(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/282 20060101AFI20240604BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20240604BHJP
H01B 13/32 20060101ALI20240604BHJP
H01B 13/24 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H01B7/282
H01B7/18 H
H01B13/32
H01B13/24 Z
(21)【出願番号】P 2020112177
(22)【出願日】2020-06-29
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 晋太郎
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-220073(JP,A)
【文献】特開平10-042416(JP,A)
【文献】特開2003-334480(JP,A)
【文献】特表2009-503765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/282
H01B 7/18
H01B 13/32
H01B 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体上に、絶縁体と、シースと、を順次備え、
該シースは、
潤滑剤を含有する発泡セルが複数形成される潤滑層を備え
、
前記シースは、
該シースの内側に配置される内層と、
該内層の外周に被覆形成される外層と、
を備え、
前記外層が前記潤滑層として形成される
ことを特徴とするケーブル。
【請求項2】
請求項
1に記載のケーブルにおいて、
前記発泡セルを有しない前記内層の厚さが、前記シースの厚さの80%以上、且つ、90%以下である
ことを特徴とするケーブル。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のケーブルにおいて、
前記シース
の外周面に、撥水性を有する被膜が形成される
ことを特徴とするケーブル。
【請求項4】
請求項1、2
又は3に記載のケーブルにおいて、
前記発泡セルは、
このセル径が、少なくとも前記潤滑剤が浸入可能な大きさ以上、且つ、120μm以下となるように形成される
ことを特徴とするケーブル。
【請求項5】
導体上に、絶縁体と、
内層及び外層を有するシースと、を順次被覆する工程と、
該シース
の前記外層を発泡させる工程と、
発泡させた該シース
の前記外層に潤滑剤を含浸させ潤滑層を形成する工程と、
を含む
ことを特徴とするケーブルの製造方法。
【請求項6】
導体上に、絶縁体と、
内層及び外層を有するシースと、を順次被覆する工程と、
該シース
の前記外層を発泡させる工程と、
を含み、
該シースを被覆する工程では、
該シース
の前記外層の材料に潤滑剤を混合させ、発泡させた前記シース
の前記外層に前記潤滑剤を含浸させた潤滑層を形成する
ことを特徴とするケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁体への浸水をし難くするケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、架橋ポリエチレン等を絶縁体に用いたケーブルの技術としては、例えば、特許文献1に開示されているような技術が知られている。特許文献1の
図5に図示するケーブル1は、CVケーブル(高圧CVケーブル)とも呼ばれているものである。ケーブル1は、導体2上に内部半導電層3を被覆し、その上に架橋ポリエチレン等にて成形される絶縁体4が押出し被覆されている。さらに、この絶縁体4上に外部半導電層5が被覆されており、この外部半導電層5上に銅テープ等の銅遮蔽層6が形成され、この銅遮蔽層6上にポリ塩化ビニル等にて成形されるシース7が被覆されている。
【0003】
ところで、上記ケーブル1が水分のある環境に敷設された場合、ケーブル1内(絶縁体4)に浸水し、絶縁体4に水トリーが発生する虞があった。このように、絶縁体4に水トリーが発生した場合、特許文献1に開示されたケーブル1では、絶縁抵抗が低下する虞があるというような問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような問題点を有する特許文献1の技術に代わるケーブル(遮水ケーブル)の技術としては、例えば、本特許出願の
図6に図示するケーブル100(従来技術1)や、本特許出願の
図7に図示するケーブル200(従来技術2)のようなものが一般的に知られている。なお、「遮水ケーブル」とは、ケーブル内(絶縁体)へ浸水し難くなる構造を備えるケーブルである。
【0006】
図6に図示するケーブル100は、金属外装(金属コルゲート)108による遮水構造を備えている。ケーブル100は、導体101上に、内部半導電層102と、絶縁体103と、外部半導電層104と、遮蔽層105(特許文献1における銅遮蔽層6に相当するもの)と、押さえ巻きテープ106と、シース107と、金属外装108と、を順次備えている。
【0007】
図7に図示するケーブル200は、金属ラミネートテープの遮水層207による遮水構造を備えている。ケーブル200は、導体201上に、内部半導電層202と、絶縁体203と、外部半導電層204と、遮蔽層205(特許文献1における銅遮蔽層6に相当するもの)と、押さえ巻きテープ206と、遮水層207と、シース208と、を順次備えている。遮水層207は、金属ラミネートテープを「縦添え巻き」にて施され、重なり部209が形成されている。重なり部209は、金属ラミネートテープの周方向における一端と他端とが重なり合い融着されてなる部分である。
【0008】
ところで、
図6に図示するケーブル100では、金属外装108を備えているため、曲げ難く、また、端末処理の際に金属外装108を取り除く必要があった。したがって、ケーブル100では、この敷設作業における施工性が低下する虞があるというような問題点があった。
【0009】
その他、ケーブル100では、金属外装108の製造が難しいという問題点があった。したがって、ケーブル100では、この製造効率が低下する虞があるというような問題点があった。
【0010】
一方、
図7に図示するケーブル200では、シース208の下に金属ラミネートテープの遮水層207を備えるため、ケーブル100(
図6参照)に比べて、曲げ易く、また、端末処理も簡易に行うことができる。したがって、ケーブル200によれば、この敷設作業における施工性がケーブル100よりも向上すると言える。
【0011】
しかしながら、ケーブル200では、ケーブル200の曲げにより遮水層207の重なり部209に皺が発生し易いことや、重なり部209の融着が不足していることにより、遮水性能にばらつきがあった。したがって、ケーブル200では、絶縁体203へ浸水し易くなる虞があるという問題点があった。
【0012】
その他、ケーブル200では、例えば、金属ラミネートテープを巻き付ける際、重なり部209における遮水性能が低下しないように金属ラミネートテープの周方向における一端と他端とを融着させなければならない等の注意が必要であり、製造が難しいという問題点があった。したがって、ケーブル200では、ケーブル100(
図6参照)と同様、ケーブル200に係る製造効率が低下する虞があるというような問題点があった。
【0013】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、従来技術よりも、絶縁体への浸水をし難くすることができるケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明のケーブルは、導体上に、絶縁体と、シースと、を順次備え、該シースは、潤滑剤を含有する発泡セルが複数形成される潤滑層を備え、前記シースは、該シースの内側に配置される内層と、該内層の外周に被覆形成される外層と、を備え、前記外層が前記潤滑層として形成されることを特徴とする。
【0015】
上記(1)のような特徴を有する本発明によれば、シースに潤滑層を備えることから、シースは、撥水性と、潤滑性と、を有することになる。シースが撥水性を有することにより、本発明に係るケーブルが水分のある場所に敷設された場合であっても絶縁体へ浸水し難くなる。
【0016】
また、本発明によれば、シースが潤滑性を有することにより、シースの滑り性が良好になり、ケーブルを敷設する際、敷設面を滑り易くすることができる。したがって、ケーブルの敷設作業における施工性が従来技術よりも向上する。
【0017】
また、本発明によれば、従来技術における金属外装(金属コルゲート)や金属ラミネートテープ等を用いず、シースによって絶縁体への浸水の防止を図っているため、ケーブルの可撓性が良好で、端末処理も簡易に行うことができる。したがって、この点からも、ケーブルの敷設作業における施工性が従来技術よりも向上する。
【0019】
また、本発明によれば、シースにおける外層が、潤滑剤を含有する発泡セルを複数有する潤滑層(発泡層)となるため、内層が、発泡セルを有しない層(無発泡層)として形成される。シースが上記無発泡層を有することにより、シースに要求される引張特性が維持されるとともに、潤滑剤によるシースの劣化が防止される。
【0020】
(2)請求項2記載の本発明のケーブルは、請求項1に記載のケーブルにおいて、前記発泡セルを有しない前記内層の厚さが、前記シースの厚さの80%以上、且つ、90%以下であることを特徴とする。
【0021】
上記(2)のような特徴を有する本発明によれば、シースにおける潤滑剤を含有する発泡セルを有しない層(無発泡層)の厚さが、シースの厚さの80%以上、且つ、90%以下となるため、シースに要求される引張特性が維持されることが、より明確になるとともに、潤滑剤によるシースの劣化が防止されることが、より明確になる。
【0022】
(3)請求項3記載の本発明のケーブルは、請求項1又は2に記載のケーブルにおいて、前記シースの外周面に、撥水性を有する被膜が形成されることを特徴とする。
【0023】
上記(3)のような特徴を有する本発明によれば、シースの外周面に、撥水性を有する被膜が形成されるため、この被膜により、シースに水が付着しても絶縁体へ浸水し難くなる。シースの外周面に上記被膜が形成された場合、シースの外周面に水が付着しても、被膜にて水がはじかれることにより、水がシースの外周面を滑落する。したがって、シースの外周面においてケーブル内への浸水の防止を図ることができる。
【0024】
(4)請求項4記載の本発明のケーブルは、請求項1、2又は3に記載のケーブルにおいて、前記発泡セルは、このセル径が、少なくとも前記潤滑剤が浸入可能な大きさ以上、且つ、120μm以下となるように形成されることを特徴とする。
【0025】
上記(4)のような特徴を有する本発明によれば、潤滑層における発泡セルのセル径が、少なくとも潤滑剤が浸入可能な大きさ以上、且つ、120μm以下となることにより、潤滑層に浸透した潤滑剤を十分にシースの外周面に留めることが可能になる。したがって、潤滑剤を十分にシースの外周面に留めることにより、シースの撥水性が十分に発揮される。
【0026】
(5)上記課題を解決するためになされた請求項5記載の本発明のケーブルの製造方法は、導体上に、絶縁体と、内層及び外層を有するシースと、を順次被覆する工程と、該シースの前記外層を発泡させる工程と、発泡させた該シースの前記外層に潤滑剤を含浸させ潤滑層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0027】
(6)上記課題を解決するためになされた請求項6記載の本発明のケーブルの製造方法は、導体上に、絶縁体と、内層及び外層を有するシースと、を順次被覆する工程と、該シースの前記外層を発泡させる工程と、を含み、該シースを被覆する工程では、該シースの前記外層の材料に潤滑剤を混合させ、発泡させた前記シースの前記外層に前記潤滑剤を含浸させた潤滑層を形成することを特徴とする。
【0028】
上記(5)、(6)のような特徴を有する本発明によれば、シースの外層に潤滑層が形成されることから、撥水性と、潤滑性と、を有するシースを備えるケーブルを製造することができる。シースの外層が撥水性を有することにより、製造されたケーブルが水分のある場所に敷設された場合であっても絶縁体へ浸水し難くなる。
【0029】
また、本発明によれば、シースが潤滑性を有することにより、シースの滑り性が良好になり、ケーブルを敷設する際、敷設面を滑り易いケーブルを製造することができる。したがって、敷設作業における施工性が従来技術よりも向上するケーブルが得られる。
【0030】
また、本発明によれば、従来技術における金属外装(金属コルゲート)や金属ラミネートテープ等を用いずに、シースによって絶縁体への浸水の防止を図ることができるケーブルを製造することができるため、可撓性が良好で、端末処理も簡易に行うことができるケーブルが得られる。したがって、この点からも、ケーブルの敷設作業における施工性が従来技術よりも向上するケーブルが得られる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、従来技術よりも、絶縁体への浸水をし難くすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に係るケーブルの実施例を示す図であって、ケーブルの端末の部分破断斜視図である。
【
図3】
図2における矢印Bの指示する仮想線で囲んだ部分を拡大した断面図である。
【
図4】本発明に係るケーブルの製造方法を説明する図であり、(a)はシースの外層を発泡させた状態を示すシースの部分断面図、(b)は(a)に図示するシースの外層に潤滑剤を含浸させる作業を説明する図である。
【
図5】本発明に係るケーブルが水分のある環境に敷設された場合における作用を説明する図である。
【
図6】従来技術1に係るケーブルを示す図であって、ケーブルの端末の部分破断斜視図である。
【
図7】従来技術2に係るケーブルを示す図であって、ケーブルの端末の部分破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、
図1-
図5を参照しながら、本発明に係るケーブルの実施例について説明する。
【実施例】
【0034】
図1は本発明に係るケーブルの実施例を示す図であって、ケーブルの端末の部分破断斜視図、
図2は
図1におけるA-A間断面図、
図3は
図2における矢印Bの指示する仮想線で囲んだ部分を拡大した断面図、
図4は本発明に係るケーブルの製造方法を説明する図であり、(a)はシースの外層を発泡させた状態を示すシースの部分断面図、(b)は(a)に図示するシースの外層に潤滑剤を含浸させる作業を説明する図、
図5は本発明に係るケーブルが水分のある環境に敷設された場合における作用を説明する図である。
【0035】
以下の説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等に合わせて適宜変更することができるものとする。
【0036】
図1及び
図2において、引用符号1は、本発明に係るケーブルの実施例を示している。ケーブル1は、所謂、CVケーブル(高圧CVケーブル)とも呼ばれているものであり、後述する絶縁体4へ浸水し難くなる構造を備える遮水ケーブルである。以下、本明細書では、ケーブル1のことを、適宜、「遮水ケーブル」や「CVケーブル(高圧CVケーブル)」と呼んでもよいものとする。
【0037】
図1及び
図2に図示するケーブル1は、導体2と、内部半導電層3と、絶縁体4と、外部半導電層5と、遮蔽層6と、押さえ巻きテープ7と、シース8と、を備えている。以下、ケーブル1の各構成について説明する。
【0038】
まず、導体2について説明する。
図1及び
図2に図示する導体2は、電流供給を行うものであり、公知のものが採用されている。
【0039】
つぎに、内部半導電層3について説明する。
図1及び
図2に図示する内部半導電層3は、導電性を付与した樹脂組成物を導体2の外周に押し出し成形することにより所定の厚さで形成されている。内部半導電層3を形成する導電性を付与した樹脂組成物としては、例えば、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体やエチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン系共重合体等のオレフィン系樹脂を主材とし、これにファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電性カーボンブラックを配合したものが挙げられる。
【0040】
つぎに、絶縁体4について説明する。
図1及び
図2に図示する絶縁体4は、絶縁性を有する樹脂を内部半導電層3の外周に押し出し成形することにより所定の厚さで形成されている。上記絶縁性を有する樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレンプロピレン共重合体等が挙げられる。
【0041】
つぎに、外部半導電層5について説明する。
図1及び
図2に図示する外部半導電層5は、例えば、導電性を付与した繊維質(布)テープである半導電テープを絶縁体4の外周にテープ巻きにて巻き付ける、又は、内部半導電層3と同様の導電性を付与した樹脂組成物を絶縁体4の外周に押し出し成形することにより所定の厚さで形成されている。なお、上記2つを組み合わせたもので形成されていてもよいものとする。
【0042】
つぎに、遮蔽層6について説明する。
図1及び
図2に図示する遮蔽層6は、例えば、銅テープ等の金属テープにて形成されている。遮蔽層6は、外部半導電層5の外周に上記銅テープ等の金属テープをテープ巻きすることにより所定の厚さで形成されている。遮蔽層6の形成にあたり、外部半導電層5の外周に金属テープがテープ巻きされることにより、ケーブル1を曲げた際のケーブル1の可撓性に影響を来すことがなくなる。ケーブル1は、遮蔽層6を備えることから、シールド性能を得ることができる。
【0043】
つぎに、押さえ巻きテープ7について説明する。
図1及び
図2に図示する押さえ巻きテープ7は、遮蔽層6の外周に巻き付けられるものである。押さえ巻きテープ7としては、例えば、ポリエステル不織布、ナイロン不織布、ポリプロピレンテープ、ポリエステルテープ、ガラステープ、紙テープ、セラミックス紙等が挙げられる。
【0044】
つぎに、シース8について説明する。
図1及び
図2に図示するシース8は、ケーブル1の最外層を構成するものであり、本発明の特徴的な部分である。シース8は、
図1及び
図2に図示するように、内層9と、外層10と、の二層構造を備えている。なお、
図2において、引用符号11は、内周面、引用符号12は、外周面を、それぞれ示している。
【0045】
図2に図示する内層9は、シース8のうち、ケーブル1の中心軸側(導体2側)に配置される層であり、「第一層」と呼んでもよいものとする。
図2に図示する外層10は、シース8のうち、内層9の外側に配置される層であり、「第二層」と呼んでもよいものとする。以下、内層9と、外層10について、それぞれ説明する。
【0046】
まず、内層9について説明する。
本実施例において、
図1及び
図2に図示する内層9は、絶縁性を有する樹脂を押さえ巻きテープ7の外周に押し出し成形することにより所定の厚さで形成されている。本実施例における内層9は、後述する発泡セル13(
図3参照)を有しない層として形成されるものであり、「無発泡層」と呼ぶことができる。上記絶縁性を有する樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂や塩化ビニル系樹脂が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂の具体例は、絶縁体4と同様である。塩化ビニル系樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂が挙げられる。
【0047】
ここで、本実施例における内層9は、この厚さが、シース8全体の厚さの80%以上、且つ、90%以下となるように形成されている。本実施例において、内層9は、この厚さが、シース8全体の厚さの80%となるように形成されている。
【0048】
上記の通り、シース8における内層9(無発泡層)の厚さを、シース8の厚さの80%以上、且つ、90%以下とするのは、シース8に要求される引張特性を維持するためであるとともに、後述するように潤滑剤15を外層10に含浸させた場合(
図3参照)における、潤滑剤15によるシース8の劣化が防止するためである。
【0049】
つぎに、外層10について説明する。
本実施例において、
図1及び
図2に図示する外層10は、特許請求の範囲に記載される「潤滑層」に相当するものである。本実施例における外層10は、「発泡層」と呼ぶことができる。外層10は、絶縁性を有する樹脂を内層9の外周に押し出し成形することにより所定の厚さで形成されている。
【0050】
上記絶縁性を有する樹脂としては、絶縁体4や内層9と同様、ポリオレフィン系樹脂や塩化ビニル系樹脂が挙げられる(ポリオレフィン系樹脂や塩化ビニル系樹脂の具体例は、絶縁体4や内層9と同様である)。外層10は、上記ポリオレフィン系樹脂や塩化ビニル系樹脂に発泡剤を配合することにより発泡させるものとする。
【0051】
上記発泡剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム等の無機発泡剤や、アゾ化合物、スルホヒドラジド化合物、ニトロソ化合物、アジド化合物等の有機発泡剤を好適に用いることができる。発泡剤の樹脂への配合は、樹脂に、発泡剤を直接練り込むことにより行われる。その他、予め、発泡剤を含むマスターバッチを調製し、このマスターバッチと、樹脂と、を混練することにより行ってもよいものとする。また、必要に応じて、適当な発泡促進剤を併用してもよいものとする。
【0052】
本実施例における外層10は、
図3に図示するように、この内部に、外層10の全体にわたって複数(多数)の発泡セル13が形成されている。また、本実施例における外層10は、
図3に図示するように、この外周面(シース8の外周面12)に被膜14が形成されている。
【0053】
図3に図示する発泡セル13は、外層10を形成する樹脂を発泡剤にて発泡させることによって生じた気泡からなる断面楕円形の空間(空孔)である。なお、発泡セル13の断面形状は、略円形であってもよいものとする。
【0054】
発泡セル13は、
図3に図示するように、潤滑剤15(潤滑油)を含有している。潤滑剤15は、撥水性と、潤滑性と、を有するものである。本実施例において、潤滑剤15としては、例えば、SOLVAY社製「フォンブリン(登録商標)PFPE(パーフルオロポリエーテル)」が挙げられる。
【0055】
発泡セル13は、
図3に図示するセル径D(本実施例においては、発泡セル13の長径)が120μm以下となるように形成されている。発泡セル13のセル径Dの下限値は、特に限定しないが、少なくとも、発泡セル13内に潤滑剤15が浸入可能な大きさ(径)であるものとする。
【0056】
上記の通り、発泡セル13のセル径Dを120μm以下とするのは、セル径Dが120μm以下の発泡セル13を形成することにより、外層10に浸透した潤滑剤15を十分にシース8の外周面12に留めることが可能となるからである。ここで、発泡セル13のセル径Dが120μmを超えると、潤滑剤15が外層10に浸透し易くなるが、潤滑剤15を十分にシース8の外周面12に留めておけず、シース8の撥水性が十分に発揮されない虞がある。
【0057】
図3に図示する被膜14は、撥水性を有するものであり、外層10の形成後、又は、外層10の形成時、この外層10に潤滑剤15を含浸させることで、時間の経過とともにシース8の外周面12に形成される膜である。
【0058】
図3に図示するように、シース8の外周面12に被膜14が形成されることにより、シース8の外周面12に水滴16(
図5参照)が付着しても、被膜14にて水滴16がはじかれることにより、水滴16がシース8の外周面12を滑落することとなる。
【0059】
つぎに、本実施例に係るケーブル1の製造工程(製造方法)について説明する。
まず、導体2上に、内部半導電層3と、絶縁体4と、外部半導電層5と、遮蔽層6と、を順次形成する。
【0060】
外部半導電層5は、絶縁体4の外周に半導電テープをテープ巻きにて巻き付ける、又は、導電性を付与した樹脂組成物を押し出し成形することで形成する。遮蔽層6は、外部半導電層5の外周に銅テープ等の金属テープをテープ巻きにて巻き付けて形成する。遮蔽層6の形成後、遮蔽層6の外周に押さえ巻きテープ7をテープ巻きにて巻き付ける。
【0061】
しかる後、シース8(内層9、及び、外層10)を形成する。シース8の形成は、押さえ巻きテープ7の巻き付け後、押さえ巻きテープ7の外周に二層押出成形によって行う。
【0062】
しかる後、シース8の外層10を発泡させる。ここで、シース8を押出成形する際に、外層10の材料となる樹脂に、発泡剤を直接練り込むことにより、又は、予め、発泡剤を含むマスターバッチを調製し、このマスターバッチを混練する等により、外層10が発泡し、多数の発泡セル13が形成される(
図4(a)参照)。
【0063】
上記シースの形成により、ケーブル1が形成される。シース8の押出成形後、ケーブル1を冷却水に浸漬する(例えば、冷却用水槽内を通過させる)ことにより冷却させ、外層10の発泡を停止させる。
【0064】
外層10の発泡を停止させた後、ケーブル1(シース8)を乾燥させ、ケーブル1を冷却水に浸漬した際、外層10の発泡セル13内に浸入した冷却水を除去し、発泡セル13内を空(から)の状態にする。
【0065】
ケーブル1(シース8)の乾燥が完了した後、シース8の外周面12にケーブル1の周方向全体にわたって万遍なく潤滑剤15を噴霧し、外層10に潤滑剤15を含浸させる(
図4(b)参照)。潤滑剤15の噴霧は、ノズル17をシース8の外周面12に近づけて行う。
【0066】
なお、本実施例において、外層10への潤滑剤15の含浸は、上記の通り、潤滑剤15を噴霧することにより行っているが、これに限定されるものではない。その他、例えば、ケーブル1を潤滑剤15に浸漬する(例えば、潤滑剤槽内を通過させる)ことにより、外層10に潤滑剤15を含浸させてもよいものとする。また、シース8を押出成形する際に、外層10の材料となる樹脂に、発泡剤とともに、潤滑剤15を混合させてもよいものとする。
【0067】
外層10に潤滑剤15が十分に含浸させることにより、発泡セル13内に潤滑剤15が含有され、潤滑剤15が十分にシース8の外周面12に留められる。これにより、シース8の外周面12に被膜14が形成される(
図3参照)。以上により、ケーブル1の製造が完了する。
【0068】
つぎに、本実施例に係るケーブル1が水分のある場所に敷設された場合や、ケーブル1の敷設作業における本発明の作用について説明する。
以上のような本実施例に係るケーブル1によれば、シース8に外層10(潤滑層)を備えることから、シース8は、撥水性と、潤滑性と、を有することになる。シース8が撥水性を有することにより、ケーブル1が水分のある場所(
図5に図示するような水滴16がケーブル1に付着してしまうような場所)に敷設された場合であっても絶縁体4へ浸水し難くなる。
【0069】
また、本実施例に係るケーブル1によれば、シース8が潤滑性を有することにより、シース8の滑り性が良好になり、ケーブル1を敷設する際、敷設面を滑り易くすることができる。したがって、ケーブル1の敷設作業における施工性が従来技術よりも向上する。
【0070】
また、本実施例に係るケーブル1によれば、従来技術1(
図6参照)における金属外装(金属コルゲート)108や、従来技術2(
図7参照)における金属ラミネートテープの遮水層207等を用いず、シース8によって絶縁体4への浸水の防止を図っているため、ケーブル1の可撓性が良好で、端末処理も簡易に行うことができる。したがって、この点からも、ケーブル1の敷設作業における施工性が従来技術よりも向上する。
【0071】
また、本実施例に係るケーブル1によれば、シース8における外層10が、潤滑剤15を含有する発泡セル13を複数有する潤滑層(発泡層)となるため、内層9が、発泡セル13を有しない層(無発泡層)として形成される。シース8が上記内層9(無発泡層)を有することにより、シース8に要求される引張特性が維持されるとともに、潤滑剤15によるシース8の劣化が防止される。
【0072】
また、本実施例に係るケーブル1によれば、シース8における内層9の厚さが、シース8の厚さの80%以上、且つ、90%以下となるため、シース8に要求される引張特性が維持されることが、より明確になるとともに、潤滑剤15によるシース8の劣化が防止されることが、より明確になる。
【0073】
また、本実施例に係るケーブル1によれば、シース8の外周面12に被膜14が形成されるため、この被膜14により、
図5に図示するように、シース8に水滴16が付着しても絶縁体4(
図1及び
図2参照)へ浸水し難くなる。なお、シース8の外周面12に上記被膜14が形成された場合、シース8の外周面12に水滴16が付着しても、被膜14にて水滴16がはじかれることにより、水滴16がシース8の外周面12を滑落する。したがって、シース8の外周面12においてケーブル1内への浸水の防止を図ることができる。
【0074】
また、本実施例に係るケーブル1によれば、外層10における発泡セル13のセル径D(
図3参照)が、少なくとも潤滑剤15が浸入可能な大きさ以上、且つ、120μm以下となることにより、外層10に浸透した潤滑剤15を十分にシース8の外周面12に留めることが可能になる。したがって、潤滑剤15を十分にシース8の外周面12に留めることにより、シース8の撥水性が十分に発揮される。
【0075】
つぎに、本実施例に係るケーブル1の効果について説明する。
以上、
図1-
図5を参照しながら説明してきたように、本実施例に係るケーブル1によれば、従来技術よりも、絶縁体4への浸水をし難くすることができるという効果を奏する。
【0076】
つぎに、特許請求の範囲に記載以外の特徴について説明する。
特許請求の範囲に記載された本発明に係るケーブル1は、下記(1)~(5)のような内容を特徴とする。
【0077】
(1)ケーブル1は、「導体2上に、絶縁体4と、シース8と、を順次備え、該シース8は、潤滑剤15を含有する発泡セル13が複数形成される潤滑層を備える」ことを特徴とする。
【0078】
(2)ケーブル1は、「上記(1)に記載のケーブル1において、前記シース8は、該シース8の内側に配置される内層9と、該内層9の外周に被覆形成される外層10と、を備え、前記内層9と前記外層10とのいずれか一方が前記潤滑層として形成される」ことを特徴とする。
【0079】
(3)ケーブル1は、「上記(2)に記載のケーブル1において、前記内層9と前記外層10のいずれか一方が前記潤滑層として形成されたとき、前記内層9と前記外層10のいずれか他方は、この厚さが、前記シース8の厚さの80%以上、且つ、90%以下である」ことを特徴とする。
【0080】
(4)ケーブル1は、「上記(1)、(2)又は(3)に記載のケーブル1において、前記シース8は、この内周面11と外周面12の少なくとも、いずれか一方に、撥水性を有する被膜14が形成される」ことを特徴とする。
【0081】
(5)ケーブル1は、「上記(1)、(2)、(3)又は(4)に記載のケーブル1において、前記発泡セル13は、このセル径Dが、少なくとも前記潤滑剤15が浸入可能な大きさ以上、且つ、120μm以下となるように形成される」ことを特徴とする。
【0082】
本発明に係るケーブル1は、上記(1)~(5)のような内容の他、下記(6)のような内容を特徴とする。
【0083】
(6)ケーブル1は、「上記(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)に記載のケーブル1において、当該ケーブル1は、前記絶縁体4と前記シース8との間に遮蔽層6を備える」ことを特徴とする。
【0084】
上記(6)のような内容を特徴とするケーブル1の効果について説明する。
すなわち、ケーブル1によれば、上記説明した実施例と同様の効果を奏する他、遮蔽層6を備えることからケーブル1にシールド性能を付与することができるという効果を奏する。
【0085】
この他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【0086】
上記説明では、ケーブル1(
図1参照)は、
図3に図示するように、シース8の外層10が、潤滑剤15を含有する発泡セル13が複数形成される「潤滑層」として形成されているが、これに限らず、下記のような構成にしてもよいものとする。
【0087】
すなわち、本発明に係るケーブルは、特に図示しないが、シースの内層が、潤滑剤を含有する発泡セルが複数形成される「潤滑層」として形成される構成を採用してもよいものとする。なお、内層が上記潤滑層として形成される場合、特に図示しないが、シースの外層は、この厚さが、シース全体の厚さの80%以上、且つ、90%以下となるように形成されるものとする。
【0088】
上記のような構成を採用した場合、撥水性を有する被膜は、シースの内周面に形成されるものとする。シースの内周面に被膜が形成されることにより、シースの外層に浸水したとしても、内層、及び、被膜にて、それ以上の浸水の防止を図ることができる。したがって、上記のような構成を備えるケーブルによれば、上記説明した実施例と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0089】
1…ケーブル、 2…導体、 3…内部半導電層、 4…絶縁体、 5…外部半導電層、 6…遮蔽層、 7…押さえ巻きテープ、 8…シース、 9…内層、 10…外層(潤滑層)、 11…内周面、 12…外周面、 13…発泡セル、 14…被膜、 15…潤滑剤、 16…水滴、 17…ノズル