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特許7497964液体含浸皮膚被覆シート用不織布及びその製造方法、液体含浸皮膚被覆シート、並びにフェイスマスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】液体含浸皮膚被覆シート用不織布及びその製造方法、液体含浸皮膚被覆シート、並びにフェイスマスク
(51)【国際特許分類】
   A45D 44/22 20060101AFI20240604BHJP
   D04H 1/542 20120101ALI20240604BHJP
   D04H 1/492 20120101ALI20240604BHJP
   D04H 1/485 20120101ALI20240604BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240604BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A45D44/22 C
D04H1/542
D04H1/492
D04H1/485
A61K8/02
A61Q19/00
A61K8/73
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019145562
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021023669
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100107180
【弁理士】
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵
(72)【発明者】
【氏名】大倉 千明
(72)【発明者】
【氏名】京塚 渉
(72)【発明者】
【氏名】森田 遼
【審査官】村山 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-148023(JP,A)
【文献】国際公開第2013/187404(WO,A1)
【文献】特開2014-133715(JP,A)
【文献】特開2007-007062(JP,A)
【文献】特開2009-297535(JP,A)
【文献】特開2010-155454(JP,A)
【文献】特開2010-281003(JP,A)
【文献】特開2012-180632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 44/22
D04H 1/542
D04H 1/492
D04H 1/485
A61K 8/02
A61Q 19/00
A61K 8/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性繊維を20質量%以上含む繊維ウェブを作製する工程、
前記接着性繊維により前記繊維ウェブの繊維同士を接着させる接着工程、
前記接着工程の後で前記繊維ウェブの繊維同士を交絡させる交絡工程、
を含み、
前記交絡工程に付される前記繊維ウェブの目付が15g/m以上70g/m以下であり、
前記接着工程と前記交絡工程との間で、前記繊維ウェブをロールに巻き取ることを含まない、
CD方向の破断伸度(DRY)が80%以上である液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
【請求項2】
前記接着性繊維が分割型複合繊維である、請求項に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
【請求項3】
前記繊維ウェブが繊維長25mm~100mmの繊維からなる、請求項1または2に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
【請求項4】
前記交絡工程が水流交絡処理を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
【請求項5】
前記接着工程が熱処理を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
【請求項6】
前記接着工程が熱風加工処理を含む、請求項のいずれか1項に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
【請求項7】
前記熱風加工処理を実施した後、前記水流交絡処理を、熱風を吹き付けた面に対して先に水流を噴射して実施する、請求項4に従属する請求項6に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
【請求項8】
前記接着工程と前記交絡工程との間に冷却工程を含む、請求項のいずれか1項に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
【請求項9】
前記接着工程の後に、前記繊維ウェブに、セルロース系繊維を50質量%以上含む別の繊維ウェブを積層して、目付が15g/m以上70g/m以下である積層ウェブを得る積層工程を含み、
前記積層工程の後に積層ウェブを前記交絡工程に付する、
請求項のいずれか1項に記載の不織布の製造方法。
【請求項10】
前記接着工程に付される前記繊維ウェブが前記接着性繊維のみから成り、前記繊維ウェブに積層される前記別の繊維ウェブが前記セルロース系繊維のみから成る、請求項に記載の不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体、特に化粧料を含浸させた液体含浸皮膚被覆シートの基材となる不織布及びその製造方法、当該不織布を用いた液体含浸皮膚被覆シート、並びに当該液体含浸皮膚被覆シートを用いたフェイスマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
人体または動物の皮膚を被覆して、人体または動物の皮膚に所定の物質を付与するために用いられる、液体を含浸させたシートが種々提案され、実用されている。具体的には、有効成分を含む液体(例えば化粧料)を含浸させた液体含浸皮膚被覆シート(フェイスマスクや踵、肘、膝などに使用する角質ケアシート)等が挙げられる。液体含浸皮膚被覆シートの基材としては、不織布が一般的に用いられている。液体含浸皮膚被覆シートは、比較的長い時間、皮膚に密着させて使用することが多いため、密着性、液体の放出性、触感、および利便性等の点から様々な不織布が基材として提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2009/148048号
【文献】特開2017-109053号公報
【文献】特開2018-141250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、液体保持能力に優れるとともに、地合いが良好で、柔らかな触感を有し、かつ不織布を低伸度で伸長させるのに必要な強力が比較的高い、液体含浸皮膚被覆シート用不織布を提供することを目的とする。本開示は別の要旨において、当該不織布に液体を含浸させた液体含浸皮膚被覆シート、特にフェイスマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、第一の要旨において、
接着性繊維を20質量%以上含む液体含浸皮膚被覆シート用不織布であって、
前記不織布においては、繊維同士が接着されているとともに、繊維同士が交絡されており、
目付が15g/m以上40g/m以下であり、
CD方向の破断伸度(DRY)が80%以上であり、
保水率が900%以上である、
液体含浸皮膚被覆シート用不織布を提供する。
【0006】
本開示は、第二の要旨において、
接着性繊維を20質量%以上含む液体含浸皮膚被覆シート用不織布であって、
前記不織布においては、繊維同士が接着されているとともに、繊維同士が交絡されており、
目付が40g/mを超え、70g/m以下であり、
CD方向の破断伸度(DRY)が80%以上であり、
剛軟度(DRY)/厚さ(1.96kPa荷重)が56.0以上100以下である、
液体含浸皮膚被覆シート用不織布を提供する。
【0007】
本開示は、第三の要旨において、上記第一または第二の要旨に係る液体含浸皮膚被覆シート用不織布に液体を含浸させてなる、液体含浸皮膚被覆シートを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の液体含浸皮膚被覆シート用不織布(以下、「不織布」)は、接着と交絡の両方で繊維を一体化させているので、低伸度で伸長させるのに必要な強力が比較的大きく、取り扱い性に優れている。また、本開示の不織布は、比較的嵩高であるために、液体保持能に優れるとともに、比較的高い密着力を示すので、比較的長い時間、不織布が皮膚から「浮いた」部分を少なくする又は無くして、液体を所定部位の皮膚全体に行き渡ることを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示に至った経緯)
液体含浸皮膚被覆シートは、一般に、液体不透過性の包装容器に折りたたまれた状態で収納され、利用者はそこからシートを取り出し、これを広げて、所定の部位が被覆されるように貼り付ける。この使用時の一連の動作中、シートには、シートを伸ばす力が加わるため、シートがわずかな力で伸びやすい、すなわち伸長時応力(または伸長時モジュラス)が小さいと、シートが伸びて変形することがある。シートの変形は、例えばシートがフェイスマスクである場合には、目や口に対応して設けられた開口部が正しく目や口に位置しないという不都合を生じさせる。また、不織布がわずかな力で伸びると、不織布の加工性が低下し、液体含浸工程、開口部形成、および所定形状へのカッティングが困難となることがある。
【0010】
そこで、本発明者らは、不織布を10%程度伸ばしたときの応力を向上させるために、不織布の構成を種々検討した。液体含浸皮膚被覆シート用不織布としては、特許文献1に記載のように水流交絡処理により繊維を一体化させた水流交絡不織布や、特許文献2および3に記載のように接着性繊維を使用して繊維同士を接着させた接着不織布がある。
【0011】
水流交絡不織布は、繊維同士の交絡により一体化させるものであるため、接着不織布と比較して、柔軟であり、柔らかな触感を有している。しかしながら、不織布において伸びが生じやすい、すなわち伸長時応力が小さいために、加工性および取り扱い性に劣る傾向にあり、この傾向は特に不織布の目付が小さくなるほど顕著になる。
【0012】
接着不織布は、繊維同士が接着により比較的強固に結合されているため、低伸度での伸長時応力は、水流交絡不織布よりも高くなる傾向にある。しかしながら、接着不織布においては、繊維同士の接着箇所が不織布の触感を硬くして粗硬感を高める傾向にあり、柔軟性が劣る傾向にある。
上記の問題に鑑み、水流交絡処理を実施した後、接着処理を実施することで、水流交絡不織布の伸長時応力を向上させることは可能であるものの、接着に起因する不織布の触感の低下は避けられない。
【0013】
そこで、本発明者らは、水流交絡不織布の良好な触感と柔軟性を保持しつつ、繊維同士の接着を利用して伸長時応力を向上させる方法を検討した。そして、接着性繊維を含む繊維ウェブを先に接着処理に付し、次いで交絡処理に付する製造方法によれば、後の交絡処理で接着箇所が一部破壊されて粗硬感が減殺され、伸長時応力を適度に向上させつつ、柔軟で触感の良好な不織布が得られることを見出した。
以下、本開示の不織布及びその製造方法、ならびにこれを用いた液体含浸皮膚被覆シートを説明する。
【0014】
[実施形態1]
本開示の実施形態1の不織布の一例は、接着性繊維を20質量%以上含む液体含浸皮膚被覆シート用不織布であって、
前記不織布においては、繊維同士が接着されているとともに、繊維同士が交絡されており、
目付が15g/m以上40g/m以下であり、
CD方向の破断伸度(DRY)が80%以上であり、
保水率が900%以上である、
液体含浸皮膚被覆シート用不織布である。
【0015】
あるいは、本開示の実施形態1の不織布の別の例は、接着性繊維を20質量%以上含む液体含浸皮膚被覆シート用不織布であって、
前記不織布においては、繊維同士が接着されているとともに、繊維同士が交絡されており、
目付が40g/mを超え、70g/m以下であり、
CD方向の破断伸度(DRY)が80%以上であり、
剛軟度(DRY)/厚さ(1.96kPa荷重)が56.0以上100以下である、
液体含浸皮膚被覆シート用不織布である。
【0016】
本実施形態の不織布は、接着性繊維を含み、繊維同士が接着されているとともに、繊維同士が交絡されてなるものであって、そのCD方向の破断伸度(DRY)が80%以上であり、目付が比較的小さいときは保水率が900%以上であり、目付が比較的大きいときは剛軟度(DRY)/厚さ(1.96kPa荷重)が56.0以上100以下であるものである。以下においては、本実施形態の不織布を構成する繊維についてまず説明する。
【0017】
(接着性繊維)
「接着性繊維」とは、接着処理(例えば、熱接着処理、電子線照射、および超音波溶着(超音波ウェルダー)等)により接着性を示し、繊維同士を接着させて、接着箇所を形成することができる繊維をいい、本開示が目的とする不織布を得られる限り、特に制限されない。
【0018】
接着性繊維には、例えば、熱可塑性樹脂からなる合成繊維が含まれる。
熱可塑性樹脂は、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む)、ポリブテン-1、プロピレンを主たる成分とするプロピレン共重合体(プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体を含む)、エチレン-アクリル酸共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66等のポリアミド系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、環状ポリオレフィン等のエンジニアリングプラスチック、並びにそれらのエラストマー等を例示できる。合成繊維は、これらから任意に選択した一種または二種以上の熱可塑性樹脂を用いて製造してよい。
【0019】
合成繊維は、上記から選択される一または複数の熱可塑性樹脂から成る単一繊維であってよく、あるいは二以上の成分(「セクション」ともいえる)からなる複合繊維であってよい。複合繊維において、各成分は、一つの熱可塑性樹脂からなっていてよく、あるいは二以上の熱可塑性樹脂が混合されたものであってよい。複合繊維は、例えば、芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、またはサイドバイサイド型複合繊維であってよい。芯鞘型複合繊維は、繊維断面において芯成分の中心と鞘成分の中心が一致しない偏心芯鞘型複合繊維であってよく、繊維断面において芯成分の中心と鞘成分の中心が一致する同心芯鞘型複合繊維であってよい。複合繊維はまた、分割型複合繊維であってよい。
【0020】
単一繊維であるか複合繊維であるかにかかわらず、合成繊維は異型断面を有していてよい。芯鞘型複合繊維および海島型複合繊維の場合、その繊維断面において、芯成分および/または島成分は異型断面を有していてよい。
合成繊維が異型断面を有する場合、その断面は、楕円形、多角形、星形、または複数の凸部が基部で接合した形状(例えば、クローバー形状)であってよい。
本実施形態においては、合成繊維として、二以上の合成繊維を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
合成繊維が、複合繊維である場合、融点のより低い熱可塑性樹脂が繊維表面の一部を構成するように、二以上の成分を配置してよい。低融点の熱可塑性樹脂(低融点成分)は不織布を生産する工程で熱が加わったときに溶融または軟化して、接着成分となる。低融点成分は、繊維同士の接着または他の部材への接着に寄与し、接着箇所を形成し得る。
合成繊維が、複合繊維である場合、低融点成分が、繊維断面において、繊維の周面の長さに対して、例えば40%以上の長さで露出していてよく、特に50%以上の長さで露出していてよく、より特には60%以上の長さで露出していてよく、さらにより特には80%以上の長さで露出していてよい。あるいは、低融点成分は、繊維の周面全体にわたって露出していてよい。
【0022】
合成繊維の低融点成分が繊維断面において繊維周面に露出している長さ(以下、「露出長」という)の割合は、接着可能な領域の面積に影響を及ぼすとともに、交絡工程において繊維同士の接着が解消される程度にも影響を及ぼす。接着性繊維の低融点成分の露出長が上記範囲内であると、接着可能な領域の面積が適度なものとなり、接着箇所の数を適度なものとし得る。
【0023】
合成繊維が芯鞘型複合繊維である場合、芯と鞘の複合比(体積比、芯/鞘)は、例えば80/20~20/80であってよく、特に60/40~40/60であってよい。芯/鞘の複合比がこの範囲内にあると、繊維同士の接着が適度なものとなる。また、芯/鞘の複合比がこの範囲内にあると、接着工程の後に交絡工程を実施して不織布を製造するときに、交絡工程における接着箇所の剥離が過度に生じない。また、芯/鞘の複合比がこの範囲内にあると、芯成分によって繊維形状が維持されやすく、不織布の強力を好適なものとし得る。
【0024】
あるいは、合成繊維は、分割型複合繊維に由来する繊維であってよい。「分割型複合繊維に由来する繊維」とは、分割型複合繊維の分割により形成された、分割前の一つのセクションのみからなる単一繊維、および2以上のセクションからなる繊維のほか、1本の分割型複合繊維の一部が分割されているが、他の部分において全く分割していない繊維を指す。あるいは、不織布中に分割型複合繊維の分割により形成された繊維が含まれる限りにおいて、1本の分割型複合繊維が全く分割されていないことがある場合に、そのような全く分割されていない分割型複合繊維も、分割型複合繊維に由来する繊維に含まれる。
【0025】
分割型複合繊維は、具体的には、繊維断面において構成成分のうち少なくとも1成分が2個以上に区分されてなり、構成成分の少なくとも一部が繊維表面に露出し、その露出部分が繊維の長さ方向に連続的に形成されている繊維断面構造を有する。分割型複合繊維は、楔形のセクションが菊花状に並べられたものであってよい。あるいは、分割型複合繊維は、繊維断面において各セクションが層状に並べられたものであってよい。また、分割型複合繊維は繊維断面を観察したとき長さ方向に連続する空洞部分を有さない、いわゆる中実分割型複合繊維であってよく、あるいは長さ方向に連続する1箇所以上の空洞部分を有する、いわゆる中空分割型複合繊維であってもよい。
【0026】
分割型複合繊維における各成分への分割数(即ち、複合繊維におけるセクションの数)は、例えば、4以上、32以下であってよく、特に4以上、20以下であってよく、より特には6以上、10以下であってよい。
【0027】
接着性繊維の接着成分(複合繊維の場合は低融点成分)は、オレフィンと、不飽和カルボン酸又はその誘導体との共重合体であってよい。そのような共重合体はセルロース系繊維に対して良好な接着性を示す。不飽和カルボン酸として、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられ、その誘導体として、不飽和カルボン酸の無水物、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類、または同様なアクリル酸エステル等、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ブテンカルボン酸エステル類、アリルグリシジルエーテル、3,4-エポキシブテン、5,6-エポキシ-1-ヘキセン、ビニルシクロヘキセンモノオキシド等が挙げられる。特に、オレフィンがエチレンであり、不飽和カルボン酸又はその誘導体がアクリル酸又はその誘導体であるエチレン-アクリル酸共重合体であることが好ましい。
【0028】
複合繊維を構成する熱可塑性樹脂の組み合わせは、例えば、ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、およびプロピレン共重合体/ポリエチレンテレフタレート等のポリオレフィン系樹脂とポリエステル系樹脂との組み合わせ(ポリオレフィン系樹脂/ポリエステル系樹脂)、ならびにポリエチレン/ポリプロピレン、プロピレン共重合体/ポリプロピレン、エチレン-アクリル酸共重合体/ポリプロピレン等の二種類のポリオレフィン系樹脂の組み合わせ、および融点の異なる二種類のポリエステル系樹脂の組み合わせを含む。
【0029】
合成繊維が、融点のより低い熱可塑性樹脂が鞘部を構成する芯鞘型複合繊維である場合、芯/鞘の組み合わせは、例えば、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート/プロピレン共重合体、ポリトリメチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエステル(例えば、イソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレート)、ポリプロピレン/エチレン-アクリル酸共重合体、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネートを含む。これらの組み合わせは、芯鞘型複合繊維以外の複合繊維にも適用されえる。鞘がポリエチレン(例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、もしくは直鎖状低密度ポリエチレン)または共重合ポリエステルである芯鞘型複合繊維は、前記鞘を構成する熱可塑性樹脂の融点以上の温度で熱処理することで鞘が溶融又は軟化して、繊維同士を接着して、接着箇所を形成する性質を有する。
【0030】
合成繊維が、分割型複合繊維に由来する繊維である場合、分割型複合繊維の各セクションを構成する樹脂の組み合わせの例として、上記芯鞘型複合繊維の芯/鞘の組み合わせとして例示したものが挙げられる。特に、分割型複合繊維を構成する樹脂の組み合わせとしては、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/エチレン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート等が挙げられる(ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、および直鎖状低密度ポリエチレンのいずれか一つまたはそれらの組み合わせである)。分割型複合繊維を構成する樹脂の組み合わせは、分割にも影響を及ぼし、一般には、系(ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系といった系)の異なるポリマーの組み合わせは、より分割しやすい分割型複合繊維を与える。
【0031】
なお、単一繊維または複合繊維の構成成分として例示した熱可塑性樹脂は、具体的に示された熱可塑性樹脂を50質量%以上含む限りにおいて他の成分を含んでよい。例えば、ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレートの組み合わせにおいて、「ポリエチレン」はポリエチレンを50質量%以上含んでいれば、他の熱可塑性樹脂および添加剤等を含んでいてよい。このことは以下の例示においてもあてはまる。
【0032】
接着性繊維として、二以上の繊維が含まれてよい。その場合、これらの繊維の接着成分の融点は相互に異なってよい。例えば、二種類の接着性繊維を含む場合、これらの繊維の接着成分の融点の差は10℃以上40℃以下であってよく、特に15℃以上30℃以下であってよい。
【0033】
接着性繊維の繊度は、例えば、1.0dtex~7.8dtexであってよく、特に1.4dtex~6.7dtexであってよく、より特には2.2dtex~4.5dtexであってよい。
接着性繊維の繊度が上述の範囲内にあると、得られる不織布において、適度な強力と柔らかな風合いを実現しやすい。
【0034】
特に、分割型複合繊維の繊度は、各成分に分割したときに(即ち、各セクションが一本の繊維となったときに)、繊度0.6dtex以下、好ましくは繊度0.5dtex以下の極細繊維を与えるものであることが好ましい。本実施形態において、分割型複合繊維に由来する繊維として、極細繊維が含まれる場合には、不織布が柔軟なものとなり、また、極細繊維間に形成される微細な空隙によって液体が良好に保持される。
【0035】
そのような極細繊維を発生させるために、分割型複合繊維の繊度は、例えば、1dtex以~9dtexであってよく、より特には1.5dtex~3.5dtexであってよく、さらにより特には1.5dtex~2.5dtexであってよい。極細繊維の繊度の下限は、特に限定されないが、0.05dtex以上であることが好ましい。
【0036】
接着性繊維の繊維径は、例えば、10μm~33μmであってよく、特に12μm~30μmであってよく、より特には15μm~25μmであってよい。
接着性繊維の繊維径が上述の範囲内にあると、不織布において、適度な強力と柔らかな風合いを実現しやすい。
【0037】
接着性繊維の繊維長は、例えば、25mm~100mmであってよく、特に30mm~70mmでああってよく、より特には35mm~60mmであってよい。
接着性繊維の繊維長が上述の範囲内にある場合、繊維の交絡性が好適となりやすい。特に、後述する方法で不織布を製造する場合には、繊維長が上述の範囲内にあることで、接着工程により、一つの繊維に、より適度な数の接着箇所を形成することができる。
【0038】
接着性繊維は、本実施形態の不織布において、20質量%以上含まれる。接着性繊維の割合を20質量%以上とすることで、不織布における接着箇所の数を適度なものとして、得られる不織布の低伸長率(特に10%)での伸長時応力を向上させることができる。接着性繊維の割合は、40質量%以上であってよく、特に60質量%以上であってよく、より特には80質量%以上であってよい。あるいは、本実施形態の不織布は、接着性繊維のみで構成されていてよい。また、不織布は分割型複合繊維に由来する繊維のみで構成されていてよい。分割型複合繊維に由来する繊維には、極細繊維が含まれるため、接着箇所の面積が小さくなりやすい。したがって、分割型複合繊維に由来する繊維のみで不織布が構成されていても、不織布の触感が硬くなりにくい。
【0039】
(セルロース系繊維)
本実施形態の不織布は、接着性繊維以外の繊維を含んでよく、例えば、セルロース系繊維を含んでよい。セルロース系繊維は一般に親水性を有するので、不織布に含まれると、不織布の液体保持性を向上させる役割をする。そこで、以下においては、セルロース系繊維を説明する。
【0040】
「セルロース系繊維」とは、繊維素繊維とも呼ばれ、一般的に、セルロースを原料とする繊維をいう。
セルロース系繊維には、例えば、
(1)綿(コットン)、麻、亜麻(リネン)、ラミー、ジュート、バナナ、竹、ケナフ、月桃、ヘンプ及びカポック等の植物に由来する天然繊維;
(2)ビスコース法で得られるレーヨン及びポリノジックレーヨン、銅アンモニア法で得られるキュプラ、及び溶剤紡糸法で得られるテンセル(登録商標)及びリヨセル(登録商標)等の再生繊維;
(3)溶融紡糸法で得られるセルロース繊維;及び
(4)アセテート繊維等の半合成繊維
が含まれる。セルロース系繊維の種類は特に限定されない。
【0041】
セルロース系繊維の繊度は、例えば、0.6dtex~5.6dtexであってよく、特に1.0dtex~4.4dtexであってよく、より特には1.4dtex~3.3dtexであってよい。
セルロース系繊維の繊度が上述の範囲内にある場合、不織布の強力を適度なものとすることができ、また、不織布の風合いも良好となる。繊度が小さすぎると、不織布の強力が低くなることがある。繊度が大きすぎると、不織布の風合いが低下することがある。セルロース系繊維の繊度はまた、後述する方法(特に交絡処理が水流交絡処理を含む方法)で不織布を製造する場合に、繊維の交絡性にも影響を及ぼす。セルロース系繊維の繊度が上述の範囲内にある場合、交絡の度合いが適度なものとなる。交絡の度合いが高すぎる場合、不織布の嵩高性が低下して、触感が低下することがあり、あるいは液体保持性が低下することがある。交絡の度合いが低すぎる場合、伸長時応力が低くなることがある。
【0042】
セルロース系繊維の繊維径は、例えば、5μm~25μmであってよく、特に8μm~20μmであってよく、より特には10μm~17μmであってよい。
セルロース系繊維の繊維径が上述の範囲内にある場合、不織布の強力を適度なものとすることができ、また、不織布の風合いも良好となる。繊維径が小さすぎると、不織布の強力が低くなることがある。繊維径が大きすぎると、不織布の風合いが低下することがある。セルロース系繊維の繊維径はまた、繊維の交絡性にも影響を及ぼす。セルロース系繊維の繊維径が上述の範囲内にある場合、後述する方法(特に交絡処理が水流交絡処理を含む方法)で不織布を製造する場合に、交絡の度合いが適度なものとなる。交絡の度合いが高すぎる場合、不織布の嵩高性が低下することがあり、また、交絡の度合いが低すぎる場合、伸長時応力が低くなることがある。
【0043】
セルロース系繊維の繊維長は、例えば、25~100mmであってよく、特に30~70mmであってよく、より特には35~60mmであってよい。
セルロース系繊維の繊維長が上述の範囲内にある場合、後述する方法(特に交絡処理が水流交絡処理を含む方法)で不織布を製造する場合に、繊維の交絡性が好適となりやすい。特に本実施形態の製造方法では、繊維長が上述の範囲内にあることで、接着工程により、一つの繊維に、より適度な数の接着箇所を形成することができる。
【0044】
セルロース系繊維の断面(横断面、又は繊維の長さ方向と垂直方向の断面)は、円形であっても非円形であってもよい。非円形の形状として、例えば、楕円形、Y形、X形、井形、多葉形、多角形、星形、菊花形等が挙げられる。繊維の断面が円形である場合、接着性繊維との接着面積が比較的小さくなるので、非円形の形状のものを用いる場合よりも不織布の風合いをより柔らかくすることができる。繊維の断面が非円形である場合、接着性繊維との接着面積が比較的大きくなるので、不織布の強力をより高くし得る。
【0045】
セルロース系繊維として、再生繊維または半合成繊維などの化学繊維を用いてよい。化学繊維の繊度及び/又は繊維径、ならびに繊維長のばらつきは、天然繊維のそれらよりも小さいので、不織布の交絡度合いをより調整しやすい。また、レーヨン及び溶剤紡糸セルロース繊維等の再生繊維は、繊維自体が有する湿潤時の柔らかさと強力のバランスが良好であり、不織布として好適な風合いの柔らかさ及び強力を得ることがより容易であり好ましい。また溶剤紡糸セルロース繊維は単繊維強力が比較的高いため、不織布の強力がより良好になる点で好ましい。
セルロース系繊維は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0046】
セルロース系繊維は表面処理が施されて、その表面の親水性又は疎水性の程度が変えられたものであってよい。表面処理は、一般的には、油剤(界面活性剤)を繊維表面に付着させる処理である。セルロース系繊維の表面の親水性又は疎水性の程度は、例えば、繊維の沈降速度等の値を用いて評価することができる。表面処理は、表面の親水性をより高くするものであってよく(親水化処理)、あるいは表面の親水性を低下させるものであってよい(疎水化処理)。
【0047】
本実施形態で用いるセルロース系繊維の沈降速度(又は沈降時間(秒))の値は、例えば、30秒以下であってよく、特に20秒以下であってよく、より特には10秒以下であってよい。セルロース系繊維の沈降速度(又は沈降時間)が小さいほど、セルロース系繊維の交絡性がより高くなる傾向にある。
【0048】
繊維の沈降速度は、下記の方法で測定することができる。
沈降速度を測定する繊維を17g採取する。採取した繊維を(パラレルカード機を用いて)開繊し、カードウェブとする。カードウェブを5g秤量し、銅線(太さ0.55mm)製の籠(直径5cm、高さ8cmの円筒形、籠本体の質量3g)に充填する。
次に、恒温水槽を用意し、恒温水槽内に水道水を入れ、25℃になるよう設定する。水温が25℃になったら、恒温水槽の撹拌を止めて沈降速度の測定を開始する。上記の手順で繊維を充填した籠を水面上1cmの位置から静かに落下させ、水面に籠が落ちると同時にストップウォッチをスタートさせる。徐々に繊維が含水し、高さ8cmの籠が完全に水面下に沈むと同時にストップウォッチを停止させる。籠が水面に落下したときから籠が水面下に沈むまでの時間を沈降速度とし、2回測定した平均値をその繊維の沈降速度とする。
【0049】
(他の繊維)
本実施形態の不織布には、セルロース系繊維および接着性繊維以外の繊維(以下、「他の繊維」)が含まれていてよい。他の繊維は、例えば、セルロース系繊維でない天然繊維(例えば羊毛、シルク等)、接着性繊維ではない合成繊維(例えば、接着性繊維の接着成分を溶融させるときに溶融または軟化せず、接着性を示さない合成繊維等)であり、特に限定されない。
【0050】
他の繊維は、不織布を構成する繊維全体を100質量%としたときに、35質量%以下の割合で含まれてよく、特に25質量%以下、より特には10質量%以下の割合で含まれてよい。
【0051】
(不織布の構成)
本実施形態の不織布の一例は上記のとおり接着性繊維を20質量%以上含み、繊維同士が接着されているとともに、繊維同士が交絡されており、目付が15g/m以上40g/m以下であり、CD方向の破断伸度(DRY)が80%以上であり、保水率が900%以上である不織布である。
【0052】
本実施形態の不織布の別の例は、上記のとおり接着性繊維を20質量%以上含み、繊維同士が接着されているとともに、繊維同士が交絡されており、目付が40g/mを超え、70g/m以下であり、CD方向の破断伸度(DRY)が80%以上であり、剛軟度(DRY)/厚さ(1.96kPa荷重)が56.0以上、100以下である不織布である。
【0053】
繊維同士の接着は、接着性繊維によるものである。繊維同士が接着している接着箇所では、接着性繊維の成分が溶融または軟化して、再度固化した接着部が形成されている。繊維同士は後述するとおり、例えば、水流交絡処理により交絡されていてよい。
【0054】
本実施形態の不織布は、接着と交絡により繊維が一体化されたものであるため、両者の特徴を兼ね備えるとともに、後述する方法で製造される場合には、交絡工程が接着工程の後で実施されることで、一旦接着された箇所にて、接着が解消された構成となる。そのため、交絡工程の後で接着工程を実施して製造した不織布と比較して、柔軟であり、また、繊維間空隙が多くなる傾向にある。
【0055】
より具体的には、本実施形態の不織布は、接着と交絡により、その機械的強力を確保するものであるため、接着のみで機械的強力を確保する場合と比較して、そのCD方向(横方向)の破断伸度を比較的高くすることができ、柔軟な風合いを有する。一方、本実施形態の不織布は、接着により繊維同士がある程度固定されたものであるため、繊維の交絡のみで一体化された不織布よりも、伸長に対する抵抗力が高く、比較的大きな10%伸長時応力を示す。
【0056】
本実施形態の不織布は、その目付が15g/m以上70g/m以下であるときに、CD方向において80%以上の破断伸度(DRY)を示す。ここで、「DRY」は、不織布に液体を含浸させていない状態で測定されていることを示す。CD方向の破断伸度(DRY)は、特に100%以上であってよい。CD方向の破断伸度(DRY)は、好ましくは200%以下である。CD方向の破断伸度(DRY)が200%を超えると、10%伸長時応力が低くなる傾向にある。
【0057】
本実施形態の不織布の目付は、特に20g/m以上60g/m以下であってよく、より特には30g/m以上50g/m以下であってよい。
【0058】
本実施形態の不織布は、そのMD方向の破断伸度(DRY)が、例えば、40%以上であってよく、特に50%以上であってよく、より特には60%以上であってよい。そのようなMD方向の破断伸度(DRY)もまた、本実施形態の不織布を特徴づけるものになり得る。
【0059】
例えば、本実施形態の不織布が、接着性繊維として分割型複合繊維に由来する繊維を含む場合、分割型複合繊維の分割の度合いが高い(すなわち、分割率が高い)と、不織布のMD方向の破断伸度(DRY)は低くなる傾向にある。後述する方法で不織布を製造する場合には、接着工程によって繊維同士をある程度固定した状態で交絡工程を実施でき、また、接着により不織布の強力をある程度確保できるので、不織布の交絡度合いを高くする必要がない。そのため、分割型複合繊維の分割も進行しにくく、MD方向の破断伸度(DRY)の低下が生じにくい。MD方向の破断伸度(DRY)が低い場合にも、不織布が硬くなる傾向にあるため、MD方向の破断伸度(DRY)を上記の範囲とすることで、CD方向の破断伸度(DRY)が80%以上であることと相俟って、柔軟な不織布を得ることができる。
【0060】
本実施形態の不織布は、上記のとおり、交絡工程の後に接着工程を実施して製造した不織布よりも繊維間空隙が多く、嵩高となる傾向にあり、高い保水率を示しやすい。特に本実施形態の不織布は目付が比較的小さいときに、高い保水率を示す。具体的には、本実施形態の不織布は、その目付が15g/m以上40g/m以下であるときに、後述する実施例で説明する方法で保水率を測定したときに、900%以上の保水率を示す。本実施形態において、目付が比較的低い不織布の保水率は、特に1000%以上であってよく、より特には1200%以上であってよい。
【0061】
本実施形態の不織布は、目付が比較的高いとき、例えば、目付が40g/mを超え、70g/m以下であるときに、後述する実施例で説明する方法で保水率を測定したときに、例えば700%以上の保水率を示す。本実施形態において、目付が比較的高い不織布の保水率は、特に800%以上であってよく、より特には900%以上であってよく、さらにより特には1000%以上であってよい。
保水率は、目付の大小にかかわらず、接着性繊維が分割型複合繊維に由来する繊維でない場合、および/またはセルロース系繊維が含まれない場合、より高くなる傾向にある。
【0062】
本実施形態の不織布は、剛軟度(DRY)を1.96kPa荷重下で測定した厚さで除した値(剛軟度/厚さ(1.96kPa荷重))によっても特徴付けられる。具体的には、本実施形態の不織布は、その目付が40g/mを超え、70g/m以下であるときに、後述する実施例で説明する方法で不織布の厚さ、剛軟度(DRY)を測定し、それらから剛軟度(DRY)/厚さ(1.96kPa荷重)を算出すると、56.0以上100以下の値を示す。本実施形態の不織布において、剛軟度(DRY)/厚さ(1.96kPa荷重)の値は、特に60以上であってよく、より特には70以上であってよい。剛軟度(DRY)/厚さ(1.96kPa荷重)の上限は、例えば98.0であってよい。
【0063】
あるいは、本実施形態の不織布は、目付が比較的小さいとき、例えば、目付が15g/m以上40g/m以下であるときに、10.0以上65.0以下の剛軟度(DRY)/厚さ(1.96kPa荷重)を示す。本実施形態において、目付が比較的低い不織布の剛軟度(DRY)/厚さ(1.96kPa荷重)は、特に15.0以上であってよく、より特には50.0以上であってよい。剛軟度(DRY)/厚さ(1.96kPa荷重)の上限は、例えば、60.0であってよい。
【0064】
剛軟度は不織布の厚さに影響を受けるため、剛軟度(DRY)/厚さ(1.96kPa荷重)は、不織布の厚さの影響を除外した不織布の柔らかさの指標となる。したがって、この値が小さいほど、不織布が柔らかく、例えば、フェイスマスクとして使用した場合、肌への追従性がよく、大きいほど、不織布が硬くなり、例えば、フェイスマスクとして使用した場合、肌への密着性が低下する傾向にある。
【0065】
本実施形態の不織布はまた、比較的高い10%伸長時応力を示す。具体的には、本実施形態の不織布は、その目付が15g/m以上70g/m以下であるときに、0.23N/5cm以上の10%伸長時応力(DRY)を示し得る。CD方向の10%伸長時応力(DRY)は、特に0.25N/5cm以上であってよく、より特には0.3N/5cm以上であってよく、さらにより特には0.4N/5cm以上であってよく、さらにより特には0.5N/5cm以上であってよい。CD方向の10%伸長時応力(DRY)の上限は、例えば1.00N/5cm以下であってよく、特に0.8N/5cm以下であってよく、より特には0.6N/5cm以下であってよい。CD方向の10%伸長時応力は、接着性繊維が分割型複合繊維に由来する繊維ではなく、例えば、芯鞘型複合繊維である場合に、より高くなる傾向にある。
【0066】
本実施形態の不織布は、接着性繊維とセルロース系繊維とを含む場合には、乾燥時において、例えば、0.01~0.20g/cmの繊維密度を有してよく、0.02~0.15g/cmの繊維密度を有することが好ましく、0.03~0.14g/cmの繊維密度を有することがより好ましい。不織布全体の繊維密度は、目付と厚さ(1.96kPaの荷重を加えて測定される厚さ)から求めることができる。
【0067】
本実施形態の不織布は、接着性繊維のみからなる場合には、乾燥時において、例えば、0.01~0.20g/cmの繊維密度を有してよく、0.02~0.15g/cmの繊維密度を有することが好ましく、0.03~0.10g/cmの繊維密度を有することがより好ましい。不織布全体の繊維密度は、目付と厚さ(1.96kPaの荷重を加えて測定される厚さ)から求めることができる。
【0068】
[実施形態2]
(不織布の製造方法)
次に実施形態1で説明した不織布の製造方法を実施形態2として説明する。
本実施形態の製造方法は、
接着性繊維を20質量%以上含む繊維ウェブを作製する工程、
前記接着性繊維により前記繊維ウェブの繊維同士を接着させる接着工程、
前記接着工程の後で前記繊維ウェブの繊維同士を交絡させる交絡工程、
を含み、
前記交絡工程に付される前記繊維ウェブの目付が15g/m以上70g/m以下であり、
前記接着工程と前記交絡工程との間で、前記繊維ウェブをロールに巻き取ることを含まない、
CD方向の破断伸度(DRY)が80%以上である液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法である。
【0069】
繊維ウェブは、公知の方法で作製することができる。繊維ウェブの形態は、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、エアレイウェブ、湿式抄紙ウェブのようないずれの形態であってもよい。繊維ウェブの形態は、パラレルウェブであると不織布の表面がより滑らかとなるため好ましい。
【0070】
繊維ウェブの準備は、例えば、繊維ウェブAと繊維ウェブBを別に準備することを含んでよい。その場合、後述するように、例えば、繊維ウェブAを接着工程に付した後、これに繊維ウェブBを積層し、積層した状態の二枚の繊維ウェブを交絡工程に付してよい。このような方法で不織布を製造する場合、繊維ウェブAと繊維ウェブBはまったく同じものであってよい。あるいは繊維ウェブAと繊維ウェブBは、二種類以上の繊維を用いる場合にはその混合割合、形態ならびに目付のうち、少なくとも一つが互いに異なるものであってよい。例えば、繊維ウェブAを接着性繊維のみからなるものとし、繊維ウェブBを接着性繊維を含まず、例えば、セルロース系繊維のみからなるものとしてよい。この場合、交絡工程が水流交絡処理を含む場合、繊維ウェブBの繊維が、繊維ウェブAの繊維に、より良好に交絡する。
繊維ウェブの準備は、三以上のウェブ製造ラインにて、三以上の繊維ウェブを別に準備することを含んでよい。
【0071】
繊維ウェブの目付は、得ようとする不織布の目付に応じて選択される。例えば、接着工程の後、交絡工程の前に、繊維ウェブの積層工程を含まない場合、繊維ウェブの目付は得ようとする繊維ウェブの目付と同じとなる。積層工程を含む場合、繊維ウェブAと繊維ウェブBとを合わせた目付が、得ようとする不織布の目付と同じとなり、かつ、それぞれの繊維ウェブに含まれる繊維全体に対して、接着性繊維および他の繊維の割合が所望のもとなるように目付を選択する。例えば、繊維ウェブAを接着性繊維のみで構成し、繊維ウェブBを他の繊維のみで構成する場合、繊維ウェブAと繊維ウェブBの目付の割合が接着性繊維と他の繊維の混合割合となるため、これを考慮して目付を選択する。
【0072】
例えば、繊維ウェブAを接着性繊維のみで構成し、繊維ウェブBをセルロース系繊維のみで構成する場合、繊維ウェブAの目付は8g/m以上35g/m以下であってよく、繊維ウェブBの目付は7g/m以上35g/m以下であってよく、特に、繊維ウェブAの目付は10g/m以上30g/m以下であってよく、繊維ウェブBの目付は10g/m以上30g/m以下であってよい。繊維ウェブAの目付が小さすぎると、不織布のふんわりとした触感が低下し、繊維ウェブBの目付が小さすぎると、不織布の保水率が低下することがある。
【0073】
(接着工程)
次に、接着工程を説明する。
接着工程は、繊維ウェブに含まれる接着性繊維によって、繊維同士を接着して、接着箇所を形成する工程である。
【0074】
接着工程は、例えば、熱接着工程であってよい。熱接着工程は、繊維ウェブを熱処理することによって、接着性繊維を構成する樹脂成分のうち最も融点の低い成分(熱接着成分)を溶融または軟化させて、繊維ウェブを構成する繊維同士を接着させる方法で接着箇所を形成する工程である。
【0075】
熱処理は、例えば、熱風を吹き付ける熱風加工処理、熱ロール加工(例えば、熱エンボスロール加工)、または赤外線を使用したものであってよい。得られる不織布を嵩高なものとするためには、熱風加工処理が好ましい。熱風加工処理は、所定の温度の熱風を繊維ウェブに吹き付ける装置、例えば、熱風貫通式熱処理機、および熱風吹き付け式熱処理機を用いて実施してよい。これらの装置を用いた熱風加工処理においては、繊維ウェブの厚さ方向に圧力が加わりにくいため、得られる不織布が嵩高なものとなりやすい。
【0076】
接着工程が熱風加工処理である場合、熱風を複数回吹き付けることが好ましい。また熱風を複数回吹き付ける場合、最初の熱風の温度よりも2回目の熱風の温度が高いことが好ましい。セルロース系繊維と接着性繊維との接着性は、接着性繊維同士の接着性よりも高くないため、セルロース系繊維と接着性繊維との接着性をより高めるために、熱風を複数回吹き付けることが有効である。
【0077】
接着工程が熱風加工処理である場合、熱風の風速は、不織布強力および嵩高性の確保の点から、例えば、0.1m/min~3.0m/minであってよく、特に0.2~2.5m/minであってよく、より特には0.3m/min~2.0m/minであってよい。熱風の風速が小さすぎると、繊維ウェブ全体で繊維同士を良好に接着できないことがあり、大きすぎると、嵩高性が損なわれることがある。
【0078】
熱処理の温度は、接着性繊維を構成する樹脂成分のうち最も融点の低い成分(熱接着成分)が軟化または溶融する温度としてよく、例えば、当該成分の融点以上の温度としてよい。例えば、接着性繊維を構成する樹脂成分のうち最も融点の低い成分が高密度ポリエチレンである場合に、熱風加工を実施するときには、130℃~150℃の温度の熱風を吹き付けてよい。例えば、接着性繊維を構成する樹脂成分のうち最も融点の低い成分がエチレン-アクリル酸共重合体である場合、熱風加工を実施するときに、90℃~140℃の温度の熱風を吹き付けてよく、特には95~130℃の温度の熱風を吹き付けてよく、より特には100~120℃の熱風を吹き付けてよい。また、熱処理の温度は、不織布の良好な風合いの観点から、熱接着成分の融点または軟化点よりも0℃以上5℃以下高い温度とすることが好ましく、1℃以上4℃以下高い温度とすることがより好ましく、2℃以上3℃以下高い温度とすることがさらに好ましい。
【0079】
接着工程は、電子線等の照射、または超音波溶着によるものであってよい。これらの接着加工によっても、接着性繊維を構成する樹脂成分で繊維同士を接着させることができる。
【0080】
接着工程後の繊維ウェブは、例えば、MD方向の破断強力(DRY)が1.0N/5cm以上であると、接着が十分である不織布を与えやすい。MD方向の破断強力(DRY)は、特に2.0N/5cm以上であってよく、より特には3.0N/5cm以上であってよい。また、接着工程後の繊維ウェブは、例えば実施例に記載された方法で測定される剛軟度(DRY)が100g以下であってよい。その場合、風合いの柔らかい不織布を最終的に得やすくなる。剛軟度(DRY)は特に80g以下であってよく、より特には60g以下であってよい。
【0081】
(冷却工程)
接着工程に付された繊維ウェブは、交絡工程に付される前に冷却工程に付してよい。接着工程後の繊維ウェブを、その接着性繊維の一部が軟化または溶融した状態で次の交絡工程に付すると、接着箇所の剥離が過度に生じることがあり、その結果、不織布の強力が低下することがあり、あるいは樹脂片が生じやすくなることがある。したがって、冷却工程においては、接着成分が固化されるまで、繊維ウェブを冷却してよい。冷却工程は、自然冷却(放冷)であってよく、あるいは冷却装置を使用した積極的な冷却であってよい。また、冷却の方式は、空冷であっても、水冷であってもよい。自然冷却は、接着工程後の繊維ウェブが十分に冷却されるまで、繊維ウェブをベルト上、またはロール間で走行させて実施してよい。
【0082】
(交絡工程)
次に、交絡工程を説明する。
交絡工程は、接着工程後の繊維ウェブにおいて、繊維同士を交絡させる処理を実施する工程である。本実施形態においては、接着工程の後、繊維ウェブをロールに巻き取ることなく、繊維ウェブを交絡工程に付する。これにより、繊維同士の交絡が進行しやすくなるとともに、得られる不織布の嵩をより高くすることができる。
【0083】
交絡工程は、例えば、ニードルパンチ処理、または高圧流体流(特に水流)交絡処理である。高圧流体流処理において、高圧流体は、例えば、圧縮空気等の高圧気体、および高圧水等の高圧液体である。不織布の製造においては、高圧流体として高圧水を用いた水流交絡処理を用いることが多く、本実施形態においても、実施の容易性等の点から、水流交絡処理が好ましく用いられる。以下においては、高圧流体として高圧水(以下においては、単に「水流」とも呼ぶ)を用いた場合の交絡工程を説明する。
【0084】
水流交絡処理は、例えば、孔径0.05mm以上、0.5mm以下のオリフィスが0.3mm以上、1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa以上、15MPa以下の水流を、繊維ウェブの表面及び裏面の各々に、1~5回ずつ噴射することにより実施することができる。水圧は、好ましくは、1MPa以上、10MPa以下であり、より好ましくは、1MPa以上、7MPa以下であり、特に好ましくは、1MPa以上、6MPa以下である。
【0085】
水流交絡処理は、支持体に繊維ウェブを載せて、柱状水流を噴射することにより実施することができる。支持体は、不織布表面が平坦で、かつ凹凸を有しないものとするならば、1つあたりの開孔面積が0.2mmを超える開孔を有さず、また、突起またはパターンが形成されていない支持体を用いるとよい。例えば、支持体は、80メッシュ以上、100メッシュ以下の平織の支持体を用いるとよい。
また、水流交絡処理は、繊維ウェブの一方の面にのみ水流を噴射して実施してよい。
【0086】
接着工程が熱風加工処理である場合、水流交絡処理は、熱風加工処理において熱風を吹き付けた面(以下、「熱風吹き付け面」)に対して先に柱状水流を噴射することが好ましく、その後、さらに反対の面に対して柱状水流を噴射することが好ましい。
熱風吹き付け面は、その反対の面(一般的に、熱風加工処理の間、支持体に接触している面)よりも繊維密度が小さくなる傾向があり、柱状水流による交絡が比較的進みやすい。水流交絡処理による不織布の強力は、最初の交絡処理における交絡度合いに左右されやすい。そのため、比較的交絡が進みやすい、繊維ウェブの繊維密度が比較的小さい側から柱状水流を噴射することが好ましい。
【0087】
なお、例えば、繊維ウェブAと繊維ウェブBを別に準備し、繊維ウェブAを接着工程に付した後、これに繊維ウェブBを積層し、交絡工程で積層ウェブに水流交絡処理を実施する場合、繊維ウェブAの熱風吹き付け面の側から先に柱状水流を噴射することが好ましい。したがって、例えば繊維ウェブAの熱風吹き付け面の上に繊維ウェブBを積層した場合は、繊維ウェブBの側から先に柱状水流を噴射することが好ましい。
【0088】
交絡工程では、水流の噴射による衝撃等のために、接着箇所が破壊されることがある。このような破壊は、交絡工程後に接着工程を実施して製造する不織布においては生じないものであり、本実施形態の製造方法を特徴づけるものとなり得る。接着箇所の破壊によって、繊維の自由度が大きくなり、不織布をより柔軟なものとすることができ、また、繊維間空隙を増やして不織布の保水率を高くすることができる。さらに、繊維の自由度が大きくなることで、液体を含侵させた不織布の皮膚への密着性を高くすることができると考えられる。
【0089】
[実施形態3]
(積層工程を含む製造方法)
本開示の実施形態3の製造方法は、繊維ウェブAと繊維ウェブBとを別に準備し、繊維ウェブAのみを接着工程に付し、接着工程に付した後の繊維ウェブAに繊維ウェブBを積層して積層ウェブを得る積層工程を含む。実施形態3の製造方法では、積層ウェブが交絡工程に付される。交絡工程に付される繊維ウェブは、その一部分(繊維ウェブB)において接着箇所が形成されていないものであるため、これに水流を噴射すると交絡がより進行する傾向にある。特に、繊維ウェブBがセルロース系繊維を含む、またはそれのみから成る場合には、交絡がさらに進行しやすい。したがって、交絡工程で用いる水流の水圧を低くしても、あるいはセルロース系繊維の割合を少なくしても、十分な交絡が達成されやすい。
【0090】
実施形態3の製造方法において、接着工程、交絡工程、および交絡後接着工程の条件等は実施形態2の製造方法に関連して説明したそれらと同じであるから、ここではその説明を省略する。尤も、これらの工程の条件等は、繊維ウェブAおよびBに含まれる繊維の種類および割合、ならびにこれらの目付に応じて、適宜調整される。
【0091】
本実施形態の製造方法において、繊維ウェブBが接着性繊維のみから成り、繊維ウェブAがセルロース系繊維のみから成る場合、得られる不織布は一種の積層不織布であり、一方の表面においてより接着性繊維の割合が多く、一方の表面においてよりセルロース系繊維の割合が多くなる。また、繊維ウェブAおよびBをこのように作製する場合、得られる不織布は一種の積層不織布となり、一方の表面において接着性繊維の割合がより多く、他方の表面においてセルロース系繊維の割合がより多い構成の不織布が得られる。
【0092】
(液体含浸皮膚被覆シート)
実施形態1の不織布はこれに液体を含浸させることにより、人または動物の皮膚を被覆するための液体含浸皮膚被覆シートを構成する。含浸させる液体および含浸量は、用途に応じて適宜選択される。シートを、対人用フェイスマスク、角質ケアシートおよびデコルテシートといった、対人用液体含浸皮膚被覆シートとして提供する場合には、有効成分を含む液体(例えば化粧料)を不織布100質量部に対して、600質量部以上2500質量部以下の含浸量で含浸させてよく、特に600質量部以上1500質量部以下の含浸量で含浸させてよく、より特には700質量部以上1500質量部以下の含浸量で含浸させてよい。有効成分は、例えば、保湿成分、角質柔軟成分、制汗成分、香り成分、美白成分、血行促進成分、紫外線防止成分、および痩身成分等であるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
フェイスマスクは、顔を被覆するのに適した形状を有し、さらに、例えば、目、鼻および口に相当する部分に、必要に応じて打ち抜き加工による開口部又は切り込み部が設けられた形態で提供される。あるいは、フェイスマスクは、顔の一部分(例えば、目元、口元、鼻または頬)のみを覆うような形状のものであってよい。あるいはまた、フェイスマスクは、目の周囲を覆うシートと、口の周囲を覆うシートとから成るセットとして提供してよく、あるいは3以上の部分を別々に覆うシートのセットとして提供してよい。
【0094】
角質ケアシートは角質が厚く、硬化しやすい踵、肘、膝などに使用される皮膚被覆シートであり、角質柔軟成分および保湿成分等を含む液体を含浸させることにより、角質に対し保湿や軟化を促すシートや、余分な角質の除去を促進する効果を発揮する。本実施形態の不織布は、いずれの効果・効能を発揮する角質ケアシートにおいても、基材として使用することができる。角質ケアシート、例えば踵用の角質ケアシートは、貼り付ける際に、シートが踵の曲線に合わせやすくなるように、切り込みおよび/もしくは切り欠き、ならびに/またはシートの一部が打ち抜かれて開口部を有する形態で提供される。
【0095】
あるいは、液体含浸皮膚被覆シートは、有効成分としてクレンジング成分を含むクレンジングシートとして使用してもよい。クレンジングシートは、例えば、汚れ(メイク)を落としたい部分(皮膚)に密着させて貼り付け、クレンジング成分をメイクと馴染ませるようにしばらく貼り付けた状態を保った後、メイクを拭き取る方法で使用してよい。クレンジングシートも、フェイスマスク等と同様、対人用液体含浸皮膚被覆シートの一種といえる。尤も、有効成分を肌に作用させる目的で用いられるフェイスマスクと異なり、クレンジングシートの皮膚への貼付はメイクとなじませるためのものであるので、クレンジングシートの皮膚への貼付時間はフェイスマスクのそれよりは一般に短い。クレンジングシートとして使用する場合、有効成分を含む液体(例えば化粧料)を不織布100質量部に対して、100質量部以上700質量部以下の含浸量で含浸させてよく、より特には200質量部以上600質量部以下の含浸量で含浸させてよい。
【0096】
液体含浸皮膚被覆シートは、身体の任意の部位(例えば、首、手の甲、首から胸元までの部位(デコルテとも呼ばれている))を保湿またはその他のケアをするために用いられる、保湿成分またはその他の有効を含む液体を含浸させた保湿シートであってよい。あるいは、液体含浸皮膚被覆シートは、痩身成分を含む液体を含浸させた、痩身用シートであってよい。痩身用シートは、例えば、大腿部または腹部に貼り付けて用いられる。
【0097】
液体含浸皮膚被覆シートは、基材である不織布が折り畳まれた状態で提供されてよい。折り畳みは、不織布の一方向においてのみ行ってよく、あるいは不織布の異なる方向においてそれぞれ1回以上行われていてよい。例えば、液体を含浸させた不織布を、縦方向と平行な方向に(即ち、折り目が縦方向と平行となるように)1回以上折り畳み、横方向と平行な方向に(即ち、折り目が横方向と平行となるように)1回以上折り畳んで、液体含浸皮膚被覆シートとして提供してよい。
【0098】
本実施形態の液体含浸皮膚被覆シートは、10%伸長時応力が比較的大きい不織布を機材とするため、取り扱い性に優れる。また、シートは、基材である不織布が嵩高であるとともに、その構成繊維の自由度が比較的高いことと相俟って、良好な液体保持性、優れた柔軟性、および皮膚への良好な密着性を示す。
【0099】
液体含浸皮膚被覆シートは、一つの包装袋または包装容器に複数のシートを収容して提供されてよい。このような商品においては、一つの包装袋または包装容器により多くのシートを収容することが望まれることがある。実施形態1の不織布は15g/m~40g/mという比較的小さい目付を有する薄いものとして提供され得るので、そのような要望に適う。
【実施例
【0100】
実施例及び比較例の不織布を製造するために使用した繊維を以下に示す。
繊維1-1(接着性繊維):ポリエチレンテレフタレート(融点255℃)/高密度ポリエチレン(融点130℃)の組み合わせから成り、ポリエチレンテレフタレートのセクションと高密度ポリエチレンのセクションとが交互に菊花状に配置された断面を有し、かつ全体のセクション数が8である、繊度2.2dtex、繊維長51mmの分割型複合繊維(容積比50:50(ポリエチレンテレフタレート:高密度ポリエチレン))(商品名DFS(SH) ダイワボウポリテック(株)製)
繊維1-2(接着性繊維):ポリエチレンテレフタレートが芯であり、高密度ポリエチレン(融点:約133℃)が鞘である、繊度2.2dtex、繊維長51mmの同心芯鞘型複合繊維(容積比37:63(芯:鞘))(ダイワボウポリテック(株)製のNBF(SH)(商品名))。
繊維2(セルロース系繊維):繊度1.7dtex、繊維長40mmのビスコースレーヨン繊維(ダイワボウレーヨン(株)製のコロナCD(商品名))。
【0101】
<実施例1の不織布の製造>
[接着工程/冷却工程/積層工程]
繊維1-1を60質量%、繊維2を40質量%混綿して、パラレルカード機を使用して狙い目付30g/mの繊維ウェブを製造した。
繊維ウェブを、熱風貫通式熱処理機を用いて135℃の熱風を吹き付ける方法で約5秒間加熱した。これにより、繊維1-1の高密度ポリエチレンにより繊維同士を、熱接着(接着処理)した。熱接着(接着処理)の後、繊維ウェブを室温20℃の雰囲気にて自然冷却による冷却工程に付した。
【0102】
[交絡工程]
経糸の線径が0.132mm、緯糸の線径が0.132mm、メッシュ数が90メッシュの平織りネット上に、上述の繊維ウェブを載置した。繊維ウェブを速度4m/minで進行させながら、繊維ウェブの表面に対して、水供給器を用いて、水圧3.5MPaの柱状水流を噴射し、さらに反対側の面に、水圧3.0MPaの柱状水流を噴射した。水供給器のノズルは、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられていた。積層繊維ウェブの表面とオリフィスとの距離は15mmであった。なお、接着工程後の繊維ウェブは、ロールに巻き取らずに交絡工程に付した。
【0103】
[乾燥工程]
交絡工程後の繊維ウェブを、熱風貫通式熱処理機を用いて80℃の熱風を吹き付ける方法で約5秒間加熱して、乾燥処理を行い、実施例1の不織布を得た。
【0104】
<実施例2、実施例5の不織布の製造>
繊維1-1、繊維2の混率を、それぞれ表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例1の不織布を製造した方法と同じ方法で実施例2および実施例5の不織布を得た。
【0105】
<実施例3の不織布の製造>
繊維1-1のみからなる繊維ウェブを、狙い目付を30g/mとして、パラレルカード機を使用して製造し、実施例1の不織布を製造した方法と同じ方法で実施例3の不織布を得た。
【0106】
<実施例4の不織布の製造>
接着性繊維として繊維1-2を使用し、繊維1-2と繊維2の混率を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例1の不織布を製造した方法と同じ方法で実施例4の不織布を得た。
【0107】
<比較例1~4の不織布の製造>
使用する繊維の種類、ならびに当該繊維の混率を、それぞれ表2に示すとおりとし(比較例4においては、繊維1-1のみからなる繊維ウェブのみ製造)、接着工程及び冷却工程を行わずに、交絡工程を行ったこと以外は、実施例1の不織布を製造した方法と同じ方法で比較例1~4の不織布を得た。
【0108】
<比較例5~7の不織布の製造>
使用する繊維の種類、ならびに当該繊維の混率を、それぞれ表3に示すとおりとし(比較例7においては、繊維1-1のみからなる繊維ウェブのみ製造)、接着工程及び冷却工程を行わずに、交絡工程を実施し、乾燥工程に代えて接着工程を実施したこと以外は、実施例1の不織布を製造した方法と同じ方法で比較例5~7の不織布を得た。交絡工程後の接着工程においては、熱風貫通式熱処理機を用いて135℃の熱風を吹き付ける方法で約5秒間加熱して、繊維1-1または繊維1-2のポリエチレンにより繊維同士を、熱接着(接着処理)した。
【0109】
<比較例8および9の不織布の製造>
使用する繊維の種類、ならびに当該繊維の混率を、それぞれ表3に示すとおりとし(比較例10においては、繊維1-1のみからなる繊維ウェブのみ製造)、接着工程のみを実施したこと以外は、実施例1の不織布を製造した方法と同じ方法で比較例8および9の不織布を得た。
【0110】
不織布の評価は、下記のように行った。
<不織布の厚さと密度>
厚み測定機((株)大栄科学精器製作所製のTHICKNESS GAUGE モデル CR-60A(商品名))を用い、不織布に294Pa又は1.96kPaの荷重を加えた状態で、不織布の厚さを測定した。
不織布の密度は、不織布の目付と、不織布の厚さに基づいて算出した。
【0111】
<強伸度>
強伸度は、JIS L 1096:2010 8.14.1 A法(ストリップ法)に準じて、定速緊張形引張試験機を用いて、試料片の幅5cm、つかみ間隔10cm、引張速度30±2cm/分の条件で引張試験に付し、切断時の荷重値(破断強度)、破断伸度、ならびに10%伸長時応力を測定した。引張試験は、不織布の縦方向(MD方向)および横方向(CD方向)を引張方向として実施した。評価結果はいずれも3点の試料について測定した値の平均で示している。
湿潤時(WET)の破断強度等は、不織布100質量部に250質量部の蒸留水を含浸させた状態で測定した。
【0112】
<剛軟度>
不織布の剛軟度は、JIS L 1096:2010 8.21.5 E法(ハンドルオメータ法)に準じて測定した。具体的には、次の手順で測定した。
縦:20cm、横:20cmの試料片を試料台の上に、試料片の測定方向がスロット(隙間幅10mm)と直角になるように置く。
次に、試料台の表面から8mmまで下がるように調整されたペネトレータのブレードを下降させ、試料片を押し込んだとき、いずれか一方の辺から6.7cm(試料片の幅の1/3)の位置で、縦方向及び横方向それぞれ表裏異なる個所について、押し込みに対する抵抗値を読み取る。抵抗値として、マイクロアンメータの示す最高値(cN)を読み取る。4辺の最高値の合計値を求めて3回の平均値を算出して、当該試料の乾燥時(DRY)の剛軟度(cN)とする。
湿潤時(WET)の剛軟度は、不織布100質量部に500質量部の蒸留水を含浸させた状態で、不織布の下にポリエチレン製シート(縦23cm、横23cm、厚み0.06mm)を置いて測定する。得られた測定値から、ポリエチレン製シートのみの剛軟度の測定値を引いた値を湿潤時(WET)の剛軟度とする。
【0113】
<動摩擦係数、変動係数>
動摩擦係数および変動係数は、静・動摩擦測定機(トライボマスターTL201Ts、株式会社トリニティラボ製)を用いて測定した。試料片として5cm×10cmの不織布を用意した。なお試料片は不織布のMD方向が長辺となるものと、CD方向が長辺となるものをそれぞれ用意した。測定機の接触端子には触覚接触子(株式会社トリニティラボ製)を使用した。試料片100質量部に1000質量部の蒸留水を含浸させた状態で、試料片を、交絡工程にて水流を噴射した面とは反対の面が上を向くように測定機(テーブル摺動型)の測定テーブルに固定し、試料片の表面に対して接触端子を荷重30gf、速度10mm/sec、距離30mmで往復2回移動させた。2往復目の動摩擦力の数値を読み取り、往の数値と復の数値との平均値を、1つの試料片の動摩擦力(gf)とした。
【0114】
MD方向を長辺とした試験片について3回、CD方向を長辺とした試験片について3回測定を行い、合計6回の測定値の平均値を、各実施例及び比較例の動摩擦力Fk(gf)とした。そして動摩擦力Fk(gf)と荷重(30gf)より動摩擦係数μkを算出した。また、測定の際に得られた動摩擦係数の標準偏差σと上述した動摩擦係数の平均値μkとから、下記の式に従って動摩擦係数の変動係数CVを求めた。
動摩擦係数の変動係数CV=σ/μk
【0115】
<密着力>
密着力は、静・動摩擦測定機(トライボマスターTL201Ts、株式会社トリニティラボ製)を用いて測定した。試料片として12cm×5cmの不織布を用意した。なお試料片は不織布のMD方向、CD方向が長辺となるものをそれぞれ用意した。測定機(テーブル摺動型)の測定テーブルに人工皮膚(縦24cm×横12cm、商品名:BIO SKIN PLATE、製造販売元:株式会社ビューラックス)を設置した。
【0116】
試料片100質量部に1000質量部の蒸留水を含浸させた状態で、測定機のクリップで試料片の短辺側の端部(当該箇所を「クリップ端部」とする)を水平方向に把持するために挟んだ。測定テーブルを移動させて、クリップ端部と対向する端部(当該箇所を「非クリップ端部」とする)から試料の長辺8cmにわたる領域だけが人工皮膚と重なるように、人工皮膚の上に試料片を水平に重ねて載置した。試料片の長辺方向に沿って、測定テーブルを試料の長辺方向と平行に、クリップ端部から遠ざかる方向に速度10mm/secで移動させた時の最大抵抗力(N)を読み取った。一つの実施例につき3枚の試料片について測定し、それぞれの平均値を求め、密着力(N)とした。なお、密着力は、交絡工程にて水流を噴射した面とは反対の面について測定した。
【0117】
<保水率>
不織布を縦(MD)方向×横(CD)方向=100mm×100mmに切断し、不織布の質量を測定した後、試験用液体(蒸留水1リットルに対して食器用洗剤(商品名 ジョイすっきりオレンジの香り(界面活性剤33%入)、プロクター・アンド・ギャンブル社製)を2滴添加したもの)に2分間浸した。それから、試験用液体を含浸させた不織布の三隅を洗濯ばさみで挟んで吊し、10分経過後の質量を測定して、下記の式に従って保水率を算出した
保水率(%)=[(M2-M1)/M1]×100
M1:試験用液体を含浸させる前の不織布の質量(g)
M2:試験用液体を含浸させてから10分間吊した後の不織布の質量(g)
【0118】
<液放出量>
各試験片(5×15cm、長辺がMD方向)の保水率に対応する量の蒸留水を、その各試験片に含浸した。予め質量を測定した吸液シート(キムタオル)を用意した。吸液シートを重ねて、その上に蒸留水を1000%含浸した試験片を交絡工程にて水流を噴射した面とは反対の面が吸液シートと対向するように設置し、試験片の上にアクリル板を設置し、アクリル板によって1g/cmの圧力で試験片と吸液シートに対して加圧した。加圧開始後、1分、2分、3分、4分経過したときの吸液シートの質量を測定するとともに、測定毎に吸液シートを取り換え、吸液シートの質量の増加量から、1分間に放出された蒸留水の質量を計算した。各試験片に含浸した蒸留水の量を基準(100%)として、各試験片について蒸留水の放出率を計算した。
【0119】
実施例1~5および比較例1~9の評価結果を表1~3に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
実施例1~5の不織布はいずれも、10%伸長時応力(DRY)が、交絡工程のみにより繊維を一体化させた比較例1~4と比較して大きかった。また、実施例の不織布はいずれも、CD方向の破断伸度(DRY)が大きく、剛軟度(DRY)の値も小さくて、柔らかな触感を有していた。実施例の不織布はいずれも保水率が900%以上であって、液体含浸皮膚被覆シートとして使用するのに適していた。さらに、実施例1~5の不織布はいずれも、良好な地合いを有していた。これは、接着工程において、繊維同士がある程度固定された状態にて、交絡工程を実施したことにより、繊維ウェブの乱れが生じにくかったことによると考えられる。
【0124】
比較例1~4の不織布はいずれも、10%伸長時応力(DRY)が小さかった。また、これらの比較例の不織布は保水率が小さくなる傾向にあり、比較例2~4の不織布の保水率は900%未満であった。
【0125】
比較例5~7の不織布はいずれも保水率が900%未満であった。これは、交絡工程の後に接着工程を実施したために、接着点の数が多くなったと考えられ、また、繊維間空隙の数も減少したと考えられた。また、これらの比較例の不織布は、実施例の不織布と比較して、触感が硬いものであった。
【0126】
比較例8および9の不織布は、接着によってのみ繊維を一体化させたため、CD方向の破断伸度(DRY)が80%未満であり、他の実施例および比較例と比較して触感が硬く、例えば、フェイスマスクとして使用した場合、肌への追従性がよくないものであった。
【0127】
<実施例6の不織布の製造>
[接着工程/冷却工程/積層工程]
繊維1-1を60質量%、繊維2を40質量%混綿して、パラレルカード機を使用して狙い目付30g/mの繊維ウェブAを製造した。繊維ウェブAとは別に、繊維2のみを用いて、パラレルカード機を使用して狙い目付30g/mの繊維ウェブBを製造した。
繊維ウェブAを、熱風貫通式熱処理機を用いて135℃の熱風を吹き付ける方法で約5秒間加熱した。これにより、繊維1-1の高密度ポリエチレンにより繊維同士を、熱接着(接着処理)した。熱接着(接着処理)の後、繊維ウェブAを室温20℃の雰囲気にて自然冷却による冷却工程に付した。
繊維ウェブAの冷却後、繊維ウェブBを、繊維ウェブAの熱風を吹き付けた側に積層して、積層ウェブを得た。
【0128】
[交絡工程]
経糸の線径が0.132mm、緯糸の線径が0.132mm、メッシュ数が90メッシュの平織りネット上に、上述の積層ウェブを載置した。積層ウェブを速度4m/minで進行させながら、繊維ウェブBの表面に対して、水供給器を用いて、水圧3.5MPaの柱状水流を噴射し、さらに反対側の面に、水圧3.0MPaの柱状水流を噴射した。水供給器のノズルは、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられていた。積層繊維ウェブの表面とオリフィスとの距離は15mmであった。なお、接着工程後の繊維ウェブAおよび積層ウェブはいずれも、ロールに巻き取らずに交絡工程に付した。
【0129】
[乾燥工程]
交絡工程後の積層ウェブを、熱風貫通式熱処理機を用いて80℃の熱風を吹き付ける方法で約5秒間加熱して、乾燥処理を行い、実施例1の不織布を得た。
【0130】
<実施例7~8の不織布の製造>
繊維ウェブAにおける繊維1-1と繊維2の混率をそれぞれ表4に示すとおりとしたこと以外は、実施例6の不織布を製造した方法と同じ方法で実施例7~8の不織布を得た。
【0131】
<実施例9の不織布の製造>
繊維ウェブAにおける繊維1-1と繊維2の混率を表4に示すとおりとしたこと、繊維ウェブBを繊維1-1および繊維2を表4に示す混率で混合したものを用いて製造したこと以外は、実施例6の不織布を製造した方法と同じ方法で実施例9の不織布を得た。
【0132】
<比較例10~13の不織布の製造>
使用する繊維の種類、ならびに当該繊維の混率を、それぞれ表5に示すとおりとし、接着工程及び冷却工程を行わずに、交絡工程を行ったこと以外は、実施例6の不織布を製造した方法と同じ方法で比較例10~13の不織布を得た。
【0133】
実施例6~9および比較例10~13の評価結果を表4および5に示す。
【0134】
【表4】
【0135】
【表5】
【0136】
実施例6~9の不織布の10%伸長時応力(DRY)は、繊維組成がそれぞれ実施例と同じであって、交絡工程のみにより繊維を一体化させた比較例10~13のそれと比較して大きかった。また、実施例の不織布はいずれも、CD方向の破断伸度(DRY)が大きく、剛軟度(DRY)の値も小さくて、柔らかな触感を有していた。実施例の不織布はいずれも、剛軟度(DRY)/厚さ(1.96kPa荷重)が56.0以上であり、柔軟であって、液体含浸皮膚被覆シートとして使用するのに適していた。さらに、実施例6~10の不織布はいずれも、良好な地合いを有していた。
【0137】
本開示は以下の態様を含む。
(態様1)
接着性繊維を20質量%以上含む液体含浸皮膚被覆シート用不織布であって、
前記不織布においては、繊維同士が接着されているとともに、繊維同士が交絡されており、
目付が15g/m以上40g/m以下であり、
CD方向の破断伸度(DRY)が80%以上であり、
保水率が900%以上である、
液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
(態様2)
接着性繊維を20質量%以上含む液体含浸皮膚被覆シート用不織布であって、
前記不織布においては、繊維同士が接着されているとともに、繊維同士が交絡されており、
目付が40g/mを超え、70g/m以下であり、
CD方向の破断伸度(DRY)が80%以上であり、
剛軟度(DRY)/厚さ(1.96kPa荷重)が56.0以上100以下である、
液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
(態様3)
CD方向の10%伸長時応力(DRY)が0.23N/5cm以上1.00N/5cm以下である、態様1または2の液体含浸皮膚被覆シート。
(態様4)
前記接着性繊維が分割型複合繊維に由来する繊維である、態様1~3のいずれかの液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
(態様5)
セルロース系繊維を含む、態様1~4のいずれかの液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
(態様6)
態様1~5のいずれかの液体含浸皮膚被覆シート用不織布に液体を含浸させてなる、液体含浸皮膚被覆シート。
(態様7)
態様1~6のいずれかの液体含浸用皮膚被覆シート用不織布100質量部に対して液体が100質量部以上2000質量部以下の範囲内にある割合で含浸されている、液体含浸皮膚被覆シート。
(態様8)
フェイスマスクである、態様7の液体含浸皮膚被覆シート。
(態様9)
接着性繊維を20質量%以上含む繊維ウェブを作製する工程、
前記接着性繊維により前記繊維ウェブの繊維同士を接着させる接着工程、
前記接着工程の後で前記繊維ウェブの繊維同士を交絡させる交絡工程、
を含み、
前記交絡工程に付される前記繊維ウェブの目付が15g/m以上70g/m以下であり、
前記接着工程と前記交絡工程との間で、前記繊維ウェブをロールに巻き取ることを含まない、
CD方向の破断伸度(DRY)が80%以上である液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
(態様10)
前記接着性繊維が分割型複合繊維である、態様9の液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
(態様11)
前記交絡工程が水流交絡処理を含む、態様9または10の液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
(態様12)
前記接着工程が熱風加工処理を含む、態様9~11のいずれかの液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
(態様13)
前記接着工程と前記交絡工程との間に冷却工程を含む、態様9~12のいずれかの液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
(態様14)
前記接着工程の後に、前記繊維ウェブに、セルロース系繊維を50質量%以上含む別の繊維ウェブを積層して、目付が15g/m以上70g/m以下である積層ウェブを得る積層工程を含み、
前記積層工程の後に積層ウェブを前記交絡工程に付する、
態様9~13のいずれかの不織布の製造方法。
(態様15)
前記接着工程に付される前記繊維ウェブが前記接着性繊維のみから成り、前記繊維ウェブに積層される前記別の繊維ウェブが前記セルロース系繊維のみから成る、態様14の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本開示の不織布は、接着性繊維を20質量%以上含み、繊維同士が接着されるとともに交絡しているために、液体保持能力に優れるとともに、地合いが良好で、柔らかな触感を有し、かつ不織布を低伸度で伸長させるのに必要な強力が比較高い。したがって、本開示の不織布は、フェイスマスクのような、液体を含侵させた状態で皮膚を被覆するシートの基材として有用である。