(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】保持材用チューブ材料、保持材の設置方法、保持材および止水構造
(51)【国際特許分類】
E01D 19/06 20060101AFI20240604BHJP
E01C 11/02 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
E01D19/06
E01C11/02 C
(21)【出願番号】P 2020080611
(22)【出願日】2020-04-30
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000221502
【氏名又は名称】東拓工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂口 正英
(72)【発明者】
【氏名】松下 史和
(72)【発明者】
【氏名】吉原 潤治
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-214604(JP,A)
【文献】特開昭58-160402(JP,A)
【文献】登録実用新案第3155525(JP,U)
【文献】特開平07-331758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/06
E01C 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の遊間に設けられる止水材を載置するための保持材用チューブ材料であって、
前記チューブ材料は弾性を有する気泡構造樹脂製からなり、
前記チューブ材料の断面形状が楕円形状であり、
前記チューブ材料の幅は、前記チューブ材料の短径D1であり、
前記チューブ材料の短径D1に対する幅方向の厚みTの比率が15%以上、45%以下であり、
前記チューブ材料を幅方向に圧縮したとき、25%変形時の荷重が、5N以上、40N以下であり、
前記チューブ材料の幅が遊間幅より大きく、
前記チューブ材料の減圧時に前記遊間幅より小さくなるように設定されており、
前記チューブ材料を前記遊間の両壁面に挟持される形で敷設する際、前記チューブ材料の外周面と前記両壁面との摩擦力により、前記チューブ材料を曲折させた状態で敷設可能とした、
保持材用チューブ材料。
【請求項2】
前記チューブ材料は独立気泡構造である、
請求項1に記載の保持材用チューブ材料。
【請求項3】
前記チューブ材料の両端には、各端部を気密に封止する封止部が形成されており、
前記封止部を介してチューブ材料内を減圧して、前記チューブ材料を収縮できるようにした、
請求項1または2に記載の保持材用チューブ材料。
【請求項4】
前記チューブ材料のアスカー硬度が、2以上、20以下である、
請求項1~
3のいずれかに記載の保持材用チューブ材料。
【請求項5】
前記チューブ材料の引張強度が、100N以上、1000N以下である、
請求項1~
4のいずれかに記載の保持材用チューブ材料。
【請求項6】
橋梁の遊間に設けられる止水材を保持するための保持材を遊間に設置するための保持材の設置方法であって、
請求項1~5のいずれかに記載の保持材用チューブ材料を減圧して収縮させる工程と、
収縮させた前記チューブ材料を橋軸直角方向に沿って挿入し、かつ、前記チューブ材料の両端を前記遊間から突出させる工程と、
前記チューブ材料の減圧状況を開放して、前記チューブ材料が常圧下での幅に向かうように復帰させる工程とを有し、
前記減圧状況を開放する前あるいは前記減圧状況を開放した後、前記遊間内において前記チューブ材料の少なくとも一部を折り曲げる工程を有する、
保持材の設置方法。
【請求項7】
前記収縮させたチューブ材料を前記橋軸直角方向に沿って挿入する工程が、前記収縮させたチューブ材料を前記遊間の端面より挿入する、
請求項
6に記載の保持材の設置方法。
【請求項8】
前記収縮させたチューブ材料を前記橋軸直角方向に沿って挿入する工程が、前記収縮させたチューブ材料を前記遊間の下方から上方に向かって挿入する、
請求項
6に記載の保持材の設置方法。
【請求項9】
橋梁の遊間に設けられる止水材を保持するための保持材であって、
請求項1~5のいずれかに記載の保持材用チューブ材料
を橋軸直角方向に沿って略水平に挿入して設けた本体部と、前記チューブ材料の屈曲された端部を前記遊間の端面に沿って挿入して立ち上がるように設けた立ち上げ部とを有し、
全体としてU字状を呈する、
保持材。
【請求項10】
請求項
9に記載の保持材と、その上方に設けられる止水材とを備えた、
遊間の止水構造。
【請求項11】
既設の橋梁長寿命化のために敷設する、
請求項
10に記載の止水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の遊間に設けられる止水材を保持するための保持材に用いる保持材用チューブ材料、保持材の設置方法、保持材および止水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁には、橋桁、床版等の構造体間に遊間が設けられており、各構造体の温度変化に伴う各構造体の長さの季節変動や、地震等で地盤が動いても、構造体同士の衝突または接触による損傷を回避すべく遊間が設けられている。この遊間は、車が走行する橋軸方向に隣り合う構造体の間に設けられ、橋軸直角方向に延びる細長い隙間であり、構造体が変形することによる各構造体の移動量を吸収する。このような遊間には排水樋や止水材を設けるのが一般的であり、雨水等が遊間を経由して橋上部構造体を支える橋台・橋脚に伝わることを防止している。そして、雨水等による腐食に伴う橋台・橋脚等の劣化を抑制して、橋梁の長寿命化を図るようにしている。さらに、寒冷地において、排水樋や止水材は、遊間に集まる雨雪や霜などでできる氷塊(つらら)の発生を抑制する役割も有している。このような遊間において、遊間の機能を損なわないように弾性を有する止水材が設けられている場合がある。近年では既設橋梁のさらなる長寿命化が社会的な課題となっており、既設橋梁の遊間に止水構造を施工したり、既存橋梁に設けられている止水構造を新しく補修したり、遊間を止水する保全工事も盛んになりつつある。
【0003】
特許文献1には、橋軸直角方向(遊間の長さ方向)に設けられたゴム製のバックアップ用密閉チューブ(保持材)と、その上方に設けられた固化性液状弾性シール材とからなる止水材ユニットが開示されている。
特許文献2には、遊間の上下中間位置で両橋桁間に挟持された伸縮耐熱素材の止め部材(保持材)と、止め部材に止められるアスファルト等の流動固化体とからなる止水材ユニットを遊間上面から敷設する遊間の止水構造が開示されている。この止め部材の伸縮耐熱素材として、シリコンスポンジ、耐熱ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂スポンジ、EPDMゴム発泡体などが挙げられている。
特許文献3には、中空のシールゴム内部を減圧して遊間内部に引き込み、その後シールゴム内部の減圧状態を解き、シールゴムの弾発力及びシールゴム側面の接着剤で遊間の止水を行う構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-214604号公報
【文献】実用新案第3155525号
【文献】特開昭62-117901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1~特許文献3に開示の遊間の止水構造では、止水材ユニットとは別途に、橋軸直角方向(橋梁の幅員方向)における遊間の両端において、重量の重い鋼板を遊間にボルト留めした封鎖体を、遊間の端面から止水材が流れ落ちないように設置する必要がある。このような封鎖体の取り付けは、高所での工事になるため、危険であり、作業も煩雑である。また封鎖体は、遊間の端部の外側に設けられているため、霜などによって溜まった水滴等が閉鎖体を介して落下することがある。さらに橋梁遊間の止水化工事後に、遊間コンクリートの劣化が経時的に進み、重量物である封鎖体が落脱して、重大な事故が起こる危険性も指摘され、改善策が求められていた。
特許文献1の止水材ユニットは、ゴム製のバックアップ用密閉チューブ(保持材)を高圧空気で膨張させ、その上方に固化性液状弾性シール材を設ける止水材ユニットが開示されるにすぎず、止水材ユニットの排水性などを考慮して、橋軸直角方向(橋梁の幅員方向)の遊間に対し、水平乃至やや傾斜をつけた直線状にしか敷設できないものである。
特許文献2には、遊間上面に伸縮耐熱素材の止め部材(保持材)を詰め込んだ後、アスファルト等の流動固化体を載置して略平滑にした止水構造が開示されている。この場合、保持材が中実状であるため、遊間内に詰め込む作業が煩雑である上、結果として止水材ユニットの排水性を考慮したものではない。特に既設橋梁の場合、遊間の上側から保持材を詰め込む場合、交通を遮断して敷設工事をする必要が生じる。
特許文献3の中空シールゴム及び接着剤からなる止水材ユニットは、断面形状が四角形状であり、しかも、シールゴムの長手方向(橋軸直角方向)に減圧時の幅収縮のためのリブが設けられている。そのため、止水材ユニットの排水性などを考慮して、橋軸直角方向(橋梁の幅員方向)の遊間に対し、水平乃至やや傾斜をつけた直線状にしか敷設できないものである。
本発明はこのような事情を鑑みて研究・開発されたものであり、橋軸直角方向(橋梁の幅員方向)の遊間に対し止水材ユニットの一部を成す保持材用チューブ材料を直線状に簡便に敷設できるだけでなく、保持材用チューブ材料の形状、素材に工夫を加えることで、止水化工事後の橋梁の遊間の排水性を向上させる目的で、また、別途の封鎖体をパテ、コーキング材、シート体などより軽量化したもので対応したり、あるいは、封鎖体そのものをなくす目的で、所望の形状に折り曲げた状態で遊間に敷設できる保持材用チューブ材料、この保持材用チューブ材料の敷設方法、及び、遊間の止水構造の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の保持材用チューブ材料は、橋梁の遊間に設けられる止水材を載置するための保持材用チューブ材料であって、前記チューブ材料は弾性を有する気泡構造樹脂製からなり、前記チューブ材料を前記遊間の両壁面に挟持される形で敷設する際、前記チューブ材料の外周面と前記両壁面との摩擦力により、前記チューブ材料を曲折させた状態で敷設可能としたことを特徴としている。
本発明の保持材用チューブ材料は、遊間内において曲折させた状態で敷設することができるため、遊間に設置させた保持材の形状の自由度が高い。
【0007】
本発明の保持材用チューブ材料であって、前記チューブ材料が独立気泡構造であるものが好ましい。この場合、内部を減圧することにより、大きさを収縮させることができる。
このような本発明の独立気泡構造の保持材用チューブ材料であって、前記チューブ材料の両端には、各端部を気密に封止する封止部が形成されており、前記封止部を介してチューブ材料内を減圧して、前記チューブ材料を収縮できるようにしたものが好ましい。この場合、現場において、両端を封止する必要がないため、施工作業を簡素化できる。
このような本発明の独立気泡構造の保持材用チューブ材料であって、前記チューブ材料の幅が遊間幅より大きく、前記チューブ材料の減圧時に前記遊間幅より小さくなるように設定されているものが好ましい。この場合、チューブ材料の断面形状が楕円形状であり、前記チューブ材料の幅が、前記チューブ材料の短径であるものが好ましい。チューブ材料の断面形状を楕円形状とすることにより、内部を減圧したとき、チューブ材料は短径方向に収縮させやすい。そのため、真空ポンプの出力を小さくても収縮させることができる。またチューブ材料がねじれることなく幅方向(短径方向)に収縮する。
【0008】
本発明の保持材用チューブ材料であって、前記チューブ材料のアスカー硬度が、2以上、20以下であるものが好ましい。
本発明の保持材用チューブ材料であって、前記チューブ材料を幅方向に圧縮したとき、25%変形時の荷重が、5N以上、40N以下であるものが好ましい。
本発明の保持材用チューブ材料であって、前記チューブ材料の引張強度が、100N以上、1000N以下であるものが好ましい。
【0009】
本発明の保持材の設置方法は、橋梁の遊間に設けられる止水材を保持するための保持材を遊間に設置するための保持材の設置方法であって、遊間幅より幅の大きい独立気泡構造樹脂製の保持材用チューブ材料を減圧して収縮させる工程と、収縮させた前記チューブ材料を前記橋軸直角方向(遊間の長さ方向)に沿って挿入し、かつ、前記チューブ材料の両端を前記遊間から突出させる工程と、前記チューブ材料の減圧状況を開放して、前記チューブ材料が常圧下での幅に向かうように復帰させる工程とを有し、前記減圧状況を開放する前あるいは前記減圧状況を開放した後、前記遊間内において前記チューブ材料の少なくとも一部を折り曲げる工程を有することを特徴としている。
このような保持材の設置方法であって、前記収縮させたチューブ材料を前記橋軸直角方向(遊間の長さ方向)に沿って挿入する工程が、前記収縮させたチューブ材料を前記遊間の端面より挿入する、または、前記収縮させたチューブ材料を前記遊間の下方から上方に向かって挿入するのが好ましい。ここで「遊間の端面」とは、橋の側面をいう。これらの場合、橋梁を通る道路または線路等を遮断することなく作業を行うことができる。
【0010】
本発明の保持材は、橋梁の遊間に設けられる止水材を保持するための保持材であって、前記橋軸直角方向(遊間の長さ方向)に沿って略水平に設けられる本体部と、前記遊間の端面に沿って立ち上げられた立ち上げ部とを有し、全体としてU字状を呈することを特徴としている。
本発明の保持材は、橋軸直角方向(遊間の長さ方向)に沿って設けられる本体部と、遊間の端面に沿って立ち上げられた立ち上げ部とを有しているため、遊間を形成する床版等の両壁面と、本体部と、立ち上げ部とによって樋状の容器が形成される。そのため、この保持材の上に止水材を充填しても充填剤が遊間の端面から流れ落ちるおそれがない。
【0011】
本発明の遊間の止水構造は、本発明の保持材と、その上方に設けられる止水材とを備えたことを特徴としている。この場合、既設の橋梁長寿命化のために敷設するものであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の保持材用チューブ材料は、その内部を減圧して、橋梁遊間の下方あるいは側方より引き込み敷設が可能であり、その減圧状態を解いて、保持材用チューブ材料と橋梁遊間端面との摩擦力で敷設状態が維持できるため、橋軸直角方向(遊間の長さ方向)に直線状に極めて簡便に敷設できるだけでなく、本発明の保持材用チューブ材料は可撓性であり、撓ませた状態で敷設できるので、橋梁遊間の止水性を考慮して、橋軸直角方向(橋梁遊間の長手方向)にU字状、V字状、逆V字状、W字状など所望の形状に曲げて簡便に敷設することもできる。
殊に遊間端部近傍でチューブ材料を遊間上方に折り曲げる敷設形態(例えば、橋軸直角方向(長手方向)にU字状に保持材を敷設)とする際には、重量物である鉄板などを遊間にボルト止めすることもなく、パテ留めやコーキング等処理だけの処理とすることで対応ができるので、遊間端面に鉄板やボルト等の重量物の設置を回避できる。そのため、保全工事後に鉄板やボルトが、遊間のコンクリートの経年劣化が進むことにより、これらが落脱するといった事故を未然に防ぐことも可能である。
既設橋梁の場合、既設橋梁の遊間に止水構造を施工したり、既存橋梁に設けられている止水構造を新しく補修したり、遊間を止水する保全工事による交通の遮断を行うことなく敷設が可能であり、橋梁の長寿命化保全工事においてはコストダウンや工期短縮につなげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1aは橋梁の遊間に設置される止水構造の側面を示す概略図であり、
図1bはそのX-X線断面図である。
【
図2】
図2a、bは、それぞれ
図1の保持材に用いられるチューブ材料を示す側面図、Y-Y線断面図であり、
図2cは保持材に用いられるチューブ材料の他の形態を示す側面図であり、
図2d、eはそれぞれ圧縮試験および引張試験の概要を示す概略図である。
【
図3】
図3aは
図1の止水構造の設置方法を示す工程図であり、
図3bはチューブ材料を減圧している状態を示す概略図である。
【
図4】
図4aは
図3の工程S1の一例を示す概略図であり、
図4b、cはそれぞれ工程S1に用いる作業台を示す側面断面図である。
【
図5】
図3の工程S4の一例を示す絞り装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
初めに、橋梁の遊間に設けられる止水構造について説明する。遊間Pは、
橋軸直角方向(橋梁の幅員方向)に延びる細長い溝状の隙間であり、その端面は橋の側面に現れる。
止水構造1は、
図1a、bに示すように、橋梁の床版(壁面)Fと床版(壁面)Fとの間の遊間Pに設けられるものであって、保持材10と、その保持材の上に設けられる止水材20とを有する。このような遊間の幅Pxは、例えば、10mm~100mm、15mm~75mm、特に20mm~50mmである。
【0015】
保持材10は、橋軸直角方向(遊間Pの長さ方向)に沿って設けられる本体部11と、遊間Pの端面に沿って立ち上げられた立ち上げ部12とを有し、全体として上に開口したU字状を呈する。保持材10は、1本のチューブ材料10Aを遊間Pの両床版F(両壁面)に挟持させて、チューブ材料10Aの外周面と両壁面との摩擦力によってチューブ材料10Aを曲折させることによって構成されている。なお、ここでは保持材10をU字状にしているが、V字状や、両端を低くした逆V字状や、W字状などにしてもよい。
【0016】
チューブ材料10Aは、
図2a、bに示すように、両端が封止部26によって塞がれた断面形状が楕円の筒体である。封止部26は、栓体26aと、バンド26bとから構成されている。この実施形態では、封止部26を栓体26aとバンド26bとで構成しているが、封止部26は、チューブ材料10Aの端部を気密に閉じることができれば、特に限定されるものではない。例えば、栓体26aを接着剤で固定してもよく、チューブ材料の両端を覆うキャップや、チューブ材料10Aの端部を縛るなどしてもよい。また断面形状を楕円とすることにより、比較的厚みを有するチューブであっても、後述するように減圧したとき、ねじれることなく幅方向(短径方向)に収縮させることができる。しかし、円形や多角形であってもよい。さらに、保持材を、チューブから構成するのではなく、中実状の長尺体から構成させてもよい。
また
図2cのチューブ材料10Bは、エア用チューブ29を備えたものである。
【0017】
チューブ材料10Aの断面形状を楕円とする場合、長径D2に対する短径D1の比(D1/D2)の下限は、例えば、70%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。一方、チューブ材料10Aの長径に対する短径の比率(D1/D2)の上限は、95%以下、好ましくは92%以下、特に好ましくは90%以下である。
またチューブ材料10Aの短径D1に対する幅方向の厚みTの比率(T/D1)の下限は、15%以上、好ましくは18%以上、特に好ましくは20%以上である。一方、チューブ材料10Aの短径D1に対する幅方向の厚みTの比率(T/D1)の上限は、45%以下、好ましくは35%以下、特に好ましくは30%以下である。
短径D1としては、例えば、10mm~200mm、好ましくは20mm~100mm、特に好ましくは30mm~50mmである。長径D2としては、例えば、15mm~300mm、好ましくは30mm~150mm、特に好ましくは35mm~55mmである。幅方向の厚みTとしては、例えば、1.5mm~90mm、好ましくは3mm~45mm、特に好ましくは5mm~15mmである。
なお、遊間幅Px(
図1参照)に対する楕円のチューブ材料の短径D1の比率(D1/Px)の上限は、200%以下、好ましくは180%以下、特に好ましくは140%以下である。一方、遊間幅Pxに対する断面楕円のチューブ材料の短径D1の比率(D1/Px)の下限は、105%以上、好ましくは110%以上、特に好ましくは120%以上である。
【0018】
またチューブ材料10Aの断面形状を円形とする場合、チューブ材料の直径に対する厚みの比率の下限は、15%以上、好ましくは18%以上、特に好ましくは20%以上である。一方、チューブ材料10Aの直径に対する幅方向の厚みTの比率(T/D1)の上限は、50%以下、好ましくは40%以下、特に好ましくは35%以下である。
直径としては、例えば、10mm~200mm、好ましくは20mm~100mm、特に好ましくは30mm~50mmである。厚みは、例えば、1.5mm~90mm、好ましくは3mm~45mm、特に好ましくは5mm~15mmである。
なお、遊間幅Px(
図1参照)に対する断面円形のチューブ材料の直径の比率の上限は、200%以下、好ましくは180%以下、特に140%以下である。一方、遊間幅Pxに対するチューブ材料の直径の比率の下限は、105%以上、好ましくは110%以上、特に好ましくは120%以上である。
【0019】
このようなチューブ材料10Aの材料としては、弾性を有する気泡構造樹脂が挙げられる。特に、独立気泡構造樹脂が好ましい。例えば、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDMゴム)、シリコンゴム、クロロプレンゴム 、ニトリルゴム 等のゴムチューブや、これらのゴムに発泡剤を添加させて加硫させたスポンジゴム、またはオレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマーを発泡させたスポンジ熱可塑性エラストマーが挙げられる。
チューブ材料10Aとしては、圧縮されたチューブの反力を用いて遊間P内に保持できること、および、現場において作業員によって容易に屈曲できることが求められる。特に、スポンジゴム製またはスポンジ熱可塑性エラストマー製のチューブ材料は、これらの相反する効果が得られて好ましい。特に、スポンジゴムが好ましく、その中でもEPDMゴムに発泡剤を添加させて加硫したEPDM発泡ゴムが好ましく挙げられる。
【0020】
スポンジゴム製のチューブ材料10Aを用いる場合、その比重(質量g/m、体積cm3)の下限は0.04以上、好ましくは0.05以上、特に好ましくは0.06以上である。また比重の上限は0.4以下、好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.2以下である。そのときの発砲倍率の上限は、30以下、好ましくは20以下、特に好ましくは、18以下である。発砲倍率の下限は、3以上、4以上、特に好ましくは5以上である。
【0021】
このチューブ材料10Aの硬度は、JISK7312-1996付属書2の「スプリング硬さ試験タイプ2試験方法」に従って測定したアスカーC硬度の上限が、20以下、15以下、特に10以下が好ましい。アスカーC硬度の上限が20より大きいと、現場において、減圧変形させてチューブ材料を減容させることおよびチューブ材料の屈曲が困難になる。アスカーC硬度の下限は、2以上、3以上、特に4以上が好ましい。アスカーC硬度の下限が2度より小さいと、膨張させたとき遊間Pへの圧力を十分に得られず、固定しにくくなる。
【0022】
チューブ材料10Aを幅方向に圧縮したとき、25%変形時の荷重(応力)の上限が、40N以下、30N以下、特に20N以下が好ましい。荷重が40Nより大きいと、現場において、減圧変形させてチューブ材料を減容させることおよびチューブ材料の屈曲が困難になる。荷重下限は、5N以上、8N以上、特に10N以上である。5Nより小さいと、遊間Pへの固定が十分ではなくなる。
このような圧縮試験は、
図2dに示すように、両端を封止部26で封止していない長さ100mmのチューブ材料10Aを板体で挟み、圧縮スピード20mm/分で幅方向に圧縮することにより行う。なお、断面が楕円である場合、短径方向に圧縮したときの荷重をいう。
【0023】
チューブ材料10Aの引張強度の下限が、100N以上、特に150N以上が好ましい。100Nより小さいと、チューブ材料10Aを遊間P内に挿入、引き込むとき、チューブ材料10Aが破断するおそれがある。そのチューブ材料の引張強度としては、高い方が好ましいが、例えば、1000Nより大きいものは保持材のチューブ材料として適当ではない。
また破断時の伸び率(初期の長さに対する試験後の長さ)の上限は、300%以下、270%以下、特に250%以下である。300%より大きいと、例えば、後述するようにチューブ材料10Aをワイヤ等で引っ張りながら遊間Pに挿入するとき、遊間Pの壁面等との摩擦によって伸びてしまう。そのため、チューブ材料10Aからワイヤを外し、チューブ材料10Aへの外力を開放したとき、縮んで、チューブ材料10Aを目的位置に設置しにくくなる。一方、破断時の伸び率の下限は、130%以上、150%以上、特に170%以上が好ましい。
引張強度は、
図2eに示すように、チューブ材料10Aの両端に引張試験用治具50を取り付け、この引張試験用治具50を500mm/分で引っ張り破断時の力を測定した。この引張試験用治具50は、引張試験用治具50の挿入部51をチューブ材料10Aの端部に挿入し、その外方から治具50が外れないように例えばABAバンド等によって試料を締めることで固定している。そして、この引張試験用治具50を引張試験機で引っ張ることにより行う。
【0024】
止水材20としては、流動性を有する1または複数の原料を反応硬化させた弾性を有する樹脂または樹脂組成物、例えば、1液反応硬化型の樹脂または樹脂組成物や2液反応硬化型の樹脂または樹脂組成物が挙げられる。特に、ポリウレタン系、変性シリコーン系、アクリルウレタン系の2液反応硬化型の樹脂または樹脂組成物が好ましく、そのなかでもポリウレタン系の2液反応硬化型の樹脂または樹脂組成物が好ましい。
【0025】
このように構成されているため、保持材用チューブ材料10Aは、内部を減圧して収縮させることにより、遊間P内への引き込みが簡単にでき、一方、遊間P内へ挿入後、内部を外気に開放して拡張させることにより、遊間の両壁面との摩擦力で簡単に遊間内に保持させることができる。また保持材用チューブ材料は、曲折させた状態で敷設可能であるため、遊間周りの構造に応じて、長手方向にU字状、逆V字状など所望の形状に敷設することができる。
特に、遊間Pの端部で遊間上方に折り曲げ部を有するもの、例えば、U字状に形成された保持材10は、反応硬化性の樹脂組成物からなる止水材を保持させるのに好ましく用いられる。
【0026】
次に、止水構造1の形成方法について説明する。
止水構造1の形成方法は、
図3に示すように、保持材10用のチューブ材料10Aを挿入する工程(S1)と、本体部11を形成する工程(S2)、立ち上げ部12を形成する工程(S3)と、止水材20を充填する工程(S4)とを有する。ここで工程S1~工程S3が、保持材の設置方法となる。
【0027】
保持材10用のチューブ材料10Aの挿入(工程S1)は、チューブ材料10Aを減圧減容させる工程と、遊間内に挿入する工程とを有する。
初めに、遊間Pの幅より幅(断面楕円の場合は短径、断面円形の場合は直径)が大きい密閉可能な弾力性を有するチューブ材料10Aを準備する。
次いで、チューブ材料10Aを減圧減容させる工程は、チューブ材料10Aの封止部26に、例えば、
図3bに示すように、注射型のエア注入器30を刺して、チューブ材料10Aを減圧し、幅が遊間幅より小さくなるように収縮させる。なお、
図2cのチューブ材料10Bを用いる場合、エア用チューブ29を介して減圧減容する。なお、チューブ材料10Aの封止部26は、現場で形成してもよい。しかし、予め封止部26を設けていた方が、作業性が高い。
この収縮させたチューブ材料10Aを遊間P内に挿入する。挿入後、チューブ材料10Aの両端は、遊間Pの両端面から突出させておく。ここで収縮させたチューブ材料10Aは、遊間Pの上方から挿入しても、遊間Pの下方から挿入しても、遊間Pの端面(橋の側面)から挿入してもよいが、遊間Pの端面から挿入するのが好ましい。
チューブ材料10Aの遊間Pの端面から挿入する具体的な方法は、例えば、
図4aに示すように、チューブ材料10Aの一端にフックHを取り付け、遊間Pの端面からワイヤ50で引っ張る方法等が挙げられる。
【0028】
また収縮されたチューブ材料10Aを挿入する前に、遊間P内において、収縮させたチューブ材料10Aを支持させるため作業台を取り付けてもよい。作業台は、チューブ材料10Aを支持する実質的な水平な支持部を有するものであれば、特に限定されない。例えば、
図4b、cのような作業台15が挙げられる。
図4bの作業台15は、遊間P内に固定される梯子状のものであって、作業台15の端部と床版Fの側面とを、取り付け部16およびボルト17などによって固定したものである。また
図4cの作業台15は、チューブ本体18と、その中に挿入されるワイヤ19とからなるチューブ状のものであって、ワイヤ19の両端を床版Fの側面に固定し、ターンバックル21等でワイヤ19を緊張させたものである。いずれも作業台の上端が支持部15aとなる。
このような作業台15を用いることにより、チューブ材料10Aを水平に設置することができる。
なお、作業台15は、保持材10を設置した後、あるいは、止水構造1を形成後に撤去する。
【0029】
本体部11の形成(工程S2)は、チューブ材料10A内を開放してチューブ材料10Aを自然膨張させることにより行う。つまり、チューブ内を大気と連通させて常圧とし、幅方向に拡張させる。これにより、床版Fの面と密接した部分(遊間P内において挟まれた部分)が本体部11となる。
【0030】
立ち上げ部12の形成(工程S3)は、遊間Pから突出しているチューブ材料10Aの両端を、遊間Pの端面に沿って圧入することにより行う。ここでチューブ材料10Aの両端は遊間Pの幅より大きいため、作業員がチューブ材料10Aを屈曲させ、かつ、その両端を潰しながら遊間P内に挿入することによって行う。遊間Pの端面に沿って立ち上がるように挿入されたチューブ材料10Aの両端が立ち上げ部12となる。
【0031】
止水材の充填(工程S4)は、遊間P内に止水材供給用のホース35を挿入して保持材10の上に充填する(
図5参照)。ここで、ホース35は、遊間Pの上方から挿入しても、遊間Pの端面(橋の側面)から挿入してもよい。
図5では、立ち上げ部12の上部を構成するチューブ材料10Aの一端を遊間Pから外して遊間Pの端面から挿入している。そして、ホース35を引きながら保持材10の上に充填するのが好ましい。例えば、巻き取り部41と、巻き取り部41と、巻き取り部41と遊間Pとの間に設けられた絞り部42とを有する絞り装置40であって、絞り部42はホース25を扁平に変形できるように所定の距離に固定された2つのローラー42aからなり、ローラー42aにローラーを駆動する駆動装置43が設けられた絞り装置40を用いている。この絞り装置40で、ホース35を絞りながら引いて、止水材を充填することにより、止水材を保持材10の上に均一に充填することができる。
【0032】
このように止水構造1は、保持材および遊間Pを形成する床版Fの両側面によって樋状の容器を形成するため、保持材を設置した後の止水材充填の作業を効率よく行うことができる。この止水構造の形成方法は、既設の橋梁における止水構造の補修作業の一環として行うこともでき、新設の橋梁において止水構造の新設作業の一環として行うこともできる。補修作業の場合、既設の止水構造を除去した後に行う。
なお、工程S2と工程S3は、逆に行ってもよい。例えば、作業台15等に収縮させたチューブ材料10Aを遊間P内に支持させた状態で、収縮させたチューブ材料10Aを屈曲させてU字状にし、その後、自然膨張させてもよい。
またここでは保持材10をU字状に設けているが、V字状にしたり、両端を低くした逆V字状やW字状などにしてもよい。
【実施例】
【0033】
サンプル1として、断面円形のEPDM発泡ゴム製のスポンジゴムチューブを準備し、サンプル2として、断面楕円形のEPDM発泡ゴム製のスポンジゴムチューブを準備し、サンプル3として、断面円形の天然ゴム製のゴムチューブを準備した。これらのチューブの物性を表1に示す。なお、アスカーC硬度は、JISK7312-1996付属書2の「スプリング硬さ試験タイプ2試験方法」に従って測定した。また圧縮応力は、
図2dのようにチューブ材料を板体で挟み、圧縮スピード20mm/分で幅方向に圧縮したとき、25%変形時の荷重(応力)を測定した。引張強度は、
図2eの引張試験治具50を用いて試験片を500mm/分で引っ張り、破断したときの荷重および伸び(初期の長さに対する試験後の長さ)を測定した。真空減容1の試験は、両端を密閉したチューブの一端から空気を抜き、真空としたときの収縮具合を確認した。真空減容2の試験は、両端から同時に空気を抜いて、真空としたときの収縮具合を確認した。
【0034】
【表1】
「〇」:全長に渡り断面楕円形状に収縮した。
「△」:長さ12mに対して一端から8mまで収縮した。
「×」:収縮しなかった。
表1で示すように、サンプル2のチューブ材料10Aは、一端から空気を抜いても全長に渡って幅を収縮させることができた。一方、サンプル1のチューブ材料10Aは、両端からエアを抜くことにより、全長に渡って幅を収縮させることができた。このようにサンプル1、2は、減圧することによって収縮させることができ、本発明の保持材として適当であることが確認できた。
【符号の説明】
【0035】
1 止水構造
10 保持材
10A、10B チューブ材料
11 本体部
12 立ち上げ部
15 作業台
15a 支持部
16 取り付け部
17 ボルト
18 チューブ本体
19 ワイヤ
20 止水材
21 ターンバックル
26 封止部
26a 栓体
26b バンド
29 エア用チューブ
30 エア注入器
35 ホース
40 絞り装置
41 巻き取り部
42 絞り部
43 駆動装置
50 引張試験用治具
51 挿入部