(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】トンネル函体群とトンネル施工方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
E21D9/06 311A
(21)【出願番号】P 2021076135
(22)【出願日】2021-04-28
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西田 与志雄
(72)【発明者】
【氏名】服部 佳文
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正嘉
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-070938(JP,A)
【文献】実開昭50-151014(JP,U)
【文献】特開2018-012984(JP,A)
【文献】特開昭61-053930(JP,A)
【文献】特公昭48-011617(JP,B1)
【文献】特開2019-056287(JP,A)
【文献】米国特許第04405260(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進工法によって地盤内に設置され、推進される際に方向制御を要する複数のトンネル函体からなるトンネル函体群であって、
隣接する二つの前記トンネル函体のリング継手を形成する双方の無端状の継手板
において、該無端状の周方向に間隔を置いて複数の弾性ワッシャを備えた
第一ボルトナットと複数の弾性ワッシャを備えていない
第二ボルトナットが配設され、隣接する二つの該第一ボルトナットの間に一本もしくは複数本の該第二ボルトナットが配設されて、該第一ボルトナットと
該第二ボルトナットとにより
前記双方の無端状の継手板が連結されていることを特徴とする、トンネル函体群。
【請求項2】
前記第二ボルトナットがダブルナットを備え、該ダブルナットの調整により、前記リング継手における目開き量の調整が自在となっていることを特徴とする、請求項1に記載のトンネル函体群。
【請求項3】
前記トンネル函体において、
前記トンネル函体群の縦断方向に直交する横断方向に無端状に延設する主桁が、該縦断方向に間隔を置いて複数配設され、両端にある前記リング継手を形成する前記継手板が前記主桁により形成され、
前記継手板の外周縁もしくは内周縁には、無端状に延設して前記縦断方向であって前記トンネル函体の内側へ張り出すフランジが取り付けられており、
隣接する二基の前記トンネル函体は、双方の前記継手板が面接触するようになっており、
一方の前記トンネル函体の前記フランジの端部に嵌合雌部が設けられ、他方の前記トンネル函体の前記フランジの端部に該嵌合雌部に嵌合する嵌合雄部が設けられていることを特徴とする、請求項1
又は2に記載のトンネル函体群。
【請求項4】
隣接する二基の前記トンネル函体のうち、相互に面接触する双方の前記継手板の無端状の接触面の対応位置には、無端状の半割溝が設けられており、双方の無端状の該半割溝により無端状のシール溝が形成され、該シール溝に無端状のガスケットが圧接状態で収容されていることを特徴とする、請求項
3に記載のトンネル函体群。
【請求項5】
推進工法によって複数のトンネル函体を方向制御しながら地盤内に設置することにより、トンネル函体群を形成してトンネルを施工する、トンネル施工方法であって、
隣接する二つの前記トンネル函体のリング継手を形成する双方の無端状の継手板同士を、
該無端状の周方向に間隔を置いて複数の弾性ワッシャを備えた
第一ボルトナットと複数の弾性ワッシャを備えていない
第二ボルトナットを配設し、隣接する二つの該第一ボルトナットの間に一本もしくは複数本の該第二ボルトナットを配設して、該第一ボルトナットと
該第二ボルトナットとによって連結することにより前記トンネル函体群を形成し、
前記トンネル函体群の曲線区間では、前記第二ボルトナットを緩めて目開きさせ、前記第一ボルトナットの備える前記弾性ワッシャを伸縮させながら該トンネル函体群を方向制御して推進させることを特徴とする、トンネル施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル函体群とトンネル施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
推進工法では、鋼殻等により形成される複数の推進函体同士をリング継手(一方の推進函体の端部に他方の推進函体の端部を差し込む形態や、ボルト接合等される形態)を介して接続することにより、あるいは、複数のセグメント函体同士をリング継手(ボルト接合等される形態)を介して接続することにより、地中に推進函体群やセグメント函体群等のトンネル函体群を施工する。以下、本明細書では、推進函体とセグメント函体をまとめてトンネル函体と称し、推進函体群とセグメント函体群をまとめてトンネル函体群と称する。
トンネル函体群の縦断線形には、直線線形の他、円形や複数の曲率を有する曲線線形、直線と曲線が混在した線形等、様々な縦断線形が存在するが、例えば、鉛直面内において曲線区間を有するトンネル函体群を施工する際には、トンネル函体群の姿勢保持を図るべく、隣接するトンネル函体同士のリング継手はボルト接合により行われる必要がある。
ところで、例えば推進工法にて上記鉛直面内に曲線区間を有するトンネル函体群を施工する場合、曲線区間における掘進機と後続のトンネル函体群のスムーズな推進を図るべく、掘進機のカッタヘッドの側方からコピーカッタを地中に張り出して余掘りを行い、余掘り部に滑材を充填しながら掘進機の掘進とトンネル函体群の推進を行う施工方法が一般的である。この際、余掘り部に充填されている滑材の中に掘進機が存在することから、掘進過程で掘進機が蛇行する恐れがあり、この蛇行を解消し、掘進方向が計画縦断線形からの管理値を外れないように、例えば掘進機の備える方向制御ジャッキを作動し、掘進方向を管理値内に収めるようにして掘進機を掘進させるようにしている。
【0003】
しかしながら、掘進機に後続するトンネル函体群は、鋼殻からなるトンネル函体同士がリング継手においてボルト接合されていることから、リング継手の剛性は極めて高く、さらには、実際の線形が計画線形からずれている領域では、トンネル函体群は周辺地盤から側方への変位を拘束されていることから、掘進機の方向制御ジャッキのみによって掘進機とその後方のトンネル函体群の方向を変更しようとしても十分に方向制御ができない恐れがある。
以上のことから、トンネル函体がリング継手においてボルト接合されているトンネル函体群と、このトンネル函体群によってトンネルを施工する方法において、剛性と可撓性の双方を有するリング継手を介してトンネル函体同士が相互に接続されているトンネル函体群と、このトンネル函体群により形成されるトンネルの施工方法が望まれる。
【0004】
ここで、特許文献1には、線形の変化に柔軟に対応可能な推進函体と、この推進函体を利用したトンネルの構築方法が提案されている。具体的には、地中に連続して配置されることにより曲線区間と直線区間とを有するトンネルを形成し、トンネルの切羽部から曲線区間の坑口側端部までの間に配置される推進函体であり、切羽側と坑口側のいずれか一方の端面の上下または左右に凹部が形成され、他方の端面における凹部に対応する位置に凸部が形成され、凸部は、切羽側または坑口側に連続して配置される他の推進函体に形成された凹部に挿入可能であり、凹部との接触面が円弧状になっている。
また、トンネルの構築方法は、この推進函体を連続して配置することにより曲線区間と直線区間とを有するトンネルを推進工法により構築する方法であり、連続して配置される一方の推進函体の凹部に他方の推進函体の凸部を挿入した状態で坑口側から押し込み力を付与する方法である。
この推進函体同士のリング継手においては、弾性ワッシャを備えたボルトによってボルト接合されることにより推進函体同士の接続が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の推進函体とトンネルの構築方法によれば、線形の変化に柔軟に対応しながらトンネルを構築することができる。しかしながら、リング継手において、全てのボルトが弾性ワッシャを備えていることから、推進函体同士を繋ぐリング継手における剛性の確保が懸念される。
【0007】
本発明は、トンネル函体がリング継手においてボルト接合されているトンネル函体群と、このトンネル函体群によってトンネルを施工する方法において、剛性と可撓性の双方を有するリング継手を介してトンネル函体同士が相互に接続されているトンネル函体群と、このトンネル函体群により形成されるトンネルの施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明によるトンネル函体群の一態様は、
推進工法によって地盤内に設置され、推進される際に方向制御を要する複数のトンネル函体からなるトンネル函体群であって、
隣接する二つの前記トンネル函体のリング継手を形成する双方の無端状の継手板が、弾性ワッシャを備えた第一ボルトナットと、弾性ワッシャを備えていない第二ボルトナットとにより連結されていることを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、隣接する二つのトンネル函体のリング継手を形成する双方の無端状の継手板が、弾性ワッシャを備えた第一ボルトナットと、弾性ワッシャを備えていない第二ボルトナットとにより連結されていることから、第二ボルトナットを緩めることで第一ボルトナットによってリング継手の可撓性が担保され、第二ボルトナットを締め付けることでリング継手の剛性が担保されることになり、剛性と可撓性の双方を有するリング継手を介して、トンネル函体同士が相互に接続されているトンネル函体群を形成できる。
【0010】
また、本態様によるトンネル函体群の他の態様は、
前記第二ボルトナットがダブルナットを備え、該ダブルナットの調整により、前記リング継手における目開き量の調整が自在となっていることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、第二ボルトナットがダブルナットを備え、ダブルナットの調整によって可撓時のリング継手における目開き量の調整が自在となっていることにより、ダブルナットを構成する内側のナットは外側のナットをストッパーとして反力を取ることができ、継手板における場所ごと(推進函体をリング継手の正面から見た際に無端状の軸線方向における位置ごと、無端状の軸線方向の各位置における、継手板の上下もしくは左右の幅方向における位置ごと)に設定されている第二ボルトナットの目開き量を高い精度で保証することができる。
【0012】
また、本発明によるトンネル函体群の他の態様は、
隣接する二つの前記トンネル函体の双方の前記継手板において、前記無端状の周方向に間隔を置いて複数の前記第一ボルトナットと複数の前記第二ボルトナットが配設され、隣接する二つの該第一ボルトナットの間に一本もしくは複数本の該第二ボルトナットが配設されていることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、無端状の周方向に、第一ボルトナットと第二ボルトナットが一つずつ交互に、もしくは、第一ボルトナットの間に複数の第二ボルトナットが位置する態様で双方のボルトナットが配設されていることにより、継手板の全域において、可及的均等な剛性と可撓性を備えたトンネル函体群を形成できる。
【0014】
また、本発明によるトンネル函体群の他の態様は、
前記トンネル函体において、
前記トンネル函体群の縦断方向に直交する横断方向に無端状に延設する主桁が、該縦断方向に間隔を置いて複数配設され、両端にある前記リング継手を形成する前記継手板が前記主桁により形成され、
前記継手板の外周縁もしくは内周縁には、無端状に延設して前記縦断方向であって前記トンネル函体の内側へ張り出すフランジが取り付けられており、
隣接する二基の前記トンネル函体は、双方の前記継手板が面接触するようになっており、
一方の前記トンネル函体の前記フランジの端部に嵌合雌部が設けられ、他方の前記トンネル函体の前記フランジの端部に該嵌合雌部に嵌合する嵌合雄部が設けられていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、鋼殻からなるトンネル函体を構成する複数の主桁のうち、二つの主桁がトンネル函体の両端にあるリング継手の継手板であることから、剛性の高いリング継手を形成することができる。また、継手板の外周縁もしくは内周縁に無端状に延設してトンネル函体の縦断方向(推進方向)の内側へ張り出すフランジが取り付けられ、一方のトンネル函体のフランジの端部に設けられている嵌合雌部よ、他方のトンネル函体のフランジの端部に設けられている嵌合雄部が嵌合することにより、直線区間において双方のトンネル函体の継手板同士が完全に面接触した場合と、曲線区間において双方のトンネル函体の径方向内側端同士が線接触した場合のいずれにおいても、嵌合雌部と嵌合雄部の嵌合によって隣接するトンネル函体同士のずれを抑制することができる。また、このリング継手の端部における嵌合構造により、リング継手における止水性も高められる。
【0016】
また、本発明によるトンネル函体群の他の態様は、
隣接する二基の前記トンネル函体のうち、相互に面接触する双方の前記継手板の無端状の接触面の対応位置には、無端状の半割溝が設けられており、双方の無端状の該半割溝により無端状のシール溝が形成され、該シール溝に無端状のガスケットが圧接状態で収容されていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、隣接するトンネル函体の継手板に設けられている双方の無端状の半割溝によって形成される無端状のシール溝に、無端状のガスケットが圧接状態で収容されていることにより、リング継手における高い止水性を保証することができる。また、上記するようにリング継手が双方の継手板(の備えるフランジ)における嵌合雌部と嵌合雄部の嵌合構造を備える場合は、より一層高い止水性を有するリング継手を形成できる。
【0018】
また、本発明によるトンネル施工方法の一態様は、
推進工法によって複数のトンネル函体を方向制御しながら地盤内に設置することにより、トンネル函体群を形成してトンネルを施工する、トンネル施工方法であって、
隣接する二つの前記トンネル函体のリング継手を形成する双方の無端状の継手板同士を、弾性ワッシャを備えた第一ボルトナットと、弾性ワッシャを備えていない第二ボルトナットとによって連結することにより前記トンネル函体群を形成し、
前記トンネル函体群の曲線区間では、前記第二ボルトナットを緩めて目開きさせ、前記第一ボルトナットの備える前記弾性ワッシャを伸縮させながら該トンネル函体群を方向制御して推進させることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、隣接する二つのトンネル函体のリング継手を形成する双方の無端状の継手板同士を、弾性ワッシャを備えた第一ボルトナットと、弾性ワッシャを備えていない第二ボルトナットとによって連結しながらトンネル函体群を形成することにより、第二ボルトナットを緩めることで第一ボルトナットにてリング継手の可撓性を担保し、曲線区間においてトンネル函体群を方向制御しながら推進させることができる。
より具体的には、直線区間では、第二ボルトナットを締め付けることにより、リング継手における剛性が保証される。一方、曲線区間では、曲率に応じて継手板における各第二ボルトナットの位置に好適な態様(緩み量)で第二ボルトナットを緩めて目開きさせ、第一ボルトナットにおいては弾性ワッシャを伸縮させることにより、リング継手には、弾性ワッシャによる可撓性とそのスプリング力に起因する剛性が付与され、剛性と可撓性の双方を備えた曲線区間を形成することができる。従って、高剛性のリング継手を備える直線区間と、剛性と可撓性の双方を備える曲線区間を有するトンネルや、単円のトンネル(全区間が曲線区間である円周トンネル)の場合は剛性と可撓性の双方を備えるトンネルを施工することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のトンネル函体群とトンネル施工方法によれば、剛性と可撓性の双方を有するリング継手を介してトンネル函体同士が相互に接続されているトンネル函体群と、このトンネル函体群により形成されるトンネルの施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係るトンネル函体群の全体構成の一例を示す図である。
【
図2】曲線区間において、掘進機が余掘り部を造成し、余掘り部に滑材を充填しながら、トンネル函体群を推進させている状態を示す模式図である。
【
図3】実施形態に係るトンネル函体群を構成するトンネル函体の一例の正面図であって、リング継手を構成する継手板を正面から見た図である。
【
図4】
図3のIV-IV矢視図であって、リング継手における目開き量をともに示す図である。
【
図8】
図6に示すリング継手が目開きしている状態を示す図である。
【
図9】
図7に示すリング継手が目開きしている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態に係るトンネル函体群とトンネル施工方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0023】
[実施形態に係るトンネル函体群とトンネル施工方法]
図1乃至
図9を参照して、実施形態に係るトンネル函体群とトンネル施工方法の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係るトンネル函体群の全体構成の一例を示す図であり、
図2は、曲線区間において、掘進機が余掘り部を造成し、余掘り部に滑材を充填しながら、トンネル函体群を推進させている状態を示す模式図である。また、
図3は、実施形態に係るトンネル函体群を構成するトンネル函体の一例の正面図であって、リング継手を構成する継手板を正面から見た図であり、
図4は、
図3のIV-IV矢視図であって、リング継手における目開き量をともに示す図であり、
図5と
図6と
図7はそれぞれ、
図3のV部の拡大図、
図4のVI部の拡大図、及び
図4のVII部の拡大図である。
【0024】
図1に示すように、地中Gにおいて施工済みの本線トンネルHT(例えば本線シールドトンネル)と、その側方にあるランプトンネルRT(例えばランプシールドトンネル)とを地中で接続して拡幅するに当たり、ランプトンネルRTを利用してその下方に鉛直に延設する立坑Tを施工する。尚、この立坑は、鉛直方向でなく、斜め下方に延設する形態であってもよい。
【0025】
立坑Tは、鉛直方向に所定間隔で配設される切梁Kにより、土圧や土水圧を支保しながら所定深度まで造成され、立坑Tの下方に反力架台Sを設置し、反力架台Sに対して元押しジャッキBJを備える元押し装置BDを設置する。ここで、図示例の推進装置は元押し装置BDのみであるが、必要に応じて、トンネル函体群の内部に介在する中押しジャッキを備えた中押し装置が含まれてもよく、さらには、掘進機の方向制御ジャッキが推進ジャッキとして機能する場合は掘進機の推進ジャッキも推進装置に含まれてよい。
【0026】
ランプトンネルRTから立坑Tを介して、元押し装置BDの前方にトンネル函体20(推進函体)が順次吊り下ろされ、推進方向前方に位置する掘進機10の後方において複数のトンネル函体20が連接され、複数のトンネル函体20により形成されるトンネル函体群50が地中GをX1方向に推進されることにより、鉛直面内にある円周トンネル60を施工する。
【0027】
図示例の円周トンネル60は、本線トンネルHTとランプトンネルRTを包囲する単円であるが、楕円形やトラック状など、多様な縦断線形のトンネルであってよい。
【0028】
図2に示すように、掘進機10は、前胴11と後胴12を備え、双方の間に不図示の推進ジャッキ(掘進機自身の推進の他にも、掘進機の方向制御を行うジャッキ)を備えている。掘進機10の正面視形状は、例えば横長の矩形であり、その前面には、例えば複数のカッタヘッド13が配設されている。各カッタヘッド13には、その側方からコピーカッタ14が出入り自在に内蔵されており、余掘り部Eの造成の際には、各カッタヘッド13からコピーカッタ14が外側へ張り出し、カッタヘッド13の回転に応じて回転するコピーカッタ14により、余掘り部Eの造成が行われる。この際、コピーカッタ14の張り出し長の調整により、余掘り部Eの大きさを所望に調整できる。
【0029】
カッタヘッド13が回転しながら掘進機10が計画縦断線形に沿って掘進方向に掘進する過程で、掘進機10と後続のトンネル函体群50の側方には、所定幅の余掘り部Eが造成され、掘進機10から余掘り部Eに対して滑材Uが充填される。正面視矩形の掘進機10の周囲には、所定幅の矩形枠状の余掘り部Eが造成されることになる。
【0030】
図3及び
図4に示すように、トンネル函体20は、正面視略矩形(隅角部が湾曲した矩形)を呈し、推進方向の中央に正面視略矩形で無端状の主桁21を有し、その左右にはリング継手29を形成する正面視略矩形で無端状の継手板22を有し、主桁21と継手板22がこれらの周囲に配設されたスキンプレート23に溶接接合されてなる鋼殻により、その全体が構成されている。ここで、継手板22も主桁であり、従って、図示例のトンネル函体20は、間隔を置いて推進方向に配設された三つの正面視略矩形の主桁21,22を主たる構造部材として備えている。尚、トンネル函体は図示例の他、主桁21を具備しない形態であってもよい。
【0031】
主桁21,22は、その無端状の長手方向に複数の縦リブ25を備えている。また、
図3に示すように、横長で略矩形のトンネル函体20は、その内部に複数(図示例は二つ)の柱26を備え、柱26により剛性が付与されている。
【0032】
図4に示すように、隣接する二つのトンネル函体20のリング継手29を形成する双方の無端状の継手板22は、弾性ワッシャ34を備えた第一ボルトナット30(
図6参照)と、弾性ワッシャを備えていない第二ボルトナット40(
図7参照)とにより連結されている。
【0033】
より詳細には、
図3に示すように、無端状の継手板22の周方向に間隔を置いて複数の第一ボルトナット30と複数の第二ボルトナット40が配設され、隣接する二つの第一ボルトナットの間には、一本もしくは複数本(図示例は二本)の第二ボルトナット40が配設されている。
【0034】
ここで、
図6と
図7を参照して、第一ボルトナット30と第二ボルトナット40の具体的構成について説明する。
【0035】
図6に示すように、第一ボルトナット30は、頭付きボルト31と、締め付けナット32と、二組の保護キャップ33及び弾性ワッシャ34とを有する。リング継手29を構成する二つの継手板22のそれぞれの対応位置にはボルト孔22aが開設されており、連通するボルト孔22aに頭付きボルト31が挿通され、頭付きボルト31の頭部と締め付けナット32の間に二つの継手板22を挟持する二組の弾性ワッシャ34が配設され、締め付けナット32が所定の締め付け力で締め付けられることにより、可撓性を有するボルト接合構造が形成される。
【0036】
締め付けナット32を締め付けることにより、弾性ワッシャ34は保護キャップ33によって全域が均等に押し込まれ、所定の厚みs1を有した状態となる。
【0037】
一方、
図7に示すように、第二ボルトナット40は、頭付きボルト41と、ダブルナット42とを有する。リング継手29を構成する二つの継手板22のそれぞれの対応位置に開設されているボルト孔22aに頭付きボルト41が挿通され、ダブルナット42の一方の締め付けナット42aを締め付けることにより、頭付きボルト41の頭部と締め付けナット42aとにより二つの継手板22を挟持する。
【0038】
ダブルナット42を構成する他方の反力受けナット42bは、締め付けナット42aとの間に間隔s2離れた位置に設置される。この間隔s2は、継手板22における第二ボルトナット40の位置に応じて設定される。より具体的には、
図4に示すように、リング継手29には、その径方向内側端から径方向外側端に亘って目開き量が大きくなり、従って、リング継手29の位置に応じて、第一ボルトナット30と第二ボルトナット40が対応するべき目開き量は相違する。
図4では、径方向内側から径方向外側に亘って、各ボルトナットの設置位置における目開き量をt1乃至t5で示している。
【0039】
図7に戻り、ダブルナット42において設定される間隔s2は、継手板22における第二ボルトナット40の設置位置の上記目開き量に対応して設定される。例えば、リング継手29における目開きに対応する必要がなく、継手板22同士を第二ボルトナット40にて緊結してリング継手29の剛性を確保して推進施工を行う場合は、
図7に示すように締め付けナット42aを締め付けた状態でリング継手29を形成する。
【0040】
一方、リング継手29における目開きに対応する際は、
図9に示すように、締め付けナット42aを外側にある反力受けナット42bに当接する位置までずらしておき、第二ボルトナット40を予め緩めておく。
【0041】
トンネル函体群50の施工過程において、掘進機10の蛇行に起因してトンネル函体群50が蛇行する際には、リング継手29に目開きが生じ得る。図示例の鉛直面内における円周トンネル60を構成するトンネル函体群50においては、蛇行に起因するリング継手29の目開きは特に顕著である。
【0042】
このように、リング継手29に目開きが生じる際に、弾性ワッシャ34を備えた第一ボルトナット30と、
図9に示すように緩んだ状態の第二ボルトナット40が、リング継手29の無端状の周方向に交互に配設されていることにより、双方のボルトナットは固有の作用によって目開きに追随する。
【0043】
具体的には、第一ボルトナット30は、
図8に示すように、継手板22の間に幅s3の目開きが生じた際に、二つの弾性ワッシャ34がそれぞれ厚みs1から厚みs4に変形することにより、リング継手29の目開きに追随する。
【0044】
一方、第二ボルトナット40は、
図9に示すように既に緩んだ状態に設定されているが、継手板22の間に幅s3の目開きが生じた際に、締め付けナット42aと継手板22の間には隙間s5が依然として残り、緩んだ状態を維持する。仮に、目開き量が過度に大きく、隙間s5が無くなった場合には、継手板22から押し込まれた締め付けナット42aからの反力を反力受けナット42bが受け、締め付けナット42aが頭付きボルト41のボルトから外れることを抑止する。
【0045】
このように、リング継手29に目開きが生じた場合に、第二ボルトナット40は完全に緩んでいるものの、第一ボルトナット30の備える圧縮状態の弾性ワッシャ34により、リング継手29にはある程度の剛性が付与される。すなわち、リング継手29は、目開きに追随する可撓性を備え、かつ、目開きした状態においてある程度の剛性を備えることから、可撓性と剛性を有するリング継手29となる。そのため、図示例のように、全域が曲線区間であって、常に目開きが予想される鉛直面内における円周トンネル60の施工においては、好適な構造のリング継手となる。
【0046】
また、目開きを考慮する必要のないケース(例えば、直線区間を推進するケース等)においては、
図7に示すように第二ボルトナット40を緊結することにより、トンネル函体20同士を繋ぐリング継手29の剛性が高くなり、このことによって縦断方向の剛性の高いトンネル函体群50を形成できる。
【0047】
このように、リング継手29が、その無端状の周方向に第一ボルトナット30と第二ボルトナット40を交互に備えていることによって、目開きに追随する可撓性と、目開きした状態での剛性や推進施工時の剛性を備えた複数のリング継手29を有するトンネル函体群50を形成できる。
【0048】
ここで、
図3及び
図4や、
図6乃至
図9に詳細に示すように、継手板22の外周縁には、無端状に延設してトンネル函体の縦断方向の内側へ張り出すフランジ24が溶接接合されており、フランジ24の外側面にスキンプレート23が溶接接合されている。
【0049】
例えば
図6と
図7に示すように、リング継手29を構成する二つの継手板22の備えるフランジ24のうち、一方のフランジ24の端部には嵌合雌部24bが設けられ、他方のフランジ24の端部には嵌合雌部24bに嵌合する嵌合雄部24aが設けられている。
【0050】
図6と
図7に示すように、リング継手29において、双方の継手板22が面接触した際に、嵌合雌部24bと嵌合雄部24aが嵌合する。
【0051】
また、
図6と
図7に示すように、相互に面接触する双方の継手板22の無端状の接触面の対応位置には、無端状の半割溝22bが設けられている。そして、双方の無端状の半割溝22bによって無端状のシール溝27が形成され、このシール溝27には無端状のガスケット28が圧接状態で収容されている。
【0052】
ガスケット28は、水膨潤タイプでなく、内部に多数の空隙を備えている。水膨潤タイプでないことから、トンネル函体20の設置後に速やかに止水性を発揮できる。また、多数の空隙を内部に備えていることから変形性能に優れ、リング継手29が目開きした際には、
図8と
図9に示すようにガスケット28が追随しながら、止水性を確保することが可能になる。
【0053】
このように、リング継手29の外周において、無端状の嵌合雄部24aと嵌合雌部24bが相互に嵌合していることにより、直線区間において双方のトンネル函体20の継手板22同士が完全に面接触した場合と、曲線区間において双方のトンネル函体20の径方向内側端同士が線接触した場合のいずれにおいても、隣接するトンネル函体20同士のずれを抑制することができる。
【0054】
さらに、リング継手29の外周において、無端状の嵌合雄部24aと嵌合雌部24bが相互に嵌合していることに加えて、この嵌合構造よりも継手板22の内側にある無端状のシール溝27に無端状のガスケット28が圧接状態で収容されていることにより、リング継手29における高いシール性が保証され、目開きに追随可能で高い止水性を有するリング継手29が形成される。
【0055】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0056】
10:掘進機
11:前胴
12:後胴
13:カッタヘッド
14:コピーカッタ
20:トンネル函体
21:主桁
22:継手板(主桁)
22a:ボルト孔
22b:半割溝
23:スキンプレート
24:フランジ
24a:嵌合雄部
24b:嵌合雌部
25:縦リブ
26:柱
27:シール溝
28:ガスケット
29:リング継手
30:第一ボルトナット
31:頭付きボルト
32:締め付けナット
33:保護キャップ
34:弾性ワッシャ
40:第二ボルトナット
41:頭付きボルト
42:ダブルナット
42a:締め付けナット
42b:反力受けナット
50:トンネル函体群
60:円周トンネル
G:地盤(地中)
HT:本線トンネル
RT:ランプトンネル
T:立坑
K:切梁
S:反力架台
BD:元押し装置
BJ:元押しジャッキ
E:余掘り部
U:滑材