(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】高層建物のボイド内への風の流入を制限する流入制限機構及び高層建物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
E04H9/14 F
(21)【出願番号】P 2020193430
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】鰐渕 憲昭
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-085693(JP,A)
【文献】特開2004-124604(JP,A)
【文献】特開2009-203656(JP,A)
【文献】特開平09-264071(JP,A)
【文献】特開平06-173473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
E04B 1/70
E04H 1/04-1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋上に開放するボイドを有する高層建物の前記屋上から前記ボイド内への風の流入を制限する流入制限機構であって、
前記高層建物の屋上と最上階の天井スラブとの間に設けられ水平に伸びる少なくとも1対の互いに対向する通風路であって各通風路が前記高層建物の外部及び前記ボイドにそれぞれ開放する外側開口及び内側開口を有する少なくとも1対の通風路と、
前記高層建物に取り付けられ各通風路の内側開口の下縁から前記ボイド内に水平に張り出す風の案内面を有する案内部材とを備える、流入制限機構。
【請求項2】
前記高層建物は前記ボイドを規定する4つの内壁面であって互いに隣接する2つの内壁面が直交している4つの内壁面を有し、
各通風路は矩形の断面形状を有し、また、各通風路の内側開口は各内壁面において前記ボイドに開放し、
各通風路の水平方向長さである幅寸法は各内壁面の水平方向長さである幅寸法に等しい、請求項1に記載の流入制限機構。
【請求項3】
屋上に開放するボイドを有する高層建物の前記屋上から前記ボイド内への風の流入を制限する流入制限機構であって、
前記高層建物の屋上と最上階の天井スラブとの間に設けられた前記ボイドの周囲を取り巻く水平な通風路であって前記高層建物の外部及び前記ボイドにそれぞれ開放する外側開口及び内側開口を有する通風路と、
前記高層建物に取り付けられ前記通風路の内側開口の下縁から前記ボイド内に水平に張り出す風の案内面を有する案内部材とを備える、流入制限機構。
【請求項4】
前記高層建物は前記ボイドに面する外廊下又は前記ボイド内に張り出す外廊下を有し、前記案内部材の案内面は前記外廊下の幅と同じ大きさの張り出し長さを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の流入制限機構。
【請求項5】
屋上に開放するボイドを有する高層建物であって、
請求項1~4のいずれか1項に記載の流入制限機構を備える、高層建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋上に開放するボイドを有する高層建物に適用される、高層建物の屋上からボイド内への風の流入を制限する流入制限機構及び該流入制限機構を備える高層建物に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅やオフィスビル、複合ビルのような高層建物の1つとして、換気性や採光性の向上のためにその内部を上下方向へ伸び、その屋上に開放する空間であるボイドが設けられたものがある。軒高が比較的高い高層建物では、上空を流れる比較的強い風、特に台風時においては暴風がボイドの開放上端からその内部に吹き込み、このために上階、特に最上階においてボイドに面する外廊下を強風が走り抜け、居住者の日常生活や活動に支障を来す原因となることがある。これを防止するためには、屋上からボイド内への風の流入を制限することが考えられる。
【0003】
従来、ボイド内の風圧力低減を目的として、ボイドの開口である開放上端の縁に該縁からボイドの内部に張り出す水平な張出し部を設け、ボイドの開口を部分的に塞ぐことが提案されている(特許文献1)。この提案における張出し部は、ボイドの開口からその内部への風の流入の制限に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、屋上に開放するボイドを有する高層建物に適用され、前記高層建物の屋上からボイド内への風の流入を制限するための新たな流入制限機構を提供し、また、前記流入制限機構を備える高層建物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、屋上に開放するボイドを有する高層建物の前記屋上から前記ボイド内への風の流入を制限する流入制限機構に係る。前記流入制限機構は、前記高層建物の屋上と最上階の天井スラブとの間に設けられ水平に伸びる少なくとも1対の互いに対向する通風路と、各通風路に関して前記高層建物に取り付けられた案内部材とを備える。各通風路は前記高層建物の外部及び前記ボイドにそれぞれ開放する外側開口及び内側開口を有する。前記案内部材は、各通風路の内側開口の下縁から前記ボイド内に水平に張り出す風の案内面を有する(一の実施の形態)。
【0007】
本発明に係る一の実施の形態によれば、上空の風は、前記高層建物に設けられた対をなす2つの通風路のうちの風上側に位置する通風路を経て、前記ボイド内を横切り、風下側に位置する通風路へと流れ、該通風路から前記高層建物の外部へと流れ出る。このとき、前記風上側の通風路の内側開口の下縁に位置する水平な案内面は、前記風上側の通風路から前記ボイド内に流入した風が前記風下側の通風路に向かうように案内する働きをなす。他方、前記風下側の通風路の内側開口の下縁に位置する水平な案内面は、前記ボイド内を流動し前記案内面上に到達した風を前記風下側の通風路の内側開口へと案内する働きをなす。
【0008】
暴風時又は暴風雨時の強風は、前記風上側の通風路から前記風下側の通風路へとこれらの間のボイド内を層状をなして高速で流れる。この層状の風の流れは、前記高層建物の屋上から前記ボイド内に流れ込む風を引き込む。これにより、前記屋上から前記ボイド内に流れ込む風の大部分が、前記層状の風と共に、前記風下側の通風路を経て前記高層建物の外部に流れ出る。これにより、前記高層建物の屋上から前記ボイド内への風の流入が制限される。加えて、前記ボイドの内部に張り出し、前記ボイドの開口断面の一部を覆う前記案内部材によっても前記屋上から前記ボイド内への風の流入が制限される。これによれば、前記屋上から前記ボイド内に流入する風を原因とする、前記高層建物の最上階に設けられる外廊下における風の暴走と、これに伴う居住者の日常生活や活動に対する障害を解消することができる。併せて、前記外廊下に連なるエレベータホールへの暴風雨の侵入をも回避することができる。
【0009】
一例として、前記高層建物が前記ボイドを規定する4つの内壁面であって互いに隣接する2つの内壁面が直交している4つの内壁面を有し、各通風路が矩形の断面形状を有し、各通風路の内側開口が各内壁面において前記ボイドに開放し、また、各通風路の水平方向長さである幅寸法が各内壁面の水平方向長さである幅寸法に等しいものとすることができる。
【0010】
本発明は、また、他の実施の形態に係る風の流入制限機構を提供する。この流入制限機構は、前記ボイドの周囲を取り巻く1つの水平な通風路と、前記高層建物に取り付けられた案内部材とを備える。前記1つの通風路は、前記一の実施の形態におけると同様に、前記高層建物の外部及び前記ボイドにそれぞれ開放する外側開口及び内側開口を有する。前記案内部材も、また、前記一の実施の形態におけると同様に、前記通風路の内側開口の下縁から前記ボイド内に水平に張り出す風の案内面を有する。この流入制限機構にあっては、前記1つの通風路の外側開口が前記高層建物の周囲の全部に開放し、前記内側開口が前記ボイドの周囲の全部に開放し、また、前記案内部材の案内面が鍔状を呈する。このことから、全ての方位からの風に対して、前記通風路及び前記ボイドの通過を許容する。
【0011】
本発明の一の実施の形態及び他の実施の形態のいずれにおいても、前記ボイドに面する外廊下あるいは前記ボイド内に張り出す外廊下を有する高層建物について、前記案内部材の水平面の張出し長さを前記外廊下の幅と同じ大きさを有するものとすることができる。
【0012】
本発明は、また、前記風の流入制限機構を備える、屋上に開放するボイドを有する高層建物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ボイド内への風の流入を制限する流入制限機構及びこれを備える高層建物を概略的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す流入制限機構及び高層建物の概略的な縦断面図である。
【
図3】
図1に示す流入制限機構の概略的な平面図である。
【
図4】他の例に係る流入制限機構の概略的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照すると、本発明に係る風の流入制限機構が全体に符号10で示されている。また、風の流入制限機構10が適用され該流入制限機構を備える高層建物が全体に符号12で示されている。符号14は高層建物12の屋上を示す。
【0015】
風の流入制限機構10が適用される高層建物12は、集合住宅、オフィスビル、複合ビル、ホテル等からなり、その内部を鉛直に伸び屋上14に開放するボイド16を備える。図示の高層建物12及びボイド16はそれぞれ矩形の断面形状を有する。高層建物12は4つの外壁面12aであって互いに隣接する2つの外壁面12aが直交している4つの外壁面12aと、ボイド16を規定する4つの内壁面12bであって互いに隣接する2つの内壁面12bが直交し、4つの外壁面12aとそれぞれ平行な4つの内壁面12bとを有する(
図2参照)。高層建物12は、矩形以外の他の断面形状、例えば円形等の断面形状を有するものであってもよい。
【0016】
図2に示すように、高層建物12の外壁面12aとボイド16を規定する内壁面12bとの間には、ボイド16の周囲を取り巻く多数の居室階18、すなわち居住、執務、診療、宿泊、作業等の目的のために継続的に使用される1又は複数の居室をそれぞれ有する多数の階層が設けられている。また、図示の高層建物12の各階には、ボイド16に面し4つの内壁面12bの一部を規定する外廊下20が設けられている。なお、多数の居室階18及び外廊下20については、図の煩雑を避けるため、これらを個々にではなく、全体として示した。
【0017】
風の流入制限機構10は、風の流通を許す通路である、少なくとも一対(図示の例では2対)の通風路22と、各通風路22に関して高層建物12に取り付けられた案内部材24とを備える。なお、
図1には、図の煩雑を回避する観点から、案内部材24についての図示を省略した。
【0018】
2対の通風路22は、高層建物12の屋上14と、屋上14下における最上の高さ位置にある居室階(最上階)18の天井スラブとの間に設けられている。各通風路22は、高層建物12の各外壁面12aにおいて高層建物12の外部に開放する開口(外側開口)22aと、高層建物12の各内壁面12bにおいてボイド16に開放する開口(内側開口)22bとを有する。対をなす2つの通風路22は、それぞれ、外側開口22aと内側開口22bとの間を水平にまた直線的に伸び、これらの内側開口22bにおいて互いに対向している。
【0019】
図3に示すように、図示の2対の通風路22はボイド16の周りに90度の角度的間隔をおいて十字状に配置されている。各対の通風路22は、水平面上において、鉛直方向へ伸びるボイド16に対して直交している。但し、図示の例に代えて、各対の通風路22は、水平面上において、ボイド16に対して非直角の角度で斜めに交差するものとすることができる。また、図示の例において、各通風路22は、その伸長方向に対してこれに直交する断面の形状が矩形からなる。また、各通風路22の水平方向長さ(幅寸法)aは、各内壁面12bの水平方向長さ(幅寸法)bと同じ大きさ(a=b)に設定されている。但し、図示の例に代えて、(a<b)又は(a>b)に設定することが可能である。また、各通路22の鉛直方向長さ(高さ寸法)は、例えば0.5m~階高に設定することができる。
【0020】
通風路22と共に流入制限機構10を構成する案内部材24は、各通風路22の内側開口22bの下縁26からボイド16内に水平に張り出す風の案内面24aを有する。案内面24aの張出し長さは任意の大きさに定めることができ、好ましくは外廊下20の幅寸法と同じ大きさを有する。
【0021】
図示の案内部材24は細長い矩形の平面形状を有する板体からなる。図示の例において、ボイド16内に張り出す4つの案内部材24は互いに連なり、これらの案内部材24が規定する4つの案内面24aは4つの内壁面12bに沿って矩形状に連続して伸びている。4つの案内部材24は、図示の例に代えて、不連続をなすもの、すなわち互いに連なることなく個々の独立したものとすることができる。案内部材24は、ボイド16の断面の一部を覆うものであることから、採光性の確保の観点から例えば透明なプラスチック板からなるものとすることができる。
【0022】
高層建物12がその外壁面12aに対して直角な方向、又は、非直角な方向である斜め方向からの風W(
図1参照)を受けるとき、風Wの一部である風W
1が、対をなす2つの通風路22のうち風上側に位置する一の通風路22にその外側開口22aから流入し、その内側開口22bを経てボイド16の内部に流れこむ。このとき、風W
1は、内側開口22bの下縁からボイド16内に張り出す水平な案内面24a上を流れ、案内面24aの案内作用を受けて、ボイド16内を風下側に位置する他の通風路22に向けて流れる。但し、風W
1の一部は、通風路22の他の一対の通風路22へ流れ、また、ボイド16内をその下方へ流れる。前記風下側の通風路22に到達する風W
1は、その到達直前に、前記風下側の通風路22の内側開口22bからボイド16内に張り出す水平な案内面24a上を流れ、前記風下側の通風路22の内側開口22bへと案内される。その後、風W
1は前記風下側の通風路22を流れ、その外側開口22aを経て高層建物12の外部へ流れ出る。
【0023】
ところで、暴風時又は暴風雨時においては、風W1は比較的速度及び強さが大きい強風をなし、前記風上側の通風路22から前記風下側の通風路22へとこれらの間のボイド16内を層状をなして高速で流れる。
【0024】
高層建物12の屋上14からボイド16内に吹き込む風W
2(
図2)は、その大部分がボイド16の開口(開放端)直下を層状に流れる風W
1の流れに巻き込まれ又は引き込まれ、層状に流れる風W
1と共に前記風下側の通風路22へと流れ、該通風路を経て高層建物12の外部に流れ出る。これにより、高層建物12の屋上14からボイド16内への風W
2の流入が制限される。加えて、ボイド16の内部に張り出し、ボイド16の開口断面の一部を覆う案内部材24によっても屋上14からボイド16内への風W
2の流入が制限される。これにより、居住者の日常生活や活動を阻害する原因となっていた高層建物12の最上階やその近傍階の外廊下20における風の暴走を防止することができる。併せて、外廊下20に連なるエレベータホール(図示せず)への暴風雨の侵入をも回避することができる。
【0025】
流入制限機構10の通風路22について、その数を1又は複数対とする
図1~
図3に示す例に代えて、1つとすることができる(
図4)。
【0026】
図4に示す流入制限機構10の1つの通風路22は、高層建物12の屋上14と最上階との間において、ボイド16の周囲を取り巻き、矩形状に伸びる平面形状を有する。また、この通風路22の外側開口22a及び内側開口22bは、高層建物12の屋上14と最上階の天井スラブとの間において、高層建物12の外壁面12aの全部及び内壁面12bの全部において高層建物12の外部及びボイド16に開放している。
【0027】
また、この流入制限機構10では、1つの案内部材24がボイド16内に鍔状に張り出し、案内部材24が規定する案内面24aが4つの内壁面12bに沿って矩形状に伸びている。
【0028】
このことから、
図4に示す流入制限機構10によれば、全ての方位からの風Wに関して、風W
1を通風路22及びボイド16に導き入れ、これらを通過させることができる。
【0029】
風の流入制限機構10は、内壁面12bからボイド16内に張り出す外廊下(図示せず)を有する高層建物についても適用することができる。したがって、この適用例に係る前記外廊下は内壁面12bを構成しない。この適用例においても、
図2に示すと同様の案内部材24及び案内面24aを設けることができる。この適用例では、案内部材24及び案内面24aは前記外廊下の真上に位置する。
【符号の説明】
【0030】
10 風の流入制限機構
12 高層建物
14 屋上
16 ボイド
20 外廊下
22 通風路
22a、22b 通風路の外側開口及び内側開口
24 案内部材
24a 案内面
26 内側開口の下縁
W、W1、W2 風