(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ライトシート顕微鏡用長距離伝搬ビーム形成レンズユニット及び長距離伝搬ビーム形成方法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/06 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
G02B21/06
(21)【出願番号】P 2019222518
(22)【出願日】2019-12-09
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】今村 健志
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】高根沢 聡太
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-045148(JP,A)
【文献】特表2017-530867(JP,A)
【文献】特表2019-531593(JP,A)
【文献】特表2020-531392(JP,A)
【文献】特開2002-316288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライトシート顕微鏡における照明光学系のビームを形成するユニットであって、
前記ユニットは、
ベッセルビーム照射部と、
前記ベッセルビーム照射部のレーザ光源から分割されたビームをベッセルビームと重畳させる光学系と、
ベッセルビームのリング状の発散光をコリメート光に変換するレンズ群であって、照射光軸に沿って移動調整し得る少なくとも2つのレンズ群と、
前記ベッセルビーム照射部と前記レンズ群との相対距離を制御する制御部、
を備え、
前記レンズ群は、前記ベッセルビーム照射部のレーザ光源から分割されたビームをベッセルビームと重畳させる光学系の前段にあり、
前記相対距離を制御することにより、検出光学系の対物レンズ焦点面でのビーム形状の長手方向の長さ及び光軸方向の幅を調整することを特徴とする長距離伝搬ビーム形成ユニット。
【請求項2】
前記レンズ群の光軸上の位置を調整パラメータとして、前記長手方向の長さと光軸方向の幅との少なくとも何れかを調整することを特徴とする請求項1に記載の長距離伝搬ビーム形成ユニット。
【請求項3】
前記レンズ群は、第1及び第2の集光レンズから構成され、
第1の集光レンズ又は第2の集光レンズの何れかのレンズと前記ベッセルビーム照射部の間の相対距離を第1の調整パラメータとし、
第1の集光レンズと第2の集光レンズの間の相対距離を第2の調整パラメータとし、
第1及び第2の調整パラメータを制御することにより、前記長手方向の長さと光軸方向の幅との少なくとも何れかを調整することを特徴とする請求項1に記載の長距離伝搬ビーム形成ユニット。
【請求項4】
前記ベッセルビーム照射部は、円錐角度によってビーム形状が決定されるアキシコンレンズが用いられることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の長距離伝搬ビーム形成ユニット。
【請求項5】
請求項1~4の何れかの長距離伝搬ビーム形成ユニットによって構成される照明光学系を備えたことを特徴とするライトシート顕微鏡。
【請求項6】
ライトシート顕微鏡における照明光学系のビーム形成方法であって、
ベッセルビーム照射部のレーザ光源から分割されたビームをベッセルビームと重畳させる光学系の前段にあり、前記ベッセルビーム照射部から出射したベッセルビームのリング状の発散光をコリメート光に変換する少なくとも2つのレンズ群と前記ベッセルビーム照射部との相対距離を制御して、検出光学系の対物レンズ焦点面でのビーム形状の長手方向の長さ
及び光軸方向の幅
を調整するステップを備えたことを特徴とする長距離伝搬ビーム形成方法。
【請求項7】
請求項1の長距離伝搬ビーム形成ユニットにおける調整パラメータの決定方法であって、
前記ベッセルビーム照射部と前記レンズ群との相対距離を変化させて、前記ビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅の少なくとも何れかを複数回測定した測定値を取得する取得ステップと、
取得した前記測定値から非線形回帰分析により、前記相対距離を変数とする前記ビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅の少なくとも何れかの予測モデルを生成するモデル生成ステップと、
前記予測モデルを用いて、要求するビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅の少なくとも何れかから、前記相対距離を決定する決定ステップ、
を備えたことを特徴とする長距離伝搬ビーム形成ユニットの調整パラメータ決定方法。
【請求項8】
請求項3の長距離伝搬ビーム形成ユニットにおける第1及び第2の調整パラメータの決定方法であって、
第1及び第2の調整パラメータを変化させて、前記ビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅の少なくとも何れかを複数回測定した測定値を取得する取得ステップと、
取得した前記測定値から非線形回帰分析により、第1及び第2の調整パラメータを変数とする前記ビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅の少なくとも何れかの予測モデルを生成するモデル生成ステップと、
前記予測モデルを用いて、要求するビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅の少なくとも何れかから、第1及び第2の調整パラメータを決定する決定ステップ、
を備えたことを特徴とする長距離伝搬ビーム形成ユニットの調整パラメータ決定方法。
【請求項9】
請求項7又は8の長距離伝搬ビーム形成ユニットの調整パラメータ決定方法における前記取得ステップ、前記モデル生成ステップ、及び前記決定ステップを、コンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高時空間分解能を有するライトシート蛍光顕微鏡において、蛍光励起範囲を調整するビーム形成レンズユニット及び長距離伝搬ビーム形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高時空間分解能を有する顕微鏡に関する大きな技術的進歩として、ライトシート顕微鏡が注目されている。ライトシート顕微鏡は、シート状の励起光を照射する蛍光顕微鏡であり、対物レンズ焦点面の側面から光を入射し面を選択的に励起し、その照射面をカメラによって蛍光観察する。ライトシート顕微鏡は、高速性と光照射による試料ダメージの少なさに特徴があり、特に、光毒性が問題になる生細胞などのライブ観察において、ライトシート顕微鏡が好適に用いられる。
【0003】
ライトシート顕微鏡において、一般に、長距離伝播レーザービームであるベッセルビームが利用される。ベッセルビームを形成するための技術としては、空間光変調器、ビームマスク、アキシコンレンズを用いる方法が知られている。空間光変調器は、ビーム形状の調整が容易であるという利点があるが、エネルギー損失が大きく、また高価であるという問題がある。ビームマスクは、安価に製作できるが、形状ごとにマスクを作製しなくてはならず、形状の微調整が困難であり、また、ビームをマスクするためにエネルギー損失も大きいという問題がある。一方で、アキシコンレンズは、安価でありエネルギー損失が少ないという利点があるが、ビーム形状がアキシコンレンズの円錐の角度で決定されるためにビーム形状の微調整が困難であるという問題がある。
【0004】
従来知られたライトシート顕微鏡の照明光学系において、アキシコンレンズを用いてベッセルビームを形成し、複数のレンズからなるレンズ群を通過させた光がコリメートされ、輪帯光束となって後の光路へ進む構成を含む顕微鏡が知られている(特許文献1を参照)。特許文献1に開示されたライトシート顕微鏡では、輪帯光束に位相を変化させた光束を重畳させることにより、検出光学系(観察光学系)の焦点深度内に含まれてしまう1次のサイドロープによる背景光の影響を抑制して観察できるものである。しかしながら、照明光学系におけるレンズ相互間の距離を調整する機構を備えていないため、検出光学系における対物レンズの焦点面でのビーム形状の微調整が十分になされないという問題がある。
【0005】
また、アキシコンレンズを用いる顕微鏡ではないが、ライトシート顕微鏡の照明光学系において、シリンドリカルレンズや、プリズムまたはデジタルミラーデバイス(DMD)などで変調されたビームを集光するレンズを、駆動装置を用いて光軸に沿う方向に走査し、変調されたビームを干渉させてシート状の励起光を照射するライトシート顕微鏡が知られている(特許文献2を参照)。特許文献2に開示されたライトシート顕微鏡では、シート光が標本へ照射される範囲をシート光の走査により拡げることで、広い視野による観察を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-45148号公報
【文献】特開2019-45783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、ライトシート顕微鏡において、ベッセルビームの形成にアキシコンレンズを用いる方法は、アキシコンレンズが安価でありエネルギー損失が少ないという利点があるが、ビーム形状がアキシコンレンズの円錐の角度で決定されるためにビーム形状の微調整が困難であり、そのため、対物レンズ焦点面における蛍光励起範囲の調整が困難であるという問題があった。
【0008】
かかる状況に鑑みて、本発明は、ライトシート顕微鏡の蛍光励起範囲を容易に調整できる長距離伝搬ビーム形成ユニット及び長距離伝搬ビーム形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ベッセルビームを形成するアキシコンレンズに複数の移動調整式レンズを組み込み、レンズ間の相対距離の調整を行うことにより、ライトシート顕微鏡の蛍光励起範囲の調整が可能であるとの知見を得た。
すなわち、本発明の長距離伝搬ビーム形成ユニットは、ライトシート顕微鏡における照明光学系のビームを形成するユニットであって、ユニットは、以下の1)~3)を備え、ベッセルビーム照射部とレンズ群との相対距離を制御することにより、検出光学系の対物レンズ焦点面でのビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅との少なくとも何れかを調整することを特徴とする。
1)ベッセルビーム照射部。
2)ベッセルビームのリング状の発散光をコリメート光に変換するレンズ群であって、照射光軸に沿って移動調整し得る少なくとも2つのレンズ群。
3)ベッセルビーム照射部とレンズ群との相対距離を制御する制御部。
【0010】
本発明の長距離伝搬ビーム形成ユニットは、ベッセルビームのリング状の発散光をコリメート光に変換するレンズ群を移動調整でき、ベッセルビーム照射部とレンズ群との相対距離を制御することにより、検出光学系の対物レンズ焦点面でのビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅との何れかに着目して、或は、両方に着目して調整し、それによりライトシート顕微鏡の蛍光励起範囲を調整できる。
ベッセルビーム照射部は、レーザ光源から出射されたビーム光からアキシコンレンズを介してベッセルビームを形成して照射するものが好適に用いられるが、これに限定されず、アキシコンレンズと同等の機能を備えベッセルビームを形成する他の手段を用いても構わない。
ベッセルビームのリング状の発散光をコリメート光に変換するレンズ群は、少なくとも2つのレンズ群から構成される。好適には、集光レンズが用いられる。レンズ群は、照射光軸に沿って移動調整できるものであり、例えば、圧電素子やモータなどの駆動手段を利用して移動させることができる。
ベッセルビーム照射部とレンズ群との相対距離を制御する制御部は、レンズ群の駆動手段と必要に応じてベッセルビーム照射部の駆動手段を含み、それらの駆動手段に制御信号を出力して、ベッセルビーム照射部とレンズ群との相対距離を調整する。
【0011】
本発明の長距離伝搬ビーム形成ユニットは、レンズ群の光軸上の位置を調整パラメータとして、検出光学系の対物レンズ焦点面でのビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅との少なくとも何れかを調整することでもよい。ベッセルビーム照射部は固定したまま、レンズ群のみを移動調整するものであり、例えば、3つのレンズ群から構成されるものであれば、3つのレンズの内、少なくとも何れかのレンズの光軸上の位置を調整する。
【0012】
本発明のビーム形成ユニットにおいて、レンズ群は、第1及び第2の集光レンズから構成され、第1の集光レンズ又は第2の集光レンズの何れかのレンズとベッセルビーム照射部の間の相対距離を第1の調整パラメータとし、第1の集光レンズと第2の集光レンズの間の相対距離を第2の調整パラメータとし、第1及び第2の調整パラメータを制御することにより、検出光学系の対物レンズ焦点面でのビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅との少なくとも何れかを調整することでもよい。
【0013】
本発明のビーム形成ユニットにおいて、ベッセルビーム照射手段は、円錐角度によってビーム形状が決定されるアキシコンレンズが用いられることが好ましい。
【0014】
本発明のライトシート顕微鏡は、上記の何れかの長距離伝搬ビーム形成ユニットによって構成される照明光学系を備えるものである。
【0015】
また、本発明の長距離伝搬ビーム形成方法は、ライトシート顕微鏡における照明光学系のビーム形成方法であって、ベッセルビーム照射部から出射したベッセルビームのリング状の発散光をコリメート光に変換する少なくとも2つのレンズ群とベッセルビーム照射部との相対距離を制御して、検出光学系の対物レンズ焦点面でのビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅との少なくとも何れかを調整するステップを備える。上記ステップを備えることにより、ライトシート顕微鏡の蛍光励起範囲を調整できる。
【0016】
次に、本発明の長距離伝搬ビーム形成ユニットにおける調整パラメータの決定方法について説明する。
本発明の長距離伝搬ビーム形成ユニットにおける調整パラメータの決定方法は、下記(1a)~(3a)の3つのステップから構成される。
(1a)取得ステップ
本発明の長距離伝搬ビーム形成ユニットにおけるベッセルビーム照射部とレンズ群との相対距離を変化させて、ビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅の少なくとも何れかを複数回測定した測定値を取得する。
(2a)モデル生成ステップ
取得した測定値から非線形回帰分析により、相対距離を変数とするビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅の少なくとも何れかの予測モデルを生成する。実際の測定値から、非線形回帰分析を用いて、ビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅について、ベッセルビーム照射部とレンズ群との相対距離の依存性を表現する回帰式を作成する。具体的には非線形多重回帰式の係数を求め、予測モデルを生成する。
(3a)決定ステップ
上記の予測モデルを用いて、要求するビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅の少なくとも何れかから、相対距離を決定する。
【0017】
また、長距離伝搬ビーム形成ユニットにおけるレンズ群が、第1及び第2の集光レンズから構成され、第1の集光レンズ又は第2の集光レンズの何れかのレンズとベッセルビーム照射部の間の相対距離を第1の調整パラメータとし、第1の集光レンズと第2の集光レンズの間の相対距離を第2の調整パラメータとする場合、本発明の長距離伝搬ビーム形成ユニットの調整パラメータ決定方法は、第1及び第2の調整パラメータの決定方法であって、下記(1b)~(3b)の3つのステップから構成される。
(1b)取得ステップ
第1及び第2の調整パラメータを変化させて、ビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅の少なくとも何れかを複数回測定した測定値を取得する。
(2b)モデル生成ステップ
取得した測定値から非線形回帰分析により、第1及び第2の調整パラメータを変数とするビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅の少なくとも何れかの予測モデルを生成する。実際の測定値から、非線形回帰分析を用いて、ビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅について、第1及び第2の調整パラメータの依存性を表現する回帰式を作成する。具体的には非線形多重回帰式の係数を求め、予測モデルを生成する。
(3b)決定ステップ
上記の予測モデルを用いて、要求するビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅の少なくとも何れかから、第1及び第2の調整パラメータを決定する。
【0018】
本発明のプログラムは、上記の何れかの長距離伝搬ビーム形成ユニットの調整パラメータ決定方法における取得ステップ、モデル生成ステップ、及び決定ステップを、コンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の長距離伝搬ビーム形成ユニットによれば、ライトシート顕微鏡において、アキシコンレンズや対物レンズを付け替えることなく調整できるため、蛍光励起範囲の微細な調整が容易となるといった効果がある。また、本ビーム形成ユニットを利用することで、ハードウェアの制約を軽減し、ライトシート顕微鏡のデザインをより柔軟に行える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図3】ベッセルビーム照射部とレンズ群との相対距離を制御する制御部の説明図
【
図5】瞳面におけるビーム断面形状の径及び半値全幅の微調整を示すグラフ
【
図6】検出光学系の対物レンズ焦点面におけるビーム形状を示す図
【
図7】検出光学系の対物レンズ焦点面におけるビーム形状を示すグラフ
【
図8】調整パラメータ(D
1,D
2)の決定フロー図
【
図9】調整パラメータ(D
1,D
2)とビーム形状との相関に関する説明図
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例1】
【0022】
図1は、ライトシート顕微鏡の一実施形態の構成図を示している。ライトシート顕微鏡は、照明光学系100と検出光学系400とから成り、照明光学系の光軸と検出光学系の光軸は互いに直交する。図中、照明光学系100の光軸方向をX方向、検出光学系400の光軸方向をZ方向、X-Y平面に直交する方向をY方向とする。
照明光学系100は、ベッセルビーム照射部1を構成するレーザ光源11とアキシコンレンズ12、検出光学系400の対物レンズ43の焦点面におけるビーム形状の長さと光軸方向の幅を制御する制御部2、レーザ光源11から出たビームを2つに分割するビームスプリッタ31を介して分割されたビームをベッセルビームと重畳させる光学系(32,33,34)と、検出光学系400の対物レンズ43の焦点面に蛍光励起光を集光させる集光レンズ35から構成される。
【0023】
制御部2は、ベッセルビームのリング状の発散光をコリメート光に変換するレンズ群(21,22)と、それらのレンズ群の各々のレンズを独立して照射光軸に沿って移動調整する駆動機構(図示せず)を備え、ベッセルビーム照射部1のアキシコンレンズ12とレンズ群(21,22)との相対距離を調整するために、駆動機構に制御信号を送る。
【0024】
検出光学系400は、撮像素子41、結像レンズ42、対物レンズ43を備える。検出光学系400では、対物レンズ43の焦点面における蛍光励起範囲を観察する。
ベッセルビーム照射部1のアキシコンレンズ12とレンズ群(21,22)との相対距離に応じて、検出光学系400の対物レンズ43の焦点面におけるビーム形状の長さと光軸方向の幅を変化させることができる。これについては後述する。
【0025】
ベッセルビーム照射部について、
図2を参照して説明する。ベッセルビーム照射部を構成するアキシコンレンズ12は、円錐形状のプリズムであり、凸レンズのように光源からの光を、光軸中心に1点に集光するのではなく、光軸を中心とする複数のポイントにライン状に集光し(
図2(1)を参照)、その後、光軸を交差後にリング状のビームを形成する(
図2(2)を参照)。形成されたリング状のビーム径は、照射距離が長くなるほど大きくなる一方で、リングの厚み(幅)は一定である。
ベッセルビームは、照射距離に依存して強度が低下するガウシアンビームとは異なり、回折がなく、長距離を伝搬しても強度分布が変わらないのが特徴である。アキシコンレンズを用いる場合、ベッセルビームの特徴に非常に近く、リングを形成するビームの強度は照射距離にかかわらず等しくなる。
【0026】
次に、ベッセルビーム照射部とレンズ群との相対距離を制御する制御部について、
図3を参照して説明する。上述のとおり、ベッセルビーム照射部のレーザ光源(図示せず)から出力されたビーム4がアキシコンレンズ12によってリング状発散光(ベッセルビーム)となる。制御部は、リング状発散光をコリメート光に変換するレンズ群(21,22)と、それらのレンズ群の各々のレンズを独立して照射光軸に沿って移動し(S
0,S
1,S
2)、相互の距離を調整する駆動機構(図示せず)を備え、レンズ21とレンズ22の2つのレンズを各々独立に光軸方向に沿って移動し光軸上の位置を調整できる。
【0027】
ここで、レンズ21とレンズ22の移動調整の際には、ベッセルビーム照射部のアキシコンレンズ12が固定されてレンズ21とレンズ22の2つのレンズ群だけが移動できる場合と、アキシコンレンズ12が固定されずレンズ12自体がレンズ群の移動に加えて独立に光軸方向に沿って移動できる場合がある。いずれの場合においても、
図3におけるベッセルビーム照射部のアキシコンレンズ12とレンズ群(21,22)との相対距離を調整することができる。なお、制御部では、アキシコンレンズ12とレンズ群(21,22)との相対距離を調整するために、駆動機構に制御信号を送る。相対距離が変化することにより、検出光学系400の対物レンズ43の焦点面におけるビーム形状の長さが変化する。すなわち、制御部2は、アキシコンレンズ12とレンズ群(21,22)との相対距離を調整することにより、検出光学系400の対物レンズ43の焦点面におけるビーム形状の長さと光軸方向の幅を調整できることになる。以下の実験例の説明により、上記のことが裏付けられる。
【0028】
(実験例)
以下、
図4~7の実験データを示しながら、実施例1のライトシート顕微鏡を用いて、レンズ群(21,22)を移動調整し、検出光学系400の対物レンズ43の焦点面におけるビーム形状の長さと光軸方向の幅を調整できることを説明する。
ここで、実験は、レーザ光源11として、広帯域波長可変フェムト秒レーザ(Spectra Physics社製)を用い、アキシコンレンズ12として、プリズム角0.5°のレンズ(Thorlabs社製)を用いた。
【0029】
図4は、
図1の集光レンズ35の入射瞳面におけるビーム断面形状を示し、
図3に示すアキシコンレンズ12又はレンズ群の前方側レンズ21と、後方側レンズ22との相対距離(D
1,D
2)を変化させた場合におけるビーム断面形状の変化を表している。
図4(1)~(3)は、それぞれ、レンズ群の後方側レンズ22とアキシコンレンズ12との相対距離D
1が280mm,282mm,及び284mmの場合を示している。また、
図4(1)(1a)~(1d)は、それぞれ、レンズ群の前方側レンズ21と後方側レンズ22との相対距離D
2が145mm,150mm,155mm,及び160mmの場合を示している。
図4(2)(2a)~(2d),
図4(3)(3a)~(3d)も同様に、それぞれ、レンズ群の前方側レンズ21と後方側レンズ22との相対距離D
2が145mm,150mm,155mm,及び160mmの場合を示している。
図4(1)~(3)の何れの場合においても、相対距離D
1が同じで、相対距離D
2が大きくなると、アキシコンレンズ12と前方側レンズ21の間の距離は短くなり、リング径が小さくなっていることが見てわかる。
【0030】
図5は、瞳面におけるビーム断面形状の径及びFWHM(Full Width at Half Maximum)の数値を
図4から算出したものをグラフ化したものである。
図5(1)はリング半径の変化を示すグラフであり、
図5(2)は半値全幅(FWHM)の変化を示すグラフである。
図5(1)によれば、前方側レンズ21と後方側レンズ22の相対距離D
2が大きくなると、或は、アキシコンレンズ12と前方側レンズ21の間の距離は短くなると、リング径が小さくなっていることが確認できる。また、相対距離D
1が大きくなるとリング径が大きくなっていることが確認できる。
一方、
図5(2)によれば、前方側レンズ21と後方側レンズ22の相対距離D
2が大きくなると、或は、アキシコンレンズ12と前方側レンズ21の間の距離は短くなると、半値全幅が小さくなる傾向にあることが確認できる。そして、相対距離D
1が大きくなると急激にリング径が大きくなることがわかる。
【0031】
次に、
図4に示したビーム断面形状の各々に関して、検出光学系の対物レンズ焦点面におけるビーム形状について、
図6,7を参照して説明する。
図6(1)~(3)は、
図4と同様に、それぞれ、レンズ群の後方側レンズ22とアキシコンレンズ12との相対距離D
1が280mm,282mm,及び284mmの場合を示している。また、
図6(1)(1a)~(1d)と
図6(2)(2a)~(2d)と
図6(3)(3a)~(3d)は、
図4と同様に、それぞれ、レンズ群の前方側レンズ21とアキシコンレンズ12との相対距離D
2が145mm,150mm,155mm,及び160mmの場合を示している。
図6(1)~(3)の何れの場合においても、相対距離D
1が同じで、相対距離D
2が大きくなると、ビーム形状の長さ(図中の横線の長さ)が拡がっていることが見てわかる。ビーム形状の長さは、蛍光励起範囲に対応するため、蛍光励起範囲が拡がっていることがわかる。
【0032】
また、
図7は、検出光学系の対物レンズ焦点面におけるビーム形状の長手方向(
図7(3)に示すLongitudinal)及び長手方向に対して直角に横切る方向(光軸方向)(
図7(3)に示すTransverse)について、
図6から算出したものをグラフ化したものである。
図7(1)はビーム形状の長手方向における半値全幅(FWHM)の変化を示すグラフであり、
図7(2)はビーム形状の長手方向に対して直角に横切る方向(光軸方向)における半値全幅(FWHM)の変化を示すグラフである。
図7(1)によれば、ビーム形状の長手方向における半値全幅(FWHM)は、相対距離D
1によらず、前方側レンズ21と後方側レンズ22の相対距離D
2が大きくなると、或は、アキシコンレンズ12と前方側レンズ21の間の距離が短くなると、半値全幅(FWHM)が顕著に大きくなっていることがわかる。
一方、
図7(2)によれば、ビーム形状の長手方向に対して直角に横切る方向(光軸方向)における半値全幅(FWHM)は、前方側レンズ21と後方側レンズ22の相対距離D
2が大きくなったとしても、或は、アキシコンレンズ12と前方側レンズ21の間の距離が短くなったとしても、141mmを除いては、半値全幅は殆ど変化しないことがわかる。
【0033】
以上の実験データから、制御部におけるレーザ群を光軸に沿う方向に移動調整することにより、検出光学系400の対物レンズ43の焦点面でのビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅を調整でき、蛍光励起範囲を調整できることがわかる。すなわち、アキシコンレンズや対物レンズを付け替えることなくビーム形状を調整でき、蛍光励起範囲の微細な調整が容易に行えるのである。
【実施例2】
【0034】
次に、本発明の長距離伝搬ビーム形成ユニットにおける調整パラメータの決定方法の一実施形態について説明する。実施例1のライトシート顕微鏡において、
図3に示すアキシコンレンズ12又はレンズ群の前方側レンズ21と、後方側レンズ22との相対距離(D
1,D
2)を調整し、検出光学系の対物レンズの焦点面におけるビーム形状の長さを調整する場合を想定する。集光レンズ22とアキシコンレンズ12との相対距離D
1が第1の調整パラメータとなり、集光レンズ22と集光レンズ21との相対距離D
2が第2の調整パラメータとなる。
図8は、調整パラメータの決定フローを示している。
【0035】
まず、取得ステップ(S01)で、調整パラメータ(D1,D2)を変化させて、ビーム形状の長手方向の長さと光軸方向(ビーム形状の長手方向に対して直角に横切る方向)の幅を測定した測定値を取得する。
次に、モデル生成ステップ(S02)で、取得した測定値から非線形回帰分析により、調整パラメータ(D1,D2)を変数とするビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅の予測モデルを生成する。実際の測定値から、非線形回帰分析を用いて、ビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅について、調整パラメータ(D1,D2)の依存性を表現する回帰式を作成する。具体的には以下の非線形多重回帰式(式1、式2)の回帰係数(α00,α10,α01,α20,α11,α02,β00,β10,β01,β20,β11,β02)を求め、予測モデルを生成する。なお、式中、d1は調整パラメータD1を、d2は調整パラメータD2を意味する。
【0036】
【0037】
決定ステップ(S03)で、回帰係数が求まった予測モデルを用いて、要求するビーム形状の長手方向の長さと光軸方向の幅から、調整パラメータ(D
1,D
2)を決定する。
図9(1)は、ビーム形状の長手方向の長さ(半値全幅)の2つの調整パラメータ(D
1,D
2)依存性を示すものであり、また、
図9(2)は、ビーム形状の光軸方向(ビーム形状の長手方向に対して直角に横切る方向)の幅(半値全幅)の2つの調整パラメータ(D
1,D
2)依存性を示すものである。図において、依存性は色の濃淡で示している。
以上のステップ(S01~S03)により、調整パラメータ(D
1,D
2)を決定する。これらのステップ(S01~S03)を、プログラムを用いてコンピュータに実行させることも可能である。
【実施例3】
【0038】
図10は、実施例1で示した制御部のレンズ群とは異なる他の実施態様のレンズ群について説明するものである。
図10における制御部は、アキシコンレンズ12から出射されたリング状発散光(ベッセルビーム)をコリメート光に変換するレンズ群(21,22,23)と、それらのレンズ群の各々のレンズを独立して照射光軸に沿って移動調整する駆動機構(S
1,S
2,S
3)を備え、レンズ21とレンズ22とレンズ23の3つのレンズを各々独立に光軸方向に沿って移動し光軸上の位置を調整する。
【0039】
レンズ21とレンズ22とレンズ23の移動調整の際には、ベッセルビーム照射部のアキシコンレンズ12が固定されてレンズ21とレンズ22とレンズ23の3つのレンズ群だけが移動できる場合と、アキシコンレンズ12が固定されずレンズ12自体がレンズ群の移動に加えて独立に光軸方向に沿って移動できる場合があり、レンズ23と、アキシコンレンズ12、レンズ21又はレンズ22との相対距離を調整できる。制御部は、レンズ23と、アキシコンレンズ12、レンズ21又はレンズ22との相対距離を調整することにより、検出光学系400の対物レンズ43の焦点面におけるビーム形状の長さを調整できる。
【0040】
(その他の実施例)
(1)上述の実施例では、照明光学系の光軸と検出光学系の光軸は互いに直交する例を説明したが、互いに同軸方向にならないように交差する構成でも構わない。
(2)上述の実施例では、制御部のレンズ群が2つの場合、3つの場合を説明したが、4つ以上で構成されても構わない。
(3)上述の実施例では、アキシコンレンズとして凸形の円錐レンズを用いて説明したが、凹形の円錐レンズを用いても構わない。
(4)上述の実施例では、制御部のレンズ群が凸レンズで構成される場合を説明したが、上述した技術的特徴を満たすものであれば、平凸レンズや凹レンズなどを含む他のレンズによって構成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、生細胞のライブ観察などに用いるライトシート蛍光顕微鏡において、蛍光励起範囲を調整する技術として有用である。
【符号の説明】
【0042】
1 ベッセルビーム照射部
2 制御部
3 ベッセルビーム
4 ビーム
11 レーザ光源
12 アキシコンレンズ
21~23 レンズ
31,34 ビームスプリッタ
32,33 ミラー
35 集光レンズ
41 撮像素子
42 結像レンズ
43 対物レンズ
100 照明光学系
400 検出光学系