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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】光散乱測定装置及び測定治具
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/0205 20240101AFI20240604BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G01N15/0205
G01N21/17 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020190825
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022079940
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000206967
【氏名又は名称】大塚電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 悠介
(72)【発明者】
【氏名】若山 育央
(72)【発明者】
【氏名】長沢 広也
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-105185(JP,A)
【文献】特表2018-535397(JP,A)
【文献】特開2003-028779(JP,A)
【文献】特開2010-078470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/0205
G01N 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に照射される入射光を発生させる光源と、
前記試料から出射される散乱光を受光する位置に配置され、該散乱光の強度を測定する単一の受光器と、
前記試料を収容する空洞を有するセルと、前記セルが配置される保持空間、入射光と散乱光のなす散乱角度が100度以下である前方測定または側方測定のいずれか少なくとも一方の測定に用いる第1光路の入射部に形成された第1開口、及び、散乱角度が100度を超える後方測定に用いる第2光路の入射部に形成された第2開口を有する枠体と、前記空洞の側面と一定の角度をなす第1面を有する光学素子と、を有する試料保持部と、
前記試料保持部を鉛直方向に移動させる移動機構と、
を有し、
前記光学素子は、前記第1光路及び前記第2光路の少なくとも一方の光路の入射部または出射部の少なくとも一方に配置され、
前記第1光路と前記第2光路は鉛直方向に離間し、
前記移動機構は、前記いずれか少なくとも一方の測定を行う場合に、前記第1開口を前記第1光路の入射部の位置に移動させ、前記後方測定を行う場合に、前記第2開口を前記第2光路の入射部の位置に移動させる、
ことを特徴とする光散乱測定装置。
【請求項2】
前記第2開口は、前記第1光路及び前記第2光路の出射部に形成される、ことを特徴とする請求項1に記載の光散乱測定装置。
【請求項3】
前記光学素子は、前記第1面と、前記第1面の反対側に前記セルと平行に向かい合う第2面と、を含んで構成される三角柱状の部分を有する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の光散乱測定装置。
【請求項4】
前記前方測定の散乱角度は、0度を超え80度以下であり、
前記側方測定の散乱角度は、80度を超え100度以下であり、
前記後方測定の散乱角度は、100度を超え180度未満である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光散乱測定装置。
【請求項5】
前記光源は、前記第1光路の光を発生させる第1光源と、前記第2光路の光を発生させる第2光源と、を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の光散乱測定装置。
【請求項6】
光散乱測定装置に用いられる測定用治具であって、
前記光散乱測定装置は、
試料に照射される入射光を発生させる光源と、
前記試料から出射される散乱光を受光する位置に配置され、該散乱光の強度を測定する単一の受光器と、
前記測定用治具を鉛直方向に移動させる移動機構と、
を有し、
前記測定用治具は、
前記試料を収容する空洞を有するセルと、
前記セルが配置される保持空間、入射光と散乱光のなす散乱角度が100度以下である前方測定または側方測定のいずれか少なくとも一方の測定に用いる第1光路の入射部に形成された第1開口、及び、散乱角度が100度を超える後方測定に用いる第2光路の入射部に形成された第2開口を有する枠体と、
前記空洞の側面と一定の角度をなす第1面を有する光学素子と、
を有し、
前記光学素子は、前記第1光路及び前記第2光路の少なくとも一方の光路の入射部または出射部の少なくとも一方に配置され、
前記第1光路と前記第2光路は鉛直方向に離間し、
前記移動機構は、前記いずれか少なくとも一方の測定を行う場合に、前記第1開口を前記第1光路の入射部の位置に移動させ、前記後方測定を行う場合に、前記第2開口を前記第2光路の入射部の位置に移動させる、
ことを特徴とする測定用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光散乱測定装置及び測定治具に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子の形状、粒子径分布、分子量等の粒子特性を測定する装置として、粒子を含む試料から散乱した光を検出する光散乱測定装置が知られている。異なる粒子径の粒子が混在する試料の粒度分布を分析する場合、入射光と散乱光のなす散乱角度が小さい前方測定または側方測定だけでなく、散乱角度が大きい後方測定を行う必要がある。
【0003】
例えば、下記特許文献1は、光源と試料との間に光学素子が配置された光散乱測定装置を開示している。当該光学素子は、光源からの光を修正し修正ビームを生成し、修正ビームは、遠視野において発散する。これにより、実質的に照光されない暗領域が、照射軸に沿って試料位置から離れた位置に生成される。そして、試料位置から離れて配置された受光器が前方散乱光または後方散乱光を検出することにより、光散乱測定装置は、粒子特性を測定する。
【0004】
また、下記特許文献2は、ゲル粒子からの散乱光を検出する装置であって、試料セル内で試料と試薬を攪拌する機構やセル表面からの反射光と試料からの散乱光を分離する手段を有する光散乱測定装置を開示している。さらに、下記特許文献3は、異なる2つ以上の方向から異なる波長の入射光を照射し、かつ光偏向器で入射光を偏向することができる粒子測定装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2019-536997号公報
【文献】特許第6373486号公報
【文献】特開平02-074845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、装置の小型化及び低コスト化が要求されている。小型化及び低コスト化の方法として、前方測定または側方測定と、後方測定と、に用いる受光器を共有する方法がある。しかしながら、前方測定または側方測定を行うことが可能な光散乱装置を用いて後方測定を行う場合、散乱光以外の成分(いわゆる迷光)による測定精度の低下が生じる。従って、後方測定を行う際に、迷光(主に入射光がセル表面で反射した成分)が受光器に入射しないように、対策する必要がある。
【0007】
当該対策として、後方測定を行う際に、セルを傾ける方法がある。これにより、セル表面で反射した光が受光器に入射することを防止できる。しかしながら、セルを傾けた場合、前方測定または側方測定を行う際の光路にずれが生じるため、セルを傾けて後方測定を行う装置は、前方測定または側方測定を行うことができなくなってしまう。
【0008】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、前方測定または側方測定の少なくとも一方と、後方測定と、の双方を実施可能であり、かつ、単一の受光器を有することで小型かつ低コストの光散乱測定装置及びこれに用いられる測定用治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示に係る光散乱測定装置は、試料に照射される入射光を発生させる光源と、前記試料から出射される散乱光を受光する位置に配置され、該散乱光の強度を測定する単一の受光器と、前記試料を収容する空洞を有するセルと、前記セルが配置される保持空間、入射光と散乱光のなす散乱角度が100度以下である前方測定または側方測定のいずれか少なくとも一方の測定に用いる第1光路の入射部に形成された第1開口、及び、散乱角度が100度を超える後方測定に用いる第2光路の入射部に形成された第2開口を有する枠体と、前記空洞の側面と一定の角度をなす第1面を有する光学素子と、を有する試料保持部と、前記測定用治具を鉛直方向に移動させる移動機構と、を有し、前記光学素子は、前記第1光路及び前記第2光路の少なくとも一方の光路の入射部または出射部の少なくとも一方に配置され、前記第1光路と前記第2光路は鉛直方向に離間し、前記移動機構は、前記いずれか少なくとも一方の測定を行う場合に、前記第1開口を前記第1光路の入射部の位置に移動させ、前記後方測定を行う場合に、前記第2開口を前記第2光路の入射部の位置に移動させる、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の別の観点によれば、本開示に係る測定用治具は、試料を収容する空洞を有するセルが配置される保持空間、前記試料に照射される入射光と散乱光のなす散乱角度が100度以下である前方測定または側方測定のいずれか少なくとも一方の測定に用いる第1光路の入射部に形成された第1開口、及び、散乱角度が100度を超える後方測定に用いる第2光路の入射部に形成された第2開口を有する枠体を有し、前記第1光路と前記第2光路は鉛直方向に離間する、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は本実施形態に係る光散乱測定装置の概略を示す図である。
図2図2は本実施形態に係る測定用治具の斜視図である。
図3図3は本実施形態に係る測定用治具の側面図である。
図4図4は前方測定光路、側方測定光路及び後方測定光路を記載した測定用治具の斜視図である。
図5図5はZ軸方向から見た試料内における、前方測定光路、側方測定光路及び後方測定光路を示す図である。
図6図6は後方測定光路を側面から見た図である。
図7図7は光散乱測定の方法を示すフローチャートである。
図8図8は測定結果を示す一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示における実施形態について、図面を用いて以下に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る光散乱測定装置100の概略を示す図である。図1に示すように、光散乱測定装置100は、光源と、ハーフミラー104と、ミラー106と、セル108と、試料保持部と、移動機構112と、受光器114と、を含む。
【0014】
光源102は、試料に照射される光を発生させる。具体的には、例えば、光源102は、He-Neレーザーや半導体レーザー等のレーザー光を発生させる。また、図1に示す例では、光源102は、第1光源102Aと、第2光源102Bと、を含む。
【0015】
第1光源102Aは、第1光路の光を発生させる。ここで、第1光路は、前方測定または側方測定のいずれか少なくとも一方の測定に用いる光路である。以下、前方測定を行う際に用いる光の経路を前方測定光路と呼称する。また、側方測定を行う際に用いる光の経路を側方測定光路と呼称する。さらに、試料に照射される光を入射光と呼称し、試料に散乱された光を散乱光と呼称する。
【0016】
第1光路は、前方測定光路と側方測定光路とを含む。前方測定及び側方測定とは、入射光と散乱光のなす散乱角度が100度以下の条件で行われる測定である。例えば、前方測定の散乱角度は、0度を超え80度以下であり、側方測定の散乱角度は、80度を超え100度以下である。
【0017】
第2光源102Bは、第2光路の光を発生させる。ここで、第2光路は、後方測定に用いる光路である。以下、後方測定を行う際に用いる光の経路を後方測定光路と呼称する。また、後方測定とは、散乱角度が100度を超える条件で行われる測定である。例えば、後方測定の散乱角度は、100度を超え180度未満である。前方測定光路、側方測定光路及び後方測定光路については、後で詳述する。また、第1光源102Aと第2光源102BのZ軸方向の位置は同じであるとする。
【0018】
なお、図1に示す例では、前方測定に用いられる光源と側方測定に用いられる光源が共有されているが、前方測定に用いられる光源と側方測定に用いられる光源は、個別に設けられてもよい。
【0019】
ハーフミラー104は、第1光源102Aが発した光を、前方測定光路に用いる光と、側方測定光路に用いる光と、に分離する。なお、前方測定に用いられる光源と側方測定に用いられる光源が個別に設けられる場合、ハーフミラー104は省略されてもよい。
【0020】
ミラー106は、光を反射する。具体的には、ミラー106は、前方測定光路、側方測定光路及び後方測定光路上に配置され、各光路の光を反射する。ミラー106は、光源が発した各光路の光がセル108に誘導されるように配置される。また、ミラー106の配置位置によって、各光路の光路長が調整される。
【0021】
セル108は、試料を収容する空洞を有する。具体的には、例えば、セル108は、直方体の形状であって、外側の面と平行な内側側面で構成される空洞を有する。当該空洞には、測定対象である液体試料が収容される。試料を収容したセル108は、試料保持部に配置される。
【0022】
試料保持部は、枠体と、光学素子214と、を有する。なお、試料保持部は、試料を保持する部材であるが、光散乱測定に用いられる治具であるため、以下、測定用治具110とも呼称する。具体的には、例えば、図2(a)乃至図3(c)を用いて説明する。図2(a)及び図2(b)は、本実施形態に係る測定用治具110を異なる方向から見た斜視図である。図3(a)乃至図3(c)は、いずれも本実施形態に係る測定用治具110の側面図である。また、測定用治具110は、光学素子214を除いた枠体のみで構成されてもよいし、枠体と、光学素子214と、セル108とを含んで構成されてもよい。
【0023】
具体的には、例えば、枠体は、底面部202、第1側面部204、第2側面部206及び上面部208を含んで構成され、保持空間を有する。底面部202は、XY平面に平行な板状の部材である。第1側面部204及び第2側面部206は、底面部202のZ軸側の面に立設する部材である。第1側面部204と第2側面部206の間には、セル108の形状に応じた空間が形成される。上面部208は、第1側面部204及び第2側面部206のZ軸側に配置され、セル108の形状に応じた開口を有する。第1側面部204と第2側面部206の間の空間と、当該開口によって、保持空間が形成される。保持空間は、枠体で囲まれた空間であって、セル108が配置される空間である。保持空間に配置されたセル108は、枠体によってX軸方向及びY軸方向に支持される。また、セル108は、底面部202によって、Z軸方向に支持される。
【0024】
また、枠体は、第1開口210、及び、第2開口212を有する。具体的には、第1開口210は、第1側面部204に形成されたきり欠け部と、第2側面部206の端部と、によって形成された開口である。第1開口210は、後述する第1光路の入射部に形成される。第2開口212は、第2側面部206の外側側面から保持空間に向かって貫通する孔である。第2開口212は、第2光路の入射部であって、第1光路及び第2光路の出射部に形成される。図示するように、第2開口212は、第1開口210と比較して、Z軸方向の径が大きい。
【0025】
光学素子214は、空洞の側面と一定の角度をなす第1面602を有する。また、光学素子214は、第1面602と、第1面602の反対側にセル108と平行に向かい合う第2面604と、を含んで構成される三角柱状の部分を有する。光学素子214は、第1光路及び第2光路の少なくとも一方の光路の入射部または出射部の少なくとも一方に配置される。すなわち、光学素子214は、第1光路の入射部、第1光路の出射部、第2光路の入射部、第2光路の出射部、の少なくとも一か所に配置されればよい。例えば、図2(a)乃至図3(c)に示す例では、光学素子214は、第2光路の入射部及び第2光路の出射部に配置されている。光学素子214は、三角柱状の部分を有していれば他の形状であってもよい。
【0026】
受光器114は、試料から出射される散乱光を受光する位置に配置され、該散乱光の強度を測定する。具体的には、受光器114は、散乱光の強度を所定の時間ごとに測定する計測器であって、散乱光強度の時間による変化を取得する。受光器114は、前方測定光路、側方測定光路及び後方測定光路の出射部に設けられる。前方測定光路、側方測定光路及び後方測定光路の出射部の光路が同じとなるように、光源、ミラー106、ハーフミラー104及び測定用治具110は配置される。すなわち、受光器114は、前方測定、側方測定及び後方測定において共有される。従って、散乱光測定装置に設けられる受光器114は、単一である。これにより、光散乱測定装置100を小型化できる。
【0027】
移動機構112は、測定用治具110を鉛直方向に移動させる。具体的には、移動機構112は、前方測定と側方測定のいずれか少なくとも一方の測定を行う場合に、第1開口210を第1光路の入射部の位置に移動させる。また、移動機構112は、後方測定を行う場合に、第2開口212を第2光路の入射部の位置に移動させる。
【0028】
移動機構112が測定用治具110を鉛直方向に移動させることにより、光源102、ミラー106、ハーフミラー104等の他の構成を移動させることなく、第1光路を用いた測定(前方散乱測定及び側方散乱測定、またはその一方)と、第2光路を用いた測定(後方散乱測定)と、を切り替えることができる。従来技術のように、セル108を傾けて後方散乱測定を行う場合、第1光路を用いた測定と第2光路を用いた測定を異なるXY平面内で行う必要がある。しかしながら、測定用治具110を鉛直方向に移動することにより、第1光路を用いた測定と第2光路を用いた測定を同じXY平面内で行うことができる。従って、光源102、ミラー106、ハーフミラー104等の他の構成を移動させる必要がない。また、セル108を傾ける場合、光路長の調整のために傾ける角度を厳密に制御する必要があるが、測定用治具110を鉛直方向に移動させる場合、移動距離に多少の誤差が生じたとしても測定精度に影響を与えない。従って、測定精度を向上させることができる。
【0029】
光散乱測定装置100は、受光器114が測定した散乱光強度に基づいて、情報処理部(図示なし)によって分析を行う。具体的には、光散乱測定装置100は、光子相関法を用いて、散乱光強度からゼータ電位、粒子の拡散係数、粒子径、粒子径分布などを算出する。情報処理部は、光散乱測定装置100に含まれるパーソナルコンピュータまたは光散乱測定装置100とともに用いられる外付けのパーソナルコンピュータであって、ゼータ電位、粒子の拡散係数、粒子径、粒子径の分布などの算出に必要な演算を行う。
【0030】
続いて、前方測定光路、側方測定光路及び後方測定光路について、図1図4乃至図6を用いて説明する。図4は、前方測定光路、側方測定光路及び後方測定光路を記載した測定用治具110の斜視図である。図5(a)乃至図5(c)は、Z軸方向から見たセル108及びセル108の空洞に配置された試料内における、前方測定光路、側方測定光路及び後方測定光路を示す図である。図6は、図5(c)の後方測定光路を側面から見た図である。図1図4乃至図6に示す実線は、前方測定光路である。鎖線は、側方測定光路である。一点鎖線は、後方測定光路である。
【0031】
図1に示すように、前方測定光路は、第1光源102Aを起点とし、ハーフミラー104を透過し、ミラー106Aで反射され、試料により散乱され、受光器114に至る光路である。側方測定光路は、第1光源102Aを起点とし、ハーフミラー104及びミラー106Bで反射され、試料により散乱され、受光器114に至る光路である。後方測定光路は、第2光源102Bを起点とし、ミラー106C及びミラー106Dで反射され、試料により散乱され、受光器114に至る光路である。各光路の試料に入射するまでの部分を入射部と呼称し、試料から出射した後の部分を出射部と呼称する。
【0032】
図4に示すように、前方測定光路及び側方測定光路の光は、第1開口210を経て試料に照射される。後方測定光路の光は、第2開口212を経て試料に照射される。また、前方測定光路、側方測定光路及び後方測定光路の出射光は、第2開口212を経て受光器114に入射する。さらに、第1光路と第2光路は鉛直方向に離間している。具体的には、後方測定光路は、前方測定光路及び側方測定光路よりも、Z軸方向側に位置している。
【0033】
図5(a)に示すように、前方測定光路の光は、試料によって散乱される。前方測定光路の散乱された光のうち、散乱角度θが20度である光が第2開口212を経て受光器114に入射する。
【0034】
図5(b)に示すように、側方測定光路の光は、試料によって散乱される。側方測定光路の散乱された光のうち、散乱角度θが90度である光が第2開口212を経て受光器114に入射する。
【0035】
図5(c)に示すように、後方測定光路の光は、試料によって散乱される。後方測定光路の散乱された光のうち、散乱角度θが160度である光が第2開口212を経て受光器114に入射する。また、図5(c)及び図6に示すように、後方測定光路の出射部には、光学素子214が配置されている。本実施形態では、光学素子214は、側面から見ると三角形となるように配置された三角柱の形状である。セル108と向かい合い、Z軸と平行な面は第2面604である。第2面604の反対側の面であって、セル108の側面と一定の角度をなす面が第1面602である。光学素子214は、セル108表面で反射した光などの迷光が受光器114に入射することを防止する。
【0036】
図6の一点鎖線で示した矢印は、後方測定光路の入射部の光と、散乱された光のうち受光器114に入射する光と、の進行方向を示す。二点鎖線で示した矢印は、迷光の進行方向を示す。ここで、迷光は、受光器114に入射する光のうち、測定に寄与しない成分である。空気、光学素子214、セル108及び試料の屈折率はそれぞれ異なるため、空気、光学素子214、セル108及び試料の界面で反射する光の強度は大きい。従って、迷光の主な要素は、光学素子214やセル108の表面で反射した光である。
【0037】
具体的には、図6に示すように、光学素子214の第1面602とセル108側面とは一定の角度を有する。そのため、光学素子214の第1面602で反射した迷光は、受光器114が存在する方向と異なる方向に進む。同様に、光学素子214を透過し、セル108の表面(光学素子214と向かい合う面及び当該面の反対側の面を含む)で反射した迷光は、光学素子214と空気の屈折率の相違により、受光器114が存在する方向と異なる方向に進む。従って、光学素子214により受光器114に入射する迷光の強度が低減され、測定精度を向上させることができる。
【0038】
なお、空気とセル108の界面、及び、セル108と試料の界面で光が屈折することによって、光の進行方向は変化する。そのため、図5(a)乃至図5(c)において、厳密には、空気とセル108の界面、及び、セル108と試料の界面において進行方向は変化するが、当該変化の描写は省略している。また、光学素子214は、セル108と接して配置されてもよいし、セル108との間に間隙を設けて配置されてもよい。
【0039】
続いて、光散乱測定装置100を用いた光散乱測定の方法について、図7のフローチャートを用いて説明する。まず、多角度測定を行うか否かの判定が行われる(S702)。具体的には、ユーザが光散乱測定装置100を操作することにより、光散乱測定装置100は、多角度測定を行うか否かを表す情報を受け付ける。多角度測定を行うと判定された場合、S704へ進む。
【0040】
次に、測定用治具110が設置される(S704)。具体的には、枠体と光学素子214で構成される測定用治具110は、光散乱測定装置100に設置される。そして、セル108が測定用治具110の保持空間に設置される(S706)。当該セル108の空洞には、測定対象である試料が予め配置されている。なお、S704とS706は順不同であり、先にセル108を測定用治具110の保持空間に設置した後で、測定用治具110が光散乱測定装置100に設置されてもよい。
【0041】
次に、移動機構112は、第2開口212が第2光路の入射部の位置となるように、測定用治具110を移動させる(S708)。具体的には、図4に示す後方測定光路が第2開口212に位置するように、移動機構112は、測定用治具110のZ軸方向の位置を調整する。
【0042】
次に、光散乱測定装置100は、後方散乱測定を行う(S710)。具体的には、第2光源102Bは光を出射し、後方測定光路の光は光学素子214を経て試料に照射される。受光器114は、試料によって散乱された散乱光の強度を測定する。
【0043】
次に、移動機構112は、第1開口210が第1光路の入射部の位置となるように、測定用治具110を移動させる(S712)。具体的には、図4に示す前方測定光路及び側方測定光路が第1開口210に位置するように、移動機構112は、測定用治具110のZ軸方向の位置を調整する。
【0044】
次に、光散乱測定装置100は、前方散乱測定及び側方散乱測定を行う(S714)。具体的には、第1光源102Aは光を出射し、前方測定光路の光は試料に照射される。受光器114は、試料によって散乱された散乱光の強度を測定する。同様に、光散乱測定装置100は、側方散乱測定を行う。そして、光散乱測定装置100は、S710及びS714で測定した散乱光強度、及び、光子相関法を用いて、粒子径分布を算出する。なお、S714で行われる測定は、前方散乱測定及び側方散乱測定の一方のみであってもよい。
【0045】
S702において、多角度測定を行わないと判定された場合、S716へ進む。S716では、測定用治具110が設置される。そして、セル108が測定用治具110の保持空間に設置される(S718)。S716及びS718のステップは、S704及びS706のステップと同様である。
【0046】
次に、移動機構112は、第1開口210が第1光路又は第2光路の入射部の位置となるように、測定用治具110を移動させる(S720)。S720のステップは、S712のステップと同様である。そして、光散乱測定装置100は、前方、側方又は後方散乱測定を行う(S722)。例えば、S722のステップで前方散乱測定を行う場合は、第1光源102Aは光を出射し、前方測定光路の光が試料に照射される。受光器114は、試料によって散乱された散乱光の強度を測定する。そして、光散乱測定装置100は、光子相関法を用いて、粒子径分布を算出する。S720のステップで測定用治具110が移動される位置、及び、S722のステップで行われる測定は、適宜ユーザの指示に応じて選択されてよい。
【0047】
以上のステップにより、ユーザの指示に応じて、前方散乱測定、側方散乱測定及び後方散乱測定の3手法による測定または、前方散乱測定のみの1手法による測定が行われる。
【0048】
図8(a)は、図7のS716乃至S722のステップによる測定結果を示す一例である。図8(b)は、図7のS704乃至S714のステップによる測定結果を示す一例である。図8(a)及び図8(b)の測定結果は、同じ試料に対する測定結果である。
【0049】
図8(a)に示すように、前方散乱測定のみの1手法による分析結果では、粒径値200nmから300nmにかけてピークを有する散乱強度分布が得られている。一方、図8(b)に示すように、前方散乱測定、側方散乱測定及び後方散乱測定の3手法による分析結果では、粒径値120nm及び280nmの2か所にピークを有する散乱強度分布が得られている。すなわち、3手法による分析を行うことで、粒径が異なるものの粒径の相違が小さい粒子が混在する試料に対して、粒径が異なる粒子ごとに分離した分布を得ることができた。一方、大まかな粒度分布を得られれば十分な場合、1手法による分析を行うことで測定に要する時間を短縮することができる。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態で説明した態様に限られない。例えば、上記において、第2開口212は、第1光路の出射部に位置し、かつ、第2光路の入射部及び出射部に位置する。しかしながら、第1光路の出射部に配置される開口と、第2光路の入射部及び出射部に配置される開口は、異なる開口であってもよい。例えば、第1光路の出射部に配置される開口は、第2光路の入射部及び出射部に配置される第2開口212とは分離された第3開口であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
100 光散乱測定装置、102A 第1光源、102B 第2光源、104 ハーフミラー、106 ミラー、108 セル、110 測定用治具、112 移動機構、114 受光器、202 底面部、204 第1側面部、206 第2側面部、208 上面部、210 第1開口、212 第2開口、214 光学素子、602 第1面、604 第2面。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8