(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】波長変換部材、波長変換装置、および、光源装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20240604BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20240604BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20240604BHJP
F21V 7/26 20180101ALI20240604BHJP
F21V 29/502 20150101ALI20240604BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20240604BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20240604BHJP
【FI】
G02B5/20
G02B5/08 A
H01L33/50
F21V7/26
F21V29/502 100
F21Y115:10
F21Y115:30
(21)【出願番号】P 2020130162
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】八谷 洋介
(72)【発明者】
【氏名】桜井 利之
(72)【発明者】
【氏名】高久 翔平
(72)【発明者】
【氏名】田中 智雄
(72)【発明者】
【氏名】竹内 裕貴
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-100090(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158088(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/021027(WO,A1)
【文献】特開2012-185980(JP,A)
【文献】特開2021-117247(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105716039(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
G02B 5/08
H01L 33/50
F21V 7/26
F21V 29/502
F21Y 115/10
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長変換部材であって、
光が入射する入射面と、前記入射面の反対側に位置する裏面と、を有し、前記入射面から入射する光の波長を変換するセラミック蛍光体と、
前記セラミック蛍光体の前記裏面の一部に接合され、前記セラミック蛍光体に入射した光を反射する反射面を有する反射膜と、
前記反射膜を封止する封止膜であって、前記反射膜を覆い、前記封止膜の端部が前記反射膜の端部を超えて前記セラミック蛍光体の前記裏面に接合される封止膜と、を備え、
前記封止膜は、前記反射膜の厚さよりも厚い単一の膜
であって、チタン(Ti)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、シリコン(Si)、希土類元素のうちの少なくとも1つから形成されている、ことを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
請求項1に記載の波長変換部材であって、
前記封止膜は、前記反射膜の周囲において、前記セラミック蛍光体の前記裏面と接合された封止領域を有しており、
前記封止領域のうち、前記反射膜に面する端部から前記封止膜の端部までの距離である封止幅の最小値は、1μm以上である、ことを特徴とする波長変換部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の波長変換部材であって、
前記封止膜は、前記反射膜の周囲において、前記セラミック蛍光体の前記裏面と接合された封止領域を有しており、
前記セラミック蛍光体と前記反射膜と前記封止膜との積層方向に沿った前記波長変換部材の断面において、
前記封止領域における前記セラミック蛍光体の前記裏面と前記封止膜との接合線の長さを長さAとし、
前記セラミック蛍光体の裏面と前記反射膜との接合線の長さを長さBとすると、
A/(A+B)>0.03である、ことを特徴とする波長変換部材。
【請求項4】
波長変換装置であって、
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の波長変換部材と、
前記セラミック蛍光体の熱を外部に放出する放熱部材と、
前記波長変換部材と前記放熱部材とを接合する接合層と、を備えることを特徴とする、波長変換装置。
【請求項5】
光源装置であって、
請求項
4に記載の波長変換装置と、
前記セラミック蛍光体に光を照射する光源と、を備えることを特徴とする、
光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換部材、波長変換装置、および、光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光源が発した光の波長を変換する波長変換部材が知られている。一般的に、波長変換部材は、入射する光の波長を変換する蛍光体と、蛍光体の裏面に配置され、蛍光体に入射した光を反射する反射膜と、を有する。例えば、特許文献1および特許文献2には、蛍光体の裏面より小さい反射膜を封止膜によって覆う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6094617号公報
【文献】特開2019-120711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記先行技術によっても、波長変換部材において、反射膜の劣化を防止することで発光強度の低下を抑制するには、なお改善の余地があった。例えば、特許文献1および特許文献2に記載の波長変換部材では、蛍光体の励起光をレーザによって波長変換部材に照射すると、蛍光体の温度が300℃以上となる場合がある。この場合、封止層が酸化し、封止層による封止構造が壊れるおそれがある。封止構造が壊れると、反射膜が外気と触れるため、外気に含まれる酸素などによって反射膜が劣化するおそれがある。また、特許文献1および特許文献2に記載の波長変換部材では、反射膜は、接着膜を介して封止膜によって封止されている。この場合、封止膜と接着膜との接合界面では、酸素が拡散しやすいため、封止膜の内部の酸化速度が比較的早くなり、封止層による封止構造が壊れるおそれがある。封止構造が壊れると、反射膜が外気と触れるため、反射膜が劣化するおそれがある。このように、反射膜の劣化によって、発光強度が早期に低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、波長変換部材において、発光強度の低下を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、波長変換部材が提供される。この波長変換部材は、光が入射する入射面と、前記入射面の反対側に位置する裏面と、を有し、前記入射面から入射する光の波長を変換するセラミック蛍光体と、前記セラミック蛍光体の前記裏面の一部に接合され、前記セラミック蛍光体に入射した光を反射する反射面を有する反射膜と、前記反射膜を封止する封止膜であって、前記反射膜を覆い、前記封止膜の端部が前記反射膜の端部を超えて前記セラミック蛍光体の前記裏面に接合される封止膜と、を備え、前記封止膜は、前記反射膜の厚さよりも厚い単一の膜によって形成されている。
【0008】
この構成によれば、封止膜の厚さは、反射膜の厚さより厚いため、封止膜のうち反射膜の端部を超えてセラミック蛍光体の裏面に接合される部分の表面は、反射膜のセラミック蛍光体の反対側の面に比べて、セラミック蛍光体の裏面より離れた位置に形成されている
。これにより、例えば、封止膜のセラミック蛍光体の反対側の表面に、封止膜とは異なる膜が形成されても、封止膜のセラミック蛍光体の裏面に接合される部分と、封止膜とは異なる膜との接合界面の延長線上に反射膜は位置しない。したがって、接合界面を介した、酸素などを含む外気と、反射膜との接触を抑制することができるため、反射膜の酸化などによる劣化を起因とする発光強度の低下を抑制することができる。さらに、上述した構成によれば、封止膜は、単一の膜によって形成されているため、封止膜が複数の膜の積層体である場合と異なり、封止膜の内部に酸素が拡散しやすい接合界面が存在しない。これにより、接合界面を介して封止膜の内部に酸素が入ることを抑制できるため、封止膜の耐酸化性を向上することができる。したがって、封止膜の内部が酸化することで反射膜を封止する構造が壊れることを抑制し、反射膜の劣化を抑制することができる。このように、上述した構成によれば、反射膜の劣化を抑制することができるため、発光強度の低下を抑制することができる。
【0009】
(2)上記形態の波長変換部材において、前記封止膜は、前記反射膜の周囲において、前記セラミック蛍光体の前記裏面と接合された封止領域を有しており、前記封止領域のうち、前記反射膜に面する端部から前記封止膜の端部までの距離である封止幅の最小値は、1μm以上であってもよい。この構成によれば、封止膜は、反射膜の周囲において、セラミック蛍光体の裏面と接合された封止領域を有している。この封止領域において、反射膜に面する端部から封止膜の端部までの距離である封止幅の最小値は、1μm以上である。これにより、封止膜とセラミック蛍光体との接合界面において酸素は拡散しにくくなるため、反射膜の劣化をさらに抑制することができる。したがって、発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0010】
(3)上記形態の波長変換部材において、前記封止膜は、前記反射膜の周囲において、前記セラミック蛍光体の前記裏面と接合された封止領域を有しており、前記セラミック蛍光体と前記反射膜と前記封止膜との積層方向に沿った前記波長変換部材の断面において、前記封止領域における前記セラミック蛍光体の前記裏面と前記封止膜との接合線の長さを長さAとし、前記セラミック蛍光体の裏面と前記反射膜との接合線の長さを長さBとすると、A/(A+B)>0.03であってもよい。この構成によれば、波長変換部材の断面において、セラミック蛍光体の裏面と封止膜との接合線の長さAと、セラミック蛍光体の裏面と反射膜との接合線の長さBとの関係が、A/(A+B)>0.03となっている。これにより、封止膜とセラミック蛍光体との接合強度が向上するため、外気と反射膜との接触をさらに抑制することができる。したがって、反射膜の劣化がさらに抑制されるため、発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0011】
(4)上記形態の波長変換部材において、前記封止膜は、チタン(Ti)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、シリコン(Si)、希土類元素の少なくとも1つから形成されてもよい。この構成によれば、封止膜は、チタン(Ti)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、シリコン(Si)、希土類元素の少なくとも1つから形成される。これらの材料は、表面に酸化膜が形成されることで内部が酸化されにくくなるため、封止膜内部の酸化による反射膜の封止構造の破損を抑制することができる。これにより、反射膜の劣化による発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0012】
(5)本発明の別の形態によれば、波長変換装置が提供される。この波長変換装置は、上記形態の波長変換部材と、前記波長変換部材の熱を外部に放出する放熱部材と、前記波長変換部材と前記放熱部材を接合する接合層と、を備える。この構成によれば、反射膜の酸化などによる劣化を起因とする、波長変換装置の発光強度の低下を抑制することができる。また、波長変換部材で発生する熱を放熱部材によって外部に放出することができる。これにより、反射膜の劣化による発光強度の低下を抑制しつつ、熱による波長変換装置の
発光強度の低下を抑制することができる。
【0013】
(6)本発明のさらに別の形態によれば、光源装置が提供される。この光源装置は、上記の波長変換装置と、前記セラミック蛍光体に光を照射する光源と、を備える。この構成によれば、波長変換装置では、封止膜の内部が酸化することで反射膜を封止する構造が壊れることを抑制し、反射膜の劣化が抑制される。これにより、セラミック蛍光体で波長が変換された光の一部や、セラミック蛍光体を素通りする光などセラミック蛍光体内の光を、劣化しにくい反射膜で反射することができるため、光源装置の発光強度の低下を抑制することができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、波長変換部材や波長変換装置などを含む各種装置、これらの装置を製造する製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態の波長変換装置を備える光源装置の断面図である。
【
図2】第1実施形態の波長変換部材の断面図である。
【
図4】波長変換装置の第1の評価試験の結果を説明する図である。
【
図5】波長変換装置の第2の評価試験の結果を説明する図である。
【
図7】第2実施形態の波長変換装置および波長変換部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態の波長変換装置1を備える光源装置5の断面図である。
図2は、第1実施形態の波長変換部材6の断面図である。本実施形態の光源装置5では、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)や半導体レーザー(LD:Laser Diode)などの光源9が発した光L1を波長変換装置1に照射する。光L1が照射された波長変換装置1は、光L1とは異なる波長の光L2を発生し、光源装置5の外部に放出する。このような波長変換装置1は、例えば、ヘッドランプ、照明、プロジェクタなどの各種光学機器において使用される。波長変換装置1は、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、封止膜30と、接合膜40と、放熱部材50と、接合層60と、を備えている。波長変換装置1は、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、封止膜30と、接合膜40と、を備える波長変換部材6と、放熱部材50とを接合層60によって接合することで製造される。なお、
図1および
図2における、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、封止膜30と、接合膜40と、放熱部材50と、接合層60とのそれぞれの大きさおよび厚さの関係は、説明の便宜上、実際の大きさまたは厚さの関係とは異なるように図示されている。
【0017】
波長変換部材6では、セラミック蛍光体10において、波長変換装置1に照射される光の波長が変換される。セラミック蛍光体10において波長が変換された光は、反射膜20によって反射された光とともに、波長変換装置1の外部に放出される。波長変換部材6の詳細な構成は、後述する。
【0018】
放熱部材50は、例えば、銅、銅モリブデン合金、銅タングステン合金、アルミニウム、窒化アルミニウムなど、セラミック蛍光体10よりも高い熱伝導性を有する材料から形成されている平板部材である。放熱部材50は、接合層60を通して伝わるセラミック蛍光体10の熱を外部に放出する。なお、放熱部材50は、上述した材料からなる単層構造
の部材であってもよいし、同種または異なる材料から形成されている多層構造の部材であってもよい。また、放熱部材50のセラミック蛍光体10側の表面には、接合層60との密着性を高めるメッキが配置されていてもよい。
【0019】
接合層60は、波長変換部材6と放熱部材50との間に配置されており、銀(Ag)の焼結材からなる。接合層60は、セラミック蛍光体10と放熱部材50とを接合し、セラミック蛍光体10と放熱部材50との間での熱のやり取りを行う。
【0020】
波長変換部材6は、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、封止膜30と、接合膜40と、を備える。
【0021】
セラミック蛍光体10は、平板状部材であって、本実施形態では、4mm×4mmの矩形状をなす。セラミック蛍光体10は、光が入射する入射面11と、入射面11の反対側に位置する裏面12とを有する。セラミック蛍光体10は、入射面11から入射する光源が発した光の波長を変換する。セラミック蛍光体10は、蛍光性を有する結晶粒子を主体とする蛍光相と、透光性を有する結晶粒子を主体とする透光相を有するセラミック焼結体から構成されている。透光相の結晶粒子は、化学式Al2O3で表される組成を有し、蛍光相の結晶粒子は、化学式A3B5O12:Ceで表される組成(いわゆる、ガーネット構造)を有することが好ましい。「A3B5O12:Ce」とは、A3B5O12の中にCeが固溶し、元素Aの一部がCeに置換されていることを示す。
【0022】
化学式A3B5O12:Ce中の元素Aおよび元素Bは、それぞれ下記の元素群から選択される少なくとも1種類の元素から構成されている。
元素A:Sc、Y、Ceを除くランタノイド(ただし、元素AとしてさらにGdを含んでいてもよい)
元素B:Al(ただし、元素BとしてさらにGaを含んでいてもよい)
セラミック蛍光体10として、セラミック焼結体を使用することで、蛍光相と透光相との界面で光が散乱し、光の色の角度依存性を減らすことができる。これにより、色の均質性を向上することができる。なお、セラミック蛍光体10の材料は、上述の材料に限定されない。
【0023】
反射膜20は、銀(Ag)からなる矩形形状の薄膜であって、セラミック蛍光体10の裏面12の一部に接合されている。反射膜20は、セラミック蛍光体10に入射した光を反射する。反射膜20は、セラミック蛍光体10より小さく、本実施形態では、反射膜20の大きさは、3.7mm×3.7mmである。また、反射膜20の厚さD2は、100nmである。反射膜20は、セラミック蛍光体10に入射した光を反射する反射面21と、セラミック蛍光体10の反対側の裏面22と、反射面21と裏面22とを接続する側面23と、を有する。なお、反射膜20は、アルミニウムなど光の反射率が高い材料から形成されていてもよい。
【0024】
封止膜30は、反射膜20を覆うことで反射膜20を封止する。封止膜30は、被覆部31と、接合部32とを有する。被覆部31は、反射膜20の裏面22上に配置されており、セラミック蛍光体10側の対向面31aと、セラミック蛍光体10の反対側の端面31bと、を有する。対向面31aは、反射膜20の裏面22に対向する。被覆部31の厚さD31(対向面31aと端面31bとの間の距離)は、封止膜30の厚さに相当し、反射膜20の厚さD2より厚い150nmである。接合部32は、反射膜20の端部20aを超えてセラミック蛍光体10の裏面12に接合されており、反射膜20の周囲において、セラミック蛍光体10の裏面12と接合される接合面32aと、セラミック蛍光体10の反対側の端面32bと、を有する。接合部32の厚さD32(接合面32aと端面32bとの間の距離)は、反射膜20の厚さD2より厚い150nmであり、被覆部31の厚
さD31と同じである。封止膜30の詳細な構成は、後述する。接合部32は、特許請求の範囲の「封止膜の端部」に相当する。接合面32aは、特許請求の範囲の「封止領域」に相当する。
【0025】
接合膜40は、金(Au)からなる薄膜であって、封止膜30のセラミック蛍光体10の反対側の端面31b、32bに配置されている。本実施形態では、接合膜40は、厚さが200nmであり、封止膜30の端面31b、32bの形状に沿って形成されている。
【0026】
次に、本実施形態の波長変換部材6が備える封止膜30の特徴について説明する。封止膜30は、反射膜20の厚さより厚いクロム(Cr)からなる単一の薄膜である。
図2に示すセラミック蛍光体10と反射膜20と封止膜30との積層方向Dsに沿った波長変換部材6の断面において、接合面32aにおけるセラミック蛍光体10の裏面12と封止膜30との接合線L30の長さを長さAとする。セラミック蛍光体10の裏面12と反射膜20との接合線L20の長さを長さBとすると、A/(A+B)>0.03である。ここで、セラミック蛍光体10の裏面12と封止膜30との接合線L30の長さAは、
図2に示すように、反射膜20の両側のそれぞれに位置する2つの接合線L30のそれぞれの長さA1、A2の合計に相当する。なお、
図2では、説明の便宜上、長さBを長さAに対して長くなるように示してある。
【0027】
図3は、
図2のCs-Cs線断面図である。封止膜30の接合面32aは、
図3の封止膜30で示すように、反射膜20の周囲に配置されている。本実施形態では、接合面32aのうち、反射膜20に面する端部32cから封止膜30の端部32dまでの距離である封止幅Cの最小値は、1μm以上である。ここで、接合面32aのうち反射膜20に面する端部32cとは、
図3に示すように、反射膜20の周囲に配置される接合面32aの内側の端部を指しており、本実施形態では、接合面32aの端部32cは、反射膜20の端部20aに接している。また、接合面32aのうち封止膜30の端部32dとは、
図3に示すように、接合面32aの外側の端部を指す。なお、
図3では、反射膜20と、封止膜30との大きさの関係は、説明の便宜上、実際の大きさの関係とは異なるように図示されており、封止幅Cの最小値を説明する便宜上、反射膜20の形状を大きく変形させて示している。
【0028】
次に、波長変換部材6の製造方法について説明する。最初に、セラミック蛍光体10の裏面12にレジスト膜を形成する。次に、レジスト膜が裏面12に形成されているセラミック蛍光体10に対して、銀を蒸着またはスパッタリングし、セラミック蛍光体10の裏面12の一部に反射膜20を成膜する。その後、レジスト膜を除去し、反射膜20の裏面22、ならびに、セラミック蛍光体10の裏面12上に、封止膜30を製膜する。さらに、封止膜30の端面31b、32b上に、接合膜40を製膜し、波長変換部材6を製造する。
【0029】
さらに、波長変換部材6を用いて波長変換装置1を製造する場合、波長変換部材6と放熱部材50の間に銀の微粒子を挟みこんだ状態で、200~300℃で加熱する。これにより、銀の微粒子における固相反応によって焼結し、波長変換部材6と放熱部材50とが接合層60によって接合され、波長変換装置1が完成する。
【0030】
次に、本実施形態の波長変換装置1についての評価試験の内容およびその結果を説明する。本評価試験では、複数の波長変換装置のサンプルを作製し、それぞれのサンプルに、セラミック蛍光体の励起光を繰り返し照射したときのサンプルの発光強度を測定することで、励起光照射の繰り返しによる発光強度の変化を比較した。
【0031】
ここで、それぞれのサンプルにおける発光強度の変化を測定する方法を説明する。本評
価試験では、セラミック蛍光体の大きさが4mm×4mmのサンプルに、スポット径がφ0.5mmのレーザを照射する。このとき、セラミック蛍光体の最高温度が、250℃となるような条件で、レーザを3分間照射したときの発光強度を初期の発光強度として測定する。レーザを3分間照射した後、レーザ照射を停止してから、風を3分間当て続けることでサンプルを冷却する。このレーザ照射と冷却との繰り返しを、3000サイクル行った後における、サンプルの発光強度を、使用後の発光強度として測定した。
【0032】
次に、サンプルにおける発光強度の変化の判定方法について説明する。それぞれのサンプルにおける発光強度の変化の度合いは、上述した初期の発光強度に対する使用後の発光強度の比率を、それぞれのサンプルの発光強度比として算出する。この算出される発光強度比を、以下の基準に沿って判定した。
〇:発光強度比が95%以上
△:発光強度比が85%以上95%未満
×:発光強度比が85%未満
【0033】
図4は、波長変換装置の第1の評価試験の結果を説明する図である。第1の評価試験では、反射膜の厚さ(D2)と封止膜の厚さ(D31、D32)との関係、および、封止幅(C)の大きさ、による発光強度比の変化を評価した。
図4より、封止幅が0.5μmの2つのサンプル(サンプル1とサンプル2)を比較すると、封止膜の厚さを反射膜の厚さより薄くする場合(サンプル1)に比べ、封止膜の厚さを反射膜の厚さより厚くする場合(サンプル2)の方が、発光強度比が大きくなることが確認された。これは、封止膜の厚さを反射膜の厚さに比べ厚くすることで、封止膜と接合膜との接合界面の延長線上に反射膜の側面が位置しないため、接合界面を介した、酸素などを含む外気と、反射膜との接触を抑制され、反射膜の劣化を抑制することができるためである。また、封止幅を1.0μm以上とすること(サンプル3~6)で発光強度比が95%以上となることが確認され、封止幅が0.5μmのサンプル2に比べ、発光強度比の低下を抑制できることが確認された。
【0034】
図5は、波長変換装置の第2の評価試験の結果を説明する図である。第2の評価試験では、封止膜の接合面積の割合による発光強度比の変化を評価した。ここで、封止膜の接合面積の割合とは、セラミック蛍光体の裏面に接合される反射膜の面積と封止膜の面積との合計に対する、封止膜の面積の比率である。例えば、
図3に示した波長変換部材6の中心軸に垂直な断面において、
図3における反射膜20の面積と封止膜30の面積との合計に対する封止膜30の面積がこれにあたる。上述した封止膜の接合面積は、
図2における波長変換部材6の断面での長さAと長さBとを用いたA/(A+B)によって代用することもできる。
【0035】
図5より、封止膜の接合面積の割合が3%以上になる場合(サンプル9~11)、発光強度比は97%以上となることが確認された。これは、封止膜の接合面積の割合が3%以上になると、封止膜とセラミック蛍光体との接合強度が向上するため、外気と反射膜との接触を抑制することができるからである。一方で、封止膜の接合面積の割合が0%(サンプル7)または0%(サンプル8)では、発光強度比は80%程度となり、反射膜の劣化を抑制できないことが確認された。
【0036】
図6は、比較例の波長変換部材91、92の断面図である。
図6には、本実施形態の波長変換部材6とは構成が異なる2つの波長変換部材91、92の断面図を示している。
図6(a)に示す波長変換部材91は、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、本実施形態の封止膜30に対応する封止膜36と、接合膜40と、を備える。
図6(a)に示すように、封止膜36の厚さD36は、反射膜20の厚さD2に比べ薄い。このため、比較例の波長変換部材91では、封止膜36のセラミック蛍光体10に接合する部分36aと接
合膜40との接合界面P36の延長線E36上に、反射膜20の側面23が位置する。一般的に、異なる材料の接合界面では、酸素の拡散速度が比較的速いため、接合界面P36を通って酸素が反射膜20に到達しやすい。反射膜20に到達した酸素は、反射膜20を参加するため、反射膜20が劣化し、波長変換部材91の発光強度が低下するおそれがある。
【0037】
図6(b)に示す波長変換部材92は、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、本実施形態の封止膜30に対応する封止膜37と、接合膜40と、を備える。
図6(b)に示すように、封止膜37の厚さD37は、反射膜20の厚さD2に比べ厚いものの、封止膜37は、異なる材料からなる2つの封止膜37a、37bが積層されている。封止膜37aの厚さD37aが反射膜20の厚さD2に比べ薄い場合、比較例の波長変換部材92では、封止膜37aのセラミック蛍光体10に接合する部分と封止膜37bのセラミック蛍光体10に接合する部分との接合界面P37の延長線E37上に、反射膜20の側面23が位置する。上述したように、異なる材料の接合界面では、酸素の拡散速度が比較的速いため、接合界面P37を通って酸素が反射膜20に到達しやすい。このため、反射膜20が劣化し、発光強度が低下するおそれがある。
【0038】
以上説明した、本実施形態の波長変換部材6によれば、封止膜30の厚さD31、D32は、反射膜20の厚さD2より厚いため、封止膜30のうち反射膜20の端部20aを超えてセラミック蛍光体10の裏面12に接合される接合部32の端面32bは、反射膜20のセラミック蛍光体10の反対側の裏面22に比べて、セラミック蛍光体10の裏面12より離れた位置に形成されている。これにより、
図1に示すように、封止膜30の接合部32と、接合膜40との接合界面P30の延長線E30上に反射膜20は位置しない。したがって、接合界面P30を介した、酸素などを含む外気と、反射膜20との接触を抑制することができるため、反射膜20の酸化などによる劣化を起因とする発光強度の低下を抑制することができる。さらに、本実施形態の波長変換部材6によれば、封止膜30は、単一の膜によって形成されているため、封止膜30が複数の膜の積層体である場合と異なり、封止膜30の内部に酸素が拡散しやすい接合界面が存在しない。これにより、接合界面を介して封止膜30の内部に酸素が入ることを抑制できるため、封止膜30の耐酸化性を向上することができる。したがって、封止膜30の内部が酸化することで反射膜20を封止する構造が壊れることを抑制し、反射膜20の劣化を抑制することができる。このように、反射膜20の劣化を抑制することができるため、発光強度の低下を抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態の波長変換部材6によれば、封止膜30は、反射膜20の周囲において、セラミック蛍光体10の裏面12と接合された接合面32aを有している。この接合面32aにおいて、反射膜20に面する端部32cから封止膜30の端部32dまでの距離である封止幅Cの最小値は、1μm以上である。これにより、封止膜30とセラミック蛍光体10との接合界面において酸素は拡散しにくくなるため、反射膜20の劣化をさらに抑制することができる。したがって、発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0040】
また、本実施形態の波長変換部材6によれば、波長変換部材6の断面において、セラミック蛍光体10の裏面12と封止膜30との接合線L30の長さAと、セラミック蛍光体10の裏面12と反射膜20との接合線L20の長さBとの関係が、A/(A+B)>0.03となっている。これにより、封止膜30とセラミック蛍光体10との接合強度が向上するため、外気と反射膜20との接触をさらに抑制することができる。したがって、反射膜20の劣化がさらに抑制されるため、発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態の波長変換部材6によれば、封止膜30は、表面が酸化されやすいク
ロムから形成される。クロムは、表面に酸化膜が形成されることで内部が酸化されにくくなるため、封止膜30の内部の酸化によって、反射膜20を封止する構造が壊れることを抑制できる。これにより、反射膜20の劣化による発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態の波長変換装置1によれば、反射膜20の酸化などによる劣化を起因とする、波長変換装置1の発光強度の低下を抑制することができる。また、波長変換部材6で発生する熱を放熱部材50によって外部に放出することができる。これにより、反射膜20の劣化による発光強度の低下を抑制しつつ、熱による波長変換装置1の発光強度の低下を抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態の光源装置5によれば、波長変換装置1では、封止膜30の内部が酸化することで反射膜20を封止する構造が壊れることを抑制し、反射膜20の劣化を抑制される。これにより、セラミック蛍光体10で波長が変換された光の一部や、セラミック蛍光体10を素通りする光などセラミック蛍光体10内の光を、劣化しにくい反射膜20で反射することができるため、光源装置5の発光強度の低下を抑制することができる。
【0044】
<第2実施形態>
図7は、第2実施形態の波長変換装置2および波長変換部材7の断面図である。第2実施形態の波長変換部材7は、第1実施形態の波長変換部材6(
図1)と比較すると、酸化防止膜を備える点、ならびに、接合膜および接合層の材料が異なる。なお、
図7における、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、封止膜30と、接合膜40と、酸化防止膜70と、放熱部材50と、接合層80とのそれぞれの大きさおよび厚さの関係は、説明の便宜上、実際の大きさまたは厚さの関係とは異なるように図示されている。
【0045】
本実施形態の波長変換装置2は、
図7(a)に示すように、波長変換部材7と、放熱部材50と、接合層80と、を備える。
【0046】
接合層80は、
図7(a)に示すように、波長変換部材7と放熱部材50との間に配置され、金と錫から形成されている。接合層80は、セラミック蛍光体10と放熱部材50とを接合し、セラミック蛍光体10と放熱部材50との間での熱のやり取りを行う。
【0047】
図7(b)に示す波長変換部材7は、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、封止膜30と、接合膜40と、酸化防止膜70と、を備える。波長変換部材7の接合膜40は、ニッケル(Ni)からなる薄膜であって、封止膜30のセラミック蛍光体10の反対側の端面31b、32bに配置されている。
【0048】
酸化防止膜70は、接合膜40のセラミック蛍光体10の反対側に配置されており、厚さが、10~500nm程度の金からなる薄膜である。酸化防止膜70は、ニッケルからなる接合膜40の表面の酸化を防止するとともに、セラミック蛍光体10と放熱部材50とを接合層80によって接合するとき、接合層80に拡散し、セラミック蛍光体10と放熱部材50との接合力を向上する。
【0049】
以上説明した、本実施形態の波長変換部材7によれば、
図7に示すように、封止膜30は、単一の膜から形成されており、厚さD31、D32が反射膜20の厚さD2より厚い。これにより、接合界面P30を介した外気と反射膜20との接触を抑制することができるため、反射膜20の酸化などによる劣化を起因とする発光強度の低下を抑制することができるとともに、封止膜30の内部の酸化を抑制することができるため、反射膜20の劣化を抑制することができる。したがって、発光強度の低下を抑制することができる。
【0050】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0051】
[変形例1]
上述の実施形態では、波長変換部材6は、セラミック蛍光体10と反射膜20と封止膜30の他に、接合膜40を備えるとした。また、波長変換部材7は、接合膜40と酸化防止膜70とを備えるとした。これらの膜はなくてもよい。
【0052】
[変形例2]
上述の実施形態では、接合面32aのうち、反射膜20に面する端部32cから封止膜30の端部32dまでの距離である封止幅Cの最小値は、1μm以上であるとした。しかしながら、封止幅Cの最小値は、1μm未満であってもよい。また、接合面32aのうち反射膜20に面する端部32cは、
図3に示すように、反射膜20の表面に接しているとした。しかしながら、接合面32aの反射膜20に面する端部32cは、反射膜20から離れていてもよい。
【0053】
図8は、変形例の波長変換部材6の断面図である。
図8に示す波長変換部材6の変形例では、接合面32aのうち反射膜20側の端部は、反射膜20の端部20aから離れた位置にある。この場合、接合面32aのうち反射膜20に面する端部32eは、環状の封止膜30において最も内側の端部となることから、封止幅Cは、
図8に示すように、反射膜20に面する端部32eから封止膜30の端部32dまでの距離となる。この封止幅Cの最小値が1μm以上となることによって、外気による反射膜の劣化を抑制することができる。
【0054】
[変形例3]
上述の実施形態では、セラミック蛍光体10と反射膜20と封止膜30との積層方向Dsに沿った波長変換部材6の断面において、接合面32aにおけるセラミック蛍光体10の裏面12と封止膜30との接合線L30の長さAと、セラミック蛍光体10の裏面12と反射膜20との接合線L20の長さBとは、A/(A+B)>0.03の関係であるとした。しかしながら、長さAと長さBとの関係はこれに限定されない。長さAと長さBとの関係がA/(A+B)>0.03になると、封止膜30とセラミック蛍光体10との接合強度を向上することができるため、反射膜20の劣化をさらに抑制することができる。
【0055】
[変形例4]
上述の実施形態では、封止膜30は、クロムから形成されるとした。しかしながら、封止膜30は、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、シリコン(Si)、希土類元素の少なくとも1つから形成されていればよい。これらの材料は、表面が酸化されやすいため、内部の酸化を抑制することができる。これにより、反射膜20を封止する構造が壊れることを抑制できるため、反射膜20の劣化による発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0056】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0057】
1,2…波長変換装置
6,7…波長変換部材
5…光源装置
9…光源
10…セラミック蛍光体
11…入射面
12…裏面
20…反射膜
20a…端部
30…封止膜
32…接合部
32a…接合面
32c…端部
32d…端部
32e…端部
40…接合膜
50…放熱部材
60,80…接合層
70…酸化防止膜
C…封止幅
Ds…積層方向
L20,L30…接合線
P30…接合界面