(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】増殖細胞のための支持的ナノフィブリルセルロース足場
(51)【国際特許分類】
C12N 5/02 20060101AFI20240604BHJP
C12N 5/0793 20100101ALI20240604BHJP
【FI】
C12N5/02
C12N5/0793
(21)【出願番号】P 2019570369
(86)(22)【出願日】2018-06-19
(86)【国際出願番号】 FI2018050478
(87)【国際公開番号】W WO2018234634
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2020-04-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-16
(32)【優先日】2017-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(72)【発明者】
【氏名】ヌオッポネン、マルクス
(72)【発明者】
【氏名】パーソネン、ラウリ
(72)【発明者】
【氏名】ナーキラハティ、スザンナ
(72)【発明者】
【氏名】ヨキ、ティーナ
(72)【発明者】
【氏名】イラア-オウティネン、ラウラ
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】長井 啓子
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-530104(JP,A)
【文献】特表2016-501926(JP,A)
【文献】国際公開第2015/011337(WO,A1)
【文献】特開2009-173909(JP,A)
【文献】国際公開第2009/084566(WO,A1)
【文献】Particle and Fibre Toxicology(2017)vol.14,pp.1-13
【文献】RSC Advances(2014)vol.4,pp.2892-2903
【文献】Industrial Crops and Products(2016)vol.93,pp.2-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 - 7/08
JSTPlus/JST7580/JMEDPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロゲルの形態の、機械的に分解された0.05~0.35重量%の、0.08~0.3の置換度及び、水中に0.5重量%の濃度で分散されたときには、1~40Paの貯蔵弾性率を有する、植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロー
スを含む、
生ニューロン細胞の三次元培養のための組成物。
【請求項2】
前記植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースがセルロース原材料の重量に基づいて、0.5mmol/g超のカルボキシレート含有量を有する酸化セルロース原材料から製造されたナノフィブリルセルロースを含む、請求項
1に記載の
組成物。
【請求項3】
前記植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースが、0.1~0.3の置換度を有するカルボキシメチル化されたセルロース原材料から製造されたナノフィブリルセルロースを含む、請求項1
又は2に記載の
組成物。
【請求項4】
前記植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースが、0.1~0.25の置換度を有するアニオン化セルロース原材料から製造されたナノフィブリルセルロースを含む、請求項1~
3の何れか1項に記載の
組成物。
【請求項5】
前記植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースがセルロース結晶I型のセルロースである、請求項1~
4の何れか1項に記載の
組成物。
【請求項6】
前記植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースがTEMPO酸化されたナノフィブリルセルロースを含む、請求項1~
5の何れか1項に記載の
組成物。
【請求項7】
前記植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースが、カルボキシメチル化された又はスルホン化されたナノフィブリルセルロースを含む、請求項1~
6の何れか1項に記載の
組成物。
【請求項8】
前記植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースが、水中に0.5重量%の濃度で分散されたときには、3~30Paの貯蔵弾性率を有する、請求項1~
7の何れか1項に記載の
組成物。
【請求項9】
前記植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースが、剪断応力が0.5Pa未満であるときには0.3未満の損失正接を有する、請求項1~
8の何れか1項に記載の
組成物。
【請求項10】
前記植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースが、水中に0.5重量%の濃度で分散されたときに、貯蔵弾性率の範囲が1~20Paであるときには、1を超える損失正接を有する、請求項1~
9の何れか1項に記載の
組成物。
【請求項11】
前記植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースが、セルロース原材料の重量に基づいて、0.75mmol/g超のカルボキシレート含有量を有する、請求項1~
10の何れか1項に記載の
組成物。
【請求項12】
前記植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースが、水中で0.1重量%の濃度で、20NTU以下の濁度を有する、請求項1~
11の何れか1項に記載の
組成物。
【請求項13】
前記
組成物が透明である、請求項1~
12の何れか1項に記載の
組成物。
【請求項14】
前記
組成物が、細胞外マトリックス成分、血清、成長因子及びタンパク質からなる群から選択される添加物をさらに含む、請求項1~
13の何れか1項に記載の
組成物。
【請求項15】
請求項1~
14の何れか1項に記載の
、生ニューロン細胞の三次元培養のための組成物を製造する方法であって、
a.機械的に分解された、0.08~0.3の置換度及び、水中に0.5重量%の濃度で分散されたときには、1~40Paの貯蔵弾性率を有する、植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースを提供すること;
及び
b.前記植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースを水と混合
して、水中に機械的に分解された0.05~0.35重量%の植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースを含む組成物を提供すること;
を含む、前記方法。
【請求項16】
生
ニューロン細胞の三次元培養のための方法であって、請求項1~
14の何れか1項に記載の
生ニューロン細胞の三次元培養のための組成物を提供すること;
少なくとも1つの生ニューロン細胞を組成物内に播種すること;及び培養して細胞塊を得ること、を含む方法
。
【請求項17】
起源が異なる少なくとも2つの
ニューロン細胞型が共培養として培養される、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記
組成物が、少なくとも細胞塊の一部を放出するのに十分な時間の間、セルラーゼにより酵素的に処理される、請求項
16に記載の方法。
【請求項19】
酵素処理の後に、セルラーゼは不活性化されるか又は細胞塊から除去される、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~
14の何れか1項に記載の
、生ニューロン細胞の三次元培養のための組成物の使用であって、
生
ニューロン細胞を増殖させるための、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞培養システムと細胞技術の分野に関する。本発明はアニオン性ナノフィブリルセルロースを含む植物由来の細胞培養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューロンは全ての真正後生動物(即ち、海綿動物、板形動物門、及び幾つかの他の絶滅した又は曖昧な生物型を除く、全ての主要な動物群に由来する)の体内に見出される専門化された型の細胞である。よって海綿動物と他の僅かなより単純な動物のみがニューロンを欠いている。ニューロンを規定する特徴は電気的な興奮性と、シグナルを他の細胞に伝達する複合的な膜接合部(complex membrane junction)であるシナプスの存在である。体のニューロンに加えて、それに構造上及び代謝上の支持を与えるグリア細胞も共に、神経系を構成する。脊椎細胞において、ニューロンの大部分は中枢神経系(CNS)に属するが、幾らかは末梢神経節に存在し、多くの感覚ニューロンは網膜及び蝸牛等の感覚器官の中に位置している。
【0003】
典型的なニューロンは3つの部分:神経細胞体(soma)又は細胞体、樹状突起、及び軸索、に分けられる。神経細胞体は通常はコンパクトであり;軸索と樹状突起はそれから突き出るフィラメントである。樹状突起は典型的には多く分岐し、各分岐に伴ってより薄くなり、それらの最も離れた分岐は神経細胞体から数百マイクロメートルに伸展する。他のニューロンに由来するシナプスのシグナルは、神経細胞体と樹状突起により受け取られ;他のニューロンへのシグナルは軸索により伝達される。神経伝達として知られているプロセスにおける化学的及び電気的シナプスによりニューロンはコミュニケーションを行い、シナプス伝達とも呼ばれている。
【0004】
多くの場合にニューロンは、特別な型の幹細胞により生成される。成人の脳内のニューロンは一般的には細胞分裂を受けない。よって脳の多くの領域において、成人期には大部分の神経生成は停止する。アストロサイトは、幹細胞に特徴的な多能性のためにニューロンとなることも観察されている、星の形状をしたグリア細胞である。
【0005】
神経組織工学は有望な新しい治療方法であり、ニューロンに適用するために多くの生体材料が試験されてきている。組織工学において生体材料は、ヒトの体内において組織又は器官の機能を改善するように設計される。神経組織工学は、細胞、生体材料、及び成長因子を組み合わせた分野であり、神経外傷又は中枢若しくは末梢神経系の疾患を患っている患者の中に移植可能な製品を組み立てる(assemble)ことを目的としている。神経組織工学において生体材料は細胞成長を支持し、組織構造を支持し、又は組織/細胞機能を改善することができる。神経組織工学のための生体材料は、毒性がなく、三次元(3D)であり、所望の型の細胞の成長を支持し、栄養の流れを許容するものでなければならない。
【0006】
コラーゲン、ラミニン、及びフィブロネクチン等の細胞外マトリックス(ECM)に基づく材料は、ニューロンガイダンス構造のために最も一般的に使用されている。加えて、ヒアルロン酸とアルギン酸に基づいた材料は、末梢神経ガイダンスのために広く使用されている天然材料の群である。より一般的に使用されている材料は合成ポリマーである。それらの例は、ポリ(酪酸)(PLA)、ポリグリゴライド、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、及びそれらのコポリマー、生分解性ガラス、及びポリ(エチレンテレフタレート)(PTFE)である。
【0007】
三次元(3D)細胞培養において、適切な培養マトリックスは、天然のECMの成分を模倣し、細胞のための構造支持体、並びに効率的な細胞運動及び細胞への栄養素の運搬のために相互接続した孔のネットワーク等、天然のECMと類似した性質を有する足場を提供しなければならない。
【0008】
合成由来及び天然由来の両方のヒドロゲルが、3D細胞培養のための適切な足場として近年出現してきている。ヒドロゲル中の相互接続した孔のネットワークは、大量の生体液の保持を許容し、酸素、栄養素、及び排泄物の運搬を促進する。更に多くのヒドロゲルは、穏和な細胞適合性の条件下で形成可能であり、それらの生物学的な性質を表面化学により調節することができる。
【0009】
改質された機械的、化学的、及び生物学的な性質を有する加工されたヒドロゲルは、ECMを模倣する潜在力を有し、よって3D細胞培養におけるそれらの有用性が確立される。3D細胞培養のために市販されている製品は、例えば、細胞培養ママトリックスPuraMatrix(商標)(3DM社)、及びマトリゲル(BDバイオサイエンス)である。PuraMatrix(商標)は、ECM中の天然線維状コラーゲンの構造と類似する自己組織化したペプチドナノファイバーのヒドロゲルであり、繊維径5~10nmを有する。それは高い水分含有量も有し、典型的には99.5%である。米国特許7,449,180と国際公開番号2004/007683は、ペプチドヒドロゲルを開示する。マトリゲルはネズミの腫瘍細胞によって分泌されるゼラチン状タンパク質混合物である。その混合物は、多くの組織において見出される複雑な細胞外環境と類似し、細胞培養のための基質として細胞生物学者により使用される。ヒトECM成分の混合物を含む、MaxGel(商標)ECMマトリックス(シグマ-アルドリッチ)は、周囲温度でゲルを形成する。
【0010】
細菌セルロースセルロース(BC)は創傷治癒膜において、及び細胞培養における足場として使用されている。細胞培養における細菌セルロースセルロースの使用を制限するのは、発酵した材料の内在構造であり:培養によりBCは、発酵槽内の空気-水相間の非常に締まった(tight)膜として形成される。形成された膜は、3D細胞培養及び様々な改質のためには締まりすぎている。細胞培養マトリックスとして使用するならば、適切な細胞の浸透と細胞塊の形成のために、BCマトリックスの多孔性を増加させなければならない。
【0011】
米国特許5,254,471は、超微細な繊維を含む細胞培養のための担体を開示する。国際公開番号2009/126980は、枠組み物質が本質的に又は完全にセルロースセルロースからなり、有機溶剤からの再生より形成される、セルロースに基づくヒドロゲルを開示する。欧州特許1970436B1は、未分化細胞培養のための担体材料を開示する。欧州特許2633032B1は、セルロースナノファイバー及び/又はその誘導体を含む、植物由来の細胞培養物と細胞送達組成物を開示する。欧州特許2633033B1は、細菌セルロースに基づくセルロースナノファイバー及び/又はその誘導体を含む、細胞培養物と細胞送達組成物に関連する。米国特許9593304B2は、3D培養物中で幹細胞を培養して運ぶための材料を開示する。その材料は3Dの連続体(continuous entities)の形のナノフィブリルセルロースを含み、生体適合性のヒドロゲルである。
【0012】
細胞と組織生理学を研究し、細胞移植等の再生医学のための置換組織を成長させるのに、エクスビボで哺乳動物細胞を培養するための、新規の生体材料と方法の必要性が増してきている。二次元(2D)培養は、インビトロ細胞培養においては典型的な範例(paradigm)であった;しかしながら、3D環境において培養されたときには細胞はより自然に挙動することが示されてきた。許容された(permissive)、合成のヒドロゲル、及び促進された(promoting)、天然のヒドロゲルは、3D細胞培養プラットフォームとして一般的となったが;なおもそれらのシステムは両方とも制限がある。
【0013】
ナノフィブリルセルロースは、3D細胞培養のために適した材料である。NFCヒドロゲル(GrowDex(商標)、UPMキュンメネ、ヘルシンキ、フィンランド)の天然ナノフィブリルセルロースグレードは、例えばスフェロイド形成を支持するのに特に適している。しかしながら、ニューロン細胞の様に自然に、増殖して伸展する傾向がある、即ち大きな空間又は容積をとる型の細胞は、報告されたナノフィブリルセルロースグレードの中では最適な成長をせず、ある場合に細胞成長は制限される。
【発明の概要】
【0014】
2Dニューロン培養は取り扱いがより容易であるが、3D培養におけるような、細胞がお互いに及び周囲の環境と作用するインビボの状況を模倣せず、例えば、2D培養では組織特異的な構造が欠けている(Geckilら 2010;Nisbetら 2008)。さらに、ニューロン細胞は3Dにおいてより複雑な形態を有し、3D構造は成熟を促進し、幹細胞由来のニューロン細胞の増殖を阻害し得る。よってインビボを模倣するインビトロモデル又は移植療法用の細胞製品を開発するときには、3Dの中で細胞を研究することは非常に重要である。
【0015】
アニオン性ポリマーは、ニューロン細胞に支持的な効果を誘導するかもしれないことが、既に報告されている(Hoffman 2002)。本発明者らは、アニオン性ナノフィブリルセルロース(aNFC)は、増殖細胞の伸展と成長を支持するのに、天然のNFCヒドロゲルよりも適していることを見出した。例えば、ニューロンのネットワークを形成するために、ヒトのニューロン細胞が培養されている。aNFCヒドロゲルはニューロン細胞、特に単一細胞の神経突起伸長を支持するためにより良好であった。この改良は、ヒドロゲルの2つの改善に基づいている:1)ナノフィブリルセルロース表面上のアニオン性荷電が誘導するヒドロゲル中の細胞運動。細胞(特にニューロン細胞)はフィブリル中の荷電基を感知し、伸長したフィブリルに沿って/向かって伸展する傾向がある。2)アニオン性ヒドロゲルのゲル強度は、天然のグレードと比較してより高い。よってより低いフィブリル濃度で細胞培養を行うことが可能である。フィブリルは細胞運動又は例えば神経突起形成を妨げないので、より低い固体含有量はヒドロゲル中での細胞のより自由な運動と突出の形成を可能とする。最適にはaNFCの固体含有量は0.5重量%未満であり、有利には0.4重量%未満である。
【0016】
本発明は増殖細胞の培養のための組成物に関連し、前記組成物は、植物由来のaNFCをヒドロゲルの形態で含む。より具体的には本発明は、増殖細胞の培養のための組成物に関連し、前記組成物は0.05~0.5重量%の植物由来のaNFCをヒドロゲルの形態で含む。
【0017】
本発明の1つの観点は細胞培養マトリックスであり、ここでそのマトリックスは生細胞と増殖細胞の培養のための組成物を含み、前記組成物は植物由来aNFCを0.05~0.5重量%含み、細胞は前記マトリックス中に3D又は2Dの配置(arrangement)で存在する。
【0018】
本発明の1つの観点は、増殖細胞の培養のための組成物の製造方法であって、前記組成物は0.05~0.5重量%の植物由来のaNFCをヒドロゲルの形態で含み、前記方法は、
a.aNFCを提供すること、及び
b.前記aNFCを水と混合すること、を含む。
【0019】
他の観点は、増殖細胞の培養のための組成物を提供することを含む、細胞又は組織を3D又は2D培養する方法であって、前記組成物は0.05~0.5重量%の植物由来のaNFCをヒドロゲルの形で含み、組成物中に少なくとも1つの細胞を接種し培養して細胞塊を得るか、又は、3D又は2Dの配置で生細胞を含むマトリックスの形で培養して細胞塊を得ることを含む。
【0020】
他の観点によれば、0.05~0.5重量%の植物由来のaNFCをヒドロゲルの形態で含む組成物が、増殖細胞を培養するために使用される。
【0021】
本発明の特徴は添付された特許請求の範囲の中に提示される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は試料中のヒドロゲル損失、中程度のゲル損失(A)及び重度のゲル損失(B)の分類を示す。白い矢じりは、ゲル損失の領域を示している。画像中のスケールバーは500μmである。画像はaNFC 0.30%、60μlの試料に由来する。
【
図2】
図2は良好な生育(A)、中程度の生育(B)、貧弱な生育(C)を伴うヒトロゲル試料の例を示す。矢じりは画像中の神経突起伸長を示す。画像中のマーカーはDAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリン(赤色)である。画像中のスケールバーは500μmである。画像中のヒドロゲルは、aNFC 0.30% 60μl(A)、aNFC 0.65% 60μl(B)、及びGrowdex 1.50% 60μl(C)である。
【
図3-1】
図3はGrowdex 1.50%ヒドロゲル内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度プロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。全ての提示された画像は試料容量60μlに由来する。画像中のマーカーはDAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図3-2】
図3はGrowdex 1.50%ヒドロゲル内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度プロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。全ての提示された画像は試料容量60μlに由来する。画像中のマーカーはDAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図3-3】
図3はGrowdex 1.50%ヒドロゲル内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度プロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。全ての提示された画像は試料容量60μlに由来する。画像中のマーカーはDAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図4-1】
図4はGrowdex 1.00%ヒドロゲル内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度のプロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において、377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。全ての提示された画像は試料容量60μlに由来する。画像中のマーカーはDAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図4-2】
図4はGrowdex 1.00%ヒドロゲル内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度のプロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において、377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。全ての提示された画像は試料容量60μlに由来する。画像中のマーカーはDAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図4-3】
図4はGrowdex 1.00%ヒドロゲル内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度のプロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において、377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。全ての提示された画像は試料容量60μlに由来する。画像中のマーカーはDAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図5-1】
図5はaNFC 0.65%ヒドロゲ内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度プロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において、377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。全ての提示された画像は試料容量60μlに由来する。画像中のマーカーはDAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図5-2】
図5はaNFC 0.65%ヒドロゲ内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度プロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において、377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。全ての提示された画像は試料容量60μlに由来する。画像中のマーカーはDAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図5-3】
図5はaNFC 0.65%ヒドロゲ内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度プロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において、377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。全ての提示された画像は試料容量60μlに由来する。画像中のマーカーはDAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図6-1】
図6はaNFC 0.45%ヒドロゲル内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度プロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において、377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。画像1と3は試料容量60μlに由来し、画像2は試料容量80μlに由来する。画像中のマーカーは、DAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図6-2】
図6はaNFC 0.45%ヒドロゲル内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度プロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において、377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。画像1と3は試料容量60μlに由来し、画像2は試料容量80μlに由来する。画像中のマーカーは、DAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図6-3】
図6はaNFC 0.45%ヒドロゲル内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度プロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において、377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。画像1と3は試料容量60μlに由来し、画像2は試料容量80μlに由来する。画像中のマーカーは、DAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図7-1】
図7はaNFC 0.30%ヒドロゲル内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度プロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において、377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。画像1は試料容量60μlに由来し、画像2と3は試料容量80μlに由来する。画像中のマーカーはDAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図7-2】
図7はaNFC 0.30%ヒドロゲル内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度プロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において、377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。画像1は試料容量60μlに由来し、画像2と3は試料容量80μlに由来する。画像中のマーカーはDAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図7-3】
図7はaNFC 0.30%ヒドロゲル内に埋め込まれて2週間培養された細胞に由来する共焦点画像を示す。3つの共焦点スタック(1、2及び3)は、最上部から底部への最大明暗度(maximal intensity)x-プロジェクション(A)、側面からの最大明暗度プロジェクションとして、及び3Dレンダリングして視覚化されたものとして提示されている。x
*y平面において画像化された領域は、全ての画像において、377.13μm
*377.13μmである(A)。共焦点スタックの高さは変化する(z方向、B)。AとBの両方の画像のスケールは同じである。画像1は試料容量60μlに由来し、画像2と3は試料容量80μlに由来する。画像中のマーカーはDAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図8】
図8は、最上部から底部への最大明暗度x-プロジェクションとして提示された、細胞凝集体からの(
図4 1A)対単一細胞からの(
図7 1A)、神経突起伸長に由来するクローズアップされた画像を示す。画像中のマーカーはDAPI(青色)、MAP-2(緑色)、及びB-チューブリンIII(赤色)である。
【
図9】
図9はGrowdexヒドロゲ内での丸いヒト皮膚線維芽細胞(HDF)スフェロイドの形成を示す(
図9A)。GrowDexTヒドロゲル内ではHDF細胞は塊で成長し、突起を形成し、細胞は環境を感知することを示唆した(
図9B)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
本発明の観点は、細胞培養組成物、3D細胞培養エンティティー(entities)、並びに細胞培養中でそれを製造及び使用する方法に関連する。特定しない限り、本明細書と特許請求の範囲の中で使用される用語は、細胞培養において一般的に使用される意味を有する。具体的に下記の用語は以下に示す意味を有する。
【0024】
用語「セルロースパルプ」は、例えばクラフトパルプ化、硫酸パルプ化、ソーダパルプ化、オルガノソルブパルプ化等の、化学的、機械的、熱機械的、又は化学熱機械的なパルプ化工程を用いて、任意の植物に基づくセルロース又はリグノセルロース原材料から単離されたセルロースフィブリルを言う。セルロースパルプは、通常の漂白工程を用いて漂白されてもよい。
【0025】
用語「天然セルロースパルプ」又は「天然セルロースセルロース」は、パルプ化工程と任意選択の漂白工程の後に化学的に改質されていない、任意のセルロースセルロースパルプを言う。
【0026】
用語「植物由来」又は「植物由来のセルロースセルロース材料」は木材であってもよく、前記木材は、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ベイマツ、又はドクニンジン等の軟材に由来してもよく、又はカバノキ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリ、又はアカシア等の硬材に由来してもよく、又は軟材と硬材の混合物に由来してもよい。植物由来の木材ではない材料は、例えば農業残渣、草、若しくは他の植物物質、例えば、綿、トウモロコシ、コムギ、エンバク、ライムギ、オオムギ、イネ、アマ、大麻、マニラ麻(manilla hemp)、サイザル麻、黄麻、カラムシ、ケナフ麻、バガス、竹、又はアシに由来する、ワラ、葉、樹皮、種子、外皮、花、野菜又は果実、又はそれらの混合物であってもよい。
【0027】
本明細書中の用語「機械的に分解される」とは、ナノフィブリスセルロースセルロースを得ることを言い、セルロースセルロースパルプ又は酸化されたセルロース原材料の機械的な分解が、精製機、砕木機、ホモジナイザー、コライダー、摩擦グラインダー、超音波破砕機、流動化装置(マイクロ流動化装置、マクロ流動化装置又は流動化装置型ホモジナイザー等)等の適切な装置を用いて実施される。好ましくは機械的に分解されたナノフィブリルセルロースが使用される。
【0028】
幾つかの異なるグレードのナノフィブリルセルロースが、様々な生産技術を用いて開発されてきた。グレードは、製造方法、フィブリル化の程度、及び化学組成に依り異なる性質を有する。グレードの化学組成もまた変化する。HW対SWパルプ等の原材料の起源に依り、最終的なナノフィブリルセルロース製品中に異なるポリサッカライド組成物が存在する。典型的には、非イオン性又は天然グレードはより広いフィブリル径を有し、一方、化学的に改質されたグレードはずっと薄く、連続的なネットワークを有する。セルロースナノフィブリルの数平均フィブリル径は、適切には1~200nmであり、好ましくは天然グレードの数平均フィブリル径は1~100nmであり、化学的に改質されたグレードでは1~20nmである。改質されたグレードにおけるサイズ分布もより狭い。細胞培養用途のためのナノフィブリルセルロースは、好ましくは細胞に毒性を有さない。
【0029】
本明細書で使用される用語「ナノフィブリルセルロース」は、硬材又は軟材由来のセルロースパルプ等、植物に基づいたセルロース材料から生じたナノフィブリル構造を包含すると理解される。ナノフィブリルセルロースに関連する命名法は統一されておらず、文献中での用語の使用には一貫性がない。例えば下記の用語:セルロースナノファイバー(CNF)、ナノフィブリルセルロース(nanofibril cellulose)、ナノフィブリル化セルロース(NFC)、ナノスケールのフィブリル化セルロース、ミクロフィブリルセルロース、セルロースミクロフィブリル、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)、及びフィブリルセルロースは、ナノフィブリルセルロース(nanofibrillar cellulose)の同義語として使用されてきたかもしれない。木材等の植物由来のセルロースパルプの最小のセルロースエンティティーには、セルロース分子、原繊維(elementary fibril)、及びミクロフィブリルが挙げられる。ミクロフィブリル単位は、表面の自由エネルギーを低減する機構として、物理的に調節された(physically conditioned)合体により生じる原繊維の束である。しかしながらここで用語「ナノフィブリルセルロース」又はNFCは、セルロースパルプ又はセルロース材料、特にミクロフィブリル単位から生じたセルロースナノフィブリルの集合体を言う。それらの直径は起源により変化し得る。セルロースナノフィブリルは典型的に高いアスペクト比を有し:長さは1マイクロメートルを超す一方で、直径は典型的には100nm未満である。最も小さいナノフィブリルは、所謂原繊維と類似しており、その直径は典型的には2~12nmの範囲内である。生じたナノフィブリル又はナノフィブリル束の寸法は、原材料、任意の前処理、及び分解方法に依る。無傷のフィブリル化されていないミクロフィブリル単位が、ナノフィブリルセルロースの中に存在してもよい。本明細書で使用されるナノフィブリルセルロースは、非線維性であり棒状の形状のセルロースナノ結晶又はウィスカー(whisker)を包含することを意味するものではない。
【0030】
用語「アニオン性ナノフィブリルセルロース」又は「aNFC」は、化学的に誘導体化されているナノフィブリルセルロース、即ち、ナノフィブリルセルロースの表面上に負の荷電を導入することにより、そのナノフィブリルセルロースにアニオン性を付与するように化学的に改質されたものを言う。本発明の植物由来のaNFCについて、化学的な誘導体化はNFCの製造の前、即ちセルロース原材料の機械的な分解の前に実施される。
【0031】
本発明のナノフィブリルセルロースはaNFCである。aNFCはアニオン化を介して得られる。アニオン化は化学的な誘導体化、即ち化学的改質の例である。アニオン化、又はaNFCの製造は、ナノフィブリルセルロースの表面上に負の荷電を導入することにより、そのナノフィブリルセルロースにアニオン性を付与する改質である。アニオン化の一例は、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1イル)オキシル)酸化によるアニオン化である。他の例は、カルボキシメチル化とスルホン化である。反応は、機械的な分解又は他のやり方でナノフィブリルが遊離する前に、セルロースパルプ又は他のセルロース原材料の前処理として行われる。その工程の成果は荷電したaNFCである。典型的には全ての原材料が改質され、非改質セルロースの可能量は僅かである。
【0032】
一態様によれば、植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースは、カルボキシメチル化された又はスルホン化されたナノフィブリルセルロースを含む。
【0033】
本発明において使用するのに特に適しているナノフィブリルセルロースは、植物由来のaNFC及び/又は異なるaNFCの任意の組み合わせから選択される。典型的には、本発明において使用されるaNFCは、アニオン化を受けている天然のセルロースであるか、あるいはアニオン化を受けている改質セルロースである。
【0034】
セルロースからアニオン性セルロースへの物理的な誘導体化は、セルロース表面上でのアニオン性物質の物理的吸着により行われてもよい。
【0035】
誘導体化されたグレードは、典型的には漂白されたセルロースパルプから調製される。存在している任意のヘミセルロースも、NFCの誘導体化されたグレードにおいて誘導体化されてもよい。
【0036】
ナノフィブリルセルロースの製造の例は、例えば、カルボキシメチル化が述べられている欧州特許出願2782937A1の中と、酸化が述べられている国際公開番号2015/015056の中で述べられている。
【0037】
ナノフィブリルセルロースの誘導体化されたグレードは通常、ナノフィブリルセルロースの天然の又は非誘導体化グレードよりも、より小さなナノフィブリル直径とより狭いサイズ分布を有する。ナノフィブリルのサイズが小さい程、表面積がより大きくなり、よって表面がより効率的に荷電される。セルロースが誘導体化されると、それはより不安定となり、且つ分解が容易となる。全般的に、アニオン性誘導体化を介してより小さなナノフィブリルのサイズが達成されるほど、本発明にとって有利である。
【0038】
誘導体化されたナノフィブリルセルロースは、典型的には、天然のナノフィブリルセルロースよりもより薄い。植物由来のaNFCのナノフィブリルについての数平均直径は、2と200nmの間、又は2と100nmの間で変化し得る。好ましくは、植物由来のaNFCの数平均直径は2~20nm又は2~10nm、より好ましくは3~6nmである。最も小さなナノフィブリルは所謂原繊維(elementary fibril)と類似し、典型的には直径が2~12nmである。上記の値はCryo-TEM画像から推定された。ナノフィブリル又はナノフィブリル束の直径は、原材料と分解方法に依る。ナノフィブリルの長さを正確に測定することは、いささか困難である。植物由来のaNFCは典型的には、0.3と50マイクロメートル又は0.3と20マイクロメートルの間で変化するナノフィブリル長さを有する。好ましくは、長さは0.5~20マイクロメートル又は0.5~10マイクロメートル、より好ましくは1~10マイクロメートル又は1~5マイクロメートルである。長さは使用したアニオン化法に依る。上記の値は電子顕微鏡又はAFM画像から推定された。
【0039】
フィブリル化の程度はフィブリル解析から評価することができ、ここで数がより大きい程、部分的にフィブリル化されたエンティティーのみが評価される。植物由来のアニオン性ナノフィブリルセルロースについて、乾燥試料のmg当たりのそれらのフィブリル化されていない粒子の数は、1と10000、好ましくは1と5000の間、最も好ましくは1と1000の間で変化する。FiberLab解析法を用いて、フィブリル解析を適切に実施することができる。
【0040】
ナノフィブリルセルロースは、水等の水性溶媒中に分散したときには、所望の粘度を有するヒドロゲル構造を形成する。ヒドロゲルを形成するために、任意の適切な混合又はブレンド装置を使用してもよい。
【0041】
植物由来のナノフィブリルセルロースヒドロゲルのレオロジーは、可逆的なゲル化を示す。高い応力レベルでは流体様の挙動が観察される一方で、低い応力レベルと静止状態では固体様の挙動への段階的な推移が起こる。環境の変化はナノフィブリルセルロースヒドロゲルのポリマー鎖のコンフォメーション変化を引き起こさないから、広範囲の温度、pH、又はイオン強度の範囲に亘りゲル強度は殆ど一定である。
【0042】
ナノフィブリルセルロースヒドロゲルの剛性は、ゲルの粘弾性測定から評価することができる。ナノフィブリルセルロースヒドロゲルの剛性は、ヒドロゲルの広がり易さも反映する。適用した剪断応力の関数として粘度をプロットしたときには、臨界的な剪断応力を超えた後に、劇的な粘度の減少が見られる(損失弾性率G”>貯蔵弾性率(storage modulus)G’、及びよって損失正接>1)。
【0043】
組織は粘弾性であり、細胞とECMで構成されている。マトリックスの剛性又は強度は、細胞に作用している多くの機械的な力の1つであり、細胞挙動の重要なメディエーターであると理解されている。それは細胞のシグナル伝達を制御し、例えば成長、生存、細胞アラインメント及び運動性に影響を及ぼす。最適な剛性は異なる種類の細胞では大きく変わる。例えば異なる型の肝臓細胞は、マトリックスの剛性に対して異なる様に反応することが報告されている。
【0044】
個々のコラーゲンフィブリルの剛性を再現性良く変化させることができ、細胞の表現型に大きな影響を有することもまた実証されている。
【0045】
更に、細胞は比較的に短い距離(およそ隣接する細胞の幅)に亘ってメカノセンス(mechanosense)を行うことが知られている。よって組織中で細胞が、その近隣を超えて機械的力を感知することはありそうもない。更に組織を構成する細胞は接着性であり、それらに隣接している細胞及び周囲のECMの幾つかの組み合わせで付着している。全てではないが多くの細胞は生き残るのに接着を必要とする。
【0046】
ナノフィブリルセルロースは、細胞培養マトリックスとしても良く機能することが報告されている。セルロースナノフィブリルのネットワークは、細胞の生存と増殖を支持するECMを模倣すると信じられている。ナノフィブリルセルロースヒドロゲルの剛性は希釈により容易に調整することができる。
【0047】
本ナノフィブリルセルロースは、細胞と組織の培養のための最適なマトリックスを可能とする性質を有する。
【0048】
ヒドロゲルの全ての厚みにおいて、細胞を維持して生育させることは困難であった。本発明の中で細胞の維持と生育状況が改善された。本ナノフィブリルセルロースとそのヒドロゲルは、最適な剛性又は強度、及び最適な厚みを提供する。
【0049】
本発明において必要とされるナノフィブリルセルロースの量は、所望の剛性を達成するための過去の量よりも少なくてもよい。
【0050】
ナノフィブリルセルロースは、水中に0.5重量%の濃度で分散されたときに、1と40Paの間、好ましくは3と30の間、より好ましくは5と20の間の貯蔵弾性率を有してもよい。
【0051】
一態様によると、水中に0.5重量%の濃度で分散されたときに、貯蔵弾性率の範囲が1~20Pa、好ましくは2~10Paの間であるときには、植物由来のaNFCは1を上回る損失正接を有する。
【0052】
剪断応力が0.5Pa未満であるときに、本ナノフィブリルセルロースの損失正接は0.3未満、好ましくは0.25未満である。
【0053】
本発明の一態様によれば、植物由来のaNFCは、セルロース原材料の重量に基づいて、0.75mmol/g超、好ましくは0.75~1.6mmol/g、より好ましくは0.9~1.2mmol/gのカルボキシレート含有量を有する、酸化されたセルロース原材料から製造されたナノフィブリルセルロースを含む。
【0054】
本発明の一態様によれば、植物由来のaNFCはセルロースI(セルロース結晶I型)のものである。他の態様によれば植物由来のaNFCは、他のセルロース型も含み得る。幾つかの異なるセルロースの結晶構造が知られている。その構造は、セルロースの鎖間及び鎖中の水素結合の位置に対応する。天然のセルロースはセルロースIである。再生セルロースフィブリル中のセルロースは、セルロースIIである。高等植物のセルロースは主として、サブストラクチャー(substructure)セルロースIβから構成される。
【0055】
一態様によれば、植物由来のaNFCはTEMPO酸化されたナノフィブリルセルロースである。植物由来のaNFCを、第一に主たる酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを使用することによるTEMPO酸化を介して、セルロースの一級アルコールをアルデヒドとカルボン酸に酸化して、一定のカルボキシレート含有量を有する酸化セルロースを得、その後に酸化したパルプをフィブリル化してaNFCを得る工程を含む、TEMPO酸化工程により得てもよい。本発明の植物由来のaNFCは、ナノフィブリルセルロースの乾燥重量で、0.3mmol/g以下、好ましくは0.2mmol/g以下、より好ましくは0.15mmol/g以下の量でアルデヒド基を有する、TEMPO酸化されたナノフィブリルセルロースであってもよい。
【0056】
ナノフィブリルセルロースの化学組成又は改質は、一般的には置換度(DS)として述べられる。本発明において使用されるセルロース原材料のアニオン化による誘導体化は、フィブリル化/機械的分解に先立ち、一定の程度の置換レベルになるまで行われる。化学的誘導体化工程において、置換度を大きく変えることができる。
【0057】
本発明の一態様によれば、植物由来のaNFCは、少なくとも0.08の置換度(ds又はDS)を有するアニオン化されたセルロース原材料から製造されるナノフィブリルセルロースを含む。植物由来のaNFCについての置換度は、典型的には0.08と0.3の間のdsレベルである。好ましくは、植物由来のaNFCの置換度は0.1と0.25の間、又はより好ましくは0.12と0.2の間である。置換度は例えば、0.10、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18又は0.19であってもよい。機械的処理の後に得られるアニオン性ナノフィブリルセルロースは、これらのdsレベルと共に、最適な性質を有するので、これらの特定のdsレベルは本発明において有利であることが見出された。高い粘度と高いアスペクト比を有する良好な品質のヒドロゲルが得られた。加えて、粉砕(grinding)に必要とされるエネルギーは中程度のレベルに保たれた。
【0058】
本発明の一態様によれば、植物由来のaNFCは、0.1超、好ましくは0.1と0.3の間、より好ましくは0.12と0.2の間の置換度を有する、カルボキシメチル化されたセルロース原材料から製造されるナノフィブリルセルロースを含む。
【0059】
化学的、機械的、熱機械的、又は化学熱機械的なパルプ製造工程を使用して、植物由来のaNFCセルロースを、植物に基づいたセルロース又はリグノセルロース原材料に由来するセルロース材料から得てもよい。1つの非限定的な態様によると、セルロース原材料は再生セルロースフィブリルを含まず、ここでセルロースはセルロースII及び/又はリサイクルされたフィブリルである。
【0060】
一つの非限定的な観点によると、植物由来のaNFCはマーセル法で処理された(mercerized)ナノフィブリルセルロースではない。
【0061】
「ヒドロゲル」又は「ゲル」又は「ナノフィブリルセルロースヒドロゲル」は、均質であり且つ連続的な構造を有するナノフィブリルセルロースの水性分散物を言う。ヒドロゲルはナノフィブリルセルロースを、例えば、水、緩衝溶液、若しくは細胞培養培地、又は任意の他の水性溶液と共に、任意選択で添加剤を補充して、混ぜ合わせることにより形成することができる。ナノフィブリルセルロースに関連して用語「ヒドロゲル」は、ナノフィブリルセルロースの水性分散物が1未満の損失正接を有する形態を言う。ヒドロゲルは膨潤し、その構造内に大きな割合の水を保持する能力を示すポリマー材料であるが、それは水中に溶解しない。NFCヒドロゲルは共有結合を形成することなく自発的に形成され;そのために、例えば希釈によりそれらの強度を容易に変えることができる。NFCヒドロゲルは良好な懸濁能力を有する。NFCヒドロゲルは所謂可逆的な又は物理的なゲルであり、フィブリルの絡み合いによる物理的な架橋に関与している。ネットワーク中の相互作用は、応力の適用により粉砕することができ、そのためにNFCヒドロゲルは剪断減粘性(shear-thinning)挙動を有する。植物由来のナノフィブリルセルロースヒドロゲル足場の粘弾的性質は、細菌性セルロース足場に由来するもの等、他の起源に由来するナノフィブリルセルロースとは大きく異なる。
【0062】
本発明のナノフィブリルセルロースは、20NTU以下、好ましくは10NTU以下、より好ましくは6NTU以下の濁度を有する。水中で0.1重量%の濃度において、濁度は20と1NTUの間、より好ましくは10と1NTUの間、例えば9、8、7、6、5、4、3、2、最も好ましくは6と1NTUの間であってもよい。
【0063】
1つの観点においてナノフィブリルセルロースは、水中で0.1重量%の濃度において、20NTU以下、好ましくは10NTU以下、より好ましくは6NTU以下の濁度を有し、好ましくは、濁度は20と1NTUの間であり、より好ましくは10と2NTUの間である。
【0064】
光学的な濁度測定機器を用いて濁度を測定してもよい。濁度の定量的な測定のために利用できる幾つかの市販の濁度計(turbidometer)がある。この場合には、比濁法に基づく方法が使用される。校正された濁度計由来の濁度単位は、比濁計濁度単位(Nephelometric Turbidity Unit)(NTU)と呼ばれる。測定装置(濁度計)は標準校正試料により校正され、制御され、続いて希釈されたNFC試料の濁度を測定する。
【0065】
最終産物は優れたゲル化特性と透明性のみならず、均質な構造も有する。透明性はフィブリル束の欠如に由来し、均質な構造をもたらす。最終的なナノフィブリルセルロースヒドロゲルの透明性は、光散乱が低いことに由来して光学顕微鏡による細胞の視覚的検出を可能とする。加えてナノフィブリルセルロースに由来する自己蛍光はない。よって本発明のナノフィブリルセルロースは、改善された画像化性能を有する。本ナノフィブリルセルロースとヒドロゲルの使用は、これまでは不可能であった3Dイメージングを可能とする。
【0066】
本ナノフィブリルセルロースの結晶度は、60%から80%に、好ましくは65から75%に変化してもよい。結晶度は、例えば60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、又は80%であってもよい。
【0067】
ナノフィブリルセルロースに関連して用語「分散」は、両方のナノフィブリルセルロースのヒドロゲルのみならず、ヒドロゲルに関連する上記の要件を満たさない、より希釈された水性のシステムを包含する。分散とは粒子が、粒子自体とは異なる状態の連続相中に分散されるシステムである。
【0068】
「水性媒体」とは、細胞又は組織の維持、輸送、単離、培養、増殖、継代、又は分化に適する、水、脱イオン水、緩衝溶液、又は栄養媒体等の、任意の水性媒体を言う。水性媒体は、特別な細胞外マトリックス成分、血清、成長因子、抗生物質、保存剤、ペプチド及びタンパク質等の様々な添加物をさらに含んでもよい。本技術分野で知られているように、細胞培養培地の選択は、培養されるべき細胞の型に依る。細胞の分化していない又は分化している成長を支持する、多くの市販の細胞培養培地が存在する。本発明において適している細胞培養培地の例には、mTeSR1(ステムセルテクノロジーズ)、間葉系幹細胞培地(ロンザ、ウォーカーズビル、メリーランド州、#PT-3001)、STEMPRO hESC SFM(インビトロゲン)、Williams’E(インビトロゲン)及び分化培地が挙げられる。
【0069】
「懸濁された」又は「懸濁液」は、3Dエンティティー又はヒドロゲル体の文脈で使用されたときには、水性媒体とヒドロゲルの不均質な混合物を言い、ここでヒドロゲルは分離した又は相互接続されたヒドロゲル体として存在してもよい。
【0070】
用語「細胞培養マトリックス」は、細胞及び/又は組織並びに3Dエンティティーを含むシステムを言い、細胞及び/又は組織は少なくとも部分的に、前記エンティティー中に2D又は3Dの配置(arrangement)で埋め込まれて存在する。細胞培養の文脈における3D及び2Dとは、細胞が配置されている様式を言い、例えば、3Dとは塊又はスフェロイド様の配置を、2Dとは単層又は層状の配置を言ってもよい。細胞培養マトリックスとは、細胞培養と、細胞の接着のために利用できる付着表面を増加させて、組織の基礎構造を模倣する成長マトリックスの提供のために構成された材料も言う。
【0071】
用語「細胞培養」又は「細胞の培養」とは、細胞又は組織の維持、輸送、単離、培養、増殖、継代又は分化を言う。細胞は個別の細胞、単層、細胞塊若しくはスフェロイド、又は組織等の任意の配置であってもよい。
【0072】
用語「増殖細胞」は、自然に増殖、分岐及び伸展する傾向を有する(即ち、広い空間を取るか又は容積が大きい)細胞を言う。増殖細胞を、例えば突出(protrusion)又は突起(projection)を成長させることにより、及び/又は運動のために突起/突出を用いて、例えばマトリックス内で増殖させることができる。増殖細胞が足場又はネットワークを形成するためにも、突起又は突出を使用してもよい。増殖細胞の例はニューロン細胞であり、ニューロン細胞はある意味でそれらの神経突起を成長させて増殖する。樹状分岐は、それによってニューロンが新たな樹状突起樹と分岐を形成し、新たなシナプスを生成する、多段階の生物学的工程である。血管とリンパ管の内張り(lining)を形成する内皮細胞もまた、増殖細胞であると見做すことができる。多くの型の哺乳動物細胞は、懸濁液又は非接着環境中で培養されたときに、凝集して3D多細胞スフェロイドに分化することができる。スフェロイドを形成する代わりに増殖細胞は運動し増殖する。
【0073】
用語「ニューロン細胞」又は「ニューロン」は中枢神経系(CNS)の3つの主要な細胞表現型、即ち、ニューロン、グリア、及びアストロサイトを言う。「神経突起(neurite)」又は「神経突起(neuronal process)」とは、ニューロンの細胞体に由来する任意の突起を言う。この突起は軸索又は樹状突起のいずれであってもよい。用語「神経突起伸長」とは、ニューロン移動と分化の間の鍵となる工程を言う。複雑な細胞内シグナル伝達は、神経突起の突出の開始と引き続いての伸長に関与している。複雑な神経回路の形成は、軸索の分岐により大きな影響を受ける。好ましくは本発明で使用される細胞はニューロン細胞である。用語「ニューロン様細胞」とは、成人のニューロンとは見做されない細胞を言う。ニューロン様とはこれらの細胞が、小胞により神経伝達物質を放出する等の、ニューロンと類似した性質を共有することを意味する。
【0074】
用語「内皮細胞」とは、血液と直接的に接触している血管内皮細胞と、リンパと直接的に接触しているリンパ管内皮細胞を言う。
【0075】
ナノフィブリルセルロースの誘導体は、ナノフィブリルセルロース又はナノフィブリル束の、任意に化学的又は物理的に改質された誘導体(derivate)であり得る。化学的改質は、セルロース分子の例えばカルボキシメチル化、酸化、エステル化、又はエステル化反応に基づき得る。述べられた改質はナノフィブリルセルロースの生成の前、後、又はその間に実施し得る。特定の改質は、ヒトの体内で分解可能なNFC材料をもたらし得る。誘導体は、共有結合若しくは弱い結合、又は吸着により付着した成長促進タンパク質を含んでも良い。
【0076】
ナノフィブリルセルロース及びそれらを含んでいるヒドロゲルの微生物学的な純度は、細胞培養の性能において本質的である。よってナノフィブリルセルロースを、ヒドロゲルの形態での細胞培養実験に先立って滅菌してもよい。それに加えて、フィブリル化の前とその間に、産物の微生物混入を最小化することは重要である。フィブリル化に先立って、漂白段階直後のパルプがまだ無菌であるときに、パルプミルからセルロースパルプを無菌的に採取することは有利である。
【0077】
化学的に、セルロース高分子は非常に安定な分子であると知られている。セルロースの加水分解は過酷な条件の使用を必要とし、典型的には56%硫酸の様な強酸が使用される。
【0078】
ナノフィブリルセルロースの個々のセルロースナノフィブリルの寸法は、ECM中のコラーゲンフィブリルの寸法に近く、即ち4~10nmである。よってNFCに基づくヒドロゲルを、3D細胞培養マトリックスにおいて使用することができる。
【0079】
本発明の細胞培養実験において、光学的に透明なヒドロゲルを形成する化学的に改質されたaNFCが使用される。材料の詳細な説明は、実施例中の材料及び方法の項に示されている。ヒドロゲル中のaNFCの濃度は、培養される細胞に適している濃度に適合している。全容量中のaNFCの濃度を、例えば細胞の型と細胞株に依り、0.05~3%(w/v)の範囲内で変えることができる。ニューロン細胞の培養においては、0.05、0.055%、0.06%、0.065%、0.07%、0.075%、0.08%、0.085%、0.09%、0.095%、0.1%、0.15%、0.2%、0.25%、0.3%、0.35%、0.4%、0.45%、又は0.5%のw/v濃度等、0.05~0.5%(w/v)の範囲を使用し得る。好ましくは、その範囲は0.05~0.35%(w/v)である。
【0080】
本発明のナノフィブリルセルロース又はその誘導体は、ナノフィブリルセルロース又はナノフィブリル束の化学的に又は物理的に改質された誘導体を含み得る。
【0081】
本発明で述べられるナノフィブリルセルロースは:セルロースナノウィスカー、セルロースナノ結晶、セルロースナノロッド、ロッド様セルロース微結晶又はセルロースナノワイヤーとしても知られている、所謂セルロースィスカーと同じ材料ではない。場合によっては、両方の材料について類似の専門用語が例えばKuthcarlapatiら(2008)により使用され、ここで研究された材料は「セルロースナノファイバー」と呼ばれたが、明らかに彼らはセルロースナノウィスカーについて述べている。典型的にはそれらの材料は、より硬い構造をもたらす、セルロースナノフィブリルの様なフィブリル構造に沿った非晶質部分(amorphous segment)を有さない。セルロースィスカーもまたセルロースナノフィブリルよりも短く;典型的にはその長さは1マイクロメートル未満である。
【0082】
用語「細胞培養のための物品」とは、単一及び多ウェルプレート(6、12、96、384、及び1536ウェルプレート等)、ジャー、ペトリ皿、フラスコ、多層フラスコ、ビーカー、プレート、ローラーボトル、スライド(チャンバー及びマルチチャンバー培養スライド等)、チューブ、カバーガラス、バッグ、膜、ホローファイバー、ビーズ及びマイクロキャリア、カップ、スピナーボトル、灌流チャンバー、シリンジ、バイオリアクター、並びに発酵槽を含む、細胞培養に適している任意の物品を言う。
【0083】
用語「成形(shaping)」とは組成物を(任意選択で二次材料の中又はその上で)成形することを言う。成形は3D印刷、紡績、噴霧、滴下、伸展(spreading)、被覆、又は同時若しくは引き続いての架橋を伴う含侵により、好ましくは組成物を架橋条件又は化学薬品の中で直接的に成形することにより行うことができる。
【0084】
用語「成形されたマトリックス」とは、ワイヤ、3Dコード(cord)、チューブ、メッシュ、ビーズ、シート、織物(web)、被覆、中間層(interlayer)、又は含侵物(impregnate)等の形状であるマトリックスを言う。
【0085】
用語「共培養」とは、1つより多い異なる型の細胞が、同じ培養マトリックス中で同時に培養される、細胞培養を言う。共培養は、単一の治療システム中で異なる型の細胞を利用することを可能とする。本発明において起源が異なる少なくとも2つの型の細胞を共培養として培養することができる。
【0086】
用語「印刷」とは、3D印刷、レーザー支援印刷、押し出し、成形又はエレクロトスピニングの手段により印刷された材料として、aNFCを含む構造とパターンを製造する工程を言う。
【0087】
細胞培養、細胞培養マトリックス又は物品のための本組成物は、栄養素、緩衝剤、pH指示薬、細胞外マトリックス成分、血清、成長因子、抗生物質、保存剤、ペプチド及びタンパク質からなる群から選択される適切な添加物をさらに含んでもよい。
【0088】
細胞株及び培養された細胞の意図される用途に依り、培養を2D又は3Dで実施し得る。ヒドロゲル体上での細胞の2D又は3D生育と、ヒドロゲル体の内部において培養された細胞の増殖細胞と細胞外構造の浸透を許容する、3Dエンティティー又は物品の上に又はその中に、細胞は分散され又は接種される。
【0089】
一態様によれば、本組成物を含んでいる細胞培養物から得られた細胞を、例えば、中枢神経系疾患細胞モデルの調製のために、(特にニューロン細胞のための)3D印刷された構造のために、脊髄損傷の治療のために、アルツハイマー病若しくはパーキンソン病の診断のために、又は細胞培養物中で薬剤試験を行うために、使用することができる。
【0090】
セルロースナノフィブリルの除去は、例えばセルロース分子のみならず、ヘミセルロース等その中の他の木材由来成分を全て分解するのに必要とされる全ての酵素を含む酵素混合物により実施することができる。適切な酵素は例えば、問題となっているNFCのために設計された酵素混合物であり、市販されているセルラーゼ-ヘミセルラーゼ調製物である。混合物の組成を、そのNFCを産生するために使用される原材料の化学組成に依って変えることができる。例えばNFCの産生においてバーチパルプが使用されるときには、その混合物は、少なくとも完全な(intact)エンド-及びエキソセルラ-ゼ又はそれらの一部分、エンド-キシラナーゼ、並びにβ-D-グルコシダーゼ及びβ-D-キシロシダーゼを含む。軟材由来のNFCの加水分解ためには、その混合物には少なくともエンド-マンナナーゼ及びβ-D-マンノシダーゼが添加されている必要がある。精製された酵素成分からプールされ、設計された混合物の利点は、それらは、追加のタンパク質又は他の望まない成分、例えば副活性物(side activities)、培養生物由来の残骸又は培養液由来の残渣(市販の酵素調製物の場合にはしばしばある)を含まないということである。特に有害であるのは、調製物がプロテアーゼを含むときには、それは培養された細胞の表面を攻撃するかもしれないということである。植物に基づく材料の全加水分解のために指定されている市販の酵素混合物を、NFCの加水分解においても使用することができるが、ゲルろ過又は透析等の少なくともクルードな精製工程の後がより好ましい。設計された又は市販の混合物の何れの酵素調製物に関わらず、成分は、例えばpH、温度、及びイオン強度に関して、それらがNFCを最適に加水分解するように選択される。酸性のpH値(pH3.5~5)又は塩基性のpH値(pH6~8)の何れかで、且つ室温から最大60~80℃の温度において作用する、市販の調製物を利用することができる。非常に多くの場合、多くのセルラーゼとヘミセルラーゼのための最適温度である37℃で細胞は成長する。
【0091】
特定の酵素、セルラーゼが、セルロース中の[ベータ]-(1-4)結合を加水分解できることは一般的に知られている。例えば、鎖末端から離れた無作為な位置でセルロース鎖を標的とするエンド-1,4-p-グルカナーゼ(EG);鎖の両端から分子を切り離すことによりセルロースを分解してセロビオ-スダイマーを生成するエキソグルカナーゼ又はエキソセロビオヒドロラーゼ(CBH);及び、生成したオリゴサッカライドを加水分解し、セロビオ-ス単位(EG及びCBH攻撃の間に生成する)をグルコースに加水分解する[ベータ]-グルコシダーゼ(BGL)。それぞれはセルロースナノフィブリルを、セルラーゼの助けを借りて、グルコースへ酵素的に加水分解することができる(Aholaら 2008)。NFCをモノマー糖へ全て加水分解するには、酵素混合物は、キシラナーゼ及びマンナナーゼ等のエンド作用ヘミセルラーゼ、並びにβ-D-グリコシダーゼ、β-D-キシロシダーゼ及びD-マンノシダーゼも含む必要がある。例えばヒドロゲルの粘度を低減するために、部分的な加水分解のみを目的とするときには、酵素混合物の組成を、エンドグルカナーゼを過剰に含み、セロビオヒドロラーゼを少なく含むか又は含まないようにすることができる。後者の場合には、ヘミセルラーゼはセルラーゼの加水分解作用を促進するので、ヘミセルラーゼを混合物の中に含ませることができる。様々な理由のために、細胞培養システムを含むセルロースナノフィブリルの中で、セルロースの酵素的加水分解を利用することができる。NFCヒドロゲルの加水分解により培地の粘度は劇的に低下し、培養された細胞構造物を容易に、例えば染色に利用することができる。また加水分解の後には、細胞構造物を、セルロース含有材料無しで移動又は移植することができる。分解産物であるグルコースは全般的に細胞に対して毒性が無く、細胞培養における栄養素として利用され得る。
【0092】
酵素的加水分解(例えばセルラーゼによる)がNFC(aNFCを含む)ヒドロゲルの破壊に使用される場合には、その酵素を不活性化するか又は細胞培養システムから除去してもよい。当業者はその酵素を不活性化又は除去するための、任意の適切な方法を容易に選択することができる。適切な方法の例には、阻害剤又は中和抗体による不活性化、及び、洗浄、ろ過、アフィニティー精製、又は選択された用途に適した任意の他の方法によるセルラーゼの除去が挙げられる。酵素を不活性化又は除去することにより、酵素処理後にNFCに基づいたマトリックス中で細胞が培養されたときに、NFCゲル構造を壊すことができる、活性酵素が存在することが防止される。酵素の除去は、培養された細胞の特定の下流の適用においても必要とされるかもしれない。
【0093】
1つの好適な態様において、細胞塊の少なくとも一部を放出するのに十分な時間の間、組成物はセルラーゼにより酵素的に処理される。他の好適な態様において、酵素処理の後に、セルラーゼは不活性化されるか又は細胞塊から除去される。
【0094】
本技術分野で知られている任意のマーカー遺伝子の発現に続いて、細胞の分化をモニターすることができる。例えば特定の適用と細胞の型に依り、早期の又は後期のマ-カーを使用することができる。
【0095】
本発明のaNFCヒドロゲルは、例えば湿セルロースパルプフィブリルの高圧ホモジナイゼーションによる「前記セルロースナノフィブリルのホモジナイゼーション(homogenization)の直接的な産物」である。水性環境中において本発明によるセルロースナノフィブリルは、分散したナノフィブリル又はナノフィブリル束の連続的なヒドロゲルネットワークを形成する。非常に低い濃度においてさえも、お互いの間で絡まった高度に水和したフィブリルによりゲルは形成される。フィブリルも水素結合を介して相互作用してもよい。如何なる懸濁剤又は増粘剤を添加することなく、0.3~0.5重量%という低いセルロースナノフィブリルを有する(機械的な分解により作製される)安定なヒドロゲルを形成することができる。実際にその工程に由来する直接的な産物は、希薄なナノフィブリルセルロースヒドロゲルである。透明なNFCヒドロゲルは、化学的に改質された(TEMPO酸化された)セルロースパルプの類似したホモジナイゼーション工程により得られる。
【0096】
全てのマイクロフィブリル化されたセルロースが、「マイクロフィブリル化されたセルロース」のカテゴリーに入るというだけで同様の挙動をする訳ではない。すなわち、全てのマイクロフィブリル化されたセルロースが同一の性質と特徴を有する訳ではない。さらに、マイクロフィブリル化されたセルロースが作製される工程は、最終製品の性質に大きく影響する。よって、セルロースが機械的に分解することは特定の意味を有し、得られるセルロースナノフィブリル構造に影響を及ぼす。
【0097】
結論
アニオン性ポリマーがニューロン細胞に支持的な効果を誘導するかもしれないことは、過去に報告された。本発明者らは、aNFCで作られたヒドロゲルは、増殖細胞の伸展と生育を支持するのにより適切であることを見出した。一例として、本発明者らは、ヒトニューロン細胞を培養してニューロンネットワークを形成した。aNFCヒドロゲルはニューロン細胞、特に単一細胞の神経突起の伸長を支持するのに良好であった。先行技術のヒドロゲルとの比較におけるこの改良は、2つのヒドロゲルの改良に基づいている:1)ナノフィブリルセルロースの表面上のアニオン性荷電は、ヒドロゲル中での細胞運動を誘導した(なぜならば細胞はフィブリル中の荷電基を感知し且つ伸長したフィブリルに沿って/向かって伸展する傾向があるからである)、及び2)アニオン性ヒドロゲルのゲル強度は、天然のグレードと比較してより高い(なぜならばフィブリル径とサイズが小さくなる程、同じ固体含有量におけるナノフィブリルの数はより多くなるからである)。よってより低いフィブリル濃度において細胞培養を行うことができる。フィブリルは運動を妨害しないので、固体含有量がより低いことは、ヒドロゲル中での細胞のより自由な運動を可能とする。aNFCの最適な固体含有量は0.5重量%未満、有利には0.4重量%未満である。
【実施例】
【0098】
下記の実施例は、上記で述べられたような本発明の態様を描くものであり、如何なる意味でも本発明を限定することを意味するものではない。
【0099】
実施例1 ヒトニューロン細胞によるナノフィブリルセルロースに基づいたヒドロゲルの試験
材料及び方法
ナノフィブリルセルロースに基づいたヒドロゲル内にカプセル封入されたヒトニューロン細胞を2週間培養した。実験に使用された細胞は、ヒト胚性幹細胞株Regea08/023から予め分化した(pre-differentiated)ヒトニューロンであった(Lappalainenら 2010;Yla-Outinenら 2014)。要するに、約3000個の細胞を含んでいるhESC塊を6ウェルの超低付着性プレート(ヌンク、サーモフィッシャー・サイエンティフィック、ロチェスター、ニューヨーク州、USA)中に移し、1:1のDMEM培地(DMEMedium)/F12(ギブコ、インビトロゲン、フィンランド)及びニューロベーサル培地を含み、2mMのGlutaMax(商標)、1×B27、1×N2(ギブコ)、20ng/mlの線維芽細胞成長因子(bFGF、R&Dシステム、ミネアポリス、ミネソタ州、USA)及び25U/mlのペニシリン/ストレプトマイシン(キャンブレックス、ベルギー)を添加したニューロン分化培地中で、浮遊凝集体、ニューロスフェアとして細胞を培養することにより、hESCからニューロン細胞への分化を行った。培地を週に3回交換し、スフェアを週に1回機械的に分解した。ニューロスフェアを8週間培養し、純粋なニューロンの集団を得た。
【0100】
アニオン性NFCの調製
フィブリル化のための工業用流動化装置を用いて、高圧ホモジナイゼーションにより、漂白されたセルロースパルプからaNFCを調製した。原材料をパルプミルから無菌的に収集し、滅菌した機械によりホモジナイゼーションを行う前に完全に精製した。よって全製造工程を通じて微生物上の純度は維持された。精製されたものをフィブリル化の前にアニオン性に改質した。アニオン性の改質は、セルロースパルプの酸化に基づいている。改質によって、セルロースパルプはセルロースナノフィブリルに容易に分解する。また不安定化反応(labilization reaction)はaNFC上にアルデヒドとカルボン酸の官能性をもたらし、それによって材料の疎水性が増加した。国際公開第09/084566号公報と日本特許出願20070340371号公報はそのような改質を開示している。化学的改質の後に酸化したセルロースパルプを完全に精製した。フィブリル化前に、精製したフィブリルを滅菌した超高品質水で希釈した。得られるヒドロゲルのNFC濃度は典型的には1~2重量%である。NFCヒドロゲルを、フィブリル化の後に直接オートクレーブ処理(121℃/20分)した。
【0101】
【0102】
浸透圧バランス
細胞培養実験の前に、浸透圧環境のバランスをとるために、ヒドロゲル材料を細胞培養培地の存在下で5時間、室温でインキュベートした。ヒドロゲルの500μl~1mlの一定量を、丸い底を有する2mlのエッペンドルフチューブ中にピペット採取した。1mlの細胞培養培地を、ヒドロゲルの最上部にゆっくりと添加した。インキュベーションした後にチューブを遠心分離し(5分、1500rpm)、最上部の過剰な培地(~1ml)を除去した。
【0103】
細胞のカプセル化
予め分化したニューロスフェアをエッペンドルフチューブに採取し、細胞培養培地を除去した。Tryple Select(インビトロゲン、12563-011)を使用して細胞を酵素的に解離し、小さな細胞凝集体と単一細胞を有する懸濁液を形成した。懸濁液中の細胞の量と生存を、トリパンブルー(1:1)と共にCountess-cell counter(インビトロゲン)を使用して計算した。使用された細胞密度は、ヒドロゲル1ml当たり500万細胞であった。細胞懸濁液の計算量をエッペンドルフチューブにピペッティングし、遠心分離を行い(5分、1500rpm)、細胞培養培地を除去した。細胞ペレットを50μlの新鮮な細胞培養培地に再懸濁し、ヒドロゲル(750μl)の内部に小さな液滴としてピペッティングした。ゆっくりと上下にピペッティングすることにより細胞をヒトロゲルと混合するのみならず、混合液が均質に見えるまでピペットのチップで攪拌した。その後に混合液を96ウェルプレートに一定量を分注した(aliquoted to)。150μlの細胞培養液を培養物の最上部に添加した。
【0104】
ラミニン被覆した2Dと、PuraMatrixカプセル封入された3Dのコントロール試料の調製を、過去に公表された通りに行った(Yla-Outinenら、2014)。
【0105】
細胞培養
ヒトロゲル内にカプセル封入し細胞を2週間培養した。使用された培養培地は、DMEM/F12:ニューロベーサル培地を1:1で含み、2mMのGlutaMax(商標)、1×B27、1×N2、及び25U/mlのペニシリン/ストレプトマイシンを添加した、ニューロン分化培地(NMD)であった。100μlの細胞培養培地を週に3回交換した。培養液を位相差顕微鏡によりモニターした。細胞培養の間のヒドロゲルの安定性を目視により評価した。共焦点画像化のための培養を、No.1.5のガラスの底部、部品番号P96G-1.5-5-Fを有するMatTek96ウェルプレート内で行った。
【0106】
免疫細胞化学的解析、画像化、及び画像
免疫細胞化学的解析は、過去に公表された(Koivistoら 2017)通りに行った。使用された一次抗体は、抗微小管関連タンパク質2(MAP2)(AB5622、メルク ミリポア、ドイツ)とモノクローナル抗-β-チューブリンIII抗体(T8660、シグマ-アルドリッチ、フィンランド株式会社、フィンランド)であった。染色した後に、4倍の対物レンズを有するオリンパスDP30BWデジタルカメラ(オリンパス株式会社、日本)を有するオリンパスIX51倒立顕微鏡により、培養液を画像化した。グレイスケールの画像を、Adobe Photoshop CS4(バージョン11、アドビシステムズ株式会社、カリフォルニア州)を使用して加工した。
【0107】
詳細な共焦点3D画像のスタック(stack)を、グリセリンを有する25倍(開口数=0.80、Zeiss LD LCI Plan-Apochromat、カールザイツ)の対物レンズを使用した、倒立細胞観察顕微鏡(inverted Cell Observer microscope)(カールザイツ、ドイツ)に搭載されたZeiss LSM 780-共焦点単位により撮った。共焦点データは、Huygens-Essentialソフトウェア(Huygens compute engine 15.10.1p564b、Scientific Volume Imaging(SVI、オランダ)を使用してデコンポリューション処理(deconvoluted)し、Image J(Version 1.39、U.S.アメリカ国立衛生研究所、USA))により可視化した。
【0108】
結果
実験の総括
試料調製、ヒドロゲル希釈、細胞播種、及び細胞培養は、研究した両方のヒドロゲル(Grwodex及びaNFC)において成功した。試験された全てのヒドロゲルは2週間ニューロンの生存と成長を支持した。ある程度のゲルの損失は生じたが、画像化のための試料調製も成功した。研究した両方のヒドロゲルは蛍光画像において良好な視覚特性を有し、透明性のおかげでaNFCヒドロゲルは位相差画像化にも非常に適していた。
【0109】
3D培養物の調製におけるヒドロゲルの取り扱い
Growdexヒドロゲルの取り扱いは、我々の過去の実験(先にUPMに報告した)と非常に類似していた。Growdexの材料はヒペッティングして試料を均質に混合することにやや困難性がある。1mlのローリテンション・ピペットチップならば、取り扱いは容易となった。細胞懸濁液を液滴としてヒドロゲルの内側にピペットするという指示の提供も、試料の均質性に有利な影響を有した。
【0110】
Growdexとは反して、新たなaNFCヒドロゲルは、ピペットと混合が非常に容易であった。先の実験と比較して、ヒドロゲルの使用操作性の良さが顕著に改善された。
【0111】
ヒドロゲル内部でのニューロン成長
ニューロンネットワークの形成を、ニューロンマーカーに対する免疫細胞化学染色により、2週間の培養期間の後に評価した。低い倍率の対物レンズを有する広視野蛍光顕微鏡を使用して、試料を画像化した。目に見える神経突起(
図1)の量に従って培養物を3つのカテゴリー:良好、中程度、及び貧弱な神経突起成長、に分類した。貧弱な神経突起の伸長のみが観察された場合においても、全ての試料中の細胞の生存は良好であった(視覚解析)。
【0112】
一般的に容量がより少ない(60μl)試料は、より良好なニューロンの成長を有し、それは成長が貧弱な試料の量の減少として見られる。全体として最量の結果はaNFC(0.30%)で見られた。
【0113】
【0114】
【0115】
これらの結果によりこれらの結果が結論付けられる:
1.aNFCの最も低い濃度(0.30%)は、ヒトニューロン細胞のための最良の組成であった。
2.ニューロンネットワークの形成は、より少ない試料容量(60μl)おいてより安定であった。
【0116】
3D培養物の共焦点解析
細胞間ネットワークをより詳細に可視化するために、共焦点画像化を使用した。研究された全ての材料は共焦点解析に適合しており、バックグラウンド又は自家蛍光の問題は生じなかった。少量の試料において抗体の洗浄は不完全であり、それはヒドロゲル中の明るい点として見ることができる。Growdexヒドロゲルは主として細胞凝集体からの伸長を支持したが、それに対してaNFCヒドロゲルは単一細胞の神経突起成長も支持した。
【0117】
オフノート:単一のヒドロゲルブロックの元来の大きさはφ~5μmと、高さ(z)~3μmであった。共焦点システムでは、1つの画像の中で全体のブロックをカバーすることができない。よって提示された画像は、ヒドロゲルブロックのより小さな選択された領域に由来する。さらに広視野蛍光画像化で見られた幾つかの非常に良い細胞とネットワーク領域は、共焦点画像化により到達することはできなかった。これらは共焦点画像化システムにおいて良く知られている制限要因である。
【0118】
Growdex 1.50%
主として細胞凝集体から大量の神経突起伸長が見られた(
図3、スタック1と2)。幾つかの凝集体において神経突起の量はより低かった(
図3、スタック3)。
【0119】
Growdex 1.00%
Growdex 1.50%とGrowdex 1.00%の間で結果は非常に類似していた。細胞凝集体からの神経突起伸長が見られた(
図4、スタック1~3)。神経突起伸長の量は凝集体により変化した。幾つかの試料において抗体の洗浄が不完全であり、明るい蛍光のドットを引き起こした(
図4、スタック2)。
【0120】
aNFC 0.65%
aNFC 0.65%ヒドロゲルは凝集体からの神経突起伸長(
図5、スタック1と3)のみならず、単一細胞の神経突起成長(
図5、スタック2)も支持した。
【0121】
aNFC 0.45%
aNFC 0.45%ヒドロゲルは凝集体からの神経突起伸長(
図6、スタック1と3)のみならず、単一細胞の神経突起成長(
図6、スタック2と3)も支持した。
【0122】
aNFC 0.30%
aNFC 0.30%ヒドロゲルは単一細胞の神経突起成長を大いに支持し(
図7、スタック1)、細胞凝集体からの大量の神経突起伸長(
図7、スタック2と3)を支持した。
【0123】
これらの結果からこれを結論付けることができる:
1.aNFCヒドロゲルは単一細胞の神経突起伸長の支持においてより良好であった。
2.GrowdexとaNFCヒドロゲルの両方において、細胞凝集体からの実質的な神経突起伸長も検出された。
3.ヒドロゲルの容量(80μl又は60μl)は画像化の質に影響しなかった。
【0124】
両方のヒドロゲルの取り扱いは成功裏であり、ヒドロゲルマトリックスの内側に均質な細胞懸濁液を作製することができた。aNFCヒドロゲルは調製がより容易であった。ある程度のゲル損失が免疫細胞化学染色の間に起こったが、この実験の間に完全に損失した試料はなかった。この効果はより少ない試料容量(60μl)において顕著であった。
【0125】
GrowdexとaNFCヒドロゲルの両方は、2週間培養した後に、かなりの量の生きたニューロンを含んでいた。両方のヒドロゲルは、壮健な神経突起伸長を有するニューロン細胞凝集体を含んでいた。最良の場合には、形成されたネットワークはヒドロゲルのブロック全体を満たした(
図2、A)。
【0126】
研究された2つのヒドロゲル間に観察された主たる差は、単一細胞の成長とそれらの神経突起伸長にある。Growdexヒドロゲルは主として細胞凝集体からの神経突起伸長のみを支持したが(
図8A)、一方、aNFCヒドロゲルは単一細胞の神経突起成長も支持した(
図8B)。単一のニューロンについて3Dネットワークを形成するのにはより時間がかかった。よって培養時間を延長することは、これらの場合におけるより強いネットワーク形成を観察するのに有利であろうという仮説を立てることができる。
【0127】
用途によっては、両方の型の神経突起伸長が有益であることが見られる。我々の経験では、これらのゲルは神経突起伸長を支持するのに非常に良好であることが示され、ニューロンの3D培養における最も重要な特徴の一つである。
【0128】
現在使用されている天然グレードと比較して、aNFCの中で増殖細胞の成長はより良好である。細胞は荷電したフィブリルに向かうことを好む。アニオン性ヒドロゲル中の固体含有量がより低いことは、細胞のより自由な運動を可能とする。機能を有する細胞ネットワークが必要とされる用途において、アニオン性ヒドロゲルは有利に使用され得る。
【0129】
濁度の測定
ナノフィブリルセルロース試料を水の中で、前記ナノフィブリルセルロースのゲル化点未満の濃度に希釈し、希釈した試料の濁度を測定した。0.1%の濃度において、ナノフィブリルセルロース試料の濁度を測定した。濁度の測定に、50mlの測定容器を有するHACH P2100濁度計を使用した。ナノフィブリルセルロース試料の乾燥物質を測定し、乾燥物質として計算された試料の0.5gを測定容器の中に搭載し、その容器を水道水で満たして500gとし、約30秒間振盪することにより激しく混合した。遅滞なく水性混合液を5つの測定容器に分け、それらを濁度計内に挿入した。各容器について3回の測定を実施した。得られた結果から平均値と標準偏差を計算し、最終的な結果はNTU単位として与えられた。新規なナノフィブリルセルロース産物は、上記で述べた測定条件で200未満、好ましくは150NTU未満の典型的な濁度を有していた。
【0130】
レオロジー的な測定
フィブリル化の成功を検証するために、四つ刃の羽根の形状(four-bladed vane geometry)を備えた応力制御型回転レオメーター(ARG2、TAインスツルメント、英国)により、ナノフィブリルセルロースのヒドロゲルの形態での試料のレオロジー測定を実施した。試料を脱イオン水(200g)により希釈して0.5重量%の濃度とし、ハンドミキサーで混合した。その試料についてのレオメーター測定が実施された。シリンダー状の試料カップと羽根の直径は、それぞれ30mmと28mmであり、長さは42mであった。0.001~100Paの範囲の剪断応力におけるストレススイープを、25℃で、0.1Hzの周波数で測定した。
【0131】
実施例2 ヒト皮膚線維芽細胞によるナノフィブリルセルロースに基づいたヒドロゲルの試験
ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)を、NFCヒドロゲルGrowDex又はアニオン性NFCヒドロゲルGrowDexTと混合した。細胞-ヒドロゲルを96ウェルのプレートに移し、ウェル当たり60μlの細胞-ヒドロゲル、及び100μlの細胞培養培地(血清を補足したDMEM)をヒドロゲルの最上部に添加した。5%CO
2において37℃で7日間細胞を培養し、成長特性(増殖、形態、運動)を、自動化Cell-IQ顕微鏡(チップマンテクノロジー)を有する明視野生細胞イメージングにより解析した。その結果、GrowDex中に丸いHDFスフェロイドの形成が示された(
図9A)。GrowDexT内ではHDF細胞は塊で成長し、突起を形成し、細胞は環境を感知することが示唆された(
図9B)。
【0132】
参考文献
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