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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】窒素ドープグラフェンおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/19 20170101AFI20240604BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20240604BHJP
【FI】
C01B32/19
H01G11/36
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022567577
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-15
(86)【国際出願番号】 CZ2021050016
(87)【国際公開番号】W WO2021223783
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】20173178.3
(32)【優先日】2020-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519016066
【氏名又は名称】ウニヴェルジタ パラケーホ ヴ オロモウツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】オチェプカ,ミカル
(72)【発明者】
【氏名】バカンドリッソス,アリェスティデス
(72)【発明者】
【氏名】セダホヴァ,ヴェロニカ
(72)【発明者】
【氏名】ヤクベック,ペトル
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】Diancheng Duan et al.,Journal of Materials Science: Materials in Electronics,2019年,DOI:10.1007/s10854-019-02316-7
【文献】Yelyn Sim et al.,Applied Surface Science,2019年12月23日,Vol.507,DOI:10.1016/j.apsusc.2019.145157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00
H01G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のa)~e)の工程を含む、窒素ドープグラフェンの製造方法:
a)フッ素化グラファイトの分散液を提供する工程;
b)前記フッ素化グラファイトの分散液を超音波処理および/または機械的処理および/または熱処理にかける工程;
c)工程b)の生成物を40℃~200℃の範囲内の温度でアジド試薬と接触させる工程;
d)工程c)で形成された固体生成物を混合物から分離する工程;
e)工程d)で得られた生成物を、水を透析液として用いて透析する工程。
【請求項2】
出発物質である前記フッ素化グラファイト中のフッ素の初期含有量は、試料中に存在し、Al-Kα線源を使用するX線光電子分光法(XPS)によって決定される全ての原子に対して、少なくとも40at%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
出発物質である前記フッ素化グラファイト中のフッ素の初期含有量は、試料中に存在し、Al-Kα線源を使用するX線光電子分光法(XPS)によって決定される全ての原子に対して、少なくとも45at%または少なくとも50at%である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)にて調製される前記分散液は、極性有機溶媒中のフッ素化グラファイトの分散液である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記極性有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、グリコール、およびそれらの混合物から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記グリコールは、エチレングリコールである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
アジド試薬は、工程b)からの混合物に、粉末の形態で、または極性溶媒中の懸濁液の形態で添加される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記極性溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリジン、グリコール、およびそれらの混合物から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記グリコールは、エチレングリコールである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アジド試薬は、金属アジドおよびトリ(C1~C4)アルキルシリルアジドから選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記アジド試薬は、NaN 、KN 、LiN 、Pb(N 、トリメチルシリルアジドから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
フッ素化グラファイトを含有する工程b)の前記生成物を前記アジド試薬と接触させた後、混合物を70℃~170℃の範囲内の温度で加熱し、前記加熱する工程を、少なくとも4時間行う、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は窒素ドープグラフェンの新規な製造方法に関する。本方法は、高窒素ドーピングおよびいくらかの残留フッ素含有量を有するグラフェンを提供する。得られた材料は、高い出力密度で高い体積エネルギー密度を有するスーパーキャパシタ用の電極を形成することを可能にする。
【0002】
〔背景技術〕
スーパーキャパシタは、顕著に優れた品質(例えば、急速な充電能力/放電能力(すなわち、高い出力密度)および延長されたサイクル寿命など)を有するエネルギー貯蔵技術を表す。出力密度を犠牲にすることなく、電池のエネルギー密度よりも約1桁低いエネルギー密度を増加させることに、多大な努力が払われている。スーパーキャパシタセルの電解質中に溶解したイオンの電極材料の表面への吸着/脱着は、スーパーキャパシタのエネルギー貯蔵メカニズムに関与する。これらの界面現象の重要性のために、高い表面積の多孔質炭素に集中して努力が払われてきた。しかし、このような炭素は非常に低密度(約0.3~0.5g/cm)であり、電極中に電解質で満たされた大きな空き空間をもたらす。したがって、界面ではなく電解質で満たされた細孔の空間は、静電容量を増加させず、材料のエネルギー密度を制限する。
【0003】
イオンの吸着およびスーパーキャパシタ性能を改善するためのさらなる戦略は、窒素または他の元素をドープすることによって、炭素またはグラフェン系電極の表面をより極性にすることである。炭素中の窒素ドーピングは、電子伝導性および濡れ性の観点から有益であり、また擬似容量(酸化還元製造方法による電荷貯蔵)の原因ともなる。原則として、窒素ドープグラフェンは、現在、直接合成法(例えば、化学蒸着、アーク放電、および偏析成長技術など)、または後処理(例えば、窒素プラズマ処理による、および、熱、超音波、ソルボサーマル、またはマイクロ波処理中の窒素含有分子との相互作用による)の2種類の方法によって提供される。達成される通常の窒素含有量は、1~8at%である。
【0004】
特定のケースでは、グラフェン系材料は、窒素でスーパードープ(約10at%より高いドーピングに使用される用語)された。このとき、グラフェン前駆体はN-ドーピング反応の前にまずフッ素化され、NおよびFを含有する誘導体を与えた。フッ素化は、最大で12.5at%(例えば、J.Chem.Tech.Biotech.,2019,vol.94,3530-3537を参照のこと)まで、および最大で30at%(Yuan Liu et al,Nature Comm.2016,vol.7,10921を参照のこと)までの窒素でのより高いドーピングを可能にするために、グラフェンシートに空孔/欠陥を形成するために使用される。前者のケース(J.Chem.Tech.Biotech.,2019,vol.94,3530-3537を参照のこと)では、225F/gの静電容量が得られ、0.12kW/kgの出力密度におけるエネルギー密度は7.8Wh/kgであった。後者のケースでは、30at%のNを含有するグラフェン材料を、3電極系(1つの作用電極)におけるスーパーキャパシタ電極として試験した。390F/gの静電容量が得られたが、0.5kW/kgの出力密度における重量エネルギー密度は8.6Wh/kgと非常に限られていた。グラフェン上に最大で15.8at%までの窒素含有量をもたらす極めて類似した手順が、上述の研究の著者らによって、Adv.Mater.2017,vol.29(36),1701677にて発表された。このケースでは、フルセル装置(活物質を有する2つの電極)で材料を試験し、280F/gの性能で、6.2Wh/kgのエネルギー密度における出力密度は0.12kW/kgであった。そのような重量エネルギー密度は、スーパーキャパシタの競争力を高めるためには極めて低い。そのような重量密度で90Wh/Lに達するには(プレスされたグラフェン系電極または緻密化されたグラフェン系電極(後述参照)で達成されているが)、10g/cmを超える密度が必要であり、これは炭素系材料では不可能である。比較のために、グラファイト、ダイアモンドおよび金属鉄の密度は、それぞれ2.26g/cm、3.51g/cmおよび7.87g/cmである。別の戦略(J.Mater.Chem.A,2019,vol.7,3353-3365を参照のこと)では、フッ素化グラファイトを用いて、窒素含有分子(例えば、エチレンジアミン)によるグラフェンの共有結合修飾を促進し、グラフェン骨格の平面外に電気活性窒素原子(15at%)および少量のフッ素(0.5at%~2at%)を含有するグラフェン系ネットワークを得た。同じ研究はまた、フッ化グラファイトとエチレンジアミンとの反応において、ナトリウムアミドを添加することによって、最終窒素含有量が増加したことを報告した。この生成物を用いたスーパーキャパシタ装置は、326F/gを与え、7kW/kgの出力密度におけるエネルギー密度は18Wh/kgであった。毛管圧縮を適用することによって、生成物の密度は0.13g/cmから1.33g/cmに増加し、9kW/Lにおいて20Wh/Lのより高い体積エネルギー密度をもたらした。
【0005】
本発明により関連するスーパーキャパシタの体積エネルギー密度を増加させる戦略は、利用できない体積を回避するために、しかし電解質のイオンを吸着する能力を犠牲にすることなく、活性電極材料の細孔径を制御することによって、それらの密度を増加させることである。Muraliらは、Nano Energy 2013,vol.2,764-768にて、炭素(グラフェン系)電極を圧縮して、密度を0.34g/cmから0.75g/cmに増大させ、体積エネルギー密度を26Wh/Lから48Wh/Lに著しく向上させた。そのすぐ後、X.Yangら(Science 2013,vol.341,534-537を参照のこと)は、グラフェン系電極の密度をさらに増大させるために、イオン性液体の存在下で、化学的に還元されたグラフェンゲルの毛管緻密化を使用して、1.3g/cmの密度を達成した。本生成物は、1.1kW/Lにおいて90Wh/Lを実現した。毛管濃縮は緻密化を助け、非蒸発イオン性液体の存在はグラフェンシートの再充填を防ぎ、電荷貯蔵と輸送特性の保存に寄与することを示唆した。一年後に、Nature Commun.2014,vol.5,5554にて、化学的に還元された酸化グラフェンをHで処理することによって、シートに多孔構造が生じ、三次元的なイオンの貯蔵および輸送を促進する代替方法であることが証明された。これは、機械的圧縮の後、0.7g/cmの密度、および85Wh/Lと同程度のエネルギー密度をもたらし、1.75kW/Lの改善された出力密度をもたらした。高密度ヘテロ原子トリドープ炭素および代替毛管緻密化によって体積エネルギー密度を高める他の試みは、それぞれ40Wh/Lおよび65Wh/Lを達し、実現性のないことが証明された。この値は、約90Wh/Lにおいては、市販の高性能活性炭よりも約5倍高く、したがって鉛酸電池および金属水素化物電池と競合することができる。しかし、理論的には、グラフェンは300Wh/Lもの高さに達し得る。それらの比類のない出力密度および安定性と組み合わせたならば、スーパーキャパシタを競争的なエネルギー貯蔵技術に変えるための課題が提起される。
【0006】
一般的には、2kW/Lより高い出力密度において約90Wh/Lより高い体積エネルギー密度を有するスーパーキャパシタ電極の製造のための、このような窒素、または窒素およびフッ素を含むグラフェン材料の利用、または2.26g/cm(これは、バルクグラファイトの密度である)より高いグラフェン材料およびそれぞれの電極製剤の質量密度は、まだ達成されていない。
【0007】
〔発明の開示〕
本発明は、以下のa)~e)の工程を含む、窒素ドープグラフェンの製造方法を提供する:
a)フッ素化グラファイトの分散液を提供する工程;
b)前記フッ素化グラファイトの分散液を超音波処理および/または機械的処理および/または熱処理にかける工程;
c)工程b)の生成物を40℃~200℃の温度でアジド試薬と接触させる工程;
d)工程c)で形成された固体生成物を混合物から分離する工程;
e)生成物を水に対して透析する工程。
【0008】
用語「フッ素化グラファイト」は、フルオログラファイト、フッ化グラファイト、フッ素化グラファイト、およびこれらの材料が剥離した形態を含む。フッ素化グラファイトは、ポリ(カーボンモノフルオライド)、カーボンモノフルオライド、またはポリ(カーボンフルオライド)の名称で販売されている。出発物質であるフッ素化グラファイト中のフッ素の初期含有量は、試料中に存在し、Al-Kα線源を使用するX線光電子分光法(XPS)によって決定される全ての原子に対して、典型的には少なくとも40at%、より好ましくは少なくとも45at%または少なくとも50at%である。
【0009】
用語「Nドープグラフェン」または「窒素ドープグラフェン」は、グラフェン格子にN原子(窒素原子)が組み込まれたグラフェンを意味する。この用語には、単層グラフェンも、複数のグラフェン層を含む部分(例えば、薄片)または微粒子との混合物中に単層グラフェンを含む材料も、包含される。しかし、この用語は、少しの割合(例えば、最大で10%まで、または最大で5%まで)の窒素原子が面外置換基(例えば、アミノ基)として炭素原子に結合している、すなわち、窒素原子がグラフェン格子に組み込まれていないグラフェンも含む。この用語は、同様に、少量のフッ素が存在するグラフェンも包含する(最大で16.6at%まで、好ましくは5at%未満)。
【0010】
機械的処理は、好ましくは、高せん断混合、撹拌、激しい撹拌、磁気バーでの撹拌、機械的撹拌機での撹拌から選択される少なくとも1つの処理を含む。
【0011】
熱処理は、好ましくは、工程b)における分散液を、50℃~250℃、または80℃~200℃、またはより好ましくは100℃~150℃の範囲内の温度で加熱する工程を含む。また、通常の大気圧よりも高い圧力でのソルボサーマル反応器内での処理を含んでもよい。
【0012】
工程a)で調製される分散液は、溶媒中のフッ素化グラファイトの分散液である。溶媒は、好ましくは極性溶媒、または極性溶媒と非極性溶媒との混合物である。溶媒は、好ましくはジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、グリコール(例えば、エチレングリコールなど)、およびそれらの混合物から選択され得る。極性の低い溶媒または非極性の溶媒(例えば、アセトニトリル、ベンゼン、トルエン、またはクロロベンゼンなど)を、極性有機溶媒(例えば、DMF、NMP、DMSO、DMA)と組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明はまた、アジド試薬との反応のために使用される溶媒とは異なる溶媒が、超音波処理および/または機械的処理および/または熱処理のために使用される実施形態も包含する。
【0014】
超音波処理および/または機械的処理および/または熱処理の工程は、フッ素化グラフェンおよび/または剥離フッ素化グラファイト粒子を含有する混合物を生じる。超音波処理は、典型的には20kHz~100kHzの周波数範囲で、少なくとも2時間、より好ましくは少なくとも3時間、さらにより好ましくは少なくとも4時間行われる。熱処理は、典型的には40℃~200℃で、少なくとも1時間、好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも24時間、さらにより好ましくは80時間行われる。機械的処理は、最も典型的には高せん断混合または磁気バー撹拌によって行われる。
【0015】
アジド試薬は、好ましくは粉末の形態で、または溶媒中の懸濁液の形態で、反応溶媒に添加される。
【0016】
溶媒は、好ましくは極性溶媒である。溶媒は、好ましくはジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、グリコール(例えば、エチレングリコールなど)、およびそれらの混合物から選択され得る。極性の低い溶媒または非極性の溶媒(例えば、アセトニトリル、ベンゼン、トルエン、またはクロロベンゼンなど)を、極性有機溶媒(例えば、DMF、NMP、DMSO、DMA)と組み合わせて用いてもよい。特に好適な実施形態では、溶媒は、工程b)で調製されたフッ素化グラフェンの分散液を調製するために使用される溶媒と同じである。
【0017】
アジド試薬は、好ましくは金属アジド、トリ(C1~C4)アルキルシリルアジドから選択され得る。より好ましくは、アジド試薬は、NaN、KN、LiN、Pb(N、トリメチルシリルアジドから選択される。
【0018】
フッ素化グラフェンを含有する工程b)の生成物をアジド試薬と接触させた後、混合物は、典型的には40℃~200℃、好ましくは70℃~170℃、さらにより好ましくは100℃~140℃の範囲内の温度で加熱される。加熱する工程は、好ましくは少なくとも4時間、好ましくは4時間~20日間、さらにより好ましくは少なくとも8時間、より一層好ましくは少なくとも24時間、さらにより好ましくは少なくとも2日間(48時間)、または少なくとも3日間(72時間)行われる。加熱期間が長ければ長いほど、窒素ドーピングは高くなる。
【0019】
生成物(窒素ドープグラフェン)を単離する工程は、公知の技術(例えば、遠心分離、沈降、または濾過など)によって行うことができる。
【0020】
本発明の方法は、窒素原子およびフッ素原子を含有するグラフェンを調製することを可能にする。最終的な窒素ドープグラフェンは通常、残留フッ素原子を含有するが、この方法は先行技術において知られているほとんどの方法よりも高い窒素ドーピングを確実に達成することを可能にする。達成される窒素ドーピングは、工程c)の反応を4時間行うならば少なくとも8.9at%であり、工程c)の反応を24時間行うならば少なくとも13.9at%であり、工程c)の反応を72時間行うならば少なくとも16.1at%である。調製された窒素ドープグラフェンは、80kNで1分間プレスされたときの密度が1.2g/cmを超え、好ましくは80kNで1分間プレスされたときの密度が1.4g/cmを超える。この製造方法は、80kNで1分間プレスされたときの密度が2g/cm以上を達成することを可能にする。実施例中の最高密度は、80kNで1分間プレスされたときに2.7g/cmであった(工程c)の反応を72時間行った場合)。そのような密度は、これまでに調製されたどのようなグラファイトまたはグラフェンもしくはグラフェン誘導体の密度よりも高い。これらの特性を達成することを可能にする製造方法は単純かつ有効であり、経済的に有効な出発化合物を使用する。
【0021】
特に、本発明の方法は、このような高い窒素ドーピングを達成することができる唯一の湿式の化学的方法である。さらに、本発明の方法は、比較的低い反応温度で高い窒素ドーピングを達成する唯一の方法である。
【0022】
窒素ドープグラフェンはパラメータのバランスが取れており、当技術分野で知られている材料に典型的な欠点を伴わずに、スーパーキャパシタ電極としての使用を可能にする。特に、前例のない密度と電解質からイオンを吸収する能力の維持とを組み合わせると、超高体積エネルギー密度がもたらされ、これは、これまでの従来技術におけるNおよびFを含有するどのようなグラフェン系スーパーキャパシタ材料よりも高い。実施例に記載されている体積エネルギー密度の最高達成値は、5.2kW/Lの体積出力密度において、約170Wh/Lであった。
【0023】
本発明のさらなる目的は、少なくとも8.9at%(好ましくは、少なくとも13.9at%)の窒素、および最大で16.6at%まで(好ましくは、最大で5at%まで)のフッ素を含有する窒素ドープグラフェンである。ここで、at%は、試料中に存在し、Al-Kα線源を使用するX線光電子分光法(XPS)によって決定される全ての原子に対する。該窒素ドープグラフェンは、80kNで1分間プレスされたときの密度が1.2g/cmを超える(好ましくは、80kNで1分間プレスされたときの密度が1.4g/cmを超える)。
【0024】
高密度は、主に水に対する透析の工程によって達成される。
【0025】
好ましくは、窒素ドープグラフェンは、試料中に存在し、Al-Kα線源を使用するX線光電子分光法(XPS)によって決定される全ての原子に対して、少なくとも16at%(より好ましくは、少なくとも16.1at%)の窒素、および/または、最大で5at%まで(より好ましくは最大で2at%まで、さらにより好ましくは最大で1.5at%まで)のフッ素を含む。
【0026】
試料中に存在し、Al-Kα線源を使用するX線光電子分光法(XPS)によって決定される全ての原子に対して、典型的には少なくとも約0.1at%、または約0.3at%であるフッ素の最小残留含有量が存在する。
【0027】
本発明の製造方法による窒素ドープグラフェン中の窒素含有量は、試料中に存在し、Al-Kα線源を使用するX線光電子分光法(XPS)によって決定される全ての原子に対して、約20at%の最高値に達することができる。
【0028】
好ましくは、生成物は、80kNで1分間プレスされたときの密度が2g/cmを超える。
【0029】
密度の測定は、20マイクロリットルの溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドン)中に分散された4mgの材料をアルミニウム箔上に塗布し、分散液を乾燥させ、次いで80kNで1分間プレスすることによって実施した。
【0030】
いくつかの実施形態では、生成物は、77KでのNの吸着/脱着の測定によって測定される表面積(BET)が、50m/g~200m/gの範囲内、より好ましくは、55m/g~150m/gの範囲内である。
【0031】
本発明の別の態様は、スーパーキャパシタ材料としての上述の窒素ドープグラフェンの使用である。本発明の窒素ドープグラフェンは、高い体積エネルギーおよび高い出力密度と、サイクル時の高い静電容量安定性とを有する。高い体積容量を生じる材料に固有の特性は、プレス後における高い密度である。
【0032】
高密度(典型的には、80kNで1分間プレスしたときの密度が、少なくとも1.4g/cm)は、生成物で達成可能な体積エネルギー密度および体積出力密度を高くする。体積エネルギー密度は、典型的には30Wh/L超であり、体積出力密度は、典型的には2.7kW/L超である。重量エネルギー密度は、少なくとも1.6(好ましくは、少なくとも1.8)kW/kgの重量出力密度において、20Wh/kg超(好ましくは、50Wh/kg超)である。全てのエネルギー密度および出力密度は、80kNで1分間プレスされた材料における値を指し、電流密度は2A/gである。
【0033】
本発明はまた、少なくとも2つの電極、セパレータ、および電解質を含む電気セルを提供する。ここで、少なくとも1つの電極は、上述の窒素ドープグラフェンを含むか、またはそれからなる。
【0034】
電解質は、塩または好ましくはイオン性液体を含有する液体電解質であってもよい。
【0035】
電気セルは少なくとも2つの電極、電極間に設けられた少なくとも1つのセパレータ膜、電解質によって浸漬されたセパレータ膜、および電極に取り付けられた集電体を含み得る。ここで、少なくとも1つの電極は、アルミニウム箔上に塗布された本発明の窒素ドープグラフェンから作製される。
【0036】
特定の実施形態では、2つの電極系および対称型フルセルスーパーキャパシタ装置を使用して、工程(d)から得られた窒素ドープグラフェンの性能、レート安定性およびサイクル安定性を評価した。窒素ドープグラフェンを、ポリテトラフルオロエチレンおよび炭素(TimCal)を添加したN-メチル-2-ピロリドン中に均一に分散させ(好ましくは、窒素ドープグラフェン、ポリテトラフルオロエチレンおよび炭素の質量比は85:10:5)、好ましくは4時間超音波処理して、均一なペーストを形成した。スラリーをアルミニウム箔上に塗工した。次に、膜を真空オーブン中で、一晩、120℃で乾燥させた。次いで、2つの電極(特定の実施形態では、直径18mm)を切り出し、2枚の金属板の間で1分間、80kNの力でプレスした。その後、電極の質量および厚さを測定し、120℃で、真空下(40mbar)で、好ましくは6時間、再度乾燥させた。フラスコ内の電極を、(減圧下で)グローブボックスに移した。2つの電極は、間にセパレータ膜を挟んで、対向して配置された。セパレータ膜は、選択された電解質で浸漬された。電極を気密パッケージに封入し、集電体を試験装置(電池テスター)に接続した。スーパーキャパシタセルの実際の試験に先立って、使用される最終電圧よりも低い電圧および低い電流密度(1A/g未満)でセルを充電することによってコンディショニングした。
【0037】
〔図面の簡単な説明〕
図1.a)出発物質であるフッ素化グラファイトのX線光電子スペクトル、およびb)実施例1の生成物のX線光電子スペクトル。
【0038】
図2.実施例1の反応から単離された固体生成物の熱重量分析、および示差走査熱量測定の組み合わせ。分析は、5℃/分で、1000℃までの通常の雰囲気中で行った。発熱プロセスは、グラフ中における上昇である。
【0039】
図3.(a)出発物質であるフッ素化グラファイトの赤外線スペクトル、および(b)実施例1からの生成物の赤外線スペクトル。
【0040】
図4.実施例2の生成物のX線光電子スペクトル(DMF中で4時間反応した後)。
【0041】
図5.実施例3の生成物のX線光電子スペクトル(DMF中で24時間反応した後)。
【0042】
図6.a)実施例4からの生成物のX線光電子スペクトル、およびb)実施例1からの生成物のX線光電子スペクトル(比較用)。
【0043】
図7.a)~c)2枚の金属板の間で、1分間、80kNの力でプレスする前、およびd)~f)2枚の金属板の間で、1分間、80kNの力でプレスした後における、アルミニウム箔上に塗工された電極材料(実施例5に記載されているように調製された)の膜の走査型電子顕微鏡画像。
【0044】
図8.実施例1からの生成物の電気化学的特性:a)~b)EMIM-BFおよびTTE(9:1)電解質中のサイクリックボルタンメトリー曲線であり、パネルaは走査速度が低く、パネルbは走査速度が早い;c)様々な電流密度での定電流充放電プロファイル。
【0045】
図9.実施例1から製造された物質のサイクル安定性。10000サイクルの試験の開始部分、中央部分、および最終部分の間の定電流充放電プロファイルを示す。
【0046】
図10.EMIM-BFおよびTTE(9:1)電解液中、実施例6に記載されている手順の種々の電流密度での定電流充放電プロファイル。
【0047】
図11.EMIM-BFおよびTTE(9:1)電解液中、実施例7に記載されている手順の種々の電流密度での定電流充放電プロファイル。
【0048】
図12.EMIM-BFおよびTTE(9:1)電解液中、実施例8に記載されている手順の種々の電流密度での定電流充放電プロファイル。
【0049】
〔発明を実施する実施例〕
材料および方法:
フッ化グラファイト(>61wt%F)、NaN(BioXtra)、1-メチル-2-ピロリジノン無水物(99.5%)およびN,N-ジメチルホルムアミド(≧98%)をSigma-Aldrichから購入した。アセトン(純粋)およびエタノール(無水)は、ペンタ(チェコ共和国)から購入した。全ての化学物質は、さらに精製することなく使用した。全ての水溶液の調製には超純水を使用した。
【0050】
FT-IRスペクトルは、ZnSe結晶を有するSmart Orbit ATR accessoryを使用して、iS5 FTIR分光計(Thermo Nicolet)で測定した。エタノール中または水中の試料の分散液の液滴をZnSe結晶上に置き、乾燥させ、周囲環境中で膜を形成させた。スペクトルは、50回の走査を合計することによって記録した。測定およびバックグラウンド取得の間、窒素ガスがATR accessoryを通って流れている状態とした。収集されたスペクトルを処理するために、ATRおよびベースラインの補正を使用した。
【0051】
X線光電子分光法(XPS)は、Al-Kα線源(15kV、50W)を用いて、PHI VersaProbe II(Physical Electronics)分光計で行った。得られたデータのデコンボリューションには、MultiPak(Ulvac-PHI、Inc.)ソフトウェアパッケージを用いた。
【0052】
透過型電子顕微鏡からの画像は、160kVで動作するLaB型の放出銃を備えたJEOL 2100 TEMを用いて得られた。また、5kVの加速電圧を有する日立SU6600器具を用いて、走査型電子顕微鏡で試料を分析した。これらの分析のために、超純水中の材料の分散液の小滴(約0.1mg/mlの濃度)を、炭素コーティングされた銅グリッド上に置き、乾燥のために放置した。
【0053】
熱分析は、STA449 C Jupiter Netzsch器具を用いて行った。
【0054】
表面積の分析は、0.965P/Pまでの体積気体吸着分析器(3Flex、Micromeritics)を用いて、77KでのNの吸着/脱着の測定によって行った。分析に先立って、高純度(99.999%)のNガスおよびHeガスを測定のために用いると同時に、試料は高真空(10-4Pa)で、130d℃で、12時間脱気させた。Brunauer-Emmett-Teller面積(BET)を、N等温線に対するRouquerol基準に関して計算し、N(77K)の分子断面積を16.2Åと仮定した。
【0055】
油圧プレス(Trystom spols.r.o.、オロモウツ)を用いて、金属板の間で試料の膜をプレスした。
【0056】
サイクリックボルタンメトリー(CV)および定電流放電(GCD)は、BT-Labソフトウェア(バージョン1.64)で制御されたBio-Logic電池テスター(BCS-810)で行った。
【0057】
以下の節は、本明細書中で使用され、当分野で一般に受け入れられているスーパーキャパシタの測定基準を定義する。電極材料の重量比静電容量(C[F/g])および体積比静電容量(C[F/cm])は、次式に従って定電流充放電曲線から計算される:
【0058】
【数1】
【0059】
重量エネルギー密度(E)、重量出力密度(P)、体積エネルギー密度(E)、および体積出力密度(P)は、次式に従って計算される:
【0060】
【数2】
【0061】
(式中、m(g)は1つの電極中の活物質の質量(バインダーおよび導電性添加剤の質量を含む)であり、I(A)は放電電流であり、t(s)は放電時間であり、V(V)は放電中の電位変化であり、Vel(g/cm)は、1つの電極上の電極材料の体積である)。
【0062】
実施例1:窒素ドープグラフェンの合成(72時間反応)
ガラス製の球形フラスコ中で、1gのフッ化グラファイトを40mlのDMF中に分散させた。フラスコを覆い、2日間攪拌した。次いで、それを4時間超音波処理し、一晩撹拌した。ガラス製のビーカー中で、2gのNaNを20mlのDMFに溶解させた。次いで、フッ化グラファイトおよび/または層数の少ないフルオログラフェン分散液に添加した。混合物を、テフロンコーティングされた磁気バーを用いて撹拌しながら、濃縮器を用いて、フード中にて、130℃で、72時間加熱した。加熱終了後、反応混合物を放置して冷却し、50mlのファルコン遠心管に移した。固体粒子(生成物)を溶媒から分離し、15000rcfで約10分間の遠心分離によって副生成物を得た。上清を廃棄し、管に次の洗浄溶媒を再充填した。試料を少なくとも1分間振盪することによってホモジナイズして、沈殿物を新しい溶媒中に再分散させた。洗浄は異なる溶媒:DMF(3x)、アセトン(3x)、エタノール(3x)、熱エタノール(1x)、蒸留水(3x)、および熱蒸留水(1x)を用いて行った。次いで、蒸留水を再充填した。最後に、周囲の水分の導電率が約10μS/cmを超えて増加しなくなり、透析バッグ内の導電率が約5μS/cmになるまで、分散した固形物を透析バッグ(分子重量カットオフ10kDa)に挿入した。分散液は最終的に透析バッグから移し、さらなる使用のために保存するか、または乾燥させた。
【0063】
出発物質であるフッ化グラファイトおよび実施例1の生成物に関するX線光電子分光法(図1)は、NaNとの反応によって生成物中にN原子が導入され、72時間反応した後に16.1at%に達し、そして50.5at%から1.5at%へとフッ素原子の著減することを示した(表1)。
【0064】
通常雰囲気中での熱重量分析は、約450℃まで材料の緩やかな質量減少と、約500℃~680℃の間の急速な分解工程を示した(図2)。
【0065】
4mgの材料をアルミニウム箔上に堆積し、80kNで1分間プレスした後に測定された材料の密度は、2.7g/cmであった。この生成物の同じバッチの一部を透析せず、同じ条件でプレスした場合には、密度は約1.5g/cmであった。
【0066】
出発物質であるフッ化グラファイトのFT-IRスペクトル(図3a)は、C-F結合およびCF結合(それぞれ、1200cm-1および1310cm-1)からのバンドを示した。一方で、生成物のスペクトル(図3b)は、1560cm-1および1110cm-1~1180cm-1のバンドによって占められている。これらの振動は、芳香族炭素および複素環式芳香族環に典型的である。1400cm-1で現れる芳香族環の追加の振動モードは、ヘテロ原子置換(例えば、ピリジン構成におけるもの)に帰することができる。生成物中の1110cm-1~1180cm-1のバンドは、観察したフッ素化グラファイト中のCFの振動と重なり合ったが、XPSにより確認されたように、ほとんど全てのF原子(約1.5at%が残留)が除去された。これらのバンドは、1560cm-1の振動および1400cm-1の振動と同様に、芳香族炭素および複素環の伸縮振動の種々のモードに対応する。3000cm-1超の広い吸収は、グラフェン骨格に垂直に共有結合した第一級アミノ基または第二級アミノ基(RN-H、R-NH)のN-Hの伸縮振動に起因し得る。同じ領域では、-OH振動も現れ得る。1560cm-1での広い振動は、第一級アミノ基の屈曲振動からのシグナルも含み得る。
【0067】
BET法によれば、20秒のN収着平衡時における比表面積は59m/gであった。
【0068】
【表1】
【0069】
実施例2:窒素ドープグラフェンの合成(4時間反応)
混合物を130℃で72時間加熱する代わりに4時間加熱した以外は、実施例1と同様の手順で行った。
【0070】
透析後、アルミニウム箔上に4mgの材料を堆積させ、80kNで1分間プレスした後に測定された材料の密度は、1.4g/cmであった。
【0071】
この実施例の生成物のX線光電子分光法(図4)は、NaNとの反応によって生成物中にN原子が導入され、4時間反応した後に8.9at%に達し、そして出発物質であるフッ素化グラファイトのフッ素原子が50.5at%から16.6at%へと著減することを示した(表2)。
【0072】
比表面積は146m/gであった。
【0073】
【表2】
【0074】
実施例3:窒素ドープグラフェンの合成(24時間反応)
混合物を130℃で72時間加熱する代わりに24時間加熱した以外は、実施例1と同様の手順で行った。
【0075】
透析後、アルミニウム箔上に4mgの材料を堆積させ、80kNで1分間プレスした後に測定された材料の密度は、1.4g/cmであった。
【0076】
この実施例の生成物のX線光電子分光法(図5)は、NaNとの反応によって生成物中にN原子が導入され、24時間反応した後に13.9at%に達し、そして出発物質であるフッ素化グラファイトのフッ素原子が50.5at%から1.6at%へと著減することを示した(表3)。
【0077】
比表面積は127m/gであった。
【0078】
【表3】
【0079】
実施例4:超音波処理、遠心分離、または洗浄のための透析を用いない窒素ドープグラフェンの調製(比較例)
ガラス製の球形フラスコ中で、0.25gのフッ化グラファイトを10mlのDMF中に分散させた。フラスコを覆い、3日間攪拌した。次いで、0.5gのNaNをフラスコに添加し、実施例1に記載の超音波処理工程を省略した。混合物を、テフロンコーティングされた磁気バーを用いて撹拌しながら、濃縮器を用いてフード内で、130℃で、72時間加熱した。加熱終了後、反応混合物を放置して冷却し、濾紙を用いてS1焼結ガラス上で濾過した。洗浄は、DMF(3x)および蒸留水(3x)および熱蒸留水(1x)を用いてフリタ(frita)で行った。濾液の導電率を測定して、生成物の純度をチェックした。導電率が100μS/cm超の場合、水を用いてさらなる洗浄工程を行った。最終的に固体を蒸留水中に再分散させ、特性決定(導電率、ゼータ電位、pH、濃度、赤外線およびX線光電子分光法)を行い、さらなる使用のために保存した。実施例1に記載した透析工程は省略した。
【0080】
4mgの材料をアルミニウム箔上に堆積し、80kNで1分間プレスした後に測定された材料の密度は、0.7g/cmであった。
【0081】
この実施例の生成物のX線光電子分光法(図6)は、NaNとの反応によって生成物中にN原子が導入され、72時間反応した後に15at%に達し、そして出発物質であるフッ素化グラファイトのフッ素原子が50.5at%から4.6at%へと著減することを示した(表4)。
【0082】
【表4】
【0083】
実施例5:実施例1からの生成物(72時間生成物)を用いた、2電極対称型スーパーキャパシタフルセルでの電気化学的試験。
【0084】
活物質(実施例1からの窒素ドープグラフェン)を、バインダーPTFE(Sigma-Aldrich)および導電性炭素(MTIからのTimCal)と共に、85:10:5の比率でN-メチル-2-ピロリドン(p.a.≧99%、Sigma-Aldrich)中に均一に分散させ、4時間超音波処理して、均一なペーストを形成した。スラリーを炭素コーティングされたアルミニウム箔(Cambridge Energy Solutions、厚さ15μm)上に、ドクターブレード技術(Erichsen,Quadruple Film Applicator,Model 360)を用いて塗工した。得られた窒素ドープグラフェンの薄片を含む膜を走査型電子顕微鏡で調べたところ、10μm~12μmの厚さを示した(図7a~c)。薄片はランダムに配向していた(図7b)。次に、膜を真空オーブン中、120℃で一晩乾燥させた後、18mm径の2つの電極を切り出し、2枚の金属板の間で1分間、80kNの力でプレスした(Trystom spols.r.o.、オロモウツ)。プレス後、膜厚は1.7μm~1.8μmに減少した。これにより、ラメラ構造が明らかとなり、ラメラ構造はアルミニウム箔に平行な方向に高度に配向していた(図7d~f)。直径1.8cmの2つの電極(それぞれ、1.4mgおよび1.3mgの電極材料を含む)を、120℃で、真空下(40mbar)で、6時間再度乾燥させ、(真空下で)グローブボックス(O含有量およびHO含有量<2ppm、アルゴン雰囲気下)に移した。このようにして生成された膜の密度は2.7g/cmであった。スーパーキャパシタ装置を組み立てるために、2つの電極をスリーブ(厚さ0.26mmのWhatman(登録商標)ガラスマイクロファイバーペーパーセパレータを備えたEl-Cell絶縁体スリーブ)に入れた。セパレータ膜を90μl~100μlの電解質で浸漬した。1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIM-BF、Sigma Aldrich製、≧99.0%(HPLC))および1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE、東京化学工業製、>95.0%)の90:10の混合物を電解質として使用し、モレキュラーシーブで使用する前に乾燥させた。電極をステンレス鋼製のプランジャーでスリーブの内側に封入し、装置全体を締め付け、分析のために電池テスターに接続した。
【0085】
装置を試験する前に、電極材料のコンディショニングを以下のように行った:
電位を1.2Vで5分間維持、電流密度0.5A/gで2Vまで20サイクル、電流密度1A/gで3.7Vまで20サイクル。
【0086】
サイクリックボルタンメトリー(図8a、b)は、主により低い走査速度において明らかである、わずかな酸化還元ピークを伴うほぼ矩形の曲線を示し、これはおそらく窒素原子に起因すると考えられる。定電流充放電(図8c)測定は、実質的に線形で対称なプロファイル(1A/gで124秒充電および118秒放電、95%エネルギー効率)を示し、5A/g(22秒充電および22秒放電)で100%効率に向上した(表5)。装置の性能を表5に記載し、5.2kW/Lの出力密度において169.8Wh/Lという前例のない体積エネルギー密度が示されている。10000サイクル後の静電容量保持率は94%であった。また、セルの安定性も非常に高く、10000サイクル後に100%の静電容量を維持していた(図9)。
【0087】
【表5】
【0088】
実施例6:実施例4からの生成物(比較例、透析なし)を用いた、2電極対称型スーパーキャパシタフルセルにおける電気化学的試験。
【0089】
実施例5の実験を、実施例4から得られた生成物(超音波処理なし、透析なし)を用いて繰り返した。生成された膜の密度は0.7g/cmであった。定電流充放電測定は、電流密度の増加(2A/gから20A/g)に伴って、非常に良好な性能安定性を示した(図10および表6)。重量エネルギー密度は、実施例1からの生成物のケースよりわずかに低かったが、体積エネルギー密度は、2A/gの電流密度、1.3kW/Lの出力密度において、169.8Wh/Lから35.4Wh/Lへ著減した。体積エネルギー密度の低下は、充填密度がはるかに低いことによって引き起こされ、これは、特に、ドープされたグラフェンの調製における透析工程の省略が原因である。
【0090】
【表6】
【0091】
実施例7:実施例2からの生成物(4時間生成物)を用いた、2電極対称型スーパーキャパシタフルセルでの電気化学的試験。
【0092】
実施例5の実験を、実施例2から得られた生成物(4時間反応)を用いて繰り返した。生成された膜の密度は1.4g/cmであった。定電流充放電測定は、低い性能を示した(図11および表7)。重量データおよび体積データはいずれも実施例1より顕著に低かった。
【0093】
【表7】
【0094】
実施例8:実施例3からの生成物(24時間生成物)を用いた、2電極対称型スーパーキャパシタフルセルでの電気化学的試験。
【0095】
実施例5の実験を、実施例3から得られた生成物(24時間反応)を用いて繰り返した。生成された膜の密度は1.4g/cmであった。定電流充放電測定は、実施例1(72時間生成物)に近い性能を示した(図12および表8)。しかし、顕著に低い密度は、実施例5で測定した実施例1の72時間生成物よりも顕著に低い体積エネルギー密度をもたらした。
【0096】
【表8】
【図面の簡単な説明】
【0097】
図1】a)出発物質であるフッ素化グラファイトのX線光電子スペクトル、およびb)実施例1の生成物のX線光電子スペクトル。
図2】実施例1の反応から単離された固体生成物の熱重量分析、および示差走査熱量測定の組み合わせ。分析は、5℃/分で、1000℃までの通常の雰囲気中で行った。発熱プロセスは、グラフ中における上昇である。
図3】(a)出発物質であるフッ素化グラファイトの赤外線スペクトル、および(b)実施例1からの生成物の赤外線スペクトル。
図4】実施例2の生成物のX線光電子スペクトル(DMF中で4時間反応した後)。
図5】実施例3の生成物のX線光電子スペクトル(DMF中で24時間反応した後)。
図6】a)実施例4からの生成物のX線光電子スペクトル、およびb)実施例1からの生成物のX線光電子スペクトル(比較用)。
図7】a)~c)2枚の金属板の間で、1分間、80kNの力でプレスする前、およびd)~f)2枚の金属板の間で、1分間、80kNの力でプレスした後における、アルミニウム箔上に塗工された電極材料(実施例5に記載されているように調製された)の膜の走査型電子顕微鏡画像。
図8】実施例1からの生成物の電気化学的特性:a)~b)EMIM-BFおよびTTE(9:1)電解質中のサイクリックボルタンメトリー曲線であり、パネルaは走査速度が低く、パネルbは走査速度が早い;c)様々な電流密度での定電流充放電プロファイル。
図9】実施例1から製造された物質のサイクル安定性。10000サイクルの試験の開始部分、中央部分、および最終部分の間の定電流充放電プロファイルを示す。
図10】EMIM-BF4およびTTE(9:1)電解液中、実施例6に記載されている手順の種々の電流密度での定電流充放電プロファイル。
図11】EMIM-BF4およびTTE(9:1)電解液中、実施例7に記載されている手順の種々の電流密度での定電流充放電プロファイル。
図12】EMIM-BF4およびTTE(9:1)電解液中、実施例8に記載されている手順の種々の電流密度での定電流充放電プロファイル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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