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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240604BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240604BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240604BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240604BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020207050
(22)【出願日】2020-12-14
(65)【公開番号】P2022094175
(43)【公開日】2022-06-24
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】松田 哲
(72)【発明者】
【氏名】飯田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-142596(JP,A)
【文献】特開2004-322715(JP,A)
【文献】特開2020-083059(JP,A)
【文献】特開2020-152174(JP,A)
【文献】特開2020-158070(JP,A)
【文献】特開2020-069860(JP,A)
【文献】特開2019-209944(JP,A)
【文献】特開2019-151272(JP,A)
【文献】特開2007-055452(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0389508(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0023804(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00 - 6/10
B62D 5/00 - 5/32
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵シャフトとの間の動力伝達が分離されたステアリングホイールに付与される操舵反力の発生源である反力モータを操舵状態に応じて演算される指令値に基づき制御する反力制御部と、前記転舵シャフトに付与される転舵力の発生源である転舵モータを操舵状態に応じて制御する転舵制御部と、を含む操舵制御装置であって、
前記反力制御部は、
記転舵モータの電流値に基づき前記転舵シャフトに作用する第1の軸力を演算する第1の演算部と、
前記転舵モータの電流値とは異なる他の車両状態変数に基づき前記転舵シャフトに作用する第2の軸力を演算する第2の演算部と、
前記第1の軸力および前記第2の軸力に基づき前記指令値に反映させる最終的な軸力である第3の軸力を演算する第3の演算部と、を備え、
前記転舵制御部は、前記転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生したとき、前記特定の状況の度合いに応じたコードを設定するとともに、車載ネットワークを介して前記コードを前記反力制御部に送信し、
前記反力制御部は、前記特定の状況が発生したとき、前記転舵制御部からの前記コードに基づいて、前記第3の軸力に対する前記第1の軸力の反映度合いを減少させる一方、前記第3の軸力に対する前記第2の軸力の反映度合いを増加させる操舵制御装置。
【請求項2】
前記第3の演算部は、前記第1の軸力および前記第2の軸力に対して車両挙動、操舵状態または路面状態に応じて個別に設定される分配比率を乗算した値を合算することにより前記第3の軸力を演算するものであって、
前記反力制御部は、前記特定の状況が発生したとき、前記コードに基づいて、前記第3の軸力に対する前記第1の軸力の分配比率を減少させる一方、前記第3の軸力に対する前記第2の軸力の分配比率を増加させる請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記反力制御部は、第4の演算部をさらに有し、
前記第4の演算部は、前記特定の状況が発生したとき、前記コードに基づいて、前記第3の軸力に対する前記第1の軸力の分配比率をより減少させる一方、前記第3の軸力に対する前記第2の軸力の分配比率をより増加させる観点に基づき、前記第1の軸力および前記第2の軸力に対する電流制限時用の分配比率を個別に演算するように構成され、
前記第3の演算部は、前記特定の状況が発生したとき、前記第4の演算部により演算される電流制限時用の分配比率を使用して前記第3の軸力を演算する請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記特定の状況の度合いは、軽度、中程度、および重度を含み、
前記第4の演算部は、前記コードが前記重度を示すものであるとき、前記第3の軸力に対する前記第1の軸力の分配比率を0%に設定する一方、前記第3の軸力に対する前記第2の軸力の分配比率を100%に設定する請求項3に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が知られている。この操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有している。車両の走行時、操舵装置の制御装置は、反力モータを通じて操舵反力を発生させるとともに、転舵モータを通じて転舵輪を転舵させる。
【0003】
ステアバイワイヤ方式の操舵装置においては、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が分離されているため、転舵輪に作用する路面反力がステアリングホイールに伝わりにくい。したがって、運転者は路面状態を、ステアリングホイールを介した手応えとして感じにくい。
【0004】
そこで、たとえば特許文献1に記載の制御装置は、目標転舵角に基づく理想的なラック軸力である理想軸力と、転舵モータの電流値に基づくラック軸力の推定値である路面軸力とを演算する。制御装置は、理想軸力と路面軸力とを所定の配分割合で合算し、この合算した軸力に基づくベース反力を使用して反力モータを制御する。路面軸力には路面状態が反映されるため、反力モータが発生する操舵反力にも路面状態が反映される。したがって、運転者は、路面状態を操舵反力として感じることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-165219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の操舵装置を含む従来一般のステアバイワイヤ方式の操舵装置には、製品仕様に応じて様々な保護機能が持たせられる。保護機能の一例としては、転舵モータの過熱保護機能が挙げられる。この機能を有する制御装置は、たとえば転舵モータの温度を監視して、その監視される温度が過熱状態に近づいたとき、転舵モータへ供給する電流量を制限する。これにより、転舵モータを保護することが可能となる。
【0007】
しかし、特許文献1のように路面軸力を操舵反力に反映させる制御装置に転舵モータの過熱保護機能を持たせる場合、つぎのようなことが懸念される。
すなわち、路面軸力は転舵モータの電流値に所定の係数を乗算することにより演算される。このため、転舵モータの過熱保護の観点から転舵モータの電流量が制限される場合、その制限される電流量に応じて路面軸力、ひいては操舵反力が減少するおそれがある。したがって、たとえば運転者に対するインフォメーションとして操舵反力をより増大させるべき状況であるにもかかわらず、転舵モータの過熱保護機能が実行されることによって本来必要とされる操舵反力を確保できないことが懸念される。
【0008】
本発明の目的は、転舵モータの電流が制限される場合であれ、運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力を確保することができる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成し得る操舵制御装置は、転舵シャフトとの間の動力伝達が分離されたステアリングホイールに付与される操舵反力の発生源である反力モータを操舵状態に応じて演算される指令値に基づき制御する操舵制御装置である。操舵制御装置は、前記転舵シャフトに付与される転舵力の発生源である転舵モータの電流値に基づき前記転舵シャフトに作用する第1の軸力を演算する第1の演算部と、前記転舵モータの電流値とは異なる他の車両状態変数に基づき前記転舵シャフトに作用する第2の軸力を演算する第2の演算部と、前記第1の軸力および前記第2の軸力に基づき前記指令値に反映させる最終的な軸力である第3の軸力を演算する第3の演算部と、を備えている。前記第3の演算部は、前記転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生したとき、前記第3の軸力に対する前記第1の軸力の反映度合いを減少させる一方、前記第3の軸力に対する前記第2の軸力の反映度合いを増加させる。
【0010】
転舵モータの電流が制限されるとき、この転舵モータの電流値に基づき演算される第1の軸力、ひいては第1の軸力が反映される第3の軸力も制限されるおそれがある。このため、本来必要とされる操舵波力が確保できないことが懸念される。この点、上記の操舵制御装置によれば、転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生したとき、第3の軸力に対する第1の軸力の反映度合いが減少する一方、第3の軸力に対する第2の軸力の反映度合いが増加する。すなわち、第3の軸力においては第2の軸力がより支配的な状態となる。第2の軸力は、転舵モータの電流制限の影響を受けにくくなる。このため、転舵モータの電流が制限される場合であれ、運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力を確保することができる。
【0011】
上記の操舵制御装置において、前記第3の演算部は、前記第1の軸力および前記第2の軸力に対して車両挙動、操舵状態または路面状態に応じて個別に設定される分配比率を乗算した値を合算することにより前記第3の軸力を演算するものであってもよい。この場合、前記第3の演算部は、前記転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生したとき、前記第3の軸力に対する前記第1の軸力の分配比率を減少させる一方、前記第3の軸力に対する前記第2の軸力の分配比率を増加させるようにしてもよい。
【0012】
この構成によれば、転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生したとき、第3の軸力に対する第1の軸力の分配比率を減少させることにより、第3の軸力に対する第1の軸力の反映度合いを減少させることができる。また、転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生したとき、第3の軸力に対する第2の軸力の分配比率を増加させることにより、第3の軸力に対する第2の軸力の反映度合いを増加させることができる。さらに、第1の軸力の分配比率および第2の軸力の分配比率を増減させることにより、第1の軸力と第2の軸力とを段階的に切り替えることも可能となる。したがって、たとえば転舵モータの電流を制限すべき特定の状況の度合いに応じて運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力を段階的に確保することが可能となる。
【0013】
上記の操舵制御装置において、前記転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生したとき、前記第3の軸力に対する前記第1の軸力の分配比率をより減少させる一方、前記第3の軸力に対する前記第2の軸力の分配比率をより増加させる観点に基づき、前記第1の軸力および前記第2の軸力に対する電流制限時用の分配比率を個別に演算する第4の演算部を有していてもよい。このことを前提として、前記第3の演算部は、前記転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生したとき、前記第4の演算部により演算される電流制限時用の分配比率を使用して前記第3の軸力を演算するようにしてもよい。
【0014】
この構成によれば、転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生したとき、第4の演算部により演算される電流制限時用の分配比率を使用して第3の軸力を演算することにより、第3の軸力に対する第1の軸力の分配比率をより減少させる一方、第3の軸力に対する第2の軸力の分配比率をより増加させることができる。
【0015】
上記の操舵制御装置において、前記第4の演算部は、前記転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生したとき、前記第3の軸力に対する前記第1の軸力の分配比率を0%に設定する一方、前記第3の軸力に対する前記第2の軸力の分配比率を100%に設定するようにしてもよい。
【0016】
この構成によれば、転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生したとき、転舵モータの電流値に基づき演算される第1の軸力は使用されず、転舵モータの電流値以外の他の車両状態変数に基づき演算される第2の軸力が第3の軸力として演算される。このため、転舵モータの電流が制限される場合であれ、運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力をより適切に確保することができる。
【0017】
上記の操舵制御装置において、前記第3の演算部は、前記転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生していないときには前記第1の軸力をそのまま前記第3の軸力として演算する一方、前記転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生したときには前記第2の軸力をそのまま前記第3の軸力として演算するようにしてもよい。
【0018】
この構成によれば、転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生したとき、転舵モータの電流値に基づき演算される第1の軸力は使用されず、転舵モータの電流値以外の他の車両状態変数に基づき演算される第2の軸力が第3の軸力として演算される。このため、転舵モータの電流が制限される場合であれ、運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力を確保することができる。
【0019】
上記の操舵制御装置において、前記転舵モータを操舵状態に応じて制御する転舵制御部を含んでいてもよい。この場合、前記転舵制御部は、定められた判定条件が成立するかどうかに基づき前記転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生しているかどうかを示すフラグの値をセットするようにしてもよい。また、前記第3の演算部は、前記転舵制御部によりセットされるフラグの値に基づき前記転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生したことを認識するようにしてもよい。
【0020】
この構成によれば、第3の演算部が、定められた判定条件が成立するかどうかに基づき転舵モータの電流を制限すべき特定の状況が発生しているかどうかを判定する必要がない。このため、第3の演算部の演算負荷を軽減することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の操舵制御装置によれば、転舵モータの電流が制限される場合であれ、運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】操舵制御装置の第1の実施の形態が搭載されるステアバイワイヤ方式の操舵装置の構成図。
図2】第1の実施の形態における制御装置のブロック図。
図3】第1の実施の形態における操舵反力指令値演算部のブロック図。
図4】第2の実施の形態における軸力演算部のブロック図。
図5】第6の実施の形態における操舵反力指令値演算部のブロック図。
図6】第7の実施の形態における軸力演算部のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1の実施の形態>
以下、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第1の実施の形態を説明する。
【0024】
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。また、操舵装置10は、車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト14を有している。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15,15を介して左右の転舵輪16,16が連結されている。転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θが変更される。ステアリングシャフト12および転舵シャフト14は車両の操舵機構を構成する。
【0025】
また、操舵装置10は、操舵反力を生成するための構成として、反力モータ31、減速機構32、回転角センサ33、およびトルクセンサ34を有している。ちなみに、操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力をいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0026】
反力モータ31は、操舵反力の発生源である。反力モータ31としてはたとえば三相のブラシレスモータが採用される。反力モータ31の回転軸は、減速機構32を介してステアリングシャフト12に連結されている。反力モータ31のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。
【0027】
回転角センサ33は反力モータ31に設けられている。回転角センサ33は、反力モータ31の回転角θを検出する。反力モータ31の回転角θは、操舵角θの演算に使用される。反力モータ31とステアリングシャフト12とは減速機構32を介して連動する。このため、反力モータ31の回転角θとステアリングシャフト12の回転角、ひいてはステアリングホイール11の回転角である操舵角θとの間には相関がある。したがって、反力モータ31の回転角θに基づき操舵角θを求めることができる。
【0028】
トルクセンサ34は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト12に加わるトルクである操舵トルクTを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12の途中に設けられるトーションバーの捻じれ量に基づきステアリングシャフト12に印加される操舵トルクTを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12における減速機構32よりもステアリングホイール11側の部分に設けられている。
【0029】
また、操舵装置10は、転舵輪16,16を転舵させるための動力である転舵力を生成するための構成として、転舵モータ41、減速機構42、および回転角センサ43を有している。
【0030】
転舵モータ41は転舵力の発生源である。転舵モータ41としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ41の回転軸は、減速機構42を介してピニオンシャフト44に連結されている。ピニオンシャフト44のピニオン歯44aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。転舵モータ41のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト44を介して転舵シャフト14に付与される。転舵モータ41の回転に応じて、転舵シャフト14は図1中の左右方向である車幅方向に沿って移動する。
【0031】
回転角センサ43は転舵モータ41に設けられている。回転角センサ43は転舵モータ41の回転角θを検出する。
ちなみに、操舵装置10は、ピニオンシャフト13を有している。ピニオンシャフト13は、転舵シャフト14に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。ピニオンシャフト13を設ける理由は、ピニオンシャフト44と共に転舵シャフト14を図示しないハウジングの内部に支持するためである。すなわち、操舵装置10に設けられる図示しない支持機構によって、転舵シャフト14は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオンシャフト13,44へ向けて押圧される。これにより、転舵シャフト14はハウジングの内部に支持される。ただし、ピニオンシャフト13を使用せずに転舵シャフト14をハウジングに支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0032】
また、操舵装置10は、制御装置50を有している。制御装置50は、車載される各種のセンサの検出結果に基づき反力モータ31、および転舵モータ41を制御する。センサとしては、前述した回転角センサ33、トルクセンサ34および回転角センサ43に加えて、車速センサ501がある。車速センサ501は、車両の走行速度である車速Vを検出する。
【0033】
制御装置50は、反力モータ31の制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。制御装置50は操舵トルクTおよび車速Vに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力に基づき操舵反力指令値を演算する。制御装置50は、操舵反力指令値に応じた操舵反力を発生させるために必要とされる電流を反力モータ31へ供給する。
【0034】
制御装置50は、転舵モータ41の制御を通じて転舵輪16,16を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。制御装置50は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θを演算する。このピニオン角θは、転舵輪16,16の転舵角θを反映する値である。また、制御装置50は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θに基づき操舵角θを演算し、この演算される操舵角θに基づきピニオン角θの目標値である目標ピニオン角を演算する。そして制御装置50は、目標ピニオン角と実際のピニオン角θとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する。
【0035】
つぎに、制御装置50について詳細に説明する。
図2に示すように、制御装置50は、反力制御を実行する反力制御部50a、および転舵制御を実行する転舵制御部50bを有している。
【0036】
反力制御部50aは、操舵角演算部51、操舵反力指令値演算部52、および通電制御部53を有している。
操舵角演算部51は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θに基づきステアリングホイール11の操舵角θを演算する。
【0037】
操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクTおよび車速Vに基づき操舵反力指令値Tを演算する。操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクTの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値の操舵反力指令値Tを演算する。操舵反力指令値演算部52については、後に詳述する。
【0038】
通電制御部53は、操舵反力指令値Tに応じた電力を反力モータ31へ供給する。具体的には、通電制御部53は、操舵反力指令値Tに基づき反力モータ31に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部53は、反力モータ31に対する給電経路に設けられた電流センサ54を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流Iの値を検出する。この電流Iの値は、反力モータ31に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部53は、電流指令値と実際の電流Iの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ31に対する給電を制御する。これにより、反力モータ31は操舵反力指令値Tに応じたトルクを発生する。運転者に対して路面反力に応じた適度な手応え感を与えることが可能である。
【0039】
転舵制御部50bは、ピニオン角演算部61、目標ピニオン角演算部62、ピニオン角フィードバック制御部63、制限制御部64、および通電制御部65を有している。
ピニオン角演算部61は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θを演算する。転舵モータ41とピニオンシャフト44とは減速機構42を介して連動する。このため、転舵モータ41の回転角θとピニオン角θとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して転舵モータ41の回転角θからピニオン角θを求めることができる。また、ピニオンシャフト44は、転舵シャフト14に噛合されている。このため、ピニオン角θと転舵シャフト14の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θは、転舵輪16,16の転舵角θを反映する値である。
【0040】
目標ピニオン角演算部62は、操舵角演算部51により演算される操舵角θおよび車速センサ501を通じて検出される車速Vに基づき目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部62は、たとえば車速Vに応じて操舵角θに対する転舵角θの比である舵角比を設定し、この設定される舵角比に応じて目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車速Vが遅くなるほど操舵角θに対する転舵角θがより大きくなるように、また車速Vが速くなるほど操舵角θに対する転舵角θがより小さくなるように、目標ピニオン角θ を演算する。
【0041】
ちなみに、製品仕様などによっては、目標ピニオン角演算部62は目標ピニオン角θ を操舵角θと同じ値に設定するようにしてもよい。この場合、操舵角θと転舵角θとの比である舵角比は「1:1」となる。
【0042】
ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θ 、およびピニオン角演算部61により演算される実際のピニオン角θを取り込む。ピニオン角フィードバック制御部63は、実際のピニオン角θを目標ピニオン角θ に追従させるべくピニオン角θのフィードバック制御を通じてピニオン角指令値T を演算する。
【0043】
制限制御部64は、たとえば転舵モータ41の発熱状態に応じて、転舵モータ41へ供給する電流量を制限するための制限値Ilimを演算する。制限値Ilimは、転舵モータ41を過熱から保護する観点に基づき、転舵モータ41へ供給する電流量の上限値として設定される。制限制御部64は、転舵モータ41に対する給電経路の近傍に設けられた温度センサ62aを通じて検出される転舵モータ41の温度Tと温度しきい値との比較結果に基づき制限値Ilimを演算する。
【0044】
制限制御部64は、転舵モータ41の温度Tが温度しきい値を超えないとき、転舵モータ41が過熱することなしに印加できる最大の電流値を基準として、通電制御部65が転舵モータ41へ供給しようとする電流を制限しない程度の大きな絶対値を有する制限値Ilimを演算する。これに対し、制限制御部64は、転舵モータ41の温度Tが温度しきい値を超えるとき、転舵モータ41が過熱することなしに印加できる最大の電流値よりも小さい絶対値を有する制限値Ilimを演算する。制限制御部64は、転舵モータ41の温度Tが高いときほどより小さい絶対値を有する制限値Ilimを演算する。
【0045】
ちなみに、制限値Ilimは固定された値である固定値であってもよい。固定値である制限値Ilimは、制御装置50の記憶装置に格納される。この構成を採用する場合、制限制御部64は、転舵モータ41の温度Tが温度しきい値を超えるとき、転舵モータ41の温度Tにかかわらず転舵モータ41の電流量に対する制限値Ilimとして固定値である制限値Ilimを設定するようにしてもよい。また、制限制御部64は、転舵モータ41の温度Tが温度しきい値を超えないとき、転舵モータ41の電流量に対する制限値Ilimを設定しないようにしてもよい。
【0046】
制限制御部64は、転舵モータ41の温度Tが温度しきい値を超えているかどうか、すなわち転舵モータ41の電流量を制限すべき状況であるかどうかに基づきフラグFの値をセットする。制限制御部64は、転舵モータ41の温度Tが温度しきい値を超えているとき、すなわち転舵モータ41の電流量を制限すべき状況であるとき、フラグFの値を「1」にセットする。制限制御部64は、転舵モータ41の温度Tが温度しきい値を超えていないとき、すなわち転舵モータ41の電流量を制限すべき状況ではないとき、フラグFの値を「0」にセットする。
【0047】
通電制御部65は、ピニオン角指令値T に応じた電力を転舵モータ41へ供給する。具体的には、通電制御部65は、ピニオン角指令値T に基づき転舵モータ41に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部65は、転舵モータ41に対する給電経路に設けられた電流センサ66を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流Iの値を検出する。この電流Iの値は、転舵モータ41に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部65は、電流指令値と実際の電流Iの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する(電流Iのフィードバック制御)。これにより、転舵モータ41はピニオン角指令値T に応じた角度だけ回転する。
【0048】
通電制御部65は、制限制御部64によって制限値Ilimが演算される場合、転舵モータ41へ供給する電流量を制限値Ilimに応じて制限する。通電制御部65は、転舵モータ41へ供給しようとしている電流の絶対値と制限値Ilimとを比較する。通電制御部65は、転舵モータ41へ供給しようとしている電流の絶対値が制限値Ilimよりも大きいとき、転舵モータ41へ供給する電流の絶対値を制限値Ilimに制限する。これにより、転舵モータ41が発生するトルクは制限値Ilimに応じたトルクに制限される。これに対し、通電制御部65は、転舵モータ41へ供給しようとしている電流の絶対値が制限値Ilim以下であるとき、電流Iのフィードバック制御を通じて演算される本来の電流をそのまま転舵モータ41へ供給する。転舵モータ41が発生するトルクは制限されない。
【0049】
つぎに、操舵反力指令値演算部52について詳細に説明する。
図3に示すように、操舵反力指令値演算部52は、目標操舵反力演算部71、軸力演算部72、および減算器73を有している。
【0050】
目標操舵反力演算部71は、操舵トルクTおよび車速Vに基づき目標操舵反力T1を演算する。目標操舵反力T1は、反力モータ31を通じて発生させるべきステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用するトルクの目標値である。目標操舵反力演算部71は、操舵トルクTの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値の目標操舵反力T1を演算する。
【0051】
軸力演算部72は、ピニオン角θ、転舵モータ41の電流Iの値、および車速Vに基づき転舵シャフト14に作用する軸力を演算し、この演算される軸力をステアリングホイール11あるいはステアリングシャフト12に対するトルクに換算することによりトルク換算値T2を演算する。軸力演算部72については、後に詳述する。
【0052】
減算器73は、目標操舵反力演算部71により演算される目標操舵反力T1から軸力演算部72により演算されるトルク換算値T2を減算することにより、操舵反力指令値Tを演算する。
【0053】
つぎに、軸力演算部72について詳細に説明する。
図3に示すように、軸力演算部72は、角度軸力演算部81A、電流軸力演算部81B、軸力配分演算部81C、および換算器81Dを有している。
【0054】
角度軸力演算部81Aは、ピニオン角θに基づき、転舵シャフト14に作用する軸力の理想値である角度軸力AFを演算する。角度軸力演算部81Aは、たとえば制御装置50の記憶装置に格納された角度軸力マップを使用して角度軸力AFを演算する。角度軸力マップは、横軸をピニオン角θ、縦軸を角度軸力AFとするマップであって、ピニオン角θと角度軸力AFとの関係を車速Vに応じて規定する。角度軸力マップは、つぎの特性を有する。すなわち、角度軸力AFは、ピニオン角θの絶対値が増大するほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値に設定される。ピニオン角θの絶対値の増加に対して、角度軸力AFの絶対値は線形的に増加する。角度軸力AFは、ピニオン角θの符号と同符号に設定される。角度軸力AFは、路面状態あるいは転舵シャフト14に作用する力が反映されない軸力である。
【0055】
電流軸力演算部81Bは、転舵モータ41の電流Iの値に基づき、転舵シャフト14に作用する電流軸力AFを演算する。ここで、転舵モータ41の電流Iの値は、路面摩擦抵抗などの路面状態に応じた外乱が転舵輪16,16に作用することに起因して目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの間に発生する差によって変化する。すなわち、転舵モータ41の電流Iの値には、転舵輪16,16に作用する実際の路面状態が反映される。このため、転舵モータ41の電流Iの値に基づき路面状態の影響を反映した軸力を演算することが可能である。電流軸力AFは、たとえば車速Vに応じた係数であるゲインを転舵モータ41の電流Iの値に乗算することにより求められる。電流軸力AFは、路面状態あるいは転舵輪16,16を介して転舵シャフト14に作用する力が反映される軸力である。
【0056】
軸力配分演算部81Cは、各種の車両状態変数に応じて、角度軸力AFに対する分配比率および電流軸力AFに対する分配比率を個別に設定する。車両状態変数は、車両挙動、操舵状態、あるいは路面状態を含む車両の状態が反映される変数であって、たとえばヨーレート、横加速度、操舵角θ、ピニオン角θ、車速V、操舵速度、およびピニオン角速度などが挙げられる。操舵速度は、操舵角θを微分することにより得られる。ピニオン角速度は、ピニオン角θを微分することにより得られる。
【0057】
軸力配分演算部81Cは、角度軸力AFおよび電流軸力AFに対してそれぞれ個別に設定される分配比率を乗算した値を合算することにより、操舵反力指令値Tに反映させる最終的な軸力である最終軸力AFを演算する。最終軸力AFは、次式(1)で表される。
【0058】
AF=AF・DR+AF・DR …(1)
ただし、「DR」は角度軸力AFに対する分配比率、「DR」は電流軸力AFに対する分配比率である。分配比率DRは、角度軸力AFを最終軸力AFに反映させる度合いを示す。分配比率DRは、電流軸力AFを最終軸力AFに反映させる度合いを示す。
【0059】
軸力配分演算部81Cは、車両の走行状態あるいは操舵状態が反映される各種の車両状態変数に基づき2つの分配比率DR,DRの値をそれぞれ設定する。また、軸力配分演算部81Cは、製品仕様などに基づき、2つの分配比率DR,DRの値を「0(0%)」~「1(100%)」の範囲において、たとえば「0.1」刻みで設定することが可能である。ただし、軸力配分演算部81Cは、2つの分配比率DR,DRの値の合計が「1」となるように、2つの分配比率DR,DRの値をそれぞれ設定する。
【0060】
換算器81Dは、軸力配分演算部81Cにより演算される最終軸力AFをステアリングホイール11に対するトルクに換算することによりトルク換算値T2を演算する。
このように構成した操舵装置10によれば、軸力演算部72により演算される最終軸力AFをトルクに換算したトルク換算値T2が操舵反力指令値Tに反映されることによって、車両挙動あるいは路面状態に応じた操舵反力をステアリングホイール11に付与することが可能となる。このため、運転者は、ステアリングホイール11を介した操舵反力を手応えとして感じることにより車両挙動あるいは路面状態を把握することが可能となる。
【0061】
ところが、操舵装置10においては、つぎのようなことが懸念される。すなわち、転舵モータ41の過熱保護機能の実行を通じて転舵モータ41の電流量が制限される場合、その電流量が制限されることに起因して電流軸力AF、ひいては転舵モータ41が発生するトルクが減少するおそれがある。このため、たとえば運転者に対するインフォメーションとして操舵反力をより増大させるべき状況であるにもかかわらず、本来必要とされる操舵反力を確保できないことが懸念される。
【0062】
そこで、軸力演算部72としてつぎの構成を採用している。
図3に示すように、軸力演算部72は、分配比率演算部81Eを有している。分配比率演算部81Eは、制限制御部64によりセットされるフラグFの値を取り込む。分配比率演算部81Eは、フラグFの値が「1」であるとき、転舵モータ41の電流制限時用の分配比率DR,DRの値を設定する。この電流制限時用の分配比率DR,DRは、軸力配分演算部81Cにより演算される分配比率DR,DRに優先して使用される。
【0063】
分配比率演算部81Eは、フラグFの値が「1」であるとき、すなわち転舵モータ41の電流量を制限すべき状況であるとき、最終軸力AFに対する角度軸力AFの分配比率DRの値を「1(100%)」に設定する一方、最終軸力AFに対する電流軸力AFの分配比率DRの値を「0(0%)」に設定する。また、分配比率演算部81Eは、フラグFの値が「0」であるとき、すなわち転舵モータ41の電流量を制限すべき状況ではないとき、電流制限時用の分配比率DR,DRを設定しない。
【0064】
軸力配分演算部81Cは、分配比率演算部81Eにより電流制限時用の分配比率DR,DRが設定されるとき、これら設定される分配比率DR,DRを自己が演算する分配比率DR,DRに優先して使用する。ここでは、角度軸力AFの電流制限時用の分配比率DRの値は「1(100%)」に設定される一方、電流軸力AFの電流制限時用の分配比率DRの値は「0(0%)」に設定される。このため、先の式(1)からも分かるように、最終軸力AFの値は、角度軸力演算部81Aにより演算される角度軸力AFの値と同じ値になる。すなわち、角度軸力演算部81Aにより演算される角度軸力AFがそのまま最終軸力AFとして反力モータ31の制御に使用される。
【0065】
ちなみに、製品仕様などによっては、分配比率演算部81Eの機能を軸力配分演算部81Cに持たせるようにしてもよい。この場合、軸力演算部72として分配比率演算部81Eを割愛した構成を採用することが可能となる。軸力配分演算部81Cは、制限制御部64によりセットされるフラグFの値を取り込む。軸力配分演算部81Cは、フラグFの値が「1」であるとき、転舵モータ41の電流制限時用の分配比率DR,DRの値を設定する。この電流制限時用の分配比率DR,DRは、車両挙動、操舵状態、あるいは路面状態が反映される各種の車両状態変数に応じて演算される分配比率DR,DRに優先して使用される。
【0066】
つぎに、第1の実施の形態の作用を説明する。
転舵モータ41の電流が制限されない通常時、制御装置50は、角度軸力AFと電流軸力AFとを車両挙動、操舵状態あるいは路面状態に応じて設定される分配比率で合算することにより最終軸力AFを演算し、この演算される最終軸力AFを使用して反力モータ31を制御する。角度軸力AFはピニオン角θに基づく理想的な軸力であって路面状態が反映されない軸力である。電流軸力AFは転舵モータ41の電流Iの値に基づく軸力であって路面状態が反映される軸力である。このため、反力モータ31は車両挙動、操舵状態あるいは路面状態に応じた操舵反力を発生する。したがって、運転者はステアリングホイール11を介した操舵反力を手応えとして感じることにより車両挙動、操舵状態あるいは路面状態を把握することが可能となる。
【0067】
つぎに、転舵モータ41の過熱保護の観点に基づき転舵モータ41の電流が制限されるとき、制御装置50は、制限制御部64により設定される制限値Ilimを使用して転舵モータ41へ供給する電流量を制限する。転舵モータ41の電流Iの値が少なくとも制限値Ilimに制限されることによって、転舵モータ41の温度上昇が抑えられるとともに、転舵モータ41の電流Iが減少することに伴い転舵モータ41の温度が徐々に低下し、やがて温度しきい値以下の温度に至る。これにより、転舵モータ41は過熱から保護される。
【0068】
また、転舵モータ41の過熱保護の観点に基づき転舵モータ41の電流が制限されるとき、制御装置50は、角度軸力AFと電流軸力AFとのうち、転舵モータ41の電流Iの変化の影響を受けない角度軸力AFのみを操舵反力指令値Tに反映させる。具体的には、制御装置50は、最終軸力AFに対する角度軸力AFの分配比率DRを「1(100%)」に設定する一方、最終軸力AFに対する電流軸力AFの分配比率DRを「0(0%)」に設定する。転舵モータ41の電流Iの変化の影響を受ける電流軸力AFが操舵反力指令値Tに反映されないので、反力モータ31が発生するトルクも転舵モータ41の電流Iの変化の影響を受けることはない。このため、転舵モータ41の電流Iが制限されることに伴いステアリングホイール11に付与される操舵反力が制限されることもない。
【0069】
転舵モータ41の電流Iが制限されている場合であれ、角度軸力AFと電流軸力AFとのうちピニオン角θに応じた角度軸力AFのみが操舵反力指令値Tに反映されることによって、ピニオン角θに応じた操舵反力がステアリングホイール11に付与される。たとえば、角度軸力AFはピニオン角θの絶対値が増大するほどより大きな絶対値に設定される。このため、たとえばステアリングホイール11がより大きく操舵される場合のように運転者に対するインフォメーションとして操舵反力をより増大させるべき状況において、運転者に対するインフォメーションとしてピニオン角θに応じた適切な操舵反力がステアリングホイール11に付与される。
【0070】
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況が発生したとき、転舵モータ41の電流Iに基づき演算される電流軸力AFは使用されず、転舵モータ41の電流制限の影響を受けない角度軸力AFが操舵反力指令値Tに反映させる最終的な軸力である最終軸力AFとして演算される。このため、転舵モータ41の電流が制限される場合であれ、運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力を確保することができる。また、転舵モータ41の電流Iが制限されないシステムの通常動作時の操舵感触と、転舵モータ41の電流Iが制限されるシステムの保護動作時の操舵感触とを両立して実現することができる。
【0071】
(2)分配比率演算部81Eは、転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況が発生したとき、最終軸力AFに対する電流軸力AFの分配比率を0%に設定する一方、最終軸力AFに対する角度軸力AFの分配比率を100%に設定する。このため、転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況が発生したとき、分配比率演算部81Eにより演算される電流制限時用の分配比率DR,DRを使用して最終軸力AFが演算されることにより、転舵モータ41の電流が制限される場合であれ、運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力を確保することができる。
【0072】
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、軸力演算部72の構成の点で第1の実施の形態と異なる。
【0073】
図4に示すように、軸力演算部72は、角度軸力演算部81A、電流軸力演算部81B、換算器81Dおよびスイッチ81Fを有している。
スイッチ81Fは、データ入力として、角度軸力演算部81Aにより演算される角度軸力AF、および電流軸力演算部81Bにより演算される電流軸力AFを取り込む。また、スイッチ81Fは、制御入力として、制限制御部64によりセットされるフラグFの値を取り込む。スイッチ81Fは、フラグFの値に基づき、角度軸力演算部81Aにより演算される角度軸力AF、および電流軸力演算部81Bにより演算される電流軸力AFのうちいずれか一方を、反力モータ31の制御に使用される最終的な軸力である最終軸力AFとして選択する。
【0074】
スイッチ81Fは、フラグFの値が「0」であるとき、電流軸力演算部81Bにより演算される電流軸力AFを最終軸力AFとして選択する。スイッチ81Fは、フラグFの値が「1」であるとき、角度軸力演算部81Aにより演算される角度軸力AFを最終軸力AFとして選択する。
【0075】
つぎに、第2の実施の形態の作用を説明する。
転舵モータ41の電流が制限されない通常時、制御装置50は、角度軸力AFと電流軸力AFとのうち、転舵モータ41の電流Iに基づく電流軸力AFを最終軸力AFとして選択し、この選択される最終軸力AFを使用して反力モータ31を制御する。電流軸力AFは転舵モータ41の電流Iに基づく軸力であって路面状態が反映される軸力である。このため、反力モータ31は車両挙動あるいは路面状態に応じた操舵反力を発生する。したがって、運転者はステアリングホイール11を介した操舵反力を手応えとして感じることにより車両挙動あるいは路面状態を把握することが可能となる。
【0076】
また、転舵モータ41の過熱保護の観点に基づき転舵モータ41の電流が制限されるとき、制御装置50は、角度軸力AFと電流軸力AFとのうち、転舵モータ41の電流Iの変化の影響を受けない角度軸力AFを最終軸力AFとして選択する。転舵モータ41の電流Iの変化の影響を受ける電流軸力AFが操舵反力指令値Tに反映されないので、反力モータ31が発生するトルクも転舵モータ41の電流Iの変化の影響を受けない。このため、転舵モータ41の電流Iが制限されることに伴いステアリングホイール11に付与される操舵反力が制限されることもない。転舵モータ41の電流Iが制限されている場合であれ、ピニオン角θに応じた適切な操舵反力が運転者に対するインフォメーションとしてステアリングホイール11に付与される。
【0077】
したがって、第2の実施の形態によれば、先の第1の実施の形態の(1)と同様の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(3)転舵モータ41の電流Iが制限される際、スイッチ81Fを切り替えるだけで操舵反力指令値Tに反映される軸力を電流軸力AFから角度軸力AFへ切り替えることができる。このため、制御装置50の演算負荷を軽減することが可能である。
【0078】
<第3の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1図3に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。なお、本実施の形態は、第2の実施の形態に適用してもよい。
【0079】
第1の実施の形態では、転舵モータ41の電流を制限すべき状況として、転舵モータ41が過熱状態に近づいた状況を一例として挙げたが、車両の電源電圧が低下した状況を含んでいてもよい。
【0080】
制限制御部64は、たとえば先の図2に二点鎖線で示される電圧センサ502を通じて検出されるバッテリなどの直流電源の電圧Vに応じて転舵モータ41へ供給する電流量を制限するための制限値Ilimを演算する。制限値Ilimは、直流電源の電圧Vの低下を抑制する観点に基づき、転舵モータ41へ供給する電流量の上限値として設定される。制限制御部64は、電圧センサ502を通じて検出される直流電源の電圧Vが電圧しきい値以下であるとき、その時々の電圧の値に応じて制限値Ilimを演算する。電圧しきい値は、転舵モータ41の動作が保証される動作保証電圧範囲の下限値を基準として設定される。
【0081】
また、制限制御部64は、直流電源の電圧Vが電圧しきい値以下であるかどうか、すなわち直流電源の電圧Vが低下しているかどうかに基づきフラグFの値をセットする。制限制御部64は、直流電源の電圧Vが電圧しきい値以下であるとき、すなわち直流電源の電圧Vが低下しているとき、フラグFの値を「1」にセットする。制限制御部64は、直流電源の電圧Vが電圧しきい値以下ではないとき、すなわち直流電源の電圧Vが低下していないとき、フラグFの値を「0」にセットする。
【0082】
したがって、第3の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(4)車両の電源電圧が低下したとき、転舵モータ41へ供給される電流Iを制限することにより、電源電圧のさらなる低下を抑制することができる。また、車両の電源電圧の低下に起因して転舵モータ41の電流Iが制限される場合であれ、転舵モータ41の電流制限の影響を受けない角度軸力AFを使用して転舵モータ41の駆動を制御することによって、運転者に対するインフォメーションとして適切な操舵反力を付与することが可能である。
【0083】
<第4の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第4の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1図3に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。
【0084】
第1の実施の形態において、転舵モータ41の電流Iを制限すべき状況が発生したとき、分配比率演算部81Eは、角度軸力AFの分配比率DRを「1(100%)」に設定する一方、電流軸力AFの分配比率DRを「0(0%)」に設定したが、これに限らない。
【0085】
たとえば、転舵モータ41の電流Iを制限すべき状況が発生したとき、つぎの関係式(2)または関係式(3)で表されるように、角度軸力AFの分配比率DRの値および電流軸力AFの分配比率DRの値を設定してもよい。ただし、2つの分配比率DR:DRはそれらの合計が「1(100%)」になるように設定される。また、2つの分配比率DR,DRは、製品仕様などによって適宜の値に設定される。
【0086】
DR:DR=0.8(80%):0.2(20%) …(2)
DR:DR=0.9(90%):0.1(10%) …(3)
このように、角度軸力AFの分配比率DRの値は必ずしも「1(100%)」でなくてもよい。2つの分配比率DR,DRは、転舵モータ41の電流Ibを制限すべき特定の状況が発生したとき、最終軸力AFに対する電流軸力AFの反映度合いが減少する一方、最終軸力AFに対する角度軸力AFの反映度合いが増加する程度の値に設定すればよい。すなわち、最終軸力AFにおいて角度軸力AFがより支配的な状態となればよい。
【0087】
したがって、第4の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(5)転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況が発生したとき、最終軸力AFに対する電流軸力AFの反映度合いが減少する一方、最終軸力AFに対する角度軸力AFの反映度合いが増加する。すなわち、最終軸力AFにおいて角度軸力AFがより支配的な状態となるため、転舵モータ41の電流Iが制限される場合であれ、運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力を確保することができる。
【0088】
<第5の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第5の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1図3に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。
【0089】
先の第3の実施の形態と同様に、転舵モータ41の電流を制限すべき状況として複数の状況が想定される場合、それらの状況に応じて2つの分配比率DR,DRの値を異ならせてもよい。具体的な構成は、つぎの通りである。
【0090】
制限制御部64は、フラグFの値をセットすることに加えて、転舵モータ41の電流を制限すべき状況ごとに固有の識別情報を生成する。
分配比率演算部81Eは、フラグFの値および識別情報を取り込む。分配比率演算部81Eは、フラグFの値が「1」であるとき、識別情報に応じて、すなわち転舵モータ41の電流を制限すべき状況に応じて、最終軸力AFに対する角度軸力AFの分配比率DRの値、および最終軸力AFに対する電流軸力AFの分配比率DRの値を設定する。このとき、転舵モータ41の電流を制限すべき状況に応じて、角度軸力AFの分配比率DRの値および電流軸力AFの分配比率DRの値が異なる値に設定される。ただし、2つの分配比率DR,DRはそれらの合計が「1(100%)」になるように設定される。また、2つの分配比率DR,DRは、製品仕様などによって適宜の値に設定される。
【0091】
たとえば転舵モータ41が過熱状態であるとき、つぎの関係式(4)で表されるように、角度軸力AFの分配比率DRの値および電流軸力AFの分配比率DRの値を設定する。
【0092】
DR:DR=1(100%):0(0%) …(4)
また、直流電源の電圧Vが低下したとき、つぎの関係式(5)または関係式(6)で表されるように、角度軸力AFの分配比率DRの値および電流軸力AFの分配比率DRの値を設定する。
【0093】
DR:DR=0.8(80%):0.2(20%) …(5)
DR:DR=0.9(90%):0.1(10%) …(6)
したがって、第5の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0094】
(6)転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況が発生したとき、転舵モータ41の電流Iを制限すべき状況に応じて、2つの分配比率DR,DRの値が設定される。ただし、転舵モータ41の電流Iを制限すべき状況にかかわらず、最終軸力AFにおいて角度軸力AFがより支配的な状態となる。このため、転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況が発生したとき、転舵モータ41の電流Iを制限すべき状況に応じて、運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力を確保することができる。
【0095】
<第6の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第6の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1図3に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。なお、本実施の形態は、第3~第5の実施の形態に適用してもよい。
【0096】
製品仕様によっては、軸力演算部72として、つぎのような構成が採用されることがある。すなわち、図5に示すように、軸力演算部72は、角度軸力演算部81A、電流軸力演算部81B、軸力配分演算部81C、換算器81Dおよび分配比率演算部81Eに加えて、横G軸力演算部81Gを有している。
【0097】
横G軸力演算部81Gは、車両に設けられる横加速度センサ503を通じて検出される横加速度LAに基づき、転舵シャフト14に作用する軸力である横G軸力AFを演算する。横G軸力AFは、たとえば車速Vに応じた係数であるゲインを横加速度LAに乗算することにより求められる。横加速度LAには、車両の挙動が反映されるため、横加速度LAに基づき演算される横G軸力AFにも車両の挙動が反映される。横G軸力AFは、横加速度LAに基づき演算されるため、転舵モータ41の電流Iの変化の影響を受けにくい。
【0098】
軸力配分演算部81Cは、角度軸力AF、電流軸力AFおよび横G軸力AFを車両の走行状態あるいは操舵状態が反映される各種の車両状態変数に応じて設定される所定の分配比率で合算することにより、最終軸力AFを演算する。車両状態変数としては、たとえば車速V、操舵角θおよびピニオン角θなどが挙げられる。この最終軸力AFが操舵反力指令値Tに反映されることにより、車両挙動に応じたより適切な操舵反力をステアリングホイール11に付与することが可能となる。ちなみに、このときの最終軸力AFは、次式(7)で表される。
【0099】
AF=AF・DR+AF・DR+AF・DR …(7)
ただし、「DR」は角度軸力AFに対する分配比率、「DR」は電流軸力AFに対する分配比率、「DR」は横G軸力AFに対する分配比率である。
【0100】
分配比率演算部81Eは、フラグFの値が「1」であるとき、角度軸力AF、電流軸力AFおよび横G軸力AFに対する電流制限時用の分配比率DR,DR,DRの値を設定する。これら電流制限時用の分配比率DR,DR,DRは、操舵反力指令値T、ひいては操舵反力に対する転舵モータ41の電流制限の影響を抑える観点に基づき製品仕様などに応じて適宜の値に設定される。また、電流制限時用の分配比率DR,DR,DRは、軸力配分演算部81Cにより設定される分配比率DR,DR,DRに優先して使用される。
【0101】
分配比率演算部81Eは、フラグFの値が「1」であるとき、最終軸力AFに対する電流軸力AFの反映度合いが減少する一方、最終軸力AFに対する角度軸力AFおよび横G軸力AFのトータルとしての反映度合いが増加するように、電流制限時用の分配比率DR,DR,DRの値を設定する。
【0102】
分配比率演算部81Eは、フラグFの値が「1」であるとき、たとえば電流軸力AFの分配比率DRの値を「0(0%)」、角度軸力AFの分配比率DRの値を「0.5(50%)」、横G軸力AFの分配比率DRの値を「0.5(50%)」に設定するようにしてもよい。また、分配比率演算部81Eは、フラグFの値が「1」であるとき、たとえば電流軸力AFの分配比率DRの値および角度軸力AFの分配比率DRの値をそれぞれ「0」に設定する一方、横G軸力AFの分配比率DRの値を「1」に設定するようにしてもよい。
【0103】
このようにすれば、最終軸力AFに対する電流軸力AFの反映度合いが減少する一方、最終軸力AFに対する角度軸力AFおよび横G軸力AFのトータルとしての反映度合いが増加する。このため、転舵モータ41の電流制限が操舵反力指令値T、ひいては操舵反力に対して及ぼす影響が抑制される。
【0104】
また、先の第4の実施の形態と同様に、分配比率演算部81Eは、フラグFの値が「1」である場合であれ、電流軸力AFに対する分配比率DRの値を「0(0%)」に設定しなくてもよい。分配比率演算部81Eは、フラグFの値が「1」であるとき、たとえば電流軸力AFの分配比率DRの値を「0.1(10%)」、角度軸力AFの分配比率DRの値を「0.6(60%)」、横G軸力AFの分配比率DRの値を「0.3(30%)」に設定するようにしてもよい。
【0105】
このようにしても、最終軸力AFに対する電流軸力AFの反映度合いが減少する一方、最終軸力AFに対する角度軸力AFおよび横G軸力AFのトータルとしての反映度合いが増加する。このため、転舵モータ41の電流制限が操舵反力指令値T、ひいては操舵反力に対して及ぼす影響が抑制される。
【0106】
したがって、第6の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(7)転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況が発生したとき、転舵モータ41の電流Iに基づき演算される電流軸力AFの最終軸力AFに対する反映度合いが減少する一方、転舵モータ41の電流Iの変化の影響を受けにくい角度軸力AFおよび横G軸力AFのトータルとしての最終軸力AFに対する反映度合いが増加する。このため、転舵モータ41の電流制限が操舵反力指令値T、ひいては操舵反力に対して影響を及ぼすことが抑えられる。したがって、転舵モータ41の電流Iが制限される場合であれ、運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力を確保することができる。
【0107】
(8)ちなみに、図5に括弧書きの符号を付して示すように、横G軸力演算部81Gに代えてヨーレート軸力演算部81Hを設けてもよい。ヨーレート軸力演算部81Hは、車両に設けられるヨーレートセンサ504を通じて検出されるヨーレートYRに基づき、転舵シャフト14に作用する軸力であるヨーレート軸力AFを演算する。ヨーレート軸力AFは、ヨーレートYRを微分した値であるヨーレート微分値に、車速Vに応じた係数である車速ゲインを乗算することにより求められる。車速ゲインは、車速Vが速くなるほどより大きな値に設定される。ヨーレートYRには車両の挙動が反映されるため、ヨーレートYRに基づき演算されるヨーレート軸力AFにも車両の挙動が反映される。また、ヨーレート軸力AFは、ヨーレートYRに基づき演算されるため、転舵モータ41の電流制限の影響を受けにくい。このため、横G軸力演算部81Gに代えてヨーレート軸力演算部81Hを設ける場合についても、横G軸力演算部81Gを設けた場合と同様の効果を得ることができる。
【0108】
(9)また、製品仕様などによっては、軸力演算部72として、角度軸力演算部81Aを割愛した構成を採用してもよい。この構成を採用する場合、分配比率演算部81Eは、転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況が発生したとき、最終軸力AFに対する電流軸力AFの反映度合いが減少する一方、最終軸力AFに対する横G軸力AFの反映度合いが増加するように、電流制限時用の分配比率DR,DRの値を演算する。このため、転舵モータ41の電流制限が操舵反力に影響を及ぼすことが抑えられる。
【0109】
<第7の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第7の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の第2の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、軸力演算部72の構成の点で第1の実施の形態と異なる。
【0110】
図6に示すように、軸力演算部72は、先の第2の実施の形態と同様の構成、すなわち角度軸力演算部81A、電流軸力演算部81B、換算器81Dおよびスイッチ81Fに加えて、横G軸力演算部81Gを有している。
【0111】
スイッチ81Fは、フラグFの値が「0」であるとき、電流軸力演算部81Bにより演算される電流軸力AFを最終軸力AFとして選択する。スイッチ81Fは、フラグFの値が「1」であるとき、角度軸力演算部81Aにより演算される角度軸力AF、または横G軸力演算部81Gにより演算される横G軸力AFを最終軸力AFとして選択する。ただし、フラグFの値が「1」であるときに選択される軸力は製品仕様によって決まる。
【0112】
したがって、第7の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(10)転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況が発生したとき、転舵モータ41の電流Iに基づき演算される電流軸力AFは使用されない。すなわち、転舵モータ41の電流制限の影響を受けない角度軸力AFまたは横G軸力AFが操舵反力指令値Tに反映させる最終的な軸力である最終軸力AFとして演算される。このため、転舵モータ41の電流が制限される場合であれ、運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力を確保することができる。
【0113】
(11)また、転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況が発生したとき、スイッチ81Fを切り替えるだけで操舵反力指令値Tに反映される軸力を電流軸力AFから角度軸力AFまたは横G軸力AFへ切り替えることができる。このため、制御装置50の演算負荷を軽減することが可能である。
【0114】
(12)ちなみに、製品仕様などによっては、軸力演算部72として、角度軸力演算部81Aを割愛した構成を採用してもよい。この構成を採用する場合、転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況が発生したとき、横G軸力AFが最終軸力AFとして演算される。横G軸力AFは、転舵モータ41の電流制限の影響を受けにくい。このため、転舵モータ41の電流が制限される場合であれ、運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力を確保することができる。
【0115】
(13)図6に括弧書きの符号を付して示すように、横G軸力演算部81Gに代えてヨーレート軸力演算部81Hを設けてもよい。この構成を採用する場合、転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況が発生したとき、角度軸力AFまたはヨーレート軸力AFが最終軸力AFとして演算される。ヨーレート軸力AFは、転舵モータ41の電流制限の影響を受けにくい。このため、転舵モータ41の電流が制限される場合であれ、運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力を確保することができる。
【0116】
<第8の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第8の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1図3に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。また、本実施の形態では、先の第3の実施の形態と同様に、転舵モータ41の電流を制限すべき状況として複数の状況を想定している。
【0117】
制御装置50の反力制御部50aおよび転舵制御部50bは、互いに独立した個別の電子制御装置(ECU)として設けられている。反力制御部50aおよび転舵制御部50bは、CAN(Controller Area Network)などの車載ネットワークを介して互いに情報を授受する。
【0118】
制限制御部64は、温度センサ62aを通じて転舵モータ41の温度Tを検出する。制限制御部64は、転舵モータ41の温度Tと複数の温度しきい値との比較を通じて転舵モータ41の発熱状態を判定する。転舵モータ41の発熱状態には、転舵モータ41の電流を制限するほど発熱していない通常の発熱状態、軽度の過熱状態、中程度の過熱状態、および重度の過熱状態が含まれる。制限制御部64は、転舵モータ41の過熱の程度が大きいほど、より絶対値の小さい制限値Ilimを演算する。
【0119】
また、制限制御部64は、電圧センサ502を通じて直流電源の電圧Vを検出する。制限制御部64は、直流電源の電圧Vと複数の電圧しきい値との比較を通じて直流電源の電圧の状態を判定する。直流電源の電圧の状態には、転舵モータ41の電流を制限するほど電圧が低下していない通常の電圧状態、軽度の電圧低下状態、中程度の電圧低下状態、および重度の電圧低下状態が含まれる。制限制御部64は、直流電源の電圧低下の程度が大きいほど、より絶対値の小さい制限値Ilimを演算する。
【0120】
制限制御部64は、転舵モータ41の電流量を制限すべき状況であるかどうかを示すフラグFの値をセットすることに代えて、つぎの処理を実行する。すなわち、制限制御部64は、制御装置50の記憶装置に格納されたコード表に従って操舵装置10の状態をコード化する。コード化とは、操舵装置10の状態を記号としてのコードで表現する処理をいう。操舵装置10の状態には、転舵モータ41の発熱状態および直流電源の電圧の状態が含まれる。操舵装置10の状態とコードとの対応関係の一例は、つぎの通りである。
【0121】
・コード「0」……転舵モータ41の電流が制限されない通常状態
・コード「1A」…転舵モータ41の軽度の過熱状態
・コード「1B」…転舵モータ41の中程度の過熱状態
・コード「1C」…転舵モータ41の重度の過熱状態
・コード「2A」…直流電源の軽度の電圧低下状態
・コード「2B」…直流電源の中程度の電圧低下状態
・コード「2C」…直流電源の重度の電圧低下状態
転舵制御部50bは、制限制御部64により設定されるコードを、車載ネットワークを介して反力制御部50aへ送信する。反力制御部50aは、車載ネットワークを介してコードを受信し、この受信されるコードに応じて反力制御を実行する。たとえば反力制御部50aは、反力制御の一環として、コードに応じて角度軸力AFの分配比率DRの値および電流軸力AFの分配比率DRの値を変更する。たとえば分配比率演算部81Eは、コードから把握される転舵モータ41の電流を制限すべき状況の度合いに応じて、2つの分配比率DR,DRの値を段階的に変化させる。
【0122】
分配比率演算部81Eは、転舵モータ41が過熱状態である場合、その過熱の状態が「軽度」、「中程度」および「重度」の順に悪化するほど、角度軸力AFの分配比率DRの値をより大きい値に設定する一方、電流軸力AFの分配比率DRの値をより小さい値に設定する。ただし、電流制限時用の2つの分配比率DR,DRは、それらの合計が「1(100%)」になるように設定される。また、電流制限時用の2つの分配比率DR1,DR2は、製品仕様などによって適宜の値に設定される。2つの分配比率DR,DRの具体的な設定例は、つぎの通りである。
【0123】
分配比率演算部81Eは、コード「1A」が取得されるとき、すなわち転舵モータ41の発熱状態が軽度の過熱状態であるとき、つぎの関係式(8)で表されるように、2つの分配比率DR,DRの値を設定する。
【0124】
DR:DR=0.8(80%):0.2(20%) …(8)
分配比率演算部81Eは、コード「1B」が取得されるとき、すなわち転舵モータ41の発熱状態が中程度の過熱状態であるとき、つぎの関係式(9)で表されるように、2つの分配比率DR,DRの値を設定する。
【0125】
DR:DR=0.9(90%):0.1(10%) …(9)
分配比率演算部81Eは、コード「1C」が取得されるとき、すなわち転舵モータ41の発熱状態が重度の過熱状態であるとき、つぎの関係式(10)で表されるように、2つの分配比率DR,DRの値を設定する。
【0126】
DR:DR=1(100%):0(0%) …(10)
分配比率演算部81Eは、直流電源の電圧Vが低下している場合、その低下の度合いが「軽度」、「中程度」および「重度」の順に悪化するほど、角度軸力AFの分配比率DRの値をより大きい値に設定する一方、電流軸力AFの分配比率DRの値をより小さい値に設定する。ただし、電流制限時用の2つの分配比率DR,DRは、それらの合計が「1(100%)」になるように設定される。また、電流制限時用の2つの分配比率DR1,DR2は、製品仕様などによって適宜の値に設定される。2つの分配比率DR,DRの具体的な設定例は、つぎの通りである。
【0127】
分配比率演算部81Eは、コード「2A」が取得されるとき、すなわち直流電源の状態が軽度の電圧低下状態であるとき、つぎの関係式(11)で表されるように、2つの分配比率DR,DRの値を設定する。
【0128】
DR:DR=0.8(80%):0.2(20%) …(11)
分配比率演算部81Eは、コード「2B」が取得されるとき、すなわち直流電源の状態が中程度の電圧低下状態であるとき、つぎの関係式(12)で表されるように、2つの分配比率DR,DRの値を設定する。
【0129】
DR:DR=0.9(90%):0.1(10%) …(12)
分配比率演算部81Eは、コード「2C」が取得されるとき、すなわち直流電源の状態が重度の電圧低下状態であるとき、つぎの関係式(13)で表されるように、2つの分配比率DR,DRの値を設定する。
【0130】
DR:DR=1(100%):0(0%) …(13)
ちなみに、転舵モータ41の電流を制限すべき複数の状況、ここでは転舵モータ41の過熱および直流電源の電圧低下が同時期に発生することも考えられる。こうした状況に対応する観点に基づき、たとえば操舵装置10の状態の種別あるいは状態の程度によってコードに優先順位を設定してもよい。たとえば直流電源の軽度の電圧低下状態を示すコード「2A」よりも、転舵モータ41の重度の過熱状態を示すコード「1C」を優先する。
【0131】
したがって、第8の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(14)転舵制御部50bは、操舵装置10の状態を示す記号であるコードを反力制御部50aへ送信する。このため、転舵制御部50bが取得する転舵モータ41の温度Tおよび直流電源の電圧Vなどの情報をそのまま操舵装置10の状態を示す情報として反力制御部50aへ送信する場合に比べて、反力制御部50aと転舵制御部50bとの間の通信負荷が低減する。
【0132】
(15)転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況の度合い、たとえば転舵モータ41の過熱の程度あるいは直流電源の電圧低下の程度に応じて、角度軸力AFの分配比率DRの値および電流軸力AFの分配比率DRの値を増減させる。これにより、転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況の度合いに応じて、角度軸力AFと電流軸力AFとを段階的に切り替えることが可能である。このため、転舵モータ41の電流Iを制限すべき特定の状況の度合いに応じて、運転者に対するインフォメーションとしての操舵反力を段階的に確保することが可能となる。
【0133】
<他の実施の形態>
なお、第1~第8の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1~第8の実施の形態において、角度軸力演算部81Aはピニオン角θに代えて、操舵角演算部51により演算される操舵角θあるいは目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θ に基づき角度軸力AFを演算するようにしてもよい。このようにして演算される角度軸力AFも、操舵状態に応じて転舵シャフト14に作用する軸力の理想値である。
【0134】
・第1~第7の実施の形態において、制御装置50における反力制御部50aおよび転舵制御部50bを互いに独立した個別の電子制御装置(ECU)として構成してもよい。
・第1~第8の実施の形態において、操舵装置10にクラッチを設けてもよい。この場合、図1に二点鎖線で示すように、ステアリングシャフト12とピニオンシャフト13とをクラッチ21を介して連結する。クラッチ21としては、励磁コイルに対する通電の断続を通じて動力の断続を行う電磁クラッチが採用される。制御装置50は、クラッチ21の断続を切り替える断続制御を実行する。クラッチ21が切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16との間の動力伝達が機械的に切断される。クラッチ21が接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16との間の動力伝達が機械的に連結される。
【符号の説明】
【0135】
11…ステアリングホイール
14…転舵シャフト
31…反力モータ
41…転舵モータ
50…制御装置(操舵制御装置)
50a…反力制御部
50b…転舵制御部
81A…角度軸力演算部(第2の演算部)
81B…電流軸力演算部(第1の演算部)
81C…軸力配分演算部(第3の演算部)
81E…分配比率演算部(第4の演算部)
81F…スイッチ(第3の演算部)
81G…横G軸力演算部(第2の演算部)
81H…ヨーレート軸力演算部(第2の演算部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6