(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】架空線用テンションバランサ
(51)【国際特許分類】
B60M 1/26 20060101AFI20240604BHJP
H02G 7/02 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B60M1/26 B
H02G7/02
(21)【出願番号】P 2021041865
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】半田 恵一
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/037386(WO,A1)
【文献】特表2010-516527(JP,A)
【文献】特開平02-300050(JP,A)
【文献】特開2018-167617(JP,A)
【文献】特開2004-051442(JP,A)
【文献】特開2016-048293(JP,A)
【文献】実開昭63-123740(JP,U)
【文献】実開昭59-004779(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/26
H02G 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が架空線の一端に接続されたワイヤと、当該ワイヤの他端側が巻かれる可変径プーリーと、一端が支持物に固定され他端が前記可変径プーリーの軸に固定される渦巻ばねとを具備し、当該渦巻ばねの反力によって架空線を前記支持物に引き止めるものであって、
前記プーリーは、前記架空線の所定範囲の長さ変化に伴い前記ワイヤを巻き取り又は巻き戻しすることにより、前記渦巻ばねの反力の変化にかかわらず架空線に実質的に一定の張力を与えるように半径の変化率が設定される架空線のテンションバランサにおいて、
前記プーリーは、前記渦巻ばねの平均的特性に応じた半径の変化率を持つ外周形状に形成された板状のプーリー基体と、組み込まれる特定の渦巻ばねの特性に応じた外周形状を形成するためにプーリー基体の外周に着脱自在に設けられる半径補正部材と、当該半径補正部材の外側面が底になる溝を形成するように前記プーリー基体の外周部両側面に着脱自在に取り付けられる一対のワイヤガイド部材と具備することを特徴とする架空線用テンションバランサ。
【請求項2】
前記半径補正部材は、前記プーリー基体の外周に周方向に所定の相互間隔を置いて高さ調整自在に取り付けられる複数の補正駒からなることを特徴とする請求項1に記載の架空線用テンションバランサ。
【請求項3】
前記補正駒は、上面が前記溝の底を形成するように前記プーリー基体の外周に沿う形状の頭部と、当該頭部の下面から延出するねじ部とを具備し、
前記プーリー基体には、前記補正駒のねじ部を高さ調整自在に螺合させるための複数の半径方向のねじ穴が周方向に相互間隔を置いて複数形成されることを特徴とする請求項2に記載の架空線用テンションバランサ。
【請求項4】
前記半径補正部材は、上面が前記溝の連続した底を形成するように前記プーリー基体の外周に沿って取り付けられる単一細長の部材であることを特徴とする請求項1に記載の架空線用テンションバランサ。
【請求項5】
前記半径補正部材は、前記プーリー基体の外周に沿う円弧状細長の本体と、当該本体に設けられる係合突起とを具備し、
前記プーリー基体には、前記係合突起を側方から嵌合させる係合凹部が形成されることを特徴とする請求項4に記載の架空線用テンションバランサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空線の温度変化等に伴う伸縮を吸収して常時一定の張力を持って架空線を支持物に引き止める架空線用テンションバランサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、架空線を温度変化等に伴う長さ変化にかかわらず実質的に一定の張力で支持物に引き止めるテンションバランサとして、渦巻ばねと可変径プーリーを用いたものが知られている(例えば特許文献1)。渦巻ばねは、一端が支持物に固定され、他端が可変径プーリーの軸に固定される。プーリーには、一端が架空線の一端に接続されたワイヤの他端側が巻かれる。架空線は、ばねの弾性を持って支持物に引き止められる。プーリーは、架空線の長さ変化に伴いワイヤを巻き取り又は巻き戻しするように回転するが、これに伴い渦巻ばねの反力が変化するので、これを補正して、常時架空線に一定の張力を与えるように外周形状が設計される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のテンションバランサにおいては、使用する渦巻ばねの特性に応じてプーリーの半径変化率を予め設定するが、渦巻きばねの特性には個々に比較的大きなばらつきがあるため、画一的形状のプーリーでは、一定の張力性能を得ることができない。しかし、張力変化の範囲を許容範囲に収めるための後調整は不可能である。このため、いったん組んだばねを取り外して別のばねに変更するか、ばねの特性に合わせた別のプーリーを制作して組み直すかする必要がある。
従って、本発明は、装置に組み込む個々のばねの特性に合わせてプーリーの半径を容易に変更できる渦巻ばね式のテンションバランサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下の説明において添付図面の符号を参照するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記課題を解決するための、本発明の架空線用テンションバランサ1は、プーリー6が、渦巻ばね2の平均的特性に応じた半径の変化率を持つ外周形状に形成された板状のプーリー基体18と、組み込まれる特定の渦巻ばね2の特性に応じた特定の外周形状をプーリー6に形成するためにプーリー基体18の外周に着脱自在に設けられる半径補正部材19と、当該半径補正部材19の外側面が底になる溝21を形成するように前記プーリー基体18の外周部両側面に着脱自在に取り付けられる一対のワイヤガイド部材20と具備する。
【発明の効果】
【0006】
従来、組み込まれる特定の渦巻ばねの特性が、既成のプーリーの外周形状に適合しない場合に、プーリー全体を交換する必要があるところ、本発明によれば、プーリー基体の外周への半径補正部材の装着によって、その外周形状を変更し、特定の渦巻ばねの特性に適合したプーリーを比較的容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係るテンションバランサの斜視図である。
【
図6】
図1のテンションバランサにおける一部の断面図である。
【
図7】
図1のテンションバランサにおけるプーリーのワイヤガイド部材を取り外した状態の側面図である。
【
図8】
図1のテンションバランサにおける補正駒の側面図である。
【
図9】
図1のテンションバランサにおけるプーリー基体の側面図である。
【
図10】
図1のテンションバランサにおけるプーリー基体の底面図である。
【
図11】
図1のテンションバランサにおける他の実施形態のプーリー基体の側面図である。
【
図13】
図1のテンションバランサにおけるワイヤガイド部材の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図3に示すように、架空線用テンションバランサ1は、例えば電車線路のトロリ線のような架空線Tを図示しない電柱のような支持物に引き止め部材Rを介して引き止めるためのもので、張力をかけられた架空線Tの一端と支持物との間に挿入される。
図1ないし
図6に示すように、テンションバランサ1は、エンクロージャ10内に渦巻ばね2を内蔵する。渦巻ばね2は、一端側が接続手段3を介して架空線Tに接続され、他端側が支持構造体4を介して支持物に接続される。
【0009】
渦巻きばね2は、架空線Tの長さの変化に対応して変化する弾性反力を生成する。接続手段3は、渦巻きばね2の弾性反力を、事前設定された長さ変動範囲内で架空線Tの長さに関係なく、架空線Tに加えられる実質的に一定の張力に変換する。
【0010】
接続手段3は、支持構造体4に支承される回転軸5の軸方向両端に固定される一対の可変径プーリー6を具備する。架空線Tは、一端がワイヤWを介して可変径プーリー6に巻かれる。渦巻ばね2は、内端が回転軸5を介して可変径プーリー6に接続され、ワイヤWを可変径プーリー6から巻き戻す回転方向に対抗する反力を生じる。
図6によく示すように、渦巻ばね2は、回転軸5の周りに配置され、外端が支持構造体4に固定される。
【0011】
支持構造体4は、一対のアーム7と、両アーム7間を結合する横架材8によって構成される。横架材8の中央部には、支持物へ連結するための引き手9が設けられる。アーム7の基端側は円板状の軸受部7aを構成する。
【0012】
軸受部7aは、渦巻ばね2を収容する円筒状エンクロージャ10の両端を閉じ、回転軸5を軸支している。軸受部7aには、ブラケット部材11を介して引き手金具12が接続される。引き手金具12は、引き止め部材Rを介して支持物に引き止められる。
【0013】
エンクロージャ10を構成する円筒状板材の両端10aは、ボルト13で横架材8に固定される。エンクロージャ10は、支持構造体4と一体である。
【0014】
図6に示すように、渦巻ばね2は、エンクロージャ10内に設けられ、その内端は、エンクロージャ10の中心を貫通する回転軸5に固定され、外端は、ボルト14によって支持構造体4の横架材8に固定される。
【0015】
テンションバランサ1は、渦巻ばね2を設置時の気温等に応じた巻締量で巻き締めた状態で、架空線Tと支持物との間に設置される。架空線Tの伸縮は、指針15が指す目盛りの位置で確認できる。
【0016】
図示の実施形態において、渦巻ばね2は、回転軸5の軸線方向に並べられた多数の幅狭な単位ばねの集合で構成されるが、以下簡単のために、単一のものとして説明する。一対の可変径プーリー6についても単一のものとして説明する。
【0017】
図3において、架空線Tに接続されたワイヤWは、可変径プーリー6に、回転軸5を中心にほぼ180°の角度にわたって巻かれ、末端W1が可変径プーリー6の係止部17に係止される。
【0018】
架空線Tが収縮すると、ワイヤWが左方へ引かれ、可変径プーリー6が回転軸5を中心に反時計方向へ回転し、ワイヤWの可変径プーリー6に対する巻き付け角度が減少する。これに伴い渦巻ばね2が巻き締められ、それの弾性反力が増加する。
【0019】
反対に、架空線Tが伸長すると、プーリー6上のワイヤWの巻線角度が増加する方向(図において時計方向)にプーリー6が回転し、渦巻ばね2が巻き戻され、弾性反力が低減する。
【0020】
渦巻ばね2の弾性反力の変動性にもかかわらず、可変径プーリー6の形状のために、架空線Tに加えられる張力は実質的に一定に保たれる。「実質的に一定」とは、温度変化などにより架空線Tに伸縮が生じた場合でも、架空線Tに付与される張力が常に許容値を超えない範囲の一定値を意味する。
【0021】
しかしながら、市販される渦巻ばね2には、個々に性能のばらつきがある。したがって、可変径プーリー6の外周形状を一定にすると、採用する渦巻ばね2によっては、架空線Tに付与する張力が許容範囲を超えるおそれがある。
【0022】
この問題に対応するため、本発明においては、可変径プーリー6が、プーリー基体18、半径補正部材19、ワイヤガイド部材20で構成される。
【0023】
プーリー基体18は、渦巻ばね2の平均的特性に応じた半径の変化率を持つ外周形状に形成された板状部材で構成される。
【0024】
半径補正部材19は、バランサ1に組み込まれる特定の渦巻ばね2の特性に応じた外周形状をプーリー6上に形成するために、プーリー基体18の外周に着脱自在に設けられる。
【0025】
ワイヤガイド部材20は、プーリー基体18の外周に固定された半径補正部材19の外側面(プーリー6における半径方向外側面)が底になる溝21を形成するように、プーリー基体18の外周部両側面にボルト23で着脱自在に取り付けられる一対の部材で構成される。
【0026】
図7によく示すように、半径補正部材19の第一の実施形態は、複数の補正駒22からなる。補正駒22は、プーリー基体18の外周に、周方向に所定の相互間隔を置いて高さ調整自在に取り付けられる。
【0027】
図8に示す実施形態の補正駒22は、上面22cがプーリー6の溝の底を形成するように、プーリー基体18の外周に沿う形状の頭部22aと、それの下面から延出するねじ部22bとを具備する。
【0028】
一方、プーリー基体18には、
図9,10に示すように、補正駒22のねじ部22bを高さ調整自在に螺合させるための複数の半径方向のねじ穴18aが周方向に相互間隔を置いて複数形成される。
【0029】
個々の補正駒22の、プーリー基体18の外周上の高さ位置をねじ部22bの螺合深さにより調整することにより、バランサ1に組み込まれる特定の渦巻ばね2の特性に対応する外周形状のプーリー6を制作する。
【0030】
他の実施形態の半径補正部材19は、
図12に示す一体型補正アタッチメント24である。補正アタッチメント24は、
図11に示すプーリー基体18’の外周に沿う円弧状細長の本体24aと、それの両端部付近の内側に突出する係合突起24aとを具備する。
【0031】
対応するプーリー基体18’は、補正アタッチメント24の係合突起24aを側面側から嵌合させることができる形状の係合凹部18’aを具備する。
【0032】
補正アタッチメント24をプーリー基体18’へ装着時すると、本体24aの外側面24cが、特定の渦巻ばね2の特性に対応したプーリー6の半径変化率となる。予め、形状の異なる複数の補正アタッチメント24を用意し、適宜選択して装着する。
【符号の説明】
【0033】
1 テンションバランサ
2 渦巻ばね
3 接続手段
4 支持構造体
5 回転軸
6 プーリー
7 アーム
8 横架材
9 引き手
10 エンクロージャ
11 ブラケット部材
12 引き手金具
13 ボルト
14 ボルト
15 指針
16 目盛り
17 係止部
18 プーリー基体
18a ねじ穴
18’ プーリー基体
18’a 係合凹部
19 半径補正部材
20 ワイヤガイド部材
21 溝
22 補正駒
22a 頭部
22b ねじ部
22c 上面
23 ボルト
24 補正アタッチメント
24a 本体
24b 係合突起
24c 外側面
T 架空線