(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】圧力センサ
(51)【国際特許分類】
G01L 19/04 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
G01L19/04
(21)【出願番号】P 2020083749
(22)【出願日】2020-05-12
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 祐希
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 里奈
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0026835(US,A1)
【文献】米国特許第06588280(US,B1)
【文献】特開2018-048859(JP,A)
【文献】特開2019-135465(JP,A)
【文献】特表2018-534574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 7/00 ~ 23/32
27/00 ~ 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の流体の圧力を受ける第1主面及びこの第1主面の反対側に位置する第2主面を含むダイアフラムと、前記ダイアフラムの外周縁に接続してこれを支持するハウジングとを含むセンサボディと、
前記ダイアフラムの前記第2主面上に配設され、前記ダイアフラムの変形に対応した
変形電圧値Vrを第1の値
として出力するように構成されたセンシング部と、
前記センサボディ上の少なくとも2つの位置の温度を測定するように構成された温度測定部と、
前記少なくとも2つの位置の温度を用いて前記第1の値を補正するように構成された補正部と、
補正された前記第1の値から前記流体の圧力を算出するように構成された圧力算出部とを備え、
前記温度測定部は、少なくとも、前記ダイアフラムの前記第2主面に垂直な方向に互いに離間して前記ハウジングに設けられ
、前記2つの位置の温度をそれぞれ測定する第1温度センサおよび第2温度センサを含
み、
前記補正部は、前記第1の値としての前記変形電圧値Vrから、前記温度測定部により測定された前記少なくとも2つの位置の温度の温度差又は温度勾配に予め定められた定数aを乗じた熱変形電圧値Vhを減じることで、前記第1の値を補正する、
圧力センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の圧力センサにおいて、
前記第1温度センサは、前記ダイアフラムの前記第2主面の近傍に設けられ、
前記第2温度センサは、前記ダイアフラムの前記第2主面から離間した位置に設けられている
ことを特徴とする圧力センサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧力センサにおいて、
前記ハウジングは、前記ダイアフラムの前記第2主面とともに柱状の空間を形成する内壁を備え、
前記第1温度センサおよび前記第2温度センサは、前記ハウジングの前記内壁の面上に設けられている
ことを特徴とする圧力センサ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の圧力センサにおいて、
前記ハウジングは、前記ダイアフラムの前記第2主面とともに柱状の空間を形成する内壁と、前記内壁の前記第2主面の近傍において前記内壁に垂直な方向に形成された凹部とを備え、
前記第1温度センサは、前記ハウジングの前記内壁に形成された前記凹部の中に設けられ、
前記第2温度センサは、前記ハウジングの前記ダイアフラムを支持する側とは反対側の端面の上に設けられている
ことを特徴とする圧力センサ。
【請求項5】
請求項1または2に記載の圧力センサにおいて、
前記ハウジングは、前記ダイアフラムを支持する側とは反対側の端面に開口し前記ダイアフラムの前記第2主面に近づく方向に掘り下げられた孔を備え、
前記第1温度センサは、前記ハウジングに形成された前記孔の底面上に設けられ、
前記第2温度センサは、前記ハウジングの前記ダイアフラムを支持する側とは反対側の端面の上に設けられている
ことを特徴とする圧力センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアフラムを有する圧力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
流体の圧力を検出する圧力センサのうち、衛生的な配慮が必要とされる食品分野や医薬品分野等の製造現場等で用いられるサニタリー用圧力センサに対しては、一般的に耐食性、清浄性、信頼性および汎用性等に関して厳しい要件が課せられている。
【0003】
例えば、耐食性の要件から、サニタリー用圧力センサは、圧力の測定対象の流体(例えば液体)が接触する接液部分にステンレス鋼(SUS)、セラミックスおよびチタン等の耐食性の高い材料を用いなければならない。また、清浄性の要件から、サニタリー用圧力センサは、洗浄しやすいフラッシュダイアフラム構造を有し、且つ蒸気洗浄に対する高い耐熱衝撃性を有していなければならない。また、信頼性の要件から、サニタリー用圧力センサは、封入剤を使用しない構造(オイルフリー構造)およびダイアフラムが破れ難い構造(バリア高剛性)を有していなければならない。
【0004】
このように、サニタリー用圧力センサは、使用する材料や構造が他の圧力センサに比べて制限されるため、高感度化が容易ではない。例えば、ダイアフラムが破れ難い構造を実現するためには、ダイアフラムの膜厚を大きくする(ダイアフラムの厚みに対する径のアスペクト比を小さくする)必要があるが、ダイアフラムの膜厚を大きくするとダイアフラムの変形が微小となり、センサ感度が低下するという問題が生じる。このため、サニタリー用圧力センサでは、ダイアフラムの微小な変形を精度良く検出するための技術が求められている。
【0005】
オイルフリー構造のサニタリー用圧力センサにあっては、測定対象である流体が、オイルを介することなく圧力測定部であるダイアフラムおよびこれを支持するハウジングに直接接することになるため、例えば、上記ダイアフラムおよびこれを支持するハウジングが、これら部材よりも高温または低温の流体に接すると、ダイアフラムおよびハウジングに(不均一な)温度分布が生じる。このダイアフラムおよびハウジングの温度分布は、測定対象である流体の圧力とは無関係にダイアフラムを変形させ(以下、このダイアフラムの変形を単に「熱変形」と称することがある。)、圧力センサにおいて、流体の圧力とは無関係な熱変形に起因した出力変動を生じさせる。このため、測定対象である流体の熱エネルギに起因した温度分布は、サニタリー用圧力センサを用いた圧力測定において、誤差要因の1つになっている。
【0006】
ダイアフラムおよびこれを支持するハウジングと、これら部材に接する測定対象である流体との間の温度差(以下、「熱衝撃」と称することがある。)に起因した熱変形による測定誤差は、衛生管理に関する法規制の厳格化が図られている現状に鑑みれば、早急に解消しなければならない技術課題の1つである。
【0007】
これに対し、特許文献1には、一面が測定流体に接するダイアフラムの他面における中心部および外縁部にそれぞれ配置された第1歪ゲージ配置および第2歪ゲージを備えた圧力センサにおいて、ダイアフラムの中心部に配置された第1温度センサと、ダイアフラムの撓みによる応力の影響を受けない位置に配置された第2温度センサと、これらの第1温度センサおよび第2温度センサの検出結果を用いて、ブリッジ回路の検出結果に基づいて測定された圧力を補正する補正部とを設けることが記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、圧力変化が生じた場合に電圧変化が誘起されるように回路に配置された所定数のピエゾ抵抗器(R1~Rn)を有するダイアフラム(センサ膜10)を備えた圧力センサのためのセンサ素子(100)において、ピエゾ抵抗器(R1~Rn)の位置においてダイアフラム(センサ膜10)の温度を測定する少なくとも2つの温度測定素子(T1~Tn)を設け、測定された温度を用いた計算により、温度勾配に基づいてピエゾ抵抗器(R1~Rn)の回路に生じた電圧を補正することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-48859号公報
【文献】特表2018-534574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示された圧力センサにおいては、温度センサが接液ダイアフラムに直接配置されている。温度センサを接液ダイアフラムに配置することは、圧力測定における熱の影響を補正するうえで、圧力印加の影響を受けるために好ましくない。
【0011】
そこで、本発明は、圧力印加の影響を抑えつつ、熱変形に起因した測定誤差を抑制できる圧力センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る圧力センサ(10)は、測定対象の流体の圧力を受ける第1主面及びこの第1主面の反対側に位置する第2主面を含むダイアフラム(20)と、前記ダイアフラムの外周縁に接続してこれを支持するハウジング(30)とを含むセンサボディ(40)と、前記ダイアフラムの前記第2主面上に配設され、前記ダイアフラムの変形に対応した第1の値を出力するように構成されたセンシング部(50)と、前記センサボディ上の少なくとも2つの位置の温度を測定するように構成された温度測定部(60)と、前記少なくとも2つの位置の温度を用いて前記第1の値を補正するように構成された補正部(70)と、補正された前記第1の値から前記流体の圧力を算出するように構成された圧力算出部(80)とを備え、前記温度測定部(60)は、少なくとも、前記ダイアフラムの前記第2主面に垂直な方向に互いに離間して前記ハウジングに設けられた第1温度センサ(60-1)および第2温度センサ(60-2)を含むことを特徴とする。
【0013】
前記圧力センサにおいて、前記第1温度センサ(60-1)は、前記ダイアフラムの前記第2主面の近傍に設けられ、前記第2温度センサ(60-2)は、前記ダイアフラムの前記第2主面から離間した位置に設けられていてもよい。
【0014】
ここで、前記ハウジング(30)は、前記ダイアフラムの前記第2主面とともに柱状の空間を形成する内壁(30A)を備え、前記第1温度センサおよび前記第2温度センサは、前記ハウジングの前記内壁の面上に設けられていてもよい。
【0015】
また、前記ハウジングは、前記ダイアフラムの前記第2主面とともに柱状の空間を形成する内壁(30A)と、前記内壁の前記第2主面の近傍において前記内壁に垂直な方向に形成された凹部(60-3)とを備え、前記第1温度センサは、前記ハウジングの前記内壁に形成された前記凹部の中に設けられ、前記第2温度センサは、前記ハウジングの前記ダイアフラムを支持する側とは反対側の端面(32)の上に設けられていてもよい。
【0016】
また、前記ハウジング(30)は、前記ダイアフラムを支持する側とは反対側の端面(32)に開口し前記ダイアフラムの前記第2主面に近づく方向に掘り下げられた孔(60-4)を備え、前記第1温度センサは、前記ハウジングに形成された前記孔の底面(60-4b)上に設けられ、前記第2温度センサは、前記ハウジングの前記ダイアフラムを支持する側とは反対側の端面の上に設けられていてもよい。
【0017】
前記圧力センサにおいて、前記補正部は、前記少なくとも2つの位置の温度を用いて前記ダイアフラムの熱変形に起因した前記センシング部の出力の変動分を第2の値として算出するように構成された出力変動値算出部と、この第2の値を用いて前記第1の値を補正するように構成された出力値補正部を含むように構成してもよい。
【0018】
また、前記圧力センサにおいて、前記補正部は、前記少なくとも2つの異なる位置の温度から補正用パラメータを算出するように構成された補正用パラメータ算出部をさらに含み、前記出力変動値算出部は、前記補正用パラメータの値を用いて前記第2の値を算出するように構成してもよい。
【0019】
さらに、前記圧力センサにおいて、前記補正用パラメータは、前記少なくとも2つの位置の温度の差分であってもよい。
【0020】
また、前記圧力センサにおいて、前記補正用パラメータは、前記少なくとも2つの位置の間の温度勾配であってもよい。
【0021】
さらに、前記圧力センサにおいて、前記出力値補正部は、前記少なくとも2つの異なる位置の測定温度に基づいて決定される所定の係数を前記補正用パラメータに乗じることで前記第2の値を算出するように構成してもよい。
【0022】
また、前記圧力センサにおいて、前記出力変動値算出部は、前記温度測定部によって時系列的に測定される前記少なくとも2つの位置の温度のうちの一つの時点における温度に基づいて前記係数を決定するように構成してもよい。
【0023】
さらに、前記圧力センサにおいて、前記出力変動値算出部は、前記温度測定部によって時系列的に測定された前記少なくとも2つの位置の温度のうちの少なくとも2つの異なる時点における温度ごとに前記係数をそれぞれ決定するように構成してもよい。
【0024】
なお、上記説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、圧力印加の影響を抑えつつ、熱変形に起因した測定誤差を抑制できる圧力センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施の形態に係る圧力センサの部分断面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の他の実施の形態に係る圧力センサの部分断面図である。
【
図1C】
図1Cは、本発明の他の実施の形態に係る圧力センサの部分断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る圧力センサおよびこれと接続する配管との接続構造を示す断面図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の実施の形態に係る圧力センサの構成を示すブロック図である。
【
図3B】
図3Bは、制御部のハードウェア構成を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態に係る圧力センサの一部を構成するセンシング部のひずみゲージの構成を示す回路図である。
【
図5】
図5は、熱衝撃が加わった際の圧力センサ各所の温度の時間応答を示す図である。
【
図6】
図6は、熱衝撃が加わった際の圧力センサのコンター図(等値線図)である。
【
図7】
図7は、熱衝撃が加わった際の圧力センサ各所の温度差およびダイアフラムの熱変形の時間応答を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、本発明の実施の形態に係る圧力センサを用いて圧力値を算出する過程を示すフロー図である。
【
図8B】
図8Bは、本発明の実施の形態に係る圧力センサを用いて圧力値を算出する際に用いられる係数を求める過程を示すフロー図である。
【
図9】
図9は、熱衝撃が加わった際の本発明の実施の形態に係る圧力センサの出力変動および従来の圧力センサの出力変動の時間応答を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の別の実施の形態に係る圧力センサを用いて圧力値を算出する過程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
≪圧力センサの構成≫
はじめに、本実施の形態に係る圧力センサ素子1Aおよびこれを含む圧力センサ10の構成を、
図1Aおよび
図2~
図4を参照しながら説明する。なお、説明文中の前後方向、上下方向および左右方向は、
図2に示された圧力センサ素子1の紙面に対する奥行き方向、上下方向および左右方向としてそれぞれ定義されるものとする。
【0028】
圧力センサ素子1Aは、
図1Aおよび
図2に示すように、ダイアフラム20と、このダイアフラム20の外周縁に接続してこれを支持するハウジング30とから構成されたセンサボディ40によってその外形が形成されている。さらに、ダイアフラム20の変形量を電気的信号として検出し所定の値(この所定の値は、本発明の「第1の値」に相当する。)を出力するセンシング部50と、センサボディ40上の少なくとも2つの位置の温度を測定する温度測定部60とを備えている。
【0029】
また、圧力センサ10は、圧力センサ素子1を含み、さらに、温度測定部60によって測定された温度を用いて算出される値(この値は、本発明の一態様における「第2の値」に相当する。)を用いてセンシング部50が出力する上記所定の値を補正する補正部70、および補正された上記所定の値に対応した補正圧力を算出する圧力算出部80から構成された制御部90を備える。
【0030】
センサボディ40の下端面41の一部を形成するダイアフラム20は、測定対象である流体Fから圧力Pを受ける薄膜状の要素であって、例えば、円盤状に薄く成形されたステンレス鋼(SUS)からなるが、セラミックスまたはチタン等の他の耐食性の高い材料を用いて成形してもよい。ダイアフラム20の下面は、流体Fと接して圧力Pを受ける接液面21(この接液面21は、本発明の一態様における「第1主面」に相当する。)を形成し、また、ダイアフラム20の上面は、センシング部50が配設される変形測定面22(この変形測定面22は、本発明の一態様における「第2主面」に相当する。)を形成する。変形測定面22は、例えば、大気圧を受ける受圧面としても機能する。
【0031】
ダイアフラム20とともにセンサボディ40を構成するハウジング30は、円筒状を呈した要素であって、ダイアフラム20の外周縁に接続してこれを支持する。ハウジング30は、例えば、耐食性の高いステンレス鋼(SUS)からなるが、セラミックスまたはチタン等の他の耐食性の高い材料を用いて成形してもよい。ハウジング30の外周縁には、
図1および
図2に示すように、半径方向外側に向かって突出したフェルールフランジ部30fが設けられており、また、配管Hの接合端部にもフェルールフランジ部Hfが設けられている。圧力センサ素子1と配管Hとは、
図2に示すように、ハウジング30のフェルールフランジ部30fと配管Hのフェルールフランジ部Hfとが互いに重なり合い、これらがクランプバンドによって上下方向に挟持されることで互いが連結する構造(いわゆる、フェルール継手構造)となっている。
ハウジング30の内周側壁面30Aは、その下部でダイアフラム20の外周縁と接続し、ダイアフラム20と共に、流体Fが流れる配管Hの内部と隔絶された円柱状の空間を形成している。また、この空間には、次に述べるセンシング部50が配設されている。
【0032】
センシング部50は、ダイアフラム20の変形を検出し、この変形量に応じた電気的信号、より具体的には、電圧値(この電圧値は、本発明の「第1の値」に相当する。)を出力する機能部である。なお、この電圧値を、以下、「変形電圧値Vr」と称することとする。
このようなセンシング部50は、例えば、ダイアフラム20の変形測定面22上に立設された複数の構造体51a、51b、51cと、これら構造体51a、51b、51cによって支持された半導体チップ51とから構成されている。 この半導体チップ51は、例えば平面視多角形状に形成され、Si等の半導体材料から成る基板Bと、この基板Bの上に形成されたホイートストンブリッジ回路53からなるひずみゲージ52とを含む。
なお、上述の構造体51a、51b、51cによって支持された半導体チップ51は、本発明者らが創作した特許文献3に記載の半導体チップに準じたものであるが、これら構造体51a、51b、51cを介さずに、例えば半導体チップ51を直接変形測定面22に貼設してもよい。
【0033】
ひずみゲージ52として機能するホイートストンブリッジ回路53は、
図4に示すように、構造体51a、51b、51cを介してダイアフラム20上に貼設された抵抗素子R1ないしR4(例えば拡散抵抗)を具備し、ダイアフラム20の変形を、以下のようにして変形電圧値Vrの形で検出する。すなわち、ダイアフラム20が変形すると、この上に前記構造体を介して貼設された抵抗素子R1ないしR4の長さが変形(伸縮)して、その抵抗値Rが増減する。この抵抗値Rの変化を、一定の電流Iが流れたホイートストンブリッジ回路53を用いて、互いが並列に接続された2組の抵抗対(抵抗素子R1と抵抗素子R2とからなる抵抗対および抵抗素子R3と抵抗素子R4とからなる抵抗対)の接点間(接点Aと接点Bとの間)の電圧値(変形電圧値Vr)の変化として検出する。
【0034】
温度測定部60は、センサボディ40上の少なくとも2つの位置の温度を測定する複数の温度センサからなる。本実施の形態においては、温度測定部60は、少なくとも、ダイアフラム20の第2主面22に垂直な方向に互いに離間してハウジング30に設けられた第1温度センサ60-1および第2温度センサ60-2からなる。2つの温度センサ60-1および温度センサ60-2は、センサボディ40上の異なる2つの位置にそれぞれ貼設された熱電対によって構成されている。以下、熱電対61-1が貼設される位置を「第1温度測定位置N1」と称し、熱電対61-2が貼設される位置を「第2温度測定位置N2」と称し、第1温度測定位置N1の測定温度および第2温度測定位置N2の測定温度をそれぞれ「第1測定温度T1」および「第2測定温度T2」と称することとする。
【0035】
上記第1温度測定位置N1および第2温度測定位置N2は、熱衝撃が加わることで生じるセンサボディ40の温度分布を検出できる位置にあることが望ましい。このため、第1温度測定位置N1および第2温度測定位置N2は、熱衝撃が加わる接液面21に垂直な方向、換言すれば、円筒状を呈したハウジング30の軸心が延在する方向に沿って離間していることが望ましい。第1温度測定位置N1および第2温度測定位置N2を結ぶ直線と接液面21の法線とが平行となるように、第1温度センサ60-1および第2温度センサ60-2を配置してもよい。本実施の形態に係る圧力センサ素子1Aにおいては、
図1Aに示すように、第1温度センサ60-1が、センサボディ40を構成するハウジング30の内周側壁面30A上のダイアフラム20の変形測定面22の近傍に設けられ、第2温度センサ60-2が、センサボディ40を構成するハウジング30の内周側壁面30A上のダイアフラム20の変形測定面22から最も離間した位置に設けられている。このように、第1温度測定位置N1をダイアフラム20の変形測定面22の近傍に配置する一方、第2温度測定位置N2を、ダイアフラム20の接液面21に垂直な方向に沿って、換言すれば、ハウジング30の軸心が延在する方向に沿って、最大限離間する位置に配置することによって、センサボディ40の温度差δTの最大値を検出することができる。
【0036】
本実施の形態に係る圧力センサ素子においては、
図1Aに示すように、第1温度センサ60-1および第2温度センサ60-2を共にハウジング30の内壁30A上に配置するが、第1温度測定位置N1および第2温度測定位置N2は、上述した2つの位置に限定されるわけではない。例えば、ダイアフラム20の変形測定面22上に配設された温度センサ60-1を、ハウジング30の内周側壁面30Aまたは外周側壁面30Bに配設するなど、センサボディ40上のその他の位置に設けてもよい。この場合、内周側壁面30Aまたは外周側壁面30Bに設けられた穴部に熱電対を嵌入するようにして設置してもよい。
【0037】
例えば、第1温度センサ60-1をダイアフラム20の変形測定面22の近傍に設けるには、
図1Bに示すように、ハウジング30の内壁30Aのダイアフラム20の変形測定面22の近傍において、内壁30Aに垂直な方向に凹部60-3を形成し、第1温度センサ60-1をこの凹部60-3内に設け、第2温度センサ60-2をハウジング30の上端面32上に設けるようにしてもよい。このとき、第1温度センサ60-1を設ける凹部60-3の下側の面をダイアフラム20の変形測定面22と面一とすることによって、第1温度測定位置N1を上下方向においてダイアフラム20の変形測定面22とほぼ同じ位置とすることができる。なお、第2温度センサ60-2を、
図1Aに示すように、ハウジング30の内壁30Aの上端近傍に設けてもよい。
【0038】
また、
図1Cに示すように、ハウジング30の上端面30Aに開口しダイアフラム20の変形測定面22に近づく方向に掘り下げられた孔60-4を設け、第1温度センサ60-1を孔60-4の底面60-4b上に設け、第2温度センサ60-2をハウジング30の上端面32上に設けるようにしてもよい。このとき、孔60-4の底面60-4bが上下方向においてダイアフラム20の変形測定面22と同じ位置になるように孔60-4を形成することによって、第1温度測定位置N1を上下方向においてダイアフラム20の変形測定面22とほぼ同じ位置とすることができる。なお、第2温度センサ60-2を、
図1Aに示すように、ハウジング30の内壁30Aの上端近傍に設けてもよい。
【0039】
以上のような位置に第1温度センサ60-1を配設することで、例えば、ダイアフラム20の変形測定面22に温度センサ(熱電対)が貼設されることで生じ得るダイアフラム20の応答性(圧力感度)の低下を回避することができる。
【0040】
また、温度測定部60を構成する温度センサの数(換言すれば、温度測定部60によって温度測定される位置の数)は、2つに限定されるわけではなく、3つ以上であってもよい。3つ以上の温度センサ60-w(wは3以上の整数)を、ダイアフラム20の接液面21に垂直な方向に沿って離間するように配設することによって、例えば、後述する第2の補正方法を用いた圧力センサ素子1およびこれを含む圧力センサ10において、センサボディ40の温度分布をより高い精度で検出することができる。
【0041】
制御部90を構成する補正部70は、センシング部50により検出されたダイアフラム20の変形量に応じた変形電圧値Vrと、温度測定部60により測定された第1測定温度T1および第2測定温度T2とから、熱変形に起因した出力変動を排除した補正電圧値Vcを算出する演算部である。本実施の形態の補正部70は、例えば
図3Aに示すように、補正用パラメータ算出部71と出力変動値算出部72と出力値補正部73とから構成されている。
【0042】
補正用パラメータ算出部71は、変形電圧値Vrを補正するための補正用パラメータ、例えば、温度センサ60-1および温度センサ60-2によって測定された第1測定温度T1および第2測定温度T2の差分δTを算出する演算部である。補正用パラメータ算出部71は、温度測定部60と電気的に接続されており、この温度測定部60から出力される信号STを受信することで、第1測定温度T1および第2測定温度T2に関する情報を取得して、例えば、これらの差分δTを時系列的に算出する。
【0043】
出力変動値算出部72は、補正用パラメータ算出部71で算出された補正用パラメータと後述する係数aとを用いて、熱変形に起因した出力変動に相当する電圧値(以下、この電圧値を「熱変形電圧値Vh」と称する。この熱変形電圧値Vhは、本発明の一態様における「第2の値」に相当する。)を算出する演算部である。
【0044】
出力値補正部73は、熱変形電圧値Vhと変形電圧値Vrとから、熱変形に起因した出力変動を排除した補正電圧値Vcを求める演算部である。出力値補正部73は、センシング部50と電気的に接続されており、このセンシング部50から出力される信号SVrを受信することで、変形電圧値Vrに関する情報を取得する。
【0045】
制御部90を構成する圧力算出部80は、補正部70によって補正された補正電圧値Vcに対応する補正圧力Pcを、例えば所定の較正曲線を用いて時系列的に算出する演算部である。
【0046】
補正用パラメータ算出部71、出力変動値算出部72および出力値補正部73からなる補正部70と圧力算出部80とから構成される制御部90は、例えば、
図3Bに示すCPUおよびメモリ等のハードウェア資源からなり、センサボディ40と物理的に離間した位置に配設されている。補正用パラメータ算出部71および出力値補正部73、ならびに圧力算出部80における各演算は、上記ハードウェア資源と上記メモリ内に記憶された所定の演算プログラムとが協働することによって実行される。
【0047】
≪補正方法≫
次に、本実施の形態に係る圧力センサ素子1およびこれを含む圧力センサ10において実行される熱変形に起因した出力変動の算出方法、およびこれを用いた測定圧力値の補正方法について、
図5ないし
図10を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、便宜上、装置の清浄性を保つために定期的に実施される蒸気洗浄によって圧力センサ素子1およびこれを含む圧力センサ10に熱衝撃が加えられた場面を例に説明するが、以下に述べる補正方法は、この蒸気洗浄時に限って適用されるわけではなく、例えば、通常動作時において生じ得る流体Fの温度変化に起因した出力変動に対しても適用することができる。
【0048】
<補正の原理>
まず、補正の原理、すなわち、熱変形に起因した出力変動の算出と、この出力変動を用いた測定圧力値の補正の考え方を、
図5ないし
図7を参照しながら説明する。
【0049】
上述したように、本実施の形態に係る圧力センサ素子1およびこれを含む圧力センサ10が取付けられた装置において、清浄性を保持するために定期的に行われる蒸気洗浄が実施され配管内へ高温・高圧の蒸気が導入されると、ダイアフラム20の接液面21およびハウジング30の下端面31に熱衝撃が加わる。このとき、蒸気と接する部分の温度、例えば接液ダイアフラムの温度は、
図5における実線で示すように、急激に上昇する。これに対し、熱源である蒸気から離間しかつ外気に触れているハウジング30の上端面32の温度は、
図5における破線で示すように、高温・高圧の蒸気が導入された直後は外気と略同じであり、時間の経過とともに蒸気の熱がハウジング30の中を伝達することで、次第に上昇していく。
【0050】
図6は、蒸気洗浄が開始された直後の圧力センサ素子1の温度分布を示したコンター図(等値線図)である。この
図6からも解るように、蒸気洗浄開始直後のセンサボディ40にあっては、ダイアフラム20およびハウジング30の下端面31と略平行に(換言すれば、熱源に接する接液面21に垂直な方向に沿って)複数の等温面がならぶ形で温度分布が形成される。
【0051】
ここで、一般的な金属材料においては、その性質上、温度に略比例して熱膨張する。このため、金属製のセンサボディ40において、
図6にみられるような温度分布、すなわち、センサボディ40の下端面41(ダイアフラム20およびハウジング30の下端面31)が高温状態にあり上端面42(ハウジング30の上端面32)が低温状態にある温度分布が生じると、センサボディ40全体が下方へ突出するようにして熱変形することが想定される。
【0052】
そこで、熱変形に起因する出力変動を補正するために、本発明者らは、次のような前提事項を考えた。
すなわち、[i]熱衝撃を受けたときのダイアフラム20の変形は、接液面21に加わる流体の圧力に起因した変形に、センサボディ40の上記熱変形に起因した変形が加わる。[ii]センサボディ40の上記熱変形は、センサボディ40の温度分布、具体的には、接液面21に垂直な方向に沿って温度勾配が生じるような温度分布に依存する。[iii]センサボディ40の温度分布は、センサボディ40上の異なる複数の位置で測定された温度を指標(以下、この指標を「指標α」と称する。)として近似的かつ部分的に把握することができる。[iv]上記指標αとして、例えば、異なる複数の位置で測定された温度の差分δTを用いることができる。
上記前提事項[i]ないし[iv]に基づけば、センサボディ40の上記熱変形に起因したダイアフラム20の変形(ダイアフラム20の熱変形)と指標α、例えば、センサボディ40上の異なる複数の位置で測定された温度の差分δT(以下、「センサボディ温度差δT」と称する。)との間には相関があり、この相関を利用することによって、センサボディ温度差δT等の指標αからダイアフラム20の熱変形を算出できることになる。
【0053】
図7は、熱衝撃時におけるダイアフラム熱変形の時間応答に関するシミュレーション結果と指標αの時間応答とを比較した図である。
図7では、指標αとしてセンサボディ温度差δTの代わりに温度比が用いられており、左側の縦軸は温度比である。また、
図7におけるダイアフラム熱変形量を表す線図には、センサボディ温度差δTの線図と重なるように、所定の係数を乗じている。
【0054】
図7から、ダイアフラム20の熱変形と、センサボディ温度差δTとの間には、一方を他方の一次関数で略表せる程度の強い相関関係があることが解る。
【0055】
このため、ダイアフラム20の熱変形をセンサボディ温度差δTの一次関数として近似的に表し、このときの傾きに相当する値を、例えば一時刻tにおけるセンサボディ温度差δTを用いて求めることができれば、一時刻t以降の時々刻々と変化するダイアフラム熱変形の近似値を、このセンサボディ温度差δTを用いて算出することができる。なお、この傾きに相当する値は、上記所定の係数に相当する値である。
【0056】
本実施の形態における補正方法は、前記前提事項[i]ないし[iv]から導かれる上記理解、すなわち、センサボディ40の温度分布を表す指標α(例えば、センサボディ温度差δT)とダイアフラム熱変形との間には相関関係があり、ダイアフラム熱変形は、指標αの一次関数として近似的に算出できるとの理解に立脚するものである。
【0057】
なお、本実施の形態に係る圧力センサ素子1およびこれを含む圧力センサ10にあっては、上述したように、ダイアフラム熱変形が、ひずみゲージ52を含むホイートストンブリッジ回路53を用いて変形電圧値Vrの形で検出される。このため、詳細については後述する第1の補正方法および第2の補正方法等においては、ダイアフラム熱変形に対応する変形電圧値Vhを指標αの一次関数として近似的に算出することができる。例えば、センサボディ温度差δTを指標αとし、この指標αに対する変形電圧値Vrの傾きを所定の定数aとした場合、熱変形電圧値Vhは、関係式Vh=a×δTを用いて近似的に算出することができる。
【0058】
<第1の補正方法>
次に、
図8Aおよび8Bを参照しながら、第1の補正方法について説明する。
この第1の補正方法は、例えば
図8Aに示すように、ステップS1ないしS7によって実行される。ここで、ステップS1およびS2は、並列的に実行され、ステップS3ないしS7は、これらステップS1およびS2続いて順次実行されるように構成されている。
【0059】
まず、圧力センサ素子1を構成するセンシング部50によって、ダイアフラム20の変形に対応する変形電圧値Vrを検出する(ステップS1)。
【0060】
ここで、ダイアフラム20の変形は、流体Fの圧力Pに起因した変形と熱衝撃に起因した変形Lhとを含んでいる。このため、ダイアフラム20の変形に対応する変形電圧値Vrは、流体Fの圧力Pに起因した出力成分(以下、「流体圧力電圧値Vp」と称する。)と熱衝撃に起因した出力成分(熱変形電圧値Vhに相当)との合算値(Vr=Vp+Vh)となる。
【0061】
また、ステップS1と並行して、圧力センサ素子1を構成する温度測定部60によって、センサボディ40上の少なくとも2つの異なる位置である第1温度測定位置N1および第2温度測定位置N2のそれぞれの温度、すなわち、第1測定温度T1および第2測定温度T2を測定する(ステップS2)。
【0062】
さらに、ステップS1およびS2に続くステップS3では、熱衝撃が加わったときのセンサボディ40の温度分布を表す指標αに相当し、かつ変形電圧値Vrを補正する補正用パラメータに相当するセンサボディ温度差δTを算出する。このステップS3は、補正部70、より具体的には、補正用パラメータ算出部71によって実行される。
センサボディ温度差δTは、ステップS2で測定される第1温度測定位置N1の第1測定温度T1と第2温度測定位置N2の第2測定温度T2とを用いて算出され、補正部70の出力値補正部73に向けて出力される。
【0063】
センサボディ温度差δTが算出されると、補正部70、より具体的には、出力変動値算出部72において、このセンサボディ温度差δTを用いて熱変形電圧値Vhが算出される(ステップS4)。熱変形電圧値Vhは、上述したように、関係式Vh=a×δT(aは係数)から近似的に算出される。
【0064】
ここで、係数aの算出方法について説明する。係数aは、上述したように、ダイアフラム熱変形に対応する変形電圧値Vhをセンサボディ温度差δTの一次関数(原点を通る一次関数)で表したときの傾き(Vh/δT)に相当する値である。ここで、変形電圧値Vr、流体圧力電圧値Vpおよび熱変形電圧値Vhの間には、上述したように、関係式Vr=Vp+Vhが成り立つ。したがって、係数aは、センサボディ温度差δT、変形電圧値Vrおよび流体圧力電圧値Vpをパラメータとして、関係式a=(Vr―Vp)/δTから算出することができる。
【0065】
図8Bは、係数aの算出方法の一例を示したものである。
変形電圧値Vrおよびセンサボディ温度差δTは、それぞれステップS1およびステップS3で検出または算出された値を用いる。流体圧力電圧値Vpについては、例えば、測定対象である流体Fの供給源に配設されているリファレンス圧力計から出力されるリファレンス電圧値Vprefを取得してこれを用いる(ステップS4―2)。これらパラメータの値を関係式a=(Vr―Vp)/δTに代入することで、係数aが算出される(ステップS4―3)。
【0066】
第1の補正方法においては、係数aの算出に用いられる変形電圧値Vr、リファレンス電圧値Vpおよび温度差δTの値は、いずれも同一の時刻、例えば時刻tで測定された値とする。また、第1の補正方法では、この同一の時刻tにおける変形電圧値Vr、リファレンス電圧値Vpおよび温度差δTの値を用いて算出された係数aを、時系列的に不変の係数として用いる。
【0067】
ステップS4において、関係式Vh=a×δTを用いて熱変形電圧値Vhが算出されると、補正部70、より具体的には、出力値補正部73において、この熱変形電圧値VhとステップS1によって検出された変形電圧値Vrとを用いて、関係式Vc=Vr―Vhから熱変形に起因した出力変動が排除された補正電圧値Vcが算出される(ステップS5)。
【0068】
補正電圧値Vcが算出されると、圧力算出部80において、補正電圧値Vcに対応する補正圧力値Pcが算出される(ステップS6)。
補正圧力値Pcは、圧力センサ素子1およびこれを含む圧力センサ10の製品特性、より具体的には、センシング部50を構成する半導体チップ51の製品特性である電圧値および圧力に関する較正曲線を用いて算出される。
【0069】
以上のステップS1ないしS6は、圧力センサ素子1およびこれを含む圧力センサ10が備え付けられた装置が停止するまで繰り返され、装置が停止することによって終了する(ステップS7)。
【0070】
第1の補正方法を経て算出された補正電圧値Vcと、センシング部50から出力される変形電圧値Vr(補正前の出力電圧値)とを比較した結果を
図9に示す。
図9の縦軸は、熱変形に起因した出力変動を表し、横軸は時間を表す。この
図9から、熱衝撃が加えられた直後を除く補正電圧値Vcにおいて、熱変形に起因した出力変動が排除されていることが解る。
【0071】
〔第1の補正方法の効果〕
第1の補正方法を用いた本実施の形態に係る圧力センサ素子1およびこれを含む圧力センサ10によれば、センサボディ40上の少なくとも2つの位置の温度を測定する2つの温度センサ60-1および温度センサ60-2を所定の位置に配設し、また、補正部70を構成する各種演算処理プログラムを既存の制御装置等に付加するだけの簡易かつ単純な構造・構成によって、熱変形に起因した出力変動(熱変形電圧値Vh)を効果的に排除することができる。これによって、例え熱衝撃等が加えられる使用環境にあっても、常に高い精度で流体圧力の測定が可能な圧力センサ素子1およびこれを含む圧力センサ10を提供することができる。
【0072】
また、温度センサ60-1が、ハウジング30の内周側壁面30Aまたは外周側壁面30Bに配設された仕様、すなわち、ダイアフラム20に温度センサが貼設されていない仕様にあっては、流体圧力に対するダイアフラム20の応答性(圧力感度)を低下させることがなく、また、以下に述べるように、熱変形に対する補正の精度に関しても、温度センサ60-1がダイアフラム20に貼設された仕様と同程度の高い精度を維持することができる。
すなわち、熱衝撃が加わったときのダイアフラム20は、上述したように、センサボディ40の熱変形に倣って変形し(前提事項[i]参照)、さらに、センサボディ40の熱変形は、専ら体積占有率の大きなハウジング30の熱変形に支配されると考えられる。このため、ダイアフラム20の温度を測定することなくハウジング30の温度分布を検出するだけの仕様によっても、ダイアフラム20に温度センサ60-1が貼設された仕様と同程度の圧力測定精度が維持できると考えられる。
【0073】
<第2の補正方法>
次に、
図10を参照しながら、第2の補正方法について説明する。この第2の補正方法と第1の補正方法との相違点は、上述したように、係数aの算出・決定の方法にある。
【0074】
第2の補正方法は、
図10に示すように、ステップS100ないしS108によって説明される。このうちのステップS103およびステップS104は、係数aの算出に関するステップであって、
図8Bで示される第1の補正方法におけるステップS4-2およびS4-3に代わるものある。
なお、ステップS101は第1の補正方法におけるステップS2、ステップS102は同ステップS3、ステップS105は同ステップS4、ステップS106は同ステップS5、ステップS107は同ステップS6、ステップS108は同ステップS7にそれぞれ対応する。このため、重複する部分の説明は省略する。
【0075】
まず、第2の補正方法における係数aの算出・決定の考え方について説明する。
係数aは、上述したように、ダイアフラム熱変形に対応する変形電圧値Vhをセンサボディ温度差δTの一次関数(原点を通る一次関数)で表したときの傾き(Vh/δT)に相当する値である。
【0076】
ここで、熱変形電圧値Vhは、上述した「補正の原理」および
図7によって示される内容によれば、センサボディ40の一つの温度分布から一意に定まる。また、センサボディ温度差δTは、温度測定位置Nが変わらない限り、センサボディ40の一つの温度分布の態様から一意に定まる。
したがって、熱変形電圧値Vhとセンサボディ温度差δTとの比として算出される係数aも、所定の温度測定位置Nにおいて、センサボディ40の一つの温度分布に対して一意に定まる。
【0077】
そこで、第2の補正方法では、予め次の方法にしたがって複数の温度分布データに対応する係数aを求めておく。
例えば、センサボディ40の異なるp個(pは2以上の整数)の温度測定位置Ny(y=1、2、・・・p)における温度データ{TN1、TN2、・・・TNp}からなる温度分布データを予めm個(mは2以上の自然数)用意し(以下、各温度分布データを「温度分布データTDj(j=1、2、・・・m)」と称し、これらを「温度分布データTD」と総称することがある。)、これら温度分布データTDjとこれらに対応する係数ajとを、個々の圧力センサ10に関する製品特性値として、各圧力センサ10が備えるメモリ等に温度分布データTDjと対応付けて記憶しておく。ここで、温度分布データTDjおよびこれらに対応する係数ajは、実機および/またはシミュレーションを用いて測定または算出することができる。また、m個の温度分布データTDjおよび係数ajは、これらを互いに対応付けたテーブルの形式で記憶しておくことができる。
【0078】
なお、温度測定位置Nが任意に変更され得る場合には、m個の温度分布データTDj毎に、センサボディ40上に設けられた複数の温度測定位置Nxと係数ajとが関連付けられたマッピングデータMDjを用意しておくことが望ましい。
【0079】
第2の補正方法では、センサボディ40上の少なくとも2つの異なる位置に相当する第1温度測定位置N1および第2温度測定位置N2の実測温度(第1測定温度T1および第2測定温度T2)を測定すると(ステップS101(第1のステップS2に対応))、補正部70は、これら実測温度とメモリ内のm個の温度分布データTDj(j=1~m)とを照合する(ステップS103)。
【0080】
上記照合は、例えば補正部70の補正用パラメータ算出部71において、以下のようにして実行される。
すなわち、m個の温度分布データTDj(j=1~m)におけるそれぞれの第1温度測定位置N1の温度(以下、「第1リファレンス温度RT1j(j=1~m)」と称する。)および第2温度測定位置N2の温度(以下、「第2リファレンス温度RT2j(j=1~m)」と称する。)と、温度測定部60によって計測された第1温度測定位置N1の第1測定温度T1および第2温度測定位置N2の第2測定温度T2とを比較する。当該照合の結果、双方が一致、または最も近い温度分布データTDiが、データベースDBの中から1つ選択される。
【0081】
次にステップS103において選択された温度分布データTDiに対応する係数aiを、補正用の係数aとして決定する(ステップS104)。このステップS104は、例えば補正部70の出力値補正部73において実行される。
【0082】
上述したステップS103およびS104によって決定された補正用の係数aにステップS102で算出されたセンサボディ温度差δTを乗じることで、熱衝撃に起因した熱変形電圧値Vhが算出される(ステップS105)。このステップS105は、上述したように、第1の補正方法のステップS4に対応し、以降、ステップS105ないしステップS107(第1の補正方法のステップS5およびS6に対応)を経て、補正圧力値Pcが算出される。
【0083】
以上のステップS100ないしS107は、圧力センサ素子1およびこれを含む圧力センサ10が備え付けられた装置が停止するまで繰り返され、装置が停止することによって終了する(ステップS108)。
【0084】
〔第2の補正方法の効果〕
第2の補正方法を用いた本実施の形態に係る圧力センサ素子1およびこれを含む圧力センサ10によれば、温度分布データTDiと係数aiとを対応付けてこれらをメモリ等に記憶・保存しておく点で第1に補正方法と異なるが、ハードウェア等の基本的な構造・構成は、第1の補正方法を用いた本実施の形態と同様である。したがって、第1の補正方法を用いた本実施の形態の効果と同様に、簡易かつ単純な構造・構成によって、熱変形に起因した出力変動(熱変形電圧値Vh)を排除することができる。
また、次に述べるように、温度測定位置を3つ以上設けることで、センサボディ40の温度分布をより高い精度で検出できる仕様にすることもできる。
【0085】
<変形例1:温度測定位置を3つ以上設けた場合の補正方法>
上記第1の補正方法および第2の補正方法では、センサボディ40上の異なる2つの位置の温度を測定する仕様であったが、センサボディ40上の異なる3つ以上の位置の温度を測定する仕様としてもよい。
この仕様によれば、例えば、第2の補正方法のステップS103で実行される、測定温度データとデータベースDB内に記憶・保存されている温度分布データTDj(j=1~m)との照合を、3つ以上の温度測定位置で行うことになるため、高精度の照合が可能になる。この結果、より高い精度で補正圧力値Pcを算出することができる。
【0086】
<変形例2:異なる複数の時点で算出・決定された係数aを用いた補正方法>
第1の補正方法のステップS4および第2の補正方法のステップS105では、熱変形電圧値Vhを算出するにあたり、一時刻tで測定された各パラメータ値(変形電圧値Vr、リファレンス電圧値Vp、温度差δT(第1測定温度T1、第2測定温度T2))を用いて算出・決定された係数aを、時系列的に不変の固定された係数として用いていた。しかし、これに代えて、温度測定部60において計測・取得される第1測定温度T1および第2測定温度T2に関する時系列情報の中から、所定の周期でサンプリングした情報、すなわち、一定の間隔でならぶ複数の時刻tk(k=1、2、・・・n)ごとに測定された第1測定温度T1k(k=1、2、・・・n)および第2測定温度T2k(k=1、2、・・・n)を用いて、それぞれの時刻tkごとに係数ak(k=1、2、・・・n)を算出・決定するように構成してもよい(
図7参照)。なお、tkは、必ずしも一定の周期でサンプリングされたものに限定さるわけではない。
【0087】
例えば、第1の補正方法では、温度測定部60において逐次計測・取得される第1測定温度T1および第2測定温度T2に関する時系列情報の中から、時刻tkにおける第1測定温度T1kおよび第2測定温度T2kの値を取得し(
図8AのステップS2)、補正部70の補正用パラメータ算出部71において逐次算出されるセンサボディ温度差δTに関する時系列情報の中から、時刻tkにおけるセンサボディ温度差δTk(k=1、2、・・・n)を取得し(
図8AのステップS3)、さらに、センシング部50において逐次計測・取得される変形電圧値Vrの中から、時刻tkにおける変形電圧値Vrk(k=1、2、・・・n)を取得する(
図8BのステップS1)。また、時刻tkにおけるリファレンス電圧値Vprefk(k=1、2、・・・n)をリファレンス圧力計から取得する(
図8BのステップS4-2)。
これら時刻tkにおける温度差δTk、変形電圧値Vrkおよびリファレンス電圧値Vpkを用いて、時刻tkごとに係数akを算出する(
図8BのステップS4-3)。
【0088】
熱衝撃電圧値Vhは、この時刻tkごとに算出された係数akを用いて各時刻間ごとに算出される(同図のステップS4)。例えば、tk≦t<tk+1(k=1、2、・・・n-1)の熱衝撃電圧値Vhk(k=1、2、・・・n-1)は、係数ak(k=1、2、・・・n-1)を用いて算出され、t≦tnの熱衝撃電圧値Vhnは、係数anを用いて算出される。
以下、各時刻間の熱衝撃電圧値Vhkを用いて、各時刻間(tk≦t<tk+1(k=1、2、・・・n-1)およびt≦tn)ごとに、補正電圧値Vck(k=1、2、・・・n-1)および補正圧力Pck(k=1、2、・・・n-1)を算出する(同図のステップS5およびステップS6)。
【0089】
また、第2の補正方法において、時刻tkごとに、第1測定温度T1kおよび第2測定温度T2kとメモリ内に記憶されたm個の温度分布データTDj(j=1~m)との照合(
図10のステップS103)と、温度分布データTDik(k=1、2、・・・n)の選択および補正用係数aik(k=1、2、・・・n)の決定(同図ステップS104)とが行われる。
さらに、この補正用係数aik(k=1、2、・・・n)を用いて、各時刻間(tk≦t<tk+1(k=1、2、・・・n-1)およびt≦tn)ごとに、熱衝撃電圧値Vhk(k=1、2、・・・n)の算出(同図のステップS105)と、補正電圧値Vck(k=1、2、・・・n)の算出(同図のステップS106)と、補正圧力Pck(k=1、2、・・・n)の算出(同図のステップS107)とが行われる。
【0090】
時系列的に求めた係数akを用いて補正圧力Pck(k=1、2、・・・n)を算出することで、より高い精度の圧力測定が可能になる。
【0091】
<変形例3:補正用パラメータを温度勾配とした場合の補正方法>
第1の補正方法のステップS3および第2の補正方法のステップS102では、第1温度測定位置N1における第1測定温度T1と第2温度測定位置N2における第2測定温度T2との差分である温度差δTをセンサボディ40の温度分布を検出する指標αとし、かつこれを補正用パラメータとして用いて補正電圧値Vcを算出したが、これに替えて、温度勾配、例えば、δTを第1温度測定位置N1と第2温度測定位置N2との(法線方向に沿った)距離lで除したδT/lを、センサボディ40の温度分布を検出する指標αとして用いてもよい。
【0092】
ここで、センサボディ40が同一の材料(熱伝導率が同一)からなり、かつその形状が比較的単純であれば、温度勾配δT/lは略一定となる。すなわち、上記条件下での温度勾配δT/lは、温度測定位置に依存しない指標αとして用いることができる。
【0093】
温度勾配δT/lをセンサボディ40の温度分布を検出する指標αとし用い、かつこれを補正用パラメータとして用いて上記第1の補正方法および第2の補正方法を実行する際は、「温度差δT」を「温度勾配δT/l」に置き換えて実行すればよい。
なお、係数aは、例えば以下のようにして算出・決定される。
【0094】
第1の補正方法においては、係数aは、関係式a=(Vr-Vp)/{(T2-T1)/l}を用いて算出・決定される。
【0095】
第2の補正方法においては、m個の温度分布データTDj(j=1~m)に、それぞれ温度勾配に関する情報(リファレンス温度勾配δT/l ref j(j=1~m))を含ませておき、測定された温度勾配δT/lと同値しまたは最も近い値のリファレンス温度勾配δT/l ref iを含む温度分布データTDi(i=1~mのいずれか1つ)をデータベースDBの中から1つ選択する(
図10のステップS103)。この選択された温度分布データTDiに対応する係数aiを補正用係数aiとして決定する(同図のステップS104)。
【0096】
センサボディ40の温度分布を検出する指標αに、温度測定位置に依存しない温度勾配δT/lを用いることで、例えば、上記第2の補正方法において実行される測定温度データとデータベースDB内の温度分布データTDj(j=1~m)との照合(ステップS103)を、2つの温度測定位置が所定の位置に固定されているか否かおよびマッピングデータMDj(j=1~m)があるか否かに関わらず行うことができる(2つの温度測定位置が所定の位置に固定されていない状況下でセンサボディ40温度差δTを指標αとして用いた場合、上記照合を適正に行うためには、マッピングデータMDj(j=1~m)が必要になる)。
【0097】
以上、本発明に係る実施の形態を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、明細書および図面に直接記載のない構成であっても、本発明の作用・効果を奏する以上、本発明の技術的思想の範囲内である。さらに、上記記載および各図で示した実施の形態は、その目的および構成等に矛盾がない限り、互いの記載内容を組み合わせることも可能である。
【0098】
例えば、上記実施の形態においては、ダイアフラム変形による圧力検出手法(センシング原理)として、ひずみゲージ52を含む半導体チップ51(半導体ひずみゲージ式)を用いているが、これに限定されるわけではなく、例えば、静電容量式、金属歪みゲージ式、抵抗ゲージをスパッタ等により成膜した方式を用いた圧力検出手法(センシング原理)であってもよい。
【符号の説明】
【0099】
1…圧力センサ素子、10…圧力センサ、20…ダイアフラム、21…接液面、22…変形測定面、30…ハウジング、31…ハウジング下端面、32…ハウジング上端面、40…センサボディ、41…センサボディ下端面、42…センサボディ上端面、50…センシング部、51…半導体チップ、52…ひずみゲージ、53…ホイートストンブリッジ回路、60…温度測定部、60-1…温度センサ、60-2…温度センサ、60-3…凹部、60-4…孔、60-4b・・・底部、70…補正部、71…補正用パラメータ算出部、72…出力変動値算出部、73…出力値補正部、80…圧力算出部、90…制御部、Vr…変形電圧値、Vh…熱衝撃電圧値、Vp…流体圧力電圧値、N1…第1温度測定位置、N2…第2温度測定位置、T1…第1測定温度、T2…第2測定温度、51a、51b、51c…構造体。