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特許7498196吸収性シート及び吸収性物品、並びに吸収性シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】吸収性シート及び吸収性物品、並びに吸収性シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/535 20060101AFI20240604BHJP
   A61F 13/534 20060101ALI20240604BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A61F13/535 100
A61F13/534 110
A61F13/15 329
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021567536
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2020048177
(87)【国際公開番号】W WO2021132338
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/050269
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蔵前 亮太
【審査官】佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-329664(JP,A)
【文献】特開2017-176861(JP,A)
【文献】国際公開第2018/042544(WO,A1)
【文献】特開2017-070500(JP,A)
【文献】特開2018-086148(JP,A)
【文献】特開2019-122717(JP,A)
【文献】特開2018-079036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15-13/84
A61L 15/16-15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の繊維シートと、第2の繊維シートと、これらの繊維シートの間に配された吸水性ポリマーとを備え、両繊維シートが接着剤によって接合された吸収性シートであって、
前記吸水性ポリマーが配されている領域において、該吸水性ポリマーは、巨視的に視認され得る隙間が観察されない態様で配されており、
前記領域において、両繊維シートが、前記吸水性ポリマーを介さずに前記接着剤によって直接に接合された部位を有し、
第2の繊維シートにおける前記接着剤の塗布面積が、第1の繊維シートにおける前記接着剤の塗布面積よりも大きく、
前記接着剤が塗布された部位において、第1の繊維シートにおける該接着剤の第1坪量は、第2の繊維シートにおける該接着剤の第2坪量よりも高い、吸収性シート。
【請求項2】
第1の繊維シートと、第2の繊維シートと、これらの繊維シートの間に配された吸水性ポリマーとを備え、両繊維シートが接着剤によって接合された吸収性シートであって、
前記吸水性ポリマーが配されている領域において、該吸水性ポリマーは、巨視的に視認され得る隙間が観察されない態様で配されており、
前記領域において、両繊維シートが、前記吸水性ポリマーを介さずに前記接着剤によって直接に接合された部位を有し、
少なくとも一方の前記繊維シートと隣接して配置された繊維交絡層を有する、吸収性シート。
【請求項3】
前記接着剤が伸縮性を有する、請求項1又は2に記載の吸収性シート。
【請求項4】
前記両繊維シートが前記吸水性ポリマーを介さずに前記接着剤によって直接接合された
部位と、前記両繊維シートが前記吸水性ポリマーを介して前記接着剤によって接合された部位とを有する、請求項1~のいずれか一項に記載の吸収性シート。
【請求項5】
前記両繊維シートが前記吸水性ポリマーを介さずに前記接着剤によって直接接合された部位は、シート平面方向に視たときに、規則的な又は不規則的な散点状となって複数形成されている、請求項1~のいずれか一項に記載の吸収性シート。
【請求項6】
前記接着剤は、前記各繊維シートにおける前記吸水性ポリマーに対向する面と、前記各繊維シートを構成する繊維間の空隙とにそれぞれ存在している、請求項1~のいずれか一項に記載の吸収性シート。
【請求項7】
第2の繊維シートにおける前記接着剤の塗布面積が、第1の繊維シートにおける前記接着剤の塗布面積よりも大きく、
前記接着剤が塗布された部位において、第1の繊維シートにおける該接着剤の第1坪量は、第2の繊維シートにおける該接着剤の第2坪量よりも高い、請求項に記載の吸収性シート。
【請求項8】
第1の繊維シートにおける第2の繊維シートとの接合領域に、前記接着剤が非塗布部を有するように不連続に塗布されており、
第2の繊維シートにおける第1の繊維シートとの接合領域の全域に、前記接着剤が隙間なく連続して塗布されており、
第1の繊維シートにおける前記接着剤の非存在面を受液面として用いる、請求項1~のいずれか一項に記載の吸収性シート。
【請求項9】
第1の繊維シートの面上に存在する前記接着剤の厚みが、第2の繊維シートの面上に存在する前記接着剤の厚みよりも厚い、請求項1~のいずれか一項に記載の吸収性シート。
【請求項10】
乾燥状態の前記吸収性シートを、該吸収性シートの質量の200倍量の生理食塩水に30分間浸漬させた後、網上に静置して余分な水分を紙で拭き取った後の状態を湿潤状態としたとき、該湿潤状態における圧縮変形率が25%以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の吸収性シート。
【請求項11】
1.7kPaの圧力付与下にて測定された厚みが、0.3mm以上4mm以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の吸収性シート。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の吸収性シートを備える吸収性物品。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の吸収性シートの製造方法であって、
第1の繊維シートの一方の面と、第2の繊維シートの一方の面とのそれぞれに前記接着剤を塗布し、
第2の繊維シートにおける前記接着剤の塗布面に前記吸水性ポリマーを散布し、然る後に、
前記各繊維シートにおける前記接着剤の塗布面どうしが対向するように、前記各繊維シートを重ね合わせる、吸収性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性シート及び吸収性物品、並びに吸収性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液吸収性の向上を目的として、二枚のシートの間に吸水性ポリマーを配したシート状物や、これを含む吸収性物品が開発されている。例えば特許文献1には、少なくとも150mmHO以上の耐水性を有する疎水性不織布と、水分拡散性を有する親水性シートと、前記疎水性不織布と前記親水性シートとの間に介在する、平均粒径が500μm以下のSAP粒子からなるSAP層とで構成された、3層構造を持つ吸水性耐水性シートが開示されている。
【0003】
特許文献2には、吸水性樹脂及び接着剤を含有してなる吸収層が、不織布により該吸収層の上方及び下方から挟持された構造を有する吸水シート構成体であって、該吸水性樹脂の含有量が100~1000g/m2、該吸水性樹脂の質量平均粒径が50~800μm、かつ該吸水性樹脂の粒径速度指数が0.12秒/μm以下、吸水シート構成体の剥離強度が、0.05~3.0N/7cmである吸水シート構成体が開示されている。
【0004】
また特許文献3には、透液性表面シートと不透液性裏面シートとの間に吸収体が介在された吸収性物品において、前記吸収体は、パルプ及び高吸水性ポリマーからなる上層吸収体と、前記上層吸収体の非肌側に隣接して配置されるとともに、2層のシート間に高吸水性ポリマーが配置されてなる下層吸収体とから構成され、前記上層吸収体に長手方向に延びる開口が形成されるとともに、前記吸収性物品の肌当接面側に、前記透液性表面シートを前記開口に凹陥させた凹溝が形成されている吸収性物品が開示されている。
【0005】
特許文献4には、液体透過性の表面シートと液体不透過性の裏面シートとの間に、吸水性樹脂粉末を含んでパルプ繊維を含まないシート状吸水層を含む吸収マットを具備する使い捨て吸収性物品が開示されている。またシート状吸水層は、不織布シート間に、吸水性樹脂粉末を含む複数の吸水性樹脂粉末存在領域と、吸水性樹脂粉末非存在領域とが隣接して形成されていることも同文献に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-325799号公報
【文献】US 2012/328861 A1
【文献】特開2018-50987号公報
【文献】US 2007/093164 A1
【発明の概要】
【0007】
本発明は、第1の繊維シートと、第2の繊維シートと、これらの繊維シートの間に配された吸水性ポリマーとを備える、吸収性シートに関する。
本実施形態における両繊維シートは、接着剤によって接合されている。
本実施形態における前記吸収性シートは、前記吸水性ポリマーが配されている領域において、該吸水性ポリマーは、巨視的に視認され得る隙間が観察されない態様で配されている。
本実施形態における前記吸収性シートは、前記領域において、両繊維シートが、前記吸水性ポリマーを介さずに前記接着剤のみによって直接に接合された部位を有する。
【0008】
また本発明は、前記吸収性シートを備える吸収性物品に関する。
【0009】
更に本発明は、前記吸収性シートの製造方法に関する。
本実施形態における前記製造方法は、第1の繊維シートの一方の面と、第2の繊維シートの一方の面とのそれぞれに前記接着剤を塗布し、第2の繊維シートにおける前記接着剤の塗布面に前記吸水性ポリマーを散布する。
本実施形態における前記製造方法は、然る後に、各繊維シートにおける前記接着剤の塗布面どうしが対向するように、各繊維シートを重ね合わせる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の吸収性シートの一実施形態を示す断面模式図である。
図2図2は、本発明の吸収性シートの一実施形態を示す斜視模式図である。
図3図3は、本発明の吸収性シートの別の実施形態を示す断面模式図である。
図4図4は、吸収性シートの製造に用いられる製造装置の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述した特許文献1ないし3に記載されているような、二枚のシートの間に吸水性ポリマーを配したシート状物は、吸水性ポリマーの意図しない移動や偏在を防ぐために、吸水性ポリマーを二枚のシート間に強く挟み込んだり、強固に接合したりすることがある。この場合、吸水性ポリマーは液吸収時に十分に膨潤することができず、その結果、液の吸収性能の低下につながる。一方、吸水性ポリマーを二枚のシート間に弱く挟み込んだり、弱く接合したりすると、吸水性ポリマーはシート面方向に意図せず移動したり、偏在したりしてしまうため、目的とする液の吸収性能を発揮させることができず、その結果、排泄された液の液漏れや、着用者の肌側への液戻り等の悪影響が生じ得る。これらの点を解決することに関して、特許文献1ないし3に記載の技術では何ら検討されておらず、改善が望まれていた。
【0012】
また、上述した特許文献4の記載の技術では、吸水性ポリマーを含まない領域が巨視的に視認される状態で形成されているので、この領域に吸水性ポリマーが意図せず移動したり、偏在したりしてしまう。その結果、目的とする液の吸収性能を発揮させることができないことに加えて、吸水性ポリマーが膨潤した後に凹凸が生じやすく、使用者に違和感を与えてしまう。また同文献には、吸水性ポリマーを含まない領域が溶着されている技術も開示されているが、この場合には吸水性ポリマーが十分に膨潤できる空間を確保することができないため、液の吸収性能の低下につながる。
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の吸収性シートの一実施形態が示されている。同図に示す吸収性シート1は、第1の繊維シート11と、第2の繊維シート12と、両繊維シート11,12の間に配された吸水性ポリマー13の複数の粒子とを備える。第1の繊維シート11と、第2の繊維シート12とは、接着剤15によって互いに接合されている。図1に示す実施形態における接着剤15は、各繊維シート11,12における吸水性ポリマー13に対向する面にそれぞれ配されている。同図に示す実施態様では、第1の繊維シート11及び第2の繊維シート12の外面はいずれも、接着剤15や他の部材が存在していないが、後述するように、繊維交絡層や吸収性物品の構成部材等の他の部材が各繊維シート11,12の外面に配されることは妨げられない。
【0014】
吸収性シート1は、これを平面視したときに、吸水性ポリマー13が配されている領域において、吸水性ポリマー13が、巨視的に視認され得る隙間が観察されない態様で配されている。「巨視的に視認され得る隙間が観察されない」とは、吸水性ポリマー13が散布されている領域を肉眼でみたときに、吸水性ポリマー13が繊維シートの一方の面を満遍なく被覆するように配されているが、該領域を微視的に見たときに、吸水性ポリマー13どうしの間の空隙が意図せず形成されることは許容される趣旨である。この空隙は、概ね10~1000μm程度である。以下の説明では、吸水性ポリマー13が散布されている領域において微視的に観察される吸水性ポリマー13どうしの間の空隙を、「微視的空隙」ともいう。
【0015】
吸水性ポリマー13が散布されている領域において、第1の繊維シート11及び第2の繊維シート12は、吸水性ポリマー13を介さずに、接着剤15によって直接接合されている部位17(以下、これを単に「直接接合部位17」ともいう。)を有する。直接接合部位17は、上述した微視的空隙にそれぞれ形成されている。直接接合部位17は、これをシート厚み方向に断面視したときに、接着剤15が柱状となって両繊維シート11,12どうしを直接接合している。また図2に示すように、直接接合部位17は、吸収性シート1をシート平面方向に視たときに、規則的な又は不規則的な散点状となって複数形成されている。直接接合部位17が形成されていることによって、吸水性ポリマー13を吸収性シート1の所定の位置に保持させつつ、吸水性ポリマー13の液吸収性を十分に発揮させることができる。直接接合部位17は、例えば後述するように、吸水性ポリマー13の坪量や粒径、あるいは接着剤15の塗布量及び面積を適宜調整することによって形成できる。
【0016】
図1及び図2に示すように、吸収性シート1は、直接接合部位17に加えて、両繊維シート11,12が吸水性ポリマー13を介して接着剤15によって接合された部位18(以下、これを「間接接合部位18」ともいう。)を有することが好ましい。間接接合部位18は、吸収性シート1を断面視したときに、第1の繊維シート11における接着剤15の塗布部位、吸水性ポリマー13の存在部位、及び第2の繊維シート12における接着剤15の塗布部位がそれぞれ厚み方向で重なっている。このような構成となっていることによって、吸水性ポリマー13を吸収性シート1の所定の位置に保持させることができ、吸水性ポリマー13の意図しない移動や偏在をより低減できるとともに、吸収性シート1の液吸収性をより高めることができる。
【0017】
接着剤15としては、吸水性ポリマー13の液吸収に伴う膨潤変化に追随して伸長し得る柔軟性を有するものを用いることが好ましい。このような原料としては、例えば、2-エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、シアノアクリレート、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル等をはじめとするビニルモノマーの(共)重合体(エチレン酢酸ビニル共重合体など)等を一種以上含有するアクリル系接着剤、ポリジメチルシロキサンポリマー重合体等を含有するシリコーン系接着剤、並びに、天然ゴム等を含む天然ゴム系接着剤、ポリイソプレン、クロロプレン等を一種以上含有するイソプレン系接着剤、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)を一種以上含有するスチレン系接着剤等といった、ゴム系接着剤等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。図1に示すように、接着剤15が、各繊維シート11,12における吸水性ポリマー13に対向する面にそれぞれ配されている場合、第1の繊維シート11に配されている接着剤と、第2の繊維シート12に配されている接着剤とは、同種であってもよく、異種であってもよい。
【0018】
これらのうち、柔軟性及び伸縮性に優れ、吸水性ポリマーの膨潤後においても繊維シート11,12間が直接接合された状態を維持しておくとともに、収縮力を発現させて、両繊維シート11,12間に吸水性ポリマー13を保持させやすくする観点から、接着剤15としてゴム系接着剤を用いることが好ましく、またゴム系接着剤のうちスチレン系接着剤を用いることが更に好ましい。
【0019】
接着剤の柔軟性と、シートへの接着性とを両立させる観点から、接着剤15は、ホットメルト接着剤であることが好ましい。ホットメルト接着剤としては、例えば、上述した各種接着剤に、石油樹脂やポリテルペン樹脂等の粘着付与剤、パラフィン系オイル等の可塑剤、並びに、必要に応じてフェノール系、アミン系、リン系、ベンズイミダゾール系などの酸化防止剤を含むものとすることができる。
【0020】
接着剤15は、粘弾性測定によって得られる緩和時間が、50℃において好ましくは1秒以上、より好ましくは2秒以上、更に好ましくは3秒以上であり、好ましくは20秒以下、より好ましくは10秒以下、更に好ましくは5秒以下である。接着剤15がこのような値を有していることによって、適度な柔軟性及び伸縮性を発現させ、吸水性ポリマーの膨潤後においても繊維シート11,12間が直接接合された状態で吸水性ポリマーを保持することができる。
【0021】
一般的に、緩和時間は、材料の流動性の程度を表す物性であるところ、緩和時間が短いと接着剤が流動しやすくなるので、接着剤が伸長されたときに作用する表面張力によって伸長された部分が細くなり、該部分が破断しやすくなってしまう。その結果、各繊維シート11,12間の接合状態が維持されないおそれがある。この点に関して、本発明者が鋭意検討した結果、50℃における緩和時間と、接着剤との伸長性との関連性が高く、また、50℃における緩和時間が長いほど、接着剤の伸長によって生じた伸長部分が破断しづらくなり、本発明に好適に用いられる接着剤であることを見出した。
【0022】
粘弾性測定によって得られる接着剤15の50℃における緩和時間は、以下の条件で接着剤15の動的粘弾性を測定したときに得られるtanθの値の逆数として算出される。詳細には、回転式レオメーター(Anton paar社製、型式「Physica MCR301」)を用い、測定サンプルを下方から支持する平面視円形状の受け板と、該受け板の上方に対向配置される平面視円形状の押し当て板との間に、測定対象の接着剤15を介在配置させる。この状態での接着剤15は平面視円形状をなし、厚み1.5mm、直径12mmとなる。測定時の振動数を1Hz、ひずみ振幅を0.05%、冷却速度を2℃/分に設定し、120℃から-10℃までの温度範囲で測定する。tanθは損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した値である。
【0023】
なお、上述した粘弾性測定は、測定対象の接着剤15が吸収性シート1の構成要素となっている場合は、以下に示す溶媒抽出法により、吸収性シートから接着剤を採取し、その採取した接着剤を測定対象とする。また、測定対象の接着剤15が吸収性シート1の構成要素となっておらず、未使用のものである場合は、その未使用の接着剤をそのまま測定対象とする。接着剤の緩和時間は、吸収性シート1の構成要素となっているか否かにかかわらず、少なくとも一方の場合において、上述した範囲内であればよい。
【0024】
接着剤の溶媒抽出法は、例えば以下の方法で行うことができる。まず、ビーカー等の容器中にて、接着剤15を含む吸収性シート1と、接着剤15を溶解可能な溶媒とを混合し、接着剤15を溶媒に溶解させる。次に、繊維シート等の固形物と接着剤溶液とを分離して接着剤溶液を採取し、該接着剤溶液をロータリーエバポレーター等を用いて減圧乾固して、固形状の接着剤を得る。このようにして得られた接着剤を、緩和時間の測定における測定対象として用いる。接着剤の溶解に用いる溶媒は、接着剤の種類等に応じて適宜選択すればよい。測定対象の接着剤がホットメルト接着剤である場合、該接着剤の溶解に用いる溶媒としては、トルエン、メチルエチルケトン、ヘプタン等の一種以上を用いることができる。
【0025】
本発明に用いられる繊維シートは、繊維の集合体であり、1.7kPaの圧力付与下にて測定された厚みが5mm以下のものである。繊維シートの厚みは、例えばレーザー式変位計を用いて測定することができる。各繊維シート11,12の構成繊維としては、例えば木材パルプ、コットン及び麻等の天然パルプ、マーセル化パルプ及び化学架橋パルプ等の改質パルプ、ポリエチレン及びポリプロピレン等の樹脂を含んで構成される合成繊維等の各種繊維が挙げられる。各繊維シート11,12の形態としては、紙、織布、又は不織布である。
【0026】
以上の構成を有する吸収性シートは、直接接合部位に存在する接着剤によって、吸水性ポリマーの移動や脱落が生じない程度の適度な接合力を繊維シート間に発現させて、吸水性ポリマーを繊維シート間の適切な位置に担持させることができる。また、吸水性ポリマーが十分に膨潤できる程度の適度な接合力が発現しているので、吸水性ポリマーが有する液吸収性を十分に発揮させることができる。本発明の好適な態様によれば、接着剤は伸縮性を有しているので、吸水性ポリマーの膨潤に起因した直接接合部位に存在する接着剤の伸長と、これに伴う接着剤の収縮との力のつり合いが生じやすくなり、吸水性ポリマーの適切な位置での担持と、吸水性ポリマーが膨潤可能な空間の確保とを両立可能な接合力を効率良く発現させることができる。その結果、吸収性シートの液吸収性が更に向上したものとなる。
【0027】
上述した効果を顕著なものとする観点から、接着剤15は、25℃におけるその貯蔵弾性率G’が好ましくは10000Pa以上、より好ましくは50000Pa以上である。また、25℃における損失弾性率G”が好ましくは10000Pa以上、より好ましくは50000Pa以上である。接着剤15がこのような値を有していることによって、吸水性ポリマーの適切な位置での担持と、吸水性ポリマーが膨潤可能な空間の確保とを両立可能な挟持力を更に効率良く発現させることができる。貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”は、例えば上述した粘弾性測定の方法と同様の方法で測定することができる。貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”は、接着剤15に含まれるベースポリマーの組成及び分子量、並びに可塑剤の含有量などを適宜変更することで調整することができる。
【0028】
接着剤15は、各繊維シート11,12における吸水性ポリマー13に対向する面と、各繊維シート11,12を構成する繊維間の空隙とにそれぞれ存在していることが好ましい。このような構成となっていることによって、各繊維シート11,12と、接着剤15との界面での剥離が生じづらくなり、その結果、直接接合部位17に存在する接着剤15の伸縮力によって、吸水性ポリマー13を長時間挟持させることができる。接着剤15が各繊維シート11,12を構成する繊維間の空隙に存在することを確認するためには、測定対象の繊維シートを所定の寸法に切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(例えば日本電子製走査電子顕微鏡JCM-6000)を用いて倍率50~500倍で観察することにより確認できる。
【0029】
第1の繊維シート11の吸水性ポリマー13と対向する面と、第2の繊維シート12の吸水性ポリマー13と対向する面とのそれぞれに接着剤15が塗布されていることが好ましい。このような構成となっていることによって、各繊維シート11,12に塗布された接着剤どうしを結合させて、吸収性シート1に直接接合部位17を効率良く形成するとともに、吸水性ポリマー13の適切な位置での担持と、吸水性ポリマー13が膨潤可能な空間の確保とを両立させることができる。これに加えて、接着剤15が、各繊維シート11,12を構成する繊維間の空隙に存在しやすくすることができるので、各繊維シート11,12と接着剤15との界面での剥離が生じづらくなるという利点もある。
【0030】
図1及び図2に示すように、第2の繊維シート12における接着剤15の塗布面積が、第1の繊維シート11における接着剤15の塗布面積よりも大きいことが好ましい。これに加えて、各繊維シート11,12における接着剤15が塗布された部位についてそれぞれ着目すると、第1の繊維シート11に塗布された接着剤15の第1坪量は、第2の繊維シート12に塗布された接着剤15の第2坪量よりも高いことが好ましい。このように、各繊維シート11,12における接着剤15の塗布面積と、接着剤15の坪量とが互いに異なる構成とすることによって、接着剤15の塗布面積が第1の繊維シート11よりも大きい第2の繊維シート12上に吸水性ポリマー13を均一に且つ適切な位置に保持して、吸水性ポリマー13の意図しない移動や脱落を抑制することができる。また、第1の繊維シート11に塗布された接着剤15を介して、第2の繊維シート12との直接接合部位17が形成されやすくなるので、吸水性ポリマー13の両繊維シート11,12間での保持性が更に向上する。更に、第1の繊維シート11における接着剤15の塗布面積が第2の繊維シート12よりも小さくなっているので、第1の繊維シート11側からの通液性を確保して、液の吸収速度を高めることができる。その結果、液の吸収性能をより一層向上させることができる。
【0031】
両繊維シート11,12の塗布面積は、同一の形状及び面積を有する両繊維シート11,12を、シートの重ならない部分が生じないように積層して比較するものとする。接着剤15の塗布面積は、例えば各繊維シート11、12の接着剤15が付着している側の面に対して、インクトナー等を用いて接着剤15の存在部位を可視化し、その部位の面積を画像処理ソフト等を用いて、それぞれ算出することができる。吸収性シート1を測定対象としたときに、接着剤15の存在部位の識別が困難である場合、コールドスプレーなどを用いて両繊維シート11,12をそれぞれ剥離し、剥離した各繊維シート11,12に対して上述した方法を適用してもよい。
【0032】
また、第1坪量及び第2坪量は、各繊維シート11,12において接着剤15が塗布されている塗布部のみを対象として、それぞれ測定、算出されるものである。詳細には、吸収性シート1における各繊維シート11,12をそれぞれ分離したあと、接着剤15が付着した第1の繊維シート11の質量A1(g)を計測する。また、第1の繊維シート11の接着剤15が付着している側の面に対して、インクトナー等を用いて接着剤15の存在部位を可視化し、この状態で、画像処理ソフトを用いて、接着剤15の存在部位の総面積S(m)を計測する。次いで、第1の繊維シート11を有機溶媒に浸漬させて、付着した接着剤15を溶解させたあとの繊維シートの質量A2(g)を計測する。第1坪量(g/m)は、「(A1-A2)/S」で表される式として算出することができる。同様に、第2坪量(g/m)は、第2の繊維シート12を対象として、上述した方法と同様に算出することができる。第1坪量及び第2坪量の好適な範囲については後述する。
【0033】
吸水性ポリマー13の意図しない移動や脱落を抑制するとともに、液の吸収速度を更に高める観点から、図1及び図2に示すように、第1の繊維シート11における第2の繊維シート12との接合領域に、接着剤15が非塗布部を有するように不連続に塗布されており、且つ第2の繊維シート12における第1の繊維シート11との接合領域の全域に、接着剤15が隙間なく連続して塗布されていることが好ましい。また、第1の繊維シート11における接着剤15の非存在面、すなわち吸収性シート1の第1の繊維シート11側における外面を、吸収性シート1と液とが最初に接する面である受液面として用いることも好ましい。接合領域とは、吸水性ポリマー13が巨視的に視認され得る隙間が観察されない態様で配されている領域である。
【0034】
第1の繊維シート11において、非塗布部を有するように不連続に接着剤15を塗布する形態としては、例えばスパイラル状、サミット状、オメガ状、カーテン状、ストライプ状等が挙げられる。図2に示す実施形態では、第1の繊維シート11に塗布された接着剤15は、スパイラル状の形態となっている。各繊維シート11,12における接着剤15の好適な塗布方法は、後述する製造方法にて詳述する。
【0035】
吸収性シート1の厚み方向における吸水性ポリマー13と接着剤15との位置関係について説明すると、吸水性ポリマー13が存在する領域と、接着剤15が存在する領域とは一致している。
詳細には、(a)吸水性ポリマー13の存在領域と第1の繊維シート11に塗布された接着剤15の存在領域とは一致しているが、第2の繊維シート12に塗布された接着剤15の存在領域とは一致していない態様、(b)吸水性ポリマー13の存在領域と第2の繊維シート12に塗布された接着剤15の存在領域とは一致しているが、第1の繊維シート11に塗布された接着剤15の存在領域とは一致していない態様、及び(c)吸水性ポリマー13の存在領域と、一方の繊維シートに塗布された接着剤15の存在領域とが一致しており、且つこの領域と、他方の繊維シートに塗布された接着剤の存在領域とが重なっている態様のうち少なくとも一つである。
図1及び図2に示す実施形態では、吸水性ポリマー13の存在領域と、第2の繊維シート12における接着剤15の存在領域とは一致している。また、第1の繊維シート11における接着剤15は、非塗布部を有するように不連続に塗布されているので、前記領域と、第1の繊維シート11における接着剤15の塗布領域とが重なっている部位を有する。
【0036】
各繊維シート11,12に塗布された接着剤15の坪量に関する説明に戻ると、上述した第1坪量と第2坪量との合計が500g/m以下であることが好ましく、300g/m以下であることがより好ましく、200g/m以下であることが更に好ましい。また第1坪量と第2坪量との合計は10g/m以上であることが好ましく、50g/m以上であることがより好ましく、80g/m以上であることが更に好ましい。このような構成とすることによって、吸水性ポリマー13の繊維シート間での保持性を高めつつ、吸水性ポリマー13の膨潤を阻害しづらくなるので、液の吸収性能を更に向上させることができる。
【0037】
同様の観点から、第1坪量は、好ましくは400g/m以下、より好ましくは250g/m以下、更に好ましくは100g/m以下であり、また、20g/m以上が現実的である。また第2坪量は、好ましくは30g/m以下、より好ましくは15g/m以下、更に好ましくは10g/m以下であり、また、2g/m以上が現実的である。
【0038】
また、第1の繊維シート11の面上に存在する接着剤15の厚みが、第2の繊維シートの面上に存在する接着剤15の厚みよりも厚いことも好ましい。このような構成となっていることによって、第1の繊維シート11に塗布された接着剤15を介して、第2の繊維シート12との直接接合部位17を形成しやすくするとともに、第2の繊維シート12に塗布された接着剤15を介して吸水性ポリマー13を適切な位置に保持させることができるので、液の吸収性能を更に向上させることができる。
【0039】
同様の観点から、第1の繊維シート11の面上に存在する接着剤15の厚みは、第2の繊維シート12の面上に存在する接着剤15の厚みよりも厚いことを条件として、好ましくは20μm以上、より好ましくは40μm以上であり、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下である。また、第2の繊維シート12の面上に存在する接着剤15の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下である。各繊維シート11,12の面上に存在する接着剤15の厚みは、測定対象の繊維シートを所定の寸法に切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(例えば日本電子製走査電子顕微鏡JCM-6000)を用いて倍率50~500倍で観察したときに、測定対象の繊維シートの界面から突出した接着剤15の厚みを5箇所測定し、その算術平均値を接着剤15の厚み(μm)とする。
【0040】
吸収性シート1は、乾燥状態での両繊維シート11,12間の剥離強度が、好ましくは0.1N/25mm以上、より好ましくは0.2N/25mm以上、更に好ましくは0.3N/25mm以上であり、好ましくは3N/25mm以下、より好ましくは2N/25mm以下、更に好ましくは1.5N/25mm以下である。このような剥離強度を有することによって、吸収性シート1の使用時に十分な強度を発現することができ、また吸収性シートの液吸収後も強度が維持されたものとなる。乾燥状態とは、吸収性シート1を105℃、8時間の条件で乾燥したときに、乾燥前後における吸収性シート1の質量変化が20質量%以下であることをいう。吸収性シート1の質量変化は、以下の式(1)に基づいて算出される。
質量変化(質量%)=100×([吸収性シート1の乾燥前質量(g)]‐[吸収性シート1の乾燥後質量(g)])/([吸収性シート1の乾燥前質量(g)])・・・(1)
【0041】
乾燥状態における剥離強度は、例えば以下の方法で測定することができる。乾燥状態の吸収性シートを切り出して試験片を作製する。試験片の形状は、吸収性シートの長手方向の長さを80mm超とし且つ幅方向の長さを25mmとした矩形とする。この試験片の長手方向の一端において、第1の繊維シート11と第2の繊維シート12との間を剥がし、剥がした部位を引張試験機の各チャックにT字状にセットする。引張試験機としては、例えば株式会社島津製作所製オートグラフAG-Xを用いる。チャック間距離は20mmとする。引張速度300mm/minで剥離を行い、試験力平均強度を測定する。測定は3回行い、試験力平均強度の算術平均値を剥離強度(単位:N/25mm)とする。
【0042】
吸収性シート1は、生理食塩水に30分間浸漬したときの厚み変化が好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上、更に好ましくは4mm以上であり、20mm以下が現実的である。生理食塩水に30分間浸漬したときの吸収性シート1の厚み変化は上述した範囲で増加することが好ましい。
また、生理食塩水に30分間浸漬した後の両繊維シート11,12間を剥離したときに、両繊維シート11,12間が接着剤15によって直接接着されている箇所が1cmあたり、好ましくは1個以上、より好ましくは2個以上、更に好ましくは3個以上存在する。このような構成を有していることによって、吸水性ポリマーの膨潤性と固定性とを両立して向上させることができ、液吸収性が更に高いものとなる。
【0043】
厚み変化の測定は、乾燥状態の吸収性シート1を5cm×5cmの寸法で切り出して乾燥状態の試験片とし、この厚みT1(mm)を測定する。次いで、乾燥状態の試験片の質量の200倍量の生理食塩水に試験片を30分間浸漬させた後、その試験片の厚みT2(mm)を測定する。厚み変化(mm)は、厚みT2と厚みT1との差として算出される。厚みT1,T2は、いずれも1.7kPa荷重下で測定する。また、両繊維シート11,12間が接着剤15によって直接接着されている箇所は、生理食塩水に浸漬した後の前記試験片を両繊維シート11,12間で剥離したときに、接着剤15が柱状となって存在している部位の個数を計測する。
【0044】
吸収性シート1は、湿潤状態での圧縮変形率が好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは35%以上であり、70%以下が現実的である。このような構成となっていることによって、吸水性ポリマーが液吸収によって膨潤した後も吸収性シート1の柔軟性を維持することができるので、液吸収後の吸収性シート1の肌触りが良好なものとなる。湿潤状態とは、乾燥状態の吸収性シート1を、吸収性シート1の質量の200倍量の生理食塩水に30分間浸漬させた後、網上に静置して余分な水分を紙で拭き取った後の状態をいう。
【0045】
圧縮変形率は、例えば、カトーテック株式会社製のKES‐G5ハンディー圧縮試験機を用いて測定することができる。具体的には、5cm×5cmの寸法を有する吸収性シート1を、該シート1の質量の200倍量の生理食塩水に30分浸漬させたあと、試験台に取り付ける。次いで、浸漬後の吸収性シートを面積2cmの円形平面を持つ鋼板間で圧縮する。圧縮速度は20μm/sec、圧縮最大荷重は50g/cmとする。49Pa(0.5gf/cm)荷重時の厚みを厚みT0(mm)とし、4900Pa(50gf/cm)荷重時の厚みを厚みTm(mm)としたときに、圧縮変形率(%)は、「100×(T0-Tm)/T0」として算出することができる。
【0046】
吸収性シート1は、両繊維シート11,12のうち少なくとも一方の繊維シートにおける接着剤15の非存在面が凹凸構造を有していることが好ましい。特に、第1の繊維シート11における接着剤15の非存在面が凹凸構造を有しており、また、第2の繊維シート12における接着剤15の非存在面が凹凸構造を有していないことが更に好ましい。このような構成を有していることによって、繊維シートの表面積を高めて、液との接触面積を高めることができる。また、吸収性シート1を他の部材とともに使用したときに、摩擦を発生しやすくしてズレを低減することができる。
【0047】
凹凸構造としては、例えば、凸部及び凹部を規則的又は不規則的な散点状に形成された構造や、畝部と溝部とを交互に有する形状等が挙げられ、凸部及び凹部を不規則的な散点状に形成された構造が好ましい。凹凸構造を有するか否かは、例えば、以下の方法で測定した表面粗さの平均偏差SMDが5μm以上であるときに「凹凸構造を有する」とし、SMDが5μm未満であるときには「凹凸構造を有しない」とする。
【0048】
〔表面粗さの平均偏差SMDの測定法〕
表面粗さの平均偏差SMDは、以下の書籍に記載の方法に従い、カトーテック株式会社製のKESFB4-AUTO-A(商品名)を用いて以下の方法で測定される。
川端季雄著、「風合い評価の標準化と解析」、第2版、社団法人日本繊維機会学会 風合い計量と規格化研究委員会、昭和55年7月10日発行。
【0049】
詳細には、吸収性シート1をそのまま用いるか、又は該シート1を切り出して、10cm×10cmの試験片を用意する。この試験片を平滑な金属平面の試験台に取りつける。次いで、0.5mm径のピアノ線を幅5mmでU字状に曲げたものを接触子として用い、該接触子を9.8cN(誤差±0.49cN以内)で接触面を試験片に圧着する。この状態で、試験片を0.1cm/secの一定速度で水平に2cm移動させる。試験片には19.6cN/cmの一軸張力が与えられる。接触子は、ばねで圧着された状態とし、ばねの定数は24.5cN/mm(誤差±0.98cN/mm以内)とし、共振周波数は表面接触から離れた状態で30Hz以上とする。
【0050】
表面粗さの平均偏差の測定値はSMD値として表される。この測定を試験片の一辺に沿う方向(MD方向)と、MD方向に直交する方向(CD方向)とに対してそれぞれ行い、MD方向におけるSMD値(SMDMD)と、CD方向におけるSMD値(SMDCD)とをそれぞれ求める。得られたSMDMDとSMDCDとから、以下の式(2)から表面粗さの平均偏差SMD(μm)を算出する。なお、10cm×10cmの試験片が用意できない場合には、MD方向又はCD方向のいずれか一方のSMD値を用いて算出する。
表面粗さの平均偏差SMD(μm)={(SMDMD +SMDCD )/2}1/2 ・・・(2)
【0051】
吸収性シート1に含まれる吸水性ポリマー13について説明すると、吸水性ポリマー13の坪量は、好ましくは60g/m以上、より好ましくは80g/m以上、更に好ましくは100g/m以上であり、好ましくは700g/m以下、より好ましくは500g/m以下、更に好ましくは400g/m以下である。吸水性ポリマー13の坪量をこのような範囲にすることによって、吸水性ポリマー13による液吸収性と、直接接合部位17による吸水性ポリマー13の保持性とを両立した吸収性シート1を効率よく製造することができる。
【0052】
同様の観点から、吸水性ポリマー13のメジアン粒子径は、好ましくは800μm以下、より好ましくは650μm以下、更に好ましくは500μm以下である。また吸収性シートの製造時におけるハンドリングを良好にする観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは100μm以上、更に好ましくは150μm以上である。吸水性ポリマー13のメジアン粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA-920、堀場製作所社製)を用いて得られた粒径分布を累積分布としてグラフ化し、累積比率50%に相当する粒子径として求めることができる。測定条件は、エタノール90質量%及び蒸留水10質量%を混合した分散媒に、吸水性ポリマー13を0.1質量%となるように添加し、攪拌及び内蔵超音波にて3分間分散処理する。分散処理したポリマー分散液を、上述した測定装置でフロー法にて測定して、メジアン粒子径を得る。
【0053】
吸収性シート1に含まれる吸水性ポリマー13は、その膨潤率が好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上である。これに加えて、湿潤状態での両繊維シート11,12間の剥離強度が、好ましくは0.1N/25mm以上、より好ましくは0.2N/25mm以上、更に好ましくは0.3N/25mm以上であり、好ましくは2.0N/25mm以下、より好ましくは1.5N/25mm以下、更に好ましくは1.0N/25mm以下である。このような膨潤率と剥離強度とを備えることによって、吸水性ポリマーによる液吸収性と、液吸収後のシート強度とが一層優れたものとなる。
【0054】
吸水性ポリマーの膨潤率は、例えば以下の方法で測定することができる。まず、ナイロン製の織布(三力製作所販売、品名:ナイロン網、規格:250メッシュ)を幅15cm、長さ40cmの長方形に切断して長手方向中央で二つ折りにし、両端をヒートシールして幅15cm(内寸14cm)、長さ20cmのナイロン袋を作製する。
次いで、乾燥状態の吸収性シート1を2枚用意し、各シート1の同じ部位において10cm×10cmの寸法で切り出して試験片とする。一方の試験片を折り曲げないようにして、ナイロン袋に収容し、該試験片の質量の200倍量の生理食塩水に30分間浸漬し、その後、この試験片をナイロン袋に収容した状態で、143×gで10分間遠心処理して脱水する。脱水後の試験片をナイロン袋に収容した状態の質量X1(g)と、脱水後のナイロン袋のみの質量Y1(g)とをそれぞれ測定する。
これとは別に、他方の試験片(乾燥状態)をコールドスプレー等を用いて第1の繊維シート、第2の繊維シート、及び吸水性ポリマーに分離し、各繊維シートを折り曲げないように、これらの分離した部材の全てを一つのナイロン袋に収容する。そして、該試験片の質量の200倍量の生理食塩水に30分間浸漬し、その後、この試験片をナイロン袋に収容した状態で、143×gで10分間遠心処理して脱水する。脱水後の試験片をナイロン袋に収容した状態の質量X2(g)と、脱水後のナイロン袋のみの質量Y2(g)とをそれぞれ測定する。
膨潤率(%)は、「{(X1-Y1)/(X2-Y2)}×100」で表される式に基づいて算出する。湿潤状態での両繊維シート11,12間の剥離強度は、測定対象の吸収性シートに上述した条件で生理食塩水を含浸させて湿潤状態とし、その後、乾燥状態での剥離強度と同様に測定することができる。
【0055】
吸収性シート1における吸水性ポリマー13の存在量の分布は、吸水性ポリマー13の膨潤後における吸収性シート1全体の意図しない凹凸の形成を低減する観点から、吸水性ポリマー13はシート面方向に均一に存在していることが好ましい。均一に存在するとは、吸収性シートの任意の部位において測定された吸水性ポリマー13の坪量の変化が、坪量の標準偏差/坪量の算術平均値の式で表される変動係数として0.5以下であることをいう。
【0056】
一方、液吸収性と吸水性ポリマーの保持性とを維持しつつ、シート中央領域での液吸収性能を更に高め、シート端部からの吸水性ポリマーの脱落を防ぐ観点から、吸収性シート1の中央領域における吸水性ポリマーの存在量が、吸収性シート1の一方向両端部における吸水性ポリマー13の存在量よりも多いことが好ましく、吸収性シート1の中央領域における吸水性ポリマーの存在量が、吸収性シート1の周縁領域における吸水性ポリマー13の存在量よりも多いことがより好ましい。
【0057】
吸収性シート1の中央領域における吸水性ポリマーの存在量が、吸収性シート1の一方向両端部又は周縁における吸水性ポリマー13の存在量よりも多い場合、吸収性シート1の一方向両端部又は周縁に存在する直接接合部位17の個数は、吸収性シート1の中央領域における直接接合部位17の個数よりも多いことが好ましい。この場合、吸収性シート1の中央領域における接着剤の塗布パターンと、吸収性シート1の一方向両端部又は周縁における接着剤の塗布パターンとはそれぞれ同一であることも好ましい。このような構成となっていることによって、吸収性シート1の製造時における各繊維シートへの接着剤の塗布を同一のパターンで行うことができるので、加工性を高めることができ、且つシート周縁部での接着力が向上することに起因するシート端部からの吸水性ポリマーの脱落を防ぐことができる。
【0058】
本実施形態において用いられる吸水性ポリマー13の形状は特に制限されず、例えば、球状、房状、塊状、俵状、繊維状、不定形状及びこれらの組み合わせの粒子であり得る。吸収性シート1の製造時における吸水性ポリマー13の散布の均一性を高め、且つ直接接合部位17を有する吸収性シート1を容易に形成可能とする観点から、吸水性ポリマー13は同一の形状の粒子を用いることが好ましく、また、吸水性ポリマー13の粒子の粒径分布における変動係数が0.5以下であることがより好ましい。
【0059】
粒径分布における変動係数は、例えば以下の方法で測定することができる。すなわち、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA-920、株式会社堀場製作所社製)を用いて、エタノール90質量%及び蒸留水10質量%を混合した分散媒に、吸水性ポリマー13を0.1質量%となるように添加し、攪拌及び内蔵超音波にて3分間分散処理する。分散処理したポリマー分散液を、上述した測定装置でフロー法にて測定して、粒子径の算術平均値及び粒子径の標準偏差を得る。これによって得られた標準偏差/算術平均値で算出される値を変動係数とする。
【0060】
また吸水性ポリマー13は、2.0kPaの圧力を付与した状態における液吸収量(以下、これを「加圧下吸収量」ともいう。)が好ましくは15g/g以上、より好ましくは20g/g以上、更に好ましくは25g/g以上である。このような吸水性ポリマーを用いることによって、吸水性ポリマー13が両繊維シート11,12間で押圧された状態であっても、吸水性ポリマー13が十分に液を吸収して膨潤することができるので、液吸収性と吸水性ポリマーの担持性とが両立して優れたものとなる。上述した加圧下吸収量を備える吸水性ポリマーは、例えば吸水性ポリマーの材質や粒径、架橋度等を適宜変更することによって得ることができる。
【0061】
加圧下吸収量は、例えば特開2019-34229号公報に記載の方法に従い、測定することができる。すなわち、垂直に立てた内径30mmの円筒の下端開口部にメッシュ(250メッシュ)を貼ったカラムを用意し、その中に吸水性ポリマー粒子0.5gを均一な厚みになるように入れる。次いで、吸水性ポリマーに対して2.0kPaの圧力を負荷するように、外径30mmよりやや小さい大きさを有するおもりを吸水性ポリマー上に載せる。これとは別に、100mLビーカーに、室温(20±5℃)の生理食塩水100mLを入れたものを用意する。続いて、吸水性ポリマー及びおもりを入れたカラムを、該カラムのメッシュがビーカーの底部に当接しないようにして、生理食塩水に1時間浸漬させる。その後、ビーカーからカラムを取り出し、吸水性ポリマー上におもりを載せた状態で15分間静置し、室温(20±5℃)にて水切りをする。加圧下吸収量(g/g)は、以下の式(3)に基づいて算出される。
【0062】
【数1】
【0063】
吸水性ポリマー13としては、一般に、アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合物又は共重合物を用いることができる。その例としては、ポリアクリル酸及びその塩並びにポリメタクリル酸及びその塩が挙げられ、具体的には、アクリル酸重合体部分ナトリウム塩が挙げられる。
【0064】
図3には、本発明の吸収性シートの別の実施形態が示されている。図3に示すように、吸収性シート1は、両繊維シート11,12のうち少なくとも一方の繊維シートと隣接して配置された繊維交絡層19を更に有することが好ましく、繊維交絡層19が配された面が受液面となることがより好ましい。図3に示す実施形態では、繊維交絡層19は、第1の繊維シート11に隣接して配置されており、第2の繊維シート12とは隣接していない。このような構成となっていることによって、液吸収後の吸水性ポリマーの膨潤に起因するシートの凹凸変化を少なくして、繊維交絡層と繊維シートとの密着性を高めることができるので、吸水性ポリマー側に液を引き込みやすくなり、液吸収性に更に優れたものとなる。
【0065】
繊維交絡層19は、上述した繊維シートの態様であるか、又は繊維シートよりも厚みが厚く、構成材料が積繊された嵩高い構造を有する態様である。繊維交絡層19を構成する材料としては、例えば繊維シートに用いられる各種繊維や、上述した吸水性ポリマー等が挙げられる。繊維交絡層19の形態としては、紙、織布、不織布等の繊維シート、あるいは、前記パルプ等の繊維と吸水性ポリマーとの混合積繊体等が挙げられる。
【0066】
液の引き込み性を一層高める観点から、繊維交絡層19と隣接する繊維シートは、クレム吸水高さが10mm以上であることが好ましく、より好ましくは20mm以上、更に好ましくは30mm以上であり、特に親水性繊維を含む不織布や紙などを用いることがより好ましい。特に、後述するように、クレープ(皺)を有する紙を繊維交絡層と隣接する繊維シートとして用いる場合、クレープによって毛管力を高め、クレム吸水高さを高くすることができ、また液保持後には繊維シートの剛性が低下し、繊維交絡層との密着性を高めることができ、吸水性ポリマー側への液の引き込み性を一層高めることができる。クレム吸水高さは液保持性の指標であり、クレム吸水高さが高いほど、繊維シートの液保持性が高いものである。クレム吸水高さは、例えば後述する方法でJIS P8141に準じて測定することができる。また、クレープに関する説明は後述する。
【0067】
第1の繊維シート11及び第2の繊維シート12は、これらのクレム吸水高さが異なるように構成されていることが好ましい。詳細には、後述する測定方法に基づいてクレム吸水高さを測定したときに、第1の繊維シート11のクレム吸水高さが、第2の繊維シート12のクレム吸水高さよりも高いものである。各繊維シートがこのような物性を有していることによって、第1の繊維シート11側では、該繊維シート11に液を保持しやすくして、シート面方向への液拡散性を向上させることができるとともに、拡散させた液を各吸水性ポリマー13に接触させて、各吸水性ポリマー13の利用効率を向上させることができる。その結果、液吸収性を高めることができる。これに加えて、第2の繊維シート12側では、第1の繊維シート11と比較して、第2の繊維シート12自体の液保持性が低くなっているので、通気性が向上したものとなる。
【0068】
上述の効果を顕著にする観点から、第1の繊維シート11のクレム吸水高さC1は、好ましくは10mm以上、より好ましくは20mm以上、更に好ましくは25mm以上、より更に好ましくは30mm以上であり、60mm以下が現実的である。
同様の観点から、第2の繊維シート12のクレム吸水高さC2は、C1>C2を条件として、好ましくは30mm以下、より好ましくは20mm以下、更に好ましくは10mm以下であり、1mm以上が現実的である。
【0069】
また同様の観点から、吸収性シート1の第1の繊維シート11側における外面を、吸収性シート1と液とが最初に接する面である受液面として用いることも好ましい。このような構成となっていることによって、第2の繊維シート12側の外面を受液面として用いた場合と比較して、吸水性ポリマー13の利用効率を高めることができるので、液吸収性に優れるという利点がある。各繊維シート11,12のクレム吸水高さC1,C2は、例えば繊維シートの坪量や厚み、あるいは繊維シートを構成する繊維の材質を変更することによって適宜調整することができる。
【0070】
また同様の観点から、第1の繊維シート11のクレム吸水高さC1と、第2の繊維シート12のクレム吸水高さC2との差(C1-C2)は、C1>C2を条件として、好ましくは10mm以上、より好ましくは15mm以上、更に好ましくは20mm以上であり、好ましくは50mm以下、より好ましくは45mm以下、更に好ましくは40mm以下である。
【0071】
クレム吸水高さは、例えば、JIS P8141の試験方法に準じて、以下の方法で測定することができる。詳細には、測定対象の繊維シートを、該繊維シートの厚みを変えないよう注意して吸収性シート1から取り出す。測定対象の繊維シートが他の部材と接着剤によって接合している場合には、その接着剤をコールドスプレー等の冷却手段で固化させてから取り出す。また測定対象の繊維シートに吸水性ポリマー13が付着している場合、同様にコールドスプレー等を用いて接着剤を固化させてから吸水性ポリマー13を取り除く。測定対象の繊維シートを、幅30mm、長さ100mm以上の寸法にカットしてサンプルとする。
【0072】
吸収性シートの平面視形状が長方形状等の一方向に長い形状である場合には、吸収性シートの長手方向と、サンプルの長手方向とを一致させるように、測定対象の繊維シートをカットする。吸収性シートの平面視形状が正方形状である場合には、任意の一辺に沿う方向と、サンプルの長手方向とを一致させるようにカットして、サンプルとする。また吸収性シートの平面視形状が円形等の非多角形状である場合には、吸収性シート1の平面視での図心を中心とする仮想円と、該仮想円の中心を通り且つ該仮想円を30°おきに切断する仮想放射状線とを考えたときに、仮想放射状線の延びる方向と、サンプルの長手方向とが一致するように、測定対象の繊維シートを仮想放射状線で30°おきに切断して、サンプルとする。また、吸収性シート1が吸収性物品に組み込まれている場合には、測定対象の繊維シートを、上述の方法に従って吸収性物品及び吸収性シート1から取り出すとともに、吸収性物品の長手方向とサンプルの長手方向とが一致するように、上述の寸法にカットする。
【0073】
吸収性シートの平面視形状、あるいは、吸収性物品への組み込みの有無によらず、カットに際しては、押し切りカッターなど、サンプルを押しつぶす可能性のある切断方法は、結果に影響を及ぼす可能性が高く、好ましくない。そのため、カットに際しては、ナイフ、カッター、剃刀等を用いてサンプルの切断面が潰れないようにカットする。カットした各サンプルを用いて、JIS P8141に準じて、5分後のクレム吸水高さ(mm)を測定する。以上の測定を各サンプルに対して10回行い、それらの算術平均値を当該サンプルのクレム吸水高さ(mm)とする。
【0074】
液吸収性の更なる向上と、吸収した液の蒸発によって生じた蒸気を第2の繊維シート12を介して外部に逃しやすくして、良好な通気性とを両立して発現する観点から、第2の繊維シート12の通気抵抗R2が第1の繊維シート11の通気抵抗R1よりも低いことが好ましい。
【0075】
詳細には、第1の繊維シート11の通気抵抗R1は、好ましくは0.1kPa・s/m以上、より好ましくは0.2kPa・s/m以上、更に好ましくは0.3kPa・s/m以上であり、好ましくは0.8kPa・s/m以下、より好ましくは0.6kPa・s/m以下、更に好ましくは0.4kPa・s/m以下である。
また第2の繊維シート12の通気抵抗R2は、第1の繊維シート11の通気抵抗R1よりも低いことを条件として、好ましくは0.005kPa・s/m以上、より好ましくは0.01kPa・s/m以上、更に好ましくは0.02kPa・s/m以上であり、好ましくは0.3kPa・s/m以下、より好ましくは0.2kPa・s/m以下、更に好ましくは0.1kPa・s/m以下である。
上述した通気抵抗は、低ければ低いほど通気性が高いものであり、例えばKES-F8通気性試験機(カトーテック株式会社製、AUTOMATIC AIR-PERMEABILITY TESTER KES-F8-AP1)により測定できる。
【0076】
また同様の観点から、第1の繊維シート11の通気抵抗R1と、第2の繊維シート12の通気抵抗R2との差(R1-R2)は、R1>R2を条件として、好ましくは0.07kPa・s/m以上、より好ましくは0.15kPa・s/m以上、更に好ましくは0.2kPa・s/m以上であり、好ましくは0.7kPa・s/m以下、より好ましくは0.5kPa・s/m以下、更に好ましくは0.4kPa・s/m以下である。
【0077】
シート面方向へ液を拡散させやすくして、吸水性ポリマー13の利用効率を更に高め、高い液吸収性を実現する観点から、第1の繊維シート11は紙であることが好ましい。紙とは、JIS P0001の規定に準じて、パルプ等の植物繊維その他の繊維を膠着させて、好ましくは湿式で製造したものを指す。
【0078】
第1の繊維シート11が紙である場合、クレープ(襞)が設けられていることが好ましく、また、第1の繊維シート11のクレープ率F1は好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは15%以上であり、30%以下が現実的である。また、このようなクレープ率とすることによって、繊維シートの毛管力を高くすることができるので、上述したクレム吸水高さを有する繊維シートを容易に得ることができる。このような繊維シートは、例えば繊維シートに対して、公知のクレープ処理を上述のクレープ率となるように施せばよい。
【0079】
クレープ率は、例えば以下の方法に基づいて、水中伸度法で測定することができる。測定は23±2℃、相対湿度50±5%で行い、測定の前に試料を同環境で24時間以上保存した上で測定する。測定対象の繊維シートを、皺が延在している方向に25mm、及びそれに直交する方向に100mmのサイズで切断して測定試料を作製し、該測定試料を水中に1分間浸漬した後引き上げ、前記直交する方向への寸法の変化量から次式(4)でクレープ率を算出する。測定は3回行い、その算術平均値をクレープ率(%)とする。前記直交方向において100mmのサイズを確保できない場合は、前記直交方向において最低30mm以上のサイズで切断して、クレープ率を求めることができる。
クレープ率(%)=((水に浸漬した後の寸法(mm))/(水に浸漬する前の寸法(mm))-1)×100・・・(4)
【0080】
第2の繊維シート12について説明すると、該繊維シート12は、上述した方法によって測定されたクレープ率F2が1%未満であることが好ましい。第2の繊維シート12をこのようなクレープ率とすることによって、第2の繊維シート12内に液を保持させにくくして、通気性が更に高いシートとすることができ、また、第1の繊維シート11と比較して低いクレム吸水高さを有する繊維シートを容易に得ることができる。
【0081】
第1の繊維シート11が紙である場合、その紙の繊維が一方向への配向性向を有していることも好ましい。このような構成となっていることによって、一枚の繊維シートでクレム吸水高さが高い方向と低い方向とをそれぞれ形成することができるので、配向性向を有する方向に液拡散性を高め、吸水性ポリマーの利用効率を高めることができるとともに、配向性向を有する方向と直交する方向には液の意図しない拡散を防ぐことができる。特に、後述するように、一方向への配向性向を有する吸収性シート1を、配向性向を有する方向と吸収性物品の長手方向とが互いに一致するように組み込んだ場合に、吸収性物品の長手方向への液拡散性を高めて吸水性ポリマーの利用効率を高めることができるとともに、吸収性物品の幅方向への意図しない拡散を抑制することで幅方向からの液モレを防ぐことができる。
配向性向とは、後述する測定方法に従って測定される値であり、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上となっているものである。
【0082】
繊維シートを構成する繊維の配向性向は、引張圧縮試験機(株式会社島津製作所製、AG-IS)を用いて測定する。繊維シートの一方向及びこれに直交する方向に沿って、長さ150mm×幅50mmの寸法で試験片を切り出す。繊維シートが正方形又は長方形の形状である場合には、試験片は、任意の一辺に沿う方向を長手方向とし、該方向に直交する方向を幅方向として、上述の寸法となるように切り出せばよい。この試験片について、チャック間距離を100mmとし、該試験片の長手方向に伸長させるように引張速度300mm/minで引っ張り、破断時の最大荷重(N)を記録する。この実験を5つの試験片を用意して行い、それぞれの最大荷重を測定し、それらの算術平均値を長手方向引張強度(N)とする。同様に、前記寸法を有する5つの試験片について、その幅方向に伸張させるように引っ張り、それぞれの破断時の最大荷重(N)を測定し、それらの算術平均値を幅方向引張強度(N)とする。
【0083】
前記方法によって得られた長手方向引張強度及び幅方向引張強度に基づいて、以下の式(5)から配向性向を算出する。下記式(5)から算出された配向性向が50%以上である場合には、「試験片の長手方向に沿う方向に配向性向を有する」とし、下記式(5)から算出された配向性向が50%未満である場合には、「試験片の幅方向に沿う配向性向を有する」とする。試験片の長手方向及び幅方向は、切り出した繊維シートにおける一方向及びこれに直交する方向にそれぞれ対応している。
配向性向(%)=100×([長手方向引張強度(N)]/([長手方向引張強度(N)]+[幅方向引張強度(N)]))・・・(5)
【0084】
特に、液吸収性をより一層顕著なものとする観点から、第1の繊維シート11は紙であることが好ましく、第2の繊維シート12は不織布であることが好ましく、また図3に示すように、繊維交絡層19が第1の繊維シート11と隣接して配置されることがより好ましい。この場合、繊維交絡層19は、親水性のパルプと吸水性ポリマーとを混合して含む繊維層としてもよい。繊維交絡層19は、例えば後述する吸収体とすることができる。
【0085】
液吸収性を更に向上させる観点から、第1の繊維シート11の坪量は、好ましくは6g/m以上、より好ましくは8g/m以上であり、好ましくは50g/m以下、より好ましくは30g/m以下、更に好ましくは20g/m以下である。
同様の観点から、第2の繊維シート12の坪量は、好ましくは4g/m以上、より好ましくは6g/m以上であり、好ましくは30g/m以下、より好ましくは20g/m以下である。
【0086】
また同様の観点から、第1の繊維シート11の厚みは、好ましくは0.04mm以上、より好ましくは0.08mm以上であり、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.3mm以下である。
同様の観点から、第2の繊維シート12の厚みは、好ましくは0.03mm以上、より好ましくは0.07mm以上であり、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.2mm以下である。各繊維シート11,12の厚みは、1.7kPaの圧力付与下にてレーザー式変位計により測定したものである。
【0087】
吸収性シートの厚みは、液吸収性向上の観点から、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.6mm以上である。また、吸収性シート又は該シートを含む吸収性物品を使用したときの使用者の使用感向上の観点から、吸収性シートの厚みは、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下、更に好ましくは2mm以下である。上述した吸収性シートの厚みは、1.7kPaの圧力付与下にて測定された吸収性シート全体の厚みである。
【0088】
上述した吸収性シート1は、これをこのままで用いてもよい。この場合、吸収性シート1は一枚で用いてもよく、これを積層等した状態で複数枚用いてもよい。
【0089】
また、上述した吸収性シート1は、これを吸収性物品の構成部材として用いることができる。典型的には、吸収性物品は、着用者の前後方向に沿う長手方向と、該長手方向と直交する幅方向とを有しており、表面シートと、裏面シートとを備え、表面シートと裏面シートとの間に本発明の吸収性シートを配した状態で用いることができる。吸収性物品としては、例えば尿漏れパッド、生理用ナプキン、使い捨ておむつ等が挙げられる。吸収性物品の液吸収性の向上を図る観点から、吸収性シート1を吸収性物品の構成部材として用いる場合、吸収性シート1は、これを積層した状態で複数枚用いてもよく、吸収性シート1に加えて、吸収体を更に積層して用いてもよい。吸収性シート1に吸収体を積層して用いる場合、吸収体は吸収性シート1の中央領域に少なくとも配置されることが好ましい。
【0090】
吸収性物品に用いられる表面シートは、吸収性物品を適正な位置で着用した場合において、吸収性物品を着用する着用者の肌に向けられる面(以下、これを「肌対向面」ともいう。)側を構成するシートであり、裏面シートは、吸収性物品を着用する着用者の肌とは反対側に向けられる面(以下、これを「非肌対向面」ともいう。)側を構成するシートである。吸収性物品に用いられる表面シート及び裏面シートは、吸収性物品に従来用いられているものを特に制限なく用いることができる。表面シートとしては、例えば液透過性の各種の不織布や開孔フィルム等を用いることができる。裏面シートとしては、液難透過性若しくは撥水性の樹脂フィルムや、樹脂フィルムと不織布等とのラミネート等を用いることができる。
【0091】
吸収性物品に用いられる吸収体は、吸収性コアを備えている。吸収性コアは例えばパルプを初めとするセルロース等の親水性繊維の積繊体、該親水性繊維と吸水性ポリマーとの混合積繊体、吸水性ポリマーの堆積体などから構成される。吸収性コアは、少なくともその肌対向面が液透過性のコアラップシートで覆われていてもよく、肌対向面及び非肌対向面を含む表面の全域がコアラップシートで覆われていてもよい。コアラップシートとしては、例えば親水性繊維からなる薄葉紙や、液透過性を有する不織布などを用いることができる。
【0092】
特に、吸収性シート1を吸収性物品の構成部材として用いる場合、吸収性シート1における第1の繊維シート11が受液面となるように配されることが好ましい。すなわち、第1の繊維シート11が肌対向面側に配されるように、吸収性シート1を配することが好ましい。また、第1の繊維シート11にクレープが施されている場合、クレープの延びる方向と、吸収性物品の長手方向とが互いに一致するように配されていることも好ましい。更に、第1の繊維シート11、又は両繊維シート11,12の構成繊維が一方向への配向性向を有する場合、配向性向を有する方向と、吸収性物品の長手方向とが互いに一致するように配されていることも好ましい。このように吸収性シートを配置することによって、表面シート側からの液の引き込み性と、吸収性シートでの液の保持性とを両立して高め、液吸収性の高い吸収性物品となる。また、表面シートに付着及び透過した液を吸収性シート側に引き込みやすくして、表面シートのドライ感を向上させることができるので、吸収性物品の着用者の使用感が向上するという利点もある。更に、吸収された液に由来する蒸気を第2の繊維シート12側から蒸発させやすくして、吸収性物品の着用時の蒸れを低減することができるので、吸収性物品の着用者の使用感が向上するという利点もある。第2の繊維シート12側からの蒸気の蒸発は、吸収性物品の裏面シートとして透湿性のものを用いた場合に特に効果的である。
【0093】
特に、第1の繊維シート11が肌対向面側に配されるように吸収性物品に用いた場合において、第1の繊維シート11における接着剤15の非存在面が上述した凹凸構造を有していることが好ましい。このような構成とすることによって、吸収性物品の他の構成部材との摩擦力を増大させて、構成部材どうしのズレを低減できるとともに、着用者の肌側への接触面積を低減させることができるので、吸収性物品の着用者の使用感が向上する。また第1の繊維シート11が肌対向面側に配されるように吸収性物品に用いた場合において、非肌対向面側に配される第2の繊維シート12における接着剤15の非存在面が上述した凹凸構造を有していないことも好ましい。このような構成とすることによって、吸収性物品の外面を平滑にすることができるので、吸収性物品の肌触りが向上する。
【0094】
以上は本発明の吸収性シート及び該シートを備える吸収性物品に関する説明であったところ、以下に本発明の吸収性シートの好適な製造方法を説明する。図4には、本製造方法に好適に用いられる製造装置100の一実施形態が示されている。
【0095】
図4に示す製造装置100は、第1原反ロール110と、第2原反ロール120とを備えている。第1原反ロール110は、長尺帯状の第1の繊維シート11を搬送方向Rに沿って繰り出して、後述する第1接着剤塗布部130に供給できるようになっている。第2原反ロール120は、長尺帯状の第2の繊維シート12を搬送方向Rに沿って繰り出して、後述する第2接着剤塗布部140に供給できるようになっている。
【0096】
製造装置100は、第1接着剤塗布部130と、第2接着剤塗布部140とを備えている。第1接着剤塗布部130は、第1原反ロール110から供給された第1の繊維シート11の一方の面に、接着剤15を連続的に又は間欠的に塗布できるようになっている。同図に示す第1接着剤塗布部130は、接着剤15を間欠的に塗布する形態となっている。第2接着剤塗布部140は、第2原反ロール120から供給された第2の繊維シート12の一方の面に、接着剤15を連続的に又は間欠的に塗布できるようになっている。同図に示す第2接着剤塗布部140は、接着剤15を連続的に塗布する形態となっている。図4では、第1の繊維シート11に塗布される接着剤15と、第2の繊維シート12に塗布される接着剤15とは、ともに同じ種類の接着剤を塗布している状態が示されているが、異種の接着剤を用いてもよい。
【0097】
製造装置100は、ポリマー散布部150を備えている。ポリマー散布部150は、第2の繊維シート12の上方に位置し、第2の繊維シート12の接着剤15が塗布された面上に吸水性ポリマー13を散布できるようになっている。
【0098】
製造装置100は、プレスロール160を更に備えていることが好ましい。プレスロール160は、吸水性ポリマー13を含む第2の繊維シート12上に、ガイドロール161を介して第1の繊維シート11を重ね合わせた積層体を押圧するものである。これによって、直接接合部位17が多く形成した長尺帯状の吸収性シート1を形成することができる。
【0099】
製造装置100は、プレスロール160の下流に、シート切断部を備えていてもよい(図示せず)。シート切断部は、長尺帯状の吸収性シート1を所定の位置で切断して、所定の寸法を有する吸収性シート1を形成するものである。シート切断部としては、例えば搬送方向Rに直交する方向に沿って延びるカッター刃を有するカッターロール等を用いることができる。
【0100】
上述の構成を有する製造装置100を用いた吸収性シートの製造方法は以下のとおりである。まず、両繊維シート11,12のうち少なくとも一方の繊維シートに、好ましくは第1の繊維シート11の一方の面と、第2の繊維シート12の一方の面とのそれぞれに、接着剤15を塗布する。図4に示す形態では、第1の繊維シート11の一方の面に、第1接着剤塗布部130から供給された接着剤15を塗布する。また、第2の繊維シート12の一方の面に、第2接着剤塗布部140から供給された接着剤15を塗布する。接着剤15の塗布は、一方の繊維シートに行った後、他方の繊維シートに順次行ってもよく、各繊維シート11,12に同時に行ってもよい。両繊維シート11,12のうち一方の繊維シートにのみ接着剤15を塗布する場合には、第1接着剤塗布部130又は第2接着剤塗布部140のいずれかから接着剤15を供給して塗布すればよい。
【0101】
各繊維シート11,12に塗布された接着剤どうしを結合させて、吸収性シート1に直接接合部位17を効率良く形成する観点から、第1接着剤塗布部130における塗布方法は、接着剤15の塗布部における接着剤15の坪量を多くするように調整可能な方法であることが好ましく、詳細には、スパイラル塗布、サミット塗布、オメガ塗布などといった接着剤15の非塗布部が形成されるパターン塗布方法を採用することが好ましい。同様の観点から、第2接着剤塗布部140における塗布方法は、接着剤15を低い坪量で且つ連続的に塗布可能な方法であることが好ましく、詳細には、スプレー塗布又はコーター塗布を採用することが好ましく、コーター塗布を採用することが特に好ましい。各繊維シート11,12に塗布される坪量は、上述した範囲となるようにそれぞれ調整すればよい。
【0102】
次いで、第2の繊維シート12における接着剤15の塗布面に、ポリマー散布部150から吸水性ポリマー13を散布する。吸水性ポリマー13は、第2の繊維シート12における接着剤15に接着して担持される。吸水性ポリマー13は、第2の繊維シート12のシート面方向に均一に散布されることが好ましい。吸水性ポリマー13の散布においては、目的とする吸収性シート1に応じて、第2の繊維シート12のシート面方向における吸水性ポリマー13の散布量を変化させてもよい。
【0103】
続いて、各繊維シート11,12における接着剤の塗布面どうしが対向するように、各繊維シート11,12を重ね合わせる。各繊維シート11,12を重ね合わせることによって得られた積層体は、両繊維シート11,12の間に吸水性ポリマー13が配されたものとなる。この積層体は、必要に応じて、プレスロール160に導入せずに、シート切断部に直接供給して、本発明の吸収性シートとしてもよい。あるいは、両繊維シート11,12を予め重ね合わせずに、両繊維シート11,12をプレスロール160に直接導入して、押圧しながら重ね合わせてもよい。
【0104】
続いて、重ね合わせた各繊維シート11,12をプレスロール160間に導入して、押圧する。これによって、各繊維シート11,12に塗布された接着剤15を直接結合させやすくすることができるので、直接接合部位17を容易に形成させることができる。これに加えて、吸水性ポリマー13と接着剤15との接着性を高めることができる。その結果、液吸収性と吸水性ポリマーの保持性とを両立して高めることができる。
【0105】
製造物の意図しない破壊を抑制しつつ、直接接合部位17を効率よく形成する観点から、表面が柔らかいプレスロール160を用いて、各繊維シート11,12を比較的高い圧力で押圧することが好ましい。このような条件で各繊維シート11,12を押圧することによって、吸水性ポリマー13によって生じた各繊維シート11,12の凹凸にプレスロールの周面を追従させることができるので、微視的空隙において各繊維シート11,12に塗布された接着剤15を直接結合させやすくするように効率よく加圧することができる。このようなプレスロール160の材質としては、例えば硬質ゴム、シリコンゴム、シリコンスポンジ等を用いることができる。
【0106】
最後に、シート切断部によって、長尺帯状の吸収性シート1を所定の寸法に切断して、本発明の吸収性シートとする。
【0107】
吸収性シート1の一方向両端部における吸水性ポリマー13の存在量が中央領域における吸水性ポリマーの存在量よりも少ないものとする場合には、吸水性ポリマー13の存在量が少ない部位を搬送方向Rに沿う所定の間隔で形成するように、ポリマー散布部150によって吸水性ポリマー13の散布量を調整する。その後、該部位で切断されるように、シート切断部の位置及び長尺帯状の吸収性シートの搬送速度を調整すればよい。これによって、吸収性シート1の搬送方向Rにおける両端部において、吸水性ポリマー13の存在量が少ないものとなる。吸収性シート1の周縁領域における吸水性ポリマー13の存在量を調整する場合には、上述の方法に加えて、第2の繊維シート12における搬送方向Rに直交する方向における沿う両端部及びその近傍に散布される吸水性ポリマー13の散布量を調整すればよい。
【0108】
以上の工程を経て、本発明の吸収性シートが製造される。この吸収性シートは、吸水性ポリマーが所定の位置に固定されながらも十分に膨潤することができ、高い液吸収性能を発揮できるものである。
【0109】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。
【0110】
上述した本発明の実施形態に関し、更に以下の吸収性シート及び吸収性物品並びに吸収性シートの製造方法を開示する。
<1>
第1の繊維シートと、第2の繊維シートと、これらの繊維シートの間に配された吸水性ポリマーとを備え、両繊維シートが接着剤によって接合された吸収性シートであって、
前記吸水性ポリマーが配されている領域において、該吸水性ポリマーは、巨視的に視認され得る隙間が観察されない態様で配されており、
前記領域において、両繊維シートが、前記吸水性ポリマーを介さずに前記接着剤によって直接に接合された部位を有する、吸収性シート。
【0111】
<2>
前記接着剤が伸縮性を有する、前記<1>に記載の吸収性シート。
<3>
前記両繊維シートが前記吸水性ポリマーを介さずに前記接着剤によって直接接合された部位と、前記両繊維シートが前記吸水性ポリマーを介して前記接着剤によって接合された部位とを有する、前記<1>又は<2>に記載の吸収性シート。
<4>
前記両繊維シートが前記吸水性ポリマーを介さずに前記接着剤によって直接接合された部位は、シート平面方向に視たときに、規則的な又は不規則的な散点状となって複数形成されており、
凸部及び凹部を不規則的な散点状に形成された構造が好ましい、前記<1>~<3>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<5>
前記接着剤は、前記各繊維シートにおける前記吸水性ポリマーに対向する面と、各繊維シートを構成する繊維間の空隙とにそれぞれ存在している、前記<1>~<4>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<6>
前記接着剤がゴム系接着剤である、前記<1>~<5>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<7>
前記ゴム系接着剤がスチレン系接着剤である、前記<6>に記載の吸収性シート。
【0112】
<8>
前記接着剤がホットメルト接着剤である、前記<1>~<7>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<9>
粘弾性測定によって得られる前記接着剤の緩和時間が、50℃において1秒以上である、前記<1>~<8>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<10>
粘弾性測定によって得られる前記接着剤の緩和時間が、50℃において、好ましくは2秒以上、より好ましくは3秒以上であり、
好ましくは20秒以下、より好ましくは10秒以下、更に好ましくは5秒以下である、前記<1>~<9>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<11>
前記接着剤は、25℃における貯蔵弾性率G’が好ましくは10000Pa以上、より好ましくは50000Pa以上であり、
25℃における損失弾性率G”が好ましくは10000Pa以上、より好ましくは50000Pa以上である、前記<1>~<10>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<12>
前記接着剤は、前記各繊維シートにおける前記吸水性ポリマーに対向する面と、前記各繊維シートを構成する繊維間の空隙とにそれぞれ存在している、前記<1>~<11>のいずれか一に記載の吸収性シート。
【0113】
<13>
第2の繊維シートにおける前記接着剤の塗布面積が、第1の繊維シートにおける前記接着剤の塗布面積よりも大きく、
前記接着剤が塗布された部位において、第1の繊維シートにおける該接着剤の第1坪量は、第2の繊維シートにおける該接着剤の第2坪量よりも高い、前記<1>~<12>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<14>
第1坪量と第2坪量との合計が500g/m以下である、前記<13>に記載の吸収性シート。
<15>
第1坪量と第2坪量との合計が500g/m以下であることが好ましく、300g/m以下であることがより好ましく、200g/m以下であることが更に好ましく、
第1坪量と第2坪量との合計は10g/m以上であることが好ましく、50g/m以上であることがより好ましく、80g/m以上であることが更に好ましい、前記<13>又は<14>に記載の吸収性シート。
<16>
第1坪量は、好ましくは400g/m以下、より好ましくは250g/m以下、更に好ましくは100g/m以下であり、
20g/m以上が現実的である、前記<13>~<15>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<17>
第2坪量は、好ましくは30g/m以下、より好ましくは15g/m以下、更に好ましくは10g/m以下であり、
2g/m以上が現実的である、前記<13>~<16>のいずれか一に記載の吸収性シート。
【0114】
<18>
第1の繊維シートにおける第2の繊維シートとの接合領域に、前記接着剤が非塗布部を有するように不連続に塗布されており、
第2の繊維シートにおける第1の繊維シートとの接合領域の全域に、前記接着剤が隙間なく連続して塗布されており、
第1の繊維シートにおける前記接着剤の非存在面を受液面として用いる、前記<1>~<17>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<19>
第1の繊維シートの面上に存在する前記接着剤の厚みが、第2の繊維シートの面上に存在する前記接着剤の厚みよりも厚い、前記<1>~<18>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<20>
第1の繊維シートの面上に存在する前記接着剤の厚みは、第2の繊維シートの面上に存在する前記接着剤の厚みよりも厚いことを条件として、好ましくは20μm以上、より好ましくは40μm以上であり、
好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下である、前記<19>に記載の吸収性シート。
<21>
第2の繊維シートの面上に存在する前記接着剤の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上であり、
好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下である、前記<19>又は<20>に記載の吸収性シート。
【0115】
<22>
乾燥状態での前記両繊維シート間の剥離強度が0.1N/25mm以上5N/25mm以下である、前記<1>~<21>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<23>
乾燥状態での前記両繊維シート間の剥離強度が好ましくは0.1N/25mm以上、より好ましくは0.2N/25mm以上、更に好ましくは0.3N/25mm以上であり、
好ましくは3N/25mm以下、より好ましくは2N/25mm以下、更に好ましくは1.5N/25mm以下である、前記<1>~<22>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<24>
生理食塩水に30分間浸漬したときの厚み変化が1mm以上であり、且つ
浸漬後の両繊維シート間を剥離したときに、両繊維シート間が接着されている箇所が1cmあたり1個以上存在する、前記<1>~<23>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<25>
生理食塩水に30分間浸漬したときの厚み変化が好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上、更に好ましくは4mm以上であり、
20mm以下が現実的である、前記<1>~<24>のいずれか一に記載の吸収性シート。
【0116】
<26>
乾燥状態の前記吸収性シートを、該吸収性シートの質量の200倍量の生理食塩水に30分間浸漬させた後、網上に静置して余分な水分を紙で拭き取った後の状態を湿潤状態としたとき、該湿潤状態における圧縮変形率が25%以上である、前記<1>~<25>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<27>
前記湿潤状態での圧縮変形率が好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは35%以上であり、
70%以下が現実的である、前記<26>に記載の吸収性シート。
<28>
前記吸水性ポリマーの膨潤率が80%以上であり、且つ
前記湿潤状態での前記両繊維シート間の剥離強度が0.1N/25mm以上2N/25mm以下である、前記<26>又は<27>に記載の吸収性シート。
<29>
前記吸水性ポリマーの膨潤率が好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上である、前記<26>~<28>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<30>
前記湿潤状態での前記両繊維シート間の剥離強度が、好ましくは0.1N/25mm以上、より好ましくは0.2N/25mm以上、更に好ましくは0.3N/25mm以上であり、
好ましくは2.0N/25mm以下、より好ましくは1.5N/25mm以下、更に好ましくは1.0N/25mm以下である、前記<26>~<29>のいずれか一に記載の吸収性シート。
【0117】
<31>
第1の繊維シートにおける前記接着剤の非存在面が凹凸構造を有し、
第1の繊維シートにおける前記接着剤の非存在面を受液面として用いる、前記<1>~<30>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<32>
前記吸水性ポリマーの坪量が60g/m以上であり、該吸水性ポリマーのメジアン粒子径が800μm以下である、前記<1>~<31>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<33>
中央領域における前記吸水性ポリマーの存在量が、一方向の両端部における前記吸水性ポリマーの存在量よりも多い、前記<1>~<32>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<34>
中央領域における前記吸水性ポリマーの存在量が、周縁領域における前記吸水性ポリマーの存在量よりも多い、前記<1>~<33>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<35>
2.0kPaの圧力を付与した状態における前記吸水性ポリマーの液吸収量が好ましくは15g/g以上、より好ましくは20g/g以上、更に好ましくは25g/g以上である、前記<1>~<34>のいずれか一に記載の吸収性シート。
【0118】
<36>
少なくとも一方の前記繊維シートと隣接して配置された繊維交絡層を更に有する、前記<1>~<35>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<37>
前記繊維交絡層と隣接する前記繊維シートは、クレム吸水高さが10mm以上であることが好ましく、より好ましくは20mm以上、更に好ましくは30mm以上である、前記<36>に記載の吸収性シート。
<38>
第1の繊維シートの坪量は、好ましくは6g/m以上、より好ましくは8g/m以上であり、
好ましくは50g/m以下、より好ましくは30g/m以下、更に好ましくは20g/m以下である、前記<1>~<37>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<39>
第2の繊維シートの坪量は、好ましくは4g/m以上、より好ましくは6g/m以上であり、
好ましくは30g/m以下、より好ましくは20g/m以下である、前記<1>~<38>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<40>
第1の繊維シートの厚みは、好ましくは0.04mm以上、より好ましくは0.08mm以上であり、
好ましくは1mm以下、より好ましくは0.3mm以下である、前記<1>~<39>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<41>
第2の繊維シートの厚みは、好ましくは0.03mm以上、より好ましくは0.07mm以上であり、
好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.2mm以下である、前記<1>~<40>のいずれか一に記載の吸収性シート。
【0119】
<42>
JIS P8141に準じて各繊維シートのクレム吸水高さを測定したときに、第1の繊維シートのクレム吸水高さが、第2の繊維シートのクレム吸水高さよりも高い、前記<1>~<41>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<43>
KES-F8通気性試験機を用いて各繊維シートの通気抵抗を測定したときに、第2の繊維シートの通気抵抗が、第1の繊維シートの通気抵抗よりも低い、前記<1>~<42>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<44>
第1の繊維シートは、クレープ率が5%以上の紙であり、
第2の繊維シートは、クレープ率が1%未満である、前記<1>~<43>のいずれか一に記載の吸収性シート。
<45>
第1の繊維シートを構成する繊維の配向性向と、第2の繊維シートを構成する繊維の配向性向とが互いに一致している、前記<1>~<44>のいずれか一に記載の吸収性シート。
【0120】
<46>
1.7kPaの圧力付与下にて測定された厚みが、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.6mm以上であり、
好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下、更に好ましくは2mm以下である、前記<1>~<45>に記載の吸収性シート。
<47>
前記<1>~<46>のいずれか一に記載の吸収性シートを備える吸収性物品。
<48>
第1の繊維シートが肌対向面側に配されており、
第1の繊維シートにおける前記接着剤の非存在面が凹凸構造を有する、前記<47>に記載の吸収性物品。
<49>
前記<1>~<46>のいずれか一に記載の吸収性シートの製造方法であって、
第1の繊維シートの一方の面と、第2の繊維シートの一方の面とのそれぞれに前記接着剤を塗布し、
第2の繊維シートにおける前記接着剤の塗布面に前記吸水性ポリマーを散布し、然る後に、
前記各繊維シートにおける前記接着剤の塗布面どうしが対向するように、前記各繊維シートを重ね合わせる、吸収性シートの製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明によれば、吸水性ポリマーが所定の位置に固定されながらも十分に膨潤することができ、高い液吸収性能を発揮できる吸収性シート及び該シートを備える吸収性物品が提供される。
図1
図2
図3
図4