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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】電子顕微鏡および収差測定方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/147 20060101AFI20240604BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20240604BHJP
   H01J 37/153 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H01J37/147 A
H01J37/28 C
H01J37/153 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022053654
(22)【出願日】2022-03-29
(65)【公開番号】P2023146461
(43)【公開日】2023-10-12
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】沢田 英敬
(72)【発明者】
【氏名】金子 武司
(72)【発明者】
【氏名】森下 茂幸
(72)【発明者】
【氏名】河野 祐二
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/015985(WO,A1)
【文献】特開2017-139115(JP,A)
【文献】特開2019-040726(JP,A)
【文献】特開2009-037772(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0236684(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0066968(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を集束し、集束した電子線で試料を走査する照射光学系と、
前記試料を透過した電子線を偏向させる偏向器と、
前記試料を透過した電子線を検出する検出器と、
前記照射光学系および前記偏向器を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
前記照射光学系に、電子線で前記試料を走査させ、
前記偏向器に、電子線の照射位置ごとに前記試料を透過した電子線を複数回偏向させることによって、電子線の照射位置ごとに前記試料を透過した電子線のうち、前記試料に対する入射角度範囲が互いに異なる電子線を前記検出器に入射させて、一回の走査で互いに入射角度範囲が異なる条件で得られた複数の走査像を取得する、電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記偏向器と前記検出器との間に配置され、前記検出器で検出される電子線の前記入射角度範囲を制限する絞りを含む、電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または2において、
互いに異なる前記入射角度範囲の条件で得られた複数の画像に基づいて、収差を計算する、演算部を含む、電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記偏向器は、静電偏向器である、電子顕微鏡。
【請求項5】
電子顕微鏡における収差測定方法であって、
電子線で試料を走査し、電子線の照射位置ごとに前記試料を透過した電子線を複数回偏向させることによって、電子線の照射位置ごとに前記試料を透過した電子線のうち、前記試料に対する入射角度範囲が互いに異なる電子線を検出器に入射させて、一回の走査で互いに入射角度範囲が異なる条件で得られた複数の走査像を取得する工程と、
互いに異なる入射角度範囲の条件で得られた複数の走査像に基づいて、収差を計算する工程と、
を含む、収差測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡および収差測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走査透過電子顕微鏡(scanning transmission electron microscope、STEM)は、原子レベルの極めて高い空間分解能が得られる電子顕微鏡として、注目を集めている。このような走査透過電子顕微鏡では、収差の低減が重要であり、収差を低減するためには収差を正確に測定する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、分割型検出器を搭載した走査透過電子顕微鏡における収差測定方法が開示されている。特許文献1に開示された収差測定方法では、分割型検出器を用いて複数の検出領域の各々から明視野像および暗視野像を同時に取得し、同時に取得された明視野像および暗視野像を用いて各収差係数の算出を行う。特許文献1に開示された収差測定方法では、ずれの少ない暗視野像を位置の基準として用いるので、収差係数の測定精度を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-22971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された収差測定方法では、上述したように、分割型検出器を用いなければならなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電子顕微鏡の一態様は、
電子線を集束し、集束した電子線で試料を走査する照射光学系と、
前記試料を透過した電子線を偏向させる偏向器と、
前記試料を透過した電子線を検出する検出器と、
前記照射光学系および前記偏向器を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
前記照射光学系に、電子線で前記試料を走査させ、
前記偏向器に、電子線の照射位置ごとに前記試料を透過した電子線を複数回偏向させることによって、電子線の照射位置ごとに前記試料を透過した電子線のうち、前記試料に対する入射角度範囲が互いに異なる電子線を前記検出器に入射させて、一回の走査で互いに入射角度範囲が異なる条件で得られた複数の走査像を取得する
【0007】
このような電子顕微鏡では、制御部が、偏向器に電子線の照射位置ごとに試料を透過した電子線を偏向させることによって、電子線の照射位置ごとに試料を透過した電子線のうち、試料に対する入射角度範囲が互いに異なる電子線を検出器に入射させる。そのため、このような電子顕微鏡では、分割型検出器を用いることなく、互いに入射角度範囲が異なる条件で得られた複数の走査透過電子顕微鏡像を取得できる。
【0008】
本発明に係る収差測定方法の一態様は、
電子顕微鏡における収差測定方法であって、
電子線で試料を走査し、電子線の照射位置ごとに前記試料を透過した電子線を複数回偏向させることによって、電子線の照射位置ごとに前記試料を透過した電子線のうち、前記試料に対する入射角度範囲が互いに異なる電子線を検出器に入射させて、一回の走査で互いに入射角度範囲が異なる条件で得られた複数の走査像を取得する工程と、
互いに異なる入射角度範囲の条件で得られた複数の走査像に基づいて、収差を計算する工程と、
を含む。
【0009】
このような収差測定方法では、偏向器に電子線の照射位置ごとに試料を透過した電子線を偏向させることによって、電子線の照射位置ごとに試料を透過した電子線のうち、試料に対する入射角度範囲が互いに異なる電子線を検出器に入射させる。そのため、このような収差測定方法では、分割型検出器を用いることなく、互いに入射角度範囲が異なる条件で得られた複数の走査透過電子顕微鏡像を取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図2】STEM像を取得する際の、試料と収差の関係を示す図。
図3】検出器を移動させたときの、STEM像と幾何収差の関係を示す図。
図4】光軸上を通過した電子線が形成する明視野STEM像を模式的に示す図。
図5】所定の収束角αの電子線が形成する明視野STEM像を模式的に示す図。
図6】本発明の一実施形態に係る電子顕微鏡の動作を説明するための図。
図7】本発明の一実施形態に係る電子顕微鏡の動作を説明するための図。
図8】絞りとコンデンサー絞りの影を模式的に示す図。
図9】入射角度範囲が互いに異なる条件で得られた複数のSTEM像を生成する手法を説明するための図。
図10】第2変形例に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図11】入射角度範囲が互いに異なる条件で得られた複数のSTEM像を生成する手法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0012】
1. 電子顕微鏡
まず、本発明の一実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電子顕微鏡100の構成を示す図である。
【0013】
電子顕微鏡100は、図1に示すように、照射光学系10と、偏向器20と、絞り30と、検出器40と、制御部50と、演算部60と、を含む。電子顕微鏡100は、電子線EBで試料Sを走査して走査透過電子顕微鏡像(STEM像)を取得する走査透過電子顕微鏡である。
【0014】
照射光学系10は、電子線EBを集束し、集束した電子線EBで試料Sを走査する。照射光学系10は、電子線源12と、コンデンサー絞り14と、走査偏向器16と、を含む。図示はしないが、照射光学系10は、さらに、コンデンサーレンズと、対物レンズと、収差補正装置と、を含む。
【0015】
電子線源12は、電子線EBを放出する。電子線源12は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線EBを放出する電子銃である。
【0016】
コンデンサー絞り14は、電子線源12から放出された電子線EBの収束角を決定する
。コンデンサー絞り14には複数の絞り孔が設けられており、絞り孔を切り替えることで電子線EBの収束角を調整できる。
【0017】
電子線源12から放出された電子線EBは、コンデンサーレンズおよび対物レンズで集束される。照射光学系10には、収差補正装置が組み込まれており、照射光学系10の収差を補正できる。電子顕微鏡100では、演算部60が収差を測定し、制御部50が演算部60における収差の測定結果に基づいて収差補正装置を制御する。
【0018】
走査偏向器16は、集束された電子線EBを二次元的に偏向する。走査偏向器16で電子線EBを偏向することによって、集束された電子線EBで試料Sを走査できる。
【0019】
図示はしないが、試料Sは試料ステージによって支持されている。
【0020】
偏向器20は、試料Sを透過した電子線EBを二次元的に偏向させる。偏向器20は、試料Sの後段に配置されている。偏向器20は、静電場を発生させて、試料Sを透過した電子線EBを偏向させる静電偏向器である。偏向器20は、例えば、磁場を発生させて電子線EBを偏向させる磁場コイルに比べて、高速に電子線EBを偏向できる。偏向器20は、例えば、ナノ秒オーダーで電子線EBを偏向できる。
【0021】
絞り30は、検出器40の前段に配置されている。絞り30は、偏向器20と検出器40との間に配置されている。絞り30は、例えば、明視野絞りである。絞り30によって、試料Sを透過した電子線EBから所望の入射角度範囲の電子線EBを抽出できる。入射角度範囲は、試料Sに対する電子線EBの入射角度の範囲である。
【0022】
図示はしないが、電子顕微鏡100は、結像光学系を有しており、試料Sを透過した電子線EBは結像光学系によって検出器40に導かれる。
【0023】
検出器40は、試料Sを透過した電子線EBを検出する。検出器40は、例えば、明視野STEM検出器である。明視野STEM検出器は、試料Sを透過した電子線EBのうち、散乱されずに透過した電子、および小さい角度で散乱した電子を検出する。
【0024】
制御部50は、電子顕微鏡100の各部を制御する。制御部50は、例えば、照射光学系10および偏向器20を制御する。制御部50は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)などのプロセッサと、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの記憶装置と、を含む。制御部50では、プロセッサで記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、各種計算処理、各種制御処理を行う。
【0025】
演算部60は、照射光学系10の収差を計算する。演算部60は、例えば、CPUやDSPなどのプロセッサと、RAMやROMなどの記憶装置と、を含む。演算部60では、プロセッサで記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、各種計算処理を行う。
【0026】
2. 収差測定方法
2.1. 原理
次に、収差測定方法について説明する。図2は、STEM像を取得する際の、試料Sと収差の関係を示す図である。
【0027】
試料Sは、対物レンズ18の前方焦点面18aから焦点距離だけ離れた位置に配置されている。また、検出器40の検出面は、試料Sからカメラ長だけ離れた位置に配置されて
いる。図2では、電子線EBが対物レンズ18の前方焦点面18aを通過し、対物レンズ18の収束作用によって試料Sに向かって収束する様子を示している。
【0028】
収束角αは試料Sに対する電子線EBの収束角であり、方位角θは試料S上での電子線EBの方位角である。幾何収差が無い場合、各電子線はその収束角αおよび方位角θに関わりなく、破線で示すように、試料Sの一点に集中する。これに対して、収差(幾何収差)がある場合、検出器40の検出面上で電子線EBの到達する場所が収束角αごとに異なる。
【0029】
図3は、検出器40を位置Aから位置Bに移動させたときの、STEM像と幾何収差の関係を示す図である。なお、図3には、さらに、前方焦点面18aにおける角度空間の概念的な図と、収差による試料S面上での電子線EBの照射位置の変化を示す模式図と、を図示している。図4は、光軸上を通過した電子線EBが形成する明視野STEM像を模式的に示す図であり、図5は、所定の収束角αの電子線EBが形成する明視野STEM像を模式的に示す図である。
【0030】
幾何収差がない場合、検出器40を位置Aから位置Bに移動させても、位置Aで検出される電子線EBの試料S上での照射位置と、位置Bで検出される電子線EBの試料S上での照射位置は、同じである。そのため、検出器40を位置Aから位置Bに移動させても、STEM像の視野ずれは生じない。
【0031】
これに対して、幾何収差がある場合、検出器40を位置Aから位置Bに移動させると、位置Aで検出される電子線EBの試料S上での照射位置と、位置Bで検出される電子線EBの試料S上での照射位置には、幾何収差に応じたずれが生じる。そのため、図4および図5に示すように、検出器40を位置Aから位置Bに移動させると、STEM像に視野ずれが生じる。
【0032】
検出器40を位置Aから位置Bに移動させたことによる視野ずれを、Fα,θで表したとすると、その逆方向のベクトルが収束角α、方位角θにおける幾何収差ベクトルGα,θである。
【0033】
一方、対物レンズ18の前方焦点面18aは、電子線EBの角度空間面である。すなわち、図2で概念的に示すように、前方焦点面18a上の電子線EBの各位置を極座標で表すと、その動径成分および角度成分は、それぞれ、収束角α及び方位角θにより一義的に表すことができる。また、前方焦点面18aでの収差関数χは、これら収束角αおよび方位角θの関数である各波面収差の和で表される。原子レベルでの高分解能観察では軸上収差のみを扱うことを考慮すると、収差関数χ(α,θ)は、次のように表される。
【0034】
χ(α,θ)=焦点ズレ(デフォーカス)+2回非点
+軸上コマ+3回非点
+球面収差+スター収差+4回非点
+4次のコマ+Threelobe収差+5回非点
+5次の球面収差+6回非点・・・
すなわち、収差関数χ(α,θ)は、次式(1)で表される。
【0035】
【数1】
【0036】
幾何収差ベクトルGα,θの収束角方向および方位角方向における各成分Gα、Gθは、この収差関数χについて収束角αおよび方位角θのそれぞれで偏微分することで得られる。
【0037】
【数2】
【0038】
つまり、収束角α及び方位角θの複数の組のそれぞれにおける明視野像を取得することで、その組の数だけ幾何収差ベクトルGα,θが得られ、これらに対して最小二乗法等の数学的処理を行うことで、各収差係数を算出することができる。
【0039】
2.2. 動作
次に、電子顕微鏡100の動作について説明する。ここでは、電子顕微鏡100で収差を測定するときの動作について説明する。
【0040】
図6および図7は、電子顕微鏡100の動作を説明するための図である。
【0041】
まず、図1に示すように、検出器40の前に絞り30を配置する。次に、照射光学系10で電子線源12から放出された電子線EBを収束させる。このとき、コンデンサー絞り14を通過した電子線EBの中心が、絞り30の中心を通るように、絞り30の位置を調整する。電子線EBが絞り30を通過することによって、検出器40で検出される電子線EBの収束角αおよび方位角θの範囲が制限される。すなわち、電子線EBが絞り30を通過することによって、検出器40で検出される電子線EBの入射角度範囲が制限される。入射角度範囲は、収束角αおよび方位角θの範囲である。
【0042】
次に、制御部50が、走査偏向器16に電子線EBの走査を開始させ、偏向器20に試料S上における電子線EBの照射位置ごと(1画素ごと)に、電子線EBを複数回偏向させる。
【0043】
偏向器20に電子線EBを偏向させることによって、図6および図7に示すように、試料Sを透過した電子線EBのうち、入射角度範囲が互いに異なる電子線EBを検出器40に入射させることができる。偏向器20において、電子線EBの偏向方向および偏向量を変えることで、異なる収束角αの範囲および方位角θの範囲の電子線EBを検出器40に入射できる。
【0044】
図8は、絞り30とコンデンサー絞り14の影2を模式的に示す図である。図8では、
偏向器20で電子線EBを偏向させたときに、絞り30を通過する電子線EBにハッチングを施している。
【0045】
偏向器20で電子線EBを偏向させることによって、固定された絞り30に対してコンデンサー絞り14の影2が移動する。そのため、偏向器20で電子線EBを偏向させることによって、所望の入射角度範囲の電子線EBを絞り30で抽出できる。
【0046】
図8に示す例では、1つの照射位置において(1つの画素において)、電子線EBを20回偏向させて、入射角度範囲が互いに異なる電子線EBを21回検出する。なお、1つの照射位置で電子線EBを偏向させる回数は、測定対象となる収差の種類や、測定の精度などに応じて適宜設定可能である。
【0047】
図9は、入射角度範囲が互いに異なる条件で得られたSTEM像を生成する手法を説明するための図である。
【0048】
電子顕微鏡100では、例えば、電子線EBで試料Sをラスター走査する。図9に示す例では、まず、電子線EBで照射位置P1を照射し、電子線EBを移動させて照射位置P2を照射することを繰り返し、最後に照射位置PNを照射して、試料Sの走査を終了する。このとき、各照射位置において、取得するSTEM像の数に応じて、偏向器20で電子線EBを偏向させる。
【0049】
図9に示す例では、M枚のSTEM像I-1~I-Mを取得するために、各照射位置において、図1に示すように検出器40で電子線EBを検出した後、図6および図7に示すように偏向器20で電子線EBを偏向させるごとに検出器40で電子線EBを検出することをM-1回繰り返す。
【0050】
例えば、照射位置P1において、図1に示すように検出器40で電子線EBを検出した後、偏向器20で電子線EBを偏向させるごとに検出器40で電子線EBを検出することをM-1回繰り返す。この結果、STEM像I-1~I-Mの各々における、照射位置P1に対応する画素について電子線EBの強度データが得られる。
【0051】
次に、電子線EBを照射位置P1から照射位置P2に移動させ、照射位置P2において検出器40で電子線EBを検出した後、偏向器20で電子線EBを偏向させるごとに検出器40で電子線EBを検出することをM-1回繰り返す。この結果、STEM像I-1~I-Mの各々における、照射位置P2に対応する画素について電子線EBの強度データが得られる。
【0052】
各照射位置に対してこの動作を繰り返して、最後に、電子線EBを照射位置PN-1から照射位置PNに移動させ、照射位置PNにおいて検出器40で電子線EBを検出した後、偏向器20で電子線EBを偏向させるごとに検出器40で電子線EBを検出することをM-1回繰り返す。この結果、STEM像I-1~I-Mの各々における、照射位置PNに対応する画素について電子線EBの強度データが得られる。
【0053】
このようにして、M枚のSTEM像I-1~I-Mを得ることができる。
【0054】
電子顕微鏡100では、上述したように、電子線EBを走査しながら、電子線EBの照射位置ごとに電子線EBを偏向させることによって、照射位置ごとに試料Sに対する入射角度範囲が互いに異なる電子線EBを検出器40に入射させることができる。そのため、電子顕微鏡100では、1回の走査で、互いに入射角度範囲が異なる条件で得られた複数のSTEM像を取得できる。例えば、図8に示す例では、1回の走査で、互いに入射角度
範囲が異なる条件で得られた21枚のSTEM像を取得できる。
【0055】
演算部60は、上述した「2.1. 原理」で説明した手法を用いて、互いに入射角度範囲が異なる条件で得られた複数のSTEM像に基づいて、収差を計算する。制御部50は、演算部60における収差の計算結果に基づいて、収差補正装置を動作させる。これにより、照射光学系10の収差を補正できる。
【0056】
3. 効果
電子顕微鏡100では、制御部50は、照射光学系10に電子線EBで試料Sを走査させ、偏向器20に電子線EBの照射位置ごとに試料Sを透過した電子線EBを偏向させることによって、電子線EBの照射位置ごとに試料Sを透過した電子線EBのうち、試料Sに対する入射角度範囲が互いに異なる電子線EBを検出器40に入射させる。そのため、電子顕微鏡100では、互いに入射角度範囲が異なる条件で得られた複数のSTEM像を取得できる。
【0057】
例えば、従来の収差測定方法として、nmオーダーの金微粒子を標準試料として用い、Gaussian focus像とUnder Focus像(あるいはOver Focus像)を用いて、Deconvolution calculation probe shapeを計算し収差を見積もる手法が知られている。この手法では、標準試料を用いなければならない。これに対して、電子顕微鏡100では、標準試料を用いることなく、収差を測定できる。
【0058】
また、例えば、従来の収差測定方法として、ロンキグラム(Ronchigram)から収差を計算する手法が知られている。ロンキグラムを取得するためには、CCDカメラやCMOSカメラが必要となる。
【0059】
また、例えば、従来の収差測定方法として、分割型検出器を用いて収差を測定する手法が知られている。この手法では、分割型検出器の検出領域ごとに明視野像を取得し、明視野像間の視野ずれに基づいて、収差を計算する。そのため、分割型検出器が必要となる。
【0060】
これに対して、電子顕微鏡100では、明視野STEM検出器を用いて、収差を測定することができる。そのため、電子顕微鏡100では、CCDカメラや、CMOSカメラ、分割型検出器が不要である。
【0061】
電子顕微鏡100では、収差を測定するための複数のSTEM像を1回の走査で同時に取得できる。そのため、試料Sのドリフトによる収差の測定誤差を低減できる。
【0062】
電子顕微鏡100では、偏向器20と検出器40との間に配置され、検出器40で検出される電子線EBの入射角度範囲を制限する絞り30を含む。電子顕微鏡100では、偏向器20で電子線EBを偏向させることによって、所望の入射角度範囲の電子線EBを絞り30で抽出できる。例えば、絞り30の絞り孔の径を切り替えることによって、入射角度範囲を変更できる。
【0063】
電子顕微鏡100では、偏向器20は、静電偏向器である。そのため、例えば、偏向器20として磁場コイルを用いた場合に比べて、高速に電子線EBを偏向できる。したがって、互いに入射角度範囲が異なる条件で得られた複数のSTEM像を短時間で取得できる。
【0064】
4. 変形例
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実
施が可能である。
【0065】
(1)第1変形例
上述した実施形態では、偏向器20と検出器40との間の絞り30として、明視野絞りを用いた場合について説明したが、検出器40で検出される電子線EBの入射角度範囲を制限できれば絞り30として、明視野絞り以外の絞りを用いてもよい。
【0066】
(2)第2変形例
図10は、第2変形例に係る電子顕微鏡100の構成を示す図である。
【0067】
上述した実施形態では、図1に示すように、絞り30を用いて検出器40で検出される電子線EBの入射角度範囲を制限したが、図10に示すように、絞り30を用いずに、検出器40の検出領域を小さくすることによって、検出器40で検出される電子線EBの入射角度範囲を制限してもよい。
【0068】
(3)第3変形例
上述した実施形態では、試料Sを透過した電子線EBを検出する検出器40が、明視野STEM検出器である場合について説明したが、試料Sを透過した電子線EBを検出する検出器40は、円環状の検出領域を有する暗視野STEM検出器であってもよい。
【0069】
(4)第4変形例
図11は、入射角度範囲が互いに異なる条件で得られた複数のSTEM像を生成する手法を説明するための図である。図11に示すa~uは、絞り30で抽出した入射角度範囲を表している。
【0070】
入射角度範囲a、入射角度範囲b、入射角度範囲d、入射角度範囲f、入射角度範囲hの条件で得られた複数のSTEM像を取得する場合に、演算部60は、まず、走査偏向器16による電子線EBの走査および偏向器20による電子線EBの偏向と同期して、検出器40による検出結果を取得する。これにより、図11に示すSTEM像Iを得ることができる。STEM像Iでは、照射位置ごとに、互いに異なる入射角度範囲の条件で得られた検出結果が、時系列に並んでいる。
【0071】
例えば、STEM像Iでは、まず、照射位置P1における、入射角度範囲aの条件で得られた電子線EBの強度の情報、入射角度範囲bの条件で得られた電子線EBの強度の情報、入射角度範囲dの条件で得られた電子線EBの強度の情報、入射角度範囲fの条件で得られた電子線EBの強度の情報、入射角度範囲hの条件で得られた電子線EBの強度の情報が、この順で並んでいる。照射位置P1の次には、照射位置P2における、入射角度範囲aの条件で得られた電子線EBの強度の情報、入射角度範囲bの条件で得られた電子線EBの強度の情報、入射角度範囲dの条件で得られた電子線EBの強度の情報、入射角度範囲fの条件で得られた電子線EBの強度の情報、入射角度範囲hの条件で得られた電子線EBの強度の情報が、この順で並んでいる。このようにSTEM像Iでは、照射位置P1から照射位置PNまで、各入射角度範囲の条件で得られた電子線EBの強度の情報が並んでいる。
【0072】
演算部60は、STEM像Iから、入射角度範囲の条件ごとに、各照射位置における強度の情報を取得して、入射角度範囲aの条件で得られたSTEM像、入射角度範囲bの条件で得られたSTEM像、入射角度範囲dの条件で得られたSTEM像、入射角度範囲fの条件で得られたSTEM像、入射角度範囲hの条件で得られたSTEM像を生成する。
【0073】
このようにして、1つのSTEM像Iから入射角度範囲が互いに異なる条件で得られた
複数のSTEM像を生成できる。
【0074】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0075】
10…照射光学系、12…電子線源、16…走査偏向器、18…対物レンズ、18a…前方焦点面、20…偏向器、40…検出器、50…制御部、60…演算部、100…電子顕微鏡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11