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特許7498321マンホールポンプの診断方法及びマンホールポンプの診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】マンホールポンプの診断方法及びマンホールポンプの診断装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240604BHJP
   G01M 13/00 20190101ALI20240604BHJP
   F04D 15/00 20060101ALI20240604BHJP
   F04B 51/00 20060101ALI20240604BHJP
   E03F 5/22 20060101ALI20240604BHJP
   E03F 5/02 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G05B23/02 302Y
G01M13/00
F04D15/00 B
F04D15/00 D
F04B51/00
E03F5/22
E03F5/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023016528
(22)【出願日】2023-02-07
(62)【分割の表示】P 2018245241の分割
【原出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2023078117
(43)【公開日】2023-06-06
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【弁理士】
【氏名又は名称】河崎 眞一
(72)【発明者】
【氏名】小松 一登
(72)【発明者】
【氏名】川勝 啓行
(72)【発明者】
【氏名】川畑 雅寛
(72)【発明者】
【氏名】吉永 洋
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-034513(JP,A)
【文献】特開2018-024055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00 -23/02
G01M 13/00
F04D 15/00
F04B 51/00
E03F 5/22
E03F 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象となるマンホール内に設置され、起動と停止を繰り返す2台のマンホールポンプの診断方法であって、
所定の診断対象期間内の各マンホールポンプの1起動当りの運転時間をサンプリングしてそれぞれの平均運転時間を一対の特性値として算出するサンプリングステップと、
前記サンプリングステップで算出された一対の特性値を、前記診断対象期間を含む直近の所定期間の各特性値に基づいて算出される統計データに基づいて正規化する正規化ステップと、
一対の特性値の一方をx軸、他方をy軸とする2次元座標系に、正規化された一対の特性値をプロットし、プロットした特性値点が2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて各マンホールポンプの正常または異常を一次診断する診断ステップと、
を備えるとともに、
前記2次元座標系に設定された前記境界閾値の外側が複数の領域に区分され、各区分が異常原因の何れかと関連付けられた診断マップを備え、
前記診断ステップは、各特性値点が前記診断マップにプロットされた領域に基づいて異常原因を診断するマンホールポンプの診断方法。
【請求項2】
診断対象となるマンホール内に設置され、起動と停止を繰り返す2台のマンホールポンプの診断方法であって、
所定の診断対象期間内の各マンホールポンプの1起動当りの運転時間をサンプリングしてそれぞれの平均運転時間を算出し、一方の平均運転時間と、一方の平均運転時間と他方の平均運転時間の比とを一対の特性値とするサンプリングステップと、
前記サンプリングステップで算出された一対の特性値を、前記診断対象期間を含む直近の所定期間の各特性値に基づいて算出される統計データに基づいて正規化する正規化ステップと、
一対の特性値の一方をx軸、他方をy軸とする2次元座標系に、正規化された一対の特性値をプロットし、プロットされた特性値点が前記2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて各マンホールポンプの正常または異常を一次診断する診断ステップと、
を備えるとともに、
前記2次元座標系に設定された前記境界閾値の外側が複数の領域に区分され、各区分が異常原因の何れかと関連付けられた診断マップを備え、
前記診断ステップは、各特性値点が前記診断マップにプロットされた領域に基づいて異常原因を診断するマンホールポンプの診断方法。
【請求項3】
前記診断ステップは、学習データとして入力される前記特性値に基づいて機械学習装置により前記境界閾値を自動生成する請求項1または2記載のマンホールポンプの診断方法。
【請求項4】
診断対象となるマンホール内に設置され、起動と停止を繰り返す2台のマンホールポンプの診断装置であって、
所定の診断対象期間内にサンプリングされた各マンホールポンプの1起動当りの運転時間から算出された各平均運転時間で構成される一対の特性値を、前記診断対象期間を含む直近の所定期間の各特性値に基づいて算出される統計データに基づいて正規化する正規化処理部と、
一対の特性値の一方をx軸、他方をy軸とする2次元座標系に、正規化された一対の特性値をプロットし、プロットした特性値点が2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて各マンホールポンプの正常または異常を一次診断する診断処理部と、
を備えるとともに、
前記診断処理部は、前記2次元座標系に設定された前記境界閾値の外側が複数の領域に区分され、各区分が異常原因の何れかと関連付けられた診断マップを備え、各特性値点が前記診断マップにプロットされた領域に基づいて異常原因を診断するマンホールポンプの診断装置。
【請求項5】
診断対象となるマンホール内に設置され、起動と停止を繰り返す2台のマンホールポンプの診断装置であって、
所定の診断対象期間内にサンプリングされた各マンホールポンプの1起動当りの運転時間から算出された各平均運転時間のうち、一方の平均運転時間と、一方の平均運転時間と他方の平均運転時間の比とで構成される一対の特性値を、前記診断対象期間を含む直近の所定期間の各特性値に基づいて算出される統計データに基づいて正規化する正規化処理部と、
一対の特性値の一方をx軸、他方をy軸とする2次元座標系に、正規化された一対の特性値をプロットし、プロットされた特性値点が前記2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて各マンホールポンプの正常または異常を一次診断する診断処理部と、
を備えるとともに、
前記2次元座標系に設定された前記境界閾値の外側が複数の領域に区分され、各区分が異常原因の何れかと関連付けられた診断マップを備え、各特性値点が前記診断マップにプロットされた領域に基づいて異常原因を診断するマンホールポンプの診断装置。
【請求項6】
前記診断処理部は、学習データとして入力される一対の特性値に基づいて前記境界閾値を自動生成する機械学習装置を備えている請求項4または5記載のマンホールポンプの診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンホール内に設置され、起動と停止を繰り返す2台のマンホールポンプの診断方法及び診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マンホールポンプ設備は、流入管から流入した汚水を貯留する貯水部と、貯水部に貯留された汚水を流出管に排水する複数台のポンプと、貯水部に貯留された汚水の水位を計測する水位計と、水位計で計測された水位がポンプ起動水位に達すると何れかのポンプを起動して汚水を流出管に排水し、水位がポンプ停止水位に達すると当該ポンプを停止する汚水搬送制御を実行する制御装置を備えた制御盤を備えている。
【0003】
このようなマンホールポンプ設備には、通常2台のポンプが設置され、汚水を搬送する度にそれらのポンプを交互に運転するように制御装置が構成されている。
【0004】
特許文献1には、ポンプ場における複数のポンプにより排出すべき所定時間毎の積算流入量を各ポンプの所定時間内の運転時間で除した値を各ポンプの平均的排水能力として時系列データで管理する手段と、その時系列データとして管理される各ポンプの平均的排水能力が予め設定されている排水能力範囲を越えたか否かを判定する手段と、複数のポンプ各々の平均的排水能力が設定排水能力範囲を越えたときに警報を発する手段とを備えているポンプ場の監視システムが提案されている。
【0005】
特許文献2には、水位センサにより検知された貯留水位がポンプ起動水位に達すると電磁開閉器を作動させて水中ポンプを駆動する圧送制御部と、電動機を駆動する電磁開閉器の作動状態と、電磁開閉器を介して電機子巻線に接続される給電線の電流を検知する電流センサの検知状態と、貯留水位に基づいて異常の有無を判定する異常判定部を備え、異常判定部は、電磁開閉器の作動中に電流センサにより電流が検知されず、水位センサにより貯留水位の低下が検知されないと、オートカットが作動している電動機の過熱異常と判定する水中ポンプの制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-34338号公報
【文献】特開2010-236191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような従来のマンホールポンプ設備に備えた制御装置は、ポンプの駆動電流値、起動水位から停止水位に到るまでのポンプの運転時間、ポンプの温度などの物理量が所定の閾値を超えたか否かにより各ポンプが異常であるか否かを判定していた。そして、想定される異常の種類に適した物理量を計測するために様々なセンサを用いて計測処理を行なう必要があり、非常に煩雑になるという問題があった。
【0008】
また、異常判断するための閾値もポンプが設置されたマンホールの環境に左右されるため一律に設定することが困難であった。例えば単位時間当たりの入水量が多い地域と少ない地域ではポンプに起動頻度や運転時間に長短の偏りが生じるため、一定の閾値で判断すると正確な判定が困難になるという問題があった。
【0009】
特に、各マンホールポンプ設備の制御盤に通信装置を備え、各通信装置から送信されたポンプの運転データを管理するサーバを備え、管理者が所有する端末からサーバにアクセスして運転状況をモニタすることが可能な遠隔監視システムでは、それぞれのマンホールポンプ設備に備えたポンプの様々な異常を個別に判定するために、非常に多くの物理量を送信する必要があり、そのためのセンサの数や送信データの容量が増大する一方で、適切な閾値を設定することが困難であるという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、上述した問題に鑑み、少ない物理量であっても様々な原因による異常診断が的確に行なえるマンホールポンプの診断方法及び診断装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本発明によるマンホールポンプの診断方法の第一の特徴構成は、診断対象となるマンホール内に設置され、起動と停止を繰り返す2台のマンホールポンプの診断方法であって、所定の診断対象期間内の各マンホールポンプの1起動当りの運転時間をサンプリングしてそれぞれの平均運転時間を一対の特性値として算出するサンプリングステップと、前記サンプリングステップで算出された一対の特性値を、前記診断対象期間を含む直近の所定期間の各特性値に基づいて算出される統計データに基づいて正規化する正規化ステップと、一対の特性値の一方をx軸、他方をy軸とする2次元座標系に、正規化された一対の特性値をプロットし、プロットした特性値点が2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて各マンホールポンプの正常または異常を一次診断する診断ステップと、を備えるとともに、前記2次元座標系に設定された前記境界閾値の外側が複数の領域に区分され、各区分が異常原因の何れかと関連付けられた診断マップを備え、前記診断ステップは、各特性値点が前記診断マップにプロットされた領域に基づいて異常原因を診断する点にある。
【0012】
サンプリングステップで時系列的にサンプリングされた各マンホールポンプの1起動当りの運転時間から算出されたそれぞれの平均運転時間で構成される特性値を正規化ステップで正規化することにより、例えばマンホールポンプの固有の機差による影響や設置環境の影響などを排除した一対の特性値を特徴量として抽出することができ、診断ステップにより一対の特性値を表す特性値点が2次元座標系にプロットされ、予め設定された境界閾値を指標にしてマンホールポンプが正常であるか異常であるかが適切に一次診断される。正規化された一対の特性値で示される特性値点が、正常領域を示す境界閾値の外側に区分された診断マップのどの領域に位置するかによって異常原因が推定できるようになる。このとき、直近の所定期間の各特性値から求められた統計データに基づいて一対の特性値に正規化処理が行なわれることにより、例えば季節変動などの時間経過に起因する影響が排除され、信頼性の高い診断が可能になる。
【0013】
同第二の特徴構成は、診断対象となるマンホール内に設置され、起動と停止を繰り返す2台のマンホールポンプの診断方法であって、所定の診断対象期間内の各マンホールポンプの1起動当りの運転時間をサンプリングしてそれぞれの平均運転時間を算出し、一方の平均運転時間と、一方の平均運転時間と他方の平均運転時間の比とを一対の特性値とするサンプリングステップと、前記サンプリングステップで算出された一対の特性値を、前記診断対象期間を含む直近の所定期間の各特性値に基づいて算出される統計データに基づいて正規化する正規化ステップと、一対の特性値の一方をx軸、他方をy軸とする2次元座標系に、正規化された一対の特性値をプロットし、プロットされた特性値点が前記2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて各マンホールポンプの正常または異常を一次診断する診断ステップと、を備え、前記2次元座標系に設定された前記境界閾値の外側が複数の領域に区分され、各区分が異常原因の何れかと関連付けられた診断マップを備えるとともに、前記診断ステップは、各特性値点が前記診断マップにプロットされた領域に基づいて異常原因を診断する点にある。
【0014】
サンプリングステップで時系列的にサンプリングされた各マンホールポンプの1起動当りの運転時間から算出されたそれぞれの平均運転時間のうち、一方の平均運転時間と、一方の平均運転時間と他方の平均運転時間の比とを一対の特性値として、当該一対の特性値を正規化ステップで正規化することにより、例えばマンホールポンプの固有の機差による影響や設置環境の影響などを排除した一対の特性値を特徴量として抽出することができ、診断ステップにより一対の特性値を表す特性値点が2次元座標系にプロットされ、予め設定された境界閾値を指標にしてマンホールポンプが正常であるか異常であるかが適切に一次診断される。正規化された一対の特性値で示される特性値点が、正常領域を示す境界閾値の外側に区分された診断マップのどの領域に位置するかによって異常原因が推定できるようになる。このとき、直近の所定期間の各特性値から求められた統計データに基づいて一対の特性値に正規化処理が行なわれることにより、例えば季節変動などの時間経過に起因する影響が排除され、信頼性の高い診断が可能になる。
【0015】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記診断ステップは、学習データとして入力される前記特性値に基づいて機械学習装置により前記境界閾値を自動生成する点にある。
【0016】
予め正常と異常を識別した教師データを準備して機械学習させるような手間の掛かる準備が不要となり、マンホールポンプが適正に運転されている状態での一対の特性値の複数が機械学習装置に入力されると、正常と異常を識別する境界閾値が自動生成されるようになる。
【0017】
本発明によるマンホールポンプの診断装置の第一の特徴構成は、診断対象となるマンホール内に設置され、起動と停止を繰り返す2台のマンホールポンプの診断装置であって、所定の診断対象期間内にサンプリングされた各マンホールポンプの1起動当りの運転時間から算出された各平均運転時間で構成される一対の特性値を、前記診断対象期間を含む直近の所定期間の各特性値に基づいて算出される統計データに基づいて正規化する正規化処理部と、一対の特性値の一方をx軸、他方をy軸とする2次元座標系に、正規化された一対の特性値をプロットし、プロットした特性値点が2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて各マンホールポンプの正常または異常を一次診断する診断処理部と、を備えるとともに、前記診断処理部は、前記2次元座標系に設定された前記境界閾値の外側が複数の領域に区分され、各区分が異常原因の何れかと関連付けられた診断マップを備え、各特性値点が前記診断マップにプロットされた領域に基づいて異常原因を診断する点にある。
【0018】
同第二の特徴構成は、診断対象となるマンホール内に設置され、起動と停止を繰り返す2台のマンホールポンプの診断装置であって、所定の診断対象期間内にサンプリングされた各マンホールポンプの1起動当りの運転時間から算出された各平均運転時間のうち、一方の平均運転時間と、一方の平均運転時間と他方の平均運転時間の比とで構成される一対の特性値を、前記診断対象期間を含む直近の所定期間の各特性値に基づいて算出される統計データに基づいて正規化する正規化処理部と、一対の特性値の一方をx軸、他方をy軸とする2次元座標系に、正規化された一対の特性値をプロットし、プロットされた特性値点が前記2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて各マンホールポンプの正常または異常を一次診断する診断処理部と、を備えるとともに、前記2次元座標系に設定された前記境界閾値の外側が複数の領域に区分され、各区分が異常原因の何れかと関連付けられた診断マップを備え、各特性値点が前記診断マップにプロットされた領域に基づいて異常原因を診断する点にある。
【0019】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記診断処理部は、学習データとして入力される一対の特性値に基づいて前記境界閾値を自動生成する機械学習装置を備えている点にある。
【発明の効果】
【0020】
以上説明した通り、本発明によれば、少ない物理量であっても様々な原因による異常診断が的確に行なえるマンホールポンプの診断方法及び診断装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】マンホールポンプの説明図
図2】マンホールポンプの異常診断装置の説明図
図3】マンホールポンプの異常診断方法の手順を示す説明図
図4】(a)は計測データの説明図、(b)は計測データの要部拡大説明図
図5】正規化処理の説明図
図6】一次診断の説明図
図7】累積評価値及び最終診断の説明図
図8】診断マップの説明図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明によるマンホールポンプの診断方法及び診断装置を説明する。
【0023】
図1にはマンホールポンプ装置10が示されている。マンホールポンプ装置10は、上流側の汚水流入管11から流入した汚水を貯留する貯水部としてのマンホール12と、マンホール12に貯留された汚水を下流側の汚水流出管13に圧送する2台のポンプPA,PBと、マンホール12に貯留された汚水の水位を計測する水位計18,19を備えている。
【0024】
第1ポンプPAの吐出し曲管15aには第1揚水管15b、第1曲管15c、第1水平管15dがそれぞれフランジ接続され、第1水平管15dがヘッダー管13aを介して汚水流出管13にフランジ接続されている。第1揚水管15bと第1曲管15cの間に逆止弁15eが設けられている。
【0025】
第2ポンプPBの吐出し曲管17aには第2揚水管17b、第2曲管17cがそれぞれフランジ接続され、第2曲管17cがヘッダー管13aを介して汚水流出管13にフランジ接続されている。第2揚水管17bと第2曲管17cとの間に逆止弁17eが設けられている。
【0026】
投込圧力式または気泡式の水位計18がマンホール12の底部に設置されている。当該水位計18によってマンホール12に貯留される汚水の水位が連続的に検出される。さらにフロート式の水位計19が、異常高水位HHWLを検出するバックアップ用の水位計として設置されている。
【0027】
マンホール12の近傍には、ポンプPA,PBを制御してマンホール12に溜まった汚水を汚水流出管13に圧送する汚水搬送制御を実行する制御部21を含む制御盤20が収容された制御盤装置200が設置されている。
【0028】
制御盤20には、制御部21、記憶部22、通信部24が設けられている。記憶部22には制御部21からの制御情報、水位計18,19からの水位情報などが記憶される。通信部24は、記憶部22に記憶された各種情報を遠隔の監視装置40に送信する送信部と、監視装置40からの制御指令を受信する受信部を備えている。
【0029】
通信部24と監視装置40との間をつなぐ通信媒体として例えば携帯電話網のような無線通信媒体が好適に用いられ、このような通信媒体を介して監視装置40と通信部24がインターネット接続され、さらにマンホールポンプ装置10の管理者が所有する携帯通信端末30と監視装置40とが無線通信媒体を介してインターネット接続可能に構成されている。
【0030】
制御盤20と各ポンプPA,PBは交流の給電線L1,L2で接続され、制御盤20と水位計18,19は信号線Sで接続されている。
【0031】
制御部21は、水位計18で計測された水位が所定のポンプ起動水位HWLに達したことを検知するとポンプPA,PBのうち一方のポンプPAを起動するために給電線L1から給電制御し、水位がポンプ起動水位HWLより低位のポンプ停止水位LWLに達したことを検知すると給電を停止して当該一方のポンプPAを停止する。
【0032】
制御部21は、その後再び水位がポンプ起動水位HWLに達したことを検知すると他方のポンプPBを起動するために給電線L2から給電制御し、ポンプ停止水位LWLに達したことを検知すると給電を停止して当該ポンプPBを停止する。つまり、制御部21はポンプPA,PBを交互に運転制御する。
【0033】
さらに、制御部21は、水位計18の故障などによりポンプ起動水位HWLが検知できない場合や、集中豪雨によりポンプ1台の排水能力を上回るような大量の雨水がマンホール12に流入し、異常高水位HHWLに達したことが水位計19で計測されたことを検知すると、2台のポンプPA,PBを同時に運転する。
【0034】
制御部21は、例えば1分間隔で水位計18,19により検知された水位情報を時系列的にサンプリングして記憶部22に記憶するとともに、各ポンプPA,PBの起動時期及び停止時期と、起動から停止までの運転時間などの時系列的な稼動情報を記憶部22に記憶する。
【0035】
図2に示すように、各マンホールポンプ装置10の制御盤20に備えた通信部24は、記憶部22に記憶された水位情報及び運転情報を所定インタバルで監視装置40に送信するように構成されている。
【0036】
監視装置40は、マンホールポンプ装置10の診断装置として機能し、各マンホールポンプ装置10の通信部24や管理者の携帯通信端末30と通信する通信部41、各マンホールポンプ装置10の通信部24から送信された水位情報及び運転情報を格納するデータベースDB、データベースDBとの間でデータをやり取りするデータ処理部42、データベースDBに格納された水位情報及び運転情報に基づいて各マンホールポンプ装置10が正常に稼働しているか否かを診断する診断部44を備えている。
【0037】
診断部44は、正規化処理部46と、診断処理部48を備えている。正規化処理部46は、時系列的にサンプリングされた各ポンプPA,PBの特性を示す所定期間の運転時間から得られる一対の特性値を正規化するように構成されている。それぞれのポンプの平均運転時間を一対の特性値として算出することができるとともに、一方のポンプの平均運転時間と、一方のポンプの平均運転時間と他方のポンプの平均運転時間の比とを一対の特性値とすることもできる。
【0038】
診断処理部48には、学習データとして入力される一対の特性値を示す過去の複数のデータに基づいて正常であるか異常であるかを診断する境界閾値を自動生成する機械学習装置を備えて構成され、機械学習装置は、一対の特性値の一方をx軸、他方をy軸とする2次元座標系に、正規化された一対の特性値をプロットし、プロットした特性値点が2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて各マンホールポンプの正常または異常を一次診断するように構成されている。当該機械学習装置はワンクラスサポートベクタ-マシンアルゴリズムを実行する計算機で構成されている。
【0039】
さらに診断処理部48は、特性値点が異常であると一次診断される度に、所定の異常基準値に特性値点と境界閾値との距離に基づく重み係数を乗じて加算するとともに、特性値点が一次診断で正常と診断される度に、所定の正常復帰評価値を減算して得られる累積評価値に基づいてマンホールポンプの正常または異常を最終診断するように構成されている。
【0040】
2次元座標系に設定された境界閾値の外側が複数の領域に区分され、各区分が異常原因の何れかと関連付けられた診断マップを備え、診断処理部48は、各特性値点がプロットされた領域に基づいて異常原因を診断するように構成されている。
【0041】
図3には、監視装置40で実行される一連の診断処理のフローが示されている。各マンホールポンプ装置10から1日分の計測データを受信しデータベースDBに格納し終えると(SA1)、各マンホールポンプ装置10のポンプ毎に異常判定に用いる計測データとしてポンプPA,PBの其々の運転時間を抽出するとともに、1日のポンプの運転時間の合計を運転回数で除した平均運転時間の其々をポンプPA,PBについて算出する(SA2)。特徴量として、それぞれのポンプの平均運転時間を一対の特性値を選択してもよいし、一方のポンプの平均運転時間と、一方のポンプの平均運転時間と他方のポンプの平均運転時間の比とを一対の特性値として選択してもよい。データベースDBに格納されている直近の所定期間内の平均運転時間から正規化処理に必要な統計量、つまり平均値と分散値を算出して、判定対象となる1日の特徴量を正規化処理する(SA3)。
【0042】
正規化した特徴量を機械学習装置に入力して設定された境界閾値に基づいて一次判定を行ない(SA5)、異常と判定されると異常の程度を加味して累積評価値を加算処理し(SA6)、正常と判定されると累積評価値を減算処理する(SA7)。
【0043】
このような処理を日々繰り返して算出された累積評価値が予め設定された累積異常閾値を超えるか否かの最終的な異常判定を行ない(SA8)、累積異常閾値を超えていると、予め異常原因との相関を示す診断マップに基づいて異常原因を特定し(SA9)、異常原因とともに異常状態である旨の警報を管理者の所有する携帯端末などに送信する(SA10)。警報通知は、通信部41に備えたメーラーを介して電子メールとして送信される。
【0044】
以下、診断部44について詳述する。
図4(a)には、午前0時0分から翌0時0分までの24時間のマンホールポンプ装置の運転データが示されている。上段から順に水位の変動状況、ポンプPA、PBの運転タイミングと運転時間、ポンプPAの電流値、ポンプPBの電流値がそれぞれ示されている。
【0045】
図4(b)には、図4(a)に示した水位の変動状況、ポンプPA、PBの運転タイミングと運転時間の関係を理解容易にするための拡大表示である。マンホールの貯水水位がHWLに達するとポンプPAが起動されて水位がLWLに低下すると停止される。次に貯水水位がHWLに達するとポンプPBが起動されて水位がLWLに低下すると停止される。水位がHWLからLWLに低下するまでの間は何れかのポンプが起動されている。ポンプの搬送量が低下していたり、マンホールへの汚水の流入量が多い場合などには、ポンプの運転時間が長くなる。
【0046】
各マンホールポンプ装置10の記憶部22に記憶されたこのような水位情報及び運転情報が通信部24を介して監視装置40に送信され、データ処理部42を介してデータベースDBに格納される。
【0047】
データ処理部42は、このようなデータから各ポンプPA,PBが起動されたときのそれぞれの「ポンプ運転時間の合計値」とそれぞれの「運転回数」を抽出し、「ポンプ運転時間の合計値」を「運転回数」で除して得られる1日の平均運転時間に基づいて、それぞれのポンプの平均運転時間を一対の特性値とし、或いは、一方のポンプの平均運転時間と、一方のポンプの平均運転時間と他方のポンプの平均運転時間の比とを一対の特性値として算出して正規化処理部46に引き渡す。
【0048】
図5に示すように、正規化処理部46は、直近の過去3か月の間にデータベースDBに蓄積された特徴量を母集団としてデータの正規化のための平均値μ及び分散σを算出し、特徴量xに対して数式(x-μ)/σにより特徴量であるそれぞれの平均運転時間を正規化処理する。
【0049】
直近の過去3か月に限るものではないが、正規化処理に必要な統計データ(平均値、分散値)は、正規化処理実行時の直近の所定期間の計測データ群に基づいて算出されることが好ましく、例えば季節変動などの時間経過に起因する影響が排除され、信頼性の高い診断が可能になる。
【0050】
正規化処理部46で正規化処理された特徴量「各ポンプの平均運転時間」で構成される一対の特性値または「一方のポンプの平均運転時間と、一方のポンプの平均運転時間と他方のポンプの平均運転時間の比」で構成される一対の特性値が診断処理部48に入力されると、一対の特性値の一方をx軸、他方をy軸とする2次元座標系に、正規化された一対の特性値をプロットし、プロットされた特性値点が2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて各マンホールポンプの正常または異常を一次診断する。
【0051】
サンプリングステップで時系列的にサンプリングされた計測値に基づいて算出された特性値を正規化ステップで正規化することにより、例えばマンホールポンプの機差による影響や設置環境の影響などを排除した特性値を特徴量として抽出することができ、診断ステップによりそれら特徴量つまり2種類の計測データ群を表す点が、2次元座標系に時系列的な複数の点としてプロットされ、予め設定された境界閾値を指標にしてマンホールポンプ装置が正常であるか異常であるかが適切に一次診断される。
【0052】
図6には、縦軸(y軸)を各ポンプの平均運転時間の比(T(PA)/T(PB))、横軸(x軸)をポンプPBの平均運転時間(T(PB))とする2次元座標系の原点(各値の平均値)を有する略円形の閉曲線(太線で示されている。)を境界閾値として、プロットされた特性値点が境界閾値の内側に位置すると正常であり、プロットされた特性値点が境界閾値の外側に位置すると異常であると判定される様子が示されている。なお、縦軸(y軸)を一方のポンプの平均運転時間、横軸(x軸)を他方のポンプPBの平均運転時間とする2次元座標系に特性値点をプロットしてもよい。
【0053】
診断処理部48は、学習データとして入力される計測データ群に基づいて上述した境界閾値を自動生成する機械学習装置を備える。当該機械学習装置としては、ワンクラスサポートベクタ-マシン、LOF(local outlier factor)法、IF(Isolation Forest)法、RC(Robust Covariance)法などのアルゴリズムを実行する計算機などを用いることができる。
【0054】
機械学習を行なうことにより、図6に示す写像空間(特徴空間)において、正常な測定データ(トレーニングデータ)を写像した正常データ空間、つまり境界閾値の内部空間が生成される。図6の例では、ポンプが2台設置された100か所のマンホールポンプ装置で得られた一対の特性値の1年分を学習データとして学習した結果が示されている。
【0055】
診断処理部48は、特性値点が異常であると一次診断する度に、以下の数式に基づいて、所定の異常基準値Vnbに各特性値点の位置と境界閾値との距離に基づく重み係数Wを乗じて加算するとともに、各特性値点が一次診断で正常と診断される度に、所定の正常復帰評価値Vpbを減算することにより累積評価値Vを算出し、累積評価値に基づいてマンホールポンプ装置の正常または異常を最終診断する。特性値点の位置と境界閾値との距離とは、特性値点を通る境界閾値からの法線の長さをいう。
V=Vnb×W-Vpb
本実施形態では、Vnb=1、Vnb<Vpb<Wmax×Vnbに設定されている。
【0056】
一次診断で異常と診断された場合でもその後に正常と診断されるような軽度な異常もあれば、継続して異常と診断されてやがて重大な故障に到るような異常もある。そのような場合でも、一次診断で異常と診断される度に所定の異常基準値に特性値点と境界閾値との距離に基づく重み係数を乗じた値を加算し、正常と診断される度に所定の正常復帰評価値を減算することにより得られる累積評価値を算出して、当該累積評価値に基づいて機械設備の正常または異常を最終診断することにより、例えば近い将来にメンテナンスが必要な異常など異常の程度を加味した診断が可能になる。
【0057】
図7には、累積評価値の変遷が示されている。累積評価値は特性値点がプロットされる所定期間ごとに一次評価が行なわれ、異常判定されると初期値0からVnb×Wの値が加算され、正常判定されるとVpbの値が減算される。累積評価値が所定の閾値、この例では「10」超えると最終的な異常判定がなされ、管理者の所有する携帯端末などにその旨が送信される。なお、異常判定された後も一次判定及び最終判定は継続的に行なわれる。
【0058】
図8には、診断マップが例示されている。図6に示す特徴空間に示された境界閾値の外側が8領域に区分され、各区分が異常原因の何れかと関連付けられている。診断処理部48は、各特徴データがプロットされた領域に基づいて異常原因を診断する。
【0059】
例えば、図8の例では、領域2に特性値点がプロットされると、長時間運転となるポンプPAのみ異常、領域4では水位計の異常など外部環境の異常、領域5では双方が長時間運転となる双方のポンプの異常、汚水の流入量の増加、吐出しパイプの合流部閉塞などの外部環境の異常、領域8では長時間運転によるポンプPBのみ異常と診断される。
【0060】
上述した例では、各ポンプの平均運転時間、または一方のポンプの平均運転時間と他方のポンプの平均運転時間の比を一対の特性値とする例を説明したが、一対の特性値はこれらのデータに限るものではなく、各ポンプの一回の運転当たりの運転時間、一方のポンプの一回の運転当たりの運転時間と他方のポンプの一回の運転当たりの運転時間の比、図4(a)に示す各ポンプの運転時の電流値、平均電流値、双方のポンプの平均電流値の比など、適宜設定できることはいうまでもない。
【0061】
以上説明したように、本発明によるマンホールポンプの診断方法は、マンホール内に設置され、起動と停止を繰り返す2台のマンホールポンプの診断方法であって、所定期間内の各マンホールポンプの1起動当りの運転時間をサンプリングしてそれぞれの平均運転時間を一対の特性値として算出するサンプリングステップと、サンプリングステップで算出された一対の特性値を正規化する正規化ステップと、一対の特性値の一方をx軸、他方をy軸とする2次元座標系に、正規化された一対の特性値をプロットし、プロットした特性値点が2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて各マンホールポンプの正常または異常を一次診断する診断ステップと、を備えている。
【0062】
また、所定期間内の各マンホールポンプの1起動当りの運転時間をサンプリングしてそれぞれの平均運転時間を算出し、一方の平均運転時間と、一方の平均運転時間と他方の平均運転時間の比とを一対の特性値とするサンプリングステップと、サンプリングステップで算出された一対の特性値を正規化する正規化ステップと、一対の特性値の一方をx軸、他方をy軸とする2次元座標系に、正規化された一対の特性値をプロットし、プロットされた特性値点が2次元座標系に予め設定された境界閾値の何れの側に存在するかに基づいて各マンホールポンプの正常または異常を一次診断する診断ステップと、を備えている。
【0063】
正規化ステップで用いられる正規化処理に必要な統計データが、前記正規化処理実行時の直近の所定期間の各特性値に基づいて算出されるように構成されている。
【0064】
診断ステップは、特性値点が異常であると一次診断される度に、所定の異常基準値に特性値点と境界閾値との距離に基づく重み係数を乗じて加算するとともに、特性値点が診断ステップで正常と診断される度に、所定の正常復帰評価値を減算して得られる累積評価値に基づいてマンホールポンプの正常または異常を最終診断するように構成されている。
【0065】
2次元座標系に設定された境界閾値の外側が複数の領域に区分され、各区分が異常原因の何れかと関連付けられた診断マップを備え、診断ステップは、各特性値点がプロットされた領域に基づいて異常原因を診断するように構成されている。
【0066】
診断ステップは、学習データとして入力される特性値に基づいて機械学習装置により境界閾値を自動生成することが好ましい。
【0067】
上述した実施形態では、診断ステップの全体が機械学習装置で実行されているが、境界閾値の生成のみが機械学習装置で実行されてもよく、さらには機械学習装置を用いずに既定の境界閾値を用いて診断ステップが実行されてもよい。
【0068】
上述した実施形態は何れも本発明の一例であり、該記載により本発明の技術的範囲が限定されるものではなく、ポンプや水位計などを始めとする各部の具体的構成、異常判定のために設定する閾値などは本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0069】
10:マンホールポンプ設備
PA,PB:ポンプ
18,19:水位計
21:制御部
22:記憶部
24:通信部
30:携帯端末
40:監視装置
41:通信部
42:データ処理部
44:診断部
46:正規化処理部
48:診断処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8