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特許7498306シール部材、シール機構、バルブおよびシール方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】シール部材、シール機構、バルブおよびシール方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/18 20060101AFI20240604BHJP
   F16K 5/06 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
F16J15/18 C
F16K5/06 C
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022573116
(86)(22)【出願日】2021-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2021048918
(87)【国際公開番号】W WO2022145467
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2020219489
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390002381
【氏名又は名称】株式会社キッツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】船渡 正澄
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】細川 充
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-54070(JP,A)
【文献】国際公開第2016/182066(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/056535(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16-15/32
F16K 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が開口部、他端が当接部となっており、一端から他端に向かう方向を深さ方向とする隙間に配置され、一端側から前記深さ方向に押圧されたときに前記隙間の両側部および前記当接部に密着して前記隙間を塞ぐシール部材であって、
前記シール部材の一端側に配置され、前記シール部材のシール時に前記隙間の深さ方向に押圧されたときに前記隙間の一側部を押圧する第一押圧部と、
前記シール部材の他端側に配置され、前記シール部材のシール時における前記第一押圧部への押圧によって前記当接部に密着するとともに前記隙間の他側部を押圧する第二押圧部と、
前記シール部材のシール時における前記第一押圧部への押圧によって前記第二押圧部が前記隙間の他側部に向かう方向に前記シール部材を撓ませる変形惹起部と、
を有するシール部材。
【請求項2】
前記第一押圧部は、前記シール部材の一端寄りおよび一側寄りの部分であり、
前記シール部材のシール時に前記隙間の一側部に当接している第一側面と、
前記第一押圧部の一端側で露出し、前記シール部材の断面形状における前記第一側面からの距離が前記シール部材の一端に向けて漸次減少する第一テーパ面と、
を含み、
前記第二押圧部は、前記シール部材の他端寄りおよび他側寄りの部分であり、
前記シール部材のシール時に前記隙間の他側部に当接している第二側面と、
前記第二押圧部の他端側で露出し、前記シール部材の断面形状における前記第二側面からの距離が前記シール部材の他端に向けて漸次減少する第二テーパ面と、
を含み、
シール部材のシール前における前記第二テーパ面の前記第二側面に対する傾斜角度は、前記シール部材のシール時の前記傾斜角度よりも小さく、
前記変形惹起部は、前記第二テーパ面を含む部分である、
請求項1に記載のシール部材。
【請求項3】
前記第一押圧部は、前記シール部材の断面形状における前記第一テーパ面の一端縁と前記第一側面の一端縁とを結んで形成される第一切り欠き端部を有し、
前記第二押圧部は、前記シール部材の断面形状における前記第二テーパ面の他端縁と前記第二側面の他端縁とを結んで形成される第二切り欠き端部を有し、
前記第一側面は、前記シール部材の断面形状における前記第二側面の一端縁と前記第二テーパ面の他端縁とを結ぶ第二仮想直線との距離が前記第一側面の他端縁に向けて漸次減少するテーパ面であり、
前記第二側面は、前記シール部材の断面形状における前記第一側面の他端縁と前記第一テーパ面の一端縁とを結ぶ第一仮想直線との距離が前記第二側面の一端縁に向けて漸次減少するテーパ面である、
請求項2に記載のシール部材。
【請求項4】
前記第一押圧部は、前記第一側面の他端縁に第一面取り部をさらに有し、
前記第二押圧部は、前記第二側面の一端縁に第二面取り部をさらに有し、
前記第一面取り部は前記第二面取り部よりも大きい、
請求項2に記載のシール部材。
【請求項5】
樹脂製である、請求項1~4のいずれか一項に記載のシール部材。
【請求項6】
前記隙間の深さ方向に沿って見たときに無端形状を有し、バルブにおけるシート部とボデーとの間に形成される前記隙間に配置されて、前記第一押圧部に当接するリテーナグランドによって前記シート部に向けて押圧される、請求項1~5のいずれか一項に記載のシール部材。
【請求項7】
前記バルブの弁体は、ボールである、請求項6に記載のシール部材。
【請求項8】
一端が開口部、他端が当接部となっており、一端から他端に向かう方向を深さ方向とする隙間内に、一端側から前記深さ方向に押圧されたときに前記隙間の両側部及び当接部に密着して前記隙間を塞ぐようにシール部材が配置されてなるシール機構であって、
前記シール部材は、前記シール部材の一端側に配置され、前記シール部材のシール時に前記隙間の深さ方向に押圧されたときに前記隙間の一側部を押圧する第一押圧部と、前記シール部材の他端側に配置され、前記シール部材のシール時における前記第一押圧部への押圧によって前記当接部に密着するとともに前記隙間の他側部を押圧する第二押圧部と、前記シール部材のシール時における前記第一押圧部への押圧によって前記第二押圧部が前記隙間の他側部に向かう方向に前記シール部材を撓ませる変形惹起部と、を有し、
前記第一押圧部は、前記隙間の他側部から離間しており、かつ、前記第二押圧部は、前記隙間の一側部から離間しており、
前記シール部材が前記一端側から前記深さ方向に押圧され、前記第一押圧部が他端側に移動しつつ、前記第二押圧部が前記当接部に当接することで前記第二押圧部が前記隙間の他側部に向かう方向に撓まされた状態で、前記シール部材が前記隙間を塞いでなる、シール機構。
【請求項9】
前記第一押圧部は、前記シール部材の一端寄りおよび一側寄りの部分であり、
前記シール部材のシール時に前記隙間の一側部に当接している第一側面と、
前記第一押圧部の一端側で露出し、前記シール部材の断面形状における前記第一側面からの距離が前記シール部材の一端に向けて漸次減少する第一テーパ面と、
を含み、
前記第二押圧部は、前記シール部材の他端寄りおよび他側寄りの部分であり、
前記シール部材のシール時に前記隙間の他側部に当接している第二側面と、
前記第二押圧部の他端側で露出し、前記シール部材の断面形状における前記第二側面からの距離が前記シール部材の他端に向けて漸次減少する第二テーパ面と、
を含み、
前記隙間の一側と他側との間の距離を前記隙間の幅としたときに、前記第一押圧部は、前記第一テーパ面の、前記隙間の幅方向における前記隙間の前記一側寄りの1/4の位置から1/8の位置までの位置で最も強く押圧されている、請求項8に記載のシール機構。
【請求項10】
ボデー、シート部、リテーナグランドおよび請求項1~6のいずれか一項に記載のシール部材を有するバルブであって、
前記ボデーおよびシート部が、一端が開口部、他端が当接部となっており、一端から他端に向かう方向を深さ方向とする隙間を形成し、
前記シール部材が前記隙間に挿入されるとともに、前記リテーナグランドによって前記シート部に向けて押圧されて前記隙間を塞いでいる、バルブ。
【請求項11】
前記第一押圧部は、前記シール部材の一端寄りおよび一側寄りの部分であり、
前記シール部材のシール時に前記隙間の一側部に当接している第一側面と、
前記第一押圧部の一端側で露出し、前記シール部材の断面形状における前記第一側面からの距離が前記シール部材の一端に向けて漸次減少する第一テーパ面と、
を含み、
前記第二押圧部は、前記シール部材の他端寄りおよび他側寄りの部分であり、
前記シール部材のシール時に前記隙間の他側部に当接している第二側面と、
前記第二押圧部の他端側で露出し、前記シール部材の断面形状における前記第二側面からの距離が前記シール部材の他端に向けて漸次減少する第二テーパ面と、
を含み、
前記第一押圧部は、前記隙間の幅方向における前記隙間の前記一側寄りの1/4の位置から1/8の位置までの位置で前記リテーナグランドによって最も強く押圧されている、請求項10に記載のバルブ。
【請求項12】
前記リテーナグランドは、前記シール部材を押圧する押圧部を含み、
前記押圧部は、前記隙間の幅方向における前記隙間の前記一側寄りの1/4の位置から1/8の位置までの位置に位置する一側縁と、前記隙間の他端側ほど前記隙間の一側面からの距離が漸次大きくなるテーパ状の押圧面と、を有し、
前記押圧面が前記隙間の一側面に対してなす角度は、前記第一テーパ面が前記第一側面に対してなす角度よりも大きい、請求項11に記載のバルブ。
【請求項13】
バルブのシート部およびボデーの間の隙間に請求項1~7のいずれか一項に記載のシール部材を配置し、リテーナグランドによって前記シール部材の前記第一押圧部を前記シート部に向けて押圧して前記隙間を封止するシール方法。
【請求項14】
前記バルブは、液体水素が流れる配管を開閉するためのバルブである、請求項13に記載のシール方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部材、シール機構、バルブおよびシール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧や高温の環境下で用いられるバルブには、トラニオン型ボールバルブが知られている。図15は、従来のトラニオン型バルブの一例における要部の断面を示す図である。図15に示されるように、バルブは、ボデー510内に配置されたボール弁体を側方から押さえるためのボールシート82、スプリング84によってボール弁体側に付勢されるリテーナグランド63、および、ボデー510とボールシート82との間の隙間を封止するパッキン500、を有している。なお、パッキン500を平面視したときの形状(以下、単に「平面形状」とも言う)は、通常、環状などの無端形状を有する。
【0003】
パッキン500は、その断面形状において、互いに平行な直線状の内周壁面501および外周壁面502、ならびにテーパ面を含む一端面および他端面を有している。一端面は、内周壁面501側に、一端側に向けて内周壁面501までの距離が漸次減少する第一テーパ面503を含み、外周壁面502側に、一端側に向けて外周壁面502までの距離が漸次減少する第一逆テーパ面504を含む。上記他端面は、他端側に向けて外周壁面502までの距離が漸次減少する第二テーパ面505を含む(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/182066号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記シール部材は、高温または高圧の環境において優れたシール性を発現し得る。近年では、液化石油ガス(LPG)および液化水素などの超低温の流体を制御するためのバルブ等の需要が大きくなっており、そのような超低温で用いられるバルブなどに適用できるように、低温(特に超低温)環境でも十分なシール性を発揮できるシール部材が求められている。
【0006】
本発明の一態様は、低温環境でも優れたシール性を発現するシール部材を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るシール部材は、一端が開口部、他端が当接部となっており、一端から他端に向かう方向を深さ方向とする隙間に配置され、一端側から前記深さ方向に押圧されたときに前記隙間の両側部および前記当接部に密着して前記隙間を塞ぐシール部材であって、前記シール部材が前記隙間において一端側から前記深さ方向に押圧されたときに、前記シール部材の一端側で前記隙間の一側部を押圧して密着する第一押圧部と、前記シール部材の他端側で前記当接部に密着するとともに、前記隙間の他側部を押圧して密着する第二押圧部と、前記第二押圧部が前記隙間の他側部に向かう方向に前記シール部材を撓ませる変形惹起部と、を有する。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るシール機構は、一端が開口部、他端が当接部となっており、一端から他端に向かう方向を深さ方向とする隙間内に、一端側から前記深さ方向に押圧されたときに前記隙間の両側部及び当接部に密着して前記隙間を塞ぐようにシール部材が配置されてなるシール機構であって、シール部材は、前記シール部材の一端側に配置され、前記シール部材のシール時に前記隙間の深さ方向に押圧されたときに前記隙間の一側部を押圧する第一押圧部と、前記シール部材の他端側に配置され、前記シール部材のシール時における前記第一押圧部への押圧によって前記当接部に密着するとともに前記隙間の他側部を押圧する第二押圧部と、前記シール部材のシール時における前記第一押圧部への押圧によって前記第二押圧部が前記隙間の他側部に向かう方向に前記シール部材を撓ませる変形惹起部と、を有し、前記第一押圧部は、前記隙間の他側部から離間しており、かつ、前記第二押圧部は、前記隙間の一側部から離間しており、前記シール部材が前記一端側から前記深さ方向に押圧され、前記第一押圧部が他端側に移動しつつ、前記第二押圧部が前記当接部に当接することで前記第二押圧部が前記隙間の他側部に向かう方向に撓まされた状態で、前記シール部材が前記隙間を塞いでなる。
【0009】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るバルブは、ボデー、シート部、リテーナグランドおよび上記のシール部材を有し、前記ボデーおよびシート部が、一端が開口部、他端が当接部となっており、一端から他端に向かう方向を深さ方向とする隙間を形成し、前記シール部材が前記隙間に挿入されるとともに、前記リテーナグランドによって前記シート部に向けて押圧されて前記隙間を塞いでいる。
【0010】
さらに、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るシール方法は、バルブのシート部およびボデーの間の隙間に上記のシール部材を配置し、リテーナグランドによって前記シール部材の前記第一押圧部を前記シート部に向けて押圧して前記隙間を封止する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、低温環境でも優れたシール性を発現するシール部材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るシール部材を模式的に示す図である。
図2図1に示すA-A線でシール部材を切断した状態を示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るシール部材が適用されるバルブの一例の外観を模式的に示す図である。
図4図3に示すB-B線でバルブを切断した状態を示す断面図である。
図5図4に示す一点破線の枠囲み部分Cにおける隙間にシール部材を挿入した状態を説明するための拡大断面図である。
図6図5におけるシール部材およびその周囲を拡大して示す図である。
図7図4に示す一点破線の枠囲み部分Cにおけるシール部材によるシール状態を説明するための拡大断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係るシール部材による押圧力の強度および分布を説明するための第一の図である。
図9】本発明の一実施形態に係るシール部材による押圧力の強度および分布を説明するための第二の図である。
図10】本発明の一実施形態に係るシール部材における各部位の移動量を説明するための第一の図である。
図11】本発明の一実施形態に係るシール部材における各部位の移動量を説明するための第二の図である。
図12】参考用のシール部材によるシール状態を説明するための拡大断面図である。
図13】参考用のシール部材のシール時における押圧力の強度および分布を説明するための第一の図である。
図14】参考用のシール部材のシール時における押圧力の強度および分布を説明するための第二の図である。
図15】従来のバルブの一例における要部の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔シール部材の構成〕
本発明の一実施形態に係るシール部材は、有底の隙間を塞ぐためのシール部材である。当該シール部材は、その一端部が隙間の開口部側に配置され、その他端部が隙間の底部に当接して配置される。当該隙間は、一端が開口部、他端が当接部となっており、一端から他端に向かう方向を深さ方向とする。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態1に係るシール部材を模式的に示す図である。図2は、図1のシール部材をA-A線で切断して示す断面図である。本実施形態のシール部材の平面視したときの形状(平面形状)は、図1に示されるように環状である。シール部材100は、当該環状の軸方向にほぼ沿って、シールすべき隙間に挿入される。このように、シール部材100は、無端形状の平面形状を有している。
【0015】
シール部材100の材料は、所期のシール性を発現する範囲において適宜に決めることが可能である。また、シール部材100の材料は、シール部材100に通常要求される機械的強度、熱安定性、変形性などの諸条件に応じて適宜に選ぶことが可能である。シール部材100の材料は、無機でも有機でもよいし、一種でもそれ以上でもよい。シール部材100の材料の例には、無機材料および有機材料が含まれる。無機材料の例には、グラファイトが含まれる。有機材料の例には、樹脂が含まれ、より具体的には超高分子ポリエステル(UMW-PE)が含まれる。低温条件でシール部材100を用いる場合、シール部材100は樹脂からなることが好ましい。
【0016】
シール部材100は、樹脂で一体的に成形されている。シール部材100は、図2に示されるように、第一押圧部110、第二押圧部120および連結部130を有している。シール部材100の断面形状は、図示の方向の断面において略逆Z字形状である。
【0017】
なお、シール部材100の平面形状の軸方向をX方向とも言い、そのうちの一方をX1方向とも言い、他方をX2方向とも言う。また、シール部材100のX1方向側を一端側、X2方向側を他端側、とも言う。また、シール部材100の上記軸方向に直交する方向のうち、第一押圧部110側を一側、第二押圧部120側を他側、とも言う。
【0018】
第一押圧部110は、シール部材100の一端寄りおよび一側寄りの部分である。第一押圧部110は、第一側面111、第一テーパ面112および第一切り欠き端部113を含む。また、第二押圧部120は、シール部材100の他端寄りおよび他側寄りの部分である。第二押圧部120は、第二側面121、第二テーパ面122および第二切り欠き端部123を含む。
【0019】
なお、シール部材100において、第一仮想直線L1および第二仮想直線L2を設定する。第一仮想直線L1は、シール部材100の断面形状における第一側面111の他端縁と第一テーパ面112の一端縁とを結ぶ直線である。第二仮想直線L2は、シール部材100の断面形状における第二側面121の一端縁と第二テーパ面122の他端縁とを結ぶ直線である。第一仮想直線L1および第二仮想直線L2は、互いに平行であり、両直線の距離は、隙間の幅方向と実質的に同じである。本実施形態において、第一仮想直線L1は、シール部材100がシールすべきバルブの隙間における断面形状において、当該隙間の一側部(内周面)と実質的に重なる線となっており、第二仮想直線L2は、当該隙間の他側部(外周面)と実質的に重なる線となっている。
【0020】
また、シール部材100は、第一面取り部114および第二面取り部124をさらに有する。第一面取り部114は、シール部材100の断面形状において、第一側面111の他端縁に形成されており、第一側面111の延長線と連結部130の他端縁の延長線とが交差する角を斜めに直線状に削ぎ落してなる形状を有する部分である。第二面取り部124は、シール部材100の断面形状において、第二側面121の一端縁に形成されており、第二側面121の延長線と連結部130の一端縁の延長線とが交差する角を斜めに直線状に削ぎ落してなる形状を有する部分である。
【0021】
シール部材100の断面において、第一側面111と第一切り欠き端部113との交点と、第二側面121と第二切り欠き端部123との交点とを結ぶ直線をシール部材100の回転軸D1とする。第一面取り部114と第二面取り部124とは、シール部材100の断面を、回転軸D1を軸として180°回転させると、一方は、他方に実質的に重なる。
【0022】
第一面取り部114は、第二面取り部124より大きい。すなわち、第一面取り部114は、第二面取り部124に比べて前記の延長線が形成す角をより大きく削ぎ落してなる形状になっている。
【0023】
[第一押圧部の構成]
第一側面111は、第一押圧部110の一側面であり、円環状のシール部材100の内周面の一部である。第一側面111は、シール部材100のシール時に隙間の一側部に当接する面である。第一側面111は、第一仮想直線L1および第二仮想直線L2を基準としたときに、第二仮想直線L2との距離が第一側面111の他端縁に向けて漸次減少するテーパ面となっている。
【0024】
第一側面111が第二仮想直線L2となす鋭角の角度は、第一押圧部110が後述する隙間の一側部を押す力を高める観点、および、当該力のX方向の分布を大きくする観点から、0.5~5°の範囲から適宜に決めることが可能である。
【0025】
第一テーパ面112は、第一押圧部110の一端側で露出している面である。第一テーパ面112は、シール部材100の断面形状における第一側面111からの距離がシール部材100の一端に向けて漸次減少する傾斜面である。第一テーパ面112は、後述するシール部材100のシール時に、リテーナグランドが当接し、当該リテーグランドよって押圧される面である。
【0026】
第一テーパ面112が第一仮想直線L1となす鋭角の角度は、第一テーパ面112がX2方向の押圧力を受けたときに押圧されたときに第一押圧部110が後述する隙間の一側部を押す十分な力を発生させる観点から、30~60°の範囲から適宜に決めることが可能である。
【0027】
第一切り欠き端部113は、シール部材100の断面形状において、第一テーパ面112の延長線と第一側面111の延長線とが交差する部分を切り欠いて形成される部分である。第一切り欠き端部113は、シール部材100の断面形状における第一テーパ面112の一端縁と第一側面111の一端縁とを結んで形成されている。
【0028】
[第二押圧部の構成]
第二側面121は、第二押圧部120の他側面であり、円環状のシール部材100の外周面の一部である。第二側面121は、シール部材100のシール時に隙間の他側部に当接する面である。第二側面121は、第一仮想直線L1および第二仮想直線L2を基準としたときに、第一仮想直線L1との距離が第二側面121の一端縁に向けて漸次減少するテーパ面となっている。
【0029】
第二側面121が第二仮想直線L2となす鋭角の角度は、第二押圧部120が後述する隙間の他側部を押す力を高める観点、および、当該力のX方向の分布を大きくする観点から、0.5~5°の範囲から適宜に決めることが可能である。
【0030】
第二テーパ面122は、第二押圧部120の他端側で露出している面である。第一テーパ面112は、シール部材100の断面形状における第二側面121からの距離がシール部材100の他端に向けて漸次減少する傾斜面である。第二側面121に対する第二テーパ面122の傾斜は、後述する隙間の当接部における隙間の他側部に対する傾斜よりも緩く設計されている。よって、第二テーパ面122は、その先端部が隙間の当接部に当接したときに、当接部との間に断面形状が楔形の隙間を形成している。シール部材100は、樹脂製であるために弾性を有する。したがって、シール時には、シール部材100はリテーナグランドに押圧されて圧縮され、第二テーパ面122は後述する当接部のテーパ面に密着する。このように、シール部材100のシール前における第二テーパ面122の第二側面121に対する傾斜角度は、シール部材100のシール時の傾斜角度よりも小さく設定されている。
【0031】
第二テーパ面122が第二仮想直線L2となす鋭角の角度は、第一テーパ面112がX2方向の押圧力を受けたときに第二押圧部120が後述する隙間の他側部を押す十分な力を発生させる観点から、30~60°の範囲から適宜に決めることが可能である。
【0032】
また、シール前の第二テーパ面122が後述の当接部に対してなす鋭角の角度、すなわち上記楔形の隙間における楔の角度は、後述するシール部材100の撓みによる変形を十分に生じさせる観点から、3~10°程度の範囲から適宜に決めることが可能である。
【0033】
第二切り欠き端部123は、シール部材100の断面形状において、第二テーパ面122の延長線と第二側面121の延長線とが交差する部分を切り欠いて形成される部分である。第二切り欠き端部123は、シール部材100の断面形状における第二テーパ面122の他端縁と第二側面121の他端縁とを結んで形成されている。
【0034】
[連結部の構成]
連結部130は、シール部材100の径方向において、第一押圧部110の他端部と第二押圧部120の一端部とが互いに重なり合って接合している部分である。
【0035】
〔シール部材の使用例〕
[バルブの構成の概略]
次に、シール部材100の使用の一形態を説明する。以下では、シール部材100をトラニオン型のボールバルブに適用する形態を説明する。まず、シール部材100が適用されるバルブの構成を概略的に説明する。図3は、本発明の一実施形態に係るシール部材が適用されるバルブの一例の外観を模式的に示す図である。図4は、図3に示すB-B線でバルブを切断した状態を示す断面図である。図3図4において、バルブの流路の軸に沿う方向をX、鉛直方向をZ、X方向およびZ方向の両方に直交する方向をY、でそれぞれ表している。
【0036】
バルブ10は、図3および図4に示されるように、ボデー1、ボンネット2、ステム3弁体であるボール4および操作部9を有している。
【0037】
ボデー1は、弁体を収納し、上部に当該弁体に連結したステムを収納するための、溶接による構造物である。ボデー1は、弁体収納部5、ステム収納部6および配管構造部7を有している。
【0038】
弁体収納部5は、ボール4を回転可能に配置することができる中空の中央領域51と、中央領域51の中空部分と配管構造部7の管内とを連通する端領域52とを含む。中央領域51は、ボール4の下面と当接する内面を有しており、当該内面には、後述するボール4の凸部4bが嵌合する凹部51aが開口している。
【0039】
ステム収納部6は、ステム3を収容するための部分である。ステム収納部6は、中央領域51の中空部分とステム収納部6の内部空間とを連通する連通口6a、ステム収納部6の上端部に開口した上端開口部6b、ステム収納部6の下端部と上端部との間の中間部分6c、および、ステム収納部6の上端部において側方に延在するフランジ部6d、を含む。
【0040】
配管構造部7は、弁体収納部5の側面から水平方向に延びている。配管構造部7内には管が配置され、当該管は、弁体収納部5における端領域52を介して中央領域51の中空部分に連通する。
【0041】
ボンネット2は、ステム3を作動可能に保持するとともにステム収納部6を密封するための構造である。ボンネット2は、上端開口部6bを密閉するように、ボデー1の上端部にボルトなどによって着脱可能にボデー1に連結されている。
【0042】
ボンネット2は、ステム3が挿通される貫通部2aと、ボデー1内の中空部分の気体をパージするためのパージ用バルブ21と、ステム3の上端に連結されてステム3の上端と操作部9とを連結するためのグランドプレート22と、ステム3の軸周りからの流体の漏れを防ぐためのグランドパッキン23とを有している。
【0043】
ステム3は、バルブ10における弁軸を構成している。ステム3は、弁体であるボール4に連結しており、上端開口部6bよりも外側まで延在している。ステム3は、作動可能にボンネット2の貫通部2aに支持される。
【0044】
ボール4は、弁体収納部5に収容される略球体であり、流路Pとなる貫通孔4aと、ステム3との連結部とは反対側からZ方向に沿って突出している凸部4bとを有する。凸部4bは、弁体収納部5の凹部51aに嵌合している。なお、凸部4bは、その先端部に、凸部4bの凹部51aへの嵌合をより容易にする観点から、凸部4bより小径な突出端4b’を有している。
【0045】
さらに、バルブ10は、ボール4側からZ方向に沿って、トラニオンプレート61およびヨークプレート62をこの順で有している。トラニオンプレート61およびヨークプレート62は、それぞれ、その中央に、ステム3を挿通させるための貫通孔61a、62aを有している。ヨークプレート62は、その外周面62bに第一のネジ構造を有している。なお、ボデー1のステム収納部6の内周面にも第一のネジ構造に螺合する第二のネジ構造を有している。これらのネジ構造が螺合することによって、ヨークプレート62は、ステム収納部6の軸方向において固定される。
【0046】
操作部9は、ボンネット2に固定されており、ハンドル99を有している。ハンドル99の回転量に応じて、ステム3に連結しているボール4が鉛直方向に延びる中心軸O(図2)を中心に回転する。このように、ハンドル99は、ステム3を介したボール4による弁の開閉操作に用いられる。
【0047】
また、バルブ10は、ボール4の流路P内を流れる流体をシールするためのシール機構80を有している。
【0048】
上述したバルブ10は、弁体収納部5から独立した空間を有する寸胴なステム収納部6を有しており、流体が有する熱がボール4からボンネット2まで到達しにくい。したがって、バルブ10は、通常のバルブであれば操作部9を凍結して操作不能にするほどの冷熱を有する超低温の流体にも適用可能であり、例えば、バルブ10は、液体水素が流れる配管を開閉するためのバルブに用いることが可能である。バルブ10は、-50℃以下、なかでも-100℃以下の低温用、さらには液化窒素(-196℃)または液化水素(-253℃)といった超低温流体に用いる場合に、本実施形態のシール部材100により優れたシール性を発揮することができる。
【0049】
[シール部材に関する構成]
次に、バルブの構成のうち、シール部材に関する構成を説明する。図5は、図4に示す一点破線の枠囲み部分Cの構成を説明するための拡大断面図である。
【0050】
前述したシール機構80は、ボール4側から、ボール4に配管構造部7側から当接するボールシート82、ボールシート82を配管構造部7側から押圧するリテーナグランド83、および、ボールシート82とリテーナグランド83との間に介在するシール部材100を有する。バルブ10は、ボールシート82、ボデー1(ステム収納部6と弁体収納部5との境界部分)およびリテーナグランド83に囲まれる隙間90を有し、シール部材100は、リテーナグランド83によってボールシート82に向けて押圧される。
【0051】
ボールシート82は、X方向を軸方向とする円環状の部材であり、ボデー1に内接する。ボールシート82は、ボールシート82側に位置する径大部821、リテーナグランド83側に位置する径小部822、および、径小部822から径方向に広がって径小部822と径大部821とを繋ぐ段部823、を有する。ボールシート82とボデー1との間には、段部823を底面とし、ボールシート82の径小部822の外周壁面を一側部、ボデー1の内周壁面における当該一側部に対向する部分を他側部とする隙間90が形成される。
【0052】
なお、本実施形態では、ボールシート82として、ボール4と当接するシール部位が、そのまま配管構造部7側に延びた形状の部材を例に挙げたが、本発明はこれに限定されない。たとえば、ボール4に当接するシートが、配管構造部7側から別部材であるシートリテーナによって保持された構造の「シート部」をボールシート82の代わりに適用することもできる。その場合は、ボール4側でシートを保持している上記シートリテーナの配管構造部7側の後端が、リテーナグランド83によって押されることになる。この場合、本実施形態のシール部材100は、上記シート部における上記シートと上記シートリテーナとの間に適用されてもよいし、上記シートリテーナとリテーナグランド83との間に適用されてもよいし、これらの両方において適用されてもよい。
【0053】
段部823は、外周側に当接部823aを含んでいる。当接部823aは、シール部材100のシール時に、隙間90における、シール部材100の第二テーパ面122が当接する部分である。当接部823aは、テーパ面を含んでおり、当該テーパ面は、隙間90におけるステム収納部6の内周壁(他側部)側に、当該内周壁までの距離がX方向に沿う隙間90の深さ方向に沿って漸次減少する面である。当該テーパ面とステム収納部6の内周壁面とがなす鋭角の角度は、シール部材100における第二テーパ面122が第二側面121となす鋭角の角度よりもやや大きく、その差は3~10°程度である。
【0054】
リテーナグランド83は、X方向に沿って隙間90に進入可能な押圧部831と、リテーナグランド83を付勢するコイルばね84を収容するばね収納部832とを有する。押圧部831は、テーパ状の押圧面831aを有する。押圧面831aがボールシート82の径小部822の外周壁面となす鋭角の角度は、例えば40~55°である。
【0055】
図5におけるシール部材およびその周囲を拡大して図6に示す。隙間90の一側(径小部822の外周壁面)と他側(ステム収納部6の内周壁面)との間の距離を隙間90の幅としたときに、第一押圧部110は、第一テーパ面112の、隙間90の幅方向における隙間90の一側寄りの1/4の位置から1/8の位置までの位置で押圧部831によって最も強く押圧される。なお、隙間90の幅方向は、前述のZ方向で表される。
【0056】
押圧部831は、隙間90の幅方向における隙間90の一側寄りの1/4以下の位置に位置する一側縁と、隙間90の他端側ほど隙間90の一側面からの距離が漸次大きくなるテーパ状の押圧面831aとを有する。より具体的には、押圧部831は、第一テーパ面112を押圧する際に、Z方向におけるステム収納部6の内周壁面からQ1以下の当接位置Pcで当接する。ここで、線C1は、Z方向における径小部822の外周壁面からステム収納部6の内周壁面までの距離(隙間の幅)の中心線である。線Q1は、Z方向におけるステム収納部6の内周壁面からの隙間の幅の1/4の位置を示す線である。押圧面831aの一側縁(図6中における押圧面831aの下端面)は、線Q1よりも内周側に位置している。なお、押圧部831が第一押圧部110を最も強く押す位置、すなわちシール部材100を押圧しようとする押圧部831が最初にシール部材100に当接する位置、隙間90の一側寄りの1/4の位置から1/8の位置までの位置であり、例えば1/8の位置(ステム収納部6の内周壁面と線C1との間における内周壁側の1/4の位置)である。
【0057】
また、押圧面831aは、前記隙間の一側面に対してなす角度が、第一テーパ面が第一側面に対してなす角度よりも大きくなるように形成されている。より具体的には、押圧面831aがボールシート82の径小部822の外周壁面となす鋭角の角度を押圧面傾斜角度Aaとし、シール部材100を隙間に挿入した際の第一テーパ面112が径小部822の内周壁面となす鋭角の角度を第一テーパ面傾斜角度Abとすると、角度Aaは、角度Abよりもわずかに大きい。なお、角度Abは、シール部材100の断面における第一テーパ面112が第一側面111となす鋭角の角度と実質的に同じである。
【0058】
ばね収納部832は、X方向における押圧部831の反対側に開口する、X方向に沿う軸を有する円柱状の内部空間を有する凹部である。ばね収納部832にはコイルばね84が収納されている。
【0059】
このように、シール部材100は、バルブ10におけるボールシート82の段部823によってボデー1との間に形成される隙間90に配置される。そして、シール部材100は、シール時にはリテーナグランド83によってボールシート82に向けて押圧される。
【0060】
第一押圧部110は、シール部材100の一側寄りかつ一端寄りに配置されている。したがって、シール部材100の第一側面111は、隙間90において、ボールシート82の径小部822の外周壁面(隙間90の一側部)に密着している。このように、第一押圧部110は、シール部材100が隙間90に配置されたときに、ボールシート82における径小部822の外周壁面に当接するが、ボデー1の内周壁面(隙間90の他側部)からは離間している。
【0061】
第二押圧部120は、シール部材100の他側寄りかつ他端寄りに配置されている。したがって、シール部材100の第二側面121は、隙間90において、ステム収納部6の内周壁面に密着している。このように、第二押圧部120は、シール部材100が隙間90に配置されたときに、ボデー1の内周壁面には当接するが、径小部822の外周壁面からは離間している。シール部材100の第一テーパ面112には、リテーナグランド83の押圧部831の押圧面831aが接触する。
【0062】
第一テーパ面112の第一仮想直線L1に対する傾斜角度と押圧面831aの傾斜角度とは実質的に同じであるが、第一側面111は、第一仮想直線L1に対するテーパ面となっている。このため、隙間90に挿入されている状態では、第一テーパ面112は、押圧面831aに対して第一側面111における上記のテーパの傾斜角度の分だけさらに傾いている。
【0063】
シール部材100の第二押圧部120の先端部は、段部823における当接部823aのテーパ面とボデー1の内周壁面との境界部まで到達している。前述したように、第二押圧部120の第二テーパ面122の角度は、当接部823aのテーパ面とステム収納部6の内周壁とがなす鋭角の角度よりも小さい。したがって、シール部材100が隙間90の奥まで進入した時点では、第二テーパ面122と当接部823aのテーパ面との間には、楔状の断面形状を有する特定の隙間が形成される。このように、第二テーパ面122は、断面形状において当接部823aのテーパ面と楔形の隙間を形成するときには、X2方向において、ボデー1の内周壁面からの距離、および、当接部823aのテーパ面からの距離のいずれもが漸次減少する部分となっている。
【0064】
[シール時の状態]
次に、隙間を封止しているシール部材の状態を説明する。バルブ10の隙間90にシール部材100を配置し、リテーナグランド83によってシール部材100をボールシート82に向けて押圧することにより、隙間90は封止(シール)される。図7は、図4に示す一点破線の枠囲み部分Cにおけるシール部材によるシール状態を説明するための拡大断面図である。
【0065】
[隙間の一側部でのシール状態]
リテーナグランド83は、コイルばね84によってX方向に沿ってボールシート82に向けて付勢される。リテーナグランド83の押圧部831の押圧面831aは、シール部材100の第一テーパ面112にまず隙間90の一側部側で当接し、次いで密着し、その間、シール部材100をX方向に沿ってボールシート82に向けて押圧する。
【0066】
シール部材100は、第一側面111および第二側面121がともに第一仮想直線L1および第二仮想直線L2に対して傾斜している。したがって、シール部材100が第一仮想直線L1および第二仮想直線L2に沿って隙間90に挿入される場合に比べて、第一側面111の傾斜と同じ大きさで、第一テーパ面112は、当接部823a側に傾く。したがって、押圧面831aの一側縁部が、第一テーパ面112の一側部と接触する。
【0067】
押圧面831aが第一テーパ面112の一側部で当接すると、第一テーパ面112は、押圧面831aによって押圧される。よって、第一テーパ面112は押圧面831aで強く押圧され、第一テーパ面112が強く押された部分に対応する第一側面111の部分がボールシート82の外周壁面を強く押圧する。
【0068】
押圧面831aが第一テーパ面112をさらに強く押圧すると、押圧面831aは、第一テーパ面112との間で隙間を生じることなくテーパ面同士で接触し、さらに強く押圧する。よって、リテーナグランド83によるX方向への押圧力は、これらテーパ面同士の面接触によりX方向とボールシート82の外周壁面方向とに変換される。その結果、シール部材100の第一押圧部110は、X方向に沿って押圧されるとともにボールシート82の外周壁面に向けて十分に強い力で押圧される。このように、第一押圧部110は、隙間90に配置されたときに隙間90の開口部側であって隙間90における対向する側部のうちの径小部822の外周壁面側に位置し、開口部側から押されたときに径小部822の外周壁面へ十分に強く押し付けられる。
【0069】
[隙間の他側部でのシール状態]
シール部材100は、リテーナグランド83によるX方向への押圧により、隙間90の段部823まで突き当たり、さらに押圧される。この押圧により第二テーパ面122と当接部823aのテーパ面との間の楔形の隙間はなくなり、第二テーパ面122は当接部823aのテーパ面に密着する。密着に際して楔形の隙間が潰されるのに伴い、第二押圧部120の他端部を隙間90の他側部に向かわせるようなねじりの力が生じ、シール部材100の撓みによる変形が惹き起こされる。そして、第二押圧部120の先端部は、シール部材100が開く方向、すなわちボデー1の内周壁面に向かう方向に、十分に強い力で押圧される。このように、第二テーパ面122は、シール部材100の上記の撓みによる変形を惹起する変形惹起部となっている。
【0070】
また、リテーナグランド83による押圧により、第一押圧部110は、X方向に沿ってボールシート82側に移動し、それに伴って第二押圧部120もX方向に沿ってボールシート82側に移動する。この際、第一押圧部110とボールシート82との間は空隙となっているので、第一押圧部110は、この空隙をX方向に沿って、ボールシート82に当接するまでは移動する余地がある。一方で、第二押圧部120は、当初より第二テーパ面の他端縁が当接部823aのテーパ面に到達していることから、当該押圧による第二押圧部120の移動量は、上述した第二テーパ面122と当接部823aのテーパ面との楔形の隙間を潰す程度となる。
【0071】
また、第一押圧部110は、ステム収納部6の内周壁面から離間していて、これにより第二押圧部120とリテーナグランド83との間は隙間となっている。このように、第二押圧部120は、リテーナグランド83とは離間していて直接は押されない。このため、第二押圧部120は、第一押圧部110がリテーナグランド83によって押されても、それ以上X方向には押されることがない。したがって、第二押圧部120のX方向への移動量は、第一押圧部110のそれに比べて大幅に少ない。よって、連結部130付近を境とする第一押圧部110と第二押圧部120との移動量の差によって、第二押圧部120を隙間90の他側部に向かわせるようなシール部材100の撓みによる変形が惹き起こされる。このように、隙間90の他側部およびステム収納部6の内周壁面とは離間して隙間90内に配置される第一押圧部110は、シール部材100の上記の撓みによる変形を惹起する変形惹起部となっている。
【0072】
また、第一側面111の一端側がより強く押圧されることで、シール部材100の断面において、第一側面111のテーパが第一仮想直線L1に近づくように均される。このため、シール部材100の全体がシール部材100の他端側かつ他側部側に上向く姿勢にさせる力が生じる。ただし、第二押圧部120は、他端側および他側部側には移動できない。したがって、当該力は、第二押圧部120が隙間90の他側部に向かうようにシール部材100を撓ませる力となる。このように、第一側面111が上記のテーパ面であることによっても、第二押圧部120を隙間90の他側部に向かわせるようなシール部材100の撓みによる変形が惹き起こされる。このように、第一側面111のテーパ面は、シール部材100の上記の撓みによる変形を惹起する変形惹起部となっている。
【0073】
さらに、シール部材100は、断面形状の中央部においてくびれた形状を形成する連結部130を含んでいる。このため、第一押圧部110と第二押圧部120とのX方向への移動量の差が発生しやすく、よって前述した撓み力がより発生しやすいことから、第二押圧部120の先端部に押圧力が集中する効果がより一層高められる。このように、連結部130も、第二押圧部120がステム収納部6の内周壁面に向かう方向にシール部材100を撓ませる変形を惹起する変形惹起部となっている。
【0074】
このように本実施形態では、リテーナグランド83によるX方向への押圧力は、X方向とボールシート82の外周壁面側への力とに変換され、そしてシール部材100の撓みによる変形を惹起して第二押圧部120をボデー1の内周壁面側へ十分に強く押圧する力となる。また、第二押圧部120の第二テーパ面122の傾斜角度を、接触面(ボールシート82における当接部823aのテーパ面)の傾斜角度と異ならせることにより、第二押圧部120の先端付近(ボールシート82に近い部位)には、図の紙面に対して反時計回り方向のねじり力も発生すると考えられる。
【0075】
そしてさらに、第二押圧部120の第二側面121は、第二仮想直線L2に対して傾斜するテーパ面であることから、ボールシート82に近い部位ほど、ボデー1の内周壁面とボールシート82の当接部823aのテーパ面との間で強く圧縮される。これらの力が合わさり、第二押圧部120(特にその他端部)では、ボデー1の内周壁面との間で強い面圧が発生する。同様に、第一押圧部110では、第一側面111が第一仮想直線L1に対して傾斜するテーパ面であることから、ボールシート82の外周壁面に対して一端側でより強い面圧が生じる。
【0076】
上記のように、シール部材100は、X方向への押圧によって、図7の一点鎖線で囲むD部およびE部のそれぞれで十分に強い力で隙間90の側部および当接部823aのテーパ面に押圧される。したがって、シール部材100は、リテーナグランド83によるX方向の押圧によって、シール部材100の一端部ではボールシート82の外周壁に強く密着し、また、シール部材100の他端部ではボデー1の内周壁に強く密着する。
【0077】
一方、流路Pを流れる流体が低温流体である場合、流路P付近も流体によって低温とされる。この温度が低温であればあるほど、材質に関わらずシール部材100は固くなる傾向にあり、またシール部材100の材質によっては収縮することもある。これに対し、上述したシール部材100は、ボールシート82側およびボデー1側の両方に強い面圧を発生させるために極めて有利な構造である。このため、シール部材100は、低温、特に超低温条件下で硬化、あるいは収縮したとしても、ボールシート82とボデー1との間を確実に封止することができる。よって、バルブ10の流路Pからキャビティへの流体の進入を防止することができる。
【0078】
特に、シール部材100は、樹脂製とすることで、超低温などの変形しにくい環境においても十分に変形することが可能であり、リテーナグランド83による押圧により、第一押圧部110がボールシート82の外周壁面に押し付けられる力、および、第二押圧部120がボデー1の内周壁面に押し付けられる力を一層効果的に発現することが可能である。
【0079】
[性能を向上させる主な特徴]
本発明の実施形態では、その断面形状が略逆Z型形状である環状のシール部材100が隙間90の深さ方向に押圧されることで、シール部材100が収容される隙間90の幅方向にも十分なシール性が得られる。シール部材100がその一端側からリテーナグランド83に押され、シール部材100の他端側(先端側)がボールシート82を押すことで、シール部材100がその中央付近で撓むように変形する。この撓みの力により、隙間90の幅方向のシール性は、特に隙間90の他側での(外径側への)シール力が向上することによって得られる。
【0080】
このような撓みの力は、シール部材100が隙間90をその深さ方向に平行移動するように押圧される場合でも発生するが、本実施形態では、当該撓みの力を高める様々な工夫がなされている。
【0081】
たとえば、本実施形態のシール部材100は、第一面取り部114および第二面取り部124を有する。第一面取り部114は、連結部130と第一側面111との角部を面取りすることで形成される形状を有し、第二面取り部124は、連結部130と第二側面121との角部を面取りすることで形成される形状を有する。そして、本実施形態では、第一面取り部114が第二面取り部124に比べて大きい。このように回転軸D1に対して、シール部材100の内径側が外径側に比べてより大きく欠けた形状を有することによって、外径側へより変形しやすくなる。よって、シール部材100が一端側から隙間90の深さ方向に沿って押された場合に、その先端側となる第二押圧部120がシール部材100の外径側に向かって広がる方向に変形しやすくなり、上記の撓みの発生に有利となる。
【0082】
第一面取り部114および第二面取り部124の形状および当該面取り部による欠損部の体積は、上記の撓みを発生させる観点から適宜に決めてよい。上記の面取り部を大きくし過ぎると、第一側面111あるいは第二側面121がより小さくなり、シール性が弱くなることがある。また、上記の面取り部の位置を連結部130側により近づけると、シール部材100全体の強度が低くなることがある。第一面取り部114および第二面取り部124の大きさは、シール部材100の断面形状において、回転軸D1を挟んで第一側面111側と第二側面121側との上記撓みやすさの差が生まれる程度であればよい。よって、面取り部であれば前述の面取りの寸法比(Lc1/Lc2)とすることで、シール部材100のシール性および強度が十分に維持されつつ、前述した撓みやすさの利点が十分に得られる。
【0083】
また、本実施形態では、リテーナグランド83は、シール部材100を押圧する位置は、隙間90の幅におけるより内径側に偏った位置で押圧力が最大となるようにシール部材100を押圧している。このように押圧することで、より詳しくは、リテーナグランド83が隙間90の幅における一側からの距離が幅全体の1/4から1/8となる位置でシール部材100を押圧する。上記の位置に最も荷重が加わることにより、またこのような荷重をシール部材100の第一テーパ面112で受けることにより、シール部材100の第一押圧部110を内径側(径小部822の外周面)に押し付ける力がより強く発生する。さらに、シール部材100に前述の撓みを生じさせる力も発生しやすくなる。その結果、シール部材100の隙間90の内外径の両側に対するシール力がより一層高まる。
【0084】
本実施形態では、リテーナグランド83によるシール部材100への上記のようなお押圧は、リテーナグランド83およびシール部材100のテーパ面での接触を介して実施される。本実施形態では、上記の位置で最も強く押圧するために、リテーナグランド83側のテーパ面(押圧面831a)のテーパ角度を、シール部材100側のテーパ面(第一テーパ面112)のテーパ角度よりも若干大きくしている。その結果、リテーナグランド83は、押圧面831aの一側縁で最初に第一テーパ面112に当接し、それ以降の押圧では、押圧面831aが第一テーパ面112に密着する。その結果、上記のように、シール部材100の隙間90の内外径の両側に対するシール力がより一層高められる。
【0085】
押圧面831aと第一テーパ面112との最初の当接位置は、上記のような撓みとシール性との両方の効果が得られる範囲において、適宜に決めてよい。当該当接位置が隙間90の幅方向において径小部822の外周面に近すぎると、第一テーパ面112の一端部でシール部材100が破断することがある。このような破断を予防する観点と、当接位置による上記の効果を得る観点から、当該当接位置は、前述したように隙間90の一側寄りの1/8以上1/4以下の位置から適宜に決めることができ、当接位置によるシール性向上の効果の観点から、隙間90の一側寄りの1/8の位置が最も好ましい。
【0086】
また、本実施形態における上記のシール性は、シール部材100の耐久性の向上にも寄与する。本実施形態では、前述したように、リテーナグランド83による押圧力によって撓む力が、シール部材100における隙間90の幅方向(内径側および外径側の両方)へのシール性を高めるように作用する。よって、隙間90に充満するように変形してシール性を高める場合に比べて、シール部材100の体積および形状の変化が小さい。よって、シール部材100の体積変化が生じるような温度環境で使用される場合でもシール部材100は、体積または形状の変化によって隙間をシールするシール部材に比べて、十分なシール性を発現する。
【0087】
また、本実施形態におけるシール部材100は、空間内に充満して隙間90を塞ぐというよりは、シール部材100に加わる荷重を利用して撓むことでシール力を発揮する。よって、使用環境における温度変化に伴う熱サイクルによってわずかであっても体積変化を生じる条件においても、シール部材100は、所期のシール力を維持しやすく、また、当該熱サイクルによる体積変化に対しても優れた耐久性を有する。本実施形態のシール部材100を液化水素という極低温の流体のためのバルブに使用する場合では、極低温と常温との間の熱サイクルが生じ得る。従来のシール部材のうち、押圧によって体積変化を伴って隙間を塞ぐシール部材では、極低温時に体積収縮や常温時の膨張等の繰り返し(熱サイクル)によって体積変化が起きたりすると、シール性が低下しやすくなることがある。上述のとおり、本実施形態のシール部材100は、熱サイクルに対する耐久性を十分に備えていることから、極低温のような過酷な温度環境での使用に好適である。
【0088】
[シール強度の検討]
次に、シール部材が前述のリテーナグランドに押圧されたときのシール部材が押圧する強度に関するコンピュータシミュレーションによる結果を説明する。図8は、本発明の一実施形態に係るシール部材による押圧力の強度および分布を説明するための第一の図である。図9は、本発明の一実施形態に係るシール部材による押圧力の強度および分布を説明するための第二の図である。図10は、本発明の一実施形態に係るシール部材における各部位の移動量を説明するための第一の図である。図11は、本発明の一実施形態に係るシール部材における各部位の移動量を説明するための第二の図である。
【0089】
コンピュータシミュレーションは、図1図2に示されるようなシール部材を図3図7に示されるようなバルブに適用したモデルについて、下記の条件で行った。シール部材には、シミュレーションの便宜上、第一側面および第二側面はいずれも、仮想直線に対して傾斜するテーパ面ではなく、断面形状において第一仮想直線L1で表される面および第二仮想直線L2で表される面とした。シール部材の材質には、超高分子量ポリエチレン素材「タイバーUHMW-PE」(三菱ケミカルアドバンスドマテリアル株式会社製、「タイバー」は同社の登録商標)を用いた。
<条件>
第一テーパ面への押圧力:6000~10000N(常温で8,500N)
第一テーパ面への押圧方向:X方向
流体の種類:液化水素
流体温度:-253℃
第一テーパ面の角度Ab:40~45°
当接位置Pc:Z方向におけるステム収納部6の内周壁面からの隙間幅の1/8(内周壁面と線Q1との間における1/2)の位置
第二テーパ面の角度:50~55°
逆テーパ面の角度:45°
シール部材の材質:UHMW-PE
【0090】
上記条件において、上記シール部材が受ける圧力を色の変化で表示した。図8および図9において、色が濃い部分をP1とし、P1に次いで色が濃い部分をP2として、いずれも斜線で示している。図8および図9は、いずれも、色が濃い部分ほど強い面圧が発生していることを示している。
【0091】
図8に示されるように、シール部材100の第二側面121では、第二押圧部120の先端部に強い面圧が発生している。また、図9に示されるように、シール部材100の第二テーパ面122では、第二押圧部120における他端側の約半分の領域で強い面圧が発生しており、特により他端側の面圧が大きくなっている。また、シール部材100の第一側面111では、第一押圧部110における一端側の約半分の領域で強い面圧が発生しており、その中でも強い面圧が生じている部分における中央部の領域の面圧がより大きくなっている。また、図8および図9かに示されるように、これらの圧力を受ける部分は、シール部材100の周方向で略一定の幅を有している。
【0092】
このように、上記のコンピュータシミュレーションは、シール部材100は、第一テーパ面112をX方向に押圧したときに、その全周において上記の強さの分布の圧力を受けていることを示している。なお、第一側面111および第二側面121におけるP1、P2の部分は、これらの側面が仮想直線に対して傾斜する前述のテーパ面である場合には、X方向においてより広く分布する。
【0093】
また、図10では、第一押圧部110の第一テーパ面112が押圧面831aによってX方向に押圧された場合において、矢印の向きは、シール部材100における矢印の基端の部分で生じる力の向きを表しており、矢印の太さは、当該力の大きさを表している。矢印が太いほど、発生する力が強いことを表している。また、矢印の長さは、移動量を表しており、矢印が長いほど、移動量が大きいことを表している。
【0094】
図11は、第一押圧部の第一テーパ面が押圧面によってX方向に押圧された場合の、シール部材100の一断面における各部の移動量の数値を示している。数値は、図11中のシール部材の断面における升目の部分における、X方向への押圧による上記の移動量の最大値を示している。その単位は「mm」である。
【0095】
図10図11に示されるように、リテーナグランド83で第一テーパ面112をX方向に押圧したときに、第一押圧部110のボールシート側への移動量は大きいのに対し、第二押圧部120の当該移動量は小さいことがわかる。以上の結果から、リテーナグランド83で第一テーパ面112をX方向に押圧することにより、連結部130を境に第二押圧部120がボデー1の内周壁面側に撓む力がシール部材100に生じることが確認される。
【0096】
ここで、参考例のシール部材を用意し、本発明の実施形態に係るシール部材との対比を行う。図12は、参考例のシール部材がバルブの隙間を塞ぐ状態を模式的に示す断面図である。参考例のシール部材200は、図12に示されるように、J字様の断面形状を有している。参考例のシール部材200は、第一押圧部210が隙間90の他側部にも存在すること、および、第一押圧部210が一側部側と他側部側との両方に、押圧面831aによって押圧されるテーパ面212、213を有していること、が異なる以外は、前述した実施形態のシール部材100と同様の構成を有している。第二押圧部220は、第二テーパ面222で隙間90の当接部に当接し、第二側面221で隙間90の他側部に当接する点で、前述した実施形態のシール部材100と同様である。なお、参考例のシール部材200においても、前述の本発明の実施形態に係るシール部材100のコンピュータシミュレーションと同様に、第一側面211および第二側面221は、仮想直線に対して傾斜するテーパ面にはなっていない。
【0097】
図13は、参考例のシール部材200をX方向に押圧したときにシール部材200およびその周囲で発生する面圧の強さを表している図である。図14は、参考例のシール部材200をX方向に押圧したときにシール部材200で発生する面圧の強さを表している図である。図13図14においても、P1は強い面圧が生じる部分を表しており、P2はP1に次いで強い面圧が生じる部分を表している。
【0098】
図13図14から明らかなように、参考例のシール部材においては、リテーナグランドの押圧面831aによる押圧によって、シール部材200の一端におけるV字状の溝部(第一押圧部210における一端側のテーパ面212、213)のうち、上側のテーパ面213のみに強い面圧が発生し、下側のテーパ面212には弱い面圧しか発生していないことが分かる。この結果から、参考例のシール部材200は、特にボールシートの外周壁面に対する面圧が不十分となり易いことが確認される。
【0099】
[シール性の対比]
(1)低温での実験
図3に示されるようなバルブにおけるシール部材によるシール性を確認するための要素試験を行った。具体的には、まず、バルブのボデーにおけるシール部材の装着部付近の形状を再現する治具(ボデー治具)を準備し、そして試験装置を準備した。当該試験装置は、ボデー治具にシール部材を装着した後、ボデー治具との間でシール部材を挟むようにリテーナグランドを配置し、バルブに用いるスプリングと同程度の押圧力でボールシートが押されるように組付けることによって準備した。シール部材としては、図1、2に示されるようなUMW-PE製のシール部材を用意した。このシール部材をS1とする。また、図12図14に示されるようなシール部材であって、UMW-PE製の当該シール部材を用意した。このシール部材をSC1とする。
【0100】
そして、低温(-196℃)条件にてシール性能を確認した。流体としてヘリウムガスを用いて、試験装置のボデー治具側からシール部材に対し、所定の圧力(ΔP)を加え、試験装置のリテーナグランド側に漏れ出たヘリウムガスの量(単位:mL/分)を測定することで、シール部材での漏れ量を測定した。表1中、「1」、「2」は実験例の番号を表す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1から明らかなように、本発明の実施形態に相当するシール部材S1によれば、低温でのヘリウムガスの漏れ量は、0~16.0mL/分程度であった。
【0103】
これに対して、参考用のシール部材SC1では、ヘリウムガスの圧力が高まるほどシール部材C1に比べてヘリウムガスの漏れ量が多くなった。これは、シール部材SC1においては、シール部材SC1がV字状に押圧されることによって、シール部材SC1の内径側への面圧がシール部材S1に比して小さいため、と考えられる。
【0104】
〔変形例〕
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0105】
たとえば、シール部材の平面形状は、シールすべき隙間の平面形状に応じて適宜に決めることが可能である。シール部材の平面形状は、当該隙間の平面形状と同じであってもよいし、当該隙間の平面形状の一部であってもよい。シール部材の平面形状は、環状に限定されず、多角形状でもよいし、線状であってもよい。
【0106】
本発明では、第一押圧部110が隙間90における外周側に配置されてステム収納部6の内周壁面を押圧するように構成され、第二押圧部が隙間90の内周側に配置されて径小部822の外周壁面を押圧するように構成されていてもよい。
【0107】
本発明では、第二押圧部120は第二テーパ面122に代えて、シール部材100をステム収納部6の内周壁面に向けて変形させる構成を有していてもよい。たとえば、第二押圧部120は、段部823の当該内周壁面側に配置されている凸部に当接する平面部を有していてもよい。同様に、第一テーパ面112も、リテーナグランドの押圧面が径小部822の外周壁面側に凸部を有する場合には、平面部であってもよい。
【0108】
本発明では、第一側面111の仮想直線に対するテーパおよび第二側面121の仮想直線に対するテーパに代えて、同様の効果を呈する凸部をシール部材100が有していてもよい。また、シール部材100は、隙間90の構造によっては、第一側面111および第二側面121におけるテーパを有していなくてもよい。たとえば、ステム収納部6の内周壁面が段部823に近づくほど隙間90の幅が漸次狭くなるテーパ面である場合には、シール部材100は、第二側面121の仮想直線に対するテーパを有していなくてもよい。
【0109】
本発明のシール部材は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形が可能である。例えば、シール部材100において、第一押圧部110と第二押圧部120との間はくびれた連結部130となっているが、この連結部は必ずしもくびれ形状となっている必要は無く、シール部材が全体としてひし形形状の断面を有していてもよい。
【0110】
また、前述の実施形態におけるシール部材100の切り欠き端部は、その断面形状が直線状でなくてもよい。たとえば、切り欠き端部の断面形状は、第一押圧部または第二押圧部におけるテーパ面および側面の一方または両方に対して連続する曲線を含んでいてもよい。
【0111】
本発明のシール部材は、シール部材が配置され得る、無端形状の平面形状を有する有底の隙間を有する限り、いかなるバルブにも適用可能である。また、本発明のシール部材は適当な物性を有する材質を採用することにより、超低温の環境のみならず、高温環境にも適用可能である。
【0112】
具体的には、一定の方向に押し付けられるシール部材であって、同時に、押し付けられる方向に対して両側の側方に対してもシール性を発揮する、すなわち3方向へのシール性が求められるような用途に対して、優れたシール性を発揮することができる。このような用途としては、例えば、図3及び図4に示すバルブにおいて、ボデーシール(トラニオンプレート61とステム3との間のシールや、トラニオンプレート61とボデー1の内周との間のシール)にも適用可能である。
【0113】
なお、本発明の実施形態では、シール部材のシール性は、シール部材の使用条件、あるいはシール部材に求められる性能、に応じて適宜に設定されればよい。したがって、シール部材の使用条件およびシール部材に求められる性能などの種々の条件を満たす範囲において、本発明の実施形態のシール部材の構成を決定することが可能である。よって、このような条件によっては、本発明の実施形態のシール部材は、前述した寸法違いの面取り部を有していなくてもよいし、リテーナグランドの押圧面とシール部材における第一テーパ面とが最初に当接する位置は、前述の位置Pcでなくてもよいし、あるいは、当該押圧面のテーパ角度と第一テーパ面のテーパ角度との差はなくてもよい。
【0114】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態のシール部材(100)は、一端が開口部、他端が当接部(823a)となっており、一端から他端に向かう方向を深さ方向とする隙間(90)に配置され、一端側から深さ方向に押圧されたときに隙間の両側部および当接部に密着して隙間を塞ぐシール部材であって、シール部材の一端側に配置され、シール部材のシール時に隙間の深さ方向に押圧されたときに隙間の一側部を押圧する第一押圧部(110)と、シール部材の他端側に配置され、シール部材のシール時における第一押圧部への押圧によって当接部に密着するとともに隙間の他側部を押圧する第二押圧部(120)と、シール部材のシール時における第一押圧部への押圧によって第二押圧部が隙間の他側部に向かう方向にシール部材を撓ませる変形惹起部(第二テーパ面122)と、を有する。
【0115】
また、本発明の実施形態のシール機構は、上記隙間内に、一端側から深さ方向に押圧されたときに隙間の両側部及び当接部に密着して隙間を塞ぐように上記のシール部材が配置されてなるシール機構であって、第一押圧部は、隙間の他側部から離間しており、かつ、第二押圧部は、隙間の一側部から離間しており、シール部材が一端側から深さ方向に押圧され、第一押圧部が他端側に移動しつつ、第二押圧部が当接部に当接することで第二押圧部が隙間の他側部に向かう方向に撓まされた状態で、シール部材が隙間を塞ぐことにより構成されている。
【0116】
また、本発明の実施形態のバルブは、上記のシール部材を、シート部(ボールシート82)、ボデー(1)および第一押圧部に当接するリテーナグランド(83)に囲まれる隙間に有し、当該シール部材がリテーナグランドによってシート部に向けて押圧されて隙間を塞いでいる。
【0117】
さらに、本発明の実施形態のシール方法は、バルブ(10)のシート部およびボデーの間の隙間に上記のシール部材を配置し、リテーナグランドによってシール部材の第一押圧部をシート部に向けて押圧して隙間を封止する。
【0118】
上記の構成から、本発明の実施形態は、上記のシール部材によって低温高圧時でも優れたシール性を発現することができる。
【0119】
本発明の実施形態において、第一押圧部は、シール部材の一端寄りおよび一側寄りの部分であり、シール部材のシール時に隙間の一側部に当接している第一側面(111)と、第一押圧部の一端側で露出し、シール部材の断面形状における第一側面からの距離がシール部材の一端に向けて漸次減少する第一テーパ面(112)と、を含み、第二押圧部は、シール部材の他端寄りおよび他側寄りの部分であり、シール部材のシール時に隙間の他側部に当接している第二側面(121)と、第二押圧部の他端側で露出し、シール部材の断面形状における第二側面からの距離がシール部材の他端に向けて漸次減少する第二テーパ面(122)と、を含み、シール部材のシール前における第二テーパ面の第二側面に対する傾斜角度は、シール部材のシール時の傾斜角度よりも小さく、変形惹起部は、第二テーパ面を含む部分であってよい。この構成は、隙間の深さ方向への押圧によって隙間の両側部を十分な強さで押圧する観点からより一層効果的である。
【0120】
本発明の実施形態において、第一押圧部は、シール部材の断面形状における第一テーパ面の一端縁と第一側面の一端縁とを結んで形成される第一切り欠き端部(113)を有し、第二押圧部は、シール部材の断面形状における第二テーパ面の他端縁と第二側面の他端縁とを結んで形成される第二切り欠き端部(123)を有し、第一側面は、シール部材の断面形状における第二側面の一端縁と第二テーパ面の他端縁とを結ぶ第二仮想直線との距離が第一側面の他端縁に向けて漸次減少するテーパ面であり、第二側面は、シール部材の断面形状における第一側面の他端縁と第一テーパ面の一端縁とを結ぶ第一仮想直線との距離が第二側面の一端縁に向けて漸次減少するテーパ面であってもよい。この構成は、隙間の側部への押圧力を高める観点、および、当該側部において押圧される部分を隙間の深さ方向へより広く分布させる観点からより一層効果的である。
【0121】
本発明の実施形態において、第一押圧部は、第一側面の他端縁に第一面取り部(114)をさらに有し、第二押圧部は、第二側面の一端縁に第二面取り部(124)をさらに有し、第一面取り部は第二面取り部よりも大きくてもよい。この構成は、シール部材のシール性を高める観点からより一層効果的である。
【0122】
本発明の実施形態のシール部材が樹脂製であることは、シール部材のシール性を高める観点からより一層効果的であり、シール部材が変形しにくい超低温環境に適用するのに好適である。
【0123】
本発明の実施形態のシール部材は、隙間への挿入方向に沿ってみたときに無端形状を有し、バルブにおけるシート部とボデーとの間に形成される隙間に配置されて、リテーナグランドによってシート部に向けて押圧されてよい。当該シール部材は、バルブにおける弁体をシートに適用する観点からより効果的である。
【0124】
本発明の実施形態において、バルブの弁体がボール(4)であることは、弁体のシールの用途においてより一層効果的である。
【0125】
本発明の実施形態において、バルブは、液体水素が流れる配管を開閉するためのバルブであってよい。本発明の実施形態のシール部材は、液体水素ほどの超低温環境においても、当該液体水素の隙間からの漏れを防止可能なほどに優れたシール性を発現することができる。
【0126】
本発明の実施形態において、第一押圧部は、第一テーパ面の、シール部材が挿入される隙間の幅方向における隙間の一側寄りの1/4の位置から1/8の位置までの位置で最も強く押圧されているように構成されていてもよい。この構成は、シール部材のシール性を高める観点からより一層効果的である。
【0127】
本発明の実施形態において、リテーナグランドがシール部材を押圧する押圧部(831)を含み、押圧部が、隙間の幅方向における隙間の前記一側寄りの1/4の位置から1/8の位置までの位置に位置する一側縁と、隙間の他端側ほど隙間の一側面からの距離が漸次大きくなるテーパ状の押圧面(831a)とを有し、押圧面が隙間の一側面に対してなす角度は、第一テーパ面が前記第一側面に対してなす角度よりも大きくてもよい。この構成は、シール部材のシール性を高める観点からより一層効果的である。
【符号の説明】
【0128】
1、510 ボデー
2 ボンネット
2a 貫通部
3 ステム
4 ボール
4a、61a 貫通孔
4b 凸部
4b’ 突出端
5 弁体収納部
6 ステム収納部
6a 連通口
6b 上端開口部
6c 中間部分
6d フランジ部
7 配管構造部
9 操作部
10 バルブ
21 パージ用バルブ
22 グランドプレート
23 グランドパッキン
31 連結部
51 中央領域
51a 凹部
52 端領域
61 トラニオンプレート
62 ヨークプレート
62b 外周面
80 シール機構
82 ボールシート
83 リテーナグランド
84 スプリング
90 隙間
99 ハンドル
100、200 シール部材
110、210 第一押圧部
111、211 第一側面
112 第一テーパ面
113 第一切り欠き端部
114 第一面取り部
120、220 第二押圧部
121、221 第二側面
122、222 第二テーパ面
123 第二切り欠き端部
124 第二面取り部
130 連結部
212、213 テーパ面
500 パッキン
501 内周壁面
502 外周壁面
503 第一テーパ面
504 第一逆テーパ面
505 第二テーパ面
821 径大部
822 径小部
823 段部
823a 当接部
831 押圧部
831a 押圧面
832 ばね収納部
L1 第一仮想直線
L2 第二仮想直線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15