(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】腫瘍治療電場(TTフィールド)を印加するためのポリマー絶縁層を備えるフレキシブルトランスデューサアレイ
(51)【国際特許分類】
A61N 1/06 20060101AFI20240604BHJP
A61N 1/40 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A61N1/06
A61N1/40
(21)【出願番号】P 2022557172
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(86)【国際出願番号】 IB2021000449
(87)【国際公開番号】W WO2022003419
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-09-21
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519275847
【氏名又は名称】ノボキュア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨラム・ワッサーマン
(72)【発明者】
【氏名】ナタリーヤ・クプレニク
(72)【発明者】
【氏名】スタス・オブチョフスキー
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/225537(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0097152(US,A1)
【文献】国際公開第2020/110050(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00―1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100kHzから500kHzの間の周波数で生体またはin vitro媒体に交流電場を印加するように構成された腫瘍治療電場(TTフィールド)印可用の装置であって、
領域を有する前面を有する導電性物質の層と、
前記導電性物質の前面に位置して前記領域の少なくとも一部を覆い、前面を有するフレキシブルポリマー層と、
前記導電性物質の層と電気的に接触して位置する導線と、
前記導電性物質の層の後方に位置し、前面を有するフレキシブル第三層と、を備え、
前記フレキシブル第三層の前面の少なくとも一部が粘着剤で被覆されていて、
前記粘着剤の第一領域が、前記導電性物質の層の直接後方に位置して、前記導電性物質の層を支持し、
前記粘着剤の第二領域が、前記第一領域の外側に位置し、皮膚の領域に対して押されると前記皮膚に粘着して、前記皮膚に近接して前記フレキシブルポリマー層を保持するように構成され、また前記皮膚から簡単に取り外せるように構成されていて、
前記フレキシブルポリマー層が、ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE‐CTFE)とから選択された少なくとも一種のポリマーを備える、装置。
【請求項2】
前記フレキシブルポリマー層の前面に位置する導電性ハイドロゲルの層を更に備え、
前記導電性ハイドロゲルの層が、前記粘着剤の第二領域によって前記皮膚に近接して前記フレキシブルポリマー層が保持されている際に、前記皮膚に接触するように位置する、請求項
1に記載の装置。
【請求項3】
前記フレキシブルポリマー層が20μm以下の厚さを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記フレキシブルポリマー層が10μm以下の厚さを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記フレキシブルポリマー層が5μm以下の厚さを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記ポリマーが30~80mol%のVDFと、5~60mol%のTrFEと、残余のmol%を成すCFEおよび/またはCTFEと、を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記フレキシブルポリマー層が、ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE‐CTFE)とのうちの少なくとも一種に混合されたセラミックナノ粒子を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記セラミックナノ粒子が、チタン酸バリウムとチタン酸バリウムストロンチウムのうちの少なくとも一種を備える、請求項
7に記載の装置。
【請求項9】
前記フレキシブルポリマー層が複数のフレキシブルポリマー領域を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記導電性物質の層が複数の導電性パッドを備え、前記複数のフレキシブルポリマー領域が前記複数の導電性パッドに直接印刷、噴霧または成型されている、請求項
9に記載の装置。
【請求項11】
前記複数のフレキシブルポリマー領域の各々が独立して10μm以下の厚さを有する、請求項
9に記載の装置。
【請求項12】
前記導電性物質の層が複数の導電性パッドを備え、前記複数の導電性パッドの面積が合計で少なくとも25cm
2である、請求項
9に記載の装置。
【請求項13】
前記ポリマーが30~80mol%のVDFと、5~60mol%のTrFEと、残余のmol%を成すCFEおよび/またはCTFEと、を備え、前記フレキシブルポリマー層が10μm以下の厚さを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記フレキシブルポリマー層が、ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE‐CTFE)とのうちの少なくとも一種に混合されたセラミックナノ粒子を備え、前記セラミックナノ粒子が、チタン酸バリウムとチタン酸バリウムストロンチウムのうちの少なくとも一種を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
被験体(人間を除く)またはin vitro媒体のターゲット領域内に位置する急速分裂細胞を選択的に破壊または成長抑制する方法であって、
前記ターゲット領域の近傍の第一位置に請求項1から
14のいずれか一項に記載の装置である第一の装置を配置することと、
前記第一位置に対向する前記ターゲット領域の近傍の第二位置に請求項1から
14のいずれか一項に記載の装置である第二の装置を配置することと、
前記第一の装置と前記第二の装置との間に交流電圧を印加することによって、前記ターゲット領域に交流電場を印加することと、を備え、前記交流電場の周波数の範囲が100kHz~500kHzであり、前記交流電場が有効持続時間にわたって前記ターゲット領域に印加されると前記交流電場が被験体のターゲット領域内の急速分裂細胞を選択的に破壊または成長抑制する、方法。
【請求項16】
前記急速分裂細胞が腫瘍内に存在する、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記急速分裂細胞ががん細胞である、請求項
15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年6月30日出願の米国出願第63/046337号、2020年9月25日出願の米国出願第63/083557号、および2021年2月5日出願の米国出願第63/146516号の優先権を主張し、これら出願の内容は全体が参照として本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
腫瘍治療電場(TTフィールド,tumor treating field)治療は、腫瘍を治療するための実績のある手法であり、オプチューン(登録商標)システムは、TTフィールドを伝えるのに用いられる装置である。オプチューン(登録商標)は、腫瘍近傍(例えば、腫瘍の前後左右)において患者の皮膚に配置される四つのトランスデューサアレイを用いて、腫瘍に交流電場を伝える。これらのトランスデューサアレイは、例えば100~500kHzで動作するAC(交流)信号発生器によって駆動される。
【0003】
特許文献1には、複数のセラミックディスクを用いるトランスデューサアレイの設計が記載されている。各セラミックディスクの一方の側が患者の皮膚に配置され、各ディスクの他方の側が導電性バッキングを有する。電気信号が導電性バッキングに印加され、信号はセラミックディスクを介して患者の身体に容量結合される。一部実施形態において、各ディスクのキャパシタンスは少なくとも2nFである。一部実施形態において、各ディスクのキャパシタンスは少なくとも20nFである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第8715203号明細書
【文献】米国特許第6355749号明細書
【文献】米国特許第7016725号明細書
【文献】米国特許第7565205号明細書
【文献】米国特許出願公開第2020/0016399号明細書
【文献】米国特許出願公開第2020/0078582号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のトランスデューサアレイは有効であるが、そのトランスデューサアレイは、直径2cm程度で厚さ1mm程度の固体セラミックディスク製であるので比較的硬い。その硬さが、トランスデューサアレイを所望の箇所に配置することを難しくし得て、および/または、患者に軽度の不快感を与え得る。今までのところ、セラミック系のトランスデューサアレイ(非常に高い比誘電率(誘電定数)を有する)を用いることが、患者の身体にAC信号を効果的に容量結合させるのに必要となる十分高レベルのキャパシタンスを得るための唯一の方法であった。より具体的には、全てのポリマーの比誘電率が十分な程度の容量結合を与えるには低過ぎたため、人体にAC信号を容量結合させるためにポリマー絶縁層を用いてトランスデューサアレイを構築することが今まではできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態は、従来のポリマーよりも顕著に高い比誘電率を有するポリマー組成物を特徴とする。より具体的には、本開示のポリマー組成物の比誘電率は、初めて、ポリマー絶縁層を介して人体にAC信号を有効に容量結合させることができるトランスデューサアレイ(または単純な電極)を構築するのに十分高いものとなっている。
【0007】
本発明の一態様は、100kHzから500kHzの間の周波数で生体またはin vitro媒体に交流電場を印加するための第一装置を対象としている。第一装置は、或る領域(面積)を有する前面を有する導電性物質の層と、導電性物質の前面に位置して、前記領域の少なくとも一部(例えば、全領域)を覆うフレキシブルポリマー層(ポリマー層は前面を有する)と、導電性物質の層に電気的に接触して位置する導線とを備える。ポリマー層は、ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE‐CTFE)とのうち少なくとも一種を備える。
【0008】
一部実施形態の第一装置は、導電性物質の層の後方に位置するフレキシブル第三層を更に備え、フレキシブル第三層は前面を有する。第三層の前面の少なくとも一部は粘着剤で被覆される。粘着剤の第一領域は導電性物質の層の直接後方に位置し、導電性物質の層を支持する。粘着剤の第二領域は第一領域の外側に位置し、(a)皮膚の領域に対して押されると皮膚に粘着し、皮膚に近接してポリマー層を支持し、また、(b)皮膚から簡単に取り外すことができるように構成される。任意選択的に、こうした実施形態は、ポリマー層の前面に配置される導電性ハイドロゲルの層を更に備え得る。導電性ハイドロゲルの層は、粘着剤の第二領域によってポリマー層が皮膚に近接して保持されている際に、皮膚に接触するように位置する。
【0009】
一部実施形態の第一装置では、ポリマー層は、20μm以下の厚さ、例えば1μm~20μmの厚さを有する。一部実施形態の第一装置では、ポリマー層は、10μm以下の厚さ、例えば1μm~10μmの厚さを有する。更なる実施形態の第一装置では、ポリマー層は、5μm以下の厚さ、例えば1μm~5μmの厚さを有する。更に他の実施形態の第一装置では、ポリマー層は、3μm以下の厚さ、例えば1μm~3μmや、2μm~3μmの厚さを有する。
【0010】
本発明の他の態様は、100kHzから500kHzの間の周波数で生体またはin vitro媒体に交流電場を印加するための第二装置を対象としている。第二装置は、或る領域(面積)を有する前面を有する導電性物質の層と、導電性物質の前面に位置して、前記領域の少なくとも一部を覆うフレキシブルポリマー層(ポリマー層は前面を有する)と、導電性物質の層に電気的に接触して位置する導線とを備える。100kHzから500kHzの間の少なくとも一周波数において、ポリマー層は少なくとも20の比誘電率を有する。
【0011】
一部実施形態の第二装置では、ポリマー層は、ポリマー層の前面に垂直な方向において20μm以下の厚さ、例えば1μm~20μmの厚さを有する。更なる実施形態の第二装置では、ポリマー層は、ポリマー層の前面に垂直な方向において10μm以下の厚さ、例えば1μm~10μmの厚さを有する。他の実施形態の第二装置では、ポリマー層は、ポリマー層の前面に垂直な方向において5μm以下の厚さ、例えば1μm~5μmの厚さを有する。更なる実施形態の第二装置では、ポリマー層は、ポリマー層の前面に垂直な方向において3μm以下の厚さ、例えば1μm~3μmの厚さを有する。
【0012】
一部実施形態の第二装置では、ポリマー層は200kHzにおいて少なくとも20の比誘電率を有する。一部実施形態の第二装置では、導電性物質の層は、少なくとも一種の金属を備え、フレキシブルであり、導電性物質の層の前面に垂直な方向において0.1mm未満の厚さを有する。
【0013】
一部実施形態の第二装置は、導電性物質の層の後方に位置するフレキシブル第三層を更に備える。フレキシブル第三層は前面を有する。第三層の前面の少なくとも一部は粘着剤で被覆される。粘着剤の第一領域は導電性物質の層の直接後方に位置し、導電性物質の層を支持する。粘着剤の第二領域は第一領域の外側に位置し、(i)皮膚の領域に対して押されると皮膚に粘着し、皮膚に近接してポリマー層を支持し、また、(ii)皮膚から簡単に取り外すことができるように構成される。こうした実施形態は、ポリマー層の前面に配置される導電性ハイドロゲルの層を更に備える。ハイドロゲルは、粘着剤の第二領域によってポリマー層が皮膚に近接して保持されている際に、皮膚に接触するように位置する。
【0014】
一部実施形態の第二装置は、導電性物質の層を支持するように構成されたフレキシブル第三層を更に備える。フレキシブル第三層は前面を有する。フレキシブル第三層の前面の第一部分は、人間の皮膚に粘着し皮膚から簡単に取り外し可能な粘着剤で被覆される。第一部分は、導電性物質の層とポリマー層の両方の外側に位置して、第一部分が皮膚の領域に対して押されると、第一部分上の粘着剤が皮膚に粘着して、皮膚に近接してポリマー層を保持するようになっている。こうした実施形態は、ポリマー層の前面に配置される導電性ハイドロゲルの層を更に備える。ハイドロゲルは、粘着剤によってポリマー層が皮膚に近接して保持されている際に、皮膚に接触するように位置する。
【0015】
一部実施形態の第二装置では、ポリマー層は、ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE‐CTFE)とのうち少なくとも一種を備える。一部実施形態の第二装置では、ポリマー層は、ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE)とのうち少なくとも一方に混合されたセラミックナノ粒子を備える。一部実施形態の第二装置では、ポリマー層は、ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE)とのうち少なくとも一方に混合されたチタン酸バリウムセラミックナノ粒子および/またはチタン酸バリウムストロンチウムセラミックナノ粒子を備える。一部実施形態の第二装置では、ポリマー層は、ポリ(VDF‐TrFE)と、P(VDF‐HFP)と、PVDFとのうち少なくとも一種に混合されたセラミックナノ粒子を備える。一部実施形態の第二装置では、ポリマー層は、ポリ(VDF‐TrFE)と、P(VDF‐HFP)と、PVDFとのうち少なくとも一種に混合されたチタン酸バリウムセラミックナノ粒子および/またはチタン酸バリウムストロンチウムセラミックナノ粒子を備える。一部実施形態の第二装置では、セラミックナノ粒子がポリマー層に混合される。
【0016】
本発明の他の態様は、100kHzから500kHzの間の周波数で生体またはin vitro媒体に交流電場を印加するための第三装置を対象としている。第三装置が備えるフレックス回路は、(a)フレックス回路の前面に位置する複数の導電性パッド(各導電性パッドがそれぞれ或る領域(面積)を有する)と、(b)複数の導電性パッドに電気的に接触して配置された少なくとも一つの導電性トレースとを含む。少なくとも一つの導電性トレースは、各導電性パッドを電気信号によって駆動させることができるように配置構成される。また、第三装置は複数のフレキシブルポリマー領域を備え、各領域が前面を有し、フレックス回路の前面でそれぞれ対応の各導電性パッドの前方上に配置される。100kHzから500kHzの間の少なくとも一周波数において、各ポリマー領域は少なくとも20の比誘電率を有する。各ポリマー領域は、その前面に垂直な方向において20μm以下の厚さを有する。
【0017】
一部実施形態の第三装置では、各ポリマー領域が独立してその前面に垂直な方向において20μm以下の厚さ、例えば、1μm~20μmの厚さを有する。更なる実施形態の第三装置では、各ポリマー領域が独立してその前面に垂直な方向において10μm以下の厚さ、例えば、1μm~10μmの厚さを有する。他の実施形態の第三装置では、各ポリマー領域が独立してその前面に垂直な方向において5μm以下の厚さ、例えば、1μm~5μmの厚さを有する。更なる実施形態の第三装置では、各ポリマー領域が独立してその前面に垂直な方向において3μm以下の厚さ、例えば、1μm~3μmの厚さを有する。
【0018】
一部実施形態の第三装置では、複数のポリマー領域は、複数の導電性パッド上に直接印刷、噴霧または成型(キャスティング)される。一部実施形態の第三装置では、各ポリマー領域は5μm以下の厚さ、例えば、1μm~5μmの厚さを有する。一部実施形態の第三装置では、複数の導電性パッドの面積は合計で少なくとも25cm2に達する。
【0019】
一部実施形態の第三装置は、フレックス回路の背面に位置する複数のサーミスタを更に備える。各サーミスタはそれぞれ対応の各導電性パッドと熱的に接触する。フレックス回路は、複数のサーミスタにアクセスするための複数の導電性トレースを更に含む。
【0020】
一部実施形態の第三装置は、フレックス回路の後方に位置するフレキシブル第三層を更に備える。フレキシブル第三層は前面を有する。第三層の前面の少なくとも一部は粘着剤で被覆される。粘着剤の第一領域は、フレックス回路の直接後方に位置し、フレックス回路を支持する。粘着剤の第二領域は、第一領域の外側に位置し、(i)皮膚の領域に対して押されると、皮膚に粘着して、皮膚に近接して複数のポリマー領域を保持するように構成され、また、(ii)皮膚から簡単に取り外すことができるように構成される。こうした実施形態は、各ポリマー領域の前面に配置される導電性ハイドロゲルの層を更に備える。ハイドロゲルは、粘着剤の第二領域によって各ポリマー領域が皮膚に近接して保持されている際に、皮膚に接触するように位置する。
【0021】
一部実施形態の第三装置は、フレックス回路を支持するように構成されたフレキシブル第三層を更に備える。フレキシブル第三層は前面を有する。フレキシブル第三層の前面の第一部分は、人間の皮膚に粘着するが皮膚から簡単に取り外し可能な粘着剤で被覆される。第一部分はフレックス回路の外側に位置し、第一部分が皮膚の領域に対して押されると、第一部分上の粘着剤が皮膚に粘着して、皮膚に近接して複数のポリマー領域を保持するようになっている。こうした実施形態は、各ポリマー領域の前面に配置される導電性ハイドロゲルの層を更に備える。ハイドロゲルは、粘着剤によって各ポリマー領域が皮膚に近接して保持されている際に、皮膚に接触するように位置する。
【0022】
本発明の他の態様は、100kHzから500kHzの間の周波数で生体またはin vitro媒体に交流電場を印加するための第四装置を対象としている。第四装置が備えるフレックス回路は、(a)フレックス回路の前面に位置する複数の導電性パッドと、(b)複数の導電性パッドと電気的に接触して配置された少なくとも一つの導電性トレースとを含む。少なくとも一つの導電性トレースは、各導電性パッドを電気信号によって駆動させることができるように配置構成される。また、第四装置は、フレックス回路の前方に位置する複数の金属箔片を備え、各片が、或る領域(面積)を有する前面を有する。各片は、それぞれ対応の各導電性パッドに電気的に接続される。また、第四装置は複数のフレキシブルポリマー領域を備え、各領域は前面を有し、複数の金属箔片のうち対応の各片の前方上に配置される。100kHzから500kHzの間の少なくとも一周波数において、各ポリマー領域は少なくとも20の比誘電率を有する。各ポリマー領域は、その前面に垂直な方向において20μm以下の厚さを有する。
【0023】
一部実施形態の第四装置では、各ポリマー領域は独立してその前面に垂直な方向において20μm以下の厚さ、例えば1μm~20μmの厚さを有する。更なる実施形態の第四装置では、各ポリマー領域は独立してその前面に垂直な方向において10μm以下の厚さ、例えば1μm~10μmの厚さを有する。他の実施形態の第四装置では、各ポリマー領域は独立してその前面に垂直な方向において5μm以下の厚さ、例えば1μm~5μmの厚さを有する。更なる実施形態の第四装置では、各ポリマー領域は独立してその前面に垂直な方向において3μm以下の厚さ、例えば1μm~3μmの厚さを有する。
【0024】
一部実施形態の第四装置では、各ポリマー領域は5μm未満の厚さを有する。一部実施形態の第四装置では、複数の金属薄片の面積は合計で少なくとも25cm2に達する。
【0025】
一部実施形態の第四装置は、フレックス回路の背面に位置する複数のサーミスタを更に備える。各サーミスタは複数の金属薄片のうちの各対応の金属薄片に熱的に接触している。こうした実施形態では、フレックス回路は、複数のサーミスタにアクセスするための複数の導電性トレースを更に含む。
【0026】
一部実施形態の第四装置は、フレックス回路の後方に位置するフレキシブル第三層を更に備え、フレキシブル第三層は前面を有する。第三層の前面の少なくとも一部は粘着剤で被覆される。粘着剤の第一領域はフレックス回路の直接後方に位置し、フレックス回路を支持する。粘着剤の第二領域は、第一領域の外側に位置し、(i)皮膚の領域に対して押されると、皮膚に粘着して、皮膚に近接して複数のポリマー領域を保持するように構成され、また、(ii)皮膚から簡単に取り外すことができるように構成される。こうした実施形態は、各ポリマー領域の前面に配置される導電性ハイドロゲルの層を更に備える。ハイドロゲルは、粘着剤によって各ポリマー領域が皮膚に近接して保持されている際に、皮膚に接触するように位置する。
【0027】
一部実施形態の第四装置は、フレックス回路を支持するように構成されたフレキシブル第三層を更に備え、フレキシブル第三層は前面を有する。フレキシブル第三層の前面の第一部分は、人間の皮膚に粘着し皮膚から簡単に取り外し可能である粘着剤で被覆される。第一部分はフレックス回路の外側に位置し、第一部分が皮膚の領域に対して押されると、第一部分上の粘着剤が皮膚に粘着し、皮膚に近接して複数のポリマー層を保持するようになっている。こうした実施形態は、各ポリマー領域の前面に配置される導電性ハイドロゲルの層を更に備える。ハイドロゲルは、粘着剤の第二領域によって各ポリマー領域が皮膚に近接して保持されている際に、皮膚に接触するように位置する。
【0028】
第二実施形態、第三実施形態または第四実施形態において、各ポリマー領域は、ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE‐CTFE)とのうち少なくとも一種を備え得る。第二実施形態、第三実施形態または第四実施形態において、各ポリマー領域は、ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE)とのうち少なくとも一方に混合されたセラミックナノ粒子を備え得る。第二実施形態、第三実施形態または第四実施形態において、各ポリマー領域は、ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE)と、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE)とのうち少なくとも一方に混合されたセラミックナノ粒子を備え得て、セラミックナノ粒子はチタン酸バリウムとチタン酸バリウムストロンチウムのうち少なくとも一方を備える。第二実施形態、第三実施形態または第四実施形態において、各ポリマー領域は、ポリ(VDF‐TrFE)と、P(VDF‐HFP)と、PVDFとのうち少なくとも一種に混合されたセラミックナノ粒子を備え得る。第二実施形態、第三実施形態または第四実施形態において、各ポリマー領域は、ポリ(VDF‐TrFE)と、P(VDF‐HFP)と、PVDFとのうち少なくとも一種に混合されたセラミックナノ粒子を備え得て、セラミックナノ粒子はチタン酸バリウムとチタン酸バリウムストロンチウムのうち少なくとも一方を備える。第二実施形態、第三実施形態または第四実施形態において、セラミックナノ粒子が各ポリマー領域に混合され得る。
【0029】
本開示の他の態様は、被験体またはin vitro媒体のターゲット領域内に位置する急速分裂細胞を選択的に破壊または成長抑制する方法に関する。本方法は、本開示のものである第一の装置をターゲット領域近傍の第一位置に配置することと、本開示のものである第二の装置をターゲット領域近傍の第二位置に配置すること(第二位置は第一位置と対向する)と、第一装置と第二装置との間にAC電圧を印加することによって、ターゲット領域にAC電場を印加することと、を含み、AC電場の周波数の範囲が100kHz~500kHzであり、AC電場が或る持続時間にわたってターゲット領域に印加されると、AC電場が、ターゲット領域内の急速分裂細胞を選択的に破壊または成長抑制する。第一の装置と、第二の装置は、構造と構成要素に関して同じでもあり得ると、異なるものでもあり得る。
【0030】
本開示の更なる態様は、ターゲット領域内の急速分裂細胞を選択的に破壊または成長抑制するための方法に関し、本方法は、ターゲット領域近傍の第一位置に配置するための本開示のものである第一の装置を提供することと、ターゲット領域近傍の第二位置に配置するための本開示のものである第二の装置を提供すること(第二位置は第一位置と対向する)と、を備え、第一の装置と第二の装置との間にAC電圧が印加されると、100kHz~500kHzの範囲内の周波数を有するAC電場がターゲット領域に印加され、AC電場が有効持続時間にわたってターゲット領域に印加されると、AC電場がターゲット領域内の急速分裂細胞を選択的に破壊または成長抑制する。
【0031】
本開示の更なる態様は、生体もしくはin vitro媒体にまたはその近傍に配置するための本開示の装置に関し、生体もしくはin vitro媒体のターゲット領域内の急速分裂細胞を選択的に破壊または成長抑制するためのものである。また、本願で開示されるのは、急速分裂細胞を選択的に破壊または成長抑制するための本開示の装置の使用方法である。更に本願で開示されるのは、急速分裂細胞が関与する症状を治療するのに有用な一種以上の治療剤と共に本開示の装置を備えるキットである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1Aと
図1Bは、人体にTTフィールドを印加するのに用いられる電極の第一実施形態の前面図と側面図である。
【
図2】
図2Aと
図2Bは、フレックス回路を用いて実施されているトランスデューサアレイの前面図と側面図を示す。
【
図3】
図3Aと
図3Bと
図3Cは、フレックス回路を用いて実施されている他のトランスデューサアレイの前面図と側面図と分解図を示す。
【
図4】
図4Aと
図4Bは、フレックス回路を用いて実施されている他のトランスデューサアレイの前面図と側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面を参照して多様な実施形態を説明するが、図面中の同様の参照番号は同様の要素を表している。
【0034】
図1Aと
図1Bは、人体にTTフィールドを印加するのに用いられる電極10の単純な実施形態と前面図と側面図である。本開示の全ての実施形態において、電極またはトランスデューサアレイの前面(FRONT)は、人体に向き合う側であり、電極またはトランスデューサアレイの背面(REAR)はその反対側である。
【0035】
各電極10は導電性物質20の層を有し、好ましくは、薄く(例えば、0.3mm未満の厚さを有し、一部実施形態では0.1mm未満の厚さを有する)フレキシブルな金属箔片(例えば、銅、ステンレス鋼等)製である。一部実施形態では、導電性物質20の層の厚さは均一である。代替実施形態では、厚さは不均一となり得る。導電性物質20は前面を有し、その前面は領域(面積)Aを有する。導線70が導電性物質20の層と電気的に接触して位置し、導線70は電極10の背面から出ていく。
【0036】
また、各電極10は、領域Aを覆うように導電性物質20の前面に位置するフレキシブルポリマー層30を有する。任意選択的に、
図1Bに示されるように、フレキシブルポリマー層30は導電性物質20の側端も覆い得る(ポリマー層30が導電性物質20の側端を覆わない場合には、医療用グレードのシリコーン等の適切な絶縁体で側端を覆い、導電性物質20と患者の身体との間の非容量結合を防止することが好ましい)。ポリマー層30は絶縁体であり、ポリマー層30は前面を有する。一部の好ましい実施形態では、ポリマー層30は、ポリ(ビニリデンフルオライド‐トリフルオロエチレン‐クロロトリフルオロエチレン)「poly(vinylidene fluoride-trifluoroethylene-chlorotrifluoroethylene)」、および/または、ポリ(ビニリデンフルオライド‐トリフルオロエチレン‐クロロトリフルオロエチレン)「poly(vinylidene fluoride-trifluoroethylene-1-chlorofluoroethylene)」を備える。これら二種類のポリマーを本願ではそれぞれ「ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE)」、「ポリ(VDF‐TrFE‐CFE)」と略称する。これらの物質の比誘電率は40程度であるので、これら実施形態が特に有利である。一部実施形態では、絶縁層に用いられるポリマーは、ポリ(ビニリデンフルオライド‐トリフルオロエチレン‐クロロトリフルオロエチレン‐クロロフルオロエチレン)「poly(vinylidene fluoride-trifluoroethylene-chlorotrifluoroethylene-chlorofluoroethylene)」、つまり「ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE‐CFE)」となり得る。
【0037】
一部実施形態では、絶縁ポリマー層に用いられるターポリマーは、VDF、TrFE、CFEおよび/またはCTFEをあらゆる適切なモル比で備え得る。適切なターポリマーとして、例えば、30~80mol%のVDFと、5~60mol%のTrFEと、ターポリマーの残余のmol%を成すCFEおよび/またはCTFEを備えるものが挙げられる。更なる実施形態では、ターポリマーは、40~70mol%のVDFと、20~50mol%のTrFEと、ターポリマーの残余のmol%を成すCFEおよび/またはCTFEを備える。他の更なる実施形態では、VDFとTrFEがターポリマーの80~97mol%を成し、CFEおよび/またはCTFEが残りの部分、つまり3~20mol%を成す。他の実施形態では、VDFとTrFEがターポリマーの90~95mol%を成し、CFEおよび/またはCTFEが残りの部分、つまり5~10mol%を成す。例えば、ターポリマーは、61.8mol%のVDFと、29.8mol%のTrFEと、8.5mol%のCFEおよび/またはCTFEとを備え得る。
【0038】
更なる実施形態では、絶縁ポリマー層に用いられるのに適したターポリマーとして、例えば、30~80mol%のVDFと、5~60mol%のTrFEと、ターポリマーの残余のmol%を成すCTFEを備えるものが挙げられる。一部実施形態では、ターポリマーは、40~70mol%のVDFと、20~50mol%のTrFEと、ターポリマーの残余のmol%を成すCTFEを備える。他の更なる実施形態では、VDFとTrFEがターポリマーの80~97mol%を成し、CTFEが残りの部分、つまり3~20mol%を成す。他の実施形態では、VDFとTrFEがターポリマーの90~95mol%を成し、CTFEが残りの部分、つまり5~10mol%を成す。例えば、ターポリマーは、61.8mol%のVDFと、29.8mol%のTrFEと、8.5mol%のCTFEとを備え得る。
【0039】
多様な実施形態によると、ターポリマーは、粘度測定によって測定されるものとして400000g/molを超える平均分子量を有し得る。例えば、ターポリマーは、メチルエチルケトンを溶媒として用いる20℃での粘度測定によって測定されるものとして略413000g/molの平均分子量を有し得る。一部実施形態では、ターポリマーは、ポリマーを絶縁層に成形する前において、粉末状であり、外皮やスキンが存在しないものとなり得る。
【0040】
VDF、TrFE、CFEおよび/またはCTFEを備えるポリマーは、当該分野において既知の方法によって製造可能である。一部実施形態では、このようなポリマーは、以下のプロセスに従って調製可能である。VDFとTrFEとの初期混合物(CFTとCTFEは存在しない)を加圧可能なオートクレーブまたは他の適切な反応器に供給し得る。水と混合した開始剤をオートクレーブに注入して、適切な圧力、例えば少なくとも80barにすることによって、VDFとTrFEモノマーの懸濁水を形成し得る。次いで、VDFと、TrFEと、CFEおよび/またはCTFEとを備える二次混合物をオートクレーブに注入し得る。一部実施形態では、重合化反応が開始すると、二次混合物をオートクレーブに連続的に再注入して、少なくとも80barの一定圧力が維持されるようにし得る。
【0041】
一部実施形態では、オートクレーブに供給される初期混合物は、25~95重量%のVDF(例えば、55~80重量%のVDF)と、5~75重量%のTrFE(例えば、20~45重量%のTrFE)を備え得る。二次混合物は、20~80重量%のVDF(例えば、35~70重量%のVDF)と、3~60重量%のTrFE(例えば、14~40重量%のTrFE)と、4~67重量%のCFEおよび/またはCTFE(例えば、7~34重量%のCFEおよび/またはCTFE)を備え得る。一部実施形態では、初期混合物と二次混合物の重量比は略0.4から略2までの範囲となる。
【0042】
一部実施形態では、オートクレーブまたは反応器内部の圧力は略80barから略110barの間となり得る。40℃から60℃までの間の反応温度が維持され得る。一部実施形態では、VDFとTrFEとCFEおよび/またはCTFEとの二次混合物は、例えば逆流防止弁を有するゲートを介して、オートクレーブまたは反応器内に連続的に再注入され得る。一部実施形態の二次混合物は、オートクレーブ内に再注入される前に、直列の二つの圧縮機を用いて圧縮され得る。既知であるように、二次混合物は、オートクレーブ内に行き渡っている圧力よりも高い圧力、つまり80barを超える値の圧力においてオートクレーブ内に注入され得る。
【0043】
VDFとTrFEとCFEおよび/またはCTFEとを備える他のポリマーも、絶縁ポリマー層における使用が想定される。例えば、50~80mol%のVDFと、15~40mol%のTrFEと、2~20mol%のCFEおよび/またはCFTEが使用可能である。このようなポリマーは、略10000g/molを超える、例えば30000g/molよりも大きな数平均モル数を有し得る。このような組成のポリマーは、VDF、TrFEおよびCFE/CTFE含有ポリマーとその調製方法を教示するため参照として全体が本願に組み込まれる特許文献2に記載されている。
【0044】
図1を再び参照すると、TTフィールドが電極10を介して容量結合され、キャパシタンスが誘電体層の厚さに反比例するので、ポリマー層30は薄いことが好ましい(例えば、一部実施形態では20μm以下、他の実施形態では10μm以下、更に他の実施形態では5μm以下の厚さ)。一般的に、ポリマー層30の厚さが増大するにつれて、装置を介して被験体に印加される電圧が無駄になる。
【0045】
一方、製造可能性が損なわれ、層の構造完全性が損なわれ、AC信号が印加された際の絶縁破壊の危険性があるので、ポリマー層30は薄過ぎないことが望ましい。一部実施形態では、ポリマー層30は少なくとも1μmの厚さを有する。一部実施形態では、ポリマー層30は厚さ1~3μm(例えば、略2μm)のものであり、上述のパラメータ同士の間の均衡を与える。ポリマー層30の厚さは均一となり得る。代替実施形態では、その厚さは不均一となり得る。
【0046】
図1A/Bの実施形態では、電極10は、導電性物質20の層の後方に位置するフレキシブル第三層40を用いて、人体の皮膚に取り付けられる。フレキシブル第三層40は前面を有し、その第三層の前面の少なくとも一部が粘着剤42で被覆される。粘着剤42の第一領域は、導電性物質20の層の直接後方に位置し、粘着剤42のその領域が、導電性物質20の層を支持する。粘着剤42の第一領域と導電性物質20の層との間の直接的な接触は必要とはされず、これら二つの構成要素20と42の間に追加の構成要素や層(図示)が配置されてもよいことに留意されたい。粘着剤42の第二領域が、第一領域の外側(OUTWARD)に位置し、(a)皮膚の領域に対して押されると、皮膚に粘着し、皮膚に近接してポリマー層を保持するように、また、(b)皮膚から簡単に取り外すことができるように構成される。従って、これらの実施形態におけるフレキシブル第三層40は絆創膏のようなものである。
【0047】
任意選択的に、フレキシブル第三層40を含む実施形態は、ポリマー層30の前面に配置される導電性ハイドロゲルの薄層(図示せず)も有する。この導電性ハイドロゲル層は、粘着剤42の第二領域によってポリマー層30が皮膚に近接して保持されている際に、皮膚に接触するように位置する。
【0048】
典型的には、使用中において、第一の電極10が腫瘍の一方の側に対して人間の皮膚に配置され、第二の電極10が腫瘍の反対側に対して人間の皮膚に配置される。例えば、人間の頭部の中心に位置する脳腫瘍の場合、第一の電極10が人間の頭部の右側に配置され、第二の電極10が人間の頭部の左側に配置され得る。両電極10について、電極10の前面が人間の皮膚と向き合い、つまり、ポリマー層30が人間の皮膚と向き合う。粘着剤42の第二領域は、皮膚に対して押されると、皮膚に粘着して、ポリマー層を皮膚に近接して保持する。導電性ハイドロゲルの層が設けられる場合、ハイドロゲルはポリマー層30と人間の皮膚の間に配置される。導電性ハイドロゲルが省かれる場合(あまり好ましくない)、ポリマー層30が人間の皮膚上に直接存在する。
【0049】
一対の電極10が人間の皮膚に取り付けられると、AC電圧がこれら両電極10の間に印加される。導電性物質20の層がキャパシタのプレートとして機能し、ポリマー層30がキャパシタの絶縁層として機能し、AC電場が一対の電極10を介して人体に容量結合される。
【0050】
任意選択的に、セラミックナノ粒子を、ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE)、ポリ(VDF‐TrFE‐CFE)、および/またはポリ(VDF‐TrFE‐CFE‐CTFE)に混合して、「ナノコンポジット」を形成し得る。任意選択的に、セラミックナノ粒子は強誘電体金属酸化物(例えば、チタン酸バリウムとチタン酸バリウムストロンチウムのうち少なくとも一方)を備え得る。
【0051】
代替実施形態では、ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE)および/またはポリ(VDF‐TrFE‐CFE)からポリマー層30を形成する代わりに、高レベルのキャパシタンスを与える別のポリマーを使用し得る。一部実施形態では、他のポリマーは以下の性質を有し得る:(1)100kHzから500kHzの間の少なくとも一つの周波数において、ポリマー層が少なくとも20の比誘電率を有すること;(2)ポリマー層が、そのポリマー層の前面に垂直な方向において20μm以下の厚さを有すること。一部実施形態では、ポリマー層の厚さにその誘電強度(絶縁耐力)をかけた値は少なくとも50Vであり、他の実施形態ではその値が少なくとも200Vである。ポリ(VDF‐TrFE‐CTFE)および/またはポリ(VDF‐TrFE‐CFE)の代わりに使用可能な代替ポリマーの例として以下のものが挙げられる:(1)ポリ(VDF‐TrFE)、P(VDF‐HFP)、PVDF、他のポリマーのうち少なくとも一種にセラミックナノ粒子を混合したもの;(2)ポリ(VDF‐TrFE)、P(VDF‐HFP)、PVDFのうち少なくとも一種にチタン酸バリウムおよび/またはチタン酸バリウムストロンチウムのセラミックナノ粒子を混合したもの。他の実施形態では、ポリマー層30は、少なくとも一種の他のポリマー(つまり、この段落で挙げられていないポリマー)にセラミックナノ粒子を混合することによって形成される。
【0052】
一部実施形態では、ポリマー層の厚さは10μm以下、例えば1μm~10μmであり、一部実施形態では、ポリマー層の厚さは5μm以下、例えば1μm~5μmである。一部実施形態では、ポリマー層の厚さにその誘電強度をかけた値は少なくとも400Vである、一部実施形態では、ポリマー層は、200kHzで測定して少なくとも20の比誘電率を有する。本願で特定されている比誘電率と絶縁破壊電圧の値は、30~42℃、例えば、35~42℃や38~41℃の温度範囲内で特定されているものであり、その温度範囲外のパラメータの値はあまり関係ない。
【0053】
一部実施形態では、導電性物質の層は、少なくとも一種の金属(ステンレス鋼、金および/または銅)を備え、フレキシブルであり、その導電性物質の層の前面に垂直な方向において0.3mm未満の厚さを有する。一部実施形態では、導電性物質の厚さは0.1mm未満である。
【0054】
これら実施形態は、絆創膏のようなフレキシブル第三層を用いて人間の皮膚に取り付けられ得る。フレキシブル第三層を用いて電極10を人間の皮膚に取り付ける一つの手法は、導電性物質の層の後方にフレキシブル第三層40を配置することである。フレキシブル第三層40は前面を有し、第三層の前面の少なくとも一部が粘着剤42で被覆される。粘着剤42の第一領域は、導電性物質20の層の直接後方に位置し、導電性物質の層を支持する(直接的接触は必要とされるわけではなく、それらの間に介在する構成要素が配置され得る)。粘着剤42の第二領域は第一領域の外側に位置し、(i)皮膚の領域に対して押されると、皮膚に粘着し、皮膚に近接してポリマー層を保持するように、また、(ii)皮膚から簡単に取り外すことができるように構成される。導電性ハイドロゲルの層(図示せず)がポリマー層30の前面に配置され、そのハイドロゲルは、粘着剤42の第二領域によってポリマー層30が皮膚に近接して保持されている際に、皮膚と接触するように位置する。
【0055】
フレキシブル第三層を用いて人間の皮膚に電極10を取り付ける他の手法は、導電性物質20の層を支持するようにフレキシブル第三層40を構成することである。こうした実施形態では、フレキシブル第三層40は前面を有する。フレキシブル第三層40の前面の第一部分には、人間の皮膚に粘着するが皮膚から簡単に取り外し可能である粘着剤42が被覆される。第一部分は、導電性物質20の層とポリマー層30の両方の外側に位置し、第一部分が皮膚の領域に対して押されると、第一部分上の粘着剤42が皮膚に粘着して、皮膚に近接してポリマー層30を保持するようになる。導電性ハイドロゲルの層(図示せず)がポリマー層30の前面に配置される。ハイドロゲルは、粘着剤42によってポリマー層30が皮膚に近接して保持されている際に、皮膚に接触するように位置する。
【0056】
図2Aと
図2Bは、フレックス回路を用いてトランスデューサアレイを実施する他の実施形態の前面図と側面図を示す。本実施形態は、100kHzから500kHzの間の周波数で生体またはin vitro(インビトロ,体外)媒体に交流電場を印加するのに用いられる。
図2の実施形態はフレックス回路を有し、複数の導電性パッド20がフレックス回路25の前面に位置する。各導電性パッド20は或る領域(面積)を有する。少なくとも一つの導電性トレース(図示せず)が複数の導電性パッド20に電気的に接触して配置される。少なくとも一つの導電性トレースは、各導電性パッド20を電気信号によって駆動させることができるように配置構成される。
【0057】
また、本実施形態は複数のフレキシブルポリマー領域30も有する。これらのフレキシブルポリマー領域30は、
図2Aに示されるように、ポリマー物質の一枚の連続的なシート内の複数の領域となり得る。代わりに、これらの領域30は、ギャップによって分離されているフレキシブルポリマーの離散的領域となり得る。各フレキシブルポリマー領域30は、前面を有し、フレックス回路25の前面上のそれぞれ一つの導電性パッド20の前方上に配置される。
【0058】
本実施形態のポリマー領域30は以下の性質を有し得る:(1)100kHzから500kHzの間の少なくとも一つの周波数において、各ポリマー領域30が少なくとも20の比誘電率を有すること;(2)各ポリマー領域30が、その前面に垂直な方向において20μm以下の厚さを有すること。一部実施形態では、各ポリマー領域30の厚さにその誘電強度(絶縁耐力)をかけた値は少なくとも50Vであり、他の実施形態ではその値が少なくとも200Vである。
図1の実施形態に関して上述したあらゆるポリマー物質を用いて、
図2の実施形態のポリマー領域30を実施することができる。
【0059】
図2の一部実施形態では、各ポリマー領域が独立してその前面に垂直な方向において20μm以下の厚さを有し、例えば、1μmから20μmの間の厚さを有する。
図2の更なる実施形態では、各ポリマー領域が独立してその前面に垂直な方向において10μm以下の厚さを有し、例えば、1μmから10μmの間の厚さを有する。
図2の他の実施形態では、各ポリマー領域が独立してその前面に垂直な方向において5μm以下の厚さを有し、例えば、1μmから5μmの間の厚さを有する。
図2の更なる実施形態では、各ポリマー領域が独立してその前面に垂直な方向において3μm以下の厚さを有し、例えば、1μmから3μmの間の厚さを有する。
【0060】
図2の実施形態では、複数のポリマー領域30は、複数の導電性パッド20上に直接印刷、噴霧または成型(キャスティング)可能であり、薄いポリマー層を得ることをはるかに簡単にする。一部実施形態では(例えば、ポリマー領域30が導電性パッド20上に直接印刷、噴霧または成型される実施形態では)、ポリマー領域は、5μm以下の厚さ、例えば1μm~5μmの厚さを有する。
【0061】
導電性パッド20によって覆われる総面積が増大すると、装置全体のキャパシタンスが増大する。一部実施形態では、複数の導電性パッド20の面積は合計で少なくとも25cm2に達する。
【0062】
図2の実施形態は、絆創膏のようなフレキシブル第三層を用いて人間の皮膚に取り付けされ得る。こうした実施形態では、フレキシブル第三層40はフレックス回路25の後方に位置する。フレキシブル第三層40は前面を有する。第三層40の前面の少なくとも一部が粘着剤で被覆される。粘着剤の第一領域が、フレックス回路25の後方に直接位置して、フレックス回路25を支持し、粘着剤の第二領域が、第一領域の外側に位置する(これは、
図2Aのフレックス回路によって覆われていない部分である)。この第二領域は、皮膚の領域に対して押されると、皮膚に粘着して、皮膚に近接して複数のポリマー領域30を保持するように構成される。第二領域に用いられる粘着剤は皮膚から簡単に取り外せることが望ましい。フレキシブル第三層40が皮膚に近接して複数のポリマー領域30を保持するが、ポリマー領域30と皮膚との間に導電性ハイドロゲル50の層を介在させ得る。しかしながら、それでも、ポリマー領域30と皮膚との間の関係は「近接」であるとみなされる(これは、
図2の実施形態だけではなく、本開示の他の実施形態にも当てはまる)。この状況では、ハイドロゲル50の層が各ポリマー領域30の前面に配置される。ハイドロゲル50は、粘着剤の第二領域によって各ポリマー領域30が皮膚に近接して保持されている際に、皮膚に接触するように位置する。
【0063】
図2の実施形態の変形例では、フレキシブル第三層を用いてポリマー領域を皮膚に近接して保持するのに別の手法を用いる。こうした実施形態では、フレキシブル第三層はフレックス回路を支持するように構成される。フレキシブル第三層は、前面を有し、また、任意選択的に、導電性パッド20の位置に対応する複数のカットアウト開放領域を含み得る。フレキシブル第三層の前面の第一部分は、人間の皮膚に粘着するが皮膚から簡単に取り外し可能な粘着剤で被覆される。この第一部分はフレックス回路25の外側に位置して、第一部分が皮膚の領域に対して押されると、第一部分上の粘着剤が、皮膚に粘着して、皮膚に近接して複数のポリマー領域30を保持するようになっている。上記の実施形態と同様に、導電性ハイドロゲル50の層が各ポリマー領域30の前面に配置され得る。ハイドロゲル50は、粘着剤によって各ポリマー領域30が皮膚に近接して保持されている際に、皮膚に接触するように位置する。
【0064】
図2の実施形態には、複数のサーミスタが組み込まれ得る。これを実現するための一手法は、フレックス回路25の背面に(つまり、フレックス回路25とフレキシブル第三層40との間に)複数のサーミスタ60を配置して、各サーミスタ60が複数の導電性パッド20のうちのそれぞれ一つに熱的に接触して位置するようにすることである。こうした実施形態では、フレックス回路25は、複数のサーミスタ60にアクセスするための複数の導電性トレースを更に含む。代替実施形態(図示せず)では、サーミスタ60は導電性パッド20同士の間に位置し得る。しかしながら、この場合、サーミスタの前方に追加的な絶縁を設けることが望ましい。
【0065】
図3A、
図3B、
図3Cは、フレックス回路を用いてトランスデューサアレイを実施する他の実施形態の前面図、側面図、分解図を示す。本実施形態も、100kHzから500kHzの間の周波数で生体またはin vitro(インビトロ,体外)媒体に交流電場を印加するのに用いられる。しかしながら、(上述の
図2の実施形態のように)フレックス回路内に統合されている導電性パッドを用いる代わりに、
図3の実施形態は、複数の金属箔片がフレックス回路の前方に位置してフレックス回路の各パッドに電気的に接続されているというものである。
【0066】
図3の実施形態のフレックス回路145は、(a)フレックス回路145の前面に位置する複数の導電性パッド140と、(b)複数の導電性パッド140に電気的に接触して配置される少なくとも一つの導電性トレース(図示せず)とを含む。少なくとも一つの導電性トレースは、各導電性パッド140を電気信号によって駆動させることができるように配置構成される。複数の金属箔片120がフレックス回路145の前方に位置し、各片120は、或る領域(面積)を有する前面を有する。各片120はそれぞれ一つの導電性パッド140に電気的に接続される。
【0067】
各片120と各導電性パッド140との間の電気的接続は、
図3Bに示されるように、各片120と各対応の導電性パッド140との間に絶縁層130を配置することによって実施され得る。
図3Bの実施形態の絶縁層130は、各金属箔片120の後方に開口を有し、その開口を通る導電性経路(例えば、金属、はんだ等)が設けられる。
【0068】
また、
図3の実施形態の全ての変形例も、複数のフレキシブルポリマー領域30を有し、各領域は前面を有し、複数の金属箔片120のうちのそれぞれ一つの前方上に配置される。本実施形態のポリマー領域30は以下の性質を有し得る:(1)100kHzから500kHzの間の少なくとも一つの周波数において、各ポリマー領域30が少なくとも20の比誘電率を有すること;(2)各ポリマー領域30が、その前面に垂直な方向において20μm以下の厚さを有すること。一部実施形態では、各ポリマー領域30の厚さにその誘電強度をかけた値は少なくとも50Vであり、他の実施形態ではその値が少なくとも200Vである。
図1の実施形態に関して上述したあらゆるポリマー物質を用いて、
図3の実施形態のポリマー領域30を実施することができる。
【0069】
図3の一部実施形態では、各ポリマー領域が独立して、その前面に垂直な方向において20μm以下の厚さ、例えば1μm~20μmの厚さを有する。
図3の更なる実施形態では、各ポリマー領域が独立して、その前面に垂直な方向において10μm以下の厚さ、例えば1μm~10μmの厚さを有する。
図3の他の実施形態では、各ポリマー領域が独立して、その前面に垂直な方向において5μm以下の厚さ、例えば1μm~5μmの厚さを有する。
図3の更なる実施形態では、各ポリマー領域が独立して、その前面に垂直な方向において3μm以下の厚さ、例えば1μm~3μmの厚さを有する。
【0070】
図3の実施形態では、複数のポリマー領域30は、金属箔片120上に直接印刷、噴霧または成型(キャスティング)可能であり、極薄のポリマー層を得ることをはるかに簡単にしている。一部実施形態では(例えば、ポリマー領域30が金属箔片120上に直接印刷、噴霧または成型される実施形態では)、ポリマー領域は5μm未満の厚さを有する。
【0071】
金属箔片120によって覆われる総面積が増大すると、装置全体のキャパシタンスが増大する。一部実施形態では、複数の金属箔片の面積は合計で少なくとも25cm2に達する。
【0072】
図3の実施形態はフレキシブル第三層40を用いて人間の皮膚に取り付け可能であり、その様子は、
図2に関して上述したフレキシブル第三層と同様のものである。追加的に、
図2の実施形態に関して上述したように、導電性ハイドロゲル50の層が各ポリマー領域の前面に配置され得る。
【0073】
また、
図2の実施形態に関して上述したように、
図3の実施形態にも複数のサーミスタが組み込まれ得る。
【0074】
図4Aと
図4Bは上述の
図3の実施形態と同様のものであるが、各片120と各対応の導電性パッド140との間の電気的接続を実施するために代替手法を用いている点が異なる。
図3の手法と同様に、絶縁層130が各片120と対応の導電性パッド140との間に位置する。しかしながら、
図4の実施形態の絶縁層130は、各金属箔片120の後方に開口を有さない。代わりに、
図4の実施形態の絶縁層130は連続的である。各金属箔片120とフレックス回路の導電性パッド140との間の電気的接続は、導電性パッド140と金属箔片120との間の側端電気的接続部160を用いて設けられる。
【0075】
本開示の実施形態は大面積の被覆率を有利に与えることができる。そして、熱が大面積の皮膚にわたって散逸されるので、本実施形態は、人間の皮膚の所与の箇所における安全性の要求を超えずに患者の身体によりエネルギーを伝達することができる。また、本開示の実施形態は、従来技術のセラミックディスク型の実施形態よりも薄くて軽くてフレキシブルである。これはトランスデューサアレイをより快適にして、コンプライアンスを向上させて、患者が毎日の大部分にわたって装置を使用することを簡単にする。また、上述の実施形態は薄くて軽いので、低強度の粘着剤が使用可能であり、皮膚の刺激を減らす。
【0076】
本開示の実施形態は、特に、被験体またはin vitro媒体(例えば、後で被験体に移植するための幹細胞を備えるin vitro媒体)のターゲット領域内に位置する急速分裂細胞を選択的に破壊または成長抑制するのに有用である。上述のように、治療方法は、本開示のものである第一の装置をターゲット領域近傍の第一位置に(例えば、ターゲット領域近傍の被験体の皮膚上や、in vitro媒体のターゲット領域近傍に)配置することを備え得る。そして、本開示のものである第二の装置(第一の装置と同じまたは異なるものであり得る)をターゲット領域近傍の第二位置に配置し得る。第二位置は、第一位置と対向または略対向し、適切な向きを有する電場をターゲット領域に印加することができるようになっている。
【0077】
AC(交流)電圧を第一の装置と第二の装置との間に印加することによって、ターゲット領域にAC電場を印加することができる。AC電場の周波数の範囲は100kHz~500kHzとなり得る。AC電場が或る持続時間にわたってターゲット領域に印加されると、AC電場は、被験体またはin vitro媒体のターゲット領域内の急速分裂細胞を選択的に破壊または成長抑制する。
【0078】
「被験体」との用語は、脊椎動物、例えば、哺乳類、魚類、鳥類、爬虫類、両生類を含む。従って、被験体は、人間、非ヒト霊長類、馬、豚、兎、犬、羊、山羊、牛、猫、モルモット、齧歯類となり得る。この用語は特定の年齢や性別を示すものではない。一態様において、被験体は哺乳類である。一部態様において、被検体は生きている人間の被験者である。一部態様において、被験体は、本治療方法に先立って、急速分裂細胞の成長を伴う症状の治療の必要性について診断を受けたものである。更なる態様において、本治療方法は、治療方法の必要性について被験体を確認するステップを更に備える。
【0079】
ターゲット領域にAC電場を印加する持続時間は、治療される症状に応じて異なる。一部態様では、その持続時間は、急速分裂細胞の治療的な大部分が死滅する時間に基づいて決定され得る。例えば、持続時間の範囲は、数時間から数日間、例えば、1~48時間やそれ以上、例えば、2~14日間となり得る。
【0080】
一部態様では、急速分裂細胞は、ターゲット領域内に位置する腫瘍に存在し得る。「腫瘍」との用語は、制御不能に成長する形質転換細胞を備える悪性組織を称する。腫瘍として、白血病、リンパ腫、骨髄腫、形質細胞腫等や固形腫瘍が挙げられる。本開示の方法で治療可能な固形腫瘍の例としては、非上皮性悪性腫瘍(肉腫)と上皮性悪性腫瘍(癌腫)が挙げられ、例えば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、膵臓がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、皮脂腺がん、乳頭がん、乳頭状腺がん、嚢胞腺がん、髄様がん、気管支原性がん、腎細胞がん、肝細胞がん、胆管がん、絨毛がん、セミノーマ、胚性がん、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫が挙げられるが、これらに限定されない。これらの各腫瘍は急速成長するものであるので、いずれも本方法に従って治療可能である。本方法は、手術や放射線で治療することが難しく化学療法や遺伝子治療でもアクセス不能なことが多い脳腫瘍を治療するのに特に有利である。また、本方法は、本方法によって局所的な治療を与えることが簡単であるので、皮膚腫瘍や胸腫瘍を治療するのに適している。
【0081】
一部態様では、本方法を用いて、ターゲット領域内に存在する多様ながんを治療することができ、生体や、後で被験体に移植するための幹細胞を備える媒体などのin vitro媒体に存在し得る膠芽腫(再発した膠芽腫や新たに診断された膠芽腫を含む)、中皮腫、脳転移、非小細胞肺がん、膵臓がん、卵巣がん、肝臓がん、乳がん、子宮頸がん、結腸直腸がん、上衣腫、胃腺がん、神経膠肉腫、悪性黒色腫、髄芽腫、髄膜腫、腎腺がん、小細胞肺がん、尿路移行上皮がん、奇形腫が挙げられるがこれらに限定されない。
【0082】
また、本開示の治療方法は、不適切に成長している組織に電場を印加することによって、非悪性疾患や前がん状態に伴う無制御な成長や、不適切な細胞や組織の成長を伴う他の疾患を制御することができる。例えば、本方法は、動静脈(AV,arteriovenous)奇形、特に頭蓋内の箇所にあるAV奇形を治療するのに有用であり得る。また、本方法は、乾癬、炎症と血管増殖と特徴とする皮膚疾患、良性前立腺肥大症、炎症と欠陥増殖の可能性を伴う疾患を治療するのにも使用可能である。他の過剰増殖性疾患の治療も想定される。
【0083】
更に、本開示の方法に従って電場を印加することによって、手術や怪我の後に瘢痕やケロイドの形成をもたらす創傷治癒に伴う望ましくない線維芽細胞や内皮細胞の増殖や、血管形成や冠状動脈ステント配置の後の再狭窄を抑制することができる。本方法の非侵襲性は、特に、こうした種類の症状にとって、内部瘢痕や癒着の発達を防止し、また、冠状動脈、頸動脈、他の重要な動脈の再狭窄を抑制するのに望ましいものとなっている。
【0084】
既に検出済みの腫瘍を治療することに加え、本開示の実施形態は、腫瘍が検出可能なサイズに達することを予防するのにも使用可能である。この用法は、特定の種類のがんのリスクが高い人(例えば、家系に乳がんが多い女性や、がんとの闘病で生存したが再発のリスクが高い人)によって有益となり得る。予防療法は、ターゲットのがんの種類に基づいて、および/または患者の都合にあわせて調整可能である。
【0085】
治療方法の更なる詳細は、TTフィールドを用いて、腫瘍や、急速分裂細胞を伴う他の症状を治療および防止することを教示するために参照としてその全体が本願に組み込まれる特許文献3および特許文献4に記載されている。
【0086】
更なる態様では、本開示の実施形態は、in vitro媒体のターゲット領域内に位置する急速分裂細胞を選択的に破壊または成長抑制するのに有用である。例えば、後で被験体に移植するために培養している幹細胞は、発達中に奇形腫を成長させ得る。このような奇形腫には急速分裂細胞が関与しているので、本開示の方法が、後で生体に移植することができるin vitro幹細胞媒体内の奇形腫を低減、排除、または発達防止するのに有用となり得る。
【0087】
更に他の態様では、本開示の実施形態は、被験体やin vitro媒体のターゲット領域内で急速分裂しているウイルスや細菌細胞を選択的に破壊または成長抑制するのに有用である。本開示の実施形態は、抗ウイルス目的でAC電場を印加することを教示するために参照として全体が本願に組み込まれる特許文献5に記載されているように、被験体やin vitro媒体のウイルスまたは細菌感染を治療するのに使用可能である。例えば、一部態様では、本開示の実施形態は、ターゲット領域にAC電場を印加する一方で有効量の抗ウイルス剤または抗細菌剤と組み合わせる抗ウイルス法または抗菌法において使用可能である。更なる態様では、急速分裂細菌細胞やウイルスを特徴とするターゲット領域にAC電場を印加することによって、AC電場が、有効治療量の抗ウイルス剤や抗細菌剤がターゲット領域に到達して治療に有効な機能を発揮することを可能にし得る。
【0088】
同様に、一部態様では、急速分裂細菌細胞やウイルスを特徴とするターゲット領域にAC電場を印加することで、新たな細胞の感染によって引き起こされる損傷(細胞機能の変化、細胞死、細胞形質転換)を防止し、ウイルスや細菌の増殖と拡散を止め、感染体の健康に対する予期せぬ結果を避けることができる。同様に、感染者に密接することになる医療従事者の場合等において、未感染の健常な被検体を脅威的な感染から保護するためのAC電場療法によって有用となり得る(特に、感染粒子が血中、皮膚病変、唾液中等に発見され、直接的または間接的な接触、例えば飛沫やエアロゾルによって伝わるウイルス疾患の急性期において)。また、本開示の実施形態を用いるAC電場療法は、身体の強力な自然防衛能を欠く免疫系が抑制された人間(先天性免疫不全、臓器移植、がん等の場合)によっても使用可能である。
【0089】
また、ウイルス感染の抑制は、進行中のウイルス疾患の進行具合にとっても極めて重要なものとなり得る。ヒト免疫不全ウイルス(HIV,human immunodeficiency virus)は、人体内で、特にリンパ節において、長期期間にわたって臨床的に休眠状態にあるが、その期間中にウイルスが存続して複製するというウイルスの一例である。時間と共に、感受性免疫細胞の数は減少して、感染とAIDS(後天性免疫不全症候群,acquired immune deficiency syndrome)が発達する。連続的なウイルス感染サイクルを休止させることで、その拡散を抑え、疾患の進行を防ぐ。
【0090】
更なる態様では、本開示の実施形態は、例えば、自己免疫疾患の進行を治療または防止するAC電場療法の教示のためその全体が参照として本願に組み込まれる特許文献6に記載されているようにして、多様な自己免疫疾患を治療するのに有用となり得る。
【0091】
更に他の態様では、本開示の実施形態は、中枢神経系の多様な疾患を治療するのに有用となり得る。こうした疾患は、急速分裂細胞の成長や、特定の荷電タンパク質と血小板の蓄積を特徴とすることが多く、本開示の実施形態を用いるAC電場療法によって妨げることができるものである。こうした疾患の非限定的な例として、特に、アルツハイマー病、多発性硬化症、神経線維腫症、パーキンソン病が挙げられる。上述のように、AC電場療法は、中枢神経系のこうした疾患の治療用に知られている薬剤と組み合わせて使用可能である。一部態様では、本開示の実施形態を用いるAC電場療法は、治療有効量の薬剤が治療ターゲット領域に到達することを保証するのに有用となり得て、例えば、AC電場療法は、治療有効量の薬物が血液脳関門を潜り抜けてターゲット領域に入るようにする。
【0092】
また、本願で開示されるのは、被験体またはin vitro媒体のターゲット領域内の急速分裂細胞を選択的に破壊または成長抑制するために生体またはin vitro媒体の上または近傍に配置される装置である。本願で更に開示されるのは、急速分裂細胞を選択的に破壊または成長抑制するための本開示の装置の使用方法である。更に、本願で開示されるのは、急速分裂細胞が関与する症状を治療するのに有用な一種以上の治療剤、例えば、抗がん剤、抗ウイルス剤、抗細菌剤、中枢神経系疾患や急速分裂細胞が関与する他の疾患の治療用の薬物と共に本開示の装置を備えるキットである。
【0093】
本発明は特定の実施形態を参照して開示されているものであるが、特許請求の範囲に定められる本発明の要旨および範囲から逸脱せずに、開示の実施形態に対する多数の修正、置換、変更が可能なものである。従って、本発明は、開示の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲の文言およびその均等物によって定められる完全な範囲を有するものである。