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  • 特許-くすみ改善剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】くすみ改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20240604BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 36/28 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 31/375 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/02
A61K8/67
A61K36/28
A61K36/185
A61K31/375
A61P17/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020025147
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021130615
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 綾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 紗弥香
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0146246(KR,A)
【文献】特開2006-117613(JP,A)
【文献】特開2006-347925(JP,A)
【文献】特開2005-336133(JP,A)
【文献】特開2012-020950(JP,A)
【文献】特開2005-068069(JP,A)
【文献】Black Spot and Line Defying Night Jelly, MINTEL GNPD [ONLINE], 2017.09,[検索日 2023.12.22],インターネット:<URL:https://www.gnpd.com/sinatra>(Database accession no.5117897)
【文献】Dark Spot Serum, MINTEL GNPD [ONLINE], 2019.09,[検索日 2023.12.22],インターネット:<URL:https://www.gnpd.com/sinatra>(Database accession no.6847978)
【文献】Tone Up Whitening Cream, MINTEL GNPD [ONLINE], 2016.09,[検索日 2023.12.22],インターネット:<URL:https://www.gnpd.com/sinatra>(Database accession no.4115529)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 8/67
A61K 36/28
A61K 36/185
A61K 31/375
A61P 17/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドセリン刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害成分、メラニン生成抑制成分及びAGEs生成抑制成分をみ、
前記エンドセリン刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害成分が、ローマカミツレ(Chamaemelum nobile)エキスであり、
前記メラニン生成抑制成分が、アスコルビン酸及びその誘導体から選択される成分であり、
前記AGEs生成抑制成分が、アオイ科(Malvaceae)フヨウ(ハイビスカス)属(Hibiscus L.)の植物の萼と乳酸菌の発酵物であり、
血管収縮が要因となって引き起こされる肌の一時的なくすみに対し用いるための、くすみ改善剤。
【請求項2】
前記アスコルビン酸及びその誘導体が、アスコルビン酸、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビン酸リン酸エステル、アスコルビン酸硫酸エステル、アスコルビン酸脂肪酸エステル、及びアスコルビン酸アルキルエーテルから選択される1種以上であり、
前記アオイ科(Malvaceae)フヨウ(ハイビスカス)属(Hibiscus L.)の植物が、ローゼル(Hibiscus sabdariffa L.)である、請求項1に記載のくすみ改善剤。
【請求項3】
前記メラニン生成抑制成分及び前記AGEs生成抑制成分の含有比率は、前記エンドセリン刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害成分0.001質量部に対して、乾燥質量で、前記メラニン生成抑制成分が0.01~10質量部、且つ前記AGEs生成抑制成分が0.0001~0.008質量部である、請求項1又は2に記載のくすみ改善剤
【請求項4】
化粧料として用いることを特徴とする、請求項1~の何れか一項に記載のくすみ改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、くすみ改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肌のくすみは、老化等の内的要因や、紫外線、低湿度といった外的要因が複合的して引き起こされている。中でも、紫外線照射及び老化が原因となる肌のくすみは、主に表皮におけるメラニンの増加、及び真皮コラーゲンの糖化によって生じることが知られている。
このようなメラニン及び最終糖化産物(Advanced glycation end products:AGEs)の蓄積を抑制し、肌のくすみを改善する経口剤もしくは皮膚外用剤が開示されている(特許文献1~5)。
【0003】
また、本発明者らによって、気圧の低下が肌のくすみに関与することが、初めて発見された(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-102270号公報
【文献】特開2011-195495号公報
【文献】特開2014-114233号公報
【文献】特開2016-210729号公報
【文献】特開2018-123090号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】2018年11月12日付株式会社ポーラ・オルビスホールディングスニュースリリース
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
気圧の低下に起因するくすみは、血液内酸素濃度の低下、及び自律神経等の乱れが生じ、血行不良となることで生じる肌の一時的なくすみであるため、長期間かけて蓄積されるメラニン及びAGEsに起因するくすみとは、異なるくすみである。
【0007】
このように、くすみの要因は多数存在するため、上述したくすみの要因の一つを予防し或いは改善し得る成分を配合しただけでは、真に満足し得る抗くすみ効果を得ることは困難であった。
このような事情に鑑み、本発明は、気圧の低下が原因となる一時的なくすみと、紫外線及び老化によって生じるくすみに多角的に作用する、くすみ改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明は、エンドセリン刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害成分を含み、メラニン生成抑制成分及びAGEs生成抑制成分から選ばれる少なくとも1種を含む、くすみ改善剤である。
また、本発明は、エンドセリン刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害成分、メラニン生成抑制成分及びAGEs生成抑制成分を含むくすみ改善剤である。
本発明のくすみ改善剤は、2種または3種のくすみ改善成分を含むため、1種のくすみ改善成分を含む場合と比して、優れた抗くすみ作用を有する。
【0009】
本発明の好ましい形態では、前記エンドセリン刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害成分が、キク科(Asteraceae)カマエメルム属(Chamaemelum L.)の植物の抽出物である。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記メラニン生成抑制成分が、アスコルビン酸及びその誘導体から選択される成分である。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記AGEs生成抑制成分は、アオイ科(Malvaceae)フヨウ(ハイビスカス)属(Hibiscus L.)の植物の萼を乳酸菌により発酵させて得られる発酵物である。
【0012】
本発明は、エンドセリン刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害作用を指標とする、気圧低下によって生じるくすみ改善成分のスクリーニング方法である。
また、本発明は、前記スクリーニング方法でスクリーニングされた成分を含む、気圧低下によって生じるくすみ改善剤である。
【0013】
本発明は、前記スクリーニング方法によってスクリーニングされたくすみ改善成分を含み、メラニン生成抑制成分及びAGEs生成抑制成分から選ばれる少なくとも1種を含む、くすみ改善剤である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のくすみ改善剤は、くすみの原因に多角的に作用し、くすみを包括的に予防又は改善する作用に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】試験例1における、ローマカミツレエキスを添加した場合の血管平滑筋細胞の撮影画像から算出された平均輝度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<1>エンドセリン刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害成分について
本発明のエンドセリン刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害成分は、後述するスクリーニング方法によって決定することができ、好ましくはキク科(Asteraceae)カマエメルム属(Chamaemelum L.)の植物の抽出物であり、中でもローマカミツレ(Chamaemelum nobile)エキスであることが好ましい。
【0017】
キク科カマエメルム属の植物の抽出部位は特に限定されず、全草、葉、茎、花、実、根から選択される1種又は2種以上の部位を用いることができ、特に花を用いることが好ましい。
【0018】
抽出に際して、キク科カマエメルム属の植物又はその乾燥物は予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。抽出は、常圧、若しくは加圧、減圧下で、室温、冷却又は加熱した状態で抽出溶媒に浸漬させて抽出する方法、水蒸気蒸留などの蒸留法を用いて抽出する方法並びにキク科カマエメルム属の植物を圧搾して抽出物を得る圧搾法などが例示され、これらの方法を単独で、又は2種以上を組み合わせて抽出を行うこともできる。
【0019】
前記抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、エタノール、イソプロピルアルコール及びブタノール等のアルコール類、1,3-ブタンジオール及びポリプロピレングリコール等の多価アルコール類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類、並びにジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル類から選択される1種又は2種以上が好適に例示でき、中でも1,3-ブタンジオールを用いることが好ましい。
【0020】
浸漬させて抽出する場合、浸漬後は不溶物を濾過により除去した後、溶媒を減圧濃縮等により除去することができるが、凍結乾燥による除去が特に好ましい。溶媒を除去した粉末組成物は、このまま粉末の状態で使用しても良いが、しかる後に、水と酢酸エーテル、水とブタノール等の液液抽出や、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムクロマトグラフィー等で分画精製しても良い。
【0021】
エンドセリン刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害成分の含有量は、くすみ改善剤全量に対し、0.00001~0.15質量%が好ましく、0.0001~0.1質量%がより好ましく、0.0005~0.05質量%がさらに好ましい(抽出物の場合は乾燥質量)。
【0022】
<2>メラニン生成抑制成分について
皮膚に存在する色素細胞(メラノサイト)の活性化により、メラニンの生成が著しく亢進することで、シミ、ソバカス、日焼け後の色素沈着が生じる。皮膚にメラニンが蓄積すると、肌のくすみの増大、及び肌の透明度の低下が発生する。
【0023】
本発明のメラニン生成抑制成分は、メラニン合成経路に作用し、メラニンの生成を抑制することにより、メラニンの蓄積に起因するくすみを予防、改善する成分であることが好ましい。
本発明に用いるメラニン生成抑制成分は、例えば、アルブチン、コウジ酸、エラグ酸、ルシノール、クワエキス、トウキエキス、ワレモコウエキス及び油溶性甘草エキス等のチロシナーゼ活性阻害成分、並びにアスコルビン酸及びその誘導体が挙げられ、特にアスコルビン酸誘導体であることが好ましい。
【0024】
アスコルビン酸誘導体としては、アスコルビン酸を基本骨格とするものとして通常知られているものであれば特に限定されず、例えば、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビン酸リン酸エステル、アスコルビン酸硫酸エステル、アスコルビン酸脂肪酸エステル及びアスコルビン酸アルキルエーテルなどが挙げられ、メラニン生成抑制のためには、特にアスコルビン酸グルコシドを用いることが好ましい。
【0025】
メラニン生成抑制成分の含有量は、くすみ改善剤全量に対し、0.00001~10質量%が好ましく、0.0001~8質量%がより好ましく、0.0005~6質量%がさらに好ましい(抽出物の場合は乾燥質量)。
【0026】
<3>AGEs生成抑制成分について
タンパク質の糖化によって得られる最終生成物を、最終糖化産物(AGEs)と呼ぶ。AGEsは、AGEs同士、又はAGEsと生体タンパク質と架橋を形成して凝集し、分解されにくくなる。肌の真皮で糖化が起こると、コラーゲンの繊維が固くなり、肌のハリ及び弾力を低下させ、黄化によるくすみを誘発し、肌の透過性を低下させる。
【0027】
本発明のAGEs生成抑制成分は、AGEsの生成又は蓄積を抑制、若しくは分解を促進することにより、AGEsに起因する肌のくすみを予防、及び改善する作用を有する成分であることが好ましい。
本発明に用いるAGEs生成抑制成分は、抗AGEs作用を持つ成分であれば特に限定されることはなく、例えば、ヤマブドウの果実、トウモロコシの花柱、オリーブ葉エキス、チャエキス、ヒシエキス、ブドレジャアキシラリス葉抽出物、ヘンナの花部抽出物、アオイ科(Malvaceae)フヨウ(ハイビスカス)属(Hibiscus L.)の植物の萼を乳酸菌により発酵させて得られる発酵物(以下、単にハイビスカス発酵物という)、4-ビニルカテコール等のAGEs生成抑制成分、シャクヤク根エキス等のAGEs架橋構造切断成分、アスパラギン酸マグネシウム、グルコン酸亜鉛、グルコン酸銅等のAGEs架橋抑制成分が挙げられ、中でも、ハイビスカス発酵物を用いることが好ましい。
【0028】
本発明で用いるアオイ科フヨウ(ハイビスカス)属の植物としては、例えばローゼル(Hibiscus sabdariffa L.)、ムクゲ(Hibiscus syriacus)、フヨウ(Hibiscus mutabills)、モミジアオイ(Hibiscus coccineus)、オオハマボウ(Hibiscus tiliaceus)、フウリンブッソウゲ(Hibiscus schizopetalus)などが挙げられるが、ローゼル(Hibiscus sabdariffa L.)が好ましい。
【0029】
発酵に用いられる乳酸菌としては、例えばラクトバシルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバシルス ブレビス(L. brevis)、ラクトバシルス カゼイ(L. casei)等のラクトバシルス(Lactobacillus)属の乳酸菌;カルノバクテリウム ディバージェンス(Carnobacterium divergens)、カルノバクテリウム ピシコーラ(Carnobacterium piscicola)等のカルノバクテリウム(Carnobacterium)属の乳酸菌;ロイコノストック メセンテロイズ(Leuconostoc mesenteroides)、ロイコノストック シトレウム(Leuconostoc citreum)等のロイコノストック(Leuconostoc)属の乳酸菌; ストレプトコッカス フェーカリス(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス ピオジェネス(Streptococcus pyogenes)等のストレプトコッカス属の乳酸菌;エンテロコッカス カゼリフラバス(Enterococcus caseliflavus)、エンテロコッカス サルフレウス(Enterococcus sulfreus)等のエンテロコッカス(Enterococcus)属の乳酸菌;ラクトコッカス プランタラム(Lactococcus plantarum)、ラクトコッカス ラフィノラクティス(Lactococcus rafinolactis)等のラクトコッカス属の乳酸菌;ヴェイセラ コンフューザ(Weissella confusa)、ヴェイセラ カンドウレリ(Weissella kandleri)等のヴェイセラ属の乳酸菌;アトポビウム ミニュタム(Atopobium minutum)、アトポビウム パービュラス(Atopobiumparvulus)等のアトポビウム(Atopobium)属の乳酸菌;バゴコッカス フルビアリス(Vagococcus fluvialis)、バゴコッカス サーモニナラム(Vagococcus salmoninarum)等のバゴコッカス(Vagococcus)属の乳酸菌;ペディオコッカス ダムノサス(Pediococcus damnosus)、ペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)等のペディオコッカス(Pediococcus)属の乳酸菌等が挙げられる。それら乳酸菌のうちでも、極度の嫌気性でなく取り扱い易いという点から、ラクトバシルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)の使用が好ましい。
【0030】
ハイビスカス発酵物は、特許第5129440号公報に記載の方法により、必要に応じて乾燥、微細化したフヨウ(ハイビスカス)属植物の萼を、発酵媒体中に浸漬乃至懸濁させた懸濁液に、乳酸菌を植菌して発酵させることで製造することができる。
また、本発明においては、ハイビスカス発酵物の抽出物として、一般的に市販されている抽出物を使用することができ、例えば、ハイビスカス花発酵エキスが好適に例示できる。
【0031】
AGEs生成抑制成分の含有量は、くすみ改善剤全量に対し、0.00001~10質量%が好ましく、0.0001~8質量%がより好ましく、0.0005~6質量%がさらに好ましい(抽出物の場合は乾燥質量)。
【0032】
<4>本発明のくすみ改善剤について
本発明のくすみ改善剤は、エンドセリン刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害成分を含み、メラニン生成抑制成分及び/又はAGEs生成抑制成分を含む、くすみ改善剤である。
本発明においては、エンドセリン刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害成分として、キク科カマエメルム属の植物の抽出物を、メラニン生成抑制成分としてアスコルビン酸誘導体を、AGEs生成抑制成分としてハイビスカス発酵物を含むことが好ましい。
【0033】
本発明のくすみ改善剤において、キク科カマエメルム属の植物の抽出物、アスコルビン酸誘導体及びハイビスカス発酵物の含有比率は、キク科カマエメルム属の植物の抽出物0.001質量部に対して、好ましくはアスコルビン酸誘導体が0.001~20質量部であって、且つハイビスカス発酵物が0.00005~0.01質量部であり、より好ましくはアスコルビン酸誘導体が0.01~10質量部であって、且つハイビスカス発酵物が0.0001~0.008質量部である(抽出物の場合は乾燥質量)。
また、本発明におけるキク科カマエメルム属の植物の抽出物、アスコルビン酸誘導体及びハイビスカス発酵物の含有比率の一例として、0.0005~0.1:0.5~5:0.0005~0.1が好適に例示できる(抽出物の場合は乾燥質量)。
【0034】
本発明のくすみ改善剤は、各成分を通常皮膚外用剤や医療、飲食品に用いられる基剤、その他成分と混合することにより、製造することができる。
【0035】
本発明のくすみ改善剤は、外用剤又は経口剤の形態とすることが好ましい。外用剤とし
ては、例えば、化粧料、医薬部外品、皮膚外用医薬等の形態が挙げられる。また、経口剤としては、錠剤、顆粒剤、ドリンク剤等の剤形を有するサプリメントの形態が挙げられる。中でも、継続的に使用可能な化粧料の形態が好ましく、特に化粧水、美容液、乳液、クリーム、ジェル、サンケア品等の形態が好ましい。
【0036】
皮膚外用組成物には、通常使用される任意成分を含有させてもよい。かかる任意成分としては、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素類、ホホバ油、カルナウバワックス、オレイン酸オクチルドデシルなどのエステル類、オリーブ油、牛脂、椰子油などのトリグリセライド類、ステアリン酸、オレイン酸、レチノイン酸などの脂肪酸、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノール等の高級アルコール、スルホコハク酸エステルやポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤類、アルキルベタイン塩等の両性界面活性剤類、ジアルキルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、これらのポリオキシエチレン付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤類、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3-ブタンジオール等の多価アルコール類、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤や紫外線散乱剤等の紫外線防御剤、色剤、防腐剤、pH調整剤、粉体、各種有効成分等が好適に例示できる。
【0037】
本発明のくすみ改善剤は、気圧の低下による一時的なくすみ、並びに紫外線及び老化等によるくすみの予防又は改善のために用いることができる。
例えば、血管収縮による血色不良、メラニンの蓄積による色素沈着、肌の透明感の低下及びAGEsの蓄積による肌の黄化等の、個々の要因又は複数の要因に対し、適用されることが好ましい。
【0038】
<5>血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害作用を指標としたスクリーニング方法
また、本発明は、エンドセリン刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害作用を指標とする、気圧の低下によって生じるくすみ改善成分のスクリーニング法である。
本発明では、肌のくすみの要因の中でも、気圧の低下に伴う血管収縮が要因となって引き起こされる、肌の一時的なくすみに着目している。血管収縮は、血管平滑筋細胞から血管収縮因子EDCF(endothelium-derived contracting factor)が放出され、細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇することで生じる。
【0039】
本発明のスクリーニング方法は、培養細胞にエンドセリン-1を添加することで上昇する、カルシウムイオンの量を指標とする。
本発明のスクリーニング方法では、インビトロで、培養細胞を含む培養液にスクリーニング対象の成分(以下、被験物質とする)を添加し、その後培養細胞にカルシウム指示薬、及びカルシウムイオン誘導因子であるエンドセリン-1を添加する。
【0040】
次いで、カルシウム指示薬の蛍光を指標として、細胞内のカルシウムイオン量を測定し、測定したカルシウムイオン量が、被験物質を添加しなかった細胞におけるカルシウムイオン量と比して小さい場合に、前記被験物質がエンドセリン刺激によるカルシウムイオンの細胞内濃度の上昇に対し、効果を有すると判定する。
【0041】
本発明のスクリーニングに用いる培養細胞は、血管平滑筋由来の培養細胞であることが好ましく、例えば生体から採取された血管平滑筋細胞から樹立された細胞株であってもよく、多能性幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞)から血管平滑筋細胞に分化誘導された細胞株であってもよい。
【0042】
カルシウム指示薬を用いた細胞質内のカルシウムイオン量の測定は、定法により行うことができる。
カルシウム指示薬としては、カルシウムイオンの存在量と相関する信号を検出できる試薬であればよく、例えば、カルシウムイオンと定量的に反応する蛍光指示薬、発光化学発光指示薬、又は吸光指示薬を用いることができる。カルシウム指示薬は、市販されているものを用いてもよい。そのような指示薬として、例えば、Fluo-3、Fluo-3 AM、Fluo-4、Fluo-4 AM、Quin-2、Rhod-2、Rhod-2 AM(いずれも株式会社同仁化学研究所製)、Fluo-8 AM、Cal-520 AM、Rhod-4 AM(いずれもAATバイオクエスト社製)等が挙げられる。
【0043】
細胞質内のカルシウム指示薬の蛍光測定は、常法により行われる。例えば、カルシウム指示薬が蛍光指示薬の場合、励起光源から出力された励起光を血管平滑筋細胞の培養細胞を含む試料容器に照射して、放出された蛍光を蛍光顕微鏡等の蛍光検出器により経時的に検出し、蛍光画像を撮影する。撮影画像から平均輝度を算出し、細胞内のカルシウムイオン量を定量化することができる。
【0044】
本発明のスクリーニング方法によれば、血管収縮作用が要因となる肌のくすみに有効な成分を、効率的にスクリーニングすることができる。
また、本発明のスクリーニング方法でスクリーニングされたくすみ改善成分を含む、くすみ改善剤を製造することができる。
【実施例
【0045】
以下に、試験例及び製造例を挙げて説明するが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0046】
<試験例1>エンドセリン刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に対する阻害成分のスクリーニング
正常ヒト大動脈平滑筋細胞(HAMSC)を、Humedia-SG2培地(倉敷紡績株式会社製)で、37℃で6日間培養した。培養したHAMSCを、96ウェルガラスプレートに播種した後、24時間培養した。
培養後、適宜細胞毒性の生じない濃度に希釈した被験物質を100μL/well添加し、さらに24時間培養した。培養後、培地を取り除き、DMSOに溶解した5μmol/Lカルシウム指示薬(Fluo-8、AATバイオクエスト社製)を、HBBS培地で1/1000希釈して、100μL/well添加し、37℃で40分間培養した。
培地を除いてHBBS培地で洗浄し、新たにHBBS培地を100μL/well添加し、37℃で15分間培養した。これに1nMのエンドセリン-1を添加して、カルシウムイオンの流入による細胞内カルシウムイオン濃度の変化を2分間測定した。細胞内カルシウムイオン濃度は、蛍光光度分析法により定量し、エンドセリン-1添加前と添加後の細胞内カルシウムイオン濃度の上昇率(差)を評価した。結果を図1に示す。
【0047】
図1に示す通り、エンドセリン-1を添加したサンプルは、エンドセリン-1が未添加であるサンプルと比してカルシウムイオン流入量が約1.8倍となった。一方、候補素材としてローマカミツレエキスを加えたサンプルは、カルシウムイオンの流入が有意に抑制され、エンドセリン-1が未添加であるサンプルよりもカルシウムイオン流入量が減少した。
以上の結果から、エンドセリン-1刺激による血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン上昇抑制成分として、ローマカミツレエキスが有効であることが明らかとなった。
【0048】
<製造例1>くすみ改善用化粧水
表1に記載の処方に従い、常法により本発明の組成物である化粧水を調製した。
【0049】
【表1】
【0050】
上記の方法で製造したくすみ改善用化粧水を、肌に継続して塗布することで、くすみを改善する効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、化粧料、医薬品等に応用できる。
図1