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特許7497869フッ素樹脂・ゴム複合ホースおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】フッ素樹脂・ゴム複合ホースおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/08 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
F16L11/08 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020148143
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2022042656
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000145471
【氏名又は名称】株式会社十川ゴム
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】尾田 智秋
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勝己
(72)【発明者】
【氏名】井上 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼本 規雅
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】実公昭47-023663(JP,Y1)
【文献】特開2020-046047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂により形成され、流体と接触する内層と、
前記内層の外表面に第1のゴム材料を用いて形成される内側ゴム層と、
前記内側ゴム層の外表面に第2のゴム材料および補強部材を用いて巻き回し形成される外側ゴム層と、を有するホース本体を備え、
前記ホース本体の軸心に沿った端部に設けられ、前記内側ゴム層によって接着固定されつつ前記内側ゴム層と前記外側ゴム層との間に配置された筒状部と、前記筒状部の両端部のうち前記軸心に沿った外側端部に取り付けられて他物に対する接続機能を奏する接続部と、を有するニップルを備え、
前記ニップルの両端部のうち前記接続部を形成した側の端部の内周位置に、前記内層の外表面に近接対向し、前記内側ゴム層の第1のゴム材料が前記軸心に沿って前記ニップルの外側に移動するのを阻止する封止部が配置されているフッ素樹脂・ゴム複合ホース。
【請求項2】
前記封止部が、前記ニップルと前記内層との間に配置された筒状のリテーナである請求
項1に記載のフッ素樹脂・ゴム複合ホース。
【請求項3】
前記リテーナの両端部のうち前記軸心に沿った外側の端部に、径外方向に突出した拡径
部が形成されている請求項2に記載のフッ素樹脂・ゴム複合ホース。
【請求項4】
前記封止部が、前記ニップルと前記内層との間に配置された弾性部材からなるリング部
材である請求項1から3の何れか一項に記載のフッ素樹脂・ゴム複合ホース。
【請求項5】
流体と接触する内層を形成するフッ素樹脂製の管体の外表面に、第1のゴム材料による
内側ゴム層を形成し、
前記管体に外挿し、前記内側ゴム層の端部に隣接する状態に封止部を配置し、
他物に対する接続機能を奏する接続部を備えた筒状のニップルを、前記封止部と前記内
側ゴム層の端部領域を覆う状態に配置し、
前記内側ゴム層および前記ニップルの外表面に、第2のゴム材料および補強部材による
外側ゴム層を形成し、前記内側ゴム層および前記外側ゴム層を加硫処理するフッ素樹脂・
ゴム複合ホースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面が例えばPFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)等によってライニングされたフッ素樹脂・ゴム複合ホースおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内面がフッ素樹脂でライニングされたホースは薬液に対する耐性を有する。よって、例えば、塩酸・硫酸・硝酸・フッ酸等の酸や、水酸化ナトリウム水溶液・水酸化カリウム水溶液・アンモニア水等の塩基、さらには過酸化水素水やアルコール類等の薬液を搬送するホースとして利用可能である。具体的には、半導体製造における各種配管や、高純度の薬液用ライニングISOコンテナの配管等として用いられる。
【0003】
ただし、従来、このようなフッ素樹脂・ゴム複合ホースにおける接続部の構造について記載された特許文献は見当たらず、このようなホースを用いる場合には、例えば以下のような接合部が作製されることが多かった。
【0004】
例えば、図8(a)に示すように、まず、既に完成された長尺状のフッ素樹脂・ゴム複合ホースを作製し、所定長さに切断する。ホースHの端部において、内面のフッ素樹脂層11より外側のゴム層12を除去する。次に、図8(b)に示すように、フッ素樹脂層11と、その外側に隣接するゴム層12との間に、筒状のニップル13を挿入する。具体的には、ニップル13の端部をエッジ状に形成しておき、ホースHの端面に押し当ててフッ素樹脂層11とゴム層12との間に切り込ませる。
【0005】
このあと、ニップル13の径外位置に筒状のソケット14を配置し、加締め固定する。最後に、ニップル13から軸心Xの方向に沿った外側に突出しているフッ素樹脂層11を径外方向に広げ、ニップル13のフランジ面13aに沿わせる。
【0006】
このように構成することで、フッ素樹脂層11が、フランジ面13aと、当該フランジが接続される他の装置の取付面とで挟持され、ホースHの内部を流通する流体によってニップル13の腐食等が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】なし
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術では、筒状のニップル13をフッ素樹脂層11とその外側に隣接するゴム層12との間に挿入するが、通常、ニップル13は両層の間に単に差し込まれるに過ぎない。そのあとニップル13の径外位置に対してソケット14による加締めを行い、単にニップル13の表面とゴム層12との摩擦によってニップル13がホースHから抜け出すのを防止する。
【0009】
ニップル13と、フッ素樹脂層11あるいはゴム層12との間に特に接着剤等は使用しない。ニップル13がフッ素樹脂層11とゴム層12との丁度境界位置に差し込まれるとは限らないからである。つまり、ニップル13はホースHの端面から差し込まれるが、その際にホースHには多少の弾性変形が生じる。よって、ニップル13の先端による開裂の位置がゴム層12の側にずれることがある。仮に、ニップル13の内面側にフッ素樹脂層11との接着剤を塗布していたとしても、ゴム層12の一部が介在する位置では十分な接着効果が期待できない。そのため、従来のホースHでは、ソケット14による加締めのみが行われることが多い。
【0010】
しかしながら、ホースHは、移動するコンテナ等に積載した各種装置にも使用されるから、ホースHには頻繁に振動が加わる場合がある。また、ホースHの設置個所によっては、ニップル13の近傍に大きな曲がりを作る必要もある。これらの場合、ニップル13がホースHから抜け出す恐れがある。
【0011】
このように、従来のフッ素樹脂・ゴム複合ホースは、ホースの端部におけるニップルの取り付け精度が不安定であり、十分な耐久性を備えているとは言えず、ニップルの取付構造においては未だ改善の余地がある。本発明は、ニップルを設けたホースの接続部につき品質および耐久性に優れたフッ素樹脂・ゴム複合ホースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(特徴構成)
本発明に係るフッ素樹脂・ゴム複合ホースは、
フッ素樹脂により形成され、流体と接触する内層と、
前記内層の外表面に第1のゴム材料を用いて形成される内側ゴム層と、
前記内側ゴム層の外表面に第2のゴム材料および補強部材を用いて巻き回し形成される外側ゴム層と、を有するホース本体を備え、
前記ホース本体の軸心に沿った端部に設けられ、前記内側ゴム層によって接着固定されつつ前記内側ゴム層と前記外側ゴム層との間に配置された筒状部と、前記筒状部の両端部のうち前記軸心に沿った外側端部に取り付けられて他物に対する接続機能を奏する接続部と、を有するニップルを備え、
前記ニップルの両端部のうち前記接続部を形成した側の端部の内周位置に、前記内層の外表面に近接対向し、前記内側ゴム層の第1のゴム材料が前記軸心に沿って前記ニップルの外側に移動するのを阻止する封止部が配置されている点に特徴を有する。
【0013】
(効果)
本構成であれば、ニップルの筒状部が内側ゴム層によってフッ素樹脂製の内層に固定されるから、内層とニップルとの固定状態が強固なものとなる。また、ニップルの内側に内側ゴム層として配置される材料が第1のゴム材料であり、この内側ゴム層の外側に重ね配置される外側ゴム層も第2のゴム材料であって、これらは共にゴム材料であるから、内側ゴム層と外側ゴム層との強固な接着が容易となる。よって、仮に、フッ素樹脂・ゴム複合ホースが設置された状態で、フッ素樹脂・ゴムホースのニップルの近傍で大きな曲がりがある場合や、ホース全体が大きな振動を受ける場合などであっても、耐久性の高いフッ素樹脂・ゴム複合ホースを得ることができる。
【0014】
【0015】
(効果)
内側ゴム層を構成する第1のゴム材料としては各種のゴム材料を用いることができる。内側ゴム層は、外側ゴム層の巻き付け作業が終了した後の加硫処理によって昇温され、第1のゴム材料の流動性が高まる。その結果、第1のゴム材料がニップルと内層との隙間から流出することがある。そこで、当該隙間を埋めるように封止部を配置することで、内側ゴム層がニップルの内面と内層との間に確実に充填され、ニップルと内層とが強固に接着されたフッ素樹脂・ゴム複合ホースを得ることができる。
【0016】
(特徴構成)
本発明に係るフッ素樹脂・ゴム複合ホースにおいては、前記封止部が、前記ニップルと前記内層との間に配置された筒状のリテーナであると好都合である。
【0017】
(効果)
このような筒状のリテーナを用いることで、内層に対するリテーナの装着作業が容易となる。しかもリテーナの厚みを適宜設定することで内側ゴム層の厚みを任意に設定でき、内側ゴム層を構成する第1のゴム材料を確実に充填することができる。
【0018】
また、リテーナを用いる場合に、ニップルの内面の形状は単純な円筒形状とすれば、従来のニップルの仕様を変更する必要がない。よって、従来のニップルを用いつつ、内層との接着強度の高いフッ素樹脂・ゴム複合ホースを得ることができる。
【0019】
(特徴構成)
本発明に係るフッ素樹脂・ゴム複合ホースにおいては、前記リテーナの両端部のうち前記軸心に沿った外側の端部に、径外方向に突出した拡径部を形成することができる。
【0020】
(効果)
このように形成された拡径部は、リテーナを内層に対して位置決めする際にリテーナを保持し易くなり、リテーナの取付作業が容易となる。
【0021】
また、加硫処理に際して拡径部を内側ゴム層に向けて押圧することができ、リテーナの位置ずれを確実に防止することができる。
【0022】
さらに、軸心に沿ってリテーナから突出させた内層の端部を拡径して拡径部に当接させることで、ホースが接続される接続機器とホースの接続部との間に当該拡径部が位置することとなる。つまり、内層を拡径部に挟持させることで流体の密封度が高まり、ニップルなどフッ素樹脂以外で構成されている部材に流体が接触するのをより確実に防止することができる。
【0023】
(特徴構成)
本発明に係るフッ素樹脂・ゴム複合ホースにおいては、前記封止部として、前記ニップルと前記内層との間に配置された弾性素材からなるリング部材を用いることもできる。
【0024】
(効果)
本構成のように、内層とニップルとの間に弾性素材で構成されたリング部材を配置するものであれば、仮に、ニップルの内面とフッ素樹脂製の管体の外面との隙間寸法にバラつきが存在する場合でも、弾性素材は内層およびニップルの双方に密着可能である。よって、後の加硫工程において内側ゴム層を構成する第1のゴム材料がニップルの外方に流出するのをより確実に防止することができる。
【0025】
(特徴手段)
本発明に係るフッ素樹脂・ゴム複合ホースの製造方法は、
流体と接触する内層を形成するフッ素樹脂製の管体の外表面に、第1のゴム材料による内側ゴム層を形成し、
前記管体に外挿し、前記内側ゴム層の端部に隣接する状態に封止部を形成し、
他物に対する接続機能を奏する接続部を備えた筒状のニップルを、前記封止部と前記内側ゴム層の端部領域を覆う状態に配置し、
前記内側ゴム層および前記ニップルの外表面に、第2のゴム材料および補強部材による外側ゴム層を形成し、前記内側ゴム層および前記外側ゴム層を加硫処理する点に特徴を有する。
【0026】
(効果)
本方法では、内層を形成するフッ素樹脂製の管体の外表面に内側ゴム層を形成し、この内側ゴム層の端部に封止部を配置しておく。これにより、封止部は後の内側ゴム層および外側ゴム層の加硫処理に際して昇温されて流動性が高まった第1のゴム材料を堰き止め、ニップルの内側に第1のゴム材料が確実に充填された状態を形成する。よって、内層とニップルとが内側ゴム層によって確実に接着されたフッ素樹脂・ゴム複合ホースを得ることができる。
【0027】
また、封止部を用いる場合に、ニップルの内面の形状は例えば単純な円筒形状とすることができるから、従来のニップルの仕様を特に変更する必要がない。よって、従来のニップルを用いつつ、内層との接着強度の高いフッ素樹脂・ゴム複合ホースを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1実施形態に係るホースの構成を示す一部断面斜視図
図2】第1実施形態に係るホースの構造を示す断面図
図3】第1実施形態に係るホースの製造手順を一部断面斜視図
図4】第2・第3実施形態に係るホースの接続部構造を示す断面図
図5】第4実施形態に係るホースの接続部構造を示す断面図
図6】第5実施形態に係るホースの接続部構造を示す断面図
図7】第6実施形態に係るニップルの形状を示す断面図
図8】従来のホースの接続部構造を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔概要〕
本発明に係るフッ素樹脂・ゴム複合ホースH(以下、「ホースH」と称する)は、内面が例えばフッ素樹脂の一つであるPFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)によってライニングされたホースHであり、半導体製造における各種配管や、高純度の薬液用ライニングISOコンテナの配管等に用いられる。本発明は、当該ホースHの端部に設けられたニップルNが、ホースHの内部を流通する流体によって腐食する等の不都合を防止するべく、ホースHに対するニップルNの取付構造に工夫を施したものである。以下、本ホースHに係る各実施形態につき図面に基づいて説明する。
【0030】
〔第1実施形態〕
〔ホース本体〕
図1および図2には、本実施形態に係るホースHの構成を示し、図3には、ホースHの製造手順を示す。ホースHは、流体と接触する内層1としてフッ素樹脂により形成された管体1aを用いている。これにより、特に、耐食性や耐薬品性に優れたホースHを得ることができる。用いるフッ素樹脂としては、上記PFAのほかに、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)や、ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン)など各種のものを選択可能である。
【0031】
〔内側ゴム層の形成〕
内層1の表面側には、内層1に対して接着性を有する第1のゴム材料による内側ゴム層2が形成される。より具体的には、内側ゴム層2は、図2に示すように、さらに三つの層で構成されている。
【0032】
内層1の外表面に接触する状態に第1層21が形成され、この第1層21の外側に第2層22が形成される。第1層21としては、例えばフッ素樹脂製の管体1aと接着性の良いAEM(エチレン・アクリルエラストマー)を用いる。また、第2層22には、第1層21と接着性が良く、さらに後述の外側ゴム層3との接着性を改良したAEMを用いる。例えば、AEMにCR(クロロプレンゴム)を加えたものや、AEMにNR(天然ゴム)を加えたものを用いることができる。
【0033】
第2層22の外側には補強布24を配置する。補強布24そのものには第2層22のAEMとの接着性がないため、補強布24には天然ゴム系のゴム材料が塗り込んである。これにより、第2層22および後述の第3層23、外側ゴム層3に対して所定の接着力が発揮される。このような補強布24はゴムホースの生産工場では汎用性の高いものであり低コストである。
【0034】
上記補強布24を配置した第2層22の表面側であって、後述のニップルNが外挿配置される位置には、さらに第3層23を重ね配置する。この第3層23はテープ状のものを用いて巻き付け成形する。第3層23のゴム材料は第2層22のゴム材料と同じAEMであり、内側の補強布24と、外側の例えばステンレス鋼などによって構成されるニップルNとも良好な接着性を発揮する。
【0035】
ニップルNの構成は以下の通りである。ニップルNは、ホースHの接続に用いられ、ホース本体Haの軸心Xに沿った端部に取り付けられる。ニップルNは、図1に示すように、筒状部4とフランジ状の接続部5とを備えている。接続部5は筒状部4に対して回転自在である。
【0036】
具体的に、筒状部4は、軸心Xに沿って内径および外径がほぼ等しい円筒状の部位である。筒状部4の内面は内側ゴム層2を介してフッ素樹脂からなる内層1と接着され、筒状部4の外面は第2のゴム材料からなる外側ゴム層3と接着される。筒状部4の一方の端部4dには、例えば外表面が傾斜面4bに加工され、先端の厚みを小さく構成してある。こうすることで、内側ゴム層2と外側ゴム層3とが、当該先端位置で滑らかに会合し、互いの接着強度が高まる。また、当該先端位置において、外側ゴム層3に含まれる補強部材30などに段付きが生じることが緩和され、使用中のホースHの曲がり等に起因した当該部位での破損が生じ難くなる。
【0037】
筒状部4の外表面の一部には環状の突起部4aが形成してある。この突起部4aにより、ここに巻き回される補強部材30としての補強層30aおよびワイヤー30bの位置ずれが防止され、ホース本体HaからニップルNが抜け出るのを防止する。
【0038】
接続部5としてのフランジ5aは、筒状部4に対して傾斜面4bの側から外挿される。筒状部4の外方側の端部には段部4cが形成してあり、これはフランジ5aが回転自在に当接する抜け止め部となる。フランジ5aは、例えば複数の貫通孔部5cを備えており、各種機器や他のホースHとの接続部5となる。
【0039】
〔外層の形成〕
内側ゴム層2の外表面に形成される外側ゴム層3は、内側ゴム層2と良好な接着性を発揮する必要がある。よって、第2のゴム材料としては、例えば、IIR(ブチルゴム)やAEM(エチレンアクリレートコポリマー)などを用いることができる。特に、AEMであれば、各種の流体に対する耐食性を備え、かつ、紫外線や外部環境の熱などに対しても良好な耐性を備えている。
【0040】
外側ゴム層3は、ホースHの柔軟性や耐食性あるいは耐温性などを規定する部位である。外側ゴム層3には、合成繊維などで構成した複数の補強層30aと、これら補強層30aの間に巻き回された補強用のワイヤー30bが配置される。
【0041】
〔製造手法〕
図3には、当該ホースHの製造手順を示す。
【0042】
図3(a)は、内層1を構成するフッ素樹脂製の管体1aに第1のゴム材料を3層に巻き付け、内側ゴム層2を形成した状態を示す。尚、図示は省略してあるが、管体1aの内部には巻き付け作業用のマンドレルが挿通されている。
【0043】
最も内側の第1層21の施工は、予めテープ状に成形したゴム材料を螺旋状に巻き付けて行う。巻き付けは、テープの縁部が一部重なった状態となるように行う。
【0044】
続く第2層22の施工は、例えば管体1aの長手方向に沿って長い幅を有するシート状に形成したゴム材料を、第1層21の表面に1周乃至は複数周巻き付けて行う。
【0045】
第2層22の表面のうちニップルNが配置される位置に第3層23の巻き付け作業を行う。この場合にも、テープ状のゴム材料を巻き付ける。この巻き付け作業においては、第3層23の外径は、ニップルNの内径寸法とほぼ等しい寸法か僅かに大きい寸法に設定する。そうすることでニップルNを配置した際にニップルNの内面にゴム材料を密着させることができる。ただし、この巻き付け作業のあとニップルNを位置決めする際に、ニップルNの開口端部によって第3層23の表層を削ってしまうおそれがある。
【0046】
そのため、図3(a)に示すように、第3層23の巻付け作業に際しては、第2層22の巻き付けが完了した際にニップルNを差し込み、第3層23の施工位置よりもホース本体Haの中央側に変位させておく。こうすることで巻き付けが終了した第3層23の側にニップルNを移動させる際に、仮にニップルNの開口端部の角部に第3層23の表面が干渉してゴム材料の表面が削られても、余分なゴム材料はホース本体Haの外側に持ち出される。つまり、ニップルNの両端部のうちフランジ5aとは反対側の端部4dの近傍には削られた余材が溜まらず、続く第3層23の巻き回し作業および外側ゴム層3の巻き回し作業が容易となる。
【0047】
図3(b)は、ニップルNを第3層23の所定の位置に移動させ、ニップルNの端部4dの段差部に第1のゴム材料を巻き付けた状態を示す。筒状部4は所定の厚みを有するからその端部4dでは第2層22との間に段部が形成される。ここに、第3層23を形成したのと同じゴム材料の細幅テープを巻き付け、筒状部4の外面と第2層22との表面とを円滑に連続させる。
【0048】
この結果、後の外側ゴム層3の巻き付けに際して筒状部4および内側ゴム層2と、外側ゴム層3との間に隙間が生じず、外側ゴム層3の巻付け作業が健全なものとなる。また、外側ゴム層3の外観においても筒状部4の端部4dに該当する位置で極端な段差が生じず、質感のよいフッ素樹脂・ゴム複合ホースHを得ることができる。
【0049】
続けて、内層1とニップルNの間に、管状の治具Jを挿入する。治具Jの端部には、ニップルNと内層1との隙間を埋める凸部J1が形成してある。この凸部J1は、後工程で内側ゴム層2および外側ゴム層3を加硫処理する際に、内側ゴム層2のゴム材料がニップルNの外部に漏れ出るのを防止する封止部Fとして機能する。
【0050】
また、このような治具Jを用いる場合に、ニップルNの内面の形状は単純な円筒形状とすることができ、従来のニップルNの仕様を特に変更する必要がない。よって、製造コストが特段に増加することもなく、製造品質の良いホースHを得ることができる。その結果、ニップルNの近傍で大きな曲がりを伴う使用や、ホースH全体が頻繁に振動する環境での使用等に際しても十分な信頼性を発揮し得るホースHを得ることができる。
【0051】
図3(c)は、外側ゴム層3の形成工程を示す。筒状部4および内側ゴム層2の外表面に繊維状あるいは網状の合成繊維などで構成した補強部材30を巻き回して補強層30aを形成する。さらに、補強用のワイヤー30bを巻き回し、第2のゴム材料で被覆する。筒状部4の外表面に形成した突起部4aにより、補強層30aおよびワイヤー30bが確実に位置固定される。
【0052】
図3(d)は、外側ゴム層3の被覆が終了したのち加硫処理を施した状態を示す。加硫処理により、内側ゴム層2の第1層21乃至第3層23と外側ゴム層3とが加熱されて一体化される。このあと、治具Jが除去され、フランジ5aから突出する内層1の端部が拡径処理される。このようにして図2のホースHが完成する。
【0053】
拡径処理された内層1は、当該ホースHが他の機器に接続される際に、フランジ5aによって挟持される。これにより、ホースHの内部を流通する流体の漏れを防止するとともに、ニップルNが各種の金属材料で構成されている場合に、ニップルNの腐食が防止される。
【0054】
〔第2実施形態〕
本発明に係るフッ素樹脂・ゴム複合ホースHの第2実施形態を図4(a)に示す。
【0055】
ここでは、ニップルNと内層1との間に封止部Fとしてのリテーナ6を設けてある。リテーナ6の肉厚は、内側ゴム層2の厚みに応じて設定する。このリテーナ6は、ホース本体Haの軸心Xに沿ってフランジ5aの側に配置し、完成したフッ素樹脂・ゴム複合ホースHの一部となる。リテーナ6の端面は、ニップルNのフランジ面5bと同じ位置に設置するか、フランジ面5bから僅かに引退した状態とする。これにより、後の工程で、フランジ面5bから突出した内層1を拡径する際に、内層1の外側表面がフランジ面5bの全体に沿い易くなる。
【0056】
リテーナ6は、各種の金属材料や樹脂材料を用いて構成することができる。ニップルNに対するリテーナ6の挿入を容易にするために、リテーナ6の端面のうち挿入方向上手側の端面には、内面および外面に面取り6aを形成しておくと良い。
【0057】
このようなリテーナ6を用いることにより、加硫処理に際して内側ゴム層2を構成する第1のゴム材料の漏れ出しを確実に防止することができる。また、ニップルNの内面の形状はリテーナ6の外面との当接性を高めるように例えば単純な円筒形状とすればよく、従来のニップルNの仕様を変更する必要がない。よって、従来のニップルNを用いつつ、フッ素樹脂製の内層1を強固に接着したフッ素樹脂・ゴム複合ホースHを得ることができる。
【0058】
〔第3実施形態〕
本発明に係るフッ素樹脂・ゴム複合ホースHの第3実施形態を図4(b)に示す。
【0059】
この実施形態では、リテーナ6の筒状部6bの両端部のうち軸心Xに沿った外側の端部に、径外方向に突出した拡径部6cを設ける。この拡径部6cは、ニップルNのフランジ面5bに密着できる構成としておく。
【0060】
本構成であれば、拡径部6cは、リテーナ6をニップルNに対して位置決めする際にリテーナ6の保持を容易とし、リテーナ6の取付作業が容易となる。また、加硫処理に際して拡径部6cをフランジ5aに向けて押圧することができ、リテーナ6の位置ずれを確実に防止することができる。
【0061】
さらに、拡径部6cとフランジ5aとが密着する構成であれば、後の他物との接続に際して拡径部6cが変形することがなく、他物との間で内層1を確実に挟持することができる。よって、密閉性の高い接続部5を得ることができる。ここでの密閉性が高まることで、内層1の内部を流通する液体が当該接続部5から外方に漏れ出し、フランジ5aに到達する可能性も低くなる。よって、ニップルNが金属製である場合の耐腐食性の向上にも寄与する。
【0062】
〔第4実施形態〕
本発明に係るフッ素樹脂・ゴム複合ホースHの第4実施形態を図5に示す。
【0063】
この実施形態では、封止部FがニップルNの内面に一体形成されている。この封止部Fは、ニップルNの外側の端面から軸心Xに沿って内側の一定範囲に形成する。封止部Fの内側の端面の双方には、内層1への挿入を容易にする挿入用の面取り4eと、ニップルNから軸心Xに沿って突出した内層1を拡径する際に内層1の外面が沿い易くなる当接用の面取り4fとが設けてある。
【0064】
また、本構成の場合、内側ゴム層2を形成する際には、ニップルNをホース本体Haの軸心Xに沿った外方に変位させておく必要がある。よって、内側ゴム層2の巻き付けが終了した後に内側ゴム層2に対して差し込む際に、筒状部4の端部4dが内側ゴム層2の表面を削らないように、筒状部4の端部4dの内面側に面取り部4gを設けておくと良い。
【0065】
本構成であれば、ホースHの構成部品点数が減少し、先の実施形態では封止が必要であったニップルNとリテーナ6との隙間が解消される。よって、加硫処理における第1のゴム材料の保持効果が高まる。また、加硫処理時に位置保持すべき部材が減少するから製造作業が単純化されるから、製造装置が簡素化され、ホースHの製造効率が総合的に向上する。
【0066】
〔第5実施形態〕
図6には、本発明に係るフッ素樹脂・ゴム複合ホースHの第5実施形態を示す。
【0067】
ここでは、弾性部材からなるリング部材7を封止部Fとして、ニップルNと内層1との間に配置する。弾性部材としては、例えば任意のゴム材料を用いることができる。ただし、加硫処理の際に、リング部材7が流動化することのないように、すでに加硫処理したものを用いるのが好ましい。リング部材7をニップルNの内部に配置した後は、リング部材7の抜け出しを防止するために治具Jを用いるとよい。
【0068】
このようなリング部材7を用いる場合、リング部材7の断面のサイズは、ニップルNと内層1との隙間の設計寸法よりもある程度大きく構成しておくとよい。そうであれば、仮にニップルNの内面と内層1の外面との間隔にバラツキが存在する場合でも、弾性部材が変化してニップルNと内層1との双方に密着可能となる。よって、後の加硫処理における第1のゴム材料の流出防止効果を確実に発揮することができる。
【0069】
尚、このリング部材7は、第2実施形態や第3実施形態で用いたリテーナ6と併用しても良い。こうすることで、リテーナ6と内層1との隙間、あるいは、リテーナ6とニップルNとの密閉度を緩和することができ、リテーナ6の取付作業が簡略化される。
【0070】
また、リテーナ6がリング部材7の押え部材となり、加硫処理の後もホースHの構成部品として残されるから、仮に、加硫処理に際してリング部材7のゴム材料がリテーナ6に接着されても何ら問題は生じない。
【0071】
〔第6実施形態〕
図7には、別実施形態に係るニップルNを示す。
【0072】
このニップルNでは、筒状部4の外面に凹部4hが設けられている。このように凹部4hを形成することによっても、外側ゴム層3の補強層30aやワイヤー30bが係止可能となり、ニップルNが強固に取り付けられたホースHを得ることができる。この場合、筒状部4の厚みを薄くすることができ、筒状部4の外径を小さくすることができる。ホース本体HaがニップルNから抜け出し難くするには、ニップルNの筒状部4の外径寸法に対する筒状部4の長さの割合を大きくすればよい。
【0073】
この観点から、筒状部4の外径寸法が小さくなる本構成のニップルNであれば、筒状部4の長さをより短くすることができる。よって、ホースHを他の機器に接続する際に、ニップルNおよびその近傍のホースHの曲げスペースが小さくなる。この結果、取付スペースがコンパクトなフッ素樹脂・ゴム複合ホースHを得ることができる。
【0074】
〔その他の実施形態〕
内側ゴム層2の形成に際しては、テープ状或いはシート状のゴム材料を管体1aの表面に巻き付ける方法に代えて、管体1aの表面にゴム材料を押出成形することもできる。つまり、押出成形機に管体1aを挿通させつつ管体1aの外周面にゴム材料を被覆成形する。これにより内側ゴム層2のうち第2層22までの形成が可能である。
【0075】
次に、管体1aの表面に第2層22までが形成されたホース本体Haを所定の長さに切り出す。これを成形マンドレルに挿通し、端部近傍の内側ゴム層2のみを所定長さに亘って除去し、端部に管体1aを露出させる。続けて、第2層22の端部近傍に第3層23を形成しニップルN等を配置する。
【0076】
本方法であれば、テープ状のゴム材料等の巻き付け作業のバラツキが解消され、第2層22の外径寸法が安定化して精度の良いホース本体Haを得ることができる。また、巻付作業が省略される結果、ホースHの製造効率が大幅に向上する。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係るフッ素樹脂・ゴム複合ホースの構成および製造方法は、フッ素樹脂材料を用いた内層を有するゴムホースに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 内層
1a 管体
2 内側ゴム層
3 外側ゴム層
4 筒状部
5 接続部
6 リテーナ
6c 拡径部
7 リング部材
30 補強部材
F 封止部
Ha ホース本体
N ニップル
X 軸心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8