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特許7498220改良された透過率を有する近赤外線光学干渉フィルタ
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  • 特許-改良された透過率を有する近赤外線光学干渉フィルタ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】改良された透過率を有する近赤外線光学干渉フィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
G02B5/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022079468
(22)【出願日】2022-05-13
(62)【分割の表示】P 2020104327の分割
【原出願日】2016-01-22
(65)【公開番号】P2022097725
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】62/107,112
(32)【優先日】2015-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508348680
【氏名又は名称】マテリオン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ロバート スプレイグ
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-262720(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0014838(US,A1)
【文献】特開2002-223028(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0234198(US,A1)
【文献】米国特許第05398133(US,A)
【文献】L. DOMASH et al.,Tunable and Switchable Multiple-Cavity Thin Film Filters,JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,米国,2004年01月,Vol.22, No.1,p.126 - 135,http://dx.doi.org/10.1109/JLT.2004.823349
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
干渉フィルタであって、前記干渉フィルタは、
透明基板と、
前記透明基板によって支持されている層スタックと
を備え、
前記層スタックは、複数の層を備え、
前記複数の層は、
水素化非晶質ケイ素の層であって、前記水素化非晶質ケイ素は、窒素を含み(a-Si:H,N)、前記水素化非晶質ケイ素は、2%~8%の水素および3%~7%の窒素の原子濃度を有する、水素化非晶質ケイ素の層と、
前記水素化非晶質ケイ素の屈折率より低い屈折率を有する1つ以上の誘電材料の層であって、前記1つ以上の誘電材料の層は、1.9以上かつ2.7以下の範囲内の屈折率を有する誘電材料の層を含み、前記屈折率は、750nm以上かつ1100nm以下の波長を有する光に対するものである、1つ以上の誘電材料の層と
を少なくとも含む、干渉フィルタ。
【請求項2】
前記1つ以上の誘電材料の層は、SiO層をさらに含む、請求項1に記載の干渉フィルタ。
【請求項3】
前記層スタックは、750nm以上かつ1100nm以下の範囲内の通過帯域中央波長を有するように構成されている、請求項1または請求項2に記載の干渉フィルタ。
【請求項4】
1.9以上かつ2.7以下の範囲内の屈折率を有する前記誘電材料の層は、Si、SiO(yは、1.9以上の屈折率を提供するために十分に大きい)、Ta、Nb、または、TiOを備えている1つ以上の層を含む、請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の干渉フィルタ。
【請求項5】
前記透明基板は、ガラス基板を含む、請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の干渉フィルタ。
【請求項6】
前記層スタックは、前記透明基板の一方の側の面上にある第1の層スタックと、前記透明基板の反対側の面上にある第2の層スタックとを含む、請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の干渉フィルタ。
【請求項7】
前記第1の層スタックは、低域通過カットオフ波長を伴う低域通過フィルタを画定し、前記第2の層スタックは、高域通過カットオフ波長を伴う高域通過フィルタを画定し、前記干渉フィルタは、前記高域通過カットオフ波長と前記低域通過カットオフ波長との間に画定された通過帯域を有する、請求項6に記載の干渉フィルタ。
【請求項8】
前記第1の層スタックおよび前記第2の層スタックを前記透明基板上に堆積することを含む動作によって、請求項6~7のうちのいずれか一項に記載の干渉フィルタを製造することを含む方法。
【請求項9】
前記堆積することは、少なくともシリコンベースのスパッタリング標的を用いてスパッタリングすることを含む、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、米国仮特許出願第62/107,112号(2015年1月23日出願)に対する優先権を主張し、上記出願の全体は、参照により本明細書に完全に引用される。
【0002】
(使用の分野)
以下の開示は、光学技術分野、光学フィルタ技術分野、および関連技術分野に関する。
【背景技術】
【0003】
公知の透過率干渉フィルタは、交互するケイ素層と二酸化ケイ素(SiO)層とのスタックを採用する。そのような素子は、短波および中波赤外線から約1100nmまでにおける使用のために公知であり、ケイ素およびSiOは両方とも、この範囲内では透明である。より低い波長閾値(上限光子エネルギー閾値に対応する)は、その結晶性形態では、約1.12eVのバンドギャップを有する、ケイ素による吸収の発現によって制御される。これらの素子内におけるケイ素の重要な利点は、その高屈折率である。光学干渉フィルタのスペクトルプロファイルは、とりわけ、照明の角度に依存する。角度が増加するにつれて、フィルタは、より短い波長にシフトする。この角度シフトは、使用される材料およびそれらの材料の分布に依存する。より高い屈折率は、より小さい角度シフトをもたらす。狭帯域フィルタに対して、角度シフトの量は、光学システム内で使用される場合のフィルタの有用帯域幅を限定する。大角度受光角を伴うシステムでは、低角度シフトをもたらすように構築されたフィルタは、より狭通過帯域を有し、故に、より低い屈折率を伴う材料から構築されるものより優れた雑音除去を有することができる。
【0004】
素子動作を近赤外線まで拡張するために、ケイ素を水素化し、水素化非晶質ケイ素(a-Si:H)とSiOとの交互層を採用することがさらに公知である。ケイ素を水素化することによって、材料損失および屈折率が、低減させられる。このアプローチによって、800~1000nm範囲内で動作する非常に高性能干渉フィルタが、達成可能である。
【0005】
いくつかの改良点が、本明細書に開示される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、少なくとも1つの水素化非晶質ケイ素の層と、水素化非晶質ケイ素の屈折率より低い屈折率を有する、1つ以上の誘電材料の少なくとも1つの層であって、1.9~2.7(それらの値を含む)の範囲内の屈折率を有する、誘電材料の層を含む、1つ以上の誘電材料の層との複数の層のスタックを備えている、干渉フィルタに関する。
【0007】
いくつかの実施形態では、干渉フィルタは、窒素が最適に添加された少なくとも水素化非晶質ケイ素(a Si:H,N)の層と、SiO、SiO、SiO等の1つ以上の誘電材料の層であって、1.9~2.7(それらの値を含む)の範囲内のより高い屈折率を伴う、誘電材料との複数の層のスタックを含む。干渉フィルタは、750~1000nm(それらの値を含む)の範囲内の通過帯域中心波長を有するように設計される。1.9~2.7(それらの値を含む)の範囲内のより高い屈折率を伴う誘電材料の層は、SiOを低屈折率層として使用する類似干渉フィルタと比較して、より小さい角度シフトを提供する。
【0008】
本開示のこれらおよび他の非限定的特性は、以下により具体的に開示される。
例えば、本願は以下の項目を絵提供する。
(項目1)
干渉フィルタであって、前記干渉フィルタは、層スタックを備え、前記層スタックは、
少なくとも、
水素化非晶質ケイ素の層と、
前記水素化非晶質ケイ素の屈折率より低い屈折率を有する1つ以上の誘電材料の層と
の複数の層を備え、
前記1つ以上の誘電材料の層は、1.9~2.7(それらの値を含む)の範囲内の屈折率を有する誘電材料の層を含む、干渉フィルタ。
(項目2)
前記1.9~2.7(それらの値を含む)の範囲内の屈折率を有する誘電材料の層は、Si、SiO(yは、1.9以上の屈折率を提供するために十分に大きい)、Ta、Nb、またはTiOを備えている1つ以上の層を含む、項目1に記載の干渉フィルタ。
(項目3)
前記1つ以上の誘電材料の層は、SiO層をさらに含む、項目2に記載の干渉フィルタ。
(項目4)
前記層スタックは、800~1100nm(それらの値を含む)の範囲内の通過帯域中心波長を有するように構成されている、項目1-3のいずれか1項に記載の干渉フィルタ。
(項目5)
前記層スタックは、750~1100nm(それらの値を含む)の範囲内の通過帯域中心波長を有するように構成されている、項目1-3のいずれか1項に記載の干渉フィルタ。
(項目6)
前記層スタックを支持する透明基板をさらに備えている、項目1-5のいずれか1項に記載の干渉フィルタ。
(項目7)
前記透明基板は、ガラス基板を備えている、項目6に記載の干渉フィルタ。
(項目8)
前記層スタックは、透明基板の片側の第1の層スタックと、前記透明基板の反対側の第2の層スタックとを含む、項目6-7のいずれか1項に記載の干渉フィルタ。
(項目9)
前記第1の層は、低域通過カットオフ波長を伴う低域通過フィルタを画定し、前記第2の層スタックは、高域通過カットオフ波長を伴う高域通過フィルタを画定し、前記干渉フィルタは、前記高域通過カットオフ波長と前記低域通過カットオフ波長との間に画定された通過帯域を有する、項目8に記載の干渉フィルタ。
(項目10)
前記層スタックを基板上に配置することを含む動作によって、項目1-9のいずれか1項に記載の干渉フィルタを製作することを含む方法。
(項目11)
前記配置することは、少なくともケイ素系スパッタリング標的を使用して、スパッタリングすることを含む、項目10に記載の方法。
(項目12)
干渉フィルタであって、前記干渉フィルタは、層スタックを備え、前記層スタックは、
少なくとも、
水素化非晶質ケイ素の層と、
前記水素化非晶質ケイ素の屈折率より低い屈折率を有する1つ以上の誘電材料の層と
の複数の層を備え、
前記1つ以上の誘電材料の層は、1.9~2.7(それらの値を含む)の範囲内の屈折率を有する誘電材料の層を含む、干渉フィルタ。
(項目13)
前記1.9~2.7(それらの値を含む)の範囲内の屈折率を有する誘電材料の層は、Si、SiO(yは、1.9以上の屈折率を提供するために十分に大きい)、Ta、Nb、またはTiOを備えている1つ以上の層を含む、項目12に記載の干渉フィルタ。
(項目14)
前記1つ以上の誘電材料の層は、SiO層をさらに含む、項目12-13のいずれか1項に記載の干渉フィルタ。
(項目15)
前記層スタックは、水素化非晶質ケイ素の介在層を伴わずに、1.9~2.7(それらの値を含む)の範囲内の屈折率を有する誘電材料の層に直接隣接する少なくとも1つのSiO層を含む、項目14に記載の干渉フィルタ。
【図面の簡単な説明】
【0009】
以下は、図面の簡単な説明であり、本明細書に開示される例示的実施形態を限定する目的ではなく、図示する目的のために提示される。本発明の好ましい実施形態が、ここで、付随の図を参照して説明される。
【0010】
図1図1は、本明細書に開示されるように、改良された透過率および/または低減させられた角度シフトを伴う、近赤外線光学干渉フィルタを製作するためのスパッタリング堆積システムを図式的に示す。
【0011】
図2図2は、水素化非晶質ケイ素(a-Si:H)の光学特性(透過率および屈折率)に及ぼす水素化の影響を図式的に示す。
【0012】
図3図3は、固定水素化レベルのa-Si:Hの光学特性(透過率および屈折率)に及ぼす窒素添加剤の影響を図式的に示す。
【0013】
図4図4は、図1のスパッタリング堆積システムを使用して好適に製造される干渉フィルタを図式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書に開示されるプロセスおよび装置のより完全な理解は、付随の図面を参照することによって得られ得る。これらの図は、単に、既存の技術分野および/または本開発を実証する利便性ならびに容易性に基づく略図であり、したがって、アセンブリまたはその構成要素の相対的サイズおよび寸法を示すことを意図するものではない。
【0015】
本開示は、本明細書に含まれる所望の実施形態および実施例の詳細な説明を参照することによってより容易に理解され得る。以下の明細書および続く請求項では、以下の意味を有するものと定義される、いくつかの用語を参照するであろう。
【0016】
単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈によって明確に別様に示されない限り、複数参照も含む。
【0017】
本願の明細書および請求項における数値は、同一の有効桁数に丸められるとき、同一である数値と、値を決定するために本願に説明されるタイプの従来の測定技法の実験誤差未満だけ記載された値から異なる数値とを含むものと理解されたい。
【0018】
本明細書に開示される全範囲は、規定される終点を包含し、かつ独立して組み合わせ可能である(例えば、範囲「800~1100nm」は、終点800nmおよび1100nmと、全ての中間値とを包含する)。
【0019】
本明細書で使用される場合、「約」および「実質的に」等の近似言語は、それが関連する基本機能に変更をもたらすことなく変動し得る任意の定量的表現を修飾するために適用され得る。修飾後「約」はまた、2つの終点の絶対値によって定義された範囲も開示すると見なされるべきである。例えば、表現「約2~約4」は、範囲「2~4」も開示する。用語「約」は、示される数の±10%を指し得る。
【0020】
本開示は、改良された透過率を伴う、近赤外線光学干渉フィルタに関する。
【0021】
前述のように、水素化ケイ素(a-Si:H)層を伴う層ユニットのスタックを備えている干渉フィルタが、ケイ素の水素化が通過帯域内に容認可能フィルタ透過率特性を提供するために、吸収損失(本質的ケイ素および乱れ誘起の両方に由来)を十分に低下させるので、近赤外線(800~1250nm)内の動作のために使用される。図2を簡単に参照すると、ここでは、近赤外線に対するこのアプローチは、実質的不利点を有することが認識される。概略の図2に見られるように、赤外線(例えば、範囲800~1100nm)内の固定波長に対して、a-Si:Hの水素化を増加させること(すなわち、a-Si:Hの水素含有量を増加させること)は、損失を確かに低下させている。しかしながら、図2に図式的に描写されるように、a-Si:Hの屈折率も低下させている。
【0022】
高開口数光学システムのための狭帯域干渉フィルタの性能は、材料特性が急変している近赤外線領域において、高透過率を得ることと、小角度シフトを得ることとの間の妥協である。高透過率は、低吸光係数(大量の水素を用いて取得可能)に対応する一方、小角度シフトは、高屈折率(少量の水素を用いて取得可能)によって達成される。
【0023】
図3を簡単に参照すると、開示される改良点は、近赤外線(800~1100nm)における使用のために、Si系干渉フィルタのa-Si:H層に制御された量の窒素を追加することに関する。換言すると、この改良点は、a-Si:H,Nをa-Si:Hの代わりに使用することを伴う。図3に図式的に示されるように、赤外線(例えば、範囲800~1100nm)内の固定波長に対して、かつ水素化の所与の(固定)レベルに対して、窒素を追加することは、低減させられた屈折率の同時低下を伴って透過率を増加させる。窒素を追加することの屈折率に及ぼす影響は、特に、10%の窒素またはより低い範囲内の窒素の割合に対して、水素化の影響をはるかに下回る。故に、この修正は、角度シフト、ピーク透過率、およびフィルタ帯域幅の改良された制御を伴う、範囲800~1100nm内で動作する近赤外線干渉フィルタの製作を可能にする。
【0024】
一方、所与の通過帯域幅に対して、a-Si:H,Nをa-Si:Hの代わりに使用することは、通過帯域における改良された透過率を提供することができる。このアプローチでは、a-Si:H,Nをa-Si:Hの代わりに使用することは、同じ屈折率ステップ(故に、同じスペクトル通過帯域幅)を有する等価なa-Si:H系素子と比較して、改良された透過率を伴う、通過帯域内の近赤外線干渉フィルタの製作を可能にする。実際、本発明者らは、この設計パラダイムにおいて、そのようなフィルタの実践的動作範囲が750nmまで拡張されることができることを見出した。
【0025】
当業者は、開示されるa-Si:H,N系干渉フィルタによって包含されるスペクトル範囲が、850nm光学データ通信窓等の技術的重要な通過帯域を包含することを認識するであろう。
【0026】
この範囲内で動作するいくつかの干渉フィルタ用途において、別の考慮点は、通過帯域の角度シフトである。概念上、角度シフトは、直角入射からの角度偏差の増加とともに増加する、層通した光線経路長から生じる。経路長におけるこの増加は、位相遅延の変化に対応し、それは、建設的/相殺的干渉に影響を及ぼし、角度シフトを導入する。層を通した直角入射経路長が、dである場合、材料内を角度θにおいて層を通る経路長(直角入射のための法線、すなわち、θ=0からずれて測定される)は、d’=d/cos(θ)である。θは、スネルの法則に従って、干渉フィルタに衝突する光の入射角θに関連するので、周囲が空気(n=1)であると仮定すると、これは、θ=arcsin(θ/n)につながり、式中、nは、層の屈折率である。恒等式
【数1】

の使用は、これを
【数2】

として書かれることを可能にする。したがって、角度シフト効果は、層の小さな屈折率nによって悪化させられることが分かる。
【0027】
従来の干渉フィルタ設計では、典型的には、高屈折率層と低屈折率層との間の屈折率対比を最大化することが所望される。ケイ素系干渉フィルタでは、高屈折率層は、a-Si:Hである(本明細書に開示されるように、a-Si:H,Nによって置換され得る)一方、二酸化ケイ素(n約1.4~1.5を有するSiO)は、低屈折率層としての役割を果たす。しかしながら、本明細書ではより高い屈折率材料を干渉フィルタの一部または全部の低屈折率層におけるSiOの代わりに使用することによって、750~1000nm範囲内で動作する干渉フィルタにおいて低減させられた角度シフトを得ることが開示される。いくつかの検討される実施形態では、代用層は、1.9~2.7(それらの値を含む)の範囲内の屈折率を有する、誘電層である。これらの値を提供するいくつかの好適なSi-適合材料として、窒化ケイ素(n約2.0~2.2を有するSi)、酸窒化ケイ素(yが1.9以上の屈折率を提供するために十分に大きいSiO)、五酸化タンタル(n約2.1~2.2を有するTa)、五酸化ニオブ(n約2.3~2.4を有するNb)、または二酸化チタン(n約2.6を有するTiO)が挙げられる。本明細書に示される例証的実施形態では、窒化ケイ素(Si)が、使用される。高屈折率a-Si:Hまたはa-Si:H,N層は、低屈折率層との所望の屈折率対比を提供するために十分な水素(および随意に、窒素)含有量を有するべきである。
【0028】
さらに、設計仕様角度のための所望の低角度シフトを得るために、スタックのいくつかのSiO層のみをより高い屈折率誘電材料(例えば、Si)で置換することが十分な場合もある。光学設計ソフトウェア(例えば、光線トレースシミュレータ)が、所望の中心帯域、帯域幅、および角度シフト設計基準特性を達成するために、既知の屈折率を伴う材料に対する層設置および厚さを最適化するために使用されることができる。
【0029】
ここで図1を参照すると、好適な製造システムが、説明される。例証的システムは、スパッタリング堆積を採用するが、しかしながら、真空蒸発、電子ビーム蒸発、またはその他等の他の堆積方法も、想定される。一般に、a.c.またはd.c.スパッタリングのいずれかが、使用され得る。例証的スパッタリング堆積システムは、スパッタリング標的ホルダ12と、基板回転ラック14とを含むプロセスチャンバ10を含む。例証的堆積に対して、ケイ素標的16(例えば、ケイ素ウエハ16)が、スパッタリング標的ホルダ12に搭載される。1つ以上の基板20が、基板回転ラック14の中に装填される。基板20は、好適には、着目波長範囲(例えば、800~1000nmまたは750~1000nm)内で透明である、ガラス、シリカ、またはアルミナ等の材料である。
【0030】
スパッタリング堆積では、エネルギー性粒子が、標的16(この場合、ケイ素標的16)に向かって方向付けられ、その粒子は、材料を標的から除去(すなわち、「スパッタリング」)するために十分なエネルギーを有し、それは、次いで、(弾道学的におよび/または磁気もしくは電場の影響下)、基板20をスパッタリングされた材料でコーティングするように、基板20の表面に移動する。例証的スパッタリング堆積システムは、例証的Arガスボトル22または別のアルゴン源からのアルゴン(Ar)ガスをエネルギー性粒子として採用する。イオン化電場が、アルゴン原子をイオン化するために、負のバイアス(-V)を標的16に印加することによって発生され、そして、アルゴン原子は、-V電圧バイアスによって発生された電場の影響下、負にバイアスされた標的16に衝突し、スパッタリングを生産する。一方、基板20は、標的16と比較して、より正にバイアスされ、例えば、基板20は、図1の例証的スパッタリングシステム内で接地される。この例証的構成では、標的16は、電気回路のカソードであり、チャンバ10(および/または基板20、例えば、いくつかの実施形態では、基板回転ラック14が、接地され得る)は、アノードである。アルゴンが、例証的実施形態では、スパッタリングガスであるが、キセノン等のイオン化され得る他の不活性ガスも、代替として、使用され得る。
【0031】
二酸化ケイ素を堆積するために、酸素(O)ボトル24または他の酸素源が、提供される。窒素添加剤を伴う水素化非晶質ケイ素(a-Si:H,N)を堆積するために、水素(H)ボトル26または他の水素源(例えば、アンモニアNHまたはシランSiH)と窒素(N)ボトル30または他の窒素源とが、提供される。(図式的に示される)ガス入口マニホールド32が、スパッタリング堆積プロセス中、所望のガス混合物をプロセスチャンバ10の中に入れるために提供される。流量調整弁34が、それぞれ、Ar、O、H、およびNの流量を設定するように調節可能である。プロセスチャンバ10は、好適な排気口36とも接続され(例えば、スクラバまたは同等物を用いて)、ガスをチャンバ10から排出する。他のガス源を例証的O、H、およびNボトルの代わりに使用することも想定される。他の好適な窒素ガス源として、アンモニア(NH)またはヒドラジン(N)が挙げられる。窒素および水素の両方を含む、アンモニアまたはヒドラジン等のガス源を使用するとき、較正が、a-Si:H,N層の中への窒素および水素の相対的組み入れを考慮するために行われるべきである。基板温度、標的バイアス(-V)、プロセスチャンバ圧力、総流量等のプロセスパラメータは、窒素対水素の相対的組み入れに影響を及ぼし得る。2つの弁VA、VBが、SiOを堆積することとa-Si:H,Nを堆積することとの間で切り替えるために提供される。弁VAは、酸素源24からガス入口マニホールド32の中への酸素の進入を制御する一方、弁VBは、水素および窒素源26、30からの水素/窒素混合物の進入を制御する。SiO堆積とa-Si:H,N堆積との間の高速切り替えを可能にするために、弁VA、VBは、自動化された弁であり、そのアクチュエータは、フィルタ手順42に従って、電子スパッタリングコントローラ40によって制御される。例えば、スパッタリングコントローラ40は、デジタル/アナログ(D/A)コンバータと、高電圧源と、マイクロプロセッサまたはマイクロコントローラとを備え得、マイクロプロセッサまたはマイクロコントローラは、フィルタ手順42に従ってそれぞれの弁VA、VBを開放または閉鎖するための電気作動信号を発生させるD/Aコンバータを動作させることと、電圧源を動作させ、電圧-Vを標的/カソード16に印加することとを行うようにプログラムされる。図1に示される右下の差込表50は、SiOおよびa-Si:H,Nを堆積するための弁VA、VBに関する設定を要約する。SiOを堆積するために、弁VAは、開放し、酸素がガス入口マニホールド32に入ることを許す一方、弁VBは、閉鎖され、水素および窒素源をオフにする。結果として生じるプロセスガスは、アルゴン/酸素混合物である。a-Si:H,Nを堆積するために、弁VAは、閉鎖され、酸素を阻止し、弁VBは、開放され、アルゴン/水素/窒素混合物を備えているプロセスガスがガス入口マニホールド32に入ることを許す。アルゴン源22は、弁VA、VBから独立してガス入口マニホールド32に接続されることに留意されたい。別個の手動で動作可能な遮断弁(図示せず)が、典型的には、各ガス源22、24、26、30のために提供され、自動弁VA、VBから独立して各ガス源の手動遮断を可能にする。
【0032】
より高い屈折率材料を低屈折率層のうちのいくつかに代えて使用することがさらに所望される場合、追加のガス源が、好適な弁類とともに提供され得る。図1の例証的システムでは、追加の窒素(N)ボトル25または他の窒素源が、提供され、窒化ケイ素(Si)層を堆積するために、弁VCによって制御される。表50にさらに示されるように、Siの堆積は、弁VCが開放し、弁VAおよびVBの両方が閉鎖されるときに得られる。SiOの堆積と同様に、窒化ケイ素のケイ素成分は、ケイ素系スパッタリング標的20によって供給される。所望の化学量論は、好適な較正実行を使用して、窒素ボトル25上の流量調整弁によって設定される。図1には図示されないが、類似設定が、弁VBが閉鎖した状態で弁VA、VCの両方を開放することによって、1.9以上の屈折率を伴うSiOを堆積するために使用され得ることを理解されたい。ケイ素(例えば、Ta、Nb、またはTiO)を含まない誘電層の代わりに使用するために、標的ホルダ12は、ケイ素標的で装填された複数の標的スロットと、非ケイ素含有誘電層を堆積することにおいてに使用するための、例えば、タンタル、ニオブ、またはチタンを含む好適な標的で装填された別のスロットとを有し得る。代替として、タンタル、ニオブ、チタン等は、ガス源または他の源によって提供され得る。
【0033】
図1の製作システムを使用して好適に行われる例証的干渉フィルタ製作プロセスが、次に説明される。最初に、全ガス源22、24、26、30が、手動で閉鎖され、プロセスチャンバ10が、大気圧にされ、開放され、標的16が、標的ホルダ12上に装填され、基板20が、基板回転ラック14上に装填される。プロセスチャンバ10は、次いで、閉鎖され、標的真空レベルまで排気される。さらなる設定として、流量調整弁34が、所望の流量に手動で設定される。(代替として、流量調整弁は、スパッタリングコントローラ40の自動制御下にあることも想定され、その場合、調整弁は、フィルタ手順に提供される値に従って好適に設定される)。
【0034】
スパッタリング堆積は、ガス入口マニホールド32を介して適切なプロセスガスを流動させ、電場によって駆動され、ケイ素をケイ素標的16からスパッタリングする、Ar原子をイオン化するために、カソードバイアス-Vを標的16に印加することによって開始される。特定の始動順序は、特定のスパッタリング堆積システムおよび他の設計考慮点に依存する。例えば、あるアプローチでは、プロセスガス流が、最初に開始され、次いで、カソードバイアス-Vが、印加され、スパッタリング堆積を開始する。代替として、バイアスは、不活性ガス流動下で印加され、スパッタリング堆積は、適切なプロセスガスを入れることによって開始されることができる。
【0035】
スパッタリング中、弁VAおよびVB(および随意にVC)は、SiO(および/または随意にSi)を堆積することとa-Si:H,N層を堆積することとの間で交互するために、フィルタ手順42および表50の弁設定に従って、開放および閉鎖される。層厚は、堆積時間および較正堆積から得られる堆積率の先験的知識に基づいて制御される。層組成物は、較正堆積に基づいて設定される流量調整弁34の設定によって制御されるプロセスガス混合物に基づいて決定される(パラメータも、層組成物にも影響を及ぼし得るので、そのような較正堆積は、較正試験マトリクス内の基板温度、標的バイアス(-V)、チャンバ圧力、および総流量等のプロセスパラメータも含むべきである)。干渉フィルタ層のスタックの堆積が完了された後、プロセスガス流およびバイアス電圧-Vは、除去され(再び、特定の遮断順序は、特定の堆積システムおよびその他に依存する)、プロセスチャンバ10は、大気圧にされ、開放され、コーティングされた基板20は、装填解除される。
【0036】
図4を参照すると、そのように製作された干渉フィルタ100の概略表現が、示される。フィルタは、基板102(例えば、基板回転ラック14上に最初に装填される、ガラス、シリカ、またはアルミナ基板)と、a-Si:H,N 104およびSiO 106および/またはSi 108の交互する層とを含む。例証的干渉フィルタ100では、基板102に直接隣接する層は、a-Si:H,N層104であるが、他の実施形態では、誘電層は、基板に直接隣接し得る。例証的干渉フィルタ100では、最上層は、a-Si:H,N層104であるが、他の実施形態では、誘電層が、最上層であり得る。例証的スタックは、直接隣接するSiO/Si層の事例を含み、それは、設計に従う場合、含まれ得る。例証的干渉フィルタ100は、層スタック110、112を基板102の両側に含む。そのような素子を製造するために、スパッタリングチャンバは、開放され、基板は、基板回転ラック14上で「裏返し」にされる必要があり得る。(代替として、基板回転ラック14は、チャンバを押し破ることなく、そのような操作がロボットで行われることを可能にするように構成され得る)。2つのフィルタ側110、112を伴うそのようなフィルタは、例えば、通過帯域フィルタであり得、片側のスタックは、高域通過フィルタであり、他側のスタックは、低域通過フィルタである。そして、通過帯域は、高域通過フィルタより上でカットオフされ、かつ低域通過フィルタより下でカットオフされた波長範囲によって画定される。
【0037】
この種類のフィルタの公知の用途は、ケイ素検出器を使用する用途におけるものである。これらの波長は、特に、光源ならびに検出器が存在する、能動素子において有用である。このスペクトル領域において、LEDおよびレーザは、容易に利用可能であり、それらは、安価、豊富、かつ効率的である。いくつかの主要用途として、限定ではないが、ヒト-機械(例えば、コンピュータ)相互作用の赤外線ジェスチャ制御、自動車のための赤外線暗視、LIDAR、セキュリティカメラのための赤外線暗視、および携帯電話およびその他で使用される近接CMOSセンサが挙げられる。これらの用途では、有用波長は、700~1100nmである。この範囲では、a-Si:H,Nは、光学用途のために好適な高屈折率材料である。この範囲内の典型的屈折率は、3.3~3.5である一方、比較として、TiOは、わずか約2.3~2.4の屈折率を有する。いくつかの好適な実施形態では、a-Si:H,N層は、2%~8%の水素と、3%~7%の窒素とを含み、残りは、Siである。一般に、より多くの水素および窒素含有量は、より短い波長動作を提供する。一般に、6%~12%の高窒素濃度が、想定される。
【0038】
例証的実施形態では、a-Si:H,N層104は、SiO層106と交互する。SiOはa-Si:H,Nとの良好な化学的適合性と、a-Si:H,Nとの界面に大屈折率ステップを提供する低屈折率(n約1.5)とを含む、この目的のための有利な特性を有する。しかしながら、別の誘電層をSiO層の代わりに使用することも想定される。例えば、誘電体は、正確なSiO化学量論を有していなくてもよく、例えば、SiOは、SiOによって置換され得、式中、xは、精密に2ではない(また、本明細書では、「亜酸化ケイ素」とも称される)。
【0039】
別の実施例として、酸窒化ケイ素(SiO)層が、SiOの代わりに、誘電層として想定される。一般に、SiOからSiOとなるように窒素を追加すると、屈折率は、窒素含有量に伴って増加する。例えば、化学量論的窒化ケイ素(Si)は、屈折率約2.0を有する。しかしながら、少量の窒素(すなわち、SiO、式中、x約2およびx>>y)が、a-Si:H,N層104と隣接する誘電層との間の界面品質を改良することも想定される。これらの化合物は、新規材料組み合わせの構築および継続的に変動する屈折率プロファイルを可能にする、屈折率調整をもたらす。
【0040】
成分層の屈折率を与えられた場合、成分層厚を設計するためのいくつかの好適な設計方法は、以下に基づく。一般に、層内の波長λは、λ=λ/nによって与えられ、式中、λは、自由空間波長であり、nは、屈折率である。より高い屈折率の表面からの反射は、180位相シフトを導入する一方、位相シフトは、より低い屈折率の表面からの反射によっては導入されない。これらの原理を使用して、成分層の屈折率を与えられた場合、成分層の厚さは、設計基準通過帯域中心波長に対して、各層を通り、次の層とのその界面で反射された光学経路長が、建設的に組み合わせられるように、すなわち、波長の整数倍算であるように選定される。成分層厚(およびこれらがまた、最適化されたパラメータである場合、屈折率)を選定するためのより精巧な干渉フィルタ設計技法は、H.Angus Macleod、THIN-FILM OPTICAL FILTERS、FOURTH EDITIONE(Series in Optics and Optoelectronics、CRC Press 2010)において与えられる。
【0041】
例証的干渉フィルタは、2つの層の反復ユニットを含むが、a-Si:H,N層および2つの異なる誘電層等の3つ以上の層を反復ユニットの中に組み込み、所望の通過帯域特性(例えば、中心波長、FWHM、通過帯域の「平坦性」等)を達成することも想定される。
【0042】
本開示は、例示的実施形態を参照して説明された。明白なこととして、修正および改変が、前述の発明を実施するための形態の熟読および理解に応じて、当業者に想起されるであろう。本開示は、添付の請求項またはその均等物の範囲内にある限り、全てのそのような修正および改変を含むものと解釈されることが意図される。
【0043】
さらに非限定的開示は、特許請求項としてまとめられた以下の1文記述において記載される。
図1
図2
図3
図4