(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】流体中の検体を収集するためのデバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 5/153 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
A61B5/153
(21)【出願番号】P 2021541007
(86)(22)【出願日】2019-09-23
(86)【国際出願番号】 NL2019050637
(87)【国際公開番号】W WO2020060414
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-12
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】521118189
【氏名又は名称】イドリス・オンコロジー・ベーフェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ペーテル・イマヌエル・ウィーグマン
(72)【発明者】
【氏名】ハンス・ペーテル・ムルデル
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-509730(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0301442(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/15- 5/157
A61B 10/00
A61M 25/00-25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管内の流体中の検体を収集するためのデバイスであって、
細長本体と、
前記細長本体の表面から長手方向軸に対して前記細長本体から径方向に延在する複数の実質的に連続的なバリアであって、前記細長本体の長さの少なくとも一部分に沿って設けられた複数の実質的に連続的なバリアと
を備えており、
前記バリアは、前記デバイス本体の遠位端部へ向いたまたは近位端部に向いた開口を有する指向性レセプタクルとして形成される、デバイス。
【請求項2】
前記バリアは、指向性流が前記細長本体の近位端部から前記細長本体の対向側の遠位端部へ、またはその逆へ流れる場合に、前記バリアの直近位置に局所的な渦を発生させるように形成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記レセプタクルは、前記レセプタクル内に前記渦を発生させるように形成される、
請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記バリアは同心リングからなる、請求項1から3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記同心リングの厚さは、前記細長本体から前記デバイス本体の遠位に位置する前記同心リングの外方周囲部に向かって縮小する、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記同心リングは、前記デバイス本体の遠位端部に向かってまたは近位端部に向かって傾斜される、請求項4または5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記同心リングの外方部分が、前記同心リングの内方部分が前記細長本体の法線に対して傾斜される角度である第2の角度よりも大きな第1の角度で前記法線に対して傾斜される、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
隣接し合う前記バリアが空洞部を形成する、請求項1から7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記空洞部の近位部分を画定する、前記空洞部の近位側の第1のバリアの第1の端部が、前記空洞部の遠位端部を画定する前記空洞部の遠位側の第2のバリアの第2の端部よりも前記細長本体からさらに遠方に延在する、またはその逆である、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記空洞部は、実質的に円形の断面を有するリングとして形成される、請求項8または9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記デバイスは、
ポリエーテルエーテルケトン、
ポリエチレン、
ポリウレタン、および
ポリシロキサン
の群より選択される1つまたは複数のポリマー材料を主に含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記細長本体の実質的に中心に設けられた、好ましくは金属、金属合金、有機ポリマー、光ファイバ、他の構造支持材料、またはそれらの組合せからなるワイヤをさらに備える、請求項1から11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記デバイス本体は、流体流を通過させ得る導管を備え、前記バリアは、前記導管の内方壁部表面から前記デバイスの前記長手方向軸に向かって延在する、請求項1から12のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
前記バリアは、前記細長本体の外方壁部表面から延在する、請求項1から13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の前記デバイスと、
前記デバイスに対して連結されたガイドワイヤと、
前記ガイドワイヤが挿通されるチューブであって、前記デバイスを受けるように構成されたチューブと
を備える、パーツのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
様々な態様およびその実施形態は、管内のとりわけ生物およびヒトの血流を含む流体流から検体を収集するためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
体内のある検体は、ある特定の病理学的異常に関する示唆を与える場合がある。この異常箇所が未知である場合に、かかる検体の収集は困難となる。いくつかの検体は、体内の血流中または他の流体流中において運ばれ得る。すべての血液は心臓を通過するため、この検体は、心臓に連結する大血管の中の1つまたは別の管において収集され得る。
【0003】
特許文献1は、検出レセプタで占められた機能的表面を備える検出デバイスを開示している。このデバイスは、3次元構造の機能的表面を有する。この構造は、試料流体が貫入し得る隙間を形成する相互に対面する機能的セクションを有する。これらの隙間は、デバイスの長さ方向に沿って延在するカナルとして形状設定される。
【0004】
特許文献2は、遠位端部に位置するブラシセグメントと、このブラシセグメントから近位端部まで延在するマンドレルセグメントとを備える、血管内ブラシを開示している。ブラシセグメントは、繊維、粗毛、ループ、リッジ、または波形部などの少なくとも1つのブラシ要素を備え、この少なくとも1つのブラシ要素は、血管内ブラシを用いて生検細胞を保持するために空間を形成し、もしくは離間され、血管内ブラシの血栓形成性を低下させるように構成され、これにより、ユーザは標的となる血管セグメントから血管内組織を安全にin vivo取得することが可能となる。ブラシセグメントは、ブラシ上に生検細胞を保持するように構成された少なくとも1つのブラシ要素を、血管内ブラシの遠位端部に備える。したがって、特許文献2は、生検手技において血管内デバイスにより管壁から移動された生検細胞を保持することを目的とする。したがって、これらのブラシ要素は、可動流体の存在下において生検細胞を保持するように構成される。
【0005】
特許文献3は、ポリマー繊維および捕獲分子を備える、分析物を検出するためのデバイスを開示している。これらの捕獲分子は、分析物および/またはリンカー分子に対して結合する。特許文献3の繊維ベースデバイスは、生命有機体内部でまたはin-vitro試料中で希少な生体分析物を検出するだけではなく、かかる分析物を極めて効率的に検出および捕獲し、それらが詳細にex-situ分析され得るまで保存または保護すると言われている。特許文献3は、繊維の有効表面積を局所的に増大する形状からなることにより、流動性環境において分析物表面の相互作用性を強化するように繊維表面に導入されたタービュレータ構造を開示している。このタービュレータ構造は、繊維表面に向かって分析物を引き付ける乱流を引き起こすことにより、収集プロセスの最中および後に不動化された分析物を収集および保護し得る。
【0006】
これらの文献は、例えば心臓に近い管内において生じる高速の血流中において検体を収集しなければならない場合に非常に関係が深い場合がある、高速で流れる液体から直接的に検体を収集しなければならない場合に液体流の速度が低下する問題について対応していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2010/145824
【文献】WO2006/116019
【文献】EP2344021A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
検体収集を改善する構造を有するデバイスを提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様は、管内を通り流れる流体中の検体を収集するためのデバイスを提供する。このデバイスは、細長本体と、本体の表面から長手方向軸に対して径方向に延在し、本体の長さの少なくとも一部分に沿って設けられた複数の実質的に連続的なバリアとを備える。
【0010】
バリアが、例えばデバイス本体の長手方向軸に対して実質的に垂直であるなど、本体の長さ方向に沿ってデバイス本体から径方向に延在して設けられるため、検体収集がなされることとなる液体の流速が大幅に低下する。流速のかような低下により、収集のためにデバイスにより保持される検体の可能性(odds)が改善される。
【0011】
一実施形態では、バリアは、デバイス本体の遠位端部へ向いた開口を有する指向性レセプタクルとして形状設定される。血流などの体液流は、心臓のポンプ活動により脈動性を有する。バリアが、デバイスの特定の端部に向けられた開口を有する指向性レセプタクルとして形状設定されることにより、検体は、心拍周期の特定の期間にレセプタクル内で駆動される。これは特に、その期間中に血液流がレセプタクルの開口の方向に向かう場合に該当する。他の期間の間には、血流が開口から離れる方向に向かうときに、検体はレセプタクル内に保持されるか、または少なくとも血流反転の影響下でレセプタクルから退去する検体の可能性が低下する。
【0012】
さらなる一実施形態では、バリアは、指向性流が本体の近位端部から本体の対向側の遠位端部へ流れる場合に、バリアの直近位置に局所的な渦を発生させるように形状設定される。かかるバリアは、比較的製造しやすい。流れがレセプタクル内で再循環することにより、検体は長期間にわたりレセプタクル内に留まる。
【0013】
別の実施形態では、バリアは、指向性流が逆方向へ流れる場合に、バリアの直近位置に局所的な渦を発生させるように形状設定される。さらに他の実施形態においても、バリアは、指向性流がデバイスの長さ方向に対して実質的に平行である両方向へ向かうものである場合に、バリアの直近位置に局所的な渦を発生させるように形状設定される。
【0014】
一実施形態では、バリアは同心リングからなる。これらのリングは、相互に対しておよび/またはデバイスの長手方向軸に対して同心状であってもよい。代替的な実施形態では、これらのリングは、相互に対しておよび/またはデバイスの長手方向軸に対して非同心状であってもよい。
【0015】
一実施形態では、リングの厚さは、本体からデバイス本体の遠位に位置するリングの外方周囲部に向かって縮小する。
【0016】
これらのバリアは、他の形状をさらに有してもよく、径方向寸法、長手方向寸法、および接線方向寸法が、バリアの周囲部に沿って変化してもよい。例えば、バリアは、バリアの周囲部に沿ったデバイスの長手方向軸に対する厚さ、および/または径方向長さ、および/または長手方向長さに変化を伴う多角形外部形状を有してもよい。バリアの形状は、波形状の半径または波形状の長手方向長さなど、周囲部に沿って不規則であってもよい。
【0017】
さらに別の実施形態では、リングは、デバイス本体の近位端部に対して傾斜される。これにより、単純ではあるが効果的なレセプタクルが実現される。
【0018】
一実施形態では、リングの外方部分が、リングの内方部分が本体の法線に対して傾斜される角度である第2の角度よりも大きな第1の角度で法線に対して傾斜される。
【0019】
さらに別の実施形態では、隣接し合うバリアが空洞部を形成する。空洞部は、検体を効果的に保持するための空間を形成する。
【0020】
一実施形態では、空洞部の近位部分を画定する、空洞部の近位側の第1のバリアの第1の端部が、空洞部の遠位端部を画定する空洞部の遠位側の第2のバリアの第2の端部よりも本体からさらに遠方に延在する、またはその逆である。
【0021】
一実施形態では、空洞部は、実質的に円形の断面を有するリングとして形状設定される。
【0022】
空洞部は、細長本体の周囲に延在する任意の他の適切な形状を有してもよい。空洞部が、2つの隣接し合うバリア間に形成される場合には、空洞部の形状は、これらのバリアの形状により画定される。各バリアの周囲部に沿ってバリアの形状が変化することにより、例えば空洞部の幅または深さなどの空洞部の形状もまた変化し得る。
【0023】
デバイスの長手方向において、種々のタイプまたは形状のバリアが単一のデバイスにおいて使用されてもよい。これらの種々のタイプまたは形状のバリアは、デバイスによる検体収集を改善するためにバリアに沿って流れる流体流の流れ特性に影響を与えるように、デバイスの長手方向に沿ってそれぞれ異なるように形状設定された空洞部を形成するために使用されてもよい。例えば、種々のタイプの空洞部は、デバイスに沿ったそれぞれ異なる流体流速または流体流方向のためなどに設計されてもよい。
【0024】
第2の態様は、第1の態様によるデバイスと、このデバイスに対して連結されたガイドワイヤと、ガイドワイヤが挿通されるチューブであって、デバイスを受けるように構成されたチューブとを備える、パーツのキットを提供する。
【0025】
本発明の第3の態様は、例えば特に生物およびヒトの体の血管などの管内の検体を収集するための第1の態様のデバイスの使用を提供する。
【0026】
管は、in vivoまたはex vivoであってもよい。
【0027】
一実施形態では、このデバイスの第3の態様は、上大静脈内の検体を収集するためのデバイスの使用に関する。
【0028】
以下、図面と組み合わせて様々な態様およびその実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】デバイスの一実施形態の長さ方向に沿った部分断面図である。
【
図3A】心臓周期の最中における流速を概略的に示す図である。
【
図3B】中に検体が含まれる液体流の脈動性の影響下における管内の検体を示す図である。
【
図3C】デバイスの一実施形態と共に管内の検体を示す図である。
【
図3D】デバイスの別の実施形態と共にまたは代替的な流れ条件下における管内の検体を示す図である。
【
図4A】デバイスの別の実施形態の長さ方向に沿った部分断面図である。
【
図4B】脈動する流体流の影響下におけるデバイスのこの実施形態の外周部に沿って移動する検体を示す図である。
【
図4C】デバイスの別の実施形態に沿ったまたは別様に脈動する流体流の影響下において移動する検体を示す図である。
【
図5】検体を保管するためにチューブ内に収納されつつあるデバイスを示す図である。
【
図6】体管内の、好ましくは人体内の静脈などの血管内の検体を収集するためのシステムを示す図である。
【
図7A】第1の態様の別の実施形態としての別のデバイスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、管内の特に生物およびヒトの血流を含む流体流から検体を収集するためのデバイス100を示す。この検体は、生物検体、化学試料、その他、またはそれらの組合せであってもよい。生物検体としては、(ポリ)サッカライド、(ポリ)ヌクレオチド、(ポリ)ペプチド、および有核細胞もしくは無核細胞、組織、またはそれらの部分などのそれらの組合せが含まれるがそれらに限定されない。
【0031】
デバイス100は、デバイス本体110を備える。デバイス本体の周囲には、同心リング120がデバイス本体110から径方向に延在する実質的に連続的なバリアとして設けられる。この実施形態では、リング120の面は、本体110の長手方向軸に対して実質的に垂直に設けられる。別の実施形態では、リング120は、デバイス本体110の長手方向軸に対して90度未満の角度で配置され得る。
【0032】
径方向に延在する、とは、各バリアが中心軸に沿ったある特定の箇所に設けられ、中心軸に沿った第1の位置から、第1の位置からある距離をおいた位置である中心軸に沿った第2の位置まで延在しないことを意味する。デバイス本体上に設けられるバリアの位置は、このバリアが本体110の外方壁部の外周部に沿って延在するように変化し得るものであり、バリアは、実質的にその起点と同一位置にて終焉する。すなわち、バリアは、デバイス本体110の外方壁部に沿ってらせん状を成さない。バリアとデバイス本体との間の連結部に沿ったラインの平均的な方向ベクトルは、その連結部の全長にわたり、長手方向軸の方向において実質的にゼロである。
【0033】
図1では、第1の矢印130および第2の矢印140は、検体を収集するためにデバイス100が挿入され得る管内の血流を示す。同心リング120は、バリアとして設けられ、これらのバリアは、流れに対して実質的に垂直になるように本体110上に位置決めされる。
【0034】
さらに、これらのバリアは、本体の周囲に実質的に連続的に設けられる。実質的に連続的、とは、これらのバリアが本体を少なくとも60%(例えば3/4周を有するなど)、より好ましくは70%、75%、80%、85%、または90%、および最も好ましくは100%にわたり周方向に囲むことを意味する。
【0035】
図2は、バリア120が異なる形状を有するデバイス100の断面図を示す。
図2に示すバリア120は、本体110を周方向に囲む。さらに、
図2に示すバリア120は、本体110の遠位端部に向かって傾斜される。この実施形態では、バリア120は、サメまたはイルカのヒレ形状のような断面を有する。これらのバリアは、本体110付近ではより厚く、バリア120の厚さは、バリア120が本体から延在するにつれて薄くなる。
【0036】
バリア120のこの形状設定は、バリアごとにレセプタクル122を構成する。このレセプタクル122は、レセプタクル122の遠位側へ向かって、およびデバイス100の外方周囲部にて開口する。したがって、レセプタクル122は、その開口が本体110から外方へ直線状にではなく、デバイスの遠位端部に向かって配向されるという点において指向性レセプタクル122として構成される。これは、
図3A、
図3B、
図3C、および
図3Dと組み合わせてさらに説明される。別の実施形態では、レセプタクルは、デバイス100の近位側へ向かって開口している。
【0037】
本発明の態様の好ましい実施形態では、バリアは、デバイス本体の遠位端部または近位端部のいずれかへ向けられた開口を有する指向性レセプタクルとして形状設定される。先行技術のデバイスは、分析物の収集を改善するために表面積もしくは液体とデバイス表面との間の接触面積を増大させるか、またはデバイス表面における液体の乱流を増大させることを目的とするが、本発明は、好ましい態様においては、デバイスの長手方向軸に対してある特定の方向に向く開口を有するレセプタクルを使用する。かかる指向性レセプタクルは、生命有機体の血流採取において特に有益な用途がある。なぜならば、かかる状況での血流力学は、その脈動性、すなわち血液循環における収縮期速度と拡張期速度との差によって特徴づけられるからである。バリアが指向性レセプタクルとして形状設定される本発明の態様の好ましい実施形態は、
図3Aに示すように心臓付近の上大静脈中のまたはその付近の血流力学を考慮した場合にはとりわけ有利であるが、それに限定されない。
【0038】
図3Aは、心臓付近の上大静脈を通る血液速度を概略的に示すグラフ300を示す。垂直軸は、流速を示す。ゼロ値で垂直軸と交わる水平軸は、時間を示す。第1のグラフ部分302は、心臓に向かう血流の速度上昇および速度低下を示す。この順方向血流は、心房拡張および心室収縮の最中に発生する。第2のグラフ部分304は、心臓から離れる方向への短い血流を示し、これは心室収縮から拡張への移行中に発生し得る。その後、第3のグラフ部分306は、心室拡張中における心臓に向かう血流上昇および血流低下を再び示す。短い無血流期間の後に、第4のグラフ部分308は、心房収縮による心臓から離れる方向への短い血流を示す。この相の後に、流れはこのパターンを繰り返す。
【0039】
心房および心室の拡張および収縮により、上大静脈中の血液は脈動性を示す。血液中の検体は、血液と共に流れ、脈動運動を同様に示す。これは、
図3Bに示される。
図3Bは、上大静脈内の血液中の生物検体としての白血球310を示す。心室拡張期の間に、白血球は管内の血液の平均流れ方向と共に第1の位置312から第2の位置314へ移動する。心房収縮の間に、白血球は、管内の平均流により第2の位置314から第3の位置316へと逆方向へ移動する。その後、心房拡張期および心室収縮期の間に、白血球310は、管内を第3の位置316から第4の位置318へと移動する。
【0040】
図3Bは、影響を被らない上大静脈内の流れを示す。別の静脈または動脈では、脈動変位が大きく異なる場合があり、例えば抹消静脈内では脈動がより低くなる、または肺動脈内でははるかにより高いピークを有するが逆流がほぼない。さらに、
図3Bは、妨げとなるアーチファクトの存在しない無閉塞血液導管すなわち管の中における白血球310の移動を示す。
【0041】
図3Cは、デバイス100が管内に設けられた、血管および特に上大静脈内の白血球の流れを示す。デバイス100は、デバイス100の長さが管内における平均血流方向に対して実質的に平行になるように管内に設けられる。
図3Cに示す実施形態では、デバイス100は、デバイス100の遠位端部が血流の下流側に配置され、逆側の近位端部が遠位端部に対して上流側に配置されるように、管内に配置される。
【0042】
デバイス100のこの配置とバリア120の傾斜とにより、白血球は、心室拡張の間にレセプタクル122の開口に沿って第1の位置322から第2の位置324へ流れる。白血球310が心室拡張終了時にレセプタクル122の指向性開口の近傍に位置する状態において、白血球310は、心房収縮の間にレセプタクル122内において第3の位置326へと流れ得る。
【0043】
レセプタクル122内において、白血球310は、管内の全体的な血流の影響が低い状況下にある。したがって、レセプタクル122の形状に応じて、レセプタクル122内の血流は、障害物の存在しない管内よりも低くなり得る。さらに、全体的な血流とバリア120のサメのヒレ形状断面の形状とにより、渦がレセプタクル122内の血流に発生し得る。レセプタクル122内の血液のこの渦または他の非線形流および場合によっては乱流、およびレセプタクル122内の血流の好ましくはより低い速度により、白血球310は、心房拡張および心室収縮の影響下においてレセプタクル122内から直接的に退去するのではなく、より長い期間にわたりレセプタクル122内に留まり、第4の位置328へと移動し得る。
【0044】
白血球310がレセプタクル122内に位置し、レセプタクル122内の血流が管の全般的な空間内とは異なり好ましくはより低い場合に、白血球310は、デバイス100の表面に対して、およびバリア120の表面、本体110の表面、または特にそれらの両方に対して結合し得る。
【0045】
ここまでに示した実施形態では、デバイス100は、心房収縮期の間にレセプタクルが検体を収集し得るように管内に挿入されるものとして示された。別の実施形態では、デバイス100は、心房拡張期および心室収縮期などの他の期間の間にレセプタクル122が検体を収集し得るように管内に挿入される。
【0046】
図3Dは、検体310がバリア120の表面上の近い位置で運ばれる代替的な一実施形態または代替的な流れ条件を示す。流れがバリアの頂部に到達すると、流れ剥離が引き起こされ得る。これは、結果としてレセプタクル122に乱流または渦流をもたらし得る。この乱流または渦流により、検体310は、その初期位置330から剥離流れに沿ってレセプタクル122内へ第2の位置332まで運ばれ、その後この第2の位置332において、
図3Cで説明したものと同様に挙動し得る。
【0047】
図4Aは、別様に形状設定されたレセプタクル122を有するデバイス100の別の実施形態を示す。
図4Aに示す実施形態では、バリア120は、本体110から実質的に垂直に延在する。バリア120は、レセプタクル122が実質的に円形断面を有するように、同心リングの両側部にて凹状に形状設定される。これらのバリアの端部は、第1のオーバーハング124が第2のオーバーハング126よりもさらにレセプタクル122上へと延在するように、非対称的に形状設定される。さらに、第1のオーバーハング124は、第2のオーバーハング126よりも本体110からさらに延在する。これにより、レセプタクル122の開口は、デバイス100の遠位端部に向かって配向され、そのようにすることでレセプタクル122は指向性を有する結果となる。
【0048】
図4Bは、白血球310が心拍の様々な期間においてデバイス100に沿った様々な位置にある状態の、
図4Aに示すようなデバイスを示す。第1のオーバーハング124および第2のオーバーハング126の形状がそれぞれ異なることにより、白血球は、心室拡張の間に第1の位置342から第2の位置344へと第1のオーバーハング124の上部を越えて移動することが可能になされる。次いで、心房収縮期の間に、白血球は、第1のオーバーハング124の下部の下方をレセプタクル122内へと第3の位置346にて移動し得る。最終的に、白血球は、レセプタクル122から退去し、第4の位置348へと移動するかまたはレセプタクル内に留まり得る。
【0049】
図4Cは、
図3Dの説明と同様にレセプタクル122内への流れが流れ剥離により引き起こされる代替的な一実施形態または代替的な流れ条件を示す。オーバーハング124の頂部に到達する流れは、輪郭をたどることができず、代わりにレセプタクル122内への乱流または渦流へと剥離されて、初期位置350からレセプタクル122内へと位置352に検体310を運ぶ。
【0050】
検体が1つまたは複数のレセプタクル122内に収集された状態において、デバイス100は、
図5に示すように検体のさらなる分析のために管から引き出され得る。このために、デバイス100は、ロッドまたはワイヤ520のようなストリングに対して連結される。ワイヤ520は、サージカルスチール、チタンもしくはチタンリッチ合金、その他、またはこれらの組合せを含むがそれに限定されない、単一の金属または金属合金で形成され得る。代替的には、ワイヤは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、PE、その他、またはそれらの組合せを含むがそれに限定されない、有機ポリマーから構成され得る。さらに別の実施形態では、ワイヤ520は、光学検査のために使用され得る光ファイバからなる。
【0051】
ワイヤ520は、チューブ510内にデバイス100を引き込むためにチューブ内に設けられる。好ましい一実施形態では、チューブ510の内径は、デバイス100の外径よりも若干小さい。バリア120が、好ましくは可撓性をおよびより好ましくは弾性を有することにより、バリア120の端部は、隣接し合うバリアの表面に向かって押される。好ましくは、これは、レセプタクル122が閉じられるように行われる。これは、レセプタクル122内での検体の保管を助長する。
【0052】
好ましくは、デバイスは、弾性を実現するために主にポリマー材料からなる。このポリマーは、架橋ポリマー、ポリウレタン(PU)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリウレタン、他のポリマー、有機もしくは無機のいずれか、他の材料、またはそれらの組合せであり得る。
【0053】
デバイス100の本体110内に、ワイヤが、静脈に沿っておよびチューブ510内でデバイス100を移動させるために設けられ得る。かかるワイヤは、さらに剛性を与え得る。かかるワイヤは、鋼、特に有機ポリマー材料であるポリマー材料、1つまたは複数の炭素繊維、その他、またはそれらの組合せから構成され得る。代替的には、かかるワイヤは、デバイス本体を貫通して延在するワイヤ520と同一のワイヤであってもよい。
【0054】
図6は、身体の管、好ましくは人体内の静脈または動脈などの血管の中の検体を収集するためのシステム600を示す。このシステムは、デバイス100、ワイヤ520、およびチューブ510を備える。チューブ510は、内方リザーバ610に対して連結される。好ましくは、リザーバ610は、検体収集のためにデバイス100の使用対象となる被験者の身体内に植え込まれる。ヒトは、薬物の静脈内送達のために体内に内部リザーバ610を設けられ得る。このために、リザーバ610は、チューブ510を介して管に対して連結される。
【0055】
ワイヤ520は、リザーバ610の頂部膜612を貫通して突出し、チューブ510を通りデバイス100へと続く。
図6において示すように、デバイス100の近位端部は、ワイヤ520に対して連結され、バリアは遠位端部に向かって傾斜される。別の実施形態では、バリアは、近位端部に向かって傾斜される。
【0056】
図7Aは、第1の態様の別の実施形態としてのデバイス700の概略等角図を示す。デバイス700は、デバイス本体710の長手方向軸に沿ってデバイス700内に設けられた導管730を有する中空デバイス本体710を備える。デバイス本体710の内方壁部から、バリア720が、デバイス700の長手方向軸(中心軸)に向かって径方向に延在する。バリア720は、長手方向軸に対して実質的に垂直に設けられてもよく、または長手方向軸に対して傾斜されてもよい。
【0057】
後者のオプションは
図7Bに示されており、この図は、デバイス700の長手方向軸に沿ったデバイス700の断面図を示す。
図7Bは、指向性レセプタクル722をもたらすサメのヒレ形状断面を有するバリア720を示す。代替的には、バリア720は、指向性レセプタクルを形成するために
図4Aにより示すようにまたは別様に形状設定されてもよい。
【0058】
デバイス700は、デバイス本体が主にチューブとして形状設定されたチューブとして形成されてもよい。別の実施形態では、デバイス本体710は、大幅により大きいものであってもよく、複数の導管730が相互に対して実質的に平行に設けられる。
【0059】
デバイス本体から径方向に延在するバリアを、実質的に円形の外方周囲部を有するものとしてここまで論じてきた。他の実施形態では、芯の周囲部、バリアの外方周囲部またはそれらの両方が、バリアが内方または外方のいずれに延在するかにかかわらず、楕円形、長円形、正方形、三角形、または多角形、湾曲系、その他、もしくはそれらの組合せのいずれかである任意の他の形状を有してもよい。
【0060】
一実施形態では、種々のタイプまたは形状のバリアが、単一のデバイスにおいて使用されてもよい。これらの種々のタイプまたは形状のバリアは、デバイスによる検体収集を改善するために、バリアに沿って流れる流体流の流れ特徴に影響を与えるように適用され得る。
【0061】
ここまで論じた実施形態は、検体をin vivo収集するための、すなわち特に生物およびヒトの体の管および特に血管の中の検体を収集するためのデバイスとの組合せにおいて論じてきた。また、同様の形状を有するデバイスが、特に血液または他の体液(blood or another bodily fluid and bodily liquid)の中の検体を体外の管内においてex vivo収集するために使用されてもよい。これは、例えば身体に対して連結された腎臓透析デバイスの導管内など、ヒトの脈管系に対して連結された導管内に位置してもよい。代替的には、デバイスは、人体に対して連結されない導管または他の管内において使用されてもよい。しかし、デバイスは、パイプライン内の原油流、上水道システム内の水流、天然ガス供給システム内のガス流などの、他の流れ、あるいはさらなる分析のためまたは本質的な検体除去のために収集されるべきであり得る検体を運ぶ流体を運ぶ別の管の中の検体を収集するために使用されてもよい。
【0062】
上記の説明において、層、領域、または基板などの要素が別の要素の「上に(on、onto)」位置すると呼ばれる場合に、この要素は、他方の要素の上に直接的に位置するかまたは中間要素がさらに存在し得るかのいずれかであるものとして理解されたい。さらに、上記の説明中に示した数値は、例として提示されるものであり、他の数値が可能であってもよくおよび/または他の数値を実現するために努力がなされてもよい点を理解されたい。
【0063】
さらに、本発明は、本明細書において説明された実施形態で用意されるものよりも少数の構成要素で具現化されてもよく、その場合には、1つの構成要素が複数の機能を有する。また同様に、本発明は、図面に示すものよりも多数の要素を使用して具現化されてもよく、その場合には、提示される実施形態の1つの構成要素によって実現される機能が、複数の構成要素に分配される。
【0064】
図は、非限定的な例として提示される本発明の実施形態の単なる概略的な図に過ぎない点に留意されたい。明瞭化および正確な説明を目的として、本明細書においては、特徴は同一のまたは異なる実施形態の一部として説明されるが、本発明の範囲は、説明された特徴のすべてまたはいくつかの組合せを有する実施形態を含み得る点が理解されよう。「備える」という語は、請求項に挙げられる以外の他の特徴またはステップの存在を排除しない。さらに、「1つの」という語は、「1つのみ」に限定されるように解釈されるべきではなく、「少なくとも1つ」を意味するために使用され、複数を排除しない。
【0065】
本発明の範囲から逸脱することなく、本説明内において開示された様々なパラメータおよびその数値は修正されてもよく、開示および/または特許請求される様々な実施形態は組み合わされてもよい点が、当業者には容易に理解されよう。
【0066】
特許請求の範囲に記載される参照符号は、特許請求の範囲を限定するものではなく、請求項の可読性を向上させるために挿入されるに過ぎない点を明記しておく。
【符号の説明】
【0067】
100 デバイス
110 デバイス本体
120 同心リング、バリア
122 レセプタクル
124 第1のオーバーハング
126 第2のオーバーハング
130 第1の矢印
140 第2の矢印
300 グラフ
302 第1のグラフ部分
304 第2のグラフ部分
306 第3のグラフ部分
308 第4のグラフ部分
310 白血球、検体
312 第1の位置
314 第2の位置
316 第3の位置
318 第4の位置
322 第1の位置
324 第2の位置
326 第3の位置
328 第4の位置
330 初期位置
332 第2の位置
342 第1の位置
344 第2の位置
346 第3の位置
348 第4の位置
350 初期位置
510 チューブ
520 ワイヤ
600 システム
610 内方リザーバ、内部リザーバ
612 頂部膜
700 デバイス
710 デバイス本体
720 バリア
722 指向性レセプタクル
730 導管