(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】接合体、保持装置、および、静電チャック
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20240604BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240604BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20240604BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20240604BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20240604BHJP
B23K 1/19 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
C04B37/02 B
H01L21/205
H01L21/302 101G
H01L21/31 B
H01L21/68 R
B23K1/19 B
(21)【出願番号】P 2022546907
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2021024112
(87)【国際公開番号】W WO2022049878
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-06-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2020147280
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】吉本 修
(72)【発明者】
【氏名】荒川 竜一
(72)【発明者】
【氏名】田中 智雄
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】河本 充雄
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-179313(JP,A)
【文献】特開2010-52015(JP,A)
【文献】特開2002-293655(JP,A)
【文献】特開昭55-93230(JP,A)
【文献】米国特許第6280584(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B37/00-37/04
B23K 1/00
H01L21/205
H01L21/3065
H01L21/263
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合層を介して第1部材と第2部材とが接合された接合体であって、
前記接合層は、
融点における表面張力が1000mN/m以下のインジウムを主成分とする接合材と、
複数の孔が形成される金属層であって、前記孔の少なくとも一部に前記接合材が入り込んでいる金属層と、を備え、
前記金属層は、メッシュ部材であり、
前記メッシュ部材の線材の線径は、50~400μmで
あって、
メッシュ間隔は、70~1500μmである、
ことを特徴とする接合体。
【請求項2】
請求項1に記載の接合体であって、
前記金属層は、モリブデンまたはタングステンを主成分とする材料から形成される、
ことを特徴とする接合体。
【請求項3】
請求項1に記載の接合体であって、
前記金属層は、アルミニウムまたはチタンを主成分とする材料から形成される、
ことを特徴とする接合体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の接合体であって、
前記金属層は、メッシュ部材であり、
前記メッシュ部材の線材の表面は、金、銀、銅のいずれかを主成分とする材料から形成される、
ことを特徴とする接合体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の接合体であって、
前記金属層は、複数の線材が、平織状、綾織状、または、畳織状のいずれかに交差するように形成されているメッシュ部材であり、
前記線材は、隣接する他の線材と交差する部分が、前記他の線材に接続されていない、
ことを特徴とする接合体。
【請求項6】
保持装置であって、
請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の接合体を備え、
前記第1部材には、保持対象物を載置する載置面が形成されている、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項7】
静電チャックであって、
請求項
6に記載の保持装置を備え、
前記第1部材は、内部に静電吸着電極を有する、
ことを特徴とする静電チャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合体、保持装置、および、静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、接合材を含む接合層によって2つの部材が接合された接合体が知られている。一般的に、表面張力が小さい金属が含まれる接合材を用いて2つの部材を接合すると、接合層と2つの部材との接合界面の広い範囲に接合材を行き渡らせることができる。例えば、特許文献1、2には、表面張力が比較的小さいインジウムを主成分とする接合材を用いて2つの部材を接合する技術が開示されている。また、特許文献3には、接合材よりも熱伝導率が高い繊維を含む接合層を備える接合体が開示されている。また、特許文献4には、熱伝導率が高いメッシュ部材を有する接合層を備える保持装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許3485390号公報
【文献】特開平3-3249号公報
【文献】特開2020-47747号公報
【文献】特開平7-263527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような先行技術によっても、接合体において、接合材が2つの部材の間から流れ出ることを抑制することによる接合強度の低下を抑制する技術については、なお改善の余地があった。例えば、特許文献1、2に記載の技術では、インジウムを含む接合材の流動性は高いため、2つの部材の間から接合材が流れ出る場合がある。このため、2つの部材の接合強度が低下するおそれがある。特許文献3に記載の技術では、接合層において、接合材の流れが繊維によって遮られることで、接合層と2つの部材との接合界面にボイドが発生する場合がある。ボイドが発生すると、接合層による2つの部材の接合強度が低下するおそれがある。特許文献4に記載の技術では、接合材の流れがメッシュ部材によって遮られることで接合層と2つの部材との接合界面にボイドが発生し、接合層による2つの部材の接合強度が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、接合材によって第1部材と第2部材とが接合された接合体において、接合材が2つの部材の間から流れ出ることを抑制することによる接合強度の低下を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、接合層を介して第1部材と第2部材とが接合された接合体が提供される。この接合体は、前記接合層は、融点における表面張力が1000mN/m以下の金属を主成分とする接合材と、複数の孔が形成される金属層であって、前記孔の少なくとも一部に前記接合材が入り込んでいる金属層と、を備える。
【0008】
この構成によれば、金属層の孔の少なくとも一部に、融点における表面張力が1000mN/m以下の金属を主成分とする接合材が入り込んでいる。接合材の主成分とは、接合材に含まれる成分のうち、接合材の全重量に対して50%以上の重量割合を示す成分を指す。融点における表面張力が1000mN/m以下の金属を主成分とする接合材は、溶けると流動性が高い。接合層では、接合材が第1部材および第2部材と接合層との接合界面の全域に広がりつつ金属層の孔に入り込むことで、第1部材と第2部材との間から接合材が流れ出にくくなる。これにより、接合材は、第1部材と第2部材との間から流れ出ることが抑制されるため、第1部材と第2部材との接合強度の低下を抑制することができる。
【0009】
(2)上記形態の接合体において、前記金属層は、モリブデンまたはタングステンを主成分とする材料から形成されてもよい。この構成によれば、モリブデンまたはタングステンを主成分とする材料から形成される金属層は、熱膨張が比較的小さいため、第1部材と第2部材とを接合するときや接合体を使用するときに加熱されても、金属層の変形の度合いが小さくなる。これにより、接合材の流れ出しを安定して抑えることができるため、第1部材と第2部材との接合強度の低下をさらに抑制することができる。
【0010】
(3)上記形態の接合体において、前記金属層は、アルミニウムまたはチタンを主成分とする材料から形成されてもよい。この構成によれば、アルミニウムまたはチタンを主成分とする材料から形成される金属層は、ヤング率が比較的小さいため、変形しやすくなる。これにより、接合体が冷却されるときに、接合材の収縮に追従して金属層も変形するため、ボイドの発生を抑制することができる。したがって、ボイドの発生による第1部材と第2部材との接合強度の低下を抑制することができる。
【0011】
(4)上記形態の接合体において、前記金属層は、メッシュ部材であり、前記メッシュ部材の線材の表面は、金、銀、銅のいずれかを主成分とする材料から形成されていてもよい。この構成によれば、メッシュ部材である金属層を形成する線材の表面は、金、銀、銅のいずれかを主成分とする材料から形成される。これにより、金属層に対する接合材の濡れ性が向上するため、接合材が第1部材および第2部材と接合層との接合界面の全域に広がりやすくなり、ボイドの発生が抑制される。したがって、第1部材と第2部材との接合強度の低下を抑制することができる。
【0012】
(5)上記形態の接合体において、前記金属層は、複数の線材が、平織状、綾織状、または、畳織状のいずれかに交差するように形成されているメッシュ部材であり、前記線材は、隣接する他の線材と交差する部分が、前記他の線材に接続されていなくてもよい。この構成によれば、隣接する他の線材と交差する部分が他の線材と接続されていないメッシュ部材は、例えば、パンチングメタルや、複数の線材が交差することで形成されているものの、隣接する他の線材と交差する部分が他の線材と接続されている溶接網に比べ、線材が動きやすくなる。これにより、接合体が冷却されるときに、接合材の収縮に追従して金属層も変形しやすくなるため、ボイドの発生を抑制することができる。したがって、ボイドの発生による第1部材と第2部材との接合強度の低下をさらに抑制することができる。
【0013】
(6)上記形態の接合体において、前記金属層は、メッシュ部材であり、メッシュ間隔は、70μm~1500μmであってもよい。この構成によれば、メッシュ部材である金属層のメッシュ間隔は、70μm~1500μmとなっている。メッシュ間隔が、70μmより小さくなると、金属層の孔に入り込む接合材が金属層の内部を移動しにくくなるため、接合材が接合界面の全域に広がりにくくなる。また、メッシュ間隔が、1500μmより大きくなると、接合層にボイドが発生しやすくなり、第1部材と第2部材との接合強度が低下する。メッシュ間隔が70μm~1500μmである金属層を備える接合体では、接合材を第1部材および第2部材と接合層との接合界面の全域に広げつつ、ボイドの発生による接合強度の低下を抑制することができる。これにより、第1部材と第2部材との接合強度をさらに向上することができる。
【0014】
(7)上記形態の接合体において、前記金属層は、メッシュ部材であり、前記メッシュ部材の線材の線径は、50μm~400μmであってもよい。この構成によれば、メッシュ部材である金属層の線材の線径は、50μm~400μmとなっている。線径が50μmより小さくなると、金属層による接合材の流れ止めの効果が小さくなり、接合材が金属層の孔から漏れ出しやすくなる。また、線径が400μmより大きくなると、金属層による接合材の流れ止めの効果が大きくなりすぎるため、接合材が接合界面の全域に広がりにくくなる。線径が50μm~400μmである金属層を接合層に備える接合層では、接合材を接合界面の全域に適度に広げることができる。これにより、接合材が第1部材と第2部材との間から流れ出ることを抑制しつつ、ボイドの発生を抑制することができるため、ボイドの発生による第1部材と第2部材との接合強度をさらに向上することができる。
【0015】
(8)上記形態の接合体において、前記接合材は、インジウムを主成分としてもよい。この構成によれば、インジウムを主成分とする接合材を接合層に用いることで、比較的低温で第1部材と第2部材とを接合することができる。比較的低温で第1部材と第2部材とを接合することができるため、低温での使用に適した接合体を得ることができる。
【0016】
(9)本発明の別の形態によれば、保持装置が提供される。この保持装置は、上記の接合体を備え、前記第2部材は、保持対象物が載置される載置面を備える。この構成によれば、接合体では、金属層によって第1部材と第2部材との間から接合材が流れ出ることが抑制されるため、第1部材と第2部材との接合強度を向上することができる。これにより、接合体に電極端子が配置される貫通孔が形成される場合、貫通孔への接合材の漏れ出しによる電極端子の絶縁不良の発生を抑制することができる。また、リフトピンなどの移動体が配置される貫通孔が接合体に形成される場合、貫通孔への接合材の漏れ出しによる移動体の動作不良の発生を抑制することができる。また、載置面に流体を供給する貫通孔が接合体に形成される場合、貫通孔への接合材の漏れ出しによる貫通孔の閉塞を抑制することができる。このように、保持装置における、絶縁不良や動作不良の発生、貫通孔の閉塞などを抑制することができるため、保持装置の機能喪失を抑制することができる。
【0017】
(10)本発明のさらに別の形態によれば、静電チャックが提供される。この静電チャックは、上記の保持装置を備え、前記第1部材は、内部に静電吸着電極を有する。この構成によれば、接合体には、静電吸着電極に電気的に接続する電極端子が配置される電極用の貫通孔や、静電吸着電極に静電吸着されるウェハを持ち上げるためのリフトピンが挿入されるリフトピン用の貫通孔が形成される。上記の保持装置が備える接合体では、金属層によって第1部材と第2部材との間から接合材が流れ出ることが抑制されるため、電極用の貫通孔での電極端子の絶縁不良や、リフトピン用の貫通孔でのリフトピンの動作不良の発生を抑制することができる。また、載置面に流体を供給する貫通孔への接合材の漏れ出しによる貫通孔の閉塞を抑制することができる。したがって、静電チャックの機能喪失を抑制することができる。
【0018】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、接合体を含む装置、接合体および保持装置の製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態の静電チャックの外観を示す斜視図である。
【
図4】接合材の流れ出しの評価方法を説明する第1の図である。
【
図5】接合材の流れ出しの評価方法を説明する第2の図である。
【
図6】接合体の接合強度の評価方法を説明する第1の図である。
【
図7】接合体の接合強度の評価方法を説明する第2の図である。
【
図8】接合体の評価試験の結果を説明する第1の図である。
【
図9】接合体の評価試験の結果を説明する第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の静電チャック1の外観を示す斜視図である。
図2は、静電チャック1の全体断面図である。
図3は、静電チャック1の部分断面図である。第1実施形態の静電チャック1は、例えば、エッチング装置に備えられ、ウェハWを静電引力により吸着することで保持する保持装置である。静電チャック1は、セラミック部材10と、電極端子15と、リフトピン18と、金属部材20と、接合層30と、を備える(
図3参照)。静電チャック1では、z軸方向(上下方向)に、セラミック部材10、接合層30、金属部材20の順に積層されている。静電チャック1において、セラミック部材10と、接合層30と、金属部材20とからなる接合体1aは、略円形状の柱状体になっている。接合体1aでは、接合層30を介して、セラミック部材10と金属部材20とが接合されている。セラミック部材10は、特許請求の範囲の「第1部材」に該当する。金属部材20は、特許請求の範囲の「第2部材」に該当する。ウェハWは、特許請求の範囲の「保持対象物」に該当する。
【0021】
セラミック部材10は、略円形状の板状部材であり、アルミナ(Al
2O
3)により形成されている。セラミック部材10の直径は、例えば、50mm~500mm程度(通常は200mm~350mm程度)であり、セラミック部材10の厚さは、例えば、1mm~10mm程度である。セラミック部材10は、一対の主面11、12を有する。一対の主面11、12のうちの一方の主面11には、ウェハWが載置される載置面13が形成される。載置面13に載置されるウェハWは、セラミック部材10の内部に配置されている静電吸着電極100(
図2および
図3参照)が発生する静電引力によって、載置面13に吸着固定される。他方の主面12には、凹部14が形成される。凹部14には、図示しない電源からの電力を静電吸着電極100に供給する電極端子15の端部15aが配置される。なお、セラミック部材10を形成するセラミックは、窒化アルミニウム(AlN)、ジルコニア(ZrO
2)、窒化珪素(Si
3N
4)、炭化珪素(SiC)、イットリア(Y
2O
3)などであってもよい。
【0022】
セラミック部材10には、2つの貫通孔16、17が形成される。貫通孔16は、z軸方向にセラミック部材10を貫通しており、リフトピン18が挿入される。貫通孔17は、載置面13にウェハWが載置されているときに、載置面13とウェハWとの間に供給されるヘリウムガスが流れるガス流路となる(
図3の点線矢印F1参照)。
【0023】
金属部材20は、ステンレス鋼により形成される略円形平面状の板状部材であり、一対の主面21、22を有する。金属部材20の直径は、例えば、220mm~550mm程度(通常は220mm~350mm)であり、金属部材20の厚さは、例えば、20mm~40mm程度である。金属部材20の内部には、冷媒流路200が形成されている(
図2参照)。冷媒流路200に、例えば、フッ素系不活性液体や水などの冷媒が流れると、接合層30を介してセラミック部材10が冷却され、セラミック部材10に載置されたウェハWが冷却される。なお、金属部材20を形成する金属の種類は、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、チタン(Ti)、チタン合金などであってもよい。
【0024】
金属部材20には、3つの貫通孔23、24、25が形成される。3つの貫通孔23、24、25のそれぞれは、
図3に示すように、z軸方向にセラミック部材10を貫通している。貫通孔23には、電極端子15が挿通される。貫通孔24には、リフトピン18が挿入される。貫通孔25は、載置面13にウェハWが載置されているときに、載置面13とウェハWとの間に供給されるヘリウムガスが流れる流路となる。
【0025】
接合層30は、セラミック部材10と金属部材20との間に配置されており、セラミック部材10と金属部材20とを接合する。接合層30は、金属層31と、接合材32と、を備えている。
【0026】
金属層31は、セラミック部材10の他方の主面11と金属部材20の一方の主面21との間に配置されている。金属層31は、略円形平面状のメッシュ部材であり、ニッケル(Ni)からなる複数の線材を用いて網目を形成するように編まれている。これにより、金属層31には、複数の孔が形成される。メッシュ部材の線材の表面には、銀(Ag)めっきが施されている。金属層31は、メッシュ間隔が70μm~1500μmであり、線径が50μm~400μmとなっている。本実施形態では、メッシュ部材は、複数の線材が平織状に交差するように形成されており、隣接する他の線材と交差する部分が他の線材と接続されていない織網構造となっている。すなわち、複数の線材のそれぞれは、隣接する線材に対する相対位置を変更することが可能である。なお、金属層31は、メッシュ部材に限定されず、パンチングメタルのようなポーラス材や、溶接網のような網目構造材であってもよい。金属層31を形成する材料は、ニッケルに限定されず、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、真鍮、これらの合金、または、ステンレス鋼などから形成されてもよい。メッシュ部材の線材の表面に施されるめっきは、銀めっきに限定されず、金(Au)めっき、または、銅めっきが施されていてもよい。また、メッシュ部材を形成する複数の線材の交差のさせ方は、平織状に限定されず、綾織状や畳織状であってもよい。
【0027】
金属層31には、3つの貫通孔31a、31b、31cが形成されている。貫通孔31aは、セラミック部材10の凹部14と、金属部材20の貫通孔23とを連通する。貫通孔31bは、セラミック部材10の貫通孔16と、金属部材20の貫通孔24とを連通する。貫通孔31cは、セラミック部材10の貫通孔17と、金属部材20の貫通孔25とを連通する。すなわち、金属部材20と金属層31には、互いに連通する貫通孔23、25、31a、31cがそれぞれ形成されており、セラミック部材10には、金属部材20と金属層31にそれぞれ形成された貫通孔25、31cと連通する貫通孔17が形成されている。
【0028】
接合材32は、融点における表面張力が1000mN/m以下のインジウム(In)を主成分とする接合材である。ここで、接合材の主成分とは、接合材に含まれる成分のうち、接合材の全重量に対して50%以上の重量割合を示す成分を指す。接合材の主成分は、走査型電子顕微鏡(SEM)のエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いることで特定される。本実施形態では、接合材32の全重量に対するインジウムの重量割合は、100%である。接合材32は、接合層30において、金属層31のセラミック部材10と、金属部材20側とのそれぞれに位置しており、金属層31が有する複数の孔の少なくとも一部に入り込んでいる。なお、接合材32の主成分は、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、錫(Sn)などの融点における表面張力が1000mN/m以下の金属であってもよい。融点における表面張力は、上述したEDSを用いて特定された金属に対して、sessile-drop法によって測定される。
【0029】
次に、静電チャック1の製造方法について説明する。最初に、セラミック部材10の他方の主面12と、金属部材20の一方の主面21とのそれぞれに、接合材32となるインジウム箔を配置する。次に、セラミック部材10と金属部材20とのそれぞれに配置されたインジウム箔の間に、金属層31を配置し、セラミック部材10と金属部材20とによって金属層31を挟み込む。最後に、インジウム箔を加熱することでインジウム箔を溶融し、セラミック部材10と金属部材20とを接合する。このとき、溶融したインジウム箔の一部は、金属層31の穴に入り込む。これにより、接合体1aが完成する。完成した接合体1aに電極端子15やリフトピン18を組み付けることで、静電チャック1が完成する。
【0030】
また、静電チャック1の別の製造方法では、金属層31の一対の主面のそれぞれに接合材32となるインジウム箔を配置する。インジウム箔が配置された金属層31を加熱することでインジウム箔を溶融させ、金属層31の一対の主面のそれぞれに接合材32を配置する。これにより、接合材32の一部が孔に入り込んでいる金属層31が形成される。この接合材32を孔に入り込んでいる金属層31を、セラミック部材10と金属部材20との間に配置し、加熱しつつプレスすることでセラミック部材10と金属部材20とを接合する。これにより、接合体1aが完成する。完成した接合体1aに電極端子15やリフトピン18を組み付けることで、静電チャック1が完成する。なお、静電チャック1の製造方法は、これらに限定されない。
【0031】
次に、接合層を介して2つの部材が接合された接合体を評価する評価試験について説明する。本実施形態では、接合層が備える金属層と接合材との組み合わせが異なる接合体のサンプルを作製し、それぞれのサンプルについて、接合材の流れ出しと、接合強度を評価した。
【0032】
図4は、接合材の流れ出しの評価方法を説明する第1の図である。
図5は、接合材の流れ出しの評価方法を説明する第2の図である。最初に、接合材の流れ出しの評価試験における評価項目を説明する。
図4および
図5は、接合体のサンプルにおける接合材の流れ出しの有無の評価方法を説明する図である。
図4および
図5に示すサンプルSmは、2枚のアルミナ板10a、20aと、接合層30aを備える。2枚のアルミナ板10a、20aのうち、アルミナ板10aには、
図4および
図5に示すように、貫通孔16aが形成されている。
図4は、2枚のアルミナ板10a、20aが接合層30aによって接合される前の状態を示しており、
図5は、2枚のアルミナ板10a、20aが接合層30aによって接合された後の状態を示している。
【0033】
接合材の流れ出しの評価試験では、
図4に示すように、2枚のアルミナ板10a、20aの間に、接合材を含む接合層30aを配置する。このとき、接合層30aには、貫通孔16aの内径d15より大きい内径を有する穴35aが形成される(
図4参照)。これにより、接合層30aの内壁面36aは、
図4に示すように、アルミナ板10aに隠れるため、貫通孔16aを通して接合層30aは確認できない状態となる。次に、サンプルSmを加熱し、接合層30aの接合材を溶融することで2枚のアルミナ板10a、20aを接合する。アルミナ板10a、20aを接合したときの接合層30aの穴35aの内径を内径d35とする(
図5参照)。なお、本評価試験では、2枚のアルミナ板10a、20aを接合したときでも、接合層30aの内壁面36aが、アルミナ板10aに隠れて見えない場合、穴35aの内径d35は、アルミナ板10aの貫通孔16aの内径d15と同じ大きさとする。
【0034】
接合材の流れ出しの評価試験では、2枚のアルミナ板10a、20aを接合したときの内径d15と内径d35との大小関係を用いて、接合層30aの接合材の流れ出しを評価する。具体的には、以下のように記号で表す。
d15=d35:〇
0<d15-d35<1mm:△
d15-d35≧1mm:×
上記の「d15=d35」の関係は、アルミナ板10aの貫通孔16aを通して接合層30aが見えないことを意味しており、接合材が2枚のアルミナ板10a、20aの間から流れ出ていないことを示している。上記の「0<d15-d35<1mm」の関係は、接合層30aの穴35aの内径d35が、アルミナ板10aの貫通孔16aの内径d15よりほんのわずか(1mm未満)小さいことを意味しており、接合層30aの接合材が2枚のアルミナ板10a、20aの間から許容できる範囲で少量流れ出ていることを示している。上記の「d15-d35≧1mm」の関係は、
図5に示すように、接合層30aの穴35aの内径d35がアルミナ板10aの貫通孔16aの内径d15より1mm以上小さいことを意味しており、接合材が2枚のアルミナ板10a、20aの間から大きく流れ出ていることを示している。
【0035】
図6は、接合体の接合強度の評価方法を説明する第1の図である。
図7は、接合体の接合強度の評価方法を説明する第2の図である。
図6および
図7に示すサンプルSmは、2枚の銀製の板状部材10b、20bと、接合層30bを備える。接合層30bは、2枚の板状部材10b、20bのそれぞれの一方の端部11b、21bを接合するように配置されている(
図6参照)。本評価試験では、一方の端部11b、21bが接合層30bによって接合されているサンプルSmにおいて、
図7に示すように、2枚の板状部材10b、20bのそれぞれの他方の端部12b、22bを互いに反対方向に引っ張る。
図7に示す状態で2枚の板状部材10b、20bのそれぞれの他方の端部12b、22bを引っ張る力(
図7に示す白抜き矢印P1、P2)を徐々に大きくし、サンプルSmが破損するときの力からサンプルSmの破断強度を測定する。本評価試験では、この測定された破断強度を、接合強度とみなす。具体的には、接合強度は、以下のように記号で表す。ここで、「界面」とは、板状部材10b、20bと接合層30bとの接合界面を指す。
破断強度1.5kgf以上(接合層破壊):〇
破断強度1kgf以上1.5kgf未満(一部界面剥離):△+、または、△-
△+:界面の全面積に対する剥離した部分の面積の比率が50%未満
△-:界面の全面積に対する剥離した部分の面積の比率が50%以上
破断強度1kgf未満(界面剥離):×
【0036】
本評価試験では、複数の孔が形成される金属層として、パンチングメタルと、溶接網と、織網とを用いて、接合材の流れ出しと、接合強度を評価した。本評価試験でのパンチングメタルとは、金属製の部材に、複数の小さい穴をあけたものである。本評価試験での溶接網とは、金属製の線材を編み込んだものであって、線材が重なっている箇所が溶接によって接続されているものである。本評価試験での織網とは、線材を編み込んだだけのものであって、線材が重なっている箇所は接続されていないものである。
【0037】
図8は、接合体の評価試験の結果を説明する第1の図である。
図8には、金属層の有無、金属層の構造の違い、金属層を形成する線材の材料の違い、線材のめっきの有無、および、織網の編み方の違いのそれぞれの影響について、接合材の流れ出しと、接合強度を評価した結果を示している。
【0038】
接合層における金属層の有無による影響について、接合層に金属層を備えていないサンプル1と、接合層にパンチングメタルを備えるサンプル2とを用いて説明する。
図8に示すように、サンプル1では、接合材の流れ出し(×)と、接合界面の全面剥離(×)が確認された。一方、サンプル2では、サンプル1に比べて接合材の流れ出しが抑制され(△)、接合界面の剥離は、一部に留まる(△-)ことが確認された。これにより、接合層に多孔質の金属層が含まれることによって、接合材の流れ出しが抑制され、接合強度が向上することが確認された。
【0039】
金属層の構造の違いによる影響について、接合層にパンチングメタルを備えるサンプル2と、接合層に溶接網を備えるサンプル3と、接合層に織網を備えるサンプル12とを用いて説明する。サンプル2、3、12のそれぞれにおける材料(SUS)は、同じであり、サンプル3、12のそれぞれにおける、メッシュ間隔(500μm)と線材の線径(200μm)は、同じである。
図8に示すように、サンプル2とサンプル3とでは、接合界面のうちの50%以上が剥離する(△-)一方、サンプル12では、接合界面のうちの50%未満しか剥離しなかった(△+)。これにより、接合強度については、今回の評価試験で用いた3種類の金属層のうち、織網が最も良いことが確認された。これは、隣接する他の線材と交差する部分が他の線材と接続されていない織網は、パンチングメタルや溶接網に比べ、線材が動きやすくなるため、接合材の収縮に追従して変形し、ボイドの発生が抑制されるためと考えられる。
【0040】
金属層を形成する線材の材料の違いによる影響について、溶接網を形成する線材の材料が、SUS、アルミニウム、チタン、モリブデン、タングステン、銀のそれぞれである、サンプル3~8を用いて説明する。サンプル3~8のそれぞれにおける、メッシュ間隔(500μm)と線材の線径(200μm)は、同じである。
図8に示すように、サンプル4とサンプル5の接合強度は、サンプル3の接合強度に比べ向上すること(△-→〇)が確認された。これは、ヤング率が比較的小さいアルミニウムまたはチタンから形成される溶接網は、変形しやすいため、接合材の収縮に追従しやすく、ボイドの発生が抑制されるためと考えられる。また、サンプル6とサンプル7における接合材の流れ出しは、サンプル3における接合材の流れ出しに比べ抑制されること(△→〇)が確認された。これは、熱膨張が比較的小さいモリブデンまたはタングステンから形成される溶接網は、温度による金属層の変形の度合いが小さいためと考えられる。さらに、銀から形成される溶接網を備えるサンプル8でも、接合強度がサンプル3の接合強度に比べ向上すること(△-→〇)が確認された。
【0041】
線材のめっきの有無による影響について、溶接網を形成する線材にめっきが施されていないサンプル3と、溶接網を形成する線材の表面に銀めっき、金めっき、銅めっきのそれぞれが施されているサンプル9~11を用いて説明する。サンプル3、9~11のそれぞれにおける、メッシュ間隔(500μm)と線材の線径(200μm)と線材(SUS)は、同じである。
図8に示すように、サンプル9~11の接合強度は、サンプル3の接合強度に比べ向上すること(△-→〇)が確認された。これは、線材の表面に、銀、金、銅のそれぞれがめっきされることで接合材の濡れ性が向上するためと考えられる。これにより、接合材が板状部材10b、20bと接合層30bとの接合界面の全域に広がりやすくなり、ボイドの発生を抑制することができる。
【0042】
織網の編み方の違いによる影響について、織網が、平織、綾織、畳織のぞれぞれで編み込まれているサンプル12、13、14を用いて説明する。
図8に示すように、サンプル12~14のそれぞれにおいて、接合強度の大きさに有意な差は確認されなかった。
【0043】
図9は、接合体の評価試験の結果を説明する第2の図である。
図9には、織網を形成する線材のめっきの有無およびめっきの材料の違い、メッシュ間隔の違い、線材の線径の違い、線材の材料の違い、並びに、ろう材の材料の違いのそれぞれの影響について、接合材の流れ出しと、接合強度を評価した結果を示している。
【0044】
線材のめっきの有無およびめっきの材料の違いによる影響について、線材の表面にめっきが施されていない織網を備えるサンプル15と、線材の表面に、銀めっき、金めっき、銅めっきのそれぞれが施されている織網を備えるサンプル16~18と、を用いて説明する。サンプル15~18のそれぞれにおける織網のメッシュ間隔(500μm)と線材の線径(200μm)と線材(モリブデン)は、同じである。
図9に示すように、サンプル15~18のそれぞれでは、いずれも接合材の流れ出しは確認されなかった(〇)。一方、接合強度では、サンプル16~18は、サンプル15に比べ接合強度が大きく、接合界面が剥離する前に、接合層が破壊される(〇)ことが確認された。これは、サンプル16~18のそれぞれでは、上述したように、線材の表面に、銀、金、銅のそれぞれがめっきされることで接合材の濡れ性が向上するためと考えられる。これにより、サンプル16~18では、サンプル15に比べ、接合材が板状部材10b、20bと接合層30bとの接合界面の全域に広がりやすく、ボイドの発生を抑制することができる。したがって、織網の線材の表面に、銀、金、銅のいずれかがめっきされることで、板状部材10b、20bと接合層30bとの接合強度がさらに向上することが確認された。
【0045】
メッシュ間隔の違いによる影響について、メッシュ間隔が異なるサンプル16、19~24を用いて説明する。サンプル19~24では、メッシュ間隔が500μmのサンプル16(線径200μm)を基準にして、線材の線径を固定したまま、メッシュ間隔を50μmから1700μmまで変化させている。
図9に示すように、メッシュ間隔が70μm、100μm、1000μm、1500μmのサンプル20~23のそれぞれでは、接合材の流れ出しは確認されず(〇)、接合界面が剥離する前に、接合層30bが破壊される(〇)ことが確認された。一方、メッシュ間隔が50μmのサンプル19と、メッシュ間隔が1700μmのサンプル24では、接合界面の一部が剥離する(△+)ことから、接合強度がサンプル20~23に比べ低下することが確認された。サンプル19のように、メッシュ間隔が50μmになると、金属層の孔に入り込む接合材が金属層の内部を移動しにくくなるため、接合材が接合界面の全域に広がりにくくなる。また、サンプル24のように、メッシュ間隔が1700μmになると、接合層にボイドが発生しやすくなり、接合強度が低下する。サンプル16、19~24の比較から、織網のメッシュ間隔を70μm~1500μmにすることで、板状部材10b、20bと接合層30bとの接合強度が向上することが確認された。
【0046】
線材の線径による影響について、線径が異なるサンプル16、25~29を用いて説明する。サンプル25~29では、線径が200μmのサンプル16(メッシュ間隔500μm)を基準にして、メッシュ間隔を固定したまま、線径を30μmから450μmまで変化させている。
図9に示すように、線径が50μm、150μm、400μmのサンプル26~28では、接合材の流れ出しは確認されず(〇)、接合界面が剥離する前に、接合層30bが破壊する(〇)ことが確認された。一方、線径が30μmのサンプル25と、線径が450μmのサンプル29とでは、接合界面の一部が剥離する(△)ことが確認された。サンプル25のように、線径が30μmになると、金属層による接合材の流れ止めの効果が小さくなり、接合材が金属層の孔から漏れ出しやすくなる。また、サンプル29のように、線径が450μmになると、金属層による接合材の流れ止めの効果が大きくなりすぎるため、接合材が接合界面の全域に広がりにくくなる。サンプル16、25~29の比較から、線径を50μm~400μmとすることで、板状部材10b、20bと接合層30bとの接合強度が向上することが確認された。
【0047】
織網を形成する線材の材料の違いによる影響について、織網の線材がモリブデンから形成されているサンプル16と、織網の線材が銀タングステンから形成されているサンプル30と、を用いて説明する。サンプル16、30のそれぞれにおける、メッシュ間隔(500μm)と線材の線径(200μm)とめっきの材料(銀)は、同じである。
図9に示すように、サンプル16とサンプル30とでは、接合材の流れ出しと接合強度のそれぞれにおいて、線材の材料による有意な差は確認されなかった。
【0048】
ろう材の材料の違いによる影響について、サンプル16のインジウムと異なる接合材を備えるサンプル31とサンプル32を用いて説明する。サンプル31では、錫(Sn)と銀(Ag)と銅(Cu)との組成比が1:3:0.5のSnAgCuからなる接合材によって板状部材10b、20bが接合されている。サンプル32では、鉛(Pb)と錫との組成比が1:5のPbSnからなる接合材によって板状部材10b、20bが接合されている。サンプル31およびサンプル32では、織網の線材の表面に銀めっきが施されている。サンプル18およびサンプル19のいずれも、接合材の流れ出しは確認されず(〇)、接合界面が剥離する前に、接合層30bが破壊する(〇)ことが確認された。
【0049】
以上説明した、本実施形態の接合体1aによれば、金属層31の孔の少なくとも一部に、融点における表面張力が1000mN/m以下のインジウムを主成分とする接合材32が入り込んでいる。インジウムを主成分とする接合材32は、溶けると流動性が高い。接合層30では、接合材32がセラミック部材10および金属部材20と接合層30との接合界面の全域に広がりつつ金属層31の孔に入り込むことで、セラミック部材10と金属部材20との間から接合材32が流れ出にくくなる。これにより、接合材32は、セラミック部材10と金属部材20の間から流れ出ることが抑制されるため、セラミック部材10と金属部材20との接合強度の低下を抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態の接合体1aによれば、
図8および
図9に示すように、金属層31を、モリブデンまたはタングステンを主成分とする材料から形成すると、金属層31の熱膨張が比較的小さくなる。これにより、セラミック部材10と金属部材20とを接合するときや、静電チャック1を使用するときに接合体1aが加熱されても、金属層の変形の度合いが小さくなる。したがって、接合材32の流れ出しを安定して抑えることができるため、セラミック部材10と金属部材20との接合強度の低下をさらに抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態の接合体1aによれば、
図8に示すように、金属層31を、アルミニウムまたはチタンを主成分とする材料から形成すると、ヤング率が比較的小さくなるため、変形しやすくなる。これにより、静電チャック1が冷却されるときに、接合材32の収縮に追従して金属層31も変形するため、ボイドの発生を抑制することができる。したがって、ボイドの発生によるセラミック部材10と金属部材20との接合強度の低下をさらに抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態の接合体1aによれば、ニッケル製のメッシュ部材である金属層31の線材の表面には、銀めっきが施されている。すなわち、メッシュ部材の線材の表面は、銀を主成分とする材料から形成されている。これにより、金属層31に対する接合材32の濡れ性が向上するため、接合材32がセラミック部材10および金属部材20と接合層30との接合界面の全域に広がりやすくなり、ボイドの発生がさらに抑制される。したがって、セラミック部材10と金属部材20との接合強度をさらに向上することができる。
【0053】
また、本実施形態の接合体1aによれば、金属層31は、略円形平面状のメッシュ部材であり、メッシュ部材を形成する複数の線材が、平織状に交差するように形成されている。金属層31は、隣接する他の線材と交差する部分が他の線材と接続されていない織網構造となっている。これにより、パンチングメタルや、隣接する他の線材と交差する部分が他の線材と接続されている溶接網に比べ、線材が動きやすくなるため、例えば、静電チャック1が冷却されるときに、接合材32の収縮に追従して金属層31も変形しやすくなる。したがって、ボイドの発生を抑制することができるため、セラミック部材10と金属部材20との接合強度の低下をさらに抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態の接合体1aによれば、ニッケル製のメッシュ部材である金属層31のメッシュ間隔は、70μm~1500μmとなっている。メッシュ間隔が、70μmより小さくなると、多孔質体の孔に入り込む接合材が金属層の内部を移動しにくくなるため、接合材が接合界面の全域に広がりにくくなる。また、メッシュ間隔が、1500μmより大きくなると、接合層にボイドが発生しやすくなり、接合強度が低下する。メッシュ間隔が70μm~1500μmである金属層31を接合層30に備える接合体1aでは、接合材32をセラミック部材10および金属部材20と接合層30との接合界面の全域に広げつつ、ボイドの発生による接合強度の低下を抑制することができる。これにより、セラミック部材10と金属部材20との接合強度をさらに向上することができる。
【0055】
また、本実施形態の接合体1aによれば、ニッケル製のメッシュ部材である金属層31の線材の線径は、50μm~400μmとなっている。線径が50μmより小さくなると、金属層による接合材の流れ止めの効果が小さくなり、接合材が金属層の孔から漏れ出しやすくなる。また、線径が400μmより大きくなると、金属層による接合材の流れ止めの効果が大きくなりすぎるため、接合材が接合界面の全域に広がりにくくなる。線材の線径が50μm~400μmである金属層31を接合層30に備える接合体1aでは、接合材32を接合界面の全域に適度に広げることができる。これにより、接合材32がセラミック部材10と金属部材20との間から流れ出ることを抑制しつつ、ボイドの発生を抑制することができるため、セラミック部材10と金属部材20との接合強度をさらに向上することができる。
【0056】
また、一般的に、接合層の厚みが厚くなると、2つの部材の接合強度を確保するために必要な接合材の量が多くなるため、インジウムのような高価な金属を用いる場合、接合体の製造コストが増大する。本実施形態の接合体1aでは、金属層31の線材の線径を400μm以下とすることで、接合層30の厚みを比較的薄くすることができるため、接合材32の使用量を低減することができる。これにより、接合体1aの製造コストを低減することができる。
【0057】
また、接合層の厚みが厚くなると、2つの部材間の距離が長くなるため、接合層の熱伝導性が低下する。例えば、本実施形態の保持装置のように一方の部材から他方の部材に熱を伝えるとき、接合層を介して効率的に伝熱できないおそれがある。本実施形態の接合体1aでは、金属層31の線材の線径を400μm以下とすることで、接合層30の厚みを比較的薄くすることができるため、接合層30の熱伝導性の低下を抑制することができる。したがって、セラミック部材10から金属部材20に効率的に熱を伝えることができる。
【0058】
また、本実施形態の接合体1aによれば、接合材32は、インジウムを主成分としている。これにより、比較的低温で、セラミック部材10と金属部材20とを接合することができる。比較的低温でセラミック部材10と金属部材20とを接合することができるため、低温での使用に適した接合体1aを得ることができる。
【0059】
また、本実施形態の静電チャック1によれば、接合体1aでは、接合材32は、セラミック部材10と金属部材20との間から流れ出ることが抑制され、セラミック部材10と金属部材20との接合強度を向上することができる。これにより、接合体1aに形成されている電極端子15が配置される貫通孔31aへの接合材32の漏れ出しによる電極端子15の絶縁不良の発生を抑制することができる。また、リフトピン18が配置される貫通孔31bへの接合材32の漏れ出しによるリフトピン18の動作不良の発生を抑制することができる。また、載置面13にヘリウムガスを供給する貫通孔31cへの接合材32の漏れ出しによる貫通孔31cの閉塞を抑制することができる。したがって、静電チャック1の機能喪失を抑制することができる。
【0060】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0061】
[変形例1]
上述の実施形態では、「接合体」は、セラミック部材10と金属部材20とを備えるとした。しかしながら、「接合体」を構成する部材の組み合わせは、これに限定されない。例えば、セラミック部材同士が接合された接合体であってもよいし、金属部材同士が接合された接合体であってもよい。さらに、セラミックおよび金属以外の他の材料によって形成されてもよい。例えば、ガラス、ガラスエポキシ、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂などの樹脂、紙フェノール、紙エポキシ、ガラスコンポジット、これらの絶縁部材を表面に形成した金属部材などによって形成してもよい。
【0062】
[変形例2]
上述の実施形態では、金属層31は、ニッケル(Ni)製の線材を平織状に交差させて形成されているメッシュ部材であるとした。しかしながら、金属層31は、これに限定されない。ポーラス材や網目構造材、金属繊維からなるフェルトであってもよい。また、メッシュ部材を形成する複数の線材の交差のさせ方は、平織状に限定されず、綾織状や畳織状であってもよい。さらに、金属層31を形成する材料は、ニッケルに限定されない。金属層31は、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、真鍮、これらの合金、または、ステンレス鋼などの金属製であってもよいし、金属以外の材料から形成されてもよい。
【0063】
[変形例3]
上述の実施形態では、金属層31は、メッシュ部材を構成する線材の表面に、銀めっきが施されているとした。しかしながら、メッシュ部材の線材の表面が、銀を主成分とする材料から形成されていてもよく、メッシュ部材そのものが銀から形成されていてもよい。また、メッシュ部材の表面に銀を主成分とする材料が形成されていなくてもよく、金や銅を主成分とする材料が形成されていてもよい。この場合、メッシュ部材そのものが金や銅から形成されていてもよい。また、メッシュ部材の表面が金属を主成分とする材料から形成されていなくてもよい。
【0064】
[変形例4]
上述の実施形態では、金属層31は、メッシュ間隔が70μm~1500μmであり、線材の線径が50μm~400μmとなっているとした。しかしながら、メッシュ部材のメッシュ間隔および線径は、これらに限定されない。メッシュ間隔を70μm~1500μmとすることで、接合材32を接合界面の全域に広げつつ、ボイドの発生を抑制することができるため、接合強度を向上とすることができる。また、線材の線径を50μm~400μmとすることで、金属層31によって接合材32の流れ止めが適度に行われるため、接合強度を向上とすることができる。
【0065】
[変形例5]
上述の実施形態では、接合材32の全重量に対するインジウムの重量割合は、100%であるとした。しかしながら、インジウムの重量割合は、これに限定されない。接合材32の全重量に対する重量割合が50%以上であればよい。また、インジウムの重量割合は、50%以上でなくてもよく、接合材32自体の融点における表面張力が1000mN/m以下であってもよい。また、接合材の主成分は、インジウムに限定されない。融点における表面張力が300mN/m以上かつ1000mN/m以下の金属であればよく、例えば、亜鉛、鉛、錫などであってもよい。
【0066】
[変形例6]
上述の実施形態では、静電チャック1は、エッチング装置に備えられるとした。しかしながら、静電チャック1の適用分野はこれに限定されない。静電チャック1は、半導体製造装置においてウェハの固定、矯正、搬送などを行うために用いられてもよい。さらに、接合体1aを備える「保持装置」を備える装置は、静電チャックに限定されず、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置、PVD(Physical Vapor Deposition)装置、PLD(Pulsed Laser Deposition)装置などのサセプタや、載置台として用いられてもよい。したがって、保持対象物を保持する力は、静電引力に限定されない。
【0067】
[変形例7]
上述の実施形態では、接合体において、セラミック部材と接合層との間、および、金属部材と接合層との間の少なくともいずれか一方に、金属層などの他の層を備えてもよい。この他の層は、例えば、接合層を形成する接合材中のチタンの蒸発により形成される層や、予め形成されたメタライズ層などであってもよい。
【0068】
[変形例8]
上述の実施形態では、セラミック部材10と、接合層30と、金属部材20との積層体は、略円形状の柱状体であるとした。しかしながら、「接合体」の形状は、これに限定されない。例えば、矩形形状であってもよいし、多角形形状などであってもよい。
【0069】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0070】
1…静電チャック
1a…接合体
10…セラミック部材
13…載置面
20…金属部材
30…接合層
31…金属層
32…接合材
W…ウェハ