(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】車両用空気調温システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/663 20140101AFI20240604BHJP
B60H 1/22 20060101ALI20240604BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20240604BHJP
B60K 11/06 20060101ALI20240604BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20240604BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240604BHJP
H01M 10/6556 20140101ALI20240604BHJP
H01M 10/6569 20140101ALI20240604BHJP
【FI】
H01M10/663
B60H1/22 651A
B60K1/04 Z
B60K11/06
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/6556
H01M10/6569
(21)【出願番号】P 2020078605
(22)【出願日】2020-04-27
(62)【分割の表示】P 2019553141の分割
【原出願日】2019-03-20
【審査請求日】2022-03-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2018062434
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011199
【氏名又は名称】株式会社石川エナジーリサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】茅沼 秀高
(72)【発明者】
【氏名】石川 満
【合議体】
【審判長】鈴木 充
【審判官】村山 美保
【審判官】水野 治彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-155245号公報
【文献】特開平10-252467号公報
【文献】特開2010-83223号公報
【文献】特開昭60-15218号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H1/22
H01M10/60
B60K11/06
B60K1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気導入モードにより運転され、車室内から排出される車室内空気と、車両の駆動装置に電力を供給するバッテリーモジュールとを熱交換させ、熱交換した後の前記車室内空気を車外に排出するシステムであり、
車外熱交換器と、車室内熱交換器と、換気熱交換器と、圧縮機と、空調制御装置と、を具備し、
前記車外熱交換器は、車外空気と冷媒とを熱交換するように
構成され、
前記車室内熱交換器は、前記車室内空気と前記冷媒とを熱交換する
ように構成され、
前記換気熱交換器は、前記バッテリーモジュールが内蔵されるバッテリボックスから空気が外部に放出される風路に介装され、前記車室内から排出され
て前記バッテリーモジュールと熱交換
した後に前記車外に放出される前の前記車室内空気と熱交換する
ように構成され、
前記圧縮機は、前記冷媒を圧縮する
ように構成され、
前記空調制御装置は、前記車外からの前記車室内への前記車外空気の流入、前記車室内に於ける前記車室内空気の循環、および、前記車室内から外部への前記車室内空気の排出を制御する
ように構成され、
冷房運転する際には、前記圧縮機により圧縮された前記冷媒は、前記車外熱交換器、前記換気熱交換器および前記車室内熱交換器の順番で流れ、
且つ、前記車室内空気、前記バッテリボックスの内部空気、および、前記車外空気は、この順番で温度が高くなり、
暖房運転する際には、前記圧縮機により圧縮された前記冷媒は、前記車室内熱交換器、前記換気熱交換器および前記車外熱交換器の順番で流れ、且つ、前記車室内空気、前記バッテリボックスの内部空気、および、前記車外空気は、この順番で温度が低くなることを特徴とする車両用空気調温システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用空気調温システムに関し、特に、車室に加えてバッテリーモジュールを調温することができる車両用空気調温システムに関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリーでモータを駆動することで推進力を得る電動車両として、モータのみから推進力を得る電気自動車、または、モータおよびエンジンから推進力を得るハイブリッド自動車がある。電動車両では、長時間にわたりモータに大電流を供給する必要があるため、モータに大電流を供給するための大型のバッテリが搭載される。
【0003】
車両に搭載されるバッテリを効率的に稼働させるためには、充電時に於いても、放電時に於いても、バッテリの温度が所定の温度帯域となるように温度管理を行わなくてはならない。例えば、バッテリとしてリチウムイオンバッテリを採用した場合、効率的に充電できる温度帯域は0℃以上45℃以下であり、効率的に放電できる温度帯域は-20℃以上50℃以下である。
【0004】
特許文献1には、車載バッテリの温度を調整するバッテリ温度調整装置が記載されている。具体的には、車両にバッテリ用送風手段とバッテリ用蒸発器とが備えられており、バッテリ用送風手段およびバッテリ用蒸発器でバッテリを冷却することで、特に夏期に於いてバッテリが過熱することを防止することができる。よって、バッテリを効率的に放電させることができ、エネルギ効率を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたバッテリ温度調整装置では、バッテリ用送風手段およびバッテリ用蒸発器は、バッテリを冷却するための専用部材であるため、バッテリを効率的に放電させるために追加の部品が必要となり、コスト高を招く恐れがある。
【0007】
また、上記したように、バッテリは所定の温度帯域で効率的に充放電が可能であり、過度な高温下および過度な低温下にて効率が低下してしまう。しかしながら、特許文献1にはバッテリを効率的に冷却する発明は記載されているが、バッテリを昇温する発明は記載されていないので、冬期に於いてバッテリが過度に冷却された場合、充放電時の効率が低下してしまう恐れがあった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡易な構成でバッテリの冷却および昇温を行うことで、バッテリの充放電時の効率を向上する車両用空気調温システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車両用空気調温システムは、車外空気と冷媒とを熱交換する車外熱交換器と、車室内空気と前記冷媒とを熱交換する車室内熱交換器と、車室内から排出され、車両の駆動装置に電力を供給するバッテリーモジュールと熱交換し、車外に放出される前の前記車室内空気と熱交換する換気熱交換器と、前記冷媒を圧縮する圧縮機と、前記車外からの前記車室内への前記車外空気の流入、前記車室内に於ける前記車室内空気の循環、および、前記車室内から外部への前記車室内空気の排出を制御する空調制御装置と、を具備し、前記バッテリーモジュールは、バッテリボックスに内蔵され、前記車室内から排出される前記車室内空気と、前記バッテリーモジュールとを熱交換させ、熱交換した後の前記車室内空気を前記車外に排出し、冷房運転する際には、前記圧縮機により圧縮された前記冷媒は、前記車外熱交換器、前記換気熱交換器および前記車室内熱交換器の順番で流れ、暖房運転する際には、前記圧縮機により圧縮された前記冷媒は、前記車室内熱交換器、前記換気熱交換器および前記車外熱交換器の順番で流れ、且つ、前記車室内空気、前記バッテリボックスの内部空気、および、前記車外空気は、この順番で温度が低くなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両用空気調温システムは、車外空気と冷媒とを熱交換する車外熱交換器と、車室内空気と前記冷媒とを熱交換する車室内熱交換器と、車室内から排出され、車両の駆動装置に電力を供給するバッテリーモジュールと熱交換し、車外に放出される前の前記車室内空気と熱交換する換気熱交換器と、前記冷媒を圧縮する圧縮機と、前記車外からの前記車室内への前記車外空気の流入、前記車室内に於ける前記車室内空気の循環、および、前記車室内から外部への前記車室内空気の排出を制御する空調制御装置と、を具備し、前記車室内から排出される前記車室内空気と、前記バッテリーモジュールとを熱交換させ、熱交換した後の前記車室内空気を前記車外に排出し、冷房運転する際には、前記圧縮機により圧縮された前記冷媒は、前記車外熱交換器、前記換気熱交換器および前記車室内熱交換器の順番で流れ、暖房運転する際には、前記圧縮機により圧縮された前記冷媒は、前記車室内熱交換器、前記換気熱交換器および前記車外熱交換器の順番で流れることを特徴とする。従って、換気により排出される車室内空気で、バッテリーモジュールの温度を適切に管理することができる。具体的には、夏期に於いて換気により車室内から放出される冷却状態の車室内空気で、バッテリーモジュールを適切に冷却することができる。更に、冬期に於いて換気により車室内から放出される暖房状態の車室内空気で、バッテリーモジュールを適切に昇温することができる。よって、従来は単に外部に排気されていた車室内空気を用いて、効果的にバッテリーモジュールを温度調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用空気調温システムを示す図であり、(A)は冷房運転される車両用空気調温システムを備えた車両を示す模式図であり、(B)は車両用空気調温システムの回路構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る車両用空気調温システムを示す図であり、冷房運転される車両用空気調温システムの回路構成図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る車両用空気調温システムを示す図であり、冷房運転時における空気の温度変化を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施形態に係る車両用空気調温システムを示す図であり、(A)は暖房運転される車両用空気調温システムを備えた車両を示す模式図であり、(B)は車両用空気調温システムの回路構成図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る車両用空気調温システムを示す図であり、暖房運転される車両用空気調温システムの回路構成図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る車両用空気調温システムを示す図であり、暖房運転時における空気の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照して本実施形態に係る車両用調温システム10を説明する。以下の説明では、同一の部材には原則的に同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【0013】
以下の説明では、
図1から
図3を参照して車両用調温システム10を冷房運転する場合を説明し、
図4から
図6を参照して車両用調温システム10を暖房運転する場合を説明する。
【0014】
図1から
図3を参照して、車両用調温システム10を冷房運転する場合を説明する。車両用調温システム10では、車両用調温システム10を冷房運転することで、多くの専用部分や大きな設計変更を行うことなく、バッテリーモジュール12を効率的に冷却して充放電することができる温度帯域に調温することができる。
【0015】
図1(A)は車両用調温システム10を備えた車両11を示す模式図であり、
図1(B)は車両用調温システム10を構成する冷凍サイクルを示す回路図である。ここで、車両11としては、EV(Electric Vehicle)またはHV(Hybrid Vehicle)を採用することができる。また、大容量バッテリを持たないガソリン車などの従来車両においても、換気熱を利用して省燃費化をはかることが可能である。
【0016】
図1(A)を参照して、本実施形態に係る車両用調温システム10は、車両11の車室23の室内温度を、乗員が快適に過ごせる温度帯域に調温し、更に、バッテリーモジュール12を所定の温度帯域に調温するためのシステムである。具体的には、車両用調温システム10は、車外熱交換器13、車室内熱交換器14、換気熱交換器18および空調制御装置15を主要に有している。
【0017】
車外熱交換器13は、車両11の前端近傍に配設されており、車外空気16と冷媒とを熱交換する。車外熱交換器13は、車両11が走行することで発生する風としての車外空気16と接触することで、または、車外熱交換器13の近傍に配設されたファンが回転することで発生する風としての車外空気16と接触することで、熱交換の効率を向上している。
【0018】
車室内熱交換器14は、車両11の車室23の車室内空気17を循環させながら、車室内空気17と冷媒とを熱交換する。係る熱交換により、車室23の室内温度を、車両11に搭乗する乗員にとって快適な温度帯域にすることができる。ここでは、車室内熱交換器14で熱交換することで車室内空気17を循環冷却し、車室内空気17の温度を、例えば20℃程度に冷却することができる。
【0019】
換気熱交換器18は、バッテリボックス24の内部でバッテリーモジュール12と熱交換され、外部に排出される前の車室内空気17と冷媒とを熱交換する。換気熱交換器18は、バッテリボックス24から車外空気16が外部に放出される風路に介装される。換気熱交換器18は、換気により排出される車外空気16から更に熱エネルギを回収する熱交換器である。
【0020】
バッテリーモジュール12は、車両11に駆動力を与える図示しないモータ(駆動装置)に電力を供給する二次電池である。バッテリーモジュール12としては、例えばリチウムイオンバッテリが採用される。リチウムイオンバッテリは、高容量であり且つ小型であるメリットがあるが、一定の温度帯域よりも高温または低温であると、充電効率および放電効率が低下してしまう。本実施形態では、車室23から車外に放出される車室内空気17とバッテリーモジュール12とを熱交換させることで、バッテリーモジュール12の温度を適切な温度帯域にし、バッテリーモジュール12を効率的に充放電させている。
【0021】
バッテリボックス24は、バッテリーモジュール12を収容する容器であり、例えば、車室23の下方に配設される。バッテリボックス24と車室23とは、ここでは図示しないダクトで連通する。車室23からバッテリボックス24に送風された車室内空気17は、バッテリーモジュール12と熱交換しながらバッテリボックス24の内部を流通する。バッテリボックス24は、ここでは図示しない排気口を介して車外と連通している。バッテリボックス24と排気口との間に、上記した換気熱交換器18が配設される。
【0022】
空調制御装置15は、例えば、CPU、RAM、ROMから成るECUであり、記憶された制御プログラムに基づいて、車両用調温システム10を構成する各部位の動作を制御する。例えば、空調制御装置15は、車室内空気17の車室23への流入の可否および流入量、車室23内に於ける車室内空気17の循環を制御している。
【0023】
図1(B)を参照して、上記した車室内熱交換器14、換気熱交換器18および車外熱交換器13は、冷媒配管26を介して相互に接続されている。また、車室内熱交換器14と換気熱交換器18との間には膨張弁27が介装され、車外熱交換器13と車室内熱交換器14との間には、三方弁19、切替弁28および圧縮機25が介装されている。膨張弁27は膨張手段である。車両用調温システム10は、蒸気圧縮冷凍サイクルを構成しており、その内部を流通する冷媒としては、例えば、フロンガスR134a等が採用される。車両用調温システム10は、ヒートポンプとも称される。
【0024】
三方弁19は、車室内熱交換器14側(圧縮機25側)に接続する第1ポート20と、換気熱交換器18および車外熱交換器13に接続する第2ポート21と、車外熱交換器13を経由せずに換気熱交換器18に接続する第3ポート22と、を有している。後述するように、調温に要する負荷等に応じて、空調制御装置15の指示に基づいて、三方弁19を切り替えることで、効率的に車室23およびバッテリーモジュール12を調温することができる。
【0025】
切替弁28は、圧縮機25が冷媒を圧送する方向を規定する弁である。空調制御装置15の指示に基づいて、切替弁28は圧送方向を切り替える。具体的には、空調制御装置15の指示に基づいて、切替弁28は、冷房運転時には車外熱交換器13側に冷媒を圧送し、暖房運転時には車室内熱交換器14側に冷媒を圧送する。
【0026】
ここで、車外熱交換器13、換気熱交換器18および車室内熱交換器14は、近傍にファンを備えている。これらのファンが車外熱交換器13、換気熱交換器18および車室内熱交換器14に送風することで、より効果的に熱交換を行うことができる。
【0027】
車両用調温システム10を冷房運転する際には、空調制御装置15は、圧縮機25が吐出する冷媒が三方弁19に流れるように切替弁28を切り替える。また、空調制御装置15は、三方弁19の第3ポート22を閉じ、第1ポート20および第2ポート21を開くことで、冷媒が圧縮機25から車外熱交換器13および換気熱交換器18に流れるようにする。
【0028】
上記のように切替弁28および三方弁19を切り替えると、圧縮機25が吐出する冷媒は、切替弁28、三方弁19、車外熱交換器13、換気熱交換器18、膨張弁27および車室内熱交換器14の順番で循環する。
【0029】
車両用調温システム10の冷房運転を具体的に説明すると、先ず、圧縮機25は、低温低圧の冷媒蒸気を高温高圧の状態に圧縮する。車外熱交換器13は、冷媒と車外空気16とを熱交換することで、冷媒から熱を奪って凝縮し液冷媒とする。換気熱交換器18は、バッテリーモジュール12を冷却することで昇温した車室内空気17と冷媒とを熱交換することで、冷媒から更に熱を奪う。膨張弁27は、冷媒を絞り膨張させて湿り蒸気とする。車室内熱交換器14は、車室内空気17と冷媒とを熱交換することで、冷媒を蒸発気化させる。車室内熱交換器14が、車室内空気17から熱を吸収することで、車室23を冷却する。ここでは、車外熱交換器13および換気熱交換器18を凝縮器として利用し、車室内熱交換器14を蒸発器(冷却器)として利用している。
【0030】
車両用調温システム10を上記のように冷房運転することで、車室23の室内温度が例えば20℃程度に冷却され、車室23に搭乗する乗員は爽快感を得ることができる。また、バッテリーモジュール12は、車室23から外部に排出される車室内空気17と熱交換することで好適に冷却され、効率的に充放電することができる。更に、バッテリーモジュール12を冷却した車室内空気17は、車外熱交換器13を経た冷媒よりも温度が低いので、換気熱交換器18で車室内空気17と冷媒とを熱交換することで、冷媒を更に冷却し、車両用調温システム10を効率的に運転することができる。
【0031】
図2を参照して、車両用調温システム10を冷房運転する別の方法を説明する。ここでは、三方弁19は、第1ポート20および第3ポート22を開き、第2ポート21を閉じることで、第1ポート20から流入した冷媒を第3ポート22から吐出している。従って、空調制御装置15は、冷房負荷が一定値よりも低い場合等に、圧縮機25から吐出された冷媒を、車外熱交換器13を経由せずに、換気熱交換器18に流入させる。具体的には、圧縮機25で圧縮された冷媒は、換気熱交換器18で車室内空気17と熱交換することで凝縮され、膨張弁27で膨張されることで湿り蒸気となり、車室内熱交換器14で車室内空気17と熱交換することで蒸発し、圧縮機25に帰還する。このようにすることで、より効率的に車室23を冷却することができる。
【0032】
ここで、車室23を調温するモードとしては、外気導入モードと内気循環モードとがあり、インストルメントパネルに設置された操作ボタン等を操作することで、両モードを切り替えることができる。外気導入モードでは、車両11の前部から車室23に車外空気16を導入しながら、車室23を調温する。内気循環モードでは、車室23で車室内空気17を循環させながら、車室23を調温する。本実施形態の車両用調温システム10は、外気導入モードおよび内気循環モードの両方に適用可能である。外気導入モードであれば、車室23から比較的多量の車室内空気17が排出されるので、車室内空気17でバッテリーモジュール12を調温する効果を大きくすることができる。また、内気循環モードであっても、車室内空気17は外部に放出されるので、バッテリーモジュール12を調温することは可能である。
【0033】
具体的には、冷房運転では、基本的には、車室23で車室内空気17を循環させつつ車室内熱交換器14で冷却することで、車室23を例えば20℃程度に冷却する。車両用調温システム10が走行する際は、車外空気16を車室23に導入し、且つ、車室内空気17を車室23から外部に放出している。
【0034】
本実施形態では、車室23から放出される冷たい車室内空気17を用いて、バッテリーモジュール12を冷却している。一般に、夏期に於いて何ら対策を施さないと、バッテリーモジュール12は例えば50℃以上の高温になり、充放電時の効率が低下する恐れがある。また、充放電時の効率を向上するためにバッテリーモジュール12を冷却するための冷却機構を設けると、コスト高になる。そこで本実施形態では、車室23から放出される冷たい車室内空気17をバッテリボックス24に導入し、バッテリーモジュール12を好適に冷却している。よって、バッテリーモジュール12を冷却することで充放電時の効率を向上し、更には、バッテリーモジュール12を低コストで冷却することができる。
【0035】
更に本実施形態では、車室23から外部に放出される車室内空気17で、換気熱交換器18を用いて冷媒を更に冷却し、車両用調温システム10の冷却効率を高めている。よって、熱回収機構を追加することなく、車両用調温システム10の冷却効率を高めている。
【0036】
図3に、上記のように車両用調温システム10を冷房運転した場合の温度の変化の一例を示す。先ず、車外空気16の温度は、例えば40℃である。車室内熱交換器14の表面温度は例えば5℃であり、導入される車外空気16と車内を循環する車室内空気17は、混合し車室内熱交換器14で冷却されることにより20℃程度となる。車室内空気17の一部は換気により車室23から排出され、バッテリボックス24の内部を通り、バッテリーモジュール12を冷却することで20℃程度から30℃程度まで上昇する。更に、車室内空気17は、換気熱交換器18にて冷媒を冷却することで30℃程度から40℃程度まで上昇し、車外に放出される。
【0037】
内気循環モードであっても、外気導入モードであっても、上記したように車室内空気17の一部は、換気のために車室23から放出される。ここでは、車室23から放出される車室内空気17を、バッテリボックス24に導入している。車室内空気17は、バッテリボックス24の内部でバッテリーモジュール12を冷却することで温度上昇しながら流動する。その後、車室内空気17は換気熱交換器18で冷媒を冷却することで更に温度上昇する。例えば、車室内空気17は40℃程度まで温度上昇する。その後に、車室内空気17は、車両11の車外に放出される。
【0038】
図4から
図6を参照して、車両用調温システム10を暖房運転する場合を説明する。車両用調温システム10では、車両用調温システム10を暖房運転することで、多くの専用部分や大きな設計変更を行うことなく、バッテリーモジュール12を効率的に昇温し、効率的に充放電できる温度帯域に昇温することができる。
【0039】
図4(A)は車両用調温システム10を備えた車両11を示す模式図であり、
図4(B)は車両用調温システム10を構成する冷凍サイクルを示す回路図である。この図に示す各部位の構成等は、
図1に示した場合と同様である。
【0040】
車両用調温システム10を暖房運転する際には、空調制御装置15は、圧縮機25が吐出する冷媒が車室内熱交換器14に流れるように、切替弁28を切り替える。また、空調制御装置15は、三方弁19の第3ポート22を閉じ、第2ポート21および第1ポート20を開くことで、車外熱交換器13および換気熱交換器18からの冷媒が切替弁28に流れるように切り替える。
【0041】
上記のように切替弁28および三方弁19を切り替えると、圧縮機25が吐出する冷媒は、切替弁28、車室内熱交換器14、膨張弁27、換気熱交換器18、車外熱交換器13、三方弁19、切替弁28、圧縮機25の順番で循環する。
【0042】
車両用調温システム10の暖房運転を具体的に説明すると、先ず、圧縮機25は、低温低圧の冷媒蒸気を高温高圧の状態に圧縮する。車室内熱交換器14は、冷媒と車室内空気17とを熱交換することで、冷媒から熱を奪って凝縮して液冷媒とし、同時に車室23の室内温度を上昇させる。膨張弁27は、冷媒を絞り膨張させて湿り蒸気とする。換気熱交換器18は、バッテリーモジュール12を昇温した後の車室内空気17と冷媒とを熱交換することで、冷媒を熱交換して蒸発気化させる。車外熱交換器13では、車外空気16と冷媒とを熱交換することで、冷媒を蒸発気化させる。ここでは、車室内熱交換器14を凝縮器として利用し、車外熱交換器13および換気熱交換器18を蒸発器として利用している。
【0043】
車両用調温システム10を上記のように暖房運転することで、車室23の室内温度が例えば25℃程度に暖められ、車室23に搭乗する乗員は快適感を得ることができる。また、バッテリーモジュール12は、車室23から外部に排出される車室内空気17と熱交換することで好適に昇温され、効率的に充放電することができる。更に、換気熱交換器18で、バッテリーモジュール12を昇温した車室内空気17と冷媒とを更に熱交換することで、車両用調温システム10を効率的に運転することができる。
【0044】
図5を参照して、車両用調温システム10を暖房運転する別の方法を説明する。ここでは、三方弁19は、第1ポート20および第3ポート22を開き、第2ポート21を閉じることで、第3ポート22から流入した冷媒を第1ポート20から吐出している。従って、空調制御装置15は、暖房負荷が低いときに、または車外熱交換器13に着霜が発生した際に、膨張弁27を経た冷媒を、換気熱交換器18のみを経由させ、車外熱交換器13を経由せずに、圧縮機25に流入させる。具体的には、圧縮機25で圧縮された冷媒は、車室内熱交換器14で車室内空気17と熱交換することで凝縮され、膨張弁27で膨張されることで湿り蒸気となり、換気熱交換器18でバッテリーモジュール12を昇温した後の車室内空気17と熱交換することで蒸発気化し、圧縮機25に帰還する。このようにすることで、より効率的に車室23を昇温することができる。また、上記のように、車外熱交換器13で熱交換することなく、換気熱交換器18のみを蒸発器として用いて車両用調温システム10を暖房運転することで、車外空気16からの熱エネルギの汲み上げ量が減少するので、車外熱交換器13への着霜を抑止することができる。
【0045】
図6に、上記のように車両用調温システム10を暖房運転した場合の温度の変化の一例を示す。先ず、車外空気16の温度は、例えば5℃である。車室内熱交換器14の表面温度は例えば40℃であり、導入される車外空気16と車内を循環する車室内空気17は、混合し車室内熱交換器14で昇温されることにより25℃程度となる。車室内空気17の一部は換気により車室23から排出され、バッテリボックス24の内部を通り、バッテリーモジュール12を昇温することで25℃程度から15℃程度まで低下する。更に、車室内空気17は、換気熱交換器18にて冷媒を沸騰させることで15℃程度から5℃程度まで低下し車外に放出される。
【0046】
ここで、上記したように、本実施形態に係る車両用調温システム10は、暖房運転する場合に於いても、顕著な効果を得ることができる。
【0047】
具体的には、代表的な物理特性として、車室内空気17を25℃、RHを50%とした場合、単位体積当たりの熱容量Cは1.2kJ/m3K程度である。
【0048】
一方、車両11の換気量が200m3/h程度とすれば、車室内空気17の温度変化10℃に対応する熱量は、上記熱容量よりQ=670Wとなる。
【0049】
よって、バッテリーモジュール12を調温する際に車室内空気17の温度が25℃から15℃に変化すれば、670Wの熱量でバッテリーモジュール12を調温することができる。また、換気熱交換器18で車室内空気17の温度が15℃から5℃まで変化すれば、ヒートポンプのCOP(Coefficient Of Performance)を3とすれは、約2kWの暖房効果を得ることができる。従って、本実施形態の車両用調温システム10によれば、換気により車室23から排出される車室内空気17で、バッテリーモジュール12を好適に熱管理することができ、更に、ヒートポンプの効率を改善することができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態を示したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0051】
10 車両用調温システム
11 車両
12 バッテリーモジュール
13 車外熱交換器
14 車室内熱交換器
15 空調制御装置
16 車外空気
17 車室内空気
18 換気熱交換器
19 三方弁
20 第1ポート
21 第2ポート
22 第3ポート
23 車室
24 バッテリボックス
25 圧縮機
26 冷媒配管
27 膨張弁
28 切替弁