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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】電気駆動機械の固定子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/10 20060101AFI20240604BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20240604BHJP
   H02K 1/20 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H02K15/10
H02K9/19 A
H02K1/20 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022082732
(22)【出願日】2022-05-20
(65)【公開番号】P2022183051
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】10 2021 113 691.1
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510238096
【氏名又は名称】ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D-70435 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100202647
【弁理士】
【氏名又は名称】寺町 健司
(72)【発明者】
【氏名】トビアス エンゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン エクスレン
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/086227(WO,A1)
【文献】特開2020-089260(JP,A)
【文献】実開昭57-168976(JP,U)
【文献】特開2016-116443(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0007000(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102019112830(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102019117373(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/10
H02K 9/19
H02K 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気駆動機械の固定子であって、
前記固定子は本体(1)を備え、
前記本体は、
回転子を収容するための空洞(12)と、
巻線の導電体(7)を収容するための、前記本体(1)を通って軸方向に延びる複数のスロット(2)であって、内部が前記本体(1)から電気的に絶縁され、流体密であるスロット(2)と、を有し、
それぞれのエンドプレート(4)が、前記固定子の各端部に形成され、前記本体(1)に流体密に取り付けられ、それにより流体が前記エンドプレート(4)と前記本体(1)との間に入って前記本体(1)の前記空洞(12)に達することができないことを保証し、
前記エンドプレート(4)が径方向部品(5)及び軸方向部品(6)を有し、前記軸方向部品(6)が挿入体(8)を有し、前記挿入体(8)が、前記エンドプレート(4)の材料でオーバーモールド成形された材料繊維を含む、固定子。
【請求項2】
前記挿入体(8)が、繊維強化プラスチック複合材を含む、請求項1に記載の固定子。
【請求項3】
前記挿入体(8)の表面が、前記エンドプレート(4)の表面に対応する、
請求項1に記載の固定子。
【請求項4】
前記挿入体(8)が、前記エンドプレート(4)の前記軸方向部品(6)に対応する、請求項1に記載の固定子。
【請求項5】
請求項1-4のいずれか1項に記載の固定子を製造するための方法であって、
前記本体(1)を提供するステップと、
スロット絶縁体(3)を提供し、それにより前記スロット(2)のおのおのの内部が前記本体(1)から電気的に絶縁され、流体密であることを保証するステップと、
前記本体(1)の2つの端部それぞれに、それぞれのエンドプレート(4)を形成するステップであって、前記エンドプレート(4)が前記本体(1)に流体密に取り付けられ、それにより流体が前記エンドプレート(4)と前記本体(1)との間に入って前記本体(1)の前記空洞(12)に達することができないことを保証するステップと、
を含む方法。
【請求項6】
前記エンドプレート(4)を形成する前記ステップが、
前記エンドプレート(4)の材料で材料繊維を少なくとも部分的にオーバーモールド成形することによって前記エンドプレート(4)を製造し、前記オーバーモールド成形された材料繊維が前記挿入体(8)を形成することと、
前記本体(1)の前記2つの端部それぞれに、それぞれのエンドプレート(4)を取り付けることとを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エンドプレート(4)を形成する前記ステップが、
前記エンドプレート(4)の材料で前記挿入体(8)をオーバーモールド成形することによって前記エンドプレート(4)を製造し、前記挿入体(8)が繊維強化プラスチック複合材を含むことと、
前記本体(1)の前記2つの端部それぞれに、それぞれのエンドプレート(4)を取り付けることとを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記挿入体(8)の表面が前記エンドプレート(4)の表面に対応する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記エンドプレート(4)を形成する前記ステップが、
前記エンドプレートの前記径方向部品(5)を、前記本体(1)の前記対応する端部に取り付けることと、
前記挿入体を前記エンドプレート(4)の前記径方向部品(5)に取り付けることとを含む、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気駆動機械の固定子及びその製造方法に関し、電気駆動機械は、特にハイブリッド又は電気車両を駆動するために、固定子が挿入された状態で使用することができる。
【背景技術】
【0002】
電気車両の着実な増加と共に、現在では、駆動性能の観点から、内燃機関によって従来駆動されている最良のスポーツカーを凌ぐことさえある市販の高性能の電気車両もある。液体冷却を用いる電気モータは、それに対応して敏捷性があり高トルクの駆動に使用され、連続的な高出力を利用可能にする。液体冷却によって、固定子巻線に熱の形で生じる電力損失を効率的に放散することができる。このために、電気機械のハウジングは冷却チャネルシステムを含み、そこを通って液体クーラントが流れる。電気モータで生成された熱は、熱伝導及び対流によってクーラントに放散される。クーラントクーラにおいて、吸収された熱が環境に解放され、その結果、クーラントはさらに冷却され、閉回路内で電気機械のハウジングに戻される。
【0003】
多くの電気機械では、巻線オーバーハングは電力制限構成要素であり、巻線オーバーハングは、動作中に最大許容又は耐久温度に達する電気機械の部分であるため、固定子スロットの外側に位置される巻線又はフラットワイヤ巻線の部分を意味すると理解される。このために、冷却システムの狙いは、巻線オーバーハングとクーラントとの間の熱伝達をできるだけ良好にすることである。したがって、巻線オーバーハングは、キャスティング化合物で含浸されることがよくある。さらに、オイルが巻線オーバーハングの周りを直接流れるという概念がある。オイルは、従来のクーラントの代わりとなる。この場合、オイルが固定子と回転子との間のエアギャップに入らないことを保証しなければならない。オイルがエアギャップに入ると、高い摩擦損失をもたらすからである。これを実現するために、これらの概念では、固定子空間は、非磁性材料から、例えば繊維強化プラスチックから製造されたスリーブによって封止されることが多い。しかし、固定子空間をライニングすることで、固定子と回転子との間の「磁気エアギャップ」がより大きくなり、それにより電気機械の効率及び最大可能トルクを低減するという欠点を有する。これは、小さい壁厚で高い強度及び剛性を有するようにスリーブを具現化することによって抑制することができる。この例は、(特許文献1)及び(特許文献2)で見ることができる。
【0004】
よりいっそう効率的に熱損失を放散するために、直接的な巻線冷却を用いる電気機械が先行技術から知られており、冷却媒体は、巻線ワイヤが位置されるスロットを通して直接案内される。したがって、冷却媒体は完全に銅巻線の周りを流れ、より大きな表面積を熱伝達に利用可能にし、廃熱をより良好に放散することを可能にする。
【0005】
直接的な巻線冷却は、例えば(特許文献3)で知られている。直接的な巻線冷却を実施するために、固定子空間を封止する構成要素が固定子内に直接積層され、その場で(in situ)押圧され、熱を加えて硬化される。摩擦係止及びまた部分的には嵌合係止(接着)接続によって、「ライナ」は、動作中に固定子空間の高圧に耐えることができる。ライナと積層固定子コアとは、互いに分離不能に接続されている。積層は、例えばガラス繊維強化プラスチック(GRP)によって、比較的安価な材料を使用すること及びライナの小さい壁厚を実現することを可能にする。この代替として、例えば巻線プロセスで、本質的に安定したスリーブを製造することができる。スリーブは、固定子とは別個に製造及び硬化され、固定子製造プロセス中、いつでも軸方向で固定子に挿入することができる。この場合、スリーブは、積層固定子コアから分離することができる部分を形成し、例えば修理時に取り外すことができ、適切であれば交換することができる。スリーブは、積層固定子コアとの接続を成さないので、動作中、固定子空間内の冷却流体の外圧に耐えることができるように、より高い剛性及び強度の材料から製造しなければならない。したがって、この場合、例えば炭素繊維又はザイロン(Zylon)繊維を使用することができる。さらに、スリーブの壁厚は、概してライナの壁厚より大きくなければならない。安定化のために、スリーブを局所的に、特に巻線オーバーハングの下で厚くしなければならない。巻線オーバーハングの下では、スリーブは「自立」しており、積層固定子コアの一部による支持なしで冷却流体の圧力に晒される。ここで、安定化は、依然として回転子を軸方向で電気機械に導入することができるように行われる。すなわち、一方では径方向内側で、他方では径方向外側で厚さを増加しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】独国特許第10 2010 055 821B4号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2016 101 705A1号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2017 102 141号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の先行技術に照らして、本発明の基礎となる目的は、固定子を提供することであり、この固定子では、固定子スロットを通る、したがって巻線導体又はワイヤの周りを通る冷却流体のための流通空間が低コストで確実に提供され、冷却流体が回転子空間に、したがって回転子と固定子との間のエアギャップに入ることができないことを保証する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、独立請求項に記載の方法及びデバイスによって実現される。さらなる実施形態は、従属請求項に定義される。
【0009】
本発明による製造方法及びそれに従って製造することができる固定子は、既に流体密に設計されているスロット絶縁体を有する固定子に、それぞれの端部でエンドプレートを提供する手法に基づき、エンドプレートは、スロット絶縁体及び周囲の固定子ハウジングに流体密に接続され、耐負荷性又は構造的な構成要素強度を増加するための挿入体を有する。
【0010】
エンドプレートの軸方向部品は、冷却流体の液圧によって負荷をかけられ、それに対応して安定に具現化されなければならない。しかし、軸方向部品の最大可能な壁厚は、周囲の構成要素によって制限される。すなわち、巻線オーバーハングの内径が軸方向部品の最大外径を決定し、回転子の外径が軸方向部品の最小内径を決定する。その結果、冷却チャネルを通って流れる冷却流体の作動圧力に応じて、軸方向部品の耐負荷性が重大になり得る。本発明は、この目的のための補助を提供し、特に、(挿入体を有さない)エンドプレートの材料の機械的特性が、電気機械の動作中に冷却流体の液圧に耐えることができる、軸方向領域で十分に細い/薄いエンドプレートを製造するのに十分でない場合に有利である。別の見方をすると、本発明による方法は、低コストであり容易に加工可能な材料、例えば短繊維強化プラスチックをエンドプレートに使用することを可能にし、したがって、必要な構成要素強度を挿入体によって補償する又は「埋め合わせる」ことを可能にする。
【0011】
本発明によれば、固定子を製造するための方法が提供される。この方法は、固定子の本体を提供するステップであって、本体が、回転子を収容するための空洞と、巻線を収容するための、本体を通って軸方向に延びる複数のスロットとを有する、ステップを含む。本体は、好ましくは積層コアを備えることができる。本発明に従って製造される固定子は、固定子巻線の直接冷却を用いる固定子であり得る。
【0012】
この方法は、スロット絶縁体を提供するステップをさらに含み、それにより各スロット内部が本体から電気的に絶縁され、流体密であることを保証する。スロット絶縁体は、各スロットに一部片として形成することができ、流体密であり、高い絶縁耐力を有する電気的に及び好ましくは磁気的に非伝導性の材料から作ることができる。通常、この目的のためにプラスチック、例えば、流体密ではないがNomex-Kapton-Nomex(NKN)、又は流体密であり且つ電気的に絶縁性でもあるポリエーテルエーテルケトン重合体(PEEK)を使用することができる。一般に、スロット絶縁体は、直接射出成形することができ、又は別個に製造してスロットに挿入/配置することができる。
【0013】
この方法は、本体の2つの端部それぞれに、それぞれのエンドプレートを形成するステップであって、エンドプレートが本体に流体密に取り付けられ、それにより流体がエンドプレートと本体との間に入って本体又は固定子の空洞に達することができないことを保証するステップをさらに含む。さらに、エンドプレートは、径方向部品及び軸方向部品を有し、軸方向部品は挿入体を有する。挿入体は、エンドプレートの軸方向部品に、エンドプレートの径方向部品の材料から製造するよりも高い構成要素強度を与える構造強化挿入体である。挿入体は、エンドプレートの軸方向部品の軸方向広がり全体にわたって又はその一部にわたって延びることができる。例えば、挿入体は、構造的に安定した中空シリンダにすることができ、特に、エンドプレートの軸方向部品の一部を形成する又はエンドプレートの軸方向部品に対応するエンドプレート材料から製造された同一の中空シリンダと比較して、構造的により安定した中空シリンダにすることができる。その結果、挿入体は、エンドプレートの軸方向部品を強化する「コルセット」とみなすことができる。
【0014】
エンドプレートの形成は、例えば射出成形による材料からのエンドプレートの基本的な製造という意味での実際の形成と、本発明による方法の一部として行われる、既に予め作製されているエンドプレート又はエンドプレート部品の固定子への締結又は取付けという意味での形成とのどちらの意味としても理解することができる。締結又は取付けという意味での形成の場合、軸方向部品と径方向部品とは互いに別個に本体に締結する又は取り付けることができる。例えば、エンドプレートの軸方向部品は、別個の構成要素でよく、最初に本体に流体密に締結されたエンドプレートの径方向部品に後付けで流体密に取り付けることができる。
【0015】
エンドプレートは本体に流体密に取り付けられ、それにより流体がエンドプレートと本体との間に径方向に、したがって固定子と固定子に挿入された回転子との間のエアギャップに入ることができないことを保証する。固定子巻線の導電体は、エンドプレートに接して位置するので、エンドプレートは電気絶縁体、例えば適切であれば繊維強化されたプラスチックから同様に製造される。エンドプレートは、軸方向領域及び径方向領域、又は軸方向部品及び径方向部品を有し、軸方向部品は固定子の長手方向軸に沿って(しかし平行にずれて)延び、それに対応して、径方向部品は固定子の長手方向軸に垂直に延びる。したがって、エンドプレートの軸方向部品は、幾何学的に実質的に中空シリンダであり得て、中空シリンダの開口部は、固定子空間の開口部に平行に配置される。エンドプレートの径方向部品は、幾何学的に実質的に、固定子空間の開口部に平行に配置された同心状の開口部を有する円形ディスクであり得る。スロット絶縁体は、本体の端部に、それぞれのエンドプレート、特にエンドプレートの径方向部品に流体密に接続される。構成要素が熱可塑性プラスチックを含む場合、接続は溶接及び/又は接着結合によって達成することができる。さらに、エンドプレートは、製造プロセスで、スロット絶縁体に「一体成形(mold on)」することができ、すなわち射出成形によってスロット絶縁体に一体に成形することができる。
【0016】
エンドプレートの軸方向部品は、シールによって固定子ハウジングから封止される。このシールは、エンドプレート及び固定子ハウジングに径方向で及び/又は軸方向で接して位置することができる。エンドプレートを積層コアに軸方向で流体密に取り付けることは、例えばエンドプレートを本体の端部に成形することによって、個別製造及び接着接合(例えば環状接着マットを用いて、局所的にリングとして若しくは表面全体にわたって)によって、又は従来のシール(Oリングやガスケットなど)と併せた個別製造によって達成することができる。
【0017】
スロット絶縁体の流体密の実施形態、及びエンドプレートへのスロット絶縁体の流体密の取付けは、巻線オーバーハングの領域に及びスロット内に、回転子空間に対して流体密である流通空間を生じさせる。巻線で生じる熱損失を放散するために、この空間を通って非導電性の流体が流れる。流通領域の境界は、巻線オーバーハング領域において、ハウジング及びエンドプレートによって予め決定される。スロットの領域では、流通領域はスロット絶縁体によって範囲を定められる。このようにして、冷却流体は、ほぼ完全に巻線の周りを流れることができ、したがって巻線を理想的に冷却することができる。
【0018】
さらなるステップでは、本発明による方法は、本体のスロットに導体(例えば銅導体)を挿入することを含むことができる。次いで、導体は、所望の回路パターンに従って互いに電気的に接触され、固定子巻線を形成する。
【0019】
本発明による方法は、エンドプレートの軸方向部品が挿入体を有するという特徴を除いて、独国特許出願公開第10 2017 102 141A1号明細書で実現され得ることを指摘しておく。
【0020】
本発明による方法のさらなる実施形態によれば、エンドプレートを形成するステップは、エンドプレートの材料で材料繊維を少なくとも部分的にオーバーモールド成形することによってエンドプレートを製造し、オーバーモールド成形された材料繊維が挿入体を形成することと、本体の2つの端部それぞれに、それぞれのエンドプレートを流体密に取り付けることとを含むことがある。この場合、挿入体は、純粋な繊維、例えばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などを含むことができる。オーバーモールド成形プロセス中、繊維は同時に含浸される。
【0021】
本発明による方法のさらなる実施形態によれば、エンドプレートを形成するステップは、エンドプレートの材料で挿入体をオーバーモールド成形することによってエンドプレートを製造し、挿入体が繊維強化プラスチック複合材を含むことと、本体の2つの端部それぞれに、それぞれのエンドプレートを流体密に取り付けることとを含むことがある。この場合、挿入体は、別個に製造された部品の形でよく、例えば繊維強化プラスチック複合材を含むことができる。エンドプレート材料での挿入体のオーバーモールド成形は、部分的なオーバーモールド成形(例えば一体成形)又は完全なオーバーモールド成形を含むことができる。さらに、挿入体のこの少なくとも部分的なオーバーモールド成形は、固定子に直接行うことができ、したがってエンドプレートは、その全体又は少なくともその軸方向部品が本体に同時に成形される。
【0022】
本発明による方法のさらなる実施形態によれば、挿入体の表面は、エンドプレートの表面に対応することがある。換言すると、挿入体を、エンドプレート材料で完全にはオーバーモールド成形しなくてもよく、対応する固定子又はエンドプレートの製造中に、挿入体の表面の1つが少なくとも部分的に露出されるように成形することもできる。1つの例示的実施形態では、挿入体が径方向内側に位置することができ、すなわち固定子の内部に面するエンドプレート表面を形成することができる。これは、特に、挿入体が内側で非常に良好な表面を伴って具現化され得る場合又は内側で非常に良好な表面を有する場合に有利になり得る。さらなる例示的実施形態では、挿入体は径方向外側に位置することができ、すなわち固定子の内部とは反対側に面する表面、又は換言すると、巻線オーバーハングの領域にある冷却チャネルの一部に面するエンドプレート表面を形成することができる。これは、特に、挿入体の表面が比較的低い品質であるとき有利であり得る。例示的実施形態の1つを選択することによって、径方向封止表面が高い表面品質であることを保証することが可能であり、封止効果を確実に保証することができる。固定子の特定の構成に応じて、一方又は他方の実施形態が有利になり得る。表面の高品質又は低品質とは、エンドプレートをスロット絶縁体及び/又は本体に取り付けるための上で説明した方法の1つに関する表面の適合性を表すと理解することができる。
【0023】
さらに、関連の材料、すなわちエンドプレートの材料及び挿入体の材料の特性を適切に利用することができる。動作中、挿入体とエンドプレート材料とが互いから離れないことが重要である。例えば、製造中に高温であり、挿入体がエンドプレート材料よりも高い熱膨張率を有する場合、挿入体を径方向外側でエンドプレートの軸方向部品に位置することができる。これは、その場合、挿入体が常にエンドプレート材料に「収縮」する又はエンドプレート材料に向けて膨らむからである。他方、挿入体が径方向内側に位置され、製造中に高温である場合、それに従って、優先的に挿入体の熱膨張率がエンドプレート材料の熱膨張度よりも小さくされ得る。
【0024】
この方法のさらなる実施形態によれば、エンドプレートを形成するステップは、エンドプレートの径方向部品を本体の対応する端部に流体密に取り付けることと、挿入体をエンドプレートの径方向部品に流体密に取り付けることとを含むことがある。この実施形態では、挿入体は、エンドプレートの軸方向部品に対応し、別個に製造される。このために、合成樹脂で含浸された繊維を、例えばマンドレルに巻き付けて硬化させることができる。既に述べた方法の1つに従ってエンドプレートの径方向部品を本体の端部に流体密に取り付けた後、次いで、別個に製造された挿入体を、例えば接着結合又は溶接によってエンドプレートの径方向部品に流体密に接続することができる。さらなる例示的実施形態では、追加として、エンドプレートの径方向部品に、径方向に囲む接合部を形成することが可能であり、この接合部に、挿入体がその一方の端部で挿入され、挿入体をこの位置で接着結合又は溶接することができ、これにより、径方向部品に取り付けられたときに挿入体にさらに良好な保持力を与えることができる。
【0025】
本発明によれば、電気駆動機械の固定子がさらに提供され、この固定子は、特に、上述した本発明による方法によって製造することができる。したがって、以下に述べる本発明による固定子は、本発明による製造方法に関して述べた全ての構造的及び空間的な特徴、又は製造方法の機能的特徴に対応する構造的及び空間的な特徴を有することができ、その逆も成り立つ。
【0026】
本発明による固定子は、好ましくは積層固定子コアに対応する本体を有し、本体は、回転子を収容するための空洞と、巻線を収容するための、本体を通って軸方向に延びる複数のスロットとを備え、スロットの内部は本体から電気的に絶縁され、流体密である。それぞれのエンドプレートは、固定子の各端部に形成され、本体に流体密に取り付けられ、それにより流体がエンドプレートと本体との間に入って本体の空洞に達することができないことを保証する。エンドプレートは径方向部品及び軸方向部品を有し、既に上述したように、軸方向部品は挿入体を有する。
【0027】
この固定子のさらなる実施形態によれば、挿入体は、エンドプレートの材料でオーバーモールド成形された材料繊維を含むことができる。この場合、材料繊維は、挿入体の材料によって同時に含浸される。
【0028】
この固定子のさらなる実施形態によれば、挿入体は、繊維強化プラスチック複合材を含むことができる。この場合、挿入体は、細い中空シリンダの形であり、例えばオーバーモールド成形してエンドプレートの軸方向部品に完全に埋め込むことができ、又は部分的にのみオーバーモールド成形することができる。一般に、挿入体は、エンドプレートの軸方向部品に接して若しくは軸方向部品内に排他的に配置する若しくは取り付けることができる、又は代替として径方向部品内に突出することができる。挿入体が径方向部品内に突出することができるのは、エンドプレートの径方向部品の2つの表面の連続によって、径方向外側領域で、すなわち固定子の外側に向かって、径方向内側領域へ、すなわち固定子の内側に向かって範囲を定められたエンドプレートの領域内へ挿入体が突出する場合である。挿入体の配置の選択は、取り得る決定パラメータの例を2つ挙げると、材料の幾何学的寸法と熱膨張率とを考慮して、個々の場合に適合させることができる。
【0029】
固定子のさらなる実施形態によれば、挿入体の表面は、エンドプレートの表面に対応することがある。換言すると、このとき、挿入体はエンドプレートの材料によって完全には囲まれないので、挿入体の表面は露出される。この場合、挿入体は、エンドプレートの軸方向部品に対して径方向外側に又は径方向内側に位置することができる。
【0030】
この固定子のさらなる実施形態によれば、挿入体は、エンドプレートの軸方向部品に対応することがある。換言すると、挿入体はエンドプレートの軸方向部品を形成することができ、一方では本体に、他方ではエンドプレートの径方向部品に流体密に接続することができる。
【0031】
様々な実施形態によれば、本発明による固定子は、複数の冷却チャネルを備える高性能の直接冷却システムを備え、各冷却チャネルは、固定子のスロットを通って延び、流体入口及び流体出口を有し、流体入口及び流体出口はそれぞれ巻線オーバーハングの領域に配置される。したがって、本発明による固定子は、巻線の直接冷却を用いる電気機械を製造するために使用することができる。冷却流体は、大きな損失が生じる場所に正確に案内される。さらに、安価な材料及び製造方法を使用することができる。製造コストは、ライナ又は缶を用いた直接冷却の形態よりも大幅に低い。本発明による固定子は、製造中及び動作中に高い頑強性を提供する。積層固定子コア自体が漏れ防止性である必要がなく、その軸方向長さに構成要素を有する必要がないので、積層固定子コアの組立てに任意の所望の組立て方法を使用することができることをさらに強調しておく。積層コアは、例えば溶接する又は打抜きして組み立てることができる。これらの方法は、例えば、焼き付けエナメルによる組立てよりもかなり安価である。本発明による固定子は、エアギャップに追加の封止を有して又は有さずに実現することができる。流体が回転子空間に、したがってエアギャップに入ることができないことをさらに保証するために、エアギャップの追加の封止が選択される。エアギャップに追加の封止を有さない実施形態では、そこに構成要素はない。その結果、選択されるエアギャップを非常に小さくすることができ、機械のより高い性能及びより高い効率につながる。
【0032】
本発明による製造方法及び本発明による固定子の範囲内では、より高い頑強性及びそれに関連するより低い電気機械の故障の危険性によって、並びに冷却流体システムでより高い圧力を使用できる可能性によって、耐負荷性の大幅な増加が実現される。この結果、使用される冷却流体に関する融通性が大きくなり、特により高い粘性を有することができる。さらに、体積流量を増加させることができ、したがって熱放散の量を増加させることができる。さらに、非常に良好な表面を封止領域に実現することができる。これは、シールを確実に取り付けることができるようにするために、並びに全ての動作範囲で及び電気機械の寿命にわたって電気機械の漏れ防止性を確実に保証することできるようにするために必要であり役立つ。
【0033】
上で言及した特徴及び以下に説明する特徴は、それぞれ特定された組合せだけでなく、本発明の範囲から逸脱することなく他の組合せで又はそれら単独で使用することができることは自明である。
【0034】
本発明のさらなる利点及び実施形態は、本明細書全体及び添付図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】挿入されたスロット絶縁体を有する本発明による固定子の一部の斜視図である。
図2】挿入されたスロット絶縁体及びエンドプレートを有する本発明による固定子の一部の斜視図である。
図3】挿入されたスロット絶縁体と、エンドプレートと、スロットに挿入されている固定子巻線の導電体とを有する本発明による固定子の一部の斜視図である。
図4A】固定子の長手方向軸に沿った、本発明による固定子の一部の断面図である。
図4B図4Aに示される本発明による固定子の一部の、径方向断面B-Bにおける固定子の長手方向軸に垂直な断面図である。
図4C図4Aに示される本発明による固定子の一部の、径方向断面C-Cにおける固定子の長手方向軸に垂直な断面図である。
図5】本発明による固定子の端部の1つの例示的実施形態の断面図である。
図6】本発明による固定子の端部の別の例示的実施形態の断面図である。
図7】本発明による固定子の端部の別の例示的実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1~3は、本発明による固定子の一部の斜視図を示す。異なる図は、本発明による製造方法の異なる段階を示す。図1に示される固定子の状態に先立つ第1のステップにおいて、固定子の本体1が提供され、本体1は、回転子を収容するための空洞と、巻線を収容するための、本体1を通って軸方向に延びる複数のスロット2とを有する。後続のステップにおいて、本発明による方法は、スロット絶縁体3を提供するステップを含み、それにより各スロット内部が本体1から電気的に絶縁され、流体密であることを保証する。本発明による製造方法のこの段階での固定子の状態が図1に示されている。スロット絶縁体3は、固定子スロット2内に成形する、又は完成したスリーブとして固定子スロット2に挿入することができる。
【0037】
本発明による方法の後続のステップ(図2に示される)では、本体1の2つの端部それぞれに、それぞれのエンドプレート4が配置され、各エンドプレート4は、本体1に流体密に取り付けられ、流体がエンドプレート4と本体1との間に入って固定子の空洞に達することができないことを保証する。ここで、エンドプレート4は径方向部品5及び軸方向部品6を有し、軸方向部品6は挿入体8を有する。図2に示されるように、径方向部品5は、本体1の軸方向広がり又は長手方向軸に垂直な平面内で、本体1の端部にシート状に延びる。軸方向部品6は、軸方向広がりに平行に又は本体1の長手方向軸に平行に、全周にわたってシート状に延びる。挿入体8は、図示される例ではエンドプレート4の軸方向部品6に完全に埋め込まれているので破線で示されている。図2に示される固定子の状態は、例えば、挿入体8を本体1の端部に接するように配置し、それをエンドプレート4の材料でオーバーモールド成形することによって実現することができる。それと同時に、エンドプレート4が本体1の端部に成形され、スロット絶縁体3がエンドプレート4に(例えば溶接又は接着結合によって)流体密に接続される。代替として、挿入体8をエンドプレート4の軸方向部品6に挿入して、エンドプレート4の材料でオーバーモールド成形することもができる。別個に製造されたこのエンドプレート4が、次いで、本体1の端部に流体密に取り付けられ、スロット絶縁体3に流体密に接続される。
【0038】
最後に、図3は、本発明による製造方法の任意選択のステップを示し、このステップでは、巻線の導電体7(図示される例では、これらは「プラグイン」コイル(ヘアピンコイル)の銅導体である)がスロット2に挿入され、その後、電気機械の巻線を製造することができる。
【0039】
図4Aは、固定子の長手方向軸Lに沿った、本発明による例示的な固定子の一部の断面図を示す。それに対応して、図4B、4Cは、図4Aに示される本発明による固定子の一部の、径方向断面B-B又はC-C(どちらも図4Aに図示)における図4Aに示される図に垂直な断面図を示す。
【0040】
巻線の直接冷却を提供するために、導電体7の周りの流通空間が固定子に形成され、この空間は、第1のチャンバ10Aと、第2のチャンバ10Bと、対応するスロット2の介在内部とを備え、この介在内部は、導電体7によって占められていない。介在内部は、図4B及び4Cで特によく見ることができるスロット2内の導電体7間の中間空間に対応する。ここで、第1のチャンバ10A及び第2のチャンバ10Bはそれぞれ、巻線の巻線オーバーハング14を備える。生じ得る流体の流れは矢印11によって示される。この流れは、本発明による固定子に基づいて構築される電気機械の動作中にポンプによって提供され、当然、流れの方向は任意に選択される。流通空間は、回転子(図面には図示せず)を収容するための空洞12又は回転子空間に対して流体密になるように設計され、冷却流体が回転子空間に、したがって回転子と固定子との間のエアギャップに入ることができないことを保証する。
【0041】
それぞれが径方向部品5及び軸方向部品6を有するエンドプレートは、(例えばエンドプレート4の材料の溶接、接着結合、又は成形によって)固定子の本体1に流体密に取り付けられ、流体がエンドプレート4と本体1との間に径方向に、したがって図4Aでは空洞12の最上部に対応するエアギャップに入ることができないことを保証する。エンドプレート4の軸方向部品6は、シール9によって固定子のハウジング13から封止されている。図示される例では、シールは、エンドプレート4に接して、特にエンドプレート4の軸方向部品6及びハウジング13に接して径方向に位置する。追加として又は代替として、シール9は、概して、エンドプレートに接して及びハウジング13に接して軸方向に位置することができる。
【0042】
図4Aに示される本発明による固定子の例示的実施形態では、エンドプレート4の軸方向部品6は、その構造的強度を高めるために挿入体8を有する。挿入体8は、エンドプレート4の軸方向部品6に成形される。既に述べたように、挿入体8は、オーバーモールド成形プロセス中にエンドプレート4の材料で含浸された純粋な繊維(ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維など)を含むことができる。代替として、挿入体8は、エンドプレート材料でオーバーモールド成形された繊維強化プラスチック複合材を含むこともできる。図4Aに示される例示的実施形態では、挿入体8は、エンドプレート4の軸方向部品6に(好ましくは完全に)排他的に位置される。
【0043】
図5~7は、本発明による固定子の端部のさらなる例示的実施形態の断面図を示す。図5~7の図は、図4Aに部分図として概略的に含まれているので、同一の要素には同じ参照記号を付してあり、さらに詳細には述べない。
【0044】
図5及び6に示される本発明による固定子は、一方では、挿入体8がエンドプレート4の径方向部品5内に突出する点で、図4Aに示される固定子とは異なる。完全を期すために、図4Aに示される例示的実施形態でも同様に、挿入体8がエンドプレート4の径方向部品5内に延びることもできることを指摘しておく。さらに、図5及び6では、挿入体8はエンドプレート材料で完全にはオーバーモールド成形されず、「一体成形」されるだけである。それにより、挿入体8の表面はエンドプレート4の表面に、より正確にはエンドプレート4の軸方向部品6の表面に対応する。図5では、挿入体8は、軸方向部品6に径方向内側で配置され、図6では、その逆の場合が示され、挿入体8は、エンドプレート4の軸方向部品6に径方向外側で配置される。用語「径方向外側で」及び「径方向内側で」は、固定子及び回転子空間12の長手方向軸Lに対する径方向位置に関する。
【0045】
図7は、本発明による固定子の端部の別の実施形態の断面図を示す。ここで、エンドプレート4の軸方向部品6は挿入体8に対応し、したがって、軸方向部品6はエンドプレート4の材料を含まない。このために、挿入体8を別個に製造し、既に述べた方法の1つで、(例えば接着結合又は溶接によって)本体1の端部に予め取り付けられているエンドプレート4の径方向部品5に流体密に接続することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 本体
2 スロット
3 スロット絶縁体
4 エンドプレート
5 径方向部品
6 軸方向部品
7 導電体
8 挿入体
12 空洞
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7