(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】減圧弁
(51)【国際特許分類】
G05D 16/06 20060101AFI20240604BHJP
F16K 17/30 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G05D16/06 Z
F16K17/30 A
(21)【出願番号】P 2020063162
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 和久
【審査官】西井 香織
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-259146(JP,A)
【文献】国際公開第2019/163879(WO,A1)
【文献】特開2021-111266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 16/06
F16K 17/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め調整された押圧力を作用させるアクチュエータと、
流体源から供給された流体が流入する流入口と、前記流入口から流入した流体が外部に流出される流出口とを有し、かつ前記流入口と前記流出口の間を連通して流体を流す流体通路を有する本体ボデーと、
前記本体ボデー内に設けられ、前記流体通路を1次側の流入通路と2次側の流出通路とに区画する隔壁と、
前記隔壁を貫通して前記1次側の流入通路と前記2次側の流出通路とを連通する弁開口の周囲に設けられた弁座と、
前記弁座に着座または離間する弁部を有し、前記弁開口を開閉する弁体と、
前記アクチュエータと前記本体ボデーとに挟持され、かつ、前記弁体の動作方向と直交する方向に張設されて、前記アクチュエータからの押圧力を受けて前記弁体を前記弁開口が開く方向に動作させるダイアフラムと、
前記2次側の流出通路の圧力を前記ダイアフラムに対し前記弁体を前記弁開口が閉じる方向に動作させるように作用させる圧力室と、
前記弁体を前記弁開口が閉じる方向に付勢力を作用させるばねと
を有する減圧弁において、
前記2次側の流出通路は、前記ダイアフラムの張設方向と平行な方向に延びるとともに、前記弁体の動作方向に対して直交するように前記流出口に向かって延伸し、
前記本体ボデーは、前記2次側の流出通路と前記圧力室とを連通する吸引通路を備えているとともに、前記2次側の流出通路の内部を前記吸引通路が開口する第1の通路と、反対側の第2の通路とに分割する薄板状のセパレータを備え、
前記吸引通路は、ベルヌーイの負圧の原理で前記圧力室内の流体がこの吸引通路を通って前記2次側の流出通路に吸い出されるように貫通孔によって形成され、
前記セパレータにおける、前記2次側の流出通路の上流側に位置する一端と、前記隔壁との間には空間が形成され、
前記セパレータは、前記弁開口を通過した流体を、前記第1の通路を流れて前記流出口に向かう流体と、前記第2の通路を流れて前記流出口に向かう流体とに分けるものであることを特徴とする減圧弁。
【請求項2】
請求項1記載の減圧弁において、
前記隔壁は、前記弁体の動作方向に延びる円柱状に形成されているとともに、貫通孔からなる前記弁開口を有し、
前記弁座は、前記弁開口の上流側端部の周囲に設けられ、
前記隔壁の外周部には、周方向の全域にわたって延びるとともに一部が前記2次側の流出通路に接続される環状の溝が形成され、
前記隔壁の内部には、前記弁開口に対して直交する方向に放射状に延びて前記弁開口から前記環状の溝に延びる複数の連通孔が形成され、
前記複数の連通孔のうち、一つの前記連通孔は、前記弁開口から前記2次側の流出通路に向けて延び、
前記セパレータは、前記弁体の動作方向において、前記一つの前記連通孔と同じ位置に設けられ、
前記吸引通路は、前記弁体の動作方向において、前記一つの前記連通孔より前記弁座とは反対側に設けられ、
前記第1の通路に流速が相対的に高い流体が流れ、前記第2の通路に流速が相対的に低い流体が流れるように構成されていることを特徴とする減圧弁。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の減圧弁において、
前記セパレータは、前記2次側の流出通路の壁面に嵌合するリングの内部に設けられ、 前記リングには、前記吸引通路に接続される貫通孔が穿設されていることを特徴とする減圧弁。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一つに記載の減圧弁において、
前記セパレータは、断面形状が翼型となるように形成されているとともに、前記第1の通路を流れる流体の流速が上昇するように構成されていることを特徴とする減圧弁。
【請求項5】
請求項4記載の減圧弁において、
前記セパレータの最大翼厚位置と対向する位置に前記吸引通路が位置付けられていることを特徴とする減圧弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次側の流体の圧力が一定になるように弁体が動作する減圧弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2次側の流体の圧力が一定になるように弁体が動作する減圧弁としては、例えば特許文献1に記載されているものがある。特許文献1に開示された減圧弁は、
図12に示すように、流体通路1を開閉する弁体2と、弁体2を駆動するアクチュエータ3とを備えている。流体は、流体通路1内を
図12において右側から左側に流れる。
【0003】
アクチュエータ3は、弁体2を開弁方向に付勢するばね部材4と、弁体2に連結されたダイアフラム5が壁の一部となる圧力室6とを有している。圧力室6は、流体通路1の弁体2より下流側に連通路7によって連通されており、下流側の流体通路1aの圧力が連通路7を通して導入される。弁体2は、圧力室6の圧力と、ばね部材4のばね力とが釣り合う状態で停止し、下流側の流体通路1aの圧力低下に伴って圧力室6の圧力が低下することによって、ばね部材4のばね力で開弁方向に移動する。
【0004】
特許文献1に示す減圧弁において流体は、
図12中に実線の矢印と破線の矢印で示すように流れる。実線の矢印は、高流速・高流量で流れる流体の流動経路を示し、破線の矢印は、低流速・低流量で流れる流体の流動経路を示す。この減圧弁においては、弁体2より下流側で高流速・高流量の流体と、低流速・低流量の流体とが互いに干渉し合って、乱流が発生する。乱流が発生する範囲を
図12中に二点鎖線Aで示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているような、下流側の流体通路1aの圧力が低下したときに弁体2が開弁方向に移動する減圧弁においては、流体の流量が大流量となるときに弁体2を開弁方向に大きく移動させることができず、下流側の流体通路1aの圧力が低下し易いという問題があった。この理由は、弁体2より下流側で乱流が発生するからであると考えられる。すなわち、乱流が発生すると、連通路7の開口の近傍を流れる流体の流速が低下し、いわゆるベルヌーイの負圧の原理で連通路7内から下流側の流体通路1aに向けて流体が吸い出されるという効果が得られなくなるからであると考えられる。
【0007】
本発明の目的は、弁体より下流側で乱流が発生することを防ぎ、流体の流速を高くすることが可能な減圧弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、本発明に係る減圧弁は、予め調整された押圧力を作用させるアクチュエータと、流体源から供給された流体が流入する流入口と、前記流入口から流入した流体が外部に流出される流出口とを有し、かつ前記流入口と前記流出口の間を連通して流体を流す流体通路を有する本体ボデーと、前記本体ボデー内に設けられ、前記流体通路を1次側の流入通路と2次側の流出通路とに区画する隔壁と、前記隔壁を貫通して前記1次側の流入通路と前記2次側の流出通路とを連通する弁開口の周囲に設けられた弁座と、前記弁座に着座または離間する弁部を有し、前記弁開口を開閉する弁体と、前記アクチュエータと前記本体ボデーとに挟持され、かつ、前記弁体の動作方向と直交する方向に張設されて、前記アクチュエータからの押圧力を受けて前記弁体を前記弁開口が開く方向に動作させるダイアフラムと、前記2次側の流出通路の圧力を前記ダイアフラムに対し前記弁体を前記弁開口が閉じる方向に動作させるように作用させる圧力室と、前記弁体を前記弁開口が閉じる方向に付勢力を作用させるばねとを有する減圧弁において、前記2次側の流出通路は、前記ダイアフラムの張設方向と平行な方向に延びるとともに、前記弁体の動作方向に対して直交するように前記流出口に向かって延伸し、前記本体ボデーは、前記2次側の流出通路と前記圧力室とを連通する吸引通路を備えているとともに、前記2次側の流出通路の内部を前記吸引通路が開口する第1の通路と、反対側の第2の通路とに分割する薄板状のセパレータを備えているものである。
【0009】
本発明は、前記減圧弁において、前記第1の通路に流速が相対的に高い流体が流れ、前記第2の通路に流速が相対的に低い流体が流れるように構成されていてもよい。
【0010】
本発明は、前記減圧弁において、前記セパレータは、前記2次側の流出通路の壁面に嵌合するリングの内部に設けられ、前記リングには、前記吸引通路に接続される貫通孔が穿設されていてもよい。
【0011】
本発明は、前記減圧弁において、前記セパレータは、断面形状が翼型となるように形成されているとともに、前記第1の通路を流れる流体の流速が上昇するように構成されていてもよい。
【0012】
本発明は、前記減圧弁において、前記セパレータの最大翼厚位置と対向する位置に前記吸引通路が位置付けられていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、セパレータが弁体より下流側で乱流が発生することを防ぐため、流体の流速を高くすることが可能な減圧弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係る減圧弁の断面図である。
【
図4】
図4は、流体の流れる経路を説明するための断面図である。
【
図5】
図5は、セパレータの変形例を示す断面図である。
【
図7】
図7は、セパレータを拡大して示す断面図である。
【
図8】
図8は、流体の流れる経路を説明するための断面図である。
【
図9】
図9は、セパレータの変形例を示す断面図である。
【
図11】
図11は、流体の流量の変化に対する流体通路と圧力室との圧力差の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る減圧弁の一実施の形態を
図1~
図11を参照して詳細に説明する。
図1に示す減圧弁11は、
図1の下側に位置する本体ボデー12と、この本体ボデー12に取付けられた予め調整された押圧力を作用させるアクチュエータ13とを備えている。
この実施の形態による本体ボデー12は、アクチュエータ13が取付けられた弁収容部12aと、アクチュエータ13とは反対側に位置するカップ状のドレンボウル12bとによって構成されている。
【0016】
この本体ボデー12は、
図1において右側の端部に、図示していない流体源から供給された流体が流入する流入口14を有し、
図1において左側の端部に、流入口14から流入した流体が外部に流出される流出口15を有している。また、本体ボデー12の内部には、流入口14と流出口15の間を連通して流体を流す流体通路16が設けられているとともに、流体通路16を1次側の流入通路17と2次側の流出通路18とに区画する吸気ポート19が設けられている。この実施の形態においては、給気ポート19が本発明でいう「隔壁」に相当する。
【0017】
給気ポート19は、円柱状に形成されており、
図2に示すように、1次側の流入通路17と2次側の流出通路18とを連通する貫通孔からなる弁開口21を有している。弁開口21の上流側端部の周囲には、環状の弁座22が設けられている。給気ポート19内には、弁開口21に対して直交する方向に放射状に延びる複数の連通孔23が形成されている。また、給気ポート19の外周部には、周方向の全域にわたって延びる環状の溝24が形成されている。この溝24の一部は、2次側の流出通路18に接続されている。連通孔23は、弁開口21から環状の溝24に延びるように形成されている。
【0018】
弁開口21の内部には、弁開口21を開閉する弁体25が挿入されている。弁体25は、弁開口21に挿入された円柱状の軸部25aと、軸部25aの一端(下端)に設けられた弁部25bとを有しており、給気ポート19を貫通した状態で移動自在に支持されている。この弁体25の一端(弁部25bの下端)は、ばね部材26によって他方(上方)に向けて付勢され、弁体25の他端(軸部25aの上端)は、後述するアクチュエータ13からの押圧力によって一端(下方)に向けて押されている。弁体25の弁部25bは、アクチュエータ13からの押圧力がばね部材26のばね力より小さいときに弁座22に着座し、アクチュエータ13からの押圧力がばね部材26のばね力より大きいときに弁座22から離間する。
【0019】
アクチュエータ13の下端には、
図1に示すように、上述した弁体25の軸部25aに対向するようにダイアフラム31が設けられている。ダイアフラム31は、弁体25の動作方向と直交する方向(
図1においては左右方向)に延びる状態で、本体ボデー12とアクチュエータ13のボンネット32とに挟まれて張設されている。ダイアフラム31の中央部には、押圧部材33が取り付けられており、この押圧部材33はその内部にボンネット32の内部空間(アクチュエータ内室40)とダイアフラム31と本体ボデー12に囲隔された圧力室34とに連通する連通路33aが形成されており、この連通路33aの圧力室34側の開口33bは弁体25の軸部25aの上端の直上に位置する。
【0020】
この押圧部材33と弁体25の軸部25aとは後述するように当接する状態と離間している状態の何れかの状態をとり、押圧部材33に弁体25の軸部25aが当接する状態では、連通路33aの圧力室34側の開口33bは弁軸25aの上端によって閉塞され、連通路33aは遮断される。一方、押圧部材33と弁体25の軸部25aとが離間した状態では、連通路33aは開放されるので圧力室34とアクチュエータ内室40は連通する。なお、ボンネット32の側壁の一部にはアクチュエータ内室40とアクチュエータ13の外部とに連通する排気孔39が形成されており、押圧部材33の連通路33aが遮断されている場合にはアクチュエータ内室40内の圧力はアクチュエータ13の外部の圧力(大気圧)と等しくなる。
【0021】
一方、押圧部材33の連通路33aが開放されている場合には大気圧よりは高圧の圧力室34内の流体は連通路33aを通ってアクチュエータ内室40に流入し、更に排気孔39を通ってアクチュエータ13の外部に排出される。
ここでダイアフラム31の変位について述べると、ダイアフラム31はその圧力室34側の面からダイアフラム31を上向きに押圧する力F1と、ダイアフラム31のアクチュエータ内室40側の面からダイアフラム31を下向きに押圧する力F2とを受け、この力F1と力F2との大小関係によってダイアフラム31の変位の方向が決まる。即ち、力F1が力F2よりも大である場合には、ダイアフラム31の中央部が本体ボデー12から離れる方向に変位する。
【0022】
そして、これに連動して弁体25が弁座22に弁部25bが着座する方向(即ち弁開口21が閉じられる方向)に移動する。反対に力F1が力F2よりも小である場合には、ダイアフラム31の中央部が本体ボデー12に近接する方向に変位する。そして、これに連動して弁体25の軸部25aの先端が押圧部材33に当接した状態を保ちながら弁体25が弁部25bが弁座22から離れる方向(即ち弁開口21が開く方向)に移動する。このように、ダイアフラム31の変位は、弁体25を動作方向に進退させて弁開口21を開閉させる。
【0023】
圧力室34の一部は、2次側の流出通路18とダイアフラム31との間に位置するように形成されている。この実施の形態による2次側の流出通路18は、ダイアフラム31の張設方向と平行な方向に延びるとともに、弁体25の動作方向に対して直交するように流出口15に向かって延伸している。本体ボデー12における圧力室34と2次側の流出通路18との間には、貫通孔からなるサクションチューブ35が設けられている。この実施の形態においては、このサクションチューブ35が本発明でいう「吸引通路」に相当する。サクションチューブ35は、圧力室34と2次側の流出通路18とを連通している。このため、圧力室34には、2次側の流出通路18からサクションチューブ35を介して流体が導入される。このように2次側の流出通路18から導入された流体の圧力が圧力室34内の圧力となって、ダイアフラム31に対し上向きに押圧する力F1を与え、その結果弁体25を弁開口21が閉じる方向に動作させる。
【0024】
ダイアフラム31の中央部に設けられた押圧部材33は、アクチュエータ内室40に収容設置された圧縮コイルばねからなる調圧ばね36によって本体ボデー12に向けて付勢されている。この調圧ばね36は、一端部(下端部)が押圧部材33に保持されて、この押圧部材33を押すとともに、他端部(上端部)が調圧ばね36を保持するように設置される調圧ばね受け37を押す状態でこれらの部材の間に設けられている。調圧ばね受け37は、ボンネット32に螺合された調圧ノブ38の一端(下端)が当接し、調圧ノブ38と調圧ばね36とによって挟まれている。このように押圧部材33と調圧ばね受け37とに保持された調圧ばね36は、ダイアフラム31に対して予め調整された下向きに押圧する力F2を与え、その結果弁体25を弁開口21が開く方向に動作させる。
【0025】
このように、ダイアフラム31には上向きに押圧する力F1と下向きに押圧する力F2とが作用するが、弁体25の動作方向は、圧力室34内の圧力と、調圧ばね36のばね力との大小関係に基づいて決まる。圧力室34内の圧力が調圧ばね36のばね力より大きい場合は、上述の通り弁体25を弁開口21が閉じる方向に動作させ、その結果、弁開口21から2次側の流出通路18へ流れる流体の流量が減少する。一方、圧力室34内の圧力が調圧ばね36のばね力より小さい場合には、弁体25を弁開口21が開く方向に動作させ、その結果、弁開口21から2次側の流出通路18へ流れる流体の流量が増加する。
この実施の形態による減圧弁11は、大流量時に圧力室34内の圧力を低くするために、2次側の流出通路18にセパレータ41が設けられている。
【0026】
セパレータ41は、薄板状に形成されており、
図2に示すように、2次側の流出通路18の内部をサクションチューブ35が開口する第1の通路42と、反対側の第2の通路43とに分割している。この実施の形態によるセパレータ41は、厚みが一定の平板によって形成され、
図3に示すように、リング44の内部にリング44の軸線C(
図2参照)と平行に延びるように設けられている。リング44は、2次側の流出通路18の壁面に嵌合するように形成されている。リング44の内周面44aは、リング44より上流側に位置する2次側の流出通路18の内壁面45に段差が生じることがないように接続されている。
【0027】
リング44には、サクションチューブ35に接続される貫通孔46が穿設されている。このため、サクションチューブ35の実質的な開口部は、リング44内まで延長されることになる。
セパレータ41によって分けられた第1の通路42および第2の通路43は、弁体25の動作方向に並んでいる。
【0028】
この減圧弁11においては、弁体25の弁部25bが弁座22から離れて開弁状態になることによって、流体が
図1および
図4中に矢印で示すように流れる。
図4においては、高流速・高流量で流れる流体の流動経路を太線の矢印で示し、低流速・低流量で流れる流体の流動経路を細線で示している。高流速・高流量で流れる流体は、弁開口21の入口(弁座22)と2次側の流出通路18との距離が最短になる経路を通って流れる。すなわち、この流体は、弁開口21から2次側の流出通路18に向けて延びる一つの連通路23aを通って流れる。この流体は、弁開口21から連通路23aに入ることにより流れる方向が変えられ、慣性によって第1の通路42に向かうように流れる。一方、低流速・低流量で流れる流体は、弁開口21から他の連通路23bと環状の溝24とを通って2次側の流出通路18に流れ込む。この流体は、高流速・高流量で流れる流体を避けるように、主に第2の通路43に流入するようになる。
【0029】
このように、この減圧弁11においては、高流速・高流量で流れる流体と、低流速・低流量で流れる流体とがセパレータ41によって分離されるようになる。このため、弁体25より下流側(2次側の流出通路18の上流側端部)で乱流が発生することを防ぐことができる。2次側の流出通路18で乱流が発生し難いと、乱流が生じる場合と較べてサクションチューブ35の開口部(貫通孔46の開口部)の近傍を流れる流体の流速が高くなるから、いわゆるベルヌーイの負圧の原理で圧力室34内の流体がサクションチューブ354を通って2次側の流出通路18に吸い出されるようになり、圧力室34内の圧力が低下する。以下においては、このようにベルヌーイの負圧の原理で圧力室34内の圧力が低下する現象を単に「サクションチューブ効果」という。この実施の形態においては、サクションチューブ効果により大流量時に弁開度を相対的に大きくすることができるから、大流量時に2次側の流出通路18の圧力が低下することを確実に防ぐことができる。
【0030】
この実施の形態による減圧弁11においては、第1の通路42に流速が相対的に高い流体が流れ、第2の通路43に流速が相対的に低い流体が流れるように構成されている。このため、サクションチューブ効果がより一層顕著になるから、大流量時の2次側の流出通路18の圧力を相対的に高くすることができる。
【0031】
この実施の形態によるセパレータ41は、2次側の流出通路18の壁面に嵌合するリング44の内部に設けられている。リング44には、サクションチューブ35に接続される貫通孔46が穿設されている。このため、セパレータ41を本体ボデー12とは別体に形成して本体ボデー12に組み付けることができるから、セパレータ41を有する減圧弁11を簡単に製造することができる。
【0032】
(セパレータの変形例)
セパレータは
図5~
図10に示すように構成することができる。
図5~
図10において、
図1~
図4によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図5に示すセパレータ51は、断面形状が翼型となるように形成されており、
図6に示すように、リング44の内部に設けられている。このセパレータ41の翼型は、ジューコフスキー翼と呼ばれている翼型である。セパレータ41は、第1の通路42を流れる流体の流速が上昇するように、前縁51a(
図7参照)が上流側に位置する状態でリング44の径方向の一端から他端まで一定の断面形状で延びている。
【0033】
図7に示すように、このセパレータ51の前縁51aと後縁51bとを結ぶ翼弦線52は、リング44の軸線Cに対して傾斜している。翼弦線52が軸線Cに対して傾斜する方向は、流体が流れる方向の下流側に向かうにしたがって次第に第1の通路42が広くなるような方向である。また、セパレータ41は、最大翼厚位置51cがリング44の貫通孔46と対向するように構成されている。すなわち、セパレータ41の最大翼厚位置51cと対向する位置にサクションチューブ35が位置付けられている。
【0034】
この翼型のセパレータ41を使用した減圧弁11においては、流体が第1の通路42内でセパレータ41に沿って流れることにより、この流体の流速が上昇する。すなわち、
図8中に太線で示すように第1の通路42内に流入した高流速・高流量の流体が第1の通路42内で加速されるようになる。
図8においては、加速された流体を白抜きの矢印で示している。
【0035】
断面形状が翼型となるようにセパレータを形成するにあたっては、翼型を
図9および
図10に示すような形状に形成することができる。
図9に示すセパレータ61の翼型は、平底翼と呼称される翼型で、第2の通路43側が略平坦に形成されている。このセパレータ61は、前縁61aと後縁61bとを結ぶ翼弦線62がリング44の軸線Cと平行になるようにリング44に設けられている。リング44の貫通孔46は、セパレータ61の最大翼厚位置61cと対向する位置に設けられている。
【0036】
図10に示すセパレータ63の翼型は、対称翼と呼称される翼型で、前縁63aと後縁63bを結ぶ翼弦線64を中心として線対称となるように形成されている。また、翼弦線64は、リング44の軸線Cと平行である。リング44の貫通孔46は、セパレータ63の最大翼厚位置63cと対向する位置に設けられている。
【0037】
図5~
図10に示すように断面形状が翼型のセパレータ51,61,63を使用することにより、セパレータ自体が乱流発生の原因になることがないことと、第1の通路42を流れる流体の流速を高くすることができることとが相俟って、大きなサクションチューブ効果が得られる。したがって、この実施の形態においても、大流量時に2次側の流出通路18の圧力と圧力室34の圧力との差圧を大きくすることができるために、大流量時に2次側の流出通路18の圧力が低下することを確実に防ぐことができる。
【0038】
図5~
図10に示す断面翼型形状のセパレータ51,61,63を有する減圧弁11においては、最大翼厚位置51c、61c,63cと対向する位置にサクションチューブ35が位置付けられている。このため、第1の通路42の内壁で最も圧力が低くなる位置にサクションチューブ35が開口することになるから、サクションチューブ効果が最大になる。
【0039】
図1~
図8に示したセパレータ41を使用した減圧弁11においては、
図11に示すようなサクションチューブ効果が得られた。
図11は2次側の流出通路18を流れる流体の体積流量と、サクションチューブの上流側と下流側の圧力差とを示すグラフである。圧力差は、第1の通路42に開口するサクションチューブ35の開口部の圧力と、圧力室34内の圧力との圧力差である。
図11において、実線は
図5~
図8に示した断面翼型のセパレータ51を使用した場合を示し、破線は、
図1~
図4に示した平板状のセパレータ41を使用した場合を示す。また、一点鎖線は、比較例として、セパレータを使用しない場合を示す。
【0040】
図11から分かるように、セパレータ41,51を使用することによって、大流量時にサクションチューブ効果により圧力差が大きくなる。特に、断面翼型のセパレータ51を使用した場合は、顕著に圧力差が大きくなる。セパレータ41,51を使用しない場合は、大流量時に生じた乱流が原因でサクションチューブ35内の圧力が上昇し、逆効果となることが分かる。
【0041】
セパレータの断面形状を翼型とするにあたって、翼型の形状は、
図5~
図10で示した形状に限定されることはない。翼型の形状は、第1の通路42で流体の流速が上昇する形状であれば、どのような形状であっても同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0042】
11…減圧弁、12…本体ボデー、14…流入口、15…流出口、16…流体通路、17…1次側の流入通路、18…2次側の流出通路、19…給気ポート(隔壁)、21…弁開口、22…弁座、25…弁体、25b…弁部、31…ダイアフラム、34…圧力室、35…サクションチューブ(吸引通路)、36…調圧ばね、41,51,61,63…セパレータ、42…第1の通路、43…第2の通路、44…リング、46…貫通孔、51c,61c,63c…最大翼厚位置。