(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】リン酸鉄リチウム化合物プライマー層を含むリチウム二次電池用正極、およびこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20240604BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240604BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240604BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240604BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240604BHJP
H01M 4/36 20060101ALN20240604BHJP
H01M 4/58 20100101ALN20240604BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
H01M4/36 C
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2022558292
(86)(22)【出願日】2022-02-14
(86)【国際出願番号】 KR2022002135
(87)【国際公開番号】W WO2022177242
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】10-2021-0023120
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ジュリュン・キム
(72)【発明者】
【氏名】スン・ソ・ユン
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-515012(JP,A)
【文献】特表2009-525568(JP,A)
【文献】特開2017-063027(JP,A)
【文献】特開2007-035488(JP,A)
【文献】特表2020-512669(JP,A)
【文献】特開2012-028225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/62
H01M 4/66
H01M 4/36
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体、
前記正極集電体上に形成されるプライマーコーティング層、および
前記プライマーコーティング層
上に形成されている正極活物質層を含み、
前記プライマーコーティング層は、リン酸鉄リチウム化合物、バインダー、導電材および分散剤を含み、
前記リン酸鉄リチウム化合物は、下記の化学式1で表され、
前記分散剤は、水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)であり、
前記水素化ニトリルブタジエンゴムは、リン酸鉄リチウム化合物の重量を基準として0.4~2.0%の重量で含まれていて、
[化学式1]
Li
1+aFe
1-sM
s(PO
4-b)X
b
前記化学式1中、
Mは、Co、Ni、Al、Mg、TiおよびVの中から選択される1つ以上の元素であり、
Xは、F、S、またはNであり、
0≦s≦0.5;-0.5≦a≦+0.5;0≦b≦0.1である、リチウム二次電池用正極。
【請求項2】
前記リン酸鉄リチウム化合物は、一次粒子からなるか、または、前記一次粒子と前記一次粒子が凝集された形態の二次粒子との混合物である、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項3】
前記リン酸鉄リチウム化合物の一次粒子の平均直径(D50)が0.2~3.0μmであり、前記二次粒子の平均直径(D50)が7~25μmである、請求項2に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項4】
前記リン酸鉄リチウム化合物は、一次粒子および/または二次粒子が炭素コーティングされた形態である、請求項2に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項5】
前記水素化ニトリルブタジエンゴムのアクリロニトリル(AN)の含有量は、20~50重量%であり、前記水素化ニトリルブタジエンゴムに存在する残留二重結合(RDB)は、30%以下で含まれている、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項6】
前記水素化ニトリルブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、10,000~250,000である、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項7】
前記プライマーコーティング層に含まれる前記バインダーは、重量平均分子量(Mw)が500,000~1,200,000のポリフッ化ビニリデン(PVDF)である、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項8】
前記プライマーコーティング層は、1~5μmの厚さに形成されている、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項9】
前記正極活物質層は、50~300μmの厚さに形成されている、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項10】
前記正極活物質層は、リチウム遷移金属酸化物を正極活物質として含む、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項11】
前記リチウム遷移金属酸化物は、Ni、Mn、およびCoからなる群より選択される1種以上の遷移金属を含む、請求項10に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2021年2月22日付の韓国特許出願第10-2021-0023120号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、リン酸鉄リチウム化合物プライマー層を含むリチウム二次電池用正極、およびこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
化石燃料使用の急激な増加によって代替エネレギーやクリーンエネルギーの使用に対する要求が増加しており、その一環として最も活発に研究されている分野が電気化学を利用した発電、蓄電分野である。
【0004】
現在、このような電気化学的エネルギーを用いる電気化学素子の代表例として二次電池が挙げられ、次第にその使用領域が拡大する傾向にある。
【0005】
最近は、携帯用コンピュータ、携帯用電話、カメラなどの携帯用機器に対する技術開発と需要の増加に伴い、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増加しており、そのような二次電池の中で、高い充放電特性と寿命特性を示し、環境にやさしいリチウム二次電池について多くの研究が行われてきており、また、商用化されて幅広く使用されている。
【0006】
一般に、リチウム二次電池は、正極と負極および多孔性分離膜からなる電極組立体にリチウム非水系電解質を含浸させて製造する。
【0007】
このようなリチウム二次電池の負極活物質としては炭素材料が主に使用されており、リチウム金属、硫黄化合物などの使用も考慮されている。また、正極活物質としては主にリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)が使用されており、その他、層状結晶構造のLiMnO2、スピネル結晶構造のLiMn2O4などのリチウム含有マンガン酸化物と、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)の使用も考慮されている。
【0008】
さらに、最近は、熱的安定性に優れ、相対的に安価な、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)化合物が正極活物質として使用されたりもする。
【0009】
しかし、このようなリン酸鉄リチウム化合物は、熱的安定性に優れ、価格が安いというメリットにもかかわらず、エネルギー密度が他の物質に比べて低いため、高いエネルギー密度を要求する製品への使用が不適切である。
【0010】
また、前記リン酸鉄リチウム化合物は、電気伝導度とイオン伝導度が低いというデメリットがあって、前記リン酸鉄リチウム化合物の表面に炭素をコーティングさせて電気伝導度を改善し、粒子の大きさを減少させてイオン伝導度を改善して適用しているが、このように、粒子の大きさを減少させる場合には、比表面積が増加しながら、凝集が激しく発生して、既存のミキシング工程では分散性が低下し、スラリー固形分の含有量が低くなる問題もある。
【0011】
したがって、前記リチウム二次電池の特別な性能の低下なく全体的に優れた特性を有することができる正極に対する技術開発が切実なのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような従来技術の問題点と過去から要請されてきた技術的課題を解決することを目的とする。
【0013】
具体的には、本発明が解決しようとする課題は、熱的安定性を向上させながらも高いエネルギー密度を実現できる正極を提供すると同時に、正極の製造のためのスラリー特性に優れたリチウム二次電池用正極、およびこれを含むリチウム二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するための、本発明の一実施形態によるリチウム二次電池用正極は、
正極集電体、
前記正極集電体上に形成されるプライマーコーティング層、および
前記プライマーコーティング層に形成される正極活物質層を含み、
前記プライマーコーティング層は、リン酸鉄リチウム化合物、バインダー、導電材および分散剤を含み、
前記リン酸鉄リチウム化合物は、下記の化学式1で表され、
前記分散剤は、水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)であり、
前記水素化ニトリルブタジエンゴムは、リン酸鉄リチウム化合物の重量を基準として0.4~2.0%の重量で含まれていることを特徴とする。
[化学式1]
Li1+aFe1-sMs(PO4-b)Xb
上記化学式1中、
Mは、Co、Ni、Al、Mg、TiおよびVの中から選択される1つ以上の元素であり、
Xは、F、S、またはNであり、
0≦s≦0.5;-0.5≦a≦+0.5;0≦b≦0.1である。
【0015】
一つの具体例において、前記リン酸鉄リチウム化合物は、一次粒子からなるか、一次粒子と一次粒子が凝集された形態の二次粒子との混合物であってもよい。
【0016】
前記リン酸鉄リチウム化合物の一次粒子は、平均直径(D50)が0.2~3.0μmであり、二次粒子は、平均直径(D50)が7~25μmであってもよい。
【0017】
また、前記リン酸鉄リチウム化合物は、一次粒子および/または二次粒子が炭素コーティングされた形態であってもよい。
【0018】
一つの具体例において、前記水素化ニトリルブタジエンゴムのアクリロニトリル(AN)の含有量は、20~50重量%であり、前記水素化ニトリルブタジエンゴムに存在する残留二重結合(RDB)は、30%以下で含まれていてもよい。
【0019】
また、前記水素化ニトリルブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、10,000~250,000であってもよい。
【0020】
一つの具体例において、前記プライマーコーティング層に含まれる前記バインダーは、重量平均分子量(Mw)が500,000~1,000,000のポリフッ化ビニリデン(PVDF)であってもよい。
【0021】
一つの具体例において、前記プライマーコーティング層は、1~5μmの厚さに形成され、前記正極活物質層は、50~300μmの厚さに形成される。
【0022】
一つの具体例において、前記正極活物質層は、リチウム遷移金属酸化物を正極活物質として含むことができ、前記リチウム遷移金属酸化物は、Ni、Mn、およびCoからなる群より選択される1種以上の遷移金属を含むことができる。
【0023】
本発明の他の実施形態によれば、このような前記リチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に対する理解のために、本発明をさらに詳細に説明する。
【0025】
本明細書および特許請求の範囲に使用された用語や単語は通常または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自らの発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則り、本発明の技術的な思想に符合する意味と概念で解釈されなければならない。
【0026】
本明細書で使用される用語は単に例示的な実施形態を説明するために使用されたものであり、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は、文脈上明らかに異なって意味しない限り、複数の表現を含む。
【0027】
本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないことが理解されなければならない。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、
正極集電体、
前記正極集電体上に形成されるプライマーコーティング層、および
前記プライマーコーティング層に形成される正極活物質層を含み、
前記プライマーコーティング層は、リン酸鉄リチウム化合物、バインダー、導電材および分散剤を含み、
前記リン酸鉄リチウム化合物は、下記の化学式1で表され、
前記分散剤は、水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)であり、
前記水素化ニトリルブタジエンゴムは、リン酸鉄リチウム化合物の重量を基準として0.4~2.0%の重量で含まれているリチウム二次電池用正極が提供される。
[化学式1]
Li1+aFe1-sMs(PO4-b)Xb
上記化学式1中、
Mは、Co、Ni、Al、Mg、TiおよびVの中から選択される1つ以上の元素であり、
Xは、F、S、またはNであり、
0≦s≦0.5;-0.5≦a≦+0.5;0≦b≦0.1である。
【0029】
ここで、本発明による前記プライマーコーティング層は、集電体と正極活物質層との接着力および電気伝導性を向上させるだけでなく、熱的安定性を向上させるために適用される層で、一般的な正極活物質層とは異なって薄い厚さにコーティングされる。
【0030】
そのための前記プライマーコーティング層は、リン酸鉄リチウム化合物、バインダー、導電材、および分散剤を含む。
【0031】
ここで、前記リン酸鉄リチウム化合物は、詳しくは、LiFePO4であってもよいし、前記リン酸鉄リチウム化合物は、一次粒子からなるか、前記一次粒子と前記一次粒子が凝集された形態の二次粒子との混合物であってもよい。
【0032】
つまり、前記リン酸鉄リチウム化合物は凝集される傾向があって、主に二次粒子の形態で使用されるが、本発明によれば、比較的小さい大きさの一次粒子を用いることによって、イオン伝導度を高めることができる。
【0033】
ここで、前記一次粒子は、平均直径(D50)が0.2~3.0μm、詳しくは0.2~1.0μmであり、さらに詳しくは0.3~0.8μmであってもよいし、前記二次粒子は、平均直径(D50)が2~10μm、詳しくは2~5μmであってもよい。
【0034】
前記範囲を超えて、一次粒子が過度に小さい場合、分散性が顕著に低下し、固まるので、一次粒子の製造が難しく、過度に大きい場合には、二次粒子との差が少なく、イオン伝導度が低下しうるので、好ましくない。二次粒子が大きい場合にも、本願のコーティング層を均一にすることが難しく、イオン伝導度が低下しうるので、好ましくない。
【0035】
前記平均直径(Dn)は、直径に応じた体積累積分布のn%地点での粒径を意味する。つまり、D50は、粒径に応じた体積累積分布の50%地点での粒径である。
【0036】
前記平均直径(D50)は、レーザ回折法(laser diffraction method)を利用して測定することができる。具体的には、測定対象粉末を分散媒中に分散させた後、市販のレーザ回折粒度測定装置(例えば、Malvern社のMastersizer3000)に導入して、粒子がレーザビームを通過する時、粒子の大きさに応じた回折パターンの差を測定して粒度分布を算出する。測定装置における粒径に応じた体積累積分布の50%になる地点での粒子直径を算出することによって、D50を測定することができる。
【0037】
一方、前記リン酸鉄リチウム化合物は、前記プライマーコーティング層に使用されるので、電気伝導度に優れていることが好ましいので、詳しくは、前記リン酸鉄リチウム化合物の一次粒子および/または二次粒子が炭素コーティングされた形態であってもよい。
【0038】
このように、前記プライマーコーティング層に使用されるリン酸鉄リチウム化合物は、その大きさが小さくて、既存のスラリーミキシング工程では分散性が非常に低下し、スラリーの固形分含有量が低くなる問題があって、これに対する改善が必須である。
【0039】
したがって、本発明による前記プライマーコーティング層には前記リン酸鉄リチウム化合物と共に分散剤を含み、ここで、前記分散剤は、水素化ニトリルブタジエンゴム(Hydrogenated Nitrile Butadiene Rubber、HNBR)であってもよい。
【0040】
前記水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)は、ニトリルブタジエンゴム(NBR)を水素添加反応させて、元々ニトリルブタジエンゴム(NBR)に含まれていた二重結合が単一結合したものを意味する。
【0041】
ここで、前記水素化ニトリルブタジエンゴムのアクリロニトリル(AN)の含有量は、前記水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)の全体重量に対して20~50重量%であってもよく、詳しくは30~40重量%であってもよい。
【0042】
前記アクリロニトリル(AN)は極性、前記水素化ニトリルブタジエンは非極性を呈することから、前記アクリロニトリル(AN)の含有量が過度に少ないか、多い場合、プライマーコーティング層スラリーの製造時、溶媒内分散が好ましくない。
【0043】
また、前記水素化ニトリルブタジエンゴムに存在する残留二重結合(RDB)が30%以下、詳しくは20%以下、さらに詳しくは10%以下、最も詳しくは5%以下であってもよい。
【0044】
前記範囲を超えて、残留二重結合(RDB)の比率が過度に多くなる場合、電解液と副反応の可能性の増加およびプライマーコーティング層スラリーのゲル化など相安定性を低下させうるので、好ましくない。
【0045】
また、前記水素化ニトリルブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、10,000~250,000であってもよく、詳しくは150,000~250,000であってもよい。
【0046】
一方、このような前記水素化ニトリルブタジエンゴムは、前記リン酸鉄リチウム化合物の分散性を向上させながらも抵抗体として作用する問題を最小化するために、リン酸鉄リチウム化合物の重量を基準として0.4~2.0%の重量、詳しくは0.5~1.0%の重量で含まれる。
【0047】
前記水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)が0.4%未満で含まれる場合、分散粒度が減少するほどリン酸鉄リチウム化合物の表面積が増加し、増加した前記リン酸鉄リチウム化合物の表面を分散剤が十分に囲むことができずスラリーの粘度が大きく上昇することがあり、2.0%を超える場合、前記リン酸鉄リチウム化合物の表面に吸着できない過剰の分散剤が溶媒内に存在して、スラリーの粘度上昇の原因になりうる。
【0048】
また、前記プライマーコーティング層には、前記リン酸鉄リチウム化合物および分散剤のほか、導電材とバインダーが共に含まれる。
【0049】
前記導電材は、当該電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば特に制限されるわけではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが使用できる。
【0050】
市販の導電材の具体例としては、アセチレンブラック系のシェブロンケミカルカンパニー(Chevron Chemical Company)やデンカブラック(Denka Singapore Private Limited)、ガルフオイルカンパニー(Gulf Oil Company)製品など)、ケッチェンブラック(Ketjenblack)、EC系(アルマックカンパニー(Armak Company)製品)、バルカン(Vulcan)XC‐72(キャボットカンパニー(Cabot Company)製品)およびスーパー(Super)P(Timcal社製品)などがある。
【0051】
ここで、前記導電材の含有量は、前記プライマーコーティング層の全体重量を基準として、1~30重量%、詳しくは1~10重量%、さらに詳しくは1~5重量%含まれる。
【0052】
前記バインダーは、従来当業界にて知られた種類のバインダーであって、電極成分の接着力の向上が可能な種類であれば限定されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン‐ブタジエンゴム、およびフッ素ゴムからなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0053】
詳しくは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)であってもよいし、さらに詳しくは、重量平均分子量(Mw)が500,000~1,200,000、詳しくは700,000~1,000,000のポリフッ化ビニリデン(PVDF)であってもよい。
【0054】
前記PVDFを含む場合、リン酸鉄リチウム化合物と最も良い相安定性を有することができるので、好ましい。
【0055】
重量平均分子量が前記範囲を満足するPVDFを用いる時、高い接着力を有することができかつ、プライマーコーティング層スラリーの粘度増加による固形分減少などの問題が発生しないので、好ましい。
【0056】
ここで、前記バインダーは、前記プライマーコーティング層の全体重量を基準として1~10重量%、詳しくは1~5重量%含まれる。前記範囲を超えて、バインダーの含有量が過度に少ない場合、接着力が過度に低くてコーティング層の保持が難しく、過度に多い場合、抵抗が大きくなりうる。
【0057】
このような前記プライマーコーティング層は、1~20μmの厚さ、詳しくは1~10μm、さらに詳しくは1~5μmの厚さに形成される。
【0058】
前記範囲を超えて、過度に薄く形成される場合、本願がこれを適用することによって得ようとした熱的安定性を十分に確保できず、過度に厚く形成される場合、プライマー層の役割を果たすより活物質層のように作用するので、相対的に同一の体積内に本願の正極活物質層の体積が減少し、これによってエネルギー密度を高められる正極活物質の含有量が減少することから、二次電池の性能の面から好ましくない。
【0059】
一方、前記プライマーコーティング層上に形成される正極活物質層は、正極活物質をさらに含むことができ、前記導電材、およびバインダーをさらに含むことができ、選択的に、充填剤のような添加剤をさらに含むことができる。
【0060】
ここで、前記導電材とバインダーの例は上記で説明した通りであり、前記プライマーコーティング層に含まれる導電材およびバインダーとそれぞれ同一の物質または異なる物質が含まれてもよい。
【0061】
前記正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物を含むことができる。
【0062】
前記リチウム遷移金属酸化物は、例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)などの層状化合物や、1またはそれ以上の遷移金属で置換された化合物;化学式Li1+xMn2-xO4(ここで、xは0~0.33である)、LiMnO3、LiMn2O3、LiMnO2などのリチウムマンガン酸化物;リチウム銅酸化物(Li2CuO2);LiV3O8などのバナジウム酸化物;LiFe3O4などのリチウム鉄酸化物;化学式LiNi1-xMxO2(ここで、M=Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、BおよびGaから選択される1種以上であり、x=0.01~0.3である)で表現されるNiサイト型リチウムニッケル酸化物;化学式LiMn2-xMxO2(ここで、M=Co、Ni、Fe、Cr、ZnおよびTaから選択される1種以上であり、x=0.01~0.1である)またはLi2Mn3MO8(ここで、M=Fe、Co、Ni、CuおよびZnから選択される1種以上である。)で表現されるリチウムマンガン複合酸化物;LiNixMn2-xO4で表現されるスピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物;化学式のLiの一部がアルカリ土金属イオンで置換されたLiMn2O4などを含むことができる。
【0063】
詳しくは、Ni、Mn、およびCoからなる群より選択される1種以上の遷移金属を含むリチウム遷移金属酸化物であってもよい。
【0064】
つまり、本発明によれば、リン酸鉄リチウム化合物および分散剤を含むプライマーコーティング層上に正極活物質層が形成され、前記正極活物質層は、リン酸鉄リチウム化合物は含まず、リチウム遷移金属酸化物を正極活物質として含む形態である。万一、正極活物質層も、リン酸鉄リチウム化合物を正極活物質として用いる場合には、電圧の駆動範囲が3.6V以下で使用可能になり、この場合、エネルギー密度が低下することから、本発明において、前記リン酸鉄リチウム化合物は、プライマーコーティング層にのみ含まれることが好ましい。
【0065】
このような前記正極活物質層は、その厚さが限定されないが、例えば、50~300μmの厚さに形成される。
【0066】
一方、前記正極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば特に制限されるわけではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使用できる。また、前記第1正極集電体は、通常3~500μmの厚さを有することができ、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して第1正極合剤層の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態で使用できる。
【0067】
一方、本発明のさらに他の実施形態によれば、前記リチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池が提供される。
【0068】
前記リチウム二次電池は、前記正極と共に、負極、および前記正極と負極との間に介在する分離膜を含む電極組立体が、リチウム非水系電解質と共に、電池ケースに内蔵されている構造からなる。
【0069】
このようなリチウム二次電池のその他の構成要素と、構造などは当業界にて知られた内容で本発明に取り込まれ、したがって、これに関する具体的な説明を省略する。
【0070】
以下、本発明の好ましい実施例、これに対比される比較例、これらを評価する実験例を記載する。しかし、前記実施例は本記載を例示するものに過ぎず、本記載の範疇および技術思想の範囲内で多様な変更および修正が可能であることは当業者にとって自明であり、このような変形および修正が添付した特許請求の範囲に属することは当然である。
【0071】
<製造例1>
一次粒子LiFePO4(平均直径(D50):0.5±0.15μm)、HNBR分散剤(Mw:220,000±30,000、ANの含有量:35±3wt%、RDB0~5%)を、100:1の重量比でNMP溶媒下で固形分61%となるように混合してスラリーを製造した。
【0072】
<製造例2>
一次粒子LiFePO4(平均直径(D50):0.5±0.15μm)を、NMP溶媒下で固形分61%となるように混合してスラリーを製造した。
【0073】
<実験例1>
前記製造例1および製造例2で製造されたスラリーの粘度、およびLFP粒子の平均直径(D50)を測定して、下記表1に示した。
【0074】
前記LFPの平均直径は、レーザ回折粒度分析器(Malvern社のMastersizer3000)を用いて、粒子がレーザビームを通過する時、粒子の大きさに応じた回折パターンの差を測定して粒度分布を算出する。測定装置における粒径に応じた体積累積分布の50%となる地点での粒子直径を算出することによって、D50を測定した。
【0075】
【0076】
前記表1を参照すれば、分散剤の含有により、LFPの分散がうまく行われて粒子間のかたまりが少ないので、D50が依然として一次粒子の大きさと類似し粘度が高くならないのに対し、製造例2は分散剤が含まれないことによって、LFPが互いにかたまることによって粒子直径および粘度が上昇することが分かる。
【0077】
<実施例1>
一次粒子LiFePO4(平均直径(D50):0.5±0.15μm)、HNBR分散剤(Mw:220,000±30,000、ANの含有量:35±3wt%、RDB0~5%)、導電材(カーボンブラック)、およびバインダー(PVDF、Mw:700,000±50,000)を、重量を基準として94.5:1:1.5:3となるようにNMP溶媒下で混合してプライマースラリーを製造した。ここで、固形分は45%となるようにした。
【0078】
前記スラリーをAl箔(厚さ:12μm)に5μmの厚さにコーティング、乾燥してプライマーコーティング層を形成した。
【0079】
以後、正極活物質としてLiCoO2、導電材(カーボンブラック)、およびバインダー(PVDF、Mw:700,000±50,000)を、重量を基準として95.5:1.5:3となるようにNMP溶媒下で混合して活物質スラリーを製造した。
【0080】
前記活物質スラリーを前記プライマーコーティング層上に100μmの厚さにコーティング、乾燥して活物質層を形成して正極を製造した。
【0081】
<実施例2>
前記実施例1において、一次粒子LiFePO4(平均直径(D50):0.5±0.15μm)、HNBR分散剤(Mw:220,000±30,000、ANの含有量:35±3wt%、RDB0~5%)、導電材(カーボンブラック)、およびバインダー(PVDF、Mw:700,000±50,000)を、重量を基準として88.1:0.9:3:8となるようにNMP溶媒下で混合してプライマースラリーを製造し、ここで、固形分は45%となるようにしたことを除けば、実施例1と同様に正極を製造した。
【0082】
<比較例1>
前記実施例1において、一次粒子LiFePO4(平均直径(D50):0.5±0.15μm、導電材(カーボンブラック)、およびバインダー(PVDF、Mw:700,000±50,000)を、重量を基準として95.5:1.5:3となるようにNMP溶媒下で混合してプライマースラリーを製造し、ここで、固形分は45%となるようにしたことを除けば、実施例1と同様に正極を製造した。
【0083】
<実施例3>
前記実施例1において、プライマースラリーを25μmの厚さにコーティングし、活物質スラリーを80μmの厚さにコーティングしたことを除けば、同様に正極を製造した。
【0084】
<実施例4>
前記実施例1において、プライマースラリーを10μmの厚さにコーティングし、活物質スラリーを90μmの厚さにコーティングしたことを除けば、同様に正極を製造した。
【0085】
<比較例2>
前記実施例1において、プライマースラリーをコーティングせず、活物質スラリーを105μmの厚さにコーティング、乾燥したことを除けば、同様に正極を製造した。
【0086】
<比較例3>
前記実施例1で製造されたプライマースラリーを105μmの厚さにコーティング、乾燥し、正極活物質スラリーは適用しないことを除き、実施例1と同様に正極を製造した。
【0087】
<実験例1>
負極活物質として、人造黒鉛のMCMB(mesocarbon microbead)、カーボンブラック導電材、SBRバインダー、およびCMCを、H2O溶媒中で重量比95.8:0.5:2.5:1.2の比率で混合して負極活物質スラリーを製造し、これを銅箔(厚さ:8μm)に65μmの厚さに塗布して負極を製造した。
【0088】
前記のように、実施例1~3、比較例1~2で製造された正極と前記負極との間に多孔性ポリエチレンの分離膜を介在して電極組立体を製造し、前記電極組立体をケースの内部に位置させた後、ケースの内部に電解液を注入してリチウム二次電池を製造した。ここで、電解液は、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート(EC/DMC/EMCの混合体積比=3/4/3)からなる有機溶媒に、1.0Mの濃度のリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)を溶解させて製造した。
【0089】
抵抗:前記製造したリチウム二次電池を25℃で定電流/定電圧(CC/CV)の条件で4.35V/38mAまで1Cで充電した後、定電流(CC)の条件で2.5Vまで2Cで放電し、その放電容量を確認する。次に、前記と同一に充電後、放電を先に確認された放電容量の50%だけ進行させる。そして、2.5Cで10秒間放電させた後、放電前と後の電圧差を用いて抵抗を計算する。
【0090】
高温容量維持率(%):前記製造したリチウム二次電池を45℃で定電流/定電圧(CC/CV)の条件で4.35V/38mAまで1Cで充電した後、定電流(CC)の条件で2.5Vまで2Cで放電し、その放電容量を測定した。これを1~200サイクルで繰り返し実施し、(200サイクル後の容量/1サイクル後の容量)×100で計算された値を高温容量維持率(%)として示した。
【0091】
インパクト(Impact):前記製造したリチウム二次電池を常温で定電流/定電圧(CC/CV)の条件で4.35V/38mAまで1Cで満充電した後、9.8kgのbarを61cmの高さから自由落下させてセルに衝撃を加え、衝撃を加えた後、1時間維持させた時、温度が50℃未満に低下する場合、Pass(合格)と判断した。
【0092】
釘刺し(Nail Penetration):前記製造したリチウム二次電池を常温で定電流/定電圧(CC/CV)の条件で4.35V/38mAまで1Cで満充電した後、GB/Tの条件(釘の直径3mm、貫通速度150mm/sec)で釘刺し試験を行った。釘刺し後1時間維持し、温度が50度未満に低下するとPass(合格)と判断した。
【0093】
前記測定結果を下記表2に示した。
【0094】
【0095】
前記表2を参照すれば、本発明による実施例1と比較例1を検討すれば、分散剤を導入することによって、分散性の向上で抵抗も減少させ、熱的安定性を向上させてインパクトおよび釘刺しによる問題を効果的に解決することができる。
【0096】
また、比較例2のように最初からプライマーコーティング層を形成しない場合には、インパクトおよび釘刺し試験をすべて通過できず、熱的安定性が顕著に低下することを確認できる。
【0097】
さらに、比較例3のように、分散剤を用いて正極活物質層のみ形成する場合には、プライマーコーティング層を薄く形成するのに対し、安全性は確保しても、抵抗が増加しながら、相対的に活物質量が減少して容量維持率が減少する問題がある。
【0098】
一方、実施例1および実施例2を比較すれば、プライマーコーティング層のバインダーの含有量が多くなる場合、抵抗が増加し、容量の面から低下しうることから、5重量%以下で含まれることがさらに好ましい。
【0099】
また、実施例1および実施例3、4を検討すれば、インパクトおよび釘刺しへの効果を確認できるが、実施例3、4のようにプライマーコーティング層を厚く形成する場合、安全性はむしろ減少しながら、高い容量を発揮する正極活物質層が相対的に減少して抵抗が大きくなり、容量維持率が減少するというデメリットがあり、エネルギー密度の面からも不利である。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上説明したように、本発明の一実施形態によるリチウム二次電池用正極は、リン酸鉄リチウム化合物をプライマーコーティング層として適用して熱的安定性を向上させると同時に、実質的な容量はその他のリチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質層を別途に適用してエネルギー密度を向上させる効果がある。
【0101】
また、一般の導電材のみを含むプライマーコーティング層を適用したものと比較すれば、リン酸鉄リチウム化合物を含むことによって容量増加に寄与できる効果があり、前記リン酸鉄リチウム化合物の分散性低下の問題を少ない含有量の分散剤の投入で解決することによって、分散性の低下によって現れるスラリー工程性の問題などを解決して、前記プライマーコーティング層の適用による電気伝導度などのリチウム二次電池の性能向上を効果的に発揮することができる。
【0102】
本発明の属する分野における通常の知識を有する者であれば、上記の内容に基づいて本発明の範疇内で多様な応用および変形を行うことが可能である。