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特許7497798マーカ、自動運転車、及び自動運転システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】マーカ、自動運転車、及び自動運転システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/06 20060101AFI20240604BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20240604BHJP
   G05D 1/43 20240101ALI20240604BHJP
【FI】
B60W30/06
B60W60/00
G05D1/43
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020102361
(22)【出願日】2020-06-12
(65)【公開番号】P2021194993
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000198363
【氏名又は名称】IHI運搬機械株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】巽 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂野 瑛彦
(72)【発明者】
【氏名】大前 学
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-109815(JP,A)
【文献】特開2018-112506(JP,A)
【文献】特開2005-322155(JP,A)
【文献】特開2005-164323(JP,A)
【文献】特開2018-136186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/06
B60W 60/00
G05D 1/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動運転車が自動で走行路を走行して所定の駐車スペースに停車する駐車場であり、前記走行路を含む内部空間の上方に当該内部空間を上方から覆う遮蔽構造物が設けられている前記駐車場において、自動運転車の自己位置の推定に利用されるために設けられたマーカであって、
前記マーカは、前記走行路を走行中の自動運転車のレーザセンサが計測可能な位置に前記走行路に沿って断続的に設けられ、
前記走行路は、前記自動運転車の進行方向に延びるものであり、
前記マーカの形状と寸法の一方又は両方は、前記走行路が延びる方向における該走行路上の位置に応じて変化し続け、
断続的に設けられた前記マーカの各形状と各寸法の一方又は両方と、前記走行路が延びる方向における該走行路上の位置とは、一義的に対応する、マーカ。
【請求項2】
自動運転車が自動で走行路を走行して所定の駐車スペースに停車する駐車場であり、前記走行路を含む内部空間の上方に当該内部空間を上方から覆う遮蔽構造物が設けられている前記駐車場において、自動運転車の自己位置の推定に利用されるために設けられたマーカであって、
前記マーカは、前記走行路を走行中の自動運転車のレーザセンサが計測可能な位置に設けられ、
前記走行路は、前記自動運転車の進行方向に延びるものであり、
さらに前記マーカは、前記走行路に沿って該走行路が延びる方向に不連続に延びるように前記走行路の路面に設けられた不連続線であり、
当該不連続線は、間隔をおいて設けられた多数の線分領域により構成され、
多数の前記線分領域の長さ若しくは幅と、隣接する前記線分領域同士の間隔との一方又は両方は、前記走行路が延びる方向における該走行路上の位置に応じて変化し続け、
前記線分領域の各長さ若しくは各幅と、隣接する前記線分領域同士の各間隔との一方又は両方と、前記走行路が延びる方向における該走行路上の位置とは、一義的に対応する、マーカ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマーカの座標データが含まれ予め作成された前記駐車場内の地図が表された地図データを記憶している記憶部と、
動運転車から各射出方向にレーザ光を射出し、前記射出方向毎に、前記レーザ光の反射光に基づいて、前記駐車場における物体の計測情報を生成するレーザセンサと、
生成された前記計測情報と、前記地図データとに基づいて、前記自動運転車の位置を推定する位置推定部と、を備える、自動運転車。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のマーカと、請求項3に記載の自動運転車とを備える自動運転システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS等のGNSS(Global Navigation Satellite System)の電波を受信できない駐車場において自動運転車の位置を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動で走行可能な自動車(以下で単に自動運転車という)は、GNSSにおける複数の衛星からの電波を受信し、当該電波に含まれる情報に基づいて自己位置を推定し、この自己位置を用いて自己の自動走行を制御している。例えば、自動運転車に搭載された制御部は、推定された上記自己位置と、予め記憶している地図データとに基づいて、地図データに設定された目的地へ走行するように、自動運転車の走行を制御している。GNSSを利用した自動走行技術は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/207987号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、屋根を有する駐車場内では、屋根(天井)によりGNSSの電波を受信できないので、自動運転車は、自己位置を求めることができず、その結果、GNSSを利用した自動運転車の自動走行が困難となる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、GNSSの電波を受信できない駐車場内において、自動運転車の自己位置を推定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明によると、自動運転車が自動で走行路を走行して所定の駐車スペースに停車する駐車場であり、前記走行路を含む内部空間の上方に当該内部空間を上方から覆う遮蔽構造物が設けられている前記駐車場において、自動運転車の自己位置の推定に利用されるために設けられたマーカであって、
前記マーカは、前記走行路を走行中の自動運転車のレーザセンサが計測可能な位置に前記走行路に沿って断続的に設けられ
前記走行路は、前記自動運転車の進行方向に延びるものであり、
前記マーカの形状と寸法の一方又は両方は、前記走行路が延びる方向における該走行路上の位置に応じて変化し続け、
断続的に設けられた前記マーカの各形状と各寸法の一方又は両方と、前記走行路が延びる方向における該走行路上の位置とは、一義的に対応する、マーカが提供される。
または、上述の目的を達成するため、本発明によると、自動運転車が自動で走行路を走行して所定の駐車スペースに停車する駐車場であり、前記走行路を含む内部空間の上方に当該内部空間を上方から覆う遮蔽構造物が設けられている前記駐車場において、自動運転車の自己位置の推定に利用されるために設けられたマーカであって、
前記マーカは、前記走行路を走行中の自動運転車のレーザセンサが計測可能な位置に前記走行路に沿って断続的に設けられ、
前記走行路は、前記自動運転車の進行方向に延びるものであり、
前記マーカの形状と寸法の一方又は両方は、前記走行路が延びる方向における該走行路上の位置に応じて変化し続け、
断続的に設けられた前記マーカの各形状と各寸法の一方又は両方と、前記走行路が延びる方向における該走行路上の位置とは、一義的に対応する、マーカが提供される。
【0007】
また、本発明によると、上述のマーカの座標データが含まれ予め作成された前記駐車場内の地図が表された地図データを記憶している記憶部と、
動運転車から各射出方向にレーザ光を射出し、前記射出方向毎に、前記レーザ光の反射光に基づいて、前記駐車場における物体の計測情報を生成するレーザセンサと、
生成された前記計測情報と、前記地図データとに基づいて、前記自動運転車の位置を推定する位置推定部と、を備える、自動運転車が提供される。
【0008】
また、本発明によると、上述のマーカと上述の自動運転車を備える自走運転システムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、走行路を含む内部空間の上方に当該内部空間を上方から覆う遮蔽構造物が設けられている駐車場において、自動運転車の自己位置の推定に利用されるためのマーカが、走行路を走行中の自動運転車のレーザセンサが計測可能な位置に設けられている。したがって、自動運転車は、駐車場内の走行路を走行中にレーザセンサでマーカを計測して、その計測情報と、記憶されている地図データにおけるマーカの座標データとに基づいて、自己位置を推定することができる。
よって、遮蔽構造物のためにGNSSの電波が受信できない駐車場内において、自動運転車は自己位置を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態による自動運転システムにおける駐車場の1階を示す平面図である。
図2】駐車場の2階を示す平面図である。
図3】駐車場の3階を示す平面図である。
図4】自動運転車の概略側面図である。
図5】自動運転車の概略平面図である。
図6】自動運転車の各部を示すブロック図である。
図7A図2の7A-7A矢視図である。
図7B図2の7B-7B矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0012】
(駐車場の構成)
図1図3は、本発明の実施形態による自動運転システム100における駐車場10の一例を示す。図1は、駐車場10の1階を示し、図2は、駐車場10の2階を示し、図3は、駐車場10の3階を示す。自動運転システム100は、駐車場10又は後述のマーカと、自動運転車20とを備える。自動運転車20は、公道から駐車場10の内部空間の走行路R1,R1s,R2,R2s,R3,R3sへ走行可能である。この駐車場10において、自動運転車が自動で走行路を走行して所定の駐車スペースSに停車する。駐車場10は、図1図3のように、複数階を有していてよいが、1つの階のみを有するものであってもよい。
【0013】
<遮蔽構造物>
駐車場10において、走行路および多数の駐車スペースSを含む内部空間の上方に当該内部空間を上方から覆う遮蔽構造物11(例えば天井、屋根など)が設けられている。この遮蔽構造物11は、図1図3の例では、一点鎖線で囲んだ領域にわたって設けられ、当該図の示す階の内部空間の上方に設けられた構造物(天井、当該階よりも上方の階の床などの構造物、又は、屋根など)である。遮蔽構造物11が原因で、走行路を走行中の自動運転車20はGNSSの衛星からの電波を受信できない。
【0014】
なお、本発明が適用可能な駐車場10は、図1図3の例に限定されず、自動車が走行可能な走行路R1,R1s,R2,R2s,R3,R3sが設けられており、複数の駐車スペースSが走行路に隣接して設けられている駐車場10であって、屋根又は天井が設けられていることによりGNSSの電波が受信できない領域を有する駐車場10であればよい。
【0015】
<走行路>
図1図3の例に示すように、本実施形態による駐車場10は、自走式駐車場10であり、自動運転車20が走行可能な走行路が設けられている。自動運転車20は、駐車場10の入口(図1では出入口E1又はE2)から駐車場10内の各駐車スペースSまで走行路上を走行可能であり、駐車場10内の各駐車スペースSから駐車場10の出口(図1では出入口E1又はE2)まで走行路上を走行可能である。なお、自動運転車20に加えて、自動運転されない自動車が、駐車場10を利用してもよい。
【0016】
走行路として、図1図3では、走行路R1,R1s,R2,R2s,R3,R3sが設けられているが、以下において、これらを区別する必要がない場合には、単に走行路Rという。すなわち、以下において、走行路Rは、各走行路R1,R1s,R2,R2s,R3,R3sを意味してよい。
【0017】
図1図3では、走行路Rは、2点鎖線により区画された領域である。これらの図において、当該領域内に、自動車の進行方向を示す複数の破線矢印が描かれている。走行路Rは、図1図3のように、互いに反対方向に自動車が走行する2車線が互いに隣接し且つ並行に延びているものであってよい。
【0018】
また、走行路Rに隣接するように、多数の駐車スペースSが設けられている、図1図3では、各駐車スペースSは、破線で囲まれた局所領域であり、当該局所領域内に、その符号Sが描かれている。各駐車スペースSには、1台の自動車が駐車可能である。
【0019】
図1に示すように、駐車場10の1階では、1階用の出入口E1が設けられ、走行路R1は、出入口E1から延びている。また、図1において、駐車場10の2階に対する出入口E2が設けられ、この出入口E2から2階へ至る走行路Rsが延びている。この走行路Rsは、出入口E2側から見た場合に1階から2階への上りスロープとなっている。
【0020】
2階において、走行路R1sからの延長路である走行路R2が、図2に示すように延びている。この走行路R2は、走行路R1s側から見た場合に上りスロープになっている部分を有していてよい。また、走行路R2は、更に2階から3階への上るスロープとなっている走行路R2sに続いている。
【0021】
3階において、走行路R2sからの延長路である走行路R3が、図3に示すように延びている。走行路R3は、更に3階から4階へ上るスロープとなっている走行路R3sに続いている。他の点において、3階の構成は、2階の構成と同じであってよい。このような構成が、所定階まで続いていてよい。最上階では、走行路Rは、行き止まりになっていてもよいし、ループを描いて走行路Rの途中箇所に戻って合流してもよいし、駐車場10の出口(図示せず)へ至るための下りスロープの走行路Rへ続いていてもよい。
【0022】
(自動運転車の構成)
本実施形態による自動運転システム100は、駐車場10内を自動走行する自動運転車20を備える。図4は、本実施形態による自動運転車20の概略側面図であり、図5は、自動運転車20の概略平面図である。図6は、自動運転車20に搭載された各部のブロック図である。自動運転車20は、記憶部21とレーザセンサ23と位置推定部25と制御部27を備える。
【0023】
記憶部21は、駐車場10の地図データを記憶している。地図データは、駐車場10における各物体(すなわち駐車場10の各構造部)の表面における各点の座標を地図座標系で表わした物体情報を含む。地図座標系は、駐車場10に固定された座標系であってよい。地図データは、駐車場10において位置、寸法、および形状が既知である各構造部に基づいて予め作成されたものであってよい。また、地図データは、このような物体情報に加えて、走行路Rの座標データと、駐車スペースSの座標データを含んでよい。走行路Rの座標データは、走行路Rにおける各部の位置、寸法、および形状(例えば3次元形状)を表わす座標の集合である。駐車スペースSの座標データは、各駐車スペースSの位置、寸法、および形状(例えば3次元形状)を表わす座標の集合である。
【0024】
レーザセンサ23は、自動運転車20に設けられている。図4の例では、レーザセンサ23は、自動運転車20のルーフに設けられているが、自動運転車20の他の箇所に設けられていてもよい。レーザセンサ23は、自動運転車20から各射出方向にレーザ光を射出し、射出方向毎に物体上の反射点(以下で単に反射点という)から当該レーザ光の反射光を受け、受けた各反射光に基づいて、計測情報を生成する。この計測情報は、自動運転車20に固定されたセンサ座標で表された上記各反射点の座標を含む。したがって、この計測情報は、各反射点の座標により表された物体の位置、寸法、および形状(例えば3次元形状)を表わす。
【0025】
レーザセンサ23は、自動運転車20から見た所定の検査対象領域(例えば、自動運転車20の前方側の領域)の全体に対してレーザ光(例えばパルスレーザ光)を走査する走査処理を行うことにより、当該検査対象領域に関して上述の計測情報を生成してよい。なお、レーザセンサ23は、LiDAR(light detection and ranging)と呼ばれる計測装置であってよい。
【0026】
検査対象領域は、自動運転車20の左右方向(車幅方向)から見た場合、例えば図4において、1回の走査処理においてレーザセンサ23から最も上側に射出されるレーザ光の直線光路L1と、当該走査処理においてレーザセンサ23から最も下側に射出されるレーザ光の直線光路L2とに挟まれた領域A1である。
【0027】
また、検査対象領域は、上方から見た場合、すなわち、自動運転車20の高さ方向(自動車の左右方向及び前後方向に直交する方向)から見た場合(以下で単に平面視という)、例えば図5において、レーザ光の直線光路L3とレーザ光の直線光路L4とに挟まれ、基準線Lrを含む領域A2である。ここで、基準線Lrは、平面視において、自動運転車20の前後方向を向きレーザセンサ23から自動運転車20の前方へ延びる仮想線分である。直線光路L3は、1回の走査処理においてレーザセンサ23から各方向に射出されるレーザ光のうち、平面視で、基準線Lrの右側に射出され基準線Lrとの成す角度θ1が最も大きいレーザ光の直線光路である。同様に、直線光路L4は、当該走査処理において、平面視で、基準線Lrの左側に射出され基準線Lrとの成す角度θ2が最も大きいレーザ光の直線光路である。
【0028】
θ1とθ2は、同じ値であってよい。θ1とθ2は、90度以内であってもよいし、90度より大きくてもよい。なお、θ1とθ2は、180度であってもよい。なお、レーザ光を、実際の走査処理において領域A1、A2内に射出されるレーザ光の数は、図4図5に描いているレーザ光の数よりも大幅に多い。
【0029】
レーザセンサ23は、自動運転車20が前進する時に用いられ、自動運転車20が後進する時に、例えば、自動運転車20が後進して駐車スペースSに駐車する時に用いられる別のレーザセンサが用いられてもよい。当該別のレーザセンサは、自動運転車20の後方側にレーザ光を走査して計測情報を取得してよい。
【0030】
位置推定部25は、レーザセンサ23により生成された計測情報と、地図データに含まれる物体情報とに基づいて、地図座標系における自動運転車20の位置(以下で単に自己位置ともいう)を推定する。例えば、位置推定部25は、計測情報と物体情報とをマッチングすることにより、自己位置を推定する。この時、物体情報が表わされている地図座標系において、計測情報が表されているセンサ座標系を併進させ回転させて、当該計測情報が表わす3次元形状を物体情報(の一部)が表わす3次元形状に一致させた場合において、センサ座標系における所定位置(例えば原点)の位置に相当する地図座標系の位置が自己位置として推定されてよい。
【0031】
自動運転車20が走行路Rを走行しながら、レーザセンサ23は、上述の走査処理を繰り返し行い。走査処理が行われる度に、位置推定部25は、当該走査処理により生成された計測情報と、地図データに含まれる物体情報とを、上述のようにマッチングする。これにより、位置推定部25は、自己位置を繰り返し推定する。
【0032】
位置推定部25は、計測情報(以下で現在の計測情報ともいう)に基づいて上述のように自己位置を推定する時、当該現在の計測情報だけでなく、他の情報にも基づいて、自己位置を推定してもよい。ここで、他の情報には、例えば、位置推定部25が前回に推定した自己位置と、自動運転車20の走行速度とステアリング角度が含まれてよい。走行速度とステアリング角度は、それぞれ、自動運転車20に設けられた適宜の速度センサと角度センサにより計測されてよい。例えば、位置推定部25は、前回に推定した自己位置と、自動運転車20の走行速度とステアリング角度とに基づいて、地図座標系における座標で表した自動運転車20の現在位置を算出し、算出された現在位置における自動運転車20のレーザセンサ23の検査対象領域(又は当該検査対象領域を含む局所領域)に対応する物体情報を地図データから選択し、選択した物体情報と現在の計測情報とをマッチングすることにより、自動運転車20の位置を推定してよい。
【0033】
また、位置推定部25は、上述のように自己位置を推定するとともに、上述のマッチングにより、3次元座標系である地図座標系において表わされる3次元の向きである自動運転車20の姿勢(向き)を推定してよい。
【0034】
図1図3のように駐車場10が複数の階を有する場合に、地図データの座標系において、連続する走行路Rにより繋がっている隣接する2つの階の各対について、走行路R上の位置が当該対の下側の階から当該対の上側の階へ移行する時に、地図データにおける当該位置の座標(すなわち地図座標系での座標)は連続的に増加していてよい。したがって、地図座標系において走行路R上の各位置の座標により、当該位置が何階に属しているかが一義的に定まってよい。
【0035】
制御部27は、推定された自動運転車20の位置と姿勢と、地図データとに基づいて、自動運転車20が走行路R上を走行するように自動運転車20を制御する。この時、制御部27は、自動運転車20の進行方向と移動速度を制御する。例えば、外部から制御部27に入力された特定の駐車スペースSの位置情報(地図座標系の座標)、又は、空いている任意の駐車スペースSまで、自動運転車20が走行路Rを走行し、次いで、当該駐車スペースSに駐車するように自動運転車20を制御する。
【0036】
本願の発明者は、自動運転車20を駐車場10内で走行させ、上述の地図データに基づいて位置推定部25により自己位置を推定する実験を行ったところ、自己位置を推定できない場合があった。これは、次の(1)又は(2)の理由によるものであると考えられる。
【0037】
(1)駐車場10において、同様な構造を有する領域が複数(例えば連続して)存在するなどにより、これらの領域に対する走査処理で生成される計測情報が互いに区別され難くなる。
【0038】
(2)駐車場10での火災時に煙の蓄積を抑える目的で、駐車場10の外周部は、駐車場10の内部空間が駐車場10の外部空間へ水平方向に連通する開放部となっている。そのため、レーザセンサ23からの多くのレーザ光が開放部を通過して、反射レーザ光が帰って来ないので、十分な数の反射点の情報が得られない。例えば、開放部としての後述のメッシュフェンス31を設けているが、メッシュフェンス31を構成するメッシュ31b(後述の図7A図7Bを参照)の線材に、レーザ光が当たる箇所が少ないので、十分な数の反射点の情報が得られない。
【0039】
(マーカ)
そこで、本実施形態によると、駐車場10内には、自己位置の推定に利用されるマーカが設けられている。マーカは、光を反射する。すなわち、マーカは、レーザセンサ23からのレーザ光を反射する。マーカは、どの方向から光が入射してきても、当該方向と反対の方向に当該光を反射する再帰反射特性を有していてよい。このようなマーカは、再帰反射特性を有する物質(例えばガラスビーズ)を含んで形成されてよい。
【0040】
マーカは、自動運転車20が走行路Rを走行している時に(少なくとも走行路R上のいずれかの位置を通過する時に)レーザセンサ23により当該マーカの計測情報が生成可能となる位置に配置されている。すなわち、マーカは、自動運転車20が走行路Rを走行している時にレーザセンサ23の検査対象領域内に位置するように配置されていてよい。
【0041】
マーカとして、以下の構成例1、2の一方又は両方が設けられてよい。
【0042】
<マーカの構成例1>
構成例1によるマーカは、走行路Rの路面又は他の構造物(例えば壁面)において、走行路Rに沿って断続的に設けられ、走行路Rが直線的に延びている範囲においても、走行路Rに沿った位置に応じて形状と寸法の一方又は両方が変化している。このマーカは、走行路Rに沿って断続的に設けられた多数の特徴部分からなっており、当該多数の特徴部分の各々は、特徴的な形状(例えば、円形、楕円形、多角形、文字など)を有する。これら多数の特徴部分は、その形状又は寸法の一方又は両方が走行路Rに沿った位置に応じて変化している。
【0043】
一例では、図1図3に示すように、マーカは、走行路Rの路面において、走行路Rに沿って不連続に延びる不連続線M1である。不連続線M1は、駐車場10内の走行路Rの全体にわたって設けられてもよいし、駐車場10内の走行路Rに部分的に設けられてもよい。不連続線M1は、間隔をおいて設けられた多数の線分領域Lsにより構成されている。多数の線分領域Lsは、上述の多数の特徴部分に相当する。各線分領域Lsは、白の線分領域Ls(すなわち白線領域)であってよいが、他の色の線分領域Lsであってもよい。各線分領域Lsは、上記物質を含む材料により形成されてよい。
【0044】
多数の線分領域Lsの長さ(若しくは幅)、及び、隣接する線分領域Ls同士の間隔の一方又は両方が、走行路Rが直線的に延びている範囲においても、走行路Rに沿う位置に応じて変化している。図1図3の例では、多数の線分領域Lsの長さだけでなく、隣接する線分領域Ls同士の間隔も、走行路Rに沿う位置に応じて変化している。
【0045】
なお、図1図3のように、不連続線M1は、走行路Rの幅方向中央部に位置し、走行路Rに含まれる2車線の境界を示していてもよいし、走行路Rの幅方向の端部に(例えば走行路Rと走行路R以外の領域との境界として)設けられていてもよい。
【0046】
上述した不連続線M1は、駐車場10内における位置に応じて線分領域Lsの長さや線分領域Ls同士の間隔が変化しているので、特に上記(1)に対して有効である。
【0047】
<マーカの構成例2>
構成例2によるマーカは、駐車場10の外周部における開放部に設けられている。開放部とは、駐車場10の外部空間と内部空間との間で空気が水平方向に流通可能となっている部分を意味する。
【0048】
このようなマーカは、駐車場10の外周部に設けられたメッシュフェンス31に取り付けられ、光を反射する光反射体M2であってよい。メッシュフェンス31は、空気の通過を可能にしつつ、駐車場10の内部空間と外部空間とを仕切るものであってよい。図7A図7Bに、メッシュフェンス31に取り付けられた光反射体M2を示す。図7Aは、図2の7A-7A矢視図であり、図7Bは、図2の7B-7B矢視図である。
【0049】
メッシュフェンス31は、駐車場10の外周部に沿う水平方向に間隔をおいて設けられ鉛直方向に延びる複数の柱31aと、隣接する各対の柱31aに取り付けられ該対の柱31aの間に張られたメッシュ31bを有する。メッシュ31bは、多数の開口(網の目)を有する。なお、上記各柱31aは、駐車場10の構造を構成する支柱(図示せず)であってもよいし、当該支柱とは別に設けられたものであってもよい。
【0050】
光反射体M2の寸法は、メッシュ31bを構成する線材の太さよりも十分に大きく、メッシュ31bの上記各開口の寸法よりも大きい(例えば当該寸法の2倍又は3倍以上であってよい)。光反射体M2は、例えばテープ状のもの(反射テープ又は反射シート)であってよい。走行路R上の自動運転車20のレーザセンサ23から見た光反射体M2の形状は、図7A図7Bでは矩形であるが、円形又は楕円形、又は他の形状(例えば特徴的な形状)であってもよい。
【0051】
光反射体M2は、自動運転車20が走行路R上のいずれかの位置を通過する時に当該自動運転車20のレーザセンサ23の上記検査対象領域内に位置するようにメッシュフェンス31のメッシュ31bに取り付けられている。この取り付けは、適宜の手段(接着剤や取付具)によりなされてよい。
【0052】
例えば、光反射体M2の取り付け位置は、次の(a)の部分と(b)の部分(メッシュ31bの部分)の一方又は両方であってよいが、メッシュ31bの他の部分であってもよい。
【0053】
(a)走行路Rにおいて、スロープの終了位置の直後の水平路面に隣接している、メッシュフェンス31の部分。当該部分は、図7Aのように、自動運転車20が上り坂としての当該スロープを上り終わる直前(すなわち、自動運転車20の車体が水平になる直前であって水平面に対し斜め上向きである時)に当該自動運転車20のレーザセンサ23の検査対象領域内に位置してよい。あるいは、当該部分は、例えば、自動運転車20が下り坂としての当該スロープを下り終わる直前(すなわち、自動運転車20の車体が水平になる直前であって水平面に対し斜め下向きである時)に当該自動運転車20のレーザセンサ23の検査対象領域内(例えば当該自動運転車20の斜め前方又は側方)に位置してよい。
【0054】
(b)走行路Rが曲がっている部分(走行路Rの曲がり部分)に隣接している、メッシュフェンス31の部分に設けられていてよい。当該部分は、図7A図7Bのように自動運転車20が当該曲がり部分に進入する直前に又は当該曲がり部分を通過している時に当該自動運転車20のレーザセンサ23の検査対象領域内に位置してよい。
【0055】
上述した光反射体M2は、レーザセンサ23からのレーザ光が通過してしまうメッシュフェンス31に設けられるので、特に上記(2)に対して有効である。
【0056】
<マーカを利用した地図データ>
本実施形態によると、記憶部21が記憶している上述の地図データは、マーカの座標データ(マーカの位置と形状と寸法を示す座標の集合)を含む。このようにマーカの座標データを含む地図データは、予め作成されていてよい。
【0057】
例えば、駐車場10に上述の各マーカが設けられ、且つ、記憶部21の地図データに走行路Rの座標データが含まれている状態で、自動運転車20が、例えば人に運転の運転により、走行路R(例えば走行路Rの各車線)の全体を走行する。この最中に、レーザセンサ23が上述の走査処理を繰り返し、各走査処理の時の自動運転車20の位置(以下で計測位置という)を適宜の方法で求める(例えば、走行路Rに沿った走行距離の計測値や、走行路R上の各位置に設けた位置座標の印などに基づいて求める)。
【0058】
このような各走査処理により得られた計測情報と、当該走査処理時での上記計測位置とに基づいて、当該計測情報を地図座標系で表した物体情報として地図データに組み込む。当該物体情報には、マーカの座標データが含まれている。マーカの座標データは、マーカ上の各反射点の座標を含み、マーカの形状、寸法、及び位置を表わす。このようにマーカの計測情報がレーザセンサにより生成されるように、マーカを設ける位置に応じて、マーカ(例えば各線分領域Ls、光反射体M2)の寸法が設定されていてよい。
【0059】
このように予め作成された地図データを記憶部21に記憶させる。上述の自動運転システム100の実施では、当該記憶部21を有する自動運転車20において、レーザセンサ23と位置推定部25が、上述と同じ処理を行うことにより自己位置が推定され、制御部27が、上述と同じ処理を行うことにより自動運転車20の走行が制御される。
【0060】
この場合、位置推定部25は、マーカについての計測情報と地図データの物体情報をとマッチングする時に、計測情報に含まれるマーカの座標データと、物体情報におけるマーカの座標データとが利用されるので、マッチングの一致度が高まる。これにより、例えば上述の(1)と(2)の一方又は両方が原因で自己位置が推定できなくなることを回避できる。
【0061】
なお、マーカとしての不連続線M1を用いる場合に、位置推定部25は、上述のマッチングにおいて、地図データにおける物体情報のうち、マーカ以外の物体の情報を用いなくてもよい。この場合、地図データは、物体情報のうちマーカに関する物体情報(マーカの座標データ)のみを含む状態で記憶部21に記憶されていてもよい。
【0062】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、走行路Rは、1車線のみを有するものであってもよい。この場合、走行路Rは、駐車場10の入口から延びており、駐車場10内を通った後、駐車場10の出口へ至るように延びていてよい。また、この場合、他の点は、上述と同じであってよい。
【符号の説明】
【0063】
10 駐車場、11 遮蔽構造物、20 自動運転車、21 記憶部、23 レーザセンサ、25 位置推定部、27 制御部、31 メッシュフェンス、31a 柱、31b メッシュ、100 自動運転システム、E1,E2 出入口、M1 マーカ(不連続線)、M2 マーカ(光反射体)、Ls 線分領域Ls、R,R1,R1s,R2,R2s,R3,R3s 走行路、S 駐車スペース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B