(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】診断装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
G01N27/02 Z
(21)【出願番号】P 2020122988
(22)【出願日】2020-07-17
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】武居 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】パンジー ヌルセティア ダルマ
(72)【発明者】
【氏名】田中 光二
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-339658(JP,A)
【文献】特開2019-152977(JP,A)
【文献】特表2016-524138(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0307566(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象の周囲に配置され、前記被測定対象の表面形状に沿って変位する電極と、
前記電極の変位量を測定する変位計と、
を備える4以上のフレキシブル電極を備え、
前記被測定対象を配置する前の前記電極がつくる形状境界の中心を原点としたときに、前記電極が、前記原点と前記電極とを結んだ方向に変位する、電気インピーダンス・トモグラフィセンサを用いる診断装置であって、
前記電気インピーダンス・トモグラフィセンサに
前記被測定対象を配置後、前記被測定対象の表面形状に沿って変位した後の前記電極の変位量を測定し、かつ、前記フレキシブル電極間に電流を印加し、電圧を測定するか、または、電圧を印加し、電流を測定する、変位量及び電圧電流測定部と、
前記変位量及び電圧電流測定部から測定される各前記フレキシブル電極の前記電極の変位量から、
前記被測定対象の輪郭を推測する輪郭推定部と、
前記変位量および電圧電流測定部で測定される電圧測定パターンまたは電流測定パターン、
前記輪郭推定部で推測した前記被測定対象の輪郭を分割して得たメッシュの座標、および各前記電極の前記原点からの距離から構成される入力変数を基に、機械学習から前記被測定対象のヤコビ行列を予測するヤコビ行列予測部と、
を備える、診断装置。
【請求項2】
前記ヤコビ行列予測部で予測された前記被測定対象の前記ヤコビ行列と、
前記変位量及び電圧電流測定
部で測定された電圧または電流と、から前記被測定対象の導電率分布を計算する導電率分布計算部を
さらに備える、請求項
1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記導電率分布計算部から得られた前記被測定対象の導電率分布を前記被測定対象の構成成分に対応するクラスタに分類することで、前記被測定対象の構成成分分布を得る構成成分分布計算部を、さらに備える、請求項
2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記構成成分分布計算部によって得られた、
前記被測定対象の構成成分分布から各構成成分の境界線を検出する境界線検出部をさらに備える、請求項
3に記載の診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食肉業界および水産業界では、食肉の品質を判断したり、自動で食肉の解体を行ったりするために、食肉の脂肪量、赤身量、骨量およびそれらの位置を測定することが求められている。
【0003】
食肉の品質を判断する装置としては、例えば、マグロ尾部の断面に光を照射し、反射された近赤外波長のスペクトルから脂肪含有量を測定する装置がある。このような装置によって、経験や勘に頼らずに、マグロの脂肪含有量を簡易に測定できる。また、特許文献1には、魚肉および食肉を含む被測定物のインピーダンスを得るための電圧を測定するインピーダンス測定部と、前記インピーダンスに基づいて前記被測定物の品質を示す品質指標の値を演算する演算部と、を備えた、品質状態測定装置が開示されている。
【0004】
食肉の解体のための装置としては、特許文献2にX線を照射し、筋入れや抜骨処理に必要な骨部表面の座標を決定できる豚屠体腕部位の左右判別システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-159591号公報
【文献】特許第5788108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、魚肉及び食肉の特定の部位の脂肪率を測定しているので、全体の脂肪率が分からないという問題がある。また、特許文献1の技術では、骨などの構成成分がどこの位置にどれだけ存在しているかが分からないという問題がある。特許文献2の技術では、X線を用いているため、設備が高価であり、加えて、食品にX線を照射するため、一般消費者からは安全性に対する懸念がある。
【0007】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、低コストで、かつ、短時間に、被測定対象の構成成分を診断可能な診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
<1> 本発明の一態様に係る診断装置は、被測定対象の周囲に配置され、前記被測定対象の表面形状に沿って変位する電極と、前記電極の変位量を測定する変位計と、を備える4以上のフレキシブル電極を備え、前記被測定対象を配置する前の前記電極がつくる形状境界の中心を原点としたときに、前記電極が、前記原点と前記電極とを結んだ方向に変位する、電気インピーダンス・トモグラフィセンサを用いる前記診断装置であって、前記電気インピーダンス・トモグラフィセンサに被測定対象を配置後、前記被測定対象の表面形状に沿って変位した後の前記電極の変位量を測定し、かつ、前記フレキシブル電極間に電流を印加し、電圧を測定するか、または電圧を印加し、電流を測定する、変位量及び電圧電流測定部と、前記変位量及び電圧電流測定部から測定される各前記フレキシブル電極の前記電極の変位量から、前記被測定対象の輪郭を推測する輪郭推定部と、前記変位量および電圧電流測定部で測定される電圧測定パターンまたは電流測定パターン、前記輪郭推定部で推測した前記被測定対象の輪郭を分割して得たメッシュの座標、および各前記電極の前記原点からの距離から構成される入力変数を基に、機械学習から前記被測定対象のヤコビ行列を予測するヤコビ行列予測部と、を備える。
<2> 上記<1>に記載の診断装置は、前記ヤコビ行列予測部で予測された前記被測定対象の前記ヤコビ行列と、前記変位量及び電圧電流測定部で測定された電圧または電流と、から前記被測定対象の導電率分布を計算する導電率分布計算部をさらに備えてもよい。
<3> 上記<2>に記載の診断装置は、前記導電率分布計算部から得られた前記被測定対象の導電率分布を前記被測定対象の構成成分に対応するクラスタに分類することで、前記被測定対象の構成成分分布を得る構成成分分布計算部を、さらに備えてもよい。
<4> 上記<3>に記載の診断装置は、前記構成成分分布計算部によって得られた、前記被測定対象の構成成分分布から各構成成分の境界線を検出する境界線検出部をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の上記態様によれば、低コストで、かつ、短時間に、被測定対象の構成成分を診断可能な診断装置および当該診断装置に用いられる電気インピーダンス・トモグラフィセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る診断装置の模式図である。
【
図2A】被測定対象配置前の電気インピーダンス・トモグラフィの模式図である。
【
図2B】被測定対象配置後の電気インピーダンス・トモグラフィの模式図である。
【
図3A】フレキシブル電極を説明するための図である。
【
図3B】被測定対象配置前のフレキシブル電極を説明するための図である。
【
図3C】被測定対象配置後のフレキシブル電極を説明するための図である。
【
図4】フレキシブル電極への電流の印加方法を説明するための図である。
【
図5】ラメ曲線により求めた被測定対象の輪郭∂Ωを説明するための図である。
【
図6】既知の輪郭∂Ωgの入力変数のデータセットについて説明するための図である。
【
図7】ヤコビ行列予測部におけるヤコビ行列の予測のフローチャートである。
【
図8】k近傍法によるヤコビ行列J
*の予測方法を説明する図である。
【
図9】被測定対象の構成成分に対応するクラスタに分類する前後の被測定対象の導電率分布を示す図である。
【
図10】被測定対象の導電率分布を被測定対象の構成成分に対応するクラスタに分類する流れを説明するフローチャートである。
【
図12】予測された輪郭と実際の輪郭との比較を示す図である。
【
図13】測定試料の予測されたヤコビ行列を示す図である。
【
図14】測定試料のヤコビ行列の計算時間を示す図である。
【
図16】測定試料の各構成分分布とk平均法で得られた構成成分分布との比較を示す図である。
【
図17】測定試料の各構成分割合の真値と、k平均法で得られた構成成分割合との比較を示す図である。
【
図18】Canny法で検出された境界線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(診断装置)
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る診断装置100について説明する。
図1に示すように、診断装置100は、変位量及び電圧電流測定部1、輪郭推定部2、ヤコビ行列予測部3、導電率分布計算部4、構成成分分布計算部5、境界線検出部6及び出力部7を備える。
【0012】
診断装置100は、Central Processing Unit(CPU),Read Only Memory(ROM)、Random Access Memory(RAM)及びHard Disk Drive(HDD)/Solid State Drive(SSD)を備える。輪郭推定部2、ヤコビ行列予測部3、導電率分布計算部4、構成成分分布計算部5、境界線検出部6及び出力部7は、CPUにおいて、所定のプログラムを実行することで実現される。プログラムは、記録媒体経由で取得してもよく、ネットワーク経由で取得してもよい。また、診断装置100の構成を実現するための専用のハードウェア構成を用いてもよい。以下、各部について説明する。
【0013】
(変位量及び電圧電流測定部)
変位量及び電圧電流測定部1を
図2Aおよび
図2Bを用いて説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0014】
まず方向について定義する。食肉台Eの上面の一方向をx方向、上面に沿って、x方向と直交する方向をy方向とする。z方向は、食肉台Eの上面と垂直な方向である。z方向は、x方向及びy方向と直交する方向である。以下、+z方向を「上」、-z方向を「下」と表現する場合がある。上下は、必ずしも重力が加わる方向とは一致しない。
【0015】
図2Aに示すように、変位量及び電圧電流測定部1は、電気インピーダンス・トモグラフィセンサ10と制御測定部30とを備える。電気インピーダンス・トモグラフィセンサ10は、Q個のフレキシブル電極20と、フレキシブル電極20を固定する外枠25および内枠26とを備える。ここで、フレキシブル電極20の数Qは4以上である。フレキシブル電極20の数が4以上あることで、被測定対象の輪郭の測定およびヤコビ行列の予測をすることができる。フレキシブル電極20の配置位置は特に限定されないが、外枠25および内枠26の円周方向に均等に配置されることが好ましい。変位量及び電圧電流測定部1は、電気インピーダンス・トモグラフィセンサ10に被測定対象を配置後、被測定対象の表面形状に沿って変位した後の電極21の変位量を測定し、かつ、フレキシブル電極20間に所定の電流または電圧を印加し、電圧または電流を測定する。
【0016】
被測定対象は、電気インピーダンス・トモグラフィセンサ10の内枠26の内側に配置される。ここで、被測定対象は、例えば食肉および魚肉である。
図2Aの∂Ω
0は、Q個の電極21がつくる形状境界を意味する。原点Oは被測定対象を配置する前のQ個の電極がつくる形状境界∂Ω
0の中心である。形状境界∂Ω
0の形状は特に限定されず、例えば、円形でもよいし、四角形でもよい。被測定対象が内枠26の内側に配置されると、
図2Bのように、フレキシブル電極20は、被測定対象に接触し、被測定対象の表面形状に沿って変位する。変位後の電極21の位置によって、被測定対象の表面形状(輪郭)∂Ωの測定がなされる。
【0017】
フレキシブル電極20は、
図3Aに示すように、筐体15、電極21、支持棒22、コイルばね23、変位計24を備える。フレキシブル電極20の筐体15は、外枠25および内枠26に固定され、制御測定部30と導線などで電気的に接続される。フレキシブル電極20の電極21は、被測定対象の表面形状に沿って変位し、その変位量を測定することができる。フレキシブル電極20の電極21は、原点Oと電極21とを結んだ方向(半径距離)に変位する。また、フレキシブル電極20は、電極21から電流または電圧を印加することで、被測定対象の電圧または電流を測定することができる。
【0018】
筐体15は、中空で片側開放の筒状体である。コイルばね23の一端が筐体15の内部の閉塞ふた部に取り付けられている。コイルばね23の他端に支持棒22の一端が取り付けられている。支持棒22の他端に電極21が取り付けられている。変位計24は、コイルばね23のばね長さを計測する。以下、各部について説明する。
【0019】
コイルばね23は、支持棒22から伝達された荷重に従って伸縮する。コイルばね23は、被測定対象の表面形状を変化させない程度のばね定数であることが好ましい。
【0020】
電極21は、電気的に制御測定部30と接続される。電流または電圧を印加できれば、その材質や形状は特に限定されない。電極21の材質としては、例えば、金めっきを施したCuなどが挙げられる。
【0021】
支持棒22は電極21およびコイルばね23と接続される。支持棒22は、電極21が被測定対象の表面に接触した後の荷重をコイルばね23に伝える。
【0022】
変位計24は、例えばポテンショメータである。ポンテンショメータは、電気抵抗値の変化から、コイルばね23の長さSqを計測する機器であり、測定された電気抵抗値は導線を通して制御測定部30に送信される。
【0023】
図3Bおよび
図3Cに示すように、被測定対象の配置前後でコイルばね23の長さs
qおよび電極の位置(半径距離)r
qが変位する。被測定対象の配置前の原点Oから各電極21までの半径距離は以下の式(1)で表される。また、被測定対象を配置後の原点Oから各電極までの半径距離は以下の式(2)で表される。変位計24により被測定対象の配置前後の電極21の半径方向の移動距離の差Δr
q= rq-r
q
0が下記(3)式より求まる。ここで、r
qは、変位後の電極21の半径距離を示し、r
q
0は、変位前の電極21の半径距離を示し、s
qは、変位後のコイルばね23の長さを示し、s
q
0は、変位前のコイルばね23の長さを示す。
【0024】
【0025】
(制御測定部)
制御測定部30は、例えば、印加電極と計測電極の切り替えを行うためのマルチプレクサ、インピーダンス測定を行うインピーダンスアナライザを備える。制御測定部30は、CPUにおいて、所定のプログラムを実行し、マルチプレクサおよびインピーダンスアナライザを制御することで、変位量測定及びインピーダンス測定を行う。得られた電極21の変位量の測定結果は輪郭推定部2に送られ、インピーダンス測定の結果は、ヤコビ行列予測部3に送られる。
【0026】
制御測定部30は、被測定対象によって、電極21が変位し、変位量が変動しなくなった時点の変位量を測定する。得られた結果は、輪郭推定部2に送られる。
【0027】
制御測定部30は、電極21間に電流を印加し、電圧を測定する。または、制御測定部30は、電極21間に電圧を印加し、電流を測定する。電流を印加する場合、どの電極間に電流を印加するかについては、特に限定されない。同様に電圧を印加する場合も、どの電極間に電圧を印加するかについては、特に限定されない。以下、電流を印加し、電圧を測定する場合について説明する。電流印加方法としては、例えば、対極法、隣接法およびリファレンス法などが挙げられる。測定数Mは、各電流印加方法で異なる。以下、各電流印加方法について説明する。なお、以下に説明する電流印可方法は、電圧印加方法にも適用することができる。
【0028】
対極法は、対向する一対の電極間に電流を印加する方法であり、例えば
図4(a)で説明をすると、1番電極と9番電極、2番電極と10番電極といったように、対向する電極に電流を印加する。
図4(a)の場合は、電極数Qが16であるので、全部で8通りある。電圧は、電流を印加する電極を除外した第2電極および第3電極、第3電極および第4電極のように電極ペアで測定し、第2電極および第3電極の電極ペアから第15電極と第16電極の電極ペアまで測定するので、1つの電流印加パターンに13通りの電圧測定パターンが存在する。したがって、対極法では、この場合、測定数(測定パターン)Mは、全部で104通りとなる。ここで、電流を印加して電圧を測定した場合は、測定パターンは、電圧測定パターンとなる。電圧を印加して電流を測定した場合は、測定パターンは電流測定パターンとなる。
【0029】
隣接法は、隣接する電極間に電流を印加する方法であり、例えば
図4(b)で説明をすると、1番電極と2番電極、2番電極と3番電極といったように、隣接する電極に電流を印加する。
図4(b)の場合は、電極数Qが16であるので、全部で16通りある。電圧は、電流を印加する電極を除外した第3電極および第4電極のように電極ペアで測定し、第3電極および第4電極から第15電極と第16電極まで測定するので、1つの電流印加パターンに13通りの電圧測定パターンが存在する。したがって、隣接法では、測定数(測定パターン)Mは、全部で208通りとなる。
【0030】
リファレンス法は、基準となる電極と、基準となる電極以外の電極との間のすべての組み合わせで電圧を測定する方法であり、例えば
図4(c)で説明をすると、1番電極と2番電極、1番電極と3番電極といったように、基準となる電極と基準となる電極以外の電極との間に電流を印加する。
図4(c)の場合は、電極数Qが16であるので、全部で16通りある。電圧は、電流を印加する電極を除外した第3電極および第4電極のように電極ペアで測定し、第3電極および第4電極の電極ペアから第15電極と第16電極の電極ペアまで測定するので、1つの電流印加パターンに13通りの電圧測定パターンが存在する。したがって、リファレンス法では、測定数(測定パターン)Mは、全部で208通りとなる。
【0031】
以下、本実施形態の診断装置100では、隣接法を用いて、電圧を測定した例について説明する。
【0032】
(輪郭推定部2)
輪郭推定部2は、変位量及び電圧電流測定部1から送られてきたフレキシブル電極20の電極21の変位量から被測定対象の表面形状を推測する。変位量及び電圧電流測定部1から送られてきた変位量データ(座標データ)は、電極数Qと同じ数のみしかなく、被測定対象の輪郭∂Ωを得るためには、その間(各座標点間)を補う必要がある。輪郭推定部2は、変位量データ(電極21の位置座標)およびラメ曲線から、被測定対象の輪郭∂Ωを推測する。ここでは、ラメ曲線で被測定対象の輪郭∂Ωを推測したが、スプライン曲線やベジエ曲線を用いてもよい。
図5にラメ曲線で推測された被測定対象の輪郭∂Ωを示す。
図5に示す通り、各電極21の位置は半径方向の長さrと、電極21の中心および原点Oを結んだ線とx軸とのなす角度θと、で表される。輪郭∂Ωの座標(x、y)は下記の式(4)で表現される。得られた被測定対象の輪郭∂Ωの座標情報は、ヤコビ行列予測部3に送られる。
【0033】
【0034】
(ヤコビ行列予測部3)
ヤコビ行列予測部3は、変位量及び電圧電流測定部1から送られた電極21の変位量および測定パターン、および、輪郭推定部2で推測した被測定対象の輪郭∂Ωを用い、最近傍探索手法やニューラルネットワークなどの機械学習から被測定対象のヤコビ行列を予測する。具体的には、ヤコビ行列予測部3は、変位量および電圧電流測定部1で測定される測定パターン、輪郭推定部2で推測した被測定対象の輪郭∂Ωを分割して得たメッシュの座標、および各フレキシブル電極20の電極21の原点Oからの距離から構成される入力変数を基に、変位量および測定パターン、および、輪郭推定部2で推測した被測定対象の輪郭∂Ωを用い、例えば最近傍探索手法から被測定対象のヤコビ行列を予測する。ヤコビ行列は測定電圧ベクトルが変化したときの導電率ベクトル(導電率分布)の感度を表す感度行列である。したがって、ヤコビ行列(感度行列)が分かれば導電率分布を算出することができる。最近傍探索手法としては、特に限定されないが、k近傍法、近似最近傍探索、局所性鋭敏型ハッシュ、kd木などが挙げられる。ここでは、k近傍法を例に挙げて説明する。
【0035】
次に、既知の輪郭のヤコビ行列のデータセット、既知の輪郭の入力データセット、輪郭推定部2で推測された被測定対象の輪郭∂Ω、および測定パターンm(1<m<M)を基に、k近傍法で、ヤコビ行列を予測する方法について説明する。ここで、既知の輪郭のヤコビ行列のデータセットとは、複数の既知の試料の輪郭から有限要素法などで取得した複数のヤコビ行列のデータをいう。既知の輪郭のデータセットとは、複数の既知の試料の輪郭から得られた複数の入力変数のデータをいう。
【0036】
既知の輪郭のヤコビ行列のデータセットは、例えば、有限要素法を用い、ヤコビ行列を計算することで、既知のヤコビ行列のデータセットを作成してもよい。ヤコビ行列は、被測定対象の輪郭∂Ωによって変わるので、多数の既知の輪郭およびヤコビ行列を用意することが好ましい。ここでは、既知の輪郭を∂Ωg(1≦g≦G)とする。Gは、データセット中の既知の輪郭の数であり、例えば100から10000である。∂Ωgの種類やGの数は、被測定対象によって、適宜修正できる。
【0037】
既知の輪郭∂Ωgを電極21の個数に応じて、適切な解像度が得られるように、分割する。例えば、電極21が16個の場合は、既知の輪郭∂Ωgを含む領域を縦64個、横64個に分割してメッシュnを作成してもよい(1≦n≦N)。Nは、64×64の場合は、4096となる。メッシュの数や形状は、電極21の個数や必要な解像度に合わせて適宜設定することができる。
【0038】
既知の輪郭Ωgのヤコビ行列Jgは、下記の式(5)で表される。式(5)のMは、測定数(測定パターン)の数を示し、Nは、メッシュの数を示す。測定パターンmおよびメッシュnにおけるヤコビ行列Jmnは、下記の式(6)を用い、計算される。ここで、σnは、メッシュnにおける導電率を示す。Anはn番目のメッシュ面積を示す。Vm(e,d)は、測定パターンmにおける測定電圧Vを示す。eは、測定パターンmにおける電流印加電極ペアを示し、dは、測定パターンmにおける電圧測定電極ペアを意味する。V(ie)は、電流印加電極ペアeへの電流印加により誘発された、電圧測定電極ペアd間の電位を示す。V(id)は電圧測定電極ペアdへの電流印加により誘発された、電流印加電極ペアe間の電位である。
【0039】
【0040】
次に、
図6を用いて、既知の輪郭∂Ωgの入力データセットについて説明する。入力データセットIは、以下の式(7)で表される。I
gは、既知の輪郭∂Ω
gにおける入力変数であり、下記の式(8)で表される。式(8)中のI
g
mnは、既知の輪郭∂Ω
gにおける、測定パターンmおよびメッシュnの入力変数であり、下記の式(9)で表される。式(9)中のmは測定パターンを示す。また、式(9)中のX
g
nは、既知の輪郭∂Ω
gにおけるメッシュnのデカルト座標を示し、下記の式(10)で表される。式(9)中のr
gは、既知の輪郭∂Ω
gに配置される電極21の原点からの距離で、下記の式(11)で表される。式(11)中のQは、電極21の個数を示す。
【0041】
【0042】
次に、
図7を用いてk近傍法によるヤコビ行列の予測の方法について説明する。ヤコビ行列予測部3は、輪郭推定部2から送られてきた被測定対象の輪郭∂Ωを既知の輪郭∂Ω
gのデータセットと同じメッシュ数となるように分割する(S11)。その後、変位量及び電圧電流測定部1から送られてきた変位量及び測定パターンmと、メッシュnから入力変数I
*を作成する(S12)。入力変数I
*は、被測定対象の輪郭∂Ωにおける入力変数であり、下記の式(12)で表される。式(12)中のI
g
mnは、被測定対象の輪郭∂Ωにおける、測定パターンmおよびメッシュnの入力変数であり、下記の式(13)で表される。式(13)中のmは測定パターンを示す。また、式(13)中のX
g
nは、被測定対象の輪郭∂Ωにおけるメッシュnのデカルト座標を示し、下記の式(14)で表される。式(13)中のr
*は、被測定対象の輪郭∂Ωに配置される電極21の原点からの距離で、下記の式(15)で表される。式(15)中のQは、電極21の個数を示す。
【0043】
【0044】
次に、被測定対象のヤコビ行列J
*の予測の流れを説明する。ヤコビ行列予測部3は、初期値(例えば、n=1、m=1)を入力する(S13)。次にヤコビ行列予測部3は、下記の式(16)に従って、I
*とI
gとのユークリッド距離が小さいk個のヤコビ行列J
g
mnを基に、被測定対象の輪郭∂Ωにおけるヤコビ行列J
*
mnを予測する(S14)。ここで、d(I
*
mn, I
g
mn)は、下記の式(17)で計算され、I
g
mnとI
*
mnのユークリッド距離を示す。I
g
mnは既知の輪郭Ω
gにおける測定パターンm、メッシュnにおける入力を示す。I
*
mnは変位量及び電圧電流測定部1より送られた測定パターンm、メッシュnにおける電気インピーダンス・トモグラフィセンサ10で測定した入力変数である。C
mnは下記の式(18)で表され、I
*
mnとユークリッド距離が小さいk個の入力変数I
g
mnを示す。kの数は特に限定されず、例えば10である。
図8を用いてk近傍法によるヤコビ行列J
*の予測について説明する。この例では、被測定対象の入力変数とのユークリッド距離が小さい、既知の輪郭Ω
1のヤコビ行列J
1
1,9、既知の輪郭Ω
8のヤコビ行列J
8
1,12、および既知の輪郭Ω
15のヤコビ行列J
15
1,10から、ヤコビ行列J
*
1,8が予測される。
【0045】
Jmn
*の予測が終わったところで、ヤコビ行列予測部3は、nの数がメッシュ数Nと等しいか判定する(S15)。nとNが等しくない場合は、nの数を1つ上げ、再度S14に戻る(S16)。nとNが等しい場合は、次にmが測定パターンの数Mと等しいか判定する(S17)。mとMが等しくない場合は、mの数を1つ上げ、再度S14に戻る(S18)。nとmが等しくなれば、ヤコビ行列予測部3は、ヤコビ行列の予測を終了し、導電率分布計算部4に予測された被測定対象のヤコビ行列J*および、測定パターンを送る。通常上記の式(6)を用いてヤコビ行列を計算すると、10分以上計算に時間がかかる。本実施形態に係る診断装置100では、既知の輪郭∂Ωgのヤコビ行列のデータセットおよび入力データセットを用意し、被測定対象の輪郭および測定パターンを基に、k近傍法のような機械学習を用いることで、被測定対象のヤコビ行列J*を短時間で精度高く予測することができる。
【0046】
【0047】
(導電率分布計算部)
導電率分布計算部4は、ヤコビ行列予測部3から送られてきた被測定対象の予測されたヤコビ行列J*と、変位量及び電圧電流測定部1で測定された電圧とから被測定対象の導電率分布を計算する。初期の導電率分布は被測定対象のヤコビ行列J*を用い下記の式(19)から計算される。式(19)中のΔVは、下記の式(20)で表される。式(20)中のΔVmは、低周波数における電圧V(f0)と高周波数における電圧V(f1)で規格化された電圧であり、下記の式(21)で表される。ここで、低周波数としては、例えば500Hzであり、高周波数としては例えば1kHzである。式(21)中のmは、測定パターンである。
被測定対象の導電率分布は、下記の式(22A)から計算される。式(22A)中のiは、繰り返し計算のイタレーション数を表す。式(22A)中のRは正則化行列、λは、弛緩因子スカラーを示す。Rは例えば、下記の式(22B)で表される。λは任意のハイパーパラメータであり、例えば、0.01である。計算された被測定対象の導電率分布は、構成成分分布計算部5に送られる。
【0048】
【0049】
(構成成分分布計算部)
構成成分分布計算部5は、導電率分布計算部4から得られた被測定対象の導電率分布を被測定対象の構成成分に対応するクラスタに分類することで、被測定対象の構成成分分布を得る。被測定対象の導電率分布を被測定対象の構成成分に対応するクラスタに分類する方法は、特に限定されないが、例えば、k平均法、EMアルゴリズム、ISODATA法、Fuzzy クラスタリング、最長距離法などが挙げられる。ここでは、k平均法の例を説明する。
【0050】
図9(a)は、被測定対象の構成成分に対応するクラスタに分類する前の25×20メッシュの導電率分布を示す。以下、
図10を用いて被測定対象の構成成分に対応するクラスタに分類する流れを説明する。導電率分布計算部4から送られてきた導電率分布(
図9(a))に対し、3種のクラスタ(脂肪
k=1σ
0、赤身
k=2σ
0、骨
k=3σ
0)に分け、クラスタの初期化を行う(S21)。次に、導電率
kσnにクラスタされているメッシュnの座標
kr
n=(x
n,y
n)から成分kの重心位置
kr
cを下記の式(23)を用いて計算する(S22)。各クラスタ毎に、重心位置
kr
cを計算した後、メッシュnにおける導電率σ
nは、下記の式(24)で計算されるメッシュnの座標r
nとのユークリッド距離が最小であった重心位置
kr
cと同じ成分kの導電率
kσ
nが割り当てられる(S23)。その後、再度各クラスタ毎に、重心位置
kr
cを計算する(S24)。各クラスタの重心位置を計算後、最新の各クラスタの重心位置とその1回前の計算における各クラスタの重心位置とが一致していない場合、S23に戻る。最新の各クラスタの重心位置とその一回前の計算における各クラスタの重心位置が一致していれば、計算を終了する。構成成分分布計算部5は、得られた被測定対象の構成成分分布を境界線検出部6に送る。被測定対象の構成成分に対応するクラスタに分類した後の被測定対象の構成成分分布は、
図9(b)のようになる。k平均法のような被測定対象の導電率分布を被測定対象の構成成分に対応するクラスタに分類する方法で構成成分を分けることで、導電率の閾値で分けるよりも高精度に構成成分を分類することができる。
【0051】
【0052】
(境界線検出部)
境界線検出部6は、構成成分分布計算部5から送られてきた被測定対象の構成成分分布から各構成成分の境界線を検出する。境界線の検出方法は、特に限定されず、例えば、Canny法、ソーベル法・ガウスのラプラシアン法などが挙げられる。ここでは、Canny法の例を説明する。
【0053】
Canny法は、隣接するメッシュにおける導電率の勾配|Gn|とその勾配方向θnから境界線を検出する。メッシュ間での導電率の急激な変化があると、|Gn|が大きくなる。そのため、|Gn|が大きいと境界線を意味する。勾配方向θnは、境界線の向きを意味する。境界線は以下の式(25)~(29)で検出する。ここで、Gn(x)は、メッシュnのx方向の勾配を示す。Gn(y)は、メッシュnのy方向の勾配を示す。Sxはx方向に対するソーベルフィルタを示す。Syは、y方向に対するソーベルフィルタを意味する。境界線検出部6によって、境界線を検出することで被測定対象の導電率分布を被測定対象の構成成分に対応するクラスタに分類した後の各構成成分の境界を明確にすることができ、各成分の位置関係をより明確することができる。境界線検出部6は境界線を検出後の被測定対象の構成成分分布を出力部7に送る。
【0054】
【0055】
(出力部)
出力部7は、境界線検出部6から送られてきた境界線を検出後の被測定対象の構成成分分布を出力する。被測定対象の構成成分分布の出力先は特に限定されない。出力先は、液晶ディスプレイのような表示部であってもよいし、HDDのような記憶装置であってもよい。
【0056】
以上、本実施形態に係る診断装置100を詳説した。なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、コイルバネではなく、空気ばねなどを用いてもよい。
【0057】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0058】
(実施例)
次に、本実施形態に係る診断装置100の有効性を検証するために実験した例について説明する。
【0059】
(測定試料)
2種の寒天ファントムを用意した。これらの寒天ファントムは、脂肪部分の導電率を0.024S/m、赤身部分の導電率を0.351S/m、骨部分の導電率を0.083S/mに調整して作成した。各成分の導電率は、蒸留水と食塩によって、調整した。寒天パウダー(Fisher Scientific社製A360)を混合し、85℃で寒天を溶かし、
図11のような形状に成型した。
また、newzee社から購入した牛肉、および3種の羊肉を用意した。各牛肉および羊肉の外観は
図11に示す通りである。
【0060】
(電圧測定)
インピーダンスアナライザ(IM 3570、日置電機株式会社製)、マルチプレクサ(Arduino(LLS社製、イタリア)およびCD74HC4067(Texas Instrument、アメリカ、Analog Mux/Demux)から構成)、電気インピーダンス・トモグラフィセンサ、およびパーソナルコンピュータを用いて、上記測定試料の電圧測定を行った。電極数は16とし、隣接法に基づき、各電極を組み合わせて、電流を印加し、電圧を測定した。測定パターンmは208通りとなった。インピーダンスアナライザは、500Hz~1kHzで複素インピーダンスの周波数を掃引した。また、同時に各電極の変位量も合わせて測定した。
【0061】
(被測定対象の輪郭の推測)
得られた各電極の変位量から、ラメ曲線を用い、測定試料の輪郭の推定を行った。得られた結果を
図12に示す。
図12における点線が真値を示し、実線が予測値を示す。輪郭の真値は、
図11の画像より求めた。これらの結果より下記の式(30)で誤差を計算した。寒天ファントム1の誤差は、4.81%、寒天ファントム2の誤差は、3.38%、牛肉の誤差は、10.47%、羊肉1の誤差は、4.81%、羊肉2に誤差は3.19%、羊肉3の誤差は、5.35%となった。したがって、各測定試料の平均の誤差は、4.81%となった。この誤差の値は小さい。したがって、ラメ曲線によって推測された輪郭は実際の輪郭に高い精度で一致することが分かった。
【0062】
(ヤコビ行列の予測)
上記で説明したk近傍法を用い、推測された輪郭および測定パターンからヤコビ行列の予測を行った。既知のヤコビ行列は有限要素法で計算し、G=200のデータセットを用意した。予測されたヤコビ行列を
図13に示す。次に、これらの予測したヤコビ行列J
*と従来の計算法である、上記の式(6)を用いて計算したヤコビ行列Jとの比較を行った。具体的には、下記の式(31)に従って、J
*およびJの相互相関関数の平均値<CC>を求めた。<CC>は、-1から1の値の範囲であり、1に近いほど正の相関、-1に近いほど負の相関、0に近いほど無相関であることを示す。
図13より求めた寒天ファントム1の<CC>は、0.932、寒天ファントム2の<CC>は、0.915、牛肉の<CC>は、0.941、羊肉1の<CC>は、0.934、羊肉2の<CC>は、0.930、羊肉3の<CC>は、0.905であった。各測定試料の<CC>の平均値は0.92と高い値を示した。これは、いずれの測定試料においても、k近傍法により予測したヤコビ行列J
*が従来の計算結果であるJと同等であることを示す。
【0063】
(ヤコビ行列の予測時間)
次にヤコビ行列の予測をするための時間の比較を行った。
図14の白丸は、ヤコビ行列J
*のk近傍法による予測にかかる時間t(J
*)、黒丸は上記の式(6)による計算にかかる時間t(J)を示す。計算速度の比較のために計算速度比spを下記の式(32)から計算し、その結果を棒グラフで示した。従来法の計算にかかる時間は、寒天ファントム1で51.58s、寒天ファントム2で、13.32s、牛肉で14.99s、羊肉1で、27.69s、羊肉2で、23.52s、羊肉3で、8.25sとなった。よって、従来法の計算にかかる平均の時間は、23.22sであった。一方、k近傍法で予測した場合にかかる時間は、寒天ファントム1で8.07s、寒天ファントム2で3.58s、牛肉で3.82s、羊肉1で5.28s、羊肉2で4.72s、羊肉3で2.95sであった。よって、k近傍法で予測した場合にかかる平均時間は4.73sであった。また、速度比spは、寒天ファントム1で6.39、寒天ファントム2で3.72、牛肉で3.93、羊肉1で5.24、羊肉2で4.98、羊肉3で2.79であった。よって、速度比spの平均は、4.51となった。以上より、k近傍法による計算では、従来の計算法よりも大幅に計算時間を短縮できることが分かった。
【0064】
(導電率分布)
k近傍法で得られたヤコビ行列より、上記の式(22)より導電率分布を計算して得られた導電率分布の図を
図15に示す。
図15に示した通り、
図11の測定試料との整合性があることが分かった。
【0065】
(構成成分分布)
得られた導電率分布を上記のk平均法を用い、測定試料の構成成分分布を作成した。得られた構成成分分布を
図16(b)に示す。
図11の画像から画像オーバーレイ法で得られた構成成分分布の真値を
図16(a)に示す。k平均法より得られた各構成成分の構成成分割合を
kη、
図16(b)より得られた構成成分の真値を
kη
trueとした。誤差は、下記の式(33)より求めた。式33中の
kA
trueは、k番目の構成成分の面積を表し、A
trueは被測定対象の全面積を示す。これらの結果を
図17に示す。
図17(a)は、脂肪の割合を示し、
図17(b)は、赤身の割合を示し、
図17(c)は、骨の割合を示す。各図中の黒丸は、測定試料の構成成分の割合の真値を示し、白丸は、k平均法で得られた測定試料の構成成分の割合を示す。脂肪における寒天ファントム1の誤差は、7.48%、寒天ファントム2の誤差は、4.11%、牛肉の誤差は、3.45%、羊肉1の誤差は、9.16%、羊肉2の誤差は、3.95%、羊肉3の誤差は、9.82%であった。よって、脂肪における各測定試料の誤差の平均は6.33%であった。また、赤身における寒天ファントム1の誤差は7.03%、寒天ファントム2の誤差は、3.09%、牛肉の誤差は、6.33%、羊肉1の誤差は、10.91%、羊肉2の誤差は、5.07%、羊肉3の誤差は11.53%であった。よって、赤身における各測定試料の誤差の平均は、7.03%であった。そして、骨における寒天ファントム1の誤差は、2.25%、寒天ファントム2の誤差は、1.03、牛肉の誤差は9.78%、羊肉1の誤差は、1.75%、羊肉2の誤差は1.12%、羊肉3の誤差は、1.71%であった。よって、骨における各測定試料の誤差の平均は、2.94%であった。以上より、k平均法によって、高い精度で測定試料の構成成分割合を診断できることが分かった。
【0066】
(境界線検出)
上記のcanny法によって、k平均法で得られた構成成分分布から各構成成分の境界線を検出した。各構成成分の境界は
図18に示される。実際の食肉成分の境界の誤差は、下記の式(34)に基づいて計算した。境界線の真値は、
図11の画像より求めた。得られた各測定試料における各クラスタの境界線の誤差
ke
eからその平均値e
eを計算した。寒天ファントム1の各クラスタの境界線の誤差の平均値e
eは、6.22%、寒天ファントム2の各クラスタの境界線の誤差の平均値e
eは、5.37%、牛肉の各クラスタの境界線の誤差の平均値e
eは、8.46%、羊肉1の各クラスタの境界線の誤差の平均値e
eは4.66%、羊肉2の各クラスタの境界線の誤差の平均値e
eは、1.69%、羊肉3の各クラスタの境界線の誤差の平均値e
eは9.01%であった。各測定試料のe
eの平均値は、5.90%であった。よって、Canny法によって、高精度の各構成成分の境界線を検出できることが分かった。
【0067】
【0068】
以上、詳説したように、本実施形態に係る診断装置100は、短時間に高い精度で被測定対象の構成成分を診断することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 変位量及び電圧電流測定部
2 輪郭推定部
3 ヤコビ行列予測部
4 導電率分布計算部
5 構成成分分布計算部
6 境界線検出部
7 出力部
10 電気インピーダンス・トモグラフィセンサ
15 筐体
20 フレキシブル電極
21 電極
22 支持棒
23 コイルばね
24 変位計
25 外枠
26 内枠
30 制御測定部
100 診断装置