(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】車体側部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/04 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
B62D25/04 C
(21)【出願番号】P 2020204384
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 浩和
(72)【発明者】
【氏名】杉原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博司
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-098952(JP,A)
【文献】特開2014-073769(JP,A)
【文献】特開2016-168881(JP,A)
【文献】特開2010-115961(JP,A)
【文献】特開2013-233918(JP,A)
【文献】特開2014-227114(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0200314(US,A1)
【文献】中国実用新案第211001562(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部の上端部に車両前後方向に沿って延在され、車両幅方向内側に配置されるレールインナと、前記レールインナに対して車両幅方向外側に配置されて前記レールインナとで閉断面を形成するレールアウタと、を備えたルーフサイドレールと、
車体側部に車両上下方向に沿って延在され、車両幅方向内側に配置されて上端部が前記レールインナに接合されたピラーインナと、前記ピラーインナに対して車両幅方向外側に配置されて前記ピラーインナとで閉断面を形成すると共に上端部が前記レールアウタに車両幅方向外側から接合されたピラーアウタと、を備え
、前記ピラーアウタは引張強度が980MPa以上の超高張力鋼板からなり、前記ピラーインナは前記ピラーアウタの引張強度よりも小さい引張強度の高張力鋼板からなるセンタピラーと、
を有し、
前記レールアウタは、車両前後方向に見て車両幅方向内側に開放された形状とされ、上端部から車両下方側へ向けて車両幅方向外側に傾斜した外壁部と、前記外壁部の下端から曲げられて車両幅方向内側へ向けて車両下方側に傾斜した下壁部と、を備え、
前記ピラーアウタは、
車両前後方向に見て上部側が車両上方側へ向かうに従い車両幅方向内側へ湾曲して傾斜され、車両平面視で車両幅方向内側が開口した断面ハット状に形成されてその車両前後方向中間部に車両幅方向外側に突出した断面コ字状の突出部を備えると共に前後のフランジが前記ピラーインナにスポット溶接された本体部と、
前記本体部の上端側に連続して形成されて前記下壁部に重ね合わせられた重合部と、
前記重合部の上端側に連続して形成されて前記外壁部に接合された上端取付部と、
を備え、
前記本体部の上端における前記フランジからの前記突出部の突出量が、前記重合部における前記フランジとの境界から前記上端取付部との境界までの延出量の50%以下に設定されている、車体側部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体側部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両におけるピラー部(センタピラー)とルーフ部下部との接合構造に関する技術が開示されている。簡単に説明すると、この先行技術では、ルーフサイドレール部は、ルーフサイドインナレール(レールインナ)とルーフサイドアウタレール(レールアウタ)とでルーフ部下部に閉じ断面を形成し、ピラー部は、ピラーインナパネル(ピラーインナ)とピラーアウタパネル(ピラーアウタ)とで閉じ断面を形成している。そして、ピラーインナパネルの上端がルーフサイドインナレールに接合され、ピラーアウタパネルの上端がルーフサイドアウタレールに接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1にはピラーアウタパネルの材料は明記されていないが、ピラーアウタパネルに高強度材を用いる場合がある。ここで、仮に上記先行技術のピラーアウタパネルに高強度材を用いた場合、ピラーアウタパネルとピラーインナパネルとのスポット溶接部はHAZ軟化によってその継手強度が相対的に低下するため、スポット溶接部への荷重入力は一層抑えられることが好ましい。
【0005】
しかしながら、上記先行技術による場合、側面衝突時にはピラー部の上部のスポット溶接部に大きなせん断荷重が作用する可能性が考えられ、この点で改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、ピラーアウタに高強度材を用いた場合においても、側面衝突時にピラーアウタの上部とピラーインナの上部とのスポット溶接部に作用するせん断荷重を抑制することができる車体側部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載する本発明の車体側部構造は、車体側部の上端部に車両前後方向に沿って延在され、車両幅方向内側に配置されるレールインナと、前記レールインナに対して車両幅方向外側に配置されて前記レールインナとで閉断面を形成するレールアウタと、を備えたルーフサイドレールと、 車体側部に車両上下方向に沿って延在され、車両幅方向内側に配置されて上端部が前記レールインナに接合されたピラーインナと、前記ピラーインナに対して車両幅方向外側に配置されて前記ピラーインナとで閉断面を形成すると共に上端部が前記レールアウタに車両幅方向外側から接合されたピラーアウタと、を備え、前記ピラーアウタは引張強度が980MPa以上の超高張力鋼板からなり、前記ピラーインナは前記ピラーアウタの引張強度よりも小さい引張強度の高張力鋼板からなるセンタピラーと、を有し、前記レールアウタは、車両前後方向に見て車両幅方向内側に開放された形状とされ、上端部から車両下方側へ向けて車両幅方向外側に傾斜した外壁部と、前記外壁部の下端から曲げられて車両幅方向内側へ向けて車両下方側に傾斜した下壁部と、を備え、前記ピラーアウタは、車両前後方向に見て上部側が車両上方側へ向かうに従い車両幅方向内側へ湾曲して傾斜され、車両平面視で車両幅方向内側が開口した断面ハット状に形成されてその車両前後方向中間部に車両幅方向外側に突出した断面コ字状の突出部を備えると共に前後のフランジが前記ピラーインナにスポット溶接された本体部と、前記本体部の上端側に連続して形成されて前記下壁部に重ね合わせられた重合部と、前記重合部の上端側に連続して形成されて前記外壁部に接合された上端取付部と、を備え、前記本体部の上端における前記フランジからの前記突出部の突出量が、前記重合部における前記フランジとの境界から前記上端取付部との境界までの延出量の50%以下に設定されている。
【0008】
上記構成によれば、センタピラーは、ピラーインナとピラーアウタとで閉断面を形成し、ピラーアウタは引張強度が980MPa以上の超高張力鋼板からなり、ピラーインナはピラーアウタの引張強度よりも小さい引張強度の高張力鋼板からなる。ルーフサイドレールは、レールインナとレールアウタとで閉断面を形成している。そして、レールインナにはセンタピラーのピラーインナの上端部が接合され、レールアウタにはセンタピラーのピラーアウタの上端部が車両幅方向外側から接合されているので、側面衝突時にセンタピラーに入力された衝突荷重の一部はルーフサイドレールで受け止められる。
【0009】
一方、ピラーアウタの本体部は、車両平面視で車両幅方向内側が開口した断面ハット状に形成され、本体部の上端側に連続して形成された重合部は、レールアウタの下壁部に重ね合わせられ、重合部の上端側に連続して形成された上端取付部は、レールアウタの外壁部に接合されている。そして、ピラーアウタの本体部は、車両前後方向に見て上部側が車両上方側へ向かうに従い車両幅方向内側へ湾曲して傾斜され、前後のフランジがピラーインナにスポット溶接されている。このため、側面衝突時に、その際の衝突荷重によってピラーアウタの本体部の上部が車両幅方向内側へ変形することによって湾曲形状の外周側のピラーアウタの本体部と湾曲形状の内周側のピラーインナとで線長差が発生する(言い換えればピラーインナの上部が下方へ変位される力を受ける)ことが考えられる。このような線長差が発生すると、ピラーアウタの本体部における前後のフランジの上部とピラーインナとのスポット溶接部を破断させようとするせん断荷重が作用してしまう。
【0010】
ここで、本発明では、本体部の上端におけるフランジからの突出部の突出量が、重合部におけるフランジとの境界から上端取付部との境界までの延出量の50%以下に設定されている。このため、側面衝突時には、弱体化された突出部の上端側がルーフサイドレールに対して車両幅方向内側へ相対移動しようとすると、ルーフサイドレールには突出部の突出側かつ上端側を折れ起点として回転させようとする力が作用するので、ピラーインナはルーフサイドレールから引き上げ力を受ける。これによって、ピラーインナの上部を下方へ変位させる力の一部が相殺されるので、ピラーアウタの本体部における前後のフランジの上部とピラーインナとのスポット溶接部を破断させようとするせん断荷重を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明の車体側部構造によれば、ピラーアウタに高強度材を用いた場合においても、側面衝突時にピラーアウタの上部とピラーインナの上部とのスポット溶接部に作用するせん断荷重を抑制することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車体側部構造を備えた車体を簡略化して示す斜視図である。
【
図2】
図1の2-2線に沿って切断した状態を拡大して示す拡大断面図である。
【
図3】
図1のセンタピラーのピラーアウタを示す図である。
図3(A)は車両幅方向外側から見た状態の図である。
図3(B)は車両後方側から見た状態の図である。
【
図4】
図3のセンタピラーのピラーアウタ上部を
図3とは別の方向から見た状態で示す斜視図である。
【
図5】センタピラーが車両幅方向内側に40mm押し込まれた場合のCAE解析結果であり、延出量L2に対する突出量L1の割合とルーフサイドレールの回転角度との関係を示すグラフである。
【
図6】センタピラーが車両幅方向内側に押し込まれた場合のCAE解析結果であり、延出量L2に対する突出量L1の割合を変えた場合の変形モードの違い示す図である。
図6(A)は対比構造の場合を示す。
図6(B)は本実施形態の場合を示す。
【
図7】
図6(A)及び
図6(B)のようにセンタピラーが押し込まれた場合においてその押し込み量が40mmの時点で各スポット溶接部にそれぞれ作用する荷重の大きさを示すCAE解析結果である。
図7(A)はスポット溶接部毎のせん断荷重を示す図である。
図7(B)はスポット溶接部毎の剥離荷重を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る車体側部構造について
図1~
図7を用いて説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0014】
図1には本実施形態に係る車体側部構造を備えた車体10が簡略化された斜視図で示されている。この図に示されるように、車体側部12の下端部には、車両前後方向に沿ってロッカ14が延在されている。ロッカ14は、閉断面構造とされた長尺状の車体骨格部材である。一方、車体側部12の上端部には、車両前後方向に沿ってルーフサイドレール20が延在されている。ルーフサイドレール20は閉断面構造とされた長尺状の車体骨格部材である。ルーフサイドレール20については詳細後述する。
【0015】
前述したロッカ14とルーフサイドレール20とは、フロントピラー(「Aピラー」ともいう)18、センタピラー(「Bピラー」ともいう)30及びリヤピラー(「Cピラー」ともいう)40の計三本のピラーによって車両上下方向に連結されている。フロントピラー18、センタピラー30及びリヤピラー40は、いずれも車体側部12において車両上下方向に沿って延在されて閉断面構造とされた長尺状(柱状)の車体骨格部材である。
【0016】
フロントピラー18は、ロッカ14の前端部とルーフサイドレール20の前端部とを車両上下方向に連結している。リヤピラー40は、ロッカ14の後端部とルーフサイドレール20の後端部とを車両上下方向に連結している。また、センタピラー30は、ロッカ14の長手方向の中間部とルーフサイドレール20の長手方向の中間部とを車両上下方向に連結している。センタピラー30が設けられたことにより、車体側部12には図示しないフロントサイドドアによって開閉される前側ドア開口部16F及び図示しないリヤサイドドアによって開閉される後側ドア開口部16Rが形成されている。センタピラー30については詳細後述する。
【0017】
図2には、
図1の2-2線に沿って切断した状態の拡大断面図が示されている。この図に示されるように、ルーフサイドレール20は、車両幅方向内側に配置されるレールインナ(「ルーフサイドレールインナパネル」ともいう)22と、レールインナ22に対して車両幅方向外側に配置されるレールアウタ(「ルーフサイドレールアウタパネル」ともいう)24と、を備えている。
【0018】
レールインナ22は、車両幅方向内側に向かって上り勾配となるように配置された傾斜部22Aと、傾斜部22Aの上端部から車両幅方向内側に延びた上フランジ部22Bと、を備えている。さらに、レールインナ22は、傾斜部22Aの下端部から略車両幅方向外側斜め下方に延びた下フランジ部22Cを備えている。
【0019】
レールアウタ24は、車両前後方向に見て車両幅方向内側に開放された形状とされ、略車両上下方向及び略車両幅方向に沿った断面視にて断面が略ハット形状とされている。すなわち、レールアウタ24は、車両幅方向内向きに開口された略U字状の折曲壁部24Aと、折曲壁部24Aの車両幅方向内側端部から車両幅方向内側に延びた上フランジ部24Bと、折曲壁部24Aの車両幅方向外側の下端部から略車両幅方向外側斜め下方に延びた下フランジ部24Cと、を備えている。また、折曲壁部24Aは、レールアウタ24の上端部から車両下方側へ向けて車両幅方向外側に傾斜した外壁部24Sと、外壁部24Sの上端から曲げられて車両幅方向内側へ向けて車両下方側に若干傾斜した上壁部24Uと、外壁部24Sの下端から曲げられて車両幅方向内側へ向けて車両下方側に傾斜した下壁部24Lと、を備えている。
【0020】
レールアウタ24の上フランジ部24Bは、レールインナ22の上フランジ部22Bの上面に重ね合わされて溶接により接合されている。レールアウタ24の下フランジ部24Cは、レールインナ22の下フランジ部22Cに対して車両幅方向外側にて溶接により接合されている。これらにより、ルーフサイドレール20は、レールアウタ24とレールインナ22とで閉断面を形成している。なお、レールアウタ24の下フランジ部24Cとレールインナ22の下フランジ部22Cとは、
図2に示される位置では、センタピラー30の後述するピラーインナ32の上端側の部位32Xを挟んで配置されている。
【0021】
センタピラー30は、車両幅方向内側に配置されるピラーインナ32と、ピラーインナ32に対して車両幅方向外側に配置されるピラーアウタ34と、を備えている。ピラーアウタ34は、高強度材、具体的には引張強度が980MPa以上の超高張力鋼板(超ハイテン材)によって構成され、ピラーインナ32は、一例としてピラーアウタ34の引張強度よりも小さい引張強度の高張力鋼板によって構成されている。ピラーインナ32は、一例として、図示しない平断面視で車両幅方向の凹凸は若干あるものの全体としては車両前後方向に沿って延在する部材として構成されている。ピラーインナ32の上端側の部位32Xは、一例としてレールアウタ24の下フランジ部24Cとレールインナ22の下フランジ部22Cとに接合され、ピラーインナ32の上端部32Aはレールインナ22の傾斜部22Aに接合されている。
【0022】
図3(A)にはピラーアウタ34を車両幅方向外側から見た状態の図が示されている。なお、
図3(A)においては前述したピラーインナ32の上部における外形形状の一例を簡略化して二点鎖線で重ねて図示している。この二点鎖線の下部は、図を見易くするためにピラーアウタ34の実線から僅かにずらしているが、実際にはピラーアウタ34の実線と重なる位置にある。また、
図3(B)にはピラーアウタ34を車両後方側から見た状態の図が示されている。
【0023】
図3(A)に示されるように、ピラーアウタ34は車両幅方向外側から見て略T字状に形成されている。また、
図2及び
図3(B)に示されるように、ピラーアウタ34は、車両前後方向に見て上部側が車両上方側へ向かうに従い車両幅方向内側へ湾曲して傾斜された本体部34Hを備えている。
図2及び
図3に示されるピラーアウタ34の本体部34Hは、図示しない車両平面視で車両幅方向内側が開口した断面ハット状に形成されてその車両前後方向中間部に車両幅方向外側に突出した断面コ字状の突出部34Aを備えると共に前後のフランジ34B、34Cがピラーインナ32にスポット溶接されている。これにより、センタピラー30は、ピラーアウタ34とピラーインナ32とで閉断面を形成している。
【0024】
一方、
図3(A)に示されるように、突出部34Aの上端部は車両前後方向に徐々に張り出すような形状とされ、前後のフランジ34B、34Cの上端部は、車両前後方向に張り出している。なお、
図3(A)では前後のフランジ34B、34Cの上部におけるスポット溶接部(スポット溶接の打点)の一例を「X」印で示す。図中において、S1、S2、S3、S11、S12、S13はルーフサイドレール20の下フランジ部24C、22C(いずれも
図2参照)とのスポット溶接部であり、S4、S5、S6、S7(以下、「S4~S7」と略す)、S14、S15、S16、S17、S18(以下、「S14~S18」と略す)は、ピラーインナ32とのスポット溶接部である。
【0025】
図4にはピラーアウタ34の上部を
図3とは別の方向から見た状態の斜視図が示されている。
図2及び
図4に示されるように、ピラーアウタ34は、本体部34Hの上端側に連続して形成されてレールアウタ24の下壁部24L(いずれも
図2参照)に重ね合わせられた重合部34Tと、重合部34Tの上端側に連続して形成されてレールアウタ24の外壁部24S(いずれも
図2参照)に接合された上端部としての上端取付部34Uと、を備えている。すなわち、ピラーアウタ34の上端取付部34Uはレールアウタ24(
図2参照)に車両幅方向外側から接合されている。
図4に示されるように、重合部34Tは、前後のフランジ34B、34Cに連接すると共に突出部34Aに連接している。また、上端取付部34Uは、車両前後方向に帯状に延在されている。
【0026】
また、ピラーアウタ34は、本体部34Hの上端におけるフランジ34B、34Cからの突出部34Aの突出量L1が重合部34Tにおけるフランジ34B、34Cとの境界から上端取付部34Uとの境界までの延出量L2の50%以下に設定されている。なお、ピラーアウタ34の突出部34Aにおける車両幅方向外側の縦壁部34A1の上部には、適宜ビード34A2が形成されているが、
図1及び
図3(A)では図示を省略している。
【0027】
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
【0028】
図2に示されるように、レールインナ22にはセンタピラー30のピラーインナ32の上端部32Aが接合され、レールアウタ24にはセンタピラー30のピラーアウタ34の上端取付部34Uが車両幅方向外側から接合されている。このため、側面衝突時にセンタピラー30に入力された衝突荷重の一部はルーフサイドレール20で受け止められる。
【0029】
一方、ピラーアウタ34の本体部34Hは、図示しない車両平面視で車両幅方向内側が開口した断面ハット状に形成され、本体部34Hの上端側に連続して形成された重合部34Tは、レールアウタ24の下壁部24Lに重ね合わせられ、重合部34Tの上端側に連続して形成された上端取付部34Uは、レールアウタ24の外壁部24Sに接合されている。そして、ピラーアウタ34の本体部34Hは、車両前後方向に見て上部側が車両上方側へ向かうに従い車両幅方向内側へ湾曲して傾斜され、前後のフランジ34B、34C(
図3(A)参照)がピラーインナ32にスポット溶接されている。このため、側面衝突時に、その際の衝突荷重によってピラーアウタ34の本体部34Hの上部が車両幅方向内側へ変形することによって湾曲形状の外周側のピラーアウタ34の本体部34Hと湾曲形状の内周側のピラーインナ32とで線長差が発生する(言い換えればピラーインナ32の上部が下方へ変位される力F1を受ける)ことが考えられる。このような線長差が発生すると、ピラーアウタ34の本体部34Hにおける前後のフランジ34B、34C(
図3(A)参照)の上部とピラーインナ32とのスポット溶接部S4~S7、S14~S18(
図3(A)参照)を破断させようとする略車両上下方向に沿ったせん断荷重が作用してしまう。
【0030】
ここで、本実施形態では、
図4に示されるように、本体部34Hの上端におけるフランジ34B、34Cからの突出部34Aの突出量L1が重合部34Tにおけるフランジ34B、34Cとの境界から上端取付部34Uとの境界までの延出量L2の50%以下に設定されている。このため、側面衝突時には、
図2に示される弱体化された突出部34Aの上端側がルーフサイドレール20に対して車両幅方向内側へ相対移動しようとすると、ルーフサイドレール20には突出部34Aの突出側かつ上端側を折れ起点として回転させようとする力F2が作用するので、ピラーインナ32はルーフサイドレール20から引き上げ力F3を受ける。これによって、ピラーインナ32の上部を下方へ変位させる力F1の一部が相殺されるので、
図3(A)に示されるピラーアウタ34の本体部34Hにおける前後のフランジ34B、34Cの上部とピラーインナ32とのスポット溶接部S4~S7、S14~S18を破断させようとする略車両上下方向に沿ったせん断荷重を抑制することができる。すなわち、本実施形態では、側面衝突時における変形モードをコントロールすることでスポット溶接部S4~S7、S14~S18へのせん断荷重の入力を低減することができる。
【0031】
次に、センタピラーが車両幅方向内側に押し込まれた場合の作用を確認するためのCAE解析の結果について
図5~
図7を参照しながら説明する。
【0032】
図5には、延出量L2に対する突出部の突出量L1の割合(以下、適宜、「突出量の割合」と略す)と、センタピラーが車両幅方向内側に40mm押し込まれた場合におけるルーフサイドレールの回転角度との関係が示されている。なお、センタピラーが車両幅方向内側に40mm押し込まれた時点でルーフサイドレールの回転角度が12°に達するとスポット溶接部S4~S7、S14~S18(
図3(A)参照)への入力を効果的に低減することができるため、ここではルーフサイドレールの目標回転角度は12°としている。
図5のCAE解析結果に示されるように、突出量の割合が50%以下の場合、ルーフサイドレールの回転角度は目標回転角度以上になることが判る。
【0033】
図6には、センタピラーが車両幅方向内側に押し込まれた場合における変形モードがCAE解析の結果として示されている。
図6(A)は、突出量の割合が7割弱である対比構造の場合であり、
図6(B)は、突出量の割合が5割弱の本実施形態の場合である。
図6(A)において、対比構造の構成部の符号については、便宜上、本実施形態の同様の構成部の符号の末尾に「Z」を付している。
図6(A)及び
図6(B)について補足説明すると、これらの図においては、センタピラー30、30Zとルーフサイドレール20、20Zとの結合構造体がシミュレーション上の側面衝突試験用の装置100によって車両上下方向の両側(図中では左右両側)が車両幅方向(図中では紙面に垂直な方向)の軸回りに回転可能に保持された状態で、センタピラー30、30Zの所定部位が車両幅方向内側(図中では下側)に押し込まれて前記結合構造体が変形している状態を示す。
【0034】
図6に示されるように、突出量の割合が7割弱の対比構造(
図6(A)参照)におけるルーフサイドレール20Zの回転角度θ1よりも、突出量の割合が5割弱の本実施形態(
図6(B)参照)におけるルーフサイドレール20の回転角度θ2の方が大きくなっていることが判る。
【0035】
図7は、
図6(A)及び
図6(B)のようにセンタピラー30、30Zが押し込まれた場合においてその押し込み量が40mmの時点で各スポット溶接部S4、S5、S6(
図3(A)参照、対比構造においても同様の部分)にそれぞれ作用する荷重の大きさを示すCAE解析結果である。
図7(A)はスポット溶接部S4、S5、S6毎のせん断荷重を示す図である。
図7(B)はスポット溶接部S4、S5、S6毎の剥離荷重を示す図である。
【0036】
図7(A)に示されるように、スポット溶接部S4、S5、S6のいずれにおいても本実施形態の構造(棒グラフQ1、Q2、Q3)の方が対比構造(棒グラフP1、P2、P3)よりもせん断荷重が抑えられている。特に、スポット溶接部S5では、その効果が大きいことが判る。また、
図7(B)に示されるように、いずれのスポット溶接部S4、S5、S6においても本実施形態の構造(棒グラフQ4、Q5、Q6)の方が対比構造(棒グラフP4、P5、P6)よりも剥離荷重が抑えられている。
【0037】
以上説明したように、本実施形態の車体側部構造によれば、
図3(A)に示されるピラーアウタ34に高強度材を用いた場合においても、側面衝突時にピラーアウタ34の上部とピラーインナ32の上部とのスポット溶接部S4~S7、S14~S18に作用するせん断荷重を抑制することができる。
【0038】
以上、本発明の一例について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
12 車体側部
20 ルーフサイドレール
22 レールインナ
24 レールアウタ
24S 外壁部
24L 下壁部
30 センタピラー
32 ピラーインナ
34 ピラーアウタ
34A 突出部
34B、34C フランジ
34H 本体部
34T 重合部
34U 上端取付部(ピラーアウタの上端部)
L1 突出量
L2 延出量