(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】農業用遮光剤
(51)【国際特許分類】
A01G 13/02 20060101AFI20240604BHJP
A01G 9/14 20060101ALI20240604BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240604BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240604BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240604BHJP
C09D 201/02 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A01G13/02 F
A01G9/14 S
C09D5/02
C09D7/61
C09D7/63
C09D201/02
(21)【出願番号】P 2020100637
(22)【出願日】2020-06-10
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村田 稔
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-068740(JP,A)
【文献】特開2015-168729(JP,A)
【文献】特開2000-248211(JP,A)
【文献】特開2010-024391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 11/00 - 15/00
A01G 9/14 - 9/26
C09D 1/00 - 10/00
C09D 101/00 -201/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、水系バインダー、着色剤及び分散剤を含有してなる農業用遮光剤であって、
前記水系バインダーが、酸価が30以上300以下の水系樹脂エマルジョンで、前記水系樹脂エマルジョンの樹脂固形分が前記農業用遮光剤100質量%に対し0.1質量%以上15質量%以下であり、
前記着色剤が、炭酸カルシウム及び/又は酸化チタンを含み、前記着色剤の添加量が前記農業用遮光剤100質量%に対し1質量%以上50質量%以下であり、
前記分散剤が、ポリカルボン酸型アニオン系界面活性剤を含み、かつ添加量が前記農業用遮光剤100質量%に対し0.01質量%以上5質量%以下であり、
JIS Z 8803に準拠して測定した粘度が室温で10mPa・s以上100mPa・s以下であることを特徴とする農業用遮光剤。
【請求項2】
噴霧器で散布することができることを特徴とする請求項
1に記載の農業用遮光剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用遮光剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ハウス栽培やトンネル栽培などの太陽光の熱エネルギーを利用した保温栽培で栽培される植物が、夏場の強い太陽光等といった強い光線を浴びた場合、植物に葉焼け等といった現象が引き起こされてしまう虞が高くなる。こうした現象は植物の生育に悪影響を与える虞がある。そこで、強い光線による植物の生育への悪影響を抑制する方法として、ハウス栽培を行うためのハウスやトンネル栽培を行うためのトンネルを構成するビニルシート等のシート材外側表面上に、遮光ネットを被せる方法(以下「遮光ネット被覆法」という)や、シート材の外表面上に農業用遮光剤を散布して光をある程度まで遮断可能な遮光層を形成する方法(以下「遮光面形成法」という)が実施されてきた。
【0003】
保温栽培において、遮光ネット被覆法や遮光面形成法は、通常、強い太陽光線が地表に降り注ぐ時期という所定の時期(日本では7月~9月頃)を狙って実施される。そして、そのような時期以外では実施されない。むしろ、強い太陽光線が地表に降り注ぐ時期以外の時期では、積極的に太陽光線の熱エネルギーを活用するべく光を効率的に取り込むことが重要とされる。
【0004】
一方で、遮光ネット被覆法には、遮光ネットを被覆する工程が煩雑であり、遮光ネット自体が高価であることから準備コストが嵩むという問題があり、また、実施を終了する際には設置された遮光ネットの取り外しが容易でないという問題があった。
【0005】
こうした問題から、これまで強い光線による植物の生育への悪影響を抑制する方法として、遮光面形成法が汎用されてきた。遮光面形成法において、遮光層を形成する農業用遮光剤としては、水と水系バインダーと着色剤とを含む組成物で構成されたものが用いられている。着色剤としては、白色の炭酸カルシウムが主に用いられており、最近では、酸化チタンを使用したものも知られている(特許文献1)。
このような農業用遮光剤を用いて形成された遮光層は、着色剤に由来する白色を呈しており、シート材を通過して植物に照射される光線量をある程度のレベルまでやわらげ、強い光線による植物の生育への悪影響を抑制している。
【0006】
ところが、この場合であっても、遮光性を必要としない時期には遮光層を取り除く必要があり、そのためには所定の除去剤を用いるなど、遮光層の除去作業は容易ではなかった。
そこで、本出願人は、所定の除去剤を用いなくとも、降雨によって自然にシート材から遮光層を徐々に取り除くことのできる農業用遮光剤の開発を進めている(特許文献2)。降雨によって自然に遮光層が除去される時期が早すぎても遅すぎても植物の生育へ影響するため、遮光性を必要とする一定期間、遮光層をシート材の表面上に保持させるといった調整は難しいものであり、さらなる改良が求められている。
【0007】
また、農業用遮光剤は濃縮された状態で販売及び保管されており、シート材へ散布する際は、水などで希釈して使用することが一般的である。例えば、容器に農業用遮光剤と希釈用の水を加え撹拌機などを用いて撹拌し、着色剤が均一に分散した状態とした後、当該遮光剤をシート材の表面に散布して遮光層が形成されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-6154号公報
【文献】特開2020-68740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、希釈後の農業用遮光剤は粘度が低く着色剤が沈降してしまい分散性に劣るものであった。そのため、希釈後はすぐに散布できるよう現場で希釈作業を行う必要があるが、現場に水場がない場合には別途水を運搬するなど、現場での希釈作業は煩雑なものであった。
また、放置して着色剤が沈降してしまうと再度撹拌しなければならず、希釈から散布までの作業時間に制限を受けてしまう。しかも、着色剤が沈降した状態のまま放置すれば、着色剤が凝集してしまい混ざりにくい状態となってしまい、再度撹拌しても着色剤を均一に分散させるには時間がかかってしまうこともあった。
特に、農業用遮光剤の散布に噴霧器を用いる場合には、刷毛やロールで塗布する場合と比べて農業用遮光剤の粘度をさらに低くしなければならず、着色剤が沈降しにくい分散性に優れる農業業遮光剤の必要性が高まっている。
【0010】
本発明は、農業用遮光剤の使用時の希釈作業を必要とせず、着色剤の分散性に優れており、しかもシート材の外表面に散布され形成された遮光層が、遮光性が必要な時期には存在しながらも、その時期を経過した後には降雨などによって自然に流れ落ちて遮光性を失うように形成可能な農業用遮光剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水、水系バインダー、着色剤及び分散剤を含有してなる農業用遮光剤であって、
前記水系バインダーが、酸価が30以上300以下の水系樹脂エマルジョンで、前記水系樹脂エマルジョンの樹脂固形分が前記農業用遮光剤100質量%に対し0.1質量%以上15質量%以下であり、
前記着色剤が、炭酸カルシウム及び/又は酸化チタンを含み、前記着色剤の添加量が前記農業用遮光剤100質量%に対し1質量%以上50質量%以下であり、
JIS Z 8803に準拠して測定した粘度が室温で10mPa・s以上100mPa・s以下であることを特徴とする。
また、好ましくは、分散剤の添加量が農業用遮光剤100質量%に対し0.01質量%以上5質量%以下である。
また、本発明は、噴霧器で散布することができる農業用遮光剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、農業用遮光剤の使用時の希釈作業を必要とせず、着色剤の分散性に優れており、しかもシート材の外表面に散布され形成された遮光層が、遮光性が必要な時期には存在しながらも、その時期を経過した後には降雨などによって自然に流れ落ちて遮光性を失うように形成可能な農業用遮光剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の農業用遮光剤は、水、水系バインダー、着色剤及び分散剤を含有してなる。
【0014】
本発明の水系バインダーは、酸価が30以上300以下の水系樹脂エマルジョンである。水系樹脂エマルジョンを構成する樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル-スチレン共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等をあげることができるが、水分散性アクリル系樹脂、水分散性スチレン系樹脂、または水分散性アクリル-スチレン共重合体樹脂を好ましく選択される。
【0015】
酸価は、フェノールフタレインなどを指示薬として、水酸化カリウム滴定により求められる。
【0016】
一般に、樹脂における酸価は、樹脂を構成する高分子鎖1本あたりの遊離カルボン酸基の平均数に関係する値とされる。樹脂における酸価の値が大きいほど、その樹脂は、耐水性が乏しくなり、すなわち水に溶けやすくなる。樹脂における酸価の値が小さいほど、その樹脂は、水に溶けにくい性質を有する。これを考慮して、農業用遮光剤に含まれる水系バインダーが、水系樹脂エマルジョンであり、且つ、その水系樹脂エマルジョンを構成する樹脂成分の酸価を30以上300以下とされていることで、水系バインダーの水に混ざった状態が効果的に形成できるようになるとともに、農業用遮光剤が所定のシート材の外表面に散布されて遮光層を形成してシート材の外表面側を遮光面となした際、その遮光面をある程度の期間にわたって耐水性を確保できるものとすることができる。
【0017】
なお、水系樹脂エマルジョンが、酸価が30未満の樹脂のエマルジョンであると、遮光層が降雨などによって自然に流れ落ちにくく、遮光性が必要な時期を経過しても遮光性が継続してしまう虞がある。水系樹脂エマルジョンが、酸価が300を超える樹脂のエマルジョンであると、遮光層の耐水性が低下し、雨風で遮光層がシート材から流れ落ちやすくなって、所定期間にわたって遮光層を保持できなくなる虞がある。
【0018】
水系樹脂エマルジョンの状態で樹脂の平均粒径は、0.01μm以上0.5μm以下であることが好ましい。当該範囲であれば、後述する本発明の粘度範囲であっても農業用遮光剤中でエマルジョンとして分散した状態を維持できる。
【0019】
農業用遮光剤における水系バインダーの添加量は、水系樹脂エマルジョンの樹脂固形分が農業用遮光剤100質量%に対し0.1質量%以上15質量%以下である。農業用遮光剤における水系樹脂エマルジョンの樹脂固形分が0.1質量%未満であると、着色剤のシート材表面への定着が不十分となり、雨風で遮光層がシート材から流れ落ちやすくなって所定期間にわたって遮光層を保持できなくなる虞がある。また、15質量%を超える場合には、農業用遮光剤の粘度が高く散布作業性が低下するとともに、散布後の乾燥に時間がかかる虞があり、また、降雨などで自然に流れ落ち難くなってしまう。なお、本発明の遮光性を必要とする所定期間とは、作物や地域によって適宜設定すればよいが、例えば強い太陽光線が地表に降り注ぐ時期であって、日本での7月~9月の3か月程度の期間である。ただし、本発明はそれよりも短期間のみ遮光性が必要な場合を除外するものではない。
【0020】
本発明は、着色剤として白色の炭酸カルシウム及び/又は酸化チタンが用いられる。
また、本発明の着色剤の平均粒子径は0.01μm以上1μm以下が好ましい。
着色剤の平均粒子径が1μmを超えると、農業用遮光剤中で沈降しやすくなる傾向にあり、一度沈降してしまうと着色剤が凝集して混ざりにくく、さらに噴霧器を用いて散布する際には、目詰まりしてしまい散布作業性が劣る虞がある。また、着色剤の平均粒子径が0.01μm未満であると、遮光性が発揮され難く、所望の遮光性が発現しない虞がある。
【0021】
本発明では、着色剤の添加量は、農業用遮光剤100質量%に対し1質量%以上50質量%以下である。
1質量%未満であると十分な遮光性が得られず、50質量%を超える場合には、農業用遮光剤の粘度が高く、希釈せずに散布することが困難となり、散布作業性が劣る虞がある。
また、着色剤の添加量が農業用遮光剤100質量%に対し1質量%以上30質量%以下であれば、噴霧器などを用いて散布する際の粘度に適した農業用遮光剤が得られるため、好ましい。
【0022】
本発明では、必要に応じて表面処理を施した着色剤を用いてもよい。
例えば、特殊高分子、脂肪酸、スルホン酸、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、シリカなどによる修飾を施す方法を、あげることができる。このように酸化チタンが表面親水化処理を施されていると、表面の濡れ性が向上して、水中で分散状態を形成しやすくなる。
【0023】
本発明において、炭酸カルシウム、酸化チタン以外の着色剤を含有してもよい。例えば、タルク、クレー、シリカ、マイカ、硫酸バリウムなどが挙げられ、さらに白色以外の着色剤を用いることもできる。
【0024】
本発明の分散剤としては、着色剤の表面に物理的、又は、化学的に吸着して、水中にて保護コロイド、又は、静電的な反発などにより、着色剤を水中に分散するために用いるものであり、通常に用いられるカチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤及び高分子界面活性剤などの各種界面活性剤を使用でき、1種又は2種以上を混合したものでもよい。
【0025】
アニオン系界面活性剤としては、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩及び脂肪族酸塩などが挙げられ、具体的には、ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート等のアルカリ金属アルキルサルフェート類; アンモニウムドデシルサルフェート等のアンモニウムアルキルサルフェート類; ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート、ナトリウムスルホシノエート、スルホン化パラフィンのアルカリ金属塩類; スルホン化パラフィンのアンモニウム塩等のアルキルスルホネート類; ナトリウムラウリレート、トリエタノールアミンオレエート、トリエタノールアミンアビエテートの脂肪酸塩類、ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフエート等のアルキルアリールスルホネート類; 高級アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩、プロペニル- 2 - エチルヘキシルベンゼンスルホコハク酸エステルナトリウム、( メタ) アクリル酸ポリオキシエチレンの硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸アンモニウム塩、( メタ) アクリル酸ポリオキシエチレンエステルのリン酸エステル、ナトリウムラウリレート、トリエタノールアミンオレエート、トリエタノールアミンアビエテートの脂肪酸塩類等が挙げられる。
【0026】
カチオン性界面活性剤としては、アルキルピリジニルクロライド、アルキルアンモニクムクロライド等が挙げられる。
【0027】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセロールのモノラウレート等の脂肪酸モノグリセライド類、ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体、エチレンオキサイドと脂肪酸アミン、アミド又は酸との縮合生成物等が挙げられる。
【0028】
両性界面活性剤としては、ラウリルペタイン、ステアリルペタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0029】
高分子界面活性剤としては、ポリビニルアルコール、ポリ( メタ) アクリル酸ナトリウム、ポリ( メタ) アクリル酸カリウム、ポリ( メタ) アクリル酸アンモニウム、ポリヒドロキシエチル( メタ) アクリレート、ポリヒドロキシプロピル( メタ)アクリレート、これらの重合体の構成単位である重合性単量体の2種以上の共重合体又は他の単量体との共重合体等が挙げられる。特に、ポリ(メタ)アクリル酸やアクリル酸-オレフィン共重合体等のポリカルボン酸のナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩に代表されるポリカルボン酸型アニオン系の界面活性剤が炭酸カルシウムや酸化チタンを分散しやすく好ましい。
【0030】
本発明では、分散剤の添加量は、農業用遮光剤100質量%に対し0.01質量%以上5質量%以下が好ましい。
0.01質量%未満では、着色剤が沈降しやすく、撹拌しても着色剤の分散性に劣るため、一度沈降してしまうと着色剤が凝集して混ざりにくくなってしまい散布作業性が劣る虞がある。また、5質量%を超えると、着色剤の分散性には優れるものの、着色剤のシート材表面への定着を阻害してしまい、雨風で遮光層がシート材から流れ落ちやすくなって所定期間にわたって遮光層を保持できなくなる虞がある。なお、本発明の農業用遮光剤の分散性については後述する。
【0031】
農業用遮光剤には、上記した各成分のほか、本発明の効果を損ねない程度の範囲で必要に応じて、さらに各種の添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、硬化剤、防腐剤、増粘剤、減粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、アルコール類等を挙げることができる。
【0032】
本発明の農業用遮光剤は、粘度がJIS Z 8803に準拠して単一円筒形回転粘度計(ブルックフィールドB型回転粘度計)を用いて測定した値が室温で10mPa・s以上100mPa・s以下である。当該範囲であれば、農業用遮光剤の使用時の希釈作業を必要とせず、撹拌するだけでそのままシート材の表面に散布して遮光層を形成することができる。
【0033】
農業用遮光剤の使用時の希釈作業とは、農業用遮光剤を散布して遮光層を形成する際に、農業用遮光剤原液を水で適宜倍率に希釈して希釈液を調製することであり、通常、この希釈液を散布される農業用遮光剤として用いられている。希釈後の農業用遮光剤中で着色剤が均一に分散した状態であれば、当該遮光剤をシート材の表面に散布することで、塗りムラのない遮光層が形成されることとなる。
しかしながら、希釈後の農業用遮光剤は粘度が低く着色剤が沈降しやすい。そのため、放置して着色剤が沈降してしまうと再度撹拌しなければならず、希釈から散布までの作業時間に制限を受けてしまう。また、着色剤が沈降した状態のまま放置すれば、着色剤が凝集してしまい混ざりにくい状態となってしまい、再度撹拌しても着色剤を均一に分散させるには時間がかかってしまうこともあり、しかも、希釈作業を現場で行わなければならず、その作業自体も煩雑なものであった。
【0034】
それに対し、本発明の農業用遮光剤は、水、水系バインダー、分散剤及び着色剤を含有してなり、粘度がJIS Z 8803に準拠して測定した値が室温で10mPa・s以上100mPa・s以下と比較的低いものであっても、着色剤の分散性に優れるため、希釈作業を必要とせず撹拌するだけで着色剤が均一に分散された農業用遮光剤を容易に得ることができるのである。
【0035】
ここで、本発明において着色剤の分散性に優れるとは、沈降した後でも撹拌するだけで均一に分散した状態に容易に戻すことができることである。
具体的には、250mLのポリビンに農業用遮光剤200mL入れ、室温で1週間静置後に容器を振り、着色剤が分散した状態に達した回数が20回未満のものを分散性に優れると評価する。なお、着色剤が分散した状態とは、当該ポリビンをひっくり返し、ポリビンの底部に残留した着色剤を目視で観察した際に、底部に残留した着色剤が確認できないものである。
【0036】
本発明の農業用遮光剤は、保温栽培で使用可能なシート材(農業用シート材ということがある)の外表面上に散布されて使用されることができる。農業用遮光剤の散布方法は特に限定されず、例えば、手動式噴霧器やエンジン式動力噴霧器、モーター式動力噴霧器、さらにポンプや台車などを備えたものなど各種噴霧器を用いることができる。また、散布以外にも刷毛やロールなどを用いた塗工方法を用いてもよい。
本発明の農業用遮光剤は、粘度が比較的低いものであるので、塗工方法ではシート上表面で当該遮光剤をはじく場合があり、均一な遮光層を形成しやすいという点では、各種噴霧器での使用が好適である。
【0037】
保温栽培で使用可能な農業用シート材としては、塩化ビニル系樹脂フィルムやオレフィン系樹脂フィルム、フッ素系フィルムなどが好適に選択され、また単層構造でもよいし、多層構造でもよい。なお、本発明の農業用遮光剤は、農業用シート材の他、ガラス表面にも使用するこができる。
【0038】
塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニルホモポリマーおよび塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体、塩化ビニル-イソブチレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-スチレン-無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニルとアルキル、シクロアルキルまたはアルキルマレイミドとの共重合体、塩化ビニル-スチレン-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-イソプレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン-酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル-メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-ウレタン共重合体などの塩化ビニル共重合体が挙げられる。
【0039】
オレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、メタロセン触媒を用いて重合したポリエチレン等のポリエチレン;ランダム重合ポリプロピレン、ブロック重合ポリプロピレン、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン等のポリプロピレン;エチレン-酢酸ビニル、エチレン-アクリル酸、エチレン-アクリル酸エステル、エチレン-メタクリル酸、エチレン-メタクリル酸エステル等のエチレン系共重合体等のオレフィン系樹脂であり、これら単独またはこれらの混合物を使用することができる。
【0040】
保温栽培で使用可能なシート材に対する農業用遮光剤の散布量は、特に限定されないが、農業用遮光剤の塗布量は、農業用遮光剤に含まれる固形分が0.1g/m2以上10g/m2以下となる量であることが好ましい。0.1g/m2未満であると、充分な遮光効果を得にくくなる虞がある。また10g/m2を超える場合には、散布作業中にシート材から農業用遮光剤の落滴によるロスが生じる虞がある。
【0041】
こうしてシート材に農業用遮光剤の散布が施されると、シート材面上に遮光層が形成されてそのシート材面が遮光面をなす。遮光層は、シート材面上に細かな粒状の構造を多数付着してなる構造をなしてよいし、シート材面上に膜状に形成されてもよい。
【0042】
本発明の遮光層は、農業用遮光剤の散布直後の遮光性は高く、遮光性が必要である期間は遮光性を維持しつつ、不要となる時期には、降雨などで自然に流れ落ちるため、従来のようにアルカリ性の除去液などで除去する手間を省くことができる。なお、本発明において、遮光性が必要な期間とは、夏場の強い太陽光等を浴びる期間であって、およそ3ヶ月を想定しているが、それよりも短期間のみ遮光性が必要な場合を除外するものではない。例えば、一番暑い時期を過ぎた後、遮光層が無い状態で別の作物を植える場合や、一度農業用遮光剤を散布したが多雨のために遮光層が落ちてしまい、再度散布する場合、雨の少ない地方で、標準的な3ヶ月タイプの農業用遮光剤では落ちないことがわかっている場合、収穫直前の状態で気温が上がってきたため、収穫までの1ヶ月程度遮光を得たい場合などが挙げられる。
【0043】
このように、遮光性が必要である期間は遮光性を維持しつつ、不要となる時期には、降雨などで自然に流れ落ちるようにするために、本発明では、水、水系バインダー、着色剤及び分散剤を含有してなり、当該水系バインダーには、酸価が30以上300以下の水系樹脂エマルジョンを使用し、当該水系樹脂エマルジョンの樹脂固形分量、当該着色剤の添加量を特定範囲内で調整している。また、当該分散剤の添加量を特定範囲内で調整することでも所定期間遮光性を維持できる。しかも、本発明はJIS Z 8803に準拠して測定した粘度が室温で10mPa・s以上100mPa・s以下であるため、希釈作業を必要とせず撹拌するだけで着色剤が均一に分散された農業用遮光剤を容易に得ることができるのである。
【実施例】
【0044】
本発明について実施例および比較例を用いて、以下により詳細に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されなくてもよい。
【0045】
〔実施例1~7、比較例1~6〕
表1、2に示す通り、農業用遮光剤を構成する各原料を計量し、スターラーで10分間撹拌を行って各農業用遮光剤を配合し、JIS Z 8803に準拠して単一円筒形回転粘度計(ブルックフィールドB型回転粘度計)を用いて室温にて粘度を測定した。なお、表中の農業用遮光剤を構成する原料の配合量の単位は質量%であり、水系樹脂エマルジョンの欄には、当該水系樹脂エマルジョンの配合量と、当該水系樹脂エマルジョン中の樹脂固形分量を農業用遮光剤100質量%に対する樹脂固形分の配合量として換算した値を括弧内に示す。
次に、長さ200mm、幅200mm、厚み0.1mmの塩化ビニル樹脂製の農業用フィルム(アキレス社製、商品名「晴天」)を用い、その表面から20cm離れた位置から、霧吹き(噴霧器)を用いて各農業用遮光剤0.6ccを一回散布し、1日間乾燥させ、表面に遮光層が形成された試験フィルムを得た。このとき、各農業用遮光剤は後述の〔分散性〕の評価で用いたもので、着色剤が分散した状態のものを使用した。なお、比較例1は〔分散性〕の評価が×であったため、また、比較例3は農業用遮光剤の散布ができなかったため、遮光性の評価は行わなかった。
【0046】
農業用遮光剤を構成する原料は、以下の通りである。
〔水系樹脂エマルジョン〕
水分散性アクリル共重合体(BASF社製、商品名「JONCRYL PDX-7700」、樹脂酸価:60、樹脂固形分:48質量%)
〔着色剤〕
炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製、商品名「ルミナス」、平均粒子径:0.1μm)
酸化チタン(テイカ社製、商品名「JR600A」、平均粒子径:0.25μm)
〔分散剤〕
ポリカルボン酸型アニオン系界面活性剤(アデカ社製、商品名「アデカコールW-193」)
【0047】
得られた各農業用遮光剤及び各試験フィルムに関し、以下の評価を行った。結果は表1,2に示す。
【0048】
〔分散性〕
250mLのポリビンに各農業用遮光剤を200mL入れ、室温で1週間静置後に容器を振り、着色剤が分散した状態に達した回数を測定し以下の基準で評価した。なお、着色剤が分散した状態とは、当該ポリビンをひっくり返し、ポリビンの底部に残留した着色剤を目視で観察した際に、底部に残留した着色剤が確認できないものとした。
〇 着色剤が分散した状態になるまで振った回数が20回未満
× 着色剤が分散した状態になるまで振った回数が20回以上
【0049】
〔遮光性:散布直後〕
得られた試験フィルムを設置面に対し30度の傾斜をつけた台に遮光面を表面にして貼り付け、6ml/cm2の水(試験フィルムの面積は400cm2であるので、2400mlとなる。)を試験フィルム全面に如雨露を用いて散布した。その後、当該試験フィルムと遮光層が形成されていない塩化ビニル樹脂製の農業用フィルム(ブランク用フィルム)のそれぞれに、厚み方向から人工光源光(キセノンライプ、500W)を照射し、透過した光の照度を照度計(マザーツール社製、商品名「LX-105」)を用いて測定した。ブランク用フィルムについて測定された透過する光の強さ(A)に対する試験フィルムについて測定された透過する光の強さ(B)、すなわち(1-B/A)×100の値(%)(遮光率(%)と呼ぶ)を特定した。なお、本発明において、農業用遮光剤の散布直後の遮光率としては、10~50%程度であれば実用性ありと判断する。
【0050】
〔遮光性:3ヶ月後、6ヶ月後〕
得られた試験フィルムを設置面に対し30度の傾斜をつけた台に遮光面を表面にして貼り付け、屋外(自然の雨が当たらず、なおかつ日光が十分当たる環境)に放置した。このとき、1週間毎に6ml/cm2の水(試験フィルムの面積は400cm2であるので、2400mlとなる。)を試験フィルム全面に如雨露を用いて散布し、これを6ヶ月間繰り返し、3ヶ月後と6ヶ月後の遮光率を測定した。これは、降水量の多い高知県の2014年度年間降水量3659mmを参考とし、年間降水量を3000mmと想定して、自然の降雨でどれだけ遮光層が流れ落ちるのかを評価したものである。
なお、本発明において、6ヶ月後の遮光率が散布直後の65%以下であれば遮光層が落ちやすいと判断し、50%以下であることが好ましい。
【0051】
【0052】
【0053】
表1より、実施例1~7の農業用遮光剤は、着色剤の分散性に優れており、使用時の希釈作業を必要とせず、そのままシート材の表面に散布して遮光層を形成することができた。
また、本発明では、6か月後の遮光率が散布直後の65%以下となり、落ちやすい遮光層が得られることが分かった。なお、実施例4では、3か月後の遮光率が6%と低いものであるが、遮光性を維持する期間が1か月と短期間でも使用することができるものが得られた。
【0054】
表2より、比較例1は、分散剤を含んでいないので、着色剤が凝集してしまい混ざりにくい状態となってしまい、再度撹拌しても均一に分散するには時間がかかってしまった。
比較例2では、着色剤が少なすぎて所望の遮光性が得られず、また比較例3のように着色剤が多すぎると、農業用遮光剤の粘度が高すぎて、散布することができなかった。
比較例4は、水系バインダーを含まない例であり、遮光層がフィルム上に定着せず所望の遮光性が得られなかった。
比較例5は、水系バインダーの添加量が多く粘度が高いものであり、散布はできるものの、6か月経過しても遮光層が落ち難いものであった。
比較例6は、比較例5よりも分散剤の添加量を増加しても、粘度が高く6か月経過しても遮光層が落ち難いものであった。