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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ロータ
(51)【国際特許分類】
   B64C 11/12 20060101AFI20240604BHJP
   F04D 29/34 20060101ALI20240604BHJP
   F04D 29/36 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B64C11/12
F04D29/34 L
F04D29/36 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020088908
(22)【出願日】2020-05-21
(65)【公開番号】P2021183436
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-01-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和1年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「AI活用気象観測法の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】劉 浩
(72)【発明者】
【氏名】石橋 健太
(72)【発明者】
【氏名】中田 敏是
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-173152(JP,A)
【文献】特開2011-046355(JP,A)
【文献】特表2019-509214(JP,A)
【文献】特表2018-533523(JP,A)
【文献】特開2017-128258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 11/12
F04D 29/34
F04D 29/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動手段により回動するハブとブレードとがリンク機構により連結されており、
前記リンク機構は、前記ブレードと接続される平行リンク部と、該平行リンク部と前記ハブとを接続する接続リンク部と、を有し、
前記接続リンク部は、回動時の前記ブレードが受ける空気抵抗に抗して前記平行リンク部における平行に伸びるロッド同士の相対移動を付勢力により抑制する付勢手段を備え、障害物との衝突により前記ブレードが受ける外力が前記付勢手段の付勢力に打ち勝つと前記ブレードが折りたたまれる方向に前記ロッド同士を相対移動させることを特徴とするロータ。
【請求項2】
前記接続リンク部は、前記ブレードと前記ハブとの相対的な回動により前記平行リンク部における平行に伸びるロッド同士を相対移動させることを特徴とする請求項1に記載のロータ。
【請求項3】
前記接続リンク部は、前記平行リンク部における平行に伸びるロッドの一方に一方端部が枢着されたアームを備え、該アームは前記付勢手段を介して前記ハブに他方端部が枢着されていることを特徴とする請求項1または2に記載のロータ。
【請求項4】
前記接続リンク部は、前記平行リンク部における平行に伸びるロッド同士にそれぞれ枢着されて該平行リンク部の一部を構成するリンクアームを備え、該リンクアームは前記平行リンク部と前記アームとの関節部分に更に枢着されていることを特徴とする請求項3に記載のロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型無人航空機やアーバンエアモビリティなどの小型航空機に用いられるロータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、技術の進歩により、駆動モータや制御装置やバッテリーなどが小型化、高性能化され、小型航空機が急速に普及し始めている。このような小型の航空機としては例えば、産業用や娯楽用の小型無人航空機であったり、アーバンエアモビリティなどが挙げられ、これらは無人機、有人機の違いにより構造強度や大きさの違いはあれど、いずれにも機体中央から放射状に配置された複数のロータ(回転翼)を備え、各ロータを同時にバランスよく回転させることによって飛行する飛行技術が広く用いられている。
【0003】
このような小型航空機は、都市部などの人間の生活圏で利用されることが想定されていることに加え、飛行高度が低いことから、障害物への対応が不可欠である。そこで、複数のロータにおけるブレードの外側にフレーム構造のガードをつけたものがある。例えば、特許文献1のマルチコプターでは、ガードの先端が回転するロータのブレードよりも突出しており、ガードより先にブレードが木の枝、送電線、建物等の障害物に接触することを抑制でき、耐久性、取扱い性、安全性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-046355号公報(第6頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のマルチコプターでは、対向するロータの内側に上下方向から障害物が入り込み、ブレードと接触する可能性を排除できず、加えて離着陸などの際には人との距離が近く、手や指がブレードに触れるおそれがあった。そのため、ロータの破損や、接触した障害物の損傷、ブレードと接触した人の手指の怪我などが発生する虞があった。また、フレーム構造のガードは、振動によりロータの騒音レベルが上昇することや気流の速度や向きが変動した場合にその影響を受けやすいという問題があり、小型航空機の飛行安定性が損なわれる可能性があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、障害物との衝突時における衝撃を緩和できるとともに、小型航空機の飛行安定性を維持することができるロータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明のロータは、
回転駆動手段により回動するハブとブレードとがリンク機構により連結されており、
前記リンク機構は、前記ブレードと接続される平行リンク部と、該平行リンク部と前記ハブとを接続する接続リンク部と、を有し、
前記接続リンク部は、前記平行リンク部における平行に伸びるロッド同士の相対移動に抗する付勢手段を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、通常飛行の際には、付勢手段により平行リンク部における平行に伸びるロッド同士の相対移動が抑制され、リンク機構は飛行時の空気抵抗に抗した状態を保持することで、各ブレードはハブの回転に追従して回転することができ、一方、ブレードが障害物に衝突した際には、平行リンク部における平行に伸びるロッド同士が相対移動し、平行リンク部に接続されたブレードが内側に折り畳まれ、障害物との衝突時における衝撃を緩和できる。加えて、障害物に衝突した際にはブレード自体がハブ側に逃げることで衝撃を緩和するため、ブレードを保護する部材を省略可能であり、小型航空機の飛行安定性に優れる。
【0008】
前記接続リンク部は、前記ブレードと前記ハブとの相対的な回動により前記平行リンク部における平行に伸びるロッド同士を相対移動させることを特徴としている。
この特徴によれば、ブレードが障害物に衝突してブレードがハブに対して相対的に回動することで、平行リンク部における平行に伸びるロッド同士が相対移動し、平行リンク部に接続されたブレードが内側に折り畳まれるため、確実に障害物との衝突時における衝撃を緩和できる。
【0009】
前記接続リンク部は、前記平行リンクにおける平行に伸びるロッドの一方に一方端部が枢着されたアームを備え、該アームは前記付勢手段を介して前記ハブに他方端部が枢着されていることを特徴としている。
この特徴によれば、ブレードが障害物に衝突してブレードがハブに対して所定量以上相対的に回動した際に、アームと平行リンク部とが死点を超えて屈曲状態が反転することで、平行リンク部における平行に伸びるロッド同士が大きく相対移動し、平行リンク部に接続されたブレードが内側に大きく折り畳まれるため、確実に障害物との衝突時における衝撃を緩和できる。
【0010】
前記接続リンク部は、前記平行リンク部における平行に伸びるロッド同士にそれぞれ枢着されて該平行リンク部の一部を構成するリンクアームを備え、該リンクアームは前記平行リンク部と前記アームとの関節部分に更に枢着されていることを特徴としている。
この特徴によれば、ブレードが障害物に衝突した際のブレードのハブに対する回動に同期してリンクアームが回動され、この回動したリンクアームにより平行リンク部とアームとの関節部分が移動され、確実に死点を超えて屈曲状態が反転することになり、確実に障害物との衝突時における衝撃を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例におけるロータを示す平面図である。
図2】リンク機構を示す平面視拡大図である。
図3】(a)はブレードが障害物に接触した瞬間を示す図であり、(b)はリンク機構の後続側のロッドとアームとが直線(デッドライン)に位置する状態を示す図である。
図4】(a)はリンク機構の後続側のロッドとアームの関節が反転した状態を示す図であり、(b)は更に回転が進んだ状態を示す図である。
図5】ハブの回転角と、ブレードとハブの相対角度との関係を示すグラフである。
図6】ハブの回転角と、スプリングの荷重との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るロータを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例
【0013】
図1は、本実施例におけるロータを備えた小型航空機であるマルチコプター(図示略)のロータ1を示す概略図である。ここではマルチコプターそのものについての詳しい説明は省略するが、バッテリーや飛行の制御に伴う演算装置などが内蔵された本体部と、本体部から放射状に4本延設されるアームと、各アームの先端に支持されたロータ1とを備えて主に構成されている。
【0014】
ロータ1は、図示しない回転駆動手段と、シャフト2と、ハブ3と、2枚のブレード4,4と、リンク機構5,5とを有している。回転駆動手段は、シャフト2を回転させる電動モータを内蔵しており、シャフトの先端にハブ3が固定されており、回転駆動手段の駆動によりハブ3が回動するようになっている。
【0015】
図2に示されるように、ハブ3は平面視で矩形を成すベース部材6を備え、ベース部材6にシャフト2の先端が固定されている。ベース部材6には抵抗機構7が取り付けられている。抵抗機構7は、長尺のスライドロッド8と、スライドロッド8に往復動可能に遊嵌されたスライダ9と、スライダ9を一方方向に付勢する付勢手段であるスプリング10とで構成されている。抵抗機構7は後述するリンク機構5の接続リンク部15の一部を構成している。
【0016】
ブレード4は、本体部11と、本体部11のハブ3側の端部に固定された平面視略T字状の根元部12とを備えて構成されている。根元部12は、T字の2つの先端同士を結びハブ3とブレード4とを結ぶ線分に交差する所定の方向に所定の離間距離L13で離間する軸穴(図示略)を備え、これら軸穴に軸13A,13Bが挿通されている。根元部12は後述するリンク機構5の平行リンク部14の一部を構成している。
【0017】
リンク機構5は、ブレード4と接続される平行リンク部14と、平行リンク部14とハブ3とを接続する接続リンク部15と、を有している。平行リンク部14は、1対の平行に延びて同じ長手方向寸法のロッド16A,16Bと、これらロッド16A,16Bの長手方向両端にそれぞれ枢動する部材(根元部12の一部、後述するリンクアーム17の一部)と、により構成されている。以下、2つのロッド16A,16Bを区別する必要がある際には、便宜上、マルチコプターの上昇時のブレードの回転方向(図2では反時計回りの矢印で示す)側を先行側のロッド16A、他方を後続側のロッド16Bという。ロッド16A,16Bの長手方向両端には、軸穴(図示略)がそれぞれ形成されている。
【0018】
ロッド16Aのブレード側の端部は、ブレード4の根元部12に形成された軸穴とロッド16Aのブレード側の軸穴とが軸13Aによって相対的に回動可能に枢着されて、連結されている。ロッド16Bのブレード側の端部は、ブレード4の根元部12に形成された軸穴とロッド16Bのブレード側の軸穴とが軸13Bによって相対的に回動可能に枢着されて、連結されている。
【0019】
リンクアーム17は、長手方向に延びる本体部17aと、本体部17aに交差してブレード4側にてロッド16A側に延びる延出部17bとを有して平面視略T字状を成している。リンクアーム17は、本体部17aの長手方向のハブ3側の端部に軸穴(図示略)が形成されており、ハブ3に取り付けられた軸24に挿通され、ハブ3に対して回動自在に軸支されている。
【0020】
ロッド16Aの本体部17aのハブ3側に形成された軸穴(図示略)とリンクアーム17に形成された軸穴(図示略)とが軸18Aによって、ロッド16Bの延出部17bに形成された軸穴(図示略)とリンクアーム17に形成された軸穴(図示略)とが軸18Bによって、それぞれ相対的に回動可能に枢着されて、連結されている。これら軸18Aと軸18Bは、T字の2つの先端同士を結ぶ所定の方向にて、所定距離L18離間している。
【0021】
ブレード4の根元部12に形成された軸穴に挿通された軸13A,13Bの軸心同士の離間距離L13と、リンクアーム17に形成された軸穴に挿通された軸18A,18Bの軸心同士の離間距離18Lとは同距離となっている。また、軸13A,13Bを結ぶ線分と軸18A,18Bを結ぶ線分とは平行となっている。つまり、対向するブレード4の根元部12とリンクアーム17及び、対向するロッド16Aとロッド16Bによって、対向する辺の長さが等長である平行リンク部14が構成されている。これにより、リンクアーム17はブレード4の根元部12の回動に同期して同じ角度で回動することになる。
【0022】
接続リンク部15は、平行リンク部14とハブ3との間に配置される前述のリンクアーム17と、保持アーム19と、アーム20と、前述の抵抗機構7と、を備えている。
【0023】
先行側のロッド16Aは、長手方向に延びる本体部16cと、本体部16cに交差してハブ3側にてロッド16Bとは反対側に延びる延出部16dとを有する平面視略T字状を成し、延出部16dとハブ3との間には、これらを連結するように保持アーム19が配置されている。保持アーム19は、その長手方向のハブ3側の端部には軸穴(図示略)が形成されており、ハブ3に取り付けられた軸21に挿通され、ハブ3に対して回動自在に軸支されている。また、長手方向のブレード4側の端部に形成された軸穴(図示略)と、先行側のロッド16Aの延出部16dに形成された軸穴(図示略)とが軸22により回動可能に連結されている。
【0024】
アーム20は、その長手方向のハブ3側の端部には軸穴(図示略)が形成されており、抵抗機構7を構成するスライダ9に取り付けられた軸23に挿通され、スライダ9に対して回動自在に軸支されている。また、長手方向のブレード4側の端部に形成された軸穴(図示略)と、後続側のロッド16Bの長手方向のハブ3側の端部に形成された軸穴とが軸18Bにより回動可能に連結されている。
【0025】
次いで、通常運転時においてリンク機構5がロータ1の回転による空気抵抗及び遠心力に抗してブレード4とハブ3との相対的な回動を規制する態様について説明する。ロータ1が回転していない状態において、保持アーム19とリンクアーム17の本体部17aとは略平行であり、アーム20とリンクアーム17の本体部17aとは略V字状を成している。ロータ1が回転し、ブレード4に空気抵抗及び遠心力が生じると、後続側のロッド16Bとアーム20がハブ3方向へ押圧され、リンクアーム17には逆回転方向(図2の紙面上方向)へ回動しようとする力が加わり、リンクアーム17の本体部17aと保持アーム19とがハの字状になるように相対的に若干回動する。これにより、保持アーム19がリンクアーム17を逆回転方向から支持する抗力と、リンクアーム17をブレード4側へ付勢するスプリング10の付勢力とにより、ブレード4とハブ3との相対的な回動が規制される。
【0026】
加えて、平行リンク部14を構成する対向するロッド16Aとロッド16Bとは、ブレード4の根元部12及びリンクアーム17が、ロッド16Aとロッド16Bに対してそれぞれ傾斜することで、互いに長手方向かつ近接方向または離間方向の成分で相対移動する構成である。言い換えると、リンクアーム17がロッド16Aとロッド16Bに対して傾動しなければ、ロッド16Aとロッド16Bとは相対移動しない構成であるといえる。
【0027】
図2に示されるように、後続側のロッド16Bはリンクアーム17及びアーム20を介してハブ3に連結されている。アーム20は抵抗機構7によってブレード4方向に付勢され、軸18Bが構成する後続側のロッド16Bとアーム20の関節部分は、その頂点(軸18B)が、通常時において正回転方向側に位置するように折れた状態で維持されている。つまり、抵抗機構7におけるスプリング10の付勢力によって、リンクアーム17の逆回転方向(図2の紙面上方向)への回動が抑制され、ひいては後続側のロッド16Bがハブ3側に移動するようなロッド16A,16Bの相対移動が防止されている。
【0028】
加えて、リンクアーム17とアーム20とは同じ軸18Bによって後続側のロッド16Bと連結され、かつハブ3に対して互いに離間して軸支されている構成であることから、抵抗機構7におけるスプリング10の付勢力によって、リンク機構5自体の逆回転方向(図2の紙面上方向)への回動が抑制されている。
【0029】
また、先行側のロッド16Aはリンクアーム17及び保持アーム19を介してハブ3に連結されている。保持アーム19は軸24によりハブ3に対して直接軸支されているため、ロッド16Aはハブ3方向への移動が規制されている。つまり、ロッド16A,16Bの相対移動としては、先行側のロッド16Aがハブ3に対して長手方向に移動不能であることから、ブレード4にかかる外力が抵抗機構7におけるスプリング10の付勢力に抗した場合のみ後続側のロッド16Bがハブ3側に移動するように先行側のロッド16Aに対して移動でき、反対にブレード4にかかる外力に抵抗機構7におけるスプリング10の付勢力が打ち勝った場合には、後続側のロッド16Bがブレード4側に移動するように先行側のロッド16Aに対して移動できる構造となっている。
【0030】
続いて、回転駆動中のブレード4が障害物に接触した際のリンク機構5の動作について、図3から図6を用いて説明する。尚、説明の便宜上、障害物に接触している状態において、ロータ1を有するマルチコプターはその水平方向及び垂直方向に移動しない条件で以下説明を行う。
【0031】
ロータ1の正方向への回転時において、ブレード4の旋回軌道上に障害物OBが存在した場合、図3(a)に示されるように、ブレード4が障害物OBに接触する。図3(a)は、接触の瞬間を示しており、この時点ではブレード4には障害物OBとの接触による外力が加わっておらず、リンク機構5に変化はなく、後続側のロッド16Bとアーム20とを連結する軸18Bは正回転方向側に位置しており、後続側のロッド16Bとアーム20とに長手方向から力が加わった場合には、ブレード4の回転方向側に移動が案内される状態である。
【0032】
図3(b)では、障害物OBにブレード4が当接した状態で、更にハブ3が回転した状態を示している。障害物OBにブレード4が当接した状態で、更にハブ3が回転すると、ブレード4には回転方向とは反対方向への外力がかかり、後続側のロッド16Bとアーム20がハブ3方向へ押圧される。そして、外力がスライダ9をブレード4側へ付勢するスプリング10の付勢力に打ち勝つと、スプリング10が圧縮されて、スライダ9がブレード4とは反対方向へ移動される。
【0033】
このスライダ9の移動により、ブレード4がハブ3に対して相対的にロータ1の回転方向とは反対方向に回動される、言い換えるとブレード4が折りたたまれる方向に回動される。詳しくは、ブレード4の根元部12と先行側のロッド16Aとを連結する軸13Aが支点となって、根元部12がロータ1の回転方向とは反対方向に回動する。そして、根元部12と対向し平行リンク部14を構成するリンクアーム17が、根元部12の回転と同期してロータ1の回転方向とは反対方向に回動する。これにより、リンクアーム17と後続側のロッド16Bとを連結する軸18B及びリンクアーム17と先行側のロッド16Aとを連結する軸18Aとがブレード4の回転方向とは反対方向に移動する。図3(b)では、後続側のロッド16Bとアーム20とが、直線に位置するまでブレード4の根元部12とリンクアーム17とが回動した状態を示している。尚、この後続側のロッド16Bとアーム20とが直線(デッドラインD)に位置している状態において、これらを連結する軸18Bは、後続側のロッド16Bとアーム20とに長手方向から力が加わってもこれらが相対回動されることがない死点となっている。
【0034】
図4(a)では、後続側のロッド16Bとアーム20とが直線に位置している状態から、更にハブ3が回転した状態を示している。ハブ3の回転が進むと、ブレード4が更に折りたたまれる方向に回動され、それに同期してリンクアーム17がロータ1の回転方向とは反対方向に更に回動し、リンクアーム17と後続側のロッド16Bとを連結する軸18B及びリンクアーム17と先行側のロッド16Aとを連結する軸18Aとがロータ1の回転方向とは反対方向に移動する。図4(a)では、後続側のロッド16Bとアーム20を連結する軸18Bが死点を超えてロータ1の回転方向とは反対方向に移動した状態、言い換えると関節の屈曲角が反転した状態を示す。
【0035】
図4(a)及び(b)のように、後続側のロッド16Bとアーム20の関節が反転すると、後続側のロッド16Bとアーム20とに長手方向から力が加わった場合には、軸18Bはブレード4の回転方向と反対側に移動が案内され、ブレード4とハブ3とが近接する方向に相対移動され、大きくブレード4が折りたたまれる。詳しくは図5のグラフを参照すると、後続側のロッド16Bとアーム20の関節が反転した時点から、関節が反転する以前に比べてブレード4とハブ3の相対角度(θ)の変化率が大きく増加している。
【0036】
リンク機構5は、後続側のロッド16Bとアーム20の関節が反転する以前の状態では、抵抗機構7のスプリング10の付勢力により、ブレード4が折りたたまれる方向に回動しないように形状を維持するように機能しているが、関節が反転した以降では、リンク機構5による形状の維持が解除され、ブレード4は短時間で折りたたまれるため、ブレード4が折りたたまれてリンク機構5が崩れることでブレード4、リンク機構5、ハブ3にかかる外力の影響を少なくでき、破損を効果的に防止できるとともに、障害物OB側の損傷も抑制することができる。
【0037】
また、後続側のロッド16Bとアーム20の関節が反転した以降は、ブレード4のハブ3への相対回動に伴い後続側のロッド16Bとブレード4とを連結する軸13Bと、アーム20とスライダ9とを連結する軸23とが近接されることから、抵抗機構7のスプリング10にかかる荷重(N)の増加が緩やかになる(図6のグラフ参照)。そのため、ブレード4、リンク機構5、ハブ3にかかる外力の影響を少なくでき、破損を効果的に防止できるとともに、障害物OB側の損傷も抑制することができる。
【0038】
また、障害物OBとの接触によりブレード4にかかる外力に抵抗機構7のスプリング10が打ち勝つと、スプリング10はスライダ9を押し戻し、ブレード4を初期位置側に回動させる。高速度カメラを利用した衝突実験の際には、ロータ1が1回転する間に障害物OBに対してブレード4が4回接触する態様となった。これは、障害物OBとの接触によりリンク機構5が崩れ、ブレード4が折りたたまれることで、瞬間的にブレード4が障害物OBから離れ、次いでブレード4にかかる外力に抵抗機構7のスプリング10が瞬間的に打ち勝つことで、再度接触したためである。特に、1回目と2回目では、障害物OBとの接触により後続側のロッド16Bとアーム20の関節が反転しており、3回目と4回目では、2回目と3回目に反転した際においてスプリング10に蓄えられたエネルギーを利用してリンク機構5がブレード4を折りたたむように機能していることがわかった。このように、ロータ1が1回転する間に障害物OBに対してブレード4が複数回に渡って接触するようにすることで、1回あたりのロータ1及び障害物OBへの衝撃を小さくすることができる。
【0039】
また、ブレード4の旋回軌道上から障害物OBが外れると、スプリング10はスライダ9を押し戻し、ブレード4を初期位置まで回動させるように動作し、これにより、リンク機構5のすべての部材が初期位置に復帰し、リンク機構5はブレード4が折りたたまれる方向に回動しない通常の形状に復帰する。
【0040】
以上説明したように、通常飛行の際には、スプリング10により平行リンク部14における平行に伸びるロッド16A,16B同士の相対移動が抑制され、リンク機構5は飛行時の空気抵抗に抗した状態を保持することで、各ブレード4,4はハブ3の回転に追従して回転することができ、一方、ブレード4が障害物OBに衝突した際には、平行リンク部14における平行に伸びるロッド16A,16B同士が相対移動し、平行リンク部14に接続されたブレード4が内側に折り畳まれ、障害物OBとの衝突時における衝撃を緩和できる。加えて、障害物OBに衝突した際にはブレード4自体がハブ3側に逃げることで衝撃を緩和するため、例えばガードフレームのようなブレード4を保護する部材を省略可能であり、マルチコプターの飛行安定性に優れる。
【0041】
また、抵抗機構7を構成するスライドロッド8及びスプリング10はハブ3の幅内に収まるように配置されていることから、ロータ1の回転駆動時において、空気抵抗及び遠心力の影響が少ないばかりか、小型であることから軽量のため、マルチコプターの飛行安定性に優れる。
【0042】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0043】
例えば、前記実施例における平行リンク部14は、対向するブレード4の根元部12とリンクアーム17及び、対向するロッド16Aとロッド16Bによって構成されているが、これに限らず、例えばロッド16Aとロッド16Bのハブ3側をロッドにて回動自在に連結し、このロッドとは別の部材によって後続側のロッド16Bのハブ3側とハブ3とを回動自在に連結してもよい。このようにリンクアーム17における平行リンク部として機能する部分を別体としても、前記実施例におけるリンクアーム17の機能を発揮させることができる。
【0044】
また、抵抗機構7のスプリング10は、前記実施例のような巻バネに限らず、ねじりバネでもよい。加えて、抵抗機構7はスライドロッド8及びスライダ9のように後続側のロッド16Bのハブ3側の端部を往復動させる構成に限らず、例えば回転軸を中心に後続側のロッド16Bのハブ3側の端部を揺動させる構成でもよい。
【0045】
また、平行リンク部14は、対向する辺が等長の平行四辺形でなくても、ロッド16Aとロッド16Bが略平行に相対移動する構成であれば、その構成は限定されない。
【符号の説明】
【0046】
1 ロータ
2 シャフト
3 ハブ
4 ブレード
5 リンク機構
6 ベース部材
7 抵抗機構
8 スライドロッド
9 スライダ
10 スプリング(付勢手段)
11 本体部
12 根元部
13A,13B 軸
14 平行リンク部
15 接続リンク部
16A,16B ロッド
16c ロッド本体部
16d ロッド延出部
17 リンクアーム
17a 本体部
17b 延出部
18A,18B 軸
19 保持アーム
20 アーム
21~24 軸
OB 障害物
図1
図2
図3
図4
図5
図6