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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】鉄道車両用滑走制御試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/08 20060101AFI20240604BHJP
   B61K 9/12 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G01M17/08
B61K9/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021113284
(22)【出願日】2021-07-08
(65)【公開番号】P2023009754
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】土方 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中澤 伸一
(72)【発明者】
【氏名】木▲崎▼ 裕太
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0294049(US,A1)
【文献】特開昭54-009801(JP,A)
【文献】特開2005-189143(JP,A)
【文献】特開2005-189144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/08 - 17/10
B61K 9/12
B60T 8/00
B60T 13/00
B60T 15/00
B60T 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも空気タンク、電空変換弁、滑走制御弁、空気配管およびブレーキシリンダを有する実機部と、少なくとも車両モデルおよび滑走制御アルゴリズムを有する計算機部とを有し、
前記空気配管は、配管長さおよび配管太さの少なくともいずれか一方が調整可能であることを特徴とする鉄道車両用滑走制御試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用滑走制御試験装置において、
前記計算機部は、前記車両モデルの車輪とレール間の粘着条件を設定する粘着条件設定手段を有することを特徴とする鉄道車両用滑走制御試験装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鉄道車両用滑走制御試験装置において、
前記滑走制御アルゴリズムは、前記滑走制御弁に滑走制御弁動作指令信号を送信することを特徴とする鉄道車両用滑走制御試験装置。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載の鉄道車両用滑走制御試験装置において、
前記車両モデルは、前記電空変換弁にブレーキ指令を送信することを特徴とする鉄道車両用滑走制御試験装置。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の鉄道車両用滑走制御試験装置において、
前記計算機部は、前記ブレーキシリンダからブレーキシリンダ圧力を受信して押付力を算出する押付力算出手段と、前記押付力と摩擦材特性からブレーキ力を算出するブレーキ力算出手段を有することを特徴とする鉄道車両用滑走制御試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に搭載される滑走制御装置の動作試験を行う鉄道車両用滑走制御試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、鉄道車両の滑走制御の性能確認や調整は、鉄道車両を実際に走行させる現車試験によって行われている。現車試験では、レール頭頂面の湿潤状態を車両上からの散水によって模擬して行われている。このような状況下で現車試験を行うことによって、模擬された湿潤状態において、制動中に滑走が発生した場合に適切にブレーキ力を弱めて滑走を抑制し、滑走が収束した場合にブレーキ力を復帰させる機能を評価している。
【0003】
しかしながら、現車試験は、営業線を用いて行うため、営業終了後の夜間などに行う必要があることから、試験回数の頻度を大きくとることが難しい。そこで、鉄道車両の走行をシミュレートした試験装置が知られている。
【0004】
このような試験装置は、種々の構成が知られているが、例えば特許文献1に記載されているように、鉄道車両の力行制御部および制動制御部にそれぞれケーブルを介して電気的に接続されて前記力行制御部および制動制御部との間で信号の入出力を行うインタフェイスと、鉄道車両に設けられている空気バネの圧力に相当する空気圧を疑似的に生成し前記制動制御部に対して供給可能な電空レギュレータと、前記力行制御部および制動制御部の各部の状態を検知する複数の検出手段と、前記複数の検出手段からの検出信号を取得し信号の有無を判定する論理判定手段と、前記論理判定手段による信号の判定結果を表示可能な表示手段と、を備えている。
【0005】
このような試験装置によれば、比較的簡単な装置によって乗客が乗車した状態を考慮した無接点制御装置とブレーキ制御装置の動作試験を行うことができ、また、無接点制御装置とブレーキ制御装置を切り離した状態でそれぞれについて動作試験を行うことができるとともに、無接点制御装置とブレーキ制御装置を接続した状態での動作試験も行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-174624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の試験装置によると、実際のブレーキ受量器を使用しているため、空気ばね圧に対する受量器の動作確認を行うことが可能となっているが、鉄道車両のブレーキ装置の空気配管は複雑に屈曲延伸しており、ブレーキの作動を開始して空気圧を掛け始めてから実際にブレーキシリンダが作動するまでに遅延があり、この遅延が空気特性による非線形の応答であるため、これを模擬することが難しいという問題があった。
【0008】
また、現車試験の場合、上述したように、レール頭頂面に散水することで車輪とレールの間の湿潤状態を模擬しているところ、滑走の発生には、車輪とレールの接触部において、接線方向に働く接線力が関わっている。この接線力とは、車輪とレールのそれぞれの表面状態及び車輪とレールの接触状態(粘着状態)によって様々に変化するものであり、現車試験では、滑走している間の粘着条件が走行毎に異なることから、試験結果として得られた滑走制御性能がどのような滑走条件において得られたものかを明確に判断することができないという問題もあった。
【0009】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、滑走制御の性能評価を正確に行うための前提条件となる粘着条件を明らかとすることで、滑走制御アルゴリズムの性能を単独で評価することができる鉄道車両用滑走制御試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る鉄道車両用滑走制御試験装置は、少なくとも空気タンク、電空変換弁、滑走制御弁、空気配管およびブレーキシリンダを有する実機部と、少なくとも車両モデルおよび滑走制御アルゴリズムを有する計算機部とを有し、前記空気配管は、配管長さおよび配管太さの少なくともいずれか一方が調整可能であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る鉄道車両用滑走制御試験装置において、前記計算機部は、前記車両モデルの車輪とレール間の粘着条件を設定する粘着条件設定手段を有すると好適である。
【0013】
また、本発明に係る鉄道車両用滑走制御試験装置において、前記滑走制御アルゴリズムは、前記滑走制御弁に滑走制御弁動作指令信号を送信すると好適である。
【0014】
また、本発明に係る鉄道車両用滑走制御試験装置において、前記車両モデルは、前記電空変換弁にブレーキ指令を送信すると好適である。
【0015】
また、本発明に係る鉄道車両用滑走制御試験装置において、前記計算機部は、前記ブレーキシリンダからブレーキシリンダ圧力を受信して押付力を算出する押付力算出手段と、前記押付力と摩擦材特性からブレーキ力を算出するブレーキ力算出手段を有すると好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る鉄道車両用滑走制御試験装置は、少なくとも空気タンク、電空変換弁、滑走制御弁、空気配管およびブレーキシリンダを有する実機部によって現車の応答性を再現しつつ、粘着条件等をシミュレートする車両モデル及び滑走制御アルゴリズムを有する計算機部とを有しているので、計算機部において、任意の粘着状態を規定することで、現車試験では困難であった指定した粘着条件下での試験を実施することができ、滑走制御アルゴリズム単体の性能を把握して評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置の構成を説明するための図。
図2】本発明の実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置のブロック図。
図3】本発明の実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置に用いられる粘着条件の例を示すグラフ。
図4】本発明の実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置に用いられるすべり率と接線力係数の関係を示すグラフ。
図5】本発明の実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置の試験結果であって、(a)は、相対的にすべりにくい粘着条件下での結果を示すグラフ、(b)は、相対的にすべりやすい粘着条件下での結果を示すグラフ。
図6】本発明の実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置の動作を説明するためのフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置の構成を説明するための図である、図2は、本発明の実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置のブロック図であり、図3は、本発明の実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置に用いられる粘着条件の例を示すグラフであり、図4は、本発明の実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置に用いられるすべり率と接線力係数の関係を示すグラフであり、図5は、本発明の実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置の試験結果であって、(a)は、相対的にすべりにくい粘着条件下での結果を示すグラフ、(b)は、相対的にすべりやすい粘着条件下での結果を示すグラフであり、図6は、本発明の実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置の動作を説明するためのフロー図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置1は、実機部10と計算機部20とを有している。
【0021】
実機部10は、ブレーキシリンダ15に空気圧を送出する空気タンク11と、計算機部20からのブレーキ指令を受信して空気配管14へ空気圧を送出するために開閉可能な電空変換弁12と、計算機部20からの滑走制御弁動作指令信号を受信して空気配管14に送出する空気圧の制御を行う滑走制御弁13と、空気タンク11から送出された空気圧をブレーキシリンダ15に送る空気配管14と、空気圧を受けることで動作するブレーキシリンダ15とを有している。
【0022】
空気タンク11は、コンプレッサ16による圧搾空気を貯留しており、電空変換弁12の開閉によって、貯留した圧搾空気を空気圧として空気配管14へ送り出している。
【0023】
電空変換弁12は、電気制御によって作動するバルブであり、計算機部20からの入力信号であるブレーキ指令に追従して、開閉することで、空気タンク11の空気圧を空気配管14へ送り出している。
【0024】
滑走制御弁13は、電空変換弁12と同様に、電気制御によって作動するバルブであり、計算機部20からの入力信号である滑走制御弁動作指令に追従して、開閉することで、空気配管14内の空気圧を調整してブレーキシリンダ15のブレーキシリンダ圧力を増減して滑走制御を行っている。
【0025】
電空変換弁12および滑走制御弁13は、上述した作用を奏すれば、従来周知の種々の制御弁を用いることができるが、例えば、ソレノイドを用いた電磁式や、永久磁石と駆動コイルを用いたサーボ式などが好適に用いられる。
【0026】
ブレーキシリンダ15は、空気圧によって駆動するシリンダを模擬しており、筒状の容器に所定容量の空気を収納可能とすることで、鉄道車両のブレーキ装置に用いられるブレーキシリンダの空気容量を模擬している。なお、空気タンク11、電空変換弁12、滑走制御弁13及びブレーキシリンダ15は、鉄道車両に用いられている部品をそのまま用いると好適である。
【0027】
空気配管14は、空気タンク11内の駆動空気圧をブレーキシリンダ15に伝達する配管であり、鉄道車両に用いられる配管と同様のパイプ材が用いられると好適である。また、空気配管14は、複数のパイプ材14aを曲げ部材14bで連結した蛇腹状に形成されており、パイプ材14aの長さや太さおよび、曲げ部材14bの数を変更することで、配管長さ及び配管の太さが調整可能となっている。このように、空気配管14の配管長さや太さを調整することで、現車の応答性を再現することが可能となっている。なお、空気配管14は、配管長さや太さの他、配管の曲げ部材14bの曲げ角度や曲げ回数などを調整可能に設定しても構わない。
【0028】
なお、空気配管14の現車の模擬方法は、現車のブレーキ動作が模擬できればどのような方法を用いても構わないが、例えば、電空変換弁12が開いた後、ブレーキシリンダ15に所定の圧力が掛かるまでの遅延(むだ時間および時定数)を模擬するように配管長さや太さを調整することで行うことが可能である。
【0029】
図2に示すように、計算機部20は、鉄道車両の走行をシミュレートする車両モデル21と車両の速度と車輪周速度から車両の滑走状態を検知し、滑走制御のために滑走制御弁13に滑走制御弁動作指令を送る滑走制御アルゴリズム22として機能する処理プログラムを実行する処理装置を用いると好適である。滑走制御アルゴリズム22は、車両モデル21の車両速度や車輪周速度がどのような状態になった場合に滑走制御弁動作指令を送出するかを様々に設定可能であり、本実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置1の評価対象である。本実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置1によって様々な設定の滑走制御アルゴリズム22を試行することで、現車試験を行う回数を大幅に削減することができる。
【0030】
処理装置は、当該処理プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)などの演算装置と、処理プログラムを格納するROM(Read Only Memory)と、CPUの処理に必要なデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを備えている。また、処理装置は、キーボード、マウス、タッチパネルなどの入力装置、CRT(Cathode-Ray-Tube)ディスプレイ、液晶ディスプレイ、プリンタなどの出力装置、通信インタフェイスなどを備えると好適である。
【0031】
このような処理装置は、計算機内に構築されたコンピュータシステムであると好適であり、このような計算機は、例えば、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、サーバ、タブレットコンピュータなどが好適に用いられ、記憶装置に記録されたアプリケーションソフトなどのプログラムに従って動作する計算機であれば種々の計算機を用いることができ、単独の計算機であってもよいし、複数台の計算機をネットワークなどで通信可能に接続したコンピュータ群を用いても構わない。
【0032】
また、計算機部20は、車両モデル21に車輪とレール間の粘着条件を設定して接線力係数を出力する粘着条件設定手段23と、ブレーキシリンダ15からブレーキシリンダ圧力を取得して押付力を算出する押付力算出手段24と、当該押付力と摩擦材特性からブレーキ力を算出するブレーキ力算出手段25とを備えている。
【0033】
粘着条件設定手段23は、図3に示すように、車両モデル21内で用いられる接線力係数を用いて粘着条件を規定しており、この接線力係数とすべり率の関係で規定する。また、接線力係数は、車輪とレールの接触部において接線方向に働く力であり、滑走の発生に係る係数である。
【0034】
なお、図3に例として示した(1)~(5)は、後述するA,B,Cの値を次の値に設定して求めたものである。
(1)A=5,B=1.98,C=0.10,
(2)A=8,B=1.2,C=0.12,
(3)A=12,B=1.8,C=0.15,
(4)A=20,B=1.5,C=0.20,
(5)A=100,B=1.6,C=0.25。
【0035】
図4に示すように、一般にすべり率と接線力係数の関係は、微小すべり領域においては、すべり率に比例するが、巨視すべり領域においては、不安定な挙動を示すことが知られている。すべり率の算出は従来周知の種々の方法を用いることができるが、本実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置1では、取扱が簡便で幅広い関係を表現することが可能であることから、すべり率ηと接線力係数μの関係として次式を用いた。
【数1】
【0036】
ここで、すべり率とは、(車両速度-車輪周速度/車両速度)×100であり、上述した数式1におけるA,B,Cは任意の定数である。これらの定数の基本的な性質として、Aが大きいほど微小すべり領域が狭くなり(極大値をとるすべり率が小さくなる)、Bが大きいほど、巨視すべり領域での減衰が大きくなる。また、Cは粘着係数である。
【0037】
計算機部20は、ブレーキシリンダ15の圧力センサで計測されたブレーキシリンダ圧力を押付力算出手段24によって取り込み、ブレーキ力算出手段25によってブレーキ力に換算する。車両モデル21は、入力されたブレーキ力とその時の粘着条件によって車両の減速と車輪の滑走状態を運動方程式から演算する。演算された滑走状態が滑走制御アルゴリズムの規定する滑走の検知条件に相当する場合、滑走制御弁13に動作指令をだし、ブレーキシリンダ圧力を排気する。この滑走制御弁13の動作によるブレーキシリンダ圧力の変化は、押付力算出手段24によって再び計算機部20に取り込まれ、再度、ブレーキ力に換算されて車両モデル21内の演算に用いられる。このループを車両が停止するまで繰り返している。
【0038】
次に、相対的にすべりやすい粘着条件と相対的にすべりにくい粘着条件を適用して本実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置1を試行した試験結果について説明を行う。図5(a)は、相対的にすべりやすい粘着条件を適用した結果を示すグラフであり、(b)は相対的にすべりにくい粘着条件を適用した結果を示すグラフである。
【0039】
図5(a)及び(b)は空気配管14の設定(空圧システムの応答性)と滑走制御アルゴリズム22は、同じ条件で試験を行った。図5(a)及び(b)の結果を比較すると、(b)において、停止距離が延伸しており、粘着条件の差異を反映した結果が得らえていることがわかる。
【0040】
次に、図6を参照して、本実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置1の作業フローを説明する。まず、現車のむだ時間および時定数といった対象となる車両の空圧システムの応答性を再現するため、実機部10の空気配管14の長さを調整する(S101)。
【0041】
続いて、車両モデル、滑走制御アルゴリズム、粘着条件を指定する(S102~S104)して試験を実施する(S105)。その後、この試験によって得られた結果を評価する(S106)。得られた評価結果と試験目的に応じて、滑走制御アルゴリズムあるいは粘着条件を変更し(S103,S104)、次の試験を実施する(S106)。
【0042】
このように、本実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置1によれば、粘着条件を任意に設定することができるので、滑走制御アルゴリズム22の評価を適切に行うことができ、現車試験を行う前に、滑走制御アルゴリズム22の性能確認を行うことができるので、現車試験の試番数を削減することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置1は、現車の空圧システムを用いて応答性を再現しつつ、粘着条件と滑走制御アルゴリズム22を任意に指定することで様々な検証が可能となっており、例えば、多様な粘着条件と滑走制御アルゴリズム22の組み合わせにおける停止距離の分布を比較することで、各滑走制御アルゴリズムが持つ傾向を統計的に評価することが可能となる。
【0044】
なお、上述した本実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置1は、空気タンク11にコンプレッサ16によって圧搾空気を充填する場合について説明を行ったが、コンプレッサ16を用いずに、空気タンク11をカートリッジ式として構成しても構わない。このように、本実施形態に係る鉄道車両用滑走制御試験装置に種々の変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0045】
1 鉄道車両用滑走制御試験装置, 10 実機部, 11 空気タンク, 12 電空変換弁, 13 滑走制御弁, 14 空気配管, 15 ブレーキシリンダ, 16 コンプレッサ, 20 計算機部, 21 車両モデル, 22 滑走制御アルゴリズム, 23 粘着条件設定手段, 24 押付力算出手段, 25 ブレーキ力算出手段。
図1
図2
図3
図4
図5
図6