(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】鞍乗り型車両
(51)【国際特許分類】
B62J 27/20 20200101AFI20240604BHJP
【FI】
B62J27/20
(21)【出願番号】P 2022511424
(86)(22)【出願日】2020-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2020014965
(87)【国際公開番号】W WO2021199361
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 渓
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】相京 裕
(72)【発明者】
【氏名】石垣 良太
(72)【発明者】
【氏名】土生 優
(72)【発明者】
【氏名】夫馬 真
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-291875(JP,A)
【文献】国際公開第2019/064737(WO,A1)
【文献】特開2007-069779(JP,A)
【文献】特開2019-123338(JP,A)
【文献】特開2017-213930(JP,A)
【文献】特開2012-111259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 27/20
B60R 21/16 - 21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドパイプ(15)の後方に設けられるリテーナ(41)と、インフレータ(43)と、前記リテーナ(41)に収納され、前記インフレータ(43)が放出するガス(G)によって膨張して乗員の前方で展開するエアバッグ(42)とを備える鞍乗り型車両において、
前記エアバッグ(42)は、車両側面視の断面において、ロール状又は蛇腹状に折り畳まれた基端側折畳部(155)と、前記基端側折畳部(155)から延びて前記基端側折畳部(155)の上方で折り畳まれた中間折畳部(154、354)と、前記中間折畳部(154、354)から延びてロール
状に折り畳まれた先端折畳部(153)とを備えた状態で前記リテーナ(41)に収納され、
前記先端折畳部(153)は、車両側面視の断面において、上下方向に延びる仮想線(L1)に沿って延びる折り畳み部分を備え、
前記中間折畳部(154、354)は、車両側面視の断面において、前記先端折畳部(153)の前側または後側の少なくともいずれか一方に、前記先端折畳部(153)に沿って折り畳まれることにより形成された複数の折り返し点(P1、P2、P3)を備え、
第1の前記折り返し点(P1)は上方から下方に折り返される部位に形成され、
第2の前記折り返し点(P2)は上方から下方に折り返される部位に形成され、
前記先端折畳部(153)と前記中間折畳部(154、354)とが接続される接続部(P0)から前記仮想線(L1)に沿った前記第1の折り返し点(P1)までの高さ(H1)と、前記接続部(P0)から前記仮想線(L0)に沿った前記第2の折り返し点(P2)までの高さ(H2)とには差がある、
ことを特徴とする鞍乗り型車両。
【請求項2】
前記折り返し点(P1、P2、P3)は、前記先端折畳部(153)の前側と後側に設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項3】
前記リテーナ(41)は前記ヘッドパイプ(15)に沿って延びて上方に開口し、
前記エアバッグ(42)は、前記リテーナ(41)の側面(65、85)に近接して前記折り返し点(P1、P2、P3)が設けられている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の鞍乗り型車両。
【請求項4】
前記エアバッグ(42)は、車両上面視の断面において、前記エアバッグ(42)の左右中心線(C1、C2)に対して左右対称に折り畳まれている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両。
【請求項5】
前記エアバッグ(42)の左右対称の折り方は蛇腹状である、
ことを特徴とする請求項4に記載の鞍乗り型車両。
【請求項6】
前記リテーナ(41)は、前記エアバッグ(42)を左右方向から上方に展開させるL字状のエアバッグ通路(47)を備え、
前記エアバッグ(42)は、前記エアバッグ通路(47)内に収納されている、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗り型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアバッグモジュールを備える鞍乗り型車両が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、エアバッグモジュールは、ヘッドパイプから後下方に延びるメインフレームにステーを介して支持されており、ヘッドパイプの後方に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エアバッグモジュールをよりヘッドパイプ側に配置して前後方向にコンパクトに配置すると、エアバックの展開が不十分な場合には、ハンドルと干渉する可能性が考えられる。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、エアバッグをより効率的に展開することができる鞍乗り型車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
鞍乗り型車両は、ヘッドパイプ(15)の後方に設けられるリテーナ(41)と、インフレータ(43)と、前記リテーナ(41)に収納され、前記インフレータ(43)が放出するガス(G)によって膨張して乗員の前方で展開するエアバッグ(42)とを備える鞍乗り型車両において、前記エアバッグ(42)は、車両側面視の断面において、ロール状又は蛇腹状に折り畳まれた基端側折畳部(155)と、前記基端側折畳部(155)から延びて前記基端側折畳部(155)の上方で折り畳まれた中間折畳部(154、354)と、前記中間折畳部(154、354)から延びてロール状または蛇腹状に折り畳まれた先端折畳部(153)とを備えた状態で前記リテーナ(41)に収納され、前記中間折畳部(154、354)は、車両側面視の断面において、前記先端折畳部(153)の前後方向で前記先端折畳部(153)に沿って折り畳まれた複数の折り返し点(P1、P2、P3)を備える、ことを特徴とする。
【0006】
上記構成において、前記折り返し点(P1、P2、P3)は、前記先端折畳部(153)の前側と後側に設けられていてもよい。
【0007】
また、上記構成において、前記リテーナ(41)は前記ヘッドパイプ(15)に沿って延びて上方に開口し、前記エアバッグ(42)は、前記リテーナ(41)の側面(65、85)に近接して前記折り返し点(P1、P2、P3)が設けられていてもよい。
【0008】
また、上記構成において、前記エアバッグ(42)は、車両上面視の断面において、前記エアバッグ(42)の左右中心線(C1、C2)に対して左右対称に折り畳まれていてもよい。
【0009】
また、上記構成において、前記エアバッグ(42)の左右対称の折り方は蛇腹状であってもよい。
【0010】
また、上記構成において、前記リテーナ(41)は、前記エアバッグ(42)を左右方向から上方に展開させるL字状のエアバッグ通路(47)を備え、前記エアバッグ(42)は、前記エアバッグ通路(47)内に収納されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
鞍乗り型車両は、ヘッドパイプの後方に設けられるリテーナと、インフレータと、前記リテーナに収納され、前記インフレータが放出するガスによって膨張して乗員の前方で展開するエアバッグとを備える鞍乗り型車両において、前記エアバッグは、車両側面視の断面において、ロール状又は蛇腹状に折り畳まれた基端側折畳部と、前記基端側折畳部から延びて前記基端側折畳部の上方で折り畳まれた中間折畳部と、前記中間折畳部から延びてロール状または蛇腹状に折り畳まれた先端折畳部とを備えた状態で前記リテーナに収納され、前記中間折畳部は、車両側面視の断面において、前記先端折畳部の前後方向で前記先端折畳部に沿って折り畳まれた複数の折り返し点を備える。この構成によれば、エアバッグをより効率的に展開させることができる。
【0012】
上記構成において、前記折り返し点は、前記先端折畳部の前側と後側に設けられていてもよい。この構成によれば、先端折畳部の展開する方向を調整することができる。
【0013】
また、上記構成において、前記リテーナは前記ヘッドパイプに沿って延びて上方に開口し、前記エアバッグは、前記リテーナの側面に近接して前記折り返し点が設けられていてもよい。この構成によれば、エアバッグをより効率的に展開させることができる。
【0014】
また、上記構成において、前記エアバッグは、車両上面視の断面において、前記エアバッグの左右中心線に対して左右対称に折り畳まれていてもよい。この構成によれば、エアバッグを左右方向にバランスよく展開させることができる。
【0015】
また、上記構成において、前記エアバッグの左右対称の折り方は蛇腹状であってもよい。この構成によれば、エアバッグを簡易に折り畳んでリテーナに収納することができる。
【0016】
また、上記構成において、前記リテーナは、前記エアバッグを左右方向から上方に展開させるL字状のエアバッグ通路を備え、前記エアバッグは、前記エアバッグ通路内に収納されていてもよい。この構成によればL字状のエアバッグ通路に配置されたエアバッグを効率的に展開させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る自動二輪車の左側面図である。
【
図3】
図3は、自動二輪車の前部を乗員側の上方から見た図である。
【
図4】
図4は、車体フレームに取り付けられたエアバッグユニットを後方側から見た図である。
【
図5】
図5は、車体フレームに取り付けられたエアバッグユニットの右側面図である。
【
図6】
図6は、外装部材が取り外された状態を示すエアバッグユニットの左側面図である。
【
図7】
図7は、エアバッグユニットの分解斜視図である。
【
図8】
図8は、展開膨張したエアバッグを後面側(乗員側に相当)から見た図である。
【
図9】
図9は、展開膨張したエアバッグを前面側(乗員と反対側)から見た図である。
【
図12】
図12は、エアバッグの折り畳み順序の説明図である。
【
図13】
図13は、
図12のXIII-XIII線断面に対応するエアバッグの車両上面視の断面を示す模式図である。
【
図14】
図14は、
図12のXIV-XIV線断面に対応するエアバッグの車両側面視の断面を示す模式図である。
【
図15】
図15は、エアバッグの展開前の状態を示す自動二輪車の要部左側面図である。
【
図17】
図17は、
図16の続きでありエアバッグの第1の折り返し部の展開し始めの説明図である。
【
図21】
図21は、第2の実施の形態の説明図であり、第1の実施の形態の
図13に対応する図である。
【
図22】
図22は、第3の実施の形態の説明図であり、第1の実施の形態の
図14に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。なお、説明中、前後左右および上下といった方向の記載は、特に記載がなければ車体に対する方向と同一とする。また、各図に示す符号FRは車体前方を示し、符号UPは車体上方を示し、符号LHは車体左方を示す。
【0019】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る自動二輪車1の左側面図である。
自動二輪車1は、車体フレーム10(車体)と、前輪2を操舵可能に支持する操舵系11と、車体フレーム10の後部に支持されるパワーユニット12と、後輪3と、乗員が跨るようにして着座するシート13とを備えるスクーター型の鞍乗り型車両である。
また、自動二輪車1は、車体フレーム10等の車体を覆う車体カバー14を備える。
【0020】
図2は、車体フレーム10の右側面図である。
図1及び
図2を参照し、車体フレーム10は、車体フレーム10の前端部に設けられるヘッドパイプ15と、ヘッドパイプ15の後面から後下方に延びるダウンフレーム16と、ダウンフレーム16の下端部から後方に延びる左右一対のロアフレーム17と、ロアフレーム17の後端部から後上方に延びる左右一対のシートフレーム18とを備える。
ヘッドパイプ15及びダウンフレーム16は、前輪2と同様に車幅の中央に位置する。
【0021】
パワーユニット12は、後輪3の駆動源としてのエンジンと後輪3を揺動自在に支持するスイングアームとを一体に備えたユニットスイングエンジンである。パワーユニット12は、パワーユニット12の前部に設けられるリンク機構(不図示)を介し、揺動自在に車体フレーム10に支持される。
シートフレーム18の後部とパワーユニット12の後端部との間には、リアサスペンション20が掛け渡される。
【0022】
シート13の下方には、シートフレーム18によって支持される収納ボックス(不図示)が配置される。シート13は、上記収納ボックスを介してシートフレーム18に支持される。
シート13に着座する乗員が足を置く板状のステップフロア21は、シート13の前下方に左右一対で設けられ、ロアフレーム17を上方から覆う。
【0023】
操舵系11は、前輪2の左右にそれぞれ配置される一対のフロントフォーク11aと、左右のフロントフォーク11aの上端部を車幅方向に連結するブリッジ部材11bと、ブリッジ部材11bの中央から上方に延びてヘッドパイプ15に回動自在に支持されるステアリングシャフト11cと、ステアリングシャフト11cの上端部に固定されるハンドルポスト11dと、ハンドルポスト11dの上端に固定される操舵用のハンドル11eとを備える。
ヘッドパイプ15の軸線15aは、車両側面視で鉛直方向に対し後傾する。ステアリングシャフト11cの回動の軸線は、軸線15aに一致する。ハンドルポスト11dは、軸線15aに沿うようにヘッドパイプ15側から後上方に斜めに延びる。
前輪2は、フロントフォーク11aの下端部を左右に連結する車軸2aに支持される。
前輪2を上方から覆うフロントフェンダー22は、フロントフォーク11aに固定される。
【0024】
図3は、自動二輪車1の前部を乗員側の上方から見た図である。
図1及び
図3を参照し、車体カバー14は、操舵系11及びヘッドパイプ15を前方側から覆うフロントカバー23と、操舵系11及びヘッドパイプ15を後方側から覆うインナーカバー24と、ステップフロア21の下方でロアフレーム17を外側方から覆うロアカバー25と、シート13の下方でシートフレーム18を外側方から覆うサイドカバー26とを備える。
車両側面視では、インナーカバー24とシート13の前端部との間に、車両側面視で下方に窪む跨ぎ空間27が区画される。乗員は、自動二輪車1に乗降する際に、跨ぎ空間27を介して自動二輪車1を跨ぐことができる。
【0025】
図1及び
図3を参照し、自動二輪車1は、乗員の衝撃を軽減するエアバッグ装置30を備える。
エアバッグ装置30は、エアバッグユニット31と、自動二輪車1に対する衝撃を検出する加速度センサ(不図示)と、この加速度センサの検出結果に基づいてエアバッグユニット31の動作を制御するエアバッグ制御装置(不図示)とを備える。
【0026】
エアバッグユニット31は、インナーカバー24の後面側に配置され、シート13に着座する乗員の前方に位置する。また、エアバッグユニット31は、ヘッドパイプ15の後方でハンドル11eの下方に設けられ、跨ぎ空間27の前部に位置する。
エアバッグユニット31の後部は、インナーカバー24の中央部に設けられる切り欠き部から車体カバー14の外側である跨ぎ空間27に露出する。
【0027】
図4は、車体フレーム10に取り付けられたエアバッグユニット31を後方側から見た図である。
図5は、車体フレーム10に取り付けられたエアバッグユニット31の右側面図である。
図6は、外装部材40が取り外された状態を示すエアバッグユニット31の左側面図である。
エアバッグユニット31は、ヘッドパイプ15及びハンドルポスト11dの後方に配置され、車両側面視でヘッドパイプ15の後面に沿うように後傾して配置される。
【0028】
エアバッグユニット31は、車体フレーム10の前端部に設けられるステー32(
図2参照)に固定される。
図2、
図5を参照し、ステー32は、ヘッドパイプ15の上部に設けられる第1のステー33と、ダウンフレーム16の上部に設けられる第2のステー34とを備える。
第1のステー33は、ヘッドパイプ15とダウンフレーム16の上端との接続部16aよりも上方に設けられる。
第2のステー34は、第1のステー33の下方に配置される。
【0029】
図7は、エアバッグユニット31の分解斜視図である。
エアバッグユニット31は、シート13(
図1参照)に着座する乗員の前方に設けられる箱状のリテーナ41と、リテーナ41に収納されるエアバッグ42と、エアバッグ42内にガスを放出するインフレータ43と、インフレータ43及びエアバッグ42をリテーナ41に固定する固定部材44と、リテーナ41を外側から覆う外装部材40とを備える。
【0030】
本実施の形態のリテーナ41は、複数の部品を組み立てて箱状に構成される。リテーナ41は、インフレータ43を前方から覆うインフレータ収容部51と、ヘッドパイプ15の後方に設けられるリテーナ前半体52と、乗員側に設けられ、リテーナ前半体52及びインフレータ収容部51に後方から合わさるリテーナ後半体53とを組み立てて構成される。
【0031】
インフレータ収容部51とリテーナ前半体52とは、例えば溶接によって結合されて一体化される。インフレータ収容部51とリテーナ前半体52とが結合されることで、リテーナ41の前側の略半分を構成する前側ケース55が形成される。
リテーナ後半体53は、リテーナ41の後側の略半分を構成する後側ケースである。
前側ケース55にリテーナ後半体53を後方から結合させることで、リテーナ41が形成される。
【0032】
図4において、リテーナ41は、乗員側(車両後方側)から見た場合、逆L字状に形成された箱状部材である。なお、以下の説明でL字とは、リテーナ41を前方または後方から見た場合にL字状であることを意味する。リテーナ41は、後方から見た場合に逆L字であるが、L字状に形成されていると言える。
リテーナ41は、ステー32(
図2参照)を介して車体フレーム10の前端部に固定され、ヘッドパイプ15及びダウンフレーム16の後方に位置する。
【0033】
図4~
図6を参照して、リテーナ41は、上下に延びる上下延在部45(
図6参照)と、上下延在部45の下部側から車幅方向外側に延びる側方延出部46(
図6参照)とを備える。
上下延在部45は、ヘッドパイプ15に沿って上下方向に延びる箱状部であり、車両側面視では後傾している。上下延在部45は、車幅の中央に位置し、ハンドルポスト11d、ヘッドパイプ15、及びダウンフレーム16の上端部に後方から重なる。
側方延出部46は、車幅方向に延びる箱状部である。側方延出部46は、上下延在部45の側部からヘッドパイプ15の外側方を通り、車幅方向外側且つ前方側に延出する。
【0034】
リテーナ41は、上下延在部45から側方延出部46が延出することでL字状に形成される。リテーナ41の内部には、上下延在部45の内部空間及び側方延出部46の内部空間によって形成されるL字状のエアバッグ通路47(
図7参照)が形成される。
上下延在部45の上部には、エアバッグ通路47を上方に露出させる開口48(
図6、
図7参照)が形成される。エアバッグ42は、開口48から上方へ展開される。
インフレータ43は、側方延出部46内に配置されており、車幅の中央に位置するヘッドパイプ15に対して車幅方向外側にオフセットして配置される。
【0035】
リテーナ41のリテーナ前半体52と、インフレータ収容部51と、リテーナ後半体53との各部品について説明する。
図7に示すように、リテーナ前半体52は、上下に長い略矩形の前壁部65を備える。前壁部65は、上下延在部45の前側の側面を構成する。前壁部65の下縁には、後方に延びる下壁部68が形成されている。前壁部65の左右一側の側縁には、後方に延びる一側側壁66が形成されている。前壁部65の左右他側の側縁上部には、後方に延びる他側側壁67が形成されている。
【0036】
前壁部65の左右他側の側縁下部には、側方延出部46側且つ車両前方側へ延出する延出壁部69が形成されている。延出壁部69は、前壁部65の下部に連続する。延出壁部69の上縁には、車幅方向外側且つ後方に延びる延出部上壁70aが形成されている。延出部上壁70aは、他側側壁67の下端に連続する。延出壁部69の下縁には、車幅方向外側且つ後方に延びる延出部下壁70bが形成されている。延出部下壁70bは、下壁部68の側部に連続する。
【0037】
リテーナ前半体52の下端部には、リテーナ前半体52を後方に窪ませる凹部71が形成される。凹部71は、前壁部65の下端部及び下壁部68の前部がリテーナ41の内側に向かって凹む部分である。凹部71は、前壁部65の幅方向の中央部に設けられる。凹部71内に、ダウンフレーム16の上端部の後部が位置する。このため、リテーナ41の下端部をダウンフレーム16に近接して配置でき、リテーナ41をコンパクトに配置できる。
【0038】
延出壁部69の内面には、リテーナ41の内側に一段突出するリブ状の段部72が設けられる。段部72は、上下方向よりも左右方向に長く形成され、リテーナ41内を左右に延びる。段部72は、上下に並べて複数配置される。段部72は、延出壁部69の一部をリテーナ41の外側から内側に押し出すようにして形成される。
【0039】
図5に示すように、リテーナ前半体52の前壁部65の前面には、リテーナ41を車体フレーム10のステー32に締結する締結部73が設けられる。締結部73は、ヘッドパイプ15の第1のステー33に締結される第1の締結部材74と、ダウンフレーム16の第2のステー34に締結される第2の締結部材75とを備える。第1の締結部材74は、固定具(不図示)によって第1のステー33に締結される。第2の締結部材75は、左右一対の固定具97(
図5、
図6参照)によって第2のステー34に締結される。
【0040】
図7に示すように、リテーナ前半体52には、インフレータ収容部51が接続される。インフレータ収容部51は、後部が後方に開放する箱状の部品である。インフレータ収容部51は、インフレータ43を前方から覆う略矩形の壁部78を備える。壁部78の上縁には、後方に延出する上壁部79が形成される。壁部78の下縁には、後方に延出する下壁部80が形成される。壁部78の車幅方向外側の側縁には、後方に延出する外側側壁部81が形成される。壁部78の車幅方向内側の側縁には、後方に延出する内側側壁部82が形成される。
【0041】
上壁部79はリテーナ前半体52の延出部上壁70aに上方から重なり、下壁部80はリテーナ前半体52の延出部下壁70bに下方から重なり、内側側壁部82はリテーナ前半体52の延出壁部69に車幅方向内側から重なる。
インフレータ収容部51は、上壁部79、下壁部80、及び、内側側壁部82が、リテーナ前半体52に外側から重なった部分である溶接固定部51b(固定箇所)によって、リテーナ前半体52に対し溶接される。
【0042】
インフレータ収容部51の壁部78には、壁部78の中央部が前方側に膨出した収容本体部78a(
図6参照)が形成されている。収容本体部78aの周囲には、インフレータ43を受ける受け面部78bが形成されている。受け面部78bには、厚み方向に貫通する複数の固定孔部(不図示)が形成されている。
【0043】
インフレータ43は、ガスを噴出する筒状のインフレータ本体43aが収容本体部78aに収容される。また、インフレータ43は、インフレータ本体43aの後部外周から径方向に延出するフランジ部43bが、受け面部78bに当接される。フランジ部43bは、受け面部78bと枠状の固定部材44との間に挟まれる。インフレータ43は、固定部材44、フランジ部43b、及び、受け面部78bの固定孔部(不図示)に挿通される固定具83(
図6参照)によって、壁部78の内面に締結される。壁部78は、インフレータ43を支持するインフレータ支持部である。
【0044】
インフレータ43は、筒状のインフレータ本体43aの軸線43cが車両側面視で車両前後方向を指向する向きで壁部78の内面に配置される。フランジ部43bが固定される壁部78は、車両側面視では鉛直方向に対しやや後傾する。このため、軸線43cは車両側面視で後下がりに後方に延びる。ここで、車両側面視における軸線43cの傾斜は水平に対して45°よりも小さい。また、インフレータ43は、上方から見た平面視では、車両後方側に向かうに従って軸線43cが車幅の中央に近くなる向きで配置される。
【0045】
インフレータ43は、フランジ部43bの後方でインフレータ本体43aの外周に複数設けられるガス噴出口43d(
図7参照)からガスを噴出する。枠状の固定部材44は、ガス噴出口43dを周囲から囲む。ガス噴出口43dから噴出されるガスは、固定部材44の内面にガイドされて後方に流れる。
インフレータ収容部51の下壁部80には、配線通し孔79aが設けられる。配線通し孔79aには、インフレータ43を上記エアバッグ制御装置に接続する配線49(
図6参照)が通される。
【0046】
図7に示すように、リテーナ後半体53は、上下に長い板である略矩形の後壁部85を備える。後壁部85は、上下延在部45の後側側面を構成する。後壁部85の左下部には、車幅方向外側に延出する側部後壁部86が形成されている。側部後壁部86は、側方延出部46の後側側面を構成する。側部後壁部86の車幅方向外側の縁部には、前方且つ車幅方向外側に延出する延出部側壁87が形成されている。
【0047】
後壁部85の左右一側の側縁には、側方延出部46とは反対側の側縁から前方に延びる一側側壁88が形成されている。また、後壁部85の左右他側の側縁には、側方延出部46側の側縁から前方に延びる他側側壁89が形成されている。他側側壁89は、後壁部85の上部に形成される。
さらに、リテーナ後半体53は、後壁部85の下縁、側部後壁部86の下縁、及び延出部側壁87の下縁から前方に延出する下壁部90(
図6参照)と、側部後壁部86の上縁及び延出部側壁87の上縁から前方に延出する延出部上壁91とを備える。延出部上壁91は、他側側壁89の下端に連続する。
【0048】
リテーナ後半体53の側部後壁部86は、インフレータ本体43aの後面43eに対向する。インフレータ本体43aの軸線43cは、リテーナ41の側部後壁部86に交差する。
側部後壁部86の内面には、リテーナ41の内側に一段突出する段差形状93が設けられる。段差形状93は、上下方向よりも左右方向に長いリブ状に形成され、リテーナ41内を左右に延びる。
段差形状93は、上下に並べて複数配置される。上下に並べて配置される複数の段差形状93は、インフレータ43が噴出するガスの流れを車幅方向にガイドする。
段差形状93は、側部後壁部86の一部をリテーナ41の外側から内側に押し出すようにして形成される。
【0049】
次に、前側ケース55とリテーナ後半体53との固定部を説明する。
前側ケース55のリテーナ前半体52は、一側側壁66から車幅方向外側に延出する第1固定片56a及び第2固定片57aを備える。これに対応して、リテーナ後半体53は、一側側壁88から車幅方向外側に延出する第1固定片56b及び第2固定片57bを備える。第1固定片56a及び第1固定片56bは、第1固定部56a、56bを構成する。第1固定片56aと第1固定片56bとは、第1固定部56a、56bに後方から挿通される締結具(不図示)によって締結される。第2固定片57a及び第2固定片57bは、第2固定部57a、57bを構成する。第2固定片57aと第2固定片57bとは、第2固定部57a、57bに後方から挿通される締結具(不図示)によって締結される。
【0050】
リテーナ前半体52は、下壁部68の下方に延出する第3固定片58aを備える。第3固定片58aは、第2の締結部材75の接続部であり、第2の締結部材75と一体に形成される。第3固定片58aに対応して、リテーナ後半体53は、下壁部90において後壁部85の下方の部分から下方に延出する第3固定片58bを備える。第3固定片58a及び第3固定片58bは、第3固定部58(
図6参照)を構成する。第3固定片58aと第3固定片58bとは、第3固定部58に後方から挿通される締結具58c(
図6参照)によって締結される。
【0051】
リテーナ前半体52は、他側側壁67から車幅方向外側に延びる第4固定片59aを備える。これに対応して、リテーナ後半体53は、他側側壁89から車幅方向外側に延びる第4固定片59bを備える。第4固定片59a及び第4固定片59bは、第4固定部59(
図6参照)を構成する。第4固定片59aと第4固定片59bとは、第4固定部59に後方から挿通される締結具59cによって締結される。
【0052】
前側ケース55のインフレータ収容部51は、上壁部79から上方に延出する第5固定片60a及び第6固定片61aを備える。これに対応して、リテーナ後半体53は、延出部上壁91から上方に延出する第5固定片60b及び第6固定片61bを備える。第5固定片60a及び第5固定片60bは、第5固定部60(
図6参照)を構成する。第5固定片60aと第5固定片60bとは、第5固定部60に後方から挿通される締結具60c(
図6参照)によって締結される。
第6固定片61a及び第6固定片61bは、第6固定部61(
図6参照)を構成する。第6固定片61aと第6固定片61bとは、第6固定部61に後方から挿通される締結具61c(
図6参照)によって締結される。
【0053】
インフレータ収容部51は、下壁部80から下方に延出する第7固定片62a及び第8固定片63aを備える。これに対応して、リテーナ後半体53は、下壁部90において側部後壁部86の下方の部分から下方に延出する第7固定片62b及び第8固定片63bを備える。第7固定片62a及び第7固定片62bは、第7固定部62(
図6参照)を構成する。第7固定片62aと第7固定片62bとは、第7固定部62に後方から挿通される締結具62c(
図6参照)によって締結される。第8固定片63a及び第8固定片63bは、第8固定部63(
図6参照)を構成する。第8固定片63aと第8固定片63bとは、第8固定部63に後方から挿通される締結具63cによって締結される。
【0054】
インフレータ収容部51は、壁部78の前面から車幅方向外側に延出する第9固定片64aを備える。第9固定片64aの先端部64a1は、後方に屈曲しており、先端部64a1は、外側側壁部81の外側方に位置する。第9固定片64aに対応して、リテーナ後半体53は、延出部側壁87から前方に延出する第9固定片64bを備える。第9固定片64a及び第9固定片64bは、第9固定部64(
図6参照)を構成する。第9固定片64aと第9固定片64bとは、第9固定部64に外側方から挿通される締結具64c(
図6参照)によって締結される。
【0055】
リテーナ41は、固定部56a~57b、53~64を締結及び締結解除することで、前側ケース55とリテーナ後半体53とに分離可能である。このため、エアバッグ装置30の組み立て性の向上に寄与する。
固定部56a~57b、53~64が締結されることで、前側ケース55とリテーナ後半体53とが締結され、リテーナ41が構成される。
【0056】
固定部56a~57b、53~64が締結された状態では、リテーナ後半体53が前側ケース55に外側から重なる。すなわち、固定部56~64が締結された状態では、一側側壁88が、一側側壁66に外側から重なり、他側側壁89が他側側壁67に外側から重なり、下壁部90が下壁部68、延出部下壁70b、及び下壁部80に外側から重なり、延出部上壁91が延出部上壁70a及び上壁部79に外側から重なり、延出部側壁87が外側側壁部81に外側から重なる。
【0057】
エアバッグ42は、リテーナ41内においてL字状のエアバッグ通路47内に折り畳まれた状態で収納されており、側方延出部46から上下延在部45までに亘って設けられる。
エアバッグ42は、ガスの流れにおけるエアバッグ42の上流端が、固定部材44とフランジ部43bとの間に挟持されることで、インフレータ43に接続される。
【0058】
リテーナ41には外装部材40が装着される。外装部材40は、リテーナ41の下面を除くリテーナ41の表面の略全体を覆うように形成される。外装部材40は、リテーナ41を周囲から覆うカバー100と、リテーナ41の上面の開口48を上方から覆うリッド部103(リッド)とを一体に備える。カバー100は、リッド部103の下方に設けられる。カバー100は、上下延在部45を周囲から覆う上下延在部カバー部101と、側方延出部46を覆う側方延出部カバー部102とを一体に備える。カバー100の下面には、カバー100の内側の空間を下方に開放する下側開口部104が形成される。下側開口部104は、外装部材40の下面の全体に設けられる。外装部材40は、下側開口部104を介し上方からリテーナ41に被せられることで、リテーナ41に装着される。
【0059】
図4に示すように、上下延在部カバー部101の側方延出部46とは反対側の一側側面部101cには、一側側面部101cの一部を車幅方向外側に膨出させる固定部収納部105が設けられる。固定部収納部105内には、第1固定部56a、56b(
図7参照)及び第2固定部57a、57b(
図7参照)が収納される。
固定部収納部105の前面の上部には、この前面を貫通する第1取付孔105aが設けられる。第1取付孔105aにはカバー締結具108が挿通される。カバー締結具108は、第1固定片56bの上部に設けられた第1のカバー固定孔部56d(
図7参照)に締結される。
【0060】
固定部収納部105の前面において第1取付孔105aの下方には、固定部収納部105の前面を貫通する第2取付孔105bが設けられる。第2取付孔105bにはカバー締結具109が挿通される。カバー締結具109は、第2固定片57bの上部に設けられた第2のカバー固定孔部57dに締結される。
【0061】
側方延出部カバー部102の側部上面部102cには、側部上面部102cの一部を上方に膨出させる固定部収納部106が設けられる。
固定部収納部106内には、第4固定部59、第5固定部60、及び第6固定部61が収納される。固定部収納部106の前面には、この前面を貫通する第3取付孔106a(
図7参照)が設けられる。第3取付孔106aにはカバー締結具110が挿通される。カバー締結具110は、第4固定片59bの上部に設けられた第3のカバー固定孔部59d(
図6参照)に締結される。
カバー締結具108、109、110により、外装部材40がリテーナ41に締結される。なお、本実施の形態の外装部材40は、リテーナ41の前面に設けられた爪部(不図示)に係合しており、前部が上方に抜け止めされた状態でリテーナ41に装着されている。
【0062】
図3を参照し、ハンドルポスト11dの上端部には、ハンドル11eを支持するハンドルホルダー11fが設けられる。ハンドルホルダー11fは、上方からの平面視では円板状であり、ハンドル11eは、ハンドルホルダー11fの上面に固定される。
エアバッグユニット31は、外装部材40のリッド部103がハンドルホルダー11fの後方に並ぶように配置される。
外装部材40のリッド部103、後面部101a、側部後面部102a、固定部収納部105、及び固定部収納部106は、跨ぎ空間27に露出する。
【0063】
リッド部103の前部には、ハンドルホルダー11fの後部を避けるように下方に凹むリッド凹部103aが設けられる。リッド凹部103aの前縁は、ハンドルホルダー11fの後部の形状に合わせて円弧状に形成される。
ハンドルホルダー11fの後部は、リッド凹部103aに配置される。このため、リッド部103を、車両前後方向においてハンドルホルダー11fに近づけて配置できる。
【0064】
図4に示すように、外装部材40は、展開するエアバッグ42によって破断させられる開裂部として、テアライン115を備える。
テアライン115は、テアライン115の周囲の部分の外装部材40の板厚に対し、板厚が小さく形成された溝状の脆弱部である。
テアライン115は、板厚が小さく形成されており優先的に開裂する。
【0065】
テアライン115は、リッド部103の後縁103b、リッド部103の左右の両側縁103c、及び、リッド部103の前縁103dにおいてリッド凹部103aの部分を除く部分に設けられるリッド側テアライン115aを備える。また、テアライン115は、リッド側テアライン115aにおいて後縁103bの左右の端部の部分から後面部101aの左右の側縁に沿って下方に延びる左右一対の後側テアライン115bを備える。さらに、テアライン115は、リッド側テアライン115aにおいて前縁103dの左右の端部の部分から前面部101bの左右の側縁に沿って下方に延びる左右一対の前側テアライン(不図示)を備える。
【0066】
外装部材40は、リテーナ41の上端部から下端部までの範囲を覆い、リテーナ41の下面及び前面左下部を除くリテーナ41の略全体を外側から覆う。ここで、リテーナ41の上端部は、開口48であり、リテーナ41の下端部は、後壁部85及び側部後壁部86の下縁である。
このため、外装部材40によってリテーナ41を上方及び周囲から全体的に覆うことができ、リテーナ41の防水性を向上できる。
【0067】
本実施の形態のエアバッグ装置30では、上記エアバッグ制御装置の制御によって、インフレータ43は、軸線43cに沿うように車両後方に向かってエアバッグ42内にガスを噴出する。
インフレータ43からエアバッグ42内に放出されるガスは、側方延出部46及び上下延在部45によって進路を案内され、エアバッグ通路47内をL字状に流れる。
この際、インフレータ43から噴出されるガスの一部は、エアバッグ42を介し側方延出部46の段差形状93に当たり、段差形状93に沿うように車幅方向内側に流れる。
【0068】
ガスは、側方延出部46から上下延在部45に流れると、左右方向の流れから上方向の流れに変わり、上下延在部45内を上方に流れる。
上下延在部45内を上方に流れるガスによってエアバッグ42が上方に膨張すると、外装部材40は、テアライン115が開裂し、リッド部103が開いて開口48が露出する。そして、エアバッグ42は、上方に流れるガスによって、開口48から
図1の様に上方に展開する。
また、リテーナ41は、第2の締結部材75を介し、リテーナ41の下方側の位置でダウンフレーム16に締結されている。これにより、車体フレーム10側に対するリテーナ41の下部の支持剛性が高くなり、エアバッグ42がガスによって膨張する際には、リテーナ41の上部の開口48側の部分は、エアバッグ42の膨張によって、第2の締結部材75の部分を支点にして乗員側に若干移動するとともに、開口48を広げるように変形する。このため、エアバッグ42を上方へ良好に展開させることができる。
【0069】
図8は、展開膨張したエアバッグ42を後面側(乗員側に相当)から見た図である。
図9は、展開膨張したエアバッグ42を前面側(乗員と反対側)から見た図である。
エアバッグ42は、展開した状態でリテーナ41のエアバッグ通路47(
図7参照)内に位置する基端部121と、展開した状態でエアバッグ通路47の外側に位置する外側展開部122とを一体に備える袋である。
【0070】
外側展開部122は、外側展開部122の幅方向(左右方向)の中心線(左右中心線)C1を基準に左右対称に形成される。エアバッグ42は、中心線C1が車幅の中央よりも左側に位置するように配置される。エアバッグ42は、中心線C1が、車幅方向においてリテーナ41の上下延在部45の中心線47C(
図4~
図6参照)と同一の位置になるように配置される。
【0071】
外側展開部122は、基端部121の上端から上方に延びる首部122Aと、首部122Aの上端から上方に延びる展開部本体122Bと、展開部本体122Bの上部の幅方向中央から上方に膨出する膨出部122Cとを備える。
【0072】
首部122Aは、エアバッグ42が作動して展開した状態で、リテーナ41の開口48から上下方向に延びる筒状の部分である。
展開部本体122Bは、首部122Aとの接続部である下端から左右の幅を広げながら上方に延びる末広がりの形状に形成される。展開部本体122Bは、左右の幅が最大となる頭部対向部122Dを上端部に備える。頭部対向部122Dは、エアバッグ42が作動して展開した状態で、乗員の頭部を受けることが想定された部分である。
首部122A、展開部本体122B、及び、膨出部122Cは、中心線C1を基準に左右対称に設けられる。
【0073】
本実施の形態のエアバッグ42は、前面基布(前面)123(
図9参照)と、後面基布(後面)124(
図8参照)との合わせ構造で袋状に形成される。前面基布123と後面基布124の周縁部には、前面基布123と後面基布124を縫合して合わせ構造とする縫合部(結合部)131が形成される。
展開部本体122Bは、首部122Aと頭部対向部122Dとの間の位置に、中縫い部133、133を一対備える。中縫い部133、133は、中心線C1を基準に左右対称に設けられる。
【0074】
中縫い部133、133は、中縫い部133、133の周縁部に沿って外側展開部122の前面基布123と後面基布124とが縫い合わされて連結される部分であり、ガスGは、中縫い部133、133を通過しないように構成される。
左右の中縫い部133、133の間には、上流側よりもガスGの通路が狭くなる絞り部135が形成される。また、外側展開部122の左右の側部と中縫い部133、133との間には、上流側よりもガスGの通路が狭くなる絞り部136、136が形成される。
絞り部135,136,136によって頭部対向部122Dの上流側のガスGの通路が絞られるため、頭部対向部122Dに迅速にガスGが供給される。
【0075】
図10は、周長差を形成するパネル125、125の説明図である。
本実施の形態のエアバッグ42では、前面基布123と後面基布124との縫合部131には、前面基布123と後面基布124との間に側面視において周長差を形成するパネル125、125が縫合されている。パネル125、125は、前面基布123や後面基布124と同様に布で構成される。パネル125、125は、首部122Aの左右に一対設けられる。
図10において、左側のパネル125は左側面視を図示しており、右側のパネル125は右側面視を図示している。パネル125、125は、左右対称に構成される。パネル125、125は側面視では略D字状である。各パネル125、125は、前縁部126と、前縁部126に対向する後縁部127とを備える。側面視において、前縁部126および後縁部127は、後方に凹んだ弧状に形成されており、前縁部126は、後縁部127よりも周長が短い。
【0076】
前面基布123の周縁部と、パネル125の前縁部126とは対向されて縫合される。前面基布123の周縁部の周長は、パネル125との縫合部分では、パネル125の前縁部126の側面視の周長に対応する。
【0077】
後面基布124の周縁部と、パネル125の後縁部127とは対向されて縫合される。後面基布124の周縁部の周長は、パネル125との縫合部分では、パネル125の後縁部127の側面視の周長に対応する。
【0078】
外側展開部122の首部122Aでは、前面基布123側が短くなり、後面基布124側が長くなる。前面基布123と後面基布124との間には中心線C1に沿った方向において周長差が生じるため、エアバッグ42は、展開時に、中心線C1に沿った方向において前面基布123のある前方側に曲がった状態で展開され易くなる。
【0079】
首部122Aは、リテーナ41の開口48から上下方向に延びる筒状の部分であり、展開された状態では、車両側面視でハンドル11eの下方に位置する。よって、首部122Aに形成されたパネル125は、車両側面視でハンドル11eの下方に位置した状態でエアバッグ42が展開される。このため、エアバッグ42を、ハンドル11eに干渉することを抑制しつつ展開させることができる。
【0080】
特に、本実施の形態でのパネル125は、頭部対向部122Dを備えて左右方向に大きく広がる展開部本体122Bよりも、ガスGの流動方向上流側に配置される。よって、展開部本体122Bが、ハンドルポスト11dの左右に位置するハンドル11e部分に干渉することを抑制しつつ、エアバッグ42を展開させることができる。
【0081】
図8、
図9に示すように、エアバッグ42において、インフレータ43に接続される基端部121は、リテーナ41の側方延出部46内を左右に延びるバッグ左右延在部121Aと、バッグ左右延在部121Aから上方に延びるバッグ上方延在部121Bとを備える。
バッグ左右延在部121Aは、リテーナ41のインフレータ43側から中心線C1側へ左右方向に延びる。
バッグ上方延在部121Bは、上下延在部45内を中心線C1にやや傾斜して上方に延びる。バッグ上方延在部121Bの上端には、上方に延びる外側展開部122が連続する。
【0082】
基端部121は、バッグ左右延在部121Aが中心線C1に対し車幅方向の一方へ延出しており、中心線C1に対して左右非対称に形成される。
すなわち、エアバッグ42では、外側展開部122は中心線C1に対し左右対称であるが、基端部121は、L字状のエアバッグ通路47に沿うように、中心線C1に対し左右非対称に設けられる。
【0083】
バッグ左右延在部121Aの延在方向X1とバッグ上方延在部121Bの延在方向Y1とが交わる角度は、直角よりも大きな角度である。基端部121は、リテーナ41のエアバッグ通路47に沿ってL字状に形成されている。
基端部121は、リテーナ41内に収納されると、エアバッグ通路47に沿って略直角に湾曲する形状となる。
【0084】
基端部121の周縁部には、バッグ左右延在部121Aとバッグ上方延在部121Bとの接続部に湾曲部121C、121Dが形成される。ガスGは、湾曲部121C、121Dに沿うようにスムーズに流れる。
基端部121の前面基布123には、バッグ左右延在部121Aの中心線C1から車幅方向にオフセットした位置に、インフレータ43に接続される接続口121E(
図9参照)が設けられる。
【0085】
図11は、ループディフューザー141の正面図である。
エアバッグ42は、ガスGをガイドするループディフューザー141を備える。ループディフューザー141は、開口141Aをその一端に備えるL字状の袋状に形成されている。ループディフューザー141の周縁部は、開口141A以外の部分は閉じている。
ループディフューザー141は、基端部121のガス流路内に配置され、インフレータ43側から外側展開部122の下端部まで延びる。ループディフューザー141は、基端部121の内面に縫い合わされることでエアバッグ42に結合される。
【0086】
ループディフューザー141は、インフレータ43に接続される接続部141Bを備える。接続部141Bは、バッグ左右延在部121Aの接続口121Eに内面側から重ねてインフレータ43に接続される。インフレータ43から放出されるガスGは、接続部141Bからループディフューザー141の袋内に直接流入する。ループディフューザー141に流入したガスGは、ループディフューザー141に沿って流れ、開口141Aから外側展開部122内に流入する。
【0087】
開口141Aは、開口141Aから放出されるガスGが上方に流れるように配置される。
インフレータ43からのガスGの流れ方向をループディフューザー141によって制御できるため、エアバッグ42内へのガスGの充填順序を制御でき、エアバッグ42を効率良く上方に展開できる。
【0088】
図8、
図9に示すように、右側の中縫い部133の内周側下部には、右側のパイプ部137が形成されている。また、左側の中縫い部133の内周側下部には、左側のパイプ部138が形成されている。パイプ部137、138は、前面基布123と後面基布124とを円形状に縫合する。
【0089】
基端部121には、右側のサイドタブ139と左側のサイドタブ140とが設けられている。サイドタブ139、140は、前面基布123、後面基布124とは別体の布である。サイドタブ139、140は、前面基布123と後面基布124との間に配置されて縫合部131に縫合されている。
【0090】
右側のサイドタブ139は、基端部121の右側の湾曲部121Dから左右方向一側に延出した状態で縫合されている。右側のサイドタブ139は、バッグ左右延在部121Aの長手方向X1に沿って延びるインフレータ43の中心を通過する線L2と車両正面視で重複している。
【0091】
左側のサイドタブ140は、基端部121の左側の湾曲部121Cから左右方向他側に延出した状態で縫合されている。左側のサイドタブ140は、右側のサイドタブ139よりも車両正面視で上方に配置されている。
【0092】
パイプ部137、138とサイドタブ139、140との間には、繋留体171、172が配置される。繋留体171、172は、上下方向に延びる帯状の布で構成されている。
【0093】
図12は、エアバッグ42の折り畳み順序の説明図である。
図13は、
図12のXIII-XIII線断面に対応するエアバッグ42の車両上面視の断面を示す模式図である。
図14は、
図12のXIV-XIV線断面に対応するエアバッグ42の車両側面視の断面を示す模式図である。
図13において、中心線C2は、中心線C1に直交する前後方向に延びる中心線である。すなわち、中心線C1は車両正面視の中心線に対応し、中心線C2は、車両上面視の左右方向の中心線に対応する。なお、
図13、
図14では、説明の便宜のために、エアバッグ42を一層の構造として模式的に図示している。
【0094】
エアバッグ42は、リテーナ41に折り畳まれた状態で収納される。
図12~
図14を用いて、エアバッグ42の折り畳まれ方を説明する。
まず、外側展開部122は車両正面視で中心線C1に直交する方向に折り畳まれる。これは、外側展開部122は車両上面視で中心線C2に直交する方向に折り畳まれると考えてもよい。本実施の形態では、外側展開部122は、中心線C1(C2)を基準に左右対称に蛇腹状に折り畳まれる。
【0095】
具体的には、中心線C1(C2)よりも左端42B側の外側展開部122を、中心線C1(C2)から左側の所定の長さW1の位置を折り返し点(折り返す位置)として前方向に折り畳む。次に、左端42B側の外側展開部122を中心線C1(C2)の位置を折り返し点として前方向に折り畳む。そして、左端42B側の外側展開部122を中心線C1(C2)から左側の所定の長さW1の位置を折り返し点として前方向に折り畳む。このように、中心線C1(C2)から左側の所定の長さW1の位置と、中心線C1(C2)の位置とを、折り返し点として、左端42B側の外側展開部122を複数回、前方向に折り畳んで蛇腹状に折り畳む。
【0096】
右端42C側の外側展開部122は、左右が異なる点以外は、左端42B側の外側展開部122と同様に折り畳む。すなわち、中心線C1(C2)から右側の所定の長さW1の位置と、中心線C1(C2)の位置とを、折り返し点として、右端42C側の外側展開部122を複数回、前方向に折り畳んで蛇腹状に折り畳む。
【0097】
これにより、
図13に示すように、エアバッグ42には、左右一対の蛇腹部151、152が形成される。蛇腹部151の左右方向の幅(長さ)W1と、蛇腹部152の左右方向の幅W1の和は、リテーナ41の上下延在部45に収容可能な幅である。
なお、本明細書において、外側展開部122を蛇腹状に折り畳むとは、折り返す方向を切り替えながら直線的に延びる部分を重ねた折り畳み方をいう。
【0098】
次に、外側展開部122は、中心線C1に沿った方向に折り畳まれる。すなわち、蛇腹部151、152が、エアバッグ42の中心線C1に沿った方向に折り畳まれる。本実施の形態では、上端42Aが前方向に折り曲げられて、予め設定された巻数(回数)、ロール状に折り畳まれる。なお、本明細書において、外側展開部122をロール状に折り畳むとは、外側展開部122の端部を、あるいは、外側展開部122の折り返し点を端部として、折り返し、その折り返した部分を包むように一定方向に巻いた折り畳み方をいう。これにより、エアバッグ42には、ロール状に折り畳まれた先端折畳部153が形成される。先端折畳部153には、車両側面視の断面において、上端42Aを有する折り畳み部分に沿って、長手方向の仮想線L1が形成される。本実施の形態では、仮想線L1は上下方向に沿って延びている。
【0099】
先端折畳部153が形成された後に、先端折畳部153の前方側で逆方向(下方)に折り返す。これにより、先端折畳部153の前方側には、第2の折り返し点P2が形成され、第2の折り返し部154Bが形成される。第2の折り返し部154Bは、第2の折り返し点P2から仮想線L1に沿って下方に延びる部分により構成される。
【0100】
第2の折り返し点P2が形成された後に、先端折畳部153を包むように外側展開部122を折り畳むことにより、先端折畳部153の後方側にパネル125を移動させ、パネル125の位置で逆方向(下方)に折り返す。これにより、先端折畳部153の後方側には、第1の折り返し点P1が形成され、第1の折り返し部154Aが形成される。第1の折り返し部154Aは、第1の折り返し点P1から仮想線L1に沿って延びる外側展開部122により構成される。
第1の折り返し部154Aよりも基端部121側は、前後方向に複数回折り返されて蛇腹状に折り畳まれる。これにより、第1の折り返し部154Aの下方には基端側折畳部155が形成される。
【0101】
基端側折畳部155と、先端折畳部153との間に、中間折畳部154が形成される。第1の実施の形態の中間折畳部154は、第1の折り返し部154Aと第2の折り返し部154Bとを備える。
【0102】
エアバッグ42は、基端側折畳部155、中間折畳部154、および、先端折畳部153を備えた状態で、リテーナ41の上下延在部45に収納される。
このとき、先端折畳部153の長手方向の仮想線L1は上方延出部の中心線47Cに沿って配置される。また、第1の折り返し点P1はリテーナ41の後壁部(側面)85に近接して配置され、先端折畳部153と後壁部85との間に第1の折り返し部154Aが挟まれて配置される。さらに、第2の折り返し点P2はリテーナ41の前壁部(側面)65に近接して配置され、先端折畳部153と前壁部65との間に第2の折り返し部154Bが挟まれて配置される。
【0103】
先端折畳部153と中間折畳部154とが接続される接続部P0を、先端折畳部153の仮想線L1と、先端折畳部153の最外周の外側展開部122とが交差する位置とする。この場合に、第1の折り返し点P1の高さH1を、接続部P0から第1の折り返し点P1までの仮想線L1に沿った長さとする。また、第2の折り返し点P2の高さH2を、接続部P0から第2の折り返し点P2までの仮想線L1に沿った長さとする。
ここで、第1の折り返し点P1の高さH1が高いほど、展開される場合に、先端折畳部153が、車両前方に向かって展開され易いことが実験により確認されている。また、第2の折り返し点P2の高さH2が高いほど、展開される場合に、先端折畳部153が、乗員側に向かって展開され易いことが実験により確認されている。
本実施の形態では、第1の折り返し点P1の高さH1は、第2の折り返し点P2の高さH2よりも高く形成される。
【0104】
図15は、エアバッグ42の展開前の状態を示す自動二輪車1の要部左側面図である。
図16は、
図15の続きでありエアバッグ42の展開し始めの説明図である。
図17は、
図16の続きでありエアバッグ42の第1の折り返し部154Aの展開し始めの説明図である。
図18は、
図17の続きであり第2の折り返し部154Bの展開し始めの説明図である。
図19は、
図15の車両正面上方視に対応する説明図である。
図20は、
図19の続きであり
図18の車両正面上方視に対応する説明図である。
【0105】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
エアバッグ装置30のインフレータ43が作動すると、エアバッグ42内にガスGが噴射される。エアバッグ42は、ガスGの圧力で膨張し、上方に展開する。
すなわち、インフレータ43が作動すると、ループディフューザー141にガスGが噴射される。ガスGは、ループディフューザー141にガイドされてL字状の基端部121を移動する。基端部121を通過したガスGは外側展開部122に進入して外側展開部122を展開させる。基端部121に支持される外側展開部122は、姿勢が安定した状態で展開され易くなっている。
【0106】
外側展開部122では、車両側面視において、基端側折畳部155、中間折畳部154、先端折畳部153が展開され、左右方向において、蛇腹部151、152が展開される。
【0107】
基端側折畳部155が膨張すると、
図16に示すように、中間折畳部154や先端折畳部153が上昇する。これにより、外装部材40が破断されて、外側展開部122は開口48から展開される。本実施の形態では、第2の締結部材75によりリテーナ41の下部の支持剛性が高くなっており、エアバッグ42が膨張する際に、リテーナ41の上部の開口48側の部分は、第2の締結部材75の部分を支点にして乗員側に若干移動すると共に、開口48が広がるように変形する。このため、エアバッグ42の外側展開部122は膨張直後は後方に展開され易くなっている。
【0108】
外側展開部122は後方に展開されると、
図17に示すように、車両側面視ではハンドル11eの真下で第1の折り返し部154Aが展開される。また、左右方向では、蛇腹部151、152が展開される。
第1の折り返し部154Aの前方には、先端折畳部153が配置されており、展開される第1の折り返し部154Aから、先端折畳部153は前方側に移動する力を受ける。
【0109】
第1の折り返し部154Aには、パネル125、125が縫合されており、前面基布123と後面基布124との間には周長差が生じている。このため、リテーナ41から後方に飛び出したエアバッグ42は、ハンドル11eの下方を通過した後に上方に展開され易くなっており、エアバッグ42をハンドル11eに接触することを抑制しつつ、展開し易くなっている。
【0110】
第1の折り返し部154Aが展開され始めた後に、
図18に示すように、車両側面視では、第2の折り返し部154Bがハンドルホルダー11fの後方で展開される。また、
図20に示すように、車両正面上方視では、蛇腹部151、152が左右にバランス良く展開され、エアバッグ42はシート13の左右幅よりも外側に広がり、バックミラー11g、11gの基部(ハンドル11eの左右のグリップ11e1、11e1の車幅内端部)近傍まで展開される。
第2の折り返し部154Bの後方には、先端折畳部153が配置されており、展開される第2の折り返し部154Bから、先端折畳部153は乗員側(後方)に移動する力を受ける。
【0111】
先端折畳部153は、第1の折り返し部154A、第2の折り返し部154Bにより、展開される方向が調整される。先端折畳部153はロール状に折り畳まれており、回転しながら展開される。
このように、エアバッグ42は、ハンドル11eに接触することが抑制されつつ、効率良く展開される(
図1参照)。
【0112】
以上説明したように、本発明を適用した第1の実施の形態によれば、ヘッドパイプ15の後方に設けられるリテーナ41と、インフレータ43と、リテーナ41に収納され、インフレータ43が放出するガスGによって膨張して乗員の前方で展開するエアバッグ42とを備える鞍乗り型車両において、エアバッグ42は、車両側面視の断面において、蛇腹状に折り畳まれた基端側折畳部155と、基端側折畳部155から延びて基端側折畳部155の上方で折り畳まれた中間折畳部154と、中間折畳部154から延びてロール状または蛇腹状に折り畳まれた先端折畳部153とを備えた状態でリテーナ41に収納され、中間折畳部154は、車両側面視の断面において、先端折畳部153の前後方向で先端折畳部153に沿って折り畳まれた複数の折り返し点P1、P2を備える。したがって、エアバッグ42をより効率的に展開させることができる。
【0113】
本実施の形態では、折り返し点P1、P2は、先端折畳部153の前側と後側に設けられている。したがって、先端折畳部153の展開する方向を調整することができる。
【0114】
また、本実施の形態では、リテーナ41はヘッドパイプ15に沿って延びて上方に開口し、エアバッグ42は、リテーナ41の側面を構成する前壁部65、後壁部85に近接して折り返し点P1、P2が設けられている。したがって、エアバッグ42をより効率的に展開させることができる。
【0115】
また、本実施の形態では、エアバッグ42は、車両上面視の断面において、エアバッグ42の中心線C1に対して左右対称に折り畳まれている。したがって、エアバッグ42を左右方向にバランスよく展開させることができる。
【0116】
また、本実施の形態では、エアバッグ42の左右対称の折り方は蛇腹状である。したがって、エアバッグ42を簡易に折り畳んでリテーナ41に収納することができる。
【0117】
また、本実施の形態では、リテーナ41は、エアバッグ42を左右方向から上方に展開させるL字状のエアバッグ通路47を備え、エアバッグ42は、エアバッグ通路47内に収納されている。したがって、L字状のエアバッグ通路47に配置されたエアバッグ42を効率的に展開させることができる。
【0118】
<第2の実施の形態>
図21は、第2の実施の形態の説明図であり、第1の実施の形態の
図13に対応する図である。
第2の実施の形態の説明では、第1の実施の形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
第2の実施の形態のエアバッグ42では、外側展開部122は、中心線(左右中央部)C1、C2を基準に左右非対称に折り畳まれる。第2の実施の形態のエアバッグ42には、第1の実施の形態における蛇腹部151、152に代えて、ロール部251と変則蛇腹部252が形成されている。
【0119】
具体的には、中心線C1(C2)よりも左端42B側の外側展開部122は、左端42Bが後方に折り曲げられてロール状に折り畳まれる。これにより、エアバッグ42の中心線C1(C2)よりも、左側(左右方向一側)には、ロール状に折り畳まれたロール部251が形成される。
【0120】
また、中心線C1(C2)よりも右端42C側の外側展開部122は、中心線C1(C2)から右側に所定の長さW2の位置と、中心線C1(C2)の位置とを、折り返し点として、複数回、後方に折り畳んで蛇腹状に折り畳まれる。これにより、蛇腹部252Aが形成される。
次に、右端42C側の外側展開部122は、蛇腹部252Aの後側で中心線C1(C2)の位置を折り返し点として後方に折り畳まれ、蛇腹部252Aの後部、右部、及び、前部に包囲するように折り畳まれる。これにより、包囲部252Bが形成される。
【0121】
包囲部252Bの前部内端で、右端42C側の外側展開部122は、中心線C1(C2)の位置を折り返し点として前方に折り畳まれる。これにより、前側直線部252Cが形成される。
第2の実施の形態の変則蛇腹部252は、蛇腹部252A、包囲部252B、および、前側直線部252Cを備える。
【0122】
よって、第2の実施の形態では、中心線C1(C2)に対してインフレータ43が配置された側となる左側には、ロール状に折り畳まれたロール部251が形成される。また、中心線C1(C2)に対してインフレータ43から離間した側の右側には、蛇腹状に折り畳まれた変則蛇腹部252が形成される。なお、本実施の形態では、中心線C1、C2を基準に左右非対称に形成される構成を説明するが、左右非対称の基準の左右中央部は中心線C1、C2に一致する必要はなく、中心線C1、C2から左右方向にずれてもよい。
【0123】
第2の実施の形態では、エアバッグ装置30のインフレータ43が作動すると、エアバッグ42内にガスGが噴射され、外側展開部122では、車両側面視において、基端側折畳部155、中間折畳部154、先端折畳部153が展開され、左右方向において、ロール部251、変則蛇腹部252が展開される。
【0124】
すなわち、車両側面視では、第1の実施の形態と同様に、基端側折畳部155、中間折畳部154、先端折畳部153が展開される。
一方で、左右方向では、ロール部251、変則蛇腹部252が展開される。一般に、エアバッグ42は、ロール状に折り畳まれた部分の方が、蛇腹状に折り畳まれた部分よりも展開される展開速度が遅い。
第2の実施の形態では、左右方向では、中心線C1(C2)に対してインフレータ43側がロール部251であり、中心線C1(C2)に対してインフレータ43とは反対側が変則蛇腹部252となっている。よって、インフレータ43から噴射されたガスGが進入し易い側がロール状に折り畳まれている。また、インフレータ43から噴射されたガスGが進入し難い側が蛇腹状に折り畳まれている。第2の実施の形態では、インフレータ43からの距離が異なる左右の展開時間(展開にかかる時間)を合わせ易くなっており、エアバッグ42を効率よく展開させ易くなっている。
【0125】
以上説明したように、本発明を適用した第2の実施の形態によれば、ヘッドパイプ15の後方に設けられるリテーナ41と、インフレータ43と、リテーナ41に収納され、インフレータ43が放出するガスGによって膨張して乗員の前方で展開するエアバッグ42とを備える鞍乗り型車両において、エアバッグ42は、車両上面視の断面において、エアバッグ42の中心線C1(C2)に対して左右非対称に折り畳まれた状態でリテーナ41に収納されている。したがって、エアバッグ42をより効率的に展開させることができる。
【0126】
本実施の形態では、エアバッグ42は、車両上面視の断面において、エアバッグ42の中心線C1(C2)に対して、右側が蛇腹状に折り畳まれ、左側がロール状に折り畳まれた状態でリテーナ41に収納されている。したがって、エアバッグ42の左右方向の展開時間を調整することができる。
【0127】
また、本実施の形態では、インフレータ43は、エアバッグ42の中心線C1(C2)に対して左側に配置され、エアバッグ42は、エアバッグ42の中心線C1(C2)に対して左側でインフレータ43に接続されている。したがって、インフレータ43から放出されたガスGが到達し易い側をロール状とし、インフレータ43から放出されるガスGが到達し難い側を蛇腹状として、左右方向の展開時間を調整することができる。
【0128】
また、本実施の形態では、エアバッグ42は、車両側面視の断面において、蛇腹状に折り畳まれた基端側折畳部155と、基端側折畳部155から延びて基端側折畳部155の上方で折り畳まれた中間折畳部154と、中間折畳部154から延びてロール状に折り畳まれた先端折畳部153とを備えた状態でリテーナ41に収納され、中間折畳部154は、車両側面視の断面において、先端折畳部153の前後方向で先端折畳部153に沿って折り畳まれた複数の折り返し点P1、P2を備える。したがって、エアバッグ42をより効率的に展開させることができる。
【0129】
また、本実施の形態では、リテーナ41はヘッドパイプ15に沿って延びて上方に開口し、エアバッグ42は、リテーナ41の側面を構成する前壁部65、後壁部85に近接して折り返し点P1、P2が設けられている。したがって、エアバッグ42をより効率的に展開させることができる。
【0130】
また、本実施の形態では、リテーナ41は、エアバッグ42を左右方向から上方に展開させるL字状のエアバッグ通路47を備え、エアバッグ42は、エアバッグ通路47内に収納されている。したがって、L字状のエアバッグ通路47に配置されたエアバッグ42を効率的に展開させることができる。
【0131】
<第3の実施の形態>
図22は、第3の実施の形態の説明図であり、第1の実施の形態の
図14に対応する図である。
第3の実施の形態の説明では、第1の実施の形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
第3の実施の形態のエアバッグ42では、車両側面視において、第3の折り返し点P3が追加された状態で折り畳まれている。第3の折り返し点P3は、第2の折り返し部154Bと先端折畳部153との間に形成される。すなわち、第2の折り返し部154Bと、先端折畳部153との間に、第3の折り返し部354Cが配置される。
【0132】
第3の折り返し部354Cは、第3の折り返し点P3から仮想線L1に沿って下方に延びる部分により構成される。第3の折り返し部354Cと第2の折り返し部154Bとの接続部として、第4の折り返し点P4が形成されている。第1の折り返し点P1~第3の折り返し点P3は、上方から下方に折り返す折り返し点P1~P3である。これに対して、第4の折り返し点P4は、下方から上方に折り返す折り返し点P4である。
【0133】
基端側折畳部155と、先端折畳部153との間に、中間折畳部354が形成される。第3の実施の形態の中間折畳部354は、第1の折り返し部154Aと、第2の折り返し部154Bと、第3の折り返し部354Cとを備える。
第3の折り返し点P3の高さH3を、接続部P0から第3の折り返し点P3までの仮想線L1に沿った長さとする。また、第4の折り返し点P4の高さH4を、接続部P0から第4の折り返し点P4までの仮想線L1に沿った長さとする。
第3の折り返し点P3の高さH3は、第1の折り返し点P1の高さH1よりも高くなっている。第4の折り返し点P4の高さH4は、先端折畳部153と中間折畳部354との接続部P0よりも高くなっている。
【0134】
第3の実施の形態では、エアバッグ装置30のインフレータ43が作動すると、エアバッグ42内にガスGが噴射される。これにより、外側展開部122では、車両側面視において、基端側折畳部155、中間折畳部354、先端折畳部153が展開され、左右方向において、蛇腹部151、152が展開される。
【0135】
第3の実施の形態では、中間折畳部154が展開される際に、第1の折り返し部154A、第2の折り返し部154B、第3の折り返し部354Cが展開される。第3の折り返し部354Cの高さH3は、第1の折り返し部154Aの高さH1よりも高いため、先端折畳部153が展開される際に、ハンドルホルダー11fと先端折畳部153との間に第3の折り返し部354Cが介在し易くなっている。よって、先端折畳部153が展開される際に、ハンドルホルダー11fに接触することが抑制されており、ロール状の先端折畳部153が効率よく展開され易くなっている。
【0136】
なお、上記各実施の形態は本発明を適用した一態様を示すものであって、本発明は上記各実施の形態に限定されるものではない。
上記実施の形態では、先端折畳部153はロール状に折り畳まれた構成を説明したが、蛇腹状に折り畳まれた構成でもよい。
また、上記実施の形態では、基端側折畳部155は蛇腹状に折り畳まれた構成を説明したが、ロール状に折り畳まれた構成でもよい。
さらに、上記第1の実施の形態および第2の実施の形態では、第1の折り返し点P1と第2の折り返し点P2とを設ける構成を説明したが、折り返し点を3つ以上設けてもよい。
【0137】
上記第3の実施の形態では、蛇腹部151、152が形成された構成を説明したが、蛇腹部151、152に代えて、ロール部251と変則蛇腹部252とが形成された構成でもよい。
また、上記実施の形態では、折り返し点P1~P3は、先端折畳部153の前側と後側に設けられる構成が望ましい。しかし、先端折畳部153の前側と後側のいずれか一方にのみ設けられる構成でもよい。
また、上記実施の形態では、鞍乗り型車として自動二輪車1を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明は、前輪または後輪を2つ備える3輪の車両及び4輪以上を備える鞍乗り型車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0138】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
15 ヘッドパイプ
41 リテーナ
42 エアバッグ
43 インフレータ
47 エアバッグ通路
65 前壁部(側面)
85 後壁部(側面)
153 先端折畳部
154、354 中間折畳部
155 基端側折畳部
C1、C2 中心線(左右中心線)
G ガス
P1、P2、P3 折り返し点