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特許7498266原子力発電所内の炉心溶融を安定化するためのシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】原子力発電所内の炉心溶融を安定化するためのシステム
(51)【国際特許分類】
   G21C 9/004 20060101AFI20240604BHJP
   G21C 9/027 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G21C9/004
G21C9/027
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022518889
(86)(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-01
(86)【国際出願番号】 EP2020076521
(87)【国際公開番号】W WO2021058534
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】102019126049.3
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519462218
【氏名又は名称】フラマトム・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】フップ,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ケイム,トルステン
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-530682(JP,A)
【文献】特開2002-122686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 9/004
G21C 9/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電所(1)内の炉心溶融を安定化するためのシステム(2)において、
- 原子炉炉心(12)を格納する原子炉圧力容器(4)と、
- 前記原子炉圧力容器(4)の下に位置設定されているチャンバ(16)を画定する格納容器(6)と、
- 炉心溶融が検出される場合に前記チャンバ(16)内に冷却材(26)を供給するように構成されている冷却材供給装置(8)と、
- 前記チャンバ(16)内に供給された前記冷却材(26)を吸収するように適応された吸収材料(10)と、
を含むシステムであって、前記吸収材料(10)が、冷却材(26)の吸収時点で膨張するように適応されていることを特徴とするシステム(2)。
【請求項2】
前記吸収材料(10)が、複数の個別粒子(34、36)を含み、各個別粒子(34、36)が、冷却材(26)の吸収時点で膨張するように適応されている、請求項1に記載のシステム(2)。
【請求項3】
乾燥状態にある前記吸収材料(10)が、粒状または粉末状材料である、請求項2に記載のシステム(2)。
【請求項4】
前記吸収材料(10)が、前記冷却材を吸収した時点でその体積を少なくとも10倍増大させるように適応されている、請求項1から3のいずれか一つに記載のシステム(2)。
【請求項5】
前記吸収材料(10)が、乾燥状態にある前記吸収材料(10)の体積の10~500倍の冷却材体積(26)を吸収するように適応されている、請求項1から4のいずれか一つに記載のシステム(2)。
【請求項6】
前記吸収材料(10)が、乾燥状態にある前記吸収材料(10)の質量の少なくとも5倍である冷却材質量(26)を受容するように適応されている、請求項1から5のいずれか一つに記載のシステム(2)。
【請求項7】
前記冷却材供給装置(8)が、炉心溶融が検出される場合に前記チャンバ(16)に対して既定の体積の冷却材(26)を導入するように構成されている、請求項1から6のいずれか一つに記載のシステム(2)。
【請求項8】
前記吸収材料(10)が、乾燥状態における初期体積と前記既定の体積の冷却材(26)が前記吸収材料(10)中に吸収された膨潤状態における第2の体積とを占めるように適応されており、前記第2の体積が前記初期体積よりも少なくとも10倍大きいものである、請求項7に記載のシステム(2)。
【請求項9】
前記吸収材料(10)が、1分~10時間の期間内で前記既定の体積の冷却材(26)を吸収するように適応されている、請求項7または8に記載のシステム(2)。
【請求項10】
前記システム(2)が、前記吸収材料(10)を格納するコンテナ(38)をさらに含む、請求項1から9のいずれか一つに記載のシステム(2)。
【請求項11】
前記コンテナ(38)が、封止可能である、請求項10に記載のシステム(2)。
【請求項12】
前記コンテナ(38)が、密封可能である、請求項11に記載のシステム(2)。
【請求項13】
前記システム(2)が、前記コンテナ(38)を開放するための開放メカニズム(42)をさらに含み、前記吸収材料(10)は、前記コンテナ(38)が開放される時点で前記コンテナ(38)から流出するように適応されている、請求項10から12のいずれか一つに記載のシステム(2)。
【請求項14】
前記吸収材料(10)が、保護ガス雰囲気(40)下の前記コンテナ(38)内に保管されており、前記保護ガス雰囲気(40)が、相対湿度70%超のチャンバ雰囲気から前記吸収材料を保護するように適応されている、請求項10から13のいずれか一つに記載のシステム(2)。
【請求項15】
前記吸収材料(10)が、毎時少なくとも30グレイの放射線被爆に耐えられるように適応されている、請求項1から14のいずれか一つに記載のシステム(2)。
【請求項16】
- 前記吸収材料(10)が保管される保管ステップと、
- 前記冷却材供給装置(8)が前記冷却材(26)、詳細には既定量の冷却材を前記チャンバ(16)内に供給する冷却材(26)導入ステップと、
- 前記吸収材料(10)が前記冷却材(26)を吸収するステップであって、ここで前記冷却材(26)の吸収時点で前記吸収材料(10)が膨張する、吸収ステップと、
- 前記吸収材料(10)が前記炉心溶融中に前記原子炉圧力容器(4)からの溶融材料(28)と接触する、安定化ステップと、
を含む炉心溶融の安定化方法を行なうように構成されている、請求項1から15のいずれか一つに記載のシステム(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所内の炉心溶融を安定化するためのシステムにおいて:
- 原子炉炉心を格納する原子炉圧力容器と、
- 原子炉圧力容器の下に位置設定されているチャンバを画定する格納容器と、
- 炉心溶融が検出される場合にチャンバ内に冷却材を供給するように構成されている冷却材供給装置と、
- チャンバ内に供給された冷却材を吸収するように適応された吸収材料と、
を含むシステムに関与する。
【背景技術】
【0002】
炉心溶融中、原子炉圧力容器は機能不全に陥り、結果として、原子炉圧力容器から炉心の溶融材料が原子炉圧力容器の下の格納容器によって画定されたチャンバ内に漏出する可能性がある。
【0003】
したがって、炉心溶融中、重要な最終目的は、格納容器の健全性を維持して、環境内への放射能放出を防止、あるいは少なくとも制限し監視することである。
【0004】
この目的で、炉心溶融が検出される場合、格納容器の諸部分に水を満たして、原子炉圧力容器の機能停止後に格納容器内に漏出し得る溶融材料を安定化させ常時冷却することが公知である。
【0005】
しかしながら、溶融材料と水が接触する場合、それによって水と溶融材料の間に高エネルギの相互作用が誘発される可能性がある。この時点で、詳細には、高エネルギの蒸気爆発が発生する可能性があり、これは、格納容器の故障および/または炉心溶融に対処するのに非常に重要である装置の故障、および長期にわたる影響を導き得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、炉心溶融が発生した場合に格納容器の健全性を維持するための改善されたシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、この課題は、原子力発電所内の炉心溶融を安定化するためのシステムにおいて:
- 原子炉炉心を格納する原子炉圧力容器と、
- 原子炉圧力容器の下に位置設定されているチャンバを画定する格納容器と、
- 炉心溶融が検出される場合にチャンバ内に冷却材を供給するように構成されている冷却材供給装置と、
- チャンバ内に供給された冷却材を吸収するように適応された吸収材料と、
を含むシステムであって、吸収材料が、冷却材の吸収時点で膨張するように適応されているシステムによって達成されている。吸収材料中への冷却材の吸収を通して、本発明に係るシステムは、特に、溶融材料と液体冷却材間の直接的接触を防止することを可能にする。これにより、本発明に係るシステムは、冷却材と溶融材料間の高エネルギの相互作用のリスクを減少させ、詳細には蒸気爆発のリスクを制限することを可能にする。同時に、吸収材料中に拘束された冷却材は、高温の溶融材料との接触を通して吸収材料の構造から連続的に放出され蒸発させられて、環境中に放出されることから、冷却機能は、本発明に係るシステムによって保証される。
【0008】
詳細には、原子炉圧力容器からの溶融材料は、吸収材料と接触することによって分断される。例えば、原子炉圧力容器から漏出した溶融ジェットは、冷却材で飽和した吸収材料にぶつかったときに崩壊させられ、構成成分は分解させられる。本発明では、この効果は、詳細には、飽和した吸収材料の機械的強度が冷却材自体の機械的強度と比べて高いことによって達成される。
【0009】
好適な実施形態によると、本発明に係るシステムは、技術的に可能な全ての組合せの形で、以下の特徴の1つまたは全てを含む:
- 吸収材料は、多数の個別粒子で構成され、各個別粒子は、冷却材の吸収時点で膨張するように適応されている。
- 乾燥状態にある吸収材料は、粒状または粉末状材料である。
- 吸収材料は、冷却材を吸収した時点でその体積を少なくとも10倍増大させるように適応されている。
- 吸収材料は、乾燥状態にある吸収材料の体積の10~500倍の冷却材体積を吸収するように適応されている。
- 吸収材料は、乾燥状態にある吸収材料の質量の少なくとも5倍である冷却材質量を受容するように適応されている。
- 冷却材供給装置は、炉心溶融が検出される場合にチャンバ内に既定の体積の冷却材を供給するように構成されている。
- 吸収材料は、乾燥状態における初期体積と既定の体積の冷却材が吸収材料中に吸収された膨潤状態における第2の体積とを占めるように適応されており、第2の体積は初期体積よりも少なくとも10倍大きいものである。
- 吸収材料は、1分~10時間の期間内で既定の体積の冷却材を吸収するように適応されている。
- システムは、吸収材料が内部に格納されているコンテナをさらに含む。
- コンテナは、封止可能、好ましくは密封可能である。
- システムは、コンテナを開放するための開放メカニズムをさらに含み、吸収材料は、コンテナが開放される時点でコンテナから流出するように適応されている。
- 吸収材料は、保護ガス雰囲気下のコンテナ内に保管されており、保護ガス雰囲気は、相対湿度70%超のチャンバ雰囲気から吸収材料を保護するように適応されている。
- 吸収材料は、毎時少なくとも30グレイの放射線被爆に耐えられるように適応されている。
- システムは、
- 吸収材料が保管される保管ステップと;
- 冷却材供給装置が、冷却材、詳細には既定量の冷却材をチャンバ内に供給する冷却材導入ステップと;
- 吸収材料が、冷却材を吸収するステップであって、ここで冷却材の吸収時点で吸収材料が膨張する、吸収ステップと;
- 吸収材料が、炉心溶融中に原子炉圧力容器からの溶融材料と接触する、安定化ステップと;
を含む安定化方法を行なうように構成されている。
【0010】
本発明の好適な実施形態についてここで、図面を通して詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】炉心溶融を安定化するための本発明に係るシステムを有する原子力発電所の一部分の概略的切断図である。
図2-4】本発明に係るシステムを用いた炉心溶融安定化の連続的ステップが概略的に示されている、図1と同様の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1~4は、炉心溶融安定化のためのシステム2を有する原子力発電所1の一部を示す。
システム2は、原子炉圧力容器4、格納容器6、冷却材供給装置8、および吸収材料10を含む。
【0013】
図1~4は、原子炉圧力容器4の下部部分および格納容器6を示す。
【0014】
原子炉圧力容器4は、発電のための熱エネルギを提供する公知の連鎖反応を行なうために核燃料を使用することのできる原子炉炉心12を格納する。詳細には、原子炉炉心は、核燃料を格納する多くの燃料棒14を含む。
【0015】
原子炉炉心12はそれ自体公知であり、以下の説明において詳述することはしない。
【0016】
格納容器6は、原子炉圧力容器4を取り囲んでいる。格納容器6は、原子炉圧力容器4の下方に位置設定されたチャンバ16を画定する。チャンバ16は例えば、下方では格納容器6の床20によって制限されている。チャンバ16は、原子炉圧力容器4の下端部まで上向きに延在する。
【0017】
一実施例において、チャンバ16は格納容器6の側壁18によって横方向に制限されている。
【0018】
一実施例(図示せず)において、チャンバ16は、格納容器6の内側に位置設定された側壁によって横方向に制限されている。この実施例では、格納容器6の側壁18は、具体的にチャンバ16の側壁に対応していない。
【0019】
チャンバ16は、例えば、50m~2000mの体積を有する。
【0020】
例えば、チャンバ16は、原子炉ピット、つまり具体的には原子炉炉心12内の反応を制御する目的で制御棒を駆動するための駆動チャンバを形成する。
【0021】
冷却材供給装置8は、炉心溶融が検出される場合にチャンバ16内に冷却材26、詳細には既定の体積の冷却材26を供給するようにセットアップされている。
【0022】
冷却材供給装置8は、チャンバ16内に冷却材26を補給するための補給ライン22、およびチャンバ16内への冷却材の補給を制御するための制御装置25を含む。
【0023】
図中に示された例において、冷却材供給装置8は詳細には、補給ライン22の内部に位置設定された遮断装置24も含んでいる。遮断装置24は具体的には、補給ライン22を閉じそれによって補給ライン22を通したチャンバ16内への冷却材の補給を妨げる閉鎖状態と、補給ライン22を通してチャンバ16内に冷却材が補給されるのを可能にする開放状態とを有する。この実施例において、制御装置25は具体的には、遮断装置24の状態を制御することができる。
【0024】
制御装置25は具体的には、炉心溶融を表示する信号を受信するようにセットアップされており、このとき遮断装置24は冷却材26を制御するための信号を受信し、具体的には既定の体積の冷却材26が補給ライン22を通ってチャンバ16内に導入される。このことは、図2に具体的に示されている。制御装置25は具体的には、遮断装置24をその閉鎖状態から開放状態まで移動させるようにセットアップされている。
【0025】
制御装置25によって受信される、炉心溶融を表示する信号は、具体的には、原子力発電所1の制御システム(図示せず)によって創出される。原子力発電所1の制御システムは、例えば、それ自体公知の形で炉心溶融を検出するようにセットアップされている。
【0026】
一実施例によると、原子力発電所1の制御システムは、具体的には、発電所特異的条件、例えば発電所のタイプおよび/または国の安全性機関の規定に準じて炉心溶融を知らせるようにセットアップされている。
【0027】
例えば、制御装置25は、原子炉炉心の出口において冷却材温度を測定することによって炉心溶融を検出するようにセットアップされている。一実施例によると、原子力発電所1の制御システムは具体的には、出口において原子炉炉心12の冷却材について記録された冷却材温度が650℃より高い場合に炉心溶融を知らせるようにセットアップされている。
【0028】
冷却材16は具体的には、冷却用液体、具体的には水である。代替的実施例によると、冷却材16は、炉心溶融を冷却し炉心材料の未臨界状態を保証するのに好適である任意の冷却用液体であり得る。
【0029】
吸収材料10は、チャンバ16内に供給された冷却材26を吸収し、冷却材26を吸収するときに膨張するように適応されている。
【0030】
具体的には、吸収材料10は固相を有し、冷却材26は液相を有する。
【0031】
「吸収する」および「吸収」なる用語は、化学的意味において理解されるべきものである。例えば、「吸収する」または「吸収」は、冷却材26、詳細には、吸収材料10の固相中への冷却材26の分子の吸収を意味する。例えば、「吸収する」または「吸収」は、細孔内への冷却材26の導入または吸収材料10の分子構造内への冷却材26の包埋を意味する。具体的には、これは、吸着を意味している吸収材料の表面上の冷却材26の分子の蓄積を意味するものではない。
【0032】
具体的には、吸収材料10はその乾燥状態において初期体積を占めることができ(図1参照)、その膨潤状態においては第2の体積を占めることができる(図3参照)。
【0033】
「乾燥状態」は、相対湿度70%未満で、吸収材料10の含水量が周囲の雰囲気と平衡状態にある状態を意味する。原子炉の通常運転中、吸収材料は乾燥状態にある。
【0034】
「膨潤状態」は、チャンバ16内に導入された既定の体積の冷却材26が吸収材料10中に吸収された、特に完全に吸収された状態に対応する。
【0035】
吸収材料10の化学的組成は、具体的に、以下の基準のうちの単数または複数との関係において選択される:吸収能力、体積増加、吸収速度、温度耐性、放射線耐性。付加的に、または代替的に、以下の基準のうちの単数または複数を考慮に入れることができる:酸/塩基耐性、機械的安定性、冷却材放出速度、溶融材料を分断する能力、再臨界の防止、ここで臨界とは、単位時間あたりに吸収および漏出を通して消滅するのと同数の自由中性子が生成される原子炉炉心12の状態を表現している。
【0036】
吸収能力の基準に関しては、吸収材料10は、既定の体積の冷却材を完全に吸収すること、特に、膨潤状態にある溶融材料28の適切な冷却を可能にすること、ができなければならない。
【0037】
具体的には、乾燥状態における吸収材料10の体積の10~500倍の冷却材26の体積を吸収するように適応されている吸収材料10が選択される。
【0038】
付加的にまたは代替的には、乾燥状態における吸収材料10の質量の少なくとも5倍である冷却材質量26を受容するように適応された吸収材料10が選択される。
【0039】
体積増加の基準に関しては、吸収材料10は、例えば、その体積が冷却材26を吸収することによって少なくとも10倍増加し、具体的には乾燥状態における吸収材料10の体積の10~500倍であるように選択される。具体的には、吸収材料10は、第2の体積が初期体積の少なくとも10倍大きくなるように選択される。具体的には、第2の体積は、初期体積より10~500倍大きい。
【0040】
付加的にまたは代替的には、吸収材料10は、冷却材26を吸収した時点で、逓減的な時間の経過にしたがって体積を変えるように選択され得る。例えば、吸収材料10は、冷却材26の吸収期間の最初の10%の間、体積変化率が最大となるような形で成形される。
【0041】
例えば、吸収速度に関しては、吸収材料10は、チャンバ16内に導入された既定の冷却材体積26が1分~10時間の期間内で吸収されるように選択される。
【0042】
放射線耐性に関しては、吸収材料10は、毎時少なくとも30グレイの放射線被曝に耐えるような形で選択される。
【0043】
温度耐性に関しては、吸収材料10は、少なくとも100℃の温度を維持するような形で選択される。
【0044】
吸収材料10についての上述の選択基準は、所望どおりに組合せることが可能である。
【0045】
吸収材料10を構成し得る好適な材料は、例えば、ポリアクリル酸などの有機材料、ベントナイトなどの無機材料、および/または単数または複数の有機材料および単数または複数の無機材料の混合物から形成されたものなどの複合材料、の中から選択される。
【0046】
例えば複合材料の場合、有機および無機材料の割合は、上述の基準のうちの単数または複数のものに基づいて選択されなければならない。
【0047】
例えば、吸収材料10は、架橋極性ポリマーを含む。これらのポリマーは、例えば、さまざまな比率でモノマー、アクリル酸およびアクリルアミドからなるコポリマーとして形成される。さらに、例えばコア架橋剤により吸収材料10を非水溶性にすることができる。例えば、吸収材料10は、外部機械的荷重に対する極めて限定的な耐性を生成する表面後架橋によって化学的に最終的構造にされる。
【0048】
吸収材料10としては「超吸収材」が特に好適である。
【0049】
好適には、図1~4に示されているように、吸収材料10は、多くの個別粒子34で構成されており、ここで各個別粒子34は、冷却材26の一部分を吸収し同時に膨張するように適応されている。したがって、吸収材料10の膨張は、それを構成する個別粒子34の膨張の結果である。膨潤状態において、導入された冷却材体積全体が、好適には個別粒子34によって吸収され、こうして個別粒子34間の空間はガスで満たされ、本質的に冷却材の無い状態となる。ガスは、空気または窒素などの、格納容器6の雰囲気を形成するガスに対応する。
【0050】
この挙動は、例えば図1、2および3を比較したとき、明らかである。図1は、乾燥状態における個別粒子34を示す。図2では、いくつかの粒子34が冷却材26の吸収により膨張し、ひいては乾燥状態よりも大きな体積を有する。図3は、導入された全冷却材26が個別粒子34により吸収され、これにより個別粒子が膨潤状態となった状態を示す。
【0051】
例えば、乾燥状態にある各個別粒子は、0.1mm~5mmの最小直径を有する。
【0052】
個別粒子34は、好適には、乾燥状態で互いに連結されていない。
【0053】
各個別粒子34は、例えばボール状である。別の例では、個別粒子34は不規則な形状を有する。
【0054】
好適には、乾燥状態にある吸収材料10は、粒状または粉末状であり、ここで各個別粒子34は、単一の粒または粉末粒子を形成する。
【0055】
図1~4中の実施例において、システム2はさらに、吸収材料10を格納するコンテナ38を有する。具体的には、吸収材料10はコンテナ38内に乾燥状態で保管される。
【0056】
コンテナ38は具体的には、原子炉圧力容器4のすぐ近くに位置設定されている。具体的には、コンテナ38は、格納容器6内に位置設定されている。好適には、コンテナ38はチャンバ16内、具体的には原子炉圧力容器4の下方に位置設定される。コンテナ38はまた、他の好適な空間内に位置設定され得る。
【0057】
コンテナ38は、閉鎖状態と開放状態を有する。
【0058】
閉鎖状態で、コンテナ38は封止、具体的には密封されている。「密封される」とは、コンテナ38が、コンテナ38内部とコンテナ38外側の雰囲気との間の気体または液体交換を防止することを意味している。
【0059】
開放状態では、コンテナ38内の吸収材料10は、重力の影響下などでコンテナ38の外に流出するように適応されている。
【0060】
例えば、コンテナ38は、吐出開口部、および閉鎖状態でこの吐出開口部を封止するカバーを含む。開放状態では、カバーは開放しており、吐出開口部を通してコンテナ38から吸収材料10を放出できるようにしている。
【0061】
コンテナ38が閉鎖状態にある場合、吸収材料10は、保護ガス雰囲気40下でコンテナ38内に保管され、ここで保護ガス雰囲気は、湿気、詳細には大気の湿気、例えば格納容器6由来の湿気を吸収しないよう吸収材料10を保護するように適応されている。保護ガスは窒素または、例えばアルゴンなどの希ガスである。具体的には、保護ガスは、材料10が、閉鎖状態のコンテナ38内での保管中に相対湿度70%超を有する雰囲気に曝露されるのを防止する。
【0062】
具体的には、コンテナ38は、原子炉の通常運転中、その閉鎖状態にある。この状態で、吸収材料10は、具体的に、コンテナ38内において乾燥状態で保管される。
【0063】
「通常運転」とは、原子炉圧力容器4、具体的には原子炉炉心12が運転についての規定の温度範囲内の温度にある運転を意味する。
【0064】
例示された実施例において、システム2はさらに、コンテナ38を開放するための開放メカニズム42(図1に具体的に見られる)を含む。この開放メカニズム42は、開放メカニズムが炉心溶融に対応する信号を受信する場合に、コンテナ38を開放状態へと移動させるようにセットアップされている。
【0065】
例えば、開放メカニズム42は電磁石44を有する。この例において、電磁石44は、適切な電流がそれに供給されているかぎり、カバー上に適切な封止力を及ぼすことによってコンテナ38のカバーを封止状態に保つようにセットアップされている。電磁石44に対する電流が中断される場合、電磁石の閉鎖力は喪失し、カバーは、例えばばねなどの弾性復元要素の対応する配設によってかまたはカバーの自重によって開放される。炉心溶融が発生するまで電源はバッテリバックアップによって維持される。
【0066】
コンテナ38は好適には、開放状態でコンテナ38から漏出する吸収材料10が、原子炉圧力容器4の下方のチャンバ16に入るような形で位置設定される。
【0067】
膨潤状態において、吸収材料10は好適には、図3に示されているように原子炉圧力容器4の下方に延在し、こうして結果としての溶融ジェット30が吸収材料10と遭遇しチャンバ16の体積の半分超を満たすようになっている。
【0068】
膨潤状態において、吸収材料10は、直接的接触を通して衝撃を与えている溶融ジェット30を冷却し分断するように適応されている(図4参照)。例えば、溶融ジェット30は吸収材料10との接触により崩壊させられ、溶融材料28は硬化される。
【0069】
具体的には、膨潤状態にある吸収材料10は、吸収材料10が溶融材料28により加熱される時点で、詳細には蒸気などの気体冷却材32の形態で、冷却材26の一部を放出するように適応されている。
【0070】
具体的には、膨潤状態にある吸収材料10は、吸収材料10中に拘束された冷却材26を吸収材料10の構造から連続的に放出し、それが高温の溶融材料28との接触を通して蒸発できるようにするように適応されている。漏出した気体冷却材32は具体的に、溶融材料28のさらなる分断に寄与する。
【0071】
溶融材料を安定化するための方法について以下で説明する。
【0072】
該方法には、保管ステップ、冷却材26導入ステップ、吸収ステップおよび安定化ステップという連続するステップが含まれる。
【0073】
保管ステップ中、原子炉は通常運転で作動する。
【0074】
保管ステップ中、吸収材料10は保管されている。例えば、吸収材料10は格納容器6の内部に保管される。
【0075】
図1に示されているように、吸収材料10は、好適には、保管ステップ中、コンテナ38内に位置設定されている。コンテナ38は封止、具体的には密封される。例えば、開放メカニズム42はコンテナ38を封止状態に保つ。コンテナ38内の吸収材料10は乾燥状態にある。例えば、吸収材料10はコンテナ38内において保護ガス雰囲気40下で保管される。
【0076】
図2に示されているように、冷却材26の導入段階中、冷却材供給装置8が冷却材26、具体的には既定の冷却材体積をチャンバ16内に導入する。具体的には、この目的のために、制御装置は冷却材供給装置8の遮断装置24を開放し、こうして冷却材26がチャンバ16内に流入することになる。
【0077】
さらに、このステップにおいて、コンテナ38は、例えば電磁石44への電流を中断することによって開放され、こうして、開放状態のコンテナ38から流出する吸収材料10もチャンバ16に達することになる。
【0078】
導入ステップは、炉心溶融が検出されたとき、具体的には制御装置25が、例えば原子力発電所1の制御装置などから対応する信号を受信するときに行なわれる。
【0079】
図3に示されている吸収ステップの間、吸収材料10は冷却材26を吸収する。吸収材料10は膨張する。
【0080】
図4に示されている安定化ステップ中、原子炉コンテナに由来する溶融材料28は膨潤した吸収材料と接触する。
【0081】
具体的には、このステップ中、溶融ジェット30は吸収材料10と遭遇し、これが溶融ジェット30を分断する。吸収材料10は、直接的接触を通して溶融ジェット30の溶融材料28を冷却する。具体的には、吸収材料10が溶融材料28によって加熱されると、吸収材料10は、具体的には蒸気などの気体冷却材32の形態で、吸収された冷却材28の一部を放出する。
【0082】
例えば、吸収材料10は、図4に具体的に示されているように、冷却材を排出した時点でその体積を減少させる。
【0083】
溶融材料28は、冷却材32が排出した吸収材料から排出された熱により安定化される。
【0084】
吸収材料10中への冷却材26の吸収を通して、本発明に係るシステム2は、詳細には、溶融材料28と液体冷却材26の間の直接的接触を防止することを可能にする。これと共に、本発明に係るシステム2は、冷却材と溶融材料28の間の高エネルギの相互作用のリスクを減少させること、詳細には蒸気爆発のリスクを制限することを可能にする。
【0085】
それと同時に、吸収材料10中に拘束された冷却材26は吸収材料10の構造から連続的に放出され、高温の溶融材料28との接触を通して蒸発させられ、環境内に放出されることから、冷却機能は本発明に係るシステムによって保証される。
【0086】
詳細には、原子炉圧力容器4からの溶融材料28は、膨潤した吸収材料10との接触によって分断される。
【0087】
例えば、原子炉圧力容器4から漏出した溶融ジェット30は、冷却材26で飽和した吸収材料10にぶつかったときに崩壊させられ、構成成分は分解させられる。本発明では、この効果は、詳細には、飽和した吸収材料10の機械的強度が冷却材26自体の機械的強度と比べて高いことによって達成される。その上、吸収材料10は、詳細にはその飽和状態において、チャンバ16の雰囲気に対応する空気または窒素などのガスで満たされる空間をその粒子間に提供することから、溶融ジェット30を崩壊させるために好適である。
【符号の説明】
【0088】
1 原子力発電所
2 炉心溶融を安定化するためのシステム
4 原子炉圧力容器
6 格納容器
8 冷却材供給装置
10 吸収材料
12 原子炉炉心
16 チャンバ
26 冷却材
28 溶融材料
34、36 個別粒子
38 コンテナ
42 開放メカニズム

図1
図2
図3
図4