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特許7498239MAST4遺伝子を利用した細胞外基質生産用組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】MAST4遺伝子を利用した細胞外基質生産用組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240604BHJP
   C07K 14/495 20060101ALI20240604BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240604BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20240604BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20240604BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
C12N15/113 130Z
C07K14/495 ZNA
C12P21/02 C
C12N5/077
A61K31/7105
A61K31/713
A61P19/02
A61P43/00 105
A61P43/00 107
A61K38/18
C12N9/16 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022159928
(22)【出願日】2022-10-04
(62)【分割の表示】P 2019571194の分割
【原出願日】2018-03-08
(65)【公開番号】P2022188178
(43)【公開日】2022-12-20
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】10-2017-0029607
(32)【優先日】2017-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0027111
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519325511
【氏名又は名称】キム,セロン
(73)【特許権者】
【識別番号】519325522
【氏名又は名称】キム,イェン ウォン ジュン
(73)【特許権者】
【識別番号】519325544
【氏名又は名称】キム,イプセ
(73)【特許権者】
【識別番号】519325728
【氏名又は名称】キム,ソン ジン
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ハン ソン
(72)【発明者】
【氏名】高橋,智
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-503643(JP,A)
【文献】特表2016-531147(JP,A)
【文献】国際公開第2017/123951(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MAST4(microtubule associatedserine/threoninekinase family member 4)タンパク質またはその断片コーディングする核酸に特異的に結合することができ、および前記MAST4タンパク質の発現または活性を阻害する化合物を含む、真核細胞で細胞外基質の生産を促進させるための組成物であって、
前記化合物は前記MAST4タンパク質またはその断片をコーディングする核酸に特異的なsiRNAである、組成物。
【請求項2】
前記MAST4タンパク質は、配列番号1ないし7、及び15のうちいずれか1つのアミノ酸配列を含むものであり、前記MAST4タンパク質をコーディングする核酸は、配列番号8ないし14、及び16のうちいずれか1つのポリヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記真核細胞は、線維芽細胞、間葉系幹細胞または軟骨細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、前記真核細胞から軟骨形成を促進する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
関節疾患の予防、治療、または症状の改善のためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記軟骨形成促進は、軟骨再生を誘導するためのものである、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
組織の再生または老化防止に使用するためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、TGF-β1をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1の組成物を含む、関節疾患の予防、治療または改善させるための薬剤。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物を真核細胞と接触させる段階を含む、真核細胞から細胞外基質を生産するインビトロ方法であって、
前記真核細胞は、個体から分離されたものであり、
前記真核細胞と接触させる段階は、前記組成物の存在下で、前記真核細胞を培養する段階を含む、方法
【請求項11】
前記培養する段階は、軟骨形成を誘導する物質の存在下で培養する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
接触産物から細胞外基質を分離する段階をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記真核細胞は、軟骨細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記真核細胞は、間葉系幹細胞である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MAST4(microtubule associatedserine/threoninekinase family member 4)遺伝子を利用し、真核細胞から細胞外基質を生産するための組成物、前記真核細胞から細胞外基質を生産する方法、及び前記組成物を含む軟骨再生促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの骨の形成は、軟骨板(cartilaginous template)で開始するために、成功に至る骨格系の発達は、構造的面と分子的面とにおいて、完璧な協力が要求される。関節軟骨は、高度に組織化された組織であり、それに関与する生体内軟骨形成のメカニズムは、今のところ解明されていない。コラーゲン微小纎維と、それ以外の他の細胞外基質構成タンパク質との相互作用が、軟骨の構造的な完壁性を維持させると知られているが、それらの複雑な過程を調節する信号伝達メカニズムは、まだ明白に明らかにされていない。従って、軟骨形成を主導する中心調節子(master regulator)存在の究明とその機能とを明らかにすることは、学問的に意味が大きいだけではなく、国民健康に寄与することはもとより、それを利用して革新的な治療剤を開発することも可能であろう。
【0003】
MAST4(microtubule associated serine/threoninekinasefamily member 4)は、軟骨で発現すると知られているが(非特許文型B1)、その役割については、明確に究明されていない。特許文献1で、MAST4を利用して軟骨治療を行うことができるということを開示するが、それは、単にMAST4が軟骨で発現するという確率的結果に根づくだけであり、その具体的な役割について明確に究明していない。
本発明者らは、軟骨形成に関与する新たな中心調節子としてMAST4を発見し、MAST4の活性を調節する物質開発のための源泉技術を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】CN105636614
【非特許文献】
【0005】
【文献】BMCGenomics2007、8:165
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一様相は、MAST4(microtubule associated serine/threoninekinase familymember 4)タンパク質またはその断片に特異的に結合することができる化合物、または前記MAST4タンパク質またはその断片をコーディングする核酸に特異的に結合することができる化合物を含む、真核細胞において、細胞外基質の生産を促進させるための組成物を提供する。
【0007】
他の様相は、MAST4タンパク質またはその断片に特異的に結合することができる化合物、または前記MAST4タンパク質またはその断片をコーディングする核酸に特異的に結合することができる化合物を含む、軟骨細胞から、軟骨形成(chondrogenesis)を促進させるための組成物を提供する。
【0008】
さらに他の様相は、前記真核細胞から細胞外基質生産を促進させるための組成物を真核細胞と接触させる段階を含む真核細胞から細胞外基質を生産する方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
一様相による、細胞外基質の生産を促進させるための組成物を利用し、細胞外基質の供給が必要な個体に注入し、関節疾患を含む疾病を予防・治療して症状を改善させることができ、真核細胞から細胞外基質を効率的に生産する方法に適用することができる。
他の様相による、軟骨細胞から軟骨形成を促進させるための組成物を個体に注入し、関節疾患を含む疾病を予防・治療して症状を改善させることができ、個体から分離された軟骨細胞の軟骨再生を促進させ、軟骨再生現象によって生産される細胞外基質を含む多様な成分を効率的に生産する方法に適用することができる。
さらに他の様相による、真核細胞から細胞外基質を生産する方法により、真核細胞から細胞外基質を効率的に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】CRISPR/Cas9システムを利用したMAST4ノックアウトマウスを作製する方法を図式化した図面である。
図2図2Aは、MAST4ノックアウトマウスAタイプ及びBタイプにおいて、各遺伝子の発現量変化をRT-PCRで確認した結果を示した図面である。図2Bは、MAST4が、ノックアウトされたマウスのタンパク質発現状態を確認した図面であるである。
図3】CRISPR/Cas9システムを利用し、MAST4が、ノックアウトされたC3H10T1/2細胞において、MAST4ノックアウトを確認したことを示した図面である。
図4】CRISPR/Cas9システムを利用し、MAST4が、ノックアウトされたC3H10T1/2細胞において、各遺伝子の発現量変化をRT-PCRで確認した結果を示した図面である。
図5】軟骨形成確認のためのマイクロマス培養(micromass culture)において、それぞれの遺伝子発現量の変化を、RT-PCRで確認した結果を示した図面である。
図6】CRISPR/Cas9システムを利用し、MAST4が、ノックアウトされたC3H10T1/2細胞において、軟骨分化程度の差をアルシアンブルー染色で確認した結果を示した図面である。
図7】ヒト細胞のMAST4をノックアウトするために使用された標的配列の情報に係わる図面である。
図8図8Aは、MAST4をsiRNAでノックダウンしたヒト軟骨細胞である。図8Bは、MAST4をCRISPR/Casシステムを利用してノックアウトしたヒト軟骨細胞において、細胞外基質因子の発現程度を示した図面である。
図9】ヒト原性軟骨細胞にTGF-β1を処理した後、MAST4の発現量変化、及びそれによる細胞外基質因子の発現量を示した図面である。
図10】MAST4がノックアウトされたマウスの頚骨において、軟骨の形成及び再生の効果を確認した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一様相による、MAST4(microtubule associated serine/threoninekinasefamily member 4)タンパク質またはその断片に特異的に結合することができる化合物、または前記MAST4タンパク質またはその断片をコーディングする核酸に特異的に結合することができる化合物を含む、真核細胞において、細胞外基質(extracellular matrix)の生産を促進させるための組成物を提供する。
【0012】
他の様相による、MAST4タンパク質またはその断片に特異的に結合することができる化合物、または前記MAST4タンパク質またはその断片をコーディングする核酸に特異的に結合することができる化合物を含む、軟骨細胞から軟骨形成(chondrogenesis)を促進させるための組成物を提供する。
【0013】
一具体例において、前記MAST4タンパク質またはその断片に特異的に結合することができる化合物、または前記MAST4タンパク質またはその断片をコーディングする核酸に特異的に結合することができる化合物は、前記タンパク質またはその断片、または前記核酸に少なくとも部分的に結合することができるものを含む。ここで、前記化合物は、化学的に合成された化合物、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、またはそれらの組み合わせでもある。それらは、MAST4タンパク質の活性または発現を阻害するものでもある。
一具体例において、前記真核細胞において、細胞外基質の生産を促進させるための組成物は、真核細胞から軟骨形成を促進させるためのものである組成物でもある。
【0014】
前記組成物において、前記MAST4タンパク質の活性阻害剤、またはMAST4タンパク質の発現阻害剤は、MAST4の遺伝子の発現を阻害、または前記MAST4タンパク質の活性を阻害するものであるならば、いずれも含まれる。前記活性阻害剤または発現阻害剤は、前記MAST4遺伝子の全部または一部の領域において、相補的なポリヌクレオチドでもある。前記ポリヌクレオチド配列は、RNA、DNA、またはそれらの融合体(hybrid)でもある。
【0015】
一具体例において、前記MAST4タンパク質活性の阻害は、MAST4タンパク質のキナーゼ活性を阻害するものでもある。
【0016】
MAST4は、キナーゼとして標的になる基質のSerまたはThrをリン酸化させることができるので、前記MAST4タンパク質のキナーゼ活性の阻害は、MAST4の標的になる基質のリン酸化、具体的には、SerまたはThrのリン酸化を遮断することを意味する。
【0017】
一具体例において、前記MAST4タンパク質またはその断片に特異的に結合することができるポリペプチド、または前記MAST4タンパク質またはその断片をコーディングする核酸に特異的に結合することができるポリペプチドは、抗体、またはその抗原結合断片でもある。
【0018】
用語「抗体」とは、抗原性部位に対して指示される特異的な免疫グロブリンを意味し、MAST4遺伝子を発現ベクターにクローニングし、前記遺伝子によってコーディングされるMAST4タンパク質を得て、前記タンパク質から、当該技術分野の一般的な方法によって抗体を製造することができる。前記抗体の形態は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を含み、全ての免疫グロブリン抗体が含まれる。前記抗体は、2個の全体長の軽鎖、及び2個の全体長の重鎖を有する完全な形態だけではなく、2個の軽鎖、及び2個の重鎖を有する完全な形態の完全な抗体構造を有さないものの、抗原性部位に対して指示される特異的な抗原結合部位(結合ドメイン)を有し、抗原結合機能を保有している抗体分子の機能的断片も含む。
【0019】
用語「ポリヌクレオチド(nucleotide)」は、取り立てて言及されない限り、ヌクレオチドまたは核酸と同一意味で使用され、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを示し、特別に言及されていない限り、自然のヌクレオチドの類似体、及び糖部位または塩基部位が変形された類似体を含んでもよい。前記ポリヌクレオチドは、必要により、当該技術分野に公知された多様な方法を介して変形させることができる。そのような変形の例としては、メチル化、キャップ化、天然ヌクレオチド1以上の同族体への置換、及びヌクレオチド間の変形、例えば、荷電されていない連結体(例:メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミデート、カルバメートなど)、または荷電された連結体(例:ホスホロチオエート、ポスポロジチオエートなど)への変形がある。
【0020】
一具体例において、前記MAST4タンパク質またはその断片をコーディングする核酸に特異的に結合することができる化合物として、前記MAST4タンパク質またはその断片をコーディングする核酸に特異的に結合することができるポリヌクレオチドは、前記MAST4タンパク質またはその断片をコーディングする核酸に特異的なmiRNA(micro RNA)、siRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、Piwi-相互作用RNA(Piwi-interactingRNA(piRNA))、snRNA(small nuclear RNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、またはそれらの組み合わせでもある。
【0021】
他の具体例において、前記MAST4タンパク質またはその断片をコーディングする核酸に特異的に結合することができる化合物は、前記MAST4タンパク質またはその断片をコーディングする核酸に特異的に結合することができるポリヌクレオチドを含むものであり、前記MAST4タンパク質またはその断片をコーディングする核酸に特異的なガイドRNA(guide RNA)を含むCRISPR-Casでもある。
【0022】
一具体例において、前記Casは、Cas9でもある。
CRISPRs(clustered regularlyinterspaced shortpalindromic repeats)は、遺伝子配列が明らかにされたバクテリアまたは古細菌の遺伝体で発見されるさまざまな短い直接反復を含む座位を意味し、CRISPR-Casシステムにおいて、必須なタンパク質要素としてCas9を含み、ガイドRNA(具体的には、ガイドRNAに含まれたCRISPRRNA(crRNA)及びtrans-activating crRNA(tracrRNA)と命名された2つのRNA)と複合体を形成したとき、活性エンドヌクレアーゼ(endonuclease)として作用する。
【0023】
一具体例において、前記CRISPR-Casシステムが標的遺伝子であるMAST4に特異的に作用するために、前記ガイドRNAは、前記MAST4タンパク質をコーディングする核酸に特異的なcrRNA(CRISPRRNA)及びtracrRNAを含む二重RNA(dual RNA)、または前述のcrRNA及びtracrRNAの部分を含み、前記MAST4タンパク質をコーディングする核酸と混成化する一本鎖ガイドRNA(single strand guide RNA)の形態を有する。前記二重RNA及び一本鎖ガイドRNAは、MAST4タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドと少なくとも部分的に混成化することができ、具体的には、MAST4タンパク質のアミノ酸配列をコーディングするポリヌクレオチド配列において、「5’-TACCCTGCCGCTGCCGCACC-3’(配列番号17)」に該当する部分と混成化することができる。
【0024】
具体的には、前記ガイドRNAは、前記MAST4タンパク質をコーディングするヌクレオチド配列のうちから選択された標的配列に混成化するcrRNA及びtracrRNAを含む二重RNA、または前述のcrRNA及びtracrRNAの部分を含み、前記MAST4タンパク質をコーディングするヌクレオチドと混成化する一本鎖ガイドRNAであり、前記標的配列であるMAST4遺伝子は、少なくとも部分的に、前述のcrRNAまたはsgRNAと相補的な配列のポリヌクレオチド配列と、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM:protospacer-adjacent motif)を含む配列を含む。前記プロトスペーサー隣接モチーフは、当業界に周知された配列であり、ヌクレアーゼタンパク質が認識するのに適する配列を有するものでもある。前記CRISPR-Casシステムの標的になるMAST4遺伝子は、内在的DNA(endogenous DNA)または人為的なDNA(artificial DNA)でもあり、具体的には、前記MAST4タンパク質をコーディングするヌクレオチドは、真核細胞の内在的DNA、さらに具体的には、軟骨細胞の内在的DNAを意味するものでもある。
【0025】
一具体例において、前述のcrRNAまたはsgRNAは、前記標的DNAと相補的な20個の連続的なポリヌクレオチドを含むものでもあり、前記相補的な20個の連続的なポリヌクレオチドの標的DNAは、5’-TACCCTGCCGCTGCCGCACC-3’(配列番号17)でもあり、表6の配列番号74,76及び77において、ボールド体で表示された配列のうちから選択されたものを含んでもよい。前記Cas9タンパク質を暗号化する核酸またはCas9タンパク質は、ストレプトコッカス属(genus Streptococcus)微生物に由来するものでもある。前記ストレプトコッカス属微生物は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)でもある。前記PAMは、5’-NGG-3’トリヌクレオチド(trinucledotide)を意味するものでもあり、前記Cas9タンパク質は、効率を増進させるために、C末端またはN末端に、核位置信号(NLS:nuclear localization signal))をさらに含んでもよい。
【0026】
本発明の前記真核細胞において、細胞外基質の生産を促進させるための組成物において、前記真核細胞は、酵母、かび、原生動物(protozoa)、植物・高等植物・昆虫及び両生類の細胞、または哺乳動物の細胞でもある。前記哺乳動物は、ヒトを含み、猿、牛、馬、豚など多様でもある。前記真核細胞は、個体から分離されて培養された細胞(インビトロ)、移植された細胞(graft cell)、インビボ細胞、または組み換えられた細胞を含むが、それらに制限されるものではない。前記個体から分離された真核細胞は、前記真核細胞から生産された細胞外基質を含む生成物を注入する個体と同一個体から分離された真核細胞でもある。その場合、異なる個体から生産された生成物が注入されることによって発生しうる移植片体宿主反応を含む不要な過剰免疫反応または拒否反応などの副作用を防止することができるという長所がある。
【0027】
一具体例において、前記真核細胞は、線維芽細胞(fibroblast)または軟骨細胞(chondrocyte)でもある。
【0028】
一具体例において、前記真核細胞において、細胞外基質の生産を促進させるための組成物及び/または軟骨細胞から、軟骨形成を促進させるための組成物は、TGF-β1をさらに含んでもよい。本発明者らは、TGF-β1により、ヒト軟骨細胞において、MAST4の発現が低減し、それにより、細胞外基質の生産が促進されるということを確認した。従って、真核細胞(または、軟骨細胞)において、MAST4ノックアウト細胞において、細胞外基質をさらに効果的であって容易に促進させるために、TGF-β1を併行処理するのが有利である。
【0029】
前記MAST4は、ヒト(Homo sapiens)由来またはマウス(Musmusculus)由来のタンパク質や、猿、牛、馬のような他の哺乳動物においても、同一タンパク質が発現される。
【0030】
ヒト由来のMAST4は、ヒト細胞に存在する7個のイソ型(isoform)をいずれも含むものでもある。前記7個のイソ型は、NCBI reference sequence基準として、NP_055998.1(配列番号1)、NP_942123.1(配列番号2)、NP_001158136.1(配列番号3)、NP_001277155.1(配列番号4)、NP_001277156.1(配列番号5)、NP_001277157.1(配列番号6)またはNP_001284580.1(配列番号7)のアミノ酸配列を含むものでもあり、前記それぞれのアミノ酸配列を有するタンパク質またはポリペプチドは、NM_015183.2、NM_198828.2、NM_001164664.1、NM_001290226.1、NM_001290227.1、NM_001290228.1またはNM_001297651.1の配列のうち、各前記配列番号1ないし7のアミノ酸配列をコーディングする配列番号8ないし14のポリヌクレオチド配列を含むmRNAからそれぞれ翻訳されたものでもある。
【0031】
マウス由来のMAST4は、NCBI reference sequence基準として、NP_780380.2(配列番号15)のアミノ酸配列を含むものでもあり、前記アミノ酸配列を有するタンパク質またはポリペプチドは、NM_175171.3の配列のうち、配列番号15のアミノ酸配列をコーディングする配列番号16のポリヌクレオチド配列を含むmRNAから翻訳されたものでもある。
【0032】
前記配列番号1ないし7、及び15のアミノ酸配列、または配列番号8ないし14、及び16のポリヌクレオチド配列と一致しないとしても、生物学的に同等な活性を有するアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列は、MAST4タンパク質またはそのmRNAとも見なされる。
【0033】
従って、一具体例において、前記MAST4タンパク質は、配列番号1ないし7、及び15のうちいずれか一つの配列を含むものであり、前記MAST4タンパク質をコーディングするヌクレオチド配列は、配列番号8ないし14、及び16のうちいずれか一つの配列を含むものでもある。
【0034】
前記MAST4タンパク質またはポリペプチドは、配列番号1ないし7、及び15と、60%以上、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものでもある。また、前記MAST4タンパク質は、前記配列番号1ないし7、及び15のアミノ酸配列において、1個以上のアミノ酸、2個以上のアミノ酸、3個以上のアミノ酸、4個以上のアミノ酸、5個以上のアミノ酸、6個以上のアミノ酸、または7個以上のアミノ酸が変化された配列を有するアミノ酸配列でもある。
【0035】
前記MAST4それぞれをコーディングするポリヌクレオチドは、配列番号8ないし14、及び16と、60%以上、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の配列同一性を有する配列を有することでもある。また、前記MAST4をコーディングする核酸は、前記配列番号8ないし14、及び16の配列において、1個以上のヌクレオチド、2個以上のヌクレオチド、3個以上のヌクレオチド、4個以上のヌクレオチド、5個以上のヌクレオチド、6個以上のヌクレオチド、または7個以上のヌクレオチドが異なる配列を有するポリヌクレオチドでもある。
【0036】
本発明者らは、軟骨細胞において、MAST4遺伝子発現を阻害すれば、細胞外基質の生産が増大し、軟骨形成が促進されるということを最初に究明した。
従って、一具体例において、本発明の前記真核細胞において、細胞外基質の生産を促進させるための組成物、または軟骨細胞から軟骨形成を促進させるための組成物は、関節疾患の予防、治療、または症状の改善のためのものでもある。
また、一具体例において、本発明の前記真核細胞において、細胞外基質の生産を促進させるための組成物、または軟骨細胞から軟骨形成を促進させるための組成物は、軟骨再生を誘導するためのものでもある。
また一具体例において、前記真核細胞において、細胞外基質の生産を促進させるための組成物は、組織の再生または老化防止に使用するためのものでもある。
【0037】
前記組織再生は、傷、やけど、外傷、老化、慢性炎症、疾病、遺伝的要因などによって損傷されたり変形されたりする皮膚の再生を意味するものであり、医療的目的または皮膚美容目的に使用されるものをいずれも含む。前述の損傷または変形は、前記要因により、組織内の細胞外基質が損失されたり、生産量が減少したりするか、あるいは回復不可能に誘発されたものであり、本発明の組成物により、細胞外基質生産を促進させることにより、症状の改善、緩和、回復または完治が可能であるということを意味する。
【0038】
皮膚を含む組織が老化する場合、細胞外基質の生産が低減され、組織の弾力が低下し、外部刺激によって容易に変形されたり損傷されたりし、回復速度が遅くなる。それにより、本発明の組成物は、細胞外基質の生産を増大させるので、老化による組織の弾力低下、変形または損傷を予防したり、回復を促進させたりする。
【0039】
他の具体例において、前述の組織再生用または老化防止用の組成物は、フィラ、コラーゲン補充用化粧品の成分に利用されるものでもある。さらに他の具体例において、前述の組織再生用または老化防止用の組成物は、微細ほこりまたは光物質の吸着を遮断するための機能性化粧品の成分に利用されるものでもある。
【0040】
本発明の前記真核細胞において、細胞外基質の生産を促進させるための組成物、または軟骨細胞から軟骨形成を促進させるための組成物は、薬学的に許容可能な塩または担体をさらに含んでもよい。
【0041】
用語「薬学的に許容可能な塩」とは、患者に比較的非毒性であって無害な有効作用を有する濃度でもって、該塩に起因した副作用が、本発明の組成物の望ましい効能を落とさない、本発明の組成物における化合物のいかなる有機または無機の付加塩を意味する。それら塩は、当業者に知られたものであるならば、いかなるものでも選択される。
【0042】
本発明の組成物は、薬学的に許容可能な担体を追加して含んでもよい。薬学的に許容可能な担体を含む前記組成物は、経口または非経口のさまざまな剤形でもある。製剤化させる場合には、普通使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用しても調剤される。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、トローチ剤などが含まれ、そのような固形製剤は、1以上の本発明の化合物に、少なくとも1以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、あるいはゼラチンなどを混ぜても調剤される。また、単なる賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウムタルクのような潤滑剤も使用される。経口投与のための液状製剤としては、懸濁液剤、耐溶液剤、乳剤またはシロップ剤などが使用されるが、折々使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に、さまざまな賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれる。
非経口投与のための製剤には滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁溶剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤などが含まれてもよい。非水性溶剤、懸濁溶剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、エチルオレートのような注射可能なエステルなどが使用される。坐剤の基剤としては、ウイテプゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイン(Tween)61、カカオ脂、ラウリンジ、グリセロール、ゼラチンなどが使用される。
【0043】
一様相は、前記組成物を個体に投与する段階を含む、関節疾患を予防、治療または改善させる方法を提供する。
他の様相は、、本発明の前記真核細胞から細胞外基質を生産するための組成物を真核細胞と接触させる段階を含む細胞外基質を生産する方法を提供する。
【0044】
一具体例において、前記真核細胞は、個体から分離されたものでもある。一具体例において、前記真核細胞は、軟骨細胞でもある。
一具体例において、前記真核細胞と接触させる段階は、前記組成物を真核細胞に共同形質注入(co-transfecting)または段階的形質注入(serial-transfecting)する段階を含んでもよい。前記本発明の組成物を真核細胞内に効果的に伝達させるために、微細注入法(microinjection)、電気穿孔法(electroporation)、DEAE-デキストラン処理(DEAE-dextran treatment)、リポフェクション(lipofection)、ナノパーティクル媒介形質注入、タンパク質伝達ドメイン媒介導入、ウイルス媒介遺伝子伝達、及び原生動物において、PEG媒介形質注入のような当業界の多様な方法を使用することができるが、それらに制限されるのではない。
一具体例において、前記真核細胞と接触させる段階は、前記組成物の存在下、前記真核細胞を培養する段階を含む。
一具体例において、前記培養する段階は、軟骨形成を誘導する物質の存在下で培養することを含む。
一具体例において、本発明の細胞外基質を生産する方法は、前記接触産物から細胞外基質を分離する段階をさらに含む細胞外基質を生産する方法である。
他の具体例において、前記細胞外基質を生産する方法は、本発明の軟骨形成を促進させるための組成物を軟骨細胞と接触させる段階を含むものでもある。
他の様相は、前記本発明の軟骨形成を促進させるための組成物を軟骨細胞と接触させる段階を含む軟骨を形成する方法を提供する。
一具体例において、前記軟骨細胞は、個体から分離されたものでもある。
一具体例において、前記軟骨細胞は、生成された軟骨が移植される個体に由来したものでもある。
【0045】
さらに他の様相は、本発明の上昇した細胞外基質生産能を有する真核細胞を培養し、ECMを生産する段階と、培養物からECMを分離する段階と、を含むECMを生産する方法を提供する。
一具体例において、前記培養は、軟骨形成を誘導する物質の存在下で培養することでもある。
一具体例において、前記軟骨形成を誘導する物質は、BMPでもある。
【0046】
以下、本発明について、実施例を介してさらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲は、それら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0047】
実施例1.MAST4ノックアウトマウスにおける軟骨構成成分の発現増加確認
1-1.CRISPR/Cas9システムを利用したMAST4ノックアウトマウスの作製
MAST4の発現が抑制される場合、軟骨構成成分である細胞外基質が増加するか否かということを確認するために、まず、CRISPR/Cas9システムを利用し、MAST4ノックアウトマウスを作製した。
具体的には、CRISPRノックアウトマウスを作るために、FengZhang博士(Congら、2013)から寄贈されたpX330-U6-Chimeric_BB-CBh-hSpCas9(Addgene、#42230)でもって、Cas9mRNAとガイドRNAとの発現が可能なプラスミドを使用した。MAST4は、7kb以上の大きいタンパク質であるので、エクソン1及びエクソン15の2部分を対象にし、遺伝子編集がなされるようにデザインし、MAST4のエクソン1を標的とするガイドRNA配列は、5’-GGAAACTCTGTCGGAGGAAGGGG-3’、そしてエクソン15を標的とする配列は、5’-GGCACAAAGAGTCCCGCCAGAGG-3’である。前記ガイドRNA配列について、作製者のプロトコル(http://crispr.mit.edu/, Zhang Feng Lab)により、下記MAST4CRISPRオリゴマー表に示されたオリゴマーを作製し、px330プラスミドに挿入し、それぞれエクソン1及び15を標的とする2種プラスミドをクローニングした。
【表1】

胚芽を得るために、C57BL/6Jめすマウスに、交配2日前、Pregnantmare serumgonadotrophin(PMSG;Prospec、cat.no.HOR-272)5IUを投与し、47時間後、Humanchorionic gonadotrophin(hCG;Prospec、cat.no.HOR-250)5IUを投与した。その後、C57BL/6J雄鼠と交配させ、胚芽を卵管から得た。従来の標準的なプロトコルを参照し(Gordon and Ruddle、1981)、前記作製されたプラスミド5ng/ul及び10ng ssDNA供与者(ssDNA donor)を含む微細注入混合物を、1細胞段階(one-cell-stage)の胚芽の前核(pronuclei)に注入した。注入された1細胞胚芽を仮妊娠ICRマウスに移した。
生まれた鼠に対する表現型分析は、エクソン1及びエクソン15についてなされ、最終的に、2種MAST4ノックアウトマウスを得ることができ、前記2種MAST4ノックアウトマウスであるA類型及びB類型に係わる情報は、図1及び下記表2(5’→3’)に表示した通りである。
【表2】
前記表2において 欠失される塩基は、太字で表示した。
【0048】
1-2.MAST4ノックアウトマウスにおける軟骨構成成分の発現変化確認のためのRNAシーケシング
前記実施例1-1で作製されたMAST4ノックアウトマウスにおいて、軟骨構成成分である細胞外基質の変化を確認するために、各遺伝子に対してRNAシーケシングを行った。
【0049】
具体的には、前記実施例1-1で作製された生後1日のMAST4ノックアウトマウス、ヘテロタイプマウス及び野生型マウスを犠牲にした後、頚骨(tibia)を切開した。氷上にDEPC-PBSが入れられたディッシュに、前記切開された頚骨を浸しておき、解剖燎微鏡を利用し、頚骨において、軟骨と骨との部分をニードルを利用して分離する。各群から分離されたそれぞれの組織をトリゾール(Invitrogenから購入)500μlに浸して各試料にし、当業界に周知された方法によってRNAを抽出し、ナノドロップ(Thermo scientific)で定量した。
【0050】
RNAシーケシングは、テラジェネテックスで行った。具体的には、各群のマウスから抽出された総RNA 2μgから、oligo(dT)を利用し、mRNAを分離した。前記mRNAを断片化(fragmentation)させ、無作為6量体プライミング(random hexamer priming)を介して、一本鎖cDNAに合成した。それをテンプレートにし、二次鎖を合成し、二本鎖cDNAを合成した。Blunt-endを作るために、End Repairを行い、Adapterを付けるために、A-tailing及びAdapter ligationを行った。その後、PCR(polymerasechainreaction)を利用し、cDNAライブラリを増幅させた。2100 BioAnalyzerを利用し、最終生成物の濃度とサイズとを確認した。生成されたライブラリは、KAPA library quantification kitを以下で最終定量した後、Hiseq2500を利用し、配列を解読した。前記解読された配列において、低品質の配列を除去するために、配列情報において、Nで示された塩基の比率が全体配列の10%以上含まれているか、あるいはQ20未満の塩基が40%以上であるリードが除去され、平均品質がQ20以下であるリードも除去するフィルタリングを行った。前記フィルタリング全過程は、内部で作製されたプログラムによって遂行された。フィルタリングされた配列は、STARv2.4.0b(Dobin et al、2013)を利用し、当該種(species)参照遺伝体配列(hg19)に整列させた。
【0051】
発現量測定は、Cufflinks v2.1.1(Trapnell C. etal、2010)を利用して計算し、計算された発現値をFPKM(fragments read perkilobase of exon per million fragments mapped)で表現した。遺伝子情報データベースにおいて、ensemble 72を使用し、non-coding遺伝子領域は、発現マスクオプションから除外した。発現量測定の正確性を高めるために、多重判読矯正(multi-read correction)と断片矯正(frag-bias-correct)とのオプションを追加して使用し、他のオプションは、基本値を使用した。
MAST4ノックアウトによって変化される遺伝子を確認するために、Cufflinksを介して得られた各群での試料の発現値を利用した。各発現値が、MAST4野生型に比べて2倍以上、P値<0.01と、有意性ある遺伝子を選択し、選択された遺伝子の発現値及びその差を表3に並べた。
【0052】
その結果、下記表3のように、多数の軟骨構成成分として存在する細胞外基質関連遺伝子の発現が増加したということが分かる。ただし、MAST4ノックアウトマウスの2タイプのいずれにおいても、細胞外基質分解酵素であるmmp8及びmmp9は、発現が低減したと見られる。
【表3】
【0053】
1-3.MAST4ノックアウトマウスにおける軟骨構成成分の発現変化確認のためのRT-PCR
前記実施例1-1で作製されたMAST4ノックアウトマウスにおいて、軟骨構成成分である細胞外基質の変化をさらに具体的に確認するために、前記実施例1-2のRNAシーケシング結果において、発現が変化すると見られる遺伝子のうち一部を選別し、RT-PCRを行った。
具体的には、下記表4のプライマーセット及びAccuPower PCR premix(BIONEER、韓国)を利用し、販売者の指針に従って遂行した。
【表4】
【0054】
その結果、実施例1-2でのRNAシーケシング結果と一致し、軟骨構成成分として存在する細胞外基質関連遺伝子の発現が増大したということを確認した(図2
【0055】
1-4.MAST4ノックアウトマウスの軟骨細胞マーカー発現量確認
MAST4がノックアウトされた場合、軟骨細胞に及ぼす影響を確認するために、軟骨細胞マーカーとして知られたCol2a1を、マウスの頚骨に蛍光染色して確認した。
具体的には、前記実施例1-1のマウスモデルから頚骨組織を得て、4%パラホルムアルデヒド(PFA、Wako、Osaka、日本)に、0.01Mリン酸塩緩衝食塩水(PBS、pH7.4)、4℃で一晩固定した。前記組織を、10%EDTAで脱カルシウム化させ、パラフィン(Leica Biosystems、MO、米国)に入れ(embed)、6mm厚に切片化(sectionize)した。試料スライドを、ヘマトキシリン(hematoxylin)及びエオシン(eosin)で染色し、前記組織切片を4℃で一晩一次抗体と共にインキュベーションした。前記一次抗体は、Coll2a1(Abcam、Cambridge、英国)を標的とする。PBSで洗浄した後、前記組織切片を連続してAlexaFluor488(Invitrogen、CA、米国)で2時間室温でインキュベーションした。各イメージを、confocalmicroscopeLSM700(Carl Zeiss、Oberkochen、ドイツ)を利用して得て、代表的な試料の切片を新たに準備した(freshly prepared)Russell-Movat modifiedpentachrome(American MasterTech、CA、米国)で染色した。
【0056】
その結果、図10は、観察された試料の特定部分を拡大したものであり、Col2a1(蛍光緑色区域/灰色背景区域)が、MAST4がノックアウトされたマウスモデルの頚骨で顕著に増大した。TOPRO-3(赤色点/灰色点で表示された区域)は、軟骨細胞の核を染色したものである。従って、MAST4ノックアウトにより、軟骨の形成及び再生が促進されるということが分かる。
【0057】
実施例2.MAST4ノックアウト細胞における軟骨構成成分の発現増大確認
2-1.CRISPR/Cas9システムを利用したMAST4ノックアウト細胞の作製
MAST4ノックアウトマウスで示された細胞外基質増大現象が、インビトロでも同一に再現されるか否かということを確認するために、CRISPR/Cas9システムを利用し、MAST4ノックアウト細胞を作製した。
【0058】
具体的には、マウスに由来した線維芽細胞(fibroblast cell)において、軟骨細胞に分化が可能なC3H/10T1/2、Clone 8(ATCC&reg; CCL-226TM)(亜洲大学校医科大学医学遺伝学教室のチョン・ソンヨン教授研究室から贈与される(C3H10T1/2細胞))を購入した。前記細胞をノックアウトさせるるために、lentiCRISPRv2(Plasmid #52961)、pVSVg(AddGene 8454)及びpsPAX2(AddGene 12260)をAddgeneから購入し、下記表5のオリゴマーを利用し、販売者の指針(lentiCRISPRv2and lentiGuide oligo cloning protocol)により、マウスMAST4遺伝子(ENSMUSG00000034751)のエクソン1を標的とするガイドRNAを、LentiCRISPRv2プラスミドに挿入し、ガイドRNAとCas9酵素とを同時に発現するプラスミドを作製した(対照群には、ガイドRNAが挿入されず、Cas9のみ発現するプラスミドを使用した)。
【表5】
【0059】
本方法はレンチウイルスを基にしたCRISPRノックアウト方法であるので、ウイルスを作製するために、293T細胞に、前述のところで作製された3種プラスミド(LentiCRISPRv2(+ガイドRNA):ガイドRNA+Cas9 expressing plasmid、pVSVg:Virus envelopplasmid、psPAX2:Virus packagingplasmid)を、試薬PEI(polyethyenimine)を利用して形質感染(transfection)させた。18時間後、新鮮な培地に交換し、培地だけ収穫し、0.45μmフィルタを利用し、ウイルスを得た。前記得られたウイルスを、C3H10T/12が接種(seeding)された6ウェルディッシュに感染させ、ウイルス1ml+DMEM/FBS1ml+polybren2μlを処理した後、24時間後、新たなDMEM/FBSに交換した。24時間後、プロミシンを処理し、感染された細胞だけ選択し、10cmディッシュに、40%コンフルエントまで継代培養を進めた。CRISPRによる遺伝子編集は、細胞ごとにランダムに示されるために、単一菌集落(colony)選択を進めた。10cmディッシュに、各ディッシュ当たり50個の細胞が存在するように接種し、経時的に細胞が菌集落を形成すれば、それを1つのクローンに指定し、各クローンのゲノムDNAを抽出し、エクソン1を特異的に増幅するプライマー(F:5’→3’CTGTGGTCCAACCTCTGTCA、R:5’→3’ATCGGCTCAGTGACACTTCC)を利用してPCRを行った。増幅されたPCR結果物を、シーケシング業体に依頼して分析した。配列分析結果、フレーム移動による遺伝子編集が確認された細胞を、対照群細胞と共に実験に利用した。前記作製されたガイドRNAが標的とする配列を、前記表5に太字で表示した。前記MAST4ノックアウトした結果をシーケシングした結果マウスMAST4エクソン1から、2個のヌクレオチドが欠失され、フレーム移動が誘発されたことを確認した。
【0060】
2-2.MAST4ノックアウト細胞における軟骨構成成分の発現変化確認のためのRT-PCR
前記実施例1-1で作製されたMAST4ノックアウトマウスにおける軟骨構成成分である細胞外基質の変化を確認するために、各遺伝子に対してRT-PCRを行った。
12ウェル中央に、総10個の細胞を含む培養液10μlを入れ、2時間インキュベーションした後、各ウェルに、FBS10%を含むDMEMを1mlずつ添加した。24時間経過後、細胞を収穫し、easy-BLUE(TM) Total RNA Extraction Kit(Intron、Cat17061)を利用し、販売者の指針によってRNAを分離した。その後、M-MLV Reverse Transcriptase(Promega、M1705)を利用し、販売者の指針によってcDNAを合成した。RT-PCRに使用されたプライマーは、表4に記載された通りである。
【0061】
その結果、実施例1-2及び実施例1-3での結果と一致し、MAST4ノックアウト細胞においても、軟骨構成成分として存在する細胞外基質関連遺伝子の発現が増大したことを確認することにより(図4)、インビトロにおいても、MAST4ノックアウトマウスで示された結果と同一結果を得る可能性があるということを確認した。
【0062】
実施例3.MAST4ノックアウト細胞におけるマイクロマス培養及び軟骨分化活性上昇の確認
3-1.MAST4ノックアウト細胞のマイクロマス培養(micromass culture)
前記実施例2-2のMAST4ノックアウト細胞の軟骨型性能を評価するために、マイクロマス培養を行った。
具体的には、MAST4ノックアウト細胞を、前記実施例2-1のように作製し、マイクロマス培養のために、従来公知の方法(Differentiation andMineralization of MurineMesenchymal C3H10T1/2Cells in Micromass Culture, 2010,Rani Roy)を参照して行った。まず、12ウェルプレートの各ウェル中央に、線維芽細胞状態の総10個の細胞を含む培養液10μlを入れ、2時間インキュベーションした後、各ウェルに、FBS10%を含むDMEMを1mlずつ添加した。その後、各培養物には、軟骨に誘導させる目的により、100ng/ml、500ng/ml及び1,000ng/mlのBMP2をそれぞれ添加した。その後、培養液を3日ごとに新たに交換した。
【0063】
3-2.マイクロマス培養されたMAST4ノックアウト細胞の効果再現確認
前記実施例3-1によって培養されたMAST4ノックアウト細胞においても、前記実施例2-2のMAST4ノックアウト細胞のように、軟骨構成成分である細胞外基質の生産が増加する否かということ、及び最終的に軟骨型性能が上昇するか否かということを確認するために、RT-PCRを行った。
【0064】
具体的には、前記マイクロマス培養のために、プレートに接種した日を基準に、0日、3日間及び6日間培養したものをそれぞれ収穫し、同じ日にRNAを分離させ、各遺伝子について、前記実施例1-3のようにRT-PCRを行い、軟骨構成成分の生産増加いかんを確認した。
【0065】
その結果、前記実施例2-2のMAST4ノックアウト細胞で観察されたところと一致し、各細胞外基質成分の発現が増大すると共に、アグレカン(aggrecan)の発現により、BMP2を介した誘導により、3日目から軟骨細胞において、分化が始まるということが分かり、結果として、軟骨型性能が上昇するということを確認した(図5)。特に、MAST4ノックアウトされたた場合、3日目には、一部大きい発現差を示さない遺伝子が存在するが(hapln1)、6日目には、表示された全ての細胞外基質成分関連遺伝子が過発現する一方、対照群の場合、一部タンパク質は、少なく発現するか、あるいは6日目にむしろ減少し(例えば、Matn3またはComp)、MAST4ノックアウト細胞が多様な細胞外基質をいずれも過発現させるのに有用であるように見えた。
【0066】
3-3.大量培養されたMAST4ノックアウト細胞の軟骨形成確認
前記実施例3-2で観察された各細胞外基質成分関連遺伝子過発現現象が、遺伝子発現単位ではない、実際に単離して得られるタンパク質単位で増大するか否かということを確認するために、アルシアンブルー染色を行った。
【0067】
具体的には、前述の各日付に該当する細胞のプレートを、PBSで2回ずつ洗浄し、4%パラホルムアルデヒド1mlを添加し、15分間固定させた。その後、0.1NHCl(pH1.0)に溶かした1%アルシアンブルー8-GX(Sigma-Aldrich、A5268)1mlを添加し、一晩染色させた。その後、500μlの0.1NHClを利用して2回洗浄し、イメージを得た。
【0068】
その結果、MAST4ノックアウト細胞の場合、3日目から軟骨形成が増大し、細胞外基質分泌が増大するということを確認することができ、その程度は、BMP2濃度が上昇するにつれて増大するように見られた(図6)。
【0069】
実施例4.ヒト細胞におけるMAST4発現抑制による効果確認
実施例4-1.ヒト細胞におけるMAST4発現抑制による効果確認
前記ノックアウトマウスモデル及びマウス細胞で確認されたような結果が、ヒト細胞においても、同一に誘発されるか否かということを確認した。
具体的には、ヒト原性軟骨細胞(primary chondrocyte)に、(仁荷大学校医科大学から寄贈される)MAST4siRNA(h)(sc-106201;Santa Cruz biotechnology)を一時的(transient)に形質注入してノックダウンさせるか(図8A)、MAST4の発現を、CRISPR/Cas9システムによってノックアウトさせた。MAST4siRNAは、ThermoFisher SCIENCITFICのLipofectamine&reg;RNAiMAX Transfection Reagentを使用して進め、そこに使用されたプライマー情報は、下記表6に開示された通りである。CRISPR/Cas9システムの作製及び処理は、実施例1-1のように行うが、ThermoScientificのGeneArtTMPrecisiongRNA Synthesis Kit(A29377)を参照して進め、そこに使用されたプライマー情報は、下記表6に開示された通りである。
【0070】
siRNAの形質注入は、高い形質注入効率のために、細胞をプランティング(planting)しながら、同時に形質注入する逆順形質注入(reverse transfection)技術を利用し、形質注入試薬としては、ThermoFisherSCIENCITFICのLipofectamine&reg; RNAiMAXTransfectionReagentを使用した。具体的には、15nMのMAST4 siRNAと、4.5μlのLipofectamine RNAiMaxとを、GibcoTMOpti-MEMTM40μlで混合した後、15分間インキュベーションした。その後、1.5x10細胞/ウェルのヒト原性軟骨細胞(***変更)を、6ウェルプレート(ColI coated plate)に、ゲンタマイシン(gentamicin)が含まれていない培地2ml(FBS10%)と共にプランティングし、前記siRNA混合物を共に添加し、72時間後に収穫し、RNAを分離した。ヒト原性軟骨細胞は、DMEM(17-205-CVR Corning)、FBS Qualified(米国origin 500mL 26140-079、Gibco)、L-グルタミン(200mM)(100x25030-081、Gibco)及びゲンタマイシン(5mμg/ml)(10mL 15700-060、Thermofisher)の条件で、コラーゲンIにコーティングされたフラスコ(175、Col I Straight Vent 356487、Corning)で培養した。
【0071】
ノックアウトは、MAST4ゲノム上の20nt(標的のための配列を表6でボールド体で表示)を標的にして行われ、具体的には、#1、#3は、Exon5、#2は、Exon8を標的にしたものである。#1と#3は、Reverse方向に作製し、#2は、Forward方向に作製した。CRISPR/Cas9システムの作製に使用されたヒトMAST4遺伝子のレファレンスは、MAST4ENSG00000069020(http://asia.ensembl.org/)を基準にした。標的になったExon配列情報、及びCRISPR欠失が発生するNGGPAM配列(灰色ボックス)を図7に具体的に開示した。
【表6】
【0072】
その結果、図8Aから分かるように、MAST4 siRNAを形質注入したとき、MAST4の発現が低減したことが確認され、このとき、Acanのような細胞外基質因子の発現が増大した。また、図8Bから分かるように、MAST4がノックアウトされることにより、Acan及びCol9a1のような細胞外基質因子の発現が増大した。そのような結果は、先に、マウスモデル及びマウス細胞を利用して立証されたところと同一である。従って、他の細胞外基質因子及び軟骨形成効果においても、ヒト細胞において、MAST4の発現を阻害することにより、マウスで立証されたところと同一結果を得ることができるのである。
【0073】
実施例4-2.ヒト細胞においけるTGF-β1のMAST4発現抑制、及びそれによる効果確認
実施例4-1で確認されたようなMAST4発現抑制が、TGF-β1によって誘発され、それにより、細胞外基質因子の発現に及ぼす影響を確認した。
具体的には、実施例4-1のヒト原性軟骨細胞に、TGF-β1を処理し、実施例1-2及び1-3のようなRT-PCR及びウェスタンブロッティングを利用し、その発現量を測定した。
【0074】
その結果、図9から分かるように、TGF-β1(5ng/ml)を、24,48,72時間それぞれ処理すれば、MAST4の発現が抑制され、それにより、細胞外基質因子の発現も増大するということが分かる。TGF-β1(5ng/ml)とTGF-β1との阻害剤であるTEW-7197を同時に処理すれば(図9B)、TGF-β1によって増大されたAcanの発現が抑制され、MAST4発現も、TGF-β1単独処理したところに比べ、抑制効果が低減された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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