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特許7498274フェーズドアレイ送受信装置における送信信号のキャンセル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】フェーズドアレイ送受信装置における送信信号のキャンセル
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/525 20150101AFI20240604BHJP
   H01Q 3/26 20060101ALI20240604BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H04B1/525
H01Q3/26 Z
H01Q21/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022527704
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 US2020059330
(87)【国際公開番号】W WO2021096770
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】62/934,148
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516381806
【氏名又は名称】エヌイーシー アドバンスト ネットワークス, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100218084
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊光
(72)【発明者】
【氏名】ナードッザ, グレッグ エス.
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0187099(US,A1)
【文献】国際公開第2019/069395(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0269449(US,A1)
【文献】国際公開第2004/021508(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2016/0013855(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0115342(US,A1)
【文献】特表2019-510411(JP,A)
【文献】特開2008-011238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/525
H01Q 3/26
H01Q 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ素子のアレイと、
複数の送受信装置と、を備えたフェーズドアレイ・システムであって、
前記複数の送受信装置は、(1)送信チェーンと、(2)受信チェーンと、(3)前記送信チェーンに電気的に接続された送信入力部、前記受信チェーンに電気的に接続された受信出力部、および前記アンテナ素子のアレイ内の対応する個別のアンテナ素子に電気的に接続された二重ポートを有する送受切換え器と、をそれぞれ含み、
前記複数の送受信装置は、第1の送受信装置サブセットと第2の送受信装置サブセットとを構成し、
前記第1の送受信装置サブセット内の各送受信装置は、当該送受信装置内の前記送受切換え器の前記二重ポートと、当該送受切換え器の前記二重ポートが電気的に接続される前記アンテナ素子と、の間に接続されたΦ度(ここで、Φ=-(2n+1)90°であり、nは整数)の位相シフト素子備え前記第2の送受信装置サブセット内の各送受信装置は、位相シフトを行わない、フェーズドアレイ・システム。
【請求項2】
n=0である、請求項1に記載のフェーズドアレイ・システム。
【請求項3】
前記第1の送受信装置サブセット内の送受信装置の数と、前記第2の送受信装置サブセット内の送受信装置の数とは異なる、請求項1に記載のフェーズドアレイ・システム。
【請求項4】
前記第1の送受信装置サブセット内の送受信装置の数と、前記第2の送受信装置サブセット内の送受信装置の数とは等しい、請求項1に記載のフェーズドアレイ・システム。
【請求項5】
前記アンテナ素子のアレイ内の前記アンテナ素子は、複数の縦列にまとめられ、奇数番目の縦列内にある前記アンテナ素子は、前記第1の送受信装置サブセット内の送受信装置に接続され、偶数番目の縦列内にある前記アンテナ素子は、前記第2の送受信装置サブセット内の送受信装置に接続されている、請求項1に記載のフェーズドアレイ・システム。
【請求項6】
前記アンテナ素子のアレイ内の前記アンテナ素子は、複数の横列にまとめられ、奇数番目の横列内にある前記アンテナ素子は、前記第1の送受信装置サブセット内の送受信装置に接続され、偶数番目の横列内にある前記アンテナ素子は、前記第2の送受信装置サブセット内の送受信装置に接続されている、請求項1に記載のフェーズドアレイ・システム。
【請求項7】
アンテナ素子のアレイと、複数の送受信装置と、を用いる方法であって、前記複数の送受信装置は、(1)送信チェーンと、(2)受信チェーンと、(3)前記送信チェーンに電気的に接続された送信入力部、前記受信チェーンに電気的に接続された受信出力部、および前記アンテナ素子のアレイ内の対応する個別のアンテナ素子に電気的に接続された二重ポートを有する送受切換え器と、をそれぞれ含み、
前記複数の送受信装置を第1の送受信装置サブセットと第2の送受信装置サブセットとに分け、前記第1および第2の送受信装置サブセットが一緒に前記複数の送受信装置の全ての送受信装置を構成するようにすることと、
前記第2の送受信装置サブセット内の送受信装置ではなく、前記第1の送受信装置サブセット内の各送受信装置について、当該送受信装置内の前記送受切換え器の前記二重ポートと、当該送受切換え器の前記二重ポートが電気的に接続された前記アンテナ素子と、の間にΦ度(ここで、Φ=-(2n+1)90°であり、nは整数)の位相シフトを導入することと、を含む方法。
【請求項8】
n=0である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の送受信装置の各送受信装置内で、当該送受信装置の前記送信チェーンは、当該送受信装置の送信信号経路を形成し、
前記第2の送受信装置サブセット内の送受信装置ではなく、前記第1の送受信装置サブセット内の各送受信装置について、当該送受信装置の前記送信信号経路内で+90°の位相シフトを導入することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の送受信装置の各送受信装置内で、当該送受信装置の前記受信チェーンは、当該送受信装置の受信信号経路を形成し、
前記第2の送受信装置サブセット内の送受信装置ではなく、前記第1の送受信装置サブセット内の各送受信装置について、当該送受信装置の前記受信信号経路内で+90°の位相シフトを導入することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
アンテナ素子のアレイと、
少なくとも1つの送受信装置を備えた第1の送受信装置サブセットと、
少なくとも1つの送受信装置を備えた第2の送受信装置サブセットと、を備えたフェーズドアレイ・システムであって、
前記送受信装置の各々は、
入力と、
前記入力を介して送信信号を受信する送信チェーンと、
出力と、
残留送信信号と受信信号とを前記出力に送る受信チェーンと、
前記送信チェーンを介して前記入力に電気的に接続された送信入力部と、前記受信チェーンを介して前記出力に電気的に接続された受信出力部と、前記アレイ内の対応する前記アンテナ素子に電気的に接続された二重ポートとを有する送受切換え器と、を備え、
残留信号経路は、前記送受信装置の前記入力と前記出力との間に配置され、
前記第1の送受信装置サブセットの送受信装置の前記残留信号経路と、前記第2の送受信装置サブセットの送受信装置の前記残留信号経路とがフェーズドアレイ・システムの動作周波数において位相が180°異なるように、前記第1の送受信装置サブセット内の各送受信装置に対して、前記第2の送受信装置サブセット内の各送受信装置が設けられている、フェーズドアレイ・システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年11月12日に出願された“Transmitter Signal Cancellation in Phased Array Receivers”と題する米国仮特許出願第62/934,148号の利益を、米国特許法第119条(e)に基づいて主張しており、その全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【0002】
本発明は、一般に、フェーズドアレイ送受信装置における信号処理に関し、より具体的には、フェーズドアレイ送受信装置の受信側での不要信号の減衰に関する。
【背景技術】
【0003】
FDD(frequency division duplex)フェーズドアレイ・システムにおいて、送信信号および出力は、受信感度を下げないように、送受切換え器によって減衰される。無線帯域の中には、送信搬送波の組み合わせによって、まさしく各受信チャネルに相互変調歪み積が生じるようなデュプレックス間隔となるものがある。送受切換え器の送受信減衰量は大きいが、このような無線帯域の場合には必ずしも十分ではなく、さらなる減衰量の達成は非現実的であることが多い。また、このような残留相互変調の積は、フェーズドアレイ受信結合器の出力部において積算される傾向にある。この傾向は、送信信号が全て同相であるが故に生じるが、これはフェーズドアレイ・システムが稼働する上で必要とされるものである。
【発明の概要】
【0004】
ここで説明する実施形態は、受信結合器で送信信号の位相と歪積とが対でキャンセルされるように、送受切換え器とアレイ中の一つおきのアンテナ素子との間に意図的に位相シフトを導入することで、上述の問題を解決するものである。この位相シフトは、簡単な遅延素子(例えば、四分の一波長伝送線)またはその他の任意の位相シフト回路装置によって実行可能である。
【0005】
概して、本発明は、一態様において、アンテナ素子のアレイと、複数の送受信装置と、を備えたフェーズドアレイ・システムであって、前記複数の送受信装置は、(1)送信チェーンと、(2)受信チェーンと、(3)前記送信チェーンに電気的に接続された送信入力部、前記受信チェーンに電気的に接続された受信出力部、および前記アンテナ素子のアレイ内の対応する個別のアンテナ素子に電気的に接続された二重ポートを有する送受切換え器と、をそれぞれ含むフェーズドアレイ・システムを特徴とする。前記複数の送受信装置は、第1の送受信装置サブセットと第2の送受信装置サブセットとを含む。前記第1の送受信装置サブセット内の各送受信装置がΦ度(ここで、Φ=-(2n+1)90°であり、nは整数)の位相シフト素子をさらに備えている点で、前記第1の送受信装置サブセットは、前記第2の送受信装置サブセットとは異なっており、前記Φ度の位相シフト素子は、当該送受信装置内の前記送受切換え器の前記二重ポートと、当該送受切換え器の前記二重ポートが電気的に接続される前記アンテナ素子と、の間に接続されている。
【0006】
好適な実施形態は、以下の特徴を一つ以上有する。nの値は0である。前記第1の送受信装置サブセット内の送受信装置の数と、前記第2の送受信装置サブセット内の送受信装置の数とは等しい、またはほぼ等しい。前記アンテナ素子のアレイ内の前記アンテナ素子は、複数の縦列にまとめられ、奇数の縦列内にある前記アンテナ素子は、前記第1の送受信装置サブセット内の送受信装置に接続され、偶数の縦列内にある前記アンテナ素子は、前記第2の送受信装置サブセット内の送受信装置に接続されている。また、前記アンテナ素子のアレイ内の前記アンテナ素子は、複数の横列にまとめられ、奇数の横列内にある前記アンテナ素子は、前記第1の送受信装置サブセット内の送受信装置に接続され、偶数の横列内にある前記アンテナ素子は、前記第2の送受信装置サブセット内の送受信装置に接続されている。
【0007】
概して、本発明は、別の態様において、アンテナ素子のアレイと、複数の送受信装置と、を用いる方法であって、前記複数の送受信装置は、(1)送信チェーンと、(2)受信チェーンと、(3)前記送信チェーンに電気的に接続された送信入力部、前記受信チェーンに電気的に接続された受信出力部、および前記アンテナ素子のアレイ内の対応する個別のアンテナ素子に電気的に接続された二重ポートを有する送受切換え器と、をそれぞれ含む方法を特徴とする。前記方法は、前記複数の送受信装置を第1の送受信装置サブセットと第2の送受信装置サブセットとに分け、前記第1および第2の送受信装置サブセットが一緒に前記複数の送受信装置の全ての送受信装置を構成することと、前記第2の送受信装置サブセット内の送受信装置ではなく、前記第1の送受信装置サブセット内の各送受信装置について、当該送受信装置内の前記送受切換え器の前記二重ポートと、当該送受切換え器の前記二重ポートが電気的に接続される前記アンテナ素子と、の間にΦ度(ここで、Φ=-(2n+1)90°であり、nは整数)の位相シフトを導入することと、を含む。
【0008】
好適な実施形態は、以下の特徴を一つ以上有する。nの値は0である。前記複数の送受信装置の各送受信装置について、当該送受信装置の前記送信チェーンは、当該送受信装置の送信信号経路を形成し、前記方法は、さらに、前記第2の送受信装置サブセット内の送受信装置ではなく、前記第1の送受信装置サブセット内の各送受信装置について、当該送受信装置の前記送信信号経路内で+90°の位相シフトを導入することを含む。前記複数の送受信装置の各送受信装置内で、当該送受信装置の前記受信チェーンは、当該送受信装置の受信信号経路を形成し、前記方法は、さらに、前記第2の送受信装置サブセット内の送受信装置ではなく、前記第1の送受信装置サブセット内の各送受信装置について、当該送受信装置の前記受信信号経路内で+90°の位相シフトを導入することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、二つのアレイ素子を用いる送受信装置の概略ブロック図によって基本概念を示す。
【0010】
図2図2は、遅延素子を較正ループ外に配置した実施形態を示す。
【0011】
図3図3は、遅延素子を較正ループ内に配置した実施形態を示す。
【0012】
図4図4は、遅延素子をフィードバック・ネットワーク内に配置した実施形態を示す。
【0013】
図5図5は、典型的な無線ヘッドおよびフェーズドアレイ・アンテナの内部構造を示す上位ブロック図の一例である。
【0014】
図6図6は、図5に示すようなTx/Rxモジュールの上位ブロック図の一例である。
【0015】
図7図7は、複数の送信ビームのうちの一つのみに関する回路を示す、アクティブアンテナアレイ・システムの送信側のブロック図の一例である。
【0016】
図8図8は、複数の受信ビームのうちの一つのみに関する回路を示す、アクティブアンテナアレイ・システムの受信側のブロック図の一例である。
【0017】
本発明の一以上の実施形態の詳細については、添付図面および以下の説明に記載されている。本発明のその他の特徴、目的、および利点は、本発明の説明、図面、および請求の範囲から明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1には、二つのアレイ素子に関する送受信装置の概略ブロック図が示されている。この図が示す二つの送受信(TXRU)モジュール10aおよび10bは、RF送信チェーン12a、12b(ここでは位相回転器または位相設定ブロック14a、14bおよびTxブロック16a、16bが相当する)と、RF受信チェーン18a、18b(ここでは位相回転器または位相設定ブロック20a、20bおよびRxブロック22a、22bが相当する)と、送信チェーンおよび受信チェーンをアンテナ素子32a、32bに接続する送受切換え器26a、26bとをそれぞれ備えている。RFチェーンでは、特にDA変換、AD変換、アップコンバージョン、およびダウンコンバージョン動作が行われる。上位送受信装置10aは、位相を変化させることはなく、さらなる位相シフトを加えることもない(この点に関しては、後に述べる理由により明らかになることではあるが、本例において、位相遅延素子30aによる送受切換え器26aとアンテナ素子32aとの間での位相シフトは0度である)。下位送受信装置10bは、送受切換え器26bとアンテナ素子32bとの間の二重回線上の位相遅延を90°とする位相遅延素子30bを備えている。この位相遅延は、ある周波数で位相を90°シフトさせる四分の一波長線によって生じさせることができる。あるいは、広帯域の周波数にわたって位相を90°シフトさせる、より複雑なRFネットワークを利用することも可能である。
【0019】
TXRU10b内の位相遅延素子30bによって生じる位相遅延は、二重回線上の送信信号および受信信号の両方において見られる。この位相遅延は、位相回転器14bおよび20bによって補償される。位相回転器14bおよび20bは、任意のフェーズドアレイ・システムにとって不可欠な要素であり、この場合、各アンテナ素子において送信信号が全て同相で現れること、そして受信結合器(または集約ネットワーク)34の入力部において受信信号が同相で現れることを保証する。言い換えれば、位相回転器14bおよび20bは、送信信号および受信信号の位相を+90度シフトさせる。しかしながら、第1の送受信装置10aと第2の送受信装置10bとの違いは、受信位相結合器34の出力部において送受信装置の対からの残留送信信号が現れる位相に存在する。上位送受信装置10aからの残留送信信号は、送信経路と受信経路とのいずれにおいても位相シフトされないので、位相シフトしていない状態で受信結合器34の出力部に現れる。下位送受信装置10bからの残留送信信号は、送信チェーン12bでの位相回転、そして受信チェーン18bでの位相回転という二つの位相回転を経験するので、上位送受信装置10aとは180°位相がずれた状態で受信結合器34の出力部に現れ、その結果、残留送信信号がキャンセルされる。
【0020】
位相遅延素子が図1に示すようなものである場合、二つの送受信モジュール内の各位置における信号は、次の通りである。上位送受信装置10a内の送受切換え器26aに送られる送信信号をS1txとすると、アンテナ素子32aに送られる信号は、S1txであり、受信経路に漏出する残留信号は、αS1txである。ここで、αは、送受切換え器26aの送信側から受信側への接続時の測定値である。受信信号をS1rxとすると、送受切換え器26aの受信回線上の信号は、S1rxであり、受信チェーン18aの出力部においてβS1rxである。ここで、βは、適用されたアナログビーム形成プリコーディング重みによって決定される受信チェーン18aによるゲインの測定値である。同様に、受信チェーン18aの出力部に現れる残留送信信号は、αβS1txである。
【0021】
下位送受信装置10bでは、送受切換え器26bに送られる送信信号は、S2tx+90°であり、アンテナ素子32bに送られる信号は、希望に応じてS2tx+90°-90°あるいはS2txである。受信経路に漏出する残留信号は、αS2tx+90°である。受信信号をS2rxとすると、送受切換え器26bの受信回線上の信号は、S2rx-90°であり、受信チェーン18bの出力部において、希望に応じてβS2rx+90°-90°あるいはβS2txである。同様に、受信チェーンの出力部に現れる残留送信信号は、上位送受信装置10a内の受信チェーン18aの出力部に現れる残留送信信号とは180°位相がずれたαβS2tx+90°+90°あるいはαβS2tx+180°である。
【0022】
二つの受信信号から得られた信号が集約ネットワークまたは信号結合ネットワーク34によって結合される場合、その結果はβS1rx+βS2rxで表される。結合後の残留信号は、αβS1tx+(αβS2tx+180°)である。これはαβ(S1tx-S2tx)と等しい。位相のみを調整してビーム形成を行う場合、S1の大きさとS2の大きさとは等しく、結果はゼロになる(即ち、正味の残留信号はゼロになる)。一方、位相とゲインとの両方を調整してビーム形成を行う場合(例えば、振幅を漸減させることで、結果として得られるビームのサイドローブを低減する場合)、S1≒S2となり、結果は、ほぼゼロになる。この場合でも、同相の信号を加えることに比べて大幅な改善が見込める。
【0023】
なお、四分の一波長線を用いて送受切換え器26bとアンテナ素子32bとの間に位相遅延素子30bを設けた場合、その結果生じる位相差は、四分の一波長線が設計された周波数からオフセットした周波数に対して変化量が小さい。しかしながら、その結果結合器ネットワーク34の入力部において生じるキャンセル量は、依然として大きい。
【0024】
このような対の素子によるキャンセルをアレイ全体にわたって行うことで、結果として生じる残留送信信号は、受信結合器の出力部において最小限に抑えられる。このキャンセルを行わない場合には、相関残留送信信号が素子数に対して直線的に加わることになり、その結果、受信結合器の出力部において10logNの残留出力が付加され、受信感度の低下を招いてしまう恐れがある。
【0025】
なお、全ての受信信号(送受切換え器26a、26bを通じて漏出する不要な残留信号を含む)は、受信結合器に現れる。従って、残留信号のうち半分が90°の位相遅延を生じ、残りの半分がこのような位相遅延を生じない場合(即ち、残留信号のうち半分は位相が0°で、残りの半分は位相が180°である場合)、全面的またはほぼ全面的なキャンセルが行われることになる。どのアンテナ素子が位相遅延を受け、どのアンテナ素子が位相遅延を受けないかを選ぶにあたっては、多くの可能性が考えられる。例えば、アレイ中のアンテナ素子を一つおきに選択して位相遅延を生じさせることも可能であるし、あるいはアレイの一つおきの横列(または縦列)内の全てのアンテナ素子を選択することも可能である。アンテナアレイがアンテナ・サブパネルのアレイで構成されている場合、アンテナ・サブパネルの設計方法および/または組立方法に応じて、部分的に選択を行ってもよい。
【0026】
また、数値的に同じ結果を生じる位相遅延の他の組み合わせも存在するが、それらを実行することは現実的ではないかもしれない。一般的に、送受切換え器とアンテナ素子との間に生じる位相シフトは、Φ=-(2n+1)90°(ここで、nは整数)で表すことができる。この場合、受信チェーンおよび送信チェーン内で生じる位相シフトは、-Φで表される。結果として生じる残留送信信号は、受信チェーンの出力部にαβS2tx+2(2n+1)90°として現れるが、αβS2tx+4n90°+2x90°=αβS2tx+n360°+180°で表すこともできる。従って、この場合も、結果として生じる残留信号は、受信チェーンの出力部において、他の受信チェーンが出力する残留信号とは180°位相がずれる。
【0027】
基本原理は、以下のように要約することができる。残留送信信号の往復の位相オフセットは、位相シフトされる素子(素子のうち半分)について180度(またはほぼ180度)である必要がある。送信位相シフトは、送信側の入力部から対応するアンテナ素子まで正味0度でなければならない。そして、受信位相シフトは、対応するアンテナ素子から受信結合器(即ち、受信チェーンの出力部)まで正味0度でなければならない。
【0028】
図2は、対になった素子によってキャンセルを行う送受信装置のブロック図であり、アレイ中の全ての素子の信号が十分に相関するとともにコヒーレントになるように、送信経路および受信経路の位相を調整する較正ループがさらに設けられている。受信側の較正ループは、送受切換え器26bの出力線上の信号をセンサ素子40を介して検出して、フィードバック信号を位相設定素子20bに供給するRxフィードバック・ネットワーク36を備えている。送信側の較正ループは、送受切換え器26bの出力線上の信号をセンサ素子42を介して検出して、フィードバック信号を位相設定素子14bに供給するTxフィードバック・ネットワーク38を備えている。この場合、位相遅延素子30bによる位相シフトは、較正ループ外で生じるので、補償を行うために送信経路および受信経路の位相回転器を手動で調整する必要がある。より具体的には、較正ループのフィードバックは、送受切換え器26bと位相遅延素子30bとの間の位置から行う。この解決策は、最適とは言えないものの実行可能である。
【0029】
なお、較正ループ内のRxフィードバック・ネットワーク36およびTxフィードバック・ネットワーク38は、公知の方法によって構成される。例えば、Mihai BanuおよびYiping Fengによって出願され、2019年3月5日に発行された“Active Array Calibration”と題する米国特許第10,225,067号、およびMihai Banuによって出願され、2018年6月26日に発行された“Calibrating A Serial Interconnection”と題する米国特許第10,009,165号に開示されている手法を参照されたい。両文献の全内容は、本明細書中に参照として組み入れられている。
【0030】
図3は、対になった素子によってキャンセルを行う送受信装置のブロック図であって位相遅延素子30bを較正ループ内に有するものであり、フェーズドアレイ・システムによる較正の一部として自動的に補償が行われるようになっている。より具体的には、較正ループのフィードバックは、位相遅延素子30bとアンテナ素子32bとの間の位置から行う。
【0031】
図4は、対になった素子によってキャンセルを行う送受信装置のブロック図であり、位相遅延素子30bを較正ループ外に設けているが、それと同等の位相シフト素子44、46をフィードバックループの一部として追加されている。この選択肢は、追加の位相シフト素子の後にフィードバック検出点を配置することが不利あるいは不可能であり得る場合について示している。
【0032】
上述の手法を実行可能なアナログ・フェーズドアレイ・システムの例を図5図8に示す。
【0033】
図5を参照すると、アンテナアレイ110は、M個のアンテナ素子から構成された二次元アレイを含む。無線ヘッド190は、複数のフロントエンド・モジュール(TXRUモジュール)200を備えている。TXRUモジュール200の数は、アレイ中のアンテナ素子と同数(つまり、M個)である。TXRUモジュール200は、アンテナ素子ごとに設けられている。信号分配ネットワーク195がさらに設けられている。信号分配ネットワーク195には、IF分配・集約ネットワークと、LO信号分配ネットワークとが含まれている。信号分配ネットワーク195は、BBUからの送信信号をTXRUモジュール200に送り、TXRUモジュール200から受信した信号をBBUに送り、コヒーレント局部発振器の信号をTXRUモジュール200に供給して、IF送信信号をRF送信信号にアップコンバートするとともに、RF受信信号をIF受信信号にダウンコンバートする。
【0034】
図6は、多素子アンテナアレイのうちの一つのアンテナ素子210に接続される回路のブロック図を示す。M個のアンテナ素子を有するアンテナアレイ・システムでは、この回路がアンテナ素子ごとに存在する。各アンテナ素子210に対しては、当該アンテナ素子210に接続されるフロントエンド・モジュール(TXRUモジュール)200が設けられている。フロントエンド・モジュールには、送信側と受信側とがある。送信側には、N個のアップコンバージョン・モジュール202と、電力増幅器(PA)206とが備えられている。受信側には、低雑音増幅器(LNA)212と、N個のダウンコンバージョン・モジュール216とが備えられている。N個のアップコンバージョン・モジュール202によって、アレイはN個の独立した送信ビームを発生させることができ、N個のダウンコンバージョン・モジュール216によって、アレイはN個の独立した受信ビームを発生させることができる(なお、ここで示した例の場合、一つのビームのみを発生可能である。即ち、N=1である)。
【0035】
フロントエンド・モジュール200は、送信側のPA206からの駆動信号をアンテナ素子210と連結し、アンテナ素子210からの受信信号を受信側のLNA212と連結する送受切換え回路208をさらに備えている。アップコンバージョン・モジュール202の入力部は、図示しないベースバンド・ユニットからビーム送信信号ストリームBtを受信するものである。ダウンコンバージョン・モジュール216の出力部は、ビーム受信信号ストリームBrを出力するものである。
【0036】
図7は、アップコンバージョン・モジュール202をより詳細に示したアクティブアンテナアレイ・システムを図示している。図8は、ダウンコンバージョン・モジュール216をより詳細に示したアクティブアンテナアレイ・システムを図示している。現実問題として、個別に示すこれら二つのシステムは、同一のアクティブアンテナアレイ・システムとして実現されるものであるが、図の簡略化のために、これらのシステムをここでは個別に示している。図7のアクティブアンテナアレイ・システムは、アンテナアレイのM個の素子210によって発生された単一の送信ビームについて、一つの送信信号ストリームを送信する。同様に、図8のアクティブアンテナアレイ・システムは、アンテナアレイによって発生された単一の受信ビームパターンについて、一つストリームを受信する。
【0037】
M個のアップコンバージョン・モジュール202およびM個のダウンコンバージョン・モジュール216にコヒーレントな、または位相が同期したLO(局部発振器)信号を分配するLO分配ネットワーク220が設けられている。図7に示すように、各アップコンバージョン・モジュール202にIF送信信号を送るIF分配ネットワーク224がさらに設けられている。そして、図8に示すように、各ダウンコンバージョン・モジュール216から受信した信号を集約するIF集約ネットワーク226が設けられている。
【0038】
分配・集約ネットワークは、信号をコヒーレントに分配・集約する電気的に同一な複数の経路を有する受動線形相互ネットワークであってもよい。または、これらのネットワークのうちの一つ以上を、2008年7月21日に出願された“Method and System for Multi-Point Signal Generation with Phase Synchronized Local Carriers”と題する米国特許第8,259,884号および2011年6月30日に出願された“Low Cost,Active Antenna Arrays”と題する米国特許第8,622,959号に記載されている双方向信号網や、2016年9月8日に出願された“Calibrating a Serial Interconnection”と題する米国特許第9,673,965号に記載されているシリアル相互接続による手法を用いることで実現してもよい。これら全ての文献の内容は、本明細書中に参照として組み入れられている。
【0039】
一般的に、各アップコンバージョン・モジュール202は、混合器203と、各種の振幅設定回路(A)および位相設定回路(P)とを備えている。LO信号および分配IF送信信号ストリームは、共に混合器203に供給される。混合器203は、IF送信信号ストリームをRF送信信号ストリームにアップコンバートする。RF送信信号ストリームは、電力増幅器206に供給される。同様に、各ダウンコンバージョン・モジュール216も、混合器217と、各種の振幅設定回路(A)および位相設定回路(P)とを備えている。ダウンコンバージョン・モジュール216内の混合器217は、LO分配ネットワーク220によって供給されたLO信号と、アンテナ素子210に接続される低雑音増幅器212から受信したRF信号ストリームとを乗算し、ダウンコンバートしたIF受信信号ストリームを生成する。ダウンコンバートしたIF信号ストリームは、IF集約ネットワーク226に供給され、他のアンテナ素子からのIF受信信号ストリームと集約されるとともに基地局に転送される。
【0040】
振幅設定回路Aおよび位相設定回路Pは、個々のアンテナ信号の相対位相あるいは振幅を変化させ、これにより、アンテナアレイによって生じる送信および受信ビームパターンのサイズ、方向、および強度を設定するために使用される(なお、アンテナアレイにおいて、送信ビームは、アンテナアレイによって生じる照射パターンである。この照射パターンは、アンテナアレイの前方において測定可能である。一方、受信ビームは、アンテナアレイによって生じる照射パターンではなく、アンテナ感度のパターンである。このような違いがあるにも関わらず、両者は共に「ビーム」と一般に呼ばれる)。基本的に、振幅設定回路は、入力信号の振幅に対する出力信号の振幅の比率がプログラム可能であるとともに電子的な制御によって設定される可変利得増幅器に相当する。位相設定回路は、電子的な制御の下で入力信号の位相(または時間)をシフトさせることができる基本的な能力を有する。これらの振幅設定回路および位相設定回路は、別個の制御プロセッサ213から供給されるデジタル制御信号(ビーム形成プリコーディングベクトルとも呼ばれる)によって制御される。
【0041】
図7および図8に示す振幅設定回路および位相設定回路の類型は、基本的な送受信機能として、個々のアンテナ信号の振幅値および位相値を個別に制御できるようにする数多くの可能性のうちの一つに過ぎない。振幅設定回路および位相設定回路の数および位置は、図7および図8に示すものとは異なり得る。また、アップコンバージョン・モジュールおよびダウンコンバージョン・モジュール内には不図示の他の要素が存在し得るが、これらの要素は、当業者にとって周知であるため図示しない。これらの要素は、例えば、チャネルIFフィルタや自動利得調整器を含んでいてもよい。
【0042】
その他の実施形態も、以下の請求の範囲に含まれる。例えば、上述の実施形態では、RF送信チェーン内でIF信号をRF信号にアップコンバートし、この場合、送信チェーン内でのアップコンバージョン後(または受信チェーン内でのダウンコンバージョン前)に位相回転が行われる。しかし、アップコンバートされたRF信号を信号分配ネットワークによって供給することも可能であり、その場合、送受信モジュール内では、アップコンバージョンおよびダウンコンバージョンは行われない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8