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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】付加製造のための複数材料走査
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/393 20170101AFI20240604BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20240604BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240604BHJP
   B29C 64/264 20170101ALI20240604BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20240604BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240604BHJP
【FI】
B29C64/393
B29C64/112
B33Y10/00
B29C64/264
B33Y50/02
B33Y30/00
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022548180
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-06
(86)【国際出願番号】 US2020019014
(87)【国際公開番号】W WO2021167611
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】521165035
【氏名又は名称】インクビット, エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】INKBIT, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】マトゥシック, ウォーチエック
(72)【発明者】
【氏名】ウェーバー, アーロン
(72)【発明者】
【氏名】チェン, デサイ
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-538167(JP,A)
【文献】特開2011-212862(JP,A)
【文献】特開2016-074210(JP,A)
【文献】特表2021-517525(JP,A)
【文献】特開2018-127007(JP,A)
【文献】特開2018-051969(JP,A)
【文献】特開2018-200304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B22F 1/00-12/90
B28B 1/30
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分的に製造された3D物体の堆積層の材料組成を決定する決定工程を含む、付加製造プロセス中の3D物体の走査方法であって、前記決定工程は、
材料層を堆積するよりも前に前記3D物体の第1の部分的製造物を走査して、第1の走査データを作成する走査工程と、
製造材料を堆積して、前記3D物体の第1の部分的製造物上に前記堆積層を作成し、前記3D物体の第2の部分製造物を形成する堆積工程と、
前記3D物体の第2の部分的製造物を走査して、第2の走査データを作成する走査工程と、
前記第1の走査データと前記第2の走査データを比較する工程を含む、前記堆積層に関して層の特徴付けを行う特徴付け工程と
を備えた3D物体の走査方法。
【請求項2】
前記3D物体の部分的製造物を走査する走査工程は、前記3D物体の部分的製造物の画像を取得する工程を含む、請求項1に記載の3D物体の走査方法。
【請求項3】
前記走査工程は、前記3D物体からの光出力を複数の波長で行う光出力工程を含む、請求項2に記載の3D物体の走査方法。
【請求項4】
前記光出力工程は、(a)前記物体の本体からの光の反射又は前記3D物体内への光の吸収を引き起こす前記3D物体に対する照射を行う照射工程、および、(b)前記3D物体内の材料からの光放出を引き起こす化学的及び/又は電磁的な励起を行う励起工程のうち少なくとも1つを含む、請求項に記載の3D物体の走査方法。
【請求項5】
前記光出力工程は、前記物体の本体内で光拡散を引き起こす前記3D物体に対する照射行う照射工程を含む、請求項4に記載の3D物体の走査方法。
【請求項6】
前記物体の本体内で光拡散を引き起こす工程は、前記物体の本体内の添加剤粒子からの拡散を含む、請求項5に記載の3D物体の走査方法。
【請求項7】
前記光出力工程は、前記物体の本体内において拡散させた光の本体内への吸収をさらに含む、請求項6に記載の3D物体の走査方法。
【請求項8】
前記光出力工程は、前記物体の本体内への吸収を引き起こす照射信号を前記3D物体に対して照射する工程を含み、前記光出力は、前記物体を通過し前記物体の本体内へ吸収されていない前記照射信号の成分を含む、請求項4に記載の3D物体の走査方法。
【請求項9】
前記材料層は、少なくとも2つの材料を含む、請求項1~8のいずれかに記載の3D物体の走査方法。
【請求項10】
前記少なくとも2つの材料のそれぞれ材料は、前記第1の走査データと前記第2の走査データにおいて識別可能である、請求項9に記載の3D物体の走査方法。
【請求項11】
前記それぞれの材料は、対応する異なるスペクトル内容を有する、対応する光出力を有する、請求項10に記載の3D物体の走査方法。
【請求項12】
前記第1の走査データ及び前記第2の走査データは、複数の位置のそれぞれの位置において前記3D物体からの光出力の1組のスペクトル特性を特徴付ける、請求項1~11のいずれかに記載の3D物体の走査方法。
【請求項13】
前記第1の走査データと前記第2の走査データを比較する工程は、前記複数の位置のそれぞれの位置に対して、前記第1の走査データと前記第2の走査データにおいて、前記位置に関する1組のスペクトル特性のうちのスペクトル特性を比較する工程を含む、請求項12に記載の3D物体の走査方法。
【請求項14】
各組の前記光出力のスペクトル特性は、1以上のベクトルとして表される、請求項13に記載の3D物体の走査方法。
【請求項15】
前記各組の前記光出力のスペクトル特性のうちのスペクトル特性を比較する工程は、前記各組のスペクトル特性に部分的に基づいて、ベクトル差を計算する工程を含む、請求項14に記載の3D物体の走査方法。
【請求項16】
前記各組の前記光出力のスペクトル特性のうちのスペクトル特性を比較する工程は、前記各組のスペクトル特性に部分的に基づいて、ベクトル間の角度を計算する工程を含む、請求項14に記載の3D物体の走査方法。
【請求項17】
付加製造システム(100)であって、
付加製造プロセス中の3D物体の走査を行うセンサ(160)を備え、
前記センサを使用して、請求項1~16のいずれかに記載の3D物体の走査方法で部分的に製造された3D物体の堆積層の材料組成を決定するよう構成された付加製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加製造システムにおける複数材料の走査に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3D印刷とも呼ばれる付加製造は、一般的に、所望の3D仕様、例えば、ソリッドモデルと適合するコンピュータ制御されたプロセスに従って、部品を製造する比較的広い範囲の技術のことである。製造技術の1つの種類としては、インクジェット印刷技術を使用して、堆積のために、部分的に製造された物体の上に材料を噴射するものがある。噴射した材料は、一般的には、堆積の直後にUV硬化され、硬化した材料からなる薄層を形成する。多くの場合、ワックス等の支持材料と、UV硬化型アクリレート等の製造材料を用いて物体を製造する。
【0003】
フィードバック型付加製造は、部分的に製造された物体の走査を利用するものであって、所望の仕様の物体の製造において、付加する追加材料の特性を決定する。例えば、この走査によって、さらなる材料層の堆積のための厚さ、及び/又は、位置を計画するために使われる位置付けの機能として物体の厚さ等の寸法情報を得ることができる。このようなフィードバックを使用することで、噴射速度、材料の流れ、及び/又は、硬化中の収縮及び/又は膨張等の態様に関連する、予測できない、及び/又は、変動する製造特性を補正することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
物体には、例えば、異なる材料特性(例えば、柔軟性)を有する複数の製造材料を使用して製造されるものがあり、さらなる層内のそれぞれの位置にどの材料を堆積するか、及び/又は、それぞれの材料をどのくらいの量で堆積させるかを計画するために、部分的に製造された物体の寸法を決定するだけでなく、物体上のそれぞれの位置にどの材料が存在するかを決定するフィードバックプロセスを使用することが望ましい。そのため、このフィードバックプロセスで使用する走査方法は、例えば、部分的に製造された物体からの反射率のスペクトル特性(例えば、色)に基づいて、異なる材料同士を区別することが可能である必要がある。さらに、材料層は非常に薄くなり得るため、また、一般的には、材料は完全に不透明ではないため、表面下の層の特性は、異なる材料の肉厚部分上の材料の薄層の反射率に多大に影響する可能性がある。したがって、材料の変更後の薄層の位置検出には、薄層が堆積されてしまう前の物体の反射率特性を考慮に入れなくてはならない。
【0005】
1つの態様において、一般的に、3D物体を付加製造プロセス中に走査して、部分的に製造された3D物体の堆積層の材料組成を決定する。材料層を堆積するよりも前に3D物体の第1の部分的製造物を走査して第1の走査データを作成する。その後、製造材料を堆積して、3D物体の第1の部分的製造物上に堆積層を形成し、3D物体の第2の部分的製造物を形成する。そして、3D物体の第2の部分的製造物を走査して、第2の走査データを作成する。第1の走査データと第2の走査データとを比較することによって、例えば、部分的に製造された物体の上方に堆積した層の層特徴を決定する。
【0006】
本発明の態様は、以下の特徴うち1つ以上を含むことができる。
【0007】
3D物体の部分的製造物を走査する走査工程は、3D物体の部分的製造物の画像を取得する工程を含む。
【0008】
この走査工程は、3D物体からの光出力を複数の波長で行う光出力工程を含む。いくつかの例では、この光出力工程は、3D物体からの光の反射若しくは拡散、又は、3D物体内への光の吸収を引き起こす3D物体に対する照射を行う照射工程と、3D物体内の材料からの光放出を引き起こす化学的及び/又は電磁的な励起を行う励起工程の少なくとも1つを含む。
【0009】
材料層は、少なくとも2つの材料を含む。いくつかの例では、これらの少なくとも2つの材料のそれぞれの材料は、第1の走査データと第2の走査データにおいて識別可能である。例えば、それぞれの材料は、対応する異なるスペクトル内容を有する、対応する光出力を有する。
【0010】
第1の走査データ及び第2の走査データは、複数の位置のそれぞれの位置において3D物体からの光出力の1組のスペクトル特性を特徴付ける。いくつかの例では、その組のスペクトル特性におけるスペクトル特性を比較することによって複数の位置のそれぞれの位置の第1の走査データと第2の走査データを比較する。各組の光出力のスペクトル特性は、1以上のベクトルとして表されるようにしてもよい。そのような場合、各組のスペクトル特性を比較する工程は、各組のスペクトル特性に部分的に基づいて、ベクトル差を計算する工程と、ベクトル間の角度を計算する工程とを含む。
【0011】
本発明のその他の特徴と利点は、以下の説明及び請求項から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、材料検出システムを備える例示的な付加製造装置を示す図である。
図2図2は、材料検出システムの詳細図である。
図3図3は、色空間の斜視図である。
図4図4は、色空間の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.システム概要
以下の説明は、例えば、図1に示す噴射式3Dプリンタ100を用いた付加製造に関するものである。以下により詳細に説明するように、プリンタ100は、センサデータプロセッサ111を用いてセンサ160からのデータを処理し、製造中の物体121に関する表面データを決定するコントローラ110を含む。その表面データは、設計者112によって、今後の印刷動作を決定するためのフィードバックとして使用される。
【0014】
プリンタ100は、噴射口120(インクジェット)を用いて、部分的に製造された物体上に層を堆積させるための材料を放出する。図1に示すプリンタでは、物体は構築プラットフォーム130上に製造され、この構築プラットフォームは、連続する層を形成するためにラスタ状のパターンでジェットに相対して(すなわち、x-y面に沿って)移動し、この例ではまた、ジェットと部分的に製造された物体121の表面とが望ましく分離したまま維持された状態でジェットに相対して(すなわち、z軸に沿って)移動するように制御されている。図示するように、複数のジェット122、124、126があり、1つのジェット122は、物体の支持構造142を形成するための支持材料を放出するために用いられ、他のジェット124、126は、物体自体の構築材料144及び146をそれぞれ形成するための構築材料を放出するために用いられる。UV照射のような励起信号をきっかけとして硬化が開始される材料については、物体に噴射された直後に硬化信号発生器170(例えば、UVランプ)をきっかけに材料の硬化が開始する。他の実施形態では、例えば、複数の異なる材料を、材料毎に使用する個々のジェットと共に使用してもよい。さらに他の実施においては、必ずしも励起信号(例えば、光学、RF等)を使用する必要はなく、むしろ硬化は、例えば、噴射前に複数の成分を混合することや、混合して物体上で硬化を誘発する別々の成分を噴射すること等によって、化学的に誘発される。なお、いくつかの例では、添加剤の付着が完了した後、例えば、物体をさらに紫外線に曝露することによって、さらなる硬化を(例えば、硬化を完了するために)物体に対して行ってもよい。
【0015】
センサ160は、表面材料と、表面形状(例えば、部分的に製造された物体の厚さ/深さを特徴付ける深さマップ)の1つ以上を含む、部分的に製作された物体の物理的な特徴を決定するために使用され、例えば、支持材料142と構築材料144、146のそれぞれとを区別するために使用される。様々な種類のセンシングを使用することができるが、本明細書に記載される少なくともいくつかの例は、エミッタ162が多波長光(例えば、「白色」光)で物体の表面を照射し、それに伴う物体から反射を検出器164が受信する反射アプローチの使用に関する。本明細書では、物体からの「反射」は、広く解釈されるべきであって、鏡面反射(すなわち、鏡の反射のような反射、また、正反射とも呼ばれる)、拡散反射(すなわち、入射角に基づく単一角度ではなく、多くの角度で光が投げ返される反射)、及び、散乱等の物体を照らす光エネルギーの投げ返しを含む。さらに後述するように、カメラで受信した光信号のスペクトル特性を使用して、物体の材料を識別することができる。後述のように、複数の代替センサ配置があり、そのような配置のうち重要な種類のものは、物体からセンサへ通過する信号が、受信信号のスペクトル特性において感知される材料を符号化するという特性を共有している。
【0016】
コントローラ110は、製造する物体のモデル190を使用して、モーションアクチュエータ150(例えば、3度の動きを提供する)を使用する構築プラットフォーム130の動きを制御し、センサ160を介して決定される物体特性の非接触フィードバックに従ってジェット120からの材料の放出を制御する。また、このフィードバック配置を使用すると、予測できない噴射特有の態様(例えば、噴射口が詰まる等)や、例えば、噴射された材料の流動、混合、吸収、硬化を含む成膜後の予測できない材料の変化を補正することによって、精密な物体を製造することができる。
【0017】
図1の配置において、センサ160は、製造中の物体121の上方に位置付けられ、所定の作業範囲(例えば、3Dボリューム)内の物体121の特性を測定する。測定値は、x軸とy軸を空間軸とし、z軸を深度軸とする3次元(すなわち、x、y、z)座標系と関連付けられる。
【0018】
図1には、支持材料142が側面に構築された物体の製造例を断面で示す(すなわち、特定の値のyについて)。部分物体は、材料144で構築され、最上位(すなわち、最も最近堆積した)層は、材料142で形成され続ける部分と材料146の第2部分とを有する。この例では、センサデータプロセッサ111は、受信した光信号を処理して、最上層の2つの材料の間の遷移点の位置を正確に特定する。
【0019】
2.センサデータ
プリンタ100のセンサ160の配置の第1の態様は、異なる材料が異なるスペクトル応答をもたらすことである。つまり、センシングされる物体から発せられる光信号はマルチスペクトル(複数の周波数のエネルギー)であり、異なる材料からのスペクトル分布の違いを利用して、異なる材料を識別することができる。
【0020】
いくつかの例では、材料はそれぞれ異なる色を有し、エミッタ162は物体を照らす白色光ランプであり、検出器164は、例えば、赤―緑―青(RGB)のような従来のカラーモデルに従って、各点について複数の色値を生成する可視光カメラである。つまり、物体から受け取った分光エネルギーの連続分布は、それぞれ対応する応答スペクトルを持つ3つの分光検出器への応答に還元される。特定のカラーモデルが重要となるのではなく、RGB、HSV、CMY、マルチスペクトル測定のような標準的な多座標カラーモデルで、可視又は不可視の波長にわたって異なるスペクトル応答を持つ検出器を使用して、同様のアプローチを達成してもよい。これらのカラーモデルは3次元であってもよいが、より多くのスペクトル特性に対して感度がよい検出器によって、より高い自由度を得ることができ、これにより記載した方法の性能を向上させるようにしてもよい。RGBカラーモデルを、以下の方法の説明に使用する。例えば、検出器164の各ピクセルは、赤、緑、青の値を返し、これらのRGB値は、1つの材料144が、理想的には、応答(r、g、b)(例えば、赤)を有し、第2の材料146が応答(r、g、b)(例えば、青)を有するように、3次元座標として扱われる。
【0021】
本明細書においてより詳しく後述するように、白色光のもとでは、必ずしも材料の色が自然に異なっているとは限らない。例えば、材料は可視光に対して実質的に透明であってもよいし、それに代わって、エミッタ162及び検出器164がそのようなスペクトルにおいて動作するよう構成されるように、スペクトルの非可視部分においてスペクトル応答が異なるようにしてもよい。さらに、吸収、反射、散乱、蛍光などの異なるメカニズムを使って信号が検出器を通過するようにしてもよく、材料特性の違いによってスペクトル特性が区別されるようにしてもよい。いくつかの例では、材料が自然には異なるスペクトル特性を持っているわけではなく、異なる添加剤又は添加剤の組み合わせを材料に加え、それによって、「コード化」された材料を識別するために使用することができる各材料を異なるスペクトルでコード化する。説明の便宜上、図1の例は「RGB」の文脈で説明する。
【0022】
図2を参照すると、図1のセンサ160の特性は、センサデータが、一般的には、単に部分的に製造された物体の表面における材料を特徴付けるものではないことである。すなわち、エミッタ162から物体121に入射する光は、表面で全て反射又は吸収されるわけではない。むしろ、光の少なくとも一部は、物体内に透過され、物体内で反射(例えば、散乱)し、物体への進入と物体からの出戻りの経路上で吸収される。例えば、第1の材料144に入射する光線240aは、検出器で受信される表面信号250aを生成する表面から(又はその非常に近くで)反射又は散乱を有することがある。光線240aは、物体内に進入し、ここでは表面下の第1の材料144にも進入し、信号252bの表面下反射を引き起こすことがある。このように表面と表面下が同じ材料である場合は、両信号250a、250bは、第1の材料の特性(すなわち、色)を共有している。しかし、第1の材料144上に第2の材料146の薄層を有する物体の領域においては、物体に入射する光線240bは、第2の材料のスペクトル特性を有する信号250bの直接反射又は散乱を有することがある。しかし、材料内に進入して薄膜の下で反射又は散乱した光線240bの一部は、実質的に第1の材料のスペクトル特性を有する(第2の材料の薄膜を通過する信号の影響を無視する)。
【0023】
その結果、材料が変化する位置では、検出器は第1の材料のスペクトル応答と第2の材料のスペクトル応答の組み合わせを受信する。例えば、光線240bから青色の応答が得られるのではなく、合成した応答が紫色である場合がある。材料146の層はかなり薄い場合があるため、紫色の反応は、第1の材料だけの赤に非常に近い色になる場合があり、したがって、第2の材料の層が始まる遷移点を特定することが困難な場合がある。材料が変化する時の応答の組み合わせの特定の性質は、例えば、各材料の吸収スペクトル(添加染料を使って変更してもよい)、及び/又は、散乱スペクトル(材料中の顔料によって変更してもよい)に依存して、非常に複雑になる可能性がある。さらに、既存の材料に加える新しい材料の厚さは、一般的に、材料の組み合わせの応答に影響を与えることになる。
【0024】
3.センサデータ処理
後述のように、多くのアプローチは、第1の材料上に第2の材料が次々と堆積されるにつれ、この組み合わせの応答が、第1の材料から製造された物体の応答から第2の材料から製造された物体の応答へ遷移するという観察に基づく。薄層であってもその材料を判別するアプローチは、一般的に、この観察を利用するものである。
【0025】
多くの実施形態では、センサデータの処理は、(x、y)位置での応答を材料の層(又は複数の層)の堆積前と後で比較する応答差アプローチを利用し、また材料自体の予想される応答のデータベースを利用するものである。
【0026】
センサデータプロセッサ111が実施する演算手順の説明において、以下の表記を用いる。応答Oは、物体の特定の(x、y)位置に層nthを堆積した後の応答を表す数値ベクトルである(位置ごとに独立して行われる処理の説明においては、(x、y)座標への依存性は省略する)。いくつかの例では、応答Oの各エントリは、異なるスペクトル(すなわち、周波数)応答を有する異なる検出器に対応する。例えば、検出器として使用される従来のカメラでは、エントリは、カメラから出力される赤、緑、及び青(RGB)値(すなわち、生のセンサ値から標準RGB色空間への内部変換後)と関連付けてもよい。あるいは、イメージセンサ上の3つ又は4つの異なる検出器の種類に対するカメラの生応答を、ベクトル応答のエントリとして直接使用する。また、XYZやHSVのような色空間への線形または非線形処理による応答の変化を用いてもよい。一般的には、以下に説明するアプローチは、応答を示すために使用する色空間からはおおむね独立している。いくつかの例では、応答値は、一定の(例えば、単位)ベクトルの大きさに対応するように正規化されるか、または一定の信号強度(例えば、HSV色空間における固定のV値)に対応するように正規化される。いくつかの例では、製造中に遭遇する可能性のある色又は異なる材料に対する応答を最大限に分離する色空間変換が使用される(例えば、線形判別分析、LDA、又はニューラルネットワーク式分類器を使用する)。
【0027】
RGBの場合、O=(r、g、b)である。前の層の応答をOn-1と表す。応答の差は、C=O-On-1と表される。層nthがその下の層と同じ材料であれば、差のベクトルの大きさ、すなわち、|C|は小さくなると予想される。純粋な材料kからの応答に対し予想される色ベクトル(「基準」ベクトル)は、M=(r(k)、g(k)、b(k))と表される。なお、Mは、色空間における方向(すなわち、色空間における原点から色空間における点まで)に対応し、強度(例えば、ベクトルの大きさ)は、多くの要因、例えば、センサ160の特定の構成に依存する場合がある。
【0028】
図3を参照すると、RGB色空間は、それぞれ純粋な赤、緑、および青に近い色を持つ材料に対応する基準ベクトルM、M、Mを含む。材料1(赤)を、それまでに堆積させた材料1の一部の上の層nに堆積させる場合、OとOn-1は、図3に示すように、Mに近くなることが予測される。すなわち、材料1を材料1上に堆積させる場合、|C|(ここで、||はベクトルの大きさを示す)は小さくなると予想される。
【0029】
図4を参照すると、材料2(緑)を、それまでに堆積させた材料1(赤)の一部の上の層nに堆積させる場合、On-1は、Mに近くなることが予測される。層nthの影響は比較的小さい場合があるため、Oは、実質的に、k≠1に関して、他の基準ベクトルMよりもMに近い値のままである場合がある。しかし、差のベクトルの大きさ、すなわち|C|は、材料1が堆積し続ける場合よりも大きくなることが予想される。さらに、材料2が次々に堆積されると、応答は方向Mに近づくことが予想される。したがって、変化Cは、規準Mの方向となることが予想される。すなわち、材料2の目標方向T=On-1-Mと変化C=On-1-Oは、同一又は似通った方向であることが予想される。これは、内積θ=∠(C、T)=cos-1(C・T)/(|C||T|)、ここで、∠(C、T)はCとT間の角度、「・」は「点」又は内積、cos-1は逆コサイン(acrossとも示す)である、を用いて計算される角度で定量化することができる。なお、層nでの材料1から材料2への遷移に伴い、出力O、On+1、・・・、のシーケンスは、例えば、使用する色空間や、個々の材料の応答が組み合わさることを引き起こす物理現象(吸収、散乱、M対Mの大きさの違い等)に依存して、Mに対する直線に正確に従っているとは限らない。しかし、一般的には、真の材料の角度が他の材料の角度より小さくなるように、異なる材料に対してMの十分な分離があり、この場合、全てのkが1(先の材料)又は2(真の次の材料)と等しくなるわけではない。このアプローチは、「バックグラウンド除去法」と呼ばれる。
【0030】
図3に戻ると、その他の有用な量としては、F=O-Mがあり、これは新しい層nthを材料k上に堆積した場合のスペクトルの差を表すものである。例えば、材料1が材料1上に堆積された場合、|F|は小さいと予想される。同様に、層nthがOに与える影響は無視できるほどのものであるため、材料1又は材料2が材料1上に堆積されているかどうかに関わりなく、|F|はまだ小さく、|F|よりも小さいと予想される。考慮すべき他の場合としては、層間の応答にほとんど変化がなく、|C|は小さい(すなわち、材料が変化しない場合と同じくらい小さい)が、OもOn-1も基準方向Mのいずれにもない場合がある。このような状況は、例えば、半透明の材料の少数の層が、基準色のいずれにも対応していない色に上に堆積される場合に発生することがある。例えば、構築プラットフォーム(黒であってもよい)上に堆積される最初の層は、この特性を有していてもよい。なお、構築プラットフォーム上の初期の製造状況は、部分的に製造された物体の寸法走査に基づいて決定されてもよい。
【0031】
手動および経験的に設定することができる2つの閾値、Cに関連する
【数1】
及びFに関連する
【数2】
に基づいて、4つの場合を定義することができる。
1.全てのkに関する
【数3】
及び
【数4】
:色変化は大きく、最終的な観察結果は、ベースとなる材料の色とはかなり異なる。
2.一部のkに関する
【数5】
及び
【数6】
:色変化は大きく、最終的な観察結果は、ベースとなる材料の色(つまり、規準色の1つ)に近い。
3.全てのkに関する
【数7】
及び
【数8】
:色変化は小さく、最終的な観察結果は、ベースとなる材料とはかなり異なる。
4.一部のkに関する
【数9】
及び
【数10】
:色変化は小さく、最終的な観察結果は、ベースとなる材料の色に近い。
【0032】
場合1、2は、新しい材料の少数の層をバックグラウンド材料上に堆積する遷移期間の代表的な場合である。場合3は、遷移期間中に材料がほとんど印刷されていない場合の代表的な例である。場合4は、同じ材料が何層も印刷され、現在の層と前の層の両方がベース材料と同じ色であると測定される場合であり、測定ノイズも含まれる。場合3、4は、高さデータと組み合わせることで、現在の観察より前に印刷された材料があるかどうかを判断するのに役立つ。場合3、4は、前の観測と現在の観測の間に材料が印刷されているかどうかに関係なく発生し得る。場合3、4のいずれかが発生する場合は、Oは、On-1と同じ材料として分類する。
【0033】
場合2~4で発生し得る誤認に対しては、2つのメトリクスで十分である。最初のメトリックは、各材料kを長さで正規化した(On-1-M)及び(O-M)間の内積を取るか、又は、2つのベクトル間の角度のような他のベクトル比較関数を使用することによって得られる。すべてのドット積が1に非常に近くなる場合にそうであるように、すべてのベクトル配向が非常に似ている場合、2つの観測では、材料に変化がなかったと十分に考えられる。このようなことが起きる場合、Oの材料は、On-1と同じ材料であると判定される。
【0034】
第2のメトリックは、応答の差の大きさ|C|=|O-On-1|によって得られる。2つの観測結果間の応答の差が非常に小さい場合は、ノイズの要因によって識別が誤りやすい。この場合、Oの材料はOn-1と同じであると判定される。
【0035】
【数11】
で示す層nthの材料を推定するために使用できる手順は、前の応答On-1と現在の応答O、規準色応答{M}に基づき、1組の基準色応答{M}は以下のように表される。
【数12】
【0036】
4.材料及び添加剤
材料のスペクトル特性は、また、材料に含まれる顔料に基づくものでもよい。特定の顔料は、顔料から反射または散乱する光のスペクトル応答を決定する。例えば、材料は実質的に透明であり、顔料と相互作用しない光は実質的なスペクトル変更なく通過する。
【0037】
スペクトル特性は、材料に含まれる染料に基づいていてもよい。この場合、光が材料を通過するとき、材料に含まれる染料が材料の吸収スペクトルを決定する。光が上面から材料に入射する場合は、光を表面の外に戻すために、材料に何らかの反射成分又は散乱成分がなければならない。いくつかの例では、例えば、材料に固有の反射又は散乱材料がない場合、二酸化チタン粒子等の広帯域散乱添加剤によって必要な光の散乱が起きる。そのため、材料から出射する光のスペクトルは、材料中の染料に関連するスペクトル領域で減衰する。
【0038】
上記で紹介したように、単一の印刷層は、染料及び散乱剤の添加なしで実質的に透明にするのに十分なくらいに薄くすることができる。添加された染料によってのみ色が生成される材料の場合、最上層から決定したスペクトル内容を有する放出光を引き起こすためには、散乱剤を含むことが特に重要であることがある。また、2種類以上の染料系材料をある厚さで組み合わせると、光を十分に吸収してしまい、正しくない結果が得られてしまう可能性がある。また、印刷物の散乱が十分でない場合、純色が白に対して非常に暗く見える可能性があり、検出可能なダイナミックレンジが制限されるという問題もある。さらに、材料の組み合わせは、どちらか一方の材料だけの場合よりも黒くなり得る。その結果、すべての材料から色落ちが観察され、正確な識別ができなくなる可能性がある。散乱剤の添加は、このような問題にも対処するものである。
【0039】
5.代替案
上記で紹介したように、多くの異なるセンサのアプローチを使用してもよい。光は上方から物体を照らし(すなわち、最も最近堆積した層に入射し)、顔料または染料は物体から戻ってくると検出される光のスペクトル内容に影響を与えることがある。いくつかの代替案では、光は、(例えば、照射された構築プラットフォームから)物体を透過し、(例えば、添加した、異なる材料をコード化する染料からの)吸収特性がスペクトル特性の差を生じさせる。いくつかの代替案では、構築材料の蛍光は、例えば、紫外光で物体の上方又は下方から励起させるようにしてもよい。材料のスペクトルは、特定の蛍光材料、及び/又は、材料中の染料によって決定するようにしてもよい。添加剤を使用する場合、反射、散乱又は発光を増加させるために、材料中に天然には存在しない様々な元素を使用することができる。このような添加剤には、低分子、ポリマー、ペプチド、タンパク質、金属又は半導体ナノ粒子、及びケイ酸塩ナノ粒子のうちの1つ以上を含むようにしてもよい。
【0040】
多数の異なる種類の走査技術には、レーザープロフィロメトリー(例えば、共焦点又は幾何学的アプローチを用いる)、又は、構造化光走査(例えば、インコヒーレント光を用いる投影法)を含む、このような発光を利用するようにしてもよい。一般的に、いくつかのそのような技術では、物体がある位置から電磁放射(例えば、光又は無線周波数放射)で照射されるか、又は、そうでなければ、励起され、1つの位置からの電磁放射(例えば、光放射又は電波放射)で励起され、発光が別の位置から検出又は画像化され、これらの位置の幾何学的関係は、物体が照射される点の座標と、それにしたがって発光が発生する点の座標とを計算するために使用される。
【0041】
プリンタは、物体全体に堆積した材料に関する情報を、1)プロセスのモニタリングと製造した物体のデジタルレプリカの作成、2)非接触型付加製造のためのリアルタイムのデジタルフィードバックループ、3)デジタルプロセスのモデリングと系統的な印刷エラーの修正のためのデータキャプチャを含む様々な目的で使用するようにしてもよい。
【0042】
上記のベクトル計算の代替として、代替の手順には、前の2つの走査O、On-1を受信し、2つの走査のそのトレーニングした比較を使用して、層nthの材料を分類するようにトレーニングされるニューラルネットワークを使用してもよい。ニューラルネットワークは、例えば、材料の既知のパターンを有する較正物体を製造し、較正物体の製造中に得た走査でニューラルネットワークを訓練することによって、真の材料が既知であるデータで訓練するようにしてもよい。
【0043】
ある代替案では、色応答は色層の厚さを推測するのに有用であるようにしてもよい。例えば、層が厚いほど、層からの応答が強くなり、したがって、応答の変化の方向に加えて大きさも使用することができる。
【0044】
本発明の多くの実施形態を説明してきた。しかし、上記の説明は、例示を意図したものであり、以下の請求項の範囲によって定義される本発明の範囲を限定することを意図したものではないと理解されるべきである。したがって、他の実施形態も以下の請求項の範囲に含まれる。例えば、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができる。さらに、上記の工程のいくつかは、順序はこだわらなくてもよく、記載の順序と異なる順序で実行することができる。


図1
図2
図3
図4