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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】大孔径アガロース
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20240604BHJP
   C08J 3/16 20060101ALI20240604BHJP
   B01J 20/24 20060101ALI20240604BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240604BHJP
   B01J 20/285 20060101ALI20240604BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CEP
C08J3/16
B01J20/24 C
B01J20/28 A
B01J20/285 N
B01J20/281 X
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021535945
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2019084590
(87)【国際公開番号】W WO2020126730
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】1820806.6
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516105833
【氏名又は名称】サイティバ・バイオプロセス・アールアンドディ・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】ダーヴィド・ヤンソン
(72)【発明者】
【氏名】イェスペル・ハンソン
(72)【発明者】
【氏名】アンナ・アケルブロム
(72)【発明者】
【氏名】エマ・ミケルソン
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103055773(CN,A)
【文献】特表2008-513771(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108250495(CN,A)
【文献】特開2007-077397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
B01J 20/00-20/34
C08J 9/00-9/42
A61K 35/00-35/768;36/06-36/068
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズを調製する方法であって、
a)乳化させる工程であって、
(i)0.3~0.8%w/v(W)のアガロース濃度を有するアガロース水性相を調製し
(ii)少なくとも1つの乳化剤が溶解されている水非混和性油相(O)を調製し、
(iii)水相(W)と油相(O)を混合して、W/Oエマルジョンを得て、
(iv)W/Oエマルジョンがビーズを形成することを可能にする、乳化させる工程と、
b)ビーズを架橋剤と反応させることにより、乳化したアガロースを1回又は数回架橋する工程と、
c)第四級アミンリガンド、サルフェートリガンド、ウイルス親和性リガンド及び/又はマルチモーダルリガンドである、リガンドを結合させる工程と、を含む方法。
【請求項2】
工程a)において
(i)アガロース水性相(W)を、約40~95℃の温度で0.4~0.6%w/vの濃度で調製し、
(iii)水相(W)及び油相(O)を、約40~70℃の温度で混合し、
(iv)W/Oエマルジョンを、10~30℃の温度に到達させ、粒子を形成させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)からのビーズをエキステンダーでグラフト化する工程を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
架橋剤がエピクロロヒドリンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(ib)磁鉄鉱を添加する工程を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
磁鉄鉱の量が20~80g/Lアガロース溶液である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法によって得られる多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズ。
【請求項8】
約0.3~0.8%w/v又は約5~15mg/mLの乾燥質量のアガロース濃度を有し、第四級アミンリガンド、サルフェートリガンド、ウイルス親和性リガンド及び/又はマルチモーダルリガンドである、リガンドがビーズに結合している、多孔性球状の架橋されたアガロースゲルビーズ。
【請求項9】
40~200μmのサイズを有する、請求項7又は8に記載の多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズ。
【請求項10】
リガンドが第四級アミンリガンドである、請求項8又は9に記載の多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズ。
【請求項11】
リガンドがエキステンダーを介して結合している、請求項8から10のいずれか一項に記載の多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズ。
【請求項12】
エキステンダーが炭水化物分子である、請求項11に記載の多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズ。
【請求項13】
磁性粒子を更に含む、請求項7から12のいずれか一項に記載の多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズ。
【請求項14】
請求項7から13のいずれか一項に規定の多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズを含む分離マトリックス。
【請求項15】
液体中の少なくとも1つの粒子を液体中の他の成分から分離する方法であって、
a)粒子の吸着及び/又は吸収を可能にするために、液体を請求項14の分離マトリックスと接触させる工程と、
b)粒子を放出させる液体を加えることによってマトリックスから粒子を溶出させる工程と、
c)溶出液から粒子を回収する工程と、を含む方法。
【請求項16】
沈降、ろ過、デカンテーション若しくは遠心分離によって、又は磁性ビーズの場合には磁場によって、工程a)から液体及びマトリックスを分離する工程を更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
粒子がウイルスである、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
ウイルスが、アデノウイルスである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、キレートクロマトグラフィー、又は共有結合クロマトグラフィーにおけるマトリックスとしての請求項7から13のいずれか一項に記載の多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的試料の分離/精製に適している多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズに関する。この粒子は、生物学的試料からの、アデノウイルス等のウイルス粒子の分離に特に適している。本発明は、更にビーズの調製方法及び分離/精製用途におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アガロースは紅藻類から抽出された天然の多糖類である。これは寒天の2つの主成分のうちの1つであり、もう一方の成分であるアガロペクチンを除去することにより寒天から精製される。低温の水溶液中で、アガロースは、ヒドロゲルを形成し、それが細孔を含む網目構造を形成する。細孔径は、添加されたアガロースの濃度に依存する。アガロースゲルは、通常、球状ビーズの形で、1960年代から精製用途のクロマトグラフィー媒体として使用されており、様々な分子量と特性を持った様々なアガロースが入手可能である。アガロースゲルには、高い親水性、高い多孔度及び官能基化に利用可能な水酸基等の多くの好都合な特徴がある。アガロースは、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、逆相クロマトグラフィー(RPC)及びイオン交換クロマトグラフィー(IEC)等でベースマトリックスとして使用されることが多い。これらのクロマトグラフィー技術及びその他のクロマトグラフィー技術は、生物学的液体等の生物学的試料の精製に一般的に使用され、通常、1つ又は複数の成分、例えば生物学的試料に存在するウイルス等の生体分子を単離するために、又は不要な成分を除去するために使用される。最も一般的には、ウイルスの分離/単離は、特定のウイルスが親和性を有するリガンドを含むマトリックスを使用するIECによって達成される。IECを使用したウイルス分離に適したリガンドとしては、サルフェートリガンド(Sリガンド)及び第四級アミンリガンド(Qリガンド)を挙げることができる。例えば、インフルエンザウイルスは通常、Sリガンドが結合したマトリックスを使用してIECによって分離/単離されるが、アデノウイルスの分離は、Qリガンドが直接又はデキストランエキステンダーを介して結合されている架橋されたアガロースマトリックス等のQ結合マトリックスを使用して行われる。
【0003】
クロマトグラフィー分離法に加えて、生体分子の分離/単離には磁気分離を使用することができる。この方法では、適切なリガンドを担持する磁気ビーズが使用される。所望の生体分子は、リガンドと結合し、次いで、磁気分離器の使用による磁場によって分離が行われる。
【0004】
クロマトグラフィー分離用途で使用するための球状アガロースゲルビーズは、通常、例えば懸濁液ゲル化、噴霧ゲル化等を含む相分離に基づく方法によって得られる。これらの方法の基本的なプロセスは、アガロース濃度が通常4~6%w/vの範囲にあるアガロース水溶液を、機械的撹拌又は噴霧によって有機相に分散させることである。次いで、このように形成された液滴は、冷却されると固化する。磁気分離で使用するための磁気ビーズは、通常、磁性材料をアガロース水溶液に添加してから油相に分散させることによって調製される。カラムクロマトグラフィーの方法でしばしば加えられる圧力に、よりよく耐えるより堅いビーズを得るために、アガロースゲルは多くの場合架橋される。架橋は通常、形成されたビーズを架橋剤と反応させることによって達成される。
【0005】
生物学的製剤は、細胞生物学、生化学的研究及び工学の分野内の多くの用途で一般的に使用されている。生物学的製剤は、例えば、医薬品開発で使用されており、今日の多くの薬剤は、いわゆる生物製剤又はバイオ医薬品、すなわち、血液、血液製剤、体細胞、細菌、ウイルス、抗体等の生物学的供給源から製造、抽出、又は半合成された医薬品である。更に、生物学的製剤は、ウイルスワクチンの分野で頻繁に使用され、ここで生物学的製剤を含む標本の溶解物又は血清等の試料がウイルスの供給源として機能する。生物学的製剤が使用される別の例は、遺伝子治療の分野であり、ここで、ウイルスは、治療用途を目的とした遺伝子の担体として使用される。遺伝子導入に一般的に使用される方法の中で、アデノウイルス系ベクターは特に有望であることが証明されている。アデノウイルスは、アデノウイルス科に属する直径約90nmのエンベロープを持たないDNAウイルスである。アデノウイルス科は、動物と人間の両方に感染する可能性のある多数の血清型といくつかの属から成る。
【0006】
WO98/26048は、陰イオン交換クロマトグラフィーとそれに続くサイズ排除クロマトグラフィーによるウイルス精製に関する。
【0007】
WO2006/052088は、抗体結合タンパク質リガンドが固定された多孔性の炭水化物粒子の分離マトリックスに関する。このマトリックスは、モノクローナル抗体の精製に適している。
【0008】
W02008/039136は、サルフェートリガンドがエキステンダーを介して結合されている不溶性担体を含む分離マトリックスに関する。開示されたマトリックスは、ウイルス、特にインフルエンザウイルスの精製に適している。
【0009】
WO97/38018は、エマルジョン及びゲル形成の前に二官能性架橋剤が多糖類溶液に導入される、多孔性の架橋された多糖類ゲルの製造方法に関する。
【0010】
米国特許第6,537,793号は、アガロース、デキストラン、アクリルアミド、シリカ、及びポリ[スチレン-ジビニルベンゼン]から選択されたマトリックスを使用したウイルス精製に関する。より具体的には、本発明は、イオン交換クロマトグラフィーによってアデノウイルスを精製及び定量化する方法に関する。強力な陰イオン交換体を使用することが特に有利であると述べられており、特に好ましいのは、デキストランを介してQ基が結合しているアガロース塩基マトリックスであるQ Sepharose XLである。
【0011】
生体分子の分離及び/又は単離のための従来技術のビーズ及びクロマトグラフィーマトリックスは、通常、5~10nmの範囲のサイズを有する粒子、例えば、抗体、タンパク質、核酸等の生体分子の分離/単離のために最適化されている。ウイルス等のより大きな粒子は、通常、特定のウイルスと相互作用のあるリガンドが結合したビーズを使用して単離される。いくつかの従来技術のビーズでは、リガンドはエキステンダーを介して結合している。これらの場合、大きな(ウイルス)粒子は、本質的にビーズの外表面にのみ結合し、その結果、結合容量が低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】WO98/26048
【文献】WO2006/052088
【文献】WO2008/039136
【文献】WO97/38018
【文献】米国特許第6,537,793号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様では、本発明は、以下の工程を含む多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズを調製する方法であって、
a)乳化させる工程であって、
(i)0.3~0.8%w/v(W)のアガロース濃度を有するアガロース水性相を調製し、
(ib)磁鉄鉱等の磁性材料を必要に応じて添加し、
(ii)少なくとも1つの乳化剤が溶解されている水非混和性油相(O)を調製し、
(iii)水相(W)と油相(O)を混合して、W/Oエマルジョンを得て、
(iv)W/Oエマルジョンがビーズを形成することを可能にする、乳化させる工程と、
b)ビーズを架橋剤と反応させることにより、乳化したアガロースを1回又は数回架橋する工程と、
c)必要に応じてリガンドを結合させる工程と、を含む方法を提供する。
【0014】
別の態様では、本発明は、上記に開示された方法によって得られる多孔性の架橋されたアガロースゲル粒子に関する。
【0015】
更に別の態様では、本発明は、約0.3~0.8%w/v又は5~15mg/mLの乾燥質量のアガロース濃度を有し、必要に応じて磁性材料を含む、多孔性球状の架橋されたアガロースゲルビーズに関する。
【0016】
更に別の態様では、本発明は、上記の方法に従って調製された多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズを含む分離マトリックスに関する。
【0017】
更に別の態様では、本発明は、液体中の粒子を液体中の他の成分から分離する方法であって、
a)粒子の吸着及び/又は吸収を可能にするために、液体を上記のような分離マトリックスと接触させる工程と、
b)必要に応じて、分離マトリックスを洗浄する工程と、
c)粒子を放出させる液体を加えることによってマトリックスから粒子を溶出させる工程と、
d)溶出液から粒子を回収する工程と、を含む方法に関する。
【0018】
更に別の態様では、本発明は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、キレートクロマトグラフィー、共有結合クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーにおけるマトリックスとしての上記のような多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズの使用に関する。
【0019】
本発明によるビーズは、約20~400nmのサイズを有する粒子等の大きな粒子の分離に特に有用である。特に、ビーズは、生物学的試料中のウイルス粒子等のウイルス粒子の分離に有用である。細孔は、粒子が内部細孔表面と相互作用できるほど十分に大きく、ビーズは、特に磁性材料を含むビーズを使用できるバッチ吸着プロセスにおいて、機械的取り扱いに対して十分に弾力性がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
用語の定義及び略号
本明細書で使用される「生体分子」という用語は、生物に自然に生じる分子を意味する。生体分子としては、ウイルス、タンパク質、炭水化物、脂質、及び核酸のような高分子、並びに一次及び二次代謝産物や天然物のような小分子を挙げることができる。
本明細書で使用される「エキステンダー」という用語は、アガロースに共有結合で結合されるポリマー等の分子を意味する。
本明細書で使用される「リガンド」という用語は、生体分子、例えばウイルス等の目標化合物と相互作用することができる分子を意味する。
本明細書で交換可能に使用される「分離マトリックス」及び「マトリックス」という用語は、エキステンダー及び/又はリガンドが結合され得る不溶性担体を意味する。
本明細書で使用される「樹脂」という用語は、クロマトグラフィー媒体として使用するための分離マトリックスを意味する。本発明による樹脂は、アガロースゲルビーズから構成されている。
本明細書で使用される「イオン容量」という用語は、イオン種に結合するリガンドを担持するマトリックスの容量を意味する。イオン容量は、通常、当該技術分野で公知の滴定法によって決定され、マイクロモル又はミリモル/mLの沈降マトリックスとして表される。
本明細書で使用される「結合容量」という用語は、粒子種、例えばウイルス粒子を結合するマトリックスの容量を意味する。
【0021】
上記の定義に加えて、以下の略号が本明細書で使用されている。本明細書で使用されている略号が定義されていない場合、それは一般的に受け入れられている意味を持つことを意味する。
【0022】
【表1】
【0023】
最も一般的には、アデノウイルスの分離/単離は、Qリガンドを含むマトリックスを使用したイオン交換クロマトグラフィーによって行われる。Qリガンドは、生のウイルス供給原料に通常存在する他の多くのタンパク質も結合するため、非常に非選択的である。したがって、Qリガンドを使用するクロマトグラフィー法は、単純かつ効率的な方法で純粋なアデノウイルスを提供するものではなく、反復的及び/又は補完的な精製工程が必要になる場合がある。
【0024】
従来技術を考慮して、特に医療及び診断分野で使用するために、生体分子、例えばウイルス等の粒子を生物学的製剤から分離/単離する必要性が多くの局面で存在する。実験室規模と大規模生産の両方で、特に大きな生体分子の粒子の容量の増加と、より効率的な分離と単離とを提供する改善された方法が必要である。
【0025】
クロマトグラフィー分離マトリックスで使用するためのアガロースゲルビーズは、通常、ビーズの外表面とビーズの細孔内の表面の両方に、アガロースの表面に結合しているリガンドを備えている。このようなマトリックスを使用して液体中の粒子を分離する間に、液体をマトリックスと接触させて、粒子がリガンドに吸着することを可能にする。リガンドに親和性のない液体中の他の成分は、吸着せずにマトリックスを通過し、簡単に洗い流すことができる。マトリックスの容量に影響を与える重要な要因は、分離/単離される粒子、例えば、生体分子の吸着に利用できるビーズの有効表面積である。表面積は、粒子のサイズに対するアガロースゲルビーズの細孔径に依存し、したがって、マトリックスの容量を改善する方法は、粒子が細孔へ入るのに十分な大きさの細孔径を有するビーズを使用することである。好ましくは、ビーズの細孔径は、分離される粒子のサイズの約2倍である。
【0026】
分離マトリックス用の従来技術のビーズは、通常、より小さな粒子、すなわち、5~10nmの範囲のサイズを有する粒子、例えば、抗体、タンパク質、核酸等の生体分子の分離のために最適化されている。したがって、従来技術のビーズを使用してより大きな粒子、例えばウイルス粒子を、細胞溶解物、血清等の生物学的試料から分離する場合、単離される粒子との相互作用に利用可能な表面積がビーズの外側に制限される。結果として、より大きな粒子に対するビーズの容量は、より小さな粒子に対するものよりもかなり低く、したがって、より大きな粒子の分離には、より多くのビーズ、より大きな分離カラム、より多くの溶媒等が必要となることになる。
【0027】
アガロースゲルの調製で形成されるアガロースビーズの細孔径は、とりわけ水性相中のアガロースの含有量に依存する。アガロース含有量が少ないと、ビーズの細孔径が大きくなり、逆にアガロース含有量が多いと、ビーズの細孔径が小さくなる。本発明の方法に従って調製されたビーズは、約20~400nmの直径を有する粒子等の大きな粒子が細孔に入るのを可能にするのに十分に大きい細孔径を有することが示されている。典型的な従来技術のアガロースビーズは、約4~6%w/vのアガロース含有量を使用して調製され、したがって、約5~10nmのサイズを有する粒子のろ過方法及び/又は分離に適したビーズを提供する。これらの従来技術の方法に従って調製されたアガロースビーズは、通常、40~80μmの範囲の粒径を有するアガロースビーズをもたらすが、本発明の方法に従って調製されたアガロースビーズは、40~200μmの範囲のサイズを有する。
【0028】
したがって、一態様では、本発明は、以下の工程を含む多孔性の架橋されたアガロースビーズを調製する方法であって、
(a)乳化させる工程であって、
(i)0.3~0.8%w/v(W)のアガロース濃度を有するアガロース水性相を調製し、
(ib)磁鉄鉱を必要に応じて添加し、
(ii)少なくとも1つの乳化剤が溶解されている水非混和性油相(O)を調製し、
(iii)水相(W)と油相(O)を混合して、W/Oエマルジョンを得て、
(iv)W/Oエマルジョンがビーズを形成することを可能にする、乳化させる工程と、
(b)ビーズを架橋剤と反応させることにより、乳化したアガロースを1回又は数回架橋する工程と、
(c)必要に応じてリガンドを結合させる工程と、を含む方法を提供する。
【0029】
より具体的には、工程(a)(i)において、アガロース水溶液が所定の濃度で調製される。工程(a)(i)で得られた溶液は水性相を構成し、Wで示される。水性相中のアガロース濃度は、例えば0.3~0.8%w/vの範囲、及びより具体的には0.4~0.6%w/vの範囲等、0.1から1%w/vの間の範囲である。
【0030】
本発明で使用するためのアガロースは、通常、標準的なアガロースであるが、アガロースの任意の適切な誘導体、すなわち化学的に改変されたアガロースであり得る。例えば、ヒドロキシエチルアガロース、ヒドロキシメチルアガロース又はアリルアガロースを使用することができる。これらのタイプの誘導体化されたアガロースでは、鎖内水素結合の数が減少し、その結果、天然アガロースよりも融解温度及びゲル化温度が低くなる。正確な温度は、置換度によって決定される。これらの誘導体化されたアガロースは、一般に低融点(LMP)アガロースとして言及される。一部の種類のアガロースは、8~15℃でのみゲル化する場合がある。これらのタイプのアガロースは、超低融点又は超低ゲル化温度のアガロースとして言及される。
【0031】
アガロース水溶液は、撹拌しながら適量のアガロースを水中で混合することにより調製される。通常、水とアガロースの混合物中のアガロースを溶液にするためには、アガロースの融点を超える温度等、高められた温度が必要である。適切な温度は、使用するアガロースの種類によって異なり、通常、90℃以上等の80℃超である。
【0032】
この方法は、磁気ビーズの調製を含むこともできる。この場合、工程(ib)がこの方法の工程(a)に追加される。工程(ib)では、磁鉄鉱粒子等の磁性材料は、水性相(W)を油相(O)と混合する前に工程a)(i)の中で得られた水性相に添加される。具体的には、磁性材料は、アガロースの添加直後にアガロースと水の混合物に添加され得る。磁性材料の濃度は、通常、例えば、30~70g/Lのアガロース溶液又は40~60g/Lのアガロース溶液等の10~90g/Lのアガロース溶液の範囲である。通常、磁性材料の濃度は50g/Lのアガロース溶液である。
【0033】
工程a)(ii)では、水非混和性油相(O)が調製される。油相では、少なくとも1つの油可溶で、且つ/又は油分散される乳化剤が、溶解/分散される。適切な乳化剤の例としては、エチルセルロース、エトキシル化ソルビタンエステル(Tween(商標))、ソルビタンセスキオレート(例えば、Arlacel(商標)83)、ソルビタントリオレエート(例えば、Span(商標)85)、ソルビタンモノオレエート(例えば、Span(商標)80)、ソルビタントリステアレート(例えば、Span(商標)65)等のソルビタンエステル、ヘキサグリセロールペンタオレエートエステル(PO-500、PO-310)、ポリエチレングリコール水素化ヒマシ油等のポリグリセロールエステル、又は親油性-親水性ブロックポリマーを、挙げることができる。油相の乳化剤は、例えば、0.5~1.0%w/v等の0.1から2.0%w/vの間の濃度であり、水相の油相に対する体積比は、2:1~1:10又は1:1~1:10等の2:1~1:100であり得る。
【0034】
工程a)(iii)では、エマルジョンは、水相(W)と油相(O)を混合することによって得られる。混合は、通常、オーバーヘッドスターラーを使用する等の従来の混合技術によって、又は静的混合によって行われる。2つの相を混合する前に、それらを適切に同じ温度にする。それらを混合するときの相の適切な温度は、使用されるアガロースのゲル化点を超える温度であり、したがって、使用されるアガロースのタイプに依存する。それらのより低いゲル化温度により、メチル、ヒドロキシエチル又はアリルアガロース等の誘導体化されたアガロースは、好ましくは、天然アガロースよりも低い温度で混合される。例えば、水性相(W)と油相(O)は、50~60℃等の約40~70℃の温度で混合される。超低融点又は超低ゲル化温度のアガロースの場合、相は約20~30℃の温度で混合され得る。
【0035】
工程a)(iv)では、W/Oエマルジョン液滴は、ゲル化温度より低い温度まで冷却することによって固化する、すなわち、アガロースビーズへゲル化することができる。所望のサイズのビーズが得られたら、エマルジョンをゲル化温度以下に到達させる。天然アガロースについては、これは便利なことに10~30℃又は室温、つまり約20℃の温度にすることができる。超低ゲル化温度のアガロースについては、より低い温度、例えば0~8℃を必要とすることもある。
【0036】
別の方法では、ビーズは膜乳化によって得られる。この方法では、工程a)(iii)で得られた分散相は、ミクロ多孔質膜の細孔に強制的に通される。したがって、乳化された液滴が形成され、液滴ごとのメカニズムを用いて細孔の端で分離される。
【0037】
上記の調製方法の特定の実施形態では、工程a)は以下のように指定される、
(i)アガロース水性相(W)を、アガロースの融点を超える温度で0.4~0.6%w/vの濃度で調製し、
(iii)水性相(W)及び油相(O)を、約40~70℃の温度で混合し、
(iv)W/Oエマルジョンを、ゲル化温度より低い温度、例えば約20℃等の、通常、10~30℃に到達させ、粒子を形成させる。
【0038】
本明細書に開示されるアガロースビーズのような高多孔性ビーズは、一般に柔らかく、容易に粉砕される。アガロースを架橋することにより、ビーズの強度を向上させることができる。したがって、カラムクロマトグラフィー中にしばしば加えられる圧力によりよく耐える、改善された物理的安定性並びに改善された流動及び充填及び流動特性を有するビーズを得るために、本発明の方法は、工程a)で提供されたアガロースゲルビーズを架橋する工程を含む。したがって、工程b)では、乳化されたアガロースビーズは、ビーズを架橋剤と反応させることによって、1回又は数回架橋される。架橋は、通常、当業者に周知の方法及び薬剤を使用して、形成されたビーズを架橋剤と反応させることによって行われる。適切な架橋剤は、典型的には二官能性化合物、つまり、例えばエピクロロヒドリン、ジエポキシド等のアガロースの水酸基と反応することができる2つの官能基を有する化合物である。別のアプローチでは、架橋は、工程a)(iv)のビーズ形成の前に、すなわち工程a)(iii)で得られたW/Oエマルジョン中のアガロース上でアガロースをヘテロ二官能性試薬と反応させることによって行うことができる。典型的な例は、溶液中のアガロースをハロゲン化アリル又はアリルグリシジルエーテルと反応させることによって得られるアリルアガロース溶液である。次に、アリル基は、ビーズの乳化及び固化の後、例えば、アガロースポリマーの水酸基との架橋反応が可能な反応性ブロモヒドリン及び/又はエポキシドを形成するための臭素化によって架橋に使用することができる。
【0039】
一般に、架橋は、必要に応じて高められた温度で、また必要に応じて水酸化ナトリウム等の塩基の存在下で、乳化ビーズのスラリーに架橋剤を添加することによって行われる。架橋反応を行うための適切な温度は、架橋剤に依存することになる。架橋剤がエピクロロヒドリンである場合、架橋反応は、典型的には、例えば30から60℃の範囲、及び特に、45から55℃の範囲等の、22から90℃の範囲の温度で行われる。混合物は、架橋剤の実質的に均一な分布を確実にするために都合よく撹拌される。架橋剤は、一度に添加することができるが、反応時間中に数部分ずつ添加することが好ましい。通常、反応時間は、約4から約24時間、特に、例えば約12から約16時間等の約8から約20時間で変動する。反応が完了したと見なされれば、ビーズを蒸留水又は脱イオン水で洗浄して未反応の試薬をすべて除去し、ろ過する。最初の架橋工程の後、必要に応じて追加の架橋工程を実施することができる。
【0040】
架橋剤は、例えば、アガロース1グラムあたり0.5~50mmol、通常は1~25mmolの量で使用され得る。
【0041】
本発明の一実施形態では、架橋剤はエピクロロヒドリンである。
【0042】
本発明の方法は、必要に応じて、工程(b)の後にリガンドが、固化したアガロースビーズに結合される追加の工程を含む。当業者は、そのようなリガンドを結合するための方法に精通している。適切なリガンドとしては、第四級アミンリガンド、サルフェートリガンド、ウイルス親和性リガンド、マルチモーダルリガンド等の帯電した基を、挙げることができる。本発明の典型的な実施形態では、リガンドは第四級アミンリガンドである。特に好ましい第四級アミンリガンドは、Qリガンド、すなわち、トリメチルアンモニウムリガンド等のトリアルキルアンモニウムリガンドである。
【0043】
一実施形態では、本発明の方法は、アガロースビーズをエキステンダーでグラフト化する工程を含む。エキステンダーは、アガロースに共有結合している柔軟な非架橋ポリマーである。エキステンダーは、合成又は天然由来のポリマーから構成され得る。グラフト化の例示的な方法において、アガロースゲルは、最初に活性化され、例えば、典型的にはNaOH等の塩基の存在下でエピクロロヒドリンとの反応によってエポキシ活性化される。次いで、得られた活性化アガロースゲルを、典型的にはNaOH等の塩基及びNaBH4等の還元剤の存在下でエキステンダーと反応させる。エキステンダーは、典型的には、可溶性多糖類、例えば、デキストランであり得る。
【0044】
1つのアプローチにおいて、上記の方法は、工程b)で得られたビーズをエキステンダーでグラフト化する追加の工程を含む。
【0045】
別のアプローチでは、この方法は、第1の工程で、リガンドをエキステンダーに結合させ、次の工程で、工程b)で得られたビーズをエキステンダー-リガンド複合体でグラフト化することを含む。
【0046】
更に別のアプローチでは、機能性モノマー、例えば、帯電したモノマーは、アガロースゲル上にグラフト重合され、アガロース分子から伸びる機能的なグラフトポリマーを形成し得る。
【0047】
一態様では、本発明は、上記の方法によって得られる多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズに関する。
【0048】
従来技術の方法で使用されるアガロース含有量と比較して、本発明によるアガロースビーズを調製する方法で使用されるアガロースの低含有量は、従来技術の方法によって得られるビーズの細孔よりもかなり大きな細孔を有するビーズを提供する。本発明の方法に従って調製されたビーズは、約20~400nmのサイズを有する粒子等の大きな粒子が入ることを可能にするのに十分な大きさの細孔を有することが示されている。大きな粒子が細孔に入るのを可能にすることに加えて、本発明の方法に従って調製されたビーズの大きな細孔径は、大きな細孔径が、リガンドカップリングに利用可能なより大きな表面積を提供し、それによってビーズの結合容量を増加させる。
【0049】
したがって、本発明の方法は、液体から生体分子等の粒子を分離するのに有用な多孔性球状の架橋されたアガロースゲルビーズを提供する。このビーズは、約20nm以上、例えば50nm以上等のサイズを有する粒子の分離に特に有用である。上に記述されるように、本方法は、例えば、0.3~0.8%w/vの範囲、及びより具体的に0.4~0.6%w/vの範囲等の、0.1から1%w/vの間の範囲のアガロース濃度を有するビーズを提供する。したがって、本発明は、例えば、0.3~0.8%w/vの範囲、及びより具体的に0.4~0.6%w/vの範囲等の、0.1から1%w/vの間の範囲のアガロース濃度を有する、多孔性球状の架橋されたアガロースゲルビーズを提供する。
【0050】
本発明の方法によって得られたビーズは、約5~15mg/mLの範囲の乾燥質量を有し得る。乾燥質量は、変動する可能性があり、架橋サイクルの数、エキステンダーの有無、ビーズ内の磁性材料の有無等の多くの要因に依存し、ここで乾燥質量は、行われる架橋サイクルの数とともに、及びまたエキステンダー及び/又は磁性材料の存在とともに増加する。例えば、1回架橋され、エキステンダー又はリガンドがグラフト化されておらず、磁性材料を含まないビーズの乾燥質量は、通常、約5~9mg/mL等の範囲の下端にあるが、3回架橋され、デキストラングラフト化され、磁性材料を含まないビーズの乾燥質量は、通常、約9~15mg/mL等のより高い範囲にある。磁性材料を更に含むビーズは、通常、更に高い乾燥質量を有することになる。ビーズの乾燥質量はビーズの多孔性と相関し、乾燥質量が低いと多孔性が高くなり、乾燥質量が高いと多孔性が低くなる。
【0051】
一般に、本発明のビーズ等のビーズの乾燥質量が低いと、低いアガロース含有量がリガンドカップリングに利用可能なより低い表面積を意味するので、より低いリガンド濃度をもたらすことが予想される。それによって、リガンド濃度が低いと、ビーズのイオン容量が低くなることが予想される。本発明のビーズのリガンド濃度が計算され、驚くほど高いことが見出された。例えば、ビーズ029271(1回架橋され、Qリガンドと結合し、デキストラングラフト化されていない)の場合、リガンド濃度は2700μmol/gと計算された。これは、977μmol/gである従来技術の樹脂MagSepharose(4%アガロース、デキストランでグラフト化され、Qリガンドと結合)のリガンド濃度と比較することができる。したがって、本発明のQ結合アガロースビーズは、従来技術のQ結合アガロースビーズから予想されるよりもかなり高いリガンド濃度を有することが見出された。
【0052】
本発明のビーズの結合容量を調査した。ビーズをQリガンドと結合させ、ウイルスの結合容量を、以下の実験の部に詳細に記載したように測定した。本発明のビーズは、結合容量の点から同様の粒子サイズの従来技術のビーズよりも優れていることが見出された。
【0053】
したがって、一態様では、本発明は、約0.3~0.8%w/v又は約5~15mg/mLの乾燥質量のアガロース濃度を有し、必要に応じて磁性材料を含む、多孔性球状の架橋されたアガロースゲルビーズを提供する。
【0054】
本発明の一実施形態では、多孔性の架橋されたアガロースビーズの粒径は、40~200μmである。有利には、粒径は、例えば、80~120μm等の約50~150μmの範囲にある。
【0055】
一実施形態では、本発明は、リガンドが結合している多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズを提供する。
【0056】
適切なリガンドとしては、第四級アミンリガンド、サルフェートリガンド、ウイルス親和性リガンド、マルチモーダルリガンド等の帯電した基を、挙げることができる。
【0057】
本発明の典型的な実施形態では、リガンドは第四級アミンリガンドである。特に好ましいリガンドは、Qリガンド、すなわち、トリメチルアンモニウムリガンド等のトリアルキルアンモニウムリガンドである。
【0058】
一実施形態では、本発明は、リガンドがエキステンダーを介して結合している多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズを提供する。エキステンダーは、有利には、担体とリガンドとの間の距離を提供する、柔軟な非架橋ポリマーである。エキステンダーは、合成又は天然由来のポリマーから構成され得る。天然高分子の例としては、デキストラン、デンプン、セルロース、及びこれらの混合物を、挙げることができる。有利には、エキステンダーはデキストラン分子である。そのようなデキストランエキステンダーは、例えば、20~140kDaの範囲、有利には約50~90kDaの範囲の分子量等の10~200kDaの範囲の分子量であってもよい。
【0059】
或いは、エキステンダーは、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド又はポリビニルエーテルポリマー、又はそれらの任意の混合物等の合成ポリマーである。合成エキステンダーは、上記のデキストランエキステンダーと同様の分子量を有し得る。
【0060】
アガロースビーズは柔らかい材料であるため、大きな細孔はビーズの構造を弱める可能性があり、従来のカラムクロマトグラフィーでは、特に高流量で、ビーズを圧力に対して脆弱にする。大きな多孔質ビーズが望まれる用途に適した代替の分離方法は、磁気ビーズクロマトグラフィー又は磁気ビーズバッチ吸着である。要するに、この方法は、対象とする生体分子が結合されているリガンドを通常備えている磁気ビーズを使用する。次に、捕捉された生体分子を含む磁気ビーズを外部磁場で所定の位置に保持しながら、単に上澄みを注ぎ出すことによって上澄みを除去する。この方法ではビーズに圧力がかからないことにより、優しく穏やかであり、したがって敏感な標的分子にも適している。
磁気ビーズは、通常、非磁気ビーズの調製手順と同様の手順を使用して調製される。磁性材料は通常、乳化工程の間にビーズに組み入れられる。非磁気ビーズに関しては、磁気ビーズは通常、親和性リガンド又はイオン交換リガンド等の適切なリガンドを備えている。磁気ビーズの調製手順は、以下の実験の部に詳述されている。
磁気ビーズで使用するのに適した磁性粒子としては、例えば、磁鉄鉱が挙げられる。したがって、一実施形態では、多孔性のアガロースゲルビーズは、磁性粒子、例えば磁鉄鉱を更に含む。典型的には、この実施形態によれば、磁性粒子の量は、20~80g/Lアガロース溶液である。
【0061】
一態様では、本発明は、上記で定義された多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズを含む分離マトリックスに関する。このようなマトリックスは、生体分子等の粒子を液体中の他の成分から分離するのに有用である。有利な実施形態では、リガンドは、分離マトリックスを構成するビーズに結合している。結合した適切なリガンドは、上記の通りであり、単離される粒子に従って選択される。
【0062】
一態様では、本発明は、液体中の他の成分から少なくとも1つの粒子を分離する方法に関する。分離の目的は、所望の粒子を精製すること、又は液体から1つ又は複数の粒子を除去することである。したがって、一実施形態では、この方法は、前記粒子を含む液体を分離マトリックスと接触させることを含む。有利な実施形態では、分離マトリックスは、上記のマトリックスである。前記少なくとも1つの粒子が分離される液体は、発酵ブロス又は細胞培養上澄み等、この粒子が産生された培養液であってよい。或いは、液体は、ヒト又は動物に由来する血液、血清等の生物学的液体であってよい。そのような液体は、目的の粒子を分離することが望まれる様々な化合物を含み得る。
【0063】
一態様では、本発明は、液体中の少なくとも1つの粒子を液体中の他の成分から分離する方法であって、
a)粒子の吸着及び/又は吸収を可能にするために、液体を上記のような分離マトリックスと接触させる工程と、
b)必要に応じて、分離マトリックスを洗浄する工程と、
c)粒子を放出させる液体を加えることによってマトリックスから粒子を溶出させる工程と、
d)溶出液から粒子を回収する工程と、を含む方法に関する。
【0064】
一実施形態では、分離方法は、沈降、ろ過、デカンテーション若しくは遠心分離によって、又は磁性ビーズの場合には磁場によって、工程a)から液体及びマトリックスを分離する工程を更に含む。
【0065】
したがって、本発明によれば、ウイルス等の粒子は、液体中の他の、通常は望ましくない成分から分離される。液体は、ウイルス産生細胞が培養され、液体中の望ましくない成分が、例えば、宿主細胞タンパク質、栄養素の残留物、凝集体等である細胞培養液体であってよい。
【0066】
一実施形態では、上記の方法によって分離された粒子はウイルスである。特定の実施形態では、ウイルスはアデノウイルスである。
【0067】
本発明による分離方法は、粒子分離のための他の工程と組み合わせた精製プロトコルで使用することができる。例えば、ろ過及び/又は他のクロマトグラフィー法等の分離/精製方法は、本発明の分離方法と適切に組み合わせることができる。当業者は、そのような精製プロトコルにおける適切な工程及び方法、並びにそのような工程の順序を容易に定義することができる。
【0068】
一態様では、本発明は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、キレートクロマトグラフィー、共有結合クロマトグラフィーにおけるマトリックスとしての上記のような多孔性の架橋されたアガロースゲルビーズの使用に関する。
【実施例
【0069】
アガロースビーズを、3工程又は4工程、すなわち、
(a)アガロース溶液を乳化し、必要に応じて磁鉄鉱を添加する工程と、
(b-i)架橋する工程と、
(b-ii)必要に応じ、デキストラングラフト化する工程と、
(c)リガンドカップリングする工程と、で調製した。
磁鉄鉱を備えたビーズ、及び磁鉄鉱のないビーズを調製した。
【0070】
(a) アガロース溶液の乳化
2つの別個の溶液を調製した。
(W)蒸留水を入れた丸底フラスコにアガロース(0.5%w/v)を加えた。その混合物を、90℃を超える温度で約200rpmで撹拌した。すべてのアガロースを溶解してから、温度を50~60℃に下げた。
(O)エチルセルロースN50(Aqualon)を、トルエンを入れた乳化反応器に150rpmで撹拌しながら加えた。その溶液を、50~60℃に加熱した。
溶液(O)中のすべてのエチルセルロースN50を溶解してから、アガロース溶液(W)を約2分間の間に乳化反応器に注いだ。撹拌機の速度を上げ、粒径分布計(「Mastersizer 2000」、Metrohm社)を使用した粒径測定用の試料を15分ごとに採取した。各サンプリングの後に、所望の粒径が得られる(約100μm)まで、撹拌速度を上げた。次いで、撹拌速度を約225rpmに下げ、エマルジョンを0.5℃/分の速度で20℃まで冷却した。エマルジョンを撹拌しながらエタノールを入れたビーカーに注ぎ、ゲルを18時間沈殿させた。液体をデカントし、新しいエタノールを加え、この手順を4回繰り返した。次いで、蒸留水を加え、5回デカントした。粒径分布を測定し、ゲルの損傷を顕微鏡でチェックした。
Table 1(表2)に示すように、乳化用のエチルセルロースの温度と濃度を実験間で変化させた。
磁鉄鉱含有アガロースゲルの乳化手順は、アガロースの添加直後にアガロース-水混合物に磁鉄鉱(<5μ、Aldrich社)を添加して補完された非磁鉄鉱ゲルについて記載された通りであった。磁鉄鉱濃度は、50g/Lのアガロース溶液であった。
(b-i)架橋
【0071】
75%の濃度の乳化ビーズのスラリーを丸底フラスコ内で35℃に加熱した。2,55MのNa2SO4を溶液に加え、1時間溶解した。温度を1時間90℃(一実験では50℃)に上げ、次に1℃/分の速度で47℃に下げた。0,18MのNaOH(50%)をNaBH4と一緒に加え、次に追加のNaOH(50%)及びエピクロロヒドリン(ECH)を5時間の間隔で加えた。反応は14±2時間続いた。得られた樹脂を、ガラスフィルター上にて蒸留水で洗浄した。プロトタイプのうちのいくつかについては、2つの追加の架橋工程を行った。追加の架橋工程では、温度が50℃を超えず、NaBH4が加えられなかったことを除いて、条件は最初の架橋工程で説明したものと同じであった。得られた樹脂を、SEC、乾燥質量測定、及び光学顕微鏡で視覚的に調べた。
【0072】
(b-ii)デキストラングラフト化、必要に応じて
蒸留水中のデキストランの混合物(dextran T40、dextran 70(Amersham Biosciences社)、dextran 110(Pharmacosmos社))を、デキストランが溶解するまで丸底フラスコ内にて80rpmで撹拌した。
別のフラスコで、工程bからの架橋された樹脂に水を加え、事前に蒸留水で洗浄して排水した。混合物を300rpmで撹拌し、27℃の水浴中で温めた。NaOHペレットを加え、NaOHが溶解するまで混合物を放置した(約15分)。エピクロロヒドリン(ECH)を加え、混合物をエポキシ活性化のために2時間放置し、次に中性pHが得られるまで蒸留水で洗浄した。エポキシ活性化された樹脂を、デキストランの入ったフラスコに加え、続いて水を加え、混合物を120rpmで撹拌した。このフラスコを40℃の水浴に入れ、20分間放置した。次いで、20分間撹拌しながらN2ガスを溶液中に泡立たせた。NaOH(50%)及びNaBH4をスラリーに加え、この反応を18時間放置した。蒸留水を加え、樹脂をガラスフィルター上にて蒸留水で洗浄した。
【0073】
(c) リガンドカップリング
工程(b-i)又は(b-ii)からのビーズをNaOH(4~8M)で洗浄し、丸底フラスコに移し、次のいずれかを行った。
氷浴で冷却し、その後、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(GMAC)を、Table 1(表2)に示す量で加えた。反応混合物を氷浴上に10分間保持し、次に室温で18±2時間放置した。
或いは、
Na2SO4及びGMACを室温で加え、室温で10分後、反応混合物を35℃まで加熱し、35℃で18±2時間撹拌した。
得られた樹脂を蒸留水で洗浄した。
【0074】
アガロースビーズの調製に使用された実験パラメーターの要約を、Table 1(表2)に示す。特に明記しない限り、すべての樹脂は1回架橋されたものである。
【0075】
【表2】
【0076】
アガロースビーズ(非磁鉄鉱ビーズ)の乾燥質量の決定
アガロースビーズのスラリーを適切に撹拌し、プラスチックのパスツールピペットを使用して1mLのテフロンキューブに移した。真空をかけて(-0.8~-0.9バール)、樹脂表面が乾燥したら、試料を更に20秒間真空下に置いた。キューブを真空下で分割し、1mLの樹脂プラグをガラスフィルターに移し、アセトンで洗浄した。試料を105℃のオーブンで一晩乾燥させた後、デシケーター内で1時間真空下に置いてから、試料の質量を測定した。結果を、Table 2(表3)に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
細孔径の評価
調製されたビーズの細孔径を、NaCl及び4つの異なるデキストランタイプ、つまり著しく異なるサイズを備えた粒子の逆相SECによって分析した。
アガロース含有量が0.5%で、1回架橋されたビーズのスラリーを、上部に追加のカラム充填チューブを取り付けた24 mLのHR10/30カラム(GE Healthcare社)に注いだ。チューブの両端を密閉し、0.2MのNaCl緩衝液をカラムに流した。追加の充填チューブを取り外し、アダプターユニット及びフィルターに交換した。クロマトグラフィーを開始する前に、カラムを非対称性テストにかけ、カラムが正しく充填されていること、及び溶出されたピークが対称であることを確認した。SECを、HPLC(AKTA(商標)explorer、GE Healthcare社)によって行い、各試料の保持容量を屈折率計によって測定した。
【0079】
分析結果では、粒子間の溶出体積に有意差は見られなかったが、これは、ビーズに大きな粒子が入るのに十分な大きさの細孔があり、したがって、ウイルスや高分子の用途に適していることを示している。結果を、Table 3(表4)にまとめて示す。
【0080】
【表4】
【0081】
本発明に従って調製された3つの異なるビーズを、アデノウイルスのSECのマトリックスとして使用して、ビーズ中の架橋及び磁性材料の存在の効果を調査した。試験したビーズは、デキストラングラフト化されておらず、リガンドに結合されてないものであった。SECを、移動相として80%20mMのトリス緩衝液を含む0.2MのNaCl溶液を使用して、Agilent technologies社のHPLCシステム(1290 Infinity)で行った。結果を、Table 4(表5)にまとめて示す。
【0082】
【表5】
【0083】
ビーズ間の溶出体積に有意差は見られず、架橋及び磁性材料の存在がビーズの細孔径に有意な効果を及ぼさないことを示した。
【0084】
樹脂とアデノウイルスの間の相互作用がイオン相互作用のみであるかどうかを調べるために、アデノウイルスのサイズ排除クロマトグラフィーを、0.2MのNaClと0.4MのNaClの2つの異なる塩濃度の緩衝液を使用して、行った。1回架橋されているが、デキストラングラフト化されておらず、リガンド結合されていない磁鉄鉱含有樹脂を使用した。流量は0.09mL/分で、カラム容量は22.7mLであった。結果を、Table 5(表6)にまとめて示す。
【0085】
【表6】
【0086】
アデノウイルスと樹脂の間にイオン相互作用しかない場合、緩衝液のイオン強度を変更すると、溶出体積が変化するはずである。これは当てはまらないことが判明した。実際、緩衝液のイオン強度を2倍にすると、溶出体積は同じままであった。したがって、樹脂とアデノウイルスの間の相互作用は、イオン相互作用だけではないと結論付けることができる。
【0087】
Qリガンド密度の評価
調製されたビーズに結合されたQリガンドの量を、本発明によるQ結合されたアガロースビーズで構成される樹脂のイオン容量を測定することによって評価した。
樹脂を8倍樹脂体積の0.5MのHClで洗浄し、続いて16倍樹脂体積の1mMのHClで洗浄した。排出された樹脂(1mL)を、塩素イオン選択性電極を備えたプラスチックカップに移した。Milli-Q水中のポリビニルアルコールの溶液(6mL、0.2%w/w)を加えて、この電極を液体で覆った。混合物を撹拌し、塩化物電位を測定しながら、所定量の0.1MのAgNO3(10mL、過剰)を、溶液に滴定した。銀イオンを加えると、AgCl沈殿物が形成された。AgNO3の全量を加えてから、滴定を停止し、塩化物電位を決定した。塩化物電位はビーズに結合したQリガンドの濃度に関連している。測定には、Metrohm社の905 Titrandoと800 Dosinoを使用した。評価の結果を、Table 1(表2)にまとめて示す。
【0088】
Table 1(表2)から結論できるように、アガロースが1回架橋され、樹脂:GMACの比率が1:6(v/v)のビーズで、最高のイオン容量が得られた。更に、硫酸ナトリウムの濃度は、結果として生じる樹脂のイオン容量に大きな影響を及ぼすことが分かった。
【0089】
結合容量
調製された樹脂のアデノウイルスの結合容量をバッチ吸着試験で評価した。6つの異なるビーズを、テストした。
1)ウイルス供給原料は、精製アデノウイルスの試料を、300mMのNaClを含む20mMのpH8.0のトリス緩衝液で6.4×1010VP/mLの濃度に希釈することによって調製した。得られたウイルス供給原料を、-70℃に保った。
2)25%ビーズ/樹脂のスラリーを様々な量でエッペンドルフチューブにピペットで移した。その後、非磁気ビーズを7800×gの相対遠心力で1分間遠心分離し、マグラック(mag-rack)を使用して磁気ビーズを捕捉した。過剰な液体をピペットで除去した。
3)ウイルス供給原料(1mL)を各エッペンドルフチューブに加え、混合物を振とう台で混合しながら1時間インキュベートした。次いで、混合物を遠心分離し、上澄み(200μL)を、HPLC(粗ろ過機キット、及びQ Sepharose XL(商標)樹脂を充填したTricorn 550カラムを装備)によって分析した。平衡濃度c*、すなわち上清に残存しているウイルスの数を、UV検出によって決定した。ウイルス粒子の濃度を、本明細書では、体積あたりのウイルス粒子(VP/mL)として表示する。粗ウイルス供給原料の濃度(c0)は、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)によって決定した。
【0090】
各タイプのビーズの結合容量Qmaxは、以下の式(1)及び(2)を使用して計算した。
c0×Vbatch-c*×Vbatch=Q*×mp (1)
Q*=(Qmax×c*)/(Kd+c*) (2)
ここで、
c0は、生体分子の初期濃度であり、
c*は、生体分子の平衡濃度であり、
Vbatchは、バイオ懸濁液の体積であり、
Q*は、ビーズの平衡荷重であり、
mpは、粒子の質量であり、
Kdは、樹脂の解離定数である。
【0091】
本発明による2つの樹脂と従来技術の樹脂とのアデノウイルスの動的結合容量の比較研究を行った。樹脂をカラムに詰め、破過点を超えてアデノウイルス試料を充填した。使用したクロマトグラフィー条件は以下の通りであった。
試料:濃縮し、加えた300mMのNaClとともに20mMのpH8.0のトリスで透析ろ過したアデノウイルス
緩衝液:20mMのpH8.0のトリス+300mMのNaCl
滞留時間:10分
流量:0.2mL/分
0.5mLの画分を収集し、Q Sepharose XLのNaClグラジエントを使用したHPLCで分析して、破過がいつ起こったのかを判断した。結合容量は、破過点で充填されたウイルス粒子の総量(vp)をカラム床体積(mL)で割ったものとして計算した。
【0092】
結果を、Table 6(表7)にまとめて示す。
【0093】
【表7】