(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/00 20060101AFI20240604BHJP
B60C 9/20 20060101ALI20240604BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20240604BHJP
D07B 1/02 20060101ALI20240604BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B60C9/00 J
B60C9/00 C
B60C9/20 E
B60C9/22 C
D07B1/02
D07B1/06 A
(21)【出願番号】P 2020091649
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 哲
(72)【発明者】
【氏名】玉田 聡
(72)【発明者】
【氏名】山崎 拓矢
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-118124(JP,A)
【文献】特開平07-232511(JP,A)
【文献】特開2018-108760(JP,A)
【文献】特開2013-146954(JP,A)
【文献】特開平5-338409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
D07B1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカスと、前記カーカスのクラウン部の外周に配されたベルト層と、前記ベルト層の外周に配されたベルト補強層とを有する空気入りタイヤであって、
前記ベルト層は、同一の径の3~6本のスチールフィラメントを撚り合わせることなく単一の層をなすように並列させて主フィラメント束とし、前記スチールフィラメントより小径で1本のスチールフィラメントをラッピングフィラメントとして前記主フィラメント束の周囲に巻き付けてなるn+1構造(n=3~6)のスチールコードがタイヤ周方向に対して傾斜配列されたベルトプライを備え、
前記ベルト補強層は、前記ベルト層の外周に有機繊維コードがタイヤ周方向に沿って配列されたベルト補強プライを備え、
前記有機繊維コードを構成するヤーンが脂肪族ポリアミド繊維からなるヤーンのみであり、
前記有機繊維コード1本当りの2%伸張時荷重(N)と、前記ベルト補強プライにおける有機繊維コードの打ち込み本数(本/25mm)との積(N/25mm)が700以下であり、
前記有機繊維コード1本当りの5%伸張時荷重(N)と、前記ベルト補強プライにおける有機繊維コードの打ち込み本数(本/25mm)との積(N/25mm)が1200以上であることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ベルトプライの面外剛性に対する面内剛性の比(面内剛性/面外剛性)が、15~30である、請求項
1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記スチールコードは、短径方向に押圧されて前記ラッピングフィラメントが変形したものであり、
押圧前のスチールコードの短径Dbに対する押圧後のスチールコードの短径Daの比(Da/Db)が0.80以下である、請求項1
又は2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの軽量化や操縦安定性の向上を目的として、扁平なスチールコードをベルト層に適用することが検討されている(特許文献1,2)。
【0003】
しかしながら、ベルト層に扁平なスチールコードを適用すると、ベルト層の面外剛性が低くなり、高速耐久性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-227084号公報
【文献】特開2015-227086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、タイヤ重量を軽量化しつつ、高速耐久性及び操縦安定性が向上した、空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る空気入りタイヤは、カーカスと、上記カーカスのクラウン部の外周に配されたベルト層と、上記ベルト層の外周に配されたベルト補強層とを有する空気入りタイヤであって、上記ベルト層は、同一の径の3~6本のスチールフィラメントを撚り合わせることなく単一の層をなすように並列させて主フィラメント束とし、上記スチールフィラメントより小径で1本のスチールフィラメントをラッピングフィラメントとして上記主フィラメント束の周囲に巻き付けてなるn+1構造(n=3~6)のスチールコードがタイヤ周方向に対して傾斜配列されたベルトプライを備え、上記ベルト補強層は、上記ベルト層の外周に有機繊維コードがタイヤ周方向に沿って配列されたベルト補強プライを備え、上記有機繊維コード1本当りの2%伸張時荷重(N)と、上記ベルト補強プライにおける有機繊維コードの打ち込み本数(本/25mm)との積(N/25mm)が700以下であり、上記有機繊維コード1本当りの5%伸張時荷重(N)と、上記ベルト補強プライにおける有機繊維コードの打ち込み本数(本/25mm)との積(N/25mm)が1200以上であるものとする。
【0007】
上記有機繊維コードは、構成するヤーンの少なくとも1種が脂肪族ポリアミド繊維であるものとすることができる。
【0008】
上記ベルトプライの面外剛性に対する面内剛性の比(面内剛性/面外剛性)は、15~30であるものとすることができる。
【0009】
上記スチールコードは、短径方向に押圧されて上記ラッピングフィラメントが変形したものであり、押圧前のスチールコードの短径Dbに対する押圧後のスチールコードの短径Daの比(Da/Db)が0.80以下であるものとすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の空気入りタイヤによれば、タイヤ重量を軽量化しつつ、優れた高速耐久性及び操縦安定性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの半断面図
【
図2】本発明の一実施形態に係るスチールコードの構成を示す平面図
【
図3】本発明の一実施形態に係るベルトプライの一部断面図
【
図6】面外剛性、面内剛性の測定方法を説明するための簡略図
【
図7】本発明の好ましい実施形態に係るスチールコードの構成を示す斜視図
【
図8】本発明の好ましい実施形態に係るスチールコードの構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0013】
図1に示す実施形態の空気入りタイヤは、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、左右一対のビード部1及びサイドウォール部2と、左右のサイドウォール部2の径方向外方端部同士を連結するように両サイドウォール部間に設けられたトレッド部3とを備えて構成されており、一対のビード部間にまたがって延びるカーカス4が設けられている。
【0014】
カーカス4は、トレッド部3からサイドウォール部2をへて、ビード部1に埋設された環状のビードコア5にて両端部が係止された少なくとも1枚のカーカスプライからなる。カーカスプライは、有機繊維コード等からなるカーカスコードをタイヤ周方向に対して実質的に直角に配列してなる。
【0015】
トレッド部3におけるカーカス4の外周側(即ち、タイヤ径方向外側)には、カーカス4とトレッドゴム部7との間に、ベルト層6が配されている。ベルト層6は、カーカス4のクラウン部の外周に重ねて設けられており、1枚又は複数枚のベルトプライ、通常は少なくとも2枚のベルトプライで構成することができ、本実施形態では、カーカス側の第1ベルトプライ6Aと、トレッドゴム部側の第2ベルトプライ6Bとの2枚のベルトプライで構成されている。ベルトプライ6A,6Bは、スチールコード20をタイヤ周方向に対して所定の角度(例えば、15~35度)で傾斜させ、かつタイヤ幅方向に所定の間隔にて配列させてなるものである。スチールコード20は、上記2枚のベルトプライ6A,6B間で互いに交差するように配設されている。
【0016】
図3に示すように、ベルトプライは、スチールコード20を、その長径方向Bがベルト面(即ち、ベルト外周面)に平行になるように配置することで形成されている。すなわち、ベルトプライ内において、スチールコード20は、その短径方向Aがベルトプライの厚さ方向Kと一致するようにして、所定間隔でコーティングゴム11内に埋設されている。そのため、スチールコード20は、その長径方向Bがトレッド面に平行になるように配置される。このように構成することにより、スチールコード20をゴム被覆する際に加工しやすく、またベルトプライの厚さを薄くしてタイヤ重量の増加を抑えることができる。また、得られたベルトプライでは、タイヤ幅方向における曲げ剛性が高くなるので、操縦安定性能を向上させることができ、タイヤ径方向における曲げ剛性が低くなるので、エンベロープ性を高めて接地面積を上げることができる。
【0017】
本実施形態に係る空気入りタイヤのベルトプライ用の各スチールコード20は、
図2,3に示すように、スチールフィラメントのみからなり、同一の径の3~6本の主フィラメント12からなる主フィラメント束13と、これを束ねる1本のラッピングフィラメント14とからなる。主フィラメント12の径dは、0.15~0.30mmであることが好ましく、より好ましくは、0.15~0.25mmである。主フィラメント12の径dが0.15mm以上である場合、タイヤ装着時の操縦安定性を維持しつつ、スチールコード20の剛性を低くし、乗り心地を向上させ易い。径dが0.30mm以下である場合、剛直になり過ぎず、圧縮変形に伴う表面歪みの増加を抑えることができるため、ベルトプライの耐疲労性を維持でき、タイヤの耐久性を維持し易い。ラッピングフィラメント14は、曲げ剛性が主フィラメント12よりも小さく、例えば、主フィラメント12の10~40%とすることができる。また、ラッピングフィラメント14の径d0は、0.10~0.15mmであることが好ましい。ラッピングフィラメント14の径d0がこの範囲内である場合、スチールコード20の径増大を抑えつつ、結束力を確保し易い。
【0018】
主フィラメント12の炭素含有量(質量%)は、特に限定されないが、0.80質量%以上であることが好ましく、0.90質量%以上であることがより好ましい。
【0019】
これらの主フィラメント12は、一つの平面に沿って1層をなすように並列される。すなわち、スチールコード20の長さ方向に垂直の断面にて、一列をなすように引き揃えられる。そのため、各スチールコード20は、扁平であり、
図3に示すように長径D1と短径D2を持つ。長径D1と短径D2の値は特に限定されないが、例えば長径D1が1.00~1.50mm、短径D2が0.30~0.60mmであるものとすることができ、長径/短径の比は、例えば1.5~5倍、好ましくは2~4倍である。
【0020】
1本のコード中にて並列される主フィラメント12の本数は、束としての形状を安定に保ちつつ、コードの扁平度を増大させてベルト層などの厚さを小さくする観点から、3~6本が好ましく、より好ましくは4~6本である。すなわち、主フィラメント12の数が6本を越えると、一列をなすように並列させるのが困難となり、束としての形状が不揃いになり易い。なお、主フィラメント12は、必ずしも断面が円形でなくても良い。例えば、主フィラメント12として、断面が楕円形のものを用いることにより、スチールコード20をさらに扁平にすることができる。
【0021】
一方、ラッピングフィラメント14としては、特に限定はされないが、波付けが施されていないもの、すなわち、いわゆる「真直」のものが好適に用いられる。真っ直ぐの場合、巻き付けが容易で、巻き付けの拘束力を、一様に高いものとし易い。なお、ラッピングフィラメント14による拘束力により、引き揃えられた主フィラメント12にスチールコード20としての一体感をもたせることができ、走行中の路線変更やカーブを曲がる際のベルト材の面内変形に対する高い剛性が得られ、操縦安定性を向上させることができる。
【0022】
ラッピングフィラメント14の巻きピッチpは、特に限定されないが、2.0~30.0mmであることが好ましく、より好ましくは2.0~10.0mmであり、3.0~5.0mmでもよい。
【0023】
一実施形態において、スチールコード20は、面外剛性(R2)に対する面内剛性(R1)の比(R1/R2)が15以上30以下であることが好ましい。R1/R2が15以上である場合、接地面積を確保しやすく、優れた操縦安定性が得られやすい。また、R1/R2が30以下である場合、タイヤ踏面の剛性を確保しやすく、優れた高速耐久性及び操縦安定性が得られやすい。
【0024】
ここで、面内剛性とは、スチールコード20を長径方向(B)(
図3における左右方向)に曲げる際の曲げ剛性であり、タイヤでは幅方向の剛性に相当する。また、面外剛性とは、スチールコード20を短径方向(A)(
図3における上下方向)に曲げる際の曲げ剛性であり、タイヤでは半径方向の剛性に相当する。このような面内剛性及び面外剛性を持たせるためには、引き揃える主フィラメント12の太さや本数などを適切に設定すればよく、例えば、主フィラメント12の直径を大きくすることで、面内剛性及び面外剛性ともに高くすることができ、また、主フィラメント12の引き揃え本数を多くすることで、面内剛性を高めて、R1/R2の比を大きくすることができる。
【0025】
面外剛性は、次のように測定するものとする。まず、スチールコード20を任意の打ち込み本数となるように、コーティングゴム11で被覆し、
図4に示すように、スチールコード20を所定の間隔にて配列させたトッピング反を作成する。得られたトッピング反を例えば160℃×20分で加硫し、コード断面方向に1inchに切断し、測定用サンプル30とする。そして、
図6に示すように、100mmの間隔で配された一対の断面円形の支えロール22(直径=20mm)と、一対の支えロール22の中点から鉛直方向上方に位置する断面円形の押込み治具24(直径=15mm)を備える試験機を用いて測定することができる。詳細には、支えロール22上に測定用サンプル30を置き、押込み治具24を押込み速度300mm/minで下方(矢印方向)に移動させ、押込み量30mmで測定用サンプル30を10回押し込み、10回目の押込み時に5mm押し込んだときの荷重を測定し、この荷重を面外剛性とする。支えロール22は、回転時の負荷(回転抵抗)がほぼない回転自在のロールである。測定用サンプル30は、スチールコード20の長手方向Nが支えロール22の軸方向に垂直になるように配置し、かつ、
図4に示した測定用サンプル30の上方から押込み治具24で押し込まれるように配置する。
【0026】
面内剛性は、未加硫の上記トッピング反を長径方向同士が平行になるように8枚重ね合わせてから、160℃×20分で加硫し、
図5に示すように切り出すことで得た、スチールコード20が8本含まれる面内剛性測定用サンプル32を、スチールコード20の長手方向Nが支えロール22の軸方向に垂直になるように配置し、かつ、
図5に示した測定用サンプル32の上方から押込み治具24で押し込まれるように配置する以外は、面外剛性の測定方法と同様に測定するものとする。
【0027】
上記実施形態のさらに好ましい態様として、
図7,8に示すように主フィラメント束13の周りをラッピングフィラメント14で巻き付けてなる扁平なスチールコード20を、その短径方向Aに押圧して、ラッピングフィラメント14を変形させたものを用いることができる。押圧により、隣接する主フィラメント12の間に形成される空間の少なくとも一部に、ラッピングフィラメント14が空間の形状に沿って変形しその一部が侵入する。即ち、上記空間の少なくとも一部がラッピングフィラメント14の少なくとも一部によって埋められる。そのため、ラッピングフィラメント14による主フィラメント12の拘束力を大きくできる。また、ラッピングフィラメント14に比較的大きな塑性変形が加えられることにより、ラッピングフィラメント14に内在する回転トルク及び反発力が小さくなる。そのため、主フィラメント束13が1列に並ぶ形状を保持しやすく、扁平なコードによる優れた効果を発揮しやすい。
【0028】
上記のように短径方向Aに押圧することにより変形させたラッピングフィラメント14を持つ本実施形態に係るスチールコード20の厚さ、即ち押圧後の短径Daは、変形前のラッピングフィラメント14を持つスチールコード20の厚さ、即ち押圧前の短径Db(図示せず)よりも小さいものとすることができる。押圧前のスチールコード20の短径Dbに対する押圧後のスチールコード20の短径Daの比(Da/Db)が0.80以下であることが好ましく、より好ましくは0.65~0.75である。このように、Da/Db≦0.80となる程度の大きさの力で押圧することにより、変形したラッピングフィラメント14の主フィラメント12間の空間への侵入が十分となり、ラッピングフィラメント14の拘束力を十分に確保することができる。また、ラッピングフィラメント14に内在する回転トルク及び反発力を十分に小さくできる。
【0029】
ラッピングフィラメント14の押圧前の直径、即ちフィラメント径d0は、上記の通り主フィラメント12の直径dよりも小径であるのが好ましく、0.10~0.15mmであることがより好ましい。0.15mm以下である場合、ラッピングフィラメント14に内在する回転トルク及び反発力を押圧によって十分に小さくし易く、また、0.10mm以上である場合、押圧時に断線する可能性をより小さくできる。
【0030】
上記押圧は不図示の圧延ロールを用いて行うことができ、ラッピングフィラメント14の巻き付け後の扁平なコードは、圧延ロールにより上下両面から挟まれて押圧される。ラッピングフィラメント14が外側に位置しており、かつその硬度が主フィラメント12よりも低いので、押圧によりラッピングフィラメント14を優先的に変形させることができる。隣接する主フィラメント12の間には断面が略扇形の空間が形成されており、圧延ロールによって押圧されると、ラッピングフィラメント14の内周側が該空間を埋めるように変形し、当該空間の形状に沿う突起14aが形成される。同時に、突起14a間に凹みが形成されるとともに、ラッピングフィラメントの外周側部分14bは平面状に変形する。
【0031】
一実施形態として、主フィラメント12の炭素含有量(質量%)をCcとし、ラッピングフィラメント14の炭素含有量(質量%)をCwとして、両者の差であるCc-Cwは0.05~0.40質量%であることが好ましく、より好ましくは0.10~0.30質量%である。Cc-Cwが0.05質量%以上であることにより、ラッピングフィラメント14を押圧により変形させやすく、また、0.40質量%以下であることにより、ラッピングフィラメント14が押圧により断線する可能性を小さくすることができる。
【0032】
ベルト層6の外周側(即ち、タイヤ半径方向外側)には、ベルト層6とトレッドゴム部7との間に、ベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、ベルト補強プライ8Aによりベルト層6をその全幅で覆うキャッププライであり、有機繊維コードをタイヤ周方向に実質的に平行に配列することで形成されている。すなわち、ベルト補強層8は、有機繊維コードをタイヤ周方向に沿って配列し、ベルト層6の幅方向全体を覆うように、有機繊維コードをタイヤ周方向に対して0~5度の角度で螺旋状に巻回することにより形成することができる。
【0033】
本実施形態に係るベルト補強層8を構成する有機繊維コードとしては、特に限定されないが、複数のヤーンを撚り合わせてなるものであることが好ましく、脂肪族ポリアミド繊維からなるヤーンを含有するものであってもよく、芳香族ポリアミド繊維からなるヤーンを含有するものであってもよいが、少なくとも脂肪族ポリアミド繊維からなるヤーンを含有するものであることが好ましい。脂肪族ポリアミド繊維からなるヤーンを含有する場合、後述する2%伸張時荷重や5%伸張時荷重を所定範囲内に調整しやすい。
【0034】
脂肪族ポリアミド繊維として用いられる樹脂は、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/66/610共重合体、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体などの脂肪族ポリアミド系樹脂が挙げられ、この中でもナイロン66であることが好ましい。
【0035】
芳香族ポリアミド繊維は、主鎖に芳香族骨格を有するポリアミドであり、パラ系アラミドでもメタ系アラミドでもよく、例えば本技術分野で使用されている公知のアラミド繊維を適宜用いることができる。
【0036】
上記有機繊維コードの繊度は、特に限定されないが、1500~4000dtexであることが好ましく、1500~3500dtexであることがより好ましい。1500dtex以上である場合、所望のタイヤ性能を得るために必要な有機繊維コードの打ち込み本数を低減しやすく、その結果、ベルト補強プライのカットエンド部における有機繊維コードとゴムとの接着破壊が起こりにくく、優れたタイヤ荷重耐久性が得られやすい。また、4000dtex以下である場合、タイヤ重量を低減しやすい。ここで、繊度とは、公称繊度や表示繊度とも称されるものである。
【0037】
本実施形態のベルト補強層8は、有機繊維コード1本当たりの2%伸張時荷重(N)と、ベルト補強プライにおける有機繊維コードの打ち込み本数(本/25mm)との積(N/25mm)が、700以下であり、300~700であるものが好ましく、300~650であるものがより好ましい。有機繊維コード1本当たりの2%伸張時荷重(N)と、ベルト補強プライにおける有機繊維コードの打ち込み本数(本/25mm)との積(N/25mm)が700以下である場合、ベルト補強層8による拘束力が強くなりすぎず、タイヤ加硫時の拡張で、ベルト補強層8がベルト層6に食い込み変形するのを抑制することができ、高速耐久性及び操縦安定性に優れたタイヤが得られやすい。
【0038】
本実施形態のベルト補強層8は、有機繊維コード1本当たりの5%伸張時荷重(N)と、ベルト補強プライにおける有機繊維コードの打ち込み本数(本/25mm)との積(N/25mm)が、1200以上であり、1200~3000であるものが好ましく、1200~2800であるものがより好ましい。有機繊維コード1本当たりの5%伸張時荷重(N)と、ベルト補強プライにおける有機繊維コードの打ち込み本数(本/25mm)との積(N/25mm)が1200以上である場合、走行時のベルト補強層8によるベルト拘束性が得られやすく、高速耐久性及び操縦安定性に優れたタイヤが得られやすい。
【0039】
ここで、「有機繊維コード1本当たりの2%伸張時荷重(N)」及び「有機繊維コード1本当たりの5%伸張時荷重(N)」は、JIS L0105に規定される温度20±2℃、相対湿度65±4%の標準状態の試験室において、JIS L1017に準拠した引張試験を行った際の2%伸張時における荷重と、5%伸張時における荷重のことである。
【0040】
有機繊維コード1本当りの2%伸張時荷重(N)は、特に限定されないが、15~100Nであることが好ましく、15~50Nであることがより好ましく、15~30Nであることがさらに好ましい。
【0041】
有機繊維コード1本当りの5%伸張時荷重(N)は、特に限定されないが、30~300Nであることが好ましく、30~200Nであることがより好ましく、40~150Nであることがさらに好ましい。
【0042】
2%伸張時荷重(N)や5%伸張時荷重(N)は、例えば、有機繊維コードを構成する繊維種類の選定や、コード構造、撚り数、コードの処理条件などを調整することにより行うことができる。例えば、撚り数を減らすことで、伸張時荷重を大きくすることができる。また、コードの処理条件としては、有機繊維コードをゴムとの接着処理用樹脂液に浸漬するディップ処理の条件(樹脂液配合、処理温度、張力、時間等)が挙げられ、これにより有機繊維コードの物性を調整することができる。例えば、レゾルシン-ホルマリン-ラテックス(RFL)、ブロックドイソシアネート水溶液などの樹脂液を用いてディップ処理を行う際に、低温浴を用い、有機繊維コードにかける張力を高く設定すれば、伸張時荷重を大きくすることができる。
【0043】
有機繊維コードの打ち込み本数(本/25mm)は、特に限定されないが、15~40であることが好ましく、20~35であることがより好ましい。
【0044】
上記有機繊維コードの撚り係数(K)は、特に限定されないが、1000~2000であることが好ましく、1200~1800であることがより好ましい。撚り係数が、1000以上であることにより、有機繊維コードの耐疲労性を維持することができ、優れた高速耐久性が得られやすく、2000以下であることにより、ベルト補強プライの強力を維持することができ、所望のタイヤ性能を得るために必要な有機繊維コードの打ち込み本数を低減しやすく、その結果、ベルト層6の幅方向端部におけるベルト層6Aとベルト層6B間のセパレーションや、ベルト層6とベルト補強層8とのセパレーション、ベルト層6とカーカス4とのセパレーションが生じにくく、優れた高速耐久性が得られやすい。
【0045】
ここで、撚り係数(K)とは、下記式(I)で表されるものであり、Tは10cm当りの撚り数(回/10cm)、Dは公称繊度(dtex)、Pは有機繊維の密度(g/cm3)を示す。撚り数Tは、例えば、双撚り構造のように複数のヤーン(下撚糸)を引き揃えて撚り合わせる場合、かかるヤーンを撚り合わせる際の撚り数(上撚り数)である。繊維の密度Pは、有機繊維コードを構成する繊維の密度であり、単一繊維のコードであれば、当該繊維の密度であり、ハイブリッドコードであれば、当該コードを構成する繊維の質量比に応じて算出される平均密度である。
K=T(D/P)1/2 ・・・(I)
【0046】
上記有機繊維コードの10cm当りの撚り数(回/10cm)は、特に限定されないが、25~70回/10cmであってもよく、25~60回/10cmであってもよい。撚り数が上記範囲内である場合、有機繊維コードの2%伸張時荷重と5%伸張時荷重を上記範囲内に調整しやすい。
【0047】
本実施形態に係る空気入りタイヤの種類としては、特に限定されず、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどに用いられる重荷重用タイヤなどの各種のタイヤが挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
下記表1に示す構造を持つスチールコードと有機繊維コードを作製した。比較例1のベルト層は、スチールコードとして、引き揃えの2本の金属フィラメントからなる芯部の周りに、同一径の1本の金属フィラメントを撚り合わせてなる2+1の複層撚り構造(2+1×0.27)を持つ従来のスチールコードである。それ以外のスチールコードは、全て、複数本の主フィラメントを撚り合わせることなく1列に引き揃えて配置した主フィラメント束を、1本の真直のラッピングフィラメントでラッピングし、さらに圧延ロールで、表1に示すDa/Dbとなるように押圧してなるn+1構造のスチールコードである。また、ラッピングフィラメントの巻きピッチpは5.0mmとした。なお、表1において、例えば、実施例1の構成に記載されている「4×0.22+0.15」は、スチールコードが、主フィラメント径dが0.22mmであるフィラメント4本からなる主フィラメント束と、ラッピングフィラメント径d0が0.15mmであるラッピングフィラメントからなることを示す。
【0050】
また、比較例1で用いたベルト補強層のナイロン66からなる有機繊維コードは、実施例1,4及び比較例4,5で用いたナイロン66からなる有機繊維コードとは、撚り数が異なるだけでなくコードの処理条件が異なる。
【0051】
比較例1は、10cm当りの上撚り数を38回/10cm、下撚り数を39回/10cmとし、RFL処理液を用いてディップ処理を行う際の処理条件を、ディップ処理後のドライ工程では、温度140℃、張力1.1N、熱セット工程では、温度230℃、張力2.0N、ノルマライズ工程では、温度180℃、張力0.85Nに設定した。
【0052】
これに対して、実施例1,4,比較例4,5で用いたベルト補強層のナイロン66からなる有機繊維コードは、上撚り数を25.6回/10cm、下撚り数を25.8回/10cmとし、RFL処理液を用いてディップ処理を行う際の処理条件を、ディップ処理後のドライ工程では、温度170℃、張力1.7N、熱セット工程では、温度235℃、張力2.5N、ノルマライズ工程では、温度150℃、張力2.8Nに設定することで、伸張時荷重が大きくなるように調整した。
【0053】
スチールコードについての測定方法は以下の通りである。
【0054】
・フィラメント径、コード径:JIS G 3510に準拠し、所定の厚さ計によりコード及びフィラメントの直径を計測した。
【0055】
・面内剛性/面外剛性:
図4に示す断面形状の面外剛性測定用サンプル30と、
図5に示す断面形状の面内剛性測定用サンプル32を作製し、
図6に示すように、一対の支えロール22上にサンプル30(又は32)をおき、上方から押込み治具24を用いて押込み量30mmでサンプル30(又は32)を10回押し込み、10回目の押込み時における5mm押し込んだときの荷重を測定し、この荷重を面外剛性(又は面内剛性)とした。これらはともに、スチールコード8本当たりの曲げ剛性である。支えロール22は、回転時の負荷(回転抵抗)がほぼない回転自在のロールであり、ロール径は20mm、ロール間距離(軸間距離)は100mmとした。サンプル30(又は32)は、スチールコードの長手方向Nが支えロール22の軸方向に垂直になるように配置し、かつ、
図4,5に示した各サンプルの上方から押込み治具24で押し込まれるように配置した。押込み治具24は、直径15mmのロールであり、押込み速度は300mm/分とした。
【0056】
面外剛性測定用サンプル30は、スチールコードを、
図4に示すように、その長径方向がトッピング反の表面に平行になるように表1に記載の打ち込み本数で配置し、その上下の被覆ゴム厚さを0.50mmとして、反幅300mmにてトッピング反を作製した。得られたトッピング反を160℃×20分で加硫し、コード断面方向に1inch幅で切断して面外剛性測定用サンプル30を得た。
【0057】
面内剛性測定用サンプル32は、未加硫の上記トッピング反を長径方向同士が平行になるように8枚重ね合わせてから、160℃×20分で加硫し、
図5に示すように切り出すことで、スチールコードが8本含まれる面内剛性測定用サンプル32を得た。
【0058】
有機繊維コードについての測定方法は以下の通りである。
【0059】
・2%伸張時荷重(LASE2%)、5%伸張時荷重(LASE5%):
JIS L0105に規定される温度20±2℃、相対湿度65±4%の標準状態の試験室において、JIS L1017に準拠した引張試験を行った際の2%伸張時における荷重(N)と、5%伸張時における荷重(N)とを測定した。
【0060】
また、得られたスチールコードをベルト層用コードとして、得られた有機繊維コードをベルト補強層用コードとして用いて、ベルトプライを2プライ、ベルト補強プライを1プライとした、タイヤサイズが205/50R16 87Vのラジアルタイヤを、常法に従い加硫成形した。各タイヤについて、ベルト層及びベルト補強層以外の構成は、全て共通の構成とした。ベルトプライ(6A)/(6B)は、スチールコードの角度がタイヤ周方向に対して+25°/-25°となるように、表1に記載の打ち込み本数にて配置した上で、カレンダー装置を用いて、トッピング反とすることにより作製した。ベルト補強プライは、スチールコードをその長径方向がベルト面に平行になるように、表1記載の打ち込み本数にて配置した上で、カレンダー装置を用いて、トッピング反とすることにより作製した。
【0061】
なお、カーカスプライは、ポリエステルのコード1100dtex/2、打ち込み本数26本/25mmで2プライとした。
【0062】
得られた各空気入りタイヤにつき、タイヤ重量、高速耐久性、及び操縦安定性を評価した。各評価項目の評価方法を、以下に示す。
【0063】
・タイヤ重量:タイヤ1本当りの総重量であり、比較例1のタイヤの総重量を100として指数表示した。数字が小さいほど軽い。
【0064】
・高速耐久性:FMVSS109(UTQG)に準拠し、表面が平滑な鋼製の直径1700mmの回転ドラムを有するドラム試験機により、次のようにして測定した。試験タイヤを内圧220kPa(2.2kgf/cm2)で、JIS規定の標準リムに組み付け、荷重は、JATMA規定の最大荷重の88%とした。80km/hの速度で60分間慣らし走行させた後、一旦放冷し、再度空気圧を調整した後に、本走行を行った。本走行は、120km/hから開始し、以降、30分間経過毎に速度を8km/hずつ増加させつつ、故障が発生するまで走行させた。故障発生までの、本走行の総走行距離について、従来例を100として指数表示した。指数が大きいほど高速耐久性に優れる。
【0065】
・操縦安定性:内圧200kPaで組み込んだ各タイヤを排気量2000ccの試験車両に装着し、訓練された3名のテストドライバーにてテストコースを走行し、フィーリング評価をした。採点は10段階評価として比較例1のタイヤを6とした相対比較にて評価し、3人の平均点を、比較例1のタイヤを100として指数表示する。数字が大きいほど操縦安定性に優れていることを意味する。
【0066】
【0067】
結果は、表1に示す通りであり、比較例1と比較し、実施例1~4はいずれもタイヤ重量を軽量化することができ、かつ優れた高速耐久性及び操縦安定性が得られることがわかった。
【0068】
比較例2は、5%伸張時荷重と打ち込み本数との積が所定範囲外である例であり、比較例1と比較して、高速耐久性及び操縦安定性が劣っていた。
【0069】
比較例3は、2%伸張時荷重と打ち込み本数との積が所定範囲外である例であり、比較例1と比較して、高速耐久性及び操縦安定性が劣っていた。
【0070】
比較例4は、スチールコードの主フィラメントの本数が所定範囲未満である例であり、比較例1と比較して、操縦安定性が劣っていた。
【0071】
比較例5は、スチールコードの主フィラメントの本数が所定範囲を超え、コード形状は主フィラメント束とラッピングフィラメントとからなるn+1構造を維持できなかった。また、比較例1と比較して、高速耐久性及び操縦安定性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車、ライトトラック、バス等の各種車両に用いることができる。
【符号の説明】
【0073】
T……タイヤ
1……ビード部
2……サイドウォール部
3……トレッド部
4……カーカス
5……ビードコア
6……ベルト層
6A…第1ベルトプライ
6B…第2ベルトプライ
7……トレッドゴム部
8……ベルト補強層
8A…ベルト補強プライ
11…コーティングゴム
12…主フィラメント
13…主フィラメント束
14…ラッピングフィラメント
20…スチールコード
22…支えロール
24…押込み治具
30…面外剛性測定用サンプル
32…面内剛性測定用サンプル
A……スチールコードの短径方向
B……スチールコードの長径方向
D1…スチールコードの長径
D2…スチールコードの短径
Da…押圧後のスチールコードの短径
K……ベルトプライの厚さ方向
d……主フィラメントの径
d0…ラッピングフィラメントの径
p……ラッピングフィラメントの巻きピッチ