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特許7497822摩擦摩耗試験機用保護キャップ、摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体及び摩耗試験方法
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  • 特許-摩擦摩耗試験機用保護キャップ、摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体及び摩耗試験方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】摩擦摩耗試験機用保護キャップ、摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体及び摩耗試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/56 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
G01N3/56 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021061738
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157483
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】599109906
【氏名又は名称】住友電工ファインポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】グェン ホン フク
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特公昭50-28198(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2014/90445(US,A1)
【文献】特開昭57-35747(JP,A)
【文献】特開2018-194352(JP,A)
【文献】実開昭52-30900(JP,U)
【文献】特開2011-209187(JP,A)
【文献】特開2008-256490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00-3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩耗特性を試験するためのピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンの表面に直接又は間接に着脱されることで、交換可能に構成された摩擦摩耗試験機用保護キャップであって、
一方に開放する有底の筒状体である金属製の基体と、
上記基体の外表面に積層されるキャップ用塗膜と
を備え、
上記基体が底部と、周壁と、上記周壁の開放側端部に設けられる側方へ張り出すフランジ部とを有し、
上記キャップ用塗膜が少なくとも上記底部の外表面に積層されており、
上記基体がステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムを主成分とする摩擦摩耗試験機用保護キャップ。
【請求項2】
上記底部と上記周壁との平均内角が断面視で80°以上90°以下である請求項1に記載の摩擦摩耗試験機用保護キャップ。
【請求項3】
上記底部の平均厚さが10μm以上100μm以下である請求項1又は請求項2に記載の摩擦摩耗試験機用保護キャップ。
【請求項4】
摩耗特性を試験するためのピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンの表面に直接又は間接に着脱されることで、交換可能に構成された摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体であって、
一方に開放する有底の筒状体であり、
底部と、周壁と、上記周壁の開放側端部に設けられる側方へ張り出すフランジ部とを有し、
ステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムを主成分とする摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体。
【請求項5】
ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いて摩耗特性を試験する摩耗試験方法であって、
ピンの表面に直接又は間接に摩擦摩耗試験機用保護キャップを装着したピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いて摩耗試験を行う工程を備え、
上記摩擦摩耗試験機用保護キャップが、一方に開放する有底の筒状体である基体と、上記基体の外表面に積層されるキャップ用塗膜とを備え、
上記基体が底部と、周壁と、上記周壁の開放側端部に設けられる側方へ張り出すフランジ部とを有し、
上記キャップ用塗膜が少なくとも上記底部の外表面に積層されており、
上記基体がステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムである摩耗試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、摩擦摩耗試験機用保護キャップ、摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体及び摩耗試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、レーザービームプリンター等の画像形成装置では、印刷及び複写の最終段階では一般に熱定着方式が採用されている。この熱定着方式は、加熱源を内周面に設けた定着ローラと加圧ローラとの間にトナー画像が転写された印刷用紙等の被転写物を通過させることで、未定着のトナーを加熱溶融し、被転写物にトナーを定着させて画像を形成する方式である。
【0003】
上記定着ローラは、内周面側に設けられたニッププレートと摺動接触することにより摩耗し、摩耗屑が発生しやすい。定着ローラ等の摺動部材は、耐摩耗性の向上や摩擦係数の低減低下に対してさらなる向上が求められている。このような摺動部材における耐摩耗性、滑り性等の摺動特性の評価方法としては、例えば圧子として金属製のピン、ボール、リング等を用いるディスク型摩擦摩耗試験機が広く採用されている(特開2004-115624号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-115624号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップは、摩耗特性を試験するためのピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンの表面に直接又は間接に着脱されることで、交換可能に構成された摩擦摩耗試験機用保護キャップであって、一方に開放する有底の筒状体である基体と、上記基体の外表面に積層されるキャップ用塗膜とを備え、上記基体が底部と、周壁と、上記周壁の開放側端部に設けられる側方へ張り出すフランジ部とを有し、上記キャップ用塗膜が少なくとも上記底部の外表面に積層されており、上記基体がステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムを主成分とする。
【0006】
また、本開示の別の一態様に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体は、摩耗特性を試験するためのピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンの表面に直接又は間接に着脱されることで、交換可能に構成された摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体であって、一方に開放する有底の筒状体であり、底部と、周壁と、上記周壁の開放側端部に設けられる側方へ張り出すフランジ部とを有し、ステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムを主成分とする。
【0007】
また、本開示の別の一態様に係る摩耗試験方法は、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いて摩耗特性を試験する摩耗試験方法であって、ピンの表面に直接又は間接に摩擦摩耗試験機用保護キャップを装着したピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いて摩耗試験を行う工程を備え、上記摩擦摩耗試験機用保護キャップが、一方に開放する有底の筒状体である基体と、上記基体の外表面に積層されるキャップ用塗膜とを備え、上記基体が底部と、周壁と、上記周壁の開放側端部に設けられる側方へ張り出すフランジ部とを有し、上記キャップ用塗膜が少なくとも上記底部の外表面に積層されており、上記基体がステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、従来のピンオンディスク型摩擦摩耗試験機の模式的縦断面図である。
図2図2は、本開示の一実施形態に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップを備えるピンオンディスク型摩擦摩耗試験機の模式的縦断面図である。
図3図3は、本開示の一実施形態に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップの模式的斜視図である。
図4図4は、本開示の一実施形態に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップの底部を示す模式的斜視図である。
図5図5は、本開示の一実施形態に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップの模式的縦断面図である。
図6図6は、本開示の一実施形態に係る基体の模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示が解決しようとする課題]
上記摺動部材においては、構成する材料の耐摩耗性が装置の安定した稼働や品質に大きく影響を与えることになる。そのため、耐摩耗性にすぐれた材料の選定が重要となり、異なる材料同士からなる2つの部材同士の摺動特性について、高精度の評価が必要とされる状況も増加している。従って、2つの部材同士の摺動特性の摩擦摩耗試験においては、実際の使用環境に近い状況下での測定が望まれる。
【0010】
図1は、従来のピンオンディスク型摩擦摩耗試験機の模式的縦断面図である。図1に示すように、従来のピンオンディスク型摩擦摩耗試験機200においては、下部のディスクホルダー220に固定された平板状の一方の試験用塗膜230の表面で、ピン210の先端に他方の試験用塗膜240を形成したピン210を回転摺動させる。そして、試験終了後の一方の試験用塗膜230及び他方の試験用塗膜240の質量の減少や、摩耗痕の断面形状などから摩耗量について評価が行われる。しかしながら、この場合、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンの先端に直接試験用塗膜240を形成するため、ピンが消耗し、試験のたびにピンを交換する必要がある。
【0011】
本開示はこのような事情に基づいてなされたものであり、ピンの保護効果が高く、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いて2つの摺動部材による摩擦摩耗特性を簡易かつ高精度に行うことができる摩擦摩耗試験機用保護キャップを提供することを目的とする。
【0012】
[本開示の効果]
本開示の一態様に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップは、ピンの保護効果が高く、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いて2つの摺動部材による摩擦摩耗特性を簡易かつ高精度に行うことができる。
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0014】
本開示の一態様に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップは、本開示の一態様に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップは、摩耗特性を試験するためのピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンの表面に直接又は間接に着脱されることで、交換可能に構成された摩擦摩耗試験機用保護キャップであって、一方に開放する有底の筒状体である基体と、上記基体の外表面に積層されるキャップ用塗膜とを備え、上記基体が底部と、周壁と、上記周壁の開放側端部に設けられる側方へ張り出すフランジ部とを有し、上記キャップ用塗膜が少なくとも上記底部の外表面に積層されており、上記基体がステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムを主成分とする。
【0015】
当該摩擦摩耗試験機用保護キャップは、上記構成を有することで、ピンに対する装着性及び脱落防止効果に優れる。また、例えば画像形成装置のように、2つの部材が摺動する製品の摩擦摩耗特性の評価をする場合、従来のピンオンディスク型摩擦摩耗試験機においては、金属製のピンとディスク側の試験用塗膜との摩擦摩耗特性の評価しか行うことができないため、一方の部材の摩擦摩耗特性を個々に評価していた。しかしながら、当該摩擦摩耗試験機用保護キャップおいては、基体の外表面に摺動部材の表面の材料に応じたキャップ用塗膜が形成され、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンにこの摩擦摩耗試験機用保護キャップが装着されることで、摩擦摩耗試験時に2つの部材が摺動する製品の実際の使用環境に近い状況を容易に再現することができる。従って、当該摩擦摩耗試験機用保護キャップは、ピンの保護効果に優れるのみならず、2つの摺動部材による摩擦摩耗特性を高精度で評価することができる。また、評価のたびにピンを交換する必要がないことから、安価で摩耗試験を行うことができる。上記基体が、上記構成を有することで、ピンに対する装着性及び脱落防止効果に優れる。さらに、上記基体がステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムを主成分とすることで、加工性及び強度に優れる。ここで、「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、品質管理の面から含有量が70%質量以上であることが好ましい。
【0016】
上記底部と上記周壁との平均内角が断面視で80°以上90°以下であることが好ましい。上記底部と上記周壁との平均内角が上記範囲であることで、当該摩擦摩耗試験機用保護キャップの脱落防止効果及び装着性をより向上できる。ここで、「平均内角」とは、任意の十点において測定した内角の平均値をいう。
【0017】
上記底部の平均厚さが10μm以上100μm以下であることが好ましい。上記底部の平均厚さが上記範囲であることで、当該摩擦摩耗試験機用保護キャップの強度及び成形性をより向上できる。ここで、「平均厚さ」とは、任意の十点において測定した厚さの平均値をいう。
【0018】
当該摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体は、摩耗特性を試験するためのピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンの表面に直接又は間接に着脱されることで、交換可能に構成された摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体であって、一方に開放する有底の筒状体であり、底部と、周壁と、上記周壁の開放側端部に設けられる側方へ張り出すフランジ部とを有し、ステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムを主成分とする。当該基体が当該摩擦摩耗試験機用保護キャップに備えられることで、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンに対して優れた保護効果を得ることができる。また、当該基体が、上記構成を有することで、ピンに対する装着性及び脱落防止効果に優れる。
【0019】
また、本開示の別の態様に係る摩耗試験方法は、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いて摩耗特性を試験する摩耗試験方法であって、ピンの表面に直接又は間接に摩擦摩耗試験機用保護キャップを装着したピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いて摩耗試験を行う工程を備え、上記摩擦摩耗試験機用保護キャップが、一方に開放する有底の筒状体である基体と、上記基体の外表面に積層されるキャップ用塗膜とを備え、上記基体が底部と、周壁と、上記周壁の開放側端部に設けられる側方へ張り出すフランジ部とを有し、上記キャップ用塗膜が少なくとも上記底部の外表面に積層されており、上記基体がステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムである。
【0020】
当該摩耗試験方法は、上記工程を備えることで、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンの保護を図ることができる。また、ピンの表面に直接又は間接に装着される上記摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体が、上記構成を有することで、ピンに対する装着性及び脱落防止効果に優れる。また、上記摩擦摩耗試験機用保護キャップおいては、基体の外表面に摺動部材の表面の材料に応じたキャップ用塗膜が形成され、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンにこの摩擦摩耗試験機用保護キャップが装着されることで、摩擦摩耗試験時に2つの部材が摺動する製品の実際の使用環境に近い状況を容易に再現することができる。従って、当該摩耗試験方法は、上記ピンの保護効果に優れるのみならず、2つの摺動部材による摩擦摩耗特性を高精度で評価することができる。さらに、基体の材料である金属がステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムを主成分とすることで、加工性及び強度に優れる。従って、当該摩耗試験方法は、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いて、高精度で摩耗試験を行うことができる。さらに、評価のたびにピンを交換する必要がないことから、安価で摩耗試験を行うことができる。
【0021】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップ及びその製造方法について図面を参照しつつ詳説する。
【0022】
[ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機]
ピンオンディスク型摩耗試験とは、例えば金属製のピンの先端を試験対象部材の摺動面に垂直に押圧しながら摺動面を回転させることにより、公転摺動させる試験を意味する。また、摩耗試験は材料の摺動特性を対象とするものである。本開示の実施形態に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップがピンに装着されたピンオンディスク型摩擦摩耗試験機は、例えば2種類の試料を互いに摺動させた場合の摩擦摩耗特性を試験することができる。
【0023】
図2は、本開示の一実施形態に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップを備えるピンオンディスク型摩擦摩耗試験機の模式的縦断面図である。図2に示すように、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機100は、一方のディスク側の試験用塗膜32と、他方の摩擦摩耗試験機用保護キャップ1の表面のキャップ用塗膜2とを摩擦〔摺動〕させて2種類の塗膜の摩耗量を測定する装置である。ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機100は、上部に1又は複数のピン22を保持するホルダー21と、それをディスク側の試験用塗膜32に押し付ける荷重機構20を備える。ピン22にそれぞれ、先端に当該摩擦摩耗試験機用保護キャップ1が装着されている。摩擦摩耗試験機用保護キャップ1は、基体4と、上記基体4の外表面に積層される上記キャップ用塗膜2とを備える。一方、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機100の下部の試料台50は、回転軸35に結合されたディスクホルダー30を有し、ディスク側の試験用塗膜32がホルダー30に載置及び固定されると、ディスク側の試験用塗膜32は摩擦摩耗試験機用保護キャップ1のキャップ用塗膜2に対し回転自在となる。次に、ホルダー21を下降させることにより、ホルダー21の軸線方向から圧力を加えることにより、キャップ用塗膜2と、ディスク側の試験用塗膜32とを圧接させ、先端に摩擦摩耗試験機用保護キャップ1が装着されたピン210を回転摺動させる。すなわち、キャップ用塗膜2と、ディスク側の試験用塗膜32とを、ある条件下で設定した加圧荷重、及びすべり速度で回転摺動させる。そして、長時間摺動試験した後に、一方のディスク側の試験用塗膜32と、他方の摩擦摩耗試験機用保護キャップ1の表面のキャップ用塗膜2とにおける質量又は寸法の減少量や、摩耗痕の断面形状等から摩擦量や摩耗量について評価が行われる。
【0024】
<摩擦摩耗試験機用保護キャップ>
当該摩擦摩耗試験機用保護キャップは、摩耗特性を試験するためのピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンの表面に直接又は間接に着脱されることで、交換可能に構成された摩擦摩耗試験機用保護キャップである。なお、当該摩擦摩耗試験機用保護キャップは、アダプターを介して間接的に装着してもよい。
【0025】
図3は、本開示の一実施形態に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップの模式的斜視図である。図4は、本開示の一実施形態に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップの底部を示す模式的斜視図である。図5は、本開示の一実施形態に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップの模式的縦断面図である。図3図5に示すように、当該摩擦摩耗試験機用保護キャップ1は、一方に開放する有底の筒状体である基体4と、上記基体4の外表面に積層されるキャップ用塗膜2とを備える。
【0026】
(基体)
図6は、本開示の一実施形態に係る基体の模式的斜視図である。図6に示すように、基体4は一方に開放する有底の筒状体である。基体4は底部5と、周壁7と、上記周壁7の開放側端部に設けられる側方へ張り出すフランジ部8とを有する。基体4が、上記構成を有することで、ピンに対する装着性及び脱落防止効果に優れる。
【0027】
基体4がステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムを主成分とする。そのため、当該摩擦摩耗試験機用保護キャップ1は加工性及び強度に優れる。
【0028】
底面5の形状は特に限定されない、例えば円形、矩形等、ピンの先端形状に応じて形状を採用することができる。
【0029】
底面5の平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、15μmがより好ましく、20μmがさらに好ましい。上記平均厚さの上限としては、100μmが好ましく、80μmがより好ましく、60μmがさらに好ましい。上記平均厚さが10μm未満の場合、底面5の強度が低下するおそれがある。逆に、上記平均厚さが100μmを超える場合、摩擦摩耗試験機用保護キャップ1の成型性が低下するおそれがある。
【0030】
周壁7の形状は、筒状であれば特に限定されず、例えば円筒形状、角筒形状等を用いることができる。
【0031】
図5に示す上記底部と上記周壁との平均内角θの下限としては断面視で、80°が好ましい。一方、上記底部と上記周壁との平均内角θの上限としては断面視で、90°が好ましい。上記平均内角θが80°未満の場合、摩擦摩耗試験機用保護キャップ1の装着性が低下するおそれがある。一方、上記平均内角θが90°を超える場合、摩擦摩耗試験機用保護キャップ1の脱落防止効果が十分得られないおそれがある。
【0032】
周壁7の平均高さの下限としては、0.5mmが好ましく、1.0mmがより好ましい。一方、上記平均高さの上限としては、20mmが好ましく、10mmがより好ましい。上記平均高さが0.5mm未満の場合、摩擦摩耗試験機用保護キャップ1の脱落防止効果が十分得られないおそれがある。一方、上記平均高さが20mmを超える場合、摩擦摩耗試験機用保護キャップ1の装着性が低下するおそれがある。ここで、「平均高さ」とは、任意の十点において測定した高さの平均値をいう。
【0033】
フランジ部8の形状は特に限定されず、平板状であってもよいし、表面に、突条、凹凸、湾曲、ひだ、切欠き等を有していてもよい。また、フランジ部8の傾きの角度の大きさについても特に限定されず、ピンの形状に応じて自由に設計することができる。
【0034】
フランジ部8の平均幅としては特に限定されないが、例えば0.1mm以上20mm以下が好ましく、2mm以上5mm以下がより好ましい。フランジ部8の平均幅が上記範囲であることで、取扱い性及び装着性に優れる。ここで、「平均幅」とは、任意の十点において測定した幅の平均値をいう。
【0035】
(キャップ用塗膜)
キャップ用塗膜2は、上記基体4の外表面に積層される。当該摩擦摩耗試験機用保護キャップ1においては、キャップ用塗膜2が少なくとも底部5の外表面に積層されている。
【0036】
[摩擦摩耗試験機用保護キャップの製造方法]
摩擦摩耗試験機用保護キャップの製造方法は、特に限定されないが、例えば基体となる金属薄板の片面にキャップ用塗膜を形成後、金型を用いてプレス成型等をすることにより製造することができる。
【0037】
なお、上記キャップ用塗膜は、基体を形成後に基体の外表面にキャップ用塗膜を形成してもよい。
【0038】
当該摩擦摩耗試験機用保護キャップによれば、ピンの保護効果が高い。また、当該摩擦摩耗試験機用保護キャップを用いたピンオンディスク型摩擦摩耗試験機は、2つの摺動部材による摩擦摩耗特性を高精度で評価することができる。さらに、評価のたびにピンを交換する必要がないことから、安価で摩耗試験を行うことができる。
【0039】
<摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体>
当該摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体は、摩耗特性を試験するためのピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンの表面に直接又は間接に着脱されることで、交換可能に構成された摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体であって、一方に開放する有底の筒状体であり、底部と、周壁と、上記周壁の開放側端部に設けられる側方へ張り出すフランジ部とを有し、ステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムを主成分とする。当該基体が当該摩擦摩耗試験機用保護キャップに備えられることで、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンに対して優れた保護効果を得ることができる。また、当該基体が、上記構成を有することで、ピンに対する装着性及び脱落防止効果に優れる。なお、当該基体の構成の詳細については上述の通りであるので、説明を省略する。
【0040】
1種類の材料の摩擦摩耗特性を評価する場合や、2種類の材料の摩擦摩耗特性を評価する場合であっても、ディスク側の試験用塗膜に対する他方の材料(相手材)が基体と同じステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムの場合は、当該基体4のみをピンに装着してピンオンディスク型摩擦摩耗試験機による摩擦摩耗特性の評価を行うこともできる。この場合においても、ピンの保護効果に優れ、評価のたびにピンを交換する必要がないことから、安価で摩耗試験を行うことができる。
【0041】
<摩耗試験方法>
当該摩耗試験方法は、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用い、摩耗特性を試験する摩耗試験方法である。当該摩耗試験方法は、ディスク側に固定する試験用塗膜とピン側に着用する相手材の塗膜との2種類の材料の摩擦摩耗を測定することができる。評価対象となる2種類の塗膜の材料は特に限定されない。当該摩耗試験方法は、ピンの表面に直接又は間接に摩擦摩耗試験機用保護キャップを装着したピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いて摩耗試験を行う工程を備える。当該摩耗試験方法は、上記工程を備えることで、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンの保護を図ることができる。
【0042】
また、上記摩擦摩耗試験機用保護キャップは、一方に開放する有底の筒状体である基体と、上記基体の外表面に積層されるキャップ用塗膜とを備え、上記基体が底部と、周壁と、上記周壁の開放側端部に設けられる側方へ張り出すフランジ部とを有する。そして、上記キャップ用塗膜が少なくとも上記底部の外表面に積層されている。ピンの表面に直接又は間接に装着される上記摩擦摩耗試験機用保護キャップが、上記構成を有することで、ピンに対する装着性及び脱落防止効果に優れる。また、当該摩耗試験方法は、摺動部材の表面の材料に応じたキャップ用塗膜が形成された摩擦摩耗試験機用保護キャップが装着されたピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いるため、2つの部材が摺動する製品の実際の使用環境に近い状況を容易に再現することができる。さらに、基体の材料である金属がステンレス鋼、ニッケル、銅又はアルミニウムを主成分とすることで、加工性及び強度に優れる。従って、当該摩耗試験方法は、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いて、高精度で摩耗試験を行うことができる。さらに、評価のたびにピンを交換する必要がないことから、安価で摩耗試験を行うことができる。
【0043】
当該摩耗試験方法によれば、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンの保護を図ることができる。また、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いて、高精度で摩耗試験を行うことができる。さらに、評価のたびにピンを交換する必要がないことから、安価で摩耗試験を行うことができる。
【0044】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【実施例
【0045】
以下、実施例によって本開示をさらに具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
<No.1>
(摩擦摩耗試験機用保護キャップの作製)
摩擦摩耗試験機用保護キャップの基体及び基体の外表面に積層されるキャップ用塗膜を作製した。初めに、ステンレス鋼(SUS304)製の基体の片面に表1に記載の材料からなるキャップ用塗膜樹脂組成物をフィルム状に塗工した。次に、400℃まで焼成することにより基体の片面にキャップ用塗膜を形成し、摩擦摩耗試験機用保護キャップを作製した。
【0047】
[評価]
(ピンオンディスク型摩耗試験による回転摩擦摩耗評価)
次に、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用い、試験No.1及びNo.2の方法により表2に記載のディスク型相手材試料との摩耗性を評価した。試験No.1では、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンの表面に摩擦摩耗試験機用保護キャップを装着して評価を実施した。一方、試験No.2においては、摩擦摩耗試験機用保護キャップを装着せずに、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機のピンの先端表面に対して試験No.1と同じキャップ用塗膜を形成した。
【0048】
以下の条件でピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いて回転摩擦摩耗評価を行った。具体的には、試験温度(試料表面温度)180℃の加熱下で、回転軸を中心とする1つの円周上に配置された直径17.4mmのステンレス鋼(SUS304)製の2本のピンを押圧荷重0.11MPa、回転速度210rpmで2000秒間摺動させるピンオンディスク型摩耗試験を行い、相手材であるキャップ用塗膜とディスク側試験用塗膜との耐摩耗性及び耐摩擦性を評価した。なお、上記ピンの先端は平面状とした。耐摩耗性の評価においては、キャップ用塗膜とディスク側試験用塗膜とについて、それぞれ摩耗耗試験前の8点の測定による平均厚さと摩耗試験後の8点の測定による平均厚さとの差を求めて摩耗深さ[μm]を測定した。耐摩擦性ついては、静摩擦係数及び動摩擦係数を測定した。
【0049】
表1に、No.1及びNo.2の測定方法における摩耗試験及び摩擦試験による評価結果を示す。なお、表1の「-」は、該当する構成を有していないことを示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、相手材であるキャップ用塗膜を備える摩擦摩耗試験機用保護キャップをピンに装着してディスク側試験用塗膜との摩耗摩擦試験を行ったNo.1と、相手材である塗膜をピンに直接形成してディスク側試験用塗膜との摩耗摩擦試験を行ったNo.2とを比較すると同等の精度で評価できることが示された。また、本測定ではOA機器部材の測定用途の基準を満たすピンを使用したが、塗膜をピンに直接形成して摩耗摩擦試験を行うNo.2においては、一回の測定でピン先端の摩耗が発生して使用不能となり、交換が必要になった。
【0052】
以上の結果、当該摩擦摩耗試験機用保護キャップを装着したピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用いた摩擦摩耗試験は、ピンの保護効果が高く、2種類の材料を摺動させた場合の摩擦摩耗特性を高精度で評価できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本開示の一態様に係る摩擦摩耗試験機用保護キャップは、ピンの保護効果が高い。また、当該摩擦摩耗試験機用保護キャップを用いたピンオンディスク型摩擦摩耗試験機は、高精度で摩耗試験を行うことができる。さらに、評価のたびにピンを交換する必要がないことから、安価で摩耗試験を行うことができる。本開示の一形態に係る摩耗試験方法は、摺動部材に用いる塗膜の摩擦摩耗試験に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 摩擦摩耗試験機用保護キャップ
2 キャップ用塗膜
32、230、240 試験用塗膜
4 基体
5 底部
7 周壁
8 フランジ部
20 荷重機構
21 ホルダー
22、210 ピン
30、220 ディスクホルダー
35 回転軸
50 試料台
100、200 ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機
図1
図2
図3
図4
図5
図6