ステップS130)。
【0047】
ここで、刺激反応の所定値とは、供給刺激電流に対し、刺激反応が飽和するときの値である。
図4に示すように、刺激電流に対する刺激反応は、筋電センサ30及び加速度センサ31のいずれを用いた場合でも、任意の刺激電流(患者ごとに異なる)に対し、一定の値で飽和する(変化しない)ことが知られている。本実施形態においては、この飽和刺激反応を刺激反応の所定値とする。
【0048】
制御部14は、刺激反応が所定値を超えない場合(ステップS130:NO)には、刺激電流初期値を段階的に増加させた刺激電流値を新たに設定(ステップS160)し、刺激反応が所定値を超えるまでステップS110ないしステップS130及びステップS160までを繰り返し実行する。
【0049】
具体的には、例えば、刺激電流初期値を患者100に供給してから1秒後に、刺激電流初期値10mAから5mA増大させた刺激電流を患者100に供給して神経刺激し、刺激反応が所定値を超えるまで1秒間隔で刺激電流を5mAずつ段階的に増大させながら神経刺激を繰り返す。
【0050】
制御部14は、刺激反応が所定値を超えた場合(ステップS130:YES)には、患者100への刺激電流の供給を停止し、記憶部13に記憶されている、刺激反応が所定値を超える直前の刺激電流値を最適電流値として決定(ステップS140)し、当該最適電流値を記憶部13に格納(ステップS150)し、最適電流値の決定処理動作を終了する。
【0051】
具体的には、例えば、刺激電流45mAで刺激反応が所定値を超えた場合には、その直前の刺激電流値である40mAを最適電流値として決定・記憶する。
【0052】
このようにして決定された最適電流値は、ディスプレイ10bに表示される。
【0053】
また、制御部14が、入出力部17を介して、決定された最適電流値を医療用テレメータに送信し、医療用テレメータにおいて患者情報と紐づけて記憶させ、表示するようにしてもよい。
【0054】
筋弛緩剤投与後(手術中及び手術後)は、上記のようにして決定された最適電流値を用いて、加速度センサ31にて患者100の筋弛緩状態、回復状態を把握する。
【0055】
この際、手術前(筋弛緩剤投与前)に制御部14が正規化処理(ノーマライズ)を実施してもよい。例えば、刺激パターンとしてTOF刺激を用いる場合、1回目の筋の収縮(T1)の刺激反応に対する4回目の筋の収縮(T4)の刺激反応の比(TOF比:T4/T1)が1を超えてしまうときがある。これは、刺激電流に対して関節が慣れて関節の動きが滑らかとなってしまい、4回目の刺激反応(刺激強度)が1回目の刺激反応(刺激強度)よりも大きな値となってしまうためである。
そこで、患者100の手術に入る前の装置によるモニタリング段階において、TOF比:T4/T1を1とする正規化処理を実施する。具体的には、手術前においてT4/T1=1.2となっている場合には、この値を1とする正規化処理を行う。この例では、以後、すべてのTOF比をT4/T1×1/1.2と処理する。
【0056】
加速度センサ31による患者100の筋弛緩状態、回復状態の把握は、例えば、患者100の回復状態を刺激パターンとしてTOF刺激を用いて判定する場合、まず、制御部14が、患者100の最適電流値を記憶部13から取り出して、当該最適電流値にて患者100に対し刺激電流を供給するように電流刺激部11に命令する。電流刺激部11は、電極クリップ20、21を介して患者100を神経刺激し、当該神経刺激に対する患者100の筋の収縮を加速度センサ31からの電気信号として反応検出部12が受信する。
次に、制御部14は、反応検出部12から送信された刺激反応に基づいて、1回目の筋の収縮(T1)の刺激反応に対する4回目の筋の収縮(T4)の刺激反応の比(TOF比:T4/T1)を算出する。刺激反応は、1回目から4回目までに次第に減少するため、TOF比を観察することによって患者100の回復状態を容易に把握することができる。例えば、このTOF比がT4/T1>0.9(正規化処理後)との条件を満たした場合に、制御部14は、患者100が回復状態にあると判定し、これをディスプレイ10bや入出力部17を介して医療用テレメータに表示する。
これを受けて、医療従事者が患者100に挿管された人工呼吸器の取り外しなどを行い、患者100の筋弛緩状態の監視が終了する。
【0057】
以上のように、記憶部13に、筋弛緩剤投入前における患者100の筋に対して段階的に増大させて供給される刺激電流と、刺激電流値に対応する刺激反応とが記録され、制御部14が、飽和直前の刺激電流値を筋弛緩剤投与後の患者100に供給する最適電流値として決定することから、個々の患者に応じて、供給する刺激電流を決定することができるとともに、電気刺激に対する患者の負担が小さく、筋弛緩状態を正確に検出できる飽和直前の刺激電流値を最適電流値とすることとなり、患者100に過度の負担をかけることなく、かつ正確に筋弛緩状態を監視することができる。
【0058】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る筋弛緩監視装置について、
図5ないし
図7を用いて説明する。
図5は、本実施形態に係る筋弛緩監視装置において測定された健常者等の刺激電流に対する刺激反応の変化を示すグラフであり、
図6は、本実施形態に係る筋弛緩監視装置における監視対象としての適否の判定処理動作を示すフローチャートであり、
図7は、本実施形態に係る筋弛緩監視装置における監視対象としての適否の判定処理動作の他の例を示すフローチャートである。
なお、本実施形態において上記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0059】
制御部14は、筋弛緩剤投与前の患者100について、刺激電流に関する供給当初近傍と飽和近傍とそれらの中間とにおける筋弛緩剤投入前の刺激電流に対する刺激反応の変化量をそれぞれ算出し、当該変化量に基づいて患者が監視対象として適切か否かを判定する。
【0060】
リウマチ患者や筋委縮患者(例えば、透析患者)のように関節や筋に異常がある患者は、このような異常のない患者(以下、健常者とする)と異なる刺激反応を示す。
【0061】
図5に示すように、患者100が健常者である場合、刺激電流の供給当初である領域Aでわずかに刺激反応が観測され、続く領域Bにおいて刺激反応が急激に立ち上がり、領域Cでは刺激電流に対する刺激反応が飽和し、ほとんど刺激反応の変化が見られない。本実施形態においては、領域Bとして、刺激電流15ないし30mAの範囲で設定しているがこの限りではなく、健常者が示す刺激電流-刺激反応曲線に基づいて、適宜設定される。
すなわち、健常者の各領域における刺激電流値に対する刺激反応の変化量R
AないしR
Cは、以下の関係を示す。
【0062】
RA<RB、RC<RB
【0063】
ここで、各領域における刺激電流に対する刺激反応の変化量とは、隣接する領域との境界上のデータを含む複数のデータのうち、連続又は不連続の任意の二つの測定データから算出されるものである。
例えば、
図5に示す例では、領域Bにおける健常者の刺激電流に対する刺激反応の変化量R
Bは、
R
B=(I2-I1)/(C2-C1)
で算出される。
【0064】
任意の二つの測定データを選択する際には、各領域において、刺激電流値C1と刺激電流値C2との差が大きいデータを選択することが、各領域における近似曲線の特性をより顕著に表すことから好ましい。
また、各領域において、連続する二つの測定データについての変化量をすべて算出し、これらの平均値を刺激電流に対する刺激反応の(平均)変化量としてもよい。
【0065】
これに対し、リウマチ・筋委縮患者は、健常者を示す曲線の領域A及び領域Bに対応する領域において刺激反応の立ち上がりがほとんど見られず、領域Cに対応する領域において刺激反応がわずかに観測されるようになる。
すなわち、リウマチ・筋委縮患者の各領域における刺激電流に対する刺激反応の変化量RAないしRCは、以下の関係を示す。
【0066】
RA<RC、RB<RC
【0067】
以上のように、健常者と、リウマチ・筋委縮患者との間では、刺激電流に対する刺激反応が異なり、十分な刺激反応を観測することができない。これは、リウマチ・筋委縮患者が加速度センサを用いた筋弛緩状態の監視対象として不適切であることを意味する。
【0068】
そこで、本実施形態に係る筋弛緩監視装置1では、刺激電流に対する刺激反応の変化量から、患者100が監視対象として適切か否かを判定するものである。
【0069】
以下に、本実施形態に係る筋弛緩監視装置1における監視対象としての適否の判定処理動作について説明する。この適否判定処理動作は、上記第1の実施形態において説明した最適電流値の決定処理動作と並行して実施されるが、これに限定されない。
【0070】
まず、制御部14は、電流刺激部11に送信した刺激電流値、及びこれに対応する、反応検出部12から受信した刺激反応から、あらかじめ設定された領域AないしCにおいて、刺激電流に対する刺激反応の変化量を随時算出する(ステップS200)。
【0071】
例えば、領域AないしCの刺激電流値として、領域A:10ないし15mA、領域B:15ないし30mA、領域C:30mAないし最大刺激電流値、と設定される。
【0072】
その結果、算出された変化量がRA<RB、RC<RBを満たす場合(ステップS210:YES)には、患者100が健常者であることから、筋弛緩監視装置1における監視対象として適切であると判定(ステップS220)し、その旨をディスプレイ10b、医療用テレメータ等に表示して、適否判定処理動作を終了する。
患者100が監視対象として適切であると判定された場合は、筋弛緩剤投与後も、最適電流値の決定処理動作で決定された最適電流値を用いて、加速度センサ31にて患者100の筋弛緩状態、回復状態を把握する。
【0073】
算出された変化量がRA<RB、RC<RBを満たさない場合(ステップS210:NO)には、患者100が筋弛緩監視装置1における監視対象として不適切であると判定(ステップS230)し、その旨をディスプレイ10b、医療用テレメータ等に表示する。この際、不適切であることを警告音等により医療従事者に報知するようにしてもよい。
【0074】
なお、患者100が監視対象として不適切であると判定された場合には、医療従事者による経験則や従来採用されているデフォルトでの刺激電流(例えば、すべての患者で同一の刺激電流値)に基づいて、患者100の筋弛緩状態を把握することとなる。
【0075】
患者100が監視対象として不適切であると判定される原因として、患者100の疾患とは別に、加速度センサ31の故障等に起因して正確なデータが得られないことが挙げられる。また、手術中におけるシーツとの擦過や外部からの応力、母指以外の部位の運動(体動)でも加速度センサ31が反応するといった要因が挙げられる。
【0076】
そこで、適否判定処理動作において、制御部14が、筋弛緩剤投与前の患者100の最適電流値の決定手段として、加速度センサ31から筋電センサ30への移行を決定(ステップS240)し、これを警告音等により医療従事者に報知するように構成してもよい。
以上のようにして、適否判定処理動作を終了する。
【0077】
筋電センサ30への移行決定後は、制御部14が、患者100の刺激反応を検出する媒体として、反応検出部12として加速度センサ31から筋電センサ30へ切り替えて、筋電センサ30を用いた最適電流値の決定処理動作や適否判定処理動作(筋電センサへの移行決定を除く)を実施する。
適否判定処理動作において、患者100が監視対象として適切であると判定された場合(すなわち、加速度センサ31に故障等の原因があった場合)には、筋弛緩剤投与後は、最適電流値の決定処理動作で決定された最適電流値を用いて、筋電センサ30にて患者100の筋弛緩状態、回復状態を把握し、患者100が監視対象として不適切であると判定された場合には、医療従事者による経験則や従来採用されているデフォルトでの刺激電流に基づいて、患者100の筋弛緩状態を把握することとなる。
【0078】
なお、ステップS210では、RA<RB、RC<RBの両条件を満たすか否かを判定条件としたが、領域BにおけるRBの算出が終了した時点で患者100が監視対象として適切か否かを判定するようにしてもよい。
【0079】
すなわち、患者100がリウマチ・筋委縮患者であれば、領域AにおけるRAと領域BにおけるRBとの大きさにほとんど違いが見られないため、領域BにおけるRBが領域AにおけるRAとの関係で閾値を超えていない場合には、監視対象として不適切であると判定することもできる。
【0080】
具体的には、例えば、
図7に示すように、領域A及びBにおける刺激電流に対する刺激反応の変化量を算出(ステップS300)後、領域AにおけるR
Aと領域BにおけるR
BとがR
A×n<R
Bを満たす場合(ステップS310:YES)には、患者100が筋弛緩監視装置1における監視対象として適切であると判定(ステップS220)し、R
A×n<R
Bを満たさない場合(ステップS310:NO)には、患者100が筋弛緩監視装置1における監視対象として不適切であると判定(ステップS230)する。ここで、nは少なくとも1以上の値から適宜設定される。
【0081】
このように、領域Bの測定が終了した時点で、患者100が監視対象として適切か否かを判定することができる。最適電流値の決定処理動作と適否判定処理動作とを並行して行っていれば、不適切であると判定された時点において、それ以降の最適電流値の決定処理動作を中断・停止させることがき、監視対象として不適切とされた患者100に余計な刺激電流を供給する必要がなく、患者100の刺激電流に対する負担を軽減することができる。
【0082】
また、測定データ及び/又は測定データから導出される近似曲線をディスプレイ10bや医療用テレメータ等に表示させるようにしてもよい。これにより、医療従事者が、患者100の監視対象としての適否を視覚的にも判断することができる。
【0083】
以上のように、患者100が監視対象として適切か否かを刺激電流に対する刺激反応の変化量に基づいて判定することから、異なる刺激電流-刺激反応曲線を描く、筋や関節などの疾患を患う患者と、これらの疾患を患っていない患者(健常者)とを区別することができることとなり、装置でのモニタリングに適した健常者のみを選択的に監視できるという効果を有する。
【0084】
また、患者100が監視対象として不適切であると判定した場合に、反応検出部12として筋電センサ30への移行を決定する制御部14を有していることから、患者100由来の疾患ではなく、加速度センサ31の故障等による監視対象として不適切との判定を受けた場合に、筋の加速度変化によらない筋電センサ30での筋弛緩状態の監視を促すこととなり、より確実に患者100の筋弛緩状態を把握することができるという効果を有する。
【0085】
(その他の実施形態)
その他の実施形態に係る筋弛緩監視装置について説明する。
なお、本実施形態において上記各実施形態と重複する説明は省略する。
【0086】
本実施形態に係る筋弛緩監視装置1は、筋弛緩監視装置1起動後に、加速度センサ31の故障の有無を判定するものである。
【0087】
加速度センサ31は、落下などにより定格以上の加速度が加えられたり、運搬時に衝突したりすることによって出力値に誤差が生じ、正常な出力値を出力できなくなる可能性がある。このような状態で、最適電流値の決定処理動作や適否判定処理動作を実施しても、患者100に無駄な負担をかけてしまうだけである。
【0088】
そこで、本実施形態では、最適電流値の決定処理動作や適否判定処理動作を実施する前に加速度センサ31の故障判定処理を実施するものである。
【0089】
まず、筋弛緩監視装置1の電源をONとした後、自動で又は医療従事者が測定メニューから加速度センサ31の故障診断を選択することにより、交流電圧を印可して加速度センサ31の振動子を励振させる。
【0090】
次に、制御部14が、振動子の励振による加速度センサ31からの出力信号を反応検出部12を介して受信し、この出力信号が閾値よりも大きい場合には、加速度センサ31が故障していない(良品である)と判定し、出力信号が閾値よりも小さい場合には、加速度センサ31が故障している(不良品)であると判定し、故障判定処理を終了する。制御部14は、判定結果をディスプレイ10bや医療用テレメータに表示するとともに、加速度センサ31が故障していると判定した場合には、警告音等により医療従事者に報知する。
【0091】
また、加速度センサ31が故障していると判定された場合、制御部14は、反応検出部12として加速度センサ31から筋電センサ30への移行を決定し、これを医療従事者に報知するようにしてもよい。
【0092】
なお、上記各実施形態では、反応検出部12として加速度センサ31を例にとって最適電流値の決定処理動作や適否判定処理動作を説明したが、筋電センサ30を利用してもよい。すなわち、加速度センサ31を使用せずに、筋電センサ30を反応検出部12として、最適電流値の決定処理動作や適否判定処理動作(筋電センサへの移行決定を除く)を行ってもよい。
【0093】
また、手術中において、TOF比が所定の数値となったことを警告音等により医療従事者に報知する報知処理を制御部14が実施してもよい。例えば、TOF比T4/T1が0.25を超えると患者100に体動が見られる可能性があり、手術に支障をきたすおそれがある。そこで、手術に支障をきたすような一又は複数のTOF比をあらかじめ筋弛緩監視装置1(内部メモリなど)に入力、設定しておき、手術中において測定されるTOF比が設定されたTOF比となった場合に、警告音等により医療従事者に報知するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 筋弛緩監視装置
10 本体部
10a 操作ボタン
10b ディスプレイ
11 電流刺激部
12 反応検出部
13 記憶部
14 制御部
15 操作部
16 表示部
17 入出力部
20、21 電極クリップ
22、23 電極パッド
30 筋電センサ
30a、30b 電極パッド
30c アース電極
31 加速度センサ
40、41、42 配線
50 バンド
100 患者