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特許7497880親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲル及び活性酸素抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲル及び活性酸素抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/60 20170101AFI20240604BHJP
   A23L 29/288 20160101ALI20240604BHJP
   A23L 33/165 20160101ALI20240604BHJP
   A23L 33/25 20160101ALI20240604BHJP
   A61K 31/555 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20240604BHJP
   A61Q 90/00 20090101ALI20240604BHJP
   C08G 65/337 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A61K47/60
A23L29/288
A23L33/165
A23L33/25
A61K31/555
A61P39/06
A61Q90/00
C08G65/337
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020569584
(86)(22)【出願日】2020-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2020002541
(87)【国際公開番号】W WO2020158607
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2019013296
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】人見 穣
(72)【発明者】
【氏名】奥田 夏未
【審査官】大塚 龍平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0050996(US,A1)
【文献】LOVELL F. Jonathan et al.,Porphyrin-Cross-Linked Hydrogel for Fluorescence-Guided Monitoring and Surgical Resection,Biomacromolecules,2011年07月21日,Volume 12, Issue 9,pp. 3115-3118
【文献】CHEUNG Y. Charles et al.,Synthesis of Polymerizable Superoxide Dismutase Mimetics to Reduce Reactive Oxygen Species Damage in,ADVANCED FUNCTIONAL MATERIALS,2008年10月06日,Volume 18, Issue 20,pp.3119-3126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/60
A23L 29/288
A23L 33/165
A23L 33/25
A61K 31/555
A61P 39/06
A61Q 90/00
C08G 65/337
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示される金属中心ポルフィリン同士が、下記式(III)からなるリンカー(ここでnは12~200である。)によりアミド結合で接続された、前記金属中心ポルフィリンを網目内に有する親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルを含む活性酸素抑制剤を含む医薬品(Mは、Mnである。R1、R3、R4、R6、R7、R9、R10、及びR12は、独立して、水素原子、メチル基、またはエチル基である。R2、R5、R8、及びR11は、下記の化学式(II)である(R1’及びR3’は、独立して、水素原子、-COOH、-OCH3、-OH、又は、-NH2であり、R2’は-COOHであり、*は、式(I)の金属中心ポルフィリン骨格への結合手を示す。))。
【化1】
【化2】
【化3】
【請求項2】
下記式(I)で示される金属中心ポルフィリン同士が、下記式(III)からなるリンカー(ここでnは12~200である。)によりアミド結合で接続された、前記金属中心ポルフィリンを網目内に有する親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルを含む活性酸素抑制剤を含む食品(Mは、Mnである。R1、R3、R4、R6、R7、R9、R10、及びR12は、独立して、水素原子、メチル基、またはエチル基である。R2、R5、R8、及びR11は、下記の化学式(II)である(R1’及びR3’は、独立して、水素原子、-COOH、-OCH3、-OH、又は、-NH2であり、R2’は-COOHであり、*は、式(I)の金属中心ポルフィリン骨格への結合手を示す。))。
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項3】
下記式(I)で示される金属中心ポルフィリン同士が、下記式(III)からなるリンカー(ここでnは12~200である。)によりアミド結合で接続された、前記金属中心ポルフィリンを網目内に有する親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルを含む活性酸素抑制剤を含む医薬部外品(Mは、Mnである。R1、R3、R4、R6、R7、R9、R10、及びR12は、独立して、水素原子、メチル基、またはエチル基である。R2、R5、R8、及びR11は、下記の化学式(II)である(R1’及びR3’は、独立して、水素原子、-COOH、-OCH3、-OH、又は、-NH2であり、R2’は-COOHであり、*は、式(I)の金属中心ポルフィリン骨格への結合手を示す。))。
【化7】
【化8】
【化9】
【請求項4】
下記式(I)で示される金属中心ポルフィリン同士が、下記式(III)からなるリンカー(ここでnは12~200である。)によりアミド結合で接続された、前記金属中心ポルフィリンを網目内に有する親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルを含む活性酸素抑制剤を含む化粧品(Mは、Mnである。R1、R3、R4、R6、R7、R9、R10、及びR12は、独立して、水素原子、メチル基、またはエチル基である。R2、R5、R8、及びR11は、下記の化学式(II)である(R1’及びR3’は、独立して、水素原子、-COOH、-OCH3、-OH、又は、-NH2であり、R2’は-COOHであり、*は、式(I)の金属中心ポルフィリン骨格への結合手を示す。))。
【化10】
【化11】
【化12】
【請求項5】
活性酸素の存在下にて、活性酸素抑制剤であるPEG連結マンガンテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリンを放出して活性酸素を除去する、下記式(IV)で示されることを特徴とする親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲル(ここでnは12~200であり、前記式(IV)中の線で切断される結合手が式(III)で示されるリンカーとアミド結合により連結されている。)。
【化13】
【化14】
【請求項6】
マンガンテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン(MnTCPP)同士が、下記式(III)からなるリンカー(ここでnは12~200である。)によりアミド結合で接続されており、過酸化水素の存在下でリンカーのエーテル結合は切断されるが、MnTCPPとリンカーとを連結しているアミド結合は切れない、下記式(IV)で示されることを特徴とする親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲル(前記式(IV)中の線で切断される結合手が式(III)で示されるリンカーとアミド結合により連結されている。)。
【化15】
【化16】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲル及びそのヒドロゲルを有する活性酸素抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脳梗塞、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、炎症性腸疾患には活性酸素(ROS)が深く関与している。現在、ROSを消去できる抗酸化剤がこれらの疾患を緩和する薬剤として承認されている。例えばエダラボン(ラジカット)は脳梗塞で細胞障害を起こす原因となるROSを消去できるために、2001年に脳梗塞急性期の治療薬として承認されている。2015年には、ROSによる神経細胞の損傷が原因となるALSの筋萎縮の進行も遅らせるためにALSの治療薬としても承認されている。抗酸化剤であるメサラジン製剤(5-アミノサリチル酸)は、過剰にROSが発生することが原因となる炎症性腸疾患の標準的な治療薬として世界中で使用されている。しかし、エダラボンには、肝障害、腎機能障害、発疹等の副作用が、メサラジン製薬にも肝機能障害や好酸球増加等の過敏症状等の副作用が報告されている。
【0003】
抗酸化剤はROSにより酸化されることで、ROSを消去する。そのため、抗酸化剤は分子状酸素によっても穏やかに酸化される。その結果として酸素からROSが発生する。よって抗酸化剤も他の薬剤と同じく、必要とされる場所に送達され、副作用を抑える必要がある。ROSを感受して抗酸化剤を放出するミセルは効果的な戦略である。非特許文献1には、ジオール類と可逆的な結合を形成し、酸化により開裂するフェニルボロン酸(PBA)に着目し、高分子の自己組織化によるナノ粒子形成技術を利用した、ジオール基を有する抗酸化剤ルチンを内包するROS応答型新規高分子ミセルが記載されている。即ちポリエチレングリコールとポリアミノ酸誘導体からなるブロック共重合体の側鎖にPBAを導入した高分子を合成し、これとルチンを混合し透析精製を行うことで、直径30 nm 程度の球形単分散な高分子ミセルが構築されており、この高分子ミセルは所定濃度のROSの存在下で崩壊して抗酸化剤が放出される。しかし非特許文献1記載の高分子ミセルでは過剰量の抗酸化剤が放出されてしまう可能性を回避できない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】酸化ストレス環境に応答して開裂する抗酸化剤内包高分子ミセルの構築、中村直人、吉永直人、安楽泰孝、カブラルオラシオ、片岡一則、第70回日本酸化ストレス学会学術集会、2017年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、新規な親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルを提供するとともに、過剰にROSが存在する場所にてROSを感受して抗酸化剤を放出する活性酸素抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルは、下記式(I)で示される金属中心ポルフィリンと、該金属中心ポルフィリン同士を接続する親水性ポリマーを有するリンカーと、を含み、前記金属中心ポルフィリンを網目内に有する。
【0007】
【化1】
【0008】
【化2】
【0009】
ここでMは、Mn、Fe、Co、Cu、Ce、又は、Rhである。R1、R3、R4、R6、R7、R9、R10、及びR12は、独立して、水素原子、メチル基、エチル基、QC(=O)OQ’、QC(=O)Q’である(Qは単結合、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、またはアルカリ金属である。Q’は水素原子、炭素数1~5のアルキル基、またはアルカリ金属である)。R2、R5、R8、及びR11は、独立して、水素原子または上記の化学式(II)である(R1’、R2’、及びR3’は、独立して、水素原子、-COOH、-OCH3、-OH、-NH2、又は、ピリジル基である)。
【0010】
また本発明にかかる活性酸素抑制剤は、本発明にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、過剰にROSが存在する場所にてROSを感受して抗酸化剤を放出する活性酸素抑制剤が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルの一実施形態における概要を説明する図である。
図2】本実施例にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルを示す写真図である。
図3】本実施例にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルと、マンガンテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリンとのSOD活性を示す図であり、そのうち(a)は紫外可視近赤外吸収スペクトルの測定図であり、(b)はSOD活性の時間経過を示す図である。
図4】本実施例にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルと、マンガンテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリンとのカタラーゼ活性を示す図であり、そのうち(a)は紫外可視近赤外吸収スペクトルの測定図であり、(b)はカタラーゼ活性の時間経過を示す図である。
図5】種々の表面積を有する本実施例にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルを示す写真図である。
図6】種々の表面積を有する本実施例にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルについての活性を示す図であり、そのうち(a)はSOD活性であり(b)はカタラーゼ活性である。
図7】本実施例にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルが、過酸化水素存在下では、放出されるゲル由来マンガンポルフィリン(以下、ゲル由来MnPorと記載することがある。)に起因して溶液の色が薄い緑色になることを示す写真図である。
図8】本実施例にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルが、過酸化水素の非存在下では、溶液の色に変化がないことを示す写真図である。
図9】本実施例にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルから放出されるゲル由来マンガンポルフィリンのストークス径の測定図である。
図10】本実施例にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルから放出されるゲル由来マンガンポルフィリンと、マンガンテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリンとの活性を示す図であり、(a)はSOD活性であり(b)はカタラーゼ活性である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0014】
本実施形態にかかる新規な親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルは、下記式(I)で示される金属中心ポルフィリンと、該金属中心ポルフィリン同士を接続する親水性ポリマーを有するリンカーと、を含み、前記金属中心ポルフィリンを網目内に有する。
【0015】
【化3】
【0016】
【化4】
【0017】
ここでMは、Mn、Fe、Co、Cu、Ce、又は、Rhであり、好ましくはMnである。R1、R3、R4、R6、R7、R9、R10、及びR12は、独立して、水素原子、メチル基、エチル基、QC(=O)OQ’、QC(=O)Q’である(Qは単結合、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、またはアルカリ金属である。Q’は水素原子、炭素数1~5のアルキル基、またはアルカリ金属である)。好ましくは、R1、R3、R4、R6、R7、R9、R10、及びR12は、水素原子である。
【0018】
R2、R5、R8、及びR11は、独立して、水素原子または上記の化学式(II)である(R1’、R2’、及びR3’は、独立して、水素原子、-COOH、-OCH3、-OH、-NH2、又は、ピリジル基である)。好ましくは、R1’及びR3’は水素原子であり、R2’は-COOHである。
【0019】
上述において、親水性ポリマーは、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸アルキル、カルボキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルピロリドン、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリプロピレングリコールアクリレート、ヒドロキシポリエチレングリコールアクリレート、ヒドロキシポリプロピレングリコールアクリレート、又は、メトキシジプロピレングリコールアクリレート等が挙げられ、好ましくはポリエチレングリコールである。
【0020】
本実施形態にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルは、好ましくは、図1及び下記に化学式に示されるように、ポリエチレングリコール架橋網目ヒドロゲル(以下、MnTCPP-PEGゲルと記載することがある。)であり、マンガンテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン(以下、MnTCPPと記載することがある。)と、マンガンテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン同士を接続するポリエチレングリコール鎖を有するリンカーLと、を含み、マンガンテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリンを網目内に有する。
【0021】
【化5】
【0022】
ここでマンガンテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン同士を接続するポリエチレングリコール鎖を有するリンカーLの繰返し数は、特に限定されるものではないが例えば20~200、好ましくは30~150、より好ましくは40~100である。
【0023】
上記において、MnTCPPとリンカーとの結合はアミド結合が好ましく、リンカー自体はエーテル結合しているものが好ましいとする理由は、下記であると考えられる。即ち、MnTCPPと過酸化水素が反応して、金属オキソ種が発生し、この金属オキソ種がPEGのエーテル結合を切断して、MnTCPPにPEG残基が1以上結合したものが遊離するが、その際、金属オキソ種で切れるのはPEG鎖のエーテル結合で、MnTCPPとPEGを連結しているアミド結合は切れない。従って、MnTCPP自体は毒性があると云われているが、アミド結合でPEGを結合させているので、細胞内への侵入が抑えられ、MnTCPP単体よりも毒性は大幅に低くなっていると考えられる。
【0024】
下記に示される化学式は、マンガンテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン同士を接続するリンカーL、又は、マンガンテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン同士を接続していないポリエチレングリコール鎖を示す。
【0025】
【化6】
【0026】
ポリエチレングリコール鎖を有するリンカーLは、特に限定されるものではないが、例えば、下記から選択される何れかである。ここでnは0~200であり、Rは水素又はアルキル基(ここでアルキル基は例えば炭素数1~6の直鎖又は枝鎖を有するアルキル基である。)であり、x、y及びzはそれぞれ独立して0~200である。なお図1においてはn=12であるがこれは一具体例を示すものにすぎない。
【0027】
【化7】
【0028】
ポリエチレングリコール鎖を有するリンカーLは、好ましくは、下記にて示される。
【0029】
【化8】
【0030】
本実施形態にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルは、ROSの存在下にてゲル由来MnPorを放出する。ゲル由来MnPorは、下記の化学式に示されるように、マンガンテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリンにポリエチレングリコール鎖の繰返し単位が複数結合された構造を有する。
【0031】
【化9】
【0032】
本実施形態にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルは、例えば、ROSの濃度が20μM~60μMを超える場合、好ましくはROSの濃度が30μM~50μMを超える場合、特に好ましくはROSの濃度が40μMを超える場合にゲル由来MnPorを放出する。
【0033】
ROSは、スーパーオキシドアニオンラジカル(通称スーパーオキシド)、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、又は、一重項酸素から少なくとも一つ選択される。
【0034】
本実施形態にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルは、特に限定されるものではないが、例えば下記式に示されるように、縮合剤を使用する縮合反応により製造される。
【0035】
【化10】
【0036】
縮合剤は特に限定されるものではなく、一つ又は複数の縮合剤が使用可能であり、例えばウロニウム型縮合剤、ホスホウム系縮合剤等を使用することが可能であり、好ましくはウロニウム型縮合剤であり、具体的にはO-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HBTU)が好ましい。
【0037】
また本実施形態にかかる活性酸素抑制剤は、本実施形態にかかる親水性ポリマー架橋網目ヒドロゲルを含むことを特徴とする。
【0038】
本実施形態にかかる活性酸素抑制剤は、特に限定されるものではないが、例えば脳梗塞、ALS、育毛剤、炎症性腸疾患等の炎症性疾患の予防及び/又は治療薬として使用できる。
【0039】
脳が虚血した後に血流が再開して酸素が再び供給されると大量の活性酸素が発生して細胞死を引き起こすが、本実施形態にかかる活性酸素抑制剤を使用することにより、脳内の活性酸素の発生が抑制されて脳内の細胞死が抑制される。
【0040】
ALS患者には活性酸素を消去する酵素(SOD1)をつくる遺伝子の突然変異が見られる場合があり、これが運動ニューロンを死滅させる原因の一つと考えられるが、本実施形態にかかる活性酸素抑制剤を使用することにより、活性酸素が消去されて運動ニューロンの死滅が抑制される。
【0041】
脱毛症のうち円形脱毛症は、毛髪を作る毛包のうち毛根と呼ばれる部分が炎症により破壊されることにより生じるが、本実施形態にかかる活性酸素抑制剤を使用することにより毛根の破壊が抑制されて円形脱毛症が治療される。
【0042】
炎症性疾患としては、例えば、関節リウマチ(RA)、SLE、強皮症、多発性筋炎、シェーグレン症候群、ANCA関連性血管炎、ベーチェット病、川崎病、混合性クリオグロブリン血症、多発性硬化症、ギランバレー症候群、筋無力症、1型糖尿病、バセドウ病、橋本病、アジソン病、IPEX、APS type-II、自己免疫性心筋炎、間質性肺炎、気管支喘息、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、アトピー性皮膚炎、溶血性貧血、自己免疫性甲状腺炎、特発性若年性関節炎等が挙げられる。
【0043】
炎症性疾患の中でも特に炎症性腸疾患において好適に使用されるが、炎症性腸疾患は、活性酸素種が腸内で発生して下痢、下血等の消化管障害を起こす疾患であり、本実施形態にかかる活性酸素抑制剤を使用することにより、腸内の活性酸素が消去されて下痢等の消化管障害が抑制される。
【0044】
本実施形態にかかる活性酸素抑制剤の投与経路は、経口投与又は非経口投与のいずれであってもよい。その剤形は、投与経路に応じて適宜選択される。例えば、注射液、輸液、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、腸溶剤、トローチ、内用液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、外用液剤、湿布剤、点鼻剤、点耳剤、点眼剤、吸入剤、軟膏剤、ローション剤、坐剤、経腸栄養剤等が挙げられる。製剤には、必要に応じて、賦形剤、結合剤、防腐剤、酸化安定剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤等の医薬の製剤技術分野において通常用いられる補助剤が用いられる。
【0045】
本実施形態にかかる活性酸素抑制剤の投与量は、投与の目的や投与対象者の状況(性別、年齢、体重等)に応じて異なる。通常、成人に対して、経口投与の場合、1日あたり0.1mg~2g、好ましくは4mg~500mg、一方、非経口投与の場合、1日あたり0.01mg~1g、好ましくは0.1mg~500mgで投与され得る。
【0046】
本実施形態の活性酸素抑制剤は、医薬品としてだけでなく、医薬部外品、化粧品、機能性食品、栄養補助剤、食品、サプリメント等として使用することができる。
【0047】
医薬部外品として使用する場合、必要に応じて、医薬部外品等の技術分野で通常用いられている種々の補助剤とともに使用され得る。
【0048】
食品又は機能性食品として使用する場合、必要に応じて、例えば、甘味料、香辛料、調味料、防腐剤、保存料、殺菌剤、酸化防止剤等の食品に通常用いられる添加剤とともに使用してもよい。また、溶液状、懸濁液状、シロップ状、顆粒状、クリーム状、ペースト状、ゼリー状等の所望の形状で、あるいは必要に応じて成形して使用してもよい。
【0049】
サプリメントとして使用する場合、例えば、カルシウム、マグネシウム等のミネラル類、ビタミンK等のビタミン類を1種以上含有する食品等とともに使用される。
【0050】
食品として使用する場合、例えば、食用油(サラダ油)、菓子類(ガム、キャンディー、キャラメル、チョコレート、クッキー、スナック、ゼリー、グミ、錠菓等)、麺類(そば、うどん、ラーメン等)、乳製品(ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト等)、調味料(味噌、醤油等)、スープ類、飲料(ジュース、コーヒー、紅茶、茶、炭酸飲料、スポーツ飲料等)をはじめとする一般食品や、健康食品(錠剤、カプセル等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)が挙げられる。
【0051】
化粧品として使用される場合、必要に応じて、通常の化粧品製剤として配合される成分、例えば、油脂類、炭化水素、ロウ類、脂肪酸、合成エステル類等、アルコール類、粉体、界面活性剤、増粘剤、保湿剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、酸化防止剤、色素、顔料、防腐剤、香料または水等とともに使用してもよい。前述のうち、油脂類としては、ホホバ油、ヒマシ油、オリーブ油、大豆油、ヤシ油、パーム油、カカオ油、ミンク油、タートル油等が挙げられる。炭化水素類としては、流動パラフィン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン等が挙げられる。ロウ類としては、ミツロウ、ラノリン、カルナバロウ、キャンデリラロウ等が挙げられる。脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸等が挙げられる。合成エステル類としては、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸セチル、オレイン酸エチル、オレイン酸デシル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、リンゴ酸ジイソステアリル、リノール酸エチル、2-エチルヘキサン酸セチル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル等が挙げられる。アルコール類としては、エタノール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ペンチレングリコール、イソプレングリコール、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等が挙げられる。界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ラウリル硫酸ナトリウム、ピログルタミン酸イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ジアルキルスルホコハク酸、臭化セチルピリジニウム、塩化-n-オクタデシルトリメチルアンモニウム、モノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、N-アシルグルタミン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン還元ラノリン、アルキルグルコシド、モノステアリン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸グリセリル、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム等が挙げられる。増粘剤としては、カルボキシビニルポリマー、メチルポリシロキサン、デキストラン、カルボキシメチルセルロース、カラギーンナン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。保湿剤としては、グリセリン、トレハロース、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、アルギニン、ヒドロキシプロリン、アセチルヒドロキシプロリン、ピログルタミン酸、アセチルグルタミン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、アテロコラーゲン、加水分解コラーゲン、加水分解エラスチン、加水分解ヒアルロン酸、リン脂質等が挙げられる。顔料としては、酸化鉄、二酸化チタン、酸化亜鉛、カオリン、タルク等が挙げられる。防腐剤としては、安息香酸、サリチル酸、デヒドロ酢酸あるいはそれらの塩類、パラオキシ安息香酸エステル類やフェノキシエタノールのフェノール類、クロルフェネシン等が挙げられる。
【実施例
【0052】
1.PEG diamineの合成
1-1.PEG dimesylの合成
窒素雰囲気下でPEG4K (30.0 g, 10.0 mmol, 1 eq) と80 mLのジクロロメタンを二口ナスフラスコに入れ0°Cの冷却器に取り付けた。攪拌しながらトリエチルアミン(4.17 mL, 30.0 mmol, 3 eq)をシリンジで加え、さらにメタンスルホニルクロリド (1.70 mL, 22.0 mmol, 2.2 eq)をシリンジで1滴ずつ加えた。冷却器から取り外し、室温で終夜攪拌した。翌日、1H NMRスペクトルとMALDI-TOF MSスペクトルより原料の消失とPEG-dimesylの生成を確認し、反応を止めた。
【0053】
【化11】
【0054】
生成した橙色の液体をセライト濾過し、エバポレーターで濃縮後、真空乾燥した。その後ジクロロメタンと水を加え分液した。有機層をエバポレーターで濃縮後、真空乾燥し、目的物 (薄黄色の固体) を得た。収量30.0 g, 収率95%であった。
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ = 3.09 (s, 6H), 3.61-3.68 (m, ca.260H), 3.75-3.79 (m, 4H), 4.38-4.40 (m, 4H)
m/z(MALDI TOF-MS): [M+H]+ = 2426-3924
【0055】
1-2.PEG diamineの合成
PEG-dimesyl (14.0 g)と210 mLのアンモニア水をポリエチレン容器に入れ攪拌した。6日後、 1H NMRスペクトルとMALDI-TOF MSスペクトルよりPEG-dimesylの消失とPEG-diamineの生成を確認し、反応を止めた。
【0056】
【化12】
【0057】
反応溶液に100 mLの5 N水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH10にした。ジクロロメタンを加え分液し、有機層に炭酸カリウムを加え乾燥した。セライト濾過し、炭酸カリウムを取り除き、濾液をエバポレーターで濃縮後、真空乾燥し、目的物 (薄黄色の固体) を得た。収量10.4 g, 収率82 %であった。
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ = 2.86 (t, J= 5.15, 4H), 3.51 (t, J = 5.18, 4H), 3.61-3.69 (m, ca. 260H)
m/z(MALDI TOF-MS): [M+H]+ = 2268-3677
【0058】
2.ヒドロゲルの合成
まず、MnTCPPのDMF溶液(15 mM)、HBTUのDMF溶液(66 mM)、DIPEA (N,N-diisopropylethylamine)をDMFで10倍希釈した溶液(580 mM)、PEG-diamineのDMF溶液(60 mM)の4つを用意した。
【0059】
次に、2 mLエッペンドルフ製マイクロチューブ(2 mL)にMnTCPPのDMF溶液(15 mM)を150 μL(1 eq)加え、さらに、HBTUのDMF溶液(66 mM)を150 μL(4.4 eq)、DIPEAのDMF溶液(580 mM)を16 μL(4.1 eq)を加え入れ、振とう攪拌した。5分後、ピペットマンを用いて混合溶液をテルモシリンジSS-01T (1 mL, 胴内径 6.6mm) に全量入れ、続いてPEG-diamineのDMF溶液(60 mM)を100 μL(4 eq)、同様にしてシリンジ内に入れた。
【0060】
【化13】
【0061】
5分間ドライヤーを用いてシリンジに熱を加え、その後室温で24時間静置した。ゲルをシリンジ内から取り出し、DMF(80 mL)で24時間、ゲルを洗浄した。その後24時間かけて水(80 mL)で洗浄し、黒紫色の本実施例にかかるヒドロゲルであるMnTCPP-PEGゲルを得た(図2)。得られたゲルは、カミソリで高さ5 mmの円筒状に切断した。
【0062】
3.ゲルのSOD活性
5 mm幅に切断したMnTCPP-PEGゲル (MnTCPP 0.33 μmol含有) とMnTCPPの SOD活性を評価した。評価方法はシトクロムc還元法を用いた。キサンチンがキサンチンオキシダーゼ(XO)存在下で酸化され尿酸となる過程で、活性酸素種であるスーパーオキシドアニオンラジカルが発生する。発生したスーパーオキシドアニオンラジカルにより酸化型シトクロムcは550 nmに最大吸収波長をもつ還元型シトクロムcへと還元されるが、マンガンポルフィリン存在下では活性酸素種による酸化型シトクロムcの還元が阻害されるため、酸化型シトクロムcの還元阻害率より間接的にマンガンポルフィリンのSOD活性を求めることが出来る(図3a)。
【0063】
測定条件は次の通りであった。(MnTCPP-PEGゲル) 100 mM ナトリウムリン酸バッファー pH 7.5, 5 mm幅に切断したMnTCPP-PEGゲル, 100 μMキサンチン, 35 units/L キサンチンオキシダーゼ溶液, 20 μM 酸化型シトクロムc, 50 units/mL カタラーゼ, 総溶液量2250 μL, 測定温度37°C。
【0064】
(MnTCPP) 100 mM ナトリウムリン酸バッファー pH 7.5, 10 μM マンガンポルフィリン, 100 μMキサンチン, 35 units/L キサンチンオキシダーゼ溶液, 20 μM 酸化型シトクロムc, 50 units/mL カタラーゼ, 総溶液量2250 μL, 測定温度37°C。
【0065】
具体的な実験操作は次の通りであった。リン酸バッファー中のゲル (もしくはマンガンポルフィリン)、酸化型シトクロムc、キサンチン、カタラーゼをEppendorf ThermoMixer Cを用いて37°Cでインキュベーションした。20分後、キサンチンオキシダーゼを加え、再び37 °Cでインキュベーションし、紫外可視近赤外吸収スペクトルを測定し、還元型シトクロムcの最大吸収波長である550 nmの吸光度を535 nmの吸光度で割った値を時間に対してプロットした。
【0066】
MnTCPP-PEGゲル存在下でシトクロムcの還元は阻害されており、MnTCPP-PEGゲルはSOD活性を有した(図3b)。測定に用いた5 mm幅に切断したMnTCPP-PEGゲルに含まれるMnTCPP量は0.33 μmolであり、仮にこれらがリン酸バッファー中に溶けて存在しているとすると168 μM相当になる。MnTCPP-PEGゲルと10 μM MnTCPPによるシトクロムcの還元は阻害の効率に大きな違いがないと仮定すると、MnTCPP-PEGゲルの有するSOD活性はMnTCPPよりも低い(17分の1程度)と思われる。
【0067】
4.ゲルのカタラーゼ活性
5 mm幅に切断したMnTCPP-PEGゲル (MnTCPP 0.33 μmol含有) とMnTCPPの カタラーゼ活性を、Agilent 8453 UV-visible Spectrometer を用いて、MnTCPP-PEGゲルが30分, 60分, 90分, 120分, 150分でどれだけ過酸化水素を消去できるかで評価した。具体的な実験操作は次の通りであった。まず、過酸化水素をMnTCPP-PEGゲル (もしくはMnTCPP) を入れたリン酸バッファーに加えた。このとき、水溶液中 (全量2 mL) に含まれる試薬の濃度は次の通りであった。
(MnTCPP-PEGゲル) ナトリウムリン酸バッファー (pH 7.8) : 20 mM, H2O2: 80 μM ,ゲル
(MnTCPP) ナトリウムリン酸バッファー (pH 7.8) : 20 mM, H2O2: 80 μM , マンガンポルフィリン: 10 μM.
【0068】
この水溶液を各時間Eppendorf ThermoMixer Cを用いて 37°Cでインキュベーションした後に、溶液を20 μLずつ取り出し、最終濃度がHRP (0.5 unit/mL) とABTS (1 mM) となる水溶液を2 μL加えた。30分間室温で反応させたのち、リン酸バッファーを200 μL加えて紫外可視近赤外吸収スペクトルを測定した。このとき、ABTSは残存する過酸化水素に対して定量的にHRPの触媒作用によって酸化され、生じた青緑色のABTSカチオンラジカル由来の吸収 (734 nm) をUV-visで測定することで、各時間で過酸化水素がどれだけ消費されたかを求め、ゲルのカタラーゼ活性を評価した (図4a)。
【0069】
MnTCPP-PEGゲル存在下で過酸化水素残存量は減少し、MnTCPP-PEGゲルはカタラーゼ活性を有した(図4b)。SOD活性と同様に、測定に用いた5 mm幅に切断したMnTCPP-PEGゲルに含まれるMnTCPP量は0.33 μmolであり、仮にこれらがリン酸バッファー中に溶けて存在しているとすると168 μMに相当する。従って、30分後の過酸化水素消費量はMnTCPP-PEGゲルは約50%、 10μM MnTCPPは約20%であることから、MnTCPP-PEGゲルの有するカタラーゼ活性はMnTCPPよりも低い(7分の1程度)と思われる。
【0070】
5.表面積依存性
直径6.6mmの円筒状のMnTCPP-PEGゲルを高さ5 mmに切断したゲルA、ゲルAを高さ方向に3等分にスライスしたゲルB、ゲルBをさらに扇形に6等分に切断したゲルC (図5) のSOD活性とカタラーゼ活性を評価した。ゲルA, B, Cはそれぞれ全てMnTCPPを0.33 μmol含む。評価方法や測定条件は、MnTCPP-PEGゲル、MnTCPPと同様であった。
【0071】
MnTCPP-PEGゲルのSOD活性はMnTCPPよりも活性が低く、表面積に依存しないことが判明した (図6a)。カタラーゼ活性もMnTCPP-PEGゲルはMnTCPPよりも活性が低いが、表面積が大きくなるに従い、少しであるが活性が向上した(図6b)。
【0072】
6.ゲルの溶出
カタラーゼ活性評価の際の150分の反応後の溶液が薄い緑色になり(図7)、紫外可視近赤外吸収スペクトルより、マンガンポルフィリン由来の色であることが示唆された。
【0073】
2 mm幅に切断したMnTCPP-PEGゲルを用いて、過酸化水素の影響を調べた。過酸化水素存在下(過酸化水素濃度は100μM)では、カタラーゼ活性評価時と同様に溶液が薄い緑色になったのに対し、過酸化水素非存在下では色は付かなかった(図8)。
【0074】
7.溶出したゲルのDLSによる評価方法と結果
大塚電子動的光散乱光度計MCLS-1000を用いて、溶出したゲル由来マンガンポルフィリンのストークス径を動的光散乱光度計(DLS) で測定した。溶媒には水を使用した。溶液中の粒子はブラウン運動をしており、その動きは大きな粒子では遅く、小さな粒子になるほど早い。従って、拡散係数を測定しアインシュタイン-ストークスの関係式を応用することで粒子の移動距離から粒径を算出することが可能である。図9に示したようにストークス径は40 nmから90 nm程度であり、平均値は62 nm、標準偏差は11.8であった。
【0075】
8.溶出したゲルのSOD活性, カタラーゼ活性
過酸化水素存在下でMnTCPP-PEGゲルから溶出したゲル由来マンガンポルフィリンのSOD活性とカタラーゼ活性を評価し、MnTCPPと比較した。マンガンポルフィリンの濃度は共に10 μMであった。評価方法や測定条件は、MnTCPP-PEGゲル、MnTCPPと同様であった。
【0076】
ゲル由来マンガンポルフィリン存在下でシトクロムcの還元は阻害されており、ゲル由来マンガンポルフィリンはSOD活性を有した (図10a)。25分後の還元阻害率はゲル由来マンガンポルフィリンは約32%、MnTCPPは約13%であることから、ゲル由来マンガンポルフィリンの有するSOD活性はMnTCPPよりも高い(2.5倍程度)ことが判明した。
【0077】
ゲル由来マンガンポルフィリン存在下で過酸化水素残存量は減少し、ゲル由来マンガンポルフィリンはカタラーゼ活性を有した (図10b)。60分後の過酸化水素消費量はゲル由来マンガンポルフィリンは約30%、MnTCPPは約45%であることから、ゲル由来マンガンポルフィリンの有するカタラーゼ活性はMnTCPPよりも低い(3分の2程度)ことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0078】
医薬品、医薬部外品、化粧品、機能性食品として利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10