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特許7498289ガスセンサーデバイス、情報処理装置、及び匂い提示システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ガスセンサーデバイス、情報処理装置、及び匂い提示システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20240604BHJP
   G06F 3/01 20060101ALI20240604BHJP
   A63F 13/28 20140101ALI20240604BHJP
【FI】
G01N27/12 A
G06F3/01 510
A63F13/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022556321
(86)(22)【出願日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2020039669
(87)【国際公開番号】W WO2022085144
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】310021766
【氏名又は名称】株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント
(74)【代理人】
【識別番号】100122275
【弁理士】
【氏名又は名称】竹居 信利
(72)【発明者】
【氏名】平田 真一
(72)【発明者】
【氏名】町田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】浅野 剛史
(72)【発明者】
【氏名】西牧 洋一
(72)【発明者】
【氏名】丸山 高穂
(72)【発明者】
【氏名】植田 祐未
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-153135(JP,A)
【文献】特開平02-136738(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102654(WO,A1)
【文献】特開平03-289555(JP,A)
【文献】特開2003-250877(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094284(WO,A1)
【文献】特開2019-048071(JP,A)
【文献】特開2019-046495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24
G06F 3/01
A63F 13/28
A61L 9/00-9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中に存在する計測対象の分子に反応する感応材をそれぞれ有する複数の感応部材と、前記複数の感応部材それぞれの前記分子に対する反応を独立に計測する計測器と、を備えるガスセンサーデバイス、及び、匂い提示装置と接続される情報処理装置であって、
前記ガスセンサーデバイスから、前記複数の感応部材それぞれについての計測結果を取得する取得部と、
前記取得した計測結果に基づいて、空気中に含まれる匂いの種類、及び強さを特定する特定部と、
を備え、
前記特定部は、前記匂い提示装置に対する匂い提示指示の内容と、前記特定した匂いの種類、及び強さとを比較する比較処理を実行する
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
請求項に記載の情報処理装置において、
前記取得部は、前記計測結果とともに、計測時における前記複数の感応部材それぞれの温度を示す温度データを取得し、
前記特定部は、取得された前記温度データを用いて前記特定を行う
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の情報処理装置において、
前記取得部は、前記計測結果の時間変化を示す時系列データを取得し、
前記特定部は、取得された前記計測結果の時間変化に基づいて、前記特定を行う
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項4】
請求項に記載の情報処理装置において
記取得部は、前記匂い提示装置が匂いの提示を開始したタイミングを起点とした前記計測結果の時間変化を示す時系列データを取得し、
前記特定部は、取得された前記計測結果の時間変化に基づいて、前記匂い提示装置が提示する匂いの種類、及び強さを特定する
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項5】
請求項に記載の情報処理装置において、
前記特定部は、前記匂いの提示を開始したタイミングを起点とした前記計測結果の時間変化を示す時系列データと、前記匂い提示装置が提示した匂いの種類の情報と、を教師データとして用いる機械学習を実行して得られる学習モデルを用いて、前記特定を行う
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項6】
請求項1に記載の情報処理装置において、
前記複数の感応部材のうちの少なくとも一部複数の感応部材は、互いに異なる種類の感応材を含んで形成されている
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項7】
請求項1又は6に記載の情報処理装置において、
前記ガスセンサーデバイスは、前記複数の感応部材のそれぞれを加熱する加熱器であって、当該複数の感応部材それぞれの温度を互いに独立に変化させる加熱器をさらに備える
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の情報処理装置において、
前記複数の感応部材のうちの少なくとも一部複数の感応部材は、互いに同じ種類の感応材を含んで形成され、
前記計測器は、当該同じ種類の感応材を含んで形成されている複数の感応部材を互いに異なる温度に加熱した状態で前記計測を行う
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項9】
複数種類の匂いを提示可能な匂い提示装置と、ガスセンサーデバイスと、情報処理装置と、を含む匂い提示システムであって、
前記ガスセンサーデバイスは、
空気中に存在する計測対象の分子に反応する感応材をそれぞれ有する複数の感応部材と、
前記複数の感応部材それぞれの前記分子に対する反応を独立に計測する計測器と、
を備え、
前記情報処理装置は、
前記匂い提示装置が匂いを提示した際における前記複数の感応部材それぞれについての計測結果を取得する取得部と、
前記取得した計測結果に基づいて、前記匂い提示装置が提示する匂いの種類、及び強さを特定する特定部と、
を備えることを特徴とする匂い提示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサーデバイス、情報処理装置、及び匂い提示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばビデオゲームなどにおいて、ユーザーにより臨場感のある体験をしてもらうなどの目的で、特定の匂いをユーザーに提示する匂い提示装置を利用することが検討されている。匂い提示装置は、匂いの元となる分子(匂い分子)を空気中に放出することによって、ユーザーに匂いを提示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した匂い提示装置が匂いを提示する際には、匂いを実際に提示できているか、あるいはどの程度の強さの匂いを提示しているかなどを確認するために、気体中の匂い分子を検出可能なガスセンサーデバイスを用いることが考えられる。しかしながら、特に匂い提示装置が多様な種類の匂いを提示する場合、その多様な種類の匂いをどのように検出するのが効率的なのか、未だ十分に検討されていない。
【0004】
本発明は上記実情を考慮してなされたものであって、その目的の一つは、多様な種類の匂いを検出可能なガスセンサーデバイス、情報処理装置、及び匂い提示システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るガスセンサーデバイスは、空気中に存在する計測対象の分子に反応する感応材をそれぞれ有する複数の感応部材と、前記複数の感応部材それぞれの前記分子に対する反応を独立に計測する計測器と、を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明の一態様に係る情報処理装置は、前記ガスセンサーデバイスから、前記複数の感応部材それぞれについての計測結果を取得する取得部と、前記取得した計測結果に基づいて、空気中に含まれる匂いの種類、及び強さを特定する特定部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る匂い提示システムは、複数種類の匂いを提示可能な匂い提示装置と、ガスセンサーデバイスと、情報処理装置と、を含む匂い提示システムであって、前記ガスセンサーデバイスは、空気中に存在する計測対象の分子に反応する感応材をそれぞれ有する複数の感応部材と、前記複数の感応部材それぞれの前記分子に対する反応を独立に計測する計測器と、を備え、前記情報処理装置は、前記匂い提示装置が匂いを提示した際における前記複数の感応部材それぞれについての計測結果を取得する取得部と、前記取得した計測結果に基づいて、前記匂い提示装置が提示する匂いの種類、及び強さを特定する特定部と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態に係る匂い提示システムの全体概要図である。
図2】本発明の実施の形態に係るガスセンサーデバイスの構成図である。
図3】本発明の実施の形態に係る情報処理装置の機能ブロック図である。
図4】ガスセンサーデバイスによる計測結果の一例を示す図である。
図5】ガスセンサーデバイスによる計測結果の別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る匂い提示システム1の全体概要図である。同図に示されるように、匂い提示システム1は、ガスセンサーデバイス10と、匂い提示装置20と、情報処理装置30と、を含んで構成されている。
【0011】
ガスセンサーデバイス10は、空気中に存在する計測対象の分子(ここでは匂いの元となる匂い分子)を検出するためのデバイスである。このガスセンサーデバイス10による検出結果を用いて、情報処理装置30は匂い提示装置20が提示する匂いの種類や強さを特定する。
【0012】
図2は、ガスセンサーデバイス10の概略構成を模式的に示す構成図である。同図に示されるように、ガスセンサーデバイス10は、センサー部11と制御回路12とを含んで構成されている。センサー部11は、例えばMEMSダイなどであってよく、制御回路12はASICダイなどであってよい。また、センサー部11と制御回路12とは全体として一つの集積回路として構成されてもよいし、一つのICパッケージとして構成されてもよい。
【0013】
センサー部11は、匂い提示装置20が放出する匂い分子を含んだ気体が到達可能な場所に配置されており、その表面には、複数の感応膜(感応部材)13が形成されている。各感応膜13は、計測対象の匂い分子に反応する感応材を含んで構成されている。本実施形態では、各感応膜13に用いられる感応材は酸化物半導体(MOx)であるものとする。例えば感応膜13は、センサー部11の母材となるシリコンウェハーの表面に酸化物半導体材料を塗布・焼結するなどして形成される。空気中の匂い分子がセンサー部11に到達して感応膜13の表面に付着すると、この匂い分子に反応して感応膜13の電気的特性が変化する。そこでガスセンサーデバイス10は、感応膜13の抵抗値の変化を計測することで、空気中の匂い分子の存在を検出することができる。また、空気中に存在する匂い分子の量が多いほど、感応膜13の抵抗値は大きく変化する。そのため情報処理装置30は、抵抗値の変化量の計測結果を参照することで、空気中に存在する匂い分子の量を推定することができる。
【0014】
図2の例では、複数の感応膜13はそれぞれ平面視において細長い矩形形状を有しており、その延伸方向と交差する方向に沿って並んで配置されているものとしている。しかしながら、各感応膜13の形状やその配置態様はこれに限らず様々なものであってよい。
【0015】
また、複数の感応膜13のそれぞれに対して、ヒーター(加熱器)14が接続されている。すなわち、センサー部11は感応膜13と同数のヒーター14を備えている。これらのヒーター14を個別に動作させることによって、ガスセンサーデバイス10は複数の感応膜13をそれぞれ独立に加熱することができる。一般的に、感応膜13は温度が高くなるほど匂い分子に反応しやすくなり、センサーとしての感度が上昇する。そこでガスセンサーデバイス10は、匂い分子の計測を行う際には、それぞれのヒーター14を動作させて各感応膜13を加熱し、その温度を上昇させる。
【0016】
さらに複数の感応膜13それぞれの近傍には、温度センサー15が配置されている。すなわち、センサー部11は感応膜13及びヒーター14と同数の温度センサー15を備えている。これらの温度センサー15は隣接して配置されている感応膜13の温度を計測し、計測結果を制御回路12に対して出力する。
【0017】
制御回路12は、機能的にヒーター駆動回路16と計測回路17とを含んで構成されている。ヒーター駆動回路16は、情報処理装置30からの指示を受け付けて、その指示に従って各ヒーター14を動作させる。これによりガスセンサーデバイス10は、複数の感応膜13のそれぞれを独立に加熱し、互いに異なる温度になるよう制御できる。また、ヒーター駆動回路16は、各温度センサー15の計測結果をセンサー部11から受け付けて、その計測結果に応じて対応するヒーター14の出力を調整するフィードバック制御を行う。これによりヒーター駆動回路16は、各感応膜13を、情報処理装置30からの指示に応じた目標温度に比較的高い精度で一致するように加熱することができる。
【0018】
計測回路(計測器)17は、ADコンバータ等を含み、各感応膜13の抵抗値を反映した電気信号をセンサー部11から受け付けて、その大きさを計測する。そして、計測された値を示すデジタル信号を情報処理装置30に送信する。計測回路17は、複数の感応膜13について、その抵抗値を独立に計測する。また、それぞれの感応膜13の抵抗値を所定時間おきに繰り返し計測する。
【0019】
本実施形態において、ガスセンサーデバイス10が備える複数の感応膜13のうち少なくとも一部複数の感応膜13は、互いに異なる種類の感応材によって形成されているものとする。感応材の種類によって、反応する匂い分子の種類や、匂い分子の種類ごとの反応の度合い(感度)などが異なる。そこで、互いに異なる種類の感応材を有する複数種類の感応膜13を備えることによって、ガスセンサーデバイス10は複数の種類の匂い分子を計測対象とすることができる。
【0020】
なお、感応材の中には、特定の化学物質に対して急激に抵抗値が変化する特性、すなわち感受性を持つ種類のものもあれば、多様な種類の化学物質に対して反応する広い感受性を持つ種類のものもある。後者のような特性を持つ感応材は、一般的には化学物質に対する選択性が悪く、匂い分子の種類の特定には向かないように思われる。しかしながら、このような広い感受性を持つ感応材を複数種類採用して複数種類の感応膜13を備えるガスセンサーデバイス10を構成すれば、後述する匂い特定部43がパターン分析や機械学習などの手法を用いることで、選択性を高め、多様な種類の匂い分子を特定できるようにすることができる。
【0021】
しかしながら、ガスセンサーデバイス10が備える複数の感応膜13は、全て互いに異なる種類の感応材によって形成されるものでなくともよく、そのうちの少なくとも一部は、互いに同じ種類の感応材によって形成されたものであってよい。前述したように、ガスセンサーデバイス10は匂い分子の計測を行う際に各感応膜13の温度をヒーター14によって互いに異なる温度に変化させることができる。そして、同じ種類の感応材を有する感応膜13であっても、その温度が異なれば、匂い分子に対する反応の応答速度や感度が異なることになる。そこでガスセンサーデバイス10は、同じ種類の感応材によって形成された複数の感応膜13を、互いに異なる温度に加熱した状態で計測を行うこととする。これにより,多角的に匂い分子の計測を行うことができ、ガスセンサーデバイス10全体としての測定レンジを広げたり多様な種類の匂い分子を計測対象にしたりできるようになる。
【0022】
以下では具体例として、ガスセンサーデバイス10は互いに異なる種類の感応材によって形成された3種類の感応膜13を備え、かつ一つの種類につき4個の感応膜13を備えているものとする。すなわち、本実施形態のガスセンサーデバイス10は計12個の感応膜13を備えている。以下では、第1の種類の感応材によって形成された4個の感応膜13を感応膜13a1,13a2,13a3,13a4と表記する。同様に、第2の種類の感応材によって形成された4個の感応膜13を感応膜13b1,13b2,13b3,13b4と、第3の種類の感応材によって形成された4個の感応膜13を感応膜13c1,13c2,13c3,13c4と、それぞれ表記する。
【0023】
匂い提示装置20は、特定の種類の匂いをユーザーに提示するための装置である。具体的に匂い提示装置20は、特定の匂い分子を含む気体を放出するなどして匂いを提示する。なお、匂い提示装置20が匂いを提示するための機構は、各種のものであってよい。
【0024】
さらに本実施形態において、匂い提示装置20は、複数種類の匂いをユーザーに提示可能であるものとする。例えば匂い提示装置20は、それぞれ異なる種類の香料を封入した複数種類のカートリッジを内蔵可能に構成されてよい。匂い提示装置20は、情報処理装置30からの指示に応じて、指示されたカートリッジに含まれている香料を含む気体を放出する。これにより情報処理装置30は、自身が実行する処理の内容に応じて、異なる種類の匂いを匂い提示装置20に提示させることができる。
【0025】
さらに匂い提示装置20は、内蔵するカートリッジをユーザーが交換可能にする機構を備えることとする。こうすれば、ユーザーは内蔵されているカートリッジを異なる種類の香料が封入された別のカートリッジに交換することで、匂い提示装置20が提示可能な匂いを変化させることができる。また、カートリッジに封入された香料が減少した場合に、新しいカートリッジに交換することで香料を補充することができる。なお、後述するように、カートリッジ内の香料が減少した場合、ガスセンサーデバイス10の計測結果を用いて情報処理装置30がそのような状態を検出することができる。
【0026】
さらに本実施形態において、匂い提示装置20は、ユーザーに提示する匂いの強さを調整可能であることとする。具体的に匂い提示装置20は、情報処理装置30からの指示に応じて、放出する香料の量などを変化させることによって、提示する匂いの強さを調整する。
【0027】
なお、匂い提示装置20が提示する匂いをガスセンサーデバイス10が精度よく計測するために、両者は略一定の距離を保つように配置されることが望ましい。ガスセンサーデバイス10と匂い提示装置20との間の距離が変化すると、その距離によってガスセンサーデバイス10が計測する匂いの強さが変化してしまうためである。そのため、例えばガスセンサーデバイス10は匂い提示装置20内部に内蔵されることとしてもよいし、匂い提示装置20の筐体に対して固定されることとしてもよい。また、匂いを効率よくユーザーに提示するとともに、ユーザーに提示される匂いを含む空気を確実に計測対象とするために、ガスセンサーデバイス10はユーザーの鼻孔と匂い提示装置20との間の位置に配置されることが望ましい。図1におけるブロック矢印は匂い提示装置20が放出する気体の流れを示しており、匂い提示装置20から放出される気体がユーザーの鼻孔に到達するまでの流路の途中の位置にガスセンサーデバイス10が配置されていることを示している。
【0028】
情報処理装置30は、家庭用ゲーム機やパーソナルコンピュータなどのコンピュータであって、図1に示すように、制御部31と、記憶部32と、インタフェース部33と、を含んで構成される。
【0029】
制御部31は、少なくとも一つのプロセッサを含み、記憶部32に格納されたプログラムに従って各種の情報処理を実行する。特に本実施形態において、制御部31は、匂い提示装置20に対して匂いを提示させるための制御命令を出力したり、ガスセンサーデバイス10から受け付けた計測結果のデータを用いて、匂いの提示結果を特定したりする。制御部31が実行する処理の具体例については、後述する。
【0030】
記憶部32は、少なくとも一つのメモリデバイスを含み、制御部31が実行するプログラム、及びそのプログラムで利用するデータを格納する。インタフェース部33は、ガスセンサーデバイス10及び匂い提示装置20とデータ通信を行うためのインタフェースである。情報処理装置30は、インタフェース部33を介してガスセンサーデバイス10から計測結果のデータを受け付けたり、匂い提示装置20に対してその動作のための制御命令を送信したりする。
【0031】
図3は、情報処理装置30が実現する機能を示す機能ブロック図である。同図に示されるように、情報処理装置30は、機能的に、匂い提示部41と、計測結果取得部42と、匂い特定部43と、を含んで構成されている。これらの機能は、制御部31が記憶部32に格納されているプログラムを実行することによって実現される。このプログラムは、コンピュータ読み取り可能な情報記憶媒体に格納されて情報処理装置30に提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを経由して情報処理装置30に提供されてもよい。
【0032】
匂い提示部41は、匂い提示装置20を動作させる制御命令を出力することによって、匂い提示装置20に匂いを提示させる。具体的に匂い提示部41は、アプリケーションプログラムが実行する処理の進行に応じて、匂いの種類、及び強さを指定する匂い提示命令を匂い提示装置20に対して送信する。
【0033】
計測結果取得部42は、ガスセンサーデバイス10を動作させて、その計測結果を取得する。具体的に計測結果取得部42は、まずガスセンサーデバイス10に対して計測開始を指示する。このとき計測結果取得部42は、12個の感応膜13のそれぞれについて、どの程度加熱すべきかを示す加熱指示情報を併せてガスセンサーデバイス10に対して送信する。この加熱指示情報は、ヒーター14の動作条件(駆動パワーなど)を指定する情報であってもよいし、各感応膜13の目標温度を指定する情報であってもよい。
【0034】
計測開始の指示を受けたガスセンサーデバイス10の制御回路12は、加熱指示情報の指示内容に従って各ヒーター14を動作させ、対応する感応膜13を加熱する。そして、各感応膜13が指示内容に従って加熱された状態で、各感応膜13の抵抗値を所定時間おきに計測し、計測結果を情報処理装置30に対して送信する。
【0035】
計測結果取得部42は、ガスセンサーデバイス10から定期的に送信される計測結果を継続して受信することによって、各感応膜13の抵抗値の時間変化を示す時系列データを取得する。ここでは、12個の感応膜13に対応して互いに独立した12個の時系列データを取得することになる。計測結果取得部42は、この複数の時系列データを後述する匂い特定部43に提供する。
【0036】
さらに計測結果取得部42は、各感応膜13の抵抗値の時間変化を示す12個の時系列データのそれぞれと関連づけて、どの種類の感応膜13をどの程度加熱した状態で取得されたデータかを特定する取得条件情報を併せて匂い特定部43に提供する。この取得条件情報は、感応膜13の種類(複数の感応膜13のうちのどの感応膜13か)を示す情報と、その感応膜13の温度情報とを含む。各感応膜13の温度情報は、ヒーター駆動回路16から提供される温度センサー15の計測結果の情報であってもよいし、計測結果取得部42がガスセンサーデバイス10に対して指定した加熱指示情報(ヒーター14の動作条件や感応膜13の目標温度を指定する情報)であってもよい。
【0037】
匂い特定部43は、計測結果取得部42から提供されるガスセンサーデバイス10の計測結果を用いて、その時点で提示されている匂いの種類、及び強さを特定する。計測結果取得部42が提供する計測結果のデータは、前述したように、感応膜13の種類の情報(感応膜13に含まれる感応材の種類に対応する情報)、感応膜13の温度に関する情報(対応するヒーター14によって感応膜13がどの程度加熱されているかを示す情報)、及びその感応膜13によって計測された抵抗値の時間変化を示す時系列データの組み合わせであって、このような情報が感応膜13の数(ここでは12個)だけ並列に提供される。匂い特定部43は、これらの情報を組み合わせて用いることにより、匂い提示装置20によって実際に提示されている匂いの種類及び強さを特定する。
【0038】
具体的に匂い特定部43は、計測結果取得部42が取得した計測結果のデータを、予め用意された識別器に入力する。この識別器は、各種の判断基準に基づいて匂いの種類及び強さを特定するソフトウェアである。例えばこの識別器は、どの種類の感応膜13の抵抗値が変化したかや各抵抗値がどの程度変化したかなどの情報に基づいて、匂い提示装置20が提示した匂いの種類を特定する。また、各抵抗値の変化量に基づいて、特定された種類の匂いの強さを特定する。なお、この識別器は、ノイズ除去フィルタや微分フィルタなど時系列データに対して各種の信号処理を適用するフィルタを含んでもよい。
【0039】
この識別器が実行する識別アルゴリズムの内容は、匂いの種類ごとに、どの感応膜13がどの程度の反応を示すかを予め計測し、その計測結果をデータベース化することによって決定することができる。また、この識別器の識別アルゴリズムは、機械学習によって生成されることとしてもよい。例えば匂い提示システム1の開発者は、予め匂いの種類や強さが判明している匂いを匂い提示装置20から提示させた状態で、ガスセンサーデバイス10による計測を行う。そして、提示されている匂いの種類及び強さの情報と、計測結果の時系列データと、を教師データとして入力し、機械学習を行う。この場合の機械学習アルゴリズムは各種のものであってよいが、例えば時系列データを処理する回帰型ニューラルネットワーク(RNN)などのアルゴリズムを適用可能である。このような機械学習を様々な種類の匂いを提示させて行うことによって、計測結果から匂いの種類及び強さを特定可能な識別器を生成することができる。
【0040】
この識別器を実現するソフトウェアは、更新可能に構成されてもよい。例えば新たなカートリッジの提供が開始され、匂い提示装置20が新しい種類の匂いを提示可能になった場合、開発者はこの新しい種類の匂いを識別できるような識別器を前述したような手順で生成し、情報処理装置30に対して提供することとする。情報処理装置30は、新たな識別器を取得し、自身の記憶部32に記憶されている識別器の内容を新たなものに更新することで、新たな匂いを識別できるようになる。
【0041】
前述したように本実施形態では、ガスセンサーデバイス10は、互いに異なる種類の感応材を用いて形成された複数種類の感応膜13を同時に使用して計測を行う。また、同じ種類の感応材を用いて形成された複数の感応膜13を、互いに異なる温度に加熱した状態で同時に測定を行う。このように互いに異なる様々な条件で並列に計測を行って得られる結果を組み合わせることによって、匂い特定部43は、ガスセンサーデバイス10が備える感応膜13の種類の数を超える、多くの種類の匂いを精度よく識別することができる。
【0042】
さらに本実施形態では、ガスセンサーデバイス10がある程度の時間にわたって繰り返し計測を行って得られる計測結果の時系列データを用いて、匂いの種類の特定を行う。例えばある一つの感応膜13が異なる種類の匂い分子のどちらにも反応する場合であっても、匂い分子の種類によってセンサーの応答性などが異なることがある。そこで匂い特定部43は、各感応膜13の抵抗値の時間変化を示す時系列データを用いて匂いの種類を特定することにより、匂い分子に対する各感応膜13の反応の応答性や時間変化を考慮してより精度のよい特定を行うことができる。
【0043】
特に匂い特定部43は、匂い提示装置20に対して制御命令を出力したタイミングを起点とした計測結果のデータに基づいて匂いの特定を行ってもよい。具体的に匂い特定部43は、匂い提示部41から、匂い提示装置20に対して制御命令を出力したタイミングを示す情報を取得する。そして、このタイミング以降にガスセンサーデバイス10が計測した計測結果の時系列データを取得する。この時系列データは、匂い提示装置20が匂いの提示を開始した時点以降の抵抗値の時間変化を示すことになる。
【0044】
図4及び図5は、特定の種類の匂いが提示された際における、ガスセンサーデバイス10の計測結果(各感応膜13の抵抗値の時間変化)の例を示している。なお、図4図5は互いに異なる種類の匂いが提示された場合の計測結果を示している。これらの図はそれぞれ3つのグラフを含んでおり、一つのグラフが1種類の感応膜13に対応している。また、各グラフ内には、同じ種類の感応材を用いて形成されている4個の感応膜13の抵抗値の変化が示されている。具体的に、上段のグラフが感応膜13a1~13a4の抵抗値を、中段のグラフが感応膜13b1~13b4の抵抗値を、下段のグラフが感応膜13c1~13c4の抵抗値を、それぞれ示している。また、感応膜13a1,13b1,及び13c1は目標温度T1に、感応膜13a2,13b2,及び13c2は目標温度T2に、感応膜13a3,13b3,及び13c3は目標温度T3に、感応膜13a4,13b4,及び13c4は目標温度T4に、それぞれ加熱されているものとする。ここで、T1<T2<T3<T4である。なお、ここでは種類の異なる感応膜13をそれぞれ同じ温度に加熱することとしているが、感応膜13の種類ごとに異なる温度に加熱して計測することとしてもよい。
【0045】
これらの図に示されるように、どの種類の感応膜13が反応するかは、提示される匂いの種類によって異なる。また、同じ種類の感応膜13であっても、温度によって抵抗値の変化量が異なったり、抵抗値がほとんど変化しなかったりと反応に違いがある。さらに、感応膜13の種類や温度によって、単に抵抗値の変化量が異なるだけでなく、反応速度に変化が生じることもある。例えば図4の中段のグラフにおいて、高い温度に加熱された感応膜13b3や感応膜13b4の抵抗値は匂いが提示されてすぐに低下しているが、感応膜13b2は少し遅れて低下し始め、感応膜13b1はさらに時間が経過してから低下し始めている。同様に、下段のグラフにおいて感応膜13c3及び13c4の抵抗値はすぐに低下するが、感応膜13c2の抵抗値は少し遅れて低下し始め、感応膜13c1の抵抗値は比較的長時間変化がない状態が続いている。
【0046】
そこで匂い特定部43は、匂い提示装置20が匂いを提示したタイミングを起点とした各感応膜13の計測結果の時系列データに基づいて、匂いの種類を特定する。こうすれば、匂い提示装置20が放出する匂いに起因する各感応膜13の反応の応答速度や時間変化の態様を考慮して、高い精度で匂いの種類及び強さを特定することができる。
【0047】
以上説明した識別器によって特定された匂いの情報を用いて、匂い特定部43は各種の処理を実行する。一例として、匂い特定部43は、匂い提示部41が匂い提示装置20に対して指示した匂いの種類、及び強さの情報と、ガスセンサーデバイス10の計測結果に基づいて特定された匂いの種類、及び強さの情報とを比較する比較処理を行う。匂い提示部41が指示した匂いと特定された匂いの種類が異なる場合、例えばユーザーが間違った種類のカートリッジを匂い提示装置20に装着しているなどの誤操作の可能性がある。そこで匂い特定部43は、この比較処理の結果に基づいて、ユーザーに対して警告表示を行うなどの処理を実行してもよい。
【0048】
また、計測された匂いの強さが匂い提示部41の指示内容に対応して期待される強さと異なる場合、匂い特定部43は匂い提示装置20が提示する匂いの強さが期待される強さに近づくように、フィードバック制御を実行してもよい。例えば匂いの強さが想定した強さよりも弱い場合、匂い提示部41はより強い匂いを提示するよう匂い提示装置20に対して指示する。こうすれば、匂い提示装置20が想定通りの匂いを提示できるようにリアルタイムで制御することができる。
【0049】
また、匂い特定部43が特定した匂いの強さが所定基準以下に弱い場合や匂い提示装置20に提示を指示した匂いを匂い特定部43が検知できなかった場合、匂い提示装置20に装着されているカートリッジに含まれる香料の残量が少なくなっていることが想定される。このような場合、匂い特定部43は、ユーザーに対してカートリッジの交換を促す表示を行うなどの処理を実行してもよい。
【0050】
なお、匂い提示部41は、匂い提示装置20に対して指示した匂いの種類、及び強さの情報だけでなく、匂い提示装置20内のカートリッジが交換された後、そのカートリッジが提供する種類の匂いをこれまで何回提示したかを示す匂い提示回数の情報を提供してもよい。この匂い提示回数の情報をガスセンサーデバイス10の計測結果と組み合わせて利用することで、匂い特定部43は香料の残量が少なくなった状態をより精度よく検出できる。
【0051】
また、カートリッジ交換から間もない状態(カートリッジ交換後の匂い提示回数が少ない状態)にもかかわらず匂い特定部43が特定した匂いの強さが期待値を下回った場合や、特定の感応膜13だけ計測される抵抗値の変化量が期待される値よりも小さくなるなどの現象が発生した場合、匂い提示装置20が提示する匂いの強さが弱くなっているのではなく、ガスセンサーデバイス10内の特定の感応膜13を構成する感応材が劣化している可能性も考えられる。そこで、ある感応膜13の抵抗値の変化量が匂い提示部41の指示内容から想定されるよりも小さくなっていることが検出された場合、計測結果取得部42は、その感応膜13に対応するヒーター14の動作条件を修正し、より当該感応膜13の目標温度を上昇させることとしてもよい。これにより、多少感応材が劣化した場合であっても、その感応膜13の感受性を高めて匂いの特定処理を継続することができる。なお、この例において目標温度をどの程度補正すればよいかは、予めデータベースとして用意し、情報処理装置30が記憶しておくこととしてもよい。
【0052】
また、匂い提示部41は、匂いの提示を終了する指示を匂い提示装置20に対して送信するとともに、その終了タイミングを示す情報を匂い特定部43に通知することとしてもよい。この終了タイミングを示す情報を利用することで、匂い特定部43は匂い提示装置20が指示された匂いを提示できているかだけでなく、匂いの提示を指示通り終了できているかについても検証することができるようになる。
【0053】
以上説明した本実施形態に係るガスセンサーデバイス10によれば、複数の感応膜13による計測結果を用いることで匂い提示装置20が提示する多様な種類の匂いを精度よく特定することができる。また、匂い提示システム1は、匂い提示装置20が提示する匂いの種類や強さを比較的速い応答速度で特定することで、リアルタイムにユーザーに提示する匂いの内容を制御したり、アプリケーションプログラムによって想定されている通りに匂いが提示できているか検証したりすることができ、匂い提示装置20を利用する際の利便性を向上することができる。
【0054】
なお、本発明の実施の形態は以上説明したものに限られない。例えば以上の説明では、各感応膜13は空気中の分子に反応する感応材としていずれかの酸化物半導体材料を含むこととしたが、感応膜13はその他の半導体材料、あるいは空気中の分子に反応するその他の材料を含んで形成されるものであってもよい。
【0055】
また、本実施形態において感応膜13は人が感じる匂いの元となる匂い分子に反応するものとしたが、空気中に存在するその他の物質と反応するものであってもよい。例えば匂い提示装置20は、匂いの元となる匂い分子とともに無臭のマーカー分子を併せて放出することとし、ガスセンサーデバイス10の感応膜13はこのマーカー分子に反応する材料によって形成されることとしてもよい。この場合、情報処理装置30は、マーカー分子の種類及び量を計測することによって、匂い提示装置20が提示する匂いの種類及び強さを推定することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 匂い提示システム、10 ガスセンサーデバイス、11 センサー部、12 制御回路、13 感応膜、14 ヒーター、15 温度センサー、16 ヒーター駆動回路、17 計測回路、20 匂い提示装置、30 情報処理装置、31 制御部、32 記憶部、33 インタフェース部、41 匂い提示部、42 計測結果取得部、43 匂い特定部。
図1
図2
図3
図4
図5