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特許7498046含油排水のろ過装置及び含油排水のろ過膜の洗浄方法
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  • 特許-含油排水のろ過装置及び含油排水のろ過膜の洗浄方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】含油排水のろ過装置及び含油排水のろ過膜の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 65/06 20060101AFI20240604BHJP
   B63J 4/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B01D65/06
B63J4/00 A
B63J4/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020120091
(22)【出願日】2020-07-13
(65)【公開番号】P2022017034
(43)【公開日】2022-01-25
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 佳介
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-055236(JP,A)
【文献】特開2010-036183(JP,A)
【文献】特開2002-306935(JP,A)
【文献】特開2002-177746(JP,A)
【文献】特開平11-114384(JP,A)
【文献】特開2015-229146(JP,A)
【文献】特開2020-089852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
B63J4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含油排水が導入される膜浸漬槽と、前記膜浸漬槽に導入される含油排水に浸漬されて、前記含油排水をろ過するろ過膜と、前記ろ過膜の2次側に接続された吸引ラインと、前記吸引ラインに設けられろ過水を前記2次側に吸引する吸引ポンプと、前記吸引ポンプの下流側で前記吸引ラインから分岐し前記膜浸漬槽に接続された戻りラインと、前記戻りラインに接続された空気供給手段と、を有し、
前記吸引ラインと前記戻りラインは、前記ろ過膜と前記膜浸漬槽とに接続された循環ラインを構成し、
前記吸引ポンプは前記ろ過膜の1次側から前記2次側に洗浄液を透過させることによって前記ろ過膜を洗浄し、前記循環ラインは前記ろ過膜の前記2次側に透過した前記洗浄液を前記膜浸漬槽に戻し、
前記空気供給手段は、前記循環ラインに空気を供給することによって、前記ろ過膜の洗浄後に前記循環ラインに残った前記洗浄液を前記膜浸漬槽に押し出す、含油排水のろ過装置。
【請求項2】
前記ろ過膜の前記1次側または前記2次側に接続されたリンス手段を有し、
前記リンス手段は、前記空気供給手段で前記洗浄液を前記膜浸漬槽に押し出した後に、洗浄成分を含まない液体を前記ろ過膜の前記1次側または前記2次側から供給し、前記ろ過膜を透過させる、請求項に記載のろ過装置。
【請求項3】
前記膜浸漬槽の前記洗浄液の温度が30℃を上回り50℃以下となるように、前記洗浄液の温度を調整する温度調整手段を有する、請求項1または2に記載のろ過装置。
【請求項4】
前記含油排水は船舶のスクラバ排水である、請求項1からのいずれか1項に記載のろ過装置。
【請求項5】
含油排水が導入される膜浸漬槽と、前記膜浸漬槽に導入される含油排水に浸漬されて、前記含油排水をろ過するろ過膜と、前記ろ過膜の2次側に接続された吸引ラインと、前記吸引ラインに設けられろ過水を前記2次側に吸引する吸引ポンプと、前記吸引ポンプの下流側で前記吸引ラインから分岐し前記膜浸漬槽に接続された戻りラインと、前記戻りラインに接続された空気供給手段と、を有し、前記吸引ラインと前記戻りラインは、前記ろ過膜と前記膜浸漬槽とに接続された循環ラインを構成するろ過装置における前記ろ過膜の洗浄方法であって、
前記吸引ポンプで前記ろ過膜の1次側から前記2次側に洗浄液を透過させることによって前記ろ過膜を洗浄することと、
前記循環ラインによって、前記ろ過膜の前記2次側に透過した前記洗浄液を前記膜浸漬槽に戻すことと、
前記空気供給手段から前記循環ラインに空気を供給することによって、前記ろ過膜の洗浄後に前記循環ラインに残った前記洗浄液を前記膜浸漬槽に押し出すことと、を含む、含油排水のろ過膜の洗浄方法。
【請求項6】
前記洗浄液が前記ろ過膜を透過する流量は、前記含油排水が前記ろ過膜でろ過されるろ過流量より小さい、請求項に記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記吸引ポンプによって前記ろ過膜に前記洗浄液を透過させた後、前記吸引ポンプを停止し、前記ろ過膜を前記洗浄液に浸漬させる、請求項5または6に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含油排水のろ過装置及び含油排水のろ過膜の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含油排水をろ過して減量化する技術が知られている。含油排水の一例として、船舶の排ガススクラバから排出されるスクラバ排水が挙げられる。含油排水は高粘度である場合があり、ろ過膜でろ過を行うと、膜面に油分と懸濁物質から構成される含油固形物(ケーキともいう)が付着することがある。含油固形物は徐々に圧密され膜閉塞が進行するため、定期的にろ過膜の洗浄をすることが望ましい。特許文献1には、ろ過膜を塩素酸と界面活性剤の混合液に浸漬させる工程を有する、ろ過膜の洗浄方法が開示されている。特許文献2には、透過膜を界面活性剤含有アルカリ水に浸漬させる工程と、その後透過膜をシュウ酸に浸漬させる工程と、を有する透過膜の洗浄方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-031839号公報
【文献】特開2016-185514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高濃度の含油排水をろ過したろ過膜の場合、洗浄によってろ過膜の透水性が十分に回復しないことがある。その原因の一つとして、含油排水の油分がろ過膜の内部の細孔に侵入し、2次側に到達することが考えられる。この場合、特許文献1,2に開示されるようにろ過膜を浸漬させるだけでは、十分な洗浄効果が得られないことがある。
【0005】
本発明は、洗浄性に優れた含油排水のろ過装置と、含油排水のろ過膜の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の含油排水のろ過装置は、含油排水が導入される膜浸漬槽と、膜浸漬槽に導入されて、含油排水をろ過する含油排水に浸漬されるろ過膜と、ろ過膜の2次側に接続された吸引ラインと、吸引ラインに設けられろ過水を2次側に吸引する吸引ポンプと、吸引ポンプの下流側で吸引ラインから分岐し膜浸漬槽に接続された戻りラインと、戻りラインに接続された空気供給手段と、を有し、吸引ラインと戻りラインは、ろ過膜と膜浸漬槽とに接続された循環ラインを構成している。吸引ポンプろ過膜の1次側から2次側に洗浄液を透過させることによってろ過膜を洗浄し、循環ラインはろ過膜の2次側に透過した洗浄液を膜浸漬槽に戻す。空気供給手段は、循環ラインに空気を供給することによって、ろ過膜の洗浄後に循環ラインに残った洗浄液を膜浸漬槽に押し出す。
【0007】
本発明の含油排水のろ過膜の洗浄方法は、含油排水が導入される膜浸漬槽と、膜浸漬槽に導入される含油排水に浸漬されて、含油排水をろ過するろ過膜と、ろ過膜の2次側に接続された吸引ラインと、吸引ラインに設けられろ過水を2次側に吸引する吸引ポンプと、吸引ポンプの下流側で吸引ラインから分岐し膜浸漬槽に接続された戻りラインと、戻りラインに接続された空気供給手段と、を有し、吸引ラインと戻りラインは、ろ過膜と膜浸漬槽とに接続された循環ラインを構成するろ過装置におけるろ過膜の洗浄方法である。本洗浄方法は、吸引ポンプでろ過膜の1次側から2次側に洗浄液を透過させることによってろ過膜を洗浄することと、循環ラインによって、ろ過膜の2次側に透過した洗浄液を膜浸漬槽に戻すことと、空気供給手段から循環ラインに空気を供給することによって、ろ過膜の洗浄後に循環ラインに残った洗浄液を膜浸漬槽に押し出すことと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、洗浄性に優れた含油排水のろ過装置と、含油排水のろ過膜の洗浄方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るろ過装置の構成と、通常運転時の含油排水及び処理水の流れを示す概略図である。
図2図1に示すろ過装置における簡易逆洗時の逆洗水及びリンス時のろ過水の流れを示す概略図である。
図3図1に示すろ過装置における洗浄時の洗浄液の流れを示す概略図である。
図4】実施例1と比較例1,2の洗浄効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明は含油排水をろ過するろ過装置に適用される。含油排水としては船舶の排ガススクラバ(図示せず)から排出されるスクラバ排水の他、食品工場から排出される油かすを含んだ廃液などが挙げられ、本発明は油分を含む液体に広く適用することができる。スクラバ排水は油分のほか懸濁物質(SS)も含んでいる。以下、油分とSSを油分等という。
【0011】
図1には、本発明の一実施形態に係るろ過装置1の概略構成図を示している。太線は通常運転時の含油排水及び処理水の流れを示す。含油排水のろ過装置1は、含油排水が導入される膜浸漬槽2と、膜浸漬槽2に収容されたろ過膜3と、を有している。ろ過膜3は膜浸漬槽2に導入される含油排水に浸漬され、この含油排水をろ過する。ろ過膜3は中空糸膜フィルタであり、複数の中空糸膜フィルタを束ねたバンドルが複数本、共通の上部支持部4Aと下部支持部4Bとの間に設けられている。ろ過膜3はケーシング等で覆われておらず、膜浸漬槽2の含油排水に対してむき出しの状態とされている。図1は概念図であり、2本のろ過膜3だけを図示している。ろ過膜3の材料としては親水性の高いものであれば限定されないが、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PES(ポリエーテルスルホン)、PAN(ポリアクリロニトリル)、CAなどが挙げられる。後述するように、本実施形態ではろ過膜3の洗浄にアルカリ性の洗浄液を使用するが、洗浄液のpHが11以上となるため、耐アルカリ性を有する有機膜が好ましく、12以上のpHでも膜劣化の生じにくいPTFE製の有機膜が特に好ましい。また、浸漬型のろ過膜3は、モジュール型のろ過膜と比べて配管閉塞の可能性が低く、より好ましい。
【0012】
膜浸漬槽2の頂部に洗浄液の原液(薬剤)の供給口5が設けられている。容器に入った洗浄液の原液は供給口5から膜浸漬槽2に供給される。膜浸漬槽2の側面に原液を希釈する希釈液を供給する希釈液供給ラインL8が接続されている。原液は希釈液で所定の濃度に希釈されて洗浄液となる。図示は省略するが、膜浸漬槽2の頂部または側面に洗浄液の供給ラインを設けてもよい。洗浄液(薬剤)としては界面活性剤と苛性ソーダの混合液が用いられる。界面活性剤には、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤があり、イオン性界面活性剤は、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤に分類される。本実施形態ではいずれの種類の界面活性剤も適用可能であるが、非イオン性界面活性剤またはアニオン界面活性剤が含油排水に含まれる油分等との親和性の観点から好ましい。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを主成分にしたもの(例えば、セドラン(三洋化成工業株式会社製)など)、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルやポリオキシエチレン脂肪酸モノエステルを主成分としたもの(例えば、イオネット(三洋化成工業株式会社製)など)が好ましく、アニオン界面活性剤としては、ドデシルジメチルアミンオキドやドデシル硫酸ナトリウムを主成分としたもの(例えば、MCL-20(住友電気工業株式会社製)など)が好ましい。また、非イオン性界面活性剤とアニオン界面活性剤とが含まれているもの(例えば、ピンク石鹸(monotaRO社製)など)も好ましい。
【0013】
ろ過膜3の外側からろ過膜3の側壁に接液する含油排水はろ過膜3の側壁でろ過され、油分等が側壁の外側に残存し、油分等が除去または低減されたろ過水がろ過膜3の内側空間に侵入する。以下の説明において、膜浸漬槽2の、ろ過膜3(中空糸膜フィルタ)の外側空間を1次側空間6といい、1次側という場合もある。ろ過膜3の内側空間を2次側空間7といい、2次側空間7と2次側空間7に接続された領域(吸引ラインL2など)を合わせて2次側という場合もある。膜浸漬槽2はろ過膜3の設置スペースよりも十分に大きな容積を有し、膜浸漬槽2とろ過膜3との間の空間が含油排水に含まれる高粘度の油成分で閉塞されることが防止される。膜浸漬槽2には含油排水を供給する含油排水供給ラインL1が接続されている。含油排水は一例では船舶のスクラバ装置から排出されるスクラバ排水である。含油排水供給ラインL1からは、ろ過膜3を含油排水で浸漬可能な量の含油排水が供給される。
【0014】
ろ過膜3の2次側空間7には吸引ラインL2が接続されている。吸引ラインL2にはろ過水を2次側に吸引するための吸引ポンプ8が設けられている。吸引ポンプ8は例えば真空ポンプである。吸引ラインL2からろ過水ラインL3が分岐しており、ろ過水ラインL3にろ過水タンク9が接続されている。ろ過水ラインL3には第1の弁V1が設けられている。ろ過水タンク9には逆洗ラインL4が接続されている。逆洗ラインL4には逆洗水を圧送するための逆洗ポンプ10と、第2の弁V2が設けられている。逆洗ラインL4はろ過膜3と吸引ポンプ8との間で吸引ラインL2に合流している。膜浸漬槽2の下部には内部の含油排水を排出するための排水ラインL5が設けられている。
【0015】
通常運転時に、ろ過装置1は以下のように作動する。第1の弁V1と第2の弁V2は閉じておく。排ガススクラバからの含油排水は含油排水供給ラインL1によって膜浸漬槽2に供給される。吸引ポンプ8の吸引力によって含油排水は1次側空間6から2次側空間7に移動しろ過水となり、油分等がろ過膜3に捕捉される。吸引ラインL2に導入されたろ過水は、所定の水質基準を満たすことが確認された後、系外に排出することができる。第1の弁V1を開くことによって、ろ過水の一部はろ過水ラインL3を通ってろ過水タンク9に貯蔵され、逆洗水として利用される。
【0016】
ろ過膜3の膜面に付着した油分等を除去する目的で、運転中に簡易逆洗を行うことが好ましい。具体的には、図2に示すように、第1の弁V1を閉じ、第2の弁V2を開けて、吸引ポンプ8を停止する。その後、一定時間逆洗ポンプ10を作動させて、太線で示すように、ろ過水タンク9に貯蔵されたろ過水を、逆洗ラインL4を通してろ過膜3の2次側に供給する。ろ過膜3の1次側の膜面に付着した油分等が剥離され、1次側空間6に放出される。このように通常運転(ろ過)と簡易逆洗をセットとして、これを繰り返すことでろ過膜3の性能を維持しながらろ過工程を行うことができる。ろ過水の塩濃度が高い場合、例えば総溶解固形分(TDS)が3%以上の場合、定常的な流れのないろ過水ラインL3や逆洗ラインL4で塩が析出する可能性がある。この場合、逆洗水として脱塩水を用いることもできる。
【0017】
しかしながら、簡易逆洗の効果は限定的であるため、ろ過膜3の1次側の膜面には時間とともに油分等がケーキ状に付着していく。このため、本実施形態では、ろ過膜3を洗浄するろ過膜3の洗浄手段11が設けられている。図3において、太線は洗浄時の洗浄液の流れ、すなわち洗浄液が循環する循環ラインCLを示す。洗浄手段11は、吸引ラインL2と、吸引ラインL2から分岐する戻りラインL6と、吸引ラインL2に設けられた吸引ポンプ8と、を備えている。吸引ポンプ8は通常運転時と洗浄時で共用しているため、本実施形態の洗浄を実施するためにポンプ台数が増えることはない。本実施形態では、ろ過膜3の2次側に設けられた吸引ポンプ8で洗浄液を吸引するため、洗浄液が負圧によって確実にろ過膜3を透過することが可能となる。戻りラインL6は膜浸漬槽2、すなわちろ過膜3の1次側と接続されている。吸引ラインL2と戻りラインL6は、洗浄液をろ過膜3の1次側から2次側に透過させ、ろ過膜3の2次側に透過した洗浄液を1次側に戻す循環ラインCLを形成する。戻りラインL6には第3の弁V3と第4の弁V4が設けられており、図1に示す通常運転時及び図2に示す簡易逆洗時には閉められているが、洗浄時には開かれる。戻りラインL6には第3の弁V3と第4の弁V4の間の位置で、空気供給ラインL7が合流している。
【0018】
洗浄は以下のステップで行う。まず、第1の弁V1と第2の弁V2を閉じ、逆洗ポンプ10を止め、第3の弁V3と第4の弁V4を開く。これによって、循環ラインCLが形成される。このステップの後(または、このステップの前あるいは同時でもよい)、排水ラインL5から膜浸漬槽2の含油排水の全量を排出する。次に、洗浄液の原液を供給口5から膜浸漬槽2に供給し、希釈液供給ラインL8から希釈液を供給し、膜浸漬槽2の内部に洗浄液を形成する。この様にして形成された洗浄液でろ過膜3を浸漬させる。含油排水を予め排出することで、高濃度の洗浄液をろ過膜3に接触させ、ろ過膜3の洗浄効果を高めることができる。なお、含油排水の一部だけを排出し、排出した含油排水と同程度の量の洗浄液を膜浸漬槽2に供給することもできる。
【0019】
次に、ろ過膜3の2次側に設けられた吸引ポンプ8を作動させ、洗浄液を循環ラインCLに沿って循環させる。吸引ポンプ8でろ過膜3の1次側から2次側に洗浄液を透過させることによって、ろ過膜3が洗浄される。含油排水を処理したろ過膜3では、通常は1次側の膜面に油分等が付着する。このため、従来は膜浸漬槽2の洗浄液でろ過膜3を浸漬させることで、ろ過膜3を洗浄していた。しかし、発明者は、特に高濃度の含油排水を処理したろ過膜3において、油分等が変形してろ過膜3の細孔に入り込み、さらに2次側に抜け、細孔内や2次側が油分等で汚染されることを見出した。このようにろ過膜3全体が油分等で汚染されると、従来の浸漬のみを用いた洗浄方法では、細孔内や2次側に付着した油分等を効率的に除去することが困難である。本実施形態では、吸引ポンプ8の吸引力によって強制的に、洗浄液をろ過膜3の1次側から2次側に透過させている。この結果、ろ過膜3の細孔に入り込んだ油分等や、2次側の膜面に付着した油分等のろ過膜3への付着力が低下し、油分等が剥離しやすくなる。洗浄液がろ過膜3を1次側から2次側に透過すること、すなわち洗浄液をろ過膜3の2次側の膜面に接触させることが重要であるので、洗浄液の透過流量は特に限定されず、通常運転時におけるろ過膜3の含油排水のろ過流量より小さくてよい。この結果、吸引ポンプ8の動力を削減することができる。本実施形態では洗浄液を循環させているため、洗浄液の量を削減することができるが、使用済みの洗浄液を再利用しないワンスルー方式を採用してもよい。
【0020】
洗浄効率を上げるため、膜浸漬槽2の洗浄液の温度は、好ましくは30℃を上回り50℃以下の範囲、より好ましくは35℃以上、45℃以下の範囲に調整することが望ましい。洗浄液をこのような温度範囲に調整することで、洗浄液の加水分解反応と界面活性剤の作用が促進される。また、油分等が軟化して剥離しやすくなる効果も得られる。この目的で、ろ過装置1は温度調整手段12を備えている。洗浄液の温度調整は、洗浄液の温度にもよるが、通常は加温によって行われる。従って、洗浄液の温度を調整する温度調整手段12は何らかの熱源、または熱源に接続された熱交換器である。船舶の場合、エンジン自体の熱、エンジン冷却水の熱、排気熱、脱硫排水の熱などエンジンに関連する熱源の他、ボイラなどを熱源として利用することができるため、熱交換器方式が好適に適用できる。媒体としては脱塩水や海水を用いることができる。短時間で膜浸漬槽2に温度調整された洗浄液を供給するためには、膜浸漬槽2に導入される希釈液を予め加熱することが好ましい。このため、本実施形態では希釈液供給ラインL8に熱交換器12を設けている。加熱に時間を要するが、膜浸漬槽2にヒータなどの熱源(図示せず)を設置してもよい。膜浸漬槽2が熱源から離れている場合、配管コストが高くなるため、この方式が有利となる場合もある。
【0021】
洗浄液による循環洗浄が終了したら吸引ポンプ8を停止し、ろ過膜3を洗浄液に浸漬させることが好ましい。浸漬を行うことにより、ろ過膜3に付着した油分等の剥離や溶出が促進され、洗浄効果が高められる。浸漬は好ましくは2~24時間程度、より好ましくは6~24時間程度行えばよく、上限時間は特にない。浸漬工程の終了後、再度吸引ポンプ8を起動し、循環運転を行ってもよい。これによって、浸漬で剥離、溶出した油分等をろ過膜3から除去することができる。
【0022】
その後、排水ラインL5によって、膜浸漬槽2から洗浄液を排出する。次に空気供給ラインL7から圧縮空気を供給し、循環ラインCLに残存する洗浄液を押し出し、膜浸漬槽2に排出する。圧縮空気の圧力は例えば50~100kPa程度が好ましい。循環ラインCLに接続された空気供給ラインL7と、空気供給ラインL7に接続された圧縮空気源14(圧縮空気タンク、コンプレッサ等)は空気供給手段13を構成する。第3の弁V3と第4の弁V4は開いているため、空気は空気供給ラインL7の戻りラインL6との合流部から戻りラインL6を両方向に進む。合流部より1次側の部分に残存する洗浄液は膜浸漬槽2に押し出され、合流部より2次側の部分に残存する洗浄液はろ過膜3を介して膜浸漬槽2に押し出される。この際、洗浄液はろ過膜3に対して逆洗と同様の作用を行う。このように、空気供給手段13は、循環ラインCLに空気を供給することによって、ろ過膜3の洗浄後に循環ラインCLに残った洗浄液を除去する。この工程を行うことで、次に実施するリンス工程をより効率的に行うことができる。なお、本工程は、膜浸漬槽2から洗浄液を排出する前、すなわち膜浸漬槽2に洗浄液が残った状態で実施することも可能である。
【0023】
次に、リンス工程を行う。図2に示すように、リンス工程は簡易逆洗と同様にして行う。第1の弁V1を閉じ、第2の弁V2を開き、簡易逆洗と同様、ろ過水タンク9からろ過水を膜浸漬槽2に供給する。ろ過膜3がろ過水で浸漬されたら逆洗ポンプ10を起動し、ろ過膜3の2次側から1次側にろ過水を通水する。これによって、洗浄で緩んだ汚れをろ過膜3から剥離し、除去することができる。また、ろ過膜3の1次側及び2次側や循環ラインCLに残った洗浄液を排出除去することができる。ろ過水タンク9と逆洗ラインL4と吸引ラインL2と逆洗ポンプ10は、リンス手段15を構成する。代替案として、希釈液供給ラインL8からろ過水を膜浸漬槽2に供給し、吸引ポンプ8によって、ろ過水をろ過膜3の1次側から2次側に通水することもできる。この場合の運転モードは、図1に示す通常運転時と同様となる。ろ過水は例えば、ろ過水タンク9から供給することができる。ただし、逆洗によってリンス工程を行うほうが、ろ過膜3のリンス効果は大きい。リンス水は洗浄成分を含まない限り特に限定されないので、含油排水をリンス水として用いることもできる。この場合のリンス運転は、洗浄後の通常運転と同じであるので、処理水の水質の確認後ただちに通常運転に移行することができる。このように、リンス工程において洗浄成分を含まない液体を1次側または2次側から供給し、ろ過膜3を透過させることができる限り、リンス手段15の構成は限定されない。
【0024】
(実施例)
油を30,000ppm、懸濁物質を30,000ppmの濃度で含んだ原水を約2週間、PTFE製のろ過膜に通水し、ろ過膜をほぼ閉塞状態とした。比較例1では、このろ過膜を20℃の洗浄液で浸漬させることによって、洗浄を行った。比較例2では、このろ過膜を40℃の洗浄液で浸漬させることによって、洗浄を行った。実施例1では、このろ過膜を40℃の洗浄液で通水させ、その後浸漬させることによって、洗浄を行った。洗浄には、界面活性剤を0.5%、苛性ソーダを1%含んだ洗浄液を用いた。結果を図4に示す。比較例2では洗浄液の温度が高いため、比較例1より良好な洗浄結果が得られた。実施例1では、洗浄液をろ過膜に通水させた効果と、洗浄液を加温した効果とによって、ほぼ初期透水性能を回復した。
【0025】
以上、本発明を実施形態と実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されない。例えば、ろ過膜3として無機膜を使用することができる。無機膜は親水性の膜であることが好ましい。膜浸漬槽2には一つまたは複数の無機膜がむき出しで収容される。無機膜はアルミナ、SiC(シリコンカーバイド)などでできた平膜であり、内部に含油排水の処理水が流通する複数の内部流路が形成されている。流路は無機膜の2次側空間7を形成する。流路の両端は無機膜の側面で開口しており、両端には集水管が接続されている。集水管は吸引ラインL2に接続されている。含油排水は無機膜の外表面から無機膜の無数の細孔を通って内部に浸透し、内部流路に排出される。粒径の大きな油分等は無機膜の外表面にとどまり、粒径の小さな油分等は細孔に捕捉され、内部流路には油分等が十分に除去された処理水(ろ過水)が集水される。このような無機膜も本発明の洗浄方法で洗浄することで、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0026】
本実施形態は含油排水をろ過するろ過膜を対象としているが、本発明は油分以外の高粘性物質を含む液体をろ過するろ過膜にも適用することができる。粘性の高い物質がろ過膜の膜面に付着すると本実施形態と同様、付着した物質による膜閉塞あるいは吸引圧力の増加が生じる。また、本実施形態では膜浸漬槽2を用いてろ過膜3の洗浄を行っているが、ろ過膜3の洗浄は専用の洗浄槽で行うこともできる。すなわち、ろ過膜3の洗浄を行うときはろ過膜3を膜浸漬槽2から取り出し、洗浄槽に設置し、上述の方法で洗浄し、膜浸漬槽2に戻すことができる。また、ろ過装置1の連続運転が求められる場合は、複数の膜浸漬槽2を並列設置してもよい。洗浄が必要なろ過膜3が設置された浸漬槽2を隔離することで、ろ過装置1の運転と隔離したろ過膜3の洗浄とを同時に行うことができる。さらに、ケーキの剥離を促進するため、膜浸漬槽2の底部に空気吹き出し部を設けてエアレーション操作を行ってもよい。撹拌機を膜浸漬槽2に設置し、撹拌のせん断力によってケーキの剥離効果を促進してもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 ろ過装置
2 膜浸漬槽
3 ろ過膜
8 吸引ポンプ
11 洗浄手段
12 温度調整手段
13 空気供給手段
15 リンス手段
CL 循環ライン
図1
図2
図3
図4