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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】アルツハイマー病診断のためのアッセイ
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20240604BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALI20240604BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALI20240604BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12N5/0793
C12N5/0797
G01N33/573 A
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2019517780
(86)(22)【出願日】2017-09-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 GB2017052904
(87)【国際公開番号】W WO2018060709
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-09-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】1616691.0
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】500532757
【氏名又は名称】キングス カレッジ ロンドン
【氏名又は名称原語表記】KINGS COLLEGE LONDON
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チュレ-ヒンジ,サンドリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ラブストーン,シモン
(72)【発明者】
【氏名】プライス,ジャック
(72)【発明者】
【氏名】マルスザク,アレクサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】マーフィ,ティタス
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】加々美 一恵
【審判官】天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】Experimental Neurology,2010年,Volume 223,Issue 2, p267-281
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q1/00-3/00
G01N33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PUBMED
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽度認知機能障害(MCI)と診断を受けた患者において軽度認知機能障害(MCI)からアルツハイマー病(AD)への移行を予測するためのインビトロ細胞アッセイであって、前記アッセイは:
a.ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の増殖期中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
b.その後、前記海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の分化期間中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
c.培養された前記前駆細胞の、前記ステップaにおける前記増殖期後または前記増殖期中に観察される増殖レベルを決定するステップ;
d.培養された前記前駆細胞の、前記ステップaにおける前記増殖期後または前記増殖期中の平均細胞数を決定するステップ;および
e.増殖した前記海馬前駆細胞の分化のアポトーシス細胞死をモニターするステップを含み、
2以上の異なる時点において(c)~(e)の各々の結果が得られ、統計解析を前記各々の結果により行い、各時点における確率スコアを出力し、前記異なる時点間での前記確率スコアの増加は、患者がADへの移行に向かってさらに進行していることを示し、前記異なる時点間での前記確率スコアの減少は、患者がADへの移行に向かってさらに進行していないことを示している
前記アッセイ。
【請求項2】
AD薬物臨床治験に選択することの適格性に関して、MCIと診断を受けた患者の層別化を支援するインビトロ細胞アッセイであって、前記アッセイは:
a.ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の増殖期中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
b.その後、前記海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の分化期間中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
c.培養された前記前駆細胞の、前記ステップaにおける前記増殖期後または前記増殖期中に観察される増殖レベルを決定するステップ;
d.培養された前記前駆細胞の、前記ステップaにおける前記増殖期後または前記増殖期中の平均細胞数を決定するステップ;および
e.増殖した前記海馬前駆細胞の分化のアポトーシス細胞死をモニターするステップを含み、
2以上の異なる時点において(c)~(e)の各々の結果が得られ、統計解析を前記各々の結果により行い、各時点における確率スコアを出力し、前記異なる時点間での前記確率スコアの増加は、患者がADへの移行に向かってさらに進行していることを示し、前記異なる時点間での前記確率スコアの減少は、患者がADへの移行に向かってさらに進行していないことを示している
前記アッセイ。
【請求項3】
前記確率スコアが、ロジスティック回帰分析により決定される、請求項1または2に記載のアッセイ。
【請求項4】
前記方法を使用して、AD薬物臨床治験に選択された患者が前記治験に含まれるのに適した候補であったかどうかを遡及的に判別する、請求項2に記載のアッセイ。
【請求項5】
(f)分化後に存在する成熟神経細胞、未成熟神経細胞、もしくはグリア細胞の、ならびに/または
(g)増殖中もしくは増殖後のアポトーシス細胞の
の1つ以上を測定することをさらに含み、
(f)および/または(g)の結果を使用して、臨床治験に選択することの前記患者の適格性を決定する、
請求項2~4のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項6】
MCIと診断された患者に行った治療の有効性の評価を支援するインビトロ細胞アッセイであって、前記アッセイが:
a.ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の増殖期中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
b.その後、前記海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の分化期間中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
c.培養された前記前駆細胞の、前記ステップaにおける前記増殖期後または前記増殖期中に観察される増殖レベルを決定するステップ;
d.培養された前記前駆細胞の、前記ステップaにおける前記増殖期後または前記増殖期中の平均細胞数を決定するステップ;および
e.増殖した前記海馬前駆細胞の分化のアポトーシス細胞死をモニターするステップを含み、
前記アッセイを治療期間中規則的間隔で反復して2以上の異なる時点において(c)~(e)の各々の結果を生じ、各時点における確率スコアを出力し、前記異なる時点間での前記確率スコアが減少または現状維持する場合、治療は効果があるとし、前記異なる時点間での前記確率スコアが増加する場合、治療は効果がないとする
前記アッセイ。
【請求項7】
前記患者が、MCIからADへ移行することを予測され、
前記MCIからADへの移行予測が、請求項1に記載のアッセイを行った結果である、請求項6に記載のアッセイ。
【請求項8】
前記規則的間隔が、6か月の間隔である、請求項6または7に記載のアッセイ。
【請求項9】
(f)分化後に存在する成熟神経細胞、未成熟神経細胞、もしくはグリア細胞の、ならびに/または
(g)増殖中もしくは増殖後のアポトーシス細胞数
の1つ以上を測定することをさらに含み、
(f)および/または(g)の結果を使用して、経時的に治療の有効性をモニターする、
請求項6~8のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項10】
MCIと診断された患者の病気進行をモニターするためのインビトロ細胞アッセイであって、前記アッセイが:
a.ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の増殖期中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
b.その後、前記海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の分化期間中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
c.培養された前記前駆細胞の、前記ステップaにおける前記増殖期後または前記増殖期中に観察される増殖レベルを決定するステップ;
d.培養された前記前駆細胞の、前記ステップaにおける前記増殖期後または前記増殖期中の平均細胞数を決定するステップ;および
e.増殖した前記海馬前駆細胞の分化のアポトーシス細胞死をモニターするステップを含み、
前記方法を規則的間隔で反復して2以上の異なる時点において(c)~(e)の各々の結果を生じ、各時点における確率スコアを出力し、前記異なる時点間での前記確率スコアの増加は、病気進行を示す、
前記アッセイ。
【請求項11】
前記規則的間隔が、6か月の間隔であり、
前記アッセイが、
(f)分化後に存在する成熟神経細胞、未成熟神経細胞、もしくはグリア細胞の、ならびに/または
(g)増殖中もしくは増殖後のアポトーシス細胞の
の1つ以上を測定することをさらに含み、
異なる時点において測定された(f)および/または(g)の結果の比較を使用して病気進行をモニターする、
請求項10に記載のアッセイ。
【請求項12】
(a)および(b)における前記培養培地中の前記血清の最終濃度が、0.5%~5%である、請求項1~11のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項13】
ステップ(a)が、前記培養培地中に前記細胞を播種した24時間後に前記培養培地に前記血清を添加することを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項14】
ステップ(a)における前記培養培地が、EGF、bFGFおよび4-OHTを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項15】
ステップ(a)において言う前記増殖期が、48時間の期間である、請求項1~14のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項16】
前記培養培地が、ステップ(a)と(b)の間で交換され、(b)において使用される前記培養培地はEGF、bFGFおよび4-OHTの全てを含むことはない、請求項1~15のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項17】
ステップ(b)において言う前記分化期が、7日以下の期間である、請求項1~16のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項18】
前記海馬前駆細胞が、ヒト多分化能海馬前駆細胞である、請求項1~17のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項19】
前記海馬前駆細胞が、条件付不死化細胞である、請求項1~18のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項20】
前記海馬前駆細胞が、HPC0A07/03Cセルライン由来細胞である、請求項1~19のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項21】
前記海馬前駆細胞の増殖レベルを、前記増殖期の終わりに決定する、請求項1~20のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項22】
前記平均細胞数を、前記増殖期の終わりおよび前記分化期の終わりにおいて決定する、請求項1~21のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項23】
アポトーシス細胞死を、前記分化期の終わりにおいて決定する、請求項1~22のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項24】
アポトーシス細胞死を、CC3発現の測定により決定する、請求項1~23のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項25】
未成熟神経細胞を、Dcxの発現レベルの決定により測定し、
成熟神経細胞を、S100βの発現レベルの決定により測定し、
増殖中のアポトーシス細胞数を、CC3の発現レベルの決定により測定する、請求項5、9および11のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項26】
請求項1~25のいずれか一項に記載のアッセイまたは方法におけるヒト海馬前駆細胞を含む基質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽度認知機能障害からアルツハイマー病への移行を診断するためのアッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、現在、世界において推定4,000万人を苦しめている認知症の最も多い原因である。ADは遺伝性であり得るが、原因の多くは散発性であり、いずれも遅発性ADの発症リスクの一因となるとされる食習慣、運動、および教育などの生活要因である。世界人口内における年齢上昇および座りがちな生活のせいで、認知症を有する人々の数は、2030年までに7,500万人に増加するとされ、グローバル経済に、緩和ケアにおける推定2兆ドルの負担がかかるとされている。この莫大な経済および情動的負担は、部分的には、病気の進行を食い止めることおよび発症前にADを診断することの両方を対処できないことによる。
【0003】
ADを原因とする認知症は、長期発症前段階が先行し、次いで軽度認知機能障害(MCI)と診断される。重要なことには、MCIと診断された人が全て最終的にADを発症するわけではない。認識力が安定なままの人もいれば、レビー小体型認知症、血管性認知症および/または前頭側頭型認知症などの他の病気に進行する人もいる。
【0004】
海馬は、ADにおいて最も影響を受ける脳領域であり、海馬神経細胞は、その変性症が観察される主要神経細胞サブタイプである。現在、遅発性ADを発症前に診断することができないので、患者がADに罹患していると特定される時までには、海馬は既にかなり傷害を受けていることが多い。このことは、治療は予防と対照的に治癒する必要があるので、効果的治療の開発の困難さの度合いを増している。さらに、AD患者に観察される認知機能低下の進行性の性質が理由で、臨床治験はMCIと診断された患者を取り込むことが多いが、必ずしもAD発症に進むとは限らない。臨床治験にこれらの患者を選択することは、信頼度のある検査の下で治療有効性を評価する能力を大いに与える。
【0005】
ADの別の可能性のある病理学的特徴は、海馬神経新生(HN)の機能障害である。HNは、海馬神経細胞が脳内で絶えず生成される過程である。最近まで、成熟脳においてHNが起こるかどうかは不確かであった。しかしながら、現在、海馬依存性学習および記憶においてHNが基本的役割を果たしていると山のような証拠が示唆している。脳脊髄液との動的交換をすることができる血液由来因子によりHNは病気に冒されると考えられている。これらの因子は、全身環境(SM)としてまとめて知られている。SMの組成は、ADの危険因子であると知られている同じ生活要因の多くにより大いに影響を受ける。それ自体として、海馬神経細胞の変性症に加えて、HNの機能障害は、特に、海馬がADにおいて最初に病気に冒される脳構造の1つであるとき、ADなどの神経変性疾患の進行における関連する病理学的イベントであり得る。
【0006】
それにもかかわらず、HNを直接測定または生体において海馬前駆細胞の最期を追跡する手段がないのが主な理由で、ヒト脳およびその臨床的関連におけるHNの役割は不確かなままである。病気進行におけるHNの変化が役割を果たすか否か、または認知回復力を得るための進行中の病態に対する代償的役割をHNが果たすかどうかも不確かなままである。
【0007】
新規な臨床および診断ツールの開発を可能とするために、HNおよびAD発症の関係性がより理解される必要がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明の第一の態様は、MCIと診断を受けた患者において軽度認知機能障害(MCI)からアルツハイマー病(AD)への移行を予測するためのインビトロ細胞アッセイであって、該アッセイは:(a)ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の増殖期中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;(b)その後、前記海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の分化期間中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;(c)培養された前記前駆細胞の増殖レベルを決定するステップ;(d)培養された前記前駆細胞の平均細胞数を決定するステップ;および(e)増殖した前記海馬前駆細胞の分化後のアポトーシス細胞死をモニターするステップを含み、統計解析を(c)~(e)の各々の結果により行い、統計解析結果は患者のMCIからADへの移行への予測となる、アッセイを提供する。
【0009】
本発明の第二の態様は、AD薬物臨床治験に含めることの適格性に関して、MCIと診断を受けた患者の層別化を支援するインビトロ細胞アッセイであって、該アッセイは:(a)ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の増殖期中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;(b)その後、前記ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の分化期間中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;(c)培養された前記前駆細胞の増殖レベルを決定するステップ;(d)培養された前記前駆細胞の平均細胞数を決定するステップ;および(e)増殖した海馬前駆細胞の分化後のアポトーシス細胞死をモニターするステップを含み、(c)~(e)の各々の結果を使用して前記臨床治験に選択することについての患者の適格性を判定することができる、アッセイを提供する。
【0010】
本発明の第三の態様は、MCIと診断された患者に行った治療の有効性の評価を支援するインビトロ細胞アッセイであって:(a)ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の増殖期中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;(b)その後、前記ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の分化期間中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;(c)培養された前記前駆細胞の増殖レベルを決定するステップ;(d)培養された前記前駆細胞の平均細胞数を決定するステップ;および(e)増殖した前記海馬前駆細胞の分化後のアポトーシス細胞死をモニターするステップを含み、該アッセイを治療期間中規則的間隔で反復して異なる時点において(c)~(e)の各々の結果を生じ、前記異なる時点における結果を比較して前記治療有効性の評価を支援する、アッセイを提供する。
【0011】
本発明の第四の態様は、MCIと診断された患者の病気の進行をモニターするためのインビトロ細胞アッセイであって:(a)ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の増殖期中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;(b)その後、前記ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の分化期間中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;(c)培養された前記前駆細胞の増殖レベルを決定するステップ;(d)培養された前記前駆細胞の平均細胞数を決定するステップ;および(e)増殖した前記海馬前駆細胞の分化後のアポトーシス細胞死をモニターするステップを含み、該方法を規則的間隔で反復して異なる時点において(c)~(e)の各々の結果を生じ、前記異なる時点の結果を比較して病気の進行をモニターする、アッセイを提供する。
【0012】
本発明の第五の態様は、本発明の第一~第四の態様のいずれかに記載のアッセイまたは方法におけるヒト海馬前駆細胞を含む基質の使用である。
【0013】
本発明の第六の態様は、MCIからADへの移行のバイオマーカー、ADの進行のバイオマーカーおよび/またはADをモニターするためのバイオマーカーとして海馬神経新生
の使用である。
【0014】
本発明の第七の態様は、ADの治療標的および/またはAD発症を遅延する介入標的として海馬神経新生の使用である。
【0015】
本発明の第八の態様は、本発明の第六の態様に記載のMCIからADへの移行のバイオマーカーとして、または、本発明の第七の態様に記載のADの治療標的および/またはAD発症を遅延する介入標的としての海馬神経新生の使用であって、ヒト血清に、好ましくは0.5(v/v)%~5(v/v)%の範囲のヒト血清の最終濃度に、最も好ましくは1(v/v)%の最終濃度に不死化ヒト海馬前駆細胞を暴露することにより海馬神経新生をインビトロで測定する、使用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明を次の図を参照して説明する:
図1A】インビトロ海馬神経新生の増殖中のMCIコンバーターおよびMCI非コンバーターの血清の影響を示す。x軸には、ADへの移行点を0に分類し、一方、MCI非コンバーターに対する0は最終来院を示す。
図1B】インビトロ海馬神経新生の分化中のMCIコンバーターおよびMCI非コンバーターの血清の影響を示す。x軸には、ADへの移行点を0に分類し、一方、MCI非コンバーターに対する0は最終来院を示す。
図1C】インビトロ海馬神経新生の増殖中のMCIコンバーターおよびMCI非コンバーターの血清の影響を示す。海馬前駆細胞をMCIコンバーターおよびMCI非コンバーターの1%血清で処理した場合の増殖細胞(Ki67細胞)数変化を示す。x軸には、ADへの移行点を0に分類し、一方、MCI非コンバーターに対する0は最終来院を示す。
図1D】インビトロ海馬神経新生の分化中のMCIコンバーターおよびMCI非コンバーターの血清の影響を示す。アッセイの増殖およびその後の分化段階中のMCIコンバーターまたはMCI非コンバーターのいずれかの血清の存在下で海馬前駆細胞を培養した場合に神経新生から得られた成熟Map2神経細胞のパーセンテージを示す。x軸には、ADへの移行点を0に分類し、一方、MCI非コンバーターに対する0は最終来院を示す。
図1E】インビトロ海馬神経新生の増殖中のMCIコンバーターおよびMCI非コンバーターの血清の影響を示す。MCIコンバーターの血清が増殖中の海馬前駆細胞の生存率低下を引き起こし、この効果は時間依存性であることを示す。
図1F】インビトロ海馬神経新生の分化中のMCIコンバーターおよびMCI非コンバーターの血清の影響を示す。MCIコンバーターの血清が分化中の海馬前駆細胞の生存率低下を引き起こし、この効果は時間依存性であることを示す。
図2】アルツハイマー病に移行する尤度を推定する統計的モデルの予測精度を示す受信者動作特性(ROC)曲線を示す。予測モデル(AUC=0.9675)は、このモデルの優れた判別能力を示す。感度=92.11%、特異度=94.12%、陽性予測値=97.22%、陰性予測値=84.21%。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、軽度認知機能障害(MCI)患者から得られた血清サンプルが、インビトロで海馬神経新生(HN)に差別的に影響を与えるという本発明者らの発見に基づいている。より詳細には、患者の血清がHNを調節する程度が、該患者がアルツハイマー病(AD)を発症するかどうかの正確に予測因子であることを本発明者らは発見した。特に、個体の教育達成状況および/または食習慣などの生活要因と組み合わせて、患者の血清がHNを調節する程度は、MCI患者がAD発症に進むかどうかを正確に予測因子であることを本発明者らは見出した。
【0018】
この発見を基礎として、MCI患者において発症前にADを診断することを可能とする迅速で非侵襲的インビトロアッセイを本発明者らは開発した。これは、患者から得られた血清の小サンプルを含む細胞培養培地の添加および前記培地を使用してインビトロでヒト海馬前駆細胞を培養することにより達成することができる。細胞は増殖期および分化期を経験するので、異なる生体現象を測定し、その後、MCI患者がADを発症するかどうかを正確に予測することができる統計解析と組み合わせることができる。徴候発症前にADを診断する能力は、さらなる認知機能低下を阻止する、または回復さえさせるために、治療介入のための貴重な手段を提供する。
【0019】
したがって、本発明の第一の態様は、MCIと診断を受けた患者において軽度認知機能障害(MCI)からアルツハイマー病(AD)への移行を予測するためのインビトロ細胞アッセイであって、該アッセイは:
(a)ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の増殖期中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
(b)その後、前記海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の分化期間中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
(c)培養された前記前駆細胞の増殖レベルを決定するステップ;
(d)培養された前記前駆細胞の平均細胞数を決定するステップ;および
(e)増殖した前記海馬前駆細胞の分化後のアポトーシス細胞死をモニターするステップを含み、
統計解析を(c)~(e)の各々の結果により行い、統計解析結果は前記患者のMCIからADへの移行への予測となる、アッセイを提供する。
【0020】
用語「血清」および「全身環境(SM)」は本明細書において互換的に使用され、当技術分野においてその通常の意味を有する。血清は、血液細胞でも凝固因子でもない血液成分である。血清は、フィブリノーゲン以外の血漿である。
【0021】
全身環境の成分は、概して、食習慣、運動、および炎症状態を含む多くの因子により影響を受ける。全身環境は、ADおよびヒト神経新生などの他の神経変性疾患において乱される過程に影響を与えることができる場合がある。
【0022】
当技術分野において周知であり、従来の当業者にルーチン的な標準的な放血技術を用いて、血清(またはSM)を、患者、好ましくはヒト患者から得られた血液のサンプルから抽出することができる。本発明との関連で、SMは、血液サンプルの血清成分のみを含む。
【0023】
本明細書で使用されるとき、用語「海馬神経新生(HN)」は、海馬脳領域の歯状回において新生神経細胞が造られる過程を表す。HNは、出生前発達中最も活性であり、神経新生細胞が成熟神経細胞に分化する成長時の脳の集合に関与している。神経新生は、新生神経細胞が吻側移動経路を経て嗅球に移動することができる脳室下帯においても起こることができる。これは、様々な成長因子および分裂促進因子の存在下で刺激される。成長因子の正確な組合せは生成される神経細胞の種類を決定する。
【0024】
用語「海馬前駆細胞」は、当技術分野においてその通常の意味を有し、脳の海馬領域における神経新生に関連する前駆細胞を表す。本発明の好ましい実施形態では、海馬前駆細胞は、ヒト多分化能海馬前駆細胞である。
【0025】
用語「軽度認知機能障害(MCI)」は、当技術分野においてその通常の意味を有し、個体の年齢および教育に基づいて通常期待されるもの以上の認知機能低下の発症に関連す
る脳機能症候群を表す。MCIは、個体の日常活動を妨げるほどではない。これは、正常老化とアルツハイマー病などの認知症型疾患との間の過渡期として起こり得る。例えば、MCIを、Petersen,R.C.,et al.,Arch Neurol.(1999)56(3):p.303-8に定義されている判断基準に従って診断することができる。
【0026】
用語「アルツハイマー病(AD)」は、当技術分野においてその通常の意味を有し、慢性神経変性疾患を表す。例えば、ADを、McKhann,G. et al.,Neurology(1984)34(7):p.939-44に定義されている判断基準に従って診断することができる。
【0027】
用語「対象」および「患者」は、本明細書において互換的に使用され、MCIの臨床診断を受けた個体を表す。患者または対象は、サル、ブタ、ネコ、イヌまたはウマなどのいずれかの哺乳類であってよいが、好ましくは、患者または対象はヒトである。
【0028】
用語「統計解析」は、アッセイの測定されたイベントの結果を入力して患者が病気発症に進むかどうかに関しての指標を提供することができるいずれかの方法を表す。本発明との関連で、統計解析の好ましい出力は、ADへ移行するMCI患者の尤度を示す確率スコアである。好ましくは、確率スコアは、MCIの診断(時点0)から3.5年以内にADへ移行する患者の尤度に関する。
【0029】
特に適した統計解析は、当業者に周知であろう。最も適した統計解析は、アッセイの複数の測定可能なイベントから得られた結果を積算することができるだろう。本発明の好ましい実施形態では、統計解析の方法は、ロジスティック回帰分析である。ロジスティック回帰分析は医療を含む多くの分野において広く使用されている。例えば、ロジスティック回帰分析を使用して、年齢、性別、肥満度指数、および複数の血液検査の結果を含む多くの可変因子(すなわち、測定可能イベント)に基づいて、糖尿病を発症している患者の重症度(または確率)が決定されている。ロジスティック回帰分析は1つ以上の独立変数(すなわち、測定変数)に基づいて二値応答を推定するために使用される二値ロジスティックモデルである。したがって、組み合わされた測定可能イベントの結果に基づくと、病気を発症する患者の確率は、0~1であろう。したがって、疾患を有するまたは有しないと知られている患者コホートからの確率スコアの結果を使用して、該疾患発症確率が独立変数(すなわち、測定イベント)の組合せた値に対してプロットされるロジスティック回帰曲線を作成することができる。それから、得られた曲線を、ロジスティック回帰曲線とフィットさせることができる。それから、直線回帰曲線(または曲線の関数)を使用して、独立変数(すなわち、測定イベント)の結果に基づいて疾患発症する患者の確率を評価することができ、確率は0~1のいずれかの値として報告され、0は疾患発症の確率0%を示し、1は疾患発症の確率100%を示す。本発明では、確率スコアは、MCI患者のADへの移行の尤度を報告する。
【0030】
最低でも、統計解析は、増殖期後または増殖期中に観察される増殖レベル、増殖期後または増殖期中の平均細胞数、および分化後に観察されるアポトーシスレベルの結果を積算することができるだろう。しかしながら、複数の他の測定可能な現象を統計解析に含めることもできる。例えば、分化後または増殖期に存在すると決定されるグリア細胞、成熟神経細胞、または未成熟神経細胞の細胞数うち1つ以上を、統計解析に含めてもよい。
【0031】
測定可能イベントは、アッセイから直接測定することができるイベントに限定しなくてもよい。本発明の好ましい実施形態では、患者の生活要因の1つ以上も統計解析に含める。前記生活要因としては、患者の教育状況、食習慣因子、患者のアルコール摂取、患者が喫煙するかどうか、または過去に喫煙していたかどうか、および患者が一人暮らし(単独
生活)かどうかを挙げることができる。教育状況は、対象より受けられた正規教育の年数として定義される。正規教育は、学校、カレッジ、大学で過ごした年数および卒業後またはより高いレベルの資格のための勉強に費やした年数と定義される。食習慣因子としては、サプリメント、特に、ビタミン類およびオメガ3脂肪酸の摂取が挙げられる。
【0032】
ADに移行するMCI患者の尤度を決定するために(c)~(e)の結果を統計解析に組み合わせることの有用性または妥当性を、受信者動作特性(ROC)曲線を用いて可視化することができる。ROC曲線は、診断ツールの特異度および感度のトレードオフを示し、その精度を表す。y軸では、感度、または真陽性分画(すなわち、アッセイによりADを発症すると正確に特定されたMCI患者数)は、[(真陽性検査結果数)/(真陽性数+偽陰性結果数)]と定義される。これは、疾病または病態の存在下、陽性とも呼ばれる。これは、罹患部分群(すなわち、ADに移行した患者)から単独で算出される。x軸では、偽陽性分画(すなわち、ADに移行するとアッセイにより誤って特定されたMCI患者、または1-特異度)は、[(偽陽性検査結果数)/(真陰性数+偽陽性結果数)]と定義される。これは、特異度の指標であり、罹患していない部分群から全体的に算出される。真陽性および偽陽性分画は2つの異なる部分群からの検査結果を用いることにより個別に全体的に算出されるので、ROC曲線は、サンプルにおける疾患の有病率と無関係である。ROC曲線上の各点は、特定の識別閾値に対応する感度/特異度対を表す。完全差別化された検査(結果の2つの分布の重複がない)は、真陽性分画が1.0、または100%(完全感度)であり、偽陽性分画が0(完全特異度)である左上隅を通るROC曲線を有する。完全差別化された検査(2つの群について同じ分布の結果)の理論曲線は、左下隅から右上隅への45°対角線である。ほとんどの曲線は、これら2つの極端なものの間にある。定性的に、曲線が左上隅に近いほど、全体的な検査精度はより高くなる。
【0033】
臨床検査の診断精度を定量化する1つの簡便な目標は、単数によりその性能を表現することである。最も一般的な包括的測定は、ROC曲線の曲線下面積(AUC)である。ROC曲線下面積は、知覚測定が病態の正確な特定を可能とする確率の測定である。慣例により、この面積は、通常、≧0.5である。値は1.0(2つの群の検査値の完全分離)~0.5(検査値の2つの群間の明白な分布差がない)の範囲となる。面積は、対角線に最も近い点などの曲線の特定の部分または90%特異度における感度にのみ依存しないが、曲線全体に依存する。これは、ROC曲線がいかに完全なもの(面積=1.0)に近いかの定量的、記述的表現である。本発明との関連で、2つの異なる病態は、MCI患者がAD発症に進むかどうか、またはAD発症に進みそうでないかどうかである。診断検査の将来の適用において使用される閾値または「カットオフ」値を算出する場合、ROC曲線データおよび検査の臨床要件をまとめて考えてもよい。値がこのカットオフ値より大きい(またはこのカットオフ値より小さい)と測定された場合、検査は「陽性」であると見なされ、臨床症状に適切であるさらなる措置がとられ得る。カットオフ値の設定における重要な特徴は検査の必要な特異度(すなわち、真陽性率)である。慣例により、多くの診断検査に必要な特異度は、前以て90%、95%であるとされており、または実際には100%に近いとされている。MCIのADへの移行を予測する検査では、患者についての偽陰性結果の危険な結果が理由で、おそらく有効な検査は100%に近づく必要があると思われる。それから、これらの特異度を達成するために必要なカットオフ値をROC曲線から読んでもよい。曲線上のこの点は、検査感度(真陰性率)に関する値も示すだろう。あるいは、最適なカットオフ値を、グラフの左上隅に最も近いROC曲線上の点を選択することにより得てもよい。ADへの移行を診断するこの特定のアッセイのAUCは0.965であり(図4)、アッセイから導かれた確率スコアが96.5%の信頼値を有することを意味する。
【0034】
本発明のアッセイを上手く行うために、血清濃度範囲をステップ(a)および(b)において細胞培養培地に追加することができる。アッセイにおいて使用される最適な血清濃
度は、強力なアッセイ読み取りを行いながら可能な限り少ない血清を用いることとのバランスである。この点を考慮して、本発明者らは、最適な濃度範囲が培地中0.5(v/v)%~5(v/v)%の血清であることを見出した。したがって、好ましい実施形態では、(a)および(b)における培養培地中の血清の最終濃度は、0.5(v/v)%~5(v/v)%である。最も好ましくは、血清濃度は、1(v/v)%である。
【0035】
好ましい実施形態では、ステップ(a)は、培養培地中に細胞を播種した24時間後に培養培地に血清を添加することを含む。ステップ(a)における培養培地は、好ましくは、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および4-ヒドロキシテストステロン(4-OHT)の1つ以上を含む。EGF、bFGFおよび4-OHTは、ヒト海馬前駆細胞の無限増殖を可能とする成長因子の組合せである。好ましくは、ステップ(a)における培養培地は、これらの成長因子の3つ全てを含む。ステップ(a)において言う増殖期は、好ましくは48時間である。
【0036】
好ましい実施形態では、培養培地は、ステップ(a)および(b)の間で交換される。好ましくは、ステップ(b)において使用される培養培地は、EGF、bFGFおよび4-OHTの全てを含むことはない。細胞培養培地からのEGF、bFGFおよび4-OHTの除去は、前駆細胞の神経細胞、アストロサイト、およびオリゴデンドロサイトへの自然分化を誘発する。好ましくは、ステップ(b)の分化期の初期において、培養培地に血清を添加する。ステップ(b)において言う分化期は、好ましくは、7日以下の期間である。
【0037】
好ましい実施形態では、本発明の第一態様によるアッセイは、患者の生活要因の1つ以上を決定するさらなるステップを含む。好ましい実施形態では、患者の教育状況は、統計解析に含まれる。好ましくは、教育状況は、正規教育の総年数に対応する。好ましくは、患者がMCIからADへ移行するのを予測するために、患者の教育状況は統計解析に含まれる。
【0038】
好ましい実施形態では、本発明のアッセイにおいて使用されるヒト海馬前駆細胞を、例えば、EGF、bFGF、および4-OHTの存在下で細胞が無限に分化するように、レトロウイルス導入によりc-mycERTAM発がん遺伝子を導入することにより条件付不死化する。より好ましくは、海馬前駆細胞は、HPC0A07セルライン由来の細胞、より好ましくはHPC0A07/03C細胞である。このセルラインおよびc-mycERTAM発がん遺伝子導入システムは、欧州特許出願公開第1645626(A1)号(この内容はその全文を参照することにより組み入れられる)に詳細に記載されている。HPC0A07細胞は、ECACC受託番号04092302で寄託されている。
【0039】
好ましい実施形態では、海馬前駆細胞の増殖レベルを、増殖期の終わりに決定する。増殖中に増加すると知られている特定の細胞マーカーレベルの測定により増殖を定量化することができる。増殖レベルを決定するために測定することができるこのような1つのマーカーは、Ki67である。Ki67は、リボソームRNA合成に関連する核タンパク質である。多くの異なる方法により、Ki67レベルを測定することができ、ELISAアッセイ、リボソームプロファイリング、フローサイトメトリー法、蛍光顕微鏡、またはウェスタンブロット解析が挙げられる。
【0040】
好ましい実施形態では、Ki67は、増殖レベルの決定に使用されるマーカーである。Ki67発現を、抗Ki67抗体を用いて測定することができ、該抗体をKi67との結合後にその検出を可能とするマーカーと結合してよい。
【0041】
好ましい実施形態では、平均細胞数を増殖期の終わりおよび分化期の終わりにおいて決
定する。生細胞または固定細胞のカウントのための技術および方法は、当業者に周知である。非限定的例として、Cellinsight Personal Cell Imager (ThermoFisher Scientific社)を用いて行う半自動定量化方法は、固定細胞をカウントするのに特に適している。製造者指示書に従ってこの方法を行うことができる。
【0042】
好ましい実施形態では、分化期の終わりにおいてアポトーシス細胞死を決定する。アポトーシス、またはアポトーシス細胞死は、細胞がプログラム細胞死する精密に制御された機序である。アポトーシス中に細胞が経験する形態変化数のいずれか1つを検出することにより、アポトーシスを測定することができる。このような形態変化としては、ブレッブ(membrane blebbing)、細胞収縮、クロマチン凝縮および断片化、ならびにグローバルmRNA崩壊が挙げられる。非限定的例として、細胞集団内の細胞内のアポトーシス細胞数を、その凝縮クロマチン構造および凝縮細胞形態をもたらすアポトーシス細胞により示される固有光散乱プロファイルに基づきフローサイトメトリーを用いて決定することができる。アポトーシス核内の固有クロマチン構造がいくつかの核染色の特徴的蛍光サインを生じるとき、共通の核蛍光マーカーを使用してアポトーシスを検出することもできる。アポトーシス細胞の固有代謝プロファイルは、ADPおよびATPなどの特定の代謝の存在を定量化する検査を使用してアポトーシスを測定することもできることを意味する。あるいは、蛍光顕微鏡またはウェスタンブロット解析を使用してアポトーシス中に上方制御されることが知られているレベルタンパク質を定量化することができる。適切なアポトーシス関連タンパク質は当業者に周知であり、このいくつかは、本発明との関連でアポトーシスを検出および定量化することに適している。好ましくは、切断カスパーゼ3(CC3)レベルを使用してアポトーシスの程度を定量化する。好ましくは、CC3レベルを、抗CC3抗体を使用して測定する。
【0043】
経時的(c)~(e)の結果の漸進的変化を使用して、経時的にADに向かうMCIの診断を受けた患者の進行を示すことができることが予測される。例えば、各時点におけるADへ移行する患者の確率を示すために、(c)~(e)の結果を統計解析に適用することができる。確率スコアの増加は、患者がADへの移行に向かってさらに進行していることを示しているだろう。確率スコアの減少は、患者がADへの移行に向かってさらに進行していないことを示しているだろう。ADへの移行の確率の漸進的変化を使用してADへの移行を阻止するための治療の有効性をモニターすることもできる。例えば、確率スコアが、治療を行っている間、経時的に減少または現状維持する場合、治療は効果がある。あるいは、確率スコアが、治療を行っている間、経時的に増加する場合、治療は効果がない。同様に、(c)~(e)の結果を使用して患者の血清によるHNの調節を阻害する化合物を同定してもよく、したがって、特定の化合物はAD治療開発の有望な主たる候補物であってよいことを推測する。例として、MCIからADへ移行したと知られている患者から得られた血清を、候補薬物分子の存在および非存在下にインキュベートして、該化合物により結果または(c)~(e)の結果が如何に変化するかを観察することができる。化合物の存在下での(c)~(e)の結果を統計解析に適用して確率を作成し、化合物の非存在下での(c)~(e)の結果から算出された確率スコアと比較する。ADへの移行の確率スコアが化合物の存在下においてより低い場合、薬物を治療組成物の開発のための有望な候補分子と見なしてよい。
【0044】
したがって、本発明の第二態様は、AD薬物臨床治験に選択することの適格性に関して、MCIの診断を受けた患者の層別化を支援するインビトロ細胞アッセイを提供する。このアッセイは:
(a)ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の増殖期中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
(b)その後、前記海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の分化期間中、前記患者から得られ
た血清を含む培養培地中で培養するステップ;
(c)培養された前記前駆細胞の増殖レベルを決定するステップ;
(d)培養された前記前駆細胞の平均細胞数を決定するステップ;および
(e)増殖した前記海馬前駆細胞の分化後のアポトーシス細胞死をモニターするステップを含み、
統計解析を(c)~(e)の各々の結果により行い、前記統計解析結果を使用して前記臨床治験に選択することの前記患者の適格性を決定することができる。
【0045】
本発明の第二態様の好ましい実施形態では、方法を使用して、AD薬物臨床治験に選択された患者が前記治験に含まれるのに適した候補であったかどうかを遡及的に判別することができる。多くのAD治療に不成功に終わった臨床治験は、MCIに罹患している患者およびADに罹患している患者の両方を組み入れた患者コホートを含む。治療は、通常、患者がAD発症になりそうであるかどうかに関係なくMCI全体の群に対して行われる。AD治療の有効性を調査して、臨床治験においてAD発症の低い確率を有するMCI患者の選択は、有効性および治験結果の信頼性を低下させるだろう。したがって、このアッセイを使用して、該患者はADへの移行に進まなかったことが理由で治療は認知機能低下を上手く回復または阻害しなかったのかどうかを判別することができる。治験結果の解析において治験に選択することに適した患者のみを選択することは、治療効果のより正確な状況を浮かび上がらせることを可能とする。
【0046】
好ましい実施形態では、アッセイは:(f)分化後に存在する成熟神経細胞、未成熟神経細胞、もしくはグリア細胞のレベル、または(g)増殖中もしくは増殖後のアポトーシスレベルの1つ以上を測定することをさらに含む。(f)および/または(g)の結果を使用して、臨床治験に選択することの前記患者の適格性を決定することができる。
【0047】
好ましくは、未成熟神経細胞、成熟神経細胞、またはグリア細胞のレベルを、それぞれ、Dcx、Map2、またはS100βのレベルの検出により測定する。好ましくは、アポトーシスレベルを、CC3発現のレベルの検出により測定する。これらのタンパク質のいずれかの発現レベルを、前に記載した従来方法のいずれかを用いて定量化することができる。
【0048】
本発明の第三の態様は、MCIと診断された患者に行った治療の有効性の評価を支援するインビトロ細胞アッセイを提供する。このアッセイは、以下のステップを含む:
(a)ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の増殖期中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
(b)その後、前記海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の分化期間中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
(c)培養された前記前駆細胞の増殖レベルを決定するステップ;
(d)培養された前記前駆細胞の平均細胞数を決定するステップ;および
(e)増殖した前記海馬前駆細胞の分化後のアポトーシス細胞死をモニターするステップを含み、
該アッセイを治療期間中規則的間隔で反復して異なる時点において(c)~(e)の各々の結果を生じ、前記異なる時点における結果を比較して前記治療有効性の評価を支援する。
【0049】
本発明の第三態様の好ましい実施形態では、治療を行っている患者がMCIからADに移行することを予測する。好ましくは、MCIからADへの移行の予測は、本発明の第一態様によるアッセイを行った結果である。
【0050】
本発明の本態様では、患者に行っている治療は、MCIからADへの移行を予防するこ
とを目的とする。
【0051】
好ましい実施形態では、前記規則的間隔は、6か月毎の間隔である。規則的間隔でのアッセイの実施は、治療の長期的有効性をモニターすることを可能とする。好ましくは、MCIの初期診断に対応するベースライン(T)から間隔を算出する。
【0052】
好ましい実施形態では、アッセイは:(f)分化後に存在する成熟神経細胞、未成熟神経細胞、もしくはグリア細胞のレベル、ならびに/または(g)増殖中もしくは増殖後のアポトーシスレベルの1つ以上を測定することをさらに含む。(f)および/または(g)の結果を使用して、経時的に治療の有効性をモニターすることができる。
【0053】
好ましくは、未成熟神経細胞、成熟神経細胞、またはグリア細胞のレベルを、それぞれ、Dcx、Map2、またはS100βのレベルの検出により測定する。好ましくは、アポトーシスレベルを、CC3発現のレベルの検出により測定する。これらのタンパク質のいずれかの発現レベルを、本明細書に記載されている従来方法のいずれかを用いて定量化することができる。
【0054】
第四の態様によれば、本発明は、MCIと診断された患者の病気の進行をモニターするためのインビトロ細胞アッセイを提供する。該アッセイは:
(a) ヒト海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の増殖期中、前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
(b) その後、前記海馬前駆細胞を、前記前駆細胞の分化期間中に前記患者から得られた血清を含む培養培地中で培養するステップ;
(c) 前記培養前駆細胞の増殖レベルを決定するステップ;
(d) 前記培養前駆細胞の平均細胞数を決定するステップ;および
(e) 前記増殖海馬前駆細胞の分化後のアポトーシス細胞死をモニターするステップ、
を含み、
該方法を規則的間隔で反復して異なる時点において(c)~(e)の各々の結果を生じ、前記異なる時点の結果を、病気進行をモニターするために比較する。
【0055】
本発明の第四態様の好ましい実施形態では、前記規則的間隔は、6か月毎の間隔である。好ましくは、MCIの初期診断に対応するベースライン(T)から間隔を算出する。
【0056】
別の好ましい実施形態では、アッセイは、次の1つ以上を測定することをさらに含む:(f)分化後に存在する成熟神経細胞、未成熟神経細胞、もしくはグリア細胞のレベル、ならびに/または(g)増殖中もしくは増殖後のアポトーシスレベル。(f)および/または(g)の結果を異なる時点において比較して病気進行のモニタリングを支援することができる。
【0057】
好ましくは、未成熟神経細胞、成熟神経細胞、またはグリア細胞のレベルを、それぞれ、Dcx、Map2、またはS100βのレベルの検出により測定する。好ましくは、アポトーシスレベルを、CC3発現のレベルの検出により測定する。これらのタンパク質のいずれかの発現レベルを、本明細書に記載されている従来方法のいずれかを用いて定量化することができる。
【0058】
本発明の第二、第三および第四の態様の各々の好ましい実施形態では、ステップ(a)および(b)における培養培地中の血清の最終濃度は、0.5(v/v)%~5(v/v)%、最も好ましくは1(v/v)%である。
【0059】
本発明の第二、第三および第四の態様の各々の好ましい実施形態では、ステップ(a)は、培養培地中に細胞を播種した24時間後に培養培地に血清を添加することを含む。好ましくは、ステップ(a)における培養培地は、EGF、bFGFおよび4-OHTを含む。
【0060】
本発明の第二、第三および第四の態様の各々の好ましい実施形態では、ステップ(a)で言う増殖期は、48時間の期間である。
【0061】
本発明の第二、第三および第四の態様の各々の好ましい実施形態では、培養培地をステップ(a)および(b)の間で交換する。好ましくは、(b)において使用される培養培地は、EGF、bFGFおよび4-OHTの全てを含むことはない。ステップ(b)の分化期の初期において、培養培地に血清を添加してよい。好ましくは、ステップ(b)において言う分化期は、7日以下の期間である。
【0062】
本発明の第二、第三および第四の態様の各々の好ましい実施形態では、アッセイは、患者の生活要因の1つ以上を決定するさらなるステップを含む。好ましい実施形態では、患者の教育状況は、統計解析に含まれる。好ましくは、教育状況は、正規教育の総年数に対応する。
【0063】
本発明の第二、第三および第四の態様の各々の好ましい実施形態では、アッセイにおいて使用される海馬前駆細胞を、例えば、EGF、bFGF、および4-OHTの存在下で細胞が無限に分化するように、レトロウイルス導入によりc-mycER発がん遺伝子を導入することにより条件付不死化する。より好ましくは、海馬前駆細胞は、HPC0A07セルライン由来の細胞、より好ましくはHPC0A07/03C細胞である。
【0064】
好ましい実施形態では、海馬前駆細胞の増殖レベルを、増殖期の終わりに決定する。好ましくは、増殖レベルを、海馬細胞のKi67発現の測定により決定する。Ki67発現を、抗Ki67抗体を用いて測定することができる。
【0065】
本発明の第二、第三および第四の態様の各々の好ましい実施形態では、平均細胞数を、増殖期の終わりおよび分化期の終わりにおいて決定する。
【0066】
本発明の第二、第三および第四の態様の各々の好ましい実施形態では、アポトーシス細胞死を、分化期の終わりにおいて決定する。アポトーシス細胞死を、CC3発現の測定により決定することができる。CC3発現を、抗CC3抗体を用いて測定することができる。
【0067】
本発明の第五態様は、上記に記載されている本発明の第一~第四態様のいずれかによりアッセイにおけるヒト海馬前駆細胞を含む基質の使用である。
【0068】
好ましくは、アッセイにおいて使用される海馬前駆細胞を、例えば、EGF、bFGF、および4-OHTの存在下で細胞が無限に分化するように、レトロウイルス導入によりc-mycER発がん遺伝子を導入することにより条件付不死化する。より好ましくは、海馬前駆細胞は、HPC0A07セルライン由来の細胞、より好ましくはHPC0A07/03C細胞である。
【0069】
基質は、細胞アッセイを行うためのいずれもの従来の基質であってよい。適切な基質は、当業者に明白であろう。
【0070】
本発明の第六の態様は、MCIからADへの移行のバイオマーカー、ADの進行のバイ
オマーカーおよび/またはADをモニターするためのバイオマーカーとしての海馬神経新生の使用である。
【0071】
本発明の第七態様では、ADの治療標的および/またはAD発症を遅延する介入標的としての海馬神経新生の使用を提供する。
【0072】
本発明の第八態様は、本発明の第六態様によるMCIからADへの移行に関するバイオマーカーとして、または、本発明の第七態様によるADの治療標的および/またはAD発症を遅延するための介入標的としての海馬神経新生の使用を対象とする。好ましくは、不死化ヒト海馬前駆細胞をヒト血清に暴露することにより海馬神経新生をインビトロで測定し、ヒト血清最終濃度は好ましくは1(v/v)%である。
【0073】
好ましい実施形態では、分化期の終わりにおいてアポトーシス細胞死を決定する。
【0074】
以下の非限定的例を参照して、本発明をさらに説明する。
【実施例
【0075】
ADに移行した(MCIコンバーター)かまたは継続的追跡調査来院を通して認識力が安定したままである(MCI非コンバーター)かのいずれかのMCI患者由来のヒト海馬前駆細胞および長期血清サンプルを利用することにより、本発明者らは、HNに対するヒト全身環境(すなわち、全身環境(systemic milieu)の組成物)の寄与の確立および本発明者らのHNアッセイをMCIからADへの移行を予測するのに使用することができるかどうかの判別をしようとした。
【0076】
材料および方法
セルライン
正常終了に従い、UKおよびUSA倫理的法的ガイドラインに従い、Advanced
Bioscience Resources(米国カリフォルニア州アラメダ)(Stangl,D. et al 2009;Zunszain,P.A. et al 2012;Anacker.C. et al 2013)から得られた第一3か月雌胎児海馬組織由来のヒト多分化能海馬前駆細胞/幹細胞株HPC0A07/03C(英国ReNeuron Limited)を使用して全ての実験を行った。上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)の存在下、無限に増殖可能とするc-myc-ERTAMトランスジーンの導入により、HPC0A07/03C細胞を条件付不死化した(Pollock,K.ら(2006))。これらの因子の除去は、神経細胞、アストロサイトまたはオリゴデンドロサイトへの自然分化を誘発する。
【0077】
血清サンプル
1)ADを原因とする認知症を後に発症した(MCIコンバーター、n=38、2~5回の毎年追跡調査来院)または2)ADを発症せず(MCI非コンバーター、n=18、3~6回の毎年追跡調査来院)、一時的な記憶問題を有したが診断から少なくとも3年間の期間にわたって記憶力が安定なままであったMCIと診断された個体由来の1%ヒト血清に、増殖および分化しているHPC0A07/03C細胞を暴露した。各試験の被験者由来長期血清サンプルを使用して経時的にHN変化をモニターした。これにより、各追跡調査来院および経時的にHNにおける対象のばらつき内および対象のばらつき間のモデリングに応じて神経新生読み取りを得ることを可能とした。試験のためにMCI非コンバーターを選択する場合、最低3回の年次評価を必要とした。同様に、絶対的に最低でもMCIコンバーターから2つの血清サンプル、1つは移行時に集め、少なくとも1つはMCI段階からの血清サンプルであった。血清サンプルを-80℃で貯蔵し、実験を行う前に1
回の凍結/解凍サイクルを行った。
【0078】
インフォームドコンセントの原理(Lovestone, S.ら(2009))に従って、EU AddNeuroMed Consortium、多施設欧州研究、およびKing’s Health Partners-Dementia Case Register(KHP-DCR)、UK臨床および集団ベースの研究のフレームワーク内に全ての血清サンプルを集めた。(McKhann,G. et al 1984)および[27]基準に従って、起こりそうなADの診断を行った。(Peterson,R.C. et al 2001)基準に従ってMCIを診断した。継続的な追跡調査来院中に臨床診断を行った。認知(機能)評価の時に血清を集めた。
【0079】
ヒト海馬神経新生に対する全身環境の影響を検査するためのインビトロアッセイ
全身環境(すなわち、血清、またはより詳細には全身環境(systemic milieu))が如何にヒトHNに影響を及ぼすか試験するために、本発明者らは、HPC0A07/03C細胞を1%血清で処理するインビトロアッセイを開発および最適化した。増殖(48時間)および分化(7日)の両方の間に、細胞培養液に血清を添加した。細胞播種24時間後、培地(詳細は、Anacker,C.ら 2011)を、1%血清を含む培地と交換した。48時間後、細胞を4%パラホルムアルデヒド中に固定した。
【0080】
HPC0A07/03C細胞の分化に対する全身的効果を検査するために、1%血清の存在下での増殖48時間後(上記のように)、培地を、4-OHT、EGFおよびFGFを含まない培地と交換して細胞が自然に分化するのを可能とした。分化7日後に実験を終了して、培地交換および別の血清添加を避けた。加えて、この時間は、未成熟および成熟神経細胞の変化を検出するのに充分である(Anacker,C. et al 2011;Zunszain,P.A. et al 2012;Anacker,C. et
al 2013)。1%血清を添加した培地を、HPC0A07/03C細胞の増殖および分化の両方の間に1回のみ添加した。各実験のため、3つの生物学的反復(3つの異なる継代数の細胞)を使用し、各生物学的反復のため、技術的トリプリケートがあるだろう。15~24の範囲の継代数のHPC0A07/03C細胞を用いて全ての実験を行った。
【0081】
免疫組織化学および半自動解析
増殖は、ウサギポリクローナル抗Ki67(Abcam社)抗体を用いて評価した;アポトーシス-ウサギモノクローナル抗CC3抗体;神経分化-ウサギポリクローナル抗Dcx(Abcam社)、マウスモノクローナル抗Map2(Abcam社)。第二抗体をAlexa 488またはAlexa555(Invitrogen社)と結合し、核をDAPIと対比染色した。細胞数および表現型の半自動定量化を、ハイスループット装置Cellinsight Personal Cell Imager V2(ThermoFisher Scientific社)を用いて、96ウェルプレートで行った。
【0082】
統計解析
一変量解析のため、両側ペアードt-スチューデント検定、ボンフェローニ補正を用いた事後比較の一元および二元配置分散分析を使用した。
【0083】
データセットの長期的側面のせいで、各個体に使用できる評価情報の様々な数を含めることを可能とし、追跡調査来院間が等間隔であることを必要としないので、本発明者らは、反復測定のため線形混合効果回帰モデルを使用した。ランダム切片モデルおよびランダム傾きモデルを、推定の方法として制限付き最尤法にフィットさせた。全ての解析を、年齢、性別、および教育状況に関して調節した。
【0084】
モデルにおけるランダム効果を特定するために、各血清提供者にIDを割り当てた。モデル解釈を支援するために、個体の年齢はコホートメジアン(77歳)を中心とした。移行までの時間を年で測定し、MCIからADへの移行を示す0に中心がある。移行前の時間を負とし、移行後の時間を正の値とした。教育年数またはメジアンで二分する(低教育≦教育10年、高教育>教育10年)かのいずれかでモデル中に教育を入れた。MCIコンバーターまたは非コンバーターへの分類は二分した(MCIコンバーターは1とし、非コンバーターは0とした)。
【0085】
多くの個別の特徴または併存疾患がHNおよび/またはADのリスクに影響を与え得ることを考えれば、モデル中に考えられる可能性のある予測因子の中でも以下のものであった:AD危険因子(性別、メジアン辺りに中心のある年齢および移行までの時間(またはMCI非コンバーターのベースラインからの時間))、教育レベル、単独生活およびMMSEスコア(ベースラインMMSE、MMSEスコア変化/年);併存疾患(糖尿病、関節炎、高血圧症、甲状腺機能低下症、鬱病、がん、脳卒中、狭心症、炎症およびアレルギー);薬物摂取(抗鬱剤、スタチン系薬剤、非ステロイド系抗炎症薬);サプリメント(ビタミン類、オメガ3脂肪酸);生活スタイル関連因子(習慣性の飲酒、喫煙)。加えて、本発明者らは、異なる予測因子のいくつかの生物学的に納得できる相互作用も試験した。全ての混合効果回帰モデルを、赤池情報量規準(AIC)、尤度比検定および逸脱度を用いて評価した。
【0086】
ロジスティック回帰分析および受信者動作特性(ROC)曲線を行い、ADへの移行の予測における選択された変数の分類精度を決定した。曲線下面積を使用して、MCIコンバーターおよび安定なMCI間の識別を推定した。
【0087】
全ての統計解析を、Prism5.0ソフトウェア(GraphPad Software社)またはSTATA13を用いて行った。
【0088】
結果
血清提供者のベースラインおよび長期的特徴
試験に記録された個体のベースライン特性および疫学的病歴についての詳細な情報を表1中に示している。「ベースライン」は、アッセイを最初に行う点を表す。これは、血清を集めたときの最初の患者の来院である。全ての被験者は、年齢(p=0.320)および性別を(p=0.129、表1参照)マッチさせた。MCIコンバーターは、MCI非コンバーターと比較して終えた教育年数が有意に少なかった(p=0.002)。MCIコンバーターは、MMSEにおいても有意に少ないスコアであった(p=0.031)。
【0089】
表1.試験の被験者のベースライン特性および疫学的病歴。併存疾患は、疾病の履歴または現在罹患していることを表す。薬物摂取は、薬物治療の履歴または現在の摂取のいずれかを意味する。全データは、数(%)または平均(±SD)として示す。
【0090】
【表1】

サプリメントは、ビタミン類およびオメガ3脂肪酸を含んだ。
【0091】
血清提供者の疫学的病歴をモデリング段階において使用して、HNおよび/またはADに影響を及ぼし得るいずれかの可能性のある交絡因子の調節を可能とする。
【0092】
増殖減少および神経新生増加はMCIからADへの進行を特徴付ける
第一に、MCIコンバーター由来長期血清サンプルを用いて、本発明者らは、ベースライン診断からADへの移行までのHNに対する全身環境の影響を解析した。本発明者らは、各追跡調査来院に対応する神経新生読み取りを得て、ヒトHNに対する全身効果の個体内および個体間の差のモデリングを行った。反復測定のための混合効果モデルをフィットさせてHN変化の軌跡に影響を及ぼす因子を特定した。年齢はHNの有意な予測因子ではない(データ示さず)ので、本発明者らは、長期解析-移行までの時間、すなわち、ADを原因とする認知症の臨床診断までの年数の時間を可能とする別の測定を使用した。試験に使用された最後の血清サンプルをADへの移行時に得るので、これを0の値とし、移行までの時間を負の値(すなわち、移行前の1年は-1年である)とした。
【0093】
ヒト海馬前駆細胞の増殖に対するMCIからADへのコンバーターの血清効果
ランダム切片モデルは、病気進行にわたって海馬前駆細胞数の増加があることを予測している(p=0.002、表2)。これは増殖増加に関連しておらず、逆に、移行までの時間にわたる海馬前駆細胞増殖レベル減少(%Ki67+細胞、p<0.0001、表2)を検出した。移行までの時間は、増殖ならびに平均細胞数および%Ki67+細胞の両方のランダム切片モデル(表2参照)における細胞数の唯一の有意な予測因子であった。
【0094】
加えて、ランダム傾きを有する混合効果モデルは、アポトーシス細胞死レベル(%CC3+細胞、p<0.0001、表2)がADへの移行までの時間の低下と共に増加することを予測している。より高い教育を有する個体に関して、その増加は、10.5年未満の教育を有するものと比較してより少なく、食習慣などの教育レベルと関連する環境因子が病気進行の間の細胞死に対する有意に影響を及ぼすことを示唆している。
【0095】
平均細胞数についての分散パーセンテージは66.9%、Ki67については88.92%、およびCC3については88.3%であり、モデルの優れた適合を示していた。
【0096】
ヒト海馬前駆細胞の分化に対するMCIからADへのコンバーターの血清効果
ヒト海馬前駆細胞を、増殖中および分化中の両方に血清サンプルに暴露した。ランダム切片(細胞数、Dcxに対して)またはランダム傾き(Map2に対して)を有する混合効果モデルは、病気進行と共に細胞数増加(p=0.037、表2)および未成熟(Dcx、p=0.021、表2)および成熟(Map2、p=0.044、表2)神経細胞レベルの増加があることを予測している。本発明者らは、分化中におけるアポトーシスのヒト海馬前駆細胞数の有意な変化を検出しなかった(データ示さず)。
【0097】
移行までの時間は、アッセイの分化段階中における平均細胞数の唯一の有意な予測因子であった(表2参照)。ベースラインにおけるMMSEスコアおよび移行までの時間は、未成熟神経細胞数、すなわち、ベースラインにおけるより高いMMSEスコア、Dcx陽性神経細胞のより少ない数を予測している。血清提供者の性別は、成熟神経細胞の予測レベルに有意に影響を与え、移行までの時間に合わせて制御する場合、女性は、男性と比較して平均して3.34%少ないMap2陽性細胞を有する。
【0098】
平均細胞数についての分散パーセンテージは72.47%、Dcxについては58.31%、Map2については55.83%であり、モデルの優れた適合を示していた。
【0099】
アッセイの増殖および分化段階に関する混合効果モデルに含めた場合、変数および併存疾患(表1に挙げた通り)は有意でなかった。有意な相互作用効果は決定されなかった。
【0100】
表2.HPC0A07/03C細胞をMCIコンバーター由来1%血清に暴露した場合の、ヒト海馬神経新生の変化に影響を及ぼす因子(従属変数) 最も低いAICおよび逸脱を有するモデルを最良の適合として選択した。解析における全予測因子についての係数推定(β)、標準誤差SE(β)、回帰係数の95%信頼区間(CI)および有意水準を提供する。
【0101】
【表2-1】

【表2-2】
【0102】
表3.HPC0A07/03C細胞をMCIコンバーターまたはMCI非コンバーターのいずれか由来1%血清に暴露した場合、ヒト海馬神経新生に影響を及ぼす重要因子(従属変数) 最も低いAICおよび逸脱を有するモデルを最良の適合として選択した。解析における全予測因子についての係数推定(β)、標準誤差SE(β)、回帰係数の95%信頼区間(CI)および有意水準を提供する。
【0103】
【表3】
【0104】
MCIコンバーター対MCI非コンバーター
HNに対するMCIコンバーターおよびMCI非コンバーター由来血清の影響の比較は、ヒト海馬前駆細胞の増殖中および分化中の両方における有意差を示した。
【0105】
適合モデルを用いて、本発明者らは、アッセイの増殖段階中、血清に暴露された海馬前駆細胞数は継続的追跡調査来院とともに増加するが、しかしながら、MCIコンバーター由来血清で処理した細胞数は、MCI非コンバーター由来血清の効果と比較して高いことを示した(p<0.0001、図1)。
【0106】
一方、Ki67陽性細胞数が時間と共に減少するが、しかしながら、これらをMCIコンバーター由来血清に付した場合それほど有意でないことが観察された(p=0.0001、図1c)。加えて、MCIコンバーター由来血清が増殖中(p=0.0001、R=0.099、Adj R=0.093、図1e)および分化中(p<0.0001、R=0.263、Adj R=0.258、図1f)の両方においてより高いアポトーシス細胞死をもたらすが、しかしながら、この影響は時間非依存性であることが検出された。
【0107】
適合モデルは、アッセイの分化段階中、血清で処理した細胞数の全体的減少があることを示し、MCIコンバーター由来血清で処理したヒト海馬前駆細胞はMCI非コンバーター由来血清で処理した細胞と比較して有意に高い数の減少を特徴とした(p=0.0001)。さらに、成熟神経細胞数(Map2陽性細胞)数は、細胞をMCIコンバーター由来血清で処理した場合に有意に増加した(p=0.0005、図1d)。
【0108】
ベースラインデータに逐次ロジスティック回帰分析を適用することにより、本発明者らは、MCIからADへの移行の最良予測因子を決定した。
【0109】
表4は、ヒト海馬神経新生のインビトロモデルおよび逐次ロジスティック回帰分析に基づいたADへの移行の予測因子を示す。(予測因子:教育(年で測定)、増殖中の平均細胞数、増殖マーカー(Ki67)、分化中のアポトーシス(切断型カスパーゼ3(CC3))。
【0110】
【表4】

*モデルにおける予測因子各々についてのp値
【0111】
適合のホスマー・レメショウ適合度(p=0.324)およびStataリンクテストを用いてモデルの適合を確認し、指定誤差がないことを示した(_hat=0.001、_hatsq=0.110)。個体のMCIコンバーターまたは非コンバーター群への割り当てにおける選択された予測因子の精度を評価するため、受信者動作特性(ROC)解
析を行った(図2参照)。図2は、モデルの優れた識別力(曲線下面積、AUC=96.75%)が将来のコンバーターおよび非コンバーターを識別することを示している。モデルがコンバーター92.11%を正確に分類し、MCI非コンバーター94.12%を正確に識別することを示している。
【0112】
結論
このデータは、MCIと診断された患者から得られた血清サンプルを、インビトロで海馬前駆細胞と共にインキュベートし、その後、海馬神経新生に対する血清サンプルの効果をインビトロでモニターすることを使用して、前記患者がMCIからアルツハイマー病に移行する尤度を正確に予測することができることを示している。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2