(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】磁気抵抗効果素子、磁気メモリ、及び、該磁気抵抗効果素子の成膜方法
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20240604BHJP
H10N 50/80 20230101ALI20240604BHJP
H01F 10/32 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H10B61/00
H10N50/80 Z
H01F10/32
(21)【出願番号】P 2020539646
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034229
(87)【国際公開番号】W WO2020045655
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2018162077
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019034916
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】西岡 浩一
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 正二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英夫
(72)【発明者】
【氏名】本庄 弘明
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-010590(JP,A)
【文献】特開2007-080952(JP,A)
【文献】特開2014-187169(JP,A)
【文献】国際公開第2017/212895(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/080436(WO,A1)
【文献】特開2012-064625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 61/00
H10N 50/80
H01F 10/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の参照層(B1)と、
前記第1の参照層(B1)に隣接して設けられる第1の接合層(11)と、
前記第1の接合層(11)の前記第1の参照層(B1)とは反対側に隣接して設けられる第1の分割記録層(2)と、
前記第1の分割記録層(2)の前記第1の接合層(11)とは反対側に隣接して設けられる第2の接合層(12)と、
前記第2の接合層(12)の前記第1の分割記録層(2)とは反対側に隣接して設けられる第2の分割記録層(3)と、
前記第2の分割記録層(3)の前記第2の接合層(12)とは反対側に隣接して設けられる第3の接合層(13)と、
を備え、
前記第1の接合層(11)、前記第2の接合層(12)及び前記第3の接合層(13)はO(酸素)を含み、前記第1の接合層(11)はトンネル障壁層であり、
前記第1の分割記録層(2)、前記第2の接合層(12)及び前記第2の分割記録層(3)は、第1の記録層(A1)を構成し、
前記第1の分割記録層(2)、前記第1の接合層(11)及び前記第1の参照層(B1)の磁気トンネル接合による磁気抵抗比(MR比)は、前記第2の分割記録層(3)、前記第1の接合層(11)及び前記第1の参照層(B1)が磁気トンネル接合した場合の磁気抵抗比(MR比)より大きく、
前記第2の接合層(12)及び前記第3の接合層(13)に隣接して挟まれた前記第2の分割記録層(3)の実効磁気異方性エネルギー密度(K
efft)は、前記第2の接合層(12)及び前記第3の接合層(13)に前記第1の分割記録層(2)が隣接して挟まれた場合の前記第1の分割記録層(2)の実効磁気異方性エネルギー密度(K
efft)より大きい、磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記第1の分割記録層(2)は少なくともCoを含み、
前記第2の分割記録層(3)は少なくともFeを含み、
前記第1の分割記録層(2)のCo/Fe比は、前記第2の分割記録層(3)のCo/Fe比より大きい、請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
第1の参照層(B1)と、
前記第1の参照層(B1)に隣接して設けられる第1の接合層(11)と、
前記第1の接合層(11)の前記第1の参照層(B1)とは反対側に隣接して設けられる第1の分割記録層(2)と、
前記第1の分割記録層(2)の前記第1の接合層(11)とは反対側に隣接して設けられる第2の接合層(12)と、
前記第2の接合層(12)の前記第1の分割記録層(2)とは反対側に隣接して設けられる第2の分割記録層(3)と、
前記第2の分割記録層(3)の前記第2の接合層(12)とは反対側に隣接して設けられる第3の接合層(13)と、
を備え、
前記第1の接合層(11)、前記第2の接合層(12)及び前記第3の接合層(13)はO(酸素)を含み、前記第1の接合層(11)はトンネル障壁層であり、
前記第1の分割記録層(2)、前記第2の接合層(12)及び前記第2の分割記録層(3)は、第1の記録層(A1)を構成し、
前記第1の分割記録層(2)は少なくともCoを含み、
前記第2の分割記録層(3)は少なくともFeを含み、
前記第1の分割記録層(2)のCo/Fe比は、前記第2の分割記録層(3)のCo/Fe比より大きく、
前記第1の分割記録層(2)のCo/Fe比は、0.05以上3以下である、磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
第1の参照層(B1)と、
前記第1の参照層(B1)に隣接して設けられる第1の接合層(11)と、
前記第1の接合層(11)の前記第1の参照層(B1)とは反対側に隣接して設けられる第1の分割記録層(2)と、
前記第1の分割記録層(2)の前記第1の接合層(11)とは反対側に隣接して設けられる第2の接合層(12)と、
前記第2の接合層(12)の前記第1の分割記録層(2)とは反対側に隣接して設けられる第2の分割記録層(3)と、
前記第2の分割記録層(3)の前記第2の接合層(12)とは反対側に隣接して設けられる第3の接合層(13)と、
前記第3の接合層(13)の前記第2の分割記録層(3)とは反対側に隣接して設けられる上部電極(E2)と、
を備え、
前記第1の接合層(11)、前記第2の接合層(12)及び前記第3の接合層(13)はO(酸素)を含み、前記第1の接合層(11)はトンネル障壁層であり、
前記第1の分割記録層(2)、前記第2の接合層(12)及び前記第2の分割記録層(3)は、第1の記録層(A1)を構成し、
前記第1の分割記録層(2)は少なくともCoを含み、
前記第2の分割記録層(3)は少なくともFeを含み、
前記第1の分割記録層(2)のCo/Fe比は、前記第2の分割記録層(3)のCo/Fe比より大きく、
前記第2の分割記録層(3)のCo/Fe比は、0.11以下である、磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記第1の分割記録層(2)は少なくともCo及びFeを含み、前記第2の分割記録層(3)は少なくともFeを含む、請求項2、3、5のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
第1の参照層(B1)と、
前記第1の参照層(B1)に隣接して設けられる第1の接合層(11)と、
前記第1の接合層(11)の前記第1の参照層(B1)とは反対側に隣接して設けられる第1の分割記録層(2)と、
前記第1の分割記録層(2)の前記第1の接合層(11)とは反対側に隣接して設けられる第2の接合層(12)と、
前記第2の接合層(12)の前記第1の分割記録層(2)とは反対側に隣接して設けられる第2の分割記録層(3)と、
前記第2の分割記録層(3)の前記第2の接合層(12)とは反対側に隣接して設けられる第3の接合層(13)と、
を備え、
前記第1の接合層(11)、前記第2の接合層(12)及び前記第3の接合層(13)はO(酸素)を含み、前記第1の接合層(11)はトンネル障壁層であり、
前記第1の分割記録層(2)、前記第2の接合層(12)及び前記第2の分割記録層(3)は、第1の記録層(A1)を構成し、
前記第1の分割記録層(2)はCo又はFeを含み、前記第1の分割記録層(2)はBを含み、
前記第2の分割記録層(3)はCo又はFeを含み、前記第2の分割記録層(3)はBを含み、
前記第1の分割記録層(2)のB濃度は、前記第2の分割記録層(3)のB濃度より低く、
前記第1の分割記録層(2)のB濃度は、20at.%以上35at.%以下である、磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
第1の参照層(B1)と、
前記第1の参照層(B1)に隣接して設けられる第1の接合層(11)と、
前記第1の接合層(11)の前記第1の参照層(B1)とは反対側に隣接して設けられる第1の分割記録層(2)と、
前記第1の分割記録層(2)の前記第1の接合層(11)とは反対側に隣接して設けられる第2の接合層(12)と、
前記第2の接合層(12)の前記第1の分割記録層(2)とは反対側に隣接して設けられる第2の分割記録層(3)と、
前記第2の分割記録層(3)の前記第2の接合層(12)とは反対側に隣接して設けられる第3の接合層(13)と、
を備え、
前記第1の接合層(11)、前記第2の接合層(12)及び前記第3の接合層(13)はO(酸素)を含み、前記第1の接合層(11)はトンネル障壁層であり、
前記第1の分割記録層(2)、前記第2の接合層(12)及び前記第2の分割記録層(3)は、第1の記録層(A1)を構成し、
前記第1の分割記録層(2)は少なくともCoを含み、
前記第2の分割記録層(3)は少なくともFeを含み、
前記第1の分割記録層(2)のCo/Fe比は、前記第2の分割記録層(3)のCo/Fe比より大きく、
前記第1の分割記録層(2)のCo/Fe比は、0.05以上3以下であり、
前記第2の分割記録層(3)は、
前記第2の接合層(12)と隣接して設けられる第3の磁性層(3a1)と、
前記第3の磁性層(3a1)の前記第2の接合層(12)とは反対側に隣接して設けられる第2の非磁性結合層(3b1)と、
前記第2の非磁性結合層(3b1)の前記第3の磁性層(3a1)とは反対側に隣接して設けられる磁性結合層(3a2)と、
前記磁性結合層(3a2)の前記第2の非磁性結合層(3b1)とは反対側に隣接して設けられる第3の非磁性結合層(3b2)と、
前記第3の非磁性結合層(3b2)の前記磁性結合層(3a2)とは反対側に隣接し、かつ、前記第3の接合層(13)に隣接して設けられる第4の磁性層(3a3)と、
を備える、磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
前記第2の非磁性結合層(3b1)及び前記第3の非磁性結合層(3b2)は、W、Ta、Mo又はVのいずれかの元素からなる、請求項9に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
前記第2の非磁性結合層(3b1)及び前記第3の非磁性結合層(3b2)の膜厚は、0.3nm以下である、請求項9又は10に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項12】
前記第1の分割記録層(2)は、
前記第1の接合層(11)と隣接して設けられる第1の磁性層(2a1)と、
前記第1の磁性層(2a1)の前記第1の接合層(11)とは反対側に隣接して設けられる第1の非磁性結合層(2b1)と、
前記第1の非磁性結合層(2b1)の前記第1の磁性層(2a1)とは反対側に隣接し、かつ、前記第2の接合層(12)に隣接して設けられる第2の磁性層(2a2)と、
を備える、請求項1~3、5~7、9~11のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項13】
前記第1の非磁性結合層(2b1)は、W、Ta、Mo又はVのいずれかの元素からなる、請求項12に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項14】
前記第1の非磁性結合層(2b1)の膜厚は、0.33nm以下である、請求項12又は13に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項15】
前記第1の分割記録層(2)の前記第1の磁性層(2a1)及び前記第2の磁性層(2a2)を合わせたCo/Fe比は、前記第2の分割記録層(3)全体のCo/Fe比より大きい、請求項12~14のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項16】
前記第1の分割記録層(2)中の前記第1の磁性層(2a1)及び前記第2の磁性層(2a2)はCoFeBであり、
前記第2の分割記録層(3)中の前記第3の磁性層(3a1)、前記磁性結合層(3a2)及び前記第4の磁性層(3a3)はFeBである、
請求項9に従属し、かつ、請求項12~14のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項17】
前記第1の磁性層(2a1)のCo/Fe比は、前記第2の磁性層(2a2)、前記第3の磁性層(3a1)及び前記第4の磁性層(3a3)のCo/Fe比より大きい、
請求項9に従属し、かつ、請求項12~14のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項18】
前記第1の磁性層(2a1)はCoFeBであり、
前記第2の磁性層(2a2)、前記第3の磁性層(3a1)及び前記第4の磁性層(3a3)はFeBである、
請求項9に従属し、かつ、請求項12~14のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項19】
前記第1の磁性層(2a1)及び前記第4の磁性層(3a3)のCo/Fe比は、前記第2の磁性層(2a2)及び前記第3の磁性層(3a1)のCo/Fe比より大きい、
請求項9に従属し、かつ、請求項12~14のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項20】
前記第1の磁性層(2a1)及び前記第4の磁性層(3a3)はCoFeBであり、
前記第2の磁性層(2a2)及び前記第3の磁性層(3a1)はFeBである、
請求項9に従属し、かつ、請求項12~14のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項21】
前記第1の磁性層(2a1)及び前記第4の磁性層(3a3)のCo/Fe比は、前記第3の磁性層(3a1)のCo/Fe比より大きい、
請求項9に従属し、かつ、請求項12~14のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項22】
前記第1の磁性層(2a1)、前記第2の磁性層(2a2)及び前記第4の磁性層(3a3)はCoFeBであり、
前記第3の磁性層(3a1)はFeBである、
請求項9に従属し、かつ、請求項12~14のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項23】
(削除)
【請求項24】
前記第2の接合層(12)の膜厚は、1.0nm以下である、請求項1~3、5~7、9~22のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項25】
請求項1~3、5~7、9~22、24のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子を備える、磁気メモリ。
【請求項26】
磁気抵抗効果素子の成膜方法であって、該成膜方法は、
蒸着された第1の参照層(B1)上に第1の接合層(11)を蒸着するステップと、
蒸着された前記第1の接合層(11)が最上部となる膜を加熱処理するステップと、
加熱処理された前記膜を冷却処理するステップと、
冷却処理された前記膜の前記第1の接合層(11)上に第1の分割記録層(2)を蒸着するステップと、
蒸着された前記第1の分割記録層(2)上に第2の接合層(12)を蒸着するステップと、
蒸着された前記第2の接合層(12)上に第2の分割記録層(3)を蒸着するステップと、
蒸着された前記第2の分割記録層(3)上に第3の接合層(13)を蒸着するステップと、
蒸着された前記第3の接合層(13)上に、第2の参照層(B2)又は上部電極(E2)を蒸着するステップと、
を含み、
前記第2の接合層(12)は、前記第2の分割記録層(3)を蒸着するステップの前に加熱冷却処理されず、
前記第3の接合層(13)は、前記第2の参照層(B2)又は前記上部電極(E2)を蒸着するステップの前に加熱冷却処理されない、成膜方法。
【請求項27】
前記第1の接合層(11)、前記第2の接合層(12)及び前記第3の接合層(13)はO(酸素)を含み、前記第1の接合層(11)はトンネル障壁層であり、
前記第1の分割記録層(2)、前記第2の接合層(12)及び前記第2の分割記録層(3)は、第1の記録層(A1)を構成し、
前記第1の分割記録層(2)、前記第1の接合層(11)及び前記第1の参照層(B1)の磁気トンネル接合による磁気抵抗比(MR比)は、前記第2の分割記録層(3)、前記第1の接合層(11)及び前記第1の参照層(B1)が磁気トンネル接合した場合の磁気抵抗比(MR比)より大きく、
前記第2の接合層(12)及び前記第3の接合層(13)に隣接して挟まれた前記第2の分割記録層(3)の実効磁気異方性エネルギー密度(K
efft)は、前記第2の接合層(12)及び前記第3の接合層(13)に隣接して挟まれた前記第1の分割記録層(2)の場合の実効磁気異方性エネルギー密度(K
efft)より大きい、請求項26に記載
の成膜方法。
【請求項28】
前記第1の接合層(11)、前記第2の接合層(12)及び前記第3の接合層(13)はO(酸素)を含み、前記第1の接合層(11)はトンネル障壁層であり、
前記第1の分割記録層(2)、前記第2の接合層(12)及び前記第2の分割記録層(3)は、第1の記録層(A1)を構成し、
前記第1の分割記録層(2)のCo/Fe比は、前記第2の分割記録層(3)のCo/Fe比より大きい、請求項26に記載の成膜方法。
【請求項29】
前記加熱処理の温度は、150℃~400℃の範囲であり、前記加熱処理の時間は100秒~400秒の範囲である、請求項26~28いずれか一項に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子、該磁気抵抗効果素子を備えた磁気メモリ、及び、該磁気抵抗効果素子の成膜方法に関する。特に、3つの接合層に挟まれた記録層を備える磁気抵抗効果素子に関する。
【背景技術】
【0002】
MRAM(Magnetic Random Access Memory;磁気メモリ)は、MTJ(Magnetic Tunnel Junction;磁気トンネル接合)を利用した不揮発性メモリである。
待機時に電力を消費せず、高速動作性及び高書き込み耐性を有し、また、メモリサイズを微細化可能であるMRAMは、次世代の論理集積回路として注目されている。
【0003】
MRAMに使用される磁気抵抗効果素子は、記録層と参照層の間にトンネル障壁層となる非磁性層が挟まれた構造を基本とする。MRAMの磁性層(記録層)に記録されたビット情報は、トンネル障壁層を通りTMR(Tunnel Magnetoresistance;トンネル磁気抵抗)効果を用いて読み出される。
【0004】
ところで、MRAMに用いられる磁気抵抗効果素子で応用上重要となる特性は、(i)熱安定性指数Δが大きいこと、(ii)書き込み電流IC0が小さいこと、(iii)磁気抵抗効果素子の磁気抵抗比(MR比)が大きいこと、(iv)素子サイズが小さいことである。(i)は磁気メモリの不揮発性のため、(ii)はセルトランジスタのサイズを小さくしてセルサイズを小さくし、また消費電力を下げるため、(iii)は高速での読み出しに対応するため、(iv)はセル面積を小さくして大容量化するために要求される特性である。
【0005】
上記特性のうち(i)熱安定性指数Δを大きくするため、MRAMの基本構成の記録層に接する界面(Fe又はCo等を含む磁性層とOを含む層との界面)を増やした、いわゆる二重界面を備える磁気抵抗効果素子が開発された(
図15参照)。
図15に示すように、二重界面を備える磁気抵抗効果素子の記録層(A1)は、トンネル障壁層となる第1の接合層(11)と第2接合層(12)に挟まれた構成を有する。本構成は、熱安定性指数Δが下記数1の式で表されることから、記録層に接する界面を増やすことにより界面磁気異方性エネルギー密度K
iを高めようとする技術思想に基づくものである。
【0006】
【0007】
数1の式において、Eはエネルギー障壁、kBはボルツマン係数、Tは絶対温度、Keffは単位体積あたりの実効磁気異方性エネルギー密度、tは膜厚、Kefftは単位面積あたりの実効磁気異方性エネルギー密度、Sは記録層の面積、Kiは界面磁気異方性エネルギー密度、Kbはバルク(結晶)磁気異方性エネルギー密度、Msは飽和磁化、μ0は真空の透磁率である。なお、素子全体の単位面積あたりの実効磁気異方性エネルギー密度はKefft*で表される。
【0008】
しかしながら、二重界面を備える磁気抵抗効果素子においても、(iv)素子サイズを微細化すると素子の面積(S)が減少するため、大容量化において素子全体の高い実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*を確保して熱安定性指数Δを高めることが困難である、という課題があった。
【0009】
かかる二重界面を備える磁気抵抗効果素子の課題を解決するため、界面をさらに増やした、いわゆる四重界面を備える磁気抵抗効果素子が本発明者らにより提案された(特許文献1
図8等参照)。記録層に接する障壁層や接合層との界面をさらに増やすことにより界面磁気異方性エネルギー密度K
iをさらに高め、素子の体積の減少による熱安定性指数Δの低下を改善しようとする技術思想に基づくものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に開示された四重界面を備える磁気抵抗効果素子は、界面の数が増加することに伴い抵抗面積積RAも上昇するため、上述したMRAMの応用に重要な特性の検討において抵抗面積積RAの低減も併せて検討する必要が生じる。ここで、抵抗面積積RAとは、抵抗に素子面積を乗じたものであり、理想的には素子サイズによらず一定となる値である。
この磁気抵抗効果素子の抵抗面積積RAを低減するには、記録層に接する障壁層や接合層の膜厚を薄くすることが求められるが、障壁層の膜厚を単純に薄くすると、上記(iii)磁気抵抗比(MR比)も低下してしまうため、磁気抵抗効果素子の応用に重要な特性の1つと両立できないという課題があった。
【0012】
さらには、いわゆる二重界面を有する磁気抵抗効果素子に比べ、四重界面を有する磁気抵抗効果素子は界面を増やしたことで熱安定性指数Δを高めることができるものの、素子を微細化した場合においてもより高い実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*をいかに確保するかは、依然として残された課題であった。
【0013】
本発明は、上記実情に鑑み、より微細な磁気抵抗効果素子のサイズが要求される次世代に向けて、いわゆる四重界面を備える磁気抵抗効果素子において、抵抗面積積RAが小さく、磁気抵抗比(MR比)が大きく、かつ、実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*も大きい磁気抵抗効果素子の構成を見出し、完成させるに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の磁気抵抗効果素子は、第1の参照層(B1)と、前記第1の参照層(B1)に隣接して設けられる第1の接合層(11)と、前記第1の接合層(11)の前記第1の参照層(B1)とは反対側に隣接して設けられる第1の分割記録層(2)と、前記第1の分割記録層(2)の前記第1の接合層(11)とは反対側に隣接して設けられる第2の接合層(12)と、前記第2の接合層(12)の前記第1の分割記録層(2)とは反対側に隣接して設けられる第2の分割記録層(3)と、前記第2の分割記録層(3)の前記第2の接合層(12)とは反対側に隣接して設けられる第3の接合層(13)と、を備え、前記第1の接合層(11)、前記第2の接合層(12)及び前記第3の接合層(13)はO(酸素)を含み、前記第1の接合層(11)はトンネル障壁層であり、前記第1の分割記録層(2)、前記第2の接合層(12)及び前記第2の分割記録層(3)は、第1の記録層(A1)を構成し、前記第1の分割記録層(2)、前記第1の接合層(11)及び前記第1の参照層(B1)の磁気トンネル接合による磁気抵抗比(MR比)は、前記第2の分割記録層(3)、前記第1の接合層(11)及び前記第1の参照層(B1)が磁気トンネル接合した場合の磁気抵抗比(MR比)より大きく、前記第2の接合層(12)及び前記第3の接合層(13)に隣接して挟まれた前記第2の分割記録層(3)の実効磁気異方性エネルギー密度(Kefft)は、前記第2の接合層(12)及び前記第3の接合層(13)に前記第1の分割記録層(2)が隣接して挟まれた場合の前記第1の分割記録層(2)の実効磁気異方性エネルギー密度(Kefft)より大きいことを特徴とする。
【0015】
前記第1の分割記録層(2)は少なくともCoを含み、前記第2の分割記録層(3)は少なくともFeを含み、前記第1の分割記録層(2)のCo/Fe比は、前記第2の分割記録層(3)のCo/Fe比より大きいことが望ましい。
【0016】
前記第2の分割記録層(3)は、前記第2の接合層(12)と隣接して設けられる第3の磁性層(3a1)と、前記第3の磁性層(3a1)の前記第2の接合層(12)とは反対側に隣接して設けられる第2の非磁性結合層(3b1)と、前記第2の非磁性結合層(3b1)の前記第3の磁性層(3a1)とは反対側に隣接して設けられる磁性結合層(3a2)と、前記磁性結合層(3a2)の前記第2の非磁性結合層(3b1)とは反対側に隣接して設けられる第3の非磁性結合層(3b2)と、前記第3の非磁性結合層(3b2)の前記磁性結合層(3a2)とは反対側に隣接し、かつ、前記第3の接合層(13)に隣接して設けられる第4の磁性層(3a3)と、を備えてもよい。
【0017】
前記第1の分割記録層(2)は、前記第1の接合層(11)と隣接して設けられる第1の磁性層(2a1)と、前記第1の磁性層(2a1)の前記第1の接合層(11)とは反対側に隣接して設けられる第1の非磁性結合層(2b1)と、前記第1の非磁性結合層(2b1)の前記第1の磁性層(2a1)とは反対側に隣接し、かつ、前記第2の接合層(12)に隣接して設けられる第2の磁性層(2a2)と、を備えてもよい。
【0018】
また、本発明の磁気メモリは、上述の磁気抵抗効果素子を備える。
【0019】
さらに、本発明の磁気抵抗効果素子の成膜方法は、蒸着された第1の参照層(B1)上に第1の接合層(11)を蒸着するステップと、蒸着された前記第1の接合層(11)が最上部となる膜を加熱処理するステップと、加熱処理された前記膜を冷却処理するステップと、冷却処理された前記膜の前記第1の接合層(11)上に第1の分割記録層(2)を蒸着するステップと、蒸着された前記第1の分割記録層(2)上に第2の接合層(12)を蒸着するステップと、蒸着された前記第2の接合層(12)上に第2の分割記録層(3)を蒸着するステップと、蒸着された前記第2の分割記録層(3)上に第3の接合層(13)を蒸着するステップと、蒸着された前記第3の接合層(13)上に、第2の参照層(B2)又は上部電極(E2)を蒸着するステップと、を含み、前記第2の接合層(12)は、前記第2の分割記録層(3)を蒸着するステップの前に加熱冷却処理されず、前記第3の接合層(13)は、前記第2の参照層(B2)又は前記上部電極(E2)を蒸着するステップの前に加熱冷却処理されないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、記録層が3つの接合層と4つの面で接する、いわゆる四重界面の構成を有する磁気抵抗効果素子において、抵抗面積積RAを小さくしつつ、高い磁気抵抗比と、高い実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*を両立させた磁気抵抗効果素子を提供することができる。
また、記録層を障壁層に隣接した部分(第1の分割記録層)で高い磁気抵抗比となるように、障壁層に隣接していない部分(第2の分割記録層)で高い実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*となるように、別々に最適化することが可能な、磁気抵抗効果素子を提供することができる。さらに、かかる最適化の自由度が高い四重界面の磁気抵抗効果素子は、記録層の組成を制御し、たとえば記録層の第1の分割記録層のCo/Fe比を第2の分割記録層のCo/Fe比より大きくすることにより、抵抗面積積RAを小さくしつつ、高い磁気抵抗比と、高い実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の一例の縦断面図を示す。
【
図1B】本発明の磁気抵抗効果素子の、第1の分割記録層及び第2の分割記録層の磁気抵抗比の関係を説明する図である。
【
図1C】本発明の磁気抵抗効果素子の、第2の分割記録層及び第1の分割記録層の実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*の関係を説明する図である。
【
図2】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
【
図3】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
【
図4】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
【
図5】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
【
図6】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
【
図7】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
【
図8】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
【
図9】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
【
図10】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
【
図11】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
【
図12】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
【
図13】本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図を示す。
【
図14】本発明の磁気抵抗効果素子を複数個配置した磁気メモリのブロック図の一例である。
【
図15】従来の磁気抵抗効果素子の構成の縦断面図を示す。
【
図16】本発明の磁気抵抗効果素子の一例の構成において、磁気抵抗比を説明する図である。
【
図17】本発明の磁気抵抗効果素子の一例の構成において、実効磁気異方性エネルギー密度K
efftを説明する図である。
【
図18】第2の接合層の膜厚と抵抗面積積RAとの関係を示す、グラフである。
【
図19】第1の分割記録層及び第2の分割記録層の組成を変えた場合の、磁気抵抗比と実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*との関係を示す、グラフである。
【
図20】第1の分割記録層のCo/Fe比と磁気抵抗比との関係の評価に用いた、磁気抵抗効果膜の構成を示す。
【
図21】第1の分割記録層のCo/Fe比と磁気抵抗比との関係を示す、グラフである。
【
図22】記録層のB濃度と磁気抵抗比との関係の評価に用いた、膜構成を示す。
【
図23】記録層のB濃度と磁気抵抗比との関係を示す、グラフである。
【
図24A】第2の接合層の膜厚と、抵抗面積積RAとの関係の評価に用いた、磁気抵抗効果膜構成を示す。
【
図24B】第2の接合層の膜厚と、磁気結合力J
exとの関係の評価に用いた、磁気抵抗効果膜構成を示す。
【
図25】第2の接合層の膜厚と、磁気結合力J
ex及び抵抗面積積RAとの関係を示す、グラフである。
【
図26】第2の分割記録層のCo/Fe比と実効磁気異方性エネルギー密度K
efft2との関係の評価に用いた、磁気抵抗効果膜の構成を示す。
【
図27】第2の分割記録層のCo/Fe比と実効磁気異方性エネルギー密度K
efft2との関係を示す、グラフである。
【
図28】磁性結合層が実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*及び磁気抵抗比に与える影響の評価に用いた、素子構成を示す。
【
図29】磁性結合層の膜厚と実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*との関係を示す、グラフである。
【
図30】磁性結合層の膜厚と磁気抵抗比との関係を示す、グラフである。
【
図31】第1の非磁性結合層の膜厚と磁気抵抗比及び抵抗面積積RAの関係の評価に用いた、膜構成を示す。
【
図32】第1の非磁性結合層の膜厚と磁気抵抗比及び抵抗面積積RAとの関係を示す、グラフである。
【
図33】第2の磁性層をFeBあるいはCoFeBとした場合の、第2の接合層と実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*との関係の評価に用いた、膜構成を示す。
【
図34】第2の磁性層をFeBあるいはCoFeBとした場合の、第2の接合層と実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*との関係を示す、グラフである。
【
図35】本発明の磁気抵抗効果素子の他の一例の構成において、磁気抵抗比を説明する図である。
【
図36】(a)は本発明の磁気抵抗効果素子のTEM画像、(b)は従来の磁気抵抗効果素子のTEM画像である。
【
図37】(a)に本発明の磁気抵抗効果素子の構成の他の一例の縦断面図、(b)に従来の磁気抵抗効果素子の構成の一例の縦断面図を示す。
【
図38】各素子サイズにおける熱安定性指数Δについて、本発明の磁気抵抗効果素子と従来の磁気抵抗効果素子を比較したグラフである。
【
図39】225℃に保持した状態での各素子サイズにおける熱安定性指数Δについて、本発明の磁気抵抗効果素子と従来の磁気抵抗効果素子を比較したグラフである。
【
図40】各素子サイズにおける書き込み電流I
C0について、本発明の磁気抵抗効果素子と従来の磁気抵抗効果素子を比較したグラフである。
【
図41】各素子サイズにおける性能指数(Δ/I
C0)について、本発明の磁気抵抗効果素子と従来の磁気抵抗効果素子を比較したグラフである。
【
図42】(a)及び(b)に従来の磁気抵抗効果素子の例、(c)~(e)に本発明の磁気抵抗効果素子の例の縦断面図を示す。
【
図43】素子構成及び処理方法の異なる磁気抵抗効果素子毎のトンネル磁気抵抗比(TMR比)を示したグラフである。
【
図44】抵抗面積積RAとトンネル磁気抵抗比(TMR比)の相関について、本発明の磁気抵抗効果素子と従来の磁気抵抗効果素子を比較したグラフである。
【
図45】(a)に第2の分割記録層中の第3の磁性層及び第4の磁性層のCoFeBをFeBに置き換えた場合の性能を評価するための、素子構成を示す。(b)にFeBの膜厚と実効磁気異方性エネルギー密度K
efft2の相関を示す。
【
図46】熱安定性指数Δと磁気結合力との関係の評価モデルを示す。
【
図49】磁化反転の各経路の磁気エネルギーの変化を示す。
【
図50】Path-1における各分割記録層の磁化状態変化を示す。
【
図51】Path-2における各分割記録層の磁化状態変化を示す。
【
図52】Path-3における各分割記録層の磁化状態変化を示す。
【
図53】実効磁気異方性エネルギー密度の中間MgO層膜厚依存性を示す。
【
図54】熱安定性指数Δの交換磁気結合力依存性を示す。
【
図55】各磁化反転経路におけるエネルギー曲線を示す。
【
図56】実効磁気異方性エネルギー密度の評価試料の構成を示す。
【
図57】膜面垂直方向及び膜面平行方向のM-H曲線をプロットした模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の磁気抵抗効果素子及び磁気メモリについて詳細を説明する。
なお、図は一例に過ぎず、また、符号を付して説明するが、本発明を何ら限定するものではない。
【0023】
(実施の形態1)
― 素子の構成 ―
図1Aに、本発明の実施の形態1の基本構成を示す。該磁気抵抗効果素子の基本構成は、第1の参照層(B1)/第1の接合層(11)/第1の分割記録層(2)/第2の接合層(12)/第2の分割記録層(3)/第3の接合層(13)が順に隣接して配置されたものである。第1の分割記録層(2)/第2の接合層(12)/第2の分割記録層(3)は第1の記録層(A1)を構成し、第1の参照層(B1)及び第1の分割記録層(2)は第1の接合層(11)により磁気トンネル接合する。
該磁気抵抗効果素子が磁気メモリセルに接続されるときは、第1の参照層(B1)の第1の接合層(11)とは反対側に設けられる下部電極層、及び、第3の接合層(13)の第3の分割記録層(3)とは反対側に設けられる上部電極層を有する。
【0024】
第1の参照層(B1)は、磁化方向が固定された強磁性層である。該磁化方向は膜面垂直方向であることが望ましい。
第1の参照層(B1)は少なくとも3d強磁性遷移金属元素のいずれかを含む強磁性体であり、Co、Fe、Niの少なくとも1つを含むことがより好ましい。具体的にはCo、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoB、FeB、NiB、CoFeB、FePt、TbTeCo、MnAl、MnGa等の元素の組み合わせが例示される。第1の参照層(B1)は、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性元素をさらに含んだ合金であってもよい。以上のように組み合わせられた元素のうち、一部の元素の含有量はごく微量であってもよく、材料の特性改善に用いられる添加剤等をさらに含んでいてもよい。
また、第1の参照層(B1)の強磁性体の間に薄い非磁性結合層を挿入してもよい。該非磁性結合層の材料としては、Ta、W、Hf、Zr、Nb、Mo,Ti、Mg、MgO等が例示される。
第1の参照層(B1)は単層からなっていても、積層あるいは多層となっていてもよいし、Pt、Ru、Ir、Rh、W、Ni等との積層や薄層フェリ構造等でもよい。
さらに、第1の参照層(B1)の第1の接合層(11)とは反対側に固定層等が隣接されていてもよい。
第1の参照層(B1)の膜厚は、材料や層の構成によるが、概ね1nm~13nm程度である。
【0025】
第1の接合層(11)は、O(酸素)を含む材料が用いられる、本磁気抵抗効果素子の磁気抵抗に支配的なトンネル障壁層である。第1の参照層(B1)と第1の分割記録層(2)に挟まれた第1の接合層(11)の材料の組み合わせで磁気抵抗変化率が大きく発現するよう、少なくともO及びMgを含むことが好ましい。MgOの他、Al2O3、MgAl2O4、SiO2、TiO、Hf2O等の酸素を含む絶縁体が用いられてもよく、これらの絶縁体に他の元素が微量に含まれていてもよい。以上のように組み合わせられた元素のうち、一部の元素の含有量はごく微量であってもよく、材料の特性改善に用いられる添加剤等をさらに含んでいてもよい。
また、第1の接合層(11)は第1の分割記録層(2)との界面において第1の分割記録層(2)に界面磁気異方性を生じるように酸素を含む材料を選択することがより望ましく、この点においてもMgOがさらに望ましい。
第1の接合層(11)の膜厚は、磁気抵抗比を大きくするために0.5nm以上であることが好ましく、0.8nm以上であることがより好ましい。また、小さな抵抗面積積RAとなるように1.2nm以下であることが好ましく、1.1nm以下、さらには1.0nm以下であることがより好ましい。よって、好ましくは0.5~1.2nmの範囲、より好ましくは0.8~1.1nmの範囲に調整される。
【0026】
第1の分割記録層(2)は磁化方向が反転可能な強磁性層である。該磁化方向は膜面垂直方向であることが望ましい。
第1の分割記録層(2)は、第1の参照層(B1)との間に挟まれた第1の接合層(11)での磁気トンネル接合による磁気抵抗比が大きくなる材料で構成されれば、特に限定されないが、少なくともCo、Fe、Ni等の3d強磁性遷移金属を含むことが望ましく、少なくともCoを含むことがさらに望ましい。具体例として、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoB、FeB、NiB、CoFeB、FePt、TbTeCo、MnAl、MnGa等が挙げられ、なかでもCo、CoFe、CoNi、CoB、CoFeBがより望ましい。
また、第1の分割記録層(2)は、第1の接合層(11)との界面、及び、第2の接合層(12)との界面で、膜面垂直方向に界面磁気異方性を有する材料がより望ましく、CoFe、CoFeBがさらに望ましい。
また、第1の分割記録層(2)は、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性元素をさらに含んでもよい。なかでも、B、Vは、取り扱いやすさの面からも好ましい。
【0027】
さらに、第1の分割記録層(2)は、強磁性体の間に薄い非磁性結合層が1以上挿入されてもよく、該非磁性結合層の膜厚は0.3nm以下であることが好ましい。該非磁性結合層の材料としては、Ta、W、Hf、Zr、Nb、Mo,Ti、Mg等が例示され、MoやWがより好ましい。
【0028】
第1の分割記録層(2)全体のCo/Fe比は、第2の分割記録層(3)全体のCo/Fe比より大きくすることが望ましい。なお、第2の分割記録層(3)の組成は後述する。Co/Fe比に関し詳細は
図19を用いて後述するが、素子全体として、高い実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*及び高い磁気抵抗比を両立することができるからである。
第1の分割記録層(2)全体のCo/Fe比は、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.09以上、さらに好ましくは0.18以上0.33以下である。一方、MgOによる界面垂直磁気異方性を得るためには、第1の分割記録層(2)は熱平衡状態で結晶構造がbccとなる組成域であること、好ましくは第1の分割記録層(2)の全体もしくは第1の接合層(11)との界面における結晶構造がbccであることが望ましい。MgO等の第1の接合層(11)の結晶性とマッチングさせるためである。Co-Fe合金において、Co組成が75at.%を超えると結晶構造がfccやhcpとなり、好ましいbcc構造でなくなる。したがって、Co組成は75at.%を上限とすることが望ましい。このときのFe組成は25at.%であるので、Co/Fe比は3(=75/25)以下であることが好ましい。Co/Fe比についての詳細は、
図20及び
図21を用いて後述する。
【0029】
第1の分割記録層(2)全体のB濃度は、第2の分割記録層(3)全体のB濃度よりも低くすることが望ましい。具体的には、第1の分割記録層(2)全体のB濃度は、20at.%以上35at.%以下であることが望ましく、20at.%以上30at.%以下であることがより望ましく、21.9at.%以上30at.%以下であることがさらに望ましい。B濃度についての詳細は、
図22及び
図23を用いて後述する。
【0030】
第1の分割記録層(2)の磁性層部分の膜厚の合計は1.6nm~3.2nmの範囲にあることが好ましく、2.0nm~2.6nmの範囲にあることがより好ましい。膜厚がより薄い場合も、膜厚がより厚い場合もともに、MgO等を第1の接合層(11)及び第2の接合層(12)に用いた場合は垂直磁気異方性が弱まってしまうからである。
【0031】
第2の接合層(12)は、O(酸素)を含む材料が用いられ、少なくともMg及びOを含むことが好ましい。MgOの他、Al2O3、MgAl2O4、SiO2、TiO、Hf2O、Ta-O、W-O等の酸素を含む絶縁体が用いられてもよく、これらの絶縁体に他の元素が微量に含まれていてもよい。以上のように組み合わせられた元素のうち、一部の元素の含有量はごく微量であってもよく、材料の特性改善に用いられる添加剤等をさらに含んでいてもよい。
【0032】
第2の接合層(12)は、第1の分割記録層(2)と第2の分割記録層(3)を磁気的に結合するとともに、垂直磁気異方性を付与する働きを有する。
ここで、「2つの磁性層が磁気的に結合する」とは、磁性層間に単位面積当たりの磁気結合力Jexが働くこと、すなわち、磁気結合力Jexがゼロより大きいことである。該磁気結合力Jexは、磁化曲線の磁界のシフト量(シフト磁界Hex)と飽和磁化Msと膜の面積Sで、数2の式のとおり表される。
【0033】
【0034】
第2の接合層(12)の膜厚は、抵抗面積積RAを小さくする観点からは、1.2nm以下が好ましく、1.1nm以下がより好ましく、1.0nm以下であることがさらに好ましい。詳細は
図18及び
図25を用いて後述する。一方、磁気結合力J
exをゼロより大きく設定する観点からは、第2の接合層(12)の膜厚は1.0nm以下であることが好ましく、0.9nm以下であることがより好ましく、0.8nm以下であることがさらに好ましい。詳細は
図24B及び
図25を用いて後述する。
よって、低い抵抗面積積RA及びゼロより大きな磁気結合力J
exを両立する、1.0nm以下であることが好ましく、0.9nm以下であることがより好ましく、0.8nm以下であることがさらに好ましい。
【0035】
第2の分割記録層(3)は、磁化方向が反転可能な強磁性層であり、第1の分割記録層(2)とともに一体的に磁化反転することが可能である。該磁化方向は膜面垂直方向であることが望ましい。
第2の分割記録層(3)は、少なくともCo、Fe、Ni等の3d強磁性遷移金属を含むことが望ましく、少なくともFeを含むことがさらに望ましい。具体例として、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoB、FeB、NiB、CoFeB、FePt、TbTeCo、MnAl、MnGa等が挙げられ、なかでもFe、CoFe、FeB、CoFeB、FePtがより望ましい。
また、第2の分割記録層(3)は、第2の接合層(12)との界面、及び、第3の接合層(13)との界面で、膜面垂直方向に界面磁気異方性を有する材料がより望ましく、Fe、CoFe、FeB、CoFeBがさらに望ましい。
上記に加え、第2の分割記録層(3)は、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性元素をさらに含んでもよい。なかでも、B、Vは、取り扱いやすさの面からも好ましい。
【0036】
さらに、第2の分割記録層(3)は、強磁性体の間に約0.3nm以下の薄い非磁性結合層が1以上挿入されてもよい。該非磁性結合層の材料としては、Ta、W、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、Mg等が例示され、MoやWがより好ましい。
【0037】
第2の分割記録層(3)全体のCo/Fe比は、第1の分割記録層(2)全体のCo/Fe比より低くすることが望ましい。詳細は
図19を用いて後述するが、素子全体として、高い実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*及び高い磁気抵抗比を両立することができるからである。
第2の分割記録層(3)全体のCo/Fe比は、好ましくは0.11以下であり、より好ましくは0.07以下である。詳細は
図26及び
図27を用いて後述するが、実効磁気異方性エネルギー密度K
efft2を高めることにより、素子全体の実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*を高めることができるからである。
【0038】
第2の分割記録層(3)全体のB濃度は、第1の分割記録層(2)全体のB濃度よりも大きくすることが望ましい。B濃度についての詳細は、
図22及び
図23を用いて後述する。
【0039】
第2の分割記録層(3)の磁性層部分の膜厚の合計は1.6nm~3.0nmの範囲にあることが好ましく、2.0nm~2.6nmの範囲にあることがより好ましい。膜厚がより薄い場合も、膜厚がより厚い場合もともに、MgO等を第2の接合層(12)及び第3の接合層(13)に用いた場合は第2の分割記録層(3)に十分な垂直磁気異方性が得られないからである。
【0040】
第3の接合層(13)はO(酸素)を含む材料が用いられ、少なくともMg及びOを含むことが好ましい。MgOの他、Al2O3、MgAl2O4、SiO2、TiO、Hf2O、Ta-O、W-O等の酸素を含む絶縁体が用いられてもよく、これらの絶縁体に他の元素が微量に含まれていてもよい。以上のように組み合わせられた元素のうち、一部の元素の含有量はごく微量であってもよく、材料の特性改善に用いられる添加剤等をさらに含んでいてもよい。
【0041】
第3の接合層(13)の膜厚は、抵抗面積積RAを小さくする観点からは、1.2nm以下が好ましく、1.1nm以下がより好ましく、1.0nm以下であることがさらに好ましい。
【0042】
上記組成で制御された磁気抵抗効果素子の磁気抵抗比は概ね60%以上、抵抗面積積RAは概ね7Ωμm2以下の範囲である。なお、第1の接合層(11)と第2の接合層(12)、第3の接合層(13)の成膜条件を変えることにより、同一の膜厚範囲でより低い抵抗面積積RAでより高い磁気抵抗比を実現することが可能である。
【0043】
以上に説明した各層から構成される磁気抵抗効果素子は、「第1の分割記録層(2)、第1の接合層(11)及び第1の参照層(B1)の磁気トンネル接合による磁気抵抗比MRaは、第2の分割記録層(3)、第1の接合層(11)及び第1の参照層(B1)が磁気トンネル接合した場合の磁気抵抗比MRbより大きい」ことを特徴とする。
ここで、「第1の分割記録層(2)、第1の接合層(11)及び第1の参照層(B1)の磁気トンネル接合」は本発明の構成であり(
図1B(a)参照)、「第2の分割記録層(3)、第1の接合層(11)及び第1の参照層(B1)が磁気トンネル接合した場合」は仮に本発明に係る磁気抵抗効果素子の第1の分割記録層(2)が第2の分割記録層(3)に置き換えられた場合の構成であり、その他の層の構成は同じである(
図1B(b)参照)。
【0044】
図1B(a)に示すように、MRaは、本発明の磁気抵抗効果素子の構成の第1の接合層(11)における磁気抵抗比である。R
Paは第1の参照層(B1)と第1の分割記録層(2)の磁化方向が平行の場合の抵抗を、R
APaは第1の参照層(B1)と第1の分割記録層(2)の磁化方向が反平行の場合の抵抗を示し、MRa=(R
APa-R
Pa)/R
Paで表される。
一方、
図1B(b)に示すように、MRbは、仮に
図1B(a)中の第1の分割記録層(2)を第2の分割記録層(3)に置き換えた場合の、第1の接合層(11)における磁気抵抗比である。R
Pbは第1の参照層(B1)と第2の分割記録層(3)の磁化方向が平行の場合の抵抗を、R
APbは第1の参照層(B1)と第2の分割記録層(3)の磁化方向が反平行の場合の抵抗を示し、MRb=(R
APb-R
Pb)/R
Pbで表される。
【0045】
そして、磁気抵抗比MRa及び磁気抵抗比MRbの大小は、第1の分割記録層(2)と第2の分割記録層(3)の組成や膜厚に影響され、本発明の磁気抵抗効果素子はMRa>MRbとなる特徴を有する。磁気抵抗比の詳細は、
図16、
図19、数3等を用いて後述する。
【0046】
また、以上に説明した各層から構成される磁気抵抗効果素子は、「第2の接合層(12)及び第3の接合層(13)に隣接して挟まれた第2の分割記録層(3)の実効磁気異方性エネルギー密度(K
efft
a)は、第2の接合層(12)及び第3の接合層(13)に第1の分割記録層(2)が隣接して挟まれた場合の第1の分割記録層(2)の実効磁気異方性エネルギー密度(K
efft
b)より大きい」ことを特徴とする。
ここで、「第2の接合層(12)及び第3の接合層(13)に隣接して挟まれた第2の分割記録層(3)」は本発明の構成であり(
図1C(a)参照)、「第2の接合層(12)及び第3の接合層(13)に第1の分割記録層(2)が隣接して挟まれた場合」は仮に本発明に係る磁気抵抗効果素子の第2の分割記録層(3)が第1の分割記録層(2)に置き換えられた場合の構成であり、その他の層の構成は同じである(
図1C(b)参照)。
【0047】
図1C(a)に示すように、K
efft
aは、本発明の磁気抵抗効果素子の構成の第2の分割記録層(3)における実効磁気異方性エネルギー密度である。
一方、
図1C(b)に示すように、K
efft
bは、仮に
図1C(a)中の第2の分割記録層(3)を第1の分割記録層(2)に置き換えた場合の、第1の分割記録層(2)における実効磁気異方性エネルギー密度である。
【0048】
そして、実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
a及び実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
bの大小は、数1の式で表されるように、第2の接合層(12)及び第3の接合層(13)との間の界面磁気異方性エネルギー密度K
iや、第2の分割記録層(3)や第1の分割記録層(2)の飽和磁化M
s等により影響を受ける。つまり、第2の分割記録層(3)と第1の分割記録層(2)の組成や膜厚等により、本発明の磁気抵抗効果素子はK
efft
a>K
efft
bとなる特徴を有する。実効磁気異方性エネルギー密度K
efftの詳細は、
図17、
図19、数4等を用いて後述する。
【0049】
以下、実施の形態1の構成に関する検討内容を説明する。
【0050】
― 磁気抵抗比(MR比)について ―
いわゆる四重界面を備える磁気抵抗効果素子の磁気抵抗比を大きくする点につき、磁気抵抗効果素子全体の磁気抵抗比であるMRを、第1の接合層(11)における磁気抵抗比MR1と、第2の接合層(12)における磁気抵抗比MR2に分解して検討を行った。
【0051】
図16を用いて、本発明の磁気抵抗効果素子の構成における磁気抵抗比を説明する。MR1は第1の接合層(11)における磁気抵抗比、MR2は第2の接合層(12)における磁気抵抗比を示す。第1の接合層(11)において、R
P1は第1の参照層(B1)と第1の分割記録層(2)の磁化方向が平行の場合の抵抗を、R
AP1は第1の参照層(B1)と第1の分割記録層(2)の磁化方向が反平行の場合の抵抗を示す。また、第2の接合層(12)において、R
P2は第1の分割記録層(2)と第2の分割記録層(3)の磁化方向が平行の場合の抵抗を示す。
素子全体の磁気抵抗比MRは、以下の数3の式で表される。
【0052】
【0053】
ここで、Aは素子サイズ(面積)、各RAはそれぞれの層における抵抗面積積を表す。
数3の式で導かれるように、素子全体の磁気抵抗比であるMRに、第2の接合層(12)における磁気抵抗比であるMR2の項は含まれない。すなわち、第2の接合層(12)は素子全体のMRに寄与しない。この理由は、MR2=(R
AP2-R
P2)/R
P2で表されるが、第1の分割記録層(2)と第2の分割記録層(3)の磁化方向が常に平行であることを前提としているため、抵抗にR
AP2の項が現れないからである。
かかる前提を実現するために重要なポイントの一つは、第1の分割記録層(2)と第2の分割記録層(3)の磁化が強磁性的に(磁気的に)結合することである。詳細は
図24B及び
図25を用いて後述する。
【0054】
数3の式から、素子全体の磁気抵抗比MRは、第1の接合層(11)における磁気抵抗比MR1に依存し、第2の接合層(12)における磁気抵抗比MR2には依存しないことが明らかとなった。また、素子全体の磁気抵抗比MRを大きくするには、磁気抵抗比MR1を最大化し、かつ、第2の接合層(12)における抵抗面積積RP2Aをできるだけ小さくすればよいことも数3の式から理解される。
つまり、磁気抵抗比MR1を最大化するように第1の分割記録層(2)の材料を検討し、かつ、第2の接合層(12)における抵抗面積積RP2Aをできるだけ小さくするように第2の接合層(12)の膜厚を小さくすれば、素子全体の磁気抵抗比MRを大きくすることが可能であることが推察された。
【0055】
― 実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*について ―
いわゆる四重界面を備える磁気抵抗効果素子の実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*を大きくする点につき、磁気抵抗効果素子全体の実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*を、第1の分割記録層(2)における実効磁気異方性エネルギー密度Kefft1と、第2の分割記録層(3)における実効磁気異方性エネルギー密度Kefft2に分解して検討を行った。
【0056】
図17を用いて、本発明の磁気抵抗効果素子の構成における実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*を説明する。K
efft1は第1の分割記録層(2)における実効磁気異方性エネルギー密度、K
efft2は第2の分割記録層(3)における実効磁気異方性エネルギー密度を示す。
素子全体の実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*は、以下の数4の式で表される。
【0057】
【0058】
数4及び数1の式から、素子全体の実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*を大きくするには、第1の分割記録層(2)及び/又は第2の分割記録層(3)の界面磁気異方性エネルギー密度Kiを大きくすることにより、実効磁気異方性エネルギー密度Kefft1及び/又は実効磁気異方性エネルギー密度Kefft2を大きくすればよいことが明らかとなった。
【0059】
なお、1つの層において、必ずしも磁気抵抗比を高めることと、実効磁気異方性エネルギー密度Kefftを大きくすることとが両立するとは限らない。しかし、本発明の磁気抵抗効果素子の場合、磁気抵抗比MR1を最大化するように材料を検討することが望ましい第1の分割記録層(2)についてではなく、素子全体の磁気抵抗比MRに影響を与えない第2の分割記録層(3)について界面磁気異方性エネルギー密度Kiを大きくすることにより実効磁気異方性エネルギー密度Kefft2を大きくすれば、素子全体として高い磁気抵抗比MRと高い実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*を両立することが可能となる。
つまり、本発明の四重界面を備える磁気抵抗効果素子は記録層中の磁性層が少なくとも2つの部分に分かれているため、各パラメータの最適化を分かれた磁性層等に対し別々に検討すればよいので、高い自由度で素子の最適化を検討することも可能となる。
【0060】
― 抵抗面積積RAの、接合層膜厚依存性について ―
いわゆる四重界面を備える磁気抵抗効果素子は、界面の数が増加することに伴い抵抗面積積RAも上昇することが知られている。そこで、抵抗面積積RAの、接合層膜厚依存性について評価を行った。
第1の接合層(11)としてMgO(1.0nm)、第3の接合層(13)としてMgO(0.8nm)、第2の接合層(12)としてMgO(1.0nm~1.3nm)を配置した評価系を用い、抵抗面積積RAを測定した。
【0061】
得られた第2の接合層(12)の膜厚と抵抗面積積RAの関係を、表1及び
図18に示した。
【0062】
【0063】
表1及び
図18から、抵抗面積積RAは第2の接合層(12)の膜厚に対し指数関数的に増大することが分かった。
つまり、小さな抵抗面積積RAとなるようにするには、第2の接合層(12)の膜厚は1.2nm以下であることが好ましく、1.1nm以下、さらには1.0nm以下であることがより好ましいことが分かった。なお、第2の接合層(12)の膜厚を1.2nm以下等に小さく設定することは、低い抵抗面積積RAに資するのみならず、上述したように高い磁気抵抗比を得ることにも資する。
なお、本抵抗面積積RAの、接合層膜厚依存性評価の結果は、抵抗面積積RAが3つの接合層の抵抗の和であることから、次のように説明できる。
第3の接合層(13)は0.8nmと薄いので無視でき、第1の接合層(11)は1.0nmと比較的厚いため5Ωμm
2程度で抵抗面積積RAに寄与する。一方で、抵抗面積積RAは第2の接合層(12)の膜厚に依存するが、第2の接合層(12)の材料であるMgOは絶縁体であるため、抵抗面積積RAは指数関数的に増大する。
したがって、
図18に示されるように、第2の接合層(12)の膜厚を薄くすると抵抗面積積RAは、RA=5Ωμm
2に対し漸近的に変化する。
【0064】
― 第1の分割記録層(2)及び第2の分割記録層(3)の材料と、磁気抵抗比及び実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*について ―
上記磁気抵抗比及び実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*の解析において、第1の分割記録層(2)は高い磁気抵抗比を実現できる材料、第2の分割記録層(3)は高い実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*を実現できる材料を検討すればよいことが分かった。
そこで、どのような元素を含む材料が、磁気抵抗比と及び実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*のパラメータに影響を与えるのかの検証を行った。
【0065】
評価は、
図1の素子構成において、第1の分割記録層(2)及び第2の分割記録層(3)に表2に示す材料を配置し、磁気抵抗比と実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*を測定した。
得られた磁気抵抗比及び実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*の関係を、表2及び
図19に示す。
【0066】
【0067】
表2及び
図19から、同じ第1の記録層(A1)内における強磁性層の部分であっても、磁性層の材料を同一にする、あるいは入れ替えることにより、磁気抵抗比は1.5倍以上、実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*は1.35倍以上、大きく異なることが分かった。
また、第1の分割記録層(2)をCoFeB、第2の分割記録層(3)をFeBとした試料No.2-3は、高い磁気抵抗比及び高い実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*を備えることが分かった。一方、第1の分割記録層(2)をFeB、第2の分割記録層(3)をCoFeBとした試料No.2-4は、磁気抵抗比も実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*も小さいことが分かった。
【0068】
磁気抵抗比について検討したように、素子全体の磁気抵抗比MRは第1の接合層(11)における磁気抵抗比MR1のみ、すなわち、第1の分割記録層(2)の材料のみに依存する。この事実を表2及び
図19の結果と併せ、CoFeBを高い磁気抵抗比を与える目的で第1の分割記録層(2)に用い、FeBを高い実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*を与える目的で第2の分割記録層(3)に配置すれば、両方の特性を兼ね備える磁気抵抗効果素子を提供できるものと考えられる。換言すれば、第1の分割記録層(2)のCo含有率を第2の分割記録層(3)に対して高めた構成にすれば、つまり、それぞれの磁性層のCo/Fe比に着目して制御すればよいものと考えられる。
【0069】
― 第1の分割記録層(2)のCo/Fe比に対する磁気抵抗比について ―
磁気抵抗比について検討したように、素子全体の磁気抵抗比を向上させるためには、第1の分割記録層(2)が高い磁気抵抗比を有する材料で構成されることが望ましい。さらに表2及び
図19の検討で、第1の分割記録層(2)のCo/Fe比を大きくすると磁気抵抗比も増大することが分かった。そこで、第1の分割記録層(2)のCo/Fe比に対する磁気抵抗比の評価を行った。
評価用の素子の構成を
図20に示す。第1の分割記録層(2)のCo/Fe比は、1以上の異なる層を重ねることにより調整した。第1の分割記録層(2)内に配置した磁性層の合計の膜厚tに対し、各層におけるFe、Co、Bの含有量に膜厚を乗じて合計し、第1の分割記録層(2)全体のFe、Co、Bの含有量とした。
第1の分割記録層(2)のCo/Fe比と、磁気抵抗比の関係を、表3及び
図21に示す。
【0070】
【0071】
表3及び
図21から、本評価系において第1の分割記録層(2)にCoが含まれない場合は磁気抵抗比も70%であったが、Co/Fe比が0.05以上になると磁気抵抗比が100%を超え、その後0.33程度まで高い磁気抵抗比を有することが分かった。
一方、MgOによる界面垂直磁気異方性を得るためには、第1の分割記録層(2)の結晶構造がbccであることが望ましい。MgO等の第1の接合層(11)の結晶性とマッチングさせるためである。Co-Fe合金において、Co組成が75at.%を超えると結晶構造がfccとなり、好ましいbcc構造でなくなる。したがって、Co組成は75at.%を上限とすることが望ましい。このときのFe組成は25at.%であるので、Co/Fe比は3(=75/25)以下であることが好ましい。
【0072】
― 第1の分割記録層(2)及び第2の分割記録層(3)のB濃度について ―
上述のとおり、第1の分割記録層(2)は磁気抵抗比を高めた材料で構成することが望ましい。また、第2の分割記録層(3)は実効磁気異方性エネルギー密度K
efft2を高めた材料で構成することが望ましい。そこで、Co、Fe以外で層構成の例として含有する、Bの濃度と磁気抵抗比との相関の評価を行った。
評価用の素子構成を
図22に示す。
2つのMgOに挟まれた磁性層のB濃度と、磁気抵抗比の関係を、表4及び
図23に示す。
【0073】
【0074】
表4及び
図23から、B濃度が減少すると磁気抵抗比が高くなる関係を有することが分かった。この結果は、磁性層中のB量が減少すると飽和磁化M
sが大きくなり、磁気抵抗比も大きくなるといった技術常識とも一致している。
よって、第1の分割記録層(2)にはB濃度が低い材料を用い、本評価系において具体的には、磁気抵抗比が60%を超える範囲となる、B濃度が20at.%以上35at.%以下であることが望ましく、20at.%以上30at.%以下であることがより望ましく、21.9at.%以上30at.%以下であることがさらに望ましい。
【0075】
逆に、B濃度が増大すると飽和磁化Msは低下するが、実効磁気異方性エネルギー密度Kefftは大きくなる(数1等参照)。
よって、高い実効磁気異方性エネルギー密度Kefftであることが望ましい第2の分割記録層(3)には、第1の分割記録層(2)よりB濃度が高い材料を用いることがより望ましい。
【0076】
― 第2の接合層(12)の膜厚について ―
第2の接合層(12)の膜厚は、抵抗面積積RAを小さくする観点からは、
図18に示したように1.2nm以下が好ましく、1.1nm以下がより好ましく、1.0nm以下であることがさらに好ましい。一方、磁気結合力J
exをゼロより大きく、好ましくは0.05mJ/m
2以上に設定するため、第2の接合層(12)の膜厚と磁気結合力J
exの関係を評価した。
【0077】
第2の接合層の膜厚と抵抗面積積RAとの関係の評価用の膜構成を
図24Aに、第2の接合層の膜厚と磁気結合力J
exとの関係の評価用の膜構成を
図24Bに示す。記録層(A1)内の第2の接合層(12)を介して作用する磁気結合力J
exを評価するために、第1の分割記録層(2)のうちの第2の接合層(12)と直接接触する第2の磁性層(2a2)を参照層(B1)と直接接触させ、磁気的に固定する評価用の膜を用いた。
膜面垂直方向に磁界を掃引する磁化曲線から第2の分割記録層(3)の磁化反転の磁界ゼロからのシフト磁界H
exを算出し、数2を用いて磁気結合力J
exを求めた。第2の接合層(12)の膜厚と磁気結合力J
exの関係を示したのが、表5及び
図25である。
図25には対応する素子全体の抵抗面積積RA及びそれぞれのフィッティングカーブも併せて表示した。表5は、第2の接合層(12)をMgOとし膜厚を変えた場合の磁気結合力J
exを示したものである。
【0078】
【0079】
図25から、第2の接合層(12)の膜厚は、磁気結合力J
exがゼロより大きくなる、1.0nm以下であることが好ましく、磁気結合力J
exが0.05mJ/m
2以上となる、0.9nm以下であることがより好ましく、0.8nm以下であるとさらに好ましいことが分かった。なお、これらの膜厚の範囲の抵抗面積積RAは十分に小さいことも確認された。
【0080】
― 第2の分割記録層(3)のCo/Fe比に対する実効磁気異方性エネルギー密度K
efft2について ―
上述のように、第2の分割記録層(3)は高い実効磁気異方性エネルギー密度K
efft2を有することが望ましい。さらに
図19で検討したように、第2の分割記録層(3)のCo/Fe比を小さくすると実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*が高められることが分かった。また、素子全体の実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*は、記録層を構成する各磁性層の実効磁気異方性エネルギー密度K
efftの和である(数4等参照)。そこで、第2の分割記録層(3)のCo/Fe比に対する実効磁気異方性エネルギー密度K
efft2の評価を行った。
評価用の素子の構成を
図26に示す。第2の分割記録層(3)のCo/Fe比は、1以上の異なる層を重ねることにより調整した。第2の分割記録層(3)内に配置した磁性層の合計の膜厚tに対し、各層におけるFe、Co、Bの含有量に膜厚を乗じて合計し、第2の分割記録層(3)全体のFe、Co、Bの含有量とした。
第2の分割記録層(3)のCo/Fe比と、実効磁気異方性エネルギー密度K
efft2の関係を、表7及び
図27に示す。
【0081】
【0082】
図27から、Co/Fe比が小さいほど実効磁気異方性エネルギー密度K
efft2、すなわち素子全体の実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*が増加することが分かった。
第2の分割記録層(3)全体のCo/Fe比は、好ましくは0.11以下であり、より好ましくは0.07以下であれば、実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*を増大させることができる。
【0083】
― 第1の接合層(11)、第2の接合層(12)及び第3の接合層(13)の成膜方法と磁気抵抗比について ―
実施の形態1において、第1の接合層(11)における磁気抵抗比MR1を向上させて、素子全体の磁気抵抗比を増大させるには、上述したように各層の組成や膜厚を調整することの他、第1の接合層(11)、第2の接合層(12)及び第3の接合層(13)それぞれの蒸着後、次の層の蒸着前に加熱冷却処理を制御するステップを含む成膜方法で成膜することが望ましい。具体的には、第2の接合層(12)及び第3の接合層(13)それぞれの蒸着後、次の層の蒸着前には加熱処理を行わないことが好ましい。さらに、第2の接合層(12)及び第3の接合層(13)それぞれの蒸着後、次の層の蒸着前には加熱処理を行わない上で、第1の接合層(11)の蒸着後、次の層の蒸着前に加熱処理と冷却処理を行うことがより好ましい。
加熱処理の温度は、150℃~400℃の範囲が望ましく、200℃~300℃の範囲がより望ましい。また、加熱処理の時間は100秒~400秒の範囲が望ましく、250秒~350秒の範囲がより望ましい。
加熱処理後の冷却処理方法に制限はないが、300秒以上自然放冷することが例示される。
【0084】
上記のように、加熱冷却処理を制御するステップを含む成膜方法で成膜することが望ましい理由を、以下に説明する。
まず、層を蒸着後に加熱処理を行うと、結晶構造が変化する等の理由で、磁気抵抗比が増大することが知られている。しかしながら、加熱処理は、磁気抵抗比を増大させるのみならず、抵抗面積積RAも増大させる。
ここで、上述した素子全体の磁気抵抗比MRと抵抗面積積RAの検討結果から、素子全体の磁気抵抗比MRを大きくするには、第1の接合層(11)の磁気抵抗比MR1を最大化し、かつ、第2の接合層(12)における抵抗面積積RP2A、及び、第3の接合層(13)における抵抗面積積RP3Aをできるだけ小さくすればよい。すなわち、第2の接合層(12)及び第3の接合層(13)それぞれの蒸着後には加熱処理を行わずに抵抗面積積RAを下げるようにすることが望ましい。さらに、第1の接合層(11)の蒸着後には続けて加熱処理を行い、磁気抵抗比を上げるようにすることがより望ましい。
【0085】
実施の形態1に加熱冷却処理を制御するステップを含む成膜方法を適用する場合の一例は、蒸着された第1の参照層(B1)上に第1の接合層(11)を蒸着し、次の層の蒸着前に第1の接合層(11)が最上部となる膜を加熱処理し、加熱処理した該膜を冷却処理し、冷却処理後に第1の接合層(11)上に第1の分割記録層(2)を蒸着し、続けて第1の分割記録層(2)上に第2の接合層(12)を蒸着し、続けて第2の接合層(12)上に第2の分割記録層(3)を蒸着し、続けて第2の分割記録層(3)上に第3の接合層(13)を蒸着し、続けて第3の接合層(13)上に第2の参照層(B2)又は上部電極(E2)を蒸着するステップを含み、第2の接合層(12)は、第2の分割記録層(3)を蒸着するステップの前に加熱冷却処理されず、第3の接合層(13)は、第2の参照層(B2)又は上部電極(E2)を蒸着するステップの前に加熱冷却処理されない。
実施の形態1に加熱冷却処理を制御するステップを含む成膜方法を適用する場合の他の一例は、蒸着された第3の接合層(13)上に第2の分割記録層(3)を蒸着し、続けて第2の分割記録層(3)上に第2の接合層(12)を蒸着し、続けて第2の接合層(12)上に第1の分割記録層(2)を蒸着し、続けて第1の分割記録層(2)上に第1の接合層(11)を蒸着し、次の層の蒸着前に第1の接合層(11)が最上部となる膜を加熱処理し、加熱処理した該膜を冷却処理し、冷却処理後に第1の参照層(B1)を蒸着するステップを含み、第2の接合層(12)は、第1の分割記録層(2)を蒸着するステップの前に加熱冷却処理されず、第3の接合層(13)は、第2の分割記録層(3)を蒸着するステップの前に加熱冷却処理されない。
【0086】
(実施の形態2)
― 素子の構成 ―
図2に、本発明の実施の形態2の基本構成を示す。該磁気抵抗効果素子の基本構成は、第1の参照層(B1)/第1の接合層(11)/第1の分割記録層(2)/第2の接合層(12)/第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)/第3の接合層(13)が順に隣接して配置されたものである。第1の分割記録層(2)/第2の接合層(12)/第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)は第1の記録層(A1)を構成し、第1の参照層(B1)及び第1の分割記録層(2)は第1の接合層(11)により磁気トンネル接合する。また、第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)は、第2の分割記録層(3)を構成する。
該磁気抵抗効果素子が磁気メモリセルに接続されるときは、第1の参照層(B1)の第1の接合層(11)とは反対側に設けられる下部電極層、及び、第3の接合層(13)の第3の分割記録層(3)とは反対側に設けられる上部電極層を有する。
実施の形態2は、以下の特徴を有する他、実施の形態1と同様である。
【0087】
第3の磁性層(3a1)及び第4の磁性層(3a3)は、磁化方向が反転可能な強磁性層である。該磁化方向は膜面垂直方向であることが望ましい。
第3の磁性層(3a1)及び第4の磁性層(3a3)は、少なくともCo、Fe、Ni等の3d強磁性遷移金属を含むことが望ましく、少なくともFeを含むことがさらに望ましい。具体例として、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoB、FeB、NiB、CoFeB、FePt、TbTeCo、MnAl、MnGa等が挙げられ、なかでもFe、CoFe、FeB、CoFeB、FePtがより望ましい。
また、第3の磁性層(3a1)は第2の接合層(12)との界面、第4の磁性層(3a3)は第3の接合層(13)との界面で、膜面垂直方向に界面磁気異方性を有する材料がより望ましく、Fe、CoFe、FeB、CoFeBがさらに望ましい。
また、第3の磁性層(3a1)及び第4の磁性層(3a3)は、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性元素をさらに含んでもよい。なかでも、B、Vは、取り扱いやすさの面からも好ましい。
【0088】
磁性結合層(3a2)は、磁化方向が反転可能な強磁性層である。該磁化方向は膜面垂直方向であることが望ましい。また、磁性結合層(3a2)は、第3の磁性層(3a1)及び第4の磁性層(3a3)が磁気的に結合して一体的に磁化反転するようにブリッジする目的でも挿入される。
磁性結合層(3a2)は、少なくともCo、Fe、Ni等の3d強磁性遷移金属を含むことが望ましく、少なくともFeを含むことがさらに望ましい。具体例として、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoB、FeB、NiB、CoFeB、FePt、TbTeCo、MnAl、MnGa等が挙げられ、なかでもFe、CoFe、FeB、CoFeB、FePtがより望ましい。
また、磁性結合層(3a2)は、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性元素をさらに含んでもよい。なかでも、B、Vは、取り扱いやすさの面からも好ましい。
【0089】
磁性結合層(3a2)の膜厚は、実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*を高めることができる、0.2nm以上が好ましく、0.4nm以上1.0nm以下がより好ましい。詳細は
図28~30を用いて、後述する。
【0090】
第3の磁性層(3a1)、磁性結合層(3a2)及び第4の磁性層(3a3)の膜厚の合計は、1.6nm~3.0nmの範囲にあることが好ましく、2.0nm~2.6nmの範囲にあることがより好ましい。膜厚がより薄い場合も、膜厚がより厚い場合もともに、MgO等を第2の接合層(12)及び第3の接合層(13)に用いた場合は第2の分割記録層(3)に十分な垂直磁気異方性が得られないからである。
【0091】
第3の磁性層(3a1)、磁性結合層(3a2)及び第4の磁性層(3a3)を合わせたCo/Fe比は、第1の分割記録層(2)全体のCo/Fe比より小さくすることが望ましい。素子全体として、高い実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*及び高い磁気抵抗比を両立することができるからである。
第3の磁性層(3a1)、磁性結合層(3a2)及び第4の磁性層(3a3)を合わせたCo/Fe比は、好ましくは0.11以下であり、より好ましくは0.07以下である。実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*を高めるためである。
【0092】
第3の磁性層(3a1)、磁性結合層(3a2)及び第4の磁性層(3a3)を合わせたB濃度は、第1の分割記録層(2)全体のB濃度よりも大きくすることが望ましい。B濃度が増大すると飽和磁化Msは低下するが、実効磁気異方性エネルギー密度Kefftは大きくなるからである(数1等参照)。
【0093】
第2の非磁性結合層(3b1)及び第3の非磁性結合層(3b2)は、強磁性体の間に挿入され、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性元素を含む。なかでもW、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V等が好ましく、W、Ta、Mo、Vがより好ましい。
【0094】
また、2つの磁性層(第3の磁性層(3a1)及び第4の磁性層(3a3))の間の磁気結合力Jexをより増大させ、磁気抵抗効果素子の記録層の熱安定性指数Δをより高める観点からは、第2の非磁性結合層(3b1)及び第3の非磁性結合層(3b2)の膜厚は、それぞれ0.3nm以下であることが好ましく、0.2nm以下であることがより好ましい。
なお、第2の非磁性結合層(3b1)及び第3の非磁性結合層(3b2)のいずれかの膜厚が0.2nm未満となった場合、スパッタ時間を調整して原子サイズ程度あるいはそれより薄い膜厚の層を作製することになるため、層が連続しているものも、層が連続していないものも含まれる。この点、格子に磁性層のB等を吸収する間隙があれば、垂直磁気異方性に対して寄与することが可能なため、層が連続していても連続していなくてもよい。
【0095】
― 磁性結合層(3a2)の挿入について ―
実施の形態1で説明したように、第2の分割記録層(3)は、実効磁気異方性エネルギー密度K
efft2を大きくする層構成を有することを期待されている。
そこで、磁性層に磁性結合層を挿入した場合、実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*及び磁気抵抗比にどのように寄与するかの評価を行った。
評価用の素子の構成を
図28に示す。
磁性結合層の膜厚と実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*の関係を、表7及び
図29に示す。また、磁性結合層の膜厚と磁気抵抗比の関係を、表8及び
図30に示す。
【0096】
【0097】
【0098】
表7及び
図29から、磁性結合層を挿入することにより実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*が大きくなることが分かった。すなわち、高い実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*が期待される第2の分割記録層(3)には、磁性結合層(3a2)を挿入することが望ましい。磁性結合層(3a2)の膜厚は、高い実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*の観点からは0.2nm以上が好ましく、0.4nm以上がより好ましい。一方、2つの磁性層(第3の磁性層(3a1)及び第4の磁性層(3a3))が垂直磁気異方性を有するように構成する観点からは、磁性結合層(3a2)の膜厚は1.6nm以下が好ましく、1.2nm以下がより好ましく、1.0nm以下がさらに好ましい。
【0099】
一方、表8及び
図30から、磁性結合層を挿入することにより磁気抵抗比が減少することが分かった。この事実からも、高い磁気抵抗比が期待される第1の分割記録層(2)には磁気結合層を挿入せず、第2の分割記録層(3)に磁性結合層(3a2)を挿入することがより望ましい。
【0100】
(実施の形態3)
― 素子の構成 ―
図3に、本発明の実施の形態3の基本構成を示す。該磁気抵抗効果素子の基本構成は、第1の参照層(B1)/第1の接合層(11)/第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)/第2の接合層(12)/第2の分割記録層(3)/第3の接合層(13)が順に隣接して配置されたものである。第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)/第2の接合層(12)/第2の分割記録層(3)は第1の記録層(A1)を構成し、第1の参照層(B1)及び第1の磁性層(2a1)は第1の接合層(11)により磁気トンネル接合する。また、第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)は、第1の分割記録層(2)を構成する。
該磁気抵抗効果素子が磁気メモリセルに接続されるときは、第1の参照層(B1)の第1の接合層(11)とは反対側に設けられる下部電極層、及び、第3の接合層(13)の第3の分割記録層(3)とは反対側に設けられる上部電極層を有する。
実施の形態3は、以下の特徴を有する他、実施の形態1と同様である。
【0101】
第1の磁性層(2a1)及び第2の磁性層(2a2)は磁化方向が反転可能な強磁性層である。該磁化方向は膜面垂直方向であることが望ましい。
第1の磁性層(2a1)は、第1の参照層(B1)との間に挟まれた第1の接合層(11)での磁気トンネル接合による磁気抵抗比が大きくなる材料で構成されれば、特に限定されないが、少なくともCo、Fe、Ni等の3d強磁性遷移金属を含むことが望ましく、少なくともCoを含むことがさらに望ましい。具体例として、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoB、FeB、NiB、CoFeB、FePt、TbTeCo、MnAl、MnGa等が挙げられ、なかでもCo、CoFe、CoNi、CoB、CoFeBがより望ましい。
また、第1の磁性層(2a1)は第1の接合層(11)との界面、第2の磁性層(2a2)は第2の接合層(12)との界面で、膜面垂直方向に界面磁気異方性を有する材料がより望ましく、CoFe、CoFeBがさらに望ましい。
また、第1の磁性層(2a1)及び第2の磁性層(2a2)は、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性元素をさらに含んでもよい。なかでも、B、Vは、取り扱いやすさの面からも好ましい。
【0102】
第1の磁性層(2a1)及び第2の磁性層(2a2)を合わせたCo/Fe比は、第2の分割記録層(3)全体のCo/Fe比より大きくすることが望ましい。素子全体として、高い実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*及び高い磁気抵抗比を両立することができるからである。
第1の磁性層(2a1)及び第2の磁性層(2a2)を合わせたCo/Fe比は、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.09以上、さらに好ましくは0.18以上0.33以下である。一方、第1の磁性層(2a1)は、MgO等の第1の接合層(11)の結晶性とマッチングさせるため、第1の磁性層(2a1)がCoFeBの場合はCoがFeに対し75:25より大きくならないこと、すなわち、Co/Fe比が3以下であることが好ましい。
【0103】
第1の磁性層(2a1)及び第2の磁性層(2a2)を合わせたB濃度は、第2の分割記録層(3)全体のB濃度よりも小さくすることが望ましい。具体的には、第1の磁性層(2a1)及び第2の磁性層(2a2)を合わせたB濃度は、20at.%以上35at.%以下であることが望ましく、20at.%以上30at.%以下であることがより望ましく、21.9at.%以上30at.%以下であることがさらに望ましい。
【0104】
第1の磁性層(2a1)及び第2の磁性層(2a2)の膜厚の合計は1.6nm~3.0nmの範囲にあることが好ましく、2.0nm~2.6nmの範囲にあることがより好ましい。膜厚がより薄い場合も、膜厚がより厚い場合もともに、MgO等を第1の接合層(11)及び第2の接合層(12)に用いた場合は第1の分割記録層(2)に十分な垂直磁気異方性が得られないからである。また、第1の磁性層(2a1)の膜厚は、第2の磁性層(2a2)の膜厚より大きくてもよい。
【0105】
第1の非磁性結合層(2b1)は、強磁性体の間に挿入され、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性元素を含む。なかでもW、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V等が好ましく、W、Ta、Mo、Vがより好ましい。
【0106】
また、2つの磁性層(第1の磁性層(2a1)及び第2の磁性層(2a2))の間の磁気結合力J
exをより増大させ、磁気抵抗効果素子の記録層の熱安定性指数Δをより高める観点からは、第1の非磁性結合層(2b1)の膜厚は、それぞれ0.33nm以下であることが好ましい。詳細は、
図31及び
図32を用いて後述する。
なお、第1の非磁性結合層(2b1)の膜厚が0.2nm未満となった場合、スパッタ時間を調整して原子サイズ程度あるいはそれより薄い膜厚の層を作製することになるため、層が連続しているものも、層が連続していないものも含まれる。この点、格子に磁性層のB等を吸収する間隙があれば、垂直磁気異方性に対して寄与することが可能なため、層が連続していても連続していなくてもよい。
【0107】
― 第1の非磁性結合層(2b1)の膜厚と磁気抵抗比について ―
実施の形態1で説明したように、第1の分割記録層(2)は、磁気抵抗比を大きくする層構成を有することを期待されている。
そこで、磁性層に非磁性結合層を挿入した場合、磁気抵抗比及び抵抗面積積RAにどのように寄与するかの評価を行った。
評価用の素子構成を
図31に示す。
非磁性結合層の膜厚と磁気抵抗比及び抵抗面積積RAの関係を、表9及び
図32に示す。
【0108】
【0109】
表9及び
図32から、非磁性結合層の膜厚を増大させると、磁気抵抗比はその絶対値は十分高いものの低下し、又、測定範囲において抵抗面積積RAはほぼ変化しないことが分かった。すなわち、高い磁気抵抗比が期待される第1の分割記録層(2)に、第1の非磁性結合層(2b1)を0.4nm以下の膜厚で挿入することが望ましく、0.33nm以下の膜厚で挿入することがより望ましい。
【0110】
(実施の形態4)
図4に、本発明の実施の形態4の基本構成を示す。該磁気抵抗効果素子の基本構成は、第1の参照層(B1)/第1の接合層(11)/第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)/第2の接合層(12)/第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)/第3の接合層(13)が順に隣接して配置されたものである。第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)/第2の接合層(12)/第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)は第1の記録層(A1)を構成し、第1の参照層(B1)及び第1の磁性層(2a1)は第1の接合層(11)により磁気トンネル接合する。また、第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)は第1の分割記録層(2)を構成し、第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)は第2の分割記録層(3)を構成する。
該磁気抵抗効果素子が磁気メモリセルに接続されるときは、第1の参照層(B1)の第1の接合層(11)とは反対側に設けられる下部電極層、及び、第3の接合層(13)の第3の分割記録層(3)とは反対側に設けられる上部電極層を有する。実施の形態4の詳細は、実施の形態2及び3と同様である。
【0111】
(実施の形態5)
図5に、本発明の実施の形態5の基本構成を示す。該磁気抵抗効果素子の基本構成は、下部電極(E1)/第1の参照層(B1)/第1の接合層(11)/第1の分割記録層(2)/第2の接合層(12)/第2の分割記録層(3)/第3の接合層(13)/上部電極(E2)が順に隣接して配置されたものである。第1の分割記録層(2)/第2の接合層(12)/第2の分割記録層(3)は第1の記録層(A1)を構成し、第1の参照層(B1)及び第1の分割記録層(2)は第1の接合層(11)により磁気トンネル接合する。
実施の形態5は、以下の特徴を有する他、実施の形態1と同様である。
【0112】
下部電極(E1)は、第1の参照層(B1)の第1の接合層(11)とは反対側の端面に接続されている。
下部電極(E1)の積層構造はTa(5nm)/Ru(5nm)/Ta(10nm)/Pt(5nm)、Ta(5nm)/TaN(20nm)等が例示される。
【0113】
上部電極(E2)は、第3の接合層(13)の第1の記録層(A1)とは反対側の端面に接続されている。
上部電極(E2)の積層構造は、Ta(50nm)、Ta(5nm)/Ru(50nm)、Ru(1~50nm)、Pt(1~50nm)、CoFeB(0.2~1.5nm)/Ru(5)/Ta(50nm)等が例示される。
【0114】
(実施の形態6)
図6に、本発明の実施の形態6の基本構成を示す。該磁気抵抗効果素子の基本構成は、下部電極(E1)/第1の参照層(B1)/第1の接合層(11)/第1の分割記録層(2)/第2の接合層(12)/第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)/第3の接合層(13)/上部電極(E2)が順に隣接して配置されたものである。第1の分割記録層(2)/第2の接合層(12)/第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)は第1の記録層(A1)を構成し、第1の参照層(B1)及び第1の分割記録層(2)は第1の接合層(11)により磁気トンネル接合する。また、第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)は、第2の分割記録層(3)を構成する。
実施の形態6の詳細は、実施の形態2及び5と同様である。
【0115】
(実施の形態7)
図7に、本発明の実施の形態7の基本構成を示す。該磁気抵抗効果素子の基本構成は、下部電極(E1)/第1の参照層(B1)/第1の接合層(11)/第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)/第2の接合層(12)/第2の分割記録層(3)/第3の接合層(13)/上部電極(E2)が順に隣接して配置されたものである。第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)/第2の接合層(12)/第2の分割記録層(3)は第1の記録層(A1)を構成し、第1の参照層(B1)及び第1の磁性層(2a1)は第1の接合層(11)により磁気トンネル接合する。また、第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)は、第1の分割記録層(2)を構成する。
実施の形態7の詳細は、実施の形態3及び5と同様である。
【0116】
(実施の形態8)
図8に、本発明の実施の形態8の基本構成を示す。該磁気抵抗効果素子の基本構成は、下部電極(E1)/第1の参照層(B1)/第1の接合層(11)/第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)/第2の接合層(12)/第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)/第3の接合層(13)/上部電極(E2)が順に隣接して配置されたものである。第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)/第2の接合層(12)/第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)は第1の記録層(A1)を構成し、第1の参照層(B1)及び第1の磁性層(2a1)は第1の接合層(11)により磁気トンネル接合する。また、第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)は第1の分割記録層(2)を構成し、第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)は第2の分割記録層(3)を構成する。
実施の形態8の詳細は、実施の形態4及び5と同様である。
【0117】
(変形例1)
本発明の実施の形態3等における、第1の分割記録層(2)の変形例1について説明する。
実施の形態3(
図3)において、第2の磁性層(2a2)は第1の分割記録層(2)の一部を構成し、第1の磁性層(2a1)とともにトンネル障壁層となる第1の接合層(11)での磁気トンネル接合による磁気抵抗比が大きくなる材料で構成されるように、少なくともCo、Fe、Ni等の3d強磁性遷移金属を含むことが望ましく、少なくともCoを含むことがさらに望ましいとした。すなわち、Co/Fe比を高めること等が望まれた。
しかしながら、
図33及び
図34を用いて後述するように、第1の分割記録層(2)をさらに分割した第1の磁性層(2a1)及び第2の磁性層(2a2)においては、第1の接合層(11)での磁気トンネル接合による磁気抵抗比の増大に関し、第1の磁性層(2a1)に比べて第2の磁性層(2a2)の寄与は相対的には小さいことが分かった。
【0118】
一方、第2の分割記録層(3)は、実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*が大きくなる材料で構成されるように、少なくともCo、Fe、Ni等の3d強磁性遷移金属を含むことが望ましく、少なくともFeを含むことがさらに望ましいとした。すなわち、Co/Fe比を低減させること等が望まれた。
【0119】
ここで、第1の分割記録層(2)の第2の磁性層(2a2)においても、実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*が大きくなる材料で構成されるように、少なくともFeを含み、Co/Fe比を低減させたところ、素子全体として、磁気抵抗比は影響を受けずに実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*がさらに増大することが分かった。
【0120】
かかる評価に用いた素子の構成を
図33に示す。
第1の分割記録層(2)の第1の磁性層(2a1)をCoFeB25(1.4nm)とし、第2の磁性層(2a2)の材料及び膜厚をFeB(0.9nm)又はCoFeB(1.0nm)とし、実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*の、第2の接合層(12)の膜厚依存性を評価した。抵抗面積積RAは5Ωμm
2であった。
試料の構成及び評価結果を、表10及び
図34に示す。
【0121】
【0122】
図34から、第1の分割記録層(2)の第2の磁性層(2a2)をCoFeBからCoを含まないFeBとすることにより、実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*がさらに増大することが分かった。なお、試料No.10-1~試料No.10-8において、磁気抵抗比は140%~160%の範囲にあり、高い磁気抵抗比を維持したままであることも確認した。
【0123】
以上から、第1の分割記録層(2)を有する実施の形態3等の変形例1における構成、すなわち、第1の分割記録層(2)の第1の磁性層(2a1)のCo/Fe比を、第1の分割記録層(2)の第2の磁性層(2a2)、第2の分割記録層(3)中の第3の磁性層(3a1)、磁性結合層(3a2)及び第4の磁性層(3a3)のCo/Fe比より大きくした構成においても、抵抗面積積RAを小さくしつつ、高い磁気抵抗比と、高い実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*を両立させた磁気抵抗効果素子を提供することができる。
【0124】
(実施の形態9)
図9に、本発明の実施の形態9の基本構成を示す。該磁気抵抗効果素子の基本構成は、第1の参照層(B1)/第1の接合層(11)/第1の分割記録層(2)/第2の接合層(12)/第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)/第3の接合層(13)/第2の参照層(B2)が順に隣接して配置されたものである。第1の分割記録層(2)/第2の接合層(12)/第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)は第1の記録層(A1)を構成し、第1の参照層(B1)及び第1の分割記録層(2)は第1の接合層(11)により磁気トンネル接合し、第4の磁性層(3a3)及び第2の参照層(B2)は第3の接合層(13)によりトンネル接合する。また、第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)は、第2の分割記録層(3)を構成する。
該磁気抵抗効果素子が磁気メモリセルに接続されるときは、第1の参照層(B1)の第1の接合層(11)とは反対側に設けられる下部電極層、及び、第2の参照層(B2)の第3の接合層(13)とは反対側に設けられる上部電極層を有する。
実施の形態9は、以下の特徴を有する他、実施の形態2と同様である。
【0125】
第2の参照層(B2)は、第3の接合層(13)の第1の記録層(A1)とは反対側に隣接してに配置され、磁化方向が固定された強磁性層である。該磁化方向は膜面垂直方向であることが望ましい。
第2の参照層(B2)は少なくともCo、Fe、Niのいずれかを含む強磁性体であり、3d強磁性遷移金属元素を少なくとも1つを含むことがより好ましく、具体的にはCo、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoB、FeB、NiB、CoFeB、FePt、TbTeCo、MnAl、MnGa等が挙げられる。W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性元素をさらに含んでもよい。
また、第2の参照層(B2)の強磁性体の間に薄い非磁性結合層を挿入してもよい。該非磁性結合層の材料としては、Ta、W、Hf、Zr、Nb、Mo,Ti、Mg、MgO等が例示される。
第1の参照層(B2)は単層からなっていても、積層あるいは多層となっていてもよいし、Pt、Ru、Ir、Rh、W、Ni等との積層や薄層フェリ構造等でもよい。
さらに、第2の参照層(B2)の第3の接合層(31)とは反対側に固定層等が隣接されていてもよい。
【0126】
実施の形態9において、第3の接合層(13)は、O(酸素)を含む材料が用いられるトンネル障壁層となる。好ましくは第2の参照層(B2)と第4の磁性層(3a3)に挟まれた第3の接合層(13)の材料の組み合わせで磁気抵抗変化率が大きく発現するよう、少なくともO及びMgを含むことが好ましい。MgOの他、Al2O3、MgAl2O4、SiO2、TiO、Hf2O等の酸素を含む絶縁体が用いられてもよく、これらの絶縁体に他の元素が微量に含まれていてもよい。以上のように組み合わされた元素のうち、一部の元素の含有量はごく微量であってもよく、材料の特性改善に用いられる添加剤等をさらに含んでいてもよい。
また、第3の接合層(13)は第4の磁性層(3a3)との界面において第4の磁性層(3a3)に界面磁気異方性を生じるように酸素を含む材料を選択することがより望ましく、この点においてもMgOがさらに望ましい。
第3の接合層(13)の膜厚は、磁気抵抗比を大きくするために0.5nm以上であることが好ましく、0.8nm以上であることがより好ましい。
【0127】
実施の形態9において、第2の分割記録層(3)中の第3の磁性層(3a1)は、磁化方向が反転可能な強磁性層である。該磁化方向は膜面垂直方向であることが望ましい。
第3の磁性層(3a1)は、少なくともCo、Fe、Ni等の3d強磁性遷移金属を含むことが望ましく、少なくともFeを含むことがさらに望ましい。具体例として、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoB、FeB、NiB、CoFeB、FePt、TbTeCo、MnAl、MnGa等が挙げられ、なかでもFe、CoFe、FeB、CoFeB、FePtがより望ましい。
また、第3の磁性層(3a1)は第2の接合層(12)との界面で、膜面垂直方向に界面磁気異方性を有する材料がより望ましく、Fe、CoFe、FeB、CoFeBがさらに望ましい。
また、第3の磁性層(3a1)は、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性元素をさらに含んでもよい。なかでも、B、Vは、取り扱いやすさの面からも好ましい。
【0128】
実施の形態9において、第2の分割記録層(3)中の第4の磁性層(3a3)は磁化方向が反転可能な強磁性層である。該磁化方向は膜面垂直方向であることが望ましい。
第4の磁性層(3a3)は、第2の参照層(B2)との間に挟まれた第3の接合層(13)での磁気トンネル接合による磁気抵抗比が大きくなる材料で構成されれば、特に限定されないが、少なくともCo、Fe、Ni等の3d強磁性遷移金属を含むことが望ましく、少なくともCoを含むことがさらに望ましい。具体例として、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoB、FeB、NiB、CoFeB、FePt、TbTeCo、MnAl、MnGa等が挙げられ、なかでもCo、CoFe、CoNi、CoB、CoFeBがより望ましい。
また、第4の磁性層(3a3)は第3の接合層(13)との界面で、磁気抵抗比を増大させる材料がより望ましく、Co、CoFe、CoNi、CoB、CoFeBがさらに望ましい。
また、第4の磁性層(3a3)は、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性元素をさらに含んでもよい。なかでも、B、Vは、取り扱いやすさの面からも好ましい。
【0129】
第4の磁性層(3a3)のCo/Fe比は、第3の磁性層(3a1)のCo/Fe比より大きくすることが望ましい。素子全体として、高い実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*及び高い磁気抵抗比を両立することができるからである。
第3の磁性層(3a1)のCo/Fe比は、好ましくは0.11以下であり、より好ましくは0.07以下である。実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*を高めるためである。
第4の磁性層(3a3)のCo/Fe比は、磁気抵抗比を増大させるため好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.09以上である。一方、第4の磁性層(3a3)は、結晶構造がbccであるMgO等の第3の接合層(13)の結晶性とマッチングさせるため、第4の磁性層(3a3)がCoFeBの場合はCoがFeに対し75:25より大きくならないこと、すなわち、Co/Fe比が3以下であることが好ましい。
【0130】
また、第4の磁性層(3a3)のB濃度は、第3の磁性層(3a1)のB濃度より低くすることが望ましい。具体的には、第4の磁性層(3a3)のB濃度は、20at.%以上35at.%以下であることが望ましく、20at.%以上30at.%以下であることがより望ましく、21.9at.%以上30at.%以下であることがさらに望ましい。
【0131】
第3の磁性層(3a1)、磁性結合層(3a2)及び第4の磁性層(3a3)の膜厚の合計は、1.6nm~3.0nmの範囲にあることが好ましく、2.0nm~2.6nmの範囲にあることがより好ましい。膜厚がより薄い場合も、膜厚がより厚い場合もともに、MgO等を第2の接合層(12)及び第3の接合層(13)に用いた場合は第2の分割記録層(3)に十分な垂直磁気異方性が得られないからである。
【0132】
(実施の形態10)
図10に、本発明の実施の形態10の基本構成を示す。該磁気抵抗効果素子の基本構成は、第1の参照層(B1)/第1の接合層(11)/第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)/第2の接合層(12)/第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)/第3の接合層(13)/第2の参照層(B2)が順に隣接して配置されたものである。第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)/第2の接合層(12)/第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)は第1の記録層(A1)を構成し、第1の参照層(B1)及び第1の磁性層(2a1)は第1の接合層(11)により磁気トンネル接合し、第4の磁性層(3a3)及び第2の参照層(B2)は第3の接合層(13)によりトンネル接合する。また、第1の磁性層(2a1)/第1の非磁性結合層(2b1)/第2の磁性層(2a2)は第1の分割記録層(2)を構成し、第3の磁性層(3a1)/第2の非磁性結合層(3b1)/磁性結合層(3a2)/第3の非磁性結合層(3b2)/第4の磁性層(3a3)は第2の分割記録層(3)を構成する。
該磁気抵抗効果素子が磁気メモリセルに接続されるときは、第1の参照層(B1)の第1の接合層(11)とは反対側に設けられる下部電極層、及び、第2の参照層(B2)の第3の接合層(13)とは反対側に設けられる上部電極層を有する。
実施の形態10は、以下の特徴を有する他、実施の形態9と同様である。
【0133】
実施の形態10において、第1の磁性層(2a1)は磁化方向が反転可能な強磁性層である。該磁化方向は膜面垂直方向であることが望ましい。
第1の磁性層(2a1)は、第1の参照層(B1)との間に挟まれた第1の接合層(11)での磁気トンネル接合による磁気抵抗比が大きくなる材料で構成されれば、特に限定されないが、少なくともCo、Fe、Ni等の3d強磁性遷移金属を含むことが望ましく、少なくともCoを含むことがさらに望ましい。具体例として、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoB、FeB、NiB、CoFeB、FePt、TbTeCo、MnAl、MnGa等が挙げられ、なかでもCo、CoFe、CoNi、CoB、CoFeBがより望ましい。
また、第1の磁性層(2a1)は第1の接合層(11)との界面で、膜面垂直方向に界面磁気異方性を有する材料がより望ましく、CoFe、CoFeBがさらに望ましい。
また、第1の磁性層(2a1)は、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性元素をさらに含んでもよい。なかでも、B、Vは、取り扱いやすさの面からも好ましい。
【0134】
実施の形態10において、第2の磁性層(2a2)は、磁化方向が反転可能な強磁性層である。該磁化方向は膜面垂直方向であることが望ましい。
第2の磁性層(2a2)は、少なくともCo、Fe、Ni等の3d強磁性遷移金属を含むことが望ましく、少なくともFeを含むことがさらに望ましい。具体例として、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoB、FeB、NiB、CoFeB、FePt、TbTeCo、MnAl、MnGa等が挙げられ、なかでもFe、CoFe、FeB、CoFeB、FePtがより望ましい。
また、第2の磁性層(2a2)は第2の接合層(12)との界面で、膜面垂直方向に界面磁気異方性を有する材料がより望ましく、Fe、CoFe、FeB、CoFeBがさらに望ましい。
また、第2の磁性層(2a2)は、W、Ta、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Si、Al、B、Pd、Pt等の非磁性元素をさらに含んでもよい。なかでも、B、Vは、取り扱いやすさの面からも好ましい。
【0135】
第1の磁性層(2a1)のCo/Fe比は、磁気抵抗比を増大させるために第2の磁性層(2a2)のCo/Fe比より大きくすることが望ましい。素子全体として、高い実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*及び高い磁気抵抗比を両立することができるからである。
第2の磁性層(2a2)のCo/Fe比は、好ましくは0.11以下であり、より好ましくは0.07以下である。実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*を高めるためである。
第1の磁性層(2a1)のCo/Fe比は、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.09以上である。一方、第1の磁性層(2a1)は、結晶構造がbccであるMgO等の第1の接合層(11)の結晶性とマッチングさせるため、第1の磁性層(2a1)がCoFeBの場合はCoがFeに対し75:25より大きくならないこと、すなわち、Co/Fe比が3以下であることが好ましい。
【0136】
また、第1の磁性層(2a1)のB濃度は、第2の磁性層(2a2)のB濃度より低くすることが望ましい。具体的には、第1の磁性層(2a1)のB濃度は、20at.%以上35at.%以下であることが望ましく、20at.%以上30at.%以下であることがより望ましく、21.9at.%以上30at.%以下であることがさらに望ましい。
【0137】
第1の磁性層(2a1)及び第2の磁性層(2a2)の膜厚の合計は1.6nm~3.0nmの範囲にあることが好ましく、2.0nm~2.6nmの範囲にあることがより好ましい。膜厚がより薄い場合も、膜厚がより厚い場合もともに、MgO等を第1の接合層(11)及び第2の接合層(12)に用いた場合は第1の分割記録層(2)に十分な垂直磁気異方性が得られないからである。
【0138】
― 2つの参照層を有する素子における、各磁性層のCo/Fe比について ―
図10に示された実施の形態10の素子は、上述のとおり、第1の磁性層(2a1)及び第4の磁性層(3a3)のCo/Fe比を、第2の磁性層(2a2)及び第3の磁性層(3a1)のCo/Fe比より大きくして構成したものである。
図35を用いて、実施の形態10の構成における磁気抵抗比を説明する。MR1は第1の接合層(11)における磁気抵抗比、MR2は第2の接合層(12)における磁気抵抗比、MR3は第3の接合層(13)における磁気抵抗比を示す。第1の接合層(11)において、R
P1は第1の参照層(B1)と第1の分割記録層(2)の磁化方向が平行の場合の抵抗を、R
AP1は第1の参照層(B1)と第1の分割記録層(2)の磁化方向が反平行の場合の抵抗を示す。また、第2の接合層(12)において、R
P2は第1の分割記録層(2)と第2の分割記録層(3)の磁化方向が平行の場合の抵抗を示す。さらに第3の接合層(13)において、R
P3は第2の分割記録層(3)と第2の参照層(B2)の磁化方向が平行の場合の抵抗を、R
AP3は第2の分割記録層(3)と第2の参照層(B2)の磁化方向が反平行の場合の抵抗を示す。
素子全体の磁気抵抗比MRは、以下の数5の式で表される。
【0139】
【0140】
ここで、Aは素子サイズ(面積)、各RAはそれぞれの層における抵抗面積積を表す。
数5の式で導かれるように、素子全体の磁気抵抗比であるMRに、第2の接合層(12)における磁気抵抗比であるMR2の項は含まれない。すなわち、第2の接合層(12)は素子全体のMRに寄与しない。この理由は、MR2=(RAP2-RP2)/RP2で表されるが、第1の分割記録層(2)と第2の分割記録層(3)の磁化方向が常に平行であることを前提としているため、抵抗にRAP2の項が現れないからである。
かかる前提を実現するために重要なポイントの一つは、第1の分割記録層(2)と第2の分割記録層(3)の磁化が強磁性的に(磁気的に)結合することである。
【0141】
数5の式から、素子全体の磁気抵抗比MRは、第1の接合層(11)における磁気抵抗比MR1及びに第3の接合層(13)における磁気抵抗比MR3に依存し、第2の接合層(12)における磁気抵抗比MR2には依存しないことが明らかとなった。また、素子全体の磁気抵抗比MRを大きくするには、磁気抵抗比MR1及び磁気抵抗比MR3を最大化し、かつ、第2の接合層(12)における抵抗面積積RP2Aをできるだけ小さくすればよいことも数5の式から理解される。
つまり、磁気抵抗比MR1を最大化するように第1の分割記録層(2)のうちの第1の磁性層(2a1)の材料を検討するとともに磁気抵抗比MR3を最大化するように第4の磁性層(3a3)の材料を検討し、かつ、第2の接合層(12)における抵抗面積積RP2Aをできるだけ小さくするように第2の接合層(12)の膜厚を小さくすれば、素子全体の磁気抵抗比MRを大きくすることが可能であることが推察された。
【0142】
そして、磁気抵抗比は、上述した
図20及び
図21の検討から、層のCo/Fe比により調整可能である。同時に、上述した
図19、
図33及び
図34の検討から、層のCo/Fe比により実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*も調整可能である。すなわち、実施の形態10に例示された構成においても、高い磁気抵抗比と、高い実効磁気異方性エネルギー密度K
efft
*を両立させた磁気抵抗効果素子を提供することができる。
【0143】
(実施の形態11)
図11に、本発明の実施の形態11の基本構成を示す。該磁気抵抗効果素子の基本構成は、下部電極(E1)/第1の参照層(B1)/第1の接合層(11)/第1の記録層(A1)/第3の接合層(13)/第2の参照層(B2)/非磁性接合層(14)/第2の記録層(A2)/非磁性接合層(16)/第3の参照層(B3)/上部電極(E2)が順に隣接して配置されたものである。
実施の形態11は、以下の特徴を有する他、実施の形態9及び実施の形態10と同様である。
【0144】
第1の記録層(A1)、第2の記録層(A2)は、実施の形態9及び実施の形態10に記載した記録層の構成を配置することができる。第1の参照層(B1)、第2の参照層(B2)及び第3の参照層(B3)は、実施の形態9に記載した参照層の構成を配置することができる。
【0145】
(実施の形態12)
図12に、本発明の実施の形態12の構成を示す。該磁気抵抗効果素子の構成は、基板/下部電極/参照層/MgO(1.0nm)/CoFeB25(1.4nm)/W(0.3nm)/CoFeB25(1.0nm)/MgO(1.0nm)/FeB25(0.9nm)/W(0.2nm)/FeB25(0.4nm)/W(0.2nm)/FeB25(0.9nm)/MgO(0.8nm)/保護層が順に隣接して配置されたものである。
【0146】
(実施の形態13)
図13に、本発明の実施の形態13の構成を示す。該磁気抵抗効果素子の構成は、基板/下部電極/参照層/MgO(1.0nm)/CoFeB25(1.4nm)/W(0.3nm)/FeB25(0.9nm)/MgO(1.0nm)/FeB25(0.9nm)/W(0.2nm)/FeB25(0.4nm)/W(0.2nm)/FeB25(0.9nm)/MgO(0.8nm)/保護層が順に隣接して配置されたものである。
なお、実施の形態13は、実施の形態3、4、7、8の変形例の具体的構成である。
【0147】
(実施の形態14)
図14に、実施の形態14として、実施の形態1~13の構成を有する磁気メモリセルを複数個備える磁気メモリの一例を示す。
磁気メモリは、メモリセルアレイ、Xドライバ、Yドライバ、コントローラを備える。メモリセルアレイは、アレイ状に配置された磁気メモリセルを有する。Xドライバは複数のワード線(WL)に接続され、Yドライバは複数のビット線(BL)に接続され、読み出し手段及び書き出し手段として機能する。
【0148】
(実施の形態15)
図36(a)に、本発明の磁気抵抗効果素子の一例の、断面のTEM画像を示す。TEM画像に3本の筋が観察されており、記録層に3つの接合層、すなわち、第1の接合層(11)、第2の接合層(12)、第3の接合層(13)が積層され、いわゆる四重界面の磁気抵抗効果素子が作製できていることが分かる。
図36(b)に、従来の磁気抵抗効果素子の断面のTEM画像を示す。TEM画像に2本の筋が観察されており、記録層に2つの接合層が積層され、いわゆる二重界面の磁気抵抗効果素子が作製できていることが分かる。
【0149】
(実施の形態16)
本発明の磁気抵抗効果素子と従来の磁気抵抗効果素子の比較を行うため、評価素子を作製した。
図37(a)に本発明の磁気抵抗効果素子の評価素子の縦断面図を示した。Si/SiO
2の基板、参照層、第1の接合層(MgO、1.06nm)を積層後、IR(赤外線)にて250℃、300秒加熱し、その後、CoFeB25(1.4nm)/W(0.3nm)/CoFeB25(1.0nm)/MgO(0.9nm)/FeB25(0.9nm)/W(0.2nm)/FeB25(0.4nm)/W(0.2nm)/FeB25(0.9nm)/MgO(1.07nm)/CoFeB25(1.0nm)/Ru(5nm)/Ta(5nm)/Ti-N(90nm)の順に積層した構成である。
一方、
図37(b)に従来の磁気抵抗効果素子の評価素子の縦断面図を示した。Si/SiO
2の基板、参照層、第1の接合層(MgO、1.02nm)を積層後、IR(赤外線)にて250℃、300秒加熱し、その後、CoFeB25(1.4nm)/W(0.5nm)/CoFeB25(1.0nm)/MgO(1.16nm)/CoFeB25(1.0nm)/Ru(5nm)/Ta(5nm)/Ti-N(90nm)の順に積層した構成である。
素子サイズは、おおよそ50nmから100nmの間になるように調整し、それぞれ3種類作製した。
【0150】
各素子サイズにおける熱安定性指数Δについて、
図37(a)に示した本発明の磁気抵抗効果素子と、
図37(b)に示した従来の磁気抵抗効果素子を比較した。
図38に評価結果を示した。
熱安定性指数Δは素子サイズに依存するものの、いわゆる四重界面を有する本発明の磁気抵抗効果素子の熱安定性指数Δのほうが、いわゆる二重界面を有する従来の磁気抵抗効果素子の熱安定性指数Δより、いずれの素子サイズにおいても1.5倍から2.0倍程度高い値が得られた。
【0151】
さらに、225℃まで保持した場合の各素子サイズにおける熱安定性指数Δについて、
図37(a)に示した本発明の磁気抵抗効果素子と、
図37(b)に示した従来の磁気抵抗効果素子を比較した。
図39に評価結果を示した。
同様に、熱安定性指数Δは素子サイズに依存するものの、いわゆる四重界面を有する本発明の磁気抵抗効果素子の熱安定性指数Δのほうが、いわゆる二重界面を有する従来の磁気抵抗効果素子の熱安定性指数Δより、いずれの素子サイズにおいても1.5倍から2.0倍程度高い値が得られた。
【0152】
次に、各素子サイズにおける書き込み電流I
C0について、
図37(a)に示した本発明の磁気抵抗効果素子と、
図37(b)に示した従来の磁気抵抗効果素子を比較した。
図40に評価結果を示した。
書き込み電流I
C0は素子サイズに依存するものの、いわゆる四重界面を有する本発明の磁気抵抗効果素子の書き込み電流I
C0と、いわゆる二重界面を有する従来の磁気抵抗効果素子の書き込み電流I
C0に、有意差は見られなかった。つまり、接合層の数が増加しても書き込み電流I
C0は大きくならないことが分かった。
【0153】
図38に示した熱安定性指数Δの評価結果と、
図40に示した書き込み電流I
C0の評価結果から、性能指数Δ/I
C0を算出し、
図41に素子サイズと性能指数Δ/I
C0の関係を示した。
性能指数Δ/I
C0は、熱安定性指数Δを書き込み電流I
C0で除したものである。素子として望ましい性能は、(1)記録する際の記録電流が小さいこと、即ち、I
C0が小さいことであり、さらには、(2)記録された磁気モーメントが熱的に安定に保持されること、即ち熱安定性指数Δが大きいことである。(1)及び(2)の性能を測るための指数がΔ/I
C0であり、この指数が大きいことが望ましい。(1)の望ましい性能であるI
C0が小さいほど本指数は大きくなり、(2)の望ましい性能である熱安定性指数Δが増大するときも本指数は増大する。本性能指数Δ/I
C0は、ダンピング定数αなる物性値と対応づけられることもあり、有用な指数として評価に用いられており、性能指数Δ/I
C0を大きくすることが素子開発の課題のひとつの目標となっている。
図41より、性能指数Δ/I
C0は素子サイズに依存するものの、いわゆる四重界面を有する本発明の磁気抵抗効果素子の性能指数Δ/I
C0のほうが、いわゆる二重界面を有する従来の磁気抵抗効果素子の性能指数Δ/I
C0より、いずれの素子サイズにおいても1.5倍から2.0倍程度高い値が得られた。
【0154】
(実施の形態17)
本発明の磁気抵抗効果素子と従来の磁気抵抗効果素子の、構成や処理の違いによる比較を行うため、評価素子を作製した。
図42(a)に、従来の磁気抵抗効果素子の評価素子の例の縦断面図を示した。Si/SiO
2の基板、参照層、第1の接合層(MgO、1.16nm)、CoFeB25(1.4nm)/W(0.5nm)/CoFeB25(1.0nm)/MgO(1.07nm)/CoFeB25(1.0nm)/Ru(5nm)/Ta(5nm)/Ti-N(90nm)/Ru(20nm)の順に積層した構成であり、試料11-1とした。
図42(b)に、従来の磁気抵抗効果素子の例の評価素子の縦断面図を示した。Si/SiO
2の基板、参照層、第1の接合層(MgO、1.06nm)を積層後、IR(赤外線)にて250℃、300秒加熱し、その後、CoFeB25(1.4nm)/W(0.5nm)/CoFeB25(1.0nm)/MgO(1.07nm)/CoFeB25(1.0nm)/Ru(5nm)/Ta(5nm)/Ti-N(90nm)/Ru(20nm)の順に積層した構成であり、試料11-2とした。
図42(c)に、本発明の磁気抵抗効果素子の評価素子の例の縦断面図を示した。Si/SiO
2の基板、参照層、第1の接合層(MgO、1.06nm)を積層後、IR(赤外線)にて250℃、300秒加熱し、その後、CoFeB25(1.0nm)/W(0.2nm)/FeB25(0.4nm)/W(0.2nm)/[CoFeB又はFeB25](0.9nm)/MgO(0.9nm)/FeB25(0.9nm)/W(0.2nm)/FeB25(0.4nm)/W(0.2nm)/FeB25(0.9nm)/MgO(1.07nm)/CoFeB25(1.0nm)/Ru(5nm)/Ta(5nm)/Ti-N(90nm)/Ru(20nm)の順に積層した構成であり、試料11-3とした。
図42(d)に、本発明の磁気抵抗効果素子の評価素子の例の縦断面図を示した。Si/SiO
2の基板、参照層、第1の接合層(MgO、1.06nm)を積層後、IR(赤外線)にて250℃、300秒加熱し、その後、CoFeB25(1.4nm)/W(0.3nm)/FeB25(0.9nm)/MgO(0.9nm)/FeB25(0.9nm)/W(0.2nm)/FeB25(0.4nm)/W(0.2nm)/FeB25(0.9nm)/MgO(1.07nm)/CoFeB25(1.0nm)/Ru(5nm)/Ta(5nm)/Ti-N(90nm)/Ru(20nm)の順に積層した構成であり、試料11-4とした。
図42(e)に、本発明の磁気抵抗効果素子の評価素子の例の縦断面図を示した。Si/SiO
2の基板、参照層、Mg層(0.1nm)/第1の接合層(MgO、0.97nm)/Mg(0.15nm)を積層後、IR(赤外線)にて250℃、300秒加熱し、その後、CoFeB25(1.4nm)/W(0.3nm)/CoFeB又はFeB25(0.9nm)/MgO(0.9nm)/FeB25(0.9nm)/W(0.2nm)/FeB25(0.4nm)/W(0.2nm)/FeB25(0.9nm)/MgO(1.07nm)/CoFeB25(1.0nm)/Ru(5nm)/Ta(5nm)/Ti-N(90nm)/Ru(20nm)の順に積層した構成であり、試料11-5とした。
【0155】
図43及び表11に、各試料の抵抗面積積RAが5Ωμm
2におけるトンネル磁気抵抗比(TMR比)を示した。第1接合層MgOを積層後IRにて加熱処理することで、いわゆる二重界面を有する磁気抵抗効果素子からいわゆる四重界面を有する磁気抵抗効果素子にすることで、また、第2接合層MgOに隣接する第1の分割記録層(2)の磁性層のCo/Fe比を小さくすることで、さらには第1の接合層MgOをMg層で挟むことで、トンネル磁気抵抗比(TMR比)は大きくなることが分かった。
【0156】
【0157】
(実施の形態18)
図44に、本発明の磁気抵抗効果素子と従来の磁気抵抗効果素子の、抵抗面積積RA(Ωμm
2)とトンネル磁気抵抗比(TMR比)の相関を示した。
抵抗面積積RAが5Ωμm
2と低くなると、従来のいわゆる二重界面を有する磁気抵抗効果素子はトンネル磁気抵抗比(TMR比)も1/2以下に劣化したのに対し、本発明のいわゆる四重界面を有する磁気抵抗効果素子のトンネル磁気抵抗比(TMR比)は高い値を維持できることが分かった。つまり、本発明の磁気抵抗効果素子は、トンネル磁気抵抗比(TMR比)を低下させることなく、抵抗面積積RAを下げることができる。
【0158】
(実施の形態19)
図45(a)に、第2の分割記録層(3)の第3の磁性層(3a1)及び第4の磁性層(3a2)において、CoFeBをFeBに置き換えた場合の性能を評価するための、素子構成を示した。
FeBの膜厚が0nmの場合にCo/Fe比が最大となり、FeBの膜厚が1nmの場合にCo/Fe比が最小となる。
【0159】
図45(a)の評価素子を400℃、1時間アニール処理して磁化曲線を測定し、FeBの膜厚と実効磁気異方性エネルギー密度K
efft2の関係を求めた。
【0160】
図45(b)及び表12に、評価結果を示した。FeBの膜厚が大きいほど、すなわち、Co/Fe比が小さいほど、実効磁気異方性エネルギー密度K
efft2は高くなることが分かった。
【0161】
【0162】
つまり、第2の接合層(12)及び第3の接合層(13)の界面において、Co量が少ない方が実効磁気異方性エネルギー密度Kefft2が増大し、数4で示す実効磁気異方性エネルギー密度Kefft*が高まる。その結果、数1に示したように熱安定性指数Δを高めることができる。
【0163】
(実施の形態20)
図46~
図57に、実施の形態20として熱安定性指数Δと磁気結合力との関係の評価に用いられた評価用モデル及び評価結果を示す。なお、実施の形態20においては、第1の分割記録層(2)を第1の分割記録層(FL1)、第2の分割記録層(3)を第2の分割記録層(FL2)、第1の分割記録層(FL1)及び第2の分割記録層(FL2)の間に働く磁気結合力を交換磁気結合力Jex_midとした。
【0164】
第1の分割記録層(FL1)と第2の分割記録層(FL2)の間の交換磁気結合力Jex_midは熱安定性指数Δに重要な影響を与えると考えられる。そこで、交換磁気結合力Jex_midと熱安定性指数Δの関係を見積もった。
【0165】
図46に計算に用いたモデルを示す。K
eff1及びK
eff2はそれぞれ第1の分割記録層(FL1)及び第2の分割記録層(FL2)の実効磁気異方性エネルギー体積密度を、t 1及びt 2はそれぞれ第1の分割記録層(FL1)及び第2の分割記録層(FL2)の膜厚を、M
s1及びM
s2はそれぞれ第1の分割記録層(FL1)及び第2の分割記録層(FL2)の飽和磁束密度を、A
stiff1及びA
stiff2はそれぞれ第1の分割記録層(FL1)及び第2の分割記録層(FL2)の交換スティッフネス定数を示す。
【0166】
図47に、磁性体の第1の分割記録層(FL1)及び第2の分割記録層(FL2)の磁化状態を表す。第1の分割記録層(FL1)及び第2の分割記録層(FL2)はそれぞれ、磁化方向の異なる2つの磁区を形成すると仮定する。一方の磁区(Domain up)の磁化は+z方向を、他方の磁区(Domain down)の磁化は-z方向とする。他方の磁区(Domain down)の大きさを表現するためにパラメータφを導入する。
図47に示すように、素子中心から他方の磁区(Domain down)へ引いた2つ接線のなす角を2φとする。他方の磁区(Domain down)の面積をΩと定義する。一方の磁区(Domain up)と他方の磁区(Domain down)の境界には磁壁(Domain wall)が出現する。磁壁(Domain wall)の長さをΛと定義する。
【0167】
第1の分割記録層(FL1)及び第2の分割記録層(FL2)の磁気エネルギーは数6の式(1)で表される。
【0168】
【0169】
ここで、Jex_mid及びJstatは第1の分割記録層(FL1)及び第2の分割記録層(FL2)の間の交換磁気結合力及び静磁気結合力であり、σw1及びσw2はそれぞれ、第1の分割記録層(FL1)及び第2の分割記録層(FL2)の磁壁の単位面積当たりのエネルギーを示す。σw1 及びσw2は、数7の式(2)及び(3)で表される。
【0170】
【0171】
第1の分割記録層(FL1)及び第2の分割記録層(FL2)に形成される磁壁の長さΛ1及びΛ2はそれぞれ、数8の式(4)及び(5)で表される。
【0172】
【0173】
第1の分割記録層(FL1)及び第2の分割記録層(FL2)に形成される他方の磁区(Domain down)の面積Ω1及びΩ2はそれぞれ、数9の式(6)及び(7)で表される。
【0174】
【0175】
熱安定性指数Δを計算するために(1)式で表される磁気エネルギーのエネルギー曲線を計算した。結果の一例を
図48に示す。
座標(φ1, φ2)で指定されるマスの中の数値は(1)式で与えられる磁気エネルギーを示す。座標(φ1, φ2)=(0,0)は第1の分割記録層(FL1)及び第2の分割記録層(FL2)の磁化が+z方向を向いている状態を表しており、座標(φ1, φ2)=(0,180)は第1の分割記録層(FL1)の磁化が+z方向を示し、第2の分割記録層(FL2)の磁化が-z方向を向いている状態を表しており、座標(φ1, φ2)=(180,0)は第1の分割記録層(FL1)の磁化が-z方向を向いており、第2の分割記録層(FL2)の磁化が+z方向を向いている状態を表しており、座標(φ1, φ2)=(180,180)は第1の分割記録層(FL1)の磁化、第2の分割記録層(FL2)の磁化とともに-z方向を向いている状態を表す。第2の分割記録層(FL2)の磁化は+z方向で変化せず、第1の分割記録層(FL1)の磁化反転のみが起こる経路は、
図48上のPath-1であり、(φ1, φ2)が,座標(0,0)から座標(180, 0)へ移動することを意味する。第1の分割記録層(FL1)の磁化は+z方向で変化せず、第2の分割記録層(FL2)の磁化反転のみが起こる経路は、
図48上のPath-2であり、(φ1, φ2)が,座標(0,0)から座標(0, 180)へ移動することを意味する。第1の分割記録層(FL1)及び第2の分割記録層(FL2)の両方が同時に磁化反転する経路は、
図48上では(φ1, φ2)が,座標(0,0)から座標(180, 180)へ移動することを意味する。記録層の磁化が熱的に安定であるということは、Path-1、Path-2及びPath-3のいずれの磁化反転も生じないことである。このエネルギー曲線において磁化反転の経路は他にも考えられるが、Path-1、Path-2及びPath-3以外の経路はこれらよりもエネルギーが高いために考慮に入れる必要はない。Path-1、Path-2及びPath-3の磁化反転の様子を、
図50~52に示す。
【0176】
図50は
図48のPath-1の磁化状態変化を示す。第2の分割記録層(FL2)の磁化は+z方向に一定で変化しないのに対して、第1の分割記録層(FL1)は初期状態においては、磁化は+z方向を向いた一方の磁区(Domain up)の単一磁区状態であるが、他方の磁区(Domain down)が成長していき、最終的には、磁化は-z方向を向いた他方の磁区(Domain down)の単一磁区状態へと変化する。
【0177】
図51は
図48のPath-2の磁化状態変化を示す。第1の分割記録層(FL1)の磁化は+z方向に一定で変化ないのに対して、第2の分割記録層(FL2)は初期状態においては、磁化は+z方向を向いた一方の磁区(Domain up)の単一磁区状態であるが、他方の磁区(Domain down)が成長していき、最終的には、磁化は-z方向を向いた他方の磁区(Domain down)の単一磁区状態へと変化する。
【0178】
図52は
図48のPath-3の磁化状態変化を示す。第1の分割記録層(FL1)と第2の分割記録層(FL2)はともに、初期状態においては、磁化は+z方向を向いた一方の磁区(Domain up)の単一磁区状態であるが、第1の分割記録層(FL1)と第2の分割記録層(FL2)においてともに他方の磁区(Domain down)が成長していき、最終的には、第1の分割記録層(FL1)と第2の分割記録層(FL2)の磁化はともに-z方向を向いた他方の磁区(Domain down)の単一磁区状態へと変化する。
【0179】
図49にはPath-1、Path-2及びPath-3の磁化反転が生じた場合各経路の磁気エネルギーの変化をφ=0のエネルギーをゼロとして示す。いずれの経路においてもφ=0と180の間にエネルギーのピークを有しており、このピークを越えないと磁化反転は起こらない。このピークが各経路のエネルギー障壁(energy barrier)である。
図49の例では、Path-1のエネルギーが最も小さいことからPath-1の磁化反転が最も起こりやすくこのピーク値が熱安定性指数Δとなる。
【0180】
実効磁気異方性エネルギー密度K
eff t1, K
eff t2, K
eff t*の中間MgOの膜厚依存性を
図53に示す。評価に用いた試料の構造を
図56に示す。
図56(a)は第1の分割記録層(FL1)と第2の分割記録層(FL2)全体の実効磁気異方性エネルギー体積密度K
eff を評価する構成であり、
図56(b)は第1の分割記録層(FL1)の実効磁気異方性エネルギー体積密度K
eff1を評価する構成であり、(c)は第2の分割記録層(FL2)の実効磁気異方性エネルギー体積密度K
eff2 を評価するための構成である。測定には振動試料型磁気測定装置を用いた。膜面垂直方向(out of plane)と膜面平行方向(in plane)に磁界を掃引してその方向の磁気モーメントを測定することによって、膜面垂直方向(out of plane)と膜面平行方向(in plane)の2つの磁化曲線(M-H loop)を得た。
図57に膜面垂直方向(out of plane)のM-H曲線と膜面平行方向(in plane)のM-H曲線を、同一のM-H平面上にプロットした模式図を示す。図中の2つのM-H曲線で挟まれるところの面積が実効磁気異方性エネルギー体積密度K
effである。
【0181】
先にも述べたが、第1の分割記録層(FL1)の材料構成はMR比を最大化する構成とし、第2の分割記録層(FL2)は垂直磁気異方性を最大化する材料構成である。したがって、
図53からわかるように、実効磁気異方性エネルギー密度K
eff t1は実効磁気異方性エネルギー密度K
eff t2に比べてかなり小さな値となっている。計算には、実効磁気異方性エネルギー密度K
eff t1, 実効磁気異方性エネルギー密度K
eff t2の値は中間MgO(0.96nm)の値(0.21mJ/m
2及び0.66mJ/m
2)を用いた。また、交換スティッフネス定数A
stiff1及び交換スティッフネス定数A
stiff1にはCoFeB合金の測定値である5.3pJ/mを用いた。
ここで、実効磁気異方性エネルギー密度K
eff t*は
図56(a)の試料から得られた実効磁気異方性エネルギー体積密度K
effと膜厚(t1+t2)の積であり、実効磁気異方性エネルギー密度K
eff t1は
図56(b)の試料から得られた実効磁気異方性エネルギー体積密度K
effと膜厚t1の積であり、実効磁気異方性エネルギー密度K
eff t2は
図56(c)の試料から得られた実効磁気異方性エネルギー体積密度K
eff2と膜厚t2の積である。
【0182】
直径d=56nm素子において、交換磁気結合力Jex_midを0, 0.04, 0.1, 0.15, 0.25, 0.3mJ/m2とし、それぞれの交換磁気結合力Jex_midの値において、(1)の式から計算されるφ1-φ2の磁気エネルギー曲面E(φ1, φ2)を計算しPath-1、Path-2及びPath-3のエネルギー障壁のうち最も小さな値を熱安定性指数Δとした。計算した熱安定性指数Δの交換磁気結合力Jex_mid依存性を
図54に示す。ここで静磁気結合力J
statは0.12mJ/m
2を用いた。
その結果、交換磁気結合力Jex_midが0から0.1mJ/m
2の範囲で大きくなると熱安定性指数Δは増大し、交換磁気結合力Jex_midが0から0.1mJ/m
2以上でΔは一定値となる。
図54の交換磁気結合力Jex_midが0.1以下を領域1とし、0.1以上を領域2とする。交換磁気結合力Jex_midが=0.04 mJ/m
2の計算例である
図49からわかるように、領域1ではPath-1、Path-2及びPath-3のうちエネルギー障壁が最も小さいのはPath-1であり、領域1においては、第1の分割記録層(FL1)のみが反転する磁化反転モードが熱安定性指数Δを決定している。
【0183】
図55には交換磁気結合力Jex_midは0.15mJ/m
2以としたときのPath-1、Path-2及びPath-3のエネルギー曲線の一例を示す。Path-1、Path-2のエネルギー障壁に比べてPath-3のエネルギー障壁が最も小さくなる。領域2ではPath-3即ち、第1の分割記録層(FL1)と第2の分割記録層(FL2)が同時に反転する磁化反転モードが熱安定性指数Δを決定している。
以上のことから、熱安定性指数Δを最大化するには、MTJ素子においては、交換磁気結合力Jex_midは0.1mJ/m
2以上の値にするのが望ましい。
【0184】
本発明の各実施の形態において示した層構成は順に隣接して配置していればよく、積層方法、積層順序、上下左右の向き等は限定されない。
【符号の説明】
【0185】
11 第1の接合層
12 第2の接合層
13 第3の接合層
14、16 非磁性接合層
2 第1の分割記録層
2a1 第1の磁性層
2a2 第2の磁性層
2b1 第1の非磁性結合層
3 第2の分割記録層
3a1 第3の磁性層
3a2 磁性結合層
3a3 第4の磁性層
3b1 第2の非磁性結合層
3b2 第3の非磁性結合層
A1 第1の記録層
A2 第2の記録層
B1 第1の参照層
B2 第2の参照層
B3 第3の参照層
E1 下部電極
E2 上部電極
BL1 第1のビット線
BL2 第2のビット線
GND グラウンド線
WL ワード線
FL1 第1の分割記録層
FL2 第2の分割記録層